特許第6750376号(P6750376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750376
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20200824BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20200824BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   H01M10/12 K
   H01M4/14 Q
   H01M4/62 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-150861(P2016-150861)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-18798(P2018-18798A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝哉
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/124920(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/181865(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/142072(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/107004(WO,A1)
【文献】 特開2015−032482(JP,A)
【文献】 特開2016−072105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06−10/18
H01M 4/14
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料と、を備え、
前記負極電極材料は、合成有機防縮剤を含み、
前記合成有機防縮剤は、硫黄元素を3000μmol/g以上含有し、
前記負極板と前記正極板との間の距離が、0.9mm以上かつ2mm以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記合成有機防縮剤は、硫黄元素を4000μmol/g以上含有する、請求項に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料と、を備え、
前記負極電極材料は、有機防縮剤を含み、
前記負極板と前記正極板との間の距離が、0.9mm以上かつ2mm以下であり、
前記有機防縮剤は、硫黄元素を3000μmol/g以上含有する、鉛蓄電池。
【請求項4】
前記有機防縮剤は、硫黄元素を4000μmol/g以上含有する、請求項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記負極電極材料の密度が、2.5g/cm3以上かつ4.0g/cm3以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板と正極板との間にはセパレータが配置される。正極板は、正極集電体と正極電極材料とを備え、負極板は、負極集電体と負極電極材料とを備える。
【0003】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する活物質(鉛もしくは硫酸鉛)と、各種添加剤とを含んでいる。例えば、負極電極材料に有機防縮剤を添加することで、鉛蓄電池の放電性能を高めることができる。有機防縮剤としては、天然物由来のリグニンもしくはリグノスルホン酸の他に、合成有機防縮剤の使用が提案されている。
【0004】
特許文献1は、合成有機防縮剤として、ビスフェノール類縮合物を負極電極材料に含有させている。
【0005】
特許文献2は、リグニンを含有する負極活物質を用いている。特許文献2では、ベースとリブを有する厚さ0.7mm以上1.7mm以下のセパレータが使用されている。
【0006】
一方、特許文献3は、鉛/硫酸蓄電池において、約1〜約3.75mm、好適には約1.5〜2.5mmの合計厚さを有し、微孔性プラスチックスもしくはガラス−繊維またはそれらの両者からなるセパレータを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2015−181865号パンフレット
【特許文献2】特開2015−88379号公報
【特許文献3】特開平5−89868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機防縮剤を負極電極材料に添加すると、負極電極材料の比抵抗が減少し、鉛蓄電池の低温での高率放電性能が向上する。中でも、合成有機防縮剤を用いる場合には、比抵抗が顕著に減少する。しかし、その一方で鉛蓄電池の重負荷寿命性能が低くなることがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料と、を備え、前記負極電極材料は、合成有機防縮剤を含み、前記負極板と前記正極板との間の距離が、0.9mm以上かつ2mm以下である、鉛蓄電池に関する。
【0010】
本発明の別の態様は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料と、を備え、前記負極電極材料は、有機防縮剤を含み、前記負極板と前記正極板との間の距離が、0.9mm以上かつ2mm以下であり、前記有機防縮剤は、硫黄元素を3000μmol/g以上含有する、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重負荷寿命性能に優れた鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
