特許第6750549号(P6750549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750549
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20200824BHJP
【FI】
   F04B39/00 106Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-69907(P2017-69907)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172985(P2018-172985A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名嶋 一記
(72)【発明者】
【氏名】深作 博史
(72)【発明者】
【氏名】永田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 仁
(72)【発明者】
【氏名】賀川 史大
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−184976(JP,A)
【文献】 特開2015−136224(JP,A)
【文献】 特開2009−089511(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/045076(WO,A1)
【文献】 特開2015−171282(JP,A)
【文献】 特開2005−326054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載の主電源に接続されるように構成された電動圧縮機であって、
冷媒を圧縮するように構成された圧縮部と、
前記圧縮部を駆動するように構成された電動モータと、
前記主電源から供給される直流電力を交流電力に変換するとともに、交流電力を前記電動モータに供給するように構成されたインバータと、
前記インバータの入力端子に接続されており、前記インバータの入力電圧を前記主電源の電圧未満に降圧するように構成された降圧コンバータと、
前記インバータ及び前記降圧コンバータのPWM(Pulse Width Modulation)制御を行なうように構成された制御装置と、
前記圧縮部及び前記電動モータを収容するハウジングと、
前記ハウジングに取り付けられることによって、前記インバータと前記降圧コンバータと前記制御装置とを収容する回路室を形成するカバーとを備え、
前記ハウジングには、前記冷媒を吸入するための吸入ポートが設けられており、
前記制御装置は、前記降圧コンバータのPWM制御におけるキャリア周波数を、前記インバータのPWM制御におけるキャリア周波数よりも高くするように構成されており
前記電動圧縮機の外部の車両システムと通信するように構成された通信回路をさらに備え、
前記通信回路は、前記回路室に収容されるとともに、車載の副電源と接続されるように構成されており、
前記副電源の電圧は、前記主電源の電圧よりも低電圧であり、
前記副電源の電圧が印加される前記回路室内の低電圧部は、前記通信回路を含むとともに、前記回路室の壁面に沿うよう配置されており、
前記回路室内において、前記インバータは、前記降圧コンバータと、前記低電圧部との間に配置されており、
前記インバータを含む配線パターンは、前記降圧コンバータを含む配線パターンと、前記通信回路を含む配線パターンとを隔てている、電動圧縮機。
【請求項2】
前記回路室内において、前記降圧コンバータの方が前記インバータよりも前記吸入ポートに近い位置に配置されている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記圧縮部、前記電動モータ及び前記回路室は、前記電動モータの回転軸方向において、前記圧縮部、前記電動モータ、前記回路室の順に配置されており、
前記吸入ポートは、前記ハウジングにおいて、前記電動モータよりも前記回路室に近い位置に設けられている、請求項1または請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記降圧コンバータの入力端子に接続されるとともに前記回路室内に収容されるフィルタ回路をさらに備える、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関し、特に、車載の主電源と接続されるように構成された電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005−326054号公報(特許文献1)は、車載のバッテリに接続されるように構成された電動圧縮機を開示する。