(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の飛行体用航法装置および飛行体制御方法の実施形態について説明する。飛行体用航法装置は、例えば、ロケットや人工衛星、宇宙探査機、航空機、飛行ドローンなどの飛行体に搭載される装置である。以下、飛行体は、一例として、ロケットであるものとして説明するが、上述したように人工衛星や宇宙探査機などの他の飛行体であってもよい。また、飛行体用航法装置は、飛行体の他に、自動車や船舶などの他の移動体に搭載されてもよい。
【0010】
(第1実施形態)
[利用場面]
図1は、第1実施形態の飛行体用航法装置100が搭載されたロケット1の利用場面の一例を示す図である。例えば、ロケット1は、避雷塔LTなどが建てられた発射場(射点)から上空に向けて発射される。この際、ロケット1に搭載された飛行体用航法装置100は、5つ以上の人工衛星(航法衛星)SATのそれぞれにより送信された各電波に基づき、ロケット1の位置および速度を導出し、この位置および速度を基にロケット1を目的地まで航行させる。人工衛星SATには、準天頂衛星が含まれてよい。本実施形態では、一例として、飛行体用航法装置100が8機の人工衛星SATを捕捉するものとして説明する。
【0011】
[ロケットの構成]
図2は、第1実施形態のロケット1の概略構成図である。ロケット1は、例えば、多段ロケットであり、最上段には、人工衛星等が格納され、それ以下の段は、航行中に最上段から切り離され、落下する。ロケット1は、例えば、一段目ロケット10と、二段目ロケット12と、最上段の三段目ロケット14とを備える。ロケット1は、発射された直後は一段目ロケット10による推進力で飛行し、その後、一段目ロケット10を切り離した後、二段目ロケット12の推進力で飛行し、最終的に三段目ロケット14が人工衛星などのペイロード20を宇宙空間に到達させる。飛行体用航法装置100は、例えば、二段目ロケット12に格納される。
【0012】
[飛行体用航法装置]
飛行体用航法装置100は、8機の人工衛星SATのそれぞれとロケット1との間のシュードレンジおよびシュードレンジレートを導出し、その導出した計8機分のシュードレンジおよびシュードレンジレートと、ロケット1の慣性力を基に求めた位置および速度とを複合することで、ロケット1の位置および速度を導出する。この際、飛行体用航法装置100は、マルチパスの影響により、各人工衛星SATに対応したシュードレンジおよびシュードレンジレートに誤差が含まれているかを判定し、マルチパスによる誤差が含まれていると判定した場合、誤差が含まれているシュードレンジおよびシュードレンジレートを利用せず、誤差が含まれていない残りのシュードレンジおよびシュードレンジレートを利用してロケット1の位置および速度を導出する。
【0013】
図3は、第1実施形態の飛行体用航法装置100の構成図である。飛行体用航法装置100は、例えば、一以上のアンテナATと、通信装置TMとに接続される。飛行体用航法装置100は、例えば、演算モジュール110と、IMU(Inertial Measurement Unit;慣性計測装置)130と、電源モジュール140と、記憶部150とを備える。本実施形態では、例えば、3つ以上のアンテナATが飛行体用航法装置100に備えられているものとする。
【0014】
アンテナATは、外部から電波(例えば人工衛星SATからの電波)を受信し、受信した電波に応じた信号(以下、衛星測位信号と称する)をLNA(Low Noise Amplifier)に出力する。LNAは、アンテナATから入力された衛星測位信号を増幅し、その衛星測位信号を演算モジュール110に出力する。
【0015】
演算モジュール110は、LNAから入力された衛星測位信号と、IMU130から入力された情報とに基づいて、ロケット1の位置および速度を導出する。
【0016】
IMU130は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)や光ファイバによって構成される三軸式加速度センサ、および三軸式ジャイロセンサを含む。IMU130は、これらのセンサによって検出された値を演算モジュール110に出力する。IMU130による検出値には、例えば、水平方向、垂直方向、奥行き方向の各加速度と、ピッチ、ロール、ヨーの各軸の速度(レート)が含まれる。
【0017】
電源モジュール140は、図示しない電源装置に接続される。電源モジュール140は、例えば、保護回路とDC−DCコンバータを備え、飛行体用航法装置100の各部に電力を供給する。
【0018】
記憶部150は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などにより実現される。また、記憶部150は、HDD(Hard Disc Drive)、フラッシュメモリなどにより実現されてもよい。記憶部150には、例えば、演算モジュール110による各種処理結果が記憶される。
