(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹部は、タイヤ周方向に延在する途中で分離され、それぞれが前記表面加工部における前記傾斜細溝の傾斜方向と交差するタイヤ幅方向にずれて配置される請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
前記表面加工部は、タイヤ幅方向に沿って延在する複数の幅方向細溝をさらに含み、前記傾斜細溝を前記サイプの分離した部分および前記凹部が設けられた前記トレッド面に配置し、前記幅方向細溝を前記陸部のタイヤ幅方向端部のトレッド面に配置する請求項1から4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の空気入りタイヤのように、陸部の中央においてサイプがタイヤ幅方向で分離されていると、ブロック剛性を確保したり、サイプへの雪や氷の詰まりを防止したりすることができる。しかし、サイプが分離された部分において、サイプが設けられた部分と比較して接地圧が局所的に高くなり、分離されたサイプ端から亀裂が生じたり、分離されたサイプ端に欠けが生じたりすることで、荷重耐久性能が悪化する問題がある。
【0007】
特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、サイプが分離された部分に小孔が設けられているため、接地圧を低減する作用があるが、サイプが分離されたままの形態であるため、サイプ端の亀裂や欠けの発生を十分に抑えるに至らず、荷重耐久性能を改善することは難しい。
【0008】
特許文献2に記載の空気入りタイヤでは、副溝がショルダーブロックを分断するため、排水性が向上して湿潤路面での操縦安定性が向上するものの、ブロック剛性が低下して倒れやすくなることから、荷重耐久性能を改善することは難しい。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、氷上性能および雪上性能を確保しつつ荷重耐久性能を向上することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る空気入りタイヤは、トレッド部に、タイヤ周方向に沿って延在しタイヤ幅方向に複数並ぶ周方向溝と、少なくとも前記周方向溝により区画形成されてタイヤ幅方向に複数並ぶ陸部と、前記陸部におけるトレッド面に設けられタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜細溝を含む表面加工部と、前記陸部におけるトレッド面に設けられタイヤ幅方向に沿って延在して前記表面加工部の前記傾斜細溝に交差しタイヤ周方向に複数並びタイヤ幅方向に沿って延在する途中で分離されたサイプと、前記トレッド面のタイヤ周方向に並ぶ複数の前記サイプが分離された間で前記サイプの分離された端部とは離隔されタイヤ周方向に沿って延在し前記表面加工部の前記傾斜細溝に交差して設けられた凹部と、を備え、前記サイプのトレッド面からの深さD1と、前記凹部のトレッド面からの深さD2と、前記表面加工部の前記傾斜細溝のトレッド面からの深さD3とが、D3<D2<D1である。
【0011】
分離したサイプの間の部分は、サイプが形成された部分と比較して剛性が高く接地時に路面から受ける接地圧が局所的に高くなるため、分離したサイプの端部に切れや欠けが発生しやすくなり荷重耐久性能が低下する。これに対し、本空気入りタイヤによれば、陸部のトレッド面において、分離したサイプの間の部分は、タイヤ周方向に並ぶ複数のサイプに渡って凹部が形成されていることから、当該凹部により剛性が低くなり接地圧を低下させるため、他の部分と比較して接地圧が均一化されることから荷重耐久性能を向上することができる。しかも、凹部は、サイプの分離した端部から離隔されてサイプに連通していないため、陸部の剛性が過度に低くなる事態を抑制することができ、かつ表面加工部が設けられていることから、陸部の剛性低下を適度に調整することができる。また、表面加工部の傾斜細溝とサイプとが互いに交差することで、凹部がサイプの分離した端部から離隔された間において、傾斜細溝がタイヤ幅方向に沿って最短で繋がり陸部の剛性が過度に低くなり切れや欠けが発生することを抑制することができる。また、表面加工部の傾斜細溝とサイプとが互いに交差することで、凹部がサイプの分離した端部から離隔された間において、傾斜細溝がタイヤ周方向に沿って配置されて接地圧の高い部分が集中し切れや欠けが発生することを抑制することができる。そして、これらの効果を得るうえで、サイプのトレッド面からの深さD1と、凹部のトレッド面からの深さD2と、表面加工部の傾斜細溝のトレッド面からの深さD3とを、D3<D2<D1の関係とする。しかも、凹部を設けたことで、凹部の開口縁によりエッジ成分が増加すると共に排水性が向上し、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能)を向上することができる。しかも、サイプにより雪上性能(雪上路面での操縦安定性能)を有する。この結果、氷上性能および雪上性能を確保しつつ荷重耐久性能を向上することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記表面加工部は、前記傾斜細溝のタイヤ周方向に対する角度が20°以上70°以下であることが好ましい。