この電動圧縮機は、昇降圧コンバータと、インバータと、交流モータとを備える。低温下で電動圧縮機を起動させる場合に、昇降圧コンバータは、出力電圧をバッテリの電圧未満に降圧する。インバータは、昇降圧コンバータから供給される直流電力を交流電力に変換することなく、昇降圧コンバータから入力される直流電流をそのまま交流モータに出力する。交流モータのコイルに直流電流が流れても電動モータは回転しないが、交流モータのコイルは発熱する。したがって、この電動圧縮機によれば、低温下において、交流モータの回転による騒音を生じることなく、交流モータを加熱することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−326054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、車両の航続距離を長くするために、高電圧の蓄電装置が車載の主電源(たとえば、走行用バッテリ)に採用される場合がある。主電源の電圧が高電圧になると、高電圧が印加される部品の絶縁耐力の向上等が必要となる。その結果、たとえば、主電源に接続される電動圧縮機のインバータや電動モータが大型化する可能性がある。このような電動圧縮機の大型化の問題及びその解決手段について、上記特許文献1では特に検討されていない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、車載の主電源に接続されるように構成された電動圧縮機の大型化をなるべく抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従う電動圧縮機は、車載の主電源に接続されるように構成されている。電動圧縮機は、圧縮部と、電動モータと、インバータと、降圧コンバータと、制御装置と、ハウジングと、カバーとを備える。圧縮部は、冷媒を圧縮するように構成されている。電動モータは、圧縮部を駆動するように構成されている。インバータは、主電源から供給される直流電力を交流電力に変換するとともに、交流電力を電動モータに供給するように構成されている。降圧コンバータは、インバータの入力端子に接続されており、インバータの入力電圧を主電源の電圧未満に降圧するように構成されている。制御装置は、インバータ及び降圧コンバータのPWM(Pulse Width Modulation)制御を行なうように構成されている。ハウジングは、圧縮部及び電動モータを収容する。カバーは、ハウジングに取り付けられることによって、インバータと降圧コンバータと制御装置とを収容する回路室を形成する。ハウジングには、冷媒を吸入するための吸入ポートが設けられている。制御装置は、降圧コンバータのPWM制御におけるキャリア周波数を、インバータのPWM制御におけるキャリア周波数よりも高くするように構成されている。
【0007】
この電動圧縮機によれば、降圧コンバータのPWM制御におけるキャリア周波数が高く設定され、1回のスイッチングによって降圧コンバータのコイルに蓄えられるエネルギーが小さくなるため、降圧コンバータのコイルを小型化することができる。更にいえば、降圧コンバータを収容する回路室や、回路室を構成するカバーを小型化することができる。
【0008】
好ましくは、回路室内において、降圧コンバータの方がインバータよりも吸入ポートに近い位置に配置されている。
【0009】
この電動圧縮機によれば、降圧コンバータの方がインバータよりも吸入ポートに近い位置に配置されているため、降圧コンバータのキャリア周波数がインバータのキャリア周波数よりも高いとしても、降圧コンバータの発熱を抑制することができる。その結果、たとえば、降圧コンバータの過熱防止のための部品大型化や部品数の増加を抑えることができるため、電動圧縮機の大型化を抑制することができる。
【0010】
さらに好ましくは、電動圧縮機は、通信回路をさらに備える。通信回路は、電動圧縮機の外部の車両システムと通信するように構成されている。通信回路は、回路室に収容されるとともに、車載の副電源と接続されるように構成されている。副電源の電圧は、主電源の電圧よりも低電圧である。副電源の電圧が印加される回路室内の低電圧部は、通信回路を含むとともに、回路室の壁面に沿うように配置されている。
【0011】
壁面に低電圧部が隣接することによって部品と壁面との電圧差が小さくなるため、たとえば、降圧コンバータと壁面とが隣接して配置される場合と比較して、絶縁距離(壁面との間隙)を短くすることができる。その結果、この電動圧縮機によれば、電動圧縮機の大型化を抑制することができる。
【0012】
さらに好ましくは、インバータは、降圧コンバータと、通信回路を含む低電圧部との間に配置されている。
