(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニコチンの含有量に対する、炭素数6以下のカルボン酸の総含有量の比(A/N比)が0.06以上20.00以下であり、ニコチン1mgあたりの、TSNAの含有量が20ng以下であり、かつ、pHが、7.0以上10.0未満である、口腔用たばこ組成物。
前記炭素数6以下のカルボン酸が、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、ギ酸、レブリン酸、ピルビン酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸、酪酸及びグルタミン酸から選ばれる一種以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の口腔用たばこ組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0010】
本発明の口腔用たばこ組成物に含有させることのできる、たばこ葉材料については、たばこ用組成物とした際に、後述するA/N比と、ニコチンに対するTSNAの含有量の範
囲を満たせば特に制限されない。具体的には、後述する本発明の口腔用たばこ組成物の製造方法に用いるたばこ刻みや粉末を用いることができる。そのたばこ刻の幅やたばこ粉末の粒度についても、後述する本発明の口腔用たばこ組成物の製造方法に用いるたばこ刻みや粉末と同じものを用いることができる。
【0011】
本発明の口腔用たばこ組成物には、カルボン酸とニコチンが含まれる。
本発明の口腔用たばこ組成物は、当該口腔用たばこ組成物におけるニコチンの含有量に対する、炭素数6以下のカルボン酸の総含有量の比(A/N比)が0.06以上である。
なお、本発明でいう含有量の比とは、モル比を意味する。
口腔用たばこ組成物のA/N比が0.06以上であることで、たばこ原料に特有の咽喉や食道への特有の感覚を使用者に付与することができる。A/N比は、その感覚を高めるために、1.30以上である態様を挙げることができる。
本発明の口腔用たばこ組成物では、たばこ原料に特有の咽喉や食道への特有の感覚を高めるために、前記A/N比が、0.20以上であることがより好ましく、1.30以上であることがさらに好ましく、2.00以上であることが特に好ましく、3.50以上であることが最も好ましい。
一方、A/N比が20.00以下である態様を挙げることができる。A/N比が20.00を超えると、たばこ本来の香味を得ることが難しくなる。
【0012】
なお、たばこ組成物における炭素数6以下のカルボン酸の総含有量については、以下の方法により分析された各酸の合計量を基準とする。
その測定法として、以下の手順を含む方法により行う。
(1)分析対象とするたばこ組成物を秤量し、蒸留水を加える。
(2)超音波洗浄機で20分間超音波処理を行い、遠沈管に移す。
(3)遠沈管を遠心分離機に設置し、遠心分離を行う。
(4)水層を採取して、遠心分離機用フィルターユニットに移す。
(5)これを高速遠心機でろ過を行い、ろ液を分析試料とする。
(6)分析試料をUV検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)での分析に供し、分離、定量する。
なお、炭素数6以下のカルボン酸について、検出限界以下、あるいは定量限界以下のものについては、A/N比の算出の際には含有量を0として扱う。
【0013】
本発明の口腔用たばこ組成物には、炭素数6以下のカルボン酸が含まれている。
本発明の口腔用たばこ組成物に含まれる炭素数6以下のカルボン酸としては、特に制限されるものではないが、例えば以下の表1に記載されるリンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、ギ酸、レブリン酸、ピルビン酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸、酪酸、グルタミン酸から選ばれる1種以上を挙げることができる。
これらのカルボン酸のうち、好ましくはクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、及びギ酸から選ばれる1種以上を挙げることができる。
