特許第6750512号(P6750512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6750512-保護膜形成用スパッタリングターゲット 図000004
  • 特許6750512-保護膜形成用スパッタリングターゲット 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750512
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】保護膜形成用スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20200824BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20200824BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20200824BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20200824BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20200824BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C9/06
   H01L21/285 S
   H01L21/88 M
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-5039(P2017-5039)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-115349(P2018-115349A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森 曉
(72)【発明者】
【氏名】小見山 昌三
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−089954(JP,A)
【文献】 特開2014−129596(JP,A)
【文献】 特開2013−104095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 9/06
H01L 21/285
H01L 21/3205
H01L 21/768
H01L 23/532
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu膜の片面または両面に保護膜を成膜する際に使用される保護膜形成用スパッタリングターゲットであって、
Niを5mass%以上15mass%以下の範囲内で含有するとともに、0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内のCa及び0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内のMgの少なくとも一方又は両方を含み、残部がCuと不可避不純物とからなることを特徴とする保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅または銅合金からなるCu膜を保護する保護膜を形成する際に用いられる保護膜形成用スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイや、タッチパネル等の配線膜としてAlが広く使用されている。最近では、配線膜の微細化(幅狭化)および薄膜化が図られており、従来よりも比抵抗の低い配線膜が求められている。
上述の配線膜の微細化および薄膜化にともない、Alよりも比抵抗の低い材料である銅または銅合金を用いた配線膜が提供されている。
【0003】
しかし、比抵抗の低い銅または銅合金からなるCu配線膜は、湿度を有する雰囲気中で変色しやすいといった問題があった。なお、耐食性を向上させるために、添加元素を多く含有する銅合金を用いた場合には、比抵抗が上昇してしまう。
そこで、例えば特許文献1には、Cu配線膜の上に、Ni−Cu−(Cr,Ti)合金からなる保護膜を形成した積層膜、及び、この保護膜を形成するためのスパッタリングターゲットが提案されている。この保護膜は、銅よりも耐食性が高いことから、大気中で保管してもCu配線膜の変色を抑制することが可能となる。
【0004】
ところで、銅または銅合金からなるCu配線膜をエッチングによってパターニングする場合には、塩化鉄を含むエッチング液が使用される。上述のNi−Cu−(Cr,Ti)合金からなる保護膜を有する積層膜を、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合には、保護膜の一部が未溶解となって残渣として残存することがあった。この残渣により、配線間が短絡するおそれがあることから、配線膜として使用することが困難であった。
【0005】
そこで、特許文献2には、Cu−(Ni,Al)−Fe−Mn合金からなる保護膜を有する積層配線膜が提案されている。この積層配線膜は、上述のCu−(Ni,Al)−Fe−Mn合金からなる保護膜によって、特許文献1と同様に、大気中で保管してもCu配線膜の変色を抑制することができる。そして、この特許文献2に記載された積層配線膜においては、保護膜がCu基合金とされていることから、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合でも保護膜の一部が未溶解となって残渣として残存することを抑制することが可能となる。
【0006】