【0019】
通信装置TMは、例えば、テレメータ回線を利用して種々の情報を地上監視装置(不図示)に送信する。地上監視装置は、例えば、ロケット1が発射された後のロケット1の位置および速度を、テレメトリ通信によってロケット1から取得する。そして、地上監視装置は、仮にロケット1が落下した場合の落下地点を繰り返し推定し、落下による危険を回避するようにロケット1に指示信号を送信する。また、地上監視装置は、所定時間経過してもロケット1から位置および速度に関する情報を取得できない場合には、ロケット1に搭載された飛行体用航法装置100を再起動させるための指令信号を送信する。
【0020】
図4は、第1実施形態の演算モジュール110の構成の一例を示す図である。例えば、演算モジュール110は、慣性航法演算処理部112と、衛星航法演算処理部114と、複合航法演算処理部116と、予測部118と、判定部120とを備える。衛星航法演算処理部114は、「第1導出部」の一例であり、複合航法演算処理部116は、「第2導出部」の一例である。また、IMU130と慣性航法演算処理部112とを合わせたものは、「検出部」の一例である。
【0021】
演算モジュール110の構成要素の一部または全部は、MPU(Micro Processing Unit)やCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサが記憶部150に格納されたプログラムを実行することにより実現される。また、演算モジュール110の構成要素の一部または全部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やLSI(Large Scale Integration)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0022】
慣性航法演算処理部112は、IMU130から入力された検出値に基づいて、ロケット1の位置を導出する。例えば、慣性航法演算処理部112は、検出値に含まれる速度を時間積分することで、ロケット1の位置を導出する。また、慣性航法演算処理部112は、検出値に含まれる加速度を時間積分することで速度を導出し、更にその速度を時間積分することでロケット1の位置を導出してもよい。慣性航法演算処理部112は、導出した速度および/または位置を示す情報を、複合航法演算処理部116や予測部118に出力する。
【0023】
衛星航法演算処理部114は、例えば、8機の人工衛星SATの各電波に対応した衛星測位信号を基に、人工衛星SATごとに、シュードレンジおよびシュードレンジレートを導出する。例えば、衛星航法演算処理部114は、各人工衛星SATにより電波が送信されたときの送信時刻と、その人工衛星SATから電波を受信したときの受信時刻との差に電波の伝搬速度(光速)を乗算することで、各人工衛星SATのシュードレンジを導出する。また、衛星航法演算処理部114は、各衛星測位信号の周波数のドップラーシフトからドップラー周波数を導出し、このドップラー周波数に基づいて、各人工衛星SATのシュードレンジレートを導出する。また、衛星航法演算処理部114は、ドップラー周波数を利用する代わりに、シュードレンジの時間変化からシュードレンジレートを導出してもよい。
【0024】
そして、衛星航法演算処理部114は、導出したシュードレンジおよびシュードレンジレート(以下、これらを合わせて観測値とも称する)に基づいて、ロケット1の位置および速度を導出する。例えば、衛星航法演算処理部114は、各人工衛星SATの電波に含まれる航法メッセージ(エフェメリス)から、各人工衛星SATの位置を決定し、その人工衛星SATの位置と、各人工衛星SATとのシュードレンジとに基づいて、各人工衛星SATから等距離となる円の交点位置を導出する。また、衛星航法演算処理部114は、各人工衛星SATからの電波の受信時刻の誤差を求め、各人工衛星SATから等距離となる円の交点位置を補正する。衛星航法演算処理部114は、この各人工衛星SATから等距離となる円の交点位置をロケット1の位置として導出する。この際、衛星航法演算処理部114は、三次元の次元ごとの位置、および電波の受信時刻の誤差の4つの未知数を解くために、5つ以上の人工衛星SATの電波を利用していることを考慮して、各人工衛星SATのシュードレンジに距離誤差成分が含まれているものと仮定し、この距離誤差成分の二乗和が最小となるように4つの未知数を解くことで、ロケット1の位置を導出する。
【0025】
