特許第6750414号(P6750414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750414
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20200824BHJP
【FI】
   E04H9/02 331B
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-177852(P2016-177852)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2018-44302(P2018-44302A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物名:2016年度大会(九州)学術講演梗概集、建築デザイン発表梗概集、発行日:2016年7月20日、発行所:一般社団法人 日本建築学会、該当ページ:第547〜第550ページ (2)研究集会名:2016年度日本建築学会大会(九州)主催者名:一般社団法人 日本建築学会 公開日:平成28年8月26日 公開場所:福岡大学 七隈キャンパス(福岡市城南区七隈8−19−1)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安井 雅明
(72)【発明者】
【氏名】大住 和正
(72)【発明者】
【氏名】岡田 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 拓
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−014772(JP,A)
【文献】 実開昭60−006002(JP,U)
【文献】 実開平02−125231(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造又は前記下部構造の一方に属する壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、水平方向に離間している免震構造において、前記上部構造又は前記下部構造の前記他方と前記壁体との衝突を想定して前記免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記上部構造の質量Mと、前記壁体の剛性Kwとの比をパラメーターとして行った前記免震構造の衝突応答解析における前記免震構造の衝突による応答値と、
前記上部構造の質量Mと、前記壁体と前記他方との間に前記緩衝体が介在されたときに剛性が低下したとみなされる前記壁体のみなし剛性Kとの比K/Mと、
に基づいて、前記壁体と前記他方との間に介在させる前記緩衝体の剛性Kfを決定することを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値は、前記衝突による前記上部構造の応答増幅率であることを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値は、前記衝突による前記壁体の変形量であることを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記上部構造の質量Mと、前記壁体の剛性Kwとの比Kw/Mを横軸とし、前記衝突の衝突速度又は入力地震動の大きさを縦軸として、前記衝突による前記上部構造の応答値と、前記衝突による前記壁体の変形量とをプロットし、前記上部構造の応答値が同値となる第一ラインと、前記壁体の変形量が同値となる第二ラインとを作成することを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさが所定値のときの前記第一ラインの第一Kw/M、及び、前記第二ラインの第二Kw/Mを算出することを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記第一Kw/Mと前記第二Kw/Mの間を設計可能領域とすることを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
次式に基づいて、前記K/Mが、前記第一Kw/Mと前記第二Kw/Mの間の値をなすべく、前記緩衝体の剛性Kfを決定することを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値が、前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、水平方向に所定のクリアランスをもって離間している免震構造の衝突応答解析によるものであり、
