(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記エマルション供給装置によってエマルションを供給している間に、前記圧延材と前記作業ロールとの間の摩擦係数を算出し、算出した前記摩擦係数が所定のしきい値を超えた場合に、前記静電塗布装置による圧延油原液の静電塗布を開始させ、前記エマルション供給装置によるエマルションの供給を停止させる、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧延油供給設備。
前記制御装置は、前記エマルション供給装置によってエマルションを供給している間に、ロールバイト直下の油膜厚を算出し、算出した前記油膜厚が所定のしきい値を下回った場合に、前記静電塗布装置による圧延油原液の静電塗布を開始させ、前記エマルション供給装置によるエマルションの供給を停止させる、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧延油供給設備。
前記制御装置は、前記エマルション供給装置によってエマルションを供給している間に、前記圧延機の出側において測定された前記圧延材の温度、又は前記制御装置によって算出されたロールバイト直下の前記圧延材の温度が所定のしきい値を超えた場合に、前記静電塗布装置による圧延油原液の静電塗布を開始させ、前記エマルション供給装置によるエマルションの供給を停止させる、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧延油供給設備。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
(1.圧延油供給設備の構成)
図1を参照して、本発明の好適な一実施形態に係る圧延油供給設備の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る圧延油供給設備の一構成例を示す図である。
【0025】
図1では、冷間圧延用の圧延機110に対して本実施形態に係る圧延油供給設備1が適用された場合における構成例を示している。圧延機110は、上下一対の作業ロール111、112と、作業ロール111、112の上下にそれぞれ設置され作業ロール111、112を支持するバックアップロール113、114と、を有する。このように、圧延機110は、4本のロールを備える、いわゆる4重圧延機の構成を有する。圧延機110における作業ロール111、112間の間隔(ロールギャップ)は、圧延条件に応じて適宜調整されており、圧延材である鋼板10は、圧延機110を通過することにより薄く延ばされ、所望の板厚になるように加工され得る。
【0026】
なお、
図1では、簡単のため、圧延機110の構成のうち、本実施形態に係る圧延油供給設備1について説明するために必要な構成のみを主に図示している。実際には、圧延機110は、図示する構成以外にも、一般的な冷間圧延用の圧延機が備える各種の構成を有し得る。図示を省略している構成については、一般的に知られている各種の構成を適用可能であるため、その説明を省略する。また、圧下位置やロール速度等、圧延時における圧延機110の制御についても、各種の公知の方法が用いられてよいため、その説明を省略する。
【0027】
また、
図1では、説明のため、タンデム冷間圧延ラインにおける1つの圧延機110のみを図示している。実際には、複数の圧延機110が直列に連続的に設置されてタンデム冷間圧延ラインが構成されており、圧延機110の各々に対して、本実施形態に係る圧延油供給設備1が設けられ得る。
【0028】
本実施形態に係る圧延油供給設備1は、圧延機110の入側において鋼板10及び圧延機110の作業ロール111、112にエマルションを供給するエマルション供給装置120と、エマルション供給装置120よりも圧延方向における上流側に設置され、鋼板10に圧延油原液を静電塗布する静電塗布装置130と、圧延機110における圧延荷重を測定する圧延荷重計140と、圧延機110の出側に設置され、鋼板10の速度を測定する板速度計150と、鋼板10に掛かる張力を測定するテンションロール161に取り付けられ、当該テンションロール161を介して鋼板10を接地するアース装置162と、静電塗布装置130よりも圧延方向における上流側に設置され、鋼板10を冷却する鋼板冷却装置170と、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御する制御装置180と、を備える。
【0029】
(圧延荷重計及び板速度計)
圧延荷重計140及び板速度計150としては、各種の公知のものを用いることができる。圧延荷重計140及び板速度計150は、測定した圧延荷重及び板速度を、所定の間隔で逐次制御装置180に送信する。
【0030】
(アース装置)
アース装置162は、鋼板10を接地する機能を有する。一般的に、冷間タンデム圧延では、スタンド間の張力を制御しながら圧延を行うため、テンションロール161のような、スタンド間の張力を測定するための装置が設けられ得る。アース装置162は、当該テンションロール161を介して鋼板10を接地する。ただし、かかる構成はあくまで一例であり、アース装置162は、鋼板10を接地できればよく、その具体的な接地の方法は限定されない。アース装置162は、鋼板10と接触して設けられる他の部材を介して鋼板10を接地してもよい。
【0031】
(鋼板冷却装置)
鋼板冷却装置170は、制御装置180からの制御により、鋼板10に対して冷却水を噴射することにより、鋼板10を冷却する。ただし、鋼板冷却装置170は、鋼板10を冷却する機能を有すればよく、その具体的な装置構成は限定されない。鋼板冷却装置170としては、各種の公知のものが用いられてよい。
【0032】
(エマルション供給装置)
エマルション供給装置120は、エマルションを貯留するエマルションタンク122と、圧延機110の入側に設置され、鋼板10及び圧延機110の作業ロール111、112にエマルションタンク122内のエマルションを供給するエマルションノズル121と、を主に備える。エマルションタンク122内に貯留されるエマルションは、例えば濃度が1〜2(%)程度の、一般的に冷間圧延において潤滑に用いられるエマルションである。本実施形態では、制御装置180からの制御により、エマルションの供給有無が適宜切り替えられる。この際、供給されるエマルションの濃度及び供給量は、冷間圧延において一般的に用いられている所定の条件であってよい。なお、
図1では、制御装置180によってエマルションの供給が制御されることを示すために、便宜的に、制御装置180と、エマルションタンク122とエマルションノズル121との間の流路に設けられるバルブ123とを線でつないで示している。
【0033】
なお、エマルション供給装置120としては、一般的に用いられている各種のものを適用することができる。例えば、エマルション供給装置120としては、上記特許文献1に記載のものが適用されてよい。例えば、
図1では図示を省略しているが、エマルション供給装置120には、上記特許文献1に記載されているように、供給したエマルションを回収し再利用する循環機構が設けられてもよい。
【0034】
(静電塗布装置)
静電塗布装置130は、帯電させた圧延油の原液を鋼板10に供給することにより、静電気力によって鋼板10に対して圧延油原液を塗布する。静電塗布装置130は、圧延油原液を貯留する圧延油原液貯留タンク132と、圧延機110の入側であってエマルションノズル121よりも上流側に設置され、鋼板10に圧延油原液貯留タンク132内の圧延油原液を供給する静電塗布ノズル131と、を主に備える。
【0035】
図2を参照して、静電塗布装置130の静電塗布ノズル131の構成について詳細に説明する。
図2は、静電塗布装置130の静電塗布ノズル131の一構成例を示す図である。
