【文献】
Medhi Dejhosseini,Tsutomu Aida,Masaru Watanabe,Seiichi Takami,DaisukeHojo,Nobuaki Aoki,Toshihiko Arita,Atsushi Kishita,and Tadafumi Adschiri,Catalytic Cracking Reaction of Heavy Oil in the Presence of Cerium OxideNanoparticles in Supercritical Water,Energy & Fuels,ACS Publications,2013年 7月19日,4624-4631
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応温度を370℃以下とし、かつ、反応系内の圧力を飽和蒸気圧以上とし、水の少なくとも一部を液相となして、生成する水素ガスを相分離させ、それによって前記(i)の反応平衡を反応進行側にシフトさせることを特徴とする、請求項1及び3〜9のいずれか1項に記載の方法。
前記接触反応器内において、反応温度を370℃以下とし、かつ、反応系内の圧力を飽和蒸気圧以上とし、水の少なくとも一部を液相となして、生成する水素ガスを相分離させ、それにより前記(i)の反応平衡を反応進行側にシフトさせることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題の一つは、水共存条件下にて、触媒を用いて有機物を処理するための新規な方法を提供することである。
本発明の他の課題は、水共存条件下にて、触媒を用いて有機物を吸熱的に酸化することによって、炭化水素の重質化を避けつつ酸化的に分解する方法を提供することである。
本発明のさらなる他の課題は、水共存条件下にて、触媒を用いて低温源から廃熱を効率的に回収する方法を提供することである。
本発明の別の課題は、水共存条件下にて、触媒を用いて有機物を処理するための新規な装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述の従来技術の不都合を解決するためには、固体電解質である金属酸化物触媒を用いて、水の共存下にて有機物を酸化反応させることによって、有機物を効率的に酸化反応に供し、あるいは低温源から廃熱を効率的に回収することが可能であることを見出し、この発見に基づいて本発明を完成させた。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の構成は、以下のとおりである。
[1]
水熱条件下で、金属酸化物触媒の酸化還元サイクルを利用して、有機物を処理する方法であって、
(i)酸化された金属価を有する金属酸化物触媒から放出された酸素によって、有機物を酸化し、それによって、還元された金属価を有する金属酸化物触媒及び酸化された有機物を形成すること、並びに
(ii)前記(i)と同時に、水から放出された酸素によって、前記の還元された金属価を有する金属酸化物触媒を酸化し、それによって、酸化された金属価を有する金属酸化物触媒を再生することを含み、
前記金属酸化物触媒が固体電解質である、有機物の処理方法。
[2]
前記(i)及び(ii)の全体ではΔH(前記水熱条件下)>0であり、
有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスを含むことを特徴とする[1]に記載の方法。
[3]
前記反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスに加えて、前記酸化された有機物が更に水素化された物質を含むことを特徴とする[2]に記載の方法。
[4]
有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物が更に水素化された物質を含むことを特徴とする[1]に記載の方法。
[5]
超臨界水、又は臨界前の水の共存下で、前記(i)及び(ii)の反応を行うことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]
前記金属酸化物触媒が、酸化セリウム(CeO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化鉄(Fe
2O
3)、イットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)、酸化スカンジウムドープ酸化ジルコニウム(ScSZ)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)、酸化ランタンガリウム(LaGaO
3)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ガドリニウムドープ酸化セリウム(Gd−CeO
2)、酸化モリブデン(MoO
3)、酸化マンガン(MnO
3)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、四酸化三コバルト(Co
3O4)、酸化コバルトII(CoO)、酸化バナジウム(V
2O
5)、及びセリア・ジルコニア固溶体からなる群から選択されることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[7]
前記金属酸化物触媒が酸化セリウム(CeO
2)のナノ粒子を含むことを特徴とする[6]に記載の方法。
[8]
前記金属酸化物触媒が、八面体及び/又は立方体であり、(111)面及び/又は(100)面を主な露出面とする酸化セリウム(CeO2)のナノ粒子を含むことを特徴とする[7]に記載の方法。
[9]
前記有機物の過半量が、炭化水素から構成されていることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10]
前記(i)が、炭化水素の酸化的分解反応を含むことを特徴とする[9]に記載の方法。
[11]
前記有機物が、アルデヒド、汚泥、リグニン、プラスチックス廃棄物、及びバイオマス廃棄物から選択される物質を含むことを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1項に記載の方法。
[12]
室温以上でありかつ450℃未満の温度にて、前記(i)及び(ii)の反応を行うことを特徴とする[1]〜[11]のいずれか1項に記載の方法。
[13]
前記(i)が、炭化水素の酸化的分解反応を含み、
前記(ii)が、水に由来する水素によって、酸化的に分解された有機物がさらに水素化され、より小さい分子量の生成物が得られることを
含むことを特徴とする、[1]〜[12]のいずれか1項に記載の方法。
[14]
水素化後において、飽和炭化水素のモル収量の不飽和炭化水素モル収量に対する比が無触媒下での分解反応におけるそれより大きいことを特徴とする[13]に記載の方法。
[15]
反応温度を370℃以下とし、かつ、反応系内の圧力を飽和蒸気圧以上とし、水の少なくとも一部を液相となして、生成する水素ガスを相分離させ、それによって
前記(i)及び(ii)の反応平衡を反応進行側にシフトさせることを特徴とする、[1]〜[3]及び[5]〜[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16]
水熱条件下で、金属酸化物触媒の酸化還元サイクルを利用して、有機物を処理するための接触反応装置であって、
この接触反応装置は、反応原料である有機物及び水の各導入口、金属酸化物触媒を含む反応触媒層を有する接触反応器、並びに、反応生成物である酸化された有機物の排出口を含み、
接触反応器では、
(i)酸化された金属価を有する金属酸化物触媒から放出された酸素によって、有機物を酸化し、それによって、還元された金属価を有する金属酸化物触媒及び酸化された有機物を形成すること、並びに
(ii)前記(i)と同時に、水から放出された酸素によって、前記の還元された金属価を有する金属酸化物触媒を酸化し、それによって、酸化された金属価を有する金属酸化物触媒を再生することを含む反応が行われ、
前記金属酸化物触媒が固体電解質である、接触反応装置。
[17]
前記(i)及び(ii)の全体ではΔH(前記水熱条件下)>0であり、かつ、有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスを含み、
前記接触反応装置は、
反応原料である有機物及び水の前記各導入口が一体に形成されており、
前記反応触媒層が熱交換伝熱管の壁面に沿って設けられ、この熱交換伝熱管に廃熱流体を流通させて、この廃熱流体と反応原料とを接触させることで有機物の吸熱反応に必要な熱を供給し、廃熱回収を同時に行うことを特徴とする[16]に記載の装置。
[18]
更に、水素ガスの排出口を有し、
前記熱交換伝熱管及び前記反応触媒層が、水平方向に対して所定の角度を有するように設けられ、前記一体に形成された有機物及び水の導入口を上方に設けることによって、前記反応触媒層上の反応が濡れ壁塔の形式で行われることを特徴とする[17]に記載の装置。
[19]
前記(i)及び(ii)の全体ではΔH(前記水熱条件下)>0であり、かつ、有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスを含み、
前記接触反応装置は、
