特許第6750306号(P6750306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750306
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20200824BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20200824BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20200824BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20200824BHJP
   F16J 15/3236 20160101ALI20200824BHJP
   F16J 15/326 20160101ALI20200824BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   F16C33/78 D
   F16C19/18
   F16C41/00
   F16J15/3232 201
   F16J15/3236
   F16J15/326
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-103829(P2016-103829)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-211005(P2017-211005A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】白水 孝宜
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−062144(JP,A)
【文献】 特開2013−061052(JP,A)
【文献】 特開2015−096762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00 −19/56
F16C 33/30 −33/82
F16C 41/00 −41/04
F16J 15/3204−15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に外側軌道面を備えた外輪と、外周に内側軌道面を備えた内輪と、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、前記外輪と前記内輪との間に存在する環状空間のインナ側開口端部を塞ぐ密封装置と、を備えた車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、前記外輪に固定されるシールリングと、前記内輪に固定されるスリンガと、このスリンガに固定されるエンコーダとを備えており、
前記シールリングは、金属製の第1芯金と、前記スリンガと摺接する弾性体のシールリップとを備えており、
前記スリンガは、前記内輪の外周に嵌合固定される固定部と、この固定部の軸方向の一端につながって径方向に形成されたフランジ部とを備えており、
前記エンコーダは、ゴム磁石製で、前記フランジ部の側面に固定されるとともに周方向にS極とN極が交互に形成されるパルサ部と、前記パルサ部の内周につながって前記固定部が嵌め合わされる前記内輪の外周面より径方向内方に延在するカバー部とを備えており、
前記カバー部の前記内輪と対向する面には、それぞれ環状に突出して前記内輪と接触する第1突起と第2突起とが同軸に形成されており、前記第1突起は前記第2突起より小径で、前記第1突起と前記第2突起との間に環状の空間が形成されており、
前記第1突起及び前記第2突起のうち少なくとも前記第2突起は前記内輪のインナ側の端面と接触している車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記内輪の端面には、軸方向に延在する円筒形状の内周面を有する環状の凹部が形成されており、
前記カバー部は、その内周が全周にわたって軸方向に屈曲して略円筒形状の円筒カバー部が形成されており、
前記第1突起は、前記円筒カバー部の外周に形成されるとともに、前記内周面と径方向に接触していることを特徴とする請求項1に記載する車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記エンコーダは、前記円筒カバー部の内周側で前記第1突起と径方向に対向する位置に、第2芯金を備えており、前記第1突起が、前記凹部と前記第2芯金とで径方向に挟まれていることを特徴とする請求項2に記載する車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記内輪の端面に環状の溝部が形成されており、前記内輪の端面と前記溝部とが少なくとも前記第2突起に向けて凸となるエッジでつながっており、