また、例えば、衛星航法演算処理部114は、各人工衛星SATの電波に含まれる航法メッセージ(エフェメリス)から各人工衛星SATの速度を決定し、この各人工衛星SATの速度と、各人工衛星SATとロケット1との相対速度であるシュードレンジレートとに基づいて、ロケット1の速度を導出する。衛星航法演算処理部114は、導出した位置および速度を示す情報を、複合航法演算処理部116や予測部118に出力する。以下、観測値であるシュードレンジおよびシュードレンジレートに基づいてロケット1の位置および速度を導出することを「衛星測位」と称して説明する。
【0026】
複合航法演算処理部116は、慣性航法演算処理部112により導出されたロケット1の位置および速度と、衛星航法演算処理部114により導出されたロケット1の位置および速度とを統合した位置および速度を導出する。以下、位置および速度を統合する処理のことを、「複合航法」と称して説明する。
【0027】
例えば、複合航法演算処理部116は、慣性航法演算処理部112により導出されたロケット1の位置と、衛星航法演算処理部114により導出されたロケット1の位置との差分、および慣性航法演算処理部112により導出されたロケット1の速度と、衛星航法演算処理部114により導出されたロケット1の速度との差分を求め、これらの各差分から時系列フィルタを用いて将来のロケット1の位置および速度を予測する。時系列フィルタは、例えば、カルマンフィルタなどの観測対象(実施形態ではロケット1)の将来の状態を予測するためのアルゴリズムである。複合航法演算処理部116は、予測した将来のロケット1の位置および速度を基に、衛星航法演算処理部114により導出されたロケット1の位置および速度を補正する。「補正」とは、例えば、予測値である位置および速度と、観測値である位置および速度とを相加平均や相乗平均などによって平均化することである。これによって、各演算処理部により導出されたロケット1の位置および速度が統合される。そして、複合航法演算処理部116は、統合したロケット1の位置および速度に関する情報を、通信装置TMを用いて地上監視装置に送信する。
【0028】
予測部118は、8機の人工衛星SATのそれぞれについて、将来のある時点におけるシュードレンジおよびシュードレンジレートのうち一方または双方(以下、これらの一方または双方を予測値とも称する)を予測する。例えば、予測部118は、将来観測されることが想定されるシュードレンジから求まるであろう未知数のロケット1の位置と、同じく将来観測されることが想定されるシュードレンジレートから求まるであろう未知数のロケット1の速度とのそれぞれが、慣性航法演算処理部112により導出されたロケット1の位置および速度であるものと仮定し、この本来であれば未知数となる将来のロケット1の位置および速度から、将来のある時点で既知数となるはずのシュードレンジおよびシュードレンジレートを逆算することで、将来のある時点におけるシュードレンジおよびシュードレンジレートを予測する。
【0029】
また、予測部118は、衛星航法演算処理部114により過去に導出されたロケット1の位置および速度に基づいて、8機の人工衛星SATのそれぞれについて、将来のある時点におけるシュードレンジおよびシュードレンジレートのうち一方または双方を予測してもよい。例えば、予測部118は、前回と前々回において、衛星航法演算処理部114の衛星測位により導出されたロケット1の速度の変化量を時間微分して、ロケット1の加速度を求める。より具体的には、衛星航法演算処理部114によって、衛星測位によってロケット1の速度が10[Hz]周期によって繰り返し導出される場合、予測部118は、速度の変化量を0.1[s]で微分することで加速度を求める。そして、予測部118は、求めた加速度および速度から、次の周期に衛星測位により導出される速度および位置を予測する。
【0030】
判定部120は、予測部118により予測されたシュードレンジおよびシュードレンジレートに基づいて、マルチパスが発生したか否かを判定する。そして、上述した衛星航法演算処理部114は、判定部120の判定結果に応じてロケット1の位置および速度の導出方法を変更する。この処理の詳細についてはフローチャートを用いて後述する。
【0031】
図5は、第1実施形態の演算モジュール110による一連の処理の一例を示すフローチャートである。本フローチャートの処理は、例えば、ロケット1が発射されてから、所定周期(例えば100[Hz]周期)で繰り返し行われる。
【0032】
まず、予測部118は、8機の人工衛星SATのそれぞれについて、将来のある時点におけるシュードレンジおよびシュードレンジレートのうち一方または双方を予測する(ステップS100)。
【0033】
次に、判定部120は、テンポラリパラメータNをゼロクリアにする(ステップS102)。テンポラリパラメータNは、本フローチャートの処理演算に用いられる内部的なパラメータであり、補足する人工衛星SATの数に対応する。以降の処理では、テンポラリパラメータNが、処理対象とする人工衛星SAT(N)を示すものとする。処理対象とする人工衛星SAT(N)は、「対象人工衛星」の一例である。
【0034】