反応塔及び触媒流動塔を有し、
前記触媒流動塔において、前記金属酸化物触媒が担持された粒子が、廃熱流体から熱を吸収することで廃熱を回収し、
前記反応塔において、反応原料とこの熱を吸収した粒子とを接触させることで有機物の吸熱反応に必要な熱が供給されることを特徴とする[16]に記載の装置。
[20]
前記(i)及び(ii)の全体ではΔH(前記水熱条件下)>0であり、かつ、有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスを含み、
前記接触反応装置は、
有機物及び水が、反応原料及び廃熱流体の両方として機能する混合物として供給されるように、前記の有機物及び水の各導入口が一体に形成されており、
かつ、有機物及び水の供給管が前記反応触媒層と組み合わされてハニカム型構造体とされており、それによって、このハニカム型構造体の壁面で有機物の吸熱反応が行われることを特徴とする[16]に記載の装置。
[21]
更に、水素ガスの排出口を有し、
前記一体に形成された有機物及び水の導入口を上方に設けることによって、前記ハニカム型構造体上の反応が、濡れ壁塔の形式で行われることを特徴とする[20]に記載の装置。
[22]
前記(i)及び(ii)の全体ではΔH(前記水熱条件下)>0であり、かつ、有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスを含み、
前記接触反応装置は、
有機物及び水が、反応原料及び廃熱流体の両方として機能する混合物として供給されるように、前記の有機物及び水の各導入口が一体に形成されており、
更に、水素ガスの排出口を有し、
前記反応触媒層が、前記金属酸化物触媒が担持された粒子を含む懸濁相として構成されており、それによって、前記懸濁相中にこの粒子を保持しながら、酸化された有機物と水素ガスとが分離した形で得られることを特徴とする[16]に記載の装置。
[23]
前記(i)及び(ii)の全体ではΔH(前記水熱条件下)>0であり、かつ、有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスを含み、
前記接触反応装置は、
廃熱流体と反応原料とを接触させることで有機物の吸熱反応に必要な熱を供給し、廃熱回収を同時に行うための熱交換伝熱管が、反応触媒層に接するように配されており、
前記廃熱流体と前記接触反応器内の反応原料とを熱交換させた後、予熱された反応原料が供給される別の熱交換伝熱管を有することを特徴とする[16]に記載の装置。
[24]
前記接触反応器内において、反応温度を370℃以下とし、かつ、反応系内の圧力を飽和蒸気圧以上とし、水の少なくとも一部を液相となして、生成する水素ガスを相分離させ、それにより(i)の反応平衡を反応進行側にシフトさせることを特徴とする、[16]に記載の装置。
[25]
[16]、[17]、[19]、[20]及び[23]のいずれか1項に記載の装置を含むシステムであって、
前記接触反応器の出口において、冷却後、水素ガスを主成分とするガス状生成物と生成物混合溶液とを分離するための分離槽を備え、さらにこのガス状生成物の回収槽とこの生成物混合溶液の回収槽をそれぞれ備え、かつ、前記ガス状生成物及び前記生成物混合溶液のうち多い方の生成流通量に基づいて、前記分離槽から前記回収槽への生成物取り出しのための圧力制御を行うシステム。
[26]
[16]、[17]、[19]、[20]及び[23]のいずれか1項に記載の装置を含むシステムであって、
システムの圧力を安定に制御するように、前記接触反応器出口において、冷却後、ガス状生成物と液状生成物とを、内径5インチ(12.7センチメートル)以下の配管に流通させ、スラグ流れを定常的に生成させるシステム。
[27]
水熱条件下で、金属酸化物触媒の酸化還元サイクルを利用して、有機物を処理することによって低温源から化学的に廃熱回収を行う方法であって、
(i)酸化された金属価を有する金属酸化物触媒から放出された酸素によって、有機物を酸化し、それによって、還元された金属価を有する金属酸化物触媒及び酸化された有機物を形成すること、並びに
(ii)前記(i)と同時に、水から放出された酸素によって、前記の還元された金属価を有する金属酸化物触媒を酸化し、それによって、酸化された金属価を有する金属酸化物触媒を再生することを含み、
前記金属酸化物触媒が固体電解質であり、
金属酸化物触媒の酸化還元サイクルを経て、酸化された有機物である生成物の結合エネルギーとして廃熱を回収する、低温源からの廃熱回収方法。
[28]
前記(i)及び(ii)の全体ではΔH(前記水熱条件下)>0であり、
有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスを含むことを特徴とする[27]に記載の方法。
[29]
前記反応生成物が、酸化された有機物及び水素ガスに加えて、前記酸化された有機物が更に水素化された物質を含むことを特徴とする[28]に記載の方法。
[30]
有機物及び水から得られる反応生成物が、酸化された有機物が更に水素化された物質を含むことを特徴とする[27]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、広範な分子量範囲に属する炭化水素等の有機物を、固体電解質である金属酸化物触媒の存在下、好ましくは吸熱的な酸化反応に供することによって、重質化・コークス形成を抑制しつつ、軽質化した生成物を効率的に得ることが可能である。また、本発明によれば、低温源から廃熱を効率的に回収することが可能である。すなわち、従来棄てられた低温廃熱及び廃棄物を利用して、酸化された生成物の結合エネルギー(生成エンタルピー)として熱を回収し、次いでこれを燃焼させることで、高温場を形成させ、低いエクセルギーの熱を高いエクセルギーへと変化させ、または、燃料電池によって直接電力に変換させることが可能となる。これは、低価値の資源から高付加価値の資源への転化であり、エネルギーシステムの全体的な効率化につながりうる。さらに、本発明の一実施態様によれば、副生成物として、水分子に由来する水素ガスが得られ、これによって生成物の重質化が抑制され、ひいては後続する他のプロセスにおける水素ガスの有用な供給源として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の反応において用いられる水は、超臨界水(SCW)であってもよいし、臨界前の水であってもよい。臨界前の水は、気相の水又は水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水を含む。また、臨界前の水は、亜臨界水と称される状態の水を含む。臨界前の水である場合、液体状態の水(液相)、あるいは液相を主相として包含していることが好ましい。このような水熱条件下では、比較的重質な炭化水素と共に単一相を形成する能力を有し、また臨界点近傍では温度圧力によって溶媒効果(誘電率、水和構造形成にともなう反応平衡・速度に与える影響)を大幅に制御できる。一実施態様において、本発明の反応により生成する水素ガスについても、亜臨界域では相分離するし、臨界点近傍において還元反応を大幅に制御できる。従って、原料の有機物として比較的重質な炭化水素を用いる場合には、亜臨界、超臨界水が好適に使用される。ガス相分離を考慮して亜臨界水を選択することもできる。
【0015】
本発明による有機物の酸化反応には、有機物に対する通常の酸素の付加反応、及び有機物の酸化的な分解反応(構成分子が酸素原子と結合しつつより小さい分子に分裂又は開裂する反応)が、含まれるものとする。
【0016】
本発明による「水熱条件」は、以下の反応温度を有する水共存条件として定義される。ここでの「水熱条件」は、上述のとおり、気相の水又は水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水が共存する条件を含む。本発明の反応温度は、原料として用いられる有機物の種類や、標的となる生成物組成に依り異なる温度を採用可能である。この反応温度は、特に限定されるものではないが、通常室温(15℃〜30℃)以上であり、1000℃以下であってよい。反応温度は、より典型的には、15℃以上600℃以下であってよく、好ましくは25℃以上500℃以下であってよく、より好ましくは30℃以上450℃未満である。特に、有機物が、アルデヒド、汚泥、リグニン、プラスチックス廃棄物、及び、バイオマス廃棄物から選択される物質である場合、低温源からの効率的な廃熱回収の観点から、反応温度は450℃未満であることが好ましく、400度以下であることがさらに好ましい。ホルムアルデヒドの酸化反応は、原料が低分子量であることから、室温前後での反応が期待されている。ホルムアルデヒドの酸化による無害化は、シックハウス症候群の対策として有効である。
【0017】
本発明の反応圧力は、特に限定されるものではないが、大気圧以上であり、50MPa以下であってよい。反応圧力は、より好ましくは5MPa以上であり、40MPa以下であってよい。
【0018】
また、本発明の反応時間は、特に限定されるものではないが、例えば1分以上48時間以内であってよく、より一般的には5分以上24時間以内であってよく、より典型的には10分以上12時間以内であってよい。
【0019】