前記第2突起が前記エッジと接触していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載する車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐泥水性能を向上した車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車輪を回転支持するために図5に示すような車輪用軸受装置80が使用されている(特許文献1)。
車輪用軸受装置80は、懸架装置94に固定される外輪81と、外輪81に対して同軸に配置され、回転自在の内軸82とを備えている。内軸82は、ハブシャフト95の軸端に内輪96を一体に組み合わせて形成されている。
図5における左側の端部には、車輪(図示を省略)を取り付けるフランジ84が内軸82と一体に形成されている。内軸82の内周にはドライブシャフト85が組み付けられていて、エンジンの動力が伝達されている。車輪用軸受装置80では、車輪が取り付けられる側が車両の外側となるので、図5の左側をアウタ側といい、その反対側をインナ側という。
【0003】
外輪81と内軸82との間の環状空間88には、玉83が転動する軌道面86,87を潤滑するためにグリースが封入されている。環状空間88は、軸方向の両側に開口しており、それぞれの開口部に密封装置89,90が装着されている。
【0004】
特許文献2では、インナ側に装着される密封装置89として、図6に示すようなスリンガ91とシールリング92とを組み合わせた形態の組合せシールが使用されている。
組合せシールを使用すると、シールリップ93のしめしろ、特に軸方向のしめしろを正確に組み付けることができるので、リップ摺接部からの異物の浸入を適切に防止することができる。しかしながら、軸受鋼から成る内輪96とステンレス鋼板から成るスリンガ91とは金属同士の嵌合であり、スリンガ91を内輪96に圧入する時に発生するキズ等、その嵌合面において微小なすきまの存在を回避することは困難である。このため、スリンガ91と内輪96との篏合面からの浸水を防止する必要があった。
【0005】
一方、スリンガ91には、ゴム磁石で形成されたエンコーダ97が貼り付けられている。エンコーダ97には周方向にS極とN極が交互に形成されており、非接触のセンサ98を用いてABS(アンチブレーキシステム)制御等に使用するパルス信号を検出できるようになっている。
特許文献2の密封装置89では、エンコーダ97の径方向内方に全周にわたって唇状片99を形成し、この唇状片99を内輪96と弾性接触させることによって、スリンガ91と内輪96との篏合面からの水浸入を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−117475号公報
【特許文献2】特開2004−340979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エンコーダ97を形成するゴム磁石は、80〜90wt%のフェライトなどの磁性材粉末をニトリルゴムなどのゴム材料に混合したものである。ゴム材料の構成比率が小さいために、ゴム磁石は一般のゴムに比べて伸びや弾性に劣る。そのため、長期にわたって使用するとゴム磁石が硬化して、内輪96と接触する唇状片99の弾性がなくなってしまう。このため、唇状片99の内側を通過して異物が浸入し、依然としてスリンガ91と内輪96との篏合面からの水浸入を防ぐことができなかった。
【0008】
本発明は、長期にわたって使用した場合であっても、スリンガと内輪との篏合面からの水の浸入を防止して、耐久性に優れた車輪用軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態は、内周に外側軌道面を備えた外輪と、外周に内側軌道面を備えた内輪と、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、前記外輪と前記内輪との間に存在する環状空間のインナ側開口端部を塞ぐ密封装置と、を備えた車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記外輪に固定されるシールリングと、前記内輪に固定されるスリンガと、このスリンガに固定されるエンコーダとを備えており、前記シールリングは、金属製の第1芯金と、前記スリンガと摺接する弾性体のシールリップとを備えており、前記スリンガは、前記内輪の外周に嵌合固定される固定部と、この固定部の軸方向の一端につながって径方向に形成されたフランジ部とを備えており、前記エンコーダは、ゴム磁石製で、前記フランジ部の側面に固定されるとともに周方向にS極とN極が交互に形成されるパルサ部と、前記パルサ部の内周につながって前記固定部が嵌め合わされる前記内輪の外周面より径方向内方に延在するカバー部とを備えており、前記カバー部の前記内輪と対向する面には、それぞれ環状に突出して前記内輪と接触する第1突起と第2突起とが同軸に形成されており、前記第1突起は前記第2突起より小径で、前記第1突起と前記第2突起との間に環状の空間が形成されており、前記第1突起及び前記第2突起のうち少なくとも前記第2突起は前記内輪のインナ側の端面と接触している。
