(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の一態様に係る光ファイバ心線は、光ファイバ心線は、ガラスファイバと、ガラスファイバを覆う被覆樹脂層とを備え、被覆樹脂層が、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層とを有し、プライマリ樹脂層が、オリゴマー、モノマー及び光重合開始剤を含有する樹脂組成物の硬化物を含み、オリゴマーが、ポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物と、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物との反応生成物であり、ポリオール化合物が有する水酸基のうち1級水酸基の割合が3.5%以下であり、セカンダリ樹脂層の−40℃でのヤング率が1780MPa以上である。
【0010】
ここで、ポリオール化合物は、2以上の水酸基を有する化合物であり、当該水酸基には、1級水酸基と2級水酸基がある。本発明者らは、プライマリ樹脂層を形成するために用いられるオリゴマーを構成するポリオール化合物として、1級水酸基の割合が低いポリオール化合物を用い、かつ、セカンダリ樹脂層の低温におけるヤング率を大きくすることで、低温での伝送損失の増加を小さくでき、低温特性に優れることを見出して本発明に至っている。
【0011】
上記ポリオール化合物が有する末端水酸基のうち1級水酸基の割合は、2.5%以下であってもよく、上記セカンダリ樹脂層の−40℃でのヤング率は、1970MPa以上であってもよい。これにより、低温での伝送損失の増加がより小さくなり、低温特性を更に向上することができる。
【0012】
光ケーブルの多芯化の観点から、光ファイバ心線の外径は、210μm以下であってもよい。光ファイバ心線の外径は、約250μmが一般的であり、光ファイバ心線が細くなるほど、伝送損失が悪くなり易い。これに対して、上記実施形態に係るセカンダリ樹脂層を備えることで、細い(被覆樹脂層が薄い)光ファイバ心線の低温での伝送損失の増加を低減することができる。
【0013】
ヤング率の観点から、ポリオール化合物は、平均分子量5000以下の脂肪族ポリエーテルポリオールであってもよい。
【0014】
セカンダリ樹脂層は、顔料又は染料を含んでもよい。この場合、セカンダリ樹脂層が着色層となり、光ファイバ心線の識別が容易となる。
【0015】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る光ファイバ心線の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
(光ファイバ心線)
図1は、本発明の一形態に係る光ファイバ心線の一例を示す概略断面図である。光ファイバ心線1は、光伝送体であるガラスファイバ10及び被覆樹脂層20を備えている。
【0017】
ガラスファイバ10は、コア12及びクラッド14を有しており、ガラス製の部材、例えばSiO
2ガラスからなる。ガラスファイバ10は、光ファイバ心線1に導入された光を伝送する。コア12は、例えばガラスファイバ10の中心軸線を含む領域に設けられている。コア12は、純SiO
2ガラス、又は、それにGeO
2、フッ素元素等を含んでいてもよい。クラッド14は、コア12を囲む領域に設けられている。クラッド14は、コア12の屈折率より低い屈折率を有する。クラッド14は、純SiO
2ガラスからなってもよいし、フッ素元素が添加されたSiO
2ガラスからなってもよい。
【0018】
ガラスファイバ10の外径は、通常、125μm程度である。光ファイバ心線1の外径は、260μm以下であることが好ましく、210μm以下であってもよい。また、光ファイバ心線1の外径の下限値は、190μm程度である。
【0019】
被覆樹脂層20は、ガラスファイバと接する第1の層であるプライマリ樹脂層22と、該第1の層と接する第2の層であるセカンダリ樹脂層24とを有している。被覆樹脂層20の総厚は、32.5〜67.5μmであることが好ましく、32.5〜42.5μmであってもよい。
【0020】
光ファイバ心線の低温特性は、−40℃でプライマリ樹脂層は柔らかく、セカンダリ樹脂層は硬い程に優れる傾向にある。ここで、被覆樹脂層は、一般にウレタンオリゴマーを含む樹脂組成物から形成され、ウレタンオリゴマーはポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の反応生成物であることが知られている。ポリオール化合物は、水酸基を有している。1級水酸基は2級水酸基に比べ立体障害が小さいため、水酸基中の2級水酸基の割合が多いと、ウレタンオリゴマーは嵩高くなり低温で凝集し難くなるため、低温での被覆樹脂層のヤング率が下がることが予想される。また、プライマリ樹脂層形成用の樹脂組成物は、セカンダリ樹脂層形成用の樹脂組成物に比べオリゴマーの含有量が多いため、セカンダリ樹脂層よりプライマリ樹脂層の方が、2級水酸基に由来する立体障害の影響を受け易くなる。
【0021】
プライマリ樹脂層22のヤング率は、−40℃で1〜40MPaであることが好ましく、1〜20MPa以下であることがより好ましい。
【0022】
セカンダリ樹脂層24のヤング率は、プライマリ樹脂層22のヤング率よりも大きい。低温特性を向上する観点から、セカンダリ樹脂層24のヤング率は、−40℃で1780MPa以上であり、1900MPa以上であることが好ましく、1970MPa以上であることがより好ましい。セカンダリ樹脂層24の−40℃でのヤング率の上限値は、特に限定されないが、2500MPa以下である。
【0023】
プライマリ樹脂層22は、特定のオリゴマー、モノマー及び光重合開始剤を含有する紫外線硬化性の樹脂組成物を硬化させて形成することができる。
【0024】
