(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱伝導シートが、前記樹脂と、前記粒子状炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを形成した後、前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して得た積層体、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して得た積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスして得たシートである、請求項1〜6の何れか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の絶縁性熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の絶縁性熱伝導シートは、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。そして、本発明の絶縁性熱伝導シートは、例えば本発明の絶縁性熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。
【0021】
(絶縁性熱伝導シート)
図1に示すように、本発明の絶縁性熱伝導シート(10)は、絶縁層(2)と、絶縁層(2)の厚み方向上下にそれぞれ配置された熱伝導シート(1)とを備えている。また、本発明の絶縁性熱伝導シート(10)の熱伝導シート(1)は、樹脂および粒子状炭素材料を含み、アスカーC硬度が70以下である。そして、本発明の絶縁性熱伝導シートは、粒子状炭素材料を含有する熱伝導シートと、絶縁層とを備えるため、絶縁性および熱伝導性に優れている。また、本発明の絶縁性熱伝導シートは、表面側に位置する熱伝導シートのアスカーC硬度が70以下であるので、柔軟性に優れており、放熱体や発熱体等の取付物に良好に密着することができる。従って、本発明の絶縁性熱伝導シートは、絶縁性、熱伝導性、および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができる。
なお、
図1では、2層の熱伝導シート(1)で絶縁層(2)を直接挟み込んでなる絶縁性熱伝導シート(10)を示しているが、本発明の絶縁性熱伝導シートは、本発明の効果を著しく損なわない限り、絶縁層と熱伝導シートとの間に他の層(例えば、接着層等)を備えていてもよい。また、
図1では熱伝導シート(1)および絶縁層(2)が単一の層よりなる場合を示しているが、本発明の絶縁性熱伝導シートでは、熱伝導シートおよび絶縁層は多層構造を有していてもよい。更に、絶縁層の上側に位置する熱伝導シートと、絶縁層の下側に位置する熱伝導シートとは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
<熱伝導シート>
絶縁層の厚み方向両側に設けられた熱伝導シートは、樹脂および粒子状炭素材料を含み、アスカーC硬度が70以下であることを必要とする。熱伝導シートが粒子状炭素材料を含有しない場合には、十分な熱伝導性を得ることができない。また、熱伝導シートが樹脂を含有しない場合や熱伝導シートのアスカーC硬度が70超の場合には、十分な柔軟性が得られない。
【0023】
[樹脂]
ここで、樹脂としては、特に限定されることなく、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の樹脂を用いることができる。具体的には、樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。なお、本発明において、ゴムおよびエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。また、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂とは併用してもよい。
【0024】
[[熱可塑性樹脂]]
なお、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2−エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン−プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン−アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン−ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン−イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
[[熱硬化性樹脂]]
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上述した中でも、絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂を用いれば、絶縁層の上下に位置する熱伝導シートの柔軟性を更に向上させ、絶縁性熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを良好に密着させることができるからである。
【0027】
[粒子状炭素材料]
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることができるので、絶縁性熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができるからである。
【0028】
[[膨張化黒鉛]]
ここで、粒子状炭素材料として好適に使用し得る膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0029】
[[粒子状炭素材料の性状]]
ここで、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートに含有されている粒子状炭素材料の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、250μm以下であることが好ましい。粒子状炭素材料の平均粒子径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることができるので、絶縁性熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができるからである。
また、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートに含有されている粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0030】