次に、判定部120は、ゼロクリアしたテンポラリパラメータNをインクリメントし、N=N+1とする(ステップS104)。例えば、初回の処理では、8機の人工衛星SATのうち、人工衛星SAT(1)が処理対象に選択される。
【0035】
次に、判定部120は、処理対象に選択した人工衛星SAT(N)の電波を受信した複数のアンテナATのうち、所定条件を満たすアンテナATの衛星測位信号を基に導出されたシュードレンジおよびシュードレンジレートを、衛星航法演算処理部114から取得する(ステップS106)。所定条件とは、例えば、最も受信電力(衛星測位信号の信号強度)が大きいことである。
【0036】
次に、判定部120は、衛星航法演算処理部114から取得したシュードレンジおよびシュードレンジレートと、予測部118により予測されたシュードレンジおよびシュードレンジレートとを比較する(ステップS108)。例えば、衛星航法演算処理部114から取得したシュードレンジおよびシュードレンジレートの処理対象とされた人工衛星SATがSAT(1)である場合、判定部120は、8機の人工衛星SATのそれぞれについて予測部118により予測された複数のシュードレンジおよびシュードレンジレートのうち、人工衛星SAT(1)を処理対象としたときに予測されたシュードレンジおよびシュードレンジレートを選択し、この選択したシュードレンジおよびシュードレンジレート(予測値)と、衛星航法演算処理部114から取得したシュードレンジおよびシュードレンジレート(観測値)とを比較する。なお、予測部118によりシュードレンジおよびシュードレンジレートのいずれか一方のみが予測された場合、判定部120は、シュードレンジ同士、或いはシュードレンジレート同士のみを比較してよい。
【0037】
次に、判定部120は、比較したシュードレンジの差分および/またはシュードレンジレートの差分に基づいて、マルチパスが発生しているか否かを判定する(ステップS110)。例えば、判定部120は、シュードレンジの差分および/またはシュードレンジレートの差分が閾値以上である場合、所定条件を満たすアンテナATにより受信された電波に、マルチパスが発生していると判定する。例えば、判定部120は、予測値であるシュードレンジレートが5[m/s]である場合に、観測値であるシュードレンジレートが10[m/s]である場合、明らかな誤差であるため、マルチパスが発生していると判定する。
【0038】
一方、判定部120は、シュードレンジの差分および/またはシュードレンジレートの差分が閾値未満である場合、所定条件を満たすアンテナATにより受信された電波に、マルチパスが発生していないと判定する。
【0039】
判定部120は、所定条件を満たすアンテナATの受信電波にマルチパスが発生していないと判定した場合、フローチャートの今回の処理周期において、所定条件を満たすアンテナAの受信電波に基づき衛星航法演算処理部114により導出されたシュードレンジおよびシュードレンジレートを、衛星航法演算処理部114による衛星測位に利用することを許可する(ステップS112)。
【0040】
一方、判定部120は、所定条件を満たすアンテナATの受信電波にマルチパスが発生していると判定した場合、所定条件を満たすアンテナATを除いた他のアンテナATの中から、所定条件を満たす他のアンテナAT(例えば二番目に受信電力(衛星測位信号の信号強度)が大きいアンテナAT)の衛星測位信号を基に導出されたシュードレンジおよびシュードレンジレートを、衛星航法演算処理部114から取得する(ステップS114)。
【0041】
次に、判定部120は、S114の処理でシュードレンジおよびシュードレンジレートを取得できたか否かを判定し(ステップS116)、シュードレンジおよびシュードレンジレートを取得できたと判定した場合、上述したS108の処理に戻り、衛星航法演算処理部114から取得したシュードレンジおよびシュードレンジレートと、予測部118により予測されたシュードレンジおよびシュードレンジレートとを比較することを繰り返す。
【0042】
一方、判定部120は、S114の処理でシュードレンジおよびシュードレンジレートを取得できない場合、或いは、既に観測値を取得したことのあるアンテナATを除いたときに、選択可能なアンテナATが残されていない場合(全て選択し切った場合)、フローチャートの今回の処理周期において、処理対象に選択した人工衛星SAT(N)とロケット1との間のシュードレンジおよびシュードレンジレートを、衛星航法演算処理部114による衛星測位に利用することを禁止する(ステップS118)。このような処理によって、判定部120は、例えば、アンテナATが3つであった場合、ある人工衛星SAT(N)に対する、3つのアンテナATのそれぞれの観測値の中から、予測値と閾値以上乖離しない観測値を総当たりで探索し、1つでも予測値と閾値以上乖離しない観測値がある場合には、その観測値を衛星測位に利用することを許可し、予測値と閾値以上乖離しない観測値が1つも存在しない場合には、人工衛星SAT(N)に対する全ての観測値を衛星測位に利用することを禁止する。これによって、フローチャートの次の処理周期まで、マルチパスによる誤差が含まれている蓋然性の高い観測値を除いて衛星測位を行うことができる。