【0036】
図2に示すように、静電塗布ノズル131には、圧延油原液貯留タンク132からの圧延油原液が投入される投入口134と、圧延油原液を噴射させるための開閉自在な噴射口135と、噴射口135と反対側の端部に設けられ、静電塗布ノズル131内にエアーを導入するエアー導入口138と、が設けられる。投入口134から圧延油原液を投入しながら、エアー導入口138からエアーを導入することによって、噴射口135から圧延油原液が噴射される。
【0037】
また、静電塗布ノズル131に対しては、静電塗布ノズル131内に投入された圧延油原液に高電圧を印加する低電流DC高圧電源136が設けられる。また、噴射口135の近傍には強い電界を発生させるための一対の誘電棒(インダクトバー)137が設けられる。
【0038】
静電塗布装置130においては、投入口134から投入された圧延油原液が低電流DC高圧電源136によって静電塗布ノズル131内部で帯電する。帯電した圧延油原液は静電荷により帯電粒子を形成し、各々の粒子が同電極の電荷を持つために互いに反発し、更に、エアー導入口138からエアーが導入される結果、噴射口135から圧延油原液の粒子が飛び出す。飛び出した圧延油原液の粒子は、誘電棒137による強い電界の影響によって帯電した更に小さい微粒子に分解され、これら微粒子が持っている電荷により互いに反発することで霧状となる。噴射口135は鋼板10の表面方向に向けて開口しているため、霧状となった圧延油原液の微粒子が鋼板10の表面に向けて噴射される。
【0039】
上述したようにアース装置162によって鋼板10はアースされているため、帯電している噴射された圧延油原液の微粒子は、当該鋼板10に吸着し電荷を失う。このようにして、静電塗布装置130によって圧延油原液が鋼板10の表面に吸着されることとなる。
【0040】
制御装置180は、以上説明した静電塗布装置130の駆動を制御し、圧延油原液の鋼板10への静電塗布を制御する。具体的には、制御装置180は、投入口134に対する圧延油原液の供給量を制御するとともに、その供給量に合わせて低電流DC高圧電源136による印加電圧や、誘電棒137による電界の強さを制御することにより、圧延油原液の鋼板10への吸着量、すなわち塗布量を適宜調整する。なお、
図1では、制御装置180が静電塗布装置130による圧延油原液の静電塗布を制御することを示すために、便宜的に、制御装置180と、圧延油原液貯留タンク132と静電塗布装置130の静電塗布ノズル131と、の間の流路に設けられるバルブ133とを線でつないで示している。
【0041】
なお、静電塗布装置130としては、一般的に用いられている各種のものを適用することができる。例えば、静電塗布装置130としては、上記特許文献1に記載のものが適用されてよい。
【0042】
(制御装置)
制御装置180は、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御することにより、圧延中に動的に、鋼板10と作業ロール111、112との間の潤滑状態を変更する。本実施形態では、当該潤滑状態を示す指標として、鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数を用いる。制御装置180は、当該摩擦係数に基づいて、各装置の動作を制御する。
【0043】
具体的には、制御装置180は、圧延開始時には、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170は動作させず、エマルション供給装置120によるエマルションの供給のみを行わせる。この際、上述したように、供給するエマルションの濃度及び供給量は、冷間圧延において一般的に用いられる所定の条件に従ったものであってよい。なお、上記のように、このとき、制御装置180は、鋼板冷却装置170を動作させないが、エマルションを供給している間は、当該エマルションが鋼板10及び作業ロール111、112を冷却する役割を果たし得るので、鋼板冷却装置170を動作させなくても、鋼板10及び作業ロール111、112が過度に加熱される恐れは低い。
【0044】
この状態で、制御装置180は、圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値を用いて、圧延理論モデルにより、鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数を算出する。この摩擦係数の算出方法は公知であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0045】
そして、制御装置180は、算出した摩擦係数が所定のしきい値以下かどうかどうかを判定する。ここで、当該しきい値は、圧延条件等に応じて、焼付き等の潤滑不足に起因する不良を発生させないような摩擦係数の望ましい範囲の上限値として、例えば実験及びシミュレーションの結果、並びに過去の操業実績データ等に基づいて適宜決定される。
【0046】
図3は、摩擦係数のしきい値について説明するための図である。
図3では、摩擦係数のしきい値を決定するために行った実験の結果を示している。当該実験では、鋼板に対する圧延の最中に潤滑条件を様々に変更し、その圧延中における摩擦係数を随時算出するとともに、当該鋼板における焼付きの発生を調査した。
図3では、横軸に圧延中における時間を取り、縦軸に算出された摩擦係数を取り、圧延中における摩擦係数の時間変化を示している。
【0047】
図3に示すように、当該実験では、摩擦係数がある値μ
1を超えた場合に焼付きが発生することが確認できた。従って、当該実験に係る圧延条件においては、不良を発生させないような摩擦係数のしきい値(上限値)は、μ
1になる。本実施形態では、圧延条件を様々に変更しながら同様の実験を行い、圧延条件ごとに摩擦係数のしきい値を事前に決定しておき、記憶装置(
図1では図示せず)に記憶しておく。制御装置180は、当該記憶装置を参照することにより、現在制御の対象としている圧延の圧延条件に合致する摩擦係数のしきい値を設定し、かかるしきい値を用いて、上記の判定処理を行うことができる。
【0048】
上記の判定処理の結果、算出した摩擦係数がしきい値以下であった場合には、現在の潤滑状態が、不良を発生させないような良好な状態であることを示している。従って、この場合には、制御装置180は、特段の制御を行わない。
【0049】
一方、算出した摩擦係数がしきい値を超えていた場合には、現在の潤滑状態が、不良が発生し得る、潤滑が不足した状態であることを示している。そのため、この場合には、制御装置180は、潤滑状態をより良好にするために、当該摩擦係数が当該しきい値以下になるように、静電塗布装置130を動作させ、圧延油原液の静電塗布を開始させる。
【0050】
ここで、上述したように、エマルション供給装置120によって供給するエマルションの濃度及び供給量を調整することによって潤滑状態を変更しようとしても、高応答、かつ高感度に当該潤滑状態の変更を行うことは困難である。そこで、上記のように、本実施形態では、圧延油原液の供給経路を、エマルションの供給経路とは別系統の供給経路として用意しておき、当該圧延油原液の供給を制御することによって、潤滑状態を変更する。圧延油原液を用いることにより、より高感度に、より高応答に潤滑状態を変更することが可能となる。更に、このとき、当該圧延油原液を、静電塗布装置130を用いて鋼板10に対して静電塗布する。静電塗布装置130を用いることにより、圧延油原液の鋼板10への付着性をより向上させることができるため、潤滑状態を更に高感度、高応答に変更することが可能になる。
【0051】
