(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記最大ビードワイヤ列におけるビードワイヤの配列本数は、前記最外ビードワイヤ列におけるビードワイヤの配列本数の1.2倍以上である、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
前記最内側ビードコアに巻き付けられるカーカス層に対して前記タイヤ幅方向の内側に、有機繊維をゴムで被覆した有機繊維補強層が、前記最内側ビードコアの前記最外ビードワイヤ列に対して前記タイヤ径方向の外側の領域に設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
重荷重用バイアスタイヤでは、その積載量の増大化及び車両の大型化及び高トルク化に伴い、これに耐えるためにビード部が複数個のビードコアで補強されたいわゆるマルチビード型バイアスタイヤが用いられている。特に、近年低偏平化したマルチビード型バイアスタイヤが望まれている。このようなマルチビード型の重荷重用バイアスタイヤは、例えば工事現場、鉱山などの採掘現場、あるいは砕石場等で用いるホイールローダ(ショベルローダあるいはタイヤドーザ)に装着される。ホイールローダは、土砂や砕石をショベルに積み、低速で搬送する車両であり、高荷重の状態で、発進、ストップを繰り返すため、そのときに発生する大きな回転トルクを受ける回数は非常に多い。このため、ビードコアとカーカス層との間で剥離が生じ、この剥離がタイヤ径方向及びタイヤ周方向に拡大して進行する剥離故障や、カーカスコードがビードコア周りで破断するビードバーストが発生するといったビード耐久性の点で問題がある。特に、低偏平化したタイヤでは、ビードバーストの発生が生じ易い。
【0003】
カーカス層の剥離故障及びビードバーストは、マルチビード型のバイアスタイヤにおいて、タイヤ幅方向の最も内側にある(タイヤ赤道線に最も近い)最内側ビードコアとこのビードコアに最も近いカーカス層で発生し易い。
【0004】
従来、このカーカス層の剥離及びビードバーストの抑制のために、1つのビードコアに巻き付けるカーカス層の数の増加、ビードコア数の増加、あるいはカーカス層の強度増加等の対策が採られてきた。
【0005】
例えば、以下の構成の空気入りタイヤが知られている(特許文献1)。すなわち、マルチビード型の重荷重用バイアスタイヤにおいて、ビードヒール部の最外層カーカス層もしくはビード補強コード層のビードヒール部に、少なくとも最外側ビードコア下端から上端部に向けて、先端先細りの断面略三角形のビードヒール補助ゴム層が配置される。このビードヒール補助ゴム層の硬度は70〜80(JIS硬度)であり、複数のビードコアの中、少なくとも最外側のビードコアの幅中心線のタイヤ赤道面に対する傾斜角は20〜35度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記構成のマルチビード型の重荷重用バイアスタイヤによれば、ビードコアの周りでのカーカス層の剥離を防止することができるとされている。しかし、上記重荷重用バイアスタイヤでは、ビードヒール補助ゴム層を新たに設け、最外側のビードコアの幅中心線のタイヤ赤道面に対する傾斜角は20〜35度とするので、構成に制限が多い。
【0008】
そこで、本発明は、ビードコア周りのカーカス層の剥離を防止し、さらにはビードバーストを抑制することができる、従来とは異なる構成の空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態は、空気入りタイヤである。
当該空気入りタイヤは、
前記空気入りタイヤの両側のビード部のそれぞれにタイヤ幅方向に一列に設けられた複数のビードコアと、
前記ビードコアのそれぞれの周りに巻きつけられて折り返された複数のカーカス層と、
前記空気入りタイヤのトレッド部に、前記カーカス層に対して、前記空気入りタイヤのタイヤ径方向の外側に設けられた複数のベルトと、
前記トレッド部に、前記ベルトの前記タイヤ径方向の外側に設けられたトレッドゴムと、を備える。