本発明に用いられる有機物は、過半量が含炭素化合物から構成されているものである以上、特に限定されるものではない。典型的な含炭素化合物は、炭化水素(飽和結合及び場合によって不飽和結合を有する炭化水素の単数種又は複数種の混合物)である。使用可能な有機物には、極めて重質な炭化水素であるビチュメン(例えばマルテン、アスファルテンを含むもの)又は瀝青も含まれる。一つの実施形態として、このような極めて重質な炭化水素であるビチュメン又は瀝青は、工業的な実施効率を考慮し、本発明の有機物として用いることを回避してもよい。有機物は、アルデヒド(ホルムアルデヒド及び/又はアセトアルデヒド)、汚泥(スラッジ)、リグニン、プラスチックス廃棄物(企業及び/又は家庭からの産業廃棄物プラスチックス)、及びバイオマス廃棄物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。また有機物には、産業・工業有機廃棄物、未利用重質炭化水素資源も含まれる。バイオマス廃棄物としては、特に限定されるものではないが、紙、家畜糞尿、食品廃材、建築廃材、黒液、下水汚泥、生ごみ、稲藁、麦藁、籾殻、林地残材(間伐材・被害木など)、資源作物、飼料作物、デンプン系作物等が挙げられる。
【0020】
本発明の反応は、金属酸化物触媒の酸化還元サイクルを利用する。金属酸化物触媒は、固体電解質であることが好ましい。金属酸化物触媒は、典型的には、上記(i)及び(ii)の反応の両方において、水熱条件下でHKFモデルを用いて算出されたΔG<0を満たすことを可能とするものである。固体電解質である金属酸化物触媒は、典型的には、室温以上450℃以下における酸素吸蔵放出能(Oxygen Storage Capacity:以下「OSC」と略す。)が1μmol−O/g−cat(触媒1gあたりの酸素モル数)以上である。より好適には、室温以上450℃以下におけるOSCは10μmol−O/g−cat以上であってよい。
【0021】
一例として、金属酸化物触媒として酸化セリウム(CeO2)を用い、有機物として炭化水素(模式的にHCとして表現される)を用いた場合の本発明の一実施態様における反応スキームは、以下のとおりである。
2CeO
2 + HC → Ce
2O
3 + HC(O)
H
2O + Ce
2O3 → 2CeO
2 + H
2
全体としては、HC + H
2O → HC(O) + H
2(ガス)
このように、本発明の一態様による吸熱的な酸化反応スキームによれば、金属酸化物触媒の酸化還元を通じて、炭化水素と水とが反応し、酸化された炭化水素と水素ガスとが生じることになる。これらの反応の全体において、ΔH(反応条件下でのT,P)>0である。水素ガスの発生を伴う酸化還元反応は、通常吸熱反応であることが知られている。
【0022】
本発明の他の実施態様における反応スキームは、以下のとおりである。この反応スキームでは、酸化された炭化水素が更に水素化された物質が得られる。
2CeO
2 + HC → Ce
2O
3 + HC(O)
H
2O + Ce
2O
3 → 2CeO
2 + H
2(ガス)
HC(O)+ H
2 → HC(O)(H)
【0023】
また、本発明の更なる他の実施態様によれば、水素ガスの実質的な発生を伴わずに、酸化された炭化水素が更に水素化された物質が得られることがある。理論に拘束される意図はないが、例えば、水素分子(H
2)、又は、水素イオン(H
+)や水素ラジカル(H・)の形態で触媒上に留まった水素が酸化された
炭化水素に取り込まれることによって、水素ガスの発生を実質的に伴わずに(系外への水素ガスの放出無しに)、酸化されかつ水素化された炭化水素が生成物として得られると考えられる。この場合、当該生成物の形成に至るまでの反応全体では、吸熱反応(ΔH(反応条件下でのT,P)>0)にならないときもあり得る。
【0024】
HKFモデルは、Helgeson、Kirkham、Flowersの3名の研究者名の頭文字から命名された、高温水中での反応平衡に与える溶媒効果(温度、圧力、密度、誘電率の影響)を評価する半理論式として周知である。化学反応におけるΔG:ギブスエネルギー差は、生成物のケミカルポテンシャル(μ)の総和から反応原料のケミカルポテンシャル(μ)の総和を引いた数値として算出される。ケミカルポテンシャル(μ)の温度に対する補正は、計算式μ
i=μ
i0+Δh
i(T)−TΔS
i(T)によって行われる。また、ケミカルポテンシャル(μ)の圧力に対する補正は、K=P
H2/P
H2O=exp(−(μ
H2−μ
H2O)/RT)=K
0exp(−ΔH/RT)(理想気体条件下)によって行われる。超臨界を含む水熱条件下で水和された各物質iのケミカルポテンシャルは、HKFモデルを用いて、計算式μ
i(T,ρ,ε)=μ
i0+Δμ
i(T,ρ,ε)により求められる。このように、HKFモデルを導入することで、超臨界域を含む水熱条件下において、上記の二つの素反応とも、ΔG<0となるような、平衡論的に進みやすい反応条件(T、P、水密度ρ、誘電率ε)および金属酸化物群を評価することができる。
【0025】
本発明の別の実施態様では、反応温度を370℃以下とし、かつ、反応系内の圧力を飽和蒸気圧以上とし、水の少なくとも一部を液相としてよい。この場合、生成する水素ガスが相分離し、バブルとして反応系外へ放出されることになる。このように生成する水素ガスを相分離させることによって、有機物の酸化の反応平衡を反応進行側にシフトさせることが可能である。このような態様は、意外なことに、ΔG>0であっても有機物の酸化反応を進行させることができる点において工業的に有利である。
【0026】
本発明に使用される金属酸化物の室温以上450℃以下におけるOSCは、通常1μmol−O
2/g−cat(触媒1gあたりの酸素モル数)以上である。一般的に、金属酸化物のOSCは、温度の上昇に伴って大きくなることが知られている。本発明に使用される金属酸化物のOSCは、好ましくは10μmol−O
2/g−cat(触媒1gあたりの酸素モル数)以上であってよく、より好ましくは15μmol−O
2/g−cat(触媒1gあたりの酸素モル数)以上であってよく、さらに好ましくは20μmol−O
2/g−cat(触媒1gあたりの酸素モル数)以上であってよい。
【0027】
酸素吸蔵放出能(OSC)の測定方法は、特に限定されず、公知のいずれかの方法を用いてよい。測定方法の具体例は、以下のとおりである。
[方法例1]
ガス吸着装置を用い、触媒サンプルを測定セルにセットし、所定の温度に昇温する。次いで所定の2次圧でH
2ガスを導入し900秒還元を行う。H
2ガスをHeで300秒置換し、1cm
3の計量管で計量したO
2ガスをHeのキャリアガス中にパルスで導入し、TCDで検出する。試料がO
2を吸収するとキャリアガス中のO
2量は減少する。減少が無くなるまでパルス導入を繰り返し行い、O
2ガスの減少量の総和を酸素吸蔵放出能とすることができる。本明細書に開示された実施例の一部では、サンプルを、20分毎にO
2及びHeに暴露させることによって酸素吸蔵放出能(OSC)を測定した。
【0028】
上記方法例1は、より詳細には以下のように行われる。ガス吸着装置を用い、触媒サンプルを測定セルにセットし、次いで所定の2次圧(常圧、あるいは1気圧以上3気圧以下程度)でHeガスを導入しながら触媒サンプルを250℃〜500℃の所定の温度まで昇温する。次に、HeガスにO
2ガス5%を混合したO
25%ガス/He95%混合ガス(キャリアガス)を導入し、このキャリアガス中にCO4%ガス/He96%混合ガスをパルスで導入し、MS(Mass Spectrometry:質量分析法)で分析する。試料がO
2を吸収するとキャリアガス中のO
2量は減少する。減少が無くなるまでパルス導入を繰り返し行い、O
2ガスの減少量の総和を酸素吸蔵放出能とすることができる。
【0029】
[方法例2]
OSCの測定方法の他の例は、以下のとおりである。
1.500℃にて測定系内にHeガスを流す。
2.500℃にて測定系内にO
2ガスを流し、サンプルに十分量吸着させる。
3.500℃にて測定系内にHeガスを流す。
4.500℃にて測定系内にH
2ガスを流し、サンプルを還元し吸着O
2を取り除く。
5.500℃にて測定系内にHeガスを流す。
6.検出温度(350℃)にて測定系内にHeガスを流す(ここまでが前処理である。)
7.検出温度(350℃)にて、Heガスをキャリアガスとして、O
2ガスをパルスで測定系内に流す。
8.流したパルスのO
2ガスが検出器によって検出されるまで、O
2ガスをパルスで測定系内に流す。
9.O
2ガスの全流出量から全検出量を引いた値が、全吸着量(cm
3)として見積もられる。
10.上記9で求めた全吸着量(cm
3)と仕込み量(g)から単位吸着量(cm
3/g)を算出する。
本明細書に開示された実施例の他の一部では、この手法によってOSCを測定した。
【0030】
本発明に用いられる金属酸化物は、水溶液中の溶解度がある程度低いことが好ましい。金属酸化物の室温の水に対する溶解度は、一般的には10g/1kg以下であってよく、典型的には8g/1kg以下であってよく、好ましくは5g/1kg以下であってよい。
【0031】
酸化還元反応に必要な酸素モビリティーを有するため、燃料電池の固体電解質として用いられる金属酸化物を、本発明の処理方法における触媒として用いることが好ましい。このような固体電解質の金属酸化物の非限定的な例としては、酸化セリウム(CeO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化鉄(Fe