前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、互いの間に剛性Kfの緩衝体を備えると共に、前記緩衝体と前記壁体又は前記他方とが水平方向に前記所定のクリアランスをもって離間している他の免震構造の、前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさに対する衝突応答解析の結果に基づいて特定される、前記壁体又は前記他方と前記緩衝体とが衝突し始めるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す衝突開始震動レベルと、
前記緩衝体の変形代が失われるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す最大変形震動レベルとの間に、
想定する前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさが含まれるべく前記緩衝体の前記剛性Kfを設定することを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。
【請求項9】
請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値が、前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、水平方向に所定のクリアランスをもって離間している免震構造の衝突応答解析によるものであり、
前記免震構造の、前記壁体と前記他方とが衝突し始めるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す衝突開始震動レベルと、
前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、互いの間に剛性Kfの緩衝体を備えると共に、前記壁体と前記他方とが水平方向に所定のクリアランスをもって離間している他の免震構造の、前記緩衝体の変形代が失われるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す最大変形震動レベルとの間であって、
前記他の免震構造にて前記緩衝体が備えられたことにより、前記免震構造の応答値より増大する領域を除く領域に、
想定する前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさが含まれるべく前記緩衝体の前記剛性Kfを設定することを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛直方向に並ぶ上部構造(例えば建物)と下部構造(例えば基礎)との間に免震装置(例えば積層ゴム)を備えた免震構造が知られている。このような免震構造において、例えば下部構造の外周部に壁体(例えば擁壁)を設け、上部構造と下部構造との水平方向の相対変位が過大となる場合に上部構造を壁体に衝突させて変位を抑制するようにしたものも知られている(例えば、特許文献1参照)。そして、過大な地震動に対する対応として、上部構造と壁体との衝突を想定した設計が行われており、また、建物の健全性を改善するために衝突時の衝撃を緩和する緩衝体を設置する設計も考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−77229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上部構造と壁体との衝突を想定した免震構造において、過大な地震動等により衝突する上部構造と壁体との間に緩衝体を備える場合には、備える緩衝体を含めて上部構造と壁体との衝突を想定した設計を行う必要があり、効果的な緩衝体を備えるためには、緩衝体を適切な剛性に設定する必要がある。しかしながら、現状では、建物毎に、また条件を違えて繰り返し衝突応答解析を行い、緩衝体の適切な剛性をポイントで探しているため効率が悪いという課題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その主な目的は、免震構造に用いる緩衝体の適切な剛性を簡便に、効率的且つ合理的に想定できて、設計効率の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法は、
上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造又は前記下部構造の一方に属する壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、水平方向に離間している免震構造において、前記上部構造又は前記下部構造の前記他方と前記壁体との衝突を想定して前記免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記上部構造の質量Mと、前記壁体の剛性Kwとの比をパラメーターとして行った前記免震構造の衝突応答解析における前記免震構造の衝突による応答値と、
前記上部構造の質量Mと、前記壁体と前記他方との間に前記緩衝体が介在されたときに剛性が低下したとみなされる前記壁体のみなし剛性Kとの比K/Mと、