【0013】
この空気入りタイヤによれば、傾斜細溝のタイヤ周方向に対する角度が20°以上であると、凹部がサイプの分離した端部から離隔された間において、傾斜細溝がタイヤ周方向に沿って配置されて接地圧の高い部分が集中し切れや欠けが発生することを抑制することができる。また、傾斜細溝のタイヤ周方向に対する角度が70°以下であると、凹部がサイプの分離した端部から離隔された間において、傾斜細溝がタイヤ幅方向に沿って最短で繋がり陸部の剛性が過度に低くなり切れや欠けが発生することを抑制できる。従って、傾斜細溝のタイヤ周方向に対する角度が20°以上70°以下であることで、荷重耐久性能を向上することができる。また、傾斜細溝のタイヤ周方向に対する角度が20°以上70°以下であることで、傾斜細溝による水膜除去作用およびエッジ効果が確保されるので、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を確保することができる。
【0014】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記凹部は、タイヤ周方向に延在する途中で分離され、それぞれが前記表面加工部における前記傾斜細溝の傾斜方向と交差するタイヤ幅方向にずれて配置されることが好ましい。
【0015】
この空気入りタイヤによれば、凹部を分離してタイヤ幅方向にずらして配置することで、凹部のタイヤ周方向の端部のエッジ成分がタイヤ周方向に対して増加するため、氷上性能(主に、氷上路面での制動性能)を向上することができる。そして、分離した各凹部を傾斜細溝の傾斜方向と交差するタイヤ幅方向にずらして配置することで、各凹部の端部が傾斜細溝で連通されることを防ぎ、凹部の端部から傾斜細溝を起因として切れや欠けが発生することを抑制でき、荷重耐久性能を向上することができる。
【0016】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記陸部は、タイヤ周方向に対して交差して前記周方向溝に端部が連通するラグ溝によりタイヤ周方向で分断されたブロックを有し、前記凹部は、前記ブロックのタイヤ周方向の端の少なくとも一方に開口することが好ましい。
【0017】
車両走行時にブロックが路面に接触し始める踏み込み側や路面から最後に離れる蹴り出し側は、タイヤ周方向の端の位置であり、大きい荷重がかかりサイプの端部を起因として切れや欠けが生じやすい。本空気入りタイヤによれば、ブロックの端に凹部が開口するようにタイヤ周方向に延在していることで、ブロックの端の接地圧を低下させることができ、荷重耐久性能を向上することができる。しかも、ブロックの端に凹部が開口するようにタイヤ周方向に延在していることで、排水性能を向上することができ、湿潤路面での操縦安定性能や氷上性能(氷上路面での操縦安定性能)を向上することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記表面加工部は、タイヤ幅方向に沿って延在する複数の幅方向細溝をさらに含み、前記傾斜細溝を前記サイプの分離した部分および前記凹部が設けられた前記トレッド面に配置し、前記幅方向細溝を前記陸部のタイヤ幅方向端部のトレッド面に配置することが好ましい。
【0019】
この空気入りタイヤによれば、陸部において接地圧が比較的高いサイプの分離した部分および凹部を設ける部分に傾斜細溝を配置して接地圧を低下させる一方、陸部において接地圧が比較的低いタイヤ幅方向端部ではタイヤ幅方向に延在する幅方向細溝を配置することで、タイヤ周方向に対するエッジ成分を増加させ、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る空気入りタイヤは、氷上性能および雪上性能を確保しつつ荷重耐久性能を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0023】
本実施形態に係る空気入りタイヤについて説明する。
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤの平面図である。
図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤの拡大平面図である。
図3は、