本発明の口腔用たばこ組成物には、上記で例示したカルボン酸の全てが含まれている必要はない。また、これらの各カルボン酸の含有量の比については特に制限はなく用いることができる。
たばこ組成物に含まれるカルボン酸の含有量は、遊離のカルボン酸の含有量として測定されるものである。
【0015】
本発明の口腔用たばこ組成物における、炭素数6以下のカルボン酸の含有量は、ニコチンの含有量にもよるが、乾燥状態のたばこ原料の総重量を100重量%としたときに、0.01〜95重量%である態様を挙げることができ、別の態様では0.01〜70重量%を挙げることができる。
【0016】
上記A/N比は、後述する本発明の製造方法を用いることにより、材料となるたばこ葉に含まれていた上記の各酸やニコチンの含有量を変化させることで、調整することができる。また、たばこ葉に含まれるニコチンの含有量に応じて、上記の各酸を添加することでA/N比を調整してもよい。
【0017】
本発明の口腔用たばこ組成物では、ニコチン1mgあたりの、TSNAの含有量が20ng以下である。このようなTSNAの量に調整されていることで、材料となるたばこ葉に元々含まれていた夾雑物質が十分に除去されている。
たばこ組成物におけるニコチン1mgあたりのTSNAの含有量は、例えば、後述する口腔用たばこ組成物の製造方法のステップc)において、ニコチンの捕集が一定程度完了した時点で捕集を終了することによって、少なくすることができる。
ニコチン1mgあたりのTSNAの含有量は、15ng以下であることがより好ましく、10ng以下であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の口腔用たばこ組成物に含まれるニコチンの含有量は、乾燥状態のたばこ原料の総重量を100重量%としたときに、0.01〜10重量%である態様を挙げることができ、別の態様では0.1〜5重量%を挙げることができる。
たばこ組成物に含まれるニコチンの定量については、ドイツ標準化機構DIN 10373に準ずる方法で行う。
【0019】
また、たばこ組成物に含まれるTSNAの定量については、TSNAとして4−(Methylnitrosamino)−1−(3−pyridyl)−1−butanone(以下、NNK)、N′−Nitrosonornicotine(以下、NNN)、N’−Nitrosoanatabine(以下、NAT)及びN’−Nitrosoa
nabasine(以下、NAB)の4種類の濃度を測定する。本発明でいうTSNAの含有量は、上記の4種類の化合物の合計の含有量を意味する。
たばこ組成物に含まれる上記TSNAの分析は下記の手順に従って行う。
たばこ組成物に内部標準物質を添加し、0.1M酢酸アンモニウム水溶液で振とう抽出する。たばこ抽出液を0.1M酢酸アンモニウム水溶液で10倍希釈した後、フィルター(孔径0.2μm)ろ過を行い、試料溶液とする。試料溶液中のTSNAは超高速液体クロマトグラフ質量分析計(UPLC/MS/MS)で測定を行う。
【0020】
本発明の口腔用たばこ組成物は、そのpHが7.0以上10.0未満、あるいは8.0以上10.0未満である態様を挙げることができる。口腔用たばこ組成物の味を調整するために、pHは調整されるものであり、本発明の口腔用たばこ組成物を、必要に応じて中和してもよい。一方、口腔用たばこ組成物の特有の感覚の調整は上記のようにA/N比を調整することにより行うことができる。
本発明の口腔用たばこ組成物には、グリセリンのような保湿剤や、味を整えるための甘味料や、味に特徴を付けるための香料を加えてもよい。
また、本発明のたばこ組成物には、口腔用たばこ製品として適切な水分含有量を有するようにするために、水を加えてもよい。口腔用たばこ製品に供する際の水分含有量としては、20〜50重量%程度を挙げることができる。
本発明の口腔用たばこ組成物は、以下で示すようなSNUSやガムのような用途で用いることができる。
本発明の口腔用たばこ組成物を、例えばSNUSとする場合は、上述したたばこ材料を例えば不織布のような原料を用いた包装材に公知の方法を用いて充填することで得られる。例えばたばこ組成物の量を調整して充填し、ヒートシールなどの手段によりシールしてSNUSを得る。
包装材としては特段の限定なく用いることができるが、セルロース系の不織布などが好ましく用いられる。