前記ビードコアのそれぞれは、前記ビード部のビードベース面に沿った方向に複数のビードワイヤが配列されたビードワイヤ列がタイヤ周上を1周した周回層がタイヤ径方向に複数段積み重なった構成の積層ビードコアである。
前記空気入りタイヤのタイヤ回転軸を含む平面で前記空気入りタイヤを切断したタイヤ断面において、前記ビードコアのうち前記タイヤ幅方向の最も内側に位置する最内側ビードコアに関して、前記ビード部の前記ビードワイヤ列のうち前記タイヤ径方向の最も外側に位置する最外ビードワイヤ列よりタイヤ径方向内側の内側ビードワイヤ列の1つは、ビードワイヤの配列本数が前記最外ビードワイヤ列よりも多く、前記複数のビードワイヤ列の中でビードワイヤの配列本数が最大となる最大ビードワイヤ列である。
前記カーカス層のうち前記最内側ビードコアに最も近くに位置するカーカス層の、前記タイヤ幅方向の内側から前記最内側ビードコアに巻き付けるために前記最内側ビードコアに接近する部分の、前記最内側ビードコアの幅中心線に対する傾斜角度は、10度以上である。
【0010】
前記最大ビードワイヤ列は、前記ビードワイヤ列の総段数の0.3倍以上の段数、前記
最外ビードワイヤ列から離れた段に位置する、ことが好ましい。
【0011】
前記最大ビードワイヤ列におけるビードワイヤの配列本数は、前記最外ビードワイヤ列におけるビードワイヤの配列本数の1.2倍以上である、ことが好ましい。
【0012】
前記最内側ビードコアに巻き付けられるカーカス層に対して前記タイヤ幅方向の内側に、有機繊維をゴムで被覆した有機繊維補強層が、前記最内側ビードコアの前記最外ビードワイヤ列に対して前記タイヤ径方向の外側の領域に設けられている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上述の空気入りタイヤによれば、ビードコア周りのカーカス層の剥離を防止し、さらにはビードバーストを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態の空気入りタイヤについて説明する。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以降、タイヤという)1の断面の一例を示す図である。タイヤ1は、マルチビード型の重荷重用バイアスタイヤであり、JATMA(日本自動車タイヤ協会規格) YEAR BOOK 2014のD章に記載される1種(ダンプトラック、スクレーパ)用タイヤ、2種(グレーダ)用タイヤ、3種(ショベルローダ等)用タイヤ、4種(タイヤローラ)用タイヤ、モビールクレーン(トラッククレーン、ホイールクレーン)用タイヤ、あるいはTRA 2013 YEAR BOOKのSECTION 4 あるいは、SECTION 6に記載される車両用タイヤに適用することができる。
【0016】
本明細書では、各方向及び側を以下のように定義する。
タイヤ幅方向は、空気入りタイヤの回転軸と平行な方向である。タイヤ幅方向外側は、タイヤ幅方向において、比較する位置に対して、タイヤ赤道面を表すタイヤ赤道線CLから離れる側である。また、タイヤ幅方向内側は、比較する位置に対して、タイヤ幅方向において、タイヤ赤道線CLに近づく側である。タイヤ周方向は、空気入りタイヤの回転軸を回転の中心として空気入りタイヤが回転する方向である。タイヤ径方向は、空気入りタイヤの回転軸に直交する方向である。タイヤ径方向外側は、比較する位置に対して、タイヤ径方向に沿って前記回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ径方向内側は、比較する位置に対して、タイヤ径方向に沿って前記回転軸に近づく側をいう。
【0017】
(タイヤ構造)
タイヤ1は、バイアスタイヤであり、骨格材として、カーカス3と、ベルト4と、複数対のビードコア5とを有し、これらの骨格材の周りに、トレッドゴム6、サイドゴム7、インナーライナ9等の各ゴム層を有する。ベルト4は、バイアスタイヤではブレーカともいう。
図1では、カーカス3は、複数のカーカス層を有するため、複数のカーカス層が積層構造で配置された領域で示されている。