【発明の効果】
【0010】
長期にわたってスリンガと内輪との篏合面からの水の浸入を防止して、耐久性に優れた車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の軸方向断面における密封装置組込み部の要部拡大図である。
図2】第2実施形態の密封装置組込み部の要部拡大図である。
図3】第3実施形態の密封装置組込み部の要部拡大図である。
図4】第4実施形態の密封装置組込み部の要部拡大図である。
図5】従来の車輪用軸受装置の軸方向断面図である。
図6】従来の密封装置組込み部の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
本発明の実施形態を、図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明にかかる車輪用軸受装置の一実施形態(以下、第1実施形態)における軸方向断面の要部拡大図である。第1実施形態の車輪用軸受装置10では、密封装置12の形態に特徴があり、その他の形態は従来の車輪用軸受装置80と同様である。このため、密封装置12及びその周辺の構成について図1によって詳細に説明し、従来構造(図5参照)と共通する構成については、図5を参照しつつ同一の符号を付して簡単に説明する。
なお、以下の説明では、回転軸線mの方向を軸方向といい、軸方向に直交する方向を径方向、回転軸線mの回りを周回する向きを周方向という。
【0013】
第1実施形態の車輪用軸受装置10は、図5に示すように、懸架装置94に固定される外輪81と、外輪81に対して同軸に配置され回転自在の内軸82とを備えており、外輪81と内軸82との間には複数の玉83が転動自在に組み付けられている。
内軸82は、ハブシャフト95と内輪96とが一体に組み合わされた形態である。内輪96は、ハブシャフト95のインナ側にはめ合わされた後、ハブシャフト95の軸端を塑性変形させて軸方向に押しつけられている。
ハブシャフト95のアウタ側端部には、フランジ84がハブシャフト95と一体に形成されている。フランジ84にはハブボルト100が複数本組み付けられている。フランジ84には、図示しない車輪がハブボルト100によって固定されており、車輪は、車輪用軸受装置10によって回転自在に支持されている。ハブシャフト95の内周にはドライブシャフト85が組み付けられている。
【0014】
玉83は、外輪81の内周に形成された複列の外側軌道面86と内軸82の外周に形成された複列の内側軌道面87との間で転動している。各列にそれぞれ複数の玉83が組み込まれており、保持器101によって周方向に等間隔に配置されている。外輪81と内軸82との間に形成された環状空間88には、各軌道面86,87を潤滑するためにグリースが封入されている。環状空間88は、軸方向の両側に開口しており、それぞれの開口部に密封装置が装着されている。
【0015】
第1実施形態の車輪用軸受装置10では、インナ側の密封装置の形態に特徴があるので、インナー側の密封装置を「密封装置12」として、その形態を図1によって説明する。
密封装置12は、シールリング13と、スリンガ14と、スリンガ14に貼り付けられたエンコーダ20とで構成されている。
【0016】
シールリング13は、金属製の芯金15(第1芯金)と、弾性体からなる複数のシールリップ16,17,18を備えている。
芯金15は、SPCC等の冷間圧延鋼板をプレス成型することによって環状に形成されている。芯金15は、断面がL字状であり、円筒形状の筒状部22と、筒状部22の軸方向の一端を径方向内方に直角に折り曲げて形成されたリップ支持部23とが一体になっている。
16はグリースリップで、スリンガ14の外周と小さいしめしろで接しており、環状空間88に封入されたグリースの流出を防いでいる。
17はラジアルリップで、スリンガ14の外周と摺接しており、異物が環状空間88に浸入するのを防ぐとともに、環状空間88のグリースの流出を防いでいる。ラジアルリップ17の径方向外方には、周方向に弾性を持って伸縮する環状のばね19が装着されていて、ラジアルリップ17をスリンガ14に向けて径方向に付勢している。
18はアキシャルリップで、スリンガ14のフランジ部25と摺接して、泥水や塵埃などの異物が、直接、ラジアルリップ17に到達するのを防いでいる。