に基づいて、前記壁体と前記他方との間に介在させる前記緩衝体の剛性Kfを決定することを特徴とする免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法である。
【0007】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、緩衝体の適切な剛性Kfを簡便に、効率的且つ合理的に想定できて、設計効率の向上を図ることが可能である。
【0008】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値は、前記衝突による前記上部構造の応答増幅率であることが望ましい。
【0009】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、上部構造に過大な損傷や倒壊・崩壊が生じないように設計することが可能である。
【0010】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値は、前記衝突による前記壁体の変形量であることが望ましい。
【0011】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、免震装置が破断したり、軸力、支持能力を失ったりしないように設計することができる。
【0012】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記上部構造の質量Mと、前記壁体の剛性Kwとの比Kw/Mを横軸とし、前記衝突の衝突速度又は入力地震動の大きさを縦軸として、前記衝突による前記上部構造の応答値と、前記衝突による前記壁体の変形量とをプロットし、前記上部構造の応答値が同値となる第一ラインと、前記壁体の変形量が同値となる第二ラインとを作成することが望ましい。
【0013】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、第一ラインにより示される上部構造の応答値のクライテリアと、第二ラインにより示される壁体の変形量のクライテリアとの関係が明確になる。
【0014】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさが所定値のときの前記第一ラインの第一Kw/M、及び、前記第二ラインの第二Kw/Mを算出することが望ましい。
【0015】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、2本のラインによるクライテリアをともに満足する領域(設計可能領域)を推測することができる。
【0016】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記第一Kw/Mと前記第二Kw/Mの間を設計可能領域とすることが望ましい。
【0017】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、設計可能な壁体剛性Kwの範囲を容易に想定することができる。
【0018】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
次式に基づいて、前記K/Mが、前記第一Kw/Mと前記第二Kw/Mの間の値をなすべく、前記緩衝体の剛性Kfを決定することが望ましい。
【0019】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、緩衝体のより適切な剛性Kfを簡便に、効率的且つ合理的に想定でき、設計効率の向上を図ることが可能である。
【0020】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値が、前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、水平方向に所定のクリアランスをもって離間している免震構造の衝突応答解析によるものであり、
前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、互いの間に剛性Kfの緩衝体を備えると共に、前記緩衝体と前記壁体又は前記他方とが水平方向に前記所定のクリアランスをもって離間している他の免震構造の、前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさに対する衝突応答解析の結果に基づいて特定される、前記壁体又は前記他方と前記緩衝体とが衝突し始めるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す衝突開始震動レベルと、
前記緩衝体の変形代が失われるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す最大変形震動レベルとの間に、
想定する前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさが含まれるべく前記緩衝体の前記剛性Kfを設定することが望ましい。