【0013】
この電動圧縮機においては、隣接する部品間の電圧差が小さくなるため、たとえば、降圧コンバータと通信回路とが隣接して配置される場合と比較して、部品間の絶縁距離を短くすることができる。その結果、この電動圧縮機によれば、電動圧縮機の大型化を抑制することができる。
【0014】
さらに好ましくは、圧縮部、電動モータ及び回路室は、電動モータの回転軸方向において、圧縮部、電動モータ、回路室の順に配置されている。吸入ポートは、ハウジングにおいて、電動モータよりも回路室に近い位置に設けられている。
【0015】
この電動圧縮機においては、吸入ポートが電動モータよりも回路室に近いため、電動モータによって暖められる前の吸入ガスによって回路室内部(降圧コンバータ及びインバータ)が冷却される。したがって、この電動圧縮機によれば、吸入ポートが回路室よりも電動モータに近い場合と比較して、降圧コンバータ及びインバータの過熱防止のための部品大型化や部品数の増加を抑えることができるため、電動圧縮機の大型化を抑制することができる。
【0016】
さらに好ましくは、電動圧縮機は、フィルタ回路をさらに備える。フィルタ回路は、降圧コンバータの入力端子に接続されるとともに回路室内に収容される。
【0017】
この電動圧縮機によれば、降圧コンバータのPWM制御におけるキャリア周波数が高く設定され、1回のスイッチングによって降圧コンバータのコイルに蓄えられるエネルギーが小さく抑えられ、フィルタ回路に流れるリップル電流が小さくなるため、降圧コンバータの入力側に接続されたフィルタ回路の部品を小型化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車載の主電源に接続されるように構成された電動圧縮機の大型化をなるべく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】車両空調装置の構成を示す図である。
図2】インバータユニット、及び、インバータユニットに接続される他の回路を示す回路図である。
図3】降圧コンバータ及びインバータのキャリア周波数を説明するための図である。
図4】インバータユニット、及び、インバータユニットに接続される他の回路の印加電圧を説明するための図である。
図5図1のIV−IV断面図であり、回路室内における各部品の配置場所を説明するための図である。
図6】変形例1における降圧コンバータのキャリア周波数を説明するための図である。
図7】変形例2における、回路室内における超高電圧部、高電圧部及び低電圧部の配置場所を説明するための図である。
図8】変形例3における、回路室内における超高電圧部、高電圧部及び低電圧部の配置場所を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[車両空調装置の構成]
図1は、本実施の形態に従う電動圧縮機10が適用された車両空調装置100の構成を示す図である。図1を参照して、車両空調装置100は、車両に搭載され、車室内の冷暖房を行なうように構成されている。車両空調装置100は、電動圧縮機10と、外部冷却回路101と、空調ECU102とを含む。
【0022】
外部冷却回路101は、電動圧縮機10に対して冷媒を供給するように構成されている。外部冷却回路101は、たとえば、熱交換器及び膨張弁を含む。電動圧縮機10は、外部冷却回路101から供給された冷媒を圧縮するように構成されている。すなわち、車両空調装置100においては、電動圧縮機10によって冷媒が圧縮され、外部冷却回路101によって冷媒の熱交換及び膨張が行なわれる。これによって、車室内の冷暖房が行なわれる。
【0023】
空調ECU102は、図示しないCPU(Central Processing Unit)及びメモリを内蔵し、当該メモリに記憶された情報や各センサ(不図示)からの情報に基づいて車両空調装置100の各機器を制御する。空調ECU102は、たとえば、車室内の空調に関してユーザが設定した温度、及び、現在の車室内の温度を認識可能である。空調ECU102は、たとえば、これらのパラメータに基づいてオン/オフ指令等の各種指令を電動圧縮機10に送信する。
【0024】
電動圧縮機10は、ハウジング11と、圧縮部12と、電動モータ13と、インバータユニット30とを含む。電動圧縮機10は、ケーブル150を介して車両側システム200に接続可能であり、車両側システム200から直流電流の供給を受けるように構成されている。電動圧縮機10と車両側システム200との関係については後程詳しく説明する。
【0025】
ハウジング11は、略円筒形状であり、圧縮部12と電動モータ13とを内部に収容する。ハウジング11には、外部冷却回路101から冷媒が吸入される吸入ポート11a、及び、冷媒が吐出される吐出口11bが形成されている。