2O
3)、イットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)、酸化スカンジウムドープ酸化ジルコニウム(ScSZ:ScZとも称される。)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)、酸化ランタンガリウム(LaGaO
3)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ガドリニウムドープ酸化セリウム(Gd−CeO
2)、酸化モリブデン(MoO
3)、酸化マンガン(MnO
3)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、四酸化三コバルト(Co
3O
4)、酸化コバルトII(CoO)、酸化バナジウム(V
2O
5)、及びセリア・ジルコニア固溶体が挙げられる。これらの中でも、酸化セリウム(CeO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化鉄(Fe
2O
3)、イットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)、酸化スカンジウムドープ酸化ジルコニウム(ScSZ)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)、酸化ランタンガリウム(LaGaO
3)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ガドリニウムドープ酸化セリウム(Gd−CeO
2)、酸化コバルトII(CoO)、酸化バナジウム(V
2O
5)が好ましく、酸化セリウム(CeO
2)がより好ましい。これらの金属酸化物触媒は、一種単独でも複数種を混合して用いてもよい。
【0032】
金属酸化物触媒の粒径、形態は、特に限定されないが、反応物質との暴露表面積(接触可能性)の最大化、触媒機能発現の最良化の観点から、平均粒子径が数μm以下、特にナノ粒子触媒(平均粒子径がナノのオーダー(1μm未満)である触媒)であることが好ましい。その平均粒子径は、特に限定されるものではないが、その下限としては、一般的には2nm以上、より一般的には5nm以上、より典型的には10nm以上であってよい。またその上限としては、一般的には5μm以下、より一般的には1μm以下、典型的には500nm以下、より典型的には300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下であってよい。また、金属酸化物触媒の形態は、球形又は擬似球形であってもよく、多面体形であってもよいが、とり得る粒子形態はその金属酸化物の種類及び製造条件に依存する。金属酸化物触媒の比表面積は、反応活性の観点から、5m
2/g以上かつ1000m
2/g以下であってよく、より一般的には10m
2/g以上かつ500m
2/g以下であってよく、典型的には20m
2/g以上かつ400m
2/g以下であってよく、好ましくは30m
2/g以上かつ300m
2/g以下であってよい。
【0033】
CeO
2のナノ粒子触媒は、八面体又は立方体の形態をとりうる。また、このとき、CeO
2のナノ粒子触媒は、(111)面及び/又は(100)面を主な露出面として有する。CeO
2の(100)面は不安定であり、より大きな酸素移動性(酸素貯蔵放出能)を有し、それによってより高い触媒活性が得られる。従って、本発明においては、立方体形態のCeO
2ナノ粒子触媒が好適に用いられる。
【0034】
CeO
2のナノ構造について、6つの(100)面が低インデックスの結晶面の中でも最も大きな表面エネルギーを有することが明らかにされている。この高い表面エネルギーは、セリウムイオン間の架橋位置になる頂部層の酸素の不安定性に起因するものである。この酸素の不安定性によって、有機物の高い転化率が達成されると考えられる。立方体CeO
2の頂部層の酸素が、温度及び圧力に依存して放出される。この酸素種は、反応物に移動し、これを生成物に分解することが可能である。4+価状態のCeは3+価状態のCeへと転化され、不安定になる。Ce
3+によってセリア酸素の空位が発生し、この還元されたセリア表面にて形成された空位が水分子との反応を引き起こし、酸素と結合して4+価状態のCeになる。場合によって、この放出された水素分子は、分解化合物へと移送されて、水素化反応を起こす場合もある。
【0035】
本発明の反応方式は、バッチ方式であっても、連続式であってもよいが、連続式で行うのがより好ましい。また、本発明の反応は、少なくともラボスケールでは、プラグフロー反応器にて行うことが可能である。本発明の反応における水の供給量は、反応系に導入する有機物に基づいて、例えば、0.01〜100のモル比が保持されるように調整されてよい。また、金属酸化物触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、用いられる反応器の容積に基づいて、0.05体積%以上でありかつ70体積%以下であってよく、より典型的には触媒充填層を形成させ5体積%以上であり、かつ60体積%以下の充填量であってよい。
【0036】
本発明の方法に用いられる金属酸化物ナノ粒子は、特に限定されるものではないが、例えば、特許第3047110号(当該特許の発明者の一人は本発明者である)に開示されている方法によって製造することができる。
当該文献には、金属塩(IB属金属、IIA属金属、IIB属金属、IIIA属金属、IIIB属金属、IVA属金属、IVB属金属、VA属金属、VB属金属、VIB属金属、VIIB属金属、遷移金属等の金属塩)の水溶液を、水の亜臨界乃至超臨界条件である温度200℃以上、圧力160kg/cm
2の以上の反応帯域としての流通型反応器に連続的に供給するとともに、この金属塩の水溶液に還元性ガス(例えば水素)或いは酸化性ガス(例えば酸素)を導入することによって、金属酸化物微粒子が製造されることが開示されている。
【0037】
微粒子の製造法の別法の例として、例えば、特許第3663408号(当該特許の発明者の一人は本願の発明者である)に開示されている方法が挙げられる。
当該文献には、水を加圧手段と加熱手段とを経由させて超臨界状態または亜臨界状態の高温高圧水にし、流体原料を、この高温高圧水と合流させる前に、水の臨界温度よりも低温に冷却し、次いで、高温高圧水と流体原料とを混合部で合流させ混合したのち反応器へ案内する、高温高圧水を用いる微粒子製造方法が開示されている。
【0038】
また、本発明の方法に用いられる金属酸化物ナノ粒子は、特に限定されるものではないが、例えば、特許第3925936号(当該特許の発明者の一人は本願の発明者である)に開示されている方法によって製造後に回収・収集することができる。
当該文献に記載の方法によれば、
(i)高温高圧水を反応場として、金属化合物を水熱反応に付してCeO
2等の金属酸化物ナノ粒子を形成し、
(ii)高温高圧水を反応場として、金属酸化物ナノ粒子表面と有機修飾剤とを反応せしめ、置換されていてもよいし非置換のものであってよい炭化水素基を共有結合、あるいはエーテル結合、エステル結合、N原子を介した結合、S原子を介した結合、金属−C−の結合、金属−C=の結合及び金属−(C=O)−の結合からなる群から選ばれたものを介してナノ粒子の表面に結合せしめてナノ粒子の表面を有機修飾し、
(iii)(1)水溶液に分散させた金属酸化物ナノ粒子を沈殿させて回収すること、(2)水溶液に分散させた金属酸化物ナノ粒子を有機溶媒中へ移行せしめて回収すること、又は(3)有機溶媒相−水相界面に金属酸化物ナノ粒子を集めることによって、金属酸化物ナノ粒子が得られる。
【0039】
以下、代表的な金属酸化物触媒であるCeO
2のナノ粒子の合成について、説明する。
八面体CeO
2のナノ粒子は、公知の方法で合成されうる。
立方体CeO
2のナノ粒子は、(1)トルエン中にて原料溶液を調製すること、(2)有機改質剤を使用し、超臨界水条件下で立方体CeO
2ナノ粒子を合成すること、及び(3)立方体CeO
2の形態を変化させずに有機改質剤を除去することを含む方法によって合成される。
【0040】
具体的には、立方体CeO
2のナノ粒子の調製は、以下のように行うことができる。これは非限定的な例である。
トルエン中に、有機改質剤としてヘキサン酸及びCe(OH)
4を溶解させることにより、立方体酸化セリウムのナノ粒子前駆体溶液を調製する。その後、前駆体溶液を、清澄な溶液を得るために連続的に攪拌しつつ混合する。前駆体溶液を、脱イオン水と混合し、炉の使用により600〜700Kに急速に加熱する。次いで、その混合物を冷却する。立方体酸化セリウムのナノ粒子が、水、トルエンおよび未反応の原料の混合物中の分散物として得られる。トルエン相中のナノ粒子に、エタノールを加え、遠心分離と傾瀉により精製し、それによって未反応の有機分子を除去する。この粒子をシクロヘキサンの中で分散させた後、真空下で冷凍乾燥する。粒子の表面からいかなる有機配位子も取り除くために、収集したナノ粒子を、空気中で数時間にわたり、300℃程度の高温でか焼する。か焼されたナノ粒子を、遠心分離と傾瀉によって清浄化し、次いで減圧乾燥し、それによって立方体CeO
2のナノ粒子を得ることができる。
【0041】