なお、本発明において「平均粒子径」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について最大径(長径)を測定し、測定した長径の個数平均値を算出することにより求めることができる。また、本発明において、「アスペクト比」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0031】
[[粒子状炭素材料の含有割合]]
そして、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シート中の粒子状炭素材料の含有割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましい。熱伝導シート中の粒子状炭素材料の含有割合が30質量%以上90質量%以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性および強度をバランス良く十分に高めることができるからである。また、粒子状炭素材料の含有割合が90質量%以下であれば、粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができるからである。
【0032】
[繊維状炭素材料]
本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートに任意に配合される繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そして、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートに繊維状炭素材料を含有させれば、熱伝導性を更に向上させることができると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを防止することもできる。なお、繊維状炭素材料を配合することで粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる理由は、明らかではないが、繊維状炭素材料が三次元網目構造を形成することにより、熱伝導性や強度を高めつつ粒子状炭素材料の脱離を防止しているためであると推察される。
【0033】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの熱伝導性および強度を更に向上させることができるからである。
【0034】
[[カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体]]
ここで、繊維状炭素材料として好適に使用し得る、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)のみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの熱伝導性および強度を更に向上させることができるからである。
【0035】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。したがって、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の配合により本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、本発明の絶縁性熱伝導シートの熱伝導性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができる。
なお、「繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状の炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状の炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0036】
そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0037】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状の炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0038】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。したがって、繊維状の炭素ナノ構造体の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、本発明の絶縁性熱伝導シートの熱伝導性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができる。
【0039】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。また、繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。
【0040】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、合成時における構造体の平均長さが100μm以上5000μm以下であることが好ましい。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
【0041】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることが更に好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることが更に好ましい。更に、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m
2/g以上であることが好ましい。CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m
2/g以上であれば、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m
2/g以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シート中のCNTの分散性を高めることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0042】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、繊維状の炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm
3以上0.2g/cm
3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm
3以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、熱伝導シート中で繊維状の炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm
3以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0043】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0044】