図2におけるA−A矢視図である。
図4から
図7は、本実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の拡大平面図である。
【0024】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)に向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から離れる側をいう。タイヤ赤道面は、回転軸に直交しタイヤ幅方向の中央の面であり、タイヤ赤道線は、タイヤ赤道面上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。
【0025】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、
図1に示すように、トレッド部2を有している。トレッド部2は、ゴム材からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面がトレッド面2aとして空気入りタイヤ1の輪郭となる。
【0026】
トレッド部2は、トレッド面2aに、タイヤ周方向に沿って延在する周方向溝3が、タイヤ幅方向に複数(本実施形態では5本)並んで設けられている。周方向溝3は、3mm以上15mm以下の溝幅で、5mm以上15mm以下の溝深さ(トレッド面2aの開口位置から溝底までの寸法)の範囲のものである。
【0027】
トレッド部2は、トレッド面2aに、周方向溝3により陸部4がタイヤ幅方向に複数(本実施形態では6本)区画形成されている。そして、本実施形態では、タイヤ幅方向両外側の周方向溝3よりもタイヤ幅方向内側の陸部4を内側陸部4Aといい、タイヤ幅方向両外側の周方向溝3よりもタイヤ幅方向外側の陸部4をショルダー陸部4Bという。
図1では、ショルダー陸部4Bを接地領域内のみ示し、接地領域外を省略している。
【0028】
ここで、接地領域は、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、かつ正規内圧を充填すると共に正規荷重の70%をかけたとき、この空気入りタイヤ1のトレッド部2のトレッド面2aが乾燥した平坦な路面と接地する領域である。正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0029】
陸部4は、トレッド面2aにラグ溝5が設けられている。ラグ溝5は、タイヤ周方向に対して交差して延在し端部が周方向溝3に連通する。ラグ溝5は、1.5mm以上10.0mm以下の溝幅で、5mm以上15mm以下の溝深さのものをいう。陸部4は、周方向溝3およびラグ溝5によりタイヤ周方向で分断されたブロックBを有する。また、陸部4は、ラグ溝5によりタイヤ周方向で分断されずタイヤ周方向に連続するリブRを有する。内側陸部4Aは、4本のうち1本がリブRで、他3本がブロックBである。ショルダー陸部4Bは、全てがブロックBである。
【0030】
陸部4は、トレッド面2aにサイプ6が設けられている。サイプ6は、タイヤ幅方向に沿って延在しタイヤ周方向に複数並んで設けられている。サイプ6は、0.3mm以上1.2mm以下の溝幅で、周方向溝3以下の溝深さ(サイプ6のトレッド面2aからの深さD1:
図3参照)のものをいう。サイプ6は、周方向溝3に連通する形態や周方向溝3に連通しない形態がある。また、サイプ6は、トレッド面2aへの開口部が連続して複数屈曲したジグザグ状に形成されている。この場合、サイプ6は、トレッド面2aからタイヤ径方向内側へのトレッド部2内の形状が、トレッド面2aのジグザグ形状に沿ってジグザグ形状となる二次元サイプであってもよく、ジグザグ形状に加えてさらに屈曲した三次元サイプであってもよい。また、サイプ6は、トレッド面2aへの開口部が連続して直線状に形成されていてもよい。この場合、サイプ6は、トレッド面2aからタイヤ径方向内側へのトレッド部2内の形状が、トレッド面2aの直線状に沿って直線状となる一次元サイプであってもよく、屈曲した二次元サイプであってもよい。従って、本実施形態の空気入りタイヤ1は、陸部4のトレッド面2aにサイプ6が設けられたスタッドレスタイヤとして構成されている。そして、本実施形態において、サイプ6は、
図1および
図2に示すように、1つの陸部4内において、タイヤ幅方向に沿って延在する途中で2つに分離した形態を含む。
【0031】
また、陸部4は、トレッド面2aに凹部7が設けられている。凹部7は、タイヤ周方向に並ぶ複数のサイプ6の分離された間にタイヤ周方向に沿って延在して設けられている。凹部7は、サイプ6の分離された端部6aから離隔して設けられている。すなわち、凹部7は、サイプ6とは連通しない形態でタイヤ周方向に並ぶ複数のサイプ6の分離された間に渡って延在して設けられている。
【0032】