【0026】
圧縮部12は、吸入ポート11aから吸入された冷媒を圧縮し、圧縮された冷媒を吐出口11bから吐出するように構成されている。なお、圧縮部12は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、及び、ベーンタイプ等のうちいずれのタイプであってもよい。
【0027】
電動モータ13は、圧縮部12を駆動するように構成されている。電動モータ13は、たとえば、回転軸21と、ロータ22と、ステータ23とを含む。回転軸21は、円柱状であり、ハウジング11に対して回転可能に支持されている。ロータ22は、円筒形状であり、回転軸21に固定されている。ステータ23は、ハウジング11に固定されている。ロータ22とステータ23とは、回転軸21の径方向に対向している。なお、ステータ23は、円筒形状のステータコア24と、コイル25とを含む。コイル25は、ステータコア24のティースに巻きつけることで形成されている。
【0028】
インバータユニット30は、インバータ31と、降圧コンバータ70と、カバー32と、各種回路(たとえば、通信回路80、フィルタ回路63、ドライブ回路53,72、電源回路55、絶縁回路60、及び、制御装置61)とを含む。各種回路は、カバー32の内側に形成される回路室33に配置されている。各種回路については後程詳しく説明する。
【0029】
インバータ31は、電動モータ13を駆動させる駆動回路である。インバータ31は、不図示のコネクタ等を介して電動モータ13のコイル25に接続されている。インバータ31は、車両側システム200(主電源B1(後述))から供給される直流電力を交流電力に変換するとともに、変換後の交流電力を電動モータ13に供給するように構成されている。
【0030】
インバータ31は、回路基板51に電気的に接続されている。回路基板51には、配線パターンが実装されるとともに、インバータ31の他にも、降圧コンバータ70及び各種回路(たとえば、通信回路80、フィルタ回路63、ドライブ回路53,72、電源回路55、絶縁回路60、及び、制御装置61)が実装されている。これらの回路が同一基板に実装されているため、これらが別基板に実装される場合と比較して、インバータユニット30を小型化することができる。
【0031】
降圧コンバータ70は、インバータ31の入力電圧を主電源B1の電圧未満に降圧するように構成されている。インバータ31には、降圧コンバータ70によって降圧された後の電圧が印加される。したがって、たとえ主電源B1が高電圧であったとしても、インバータ31に高電圧がそのまま印加されるわけではないため、インバータ31を構成する各部品に要求される絶縁耐力は低く抑えられる。その結果、インバータ31の大型化が抑制される。
【0032】
カバー32は、ボルト43によってハウジング11に固定されている。カバー32がハウジング11に取り付けられることによって、インバータ31、降圧コンバータ70及び制御装置61等を収容する回路室33が形成される。カバー32の外面にはコネクタ54が設けられており、回路基板51とコネクタ54とが電気的に接続されている。
【0033】
電動圧縮機10においては、上記圧縮部12、電動モータ13及び回路室33(カバー32)は、回転軸21方向において、吐出口11b側から、圧縮部12、電動モータ13、回路室33(カバー32)の順に配置されている。吸入ポート11aは、ハウジング11において、電動モータ13よりも回路室33(カバー32)に近い位置に設けられている。したがって、電動圧縮機10においては、電動モータ13によって暖められる前の吸入ガス(冷媒)によって回路室33(カバー32)の内部が冷却される。その結果、電動圧縮機10によれば、吸入ポート11aが回路室33(カバー32)よりも電動モータ13に近い場合と比較して、回路室33(カバー32)の内部(降圧コンバータ70及びインバータ31)の過熱防止のための部品大型化や部品数の増加を抑えることができるため、電動圧縮機10の大型化を抑制することができる。
【0034】
コネクタ54は、ケーブル150が接続されるように構成されている。コネクタ54及びケーブル150を介して、車両側システム200(主電源B1)からインバータ31に直流電力が供給される。
【0035】
[電動圧縮機の回路構成]
図2は、インバータユニット30、及び、インバータユニット30に接続される他の回路を示す回路図である。図2を参照して、電動圧縮機10は、ケーブル150(図1)を介して車両側システム200に接続可能である。車両側システム200は、主電源B1を含む。
【0036】