更に、制御装置180は、静電塗布装置130による圧延油原液の静電塗布を開始させた後、エマルション供給装置120によるエマルションの供給を停止させる。静電塗布装置130によって圧延油原液の静電塗布を行っている際に、エマルションを併せて供給すると、供給したエマルションによって鋼板10表面の圧延油原液が洗い流されてしまい、圧延油原液による潤滑効果を効果的に得られない事態が生じ得る。そこで、本実施形態では、上記のように、圧延油原液の静電塗布を行っている間、エマルションの供給を停止する。これにより、圧延油原液を塗布することによる潤滑効果をより好適に得ることができ、摩擦係数をより効率的に低減することが可能になる。このように、本実施形態によれば、セミダイレクト潤滑の効果をより好適に発揮することが可能になる。
【0052】
ただし、圧延油原液の静電塗布を開始すると同時にエマルションの供給を停止すると、圧延油原液を塗布している位置からエマルションの供給位置までの間の鋼板10には、圧延油が供給されないこととなってしまう。そこで、本実施形態では、制御装置180は、鋼板10の表面に圧延油が供給されていない領域が存在し得ないように、圧延油原液の静電塗布を開始してから所定の時間(具体的には、少なくとも、鋼板10上の圧延油原液が塗布された部位が、ロールバイトまで移動するだけの時間)が経過した後にエマルションの供給を停止するように、エマルション供給装置120及び静電塗布装置130を動作させる。つまり、換言すれば、制御装置180は、圧延油原液が静電塗布された鋼板10に対する圧延が行われている間、エマルションの供給を停止させる。なお、上記所定の時間は、圧延速度等に応じて適宜算出し、設定すればよい。
【0053】
更に、制御装置180は、エマルションの供給を停止させた後、鋼板冷却装置170を動作させ、鋼板10の冷却を開始させる。上述したように、エマルションには、圧延油を供給する役割とともに、鋼板10及び作業ロール111、112を冷却する役割もある。従って、圧延油原液の静電塗布を行っている間、エマルションの供給を停止すると、鋼板10及び作業ロール111、112が加熱されてしまい、焼付きの発生を助長する恐れがある。そこで、本実施形態では、上記のように、エマルションの供給を停止させた後、鋼板冷却装置170によって鋼板10を冷却する。これにより、エマルションの供給を停止した場合であっても、鋼板10及び作業ロール111、112を適切に冷却することが可能になる。なお、制御装置180が鋼板冷却装置170を動作させるタイミングは、エマルションの供給を停止させるのと略同時であってもよいし、鋼板10及び作業ロール111、112の温度上昇の影響が出ない範囲でエマルションの供給を停止させてから任意の時間が経過した後であってもよい。
【0054】
制御装置180は、圧延開始後、エマルションを供給している間、圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値が送信されるごとに、上記の摩擦係数の算出処理、及び当該摩擦係数がしきい値以下であるかどうかの判定処理を逐次実行する。そして、制御装置180は、その判定結果に応じて、上述した、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作の制御を適宜実行する。
【0055】
ここで、制御装置180が静電塗布装置130を動作させる際の圧延油原液の塗布量については、例えば以下の方法によって設定することができる。例えば、実験やシミュレーション等によって、静電塗布による圧延油原液の鋼板10への塗布量と、鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数と、の相関を事前に取得して、テーブル等の形式で上記記憶装置に記憶しておく。そして、制御装置180は、当該記憶装置を参照し、圧延油原液の鋼板10への塗布量と摩擦係数との相関を用いることにより、所望の量だけ摩擦係数が変更され得るように、静電塗布装置130を適宜動作させればよい。
【0056】
ただし、この際、後述する
図4にも示されるように、圧延油原液の鋼板10への塗布量は一定であっても、エマルションの供給の有無に応じて、摩擦係数の値は変化する。従って、静電塗布装置130を動作させる際には、エマルションの供給を停止することに伴う摩擦係数の変化も考慮して、静電塗布装置130による圧延油原液の塗布量を決定する必要がある。具体的には、例えば、エマルションの供給を停止することに伴う、鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数の変化率についてのデータを事前に取得しておき、静電塗布装置130の動作条件を決定する際に、上述した圧延油原液の鋼板10への塗布量と摩擦係数との相関だけでなく、当該データも用いて、エマルションの供給を停止することに伴う摩擦係数の変化も考慮して、所望の量だけ摩擦係数が変更され得るような静電塗布装置130による圧延油原液の塗布量を決定すればよい。
【0057】
また、制御装置180が鋼板冷却装置170を動作させる際の鋼板10の冷却量についても、同様に、実験やシミュレーション等によって、鋼板冷却装置170による鋼板10の冷却量(例えば、具体的には、噴射する冷却水の流量等)と、鋼板10の温度低下量と、の相関を事前に取得して、テーブル等の形式で上記記憶装置に記憶しておけばよい。制御装置180は、当該記憶装置を参照し、鋼板冷却装置170による鋼板10の冷却量と鋼板10の温度低下量との相関を用いることにより、鋼板10の温度が、焼付き等の不良を発生させない所望の範囲に収まるように、鋼板冷却装置170を適宜動作させればよい。
【0058】
ただし、鋼板10の温度が変化すると、鋼板10と作業ロール111、112との間の潤滑状態、すなわち摩擦係数も変化し得る。鋼板10の温度が変化すれば、鋼板10表面の圧延油の温度も変化し、当該圧延油の粘度が変化するからである。従って、静電塗布装置130を動作させる際には、かかる鋼板10の温度変化に伴う摩擦係数の変化も更に考慮して、静電塗布装置130による圧延油原液の塗布量を決定する必要がある。具体的には、例えば、鋼板冷却装置170による鋼板10の冷却量と、鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数と、の相関を事前に取得しておき、静電塗布装置130の動作条件を決定する際に、上述した圧延油原液の鋼板10への塗布量と摩擦係数との相関だけでなく、当該鋼板冷却装置170による鋼板10の冷却量と摩擦係数との相関も用いて、鋼板冷却装置170による鋼板10の温度低下による摩擦係数の変化も考慮して、所望の量だけ摩擦係数が変更され得るような静電塗布装置130による圧延油原液の塗布量を決定すればよい。
【0059】
ここで、本発明者らは、圧延油供給設備1を適用することによる効果を確認するために、以下の実験を行った。本発明者らは、以上説明した圧延機110に対して圧延油供給設備1が設けられた構成を模した試験機を作成し、鋼板(コイル)について圧延を行いながら、圧延油供給設備1における圧延油供給方法を模擬するため、以下のA〜Dの順に圧延油供給設備を動作させた。そして、この圧延中に、鋼板と作業ロールとの間の摩擦係数を圧延荷重の測定値及び板速度の測定値から逐次算出し、圧延中における当該摩擦係数の推移を調べた。
【0060】
A:エマルションのみを供給
B:Aの状態で圧延油原液を静電塗布
C:Bの状態でエマルションの供給を停止
D:Cの状態で鋼板冷却装置によって鋼板を冷却
【0061】
結果を
図4に示す。
図4は、本実施形態に係る圧延油供給設備1を模した試験機を用いた実験における、圧延中における鋼板と作業ロールとの間の摩擦係数の推移を示すグラフ図である。
図4では、横軸に圧延中における時間を取り、縦軸に算出された摩擦係数を取り、圧延中における摩擦係数の時間変化を示している。
【0062】