また、陸部4は、トレッド面2aに、表面加工部8が設けられている。表面加工部8は、タイヤ周方向に対して傾斜して延在する複数の傾斜細溝8Aを含む。この傾斜細溝8Aに対し、トレッド面2aにおいて、タイヤ幅方向に沿って延在するサイプ6、およびタイヤ周方向に沿って延在する凹部7は交差している。傾斜細溝8Aは、陸部4のトレッド面2aの端から端に開口していても、開口していなくてもよい。また、傾斜細溝8Aは、直線状に延在して形成されていても、途中で湾曲して形成されていても、途中で屈曲して形成されていてもよい。傾斜細溝8Aの延在方向は、両端部を結ぶ直線により規定される。
【0033】
また、
図3に示すように、サイプ6のトレッド面2aからの深さD1、凹部7のトレッド面2aからの深さD2、表面加工部8の傾斜細溝8Aのトレッド面2aからの深さD3、の関係は、D3<D2<D1とされている。
【0034】
このようなサイプ6、凹部7および表面加工部8を有する形態は、陸部4において、内側陸部4Aやショルダー陸部4Bで適用され、ブロックBやリブRで適用される。
【0035】
このように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2に、タイヤ周方向に沿って延在しタイヤ幅方向に複数並ぶ周方向溝3と、少なくとも周方向溝3により区画形成されてタイヤ幅方向に複数並ぶ陸部4と、陸部4におけるトレッド面2aに設けられタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜細溝8Aを含む表面加工部8と、陸部4におけるトレッド面2aに設けられタイヤ幅方向に沿って延在して表面加工部8の傾斜細溝8Aに交差しタイヤ周方向に複数並びタイヤ幅方向に沿って延在する途中で分離されたサイプ6と、トレッド面2aのタイヤ周方向に並ぶ複数のサイプ6が分離された間でサイプ6の分離された端部6aとは離隔されタイヤ周方向に沿って延在し表面加工部8の傾斜細溝8Aに交差して設けられた凹部7と、を備え、サイプ6のトレッド面2aからの深さD1と、凹部7のトレッド面2aからの深さD2と、表面加工部8の傾斜細溝8Aのトレッド面2aからの深さD3とが、D3<D2<D1である。
【0036】
分離したサイプ6の間の部分は、サイプ6が形成された部分と比較して剛性が高く接地時に路面から受ける接地圧が局所的に高くなるため、分離したサイプ6の端部6aに切れや欠けが発生しやすくなり荷重耐久性能が低下する。これに対し、本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、陸部4のトレッド面2aにおいて、分離したサイプ6の間の部分は、タイヤ周方向に並ぶ複数のサイプ6に渡って凹部7が形成されていることから、当該凹部7により剛性が低くなり接地圧を低下させるため、他の部分と比較して接地圧が均一化されることから荷重耐久性能を向上することができる。しかも、凹部7は、サイプ6の分離した端部6aから離隔されてサイプ6に連通していないため、陸部4の剛性が過度に低くなる事態を抑制することができ、かつ表面加工部8が設けられていることから、陸部4の剛性低下を適度に調整することができる。また、表面加工部8の傾斜細溝8Aとサイプ6とが互いに交差することで、凹部7がサイプ6の分離した端部6aから離隔された間において、傾斜細溝8Aがタイヤ幅方向に沿って最短で繋がり陸部4の剛性が過度に低くなり切れや欠けが発生することを抑制できる。また、表面加工部8の傾斜細溝8Aとサイプ6とが互いに交差することで、凹部7がサイプ6の分離した端部6aから離隔された間において、傾斜細溝8Aがタイヤ周方向に沿って配置されて接地圧の高い部分が集中し切れや欠けが発生することを抑制することができる。そして、これらの効果を得るうえで、サイプ6のトレッド面2aからの深さD1と、凹部7のトレッド面2aからの深さD2と、表面加工部8の傾斜細溝8Aのトレッド面2aからの深さD3とを、D3<D2<D1の関係とする。しかも、凹部7を設けたことで、凹部7の開口縁によりエッジ成分が増加すると共に排水性が向上し、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能)を向上することができる。しかも、サイプ6により雪上性能(雪上路面での操縦安定性能)を有する。この結果、氷上性能および雪上性能を確保しつつ荷重耐久性能を向上することができる。
【0037】
ところで、凹部7のトレッド面2aからの深さD2は、0.2mm以上3.0mm以下であることが好ましい。凹部7の深さD2が0.2mm以上であると、接地時に凹部7が潰れる事態を防ぐことができ、排水性能を向上することができると共に、陸部4の剛性低下を生じさせて接地圧を低下させることができる。また、凹部7の深さD2が3.0mm以下であると、陸部4の剛性の過度の低下を抑制することができる。この結果、氷上性能および雪上性能を確保しつつ荷重耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0038】