【0021】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、緩衝体と壁体又は他方とが水平方向に所定のクリアランスをもって離間している他の免震構造において、想定する衝突速度又は入力地震動の大きさに、より適した剛性Kfの緩衝体を簡便に、効率的且つ合理的に想定できて、設計効率の向上を図ることが可能である。
【0022】
かかる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法であって、
前記応答値が、前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、水平方向に所定のクリアランスをもって離間している免震構造の衝突応答解析によるものであり、
前記免震構造の、前記壁体と前記他方とが衝突し始めるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す衝突開始震動レベルと、
前記壁体と、前記上部構造又は前記下部構造の他方とが、互いの間に剛性Kfの緩衝体を備えると共に、前記壁体と前記他方とが水平方向に所定のクリアランスをもって離間している他の免震構造の、前記緩衝体の変形代が失われるときの前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさを示す最大変形震動レベルとの間であって、
前記他の免震構造にて前記緩衝体が備えられたことにより、前記免震構造の応答値より増大する領域を除く領域に、
想定する前記衝突速度又は前記入力地震動の大きさが含まれるべく前記緩衝体の前記剛性Kfを設定することが望ましい。
【0023】
このような免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、水平方向に所定のクリアランスをもって離間する壁体と他方との間に緩衝材が設けられている他の免震構造において、想定する衝突速度又は入力地震動の大きさに、より適した剛性Kfの緩衝体を簡便に、効率的且つ合理的に想定できて、設計効率の向上を図ることが可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、免震構造に用いる緩衝体の適切な剛性を簡便に、効率的且つ合理的に想定でき、設計効率の向上を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】緩衝体を備えた免震建物の衝突応答解析モデルを示す図である。
図2】緩衝体を備えない免震建物の衝突応答解析モデルを示す図である。
図3】免震建物の諸元を示す図である。
図4図4(a)は、免震擁壁に備えられた緩衝体と上部構造とのクリアランスを示す図であり、図4(b)は、緩衝体を備えない免震擁壁と上部構造とのクリアランスを示す図である。
図5】入力地震動レベル毎の最大応答層間変形角の増加率を示す図である。
図6】入力地震動レベル毎の1階最大応答層せん断力の増幅率を示す図である。
図7】入力地震動レベル毎の免震擁壁の最大応答変形を示す図である。
図8】入力地震動レベル毎の各階最大応答層間変形角を示す図である。
図9】衝突速度と上部構造の応答増幅率との関係を示す図である。
図10】衝突速度と免震擁壁変形量との関係を示す図である。
図11】上部構造と擁壁との衝突を用いた設計の概念図である。
図12】剛性Kfの緩衝体を備えた免震建物のKw/M値を示す図である。
図13】緩衝体の復元力特性を示す図である。
図14】緩衝体を備えた場合の上部構造の応答解析結果を示す図である。
図15】クリアランスXの上部構造と擁壁との間に緩衝体が備えられている状態を示す図である。
図16図16(a)は、上部構造と緩衝体とのクリアランスXの場合の上部構造の応答解析結果を示す図であり、図16(b)は、上部構造との擁壁とのクリアランスXの擁壁に緩衝体が設けられている場合の上部構造の応答解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
===実施形態===
<<免震構造について>>
本実施形態の免震構造は、鉛直方向に並ぶ上部構造(上部建物)と下部構造(基礎)との間に免震装置(積層ゴムなど)を備えて構成されたものである。また、下部構造の外周部には上部構造の過大変位を抑制するための免震擁壁(壁体に相当)が設けられており、当該免震擁壁には上部構造と水平方向に対向する位置に軟質の合成樹脂製の緩衝体が設けられている。緩衝体と上部構造との間には水平方向に所定のクリアランスが設けられている(換言すると、免震擁壁は下部構造に属するとともに緩衝体を有しており、免震擁壁の緩衝体と上部構造とは水平方向に所定の間隔が隔てられている)。
【0027】
本実施形態では、上部構造と緩衝体を備えない免震擁壁(以下、単に擁壁ともいう)との衝突を想定し、免震構造として致命的な以下の事象を防止すべく、効果的な緩衝体を備えるために、擁壁の剛性に応じて適切な剛性を備えた緩衝体を決定する。