本発明の口腔用たばこ組成物を、例えばガムとする場合は、本発明で用いられる上記たばこ組成物を公知のガムベースと公知の方法を用いて混合することで得られる。かみたばこやかぎたばこ、圧縮たばこについても、本発明で用いられる上記たばこ組成物を用いること以外は、公知の方法を用いて得ることができる。また、可食フィルムについても本発明で用いられる上記たばこ原料を用いること以外は、公知の材料や方法を用いて得ることができる。
【0021】
本発明の口腔用たばこ組成物の製造方法では、以下のa)〜d)のステップを経て得られるたばこ材料を、口腔用たばこ組成物に含有させるものである。
a)たばこ原料に塩基性物質を添加するステップ
b)前記塩基性物質を添加したたばこ原料を加熱することで、たばこ原料中の香喫味成分を気相中に放出するステップ
c)前記気相中に放出された香喫味成分を捕集溶媒に回収するステップ
d)前記香喫味成分が放出されたたばこ原料を洗浄溶媒で洗浄することにより、たばこ原料に残存する酸性物質を除去するステップ
e)前記d)の後に、前記b)で回収した香喫味成分を前記たばこ原料に掛け戻すステップ
【0022】
本発明の製造方法により得られるたばこ組成物は、炭素数が6以下のカルボン酸の総含有量と、ニコチンの含有量の比(A/N比)が0.06以上であり、ニコチン1mgあたりの、TSNAの含有量が20ng以下である。これらの条件を満たすたばこ組成物の技術的な意義は、上記で説明したとおりである。
本発明の製造方法により得られるたばこ組成物は、前記A/N比が、0.20以上である態様も挙げることができ、1.30以上である態様も挙げることができ、2.00以上
である態様も挙げることができ、3.50以上である態様も挙げることができる。一方、本発明の製造方法により得られるたばこ組成物は、前記A/N比が、20.00以下である態様もあげることができる。これらのA/N比の技術的意義については、本発明の口腔用たばこ組成物の説明に記載したとおりである。
なお、炭素数6以下のカルボン酸としては、本発明の口腔用たばこ組成物の説明に記載したものと同じものを用いることができる。
A/N比は、後述するように、処理に供するたばこ葉材料に含まれる糖類の濃度を調整したり、ステップa)で添加する塩基性物質の種類を変えたり、ステップd)の洗浄工程の回数や用いる洗浄溶媒の種類を変えたりステップe)の後に別途カルボン酸を添加したりすることで、調整できる。
なお、本発明の口腔用たばこ組成物は、その製造後の蔵置中に前記の酸の量が変化してA/N比が変動することがある。例えば、口腔用たばこ組成物の蔵置中に、前記酸が生成して、A/N比が増加することがある。
【0023】
本発明の製造方法に供するたばこ原料としては、たばこ刻を挙げることができ、収穫されたたばこ葉を通常の方法で裁断して得られるものである。また、たばこ原料としてたばこ粉末を用いることもでき、たばこ粉末は収穫されたたばこ葉を通常の方法で粉砕して得られるものである。たばこ葉の種類については口腔用たばこに用いられるものであれば特に制限されることはなく、適宜使用することができる。例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)やニコチアナ・ルスチカ(Nicotiana rustica)等のタバコ属の原料を用いることができる。ニコチアナ・タバカムとしては、例えば、バーレー種又は黄色種等の品種を用いることができる。なお、たばこ葉の種類としては、バーレー種及び黄色種以外の種類のたばこ原料を用いてもよい。また、たばこ刻の幅やたばこ粉末の粒度についても、公知のものを適宜採用することができる。
【0024】
本発明の製造方法に用いるたばこ原料は、乾燥状態のたばこ原料の総重量を100重量%としたときに、糖類の合計の含有量が10.0重量%以下である態様を挙げることができる。たばこ原料に含まれる糖類は、フルクトース、グルコース、サッカロース、マルトース、イノシトールである。これらの糖類の含有量が乾燥状態のたばこ原料の総重量に対して調整されることで、後述するステップb)の加熱時に、糖類の分解による揮発性有機酸(主として酢酸やギ酸)の発生量が調整される。これによって、後述するステップc)において、香喫味成分(ここではニコチン)の回収の際に、同時に捕集される揮発性有機酸の量を調整することができ、前述したA/N比を調整することができる。