上記オリゴマーは、ポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物と、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物とを反応させて得られる(メタ)アクリロイル基含有ウレタンオリゴマーである。オリゴマーは、2種以上を混合して用いてもよい。オリゴマーは、プライマリ樹脂層形成用の樹脂組成物中に、40〜80質量%含有されることが好ましい。
【0025】
低温特性を向上する観点から、ポリオール化合物が有する水酸基のうち1級水酸基の割合は3.5%以下であり、3.0%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましい。ポリオール化合物が有する1級水酸基の割合の下限値は、特に限定されないが、1.5%以上である。ポリオール化合物が有する1級水酸基の割合は、オリゴマーのNMR測定により算出することができる。
【0026】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリエーテルポリオールが挙げられる。ヤング率の観点から、ポリオール化合物としては、平均分子量が5000以下の脂肪族ポリエーテルポリオールが好ましく、平均分子量が1000〜4500のポリプロピレングリコールがより好ましい。ポリオール化合物の分子量は、例えば、質量分析により測定することができる。
【0027】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアナート等が挙げられる。
【0028】
水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。(メタ)アクリル酸についても同様である。
【0030】
モノマーは、オリゴマーの分子鎖に取り込まれ、反応性希釈剤として機能する。モノマーとしては、重合性基を1つ有する単官能モノマー、重合性基を2つ以上有する多官能モノマーを用いることができる。モノマーは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
単官能モノマーとしては、例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、(メタ)アクリロイルモルホリン等の環状構造を有するN−ビニルモノマー;イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。中でも、環状構造を有するN−ビニルモノマーが、硬化速度を向上する点で好ましい。
【0032】
多官能モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジイルジメチレンジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ビスフェノール化合物のエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加体ジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール化合物のグリシジルエーテルにジ(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
光ファイバ心線の使用温度が低温となった場合に被覆樹脂層の物性(伸び等)が急に変化しないようにすることから、プライマリ樹脂層のガラス転移温度(Tg)は、使用温度の下限よりも低くすることが好ましい。−40℃での伝送損失が増加し難くなることから、モノマーとしては、当該モノマーの単独重合により形成されるホモポリマーのTgが5℃以下であるモノマーが好ましく、0℃以下であるモノマーがより好ましい。上述したモノマーの中でも、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ラウリルアクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート及びイソデシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0034】
光重合開始剤としては、公知のラジカル光重合開始剤の中から適宜選択して使用することができ、例えば、アシルホスフィンオキサイド系開始剤及びアセトフェノン系開始剤が挙げられる。光重合開始剤は、2種以上を混合して用いてもよい。光重合開始剤は、樹脂層形成用の樹脂組成物中に、0.1〜5質量%含有されることが好ましい。
【0035】
アシルホスフィンオキサイド系開始剤としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(BASF社製、商品名「ルシリンTPO」)、2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、2,4,4−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィノキサイド等が挙げられる。
【0036】
アセトフェノン系開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキサン−1−イルフェニルケトン(BASF社製、商品名「イルガキュア184」)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(BASF社製、商品名「ダロキュア1173」)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(BASF社製、商品名「イルガキュア651」)、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン(BASF社製、商品名「イルガキュア907」)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1(BASF社製、商品名「イルガキュア369」)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0037】