【0043】
次に、判定部120は、テンポラリパラメータNが8以上であるか否かを判定する(ステップS120)。判定部120は、テンポラリパラメータNが8未満である場合、上述したS104の処理に戻り、テンポラリパラメータNをインクリメントして、処理対象とする人工衛星SAT(N)を変更する。例えば、テンポラリパラメータNが1のときに人工衛星SAT(1)が処理対象に選択された場合、今回の処理では、人工衛星SAT(2)が処理対象に選択される。このように処理を繰り返すことで、8機の人工衛星SATのそれぞれの観測値についてマルチパスが発生しているか否かが判定される。
【0044】
一方、判定部120によりテンポラリパラメータNが8以上であると判定された場合、衛星航法演算処理部114は、判定部120により利用を許可された観測値を用いて、ロケット1の位置および速度を導出する(ステップS122)。これによって本フローチャートの処理が終了する。
【0045】
なお、上述したフローチャートの処理は、ロケット1が発射されてから所定周期で繰り返し実行されるものとして説明したがこれに限られず、例えば、ロケット1が、所定高度以上に達した場合に終了されてもよい。所定高度とは、例えば、一般的にマルチパスが発生しにくいと言われている高高度(例えば数万[km]の高度)である。このような高度で処理を終了することで、処理負荷を軽減することができる。
【0046】
[シミュレーション試験]
本出願の出願人は、以下に説明するシミュレーション試験を実施した。
図6は、シミュレーション結果の一例を示す図である。図中(a)は、本手法を適用しないシミュレーション結果を示し、(b)は、本手法を適用したシミュレーション結果を示している。いずれの図でも、縦軸は、速度誤差[m/s]を表し、横軸は、時刻[s]を表している。
【0047】
(a)に示すように、観測値と予測値とを比較して、その比較差分に応じて衛星測位に観測値を利用するか否かを決定しない場合、処理対象としている人工衛星SAT(N)のシュードレンジレートの誤差が増加するのに応じて、衛星測位によって求められたロケット1の速度の誤差も増加している(T1の区間を参照)。
【0048】
これに対して(b)に示すように、観測値と予測値とを比較して、その比較差分に応じて衛星測位に観測値を利用するか否かを決定する場合、例えば、3秒あたりからシュードレンジレートに誤差が増加し始めるが、まだシュードレンジレートが閾値未満であることから、衛星測位に利用され、その測位結果であるロケット1の速度にも誤差が生じている。一方で、3.5秒あたりで、シュードレンジレートの誤差が閾値を超え、このシュードレンジレートが衛星測位に利用されなくなり、その結果、測位結果であるロケット1の速度の誤差が減少している(T2の区間を参照)。
【0049】
以上説明した第1実施形態によれば、5つ以上の複数の人工衛星SATのそれぞれから電波を受信する一以上のアンテナATと、一以上のアンテナATのそれぞれにより受信された電波に基づいて、複数の人工衛星SATのそれぞれについて、電波が受信された時点における、人工衛星SATとロケット1との間のシュードレンジと、人工衛星SATとロケット1との間のシュードレンジレートを導出する衛星航法演算処理部114と、アンテナATにより受信された電波に基づいて、複数の人工衛星SATのそれぞれについて、将来のある時点における、人工衛星SATとロケット1との間のシュードレンジと、人工衛星SATとロケット1との間のシュードレンジレートとのうちの少なくとも一方を予測する予測部118と、予測部118の予測時点においてアンテナATにより受信された電波に基づき衛星航法演算処理部114により導出された観測値と、予測部により予測された予測値との比較結果に基づいて、ロケット1の位置および速度を導出する複合航法演算処理部116と、を備えることにより、例えば、8機のうち、1機や2、3機の人工衛星SATの観測値(シュードレンジおよびシュードレンジレート)にマルチパスが生じた場合であっても、残りの4機以上の人工衛星SATによって衛星測位を行うことができる。この結果、マルチパスによる誤差の影響を受けずに、複合航法によってロケット1の位置および速度を導出することができるため、飛行体の一例であるロケット1の位置および速度を精度良く導出することができる。
【0050】
また、上述した第1実施形態によれば、上述したフローチャートの処理をロケット1が発射されてから所定周期で繰り返し行うため、ロケット1の噴煙などによってマルチパスが生じた場合でもこの影響を抑制することができる。