各シールリップ16,17,18の材料には、ニトリルゴムやアクリルゴム等のゴム材料が使用される。各シールリップ16,17,18は、高温の金型で加硫成形されると同時に、芯金15と加硫接着されている。
【0017】
スリンガ14は、SPCC等の冷間圧延鋼板をプレス成型することによって環状に形成されている。スリンガ14は、断面がL字状であり、軸方向に筒状に延びる固定部27と、その軸方向一端が直角に折り曲げられて径方向外方に拡がるフランジ部25とが一体に形成されている。
【0018】
フランジ部25には、ゴム磁石で形成されたエンコーダ20が貼り付けられている。エンコーダ20は、円板状で、外径寸法は概ねフランジ部25の外径寸法と等しく、内径寸法は固定部27の内径寸法より小径である。
ゴム磁石は、フェライトなどの磁性材粉末をニトリルゴムなどのゴム材料に混合したものである。磁性材粉末は、80〜90wt%の比率で含まれている。
エンコーダ20は、フランジ部25の固定部27と反対側の側面に、加硫接着等によって同軸に貼り付けられている。エンコーダ20のインナ側の表面には、その一部が着磁されることによって、パルサ部21が形成されている。着磁される領域は、フランジ部25とエンコーダ20とが互いに接着されている領域と軸方向に対向する環状の領域であって、周方向にS極とN極が交互に形成されている。
【0019】
パルサ部21より径方向内方に延在する部分は、カバー部26である。パルサ部21とカバー部26のインナ側の表面は面一に形成されている。
カバー部26のスリンガ14側の側面には、第1突起29と第2突起31が形成されている。第1突起29及び第2突起31は、カバー部26から軸方向に突出している。第1突起29と第2突起31の、それぞれカバー部26から突出する高さは、互いにほぼ等しい。軸方向断面では、第1突起29と第2突起31は、それぞれ台形形状である。図示を省略したが、矢印Aで示す向きで軸方向からみたときには、第1突起29及び第2突起31はそれぞれスリンガ14の固定部27と同軸の円形状で、第1突起29の直径寸法は、第2突起31の直径寸法より小径である。第1突起29と第2突起31は互いに所定寸法だけ径方向に離れており、軸方向断面では、第1突起29と第2突起31の間に窪んだ領域が形成されている。
【0020】
密封装置12を車輪用軸受装置10に組み付けるときには、シールリング13とエンコーダ20を貼り付けたスリンガ14とを組み合わせた状態で、同時に組み付けている。このとき、図示を省略したが、回転軸線mと直交する平面を有する治具を用いて、シールリング13の芯金15の軸方向端部と、エンコーダ20のインナ側側面とを同時に軸方向に押圧して行う。
シールリング13の筒状部22の外径寸法は、外輪81の肩37の内径寸法よりわずかに大きいので、筒状部22は、外輪81の内周にしまり篏めの状態で組み付けられている。また、スリンガ14の固定部27の内径寸法は、内輪96の肩36の外径寸法よりわずかに小さいので、固定部27は、内輪96の外周にしまり篏めの状態で組み付けられている。
【0021】
密封装置12は、第1突起29及び第2突起31の先端部(軸方向断面の台形形状の上底の部分である)が、内輪96のインナー側の端面33(以下、単に「内輪端面」)と接触する位置まで、軸方向に押し込まれている。このとき、各突起29,31と内輪端面33との間にすきまが生じるのを防ぐために、カバー部26がインナ側にわずかに撓む位置まで、密封装置12を軸方向に押し込むことによって、第1突起29及び第2突起31が、内輪端面33との間で接触圧を生じるように組み付けられるのが望ましい。
こうして、第1突起29と第2突起31がそれぞれ内輪端面33と接触して、第1突起29と第2突起31の間には環状の空間35が形成されている。
【0022】
次に、第1実施形態の車輪用軸受装置10において、密封装置12に泥水等が飛散した場合の作用について説明する。
【0023】
車輪用軸受装置10にはドライブシャフト85が連結されている(図5参照)。車輪がはね上げた泥水等が、図5に矢印Zで示す向きにドライブシャフト85の外周に沿って飛散し、カバー部26に衝突する。通常は、第1突起29が内輪端面33と接触しているので、泥水等が接触部を越えて浸入することは困難である。しかし、ドライブシャフト85の外周に沿って飛散する泥水等の勢いが強いときには、カバー部26に衝突した泥水の一部が、第1突起29を越えて浸入する場合がある。
【0024】
第1実施形態では、第1突起29が内輪端面33と接触している(図1参照)。カバー部26に衝突した泥水等の勢いが強いときには、その勢いによって第1突起29がわずかに浮き上がり、第1突起29と内輪端面33との接触部に小さいすきまができる。通常、狭いすきまを通過した流体が、断面積の大きい流路に浸入したときにはその流速は低下する。したがって、第1突起29と内輪端面33とのすきまを通過した後、容積の大きい環状の空間35に噴出するときの泥水等の勢いは、第1突起29に衝突したときの勢いに比べて大幅に低減している。