なお、陸部4に荷重がかかるとサイプ6を起因としてトレッド面2aに切れや欠けが発生し、これは陸部4のタイヤ径方向高さが高いほど陸部4の倒れ込みが大きく発生しやすい。しかし、凹部7の深さD2が少なくとも0.2mmあることで、陸部4の摩耗初期において分離したサイプ6の端部6aを起因とした切れや欠けを抑制することに寄与する。そして、凹部7が摩耗により消滅したころには、陸部4のタイヤ径方向高さが低くなるので陸部4の倒れ込みが小さくなりサイプ6を起因とした切れや欠けの発生が少なくなる。従って、荷重耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができる。また、凹部7の断面形状は、
図3に示すように底が湾曲した形状であることがサイプ6の端部6aを起因とした切れや欠けを抑制するうえで好ましい。
【0039】
また、表面加工部8の傾斜細溝8Aのトレッド面2aからの深さD3は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。傾斜細溝8Aの深さD3が0.1mm以上であると、摩耗初期における氷路での制駆動性能を向上することができ、かつ凹部7を設けた場合の陸部4の剛性低下を調整することができる。また、傾斜細溝8Aの深さD3が0.5mm以下であると、傾斜細溝8Aを早期に磨滅させてトレッド部2のゴム本来の特性を早期に発揮することができる。
【0040】
また、凹部7とサイプ6の分離した端部6aとの距離Waは、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。凹部7とサイプ6の分離した端部6aとの距離Waが0.5mm以上であると、陸部4の剛性が過度に低くなる事態を抑制することができ、サイプ6の端部6aを起因とする切れや欠けを抑制することができる。また、凹部7とサイプ6の分離した端部6aとの距離Waが1.5mm以下であると、サイプ6が分離した部分における陸部4の剛性過多を抑制することができる。
【0041】
また、表面加工部8の傾斜細溝8Aの配置間隔Wbは、0.4mm以上2.0mm以下であることが好ましい。傾斜細溝8Aの配置間隔Wbが0.4mm以上であると陸部4のトレッド面2aの接地面積を確保し、氷上性能を確保することができる。また、傾斜細溝8Aの配置間隔Wbが2.0mm以下であると、傾斜細溝8Aによる水膜除去作用およびエッジ効果が確保され、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を確保することができる。
【0042】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、表面加工部8は、
図2に示すように、傾斜細溝8Aのタイヤ周方向に対する角度θが20°以上70°以下であることが好ましい。
【0043】
この空気入りタイヤ1によれば、傾斜細溝8Aのタイヤ周方向に対する角度θが20°以上であると、凹部7がサイプ6の分離した端部6aから離隔された間において、傾斜細溝8Aがタイヤ周方向に沿って配置されて接地圧の高い部分が集中し切れや欠けが発生することを抑制することができる。また、傾斜細溝8Aのタイヤ周方向に対する角度θが70°以下であると、凹部7がサイプ6の分離した端部6aから離隔された間において、傾斜細溝8Aがタイヤ幅方向に沿って最短で繋がり陸部4の剛性が過度に低くなり切れや欠けが発生することを抑制できる。従って、傾斜細溝8Aのタイヤ周方向に対する角度θが20°以上70°以下であることで、荷重耐久性能を向上することができる。また、傾斜細溝8Aのタイヤ周方向に対する角度θが20°以上70°以下であることで、傾斜細溝8Aによる水膜除去作用およびエッジ効果が確保されるので、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を確保することができる。なお、荷重耐久性能を向上する効果および氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を確保する効果を顕著に得るうえで、傾斜細溝8Aのタイヤ周方向に対する角度θが45°であることが好ましい。
【0044】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、
図4に示すように、凹部7は、タイヤ周方向に延在する途中で分離して設けられている。そして、各凹部7は、それぞれが表面加工部8における傾斜細溝8Aの傾斜方向と交差するタイヤ幅方向にずれて配置されていることが好ましい。
図4においては、傾斜細溝8Aが右下向きに傾斜しており、タイヤ周方向で分離された各凹部7は、左下にずれて配置されている。また、