図2】極間距離と、正極電極材料の脱落量と、の関係を示す図である。
図3】負極電極材料中の有機防縮剤の含有量と、正極電極材料の脱落量と、の関係を示す図である。
図4】有機防縮剤中の硫黄元素含有量を変化させた場合の、極間距離と、重負荷寿命サイクル数と、の関係を示す図である。
図5】有機防縮剤中の硫黄(S)元素含有量と、低温高率(低温HR)放電性能と、の関係を示す図である。
図6】有機防縮剤中の硫黄(S)元素含有量と、有機防縮剤の溶出量と、の関係を示す図である。
図7】有機防縮剤中の硫黄元素含有量を変化させた場合の、負極電極材料の密度と、重負荷寿命性能と、の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを備え、負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを備え、負極電極材料は、合成有機防縮剤を含み、負極板と正極板との間の距離は、0.9mm以上かつ2mm以下であり、1mm以上かつ1.8mm以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の別の態様に係る鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを備え、負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを備え、負極電極材料は、有機防縮剤を含み、負極板と正極板との間の距離が0.9mm以上かつ2mm以下であり、1mm以上かつ1.8mm以下であることが好ましく、有機防縮剤は、硫黄元素を3000μmol/g以上含有し、4000μmol/g以上含有することが好ましい。
【0015】
鉛蓄電池は、液式(ベント式)鉛蓄電池でもよく、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池でもよいが、本発明の実施形態としては液式鉛蓄電池が適している。
【0016】
有機防縮剤を負極電極材料に含有させると、重負荷寿命性能が低下することがある。重負荷寿命性能が低下する理由は、負極板から電解液中に溶出した有機防縮剤が、正極電極材料を軟化させるためであると考えられる。
【0017】
これに対し、負極板と正極板との間の距離(以下、極間距離とも称する。)を0.9mm以上、好ましくは1mm以上に設定する場合には、優れた重負荷寿命性能が得られる。極間距離を0.9mm以上にすることで、電解液中に溶出した有機防縮剤が正極電極材料に作用しにくくなるものと考えられる。これにより、正極電極材料の脱落量が減少し、正極板の劣化が抑制されることが、重負荷寿命性能の向上に大きく関連しているものと考えられる。
【0018】
なお、天然物由来のリグニンを用いる場合には、極間距離を0.9mm以上にしても、正極電極材料の軟化を抑制する傾向は見られない。極間距離を0.9mm以上にすることで正極板の劣化が抑制されるのは、合成有機防縮剤もしくは硫黄元素の含有量が3000μmol/g以上の有機防縮剤を用いる場合に特有の現象であると考えられる。
【0019】
合成有機防縮剤の溶出は、合成有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が3000μmol/g以下のときに顕著になり、2500μmol/g以下のときに更に顕著になる。この場合、極間距離が重負荷寿命性能に与える影響が大きくなるため、極間距離を0.9mm以上にすることがより重要となる。
【0020】
一方、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が3000μmol/g以上もしくは3000μmol/gを超える場合、負極板から有機防縮剤が電解液中に溶出しにくく、有機防縮剤による重負荷寿命性能を向上させる効果が非常に大きくなる。また、低温高率放電性能を向上させる効果も大きい。よって、極間距離を0.9mm以上にすることで、低温高率放電性能と重負荷寿命性能とを、より優れた水準で両立させることができる。中でも、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が4000μmol/g以上である場合には、有機防縮剤の溶出量が非常に少なくなるとともに、重負荷放電性能を非常に高い水準で安定化させることができる。
【0021】
良好な重負荷寿命性能を得る観点からは、極間距離が大きいほどよい。具体的には、極間距離は1mmを超えることが好ましく、1.2mm以上がより好ましく、1.4mm以上が更に好ましい。なお、負極電極材料に有機防縮剤を添加すると、負極電極材料の比抵抗が減少し、鉛蓄電池の低温での高率放電性能が向上するが、極間距離が大きすぎると、低温高率放電性能の向上が抑制される。よって、極間距離は2.0mm以下が望ましく、1.8mm以下が好ましい。
【0022】
合成有機防縮剤は、天然物に由来する従来のリグニンもしくはリグノスルホン酸(以下、リグニンと称する。)に比べ、硫黄元素の含有量を大きくすることができる。よって、リグニンに代えて合成有機防縮剤を用いる場合には、鉛蓄電池の低温高率放電性能と重負荷放電性能とを大きく向上させることが可能である。
【0023】
低温高率放電性能とともに重負荷寿命性能を向上させる作用を高める観点からは、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量は、3000μmol/g以上が好ましく、4000μmol/g以上がより好ましく、5000μmol/g以上が更に好ましい。一方、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量を大きくするには限界がある。よって、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量は、10000μmol/g以下が好ましく、9000μmol/g以下がより好ましく、8000μmol/g以下が更に好ましい。なお、リグニン中に含まれる硫黄元素の含有量は、通常、500〜600μmol/gである。