図4を参照すると、圧延開始後しばらくの間は、エマルションのみが供給されている状態(すなわち、上記Aの状態)であり、エマルションにより略一定の摩擦係数が得られている。この状態で、圧延油原液の静電塗布を開始すると(すなわち、上記Bの状態に移行すると)、圧延油原液が追加的に供給されることにより、摩擦係数が低下することが確認できる。
【0063】
この状態で、エマルションの供給を停止すると(すなわち、上記Cの状態に移行すると)、摩擦係数は更に低下することが確認できる。これは、エマルションによって圧延油の原液が洗い流される現象が回避されるからであると考えられる。当該結果から、圧延油供給設備1において行っているように、セミダイレクト潤滑の効果を十分に発揮するためには、圧延油原液の静電塗布を行っている間は、エマルションの供給を停止することが重要であることが確認できる。
【0064】
この状態で、鋼板冷却装置による鋼板の冷却を開始すると(すなわち、上記Dの状態に移行すると)、摩擦係数は更に低下することが確認できる。これは、鋼板が冷却されることにより、鋼板表面上の圧延油の温度も低下し、その粘度が増加することに起因するものであると考えられる。
【0065】
以上説明した実験の結果から、本実施形態に係る圧延油供給設備1を適用し、上記A〜Dの状態を適宜切り替えることにより、確かに摩擦係数、すなわち潤滑状態が変更され得ることが確認できた。特に、上記Cの状態、及び上記Dの状態において潤滑状態が他の状態に比べて変化することは、本発明者らが今回新たに得た知見である。
【0066】
ここで、例えば特許文献1に記載の圧延油供給設備は、エマルションの供給系統と、静電塗布による圧延油原液の供給系統と、を別個に備えるものである。しかしながら、特許文献1に記載の圧延油供給設備の動作においては、上記Cや上記Dの状態については言及されていなかった。従って、特許文献1に記載されているような従来のセミダイレクト潤滑に係る圧延油供給設備では、圧延油原液を静電塗布することによる潤滑状態の変更の効果、すなわちセミダイレクト潤滑における潤滑状態の変更の効果を、十分に享受できていなかった。従って、不良を生じさせないような所望の範囲に潤滑状態を適切に変更することが困難となる可能性があった。
【0067】
一方、本実施形態に係る圧延油供給設備1によれば、上記A〜Dの状態を適切に切り替えることにより、
図4にも示されているように、圧延油原液を静電塗布することによる潤滑状態の変更の効果をより好適に得ることが可能になる。つまり、圧延油原液の静電塗布により、潤滑状態をより効率的に変更することが可能になる。従って、不良を生じさせないような所望の範囲に潤滑状態をより適切に変更することが可能になる。
【0068】
以上、
図1を参照して、本実施形態に係る圧延油供給設備1の構成について説明した。以上説明したように、本実施形態によれば、圧延中における潤滑状態の変更を、より効率的に行うことが可能になる。従って、焼付き等の表面欠陥や、チャタリング等の圧延不安定現象を回避することができ、冷間圧延における歩留まり改善及び生産性向上を実現することが可能になる。
【0069】
ここで、以上の説明では、圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値に基づいて鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数を算出していたが、本実施形態はかかる例に限定されない。当該摩擦係数は、圧延中における鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数を求められる方法であれば、各種の公知の方法によって算出されてよい。
【0070】
また、圧延機1110の具体的な装置構成は図示する例に限定されない。本実施形態に係る圧延油供給設備1は、一般的な各種の冷間圧延用の圧延機に対して適用可能なものである。従って、圧延機110は、一般的な冷間圧延用の圧延機と同様に構成されればよく、その具体的な構成は任意であってよい。例えば、圧延機110は、4重圧延機に限定されず、例えば6重圧延機等、他の構成であってもよい。また、圧延機110は、冷間タンデム圧延ラインを構成する圧延機でなくてもよく、例えばリバース圧延用の圧延機等、他の冷間圧延用の圧延機であってもよい。
【0071】
また、以上では、圧延機110が圧延する圧延材が鋼板10である場合について説明したが、本実施形態はかかる例に限定されない。本実施形態に係る圧延油供給設備1は、各種の金属材料の圧延に対して適用されてよい。
【0072】
また、以上の説明では、鋼板10を冷却するための冷却機構として、圧延油供給設備1は鋼板冷却装置170を備えていたが、本実施形態はかかる例に限定されない。圧延油供給設備1が備える冷却機構は、他の装置であってもよい。圧延油供給設備1が鋼板10及び/又は作業ロール111、112を冷却する冷却機構を備え、制御装置180が当該冷却機構の動作を適宜制御すれば、上述したエマルションの供給を停止した際の鋼板10及び作業ロール111、112の冷却効果を得ることができるため、かかる冷却機構の具体的な装置構成は任意であってよい。例えば、圧延油供給設備1は、冷却機構として、鋼板冷却装置170に加えて、又は鋼板冷却装置170に代えて、圧延機110の出側に設置され、作業ロール111、112に対して冷却水を噴射することにより当該作業ロール111、112を冷却するロール冷却装置を備えてもよい。
【0073】
また、本実施形態では、エマルションの供給が停止された際における、冷却機構における鋼板10及び作業ロール111、112の冷却は、必ずしも必須ではない。例えば、加工発熱や摩擦発熱が小さい圧延条件で圧延が行われる場合等、エマルションを供給しなくても鋼板10及び作業ロール111、112の温度上昇が十分に抑制され得る場合であれば、制御装置180は、冷却機構を動作させなくてもよい。この場合、圧延供給設備1は、必ずしも冷却機構を備えなくてもよい。
【0074】
(2.圧延油供給方法)
図5を参照して、以上説明した圧延油供給設備1において実行される、圧延油供給方法の処理手順について説明する。
図5は、本実施形態に係る圧延油供給方法の処理手順の一例を示すフロー図である。なお、
図5に示す各処理は、
図1に示す制御装置180によって実行される処理に対応している。各処理の詳細については
図1を参照して既に説明しているため、以下の本実施形態に係る圧延油供給方法についての説明では、各処理の詳細な内容についてはその説明を省略する。
【0075】
図5を参照すると、本実施形態に係る圧延油供給方法では、まず、圧延開始時に、エマルションの供給が開始される(ステップS101)。
【0076】
次いで、圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値を用いて、鋼板10と作業ロール111、112との間の摩擦係数が算出される(ステップS103)。
【0077】
次いで、算出した摩擦係数が所定のしきい値以下かどうかが判定される(ステップS105)。
【0078】
ステップS105で摩擦係数がしきい値以下である場合には、特段の処理は行われない。この場合には、ステップS103に戻り、次の測定タイミングで圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値が得られるまで待機する。そして、これらの測定値が得られたら、ステップS103、S105の処理が再度実行される。
【0079】
一方、ステップS105で摩擦係数が目標範囲を外れていた場合には、ステップS107に進む。ステップS107では、静電塗布装置130による圧延油原液の静電塗布が開始される。
【0080】
圧延油原液の静電塗布が開始されたら、所定の時間が経過した後、エマルションの供給が停止される(ステップS109)。
【0081】