主電源B1は、充放電可能に構成された電力貯蔵要素である。主電源B1は、たとえば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池あるいは鉛蓄電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を含んで構成される。車両側システム200が電動圧縮機10に接続された状態で、主電源B1は、電動圧縮機10に直流電力を供給するように構成されている。
【0037】
電動圧縮機10は、電動モータ13と、インバータユニット30とを含む。電動モータ13は、いわゆる三相モータである。電動モータ13は、インバータユニット30(インバータ31)から供給される交流電力を用いて駆動する。
【0038】
インバータユニット30は、フィルタ回路63と、降圧コンバータ70と、インバータ31と、ドライブ回路53,72と、電源回路55と、通信回路80と、絶縁回路60と、制御装置61とを含む。
【0039】
フィルタ回路63は、コモンモードフィルタF1と、コイルL1と、キャパシタC1,C2とを含む。コモンモードフィルタF1は、正極線PL1及び負極線NL1に接続されている。コイルL1は、正極線PL1に接続されている。キャパシタC1,C2は、正極線PL1及び負極線NL1間において直列に接続されている。
【0040】
降圧コンバータ70は、インバータ31の入力電圧を主電源B1の電圧未満に降圧するように構成されている。降圧コンバータ70は、フィルタ回路63とインバータ31との間に接続されている。すなわち、降圧コンバータ70は、フィルタ回路63の出力端子及びインバータ31の入力端子に接続されている。
【0041】
降圧コンバータ70は、スイッチング素子T1と、ダイオードD1と、コイルL2と、キャパシタC3とを含む。スイッチング素子T1及びダイオードD1は、正極線PL1及び負極線NL1間において直列に接続されている。スイッチング素子T1及びダイオードD1の間のノードN4と、ノードN5との間にはコイルL2が接続されている。ノードN5と、負極線NL2との間にはキャパシタC3が接続されている。なお、キャパシタC3は、インバータ31の平滑コンデンサとしても機能する。
【0042】
降圧コンバータ70においては、スイッチング素子T1のゲート端子に接続されているドライブ回路72がオン信号を出力している場合に、コイルL2にエネルギーが蓄えられる。ドライブ回路72のオン信号の出力が停止されると、コイルL2は、電流を保とうとして起電力を発生させ、ダイオードD1を通じて電流を流す。降圧コンバータ70においては、スイッチング素子T1のデューティサイクルを調整することによって、降圧後の電圧が調整される。
【0043】
インバータ31は、いわゆる三相インバータである。インバータ31は、正極線PL2及び負極線NL2間(以下、「電力線対間」とも称する。)において直列に接続されたスイッチング素子TU1,TU2と、電力線対間において直列に接続されたスイッチング素子TV1,TV2と、電力線対間において直列に接続されたスイッチング素子TW1,TW2とを含む。スイッチング素子TU1,TU2,TV1,TV2,TW1,TW2(以下、「スイッチング素子TU1−TW2」とも称する。)の各々は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成されている。スイッチング素子TU1−TW2には、ダイオードDU1,DU2,DV1,DV2,DW1,DW2がそれぞれ逆並列に接続されている。
【0044】
スイッチング素子TU1とスイッチング素子TU2との間のノードN1は、電動モータ13のU相コイル(不図示)に接続されている。スイッチング素子TV1とスイッチング素子TV2との間のノードN2は、電動モータ13のV相コイル(不図示)に接続されている。スイッチング素子TW1とスイッチング素子TW2との間のノードN3は、電動モータ13のW相コイル(不図示)に接続されている。
【0045】
ドライブ回路72は、降圧コンバータ70のスイッチング素子T1を駆動するように構成されている。ドライブ回路72は、制御装置61から出力される制御信号に従って、スイッチング素子T1のオン/オフを切り替える。
【0046】
ドライブ回路53は、インバータ31のスイッチング素子TU1−TW2を駆動するように構成されている。ドライブ回路53は、制御装置61から出力される制御信号に従って、各スイッチング素子のオン/オフを切り替える。
【0047】