また、スパッタリングターゲットは、例えば鋳造、熱間圧延の工程を経て製造されているが、熱間圧延時に割れが生じると、割れの部分で異常放電が発生するためにスパッタリングターゲットとして使用することができなくなる。最近では、配線膜を形成するガラス基板の大型化が進んでおり、これに伴って、スパッタリングターゲット自体も大型化する傾向にある。ここで、大型のスパッタリングターゲットを製造する際に、熱間圧延材の一部に割れが生じると、所定サイズのスパッタリングターゲットを得ることができなくなってしまう。よって、大型のスパッタリングターゲットを効率良く生産するためには、優れた熱間加工性が必要となる。ここで、特許文献2に記載された保護膜を成膜するためのスパッタリングターゲットにおいては、Fe、Mnを含有していることから熱間加工性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−193444号公報
【特許文献2】特開2015−089954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、液晶ディスプレイ等の製造工程においては、上述の積層配線膜を形成した状態で例えば350℃まで加熱する熱処理が実施されることがある。ここで、特許文献2に記載された積層配線膜においては、熱処理を行った際に保護膜に含まれるFe,MnがCu配線膜側に拡散し、積層膜の抵抗値が熱処理の前後で大きく変化してしまうおそれがあった。
また、鋳造時には、銅溶湯の酸化を防止するために、銅溶湯表面を炭素粉で被覆することがあるが、Cu−Ni合金においては、この炭素粉とNiとが反応してNi炭化物が生成し、熱間加工性が低下してしまうといった問題があった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、耐食性に優れ、Cu膜の変色を抑制でき、かつ、良好なエッチング性を有するとともに、熱処理を実施しても積層膜の抵抗値が大きく変化しない保護膜を成膜でき、さらに熱間加工性に優れた保護膜形成用スパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の保護膜形成用スパッタリングターゲットは、Cu膜の片面または両面に保護膜を成膜する際に使用される保護膜形成用スパッタリングターゲットであって、Niを5mass%以上15mass%以下の範囲内で含有するとともに、0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内のCa及び0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内のMgの少なくとも一方又は両方を含み、残部がCuと不可避不純物とからなることを特徴としている。
【0011】
このような構成とされた本発明の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、Niを5mass%以上15mass%以下の範囲内で含有していることから、成膜された保護膜の耐食性に優れている。また、Cu基合金とされていることから、成膜した保護膜を、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合であっても、Cu膜と同等にエッチングされることになり、未溶解の残渣の発生を抑制することが可能となる。
【0012】
また、Niを5mass%以上15mass%以下の範囲内で含有するとともに、0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内のCa及び0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内のMgの少なくとも一方又は両方を含み、残部がCuと不可避不純物とからなる組成とされており、Fe及びMnを不純物レベル以下(例えば200massppm以下)でしか含有していないので、積層膜に熱処理を実施しても、抵抗値が大きく変化することを抑制できる。なお、Ca及びMgは、熱処理を行った場合であってもCu膜側に拡散しにくく、さらにCa,Mgは銅の抵抗率を大きく上昇させない元素である。
【0013】
さらに、0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内のCa及び0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内のMgの少なくとも一方又は両方を含んでいるので、鋳造時にCa酸化物またはMg酸化物が溶湯の上に形成され、炭素粉とNiとの反応によるNi炭化物の生成を抑制できる。これにより、熱間加工性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、耐食性に優れ、Cu膜の変色を抑制でき、かつ、良好なエッチング性を有するとともに、熱処理を実施しても積層膜の抵抗値が大きく変化しない保護膜を成膜でき、さらに熱間加工性に優れた保護膜形成用スパッタリングターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態である積層膜の断面説明図である。
図2】実施例におけるエッチング残渣の評価基準を説明する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットについて説明する。
【0017】
本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットは、銅または銅合金からなるCu膜の上に保護膜を成膜する際に使用されるものである。
この保護膜形成用スパッタリングターゲットは、Niを5mass%以上15mass%以下の範囲内で含有するとともに、0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内のCa及び0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内のMgの少なくとも一方又は両方を含み、残部がCuと不可避不純物とからなる組成を有している。