図4では、凹部7は、タイヤ周方向に延在する途中で2つに分離して設けられているが、分離数に限定はない。
【0045】
この空気入りタイヤ1によれば、凹部7を分離してタイヤ幅方向にずらして配置することで、凹部7のタイヤ周方向の端部のエッジ成分がタイヤ周方向に対して増加するため、氷上性能(主に、氷上路面での制動性能)を向上することができる。そして、分離した各凹部7を傾斜細溝8Aの傾斜方向と交差するタイヤ幅方向にずらして配置することで、各凹部7の端部が傾斜細溝8Aで連通されることを防ぎ、凹部7の端部から傾斜細溝8Aを起因として切れや欠けが発生することを抑制でき、荷重耐久性能を向上することができる。
【0046】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、
図5および
図6に示すように、陸部4がブロックBである場合、凹部7は、ブロックBのタイヤ周方向の端の少なくとも一方に開口することが好ましい。
図5は、
図2に示す形態の凹部7においてブロックBのタイヤ周方向の端の一方に開口している。
図5において、凹部7がブロックBのタイヤ周方向の端の両方に開口していてもよい。また、
図6は、
図4に示す形態の分離された一方の凹部7においてブロックBのタイヤ周方向の端の一方に開口している。
図6において、分離された各凹部7がブロックBのタイヤ周方向の端のそれぞれに開口していてもよい。
【0047】
車両走行時にブロックBが路面に接触し始める踏み込み側や路面から最後に離れる蹴り出し側は、タイヤ周方向の端の位置であり、大きい荷重がかかりサイプ6の端部6aを起因として切れや欠けが生じやすい。本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、ブロックBの端に凹部7が開口するようにタイヤ周方向に延在していることで、ブロックBの端の接地圧を低下させることができ、荷重耐久性能を向上することができる。しかも、ブロックBの端に凹部7が開口するようにタイヤ周方向に延在していることで、排水性能を向上することができ、湿潤路面での操縦安定性能や氷上性能(氷上路面での操縦安定性能)を向上することができる。
【0048】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、
図7に示すように、表面加工部8は、タイヤ幅方向に沿って延在する複数の幅方向細溝8Bをさらに含むことが好ましい。そして、表面加工部8は、傾斜細溝8Aをサイプ6の分離した部分および凹部7が設けられたトレッド面2aに配置する。また、表面加工部8は、幅方向細溝8Bを陸部4のタイヤ幅方向端部のトレッド面2aに配置する。幅方向細溝8Bは、陸部4のタイヤ幅方向の少なくとも一方の端部のトレッド面2aに配置される。
図7に示す形態は、
図2に示す凹部7の形態に基づいているが、これに限らず、
図4から
図6に示す凹部7の形態などに基づいていてもよい。
【0049】
幅方向細溝8Bは、傾斜細溝8Aと同様にトレッド面2aからの深さが0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。幅方向細溝8Bの深さが0.1mm以上であると、摩耗初期における氷路での制駆動性能を向上することができ、かつ凹部7を設けた場合の陸部4の剛性低下を調整することができる。また、幅方向細溝8Bの深さが0.5mm以下であると、幅方向細溝8Bを早期に磨滅させてトレッド部2のゴム本来の特性を早期に発揮することができる。また、幅方向細溝8Bは、傾斜細溝8Aと同様に配置間隔Wcが0.4mm以上2.0mm以下であることが好ましい。幅方向細溝8Bの配置間隔Wcが0.4mm以上であると陸部4のトレッド面2aの接地面積を確保し、氷上性能を確保することができる。また、幅方向細溝8Bの配置間隔Wcが2.0mm以下であると、幅方向細溝8Bによる水膜除去作用およびエッジ効果が確保され、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を確保することができる。
【0050】
この空気入りタイヤ1によれば、陸部4において接地圧が比較的高いサイプ6の分離した部分および凹部7を設ける部分に傾斜細溝8Aを配置して接地圧を低下させる一方、陸部4において接地圧が比較的低いタイヤ幅方向端部ではタイヤ幅方向に延在する幅方向細溝8Bを配置することで、タイヤ周方向に対するエッジ成分を増加させ、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を向上することができる。
【0051】