【0028】
事象1)衝突による衝撃力で上部構造に生じる水平力、変形が増大し、過大な損傷や倒壊・崩壊が生じる。
【0029】
事象2)衝突後の擁壁の変形により、免震装置が限界変形を超えて破断したり、軸力、支持能力を失ったりする。
【0030】
このとき、各種剛性の緩衝体を備えた免震構造毎に衝突応答解析を行い、個々の条件において各々設計可能な擁壁の剛性及び緩衝体の剛性を探るようにすると、効率が悪く合理的でない。そこで、本実施形態では、擁壁の剛性に応じた適切な剛性を備えた緩衝体を容易に決定できる免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法を提供する。
【0031】
<<衝突応答解析について>>
<衝突応答解析モデル>
図1は、緩衝体を備えた免震擁壁を下部構造とする免震構造の衝突応答解析モデルを示す図であり、図2は、緩衝体を備えない免震擁壁を下部構造とする免震構造の衝突応答解析モデルを示す図であり、図3は、免震建物の諸元を示す表であり、図4(a)は、免震擁壁に備えられた緩衝体と上部構造とのクリアランスを示す図であり、図4(b)は、緩衝体を備えない免震擁壁と上部構造とのクリアランスを示す図である。上部構造は各階を一質点とした多質点等価せん断型モデルとしており、図1及び図2に示すモデルの黒丸(●)は建物の一層分についての質量を示している。また図1は、剛性Kfの緩衝体が免震擁壁と直列に組み込まれている点で図2と相違している。下部構造には免震擁壁が設けられており、免震擁壁には緩衝体が設けられており、図4(a)に示すように、上部構造1と免震擁壁2に設けられた緩衝体3との間には水平方向に所定のクリアランスXが設けられている。また、各層の復元力特性は、弾塑性立体骨組モデルを用いた静的漸増荷重解析から得られるQ‐σ曲線をTri-Linearにモデル化している。
【0032】
本発明の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法では、まず、緩衝体を備えない免震擁壁を下部構造とする免震構造の衝突応答解析モデル、すなわち図2に示すモデルの衝突応答解析モデルの応答解析を行った。
【0033】
図2に示すモデルの衝突応答解析モデルは、下部構造と上部構造との間には免震層が設けられている。この免震層には、免震装置として、天然ゴム系積層ゴム支承体(NRB)、弾性すべり支承、及び、オイルダンパーが設けられている。
【0034】
また、下部構造には免震擁壁が設けられており、図4(b)に示すように、上部構造1と免震擁壁2との間には水平方向に所定のクリアランスXが設けられている。なお、擁壁の外側は地盤であり、免震擁壁の剛性には、この地盤の剛性(以下、背面土剛性ともいう)も含まれる。
【0035】
図2中には上部構造の履歴特性および内部粘性減衰、免震装置の復元力特性(内部粘性減衰はゼロとする)を示している。また、免震擁壁は弾性とし減衰はゼロとする。免震層クリアランス(上部構造と免震擁壁と間の水平距離)は、入力地震動レベル2応答時の免震層変形に設定している。
【0036】
このようなモデルを用いて、図3に示す2つの免震建物(実施例1及び実施例2)の衝突応答解析を行った。
【0037】
<衝突応答解析>
擁壁との衝突を想定し、上部構造の応答増幅および免震層の応答変形を評価する場合、免震擁壁剛性(背面土剛性含む)と、上部建物(上部構造)質量と、衝突速度との関係は重要な影響因子と考えられる。そこで、Kw/M(免震擁壁剛性/建物質量)をパラメーターとして免震建物の衝突応答解析を行い、上部構造の応答増幅および免震層の応答変形を評価した。ここで、応答増幅とは、基準法で定められている入力地震動による変形(応答値)に対し、それより大きい地震が発生したときにどれだけ変形するかを示す値である。本実施例では入力地震動の大きさをレベル2告示スペクトル(解放工学的基盤、乱数位相)適合波の1.0〜1.5倍(加速度倍率)とし、衝突による上部構造の応答増幅率を、レベル2地震動による応答値を基準(1.0)として評価した。
【0038】
<解析結果>
以下、図面を参照しつつ、解析結果について説明する。なお、以下の図において、縦軸の値が大きくなる側を上側とし、反対側を下側とする。また、横軸の値が大きくなる側を右側とし、反対側を左側とする。また、免震擁壁剛性Kwは擁壁剛性(片持ち壁剛性)+背面土剛性として算出している。
【0039】
図5は、入力地震動レベル毎の最大応答層間変形角の増幅率を示す図であり、図6は、入力地震動レベル毎の1階最大応答層せん断力の増幅率を示す図である。ここで、最大応答層間変形角とは、各階の層間変形角のうちの最大値のことである、図の横軸はKw/M(免震擁壁剛性/建物質量)であり、縦軸は増幅率(応答増幅)である。
【0040】
図5図6より、最大応答層間変形角、1階最大応答層せん断力とも、Kw/Mが同じである場合、入力地震動レベル(地震動倍率)が大きいほど、増幅率(応答増幅)が大きくなっている。また、Kw/Mがある程度の値までは、Kw/Mが大きくなるにつれて増幅率(応答値)は増加しているが、Kw/Mがある程度の値以上になるとほぼ増幅率は変わらない。なお、図中太い縦線は検討建物(実施例1、実施例2)の実際のKw/Mを示している。