ここで、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0045】
[[繊維状炭素材料の性状]]
そして、熱伝導シートに含まれうる繊維状炭素材料の平均繊維径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性および強度を十分に高いレベルで並立させることができるからである。ここで、繊維状炭素材料のアスペクト比は、10を超えることが好ましい。
【0046】
なお、本発明において、「平均繊維径」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均値を算出することにより求めることができる。特に、繊維径が小さい場合は、同様の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察することが好適である。
【0047】
[[繊維状炭素材料の含有割合]]
そして、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が0.05質量%以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に向上させることができると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができるからである。更に、熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が5質量%以下であれば、繊維状炭素材料の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、本発明の絶縁性熱伝導シートの熱伝導性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができるからである。
【0048】
[添加剤]
本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートには、必要に応じて、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の添加剤を配合することができる。そして、熱伝導シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、可塑剤;赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤などの難燃剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。
【0049】
[熱伝導シートの性状]
そして、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートは、特に限定されることなく、以下の性状を有していることが好ましい。
【0050】
[[熱伝導シートの熱伝導率]]
熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、20W/m・K以上であることが好ましく、30W/m・K以上であることがより好ましく、40W/m・K以上であることが更に好ましい。熱伝導率が20W/m・K以上であれば、熱伝導シートを備える絶縁性熱伝導シートの熱伝導性を十分に高め、例えば絶縁性熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えることができる。
【0051】
[[熱伝導シートの硬度]]
更に、熱伝導シートは、アスカーC硬度が、70以下であることが必要であり、65以下であることが好ましい。本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートのアスカーC硬度が70以下であれば、本発明の絶縁性熱伝導シートを、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、優れた柔軟性を発揮し、発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。
【0052】
[[熱伝導シートの厚み]]
なお、熱伝導シートの厚みは、好ましくは0.1mm〜10mmである。
【0053】
<絶縁層>
絶縁層は、絶縁性熱伝導シートの絶縁性を確保するための層である。上述した熱伝導シートは、粒子状炭素材料を含有しているため、通常、熱伝導性のみならず導電性も有しているが、熱伝導シート間に絶縁層を配置すれば、絶縁性熱伝導シートに良好な絶縁性を付与することができる。そして、絶縁層は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いて形成することができる。熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂としては、上述した熱伝導シートの形成に使用され得る既知の樹脂や、環状オレフィン樹脂を採用することができる。中でも、環状オレフィン樹脂を用いて絶縁層を形成することが好ましい。また、絶縁層は、絶縁性を確保することができれば樹脂以外に既知の添加剤を含有していてもよい。中でも、絶縁層の難燃性を高めるために、絶縁層は難燃性充填剤を含有することが好ましい。
【0054】
[環状オレフィン樹脂]
本発明の絶縁性熱伝導シートの絶縁層に使用し得る環状オレフィン樹脂は、開環メタセシス重合などの既知の重合方法を用いて環状オレフィンモノマーを含む単量体組成物を重合させることで得ることができる。ここで、環状オレフィン樹脂の原料である環状オレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その具体例は、ノルボルネン系モノマー、単環環状オレフィン等である。好ましい環状オレフィンモノマーはノルボルネン系モノマーである。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーの具体例は、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などである。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基;カルボキシル基、酸無水物基などの極性基を置換基として含有し得る。
なお、ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、さらに二重結合を有していてもよい。また、好ましいノルボルネン系モノマーは、非極性の、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーである。
【0055】