本発明の反応においては、生成物である酸化された有機物が、水に由来する水素によってさらに水素化される場合がある。また、この実施態様には、水素ガスの実質的な発生を伴わずに、酸化された有機物が更に水素化された物質が得られる場合も含まれる。理論に拘束されるものではないが、この反応は、例えば、比較的高温(例えば250℃以上500℃以下)及び/又は水素濃度が高い反応条件下、水に由来する水素(水素分子、水素イオン又は水素ラジカル)が、有機物のフリーアルキル鎖分子によって消費されることによって軽質分子が形成される現象であると理解される。この反応には、例えば、有機物の酸化的分解によって生じたオレフィンに水素が反応することによって、アルカンが得られる反応が含まれる。好ましいことに、水素化後において、しばしばアルカン(メタンを除く)のモル収量がアルケンのモル収量より多くなることがある。このような反応によって、生成物の高分子量化又はコークス化を抑制することがさらに可能であるという追加の利点が得られる。水素ガスの発生を実質的に伴わずに、酸化されかつ水素化された炭化水素が生成物として得られる場合、反応全体では、吸熱反応ではない(ΔHが0以下であると見積もられる)ときもあり得る。
【0042】
本発明の反応においては、水素化後において、飽和炭化水素のモル収量の不飽和炭化水素モル収量に対する比が、無触媒下での分解反応におけるそれより大きいことが、好ましい。また、水素化後において、アルカン(メタンを除く)のモル収量のアルケンのモル収量に対する比が無触媒下での分解反応におけるそれより大きいことは、また好ましい。
【0043】
本発明の方法は、別の視点からは、有機物を好ましくは吸熱的に酸化することによって低温源から化学的に廃熱回収を行う方法として利用される。この方法によれば、汚泥、リグニン等、プラスチック廃棄物、バイオマス廃棄物のような廃棄物や未利用資源などの低コスト原料を有効利用しつつ、エクセルギーの再生産を実現することが可能である。すなわち、従来棄てられた低温廃熱及び廃棄物を利用して、酸化された生成物の結合エネルギー(生成エンタルピー)として熱を回収し、次いでこれを燃焼させることで、高温場を形成させ、低いエクセルギーの熱を高いエクセルギーへと変化させ、または、燃料電池によって直接電力に変換させることが可能となる。
【0044】
さらに本発明の別の局面は、上記方法を実施するための接触反応装置である。
この接触反応装置は、
一実施態様において、反応原料である有機物及び水の各導入口、接触反応器、並びに、反応生成物である酸化された有機物の排出口(及び必要に応じて水素ガスの排出口)を含む。
図12に、本発明の一実施態様に係る接触反応装置の概略図を示す。導入口、接触反応器及び排出口は、上記の所定量の反応原料及び生成物を導入・排出可能である限り、その形状・材質は特に限定されない。図中の参照番号は以下の意味を示す。1:接触反応装置;2:接触反応器;3:金属酸化物触媒を含む反応触媒層を含む帯域;4:有機物の導入口;5:水の導入口(4と5とは一体であることもある);6:酸化された有機物の排出口;7:水素ガスの排出口(6と7とは一体であることもある。)
【0045】
本装置に装備される接触反応器は、上記の一種又は複数種の金属酸化物触媒を含む反応触媒層を有し、それによって所望の反応(好ましくは吸熱反応)を実施可能である限り特に限定されない。接触反応器は、バッチ式反応器であっても、連続式反応器であってもよいが、反応効率の観点から後者のほうが好ましい。
【0046】
接触反応器の反応触媒層には、熱交換伝熱管を配してよい。この熱交換伝熱管に廃熱流体を流通させて、この廃熱流体と反応原料(有機物及び水を含む)とを接触させることで有機物の吸熱反応に必要な熱を供給し、廃熱回収を同時に行うことができる。廃熱流体は、通常は廃棄される熱を有しており、有機物の吸熱反応に必要な熱を供給可能であるものである限り、特に限定されない。
【0047】
接触反応器は、更に別の熱交換伝熱管を有していてよい。廃熱流体と接触反応器内の反応原料とを熱交換させた後、予熱された反応原料を、この別の熱交換伝熱管に供給することもできる。
【0048】
本発明に従う接触反応装置の具体的な構造の例は、以下のとおりである。
[1].熱交換型接触反応装置(廃熱がガスや液体として回収される場合)
本発明による接触反応装置の一具体例が、
図13に示される。
図中の参照番号は、以下の意味を示す。1:接触反応装置;8:反応触媒層;9:反応原料である有機物及び水;10:酸化された有機物、水及び水素ガス;11:廃熱流体;12:廃熱回収された流体。
図中、反応原料である有機物及び水(混合物)9の導入口は一体に形成されている。また、図中の黒い矢印は、伝熱方向を意味する。
例えば、鉄鋼スラグや、燃焼排ガスなど、多くの場合、廃熱はガスとして回収される。しかし、主に沸点以下(多くの場合は水であり100℃以下)の低温廃熱の場合には、液体として回収されることもある。蒸留塔や抽出塔などでも液体として回収される廃熱もある。また高圧プロセスからの廃熱は、高温の液体の場合もある。このような場合には、回収されるガス(液体)の廃熱から熱交換して反応させる必要がある。
そこで、伝熱管の壁面に沿って反応触媒層8が形成された熱交換システムを備えた接触反応装置1が有効である。伝熱壁面を通して反応原料9が熱を吸収し、この熱によって酸化反応(改質反応)が生じ、出口では、酸化された有機物(改質原料)と水素が生成物10として回収される。
圧力を最高反応温度における水の蒸気圧よりも高く設定すると、伝熱壁面では、いわゆる沸騰伝熱状態となり、気液二相流となる。生成物である水素ガスは気相に排出されるため、反応平衡は生成物側にシフトする。そのため、一般に低温で課題となる反応平衡の制約がなくなり、反応が低温でも進行する。
【0049】
[2].熱交換型濡れ壁型接触反応装置(廃熱がガスや液体として回収される場合)
本発明による接触反応装置の一具体例(上記[1]の変形例)が、
図14に示される。
図中の参照番号は、以下の意味を示す。1:接触反応装置;8:反応触媒層;9:反応原料である有機物及び水;10:酸化された有機物及び水;11:廃熱流体;12:廃熱回収された流体;13:水素ガス。
図中、反応原料である有機物及び水(混合物)9の導入口は一体に形成されている。また、酸化された有機物及び水10の排出口とは別に、水素ガス13の排出口が設けられている。図中の黒い矢印は、伝熱方向を意味する。
熱交換伝熱管及び反応触媒層8が水平方向に対して所定の角度を有するように(好ましくは鉛直方向に)設けられ、一体に形成された有機物及び水9の導入口を上方に設けることによって、反応触媒層8上の反応が濡れ壁塔の形式で行われる。この例では、熱交換システムを縦型とし、反応側を濡れ壁塔として使うことで、反応触媒層8での水素ガス吸着・ガスだまり生成による反応抑制を防ぐこともできる。この場合、反応原料9は、反応触媒層8の壁を伝わって降り、下から回収され、生成する水素ガス13は管の中を上昇し、上から回収されることとなる。高温側の廃熱流体11のガスが、
内管を流通することによって、外部への熱損失を抑制することができる。
この場合も、圧力を反応温度における水の蒸気圧よりも高く設定することで、反応触媒層の濡れ壁表面で、いわゆる沸騰伝熱状態となり、気液二相流となる。生成物である水素は気相に排出されるため、反応平衡は生成物側にシフトする。そのため、一般に低温で課題となる反応平衡の制約がなくなり、反応が低温でも進行する。
【0050】
[3].2塔循環型流動層接触反応装置 (廃熱がガスや液体として回収される場合)
本発明による接触反応装置の一具体例が、
図15に示される。
図中の参照番号は、以下の意味を示す。1:接触反応装置;9:反応原料である有機物及び水;10:酸化された有機物、水及び水素ガス;11:廃熱流体;12:廃熱回収された流体;R:反応塔;C:触媒流動塔;m:金属酸化物触媒が担持された粒子。
この例の接触反応装置1は、反応塔R及び触媒流動塔Cを有する。触媒流動塔Cにおいて、金属酸化物触媒が担持された粒子mが、廃熱流体11から熱を吸収することで廃熱を回収し、一方、反応塔Rにおいて、反応原料9とこの熱を吸収した粒子mとを接触させることで有機物の吸熱反応に必要な熱が供給される。すなわち、2塔循環型流動層接触反応装置1では、金属酸化物触媒が担持された粒子mが流動媒体として作用する。粘ちょうな液体やスラリーが反応原料の場合は、上記[1]または[2]のような熱交換型の接触反応装置では往々にしてスケーリングや壁面への固体析出などが問題となる。このような場合、2塔循環型流動層の反応装置が有効である。
2塔循環型の流動層接触反応装置において、廃ガス(液体)の熱を吸収した粒子(m)は反応塔Rへ移動する。流動層内では、伝熱速度が粒子の移動速度で決まるため、一般に金属の熱伝導度より高い、有効熱伝導が得られる。流動層では、粒子の完全混合により、両塔内温度はほぼ均一となり、効果的な熱交換が可能となる。反応塔Rでは、反応原料9の懸濁液が導入されると、触媒上で反応が起こる。排出口では、酸化された有機物(改質原料)と水素が生成物10として回収される。圧力を反応温度における水の蒸気圧よりも高く設定すると、気液2相流となる。生成物である水素ガスは気泡として分離されるため、反応平衡は生成物側にシフトする。そのため、一般に低温で課題となる反応平衡の制約がなくなり、反応が低温でも進行する。また、粘ちょうな液体やスラリー(固体)の原料を供給する場合、流動層であれば、均一な流動性を保ちながら、効率的に反応させることができる。