【0051】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、ある人工衛星SATの一以上の観測値のうちいずれかと予測値との差分が閾値以上である場合、衛星測位に、その人工衛星SATの観測値を利用しないものとして説明した。これに対して、第2実施形態では、観測値と予測値との差分に応じて観測値に重み付け、その重み付きの観測値を用いて衛星測位を行う点で、第1実施形態と相違する。すなわち、第2実施形態では、観測値と予測値との差分が閾値以上であっても衛星測位に利用する点で、第1実施形態と相違する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と共通する部分についての説明は省略する。
【0052】
第2実施形態の衛星航法演算処理部114は、判定部120により観測値と予測値との比較が行われた際の差分を基に、各観測値に重みを付与する。例えば、衛星航法演算処理部114は、観測値と予測値との差分が大きいほど重みを小さくし、差分が小さいほど重みを大きくする。各観測値に付与される重みは、例えば、重み同士の和をとったときに1となる重み付き和であってよい。このとき、重みは0をとってもよい。これによって、マルチパスによる誤差がより多く含まれている蓋然性の高い観測値(予測値との差分が大きい観測値)ほど、衛星測位の寄与度を低下させ、そうでない観測値(予測値との差分が小さい観測値)ほど、衛星測位の寄与度を向上させることができる。
【0053】
以上説明した第2実施形態によれば、観測値と予測値との差分に応じて観測値に重み付け、その重み付きの観測値を用いて衛星測位を行うため、マルチパスの影響を抑制しながら、より多くの人工衛星SATの観測値を利用して衛星測位を行うことができ、ロケット1の位置および速度を精度良く導出することができる。
【0054】
一般的に、ロケット1を発射場に配置したときに、そのロケット1と人工衛星SATとの間の電波の伝搬経路に、避雷塔LTなどの電波干渉物が存在する場合がある。この場合、予め決められた固定の方向を飛行する人工衛星SATの観測値を衛星測位に利用しないことが考えられ得る。しかしながら、ロケット1の発射時に捕捉可能な人工衛星SATの数を減らしておく場合、ロケット1の位置および速度の精度が低下する可能性がある。例えば、静止状態にあるロケット1が運動状態に遷移する際、最も加速度が大きくなり、より精密な制御を要する。従って、ロケット1の発射時には可能な限り多くの人工衛星SATの観測値を得ることが好ましい。また、マルチパスの誤差が混入する方向を事前に知ることは困難であることから、予め決められた固定の方向とは異なる方向を飛行する人工衛星SATの観測値にマルチパスの誤差が含まれる場合もある。
【0055】
これに対して、第2実施形態では、ロケット1の発射時から全ての人工衛星SATの観測値に対して、予測値との差分に応じた重みを付与し、この重み付けられた全ての観測値を衛星測位に利用してロケット1の位置および速度を導出するため、マルチパスに対するロバスト性を高めながら、より精度良くロケット1を航行させることができる。
【0056】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。上述した第1および第2実施形態では、観測値と予測値との差分に応じてマルチパスが生じているか否かを判定した。これに対して、第3実施形態では、観測値と予測値との差分に加えて、或いは代えて、ロケット1の機体ダイナミクスの解析結果からマルチパスが生じているか否かを判定する点で、第1および第2実施形態と相違する。以下、第1および第2実施形態との相違点を中心に説明し、第1および第2実施形態と共通する部分についての説明は省略する。
【0057】
第3実施形態における判定部120は、例えば、ロケット1の飛行環境下において予め想定される速度、加速度、ジャーク等の最大変化量と、現在のロケット1の速度、加速度、ジャーク等の変化量とを比較することで、マルチパスが生じているか否かを判定する。例えば、判定部120は、ロケット1の射点を原点としたEast−North−Up座標系において、East軸(以下、E軸)と、North軸(以下、N軸)と、Up軸(以下、U軸)とのそれぞれに、スカラ量である観測値をベクトル分解する。そして、判定部120は、ベクトル分解された各軸の観測値が閾値を超えるかを判定し、ベクトル分解された各軸の観測値のうちいずれかが閾値を超える場合、マルチパスが生じていると判定する。
【0058】
図7および
図8は、機体ダイナミクスによるマルチパスの有無を判定する方法を説明するための図である。例えば、East−North−Up座標系の各軸には、それぞれ異なる閾値が設けられてよい。例えば、ロケット1が鉛直上向きに推進するときのU軸には、比較的大きな閾値Th(U)が設定され、E軸およびN軸には、閾値Th(U)よりも小さな閾値Th(E)およびTh(U)がそれぞれ設定される。これによって、ジャークが発生しやすい方向(加速度が急激に変動しやすく、追従遅れが生じやすい方向)であるU軸に対しては誤差の発生を許容し易く、ジャークが発生しにくい方向であるE軸およびN軸に関しては誤差の発生を許容し難くすることができる。例えば、