【0025】
環状の空間35に噴出した泥水は、第2突起31に向けて飛散する。第2突起31に向けて飛散する泥水等の勢いは、上記のように、カバー部26に衝突した泥水等の勢いに比べて大幅に低減している。こうして、第2突起31に向けて飛散する泥水等の勢いが大幅に低減されているので、第2突起31では、泥水等の侵入を容易に遮断することができる。この結果、泥水等が、第2突起31を越えてスリンガ14と内輪96との篏合部に浸入するのを防止することができる。
【0026】
以上説明したように、第1実施形態では、第1突起29と内輪端面33との接触部に小さいすきまができた場合でも、第1突起29と第2突起31の間に環状の空間35を設けることによって、その環状の空間35に噴出する泥水等の勢いを低減することができる。このため、第1突起29を、内輪端面33に常時強く押しつける必要がない。
長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化して第1突起29の弾性がなくなった場合には、第1突起29は内輪端面33と接した状態で硬化している。そして、飛散する泥水等の勢いが強い場合に、内輪端面33との接触部にごくわずかなすきまが形成されるに過ぎない。したがって、長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化したとしても、第1突起29を越えて環状の空間35に噴出する泥水等の勢いを低減することができる。
【0027】
上記のように、第2突起31に向けて飛散する泥水等の勢いが低減されているので、第2突起31では、泥水等の侵入を容易に遮断することができる。泥水等の浸入を遮断するためには、内輪端面33と接触していればよく、内輪端面33に強く押しつける必要がない。
第2突起31においても、長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化して第2突起31の弾性がなくなった場合であっても、第2突起31は内輪端面33と接している。したがって、長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化したとしても、泥水等が第2突起31を越えてスリンガ14と内輪96との篏合部に浸入するのを防止することができる。
【0028】
こうして、第1実施形態の車輪用軸受装置10では、カバー部26が、磁性材粉末の混合比率が大きいゴム磁石でパルサ部21と一体に形成された場合であっても、長期にわたってスリンガ14と内輪96との嵌合面からの水の浸入を防止することができる。この結果、耐久性に優れた車輪用軸受装置10を提供することができる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、本発明にかかる車輪用軸受装置の他の実施形態(以下、第2実施形態)について説明する。図2は、第2実施形態の車輪用軸受装置40における軸方向断面の要部拡大図である。第2実施形態では、外輪81と内輪96との間の開口部に、密封装置41が組み付けられている。第2実施形態の車輪用軸受装置40では、第1実施形態に比べて、密封装置41の形態、特にエンコーダ46の形態が異なっている。また、エンコーダ46の形態に合わせて、内輪端面33の形態が異なっている。その他の構成は同等であるので、以下、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付して図2を参照しつつ説明する。
【0030】
第2実施形態では、内輪端面33に凹部50が形成されている。凹部50は、内輪96の肩36と同軸の円筒形状で、内輪端面33から所定の深さまで窪んだ形態となっている。
【0031】
密封装置41は、シールリング13と、スリンガ14と、スリンガ14に貼り付けられたエンコーダ46とで構成されている。
第2実施形態のエンコーダ46は、第1実施形態と同じ材料のゴム磁石で形成されている。エンコーダ46は、円板状で、スリンガ14のフランジ部25の側面に加硫接着等によって同軸に貼り付けられている。外径寸法は概ねスリンガ14の外径寸法と等しい。
エンコーダ46には、第1実施形態と同様に環状のパルサ部47が形成されている。パルサ部47は、フランジ部25とエンコーダ46が接着している環状の領域と軸方向に対向する領域に形成されている。
【0032】
エンコーダ46のパルサ部47より径方向内方には、パルサ部47と同一のゴム磁石で一体に形成されたカバー部48が延在している。パルサ部47とカバー部48のインナ側の表面は、面一に形成されている。
【0033】
カバー部48の内周端部には、全周にわたってスリンガ14の固定部27と同一の向きに直角に屈曲して、軸方向に延在する円筒カバー部49が形成されている。円筒カバー部49は、カバー部48の一部を構成している。