【0051】
[4].熱交換型接触反応装置 (廃熱が反応原料である有機物と水の混合液に蓄えられている場合)
本発明による接触反応装置の一具体例が、
図16に示される。
図中の参照番号は、以下の意味を示す。1:接触反応装置;9:反応原料である有機物及び水;10:酸化された有機物、水及び水素ガス;8H:有機物及び水の供給管が反応触媒層と組み合わされて形成されたハニカム型構造体。有機物及び水(反応原料及び廃熱流体の両方として機能する混合物)9の導入口は一体に形成されている。
製紙工場や製糖工場、バイオマス変換処理工程、ビチュメン処理工程、汚泥や廃液処理工程などの場合、しばしば100℃以下の低温廃熱が有機物と水の懸濁混合液として回収されるときがある。高圧システムからの廃熱の場合、あるいは、混合蒸気や混相流として回収される場合、より高温であるときもある。このような場合、触媒反応が有効に進行する限りにおいて、直接、熱交換なく有機物の酸化反応(改質反応)を行わせることができる。
ハニカム型の壁面8Hをもつ反応器を用いることで、反応器の強度を保持しつつ、有効な流動と触媒界面積の増大の同時達成を図ることができる。この場合も、触媒反応は、壁面8Hで生じる。生成物10の水素ガスは、水から相分離される。従って、低温で平衡論的に生じにくい反応であっても、相分離した水素ガスが反応系外に除去されるため、反応を進行させることができる。反応原料9が蒸気の場合には、均一な反応相が形成される。しかし、水の蒸気圧以上に圧力を設定すれば、水素ガスと水相を相分離させることができ、上記と同様の効果により、反応を進行させることが期待できる。
【0052】
[5].熱交換型濡れ壁型接触反応装置(廃熱が反応原料である有機物と水の混合液に蓄えられている場合)
本発明による接触反応装置の一具体例(上記[4]の変形例)が、
図17に示される。
図中の参照番号は、以下の意味を示す。1:接触反応装置;9:反応原料である有機物及び水;10:酸化された有機物及び水;13:水素ガス;8H:有機物及び水の供給管が反応触媒層と組み合わされて形成されたハニカム型構造体。有機物及び水(反応原料及び廃熱流体の両方として機能する混合物)9の導入口は、一体に形成されており、上方に設けられている。また、酸化された有機物及び水10の排出口とは別に、水素ガス13の排出口が設けられている。このように、一体に形成された有機物及び水9の導入口を上方に設けることによって、ハニカム型構造体上の反応が濡れ壁塔の形式で行われる。
この場合も、触媒反応は、ハニカム型の壁面8Hで生じる。酸化(改質)された有機物及び水10は塔底部から、水素ガス13は上部から回収される。この例では、生成する水素の相分離を有効に生じさせることによって、反応工程と水素の分離工程を融合させることができる。また、生成物が蒸気の形態の場合であっても、圧力を蒸気圧以上にかければ、水素ガスを分離させることもできる。そのため、平衡の制約を逃れた反応システムを作ることが可能である。
【0053】
[6].触媒懸濁槽型接触反応装置(廃熱が反応原料である有機物と水の混合液に蓄えられている場合)
本発明による接触反応装置の一具体例が、
図18に示される。
図中の参照番号は、以下の意味を示す。1:接触反応装置;9:反応原料である有機物及び水;10:酸化された有機物及び水;13:水素ガス;14:攪拌機;S:金属酸化物触媒が担持された粒子を含む懸濁相。有機物及び水(反応原料及び廃熱流体の両方として機能する混合物)9の導入口は、一体に形成されており、上方に設けられている。また、酸化された有機物及び水の排出口10とは別に、水素ガス13の排出口が設けられている。
このように金属酸化物触媒が担持された粒子を含む懸濁相Sを備えることによって、懸濁相中にこの粒子を保持しつつ酸化された有機物と水素ガスとが分離した形で得られる。また、触媒懸濁相Sを用いれば、生成する水素ガスの触媒表面への吸着による、反応阻害を抑制することが可能となる。さらに、上の例と同様に、生成物が蒸気の形態の場合であっても、圧力を蒸気圧以上にかければ、水素ガスを分離させることもできる。そのため、上記と同様、平衡の制約を逃れることが可能となる。
【0054】
接触反応器内において、反応系内の圧力を飽和蒸気圧以上とし、少なくとも一部において液相の水を反応相とする(任意選択的には液相の水を主な反応相とする)こともまた好ましい。この場合、反応温度を300℃以上、好ましくは370℃以下とすることで、生成する水素ガスを相分離させ、それにより有機物の酸化に係る
上記反応の反応平衡を反応進行側にシフトさせることができる。このような態様は、ΔG>0であっても有機物の酸化反応を進行させることができる点において工業的に有利である。
【0055】
さらには、本発明に係る反応装置を利用して、以下のシステムを構成することも可能である。
(1)接触反応器の出口において、冷却後、水素ガスを主成分とするガス状生成物と生成物混合溶液とを分離するための分離槽を備え、さらにこのガス状生成物の回収槽とこの生成物混合溶液の回収槽をそれぞれ備え、かつ、前記ガス状生成物及び前記生成物混合溶液のうち多い方の生成流通量に基づいて、前記分離槽から前記回収槽への生成物取り出しのための圧力制御を行うシステム。
(2)システムの圧力を安定に制御するように、接触反応器出口において、冷却後、ガス状生成物と液状生成物とを、内径5インチ以下の配管に流通させ、スラグ流れを定常的に生成させるシステム。
これらのシステムにおいて、分離槽、回収槽、配管、及び圧力を制御するための機器については、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を例証するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0057】
立方体酸化セリウムの合成例
立方体酸化セリウムのナノ粒子は、以下の方法により合成された。
この方法は、簡潔には3工程として述べられる:
(i)トルエン中にて前駆体(原料)溶液を調製する工程、
(ii)有機改質剤を使用して超臨界水条件下、立方体CeO
2ナノ粒子を合成する工程、および
(iii)立方体CeO
2の形態を変化させずに有機改質剤を除去する工程。
【0058】
トルエン(99.5%、和光ケミカルズ)中に、有機改質剤としてヘキサン酸(99%、和光ケミカル
ズ)及びCe(OH)
4(
アルドリッチ・ケミカル
ズ)を溶解させることにより、前駆体溶液を調製した。
前駆体溶液に含まれるヘキサン酸の濃度は0.30mol/Lであり、Ce(OH)4の濃度は0.050mol/Lである。この前駆体を、清澄な溶液を得るために40分間、連続的に攪拌させつつ混合した。前駆体溶液を、7.0mL/分の流量で高圧ポンプ(日本精密科学、NP−KX540)を使用して供給した。同時に、脱イオン水を、3.0mL/分の流量で別のポンプを使用して供給した。前駆体溶液を、ジャンクションで脱イオン水と混合し、炉の使用により653Kに急速に加熱した。加熱帯での滞留時間は、およそ95秒であったが、これは、反応器容積、全流量、混合点での水及びトルエン混合物の密度、並びに反応温度及び圧力から見積もられた。次いで、その混合物をウォーター・ジャケットを使用して冷却した。背圧調整装置(TESCOM、26−1700シリーズ)によって、システムの圧力を30MPaに維持した。立方体酸化セリウムのナノ粒子は、水、トルエンおよび未反応の原料の混合物中の分散物として得られた。サンプルを、水とトルエンの相とが分離するように一晩放置した。次いで、トルエン相中にエタノールを加え、その混合物を遠心分離と傾瀉の3サイクルにかけて精製し、未反応の有機分子を除去した。この粒子をシクロヘキサン中に分散させ、8時間、真空下で冷凍乾燥した。ナノ粒子の形態およびサイズは、100kVの加速電圧で透過電子顕微鏡(TEM、日立H7650)により観察した。ナノ粒子の表面上の化学結合および官能基を調査するため、JASCO FT/IR−680分光計を使用してフーリエ変換赤外分光(FTIR)スペクトルを得た。透過IRスペクトルを、400から4000cm
−1で収集した。粒子の結晶度および純度を、2θ−θセットアップにてCu Kα放射線によるX線回折(XRD、Rigaku Ultima IV)を使用して同定した。2θ角度を、20°と70°の間で走査した。粒子の表面からいかなる有機配位子をも取り除くために、収集したナノ粒子を、空気中で2時間、300℃で、温度プログラムされたマッフル炉中で2℃/分の昇温割合にて、か焼した。か焼されたナノ粒子を、エタノール中で数回清浄化し、そしていかなる未反応の分子をも、遠心分離と傾瀉によって除去した。最後に、粒子を6時間減圧乾燥し、その後に、か焼されたナノ粒子についてOSC測定を行った。OSCの決定のため、サンプルの全てを、20分毎に、O
2及びHeに交互に暴露させた。
【0059】
図1は、生成されたCeO
2ナノ粒子のXRDパターンを示す。
図1中、(a)は、ヘキサン酸の存在下で合成されたCeO
2を示し、(b)は、300℃でか焼後の立方体CeO
2ナノ粒子を示し、(c)は、450℃で反応後の立方体CeO
2ナノ粒子を示し、(d)は、合成された八面体CeO
2ナノ粒子を示し、(e)は、450℃で反応後の八面体CeO