電源回路55は、車両側システム200の副電源B2から電力の供給を受けるように構成されている。副電源B2は、充放電可能に構成された電力貯蔵要素であり、たとえば、補機バッテリである。副電源B2の電圧は、主電源B1の電圧よりも低い。副電源B2は、たとえば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池あるいは鉛蓄電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を含んで構成される。電源回路55は、副電源B2から供給される電力を所望の電力に変換するように構成されている。変換後の電力は、たとえば、制御装置61に供給される。
【0048】
通信回路80は、車両側システム200(たとえば、空調ECU102)と制御装置61との通信のためのインターフェースである。通信回路80は、たとえば、電動モータ13の目標回転数を示す指令を空調ECU102(図1)から受け、受信された指令を制御装置61に出力する。通信回路80は、たとえば、副電源B2から電力の供給を受ける。通信回路80は、絶縁回路60を介して制御装置61に接続されている。なお、絶縁回路60は、たとえば、フォトカプラで構成される。
【0049】
制御装置61は、図示しないCPU及びメモリを内蔵し、当該メモリに記憶された情報や各センサからの情報に基づいてドライブ回路72,53を制御する。制御装置61は、たとえば、ドライブ回路72を駆動させることによって、降圧コンバータ70を駆動させる。また、制御装置61は、ドライブ回路53を駆動させることによって、インバータ31を駆動させる。
【0050】
[インバータ及びコンバータのキャリア周波数]
たとえば、仮に電動圧縮機10において、降圧コンバータ70が設けられておらず、主電源B1が高電圧であるとする。この場合には、インバータ31や電動モータ13には高電圧が印加されるため、インバータ31や電動モータ13の各部品に要求される絶縁耐力は高くなる。その結果、たとえば、インバータ31や電動モータ13が大型化する可能性がある。本実施の形態に従う電動圧縮機10においては、降圧コンバータ70が設けられているため、インバータ31や電動モータ13に主電源B1の高電圧が直接印加されることはない。したがって、電動圧縮機10によれば、インバータ31や電動モータ13の各部品に要求される絶縁耐力を抑制することができ、インバータ31や電動モータ13の大型化を抑制することができる。
【0051】
そして、電動圧縮機10においては、本体の小型化(大型化の抑制)のためのさらなる工夫が施されている。具体的には、制御装置61は、降圧コンバータ70のPWM制御におけるキャリア周波数が、インバータ31のPWM制御におけるキャリア周波数よりも高くなるようにドライブ回路72,53を制御するように構成されている。
【0052】
図3は、降圧コンバータ70及びインバータ31のキャリア周波数を説明するための図である。図3を参照して、横軸は周波数を示し、縦軸はドライブ回路72,53の出力電圧を示す。
【0053】
インバータ31のPWM制御におけるキャリア周波数は、たとえば、周波数f1である。一方、降圧コンバータ70のPWM制御におけるキャリア周波数は、たとえば、周波数f2である。周波数f2は、周波数f1よりも高い。すなわち、降圧コンバータ70のキャリア周波数は、インバータ31のキャリア周波数よりも高い。
【0054】
電動圧縮機10においては、降圧コンバータ70のPWM制御におけるキャリア周波数が高く設定されるため、スイッチング素子T1の1回のスイッチングによってコイルL2に蓄えられるエネルギーが小さくなる。その結果、電動圧縮機10によれば、コイルL2を小型化することができる。
【0055】
また、電動圧縮機10においては、降圧コンバータ70のPWM制御におけるキャリア周波数が高く設定されるため、スイッチング素子T1の1回のスイッチングによってコイルL2に蓄えられるエネルギーが小さく抑えられ、フィルタ回路63に流れるリップル電流が小さくなる。その結果、電動圧縮機10によれば、降圧コンバータ70の入力側に接続されたフィルタ回路63の部品を小型化することができる。
【0056】
また、電動圧縮機10によれば、インバータ31のPWM制御におけるキャリア周波数が低く設定されるため、電動モータ13のステータ23からの漏れ電流を抑制することができるとともに、スイッチング素子TU1−TW2の発熱を抑制することができる。
【0057】
なお、降圧コンバータ70及びインバータ31の両方のキャリア周波数を高くすると、両方が高温になるため好ましくない。また、インバータ31の駆動周波数を高くするためには、スイッチング素子TU1−TW2(6つ)のすべての駆動周波数を高くする必要があるため、降圧コンバータ70のスイッチング素子T1(1つ)の駆動周波数を高くするよりもコストが掛かる。
【0058】