【0025】
なお、たばこ原料に含まれる香喫味成分(ここでは、ニコチン)の初期含有量は、乾燥状態において、たばこ原料の総重量が100重量%である場合に、2.0重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、香喫味成分(ここでは、ニコチン)の初期含有量は、4.0重量%以上であることが好ましい。
【0026】
前記ステップa)では、たばこ刻やたばこ粉末を含有するたばこ原料に塩基性物質を加えるステップである。このステップにより、アルカリ性のたばこ原料を調製する。アルカリ性のたばこ原料は、そのpHが8.0以上である態様を挙げることができ、pHが9.5〜10の範囲にある態様を好ましく挙げることできる。好ましくは、たばこ原料のpHが8.9〜9.7の範囲になるまで、塩基性物質をたばこ原料に添加する態様を挙げることができる。
たばこ原料をアルカリ性にするために添加する塩基性物質としては、弱酸のアルカリ金属塩を挙げることができる。
ステップa)において添加する塩基性物質の量や種類を適切に選択することで、たばこ原料中のカルボン酸塩の残存量を調節することが出来る。例えば、塩基性物質が弱酸のアルカリ金属塩であると、後述するステップd)において、たばこ原料中に残存しているカ
ルボン酸塩の含有量を効率的に調節することができる。これは、カルボン酸のアルカリ金属塩が水に対して高い溶解度を有するためである。
黄色種のような糖の含有量が多い品種のたばこ葉を原料として用いると、加熱処理の際にカルボン酸が多く生成することで、前記A/N比が高くなりすぎることがあり、これを防ぐためにこのような調節が必要になることがある。
また、ステップa)において添加する塩基性物質が弱酸のアルカリ金属塩であると、後述するステップb)において、たばこ原料中に含まれる揮発性有機酸(主として酢酸やギ酸)と中和により形成されるアルカリ塩の沸点は、ステップb)の加熱時の温度よりも十分に高いので、そのアルカリ塩が揮散して香喫味成分(ここではニコチン)と共に気相中に放出されにくくなる。一方で、例えば塩基性物質として弱酸のアンモニウム塩を用いた場合には、中和により形成される揮発性有機酸のアンモニウム塩は、アルカリ金属塩よりも加熱により分解しやすいので、揮発性有機酸が気相中に揮散しやすくなる。
このことから、ステップa)において塩基性物質が弱酸のアルカリ金属塩を添加すると、たばこ原料中に含まれる揮発性有機酸がアルカリ塩となることで、ステップb)の加熱時に気相中に放出されず、たばこ原料に残存するので、後述するステップd)の洗浄の条件を変えるだけで、たばこ原料中の有機酸の含有量を調整することもできる。
また、上記の弱酸のアルカリ金属塩において、弱酸のアルカリ金属塩が炭酸のアルカリ金属塩である場合には、炭酸の金属塩はpKaがたばこ原料中の揮発性有機酸よりも高いため、後述するステップb)において揮発性有機酸の気相中への放出が抑制されることが期待される。
ステップa)において添加される塩基性物質の具体例としては、炭酸カリウムや炭酸ナトリウムを挙げることができる。
また、ステップa)で用いる塩基性物質として、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物を挙げることもできる。
これらの塩基性物質を用いて、ステップa)においてたばこ原料のpHを調整することができる。
【0027】
また、たばこ原料における水分含有量については、特に制限されることはなく、通常の乾燥を経たたばこ葉を裁断して得られたものが有する水分含有量、例えば5〜15重量%を挙げることができる。一方で、後述するステップb)における香気性成分の放出効率の観点からは、たばこ原料の水分含有量は多い方が好ましく、例えば10重量%以上である態様をあげることでき、30重量%であることがより好ましい。一方で、後述するステップb)でたばこ原料を効率よく加熱する観点からは、50重量%以下であることが好ましい。
この水分含有量は、塩基性物質を添加するステップa)において、塩基性物質を溶解した水溶液の水分量により調整することもできるし、塩基性物質を添加する前のたばこ原料に水を予め添加して調整してもよい。
また、このたばこ原料には、塩化ナトリウム水溶液を加えて、たばこ材料の塩分濃度を調整してもよい。