非極性のノルボルネン系モノマーの具体例は、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エンとも言う。)などの非極性のジシクロペンタジエン類; テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−メチレンテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−プロペニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−4−エンなどの非極性のテトラシクロドデセン類;2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−シクロペンチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロ[9.2.1.0
2,10.0
3,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンとも言う。)、テトラシクロ[10.2.1.0
2,11.0
4,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンとも言う。)などの非極性のノルボルネン類;ペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]ペンタデカ−4,10−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.1
4,7.0
2,10.0
3,8]ペンタデカ−5,12−ジエン、ヘキサシクロ[6.6.1.1
3,6.1
10,13.0
2,7.0
9,14]ヘプタデカ−4−エンなどの五環体以上の非極性の環状オレフィン類;などである。
【0056】
入手容易性と絶縁層の絶縁性向上の観点から、好ましい非極性ノルボルネン系モノマーは、非極性ジシクロペンタジエン類、非極性テトラシクロドデセン類であり、より好ましい非極性ノルボルネン系モノマーは、非極性ジシクロペンタジエン類である。すなわち、本発明の絶縁性熱伝導シートの絶縁層に使用し得る環状オレフィン樹脂は、ジシクロペンタジエン類単量体単位を含むことが好ましい。
【0057】
極性基を含むノルボルネン系モノマーの具体例は、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−9−エン−4−メタノール、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、2−アセチル−5−ノルボルネン、7−オキサ−2−ノルボルネンなどである。
【0058】
単環環状オレフィンの具体例は、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエン、および置換基を有するこれらの誘導体などである。
【0059】
これらの環状オレフィンモノマーは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
[重合触媒]
上述した環状オレフィン樹脂の重合時に使用し得る開環メタセシス重合触媒としては、特に限定されることなく、既知の開環メタセシス重合触媒を使用することができる。具体的には、遷移金属原子を中心にして、イオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が複数結合してなる錯体が、開環メタセシス重合触媒として使用することができる。5族、6族および8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が、遷移金属原子として使用できる。それぞれの族の原子は特に限定されないが、好ましい5族の原子はタンタルであり、好ましい6族の原子はモリブデン、タングステンであり、好ましい8族の原子はルテニウム、オスミウムである。
好ましい開環メタセシス重合触媒は、8族のルテニウム、オスミウムの錯体であり、特に好ましい開環メタセシス重合触媒は、ルテニウムカルベン錯体である。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、残留未反応モノマーが少ない架橋環状オレフィン樹脂が生産性よく得られる。
【0061】
[難燃性充填剤]
本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する絶縁層に含有されうる難燃性充填剤としては、特に限定されないが、通常、周期表2族または13族の金属の水酸化物が好適に用いられる。周期表2族の金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を、周期表13族の金属として、アルミニウム、ガリウム、インジウム等を、それぞれ挙げることができる。中でも、難燃性充填剤としては、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムが好ましく、水酸化アルミニウムがより好ましい。なお、難燃性充填剤としてはハロゲンを含まないものが一般に好適である。
【0062】
難燃性充填剤には、その難燃特性、樹脂に与える物性などを損なわない範囲で、耐水性や分散性を付与する目的で表面処理を施すことができる。使用する表面処理剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウムなどの脂肪族系処理剤;ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル系界面活性剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤などのカップリング剤;などを挙げることができ、特にチタネート系カップリング剤が好ましい。
【0063】
チタネート系カップリング剤としては、既知のチタネート系カップリング剤、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、およびジイソステアロイルエチレンチタネート等が挙げられる。
【0064】
特に、チタネート処理した水酸化アルミニウムを絶縁層に配合することで、絶縁層の熱伝導性と耐電圧特性を一層向上させることができる。なお、上述した難燃性充填剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0065】
表面処理方法は特に限定されないが、ヘンシェルミキサー等による乾式法、溶媒スラリー中で処理する湿式法、コンパウンド時に処理剤を投入するインテグラルブレンド法などを挙げることができる。表面処理剤の添加量は、被処理体に対して、好ましくは0.1〜5質量%、特に好ましくは0.5〜3質量%で、この範囲より小さいと表面処理効果が小さく、多いと機械物性などが低下する。
【0066】
本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する絶縁層に配合する難燃性充填剤の量は、樹脂100質量部に対して、通常、50質量部以上、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上であり、特に好ましくは300質量部以上であり、通常、600質量部以下、好ましくは500質量部以下、より好ましくは400質量部以下である。難燃性充填剤の含有量が600質量部を超えると、絶縁層の硬度が増大し、更に、配合量が多すぎれば絶縁層を形成すること自体が困難となる虞がある。一方、難燃性充填剤の含有量が100質量部未満であると、絶縁層の難燃性が不十分となり、更に絶縁性熱伝導シートの熱伝導率と耐電圧特性が低下する虞がある。