そして、その後、鋼板冷却装置170による鋼板の冷却が開始される(ステップS111)。なお、ステップS111における鋼板冷却装置170による鋼板の冷却は、ステップS109においてエマルションの供給が停止されると略同時に開始されてもよいし、ステップS109においてエマルションの供給が停止され、所定の時間が経過した後に開始されてもよい。
【0082】
以上、本実施形態に係る圧延油供給方法の処理手順について説明した。
【0083】
(3.変形例)
以上説明した実施形態におけるいくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、潤滑状態を示す指標として摩擦係数を用いて、当該摩擦係数に基づいてエマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御していた。しかし、本実施形態はかかる例に限定されない。本実施形態では、潤滑状態を示す指標として他の物理量を用いて、当該他の物理量に基づいてエマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御してもよい。ここでは、このような、潤滑状態を示す指標として他の物理量を用いる変形例について説明する。なお、以下に説明する各変形例に係る圧延油供給設備は、上述した
図1に示す圧延油供給設備1に対して、潤滑状態を示す指標となる物理量が変更されたことに伴い、当該物理量を得るための測定器等の構成が変更されたものに対応する。かかる変更点以外の構成は圧延油供給設備1と同様であるため、以下の各変形例に係る圧延油供給設備についての説明では、上述した
図1に示す圧延油供給設備1と重複する事項についてはその詳細な説明を省略し、相違する事項について主に説明することとする。
【0084】
(3−1.潤滑状態を示す指標として油膜厚を用いる変形例)
図6を参照して、潤滑状態を示す指標としてロールバイト直下の油膜厚を用いる変形例に係る圧延油供給設備の構成について説明する。ロールバイト直下の油膜厚は、当該油膜厚が厚ければ潤滑が良好になり、当該油膜厚が薄ければ潤滑が不良になるため、潤滑状態を示す指標となり得る。
図6は、潤滑状態を示す指標としてロールバイト直下の油膜厚を用いる変形例に係る圧延油供給設備の一構成例を示す図である。
【0085】
図6では、冷間圧延用の圧延機110に対して本変形例に係る圧延油供給設備2が設けられた場合における構成例を示している。
図6を参照すると、本変形例に係る圧延油供給設備2は、圧延機110の入側において鋼板10及び圧延機110の作業ロール111、112にエマルションを供給するエマルション供給装置120と、エマルション供給装置120よりも圧延方向における上流側に設置され、鋼板10に圧延油原液を静電塗布する静電塗布装置130と、圧延機110における圧延荷重を測定する圧延荷重計140と、圧延機110の入側に設置され、鋼板10の速度を測定する板速度計150と、鋼板10に掛かる張力を測定するテンションロール161に取り付けられ、当該テンションロール161を介して鋼板10を接地するアース装置162と、静電塗布装置130よりも圧延方向における上流側に設置され、鋼板10を冷却する鋼板冷却装置170と、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御する制御装置210と、を備える。
【0086】
このように、本変形例に係る圧延油供給設備2は、上述した
図1に示す圧延油供給設備1において、板速度計150の設置位置が入側に変更されたものに対応する。また、制御装置210の機能も変更されている。
【0087】
制御装置210は、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御することにより、圧延中に動的に、鋼板10と作業ロール111、112との間の潤滑状態を変更する。本変形例では、当該潤滑状態を示す指標として、ロールバイト直下の油膜厚を用いる。制御装置210は、当該油膜厚に基づいて、各装置の動作を制御する。潤滑状態を示す指標としてロールバイト直下の油膜厚を用いること以外は、制御装置210の機能は、
図1に示す制御装置180の機能と同様である。
【0088】
具体的には、制御装置210は、まず、圧延開始時には、静電塗布装置130は駆動させず、エマルション供給装置120によるエマルションの供給のみを行わせる。
【0089】
圧延油供給設備2では、圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値が、所定のタイミングで逐次制御装置210に送信されている。制御装置210は、エマルションの供給のみが行われている状態で、これら圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値を用いて、油膜厚モデルにより、ロールバイト直下の油膜厚を算出する。この油膜厚の算出方法は公知であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0090】
そして、制御装置210は、算出した油膜厚が所定のしきい値以上かどうかどうかを判定する。ここで、当該しきい値は、
図3を参照して説明した摩擦係数の場合と同様に、圧延条件等に応じて、焼付き等の潤滑不足に起因する不良を発生させないような油膜厚の望ましい範囲の下限値として、例えば実験及びシミュレーションの結果、並びに過去の操業実績データ等に基づいて適宜決定され、圧延油供給設備2に設けられる記憶装置(
図6では図示せず)に事前に記憶されている。制御装置210は、当該記憶装置を参照することにより、現在制御の対象としている圧延の圧延条件に合致する油膜厚のしきい値を設定し、かかるしきい値を用いて、上記の判定処理を行うことができる。
【0091】
この判定処理の結果、算出した油膜厚がしきい値以上であった場合には、現在の潤滑状態が、不良を発生させないような良好な状態であることを示している。従って、この場合には、制御装置210は、特段の制御を行わない。
【0092】
一方、算出した油膜厚がしきい値を下回っていた場合には、現在の潤滑状態が、不良が発生し得る、潤滑が不足した状態であることを示している。そのため、この場合には、制御装置210は、潤滑状態をより良好にするために、当該油膜厚が当該しきい値以上になるように、静電塗布装置130を動作させ、圧延油原液の静電塗布を開始させる。本変形例では、例えば、実験やシミュレーション等によって、静電塗布による圧延油原液の鋼板10への塗布量と、ロールバイト直下の油膜厚と、の相関が事前に取得され、テーブル等の形式で上記記憶装置に記憶されている。制御装置210は、当該記憶装置を参照し、圧延油原液の鋼板10への塗布量と油膜厚との相関を用いることにより、所望の量だけ油膜厚が増加し得るように、静電塗布装置130を適宜動作させることができる。
【0093】
更に、制御装置210は、静電塗布装置130による圧延油原液の静電塗布を開始させた後、エマルション供給装置120によるエマルションの供給を停止させる。これにより、静電塗布した圧延油原液がエマルションによって洗い流される事態を回避することができ、圧延油原液を静電塗布することによる潤滑効果をより好適に得ることが可能になる。すなわち、圧延油原液の静電塗布によって、油膜厚をより効率的に増加させることが可能になる。
【0094】
そして、その後、制御装置210は、鋼板冷却装置170を動作させ、鋼板10の冷却を開始させる。これにより、エマルションの供給を停止した場合であっても、鋼板10及び作業ロール111、112を適切に冷却することが可能になる。なお、制御装置210が鋼板冷却装置170を動作させるタイミングは、エマルションの供給を停止させるのと略同時であってもよいし、鋼板10及び作業ロール111、112の温度上昇の影響が出ない範囲でエマルションの供給を停止させてから任意の時間が経過した後であってもよい。