【0041】
図7は、入力地震動レベル毎の免震擁壁の最大応答変形を示す図である。図の横軸はKw/M(免震擁壁剛性/建物質量)であり、縦軸は衝突後の免震擁壁変形量である。なお、免震擁壁の変形量は、免震層変形量からクリアランスの値を減算することによって求められる(つまり、免震擁壁の変形量=免震層変形量−クリアランス)。図7より、Kw/Mが同じである場合、入力地震動レベル(地震動倍率)が大きいほど、擁壁変形量が大きくなっている。また、各入力地震動レベルにおいて、免震擁壁の最大応答変形はKw/Mが大きくなるにつれて減少している。
【0042】
図8は、入力地震動レベル毎の各階最大応答層間変形角を示す図である。図の横軸は層間変形角であり、縦軸は上部構造(上部建物)における階である。図より、最大応答層間変形角の高さ方向の分布はレベル2応答時と似たものとなるが、応答層せん断力が降伏層せん断力を超えるとその階に変形が集中している。例えば、実施例1では2階に集中し、実施例2では1階に集中している。
【0043】
<<擁壁剛性について>>
擁壁との衝突を想定した合理的な設計を行うためには、前述した事象1及び事象2を防止するように設計する必要がある。すなわち、上部構造が倒壊しないように応答増幅を或るクライテリア以下に抑え、かつ、免震層の応答変形が限界変形以下となるような免震擁壁剛性を設定する必要がある。以下、これらについて検討する。
【0044】
図9は、衝突速度(入力地震動レベル)と上部構造の応答増幅率との関係を示す図である。図9の横軸はKw/M(免震擁壁剛性/建物質量)である。また図9の縦軸は免震層の衝突時速度であり、入力地震動の大きさに対応している。例えば、図中のL1〜L6は、入力地震動レベルを示している。具体的には、L1はレベル2×1.05倍、L2はレベル2×1.10倍、L3はレベル2×1.20倍、L4はレベル2×1.30倍、L5はレベル2×1.40倍、及び、L6はレベル2×1.50倍の入力地震動をそれぞれ示している。
【0045】
この図9は、図5のデータからKw/Mを横軸とし、衝突の衝突速度を縦軸として、衝突による上部構造の応答増幅率をプロットし、上部構造の応答増幅率が同値となるライン(第一ラインに相当)を作成した図である。
【0046】
図9に示すように、実施例1、実施例2とも良く似た形となっている。図9の右下がりのラインは、上部構造の最大応答層間変形角のクライテリアを示すラインである。例えば、上部構造の最大応答層間変形角を2.0以下に設計したい場合、黒四角(■)を結ぶラインよりも下側(応答増幅率が小さい側)にすればよい。これにより、上部構造に過大な損傷や倒壊・崩壊が生じること(事象1)を抑制できる。
【0047】
また、図10は、衝突速度(入力地震動レベル)と免震擁壁変形量との関係を示す図である。図10の縦軸及び横軸は図9と同じである。
【0048】
この図10図7のデータからKw/Mを横軸とし、衝突の衝突速度を縦軸として、衝突による免震擁壁の変形量をプロットし、免震擁壁の変形量が同値となるライン(第二ラインに相当)を作成した図である。
【0049】
図10においても、実施例1、実施例2とも良く似た形となっている。10の右上がりのラインは免震擁壁(換言すると免震層)の変形量のクライテリアを示している。例えば、免震擁壁の最大変形を20mm以下(免震層の変形量を20mm+クリアランス以下)に設計したい場合、黒四角(■)を結ぶラインよりも下側(変形量が小さい側)にすればよい。これにより、免震装置が破断したり、軸力、支持能力を失ったりすること(事象2)を抑制できる。
【0050】
図11は、上部構造と擁壁との衝突を用いた設計の概念図である。この図11は、図9の右下がりのライン(第一ライン)と図10の右上がりのライン(第二ライン)との2本のラインを組み合わせた図である。前述したように、右下がりのラインは、上部構造の最大応答層間変形角のクライテリア(例えば、レベル2応答層間変形角×1.5)を示しており、また、右上がりのラインは、免震層の最大応答変形のクライテリア(例えば、積層ゴムの限界変形量)を示している。これにより、上部構造の最大応答層間変形角のクライテリアと、免震層の最大応答変形のクライテリアとの関係が明確になる。
【0051】
この2本のラインによるクライテリアをともに満足する領域(2つのラインのそれぞれ下側の領域)が設計可能領域であり、入力地震動レベルを設定すれば、設計可能なKw/Mの範囲を容易に推測することができる。すなわち、図11に示すように、設定した入力地震動レベルのとき(換言すると、衝突速度が所定値のとき)の右上がりのラインのKw/M値(第一Kw/Mに相当)と、右上がりのラインのKw/M値(第二Kw/Mに相当)との間の領域が設計可能領域となる。上部構造の質量Mは既知であるので、上記2つのKw/Mを算出することにより擁壁剛性Kwの範囲は容易に算出できる。