【0067】
[その他]
なお、絶縁層としては、市販のフィルムを採用することもできる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、およびポリイミドなどの材料を含むフィルムを絶縁層として採用することができる。
【0068】
[絶縁層の厚さ]
本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する絶縁層の厚さは、50μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。絶縁層の厚さを上記範囲とすることによって、十分な熱伝導性、絶縁性及び柔軟性を確保することができる。
【0069】
(絶縁性熱伝導シートの性状)
[絶縁性熱伝導シートの熱伝導率]
本発明の絶縁性熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、7W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることが好ましく、15W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導率が10W/m・K以上であれば、本発明の絶縁性熱伝導シートを例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えることができる。
【0070】
[熱伝導シートの耐電圧試験値]
本発明の絶縁性熱伝導シートは、耐電圧試験値が10kV/mm以上であることが好ましく、12kV/mm以上であることがより好ましい。耐電圧試験値が10kV/mm以上であれば、本発明の絶縁性熱伝導シートを例えば電子部品に使用した場合に、絶縁シートとして十分に機能することができる。
【0071】
[熱伝導シートの密度]
さらに、本発明の絶縁性熱伝導シートは、密度が1.8g/m
3以下であることが好ましく、1.6g/m
3以下であることがより好ましい。このような絶縁性熱伝導シートは、汎用性が高く、例えば電子部品などの製品に実装した際に、かかる電子部品の軽量化に寄与することができるからである。
【0072】
(絶縁性熱伝導シートの製造方法)
そして、上述した絶縁性熱伝導シートは、特に限定されることなく、アスカーC硬度が70以下の熱伝導シートを調製する工程(熱伝導シート調製工程)と、絶縁層の厚み方向上下に熱伝導シートを積層する工程(絶縁層−熱伝導シート積層工程)とを経て製造されることが好ましい。さらに、熱伝導シートを調製する工程は、樹脂および粒子状炭素材料を含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得ること(プレ熱伝導シート成形)と、プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得ること(熱伝導シート積層体形成)と、得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、熱伝導シートを得ること(スライス)と、を含むことが好ましい。
【0073】
<熱伝導シート調製工程>
[プレ熱伝導シート成形]
プレ熱伝導シート成形では、樹脂および粒子状炭素材料を含み、任意に添加剤を更に含有する組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0074】
[[組成物]]
ここで、組成物は、樹脂および粒子状炭素材料と、任意の添加剤とを混合して調製することができる。そして、樹脂、粒子状炭素材料、および添加剤としては、本発明の絶縁性熱伝導シートを構成する熱伝導シートに含まれ得る樹脂、粒子状炭素材料および添加剤として上述したものを用いることができる。因みに、熱伝導シートの樹脂を架橋型の樹脂とする場合には、架橋型の樹脂を含む組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成してもよいし、架橋可能な樹脂と硬化剤とを含有する組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成し、プレ熱伝導シート成形後に架橋可能な樹脂を架橋させることにより、熱伝導シートに架橋型の樹脂を含有させてもよい。
【0075】
なお、混合は、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー等の既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。そして、混合時間は、例えば5分以上6時間以下とすることができる。また、混合温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
【0076】
[[組成物の成形]]
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0077】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば特に限定されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形によりシート状に形成することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に限定されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下とすることができる。
【0078】
なお、組成物に繊維状炭素材料を含有させる場合には、繊維状炭素材料の分散性を向上させるために以下の処理をすることが好ましい。まず、繊維状炭素材料は、凝集し易く、分散性が低いため、そのままの状態で樹脂などの他の成分と混合すると、組成物中で良好に分散し難い。一方、繊維状炭素材料は、溶媒(分散媒)に分散させた分散液の状態で他の成分と混合すれば凝集の発生を抑制することはできるものの、分散液の状態で混合した場合には混合後に固形分を凝固させて組成物を得る際などに多量の溶媒を使用するため、組成物の調製に使用する溶媒の量が多くなる虞が生じる。そのため、プレ熱伝導シートの形成に用いる組成物に繊維状炭素材料を配合する場合には、繊維状炭素材料は、溶媒(分散媒)に繊維状炭素材料を分散させて得た分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素材料の集合体(易分散性集合体)の状態で他の成分と混合することが好ましい。ここで、易分散性集合体の調製に用いる分散液としては、特に限定されることなく、既知の分散処理方法を用いて繊維状炭素材料の集合体を溶媒に分散させてなる分散液を用いることができる。具体的には、分散液としては、繊維状炭素材料と、溶媒とを含み、任意に分散剤などの分散液用添加剤を更に含有する分散液を用いることができる。
【0079】