円筒カバー部49は、略円筒形状で、その外周にはゴム磁石が全周にわたって径方向外方に突出して、第1突起44が形成されている。軸方向断面では、第1突起44は台形形状である。
【0034】
カバー部48のスリンガ14側の側面には、軸方向に突出する第2突起51が形成されている。第2突起51の形態は第1実施形態の第2突起31と同様である。図示を省略したが、矢印Bで示す向きで軸方向からみたときには、第1突起44及び第2突起51はそれぞれスリンガ14の固定部27と同軸の円形状で、第1突起44の直径寸法(軸方向断面の台形形状の上底の外径寸法である)は、第2突起51の直径寸法より小径である。また、第1突起44の直径寸法は、凹部50の内周面55の直径寸法と同一若しくはわずかに大径である。スリンガ14を内輪96に組付けたときには、第1突起44は、凹部50の内周面55と接触する。
【0035】
密封装置41を車輪用軸受装置40に組み付けるときには、シールリング13とエンコーダ46を備えたスリンガ14とを組み合わせた状態で、同時に組み付けている。組付け方法は第1実施形態の密封装置12の場合と同様であり、シールリング13の芯金15の軸方向端部と、エンコーダ46のインナ側の表面とを同時に軸方向に押圧して行う。このとき同時に、第1突起44が凹部50の内側に挿入される。スリンガ14は、固定部27が内輪96の外周にしまり篏めの状態で組み付けられている。
【0036】
密封装置41は、第2突起51の先端部が、内輪端面33と接触する位置まで、軸方向に押し込まれている。
第2突起51の先端部と内輪端面33との間にすきまが生じるのを防ぐために、密封装置41は、カバー部48がインナ側にわずかに撓む位置で組み付けられて、第2突起51の先端部と内輪端面33との間に接触圧が生じる状態で組み付けられるのが望ましい。
【0037】
こうして、第2実施形態では、第2突起51が内輪端面33と軸方向に接触しており、第1突起44が内輪96に形成した凹部50の内周面55と径方向に接触している。第1突起44と第2突起51の間には環状の空間53が形成されている。
【0038】
第2実施形態の車輪用軸受装置40において、密封装置41に泥水等が飛散した場合の作用を、図2及び図5を参照しつつ説明する。
【0039】
第2実施形態では、内輪端面33に凹部50が形成されているので、車輪ではね上げられた泥水等は、ドライブシャフト85の外周に沿って図5に矢印Zで示す向きに流れて、円筒カバー部49の内周側に流入し、凹部50の底面56に衝突する。図5に矢印Cで示すように、底面56に衝突した泥水等は、流れの向きを径方向外方に変えて、第1突起44に向けて流入する。流れの向きが変化するときには流速が減少するので、第1突起44に向けて流入する泥水等の勢いは、カバー部48に流入した泥水等の勢いに比べて大幅に低減している。
【0040】
第2実施形態においても、通常、第1突起44が凹部50の内周面55と接触している。しかし、第1突起44に向けて流入する泥水等の勢いが強いときには、その勢いによって第1突起44がわずかに浮き上がり、第1突起44と凹部50の内周面55との接触部に小さいすきまができる。
一般的に、狭いすきまを通過した流体が、断面積の大きい流路に浸入したときにはその流速は低下する。したがって、第1突起44と凹部50の内周面55とのすきまを通過した後、容積の大きい環状の空間53に噴出するときの泥水等の勢いは、第1突起44に向けて流入したときの勢いに比べて大幅に低減している。
第2実施形態では、第1突起44に向けて流入する泥水等の勢いが低減しているので、環状の空間53に噴出するときの泥水等の勢いは第1実施形態より更に低減している。
【0041】
第2突起51には、第1突起44を越えて環状の空間53に噴出した泥水が飛散する。
第2実施形態では、環状の空間53に噴出する泥水等の勢いが、第1実施形態に比べて低減しているので、第2突起51に向けて飛散する泥水等の勢いが更に低減されている。
この結果、泥水等が、第2突起51を越えてスリンガ14と内輪96との篏合面に浸入するのを更に確実に防止することができる。
【0042】
以上説明したように、第2実施形態においても、第1突起44と凹部50の内周面55との接触部に小さいすきまができた場合でも、第1突起44と第2突起51の間に環状の空間53を設けることによって、その環状の空間53に噴出する泥水等の勢いを低減することができる。このため、第1突起44を、内周面55に常時強く押しつける必要がない。