なお、この保護膜形成用スパッタリングターゲットは、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、熱処理、機械加工といった工程を経て製造される。
【0018】
以下に、本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットの組成を上述のように規定した理由について説明する。
【0019】
(Niの含有量:5mass%以上15mass%以下)
Niは、Cuの耐食性を改善する作用効果を有する元素である。Niを含有することにより、成膜した保護膜自体の変色を抑制することが可能となる。また、耐食性に優れた保護膜を形成することでCu膜の変色を抑制することが可能となる。
ここで、Niの含有量が5mass%未満の場合には、耐食性が十分に向上せず、成膜した保護膜自体の変色を十分に抑制できないおそれがある。一方、Niの含有量が15mass%を超える場合には、エッチング性が劣化し、塩化鉄を含有するエッチング液でエッチングした際に未溶解の残渣が生成するおそれがある。また、熱間加工性、被削性も低下することになる。
このような理由から、Niの含有量を、5mass%以上15mass%以下の範囲内に設定している。
なお、耐食性をさらに向上させるためには、Niの含有量の下限を6mass%以上とすることが好ましく、7mass%以上とすることがさらに好ましい。また、エッチング性を確保するためには、Niの含有量の上限を13mass%以下とすることが好ましく、11mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0020】
(Ca:0.03mass%以上1.5mass%以下/Mg:0.02mass%以上2.0mass%以下)
Ca及びMgは、溶湯表面に酸化被膜を形成することにより、溶湯表面に固体還元剤として散布される炭素粉とNiとの反応を抑制し、Ni炭化物の生成による熱間加工性の低下を抑制する作用効果を有する。
ここで、Caの含有量が0.03mass%未満あるいはMgの含有量が0.02mass%未満の場合には、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、Caの含有量が1.5mass%を超える場合あるいはMgの含有量が2.0mass%を超える場合には、逆に熱間加工性が低下してしまうおそれがある。
このような理由から、Caの含有量を0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内、Mgの含有量を0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内に設定している。
なお、Caの含有量の下限は0.05mass%以上であることが好ましく、0.08mass%以上であることがさらに好ましい。また、Mgの含有量の下限は0.04mass%以上であることが好ましく、0.06mass%以上であることがさらに好ましい。一方、Caの含有量の上限は1.3mass%以下であることが好ましく、1.1mass%以下であることがさらに好ましい。また、Mgの含有量の上限は1.8mass%以下であることが好ましく、1.6mass%以下であることがさらに好ましい。
また、CaとMgをともに含有する場合には、CaとMgの含有量の合計を0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0021】
次に、本実施形態である積層膜10について説明する。
本実施形態である積層膜10は、図1に示すように、基板1の上に成膜されたCu膜11と、Cu膜11の上に成膜された保護膜12と、を備えている。
ここで、基板1は、特に限定されるものではないが、フラットパネルディスプレイやタッチパネル等においては、光を透過可能なガラス、樹脂フィルム等からなるものが用いられている。
【0022】
Cu膜11は、銅または銅合金で構成されており、その比抵抗が3.5μΩcm以下(温度25℃)とされていることが好ましい。本実施形態では、Cu膜11は、純度99.99mass%以上の無酸素銅で構成されており、比抵抗が2.5μΩcm以下(温度25℃)とされている。なお、このCu膜11は、純度99.99mass%以上の無酸素銅からなるスパッタリングターゲットを用いて成膜されている。
また、このCu膜11の厚さAは、50nm≦A≦800nmの範囲内とすることが好ましく、さらには、100nm≦A≦300nmの範囲内とすることが好ましい。
【0023】
保護膜12は、本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットを用いて成膜されたものである。
この保護膜12の厚さBは、5nm≦B≦100nmの範囲内とすることが好ましく、さらには、10nm≦B≦50nmの範囲内とすることが好ましい。
また、Cu膜11の厚さAと保護膜12の厚さBとの比B/Aは、0.02<B/A<1.0の範囲内であることが好ましく、さらには、0.1<B/A<0.3の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