【0024】
ここで、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0025】
有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に1つ以上、好ましくは複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0026】
有機防縮剤の具体例としては、硫黄含有基を有するとともに1つ以上、好ましくは2つ以上の芳香環を有する化合物のホルムアルデヒドによる縮合物が好ましい。2つ以上の芳香環を有する化合物としては、ビスフェノール類、ビフェニル類、ナフタレン類などを用いることが好ましい。ビスフェノール類、ビフェニル類およびナフタレン類とは、それぞれビスフェノール骨格、ビフェニル骨格およびナフタレン骨格を有する化合物の総称であり、それぞれが置換基を有してもよい。これらは、有機防縮剤中に単独で含まれてもよく、複数種が含まれてもよい。ビスフェノールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。中でも、ビスフェノールSは、ビスフェノール骨格内にスルホニル基(−SO2−)を有するため、硫黄元素の含有量を大きくすることが容易である。
【0027】
硫黄含有基は、ビスフェノール類、ビフェニル類、ナフタレン類などの芳香環に直接結合していてもよく、例えば硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。また、例えばアミノベンゼンスルホン酸もしくはアルキルアミノベンゼンスルホン酸のような単環式の芳香族化合物を、2つ以上の芳香環を有する化合物とともにホルムアルデヒドで縮合させてもよい。なお、ビスフェノール類の縮合物は、常温より高い温度環境を経験しても、低温での性能が損なわれないので、常温より高い温度環境におかれる鉛蓄電池に適している。ナフタレンスルホン酸の縮合物は、ビスフェノール類の縮合物に比べ、分極が小さくなりにくいので、減液特性が重要な鉛蓄電池に適している。
【0028】
N,N'-(スルホニルジ-4,1-フェニレン)ビス(1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メチル-2,4-ジオキソピリミジン-5-スルホンアミド)の縮合物などを有機防縮剤として用いてもよい。
【0029】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、一般的な範囲であれば、有機防縮剤の作用を大きく左右するものではない。負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、一方、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。ここで、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量とは、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から、後述の方法で採取した負極電極材料における含有量である。
【0030】
負極電極材料の密度は、鉛蓄電池の軽量化の観点からは、例えば2.5〜4.0g/cm3が好ましく、2.5〜3.8g/cm3がより好ましく、2.5〜3.5g/cm3が更に好ましく、2.5〜3.0g/cm3が特に好ましい。ただし、負極電極材料が上記のように低密度であり、かつ有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が3000μmol/g以下である場合には、重負荷寿命性能が低下しやすい。重負荷寿命性能の低下を抑制する観点から、負極電極材料の密度が2.5〜4.0g/cm3である場合には、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が3000μmol/gを超えることが好ましく、4000μmol/g以上がより好ましく、5000μmol/g以上が更に好ましい。
【0031】
次に、各物性の分析方法について説明する。
(1)負極電極材料の密度
負極電極材料の密度は化成後の負極電極材料のかさ密度の値を意味し、以下のようにして測定する。化成後の電池を満充電してから解体し、入手した負極板に、水洗と乾燥とを施すことにより、負極板中の電解液を除く。次いで、負極板から負極電極材料を分離して、未粉砕の測定試料を入手する。測定容器に試料を投入し、真空排気した後、0.5〜0.55psiaの圧力で水銀を満たして、負極電極材料のかさ容積を測定し、測定試料の質量をかさ容積で除すことにより、負極電極材料のかさ密度を求める。なお、測定容器の容積から、水銀の注入容積を差し引いた容積をかさ容積とする。
【0032】
鉛蓄電池を満充電状態にする補充電条件は以下の通りである。
液式の鉛蓄電池の場合、25℃、水槽中、5時間率電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに5時間率電流で2時間、定電流充電を行う。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、25℃、気槽中、5時間率電流で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了する。
この明細書における5時間率電流は、電池公称容量を5時間で放電する電流値であり、例えば公称容量が30Ahの電池であれば、5時間率電流は6Aであり、1mCAは30mAである。