【0052】
<緩衝体の剛性について>
次に、対象となる免震建物、すなわち、上部構造の質量M1、擁壁剛性Kw1の免震建物が、想定される入力地震動レベルの地震動下において、上部構造に過大な損傷や倒壊・崩壊が生じること(事象1)を抑制し、免震装置が破断したり、軸力、支持能力を失ったりすること(事象2)を抑制するために、介在すべき緩衝体の剛性を求める。
【0053】
緩衝体は、軟質の合成樹脂でなり、図4(a)に示すように、免震擁壁2の、上部構造体1と水平方向に対向する位置に設けられており、緩衝体3と上部構造1との間には水平方向に所定のクリアランスXが設けられている。このときの所定のクリアランスXは、上述し図4(b)に示した、緩衝体が設けられていない免震建物の上部構造1と免震擁壁2とのクリアランスXと等しく設定している。
【0054】
前述した対象となる免震建物における上部構造の質量M、緩衝体を備えた擁壁剛性KからKw/M値を算出する。想定される入力地震動レベルにおける対象となる免震建物のKw/M値(K/Mとする)を図11にプロットした図が、例えば、図12(図中×印)のように示されたとする。
【0055】
図12は、剛性Kfの緩衝体を備えた免震建物のKw/M値を示す図である。
【0056】
図12に示すように、プロットした値は、右下がりのライン(第一ライン)より上側に位置するので、設計可能領域から外れている。そこで、免震擁壁剛性を小さくすることと等価な効果が得るために、上部構造と免震擁壁との間に緩衝体を介在させることとし、設計可能領域となるような緩衝体の剛性を設定する。
【0057】
より具体的には、想定される入力地震動レベルLにおける設計可能領域は、Kw1/M(第一Kw/M)からKw2/M(第二Kw/M)の範囲なので、K/Mが、Kw1/M(第一Kw/M)からKw2/M(第二Kw/M)の範囲となるようなK及び緩衝体の剛性Kfを、緩衝体剛性Kfと擁壁剛性Kwの直列接続時の剛性を示す(式1)により求める。
【0058】
この算出結果に基づいて、本実施形態における免震建物に備える緩衝体の適切な剛性を決定することが可能である。
【0059】
<設定した緩衝体の特性の確認>
次に、上記の方法により設定された緩衝体が免震建物に備えられた際に、所望の剛性Kfとしての効果が得られるか、すなわち、適切な緩衝体であるか否かを確認する。
【0060】
緩衝体の特性の確認は、過大地震時に擁壁と衝突する上部構造に緩衝体を設置した場合の上部構造の応答低減効果を、時刻歴応答解析を行うことにより確認する。具体的には、クリアランス(衝突位置)、及び緩衝体の復元力特性をパラメーターとし、様々な地震動レベルでの緩衝体による上部構造の応答低減効果を図1に示した応答解析モデルにより確認する。本実施形態では、緩衝体と弾性の擁壁ばねを直列にモデル化することで、衝突による影響を模擬するモデルとする。本解析においては、擁壁ばねは、緩衝体の効果をより顕著に把握するために十分に剛とみなせる剛性(例えば、Kw=100000kN/mm)とする。
【0061】
入力地震波は、レベル2告示スペクトル適合波(神戸EW位相、表層地盤の特性を考慮)の加速度を1.5倍〜2.18倍まで0.02倍刻みで増加させ、倍率が1.54倍で免震層の変形が500mmに達し、衝突回数が1回となるように設定している。すなわち、上部構造と、免震擁壁に設けられた緩衝体との所定のクリアランスを500mmに設定している。
【0062】
図13は、緩衝体の復元力特性を示す図である。解析ケースは、擁壁ばねのみとするCaseAと、図13に示す復元力を有する緩衝体を設置するCaseBとの2つのケースとする。また、緩衝体の変形代は100mmとする。
【0063】
図14は、緩衝体を備えた場合の上部構造の応答解析結果を示す図である。横軸を地震波倍率、縦軸を最大応答値(1階層間変形角)とする。CaseA、Bともに地震波倍率1.54倍で擁壁・緩衝体に上部構造が衝突する。また、CaseBでは、地震波倍率1.9倍前後で緩衝体の変形代が0となり応答値は急激に増加することが確認された。
【0064】
このため、剛性Kfの緩衝体を上記モデルの如く使用した場合には、衝突開始震動レベルを示す地震動倍率1.54倍(図14におけるαのライン)から最大変形震動レベルを示す地震波倍率1.9倍(図14におけるβのライン)の間に、想定される地震動レベルが含まれている場合には、剛性Kfの緩衝体が剛性Kfとして効果を発揮することが確認でき、想定される地震動レベルが含まれていない場合には、剛性Kfの緩衝体が剛性Kfとして効果を発揮しないことが確認できる。よって、想定される地震動レベルが地震動倍率1.54倍から地震波倍率1.9倍の間に含まれている場合に、本実施形態の免震建物に備える緩衝体の剛性をKfと決定する。
【0065】
本実施形態の免震構造に用いる緩衝体の剛性決定方法によれば、緩衝体の適切な剛性Kfを簡便に、効率的且つ合理的に想定でき、設計効率の向上を図ることが可能である。
【0066】