[効果的な冷却が可能な部品配置]
このように、電動圧縮機10においては、降圧コンバータ70のキャリア周波数がインバータ31のキャリア周波数よりも高く設定されるため、降圧コンバータ70の方がインバータ31よりも高温になりやすい。そこで、電動圧縮機10においては、降圧コンバータ70を効果的に冷却可能な構成が採用されている。降圧コンバータ70を効果的に冷却するために、回路室33(カバー32(図1))内における各部品の配置が工夫されている。まず、回路室33内における各部品の配置を説明する前に、前提となる事項について説明する。
【0059】
図4は、インバータユニット30、及び、インバータユニット30に接続される他の回路の印加電圧を説明するための図である。図4を参照して、インバータユニット30、及び、インバータユニット30に接続される他の回路を印加電圧毎に分類すると、超高電圧部71、高電圧部35、及び、低電圧部81に分類することができる。超高電圧部71、高電圧部35、及び、低電圧部81は、それぞれ異なる電圧が印加された配線パターンとして認識できる。
【0060】
超高電圧部71においては、降圧コンバータ70による降圧前の主電源B1の電圧が印加される。超高電圧部71には、たとえば、フィルタ回路63と降圧コンバータ70とが含まれる。高電圧部35においては、降圧コンバータ70による降圧後の電圧が印加される。高電圧部35には、たとえば、インバータ31が含まれる。低電圧部81においては、副電源B2の電圧が印加される。低電圧部81には、たとえば、電源回路55と通信回路80とが含まれる。
【0061】
図5は、図1のIV−IV断面図であり、回路室33(カバー32)内における各部品の配置場所を説明するための図である。図5を参照して、冷媒は、吸入ポート11aから吸入され、カバー32の裏面側(ハウジング11内)を通流する。回路室33(カバー32)内において、降圧コンバータ70が含まれる超高電圧部71は、吸入ポート11aに最も近い位置に配置されている。インバータ31が含まれる高電圧部35は、超高電圧部71の次に吸入ポート11aに近い位置に配置されている。そして、通信回路80が含まれる低電圧部81は、吸入ポート11aから最も遠い位置に配置されている。より具体的には、降圧コンバータ70のスイッチング素子が、インバータ31のスイッチング素子よりも吸入ポート寄りに配置されている。
【0062】
すなわち、電動圧縮機10においては、降圧コンバータ70の方がインバータ31よりも吸入ポート11aに近い位置に配置されている。したがって、電動圧縮機10によれば、降圧コンバータ70のキャリア周波数がインバータ31のキャリア周波数よりも高いとしても、降圧コンバータ70の冷却をより低温の冷媒によって行なうことができるため、降圧コンバータ70の冷却を効果的に行なうことができる。
【0063】
また、電動圧縮機10においては、通信回路80が含まれる低電圧部81が回路室33の壁面(カバー32の内面)に沿うように配置されている。壁面に低電圧部が隣接することにより部品と壁面との電圧差が小さくなるため、たとえば、降圧コンバータ70と壁面とが隣接して配置される場合と比較して、空間の絶縁距離を短くすることができる。その結果、電動圧縮機10によれば、電動圧縮機10の大型化を抑制することができる。
【0064】
また、電動圧縮機10においては、インバータ31(高電圧部35)は、降圧コンバータ70(超高電圧部71)と通信回路80(低電圧部81)とを隔てるように(の間に)配置されている。具体的には、インバータを含む高電圧が印加される配線パターンは、降圧コンバータを含む超高電圧が印加される配線パターンと通信回路を含む低電圧が印加される配線パターンとを隔てている。したがって、隣接する部品間の電圧差が小さくなるため、たとえば、降圧コンバータ70と通信回路80とが隣接して配置される場合と比較して、部品間の絶縁距離を短くすることができる。その結果、電動圧縮機10によれば、電動圧縮機10の大型化を抑制することができる。また、通信回路80が降圧コンバータ70のような高周波部から遠い位置に配置されているため、通信回路80による通信が輻射ノイズの影響を受けにくい。したがって、輻射ノイズの対策部品を削減することができるため、電動圧縮機10の大型化を抑制することができる。
【0065】
以上のように、本実施の形態に従う電動圧縮機10において、制御装置61は、降圧コンバータ70のPWM制御におけるキャリア周波数を、インバータ31のPWM制御におけるキャリア周波数よりも高くするように構成されている。電動圧縮機10によれば、電動圧縮機10の大型化を抑制することができる。
【0066】
[変形例1]