繊維状炭素材料の分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素材料の集合体は、一度溶媒に分散させた繊維状炭素材料で構成されており、溶媒に分散させる前の繊維状炭素材料の集合体よりも分散性に優れているので、分散性の高い易分散性集合体となる。従って、易分散性集合体と他の成分とを混合すれば、多量の溶媒を使用することなく効率的に、組成物中で繊維状炭素材料を良好に分散させることができる。即ち、絶縁性熱伝導シートを製造する際には、プレ熱伝導シート成形の前に組成物調製を行うことが好ましい。
【0080】
[[プレ熱伝導シート]]
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートでは、粒子状炭素材料が主として面内方向に配列し、特にプレ熱伝導シートの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
なお、プレ熱伝導シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させる観点からは、プレ熱伝導シートの厚みは、粒子状炭素材料の平均粒子径の20倍超5000倍以下であることが好ましい。
【0081】
[積層体形成]
積層体形成にあたり、プレ熱伝導シート成形により得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートの折畳による積層体の形成は、特に限定されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの捲回による積層体の形成は、特に限定されることなく、プレ熱伝導シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0082】
ここで、通常、積層体形成により得られる積層体において、プレ熱伝導シートの表面同士の接着力は、プレ熱伝導シートを積層する際の圧力や折畳または捲回する際の圧力により充分に得られる。しかし、接着力が不足する場合や、積層体の層間剥離を十分に抑制する必要がある場合には、プレ熱伝導シートの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層体形成を行ってもよいし、プレ熱伝導シートの表面に接着剤を塗布した状態またはプレ熱伝導シートの表面に接着層を設けた状態で積層体形成を行ってもよい。
【0083】
なお、プレ熱伝導シートの表面を溶解させる際に用いる溶剤としては、特に限定されることなく、プレ熱伝導シート中に含まれている樹脂成分を溶解可能な既知の溶剤を用いることができる。
【0084】
また、プレ熱伝導シートの表面に塗布する接着剤としては、特に限定されることなく、市販の接着剤や粘着性の樹脂を用いることができる。中でも、接着剤としては、プレ熱伝導シート中に含まれている樹脂成分と同じ組成の樹脂を用いることが好ましい。そして、プレ熱伝導シートの表面に塗布する接着剤の厚さは、例えば、10μm以上1000μm以下とすることができる。
更に、プレ熱伝導シートの表面に設ける接着層としては、特に限定されることなく、両面テープなどを用いることができる。
【0085】
なお、層間剥離を抑制する観点からは、得られた積層体は、積層方向に0.05MPa以上1.0MPa以下の圧力で押し付けながら、20℃以上100℃以下で1〜30分プレスすることが好ましい。
【0086】
なお、組成物に繊維状炭素材料を加えた場合、あるいは粒子状炭素材料として膨張化黒鉛を使用した場合には、プレ熱伝導シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体にて、膨張化黒鉛や繊維状炭素材料が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。
【0087】
[スライス]
スライスにあたり、積層体形成により得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
そして、スライスを経て得られた熱伝導シートは、通常、樹脂、および粒子状炭素材料と、任意の添加剤とを含む条片(積層体を構成していたプレ熱伝導シートのスライス片)が並列接合されてなる構成を有する。
【0088】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0089】
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は−20℃以上40℃以下とすることが好ましく、10℃以上30℃以下とすることがより好ましい。更に、同様の理由により、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。このようにして得られた熱伝導シート内では、粒子状炭素材料や繊維状炭素材料が厚み方向に配列していると推察される。従って、上述の工程を経て調製された熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導性だけでなく、導電性も高い。
【0090】
<絶縁層−熱伝導シート積層工程>
絶縁層−熱伝導シート積層工程では、絶縁層の厚み方向上下に熱伝導シートを積層させる。上述したとおり、絶縁層としては市販のフィルム等を採用することもできるが、下記のようにして絶縁層を製造することもできる。
【0091】
[絶縁層]
絶縁層は、上述したような単量体組成物と、メタセシス重合触媒と、任意に難燃性充填剤などの添加剤とを含む原料の塗膜を加熱して成膜することで得られる。塗膜を得るために使用する成膜基材としては、樹脂基材、ガラス基材などを挙げることができる。ここで、樹脂基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどよりなる基材を挙げることができる。また、ガラス基材としては、通常のソーダガラスよりなる基材を挙げることができる。塗布方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、ロールナイフコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等を用いることができる。
絶縁層の膜厚は、特に限定されることなく、絶縁性熱伝導シートの絶縁性および熱伝導性を並立しうる膜厚とすることが望ましい。
【0092】
絶縁層と熱伝導シートを積層させるにあたり、絶縁層の上下の層は同じでも相異なってもよい。また、絶縁層および熱伝導シートはそれぞれ、単層であっても、2枚以上が積層された多層構造を有していてもよい。積層させた絶縁層および熱伝導シートを密着させる方法は特に限定はなく、熱プレス、粘着剤の使用、粘着テープによる貼り付け、有機溶剤によりシート表面を溶解させアンカー効果による密着性付与等が挙げられる。中でも各層の自己粘着性を生かして密着させる方法が絶縁性熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を向上させる点で望ましい。このため、積層させた絶縁層および熱伝導シートを密着させる際には、プレス機による熱プレスが好適に用いられる。熱プレスの際の温度条件は、20〜100℃の範囲が好ましい。これは、高温すぎると熱伝導シートに含まれる樹脂が脆性化し、低温すぎると熱伝導シートに含まれる樹脂が軟化しないためである。さらに熱プレスの際の圧力条件は0.05MPa〜1.0MPaであることが好ましい。