ベルト4は、タイヤ1のトレッドゴム6が設けられるトレッド部に、カーカス3を構成する複数のカーカス層に対してタイヤ1のタイヤ径方向の外側であって、トレッドゴム6に対してタイヤ径方向の内側に、複数設けられている。ベルト4は、2層のベルト材が積層した交錯層を有する。本実施形態では、ベルト4は、2層の交差ベルトで構成されるが、3層以上の交差ベルトで構成されてもよい。
トレッドゴム6は、トレッド部に、ベルト4のタイヤ径方向の外側に設けられている。
【0018】
複数のビードコア5は、両側のビード部のそれぞれにタイヤ幅方向に一列に同じ数設けられている。
図2は、本実施形態のタイヤのビード部周りの構造の一例を説明する図である。本実施形態では、3つのビードコア5a,5b,5cが設けられている。
図1,2,4,5では、ビードコア5a,5b,5cの輪郭形状を六角形形状あるいは四角形形状で表しているが、このような形状があるわけではなく、外側に位置するビードワイヤが六角形形状あるいは四角形形状に配列されていることを表している。
カーカス3は、複数のカーカス層を備え、複数のカーカス層がビードコア5a,5b,5cのそれぞれの周りに、タイヤ幅方向内側から外側に折り返されるように、巻きつけられている。これにより、同じカーカス層が巻きつけられるビードコア5の対が複数形成される。
図2では、各ビードコア5の周りに巻き回される複数のカーカス層の領域を3a,3b,3cで表している。領域3aはビードコア5aの周りを巻きまわすカーカス層の束を含み、領域3bはビードコア5bの周りを巻きまわすカーカス層の束を含み、領域3cはビードコア5cの周りを巻きまわすカーカス層の束を含む。領域3a,3b,3cのそれぞれは、複数のカーカス層、例えば14枚のカーカス層を含む。各カーカス層におけるカーカスコードは、タイヤ径方向あるいはタイヤ幅方向に対して傾斜して延在している。カーカスコードのうち、互いに隣リ合うカーカス層のカーカスコードの傾斜角度は、タイヤ径方向あるいはタイヤ幅方向に対して互いに異なる側に傾斜して積層されているため、交錯層となっている。すなわち、タイヤ1は、バイアスタイヤの構造を備えている。
ビードコア5a,5b,5cそれぞれのタイヤ径方向外側にはビードフィラー8a,8b,8cが配置され、このビードフィラー8a,8b,8cがカーカス3の本体部分と折り返し部分により包み込まれている。ビードコア5a,5b,5c及びビードフィラー8a,8b,8cによりビード8は形成されている。
トレッドゴム6におけるカーカス3のタイヤ径方向外側には、複数のベルトで構成されたベルト4が設けられている。
【0019】
図3は、本実施形態のビードコア5a,5b,5cに用いる積層ビードコア50の構成の一例を説明する図である。積層ビードコア50は、ビードベース面10(
図2参照)に沿った方向に複数のビードワイヤ51が配列されたビードワイヤ列52a〜52gそれぞれがタイヤ周上を1周した周回層がタイヤ径方向に複数段積み重なった構成の積層ビードコアである。このような構成の積層ビードコアは、一本のビードワイヤを密に配置してタイヤ周上に巻き回して所定のビードコア断面形状(例えば六角形形状)にした1本巻きビードコアと構成が異なる。1本巻きビードコアではビードワイヤを密に配置して巻きまわすので、積層ビードコアは、1本巻きビードコアに比べてビードワイヤの充填率が低く、その結果、1本巻きビードコアに比べて外力を受けて変形し易い。ビードコア5a,5b,5cに巻きまわされるカーカス3は、バイアス構造であるので、タイヤ1の制駆動時大きく変形し変位する。このため、カーカス3の変形や変位に対応してビードコア5a,5b,5cも変形することができるように、ビードコア5a,5b,5cには、変形を許容する積層ビードコア50が用いられる。
図3に示す積層ビードコア50の積層段数は7段であるが、7段に限定されない。また、各段のビードワイヤ列におけるビードワイヤの配列本数も限定されない。
図3中の真ん中の段(最上段から数えて4段目)のビードワイヤ列52dにおけるビードワイヤの配列本数がそれ以外のビードワイヤ列に比べて多い最大ビードワイヤ列となっているが、真ん中の段のビードワイヤ列は最大ビードワイヤ列であることに限定されない。
【0020】
ベルト4は、2層の交差ベルト4a,4bを含む。