図7の例では、各軸において、いずれも観測値のベクトルが閾値以下であるため、判定部120は、マルチパスが発生していないと判定する。一方、
図8の例では、N軸において、観測値のベクトルが閾値を超えているため、判定部120は、マルチパスが発生していると判定する。このように、判定部120は、予め想定されたロケット1の機体ダイナミクスよりも、実際のロケット1の機体ダイナミクスが大きければ、観測値にマルチパスによる誤差が含まれており、その結果として想定される観測値と大きくことなる観測値が導出されたものと判定することができる。
【0059】
また、判定部120は、ある時点(以下、第1時点)においてアンテナATにより受信された電波に基づき衛星航法演算処理部114により導出された観測値と、第1時点よりも後の第2時点においてアンテナATにより受信された電波に基づき衛星航法演算処理部114により導出された観測値との比較結果に基づいて、マルチパスが生じているか否かを判定してもよい。例えば、判定部120は、第1時点における各軸のベクトル値と、第2時点における各軸のベクトル値との増加分が閾値以上である場合、マルチパスが生じていると判定する。例えば、第1時点では、U軸においてシュードレンジレートが大きく、且つE軸やN軸においてシュードレンジレートが小さいような場合に、時間が進んだ第2時点では、U軸においてシュードレンジレートが小さくなり、E軸やN軸においてシュードレンジレートが大きくなった場合、ロケット1がUp方向に関して推進しなくなり、代わりにEast方向やNorth方向に移動し始めたことを表している。このような場合、ロケット1が通常取り得る運動と異なる運動をしていることから、判定部120は、マルチパスによる誤差によって、想定される観測値と大きくことなる観測値が導出されたものと判定することができる。判定部120によりマルチパスが発生していると判定された場合、衛星航法演算処理部114は、上述したように、マルチパスによる誤差を含む観測値の利用せずに、他の観測値のみで衛星測位を行う。
【0060】
以上説明した第3実施形態によれば、ロケット1の機体ダイナミクスの解析結果からマルチパスが生じているか否かを判定するため、観測値にマルチパスによる誤差が含まれているか否かをより精度良く検出することができる。この結果、マルチパスによる誤差の影響を受けずに、より精度良く複合航法によってロケット1の位置および速度を導出することができる。
【0061】
上記実施形態は、以下のように表現することができる。
5つ以上の複数の人工衛星のそれぞれから電波を受信する一以上のアンテナと、
情報を記憶するストレージと、
前記ストレージに格納されたプログラムを実行するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、前記プログラムを実行することにより、
前記一以上のアンテナのそれぞれにより受信された電波に基づいて、前記複数の人工衛星のそれぞれについて、電波が受信された時点における前記人工衛星と前記飛行体との相対距離および相対速度を指標値として導出し、
前記複数の人工衛星のそれぞれについて、将来のある時点における前記人工衛星と前記飛行体との相対距離および相対速度のうちの少なくとも一方の指標値を予測し、
前記指標値の予測時点において前記アンテナにより受信された電波に基づき導出された指標値と、前記予測された指標値との比較結果に基づいて、前記飛行体の位置および速度を導出するように構成された飛行体用航法装置。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0063】
なお、上述したように、本発明の飛行体用航法装置は、飛行体の他に、自動車や船舶などの他の飛行しない移動体に搭載されてもよく、以下のように移動体用航法装置、移動体制御方法として用いることができる。特に、自動車の自動運転においては、自動車の位置および速度を精度良く導出できることから有用である。
【0064】
上記実施形態は、上述した表現の他に、以下のように表現することもできる。
(1)
飛行しない移動体に搭載される移動体用航法装置であって、
5つ以上の複数の人工衛星のそれぞれから電波を受信する一以上のアンテナと、
前記一以上のアンテナのそれぞれにより受信された電波に基づいて、前記複数の人工衛星のそれぞれについて、電波が受信された時点における前記人工衛星と前記移動体との相対距離および相対速度を指標値として導出する第1導出部と、