2ナノ粒子を示す。ナノ粒子のXRDパターンを、International Center for Diffraction Data(00−034−0394)から得られるJoint Committee on Powder Diffraction Standardsの(JCPDS)のカードと比べることによって、得られたナノ粒子が、CeO
2結晶構造を有することが分かった。
図1a−cにおけるXRDピークは、
図1d−eにおけるピークよりブロードであるが、これは、
図1a−cに示されるナノ粒子のサイズが
図1d−eに示されるナノ粒子のサイズよりも小さいことを示している。シェレル(Scherrer)の式によって評価された結晶のサイズは、
図1に示されたナノ粒子についておよそ8nmおよび50nmであった(それぞれa−c及びd−eについて)。
【0060】
粒子のサイズおよび形態をTEMを使用して分析した。
図2は、合成された酸化セリウムのナノ粒子の形態を示す。
図2a−bは、613Kでヘキサン酸なしで合成された酸化セリウムのナノ粒子のTEM画像を示す。
図2cは、653Kでヘキサン酸と共に合成された酸化セリウムのナノ粒子の画像を示す。
図2dは、573Kでのか焼後の酸化セリウムの形状を示す。また、
図2eは、923Kでのか焼後の、使用後の立方体酸化セリウムのナノ粒子を示す。2タイプの粒子:8つの{111}面によって囲まれた八面体の粒子、および6つの{100}面によって囲まれた立方体の粒子が、画像中に示される。八面体から立方体への粒子形状の発展は、ヘキサン酸配位子分子と、先端が切り取られた形の八面体の{001}面との優先的な相互作用によるものであり、それによって、{001}方向における結晶の成長速度が大幅に減少し、{111}方向の結晶成長が優勢になり、終局的にはナノ立方体の形成につながった。XRD測定に基づいて得られたサイズが、TEM分析から決定されたものと整合したことは、注目すべきである。
【0061】
立方体CeO
2ナノ粒子の両面に化学結合した有機分子の存在を証するため、FTIRスペクトルを得た。
図3(a)に示すように、表面改質ナノ粒子において、2900−2970cm
−1の領域に伸縮ピークが現われた。これらのピークは、ヘキサン酸中のメチル基およびメチレン基のC−H伸縮モードに割り当てられ、その正味の改質剤のFTIRスペクトルに存在するものであり、ナノ粒子の表面上の有機分子の存在を示している。ヘキサン酸で改質されたナノ粒子のスペクトル(
図3(a))では、1531および1444cm
−1の2つの主要なピークが、それぞれ、カルボキシレート基の非対称および対称モードにそれぞれ割り当てられた。これは、そのカルボキシレート基によって酸化セリウムのナノ粒子の表面にヘキサン酸が化学的に結合していることを示す。反応触媒として酸化セリウムのナノ粒子を使用する前に、粒子の形態を変化させることなく、触媒表面へ結合した有機配位子を除去することが必要であった。というのは、触媒表面に結合された有機配位子が反応物として機能し得るからである。さらに、触媒表面に結合された有機配位子は、反応物質と触媒表面の相互作用を阻害し得る。従って、有機分子は触媒表面から取り除かれるべきである。熱処理は、粒子の表面からの有機配位子の除去のための一般的方法として選ばれた。有機分子は、気流中での燃焼中にCO
2とH
2Oに容易に分解する。
図3(b)中の300℃でか焼された粒子のFTIRスペクトルは、ナノ粒子がか焼された後、有機分子の存在が減少したことを示す。その後、粒子の形態をTEM分析を使用して調査し、か焼中に変化が生じなかったことを確認した(
図2d)。しかしながら、使用済みのCeO
2ナノ粒子についても、触媒上の形成コークスを除去するために923Kでか焼した。また、それは、小さな変化がか焼中に生じたことを示した(
図2e)。それは、反応温度(723K)がか焼温度より低いためにCeO
2ナノ粒子形状がその反応温度で安定化されていることを意味する。
【0062】
CeO2ナノ粒子のOSC評価
酸素吸蔵放出能(OSC)は、触媒中に吸蔵され、そこから放出される酸素の量として定義される。立方体及び八面体のCeO
2ナノ粒子のOSCを、合計の利用可能なOSCを決定しかつ接触反応用のそれらの潜在活性を評価するために、上記方法例1に従って723Kで測定した。これらの結果は、立方体酸化セリウムのナノ粒子のOSCが、723Kでの八面体酸化セリウムのナノ粒子のOSC(100μmol−O
2g
−1)よりほぼ3.4倍高い340μmol−O
2g
−1であったことを示した。より小さなサイズおよび活性な{100}面を備えた立方体酸化セリウムのナノ粒子は、より大きなOSCを有していた。この結果は、より小さなナノ粒子中のより大きな暴露表面積に起因し、酸素吸蔵/放出プロセスに関与する酸素分子が主にCeO
2の表面に位置することを示す。
【0063】
種々の固体電解質である金属酸化物ナノ粒子のOSC評価
CeO
2−100及びCeO
2−111並びに他の固体電解質である金属酸化物ナノ粒子について、本発明における触媒としての使用可能性を調査するため、以下の金属酸化物の350℃におけるOSCを、上記方法例2に従って測定した。ここで測定対象としたのは、CeO
2−100及びCeO
2−111、並びにLSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)、Gd−CeO
2(ガドリニウムドープ酸化セリウム)、In
2O
3(酸化インジウム)、MoO
3(酸化モリブデン)、YSZ(イットリウム安定化酸化ジルコニウム)、及びLSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)である。CeO
2−100及びCeO
2−111を含め、これらの金属酸化物についてのOSCの測定結果を、
図19に棒グラフの形で示す。
測定結果から、ここに挙げられた金属酸化物のいずれもが、有意なOSCを有していることが分かった。すなわち、これらの中で最も低いOSCは、YSZについての50μmol−O
2g
−1であった。従って、これらの固体電解質である金属酸化物は、いずれも本発明の処理方法における触媒として使用可能であると考えられる。
【0064】
金属酸化物ナノ粒子のOSCの温度依存性評価
複数種の金属酸化物ナノ粒子(Gd−CeO
2(ガドリニウムドープ酸化セリウム)及びYSZ(イットリウム安定化酸化ジルコニウム))について、温度を35℃、100℃、200℃、350℃と変化させた場合のOSCを上記方法例2に従って測定し、OSCの温度依存性を調査した。各金属酸化物ナノ粒子についてのOSC変化を、350℃でのCeO
2−100(立方体CeO
2)、CeO
2−111(八面体CeO
2)及びIn
2O
3(酸化インジウム)のOSCと共に、
図20に示す。
予想されたとおり、各金属酸化物のOSCは、温度の上昇と共に漸次大きくなることが分かった。換言すれば、各金属酸化物のOSCは、温度の下降と共に漸次小さくなることが分かった。また、いずれの金属酸化物のOSCも、35℃において有意な値を有していた。
【0065】
以下の実施例1〜3では、上記のように合成したCeO
2−100(立方体CeO
2)を固体電解質の金属酸化物触媒として用いた。
【0066】
実施例1:アセトアルデヒドの酸化的分解
相当するカルボン酸へのアルデヒドの酸化は、種々の合成反応においてカルボン酸が重要な中間体であるため、有機合成における重要な方法のひとつとして位置づけられる。無触媒下で進行するCannizzaro反応(カニツァロ反応)は、ヒドロキシド塩基を用いアルデヒドの二分子を反応させて一級アルコール及びカルボン酸を生成するレドックス反応である。酸化剤として分子酸素を用いるアルデヒドの酸化には多くの研究がされてきた。例えば、[Ni(acac)
2]のような有酸素均一触媒系、Au/C及びRu/CeO
2のような有酸素不均一触媒系が挙げられる。
ここでは、CeO
2触媒の性能を評価するために別の試験を行った。上記のように合成された立方体酸化セリウム(20mg)及び2.57mlのアセトアルデヒド水溶液(2.0M)を反応器に充填した。反応温度は350℃とした。また、比較のため、無触媒下でも反応を行った。
【0067】
生成物の濃度は、GC−MSスペクトルにおけるピーク面積、内部標準としてのDMSOを用いることによって調査された。
まず、触媒(CeO
2)を用いない場合の結果を示す。クロマトグラフ(
図4−a)より、主生成物は、酢酸、エタノール、エチルアセテート、そしてアルドール縮合生成物であることがわかった。収率を時間に対してプロットした図(
図5−a及び
図5−b)より、アセトアルデヒドの減少にともない、酢酸とエタノールが増大することがわかった。エチルアセテートの生成は、この酢酸とエタノールの脱水(エステル化)によるものであり、この収率の半分は、酢酸とエタノールであることを考えると、酢酸とエタノールが主生成物であることが理解される。これらの生成物は、カニツァロ反応によって生成した生成物である(CH
3CHO+CH
3CHO=CH
3COOH+CH
3OH)。また、アルドール縮合生成物は、CH
3CHO+CH
3CHO=CH
3C(OH)CH
3CHOにより生成する。収率を比べると、カニツァロ反応による生成物とアルドール縮合反応による生成物は同程度生じていることがわかった。
【0068】
次に、触媒(CeO