【0093】
また、粘着剤を利用して絶縁層と熱伝導シートを積層させる場合には、特に限定されることなく、例えば、ポリウレタン系、エポキシ樹脂系、及び変性オレフィン系、水添エラストマー系等の粘着剤、プレ熱伝導シートの表面を溶解させる際に用いる溶剤、さらにはそれに10質量%程度のプレ熱伝導シートの樹脂成分が含まれた樹脂液により接着させることが望ましい。
【実施例】
【0094】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、熱伝導シートのアスカーC硬度、並びに、絶縁性熱伝導シートの密度(比重)、熱伝導率および耐電圧試験値は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0095】
<アスカーC硬度>
日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER(登録商標) CL−150LJ」を使用して温度23℃で測定した。
具体的には、幅30mm×長さ60mm×厚さ1.0mmの大きさに調製した熱伝導シートの試験片を6枚重ね合わせ、23℃で保たれた恒温室に48時間以上静置したものを試料としてアスカーC硬度を測定した。そして、指針が95〜98となるようにダンパー高さを調整し、試料とダンパーとが衝突してから20秒後の硬度を5回測定して、その平均値を試料のアスカーC硬度とした。
<密度(比重)および熱伝導率>
絶縁性熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m
2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および密度(比重)ρ(g/m
3)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して測定した。
[定圧比熱]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、温度25℃における比熱を測定した。
[絶縁性熱伝導シートの密度(比重)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER−H」)を用いて測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
より25℃における絶縁性熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
<耐電圧試験値>
絶縁性熱伝導シートの耐電圧試験値は油中試験装置(多摩電測株式会社製、商品名「TJ−20S」)を用いて計測した。昇圧速度を0.6kV/sとして23℃のシリコーン油中で検知電流を10mAとし、シリコーン油中に1分間浸した後、測定を行った。その結果を表に示した。
【0096】
(アクリル樹脂の調製)
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94部とアクリル酸6部とからなる単量体混合物100部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.03部および酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換した後、80℃で6時間重合反応を行った。なお、重合転化率は97%であった。そして、得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状のアクリル樹脂を得た。アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は270000であり、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は3.1であった。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0097】
(繊維状炭素材料の易分散性集合体の調製)
繊維状炭素材料であるSGCNT(平均直径:3〜5nm、比表面積=800m
2/g)を約400mg計り取り、2Lのメチルエチルケトン中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、SGCNT/メチルエチルケトン分散溶液を作製した。この溶液を湿式ジェットミル(株式会社常光製、商品名「JN-20」)を用い、0.5mmの流路を100MPaの圧力で2サイクル通過させてCNT集合体をメチルエチルケトンに分散させ、質量濃度0.20質量%のカーボンナノチューブマイクロ分散液を得た。得られた分散液を粒度分布計(堀場製作所製、商品名「LA960」)にて粒子径を測定したところ、中心粒子径は24.1μmとなった。得られた分散液をキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、ろ紙成型により繊維状炭素材料の易分散性集合体である繊維状フィラー不織布を得た。
【0098】
(熱伝導シートAの製造)
粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、平均粒子径:250μm、)を200部と、樹脂としての、上述のようにして作製したアクリル樹脂を100部と、上述のようにして作製した繊維状炭素材料(SGCNT)の易分散性集合体である繊維状フィラー不織布1部とを、溶媒としての酢酸エチル20部の存在下においてホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用いて1時間攪拌混合した。そして、得られた混合物を1時間真空脱泡し、脱泡と同時に酢酸エチルの除去を行って、繊維状炭素材料(SGCNT)と、膨張化黒鉛と、アクリル樹脂とを含有する組成物を得た。そして、得られた組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
次いで、解砕した組成物5gを、サンドブラスト処理を施した厚さ50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙330μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚さ0.3mmのプレ熱伝導シートを得た。
そして、得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に200枚積層し、厚さ6cmの積層体を得た。