前記複数の人工衛星のそれぞれについて、将来のある時点における前記人工衛星と前記移動体との相対距離および相対速度のうちの少なくとも一方の指標値を予測する予測部と、
前記予測部の予測時点において前記アンテナにより受信された電波に基づき前記第1導出部により導出された指標値と、前記予測部により予測された指標値との比較結果に基づいて、前記移動体の位置および速度を導出する第2導出部と、
を備える移動体用航法装置。
(2)
前記移動体に働く慣性力に基づいて、前記移動体の位置および速度を検出する検出部を更に備え、
前記予測部は、前記検出部により検出された前記移動体の位置および速度に基づいて、前記複数の人工衛星のそれぞれについて、将来のある時点における前記人工衛星と前記移動体との相対距離および相対速度のうちの少なくとも一方の指標値を予測する、
上記(1)に記載の移動体用航法装置。
(3)
前記予測部は、前記第1導出部により導出された過去の前記移動体の位置および速度に基づいて、前記複数の人工衛星のそれぞれについて、将来のある時点における前記人工衛星と前記移動体との相対距離および相対速度のうちの少なくとも一方の指標値を予測する、
上記(1)に記載の移動体用航法装置。
(4)
前記移動体に働く慣性力に基づいて、前記移動体の位置および速度を検出する検出部を更に備え、
前記第2導出部は、
前記第1導出部により前記人工衛星ごとに導出された指標値のうち、処理対象とする対象人工衛星に対応した指標値と、前記予測部により前記人工衛星ごとに予測された指標値のうち、前記対象人工衛星に対応した指標値との差分が閾値以上であるか否かを判定し、
前記差分が閾値未満であると判定した場合、前記第1導出部により前記人工衛星ごとに導出された前記指標値と、前記検出部により検出された前記移動体の位置および速度とに基づいて、前記移動体の位置および速度を導出し、
前記差分が閾値以上であると判定した場合、前記第1導出部により前記人工衛星ごとに導出された前記指標値の中から、前記対象人工衛星に対応した指標値を除いた複数の指標値と、前記検出部により検出された前記移動体の位置および速度とに基づいて、前記移動体の位置および速度を導出する、
上記(1)から(3)のうちいずれか一つに記載の移動体用航法装置。
(5)
前記第2導出部は、
前記差分が閾値以上であるか否かを判定する判定処理を所定の周期で繰り返し、
前記判定処理を繰り返す中で、前記差分が閾値以上であると判定した場合、少なくとも次の周期まで、前記対象人工衛星に対応した指標値を除いた複数の指標値と、前記検出部により検出された前記移動体の位置および速度とに基づいて、前記移動体の位置および速度を導出する、
上記(4)に記載の移動体用航法装置。
(6)
前記移動体に働く慣性力に基づいて、前記移動体の位置および速度を検出する検出部を更に備え、
前記第2導出部は、
前記第1導出部により前記人工衛星ごとに導出された指標値と、前記予測部により前記人工衛星ごとに予測された指標値との差分を、前記人工衛星ごとに導出し、
前記第1導出部により前記人工衛星ごとに導出された指標値に、導出した前記差分に応じた重みを付与し、
前記重みを付与した前記人工衛星ごとの指標値と、前記検出部により検出された前記移動体の位置および速度とに基づいて、前記移動体の位置および速度を導出する、
上記(1)から(3)のうちいずれか一つに記載の移動体用航法装置。
(7)
前記第2導出部は、前記差分が大きいほど前記重みを小さくし、前記差分が小さいほど前記重みを大きくする、
上記(6)に記載の移動体用航法装置。
(8)
前記第2導出部は、更に、
前記第1導出部により導出された指標値と、予め決められた閾値との比較結果に基づいて、前記移動体の位置および速度を導出する、
上記(1)から(7)のうちいずれか一つに記載の移動体用航法装置。
(9)
前記第2導出部は、更に、
第1時点において前記アンテナにより受信された電波に基づき前記第1導出部により導出された指標値と、前記第1時点よりも後の第2時点において前記アンテナにより受信された電波に基づき前記第1導出部により導出された指標値との比較結果に基づいて、前記移動体の位置および速度を導出する、
上記(1)から(8)のうちいずれか一つに記載の移動体用航法装置。
(10)
5つ以上の複数の人工衛星のそれぞれから電波を受信する一以上のアンテナを備える飛行しない移動体に搭載されるコンピュータが、
前記一以上のアンテナのそれぞれにより受信された電波に基づいて、前記複数の人工衛星のそれぞれについて、電波が受信された時点における前記人工衛星と前記移動体との相対距離および相対速度を指標値として導出し、
前記複数の人工衛星のそれぞれについて、将来のある時点における前記人工衛星と前記移動体との相対距離および相対速度のうちの少なくとも一方の指標値を予測し、
前記指標値の予測時点において前記アンテナにより受信された電波に基づき導出した指標値と、前記予測した指標値との比較結果に基づいて、前記移動体の位置および速度を導出する、
移動体制御方法。