なお、陸部4のタイヤ幅方向の一方の端部において、幅方向細溝8Bを配置する配置範囲Weは、陸部4のタイヤ幅方向寸法Wdに対する比であるWe/Wdは、5%以上30%以下であることが好ましい。We/Wdが5%以上であると、タイヤ周方向に対するエッジ成分を増加させ、氷上性能(氷上路面での操縦安定性能および制動性能)を向上することができる。We/Wdが30%以下であると、傾斜細溝8Aの接地領域を確保して傾斜細溝8Aによる接地圧低下の効果を顕著に得ることができる。
【0052】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、タイヤ幅方向最外側の陸部4(ショルダー陸部4B)において凹部7および表面加工部8が適用されることが好ましい。ショルダー陸部4Bは、旋回時に荷重がかかることから、氷上性能および雪上性能を確保しつつ荷重耐久性能を向上するうえで適している。
【0053】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、陸部4のブロックBにおいて凹部7および表面加工部8が適用されることが好ましい。ブロックBは、リブRに比較して倒れ込みが大きく荷重がかかることから、氷上性能および雪上性能を確保しつつ荷重耐久性能を向上するうえで適している。
【0054】
なお、図には明示しないが、サイプ6は、延在方向において分離が1箇所でなく数箇所あって、それぞれ分離した端部6aに離隔して凹部7を設けてもよい。
【実施例】
【0055】
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、氷上性能、雪上性能、排水性能および荷重耐久性能に関する性能試験が行われた(
図8参照)。
【0056】
この性能試験では、タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤ(試験タイヤ)を15×6Jの正規リムにリム組みした。
【0057】
氷上性能の評価方法は、空気圧230kPaを充填した上記試験タイヤを装着した試験車両(排気量1.5Lのフロント駆動車)にて、氷上路面のテストコースを走向し、専門のテストドライバーが制駆動性能やレーンチェンジ性能、コーナリング性能などに関してフィーリング評価を行う。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が高いほど氷上性能が優れていることを示している。
【0058】
雪上性能の評価方法は、空気圧230kPaを充填した上記試験タイヤを装着した試験車両(排気量1.5Lのフロント駆動車)にて、雪上路面のテストコースを走向し、専門のテストドライバーが制駆動性能やレーンチェンジ性能、コーナリング性能などに関してフィーリング評価を行う。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が高いほど雪上性能が優れていることを示している。
【0059】
排水性能の評価方法は、空気圧230kPaを充填した上記試験タイヤを装着した試験車両(排気量1.5Lのフロント駆動車)にて、湿潤路面のテストコースを走向し、専門のテストドライバーが制駆動性能やレーンチェンジ性能、コーナリング性能などに関してフィーリング評価を行う。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が高いほど排水性能が優れていることを示している。
【0060】
荷重耐久性能の評価方法は、各タイヤに空気圧180kPaを充填して、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、周辺温度を38±3℃に制御したうえで、JATMA規定の最大荷重の88%に相当する荷重を負荷させて、速度81km/hにて2時間走行させ、次いで2時間毎に負荷荷重を13%ずつ増加させて、タイヤが破壊したときの走行時間が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が高いほど荷重耐久性能が優れていることを示している。
【0061】
図8において、従来例の空気入りタイヤは、
図1に示すようにサイプが延在方向で分離されているが分離した部分に凹部が設けられていない。比較例1および比較例2の空気入りタイヤは、
図1に示すようなサイプが延在方向で分離した部分に凹部がサイプに連通して設けられている。一方、実施例1〜実施例8の空気入りタイヤは、
図1に示すようなサイプが延在方向で分離した部分にサイプの端部から離隔して凹部が設けられている。実施例1〜実施例5の空気入りタイヤは、
図2に示す形態である。実施例6の空気入りタイヤは、
図4に示す形態である。実施例7の空気入りタイヤは、
図6に示す形態である。実施例8の空気入りタイヤは、
図6に示す形態に基づいて
図7に示す幅方向細溝を有する。そして、
図8の試験結果に示すように、実施例1〜実施例8の空気入りタイヤは、雪上性能および氷上性能を確保しつつ荷重耐久性能および排水性能が改善されていることが分かる。