【0028】
本発明の製造方法におけるステップb)は、ステップa)で塩基性物質が添加されたたばこ原料を加熱することで、たばこ原料に含まれる香喫味成分(ここではニコチン)を気相中に放出させるステップである。
ステップb)では、例えば、塩基性物質を添加する際に用いた容器にたばこ原料が収容された状態で、容器とともにたばこ原料を加熱する態様を挙げることができる。ステップb)で用いる容器としては、耐熱性及び耐圧性を有する部材(例えばSUS)によって構成されている態様を挙げることができる。そのような装置として、例えば
図1で示される装置10を挙げることができる。装置10は容器11と噴霧器12を有する。
図1ではたばこ原料は符号50に相当する。
また、当該装置10の容器11は、香喫味成分(ここではニコチン)が外部に揮散しな
いように、密閉空間を構成することが好ましい。「密閉空間」とは、通常の取り扱い(運搬、保存等)において、固形の異物の混入を防ぐ状態である。
ステップa)における塩基性物質の添加は、噴霧器12により行われてもよい。
【0029】
ここで、たばこ原料の加熱温度は、80℃以上かつ150℃未満の範囲であることが好ましい。たばこ原料の加熱温度が80℃以上であることによって、たばこ原料から十分な香喫味成分(ここではニコチン)が放出されるタイミングを早めることができる。一方で、たばこ原料の加熱温度が150℃未満であることによって、たばこ原料からTSNAが放出されるタイミングを遅らせることができる。このことから、先に放出された香喫味成分(ここではニコチン)を捕集した後は捕集を停止することにより、捕集液に含まれるTSNAの含有量を少なくすることができる。
【0030】
なお、ステップb)において、たばこ原料に対して加水処理を施してもよい。加水処理後のたばこ原料の水分含有量は、10重量%以上かつ50重量%以下であることが好ましい。また、ステップb)において、たばこ原料に対して連続的に加水してもよい。加水量は、たばこ原料の水分含有量が10重量%以上かつ50重量%以下となるように調整されることが好ましい。
【0031】
また、ステップb)において、たばこ原料に対して通気処理を施すことが好ましい。これによって、アルカリ処理されたたばこ原料から気相に放出される放出成分に含まれる香喫味成分量(ここではニコチンの量)を増大させることができる。通気処理では、例えば、80℃における飽和水蒸気をたばこ原料に接触させる。通気処理における通気時間は、たばこ原料を処理する装置及びたばこ原料の量によって異なるため、一概に特定することができないが、例えば、たばこ原料が500gである場合には、通気時間は、300分以内である。通気処理における総通気量についても、たばこ原料を処理する装置及びたばこ原料の量によって異なるため、一概に特定することができないが、例えば、たばこ原料が500gである場合には、10L/g程度である。
【0032】
なお、通気処理で用いる空気は、飽和水蒸気でなくてもよい。通気処理で用いる空気の水分量は、特にたばこ原料50の加湿を必要とせずに、例えば、加熱処理及び通気処理が適用されているたばこ原料に含まれる水分が50%未満の範囲に収まるように調整されてもよい。通気処理で用いる気体は、空気に限定されるものではなく、窒素、アルゴン等の不活性ガスであってもよい。
【0033】
本発明の製造方法は、前記ステップb)を経て放出された、たばこ原料に含まれていた香喫味成分(ここではニコチン)を捕集溶媒に回収するステップc)を含む。
前記ステップb)を経て気相中に放出された香喫味成分(ここではニコチン)は、当該ステップc)を経て気相中から回収される。上述したように、気相中に放出された香喫味成分(ここではニコチン)が、外部に揮散しないようにするために、ステップb)で密閉空間を構成する容器内で行われた場合には、当該容器内の気相中に含まれる香喫味成分(ここではニコチン)を回収する。この場合、ステップb)とステップc)を同時に行ってもよい。
ステップb)が密閉空間を構成しない容器内で行われた場合には、ステップb)と同時にステップc)を行い、もれなく香喫味成分(ここではニコチン)が回収できるようにする。
【0034】