以上のような構成とされた本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび積層膜10においては、上述のように、Niを5mass%以上15mass%以下の範囲内で含有するとともに、0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内のCa及び0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内のMgの少なくとも一方又は両方を含み、残部がCuと不可避不純物とからなる組成を有しており、Cu基合金とされていることから、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合であっても、良好にエッチングさせることになり、未溶解の残渣の発生を抑制することが可能となる。
【0025】
また、保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび保護膜12が、Niを、上述の範囲で含有しているので、耐食性が向上し、Cu膜11の変色を確実に抑制することができる。
そして、保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび保護膜12が、Fe及びMnを不純物レベル以下(例えば200massppm以下)でしか含有していないことから、積層膜10に対して例えば300℃といった温度の熱処理を実施した場合であっても、積層膜10の抵抗値が大きく変化することを抑制できる。よって、この積層膜10を配線膜として良好に使用することができる。
【0026】
さらに、本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットは、0.03mass%以上1.5mass%以下の範囲内のCa及び0.02mass%以上2.0mass%以下の範囲内のMgの少なくとも一方又は両方を含んでいるので、鋳造時にCa酸化物またはMg酸化物が溶湯の上に形成され、炭素粉とNiとの反応によるNi炭化物の生成を抑制でき、熱間加工性を向上させることができる。
また、本実施形態である積層膜10は、Mnを不純物レベル以下でしか含有していないので、保護膜12の表面に緻密なMn酸化膜が形成されず、はんだ材の濡れ性が向上し、保護膜12の表面に他の部材を良好にはんだ接合することができる。
【0027】
また、本実施形態では、Cu膜11は、比抵抗が2.5μΩcm以下(温度25℃)の無酸素銅で構成され、Cu膜11の厚さAが50nm≦A≦800nmの範囲内とされているので、このCu膜11によって通電を良好に行うことができる。
さらに、本実施形態では、保護膜12の厚さBが5nm≦B≦100nmの範囲内とされており、Cu膜11の厚さAと保護膜12の厚さBとの比B/Aが、0.02<B/A<1.0の範囲内とされているので、Cu膜11の変色を確実に抑制することができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、基板の上に積層膜を形成した構造を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、基板の上にITO膜、AZO膜等の透明導電膜を形成し、その上に積層膜を形成してもよい。
【0029】
また、Cu膜を、純度99.99mass%以上の無酸素銅で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばタフピッチ銅等の純銅や少量の添加元素を含有する銅合金で構成したものであってもよい。
さらに、Cu膜の厚さA、保護膜の厚さB、厚さ比B/Aは、本実施形態に記載されたものに限定されるものではなく、他の構成とされていてもよい。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明に係る保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび積層膜の作用効果について評価した評価試験の結果について説明する。
【0031】
<Cu膜形成用純銅ターゲット>
純度99.99mass%の無酸素銅の鋳塊を準備し、この鋳塊に対して熱間圧延、歪取焼鈍、機械加工を行い、外径:100mm×厚さ:5mmの寸法を有するCu膜形成用純銅ターゲットを作製した。
次に、無酸素銅製バッキングプレートを用意し、この無酸素銅製バッキングプレートに前述のCu膜形成用純銅ターゲットを重ね合わせ、温度:200℃でインジウムはんだ付けすることによりバッキングプレート付きターゲットを作製した。
【0032】
<保護膜形成用スパッタリングターゲット>
溶解原料として、無酸素銅(純度99.99mass%以上)、低カーボンニッケル(純度99.9mass%以上)、金属カルシウム(純度99mass%以上)、金属マグネシウム(純度99.95mass%以上)を準備し、これらの溶解原料を高純度アルミナるつぼ内で高周波溶解し、酸化防止のため、その溶湯表面を固体還元剤(炭素粉末)で被覆し、表1に示される組成を有する溶湯に成分を調整した後、冷却された鉄鋳型に鋳造し、50mm×50mm×30mm厚の大きさの鋳塊を得た。
次いで、鋳塊に対して、温度750〜850℃、圧下率約10%で15mm厚まで熱間圧延した。熱間圧延後、表面の酸化物や疵を面削で除去し、さらに圧下率10%で冷間圧延して10mm厚まで圧延し、歪取焼鈍した。得られた圧延板の表面を機械加工して、外径:100mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明例1〜11および比較例1〜6の保護膜形成用スパッタリングターゲットを作製した。さらに、従来例1として、Ni:9mass%、Fe:3mass%、Mn:2mass%、残部がCuおよび不可避不純物からなるスパッタリングターゲットを準備した。
次に、無酸素銅製バッキングプレートを用意し、この無酸素銅製バッキングプレートに得られた保護膜形成用スパッタリングターゲットを重ね合わせ、温度:200℃でインジウムはんだ付けすることによりバッキングプレート付きターゲットを作製した。