【0033】
(2)有機防縮剤の分析
まず、化成後に満充電した鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し、水洗により硫酸を除去し、乾燥する。次に、乾燥した負極板から負極電極材料(初期試料)を採取し、初期試料を下記方法で分析する。
【0034】
(2−1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性
初期試料を1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で取り除き、得られた濾液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行えばよい。これにより有機防縮剤の粉末試料が得られる。
【0035】
粉末試料を用いて測定した赤外分光スペクトル、粉末試料を蒸留水等で溶解し紫外可視光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、粉末試料を重水等の所定の溶媒で溶解して得られた溶液のNMRスペクトルなどから得た情報を組み合わせて用いて、有機防縮剤を特定することが可能である。
【0036】
(2−2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(2−1)と同様に、有機防縮剤を含むNaOH水溶液の濾液を得た後、濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量することができる。
電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できない場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定する。
【0037】
(2−3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(2−1)と同様に、有機防縮剤の粉末試料を得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で粉末試料を燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液が得られる。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(C1)を求める。次に、C1を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0038】
(3)極間距離の測定(算出)
極間距離としては、化成後に満充電した鉛蓄電池のCT画像もしくはX線写真を撮影し、互いに隣接する負極板と正極板との高さ方向の中心において、負極板と正極板との距離を求めればよい。通常、鉛蓄電池は、それぞれ複数の負極板と正極板とを具備する。よって、複数対(好ましくは3対以上)の互いに隣接する負極板と正極板との上記距離を求め、これらの平均値を極間距離とすることが好ましい。
【0039】
極間距離は、計算により求めてもよい。鉛蓄電池は、一般に、複数の負極板と複数の正極板とを、セパレータを介して交互に積層した極板群を具備する。ここで、複数の負極板は、棚状の接続部材によって互いに並列に接続され、複数の正極板も同様に、棚状の接続部材によって互いに並列に接続されている。よって、鉛蓄電池内での負極板と正極板の配置は、棚状の接続部材によって規制されており、極板群の厚さも決定される。また、極板群が収容される空間によって極板群の厚さが規制される場合もある。いずれの場合にも、負極板および正極板のそれぞれの枚数と厚さが決まれば、極間距離も決まることになる。例えば、液式の鉛蓄電池の場合、極板群の厚さと、負極板および正極板のそれぞれの枚数および厚さとから、極間距離を一義的に算出することが可能である。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、極板群の厚さまたは極板群が収容される空間のサイズと、負極板および正極板のそれぞれの枚数および厚さとから、極間距離を一義的に算出することが可能である。
【0040】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを具備する。負極電極材料は、負極集電体に保持されている。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)が挙げられる。
【0041】
負極集電体に用いられる鉛合金は、Pb−Sb系合金、Pb−Ca系合金、Pb−Ca−Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種の元素を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。
【0042】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)と、既に述べた合成有機防縮剤、もしくは硫黄元素を3000μmol/g以上含有する有機防縮剤とを所定の含有量で含む。負極電極材料は、更に、無機防縮剤として、カーボンブラックのような炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0043】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、負極活物質の原料となる鉛粉末を用いて作製される。