2)を用いた場合の結果を示す。触媒を用いない場合と同様の生成物であるが、アルドール縮合生成物がより多く、アセテートについてはメトキシ化が進んでいることが理解される。メトキシ化は、メタノールの生成を示唆しており、酢酸がさらに酸化され、メタノールとCO
2に分解している可能性を示している。ガスの生成が確認されており、メタンおよびCO
2が数%生成していた。メタンは、アセトアルデヒドの酸化的分解と同時に熱分解してCO
2と同時に生成したものと考えられる。これは、酢酸の酸化と併せて、CO
2収率が若干多い点からも妥当な結果である。
収率をプロットした図(
図5−a及び
図5−b)をみると、アセトアルデヒドの収率の減少がより大きく、触媒CeO
2の存在により反応が促進されていることがわかった。エタノール収率はほぼ等しい程度である。しかし、エチルアセテートがエタノールと酢酸から生成したことを考慮しつつ(その収率の半分を加えて)、エタノール生成量を比較すると、CeO
2を添加した方が、生成量が低いことが理解される。
【0069】
上で議論したように、触媒CeO
2による酸化反応がエタノールに生じていると考えると、エタノール推定生成量がCeO
2を添加した場合に低いことが理解される。同様に、酢酸生成量が多いこと、及びアセトアルデヒド反応率が向上したことも説明できる。酢酸生成量が多くなったことは、アルドール縮合生成物とのエステル化反応を促進するから、これらの生成物が多くなったことも理解できる。また、エタノール生成量が少ないことが、エチルアセテート生成の抑制につながったと考えられる。
これらの結果から、以下の式に表される反応が生じていることが確認された。
CH
3CHO+(O)=CH
3COOH(ΔG
0f=−421.9kJ/mol)
CH
3CHO+(O)=CH
4 + CO
2(ΔG
0f=−220.03kJ/mol)
CH
3COOH+(O)=CH
3OH + CO
2(ΔG
0f=−36.63kJ/mol)
CH
3CH
2OH+(O)=CH
3CHO(ΔG
0f=−343.01kJ/mol)
ここで、ΔG
0fは、HKFモデルを用いて算出された標準状態でのギブスの自由エネルギー変化を示す。
【0070】
また、アセトアルデヒド(CH
3CHO)から酢酸(CH
3COOH)を生じる反応について、触媒CeO
2の酸化還元も含めたギブスの自由エネルギー変化の理論計算の収支は以下のとおりとなる。
1)CH
3CHO + 2CeO
2 −> CH
3COOH + Ce
2O
3
2)H
2O + Ce
2O
3 −> 2CeO
2 + H
2
合計)CH3CHO + H2O −> CH3COOH + H2
1)ΔG=(−1706.2−389.9)−(−2*1024.6−128.2)= 81.3 kJ/mol(ΔH°=89.1kJ/mol)
2)ΔG=(2*−1024.6+0)−(−228.61−1706.2)=−114.39kJ/mol
合計)ΔG=(−389.9+0)−(−128.2−228.61)=−33.1kJ/mol
【0071】
実施例2:リグニンの酸化的分解
リグニン(グアイアコール骨格とグリセルアルデヒドの共重合体)の水熱条件下での分解反応では、加水分解とともに、アルデヒドのレトロアルドール反応が生じ、さらに多くのアルデヒドが生成する。そのアルデヒドがフェノール骨格とフリーデルクラフツ反応し、重合を進める。そのため、分解はすすむが、高分子化も同時に進む。このアルデヒドを酸化してカルボン酸に転化させることができれば、カルボン酸はフェノールとはフリーデルクラフツ的な反応はしないため、重合を抑制できる。
そこで、
図6に示される水熱条件下にて、CeO
2触媒をリグニン重量に対して3または10の比率で用いてリグリンの酸化的分解を行った。バッチ型反応器を用い、300℃〜400℃にて10分反応させた後、急冷した。
図7〜9に示されるように、400℃/触媒300mg使用(超臨界水)、350℃/触媒1000mg使用、300℃/触媒1000mg使用のいずれの場合においても、リグニンの酸化的分解が進行していることが視認された(反応溶液はより清澄化された)。また、触媒量の増加に伴い、明らかに分解の促進が確認された。また、触媒1000mgとした場合には、350℃どころか、300℃の低温においても、分解反応が生じていることが確認できた。
【0072】
実施例3:色素の酸化的分解
さらに低温でも酸化的な分解反応が生じるかどうか確認するため、より視認が容易である色素分子をモデル分子として用いて実験を行った。
【0073】
色素として、以下の式で表される通称インディゴチンで知られているインディゴカルミン(アシッドブルー74)を用いた。この化合物は、pH指示薬として及び化学反応におけるレドックス指示剤として作用する。
【化1】
【0074】
立方体の酸化セリウム(20mg)及び色素の水溶液(0.01M)2.0mlを、反応器に充填した。反応温度は250〜350℃とした。
図10(触媒を不使用)には、色素が反応後に変化しなかったことが示される。これは、触媒の不存在下において、色素が臨界前の水熱条件では多くは分解しなかったことを意味する。しかし、
図11に示されるように、同じ温度条件のもと、立方体CeO
2ナノ触媒を用いた場合には、分解が促進された。また、驚くべきことに、250℃の低温でも顕著な分解反応促進が確認できた。
【0075】
以下の実施例
4及び5では、CeO
2−100(立方体CeO
2)以外の固体電解質である金属酸化物触媒を用いて実験を行った。
【0076】
実施例4:色素の酸化的分解(立方体酸化セリウム以外の金属酸化物触媒存在下)
各触媒(100mg)及び色素・インディゴカルミンの水溶液(0.1mM)2.5mlを、反応器に充填した。反応温度は100℃とし、1時間反応を行った。使用した触媒は、酸化モリブデン(MoO
3)、酸化マンガン(MnO
3)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化鉄(Fe
2O
3)、四酸化三コバルト(Co
3O
4)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、酸化コバルトII(CoO)、及び酸化バナジウム(V
2O
5)である。比較のため触媒を含まない色素水溶液についても同様に反応を行った。各種の金属酸化物触媒の存在下で酸化反応を行った後の溶液の外観を、参照の水と共に
図21に示す。
また、UV−VIS(可視紫外分光法)を用い、反応前後の吸光度の減少を611nmピークで測定することによって、原料の分解率を定量化した。原料分解率の数値を
図21に併せて示す。この数値の実験誤差は、±0.5%程度であると見込まれる。触媒なしの場合でも、反応器の表面からの影響により、多少の反応が起こったと考えられる。また、MoO
3の場合は、触媒なしの場合とほぼ同様の原料分解率であった。それ以外の金属酸化物触媒を用いた場合には、いずれも有意に反応が進行していることが分かった。
【0077】
実施例5:アセトアルデヒドの酸化的分解(立方体酸化セリウム以外の金属酸化物触媒存在下)
固体電解質の金属酸化物触媒(100mg)及び2.5mlのアセトアルデヒド水溶液(1.0M)を反応器に充填した。反応温度は350℃とし、反応時間は30分とした。
金属酸化物触媒として、イットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ガドリニウムドープ酸化セリウム(Gd−CeO
2)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)、酸化ランタンガリウム(LaGaO
3)、酸化鉄(Fe
2O
3)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化スカンジウムドープ酸化ジルコニウム(ScZ:ScSZとも称される)のいずれかを用いた。
これらの反応において、原料のアセトアルデヒド全体の炭素モル濃度基準にて算出されたアセトアルデヒド(残分)及び酢酸の収率を
図22に示す。いずれの触媒を用いた場合においても、有意な収率にて反応が進行し、酸化生成物である酢酸が得られた。
【0078】
実施例6:プロパナールの酸化的分解(立方体酸化セリウム等の金属酸化物触媒存在下)
固体電解質の金属酸化物触媒(100mg)及び2.5mlのプロパナール水溶液(1.0M)を反応器に充填した。反応温度は350℃とし、反応時間は30分とした。
金属酸化物触媒として、上記にて合成した立方体の酸化セリウム、酸化バナジウム(V
2O
5)、酸化コバルトII(CoO)のいずれかを用いた。また、比較用に、触媒なしでも反応を行った。
これらの反応において、原料のプロパナール全体の炭素モル濃度基準にて算出されたプロパナール(残分)及びプロピオン酸(酸化生成物)の収率は、以下のとおりであった。この反応は複雑であると理解されるが、いずれの触媒を用いた場合においても、有意な収率にて反応が進行し、酸化生成物であるプロピオン酸が得られた。
[プロパナール(残分)の収率]
・触媒なし:77.7%
・立方体酸化セリウム(CeO
2):43.5%
・酸化バナジウム(V
2O
5):31.0%
・酸化コバルトII(CoO):41.3%
[プロピオン酸の収率]
・触媒なし:1.7%
・立方体酸化セリウム(CeO
2):1.7%
・酸化バナジウム(V
2O
5):1.9%
・酸化コバルトII(CoO):1.9%