その後、プレ熱伝導シートの積層体をドライアイスで−10℃に冷却した後、6cm×30cmの積層断面を、0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカ」、スリット部からの刀部の突出長さ:0.11mm)を用いて、積層方向に対して0度の角度でスライス(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線方向にスライス)し、縦6cm×横30cm×厚さ0.50mmの熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートAのアスカーC硬度を測定したところ、70であった。
【0099】
(熱伝導シートBの製造)
粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、平均粒子径:250μm)を200部と、上述のようにして作製したアクリル樹脂を100部と、上述のようにして作製した繊維状炭素材料の易分散性集合体である繊維状フィラー不織布1部と、銅粉1000部とを、溶媒としての酢酸エチル20部の存在下においてホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用いて1時間攪拌混合した。それ以外はすべて熱伝導シートAと同様にして熱伝導シートBを作製した。得られた熱伝導シートBのアスカーC硬度を測定したところ、90であった。
【0100】
(熱伝導シートCの製造)
粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、平均粒子径:250μm)を200部と、上述のようにして作製したアクリル樹脂を100部とを、溶媒としての酢酸エチル20部の存在下においてホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用いて1時間攪拌混合した。それ以外はすべて熱伝導シートAと同様にして熱伝導シートCを作製した。得られた熱伝導シートCのアスカーC硬度を測定したところ、68であった。
【0101】
(絶縁層Aの製造)
ジシクロペンタジエン95部に対して、チタネート処理された水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、商品名「B303T」、平均粒径:8μm)を300部導入し、ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用い真空状態にて回転数5で30分混合することで反応原液を得た。次に、下記式Iの構造を有するルテニウム触媒5部を上記反応原液に添加し、手撹拌にて1分間で撹拌した。得られた反応液を厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート製キャリアフィルムの上に滴下し、同じキャリアフィルムを上からかぶせた。このようにして得られたフィルムを間隙250μmのロールの間を通過させた後、200℃で10分間加熱しジシクロペンタジエンを重合してなる環状ポリオレフィン樹脂中にチタネート処理された水酸化アルミニウムが分散している絶縁層Aを得た。得られた絶縁層Aの厚みは200μmであった。
【化1】
・・・(I)
【0102】
(絶縁層Bの製造)
チタネート処理された水酸化アルミニウムの添加量を500部に変更した以外は絶縁層Aと同様にして絶縁層Bを得た。得られた絶縁層Bの厚みは200μmであった。
【0103】
(絶縁層Cの製造)
架橋していないニトリルゴム(NBR)を固形分が50%になるようにトルエンに溶解させて得たニトリルゴム溶液200部(このとき、ニトリルゴムの配合量は100部)に対して、チタネート処理された水酸化アルミニウムを500部添加した。ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用いて、真空状態で回転数5にて40分撹拌した。得られた溶液を、コンマロールを使用してポリエチレンテレフタレート(PET)基材の上に400μmの厚みで塗工した。塗工済みのPET基材を100℃雰囲気下で30分乾燥後、さらに150℃雰囲気下で30分乾燥させ絶縁層Cを得た。得られた絶縁層Cの厚みは300μmであった。
【0104】
(絶縁層Dの製造)
チタネート処理された水酸化アルミニウムの添加量を100部に変更した以外は絶縁層Aと同様にして絶縁層Dを得た。得られた絶縁層Dの厚みは200μmであった。
【0105】
(絶縁層Eの製造)
PETフィルムの上に50×50×0.5mmの金属型枠を設置した基材に対して、2液タイプのシリコーン樹脂(モメンティブ社製、商品名「TSE3062」、配合比率A液:B液=1:1)を混合し、乾燥後の厚みが50μmになるように枠内に流し込んだ。得られた基材を80℃雰囲気下で6時間乾燥させシリコーン樹脂のみからなる絶縁層Eを作製した。得られた絶縁層Eの厚みは50μmであった。
【0106】
(実施例1)
絶縁層Aの厚み方向上下に熱伝導シートAを配置し、0.1MPa、25℃で5分間プレスした。得られた絶縁性熱伝導シートについて熱伝導率および耐電圧試験値を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例2〜6)
絶縁層および熱伝導シートの組合せを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして絶縁性熱伝導シートを製造した。得られた絶縁性熱伝導シートについて熱伝導率および耐電圧試験値を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例1)
絶縁層Aの厚み方向上下に、上述のようにして作製したアクリル樹脂を乾燥膜厚500μmになるようにそれぞれ塗布し、絶縁性熱伝導シートを製造した。得られた絶縁性熱伝導シートについて熱伝導率および耐電圧試験値を測定した。結果を表1に示す。また、アクリル樹脂層のアスカーC硬度は、幅30mm×長さ60mm×厚さ1.0mmの大きさに調製したアクリル樹脂の試験片を6枚重ね合わせ、23℃で保たれた恒温室に48時間以上静置したものを試料として測定した。このようにして測定したアクリル樹脂層のアスカーC硬度は50であった。
【0109】
(比較例2)
絶縁層および熱伝導シートの組合せを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして絶縁性熱伝導シートを製造した。得られた絶縁性熱伝導シートについて熱伝導率および耐電圧試験値を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(比較例3)
熱伝導シートAを中間層として配置し、その厚み方向上下に比較例1と同様のアクリル樹脂を乾燥膜厚500μmになるようにそれぞれ塗布し、絶縁性熱伝導シートを製造した。得られた絶縁性熱伝導シートについて熱伝導率および耐電圧試験値を測定した。なお、比較例1と同様にして測定したアクリル樹脂層のアスカーC硬度は50であった。
【0111】
【表1】
【0112】
表1より、樹脂および粒子状炭素材料を含み、アスカーC硬度が70以下である熱伝導シートが、絶縁層の厚み方向上下に配置されてなる実施例1〜6の絶縁性熱伝導シートでは、粒子状炭素材料を含まない比較例1、アスカーC硬度が70超である比較例2、および熱伝導シートを中間層とした比較例3の熱伝導シートと比較し、絶縁性、熱伝導性、および柔軟性を十分に高いレベルで並立させ得ることが分かる。