【0044】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。未化成の負極板の熟成、乾燥は、室温より高温かつ高湿度で行うことが好ましい。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤と各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで調製すればよい。
【0045】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0046】
(正極)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
クラッド式正極は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。
【0047】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb−Ca系合金、Pb−Ca−Sn系などが好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。芯金には、Pb−Sb系合金を用いることが好ましい。
【0048】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、正極活物質に加え、必要に応じて、硫酸スズ、鉛丹などの添加剤を含んでもよい。
【0049】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を混練することで調製すればよい。その後、未化成の正極板を化成する。クラッド式正極板は、芯金が挿入された多孔質なガラスチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0050】
(セパレータ)
セパレータには、不織布シート、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて適宜選択すればよい。不織布シートは、ポリマー繊維および/またはガラス繊維を主体とするシートであり、例えば60質量%以上が繊維成分で形成されている。一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とするシートであり、例えば、ポリマー粉末、シリカ粉末およびオイルを含む組成物をシート状に押し出し成形した後、オイルを抽出して細孔を形成することにより得られる。セパレータを構成する材料は、耐酸性を有するものが好ましく、ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0051】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。ゲル化の程度は、特に限定されない。流動性を有するゾルからゲル状態の電解液を用いてもよく、流動性を有さないゲル状態の電解質を用いてもよい。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.1〜1.35g/cm3であり、1.2〜1.35g/cm3であることが好ましい。
【0052】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で密閉されている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0053】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状セパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚6に負極柱9が接続され、正極棚5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0054】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
《実施例1》
(1)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、所定量の合成有機防縮剤とを、適量の硫酸水溶液と混合して負極ペーストを得た。負極ペーストを、Pb−Ca−Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得た。
【0056】
合成有機防縮剤は、化成後に満充電した鉛蓄電池の負極電極材料における合成有機防縮剤の含有量が0.2質量%になるように、負極ペーストに配合した。また、化成後に満充電した鉛蓄電池の負極電極材料の密度が3.3g/cm3になるように、負極ペーストに配合する水量や硫酸量を制御した。
ここで、負極電極材料の密度は、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体し、前述の方法で測定した。測定装置には、島津製作所製、自動ポロシメータ、オートポアIV9505を用いた。
【0057】
合成有機防縮剤には、スルホン酸基を導入したビスフェノール類のホルムアルデヒドによる縮合物を用いた。ここでは、合成有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が4000μmol/gになるように、導入するスルホン酸基の量を制御した。
【0058】
(2)正極板の作製
原料の酸化鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得た。正極ペーストを、Pb−Ca−Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得た。
【0059】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、負極板5枚と正極板4枚とで極板群を形成した。ただし、化成後に満充電した鉛蓄電池における極間距離が0.4mm〜1.8mmの範囲で、0.2mm間隔で変化するように、極間距離の異なる複数種の極板群を作製した。極間距離は、正極棚および負極棚に接続する各極板のピッチにより制御した。