上記実施の形態においては、降圧コンバータ70のキャリア周波数は一定とされた。しかしながら、降圧コンバータ70のキャリア周波数は必ずしも一定である必要はない。たとえば、降圧コンバータ70のキャリア周波数は、周期的に変更されてもよい。
【0067】
図6は、本変形例1における降圧コンバータ70のキャリア周波数を説明するための図である。図6を参照して、横軸は周波数を示し、縦軸はドライブ回路72,53の出力電圧を示す。
【0068】
インバータ31のPWM制御におけるキャリア周波数は、たとえば、周波数f11である。一方、降圧コンバータ70のPWM制御におけるキャリア周波数は、たとえば、周波数f12−f13の間で周期的に変更される。なお、降圧コンバータ70のキャリア周波数のうち最も低い周波数f12は、インバータ31のキャリア周波数f11よりも高い。
【0069】
本変形例1に従う電動圧縮機10においては、降圧コンバータ70のキャリア周波数が周期的に変更されるため、特定の周波数のラジオノイズが際立って大きくなるなることが抑制される。したがって、この電動圧縮機10によれば、ラジオノイズを低減するための部品の数を低減することができるため、電動圧縮機10の大型化を抑制(小型化を実現)することができる。
【0070】
[変形例2]
上記実施の形態においては、図5に示される位置に、超高電圧部71、高電圧部35及び低電圧部81が配置された。しかしながら、超高電圧部71、高電圧部35及び低電圧部81の配置は必ずしもこのような例に限定されない。
【0071】
図7は、本変形例2における、回路室33内における超高電圧部71、高電圧部35及び低電圧部81の配置場所を説明するための図である。図7を参照して、超高電圧部71は、吸入ポート11aに最も近い位置に配置されている。これにより、降圧コンバータ70を効果的に冷却することができる。また、低電圧部81は、回路室33の壁面と広い範囲で対抗している。上述のように低電圧部81とカバー32との距離は短くすることができるため、低電圧部81が回路室33の壁面と対向する範囲が広くなることによって、回路室33を小型化することができる。
【0072】
[変形例3]
上記実施の形態においては、図5に示される位置に、超高電圧部71、高電圧部35及び低電圧部81が配置された。しかしながら、超高電圧部71、高電圧部35及び低電圧部81の配置は必ずしもこのような例に限定されない。
【0073】
図8は、本変形例3における、回路室33内における超高電圧部71、高電圧部35及び低電圧部81の配置場所を説明するための図である。図8を参照して、超高電圧部71は、吸入ポート11aに最も近い位置に配置されており、高電圧部35は、超高電圧部71の次に吸入ポート11aに近い位置に配置されている。低電圧部81は、吸入ポート11aから最も遠い位置に配置されている。この変形例3に従う電動圧縮機10においても、超高電圧部71が吸入ポート11aに最も近い位置に配置されるため、降圧コンバータ70を効果的に冷却することができる。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上記実施の形態においては、カバー32の形状は有底円筒形状であり、カバー32の内周面が回路室33の壁面を構成していたが、カバー32の形状はこれに限定されない。ハウジングの端面から円筒状の壁面が立設され、この壁面に板状のカバーが締結されることで、回路室の壁面を構成してもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 電動圧縮機、11 ハウジング、11a 吸入ポート、11b 吐出口、11c 壁部、12 圧縮部、13 電動モータ、21 回転軸、22 ロータ、23 ステータ、24 ステータコア、25 コイル、30 インバータユニット、31 インバータ、32 カバー、33 回路室、35 高電圧部、43 ボルト、51 回路基板、53,72 ドライブ回路、54 コネクタ、55 電源回路、60 絶縁回路、61 制御装置、63 フィルタ回路、70 降圧コンバータ、71 超高電圧部、80 通信回路、81 低電圧部、100 車両空調装置、101 外部冷却回路、102 空調ECU、150 ケーブル、200 車両側システム、PL1,PL2 正極線、NL1,NL2 負極線、T1,TU1,TU2,TV1,TV2,TW1,TW2 スイッチング素子、D1,DU1,DU2,DV1,DV2,DW1,DW2 ダイオード、C1,C2,C3 キャパシタ、F1 コモンモードフィルタ、L1,L2 コイル、N1,N2,N3,N4,N5 ノード、B1 主電源、B2 副電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8