香喫味成分(ここではニコチン)の回収方法として、捕集装置を用いた方法を挙げることができる。捕集装置としては、例えば密閉空間を構成し、香喫味成分(ここではニコチン)を回収するための捕集溶媒を入れることができるとともに、香喫味成分(ここではニコチン)が含まれる前記気相の蒸気を捕集溶媒に接触させることができるものを挙げるこ
とができる。そのような捕集装置として、例えば
図2に示される捕集装置20を挙げることができる。
図2の捕集装置20は、容器21と、パイプ22と、放出部分23と、パイプ24とを有する。
容器21は、捕集溶媒70を収容する。容器21は、例えば、ガラスによって構成される。容器21は、密閉空間を構成することが好ましい。「密閉空間」とは、通常の取り扱い(運搬、保存等)において、固形の異物の混入を防ぐ状態である。
【0035】
捕集溶媒70の温度は、例えば、常温である。ここで、常温の下限は、例えば、捕集溶媒70が凝固しない温度、好ましくは、4℃である。常温の上限は、例えば、40℃以下である。捕集溶媒70の温度を4℃以上40℃以下とすることで、捕集溶液からの香喫味成分(ここではニコチン)の揮散を抑制しつつ、アンモニウムイオンやピリジン等の揮発性夾雑成分を捕集溶液から効率的に除去することができる。捕集溶媒70としては、例えば、グリセリン、水又はエタノールを用いることができる。すなわち、捕集溶媒70は、複数種類の溶媒によって構成されていてもよい。香喫味成分(ここではニコチン)の捕捉効率を上昇するために、捕集溶媒70の初期pHは、塩基性物質による処理後のたばこ原料50のpHよりも低いことが好ましい。
【0036】
パイプ22は、たばこ原料の加熱によってたばこ原料から気相中に放出される放出成分61を捕集溶媒70に導く。なお、図示していないが、捕集装置のパイプ22は装置10の容器11と連結されている。放出成分61は、少なくとも、香喫味成分の指標であるニコチン成分を含む。たばこ原料にアルカリ処理が施されているため、放出成分61は、香喫味成分(ここではニコチン)の捕集工程を開始してから経過する時間(処理時間)によっては、アンモニウムイオンを含むこともある。放出成分61は、捕集工程を開始してから経過する時間(処理時間)によっては、TSNAを含むこともある。したがって、放出成分61にTSNAが含まれるようになる前までに、ステップc)を終了させることが好ましい。
【0037】
放出部分23は、パイプ22の先端に設けられており、捕集溶媒70に浸漬される。放出部分23は、複数の開口23Aを有している。パイプ22によって導かれた放出成分61は、複数の開口23Aから泡状の放出成分62として捕集溶媒70中に放出される。
【0038】
パイプ24は、捕集溶媒70によって捕捉されなかった残存成分63を容器21の外側に導く。
【0039】
ここで、放出成分62は、たばこ原料の加熱によって気相中に放出される成分であるため、放出成分62によって捕集溶媒70の温度が上昇する可能性がある。従って、捕集装置20は、捕集溶媒70の温度を常温に維持するために、捕集溶媒70を冷却する機能を有していてもよい。
捕集装置20は、捕集溶媒70に対する放出成分62の接触面積を増大するために、ラシヒリングを有していてもよい。
【0040】
ステップc)の態様として、上述したように捕集装置20を用いて、ステップb)で気相中に放出される香喫味成分(ここではニコチン)を常温の捕集溶媒70に接触させて捕集する態様が挙げられる。なお、説明の便宜上、ステップb)及びステップc)を別々な処理として説明しているが、ステップb)及びステップc)は、並列的に行われてもよい処理であることに留意すべきである。並列的とは、ステップb)を行う期間がステップc)を行う期間と重複することを意味しており、ステップb)及びステップc)が同時に開始・終了する必要はないことに留意すべきである。
【0041】
ここで、ステップb)及びステップc)において、装置10の容器11内の圧力は、例えば常圧以下である。詳細には、装置10の容器11内の圧力の上限は、ゲージ圧で+0.1MPa以下である。また、装置10の容器11の内部は、減圧雰囲気であってもよい。
【0042】
ここで、捕集溶媒70としては、上述したように、例えば、グリセリン、水又はエタノールを用いることができる。捕集溶媒70の温度は、上述したように、常温である。ここで、常温の下限は、例えば、捕集溶媒70が凝固しない温度、好ましくは、10℃である。常温の上限は、例えば、40℃以下である。