長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化して第1突起44の弾性がなくなった場合には、第1突起44は内周面55と接した状態で硬化している。そして、飛散する泥水等の勢いが強い場合に、内周面55との接触部にごくわずかなすきまが形成されるに過ぎない。したがって、長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化したとしても、第1突起44を越えて環状の空間53に噴出する泥水等の勢いを低減することができる。
【0043】
また、上記のように、第2実施形態では、第2突起51に向けて飛散する泥水等の勢いが第1実施形態よりも低減しているので、第2突起51では、泥水等の侵入を更に容易に遮断することができる。泥水等の浸入を遮断するためには、第2突起51が内周面55と接触していればよく、内周面55に強く押しつける必要がない。
第2突起51においても、長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化して弾性がなくなった場合であっても、第2突起51は内周面55と接している。したがって、長期にわたる使用によってゴム磁石が硬化したとしても、泥水等が第2突起51を越えてスリンガ14と内輪96との篏合部に浸入するのを更に確実に防止することができる。
【0044】
こうして、第2実施形態の車輪用軸受装置40は、カバー部48が、磁性材粉末の混合比率が大きいゴム磁石でパルサ部47と一体に形成された場合であっても、更に長期にわたってスリンガ14と内輪96との嵌合面からの水の浸入を防止することができる。この結果、更に耐久性に優れた車輪用軸受装置40を提供することができる。
【0045】
(第3実施形態)
次に、本発明にかかる車輪用軸受装置の第3実施形態について説明する。図3は、第3実施形態の車輪用軸受装置60の軸方向断面の要部拡大図である。第3実施形態では、外輪81と内輪96との間の開口部に、密封装置61が組み付けられている。第3実施形態の車輪用軸受装置60では、第2実施形態に比べて、密封装置61の形態、特にエンコーダ62のカバー部63の形態が異なっている。その他の構成は同等であるので、以下、第2実施形態と共通する構成については同一の符号を付して図3を参照しつつ説明する。
【0046】
第3実施形態におけるエンコーダ62のカバー部63では、第2実施形態と同様に、カバー部63の内周端部は、全周にわたってスリンガ14の固定部27と同一の向きに直角に屈曲しており、軸方向に延在する円筒カバー部64が形成されている。円筒カバー部64は、カバー部63の一部を構成している。
円筒カバー部64は、略円筒形状で、その外周にはゴム磁石が全周にわたって径方向外方に突出して、第1突起66が形成されている。軸方向断面では、第1突起66は台形形状である。
【0047】
円筒カバー部64の内周には、第2芯金68が組み込まれている。第2芯金68は、SPCC等の冷間圧延鋼板をプレス成型することによって略円筒形状に形成されており、円筒部69と、その一方の軸端部に径方向外方に拡がった鍔67とを有している。第3実施形態の円筒カバー部64では、円筒部69が、第1突起66と径方向に対向する位置に組み込まれている。
第2芯金68は、エンコーダ62を成形するときにあらかじめ金型に挿入され、エンコーダ62を成形すると同時に円筒カバー部64を構成するゴム磁石と加硫接着されている。
【0048】
第3実施形態では、第2実施形態に比べて第2芯金68が円筒カバー部64を強固に支持しているので、密封装置61を組付ける時に円筒カバー部64に外力が加わった場合であっても、円筒カバー部64の変形を防止することができる。また、円筒カバー部64が第2芯金68によって常に円筒形状に保たれているので、第1突起66の直径寸法が内周面55の直径寸法より大きい場合であっても、容易に圧入することができる。これによって、第1突起66を内周面55に確実に接触させることができる。
【0049】
こうして、第3実施形態の車輪用軸受装置60は、長期にわたってスリンガ14と内輪96との篏合面からの水の浸入を更に確実に防止することができるので、更に耐久性に優れた車輪用軸受装置60を提供することができる。
【0050】
(第4実施形態)
次に、本発明にかかる車輪用軸受装置の第4実施形態について説明する。図4は、第4実施形態の車輪用軸受装置70の軸方向断面の要部拡大図である。第4実施形態では、外輪81と内輪96との間の開口部に、第1実施形態と同一の密封装置12が組み付けられており、エンコーダ20のカバー部26が接触する内輪端面33の形態のみが相違している。その他の構成は第1実施形態と同等であるので、以下、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付して図4を参照しつつ説明する。
【0051】
第4実施形態の内輪端面33には、内輪端面33から所定の深さまで窪んだ形態の溝部74が、周方向に一様な形態で環状に形成されている。