【0060】
極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、電槽内で化成を施し、極間距離が異なる極板群ごとに、液式の自動車用鉛蓄電池を組み立てた。鉛蓄電池の出力は12Vで、定格5時間率容量は55Ahである。なお、極間距離が1mm未満の極板群を用いた鉛蓄電池は参考例である。
【0061】
《比較例1》
合成有機防縮剤の代わりに、天然物に由来し、硫黄元素の含有量が600μmol/gであるリグニンを用いたこと以外、実施例1と同様に、極間距離の異なる複数種の極板群を作製し、鉛蓄電池を組み立てた。
【0062】
[評価1]
実施例1および比較例1で作製した鉛蓄電池に関し、以下の条件で、JIS D5301:2006に準拠して重負荷寿命試験を行った。
<サイクル条件>
放電:20A×1時間、充電:5A×5時間
ただし、25サイクルごとに端子電圧が10.2Vになるまで連続放電する。
【0063】
以下のように、重負荷寿命試験の200サイクル時点での正極電極材料の脱落量を測定した。まず、初期の既化成の満充電状態の鉛蓄電池を分解し、正極板を取り出し、水洗により硫酸を除去し、乾燥し、正極板の質量Aを測定した。一方、重負荷寿命試験の200サイクル後の鉛蓄電池から正極板を取り出し、その質量Bを同様に求めた。AとBとの差から正極電極材料(活物質)の脱落量を下記式より算出した。
正極電極材料の脱落量(%)={(A−B)/A}×100
【0064】
極間距離と正極電極材料の脱落量との関係を表1および図2に示す。200サイクル時点での正極電極材料の脱落量が多いほど、電解液に溶出した有機防縮剤による正極電極材料の軟化が進行し、正極板が劣化しているといえる。
【0065】
【表1】
【0066】
図2では、合成有機防縮剤を用いる場合、極間距離が0.9mm未満で小さくなるほど、正極電極材料の脱落量が多くなっている。また、極間距離0.9mmを境界に、合成有機防縮剤とリグニンとの間で、極間距離に対する正極電極材料の脱落量の依存性に逆転現象が見られる。すなわち、リグニンを用いる場合には、極間距離を0.9mm以上にすると、かえって正極電極材料の脱落量が増加する傾向が見られる。以上より、正極電極材料の脱落が多くなるのは、合成有機防縮剤を用いる場合に特有の現象であり、極間距離を0.9mm以上にすることで、その現象を抑制できることがわかる。
【0067】
《実施例2》
化成後に満充電した鉛蓄電池において、極間距離を1.2mmに、負極電極材料の密度を3.3g/cm3に統一し、その一方、負極電極材料における合成有機防縮剤の含有量を0.05質量%〜0.3質量%の範囲で変化させた。上記以外、実施例1と同様に極板群を作製し、鉛蓄電池を組み立て、上記評価1と同様に評価した。
【0068】
《比較例2》
化成後に満充電した鉛蓄電池において、極間距離を1.2mmに、負極電極材料の密度を3.3g/cm3に統一し、その一方、負極電極材料におけるリグニンの含有量を0.05質量%〜0.3質量%の範囲で変化させた。上記以外、比較例1と同様に極板群を作製し、鉛蓄電池を組み立て、上記評価1と同様に評価した。
【0069】
実施例2および比較例2に関し、負極電極材料における有機防縮剤の含有量と正極電極材料の脱落量との関係を表2および図3に示す。図3は、有機防縮剤の含有量を所定の範囲内で変化させても、正極電極材料の脱落量は、それほど大きく影響を受けないことを示している。
【0070】
【表2】
【0071】
《実施例3》
合成有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量を3000μmol/g、4000μmol/gまたは6000μmol/gとし、化成後に満充電した鉛蓄電池の極間距離を0.3〜1.8mmの範囲で細かく変化させた。上記以外、実施例1と同様に、極間距離の異なる複数種の極板群を作製し、鉛蓄電池を組み立てた。
【0072】
[評価2]
実施例3で作製した鉛蓄電池に関し、上記と同じ重負荷寿命試験を行い、端子電圧が10.2Vになるまで連続放電したときの容量が、5時間率放電容量の50%になるまでのサイクル数を測定した。極間距離とサイクル数との関係を表3および図4に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
図4より、有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量にかかわらず、極間距離が0.9mm未満で小さくなるほど、重負荷寿命性能が低下する傾向があることが理解できる。ただし、その傾向は、有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量が小さいほど顕著になっている。一方、極間距離が0.9mm以上(特に1.0mm以上もしくは1.2mm以上)になると、重負荷寿命性能が高い水準で安定化しており、特に有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量が3000μmol/g以上、更には4000μmol/g以上の場合に優れた重負荷寿命性能が得られている。なお、このような重負荷寿命性能の向上には、正極電極材料の脱落量の減少が大きく影響していると考えられる。よって、合成有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量にかかわらず、図2と同様の傾向もしくは極間距離に対する正極電極材料の脱落量の依存性におけるリグニンとの逆転現象が起こっているものと考えられる。
【0075】
《実施例4》