また、上部構造に過大な損傷や倒壊・崩壊が生じないように設計することが可能であり、免震装置が破断したり、軸力、支持能力を失ったりしないように設計することも可能である。
【0067】
また、図11に示す、Kw/Mを横軸とし、衝突の衝突速度を縦軸とした衝突応答解析の結果に示された、上部構造の応答増幅率が同値となるライン及び免震擁壁の変形量が同値となるラインにより、上部構造の応答値のクライテリアと、壁体の変形量のクライテリアとの関係が明確になる。そして、これら2本のラインによるクライテリアをともに満足する領域(設計可能領域)を推測することができ、設計可能な壁体剛性Kwの範囲を容易に想定することができる。
【0068】
そして、緩衝体のより適切な剛性Kfを簡便に、効率的且つ合理的に想定でき、設計効率の向上を図ることが可能である。
【0069】
さらに、想定する衝突速度又は入力地震動の大きさに、より適した剛性Kfの緩衝体を簡便に、効率的且つ合理的に想定でき、設計効率の向上を図ることが可能である。
【0070】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0071】
前述の実施形態では、基礎(下部構造)と上部建物(上部構造)との間に免震層を設けており、下部構造の外周部に上部構造の過大変位を抑制するための免震擁壁を設けていたが、これには限らない。例えば、構造物を上下に分割した場合における上層部分と下層部分の間に免震層を設置してもよい。この場合、免震層よりも下側の構造体に壁(壁体)を設けてもよいし、免震層よりも上側の構造体に壁(壁体)を設けてもよい。なお、この場合、壁体の剛性には背面土剛性は含まれない。
【0072】
また、前述の実施形態では、2本のライン(上部構造の最大応答層間変形角のクライテリアを示すライン、及び、免震層の最大応答変形のクライテリアを示すライン)から免震擁壁の剛性Kwの範囲を想定していたがこれには限らない。例えば、免震擁壁の剛性Kwの最大値又は最小値が予め定まっているような場合、何れか一本のラインから免震擁壁の剛性Kwの範囲を想定してもよい。
【0073】
また、前述の実施形態では、上部構造の応答値として応答増幅率を評価していたがこれには限られない。例えば、応答値そのものを評価してもよい。
【0074】
また、図9図11では、縦軸を衝突速度にしていたが、縦軸を入力地震動レベルにしてもよい。
【0075】
図15は、クリアランスXの上部構造と擁壁との間に緩衝体が備えられている状態を示す図である。
【0076】
上記実施形態においては、上部構造と擁壁に備えられた緩衝体とのクリアランスXと、衝突応答解析モデルにて想定した上部構造と擁壁とのクリアランスXとを等しくした例(以下、TypeAという)について説明したが、既存の免震建物に緩衝体を設ける場合等には、図15に示すように、上部構造と擁壁とが水平方向にクリアランスXをもった免震建物の上部構造と擁壁との間に緩衝体を設ける例(以下、TypeBという)も考えられる。
【0077】
図16(a)は、上部構造と緩衝体とのクリアランスXの場合の上部構造の応答解析結果を示す図であり、図16(b)は、クリアランスXの上部構造と擁壁との間に緩衝体が備えられている場合の上部構造の応答解析結果を示す図である。
【0078】
図16(a)のαのラインは、緩衝体が設けられていない場合において上部構造が擁壁と衝突するときの地震動レベルまたはTypeAにおいて上部構造が緩衝体と衝突し始めるときの地震動レベルを示している。図16(a)のβのラインは、TypeAにおいて緩衝体の変形代がなくなり擁壁に直接衝突したときと同じ応答値となるときの震動レベルを示している。
【0079】
また、図16(b)のαのラインは、緩衝体が設けられていない場合において上部構造が擁壁と衝突するときの地震動レベルを示している。図16(b)のβのラインは、TypeAにおいて緩衝体の変形代がなくなり擁壁に直接衝突したときと同じ応答値となるときの震動レベルを示している。図16(b)のγのラインは、TypeBにおいて上部構造が緩衝体と衝突し始めるときの地震動レベルを示している。
【0080】
クリアランスXの上部構造と擁壁との間に緩衝体が備えられているTypeBの場合には、上部構造と緩衝体とがクリアランスXをもったTypeAの場合よりも早く、すなわち水平変位が小さいうちに、緩衝体と上部構造とが衝突する。衝突が早まることにより、図16(b)に示すTypeBの場合には、図16(a)に示すTypeAの場合には存在しなかった、応答値が増大する領域(γのラインとαのラインとの間の領域)が存在する。このため、TypeBの場合には、応答値が増大する領域(γのラインとαのラインとの間の領域)を避けて、想定される地震動レベルが、応答値が減少される領域(αのラインとβのラインとの間の領域)に含まれるように、免震建物に備える緩衝体の剛性を決定する。
図1
図2
図3
図4
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図16