【0043】
捕集溶媒70に捕集された香喫味成分(ここではニコチン)を含む捕集溶媒を濃縮して濃縮液を調製し、ステップe)に供される。濃縮液を調整する際の濃縮の条件については制限されず、例えば減圧下での条件を挙げることができ、香喫味成分(ここではニコチン)の濃度が20〜30重量%になるまで濃縮する態様を挙げることができる。濃縮の方法については制限はなく、減圧濃縮処理、加熱濃縮処理又は塩析処理が挙げられる。
【0044】
ここで、減圧濃縮処理は、密閉空間で行われるため、空気接触が少なく、捕集溶媒70を高温にする必要がないため、成分変化の懸念が少ない。従って、減圧濃縮を用いれば、利用可能な捕集溶媒の種類が増大する。
【0045】
加熱濃縮処理では、香喫味成分(ここではニコチン)の酸化などのような液の変性の懸念があるが、香味を増強する効果が得られる可能性がある。但し、減圧濃縮と比べると、利用可能な捕集溶媒の種類が減少する。例えば、MCT(Medium Chain Triglyceride)のようなエステル構造を有する捕集溶媒を用いることができない可能性がある。
【0046】
塩析処理では、減圧濃縮処理と比べて、香喫味成分(ここではニコチン)の濃度を高めることが可能であるが、液溶媒相/水相における香喫味成分(ここではニコチン)が半々であるため、香喫味成分の歩留まりが悪い。また、疎水性物質(MCT等)の共存が必須であると想定されるため、捕集溶媒、水及び香喫味成分(ここではニコチン)の比率によっては、塩析が生じない可能性がある。
【0047】
ステップb)によりたばこ原料中に含まれていた香喫味成分(ここではニコチン)が除かれた後、ステップd)において、香喫味成分(ここではニコチン)が除去された残渣が洗浄溶媒により洗浄される。これによりたばこ原料(残渣)に残存する酸性物質を除去できる。本発明の製造方法では、このステップd)を含むことにより、不要な酸性物質をたばこ原料から除去することで、酸性物質の含有量を調節できる。
上記ステップd)がステップb)に引き続いて装置10を用いて行われる場合には、例えば噴霧器12から洗浄溶媒をたばこ原料に対して噴霧し、その後10〜60分程度、容器11を回転、搖動させて洗浄を行う態様を挙げることができる。
その際、たばこ原料と洗浄溶媒の重量比はたばこ原料を1とした場合10〜20を挙げることができる。
ステップd)で用いる洗浄溶媒として、水性溶媒を挙げることができ、その具体例として、純粋や超純水でもよく、市水を用いてもよい。また、洗浄溶媒の温度としては常温〜洗浄溶媒の沸点未満の温度、好ましくは常温〜70℃を挙げることができる。
洗浄溶媒にはCO
2ガスをバブリングしたものを用いてもよく、具体的には炭酸水や過飽和のCO
2ガスを含む水溶液を挙げることができる。また、水性溶媒、例えば水には、オゾンをバブリングしたものを用いることもできる。
ステップd)は複数回行ってよく、洗浄溶媒として水性溶媒を用いる場合には、初めに水で洗浄を行い、その後CO
2ガスをバブリングした洗浄溶媒で洗浄を行ってもよい。そ
れぞれの洗浄は複数回行ってもよい。このような手順や洗浄溶媒を用いて洗浄を行うと、効率よく酸性物質の含有量を調節できる。
洗浄溶媒としては、上記の水性溶媒とは別に、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール、MCT、ヘキサン、メタノール、アセトニトリルのような非水溶媒を用いることもできる。また、これらを上記の水性溶媒と混合して用いることもできる。
洗浄溶媒による洗浄後、残渣に対して乾燥処理が施されてもよい。乾燥条件としては110〜125℃程度の温度で、空気を流通させながら(換気量10〜20L/min/250g−刻)、100〜150分程度行う態様を挙げることができる。
ステップd)の洗浄処理を経て得られる残渣は、後述するステップe)に供される。
【0048】
ステップe)は、ステップd)を経て得られた残渣に、ステップc)で得られた香喫味成分(ここではニコチン)を含む濃縮液を掛け戻すステップである。ステップe)がステップb)やd)に引き続いて装置10を用いて行われる場合には、装置10の噴霧器12から濃縮液を残渣に噴霧し、10〜20分程度、回転・搖動を行う態様を挙げることができる。