【0095】
制御装置210は、圧延開始後、エマルションを供給している間、圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値が送信されるごとに、上記の油膜厚の算出処理、及び当該油膜厚がしきい値以上であるかどうかの判定処理を逐次実行する。そして、制御装置210は、その判定結果に応じて、上述した、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作の制御を適宜実行する。
【0096】
ここで、本発明者らは、圧延油供給設備2を適用することによる効果を確認するために、
図4を参照して説明した圧延油供給設備1に対する実験と同様の実験を、圧延油供給設備2についても行った。具体的には、本発明者らは、以上説明した圧延機110に対して圧延油供給設備2が設けられた構成を模した試験機を作成し、鋼板(コイル)について圧延を行いながら、圧延油供給設備2における圧延油供給方法を模擬するため、上述したA〜Dの順に圧延油供給設備を動作させた。そして、この圧延中に、ロールバイト直下の油膜厚を圧延荷重の測定値及び板速度の測定値から逐次算出し、圧延中における当該油膜厚の推移を調べた。
【0097】
結果を
図7に示す。
図7は、本変形例に係る圧延油供給設備2を模した試験機を用いた実験における、圧延中におけるロールバイト直下の油膜厚の推移を示すグラフ図である。
図7では、横軸に圧延中における時間を取り、縦軸に算出された油膜厚を取り、圧延中における油膜厚の時間変化を示している。
【0098】
図7を参照すると、圧延開始後しばらくの間は、エマルションのみが供給されている状態(すなわち、上記Aの状態)であり、エマルションにより略一定の油膜厚が得られている。この状態で、圧延油原液の静電塗布を開始すると(すなわち、上記Bの状態に移行すると)、圧延油原液が追加的に供給されることにより、油膜厚が増加することが確認できる。
【0099】
この状態で、エマルションの供給を停止すると(すなわち、上記Cの状態に移行すると)、油膜厚は更に増加することが確認できる。これは、エマルションによって圧延油原液が洗い流される事態が回避されるからであると考えられる。このように、油膜厚の推移の結果からも、
図4に示す摩擦係数の推移の結果と同様に、セミダイレクト潤滑の効果を十分に発揮するためには、圧延油原液の静電塗布を行っている間は、エマルションの供給を停止することが重要であることが確認できる。なお、このように、圧延油原液の鋼板10への塗布量は一定であっても、エマルションの供給の有無に応じて油膜厚の値は変化するため、摩擦係数の場合と同様に、事前に取得した上記相関に基づいて所望の量だけ油膜厚が増加し得るように静電塗布装置130を動作させる際には、エマルションの供給を停止することに伴う油膜厚の変化も考慮して、静電塗布装置130による圧延油原液の塗布量を決定する必要がある。
【0100】
この状態で、鋼板冷却装置による鋼板の冷却を開始すると(すなわち、上記Dの状態に移行すると)、僅かではあるが油膜厚が更に増加することが確認できる。これは、鋼板が冷却されることにより、静電塗布された圧延油の温度も低下し、その粘度が増加することに起因するものであると考えられる。なお、このように、圧延油原液の鋼板10への塗布量は一定であっても、鋼板10の温度に応じて油膜厚の値は変化するため、摩擦係数の場合と同様に、事前に取得した上記相関に基づいて所望の量だけ油膜厚が増加し得るように静電塗布装置130を動作させる際には、かかる鋼板10の温度変化に伴う油膜厚の変化も更に考慮して、静電塗布装置130による圧延油原液の塗布量を決定する必要がある。
【0101】
以上説明した実験の結果から、本変形例に係る圧延油供給設備2を適用し、上記A〜Dの状態を適宜切り替えることにより、圧延油原液を静電塗布することによる潤滑状態の変更の効果をより好適に得ることが可能になることが、油膜厚の推移からも確認することができた。
【0102】
以上、
図6を参照して、潤滑状態を示す指標としてロールバイト直下の油膜厚を用いる変形例に係る圧延油供給設備2の構成について説明した。
【0103】
ここで、以上の説明では、圧延荷重計140による圧延荷重の測定値、及び板速度計150による板速度の測定値に基づいてロールバイト直下の油膜厚を算出していたが、本変形例では、当該油膜厚は各種の公知の方法によって求められればよく、圧延中におけるロールバイト直下の油膜厚を求められる方法であれば、当該油膜厚の算出方法は他の方法であってもよい。
【0104】
(3−2.潤滑状態を示す指標として板温度を用いる変形例)
図8を参照して、潤滑状態を示す指標として圧延機110出側での板温度を用いる変形例に係る圧延油供給設備の構成について説明する。圧延機110出側での板温度は、ロールバイト直下における板温度を間接的に示すものであり、当該板温度が高ければロールバイト直下における板温度も高く、圧延油の粘度が低下するため潤滑が不良となり、当該板温度が低ければロールバイト直下における板温度も低く、圧延油の粘度が増加するため潤滑が良好となる。従って、当該圧延機110出側での板温度も、潤滑状態を示す指標となり得る。
図8は、潤滑状態を示す指標として圧延機110出側での板温度を用いる変形例に係る圧延油供給設備の一構成例を示す図である。
【0105】
図8では、冷間圧延用の圧延機110に対して本変形例に係る圧延油供給設備3が設けられた場合における構成例を示している。
図8を参照すると、本変形例に係る圧延油供給設備3は、圧延機110の入側において鋼板10及び圧延機110の作業ロール111、112にエマルションを供給するエマルション供給装置120と、エマルション供給装置120よりも圧延方向における上流側に設置され、鋼板10に圧延油原液を静電塗布する静電塗布装置130と、圧延機110の出側に設置され、鋼板10の温度を測定する板温度計320と、鋼板10に掛かる張力を測定するテンションロール161に取り付けられ、当該テンションロール161を介して鋼板10を接地するアース装置162と、静電塗布装置130よりも圧延方向における上流側に設置され、鋼板10を冷却する鋼板冷却装置170と、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御する制御装置210と、を備える。
【0106】
このように、本変形例に係る圧延油供給設備3は、上述した
図1に示す圧延油供給設備1において、圧延荷重計140及び板速度計150の代わりに板温度計320が設けられたものに対応する。また、制御装置310の機能も変更されている。
【0107】
制御装置310は、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御することにより、圧延中に動的に、鋼板10と作業ロール111、112との間の潤滑状態を変更する。本変形例では、当該潤滑状態を示す指標として、圧延機110出側での板温度を用いる。制御装置310は、当該板温度に基づいて、各装置の動作を制御する。潤滑状態を示す指標として圧延機110出側での板温度を用いること以外は、制御装置310の機能は、
図1に示す制御装置180の機能と同様である。
【0108】
具体的には、制御装置310は、まず、圧延開始時には、静電塗布装置130は駆動させず、エマルションノズル121によるエマルションの供給のみを行わせる。
【0109】
圧延油供給設備3では、板温度計320による板温度の測定値が、所定のタイミングで逐次制御装置310に送信されている。制御装置310は、エマルションの供給のみが行われている状態で、この板温度計320による板温度の測定値が所定のしきい値以下かどうかどうかを判定する。ここで、当該しきい値は、