溝部74は、軸方向断面がコの字状に窪んだ形態である。溝部74は、大径の外方周面75と小径の内方周面76を有しており、外方周面75と内方周面76は、それぞれ内輪96の肩36と同軸の円筒形状である。内輪端面33と外方周面75、及び、内輪端面33と内方周面76とがつながる稜線部分は、それぞれ角張ったエッジ部77,78でつながっており、稜線部分にはR形状の面取り加工等は施されていない。
【0052】
第1突起29及び第2突起31の軸方向断面は台形形状であり、先端部は径方向に所定の幅を有している。
各エッジ部77,78は、それぞれ第2突起31及び第1突起29に向けて凸となっているので、スリンガ14を内輪96に組み付けて、第1突起29及び第2突起31を内輪端面33に当接させたときには、第1突起29の先端部の径方向の略中央がエッジ部77と接触し、第2突起31の先端部の径方向の略中央がエッジ部78と接触している。
なお、エッジ部77が、第2突起31に向けて凸であるとは、エッジ部77から所定寸法離れた外方周面75上の点と、内輪端面33上の点とを結ぶ直線に対し、エッジ部77が第2突起31の側に存在することをいう。
【0053】
このため、第4実施形態では、エッジ部77,78と、第2突起31及び第1突起29とが接触する部分に大きな接触面圧が生じる。
第1実施形態と比較して説明する。第1実施形態では、内輪端面33が一様な平面であるため、第1突起29及び第2突起31の先端部と内輪端面33との接触領域ではほぼ一様な接触面圧が生じる。これに対し、第4実施形態では、各先端部が、角張ったエッジ部77,78と接触している。このため、各先端部のうちで内輪端面33と接触する領域と接触しない領域との境界において、接触面圧が局部的に高くなる。
このように接触面圧が高い場合には、泥水等がその接触領域を通過しにくくなる。このため、第4実施形態では、第1実施形態に比べて、泥水等が第1突起29及び第2突起31と内輪端面33との接触部を通過することが更に困難になる。
【0054】
また、第4実施形態では、溝部74が第1突起29と第2突起31とで挟まれた部分に設置されるため、第1実施形態における環状の空間35と比較して、第1突起29と第2突起31の間に形成される環状の空間72の容積が大きい。このため、第1突起29に向けて飛散した泥水が、内輪端面33と第1突起29とのすきまを通過したときには、容積が大きい環状の空間72に噴出することによってその勢いが更に低減する。この結果、第2突起31に向けて噴出される泥水の勢いを更に低減させることができる。
【0055】
更に、第4実施形態では、第2突起31の先端部がエッジ部78と接触することによって、内輪端面33との間に高い接触面圧を生じている。このため、第2突起31は、泥水が通過するのを更に確実に防止することができる。この結果、泥水等が、第2突起31を越えてスリンガ14と内輪96との篏合部に浸入するのを防止することができる。
【0056】
以上の説明によって理解できるように、第4実施形態では、第2突起に向けて飛散する泥水の勢いを第1実施形態に比べて更に低減することができるとともに、第2突起と内輪端面との接触における密封性能が更に向上している。このため、泥水等が第2突起31を越えてスリンガ14と内輪96との篏合部に浸入するのを更に確実に防止することができる。
こうして、泥水等が篏合部に到達するのを防止できる。この結果、長期にわたってスリンガ14と内輪96との嵌合面からの水の浸入を防止することができるので、耐久性に優れた車輪用軸受装置70を提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
(第1実施形態)
10:車輪用軸受装置、12:密封装置、13:シールリング、14:スリンガ、15:芯金、16:グリースリップ、17:ラジアルリップ、18:アキシャルリップ、20:エンコーダ、21:パルサ部、22:筒状部、23:リップ支持部、25:フランジ部、26:カバー部、27:固定部、29:第1突起、31:第2突起、33:内輪端面、35:環状の空間、
(第2実施形態)
40:車輪用軸受装置、41:密封装置、44:第1突起、46:エンコーダ、47:パルサ部、48:カバー部、49:円筒カバー部、50:凹部、51:第2突起、53:環状の空間、55:内周面、
(第3実施形態)
60:車輪用軸受装置、61:密封装置、62:エンコーダ、63:カバー部、64:円筒カバー部、66:第1突起、68:第2芯金、69:円筒部、
(第4実施形態)
70:車輪用軸受装置、72:環状の空間、74:溝部、77,78:エッジ部、
(従来技術)
80:車輪用軸受装置、81:外輪、82:内軸、83:玉、84:フランジ、85:ドライブシャフト、88:環状空間、89,90:密封装置、91:スリンガ、92:シールリング、93:シールリップ、94:懸架装置、95:ハブシャフト、96:内輪、97:エンコーダ、98:センサ、99:唇状片
図1
図2
図3
図4
図5
図6