ここで、本発明例1〜11および比較例1〜6の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れの有無を確認した。結果を表1に併せて示す。
【0033】
<積層膜>
Cu膜形成用純銅ターゲットをガラス基板(縦:20mm、横:20mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737のガラス基板)との距離が70mmとなるようにスパッタ装置内にセットし、電源:直流方式、スパッタパワー:150W、到達真空度:5×10−5Pa、雰囲気ガス組成:純Ar、スパッタガス圧:0.67Pa、基板加熱:なし、の条件でスパッタリングを実施し、ガラス基板の表面に、厚さ:200nmを有するCu膜を形成した。
これに引き続き、同条件で、表1に記載した保護膜形成用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを実施し、Cu膜の上に、厚さ:20nmの保護膜を形成した。これにより、表2に示される本発明例21〜31および比較例21〜26の積層膜を形成した。
なお、従来例21として、上述した従来例1のスパッタリングターゲットを用いて、Cu膜の上に保護膜を成膜した積層膜を作製した。
【0034】
<密着性>
JIS−K5400に準じ、1mm間隔で積層膜に碁盤目状に切れ目を入れた後、3M社製スコッチテープで引き剥がし、ガラス基板中央部の10mm角内でガラス基板に付着していた積層膜の面積%を測定する碁盤目付着試験を実施した。評価結果を表2に示す。
【0035】
<耐食性>
恒温恒湿試験(60℃、相対湿度90%で250時間暴露)を行い、ガラス基板の裏面(積層膜を形成していない面)側から目視で観察し、Cu膜の変色の有無を確認した。なお、黒色の点が発生しているものを変色と判断した。変色が認められたものを「NG」、変色が確認できなかったものを「OK」とした。評価結果を表2に示す。
【0036】
<エッチング残渣>
ガラス基板上に成膜した積層膜に、フォトレジスト液(東京応化工業株式会社製:OFPR−8600LB)を塗布、感光、現像して、30μmのラインアンドスペースでレジスト膜形成し、液温30℃±1℃に保持した4%FeCl水溶液に浸漬して積層膜をエッチングして配線を形成した。
この配線の断面を、Arイオンビームを用い、遮蔽板から露出した試料に対して垂直にビームを当て、イオンエッチングを行い、得られた断面を二次電子顕微鏡で観察し、エッチング残渣の有無を調べた。エッチング残渣の観察結果の一例を図2に示す。ここで、残渣の長さLが300nm以上のものを×、残渣の長さLが300nm未満のものを○として評価した。評価結果を表2に示す。
【0037】
<熱処理前後の積層膜の抵抗値>
ガラス基板上に成膜した積層膜を、真空中で350℃で30分間保持の条件で熱処理した。熱処理前及び熱処理後の積層膜のシート抵抗値を4探針法で測定し、熱処理後の値から熱処理前の値を減じ、その値を熱処理前の値で除して、シート抵抗の変化率を求めた。評価結果を表2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
Niの含有量が5mass%未満とされた比較例1の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された比較例21の積層膜においては、恒温恒湿試験で変色が認められており、耐食性が不十分であった。
Niの含有量が15mass%を超える比較例2の保護膜形成用スパッタリングターゲット保護膜が成膜された比較例22の積層膜においては、エッチング後に残渣が残存していた。
【0041】
Caの含有量が0.03mass%未満とされた比較例3の保護膜形成用スパッタリングターゲット及びMgの含有量が0.02mass%未満とされた比較例5の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れが確認された。このため、積層膜の評価は実施しなかった。
Caの含有量が1.5mass%を超える比較例4の保護膜形成用スパッタリングターゲット及びMgの含有量が2.0mass%を超える比較例6の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れが確認された。このため、積層膜の評価は実施しなかった。
【0042】
Fe,Mnを含有する従来例1の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された従来例21の積層膜においては、熱処理前後における抵抗値の変化率が大きくなった。
【0043】
これに対して、Ni、Ca、Mnの含有量が本発明の範囲内とされた本発明例1〜11の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間加工時に割れは確認されておらず、良好に保護膜形成用スパッタリングターゲットを製造することができた。
さらに、本発明例1〜11の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された本発明例21〜31の積層膜においては、密着性、耐食性、エッチング性に優れていた。また、熱処理前後での抵抗値の変化率も小さく安定していた。
【0044】
以上のことから、本発明例によれば、耐食性に優れ、Cu膜の変色を抑制でき、かつ、良好なエッチング性を有するとともに、熱処理を実施しても積層膜の抵抗値が大きく変化しない保護膜を成膜でき、さらに熱間加工性に優れた保護膜形成用スパッタリングターゲット、および、Cu膜と保護膜とを有する積層膜を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
1 基板
10 積層膜
11 Cu膜
12 保護膜
図1
図2