図3を参照して説明した摩擦係数の場合と同様に、圧延条件等に応じて、焼付き等の潤滑不足に起因する不良を発生させないような板温度の望ましい範囲の上限値として、例えば実験及びシミュレーションの結果、並びに過去の操業実績データ等に基づいて適宜決定され、圧延油供給設備3に設けられる記憶装置(
図8では図示せず)に事前に記憶されている。制御装置310は、当該記憶装置を参照することにより、現在制御の対象としている圧延の圧延条件に合致する板温度のしきい値を設定し、かかるしきい値を用いて、上記の判定処理を行うことができる。
【0110】
この判定処理の結果、測定された板温度がしきい値以下であった場合には、現在の潤滑状態が、不良を発生させないような良好な状態であることを示している。従って、この場合には、制御装置310は、特段の制御を行わない。
【0111】
一方、測定された板温度がしきい値を超えていた場合には、現在の潤滑状態が、不良が発生し得る、潤滑が不足した状態であることを示している。そのため、この場合には、制御装置310は、潤滑状態をより良好にするために、当該板温度が当該しきい値以下になるように、静電塗布装置130を動作させ、圧延油原液の静電塗布を開始させる。本変形例では、例えば、実験やシミュレーション等によって、静電塗布による圧延油原液の鋼板10への塗布量と、圧延機110出側での板温度と、の相関が事前に取得され、テーブル等の形式で上記記憶装置に記憶されている。制御装置310は、当該記憶装置を参照し、圧延油原液の鋼板10への塗布量と板温度との相関を用いることにより、所望の量だけ板温度が低下し得るように、静電塗布装置130を適宜動作させることができる。
【0112】
更に、制御装置310は、静電塗布装置130による圧延油原液の静電塗布を開始させた後、エマルション供給装置120によるエマルションの供給を停止させる。これにより、静電塗布した圧延油原液がエマルションによって洗い流される事態を回避することができ、圧延油原液を静電塗布することによる潤滑効果をより好適に得ることが可能になる。すなわち、圧延油原液の静電塗布によって、板温度をより効率的に低下させることが可能になる。
【0113】
そして、その後、制御装置310は、鋼板冷却装置170を動作させ、鋼板10を冷却させる。これにより、エマルションの供給を停止した場合であっても、鋼板10及び作業ロール111、112を適切に冷却することが可能になる。なお、制御装置310が鋼板冷却装置170を動作させるタイミングは、エマルションの供給を停止させるのと略同時であってもよいし、鋼板10及び作業ロール111、112の温度上昇の影響が出ない範囲でエマルションの供給を停止させてから任意の時間が経過した後であってもよい。
【0114】
制御装置310は、圧延開始後、エマルションを供給している間、板温度計320による板温度の測定値が送信されるごとに、上記の板温度がしきい値以下であるかどうかの判定処理を逐次実行する。そして、制御装置310は、その判定結果に応じて、上述した、エマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作の制御を適宜実行する。
【0115】
ここで、本発明者らは、圧延油供給設備3を適用することによる効果を確認するために、
図4を参照して説明した圧延油供給設備1に対する実験と同様の実験を、圧延油供給設備3についても行った。具体的には、本発明者らは、以上説明した圧延機110に対して圧延油供給設備3が設けられた構成を模した試験機を作成し、鋼板(コイル)について圧延を行いながら、圧延油供給設備3における圧延油供給方法を模擬するため、上述したA〜Dの順に圧延油供給設備を動作させた。そして、この圧延中に、圧延機出側での板温度を逐次測定し、圧延中における当該板温度の推移を調べた。
【0116】
結果を
図9に示す。
図9は、本変形例に係る圧延油供給設備3を模した試験機を用いた実験における、圧延中における圧延機出側での板温度の推移を示すグラフ図である。
図9では、横軸に圧延中における時間を取り、縦軸に測定された板温度を取り、圧延中における板温度の時間変化を示している。
【0117】
図9を参照すると、圧延開始後しばらくの間は、エマルションのみが供給されている状態(すなわち、上記Aの状態)であり、エマルションにより略一定の板温度が得られている。この状態で、圧延油原液の静電塗布を開始すると(すなわち、上記Bの状態に移行すると)、圧延油原液が追加的に供給されることにより、板温度が低下することが確認できる。
【0118】
この状態で、エマルションの供給を停止すると(すなわち、上記Cの状態に移行すると)、板温度は増加することが確認できる。これは、エマルションによる鋼板の冷却効果が得られなくなるからであると考えられる。ただし、このとき、静電塗布した圧延油原液がエマルションによって洗い流される事態は回避され得るため、潤滑としては上記Bの状態よりも良好になっていると考えられる。
【0119】
この状態で、鋼板冷却装置による鋼板の冷却を開始すると(すなわち、上記Dの状態に移行すると)、当該鋼板冷却装置による冷却の効果によって、板温度が低下することが確認できる。板温度が上昇すると焼付き発生の懸念が生じることから、当該結果から、本変形例に係る圧延油供給設備3において行っているように、エマルションの供給を停止した場合には、冷却機構による追加的な鋼板及び/又は作業ロールの冷却を行うことがより好ましいことが確認できた。
【0120】
ここで、以上の結果にも示されるように、圧延油原液の鋼板10への塗布量は一定であっても、エマルションの供給の有無(すなわち、エマルションによる冷却効果の有無)や、鋼板冷却装置170の動作の有無に応じて、圧延機110出側での板温度の値は変化する。従って、摩擦係数の場合と同様に、事前に取得した上記相関に基づいて所望の量だけ板温度が低下し得るように静電塗布装置130を動作させる際には、エマルションの供給を停止すること及び鋼板冷却装置170を動作させることに伴う板温度の変化も考慮して、静電塗布装置130による圧延油原液の塗布量を決定することが好ましい。
【0121】
以上、
図8を参照して、潤滑状態を示す指標として圧延機110出側での板温度を用いる変形例に係る圧延油供給設備3の構成について説明した。ここで、以上の説明では、鋼板10の温度として板温度計320による板温度の測定値を用いていたが、本変形例では、当該鋼板10の温度は他の方法によって求められてもよく、また、その鋼板10の温度を得る位置も圧延機110出側に限定されない。例えば、圧延荷重及び板速度を用いて、板温度モデルによりロールバイト直下の板温度を求める方法が公知である。従って、かかる方法を利用して、潤滑状態を示す指標としてロールバイト直下の板温度を用いてもよい。具体的には、圧延油供給設備3において、板温度計320に代えて圧延荷重計及び板速度計を設け、これら圧延荷重計及び板速度計による圧延荷重及び板速度の測定値を用いて、制御装置310が、板温度モデルによりロールバイト直下の板温度を求めてもよい。その他、圧延中における鋼板10の温度を求められる方法であれば、各種の公知の方法が用いられてよい。
【実施例1】
【0122】
本発明の効果を確認するために、上記
図1を参照して説明した本実施形態に係る圧延油供給設備1と同様の構成を有する圧延油供給設備を、実際に操業が行われている冷間タンデム圧延機の最終スタンドに適用し、圧延を行った。圧延油の条件及び圧延条件は以下の通りである。
【0123】
供給するエマルションの基油としては合成エステル油を用いた。当該エマルションは、濃度1.5(%)で作成し、圧延中における供給量は、片面20(L/min)とした。
【0124】
静電塗布装置は、最終スタンドから上流側に2.5m離れた位置に設置した。静電塗布する圧延油原液としては、エマルションの基油と同一の合成エステル油を用いた。
【0125】