交差ベルト4a,4bは、タイヤ径方向に積層するように設けられている。交差ベルト4a,4bを構成するコード(有機繊維コードあるいはスチールコード)は、タイヤ周方向に対してタイヤ幅方向の一方の側に傾斜している。タイヤ径方向に隣接する交差ベルト間では、コードの傾斜方向が異なっており、具体的には、タイヤ周方向から、タイヤ幅方向の異なる側に傾斜している。このため、交差ベルト4a,4bは、内圧充填により拡張しようとするタイヤに対してタガ効果を発揮する。交差ベルト4a,4bのスチールコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、例えば20°〜40°の範囲に設定されている。
交差ベルト4a,4bのタイヤ径方向外側に保護ベルトが設けられてもよい。
【0021】
タイヤ1は、上記タイヤ構造を有するが、これに限定されず、複数のカーカス層がバイアス構造であり、複数の積層ビードコアがタイヤ幅方向に一列に設けられたビード構造を備え、以下説明するビード構造を有する限りにおいて、タイヤ構造は特に制限されない。
【0022】
(ビード部周りの詳細な説明)
図4は、本実施形態のタイヤ1における最内側ビードコアの構成の一例を詳細に説明した図である。最内側ビードコアは、タイヤ幅方向の最も内側に位置するビードコア5aである。以降、この最内側ビードコアには符号5aを振って説明する。
図4に示すように、タイヤ1のタイヤ回転軸を含む平面でタイヤ1を切断したタイヤ断面において、積層ビードコアである最内側ビードコア5aに関して、複数段のビードワイヤ列のうちタイヤ径方向の最も外側に位置する最外ビードワイヤ列14よりタイヤ径方向内側の内側ビードワイヤ列の1つは、ビードワイヤの配列本数が最外ビードワイヤ列14よりも多く、複数のビードワイヤ列の中でビードワイヤの配列本数が最大となる最大ビードワイヤ列16である。
したがって、最大ビードワイヤ列16は、最外ビードワイヤ列14よりタイヤ径方向内側に位置するように設けられている。
図4に示すビードコア5aの輪郭形状は、六角形形状であるが、これに限定されない。最大ビードワイヤ列16が最外ビードワイヤ列14よりタイヤ径方向内側の内側ビードワイヤ列の1つである限りにおいて、輪郭形状は限定されず、円形状、楕円形状、三角形形状、五角形形状等であってもよい。
【0023】
さらに、最内側ビードコア5aに、カーカス3のうち最も近くに位置するカーカス層17の、タイヤ幅方向の内側から最内側ビードコア5aに巻き付けられるために最内側ビードコア5aに接近する部分18の、最内側ビードコア5aの幅中心線Xに対する傾斜角度θ(
図4参照)は、10度以上である。傾斜角度θは15度以上であることがより好ましい。また、傾斜角度θは30度以下であることが好ましい。ここで、最内側ビードコア5aの幅中心線Xとは、各段のビードワイヤ列の配列において列の真ん中にビードワイヤが位置する場合(ビードワイヤの配列本数が奇数の場合)、真ん中のビードワイヤの位置、ビードワイヤ列において列の真ん中にビードワイヤがない場合(ビードワイヤの配列本数が偶数の場合)、真ん中に最も近い2つのビードワイヤの位置の中間位置を、段毎に繋いでできる線であって、線が曲線あるいは屈曲線の場合、曲線あるいは屈曲線を誤差が最小になるように直線で近似した近似直線である。
【0024】
このように、本実施形態では、上記傾斜角度θを10度以上とし、最大ビードワイヤ列16を最外ビードワイヤ列14よりタイヤ径方向内側に設けることで、最内側ビードコア5aの周りで、カーカス層17の剥離を防止し、さらにはビードバーストを抑制することができる。
【0025】
図5(a)は、本実施形態のタイヤ1に用いるカーカス層のカーカスコード19の、制駆動時(発進あるいは停止時)の挙動を説明する図であり、
図5(b)は、従来のタイヤに用いるカーカスコードの、制駆動時(発進あるいは停止時)の挙動を説明する図である。
カーカスコード19は、バイアス構造のため、