化成後に満充電した鉛蓄電池において、極間距離を1.0mmに、負極電極材料の密度を3.3g/cm3に統一し、その一方、合成有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量を3000〜7500μmol/gの範囲で細かく変化させた。上記以外、実施例1と同様に、合成有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が異なる複数種の極板群を作製し、鉛蓄電池を組み立てた。
【0076】
[評価3]
実施例4で作製した鉛蓄電池に関し、低温高率(低温HR)放電持続時間として、鉛蓄電池を−15℃で放電電流150Aの条件で放電し、端子間電圧が6.0Vに低下するまでの秒数を測定した。有機防縮剤中の硫黄元素の含有量と、低温高率放電持続時間との関係を表4および図5に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
図5より、低温高率放電性能を向上させるには、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量を3500μmol/g以上、更には4000μmol/g以上にすることが有利であることが理解できる。
【0079】
《実施例5》
化成後に満充電した鉛蓄電池において、極間距離を1.0mmに、負極電極材料の密度を3.3g/cm3に統一し、その一方、合成有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量を500〜8000μmol/gの範囲で変化させた。上記以外、実施例1と同様に、合成有機防縮剤の硫黄元素の含有量が異なる複数種の極板群を作製し、鉛蓄電池を組み立てた。
【0080】
[評価4]
実施例5で作製した鉛蓄電池に関し、負極板からの有機防縮剤の溶出量を測定した。ここでは、重負荷寿命試験の200サイクル時点の鉛蓄電池から負極板を取り出し、負極電極材料中における有機防縮剤の含有量C1を測定し、初期の有機防縮剤の含有量C2との差から有機防縮剤の溶出量を下記式より算出した。有機防縮剤中の硫黄元素の含有量と、有機防縮剤の溶出量との関係を表5および図6に示す。
溶出量(%)={1−(C1/C2)}×100
【0081】
【表5】
【0082】
図6より、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が2000μmol/g以上、更には3000μmol/g以上で、有機防縮剤の溶出量が顕著に低減すること、特に4000μmol/g以上では、溶出量が少量で安定化することが理解できる。
【0083】
《実施例6》
化成後に満充電した鉛蓄電池において、極間距離を1mmに統一するとともに、合成有機防縮剤に含まれる硫黄元素の含有量を3000μmol/g、4000μmol/gまたは8000μmol/gに統一し、その一方、負極電極材料の密度を2.5〜4.0g/cm3の範囲で変化させた。上記以外、実施例1と同様に、負極電極材料の密度が異なる複数種の極板群を作製し、鉛蓄電池を組み立て、上記評価2と同様に評価した。
【0084】
実施例6に関し、各種有機防縮剤を含む負極電極材料の密度と、重負荷寿命性能との関係を表6および図7に示す。
【0085】
【表6】
【0086】
図7では、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が3000μmol/gの場合、負極電極材料の密度が低下するほど、重負荷寿命性能も低下している。一方、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が4000μmol/g以上の場合には、負極電極材料の密度が小さくなっても重負荷寿命性能がほとんど低下せず、良好な性能を維持している。すなわち、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が4000μmol/g以上の場合には、3000μmol/gの場合に比べ、負極電極材料の密度に対する重負荷寿命性能の依存性に顕著な相違が見られる。硫黄元素の含有量が4000μmol/g以上の有機防縮剤は、低密度の負極電極材料で良好な重負荷寿命性能を達成しようとするときに特に有益である。
【0087】
《実施例7》
有機防縮剤として、硫黄元素の含有量が4000μmol/gのナフタレン類のホルムアルデヒドによる縮合物(ナフタレン系有機防縮剤)を用いたこと以外、実施例1と同様に、化成後に満充電したときの極間距離が1mmであり、負極電極材料の密度が3.3g/cm3の負極板を具備する鉛蓄電池を組み立てた。
【0088】
[評価4]
実施例7で作製した鉛蓄電池と、実施例1で作製した硫黄元素の含有量が4000μmol/gのビスフェノール類のホルムアルデヒドによる縮合物(ビスフェノール系有機防縮剤)を用いた鉛蓄電池に関し、評価1、3と同様に、重負荷寿命サイクル数および低温高率放電持続時間を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
【表7】
【0090】
表1より、有機防縮剤がナフタレン系である場合にも、有機防縮剤がビスフェノール系である場合と、概ね同様の結果が得られることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、液式および制御弁式のいずれの鉛蓄電池にも適用可能であり、自動車、バイク、電動車両(フォークリフトなど)、産業用蓄電装置などの電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0092】
1 鉛蓄電池、2 負極板、3 正極板、4 セパレータ、5 正極棚、6 負極棚、7 正極柱、8 貫通接続体、9 負極柱、11 極板群、12 電槽、13 隔壁、14 セル室、15 蓋、16 負極端子、17 正極端子、18 液口栓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7