また、鋼板冷却装置は、上記静電塗布装置から上流側に1.5m離れた位置に設置した。
【0126】
圧延材としては鋼板を用いた。当該鋼板は普通鋼であり、その形状は、板厚1.00(mm)、板幅1000(mm)である。
【0127】
圧延は、2200(mpm)まで加速し、その状態で10分間の定常圧延を行った後、減速して終了した。
【0128】
以上の条件で、20本のコイルに対して圧延を行い、圧延後のコイルの状態を調査した。なお、本実施形態に係る圧延油供給設備1を適用しない場合における結果と比較するために、本実施例では、エマルション供給装置、静電塗布装置及び鋼板冷却装置を以下のように動作させた。
【0129】
すなわち、まず、エマルションのみを供給しながら圧延を開始し、その間、圧延荷重計によって測定した圧延荷重、及び圧延機出側に設けた板速度計によって測定したコイルの板速度に基づいて、コイルと作業ロールとの間の摩擦係数を算出した。そして、算出した摩擦係数が所定のしきい値を超えた状態で1分間が経過した後に、静電塗布装置による圧延油原液の静電塗布を開始した。そして、静電塗布装置による圧延油原液の静電塗布を開始してから1分間が経過した後に、エマルションの供給を停止した。更に、エマルションの供給を停止してから1分経過した後に、鋼板冷却装置による鋼板の冷却を開始した。
【0130】
その結果、算出した摩擦係数が所定のしきい値を超えてから、圧延油原液の静電塗布を開始するまでの区間(区間a)においては、コイルの表面に焼付きに起因する多数のヒートスクラッチが確認された。一方、圧延油原液の静電塗布を開始してからエマルションの供給を停止するまでの区間(区間b)においては、区間aに比べて、コイル表面の単位面積当たりのヒートスクラッチの発生頻度が低下していることが確認できた。これは、圧延油原液の静電塗布によってコイル表面の油膜厚が増加し、摩擦係数が低下したためであると考えられる。
【0131】
更に、エマルションの供給を停止してから鋼板冷却装置によるコイルの冷却を開始するまでの区間(区間(c))においては、コイル表面の単位面積当たりのヒートスクラッチの発生頻度が更に低下していることが確認できた。これは、エマルションの供給を停止することにより、圧延油原液の静電塗布によって形成されたコイル表面の油膜の洗い流し効果が低減され、コイル表面の油膜厚が十分に保たれた状態で当該コイルがロールバイトに到達するため、摩擦係数が更に低下したためであると考えられる。
【0132】
そして、鋼板冷却装置によるコイルの冷却を開始した後の区間(区間(d))においては、全てのコイルにおいて、ヒートスクラッチの発生は確認されなかった。これは、エマルションの供給を停止したことによる板温度の上昇が、鋼板冷却装置によって抑えられたため、ヒートスクラッチの発生が抑制されたことを示している。
【実施例2】
【0133】
本発明の効果を更に確認するために、上記
図6を参照して説明した本実施形態の一変形例に係る圧延油供給設備2と同様の構成を有する圧延油供給設備を、実際に操業が行われている冷間タンデム圧延機の最終スタンドに適用し、圧延を行った。圧延油の条件及び圧延条件は、上記の圧延油供給設備1に係る実施例と同様である。
【0134】
本実施例では、上記
図6を参照して説明したように、エマルションのみを供給しながら圧延を行っている最中にロールバイト直下の油膜厚を逐次算出し、その油膜厚が所定のしきい値を下回ったことをトリガとして、静電塗布装置による圧延油原液の静電塗布を開始し、その後、エマルションの供給を停止した。つまり、ロールバイト直下の油膜厚が所定のしきい値以上となるように、エマルション供給装置及び静電塗布装置を適宜動作させた。
【0135】
以上の条件で、20本のコイルに対して圧延を行い、圧延後のコイルの状態を調査した。その結果、20本のコイルの全てにおいて、ヒートスクラッチの発生は確認されなかった。これは、圧延油供給設備2を適用し、エマルション供給装置及び静電塗布装置を適切に動作させることにより、ロールバイト直下の油膜厚を適切な厚みに制御することができ、ヒートスクラッチの発生を効果的に抑制することができたことを示している。
【実施例3】
【0136】
本発明の効果を更に確認するために、上記
図8を参照して説明した本実施形態の他の変形例に係る圧延油供給設備3と同様の構成を有する圧延油供給設備を、実際に操業が行われている冷間タンデム圧延機の最終スタンドに適用し、圧延を行った。圧延油の条件及び圧延条件は、上記の圧延油供給設備1に係る実施例と同様である。
【0137】
本実施例では、上記
図8を参照して説明したように、エマルションのみを供給しながら圧延を行っている最中に最終スタンド出側での板温度を逐次測定し、その板温度が所定のしきい値を超えたことをトリガとして、静電塗布装置による圧延油原液の静電塗布を開始し、その後、エマルションの供給を停止し、更に、鋼板冷却装置による鋼板の冷却を開始した。つまり、最終スタンド出側での板温度が所定のしきい値以下となるように、エマルション供給装置、静電塗布装置、及び鋼板冷却装置を適宜動作させた。
【0138】
以上の条件で、20本のコイルに対して圧延を行い、圧延後のコイルの状態を調査した。その結果、20本のコイルの全てにおいて、ヒートスクラッチの発生は確認されなかった。これは、静電塗布装置による圧延油原液の塗布によってコイル表面の油膜厚が増加したことにより摩擦係数が低下し、かつ、鋼板冷却装置によるコイルの冷却により板温度が適切な範囲に制御されたことにより、ヒートスクラッチの発生が効果的に抑制されたことを示している。
【0139】
以上の各実施例における結果から、本発明を適用することにより、冷間圧延においてコイルと作業ロールとの間の潤滑状態を効率的に調整することができ、焼付きの発生を防止することができることが確認できた。従って、本発明を適用することにより、焼付き等の表面欠陥や、チャタリング等の圧延不安定現象を回避することができ、冷間圧延における歩留まり改善及び生産性向上を実現することが可能になる。
【0140】
(4.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0141】
ここで、上述した制御装置180、210、310の具体的な装置構成は限定されない。制御装置180、210、310は、以上説明した演算処理を実行する機能、並びにエマルション供給装置120、静電塗布装置130及び鋼板冷却装置170の動作を制御する機能を有すればよく、その装置構成は任意であってよい。例えば、制御装置180、210、310は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、又はプロセッサとメモリ等の記憶素子が混載された制御基板等であり得る。あるいは、制御装置180、210、310は、PC(Personal Computer)等の汎用的な情報処理装置であってもよい。制御装置180、210、310のプロセッサが所定のプログラムに従って動作することにより、上述した各機能が実現され得る。また、上述した記憶装置としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス又は光磁気記憶デバイス等、情報を記憶可能な各種の公知の装置を用いることができる。
【0142】
また、制御装置180、210、310の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、PC等の処理装置に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。当該記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク又はフラッシュメモリ等である。また、当該コンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。