図5(a)に示すように、タイヤ径方向に対して傾斜した向きに延びている。このため、タイヤ1の制駆動時(発進あるいは停止時)、カーカスコード19は、最内側ビードコア5aのタイヤ径方向の最も内側に位置する位置Yを中心にしてタイヤ周方向に移動する変形を受ける。このため、巻き回される前のカーカスコード19の、最内側ビードコア5aに近接する部分は、最内側ビードコア5aに対して擦れるように変位し易い。この変位により、カーカスコード19を含むカーカス層17は剥離をし易くなる。しかし、本実施形態では、位置Yに比較的近い、最大ビードワイヤ列16の位置Z1でカーカスコード19を含むカーカス層17は近接するので、この部分における最内側ビードコア5aに対するカーカス層17の変位量は小さくなる。
【0026】
これに対して
図5(b)に示すように、従来のタイヤのビードコアでは、位置Yから、位置Z1よりも遠い位置Z2で、カーカスコードを含むカーカス層は近接するので、この部分におけるビードコアに対するカーカス層の変位量は
図5(a)に示す場合に比べて大きくなる。
【0027】
このように、本実施形態では、最大ビードワイヤ列16が最外ビードワイヤ列14よりタイヤ径方向内側に設けられることで、カーカスコード19の最内側ビードコア5aに対するカーカス層17の相対的な変位量を小さくすることができ、せん断歪みを小さくすることができるので、最内側ビードコア5aの周りでのカーカス層17の剥離を防止し、さらにはビードバーストを抑制することができる。傾斜角度θを10度以上とすることで、カーカス層17が、タイヤ周方向に変位するとき、最内側ビードコア5aと近接する位置Z1で最内側ビードコア5aに強く押し付けられて擦られることが抑制されるので、カーカス層17の剥離の防止効果、さらにはビードバーストの抑制の効果がより向上する。
【0028】
本実施形態の最内側ビードコア5aにおいて、最大ビードワイヤ列16が最外ビードワイヤ列14よりタイヤ径方向内側に設けるのは、最内側ビードコア5aに最も近くに位置するカーカス層が最内側ビードコア5aと擦れることによりカーカス層と最内側ビードコア5aの間で剥離が生じ易く、ビードバーストの発生に繋がり易いためである。このため、傾斜角度θも、最内側ビードコア5aに最も近くに位置するカーカス層の幅中心線Xに対する傾斜である。
【0029】
本実施形態のタイヤ1では、最大ビードワイヤ列16は、ビードワイヤ列の総段数の0.3倍以上の段数、最外ビードワイヤ列14から離れた段に位置することが好ましい。例えば、ビードワイヤ列の総段数が16段の場合、最外ビードワイヤ列14から5段以上離れた位置に、最大ビードワイヤ列16が設けられることが好ましい。このようにすることで、カーカス層17の剥離の防止効果がよりいっそう向上する。最大ビードワイヤ列16は、ビードワイヤ列の総段数の0.4倍以上の段数、さらには、総段数の0.5以上の段数、最外ビードワイヤ列14から離れた段に位置することがより好ましい。
【0030】
また、本実施形態のタイヤ1では、タイヤ断面において、最大ビードワイヤ列16におけるビードワイヤの配列本数は、最外ビードワイヤ列14におけるビードワイヤの配列本数の1.2倍以上であることが好ましい。より好ましくは、1.4倍以上である。また、最大ビードワイヤ列16におけるビードワイヤの配列本数の上限は、装着するリムによって制約されるビード幅の上限以下である限りにおいて制限されず、例えば最外ビードワイヤ列14におけるビードワイヤの配列本数の1.8倍以下であることが好ましい。このようにすることで、カーカス層17の剥離の防止効果がよりいっそう向上する。
【0031】
さらに、本実施形態のタイヤ1には、有機繊維をゴムで被覆した有機繊維補強層であるナイロンチェーファ20,22(
図2参照)が設けられていることが好ましい。この場合、ナイロンチェーファ20,22は、最内側ビードコア5aに巻き付けられるカーカス層17に対してタイヤ幅方向の内側に、最内側ビードコア5aの最外ビードワイヤ列14に対してタイヤ径方向の外側の領域に設けられる。ナイロンチェーファ20,22は、タイヤ1をリムに組み付けた場合、リムフランジの高さよりも高くタイヤ径方向外側に延びていることが好ましい。これにより、最内側ビードコア5aの周りのカーカス層17の変形を抑制することができるので、最内側ビードコア5aの周りのカーカス層17の剥離を防止し、ビードバーストを抑制することができる。本実施形態では、2つのナイロンチェーファ20,22が設けられているが、ナイロンチェーファの枚数は、ビードベース幅に対してビード幅が大きくならない範囲であれば制限されない。例えば、ナイロンチェーファの数は4以下であることが好ましい。