プライマリ樹脂層の硬化性を向上する観点から、光開始剤として、リンを含むアシルホスフィンオキサイド系開始剤を用いることが好ましい。
【0038】
セカンダリ樹脂層24は、例えば、オリゴマー、モノマー及び光重合開始剤を含有する紫外線硬化性の樹脂組成物(ただし、プライマリ樹脂層22を形成する樹脂組成物とは異なる。)を硬化させて形成することができる。セカンダリ樹脂層24に添加される光重合開始剤としては、上述したプライマリ樹脂層22において例示されたものの中から、適宜、選択して用いることができる。オリゴマーは、セカンダリ樹脂層形成用の樹脂組成物中に、20〜60質量%含有されることが好ましい。
【0039】
なお、被覆樹脂層20を構成するセカンダリ樹脂層24の外周面には、光ファイバ心線を識別するためにインク層となる着色層を形成してもよい。また、セカンダリ樹脂層24を着色層としてもよい。
【0040】
着色層は、光ファイバ心線の識別性を向上する観点から、顔料又は染料を含有することが好ましい。顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華等の着色顔料、γ−Fe
2O
3、γ−Fe
2O
3とγ−Fe
3O
4の混晶、CrO
2、コバルトフェライト、コバルト被着酸化鉄、バリウムフェライト、Fe−Co、Fe−Co−Ni等の磁性粉、MIO、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、トリポリリン酸アルミニウム、亜鉛、アルミナ、ガラス、マイカ等の無機顔料が挙げられる。また、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料を用いることもできる。顔料には、各種表面改質、複合顔料化等の処理が施されていてもよい。
【実施例】
【0041】
次に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
[プライマリ樹脂層形成用の樹脂組成物の調製]
ポリプロピレングリコールに、ジイソシアネート及びヒドロキシアクリレートを反応させることにより得られるウレタンアクリレートと、エトキシ化ノニルフェニルアクリレートと、N−ビニルカプロラクタムと、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(BASF社製、商品名「ルシリンTPO」)とを、プライマリ樹脂層のヤング率が−40℃で12MPaとなるように混合して、プライマリ樹脂層形成用の樹脂組成物を調製した。また、ポリプロピレングリコールとして、表1又は表2に示す1級水酸基の割合となるポリプロピレングリコールをそれぞれ用いた。
【0043】
[セカンダリ樹脂層形成用の樹脂組成物の調製]
ポリプロピレングリコールに、ジイソシアネート及びヒドロキシアクリレートを反応させることにより得られるウレタンアクリレートと、ビスフェノール系エポキシアクリレートと、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートと、ルシリンTPO、イルガキュア184とを、表1又は2に示すセカンダリ樹脂層のヤング率となるように混合して、セカンダリ樹脂層形成用の樹脂組成物をそれぞれ調製した。
【0044】
[光ファイバ心線の作製]
実施例1〜5、7及び9、並びに、比較例1〜5では、コア及びクラッドから構成される外径125μmのガラスファイバの外周に、厚さ35μmのプライマリ樹脂層を形成し、更にその外周に厚さ25μmのセカンダリ樹脂層を形成して、外径245μmの光ファイバ心線を作製した。
【0045】
実施例6、8及び10では、コア及びクラッドから構成される外径125μmのガラスファイバの外周に、厚さ17.5μmのプライマリ樹脂層を形成し、更にその外周に厚さ20μmのセカンダリ樹脂層を形成して、外径200μmの光ファイバ心線を作製した。
【0046】
実施例11では、コア及びクラッドから構成される外径125μmのガラスファイバの外周に、厚さ17.5μmのプライマリ樹脂層を形成し、更にその外周に厚さ20μmの着色セカンダリ樹脂層を形成して、外径200μmの光ファイバ心線を作製した。なお、実施例11では、セカンダリ樹脂層形成用の樹脂組成物に、有機顔料を5質量部混合したものを使用した。
【0047】
[光ファイバ心線の評価]
作製した光ファイバ心線について、低温特性の評価試験を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0048】
(セカンダリ樹脂層のヤング率)
セカンダリ樹脂層のヤング率は、光ファイバ心線を溶剤(エタノール:アセトン=3:7)に浸漬して被覆樹脂層をガラスファイバからパイプ抜きしたサンプル(50mm以上)を用いて、−40℃で引張試験(標線25mm)を行い、2.5%割線値から求めた。
【0049】
(低温特性)
ガラスボビンに張力50gで一層巻に光ファイバ心線を巻き付け、23℃及び−40℃のそれぞれの温度条件下で、波長1550nmの信号光の伝送特性を測定し、23℃と−40℃とでの伝送損失を求めた。−40℃での伝送損失から23℃での伝送損失を引いた伝送損失差が0dB未満をA、0dB以上0.01dB/km未満のものをB、0.01dB/km以上のものをCと評価した。そして、B以上を許容値とした。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
実施例で作製した光ファイバ心線は、低温での伝送損失の増加が小さく、低温特性に優れることが確認できた。