【0032】
なお、本実施形態のビードコア5b,5cに関しては、他のビードワイヤ列に比べてビードワイヤの配列本数が大きい最大ビードワイヤ列を設けてもよいが、設けなくてもよい。従来のように、ビードワイヤ列におけるビードワイヤの配列本数が全ての段で同じであってもよい。ビードコア5b,5cでは、カーカス層の剥離及びビードバーストが起こり難い。
【0033】
(実験例)
本実施形態のタイヤの効果を調べるために、種々のタイヤを作製してタイヤのビード耐久性を評価した。作製したタイヤのタイヤサイズは、29.5−25 22PRである。作製したタイヤをTRAに準拠したリムに装着し、この車輪をホイールローダの前輪に装着した。空気圧は高圧条件の425kPaとし、タイヤを砕石現場で使用したときに、カーカス層の剥離に起因したビード故障が発生するまでの時間を調べた。カーカス層の剥離に起因したビード故障は、目視で確認できる。砕石現場における前輪荷重は、チッピング時、規格で定まっている正規荷重の160%荷重であり、走行時、100%荷重であった。
タイヤのビード耐久性は、ビード故障が発生するまでの時間に基づいて、以下の4つに分けた4段階で評価した。
【0034】
ビード故障発生までの走行時間
・レベルA:4000時間超
・レベルB:2500時間超4000時間以下
・レベルC:1000時間超2500時間以下
・レベルD:1000時間以下
【0035】
作製したタイヤは、
図1、2に示す構造のタイヤを基準として、最内側ビードコアの構造及びナイロンチェーファの配置の有無を種々変更した。
従来例では、内側ビードコアの輪郭形状を四角形形状としたため、最大ビードワイヤ列は存在しない。一方、比較例、実施例1〜8では、内側ビードコア5aの輪郭形状を六角形形状とし、実施例9〜12では、内側ビードコア5aの輪郭形状を三角形形状とし、最大ビードワイヤ列を設けた。輪郭形状の六角形形状及び三角形形状の辺の部分は略直線になるように、ビードワイヤの配列本数を徐々に変化させた。比較例、実施例1〜12におけるビードコア5b,5cの輪郭形状を四角形形状とした。
実施例12では、
図2に示すように、ナイロンチェーファ20,22を設けた。
従来例、比較例、実施例1〜12における内側ビードコアのビードワイヤ列の段数は16段とし、最大ビードワイヤ列におけるビードワイヤの配列本数は16とした。
下記表1〜3は、タイヤの仕様内容とそれに伴う評価結果を示す。
【0039】
従来例、比較例、及び実施例1の比較より、最内側ビードコア5aにおいて、カーカス層17の傾斜角度θを10以上とし、最外ビードワイヤ列14よりもタイヤ径方向内側に位置する最大ビードワイヤ列16を設けることにより、ビード耐久レベルが向上する。
また、実施例1〜3の比較より、最内側ビードコア5aにおけるカーカス層17の傾斜角度θを10度以上とし、10度〜30度の範囲内で傾斜角度θを大きくする程ビード耐久性レベルが向上することがわかる。
また、実施例4〜9の比較より、最大ビードワイヤ列16は、ビードワイヤ列の総段数の0.3倍以上の段数、最外ビードワイヤ列14から離れた段に位置することが、ビード耐久性レベルの向上の点から好ましいことがわかる。
さらに、実施例9〜11の比較より、最大ビードワイヤ列16におけるビードワイヤの配列数は、最外ビードワイヤ列14におけるビードワイヤの配列本数の1.2倍以上であることが、ビード耐久性レベルの向上の点から好ましいことがわかる。
さらに、実施例11,12の比較では、ビード耐久性レベルに変更はないが、ビード故障発生までの走行時間は、実施例12の方が長かった。これより、ナイロンチェーファを設けることが、ビード耐久性の向上の点から好ましいことがわかる。
【0040】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明の空気入りタイヤは上記実施形態あるいは実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。