なお、ステップe)において、ステップd)を経て得られた残渣に掛け戻される、ステップc)で得られた香喫味成分(ここではニコチン)を含む濃縮液の量は、ステップd)で得られた濃縮液の量を超えることはない。つまり、残渣に掛け戻される香喫味成分(ここではニコチン)の量が、たばこ原料にもともと含まれていた量を超えることはない。
また、ステップe)では、ステップd)を経て得られた残渣以外のたばこ原料(例えば、ステップb)を経ていないたばこ原料)に、香喫味成分(ここではニコチン)を含む濃縮液が掛け戻されることはない。
【0049】
上記ステップa)の前あるいは上記ステップe)の後に、たばこ原料を殺菌する工程を含ませてもよい。ステップa)の前に殺菌する工程を組み入れる場合、その工程における温度としては、例として、105〜110℃を挙げることができる。また、この工程の時間としては、例として、10〜40分程度を挙げることができる。
上記ステップe)の後に殺菌する工程を組み入れる場合、陰圧状態(ゲージ圧:−0.1MPa程度)で密閉し、その密閉状態で105℃程度で15〜45分間加熱する態様を挙げることができる。
【0050】
本発明の製造方法には、前記炭素数6以下のカルボン酸をたばこ原料に添加するステップや、前記炭素数6以下のカルボン酸を前記ステップc)で用いる捕集溶媒に添加するステップを含んでもよい。このようなステップを含むことで、得られるたばこ原料のA/Nを増加させることができる。
前記炭素数6以下のカルボン酸をたばこ原料に添加する場合、例えば、前記ステップd)の後であれば、どのタイミングで含ませてもよい。例えばステップe)と同時、またはステップe)の前もしくは後に含ませる態様を挙げることができる。
また、ステップc)で用いる捕集溶媒に前記炭素数6以下のカルボン酸を添加する場合、その添加のタイミングは、香喫味成分(ここではニコチン)の捕集前あるいは捕集後のどちらでもよい。
炭素数6以下のカルボン酸としては、前記で説明したものと同じものを用いることができる。なお、得られる口腔用たばこ組成物のA/N比を1以上にする場合、加熱等を行う工程において、添加したカルボン酸が揮散しないようにするために、揮発性が低いカルボン酸(ギ酸、酢酸、ピルビン酸以外の酸、例えばリンゴ酸)を用いることが好ましい。
また、カルボン酸の添加方法としては、カルボン酸の水溶液を添加するなど、従来技術を用いることができる。
【0051】
また、本発明の製造方法には、上記のような工程を経て得られたたばこ組成物を乾燥するための乾燥工程を含んでいてもよい。乾燥工程を含ませることで、口腔用たばこ材料と
しての適当な水分含有量に調整できる。
乾燥工程により、得られるたばこ組成物の水分含有量を10〜40重量%程度まで減少させる態様を挙げることができる。
乾燥の際には、たばこ組成物の温度を70〜90℃にまで上昇させる態様を挙げることができる。
【0052】
本発明の製造方法には、口腔用たばこ組成物に、グリセリンのような保湿剤や、味を整えるための甘味料や、味に特徴を付けるための香料を加える工程を含んでもよい。
また、本発明の製造方法には、口腔用たばこ組成物として適切な水分含有量を有するようにするために、水を加える工程を含んでいてもよい。口腔用たばこ組成物に供する際の水分含有量としては、口腔用たばこ組成物全量を100重量%としたときに、20〜50重量%程度を挙げることができる。
また、本発明の製造方法により得られた口腔用たばこ組成物には、製品とする前にそのpHを調整するために塩基性物質を加えてもよい。塩基性物質としては、上記ステップa)で挙げたものを用いることができる。本発明の製造方法により得られる口腔用たばこ組成物のpHは7.0以上10未満である態様や8.0以上10未満である態様を挙げることができる。
【0053】
前記の工程を経て得られた口腔用たばこ組成物は、前述したようなSNUSやガムのような用途で用いることができる。SNUSやガムとする場合に用いる材料や製法については、前述した内容と同じ条件を採用することができる。
【実施例】
【0054】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0055】
<実施例>
(実験操作)
図1で示される装置10にたばこ原料(ニコチン1mgあたりのTSNA含有量:28.08ng)を投入し、塩基性物質として炭酸カリウムがたばこ原料(乾燥重量)に対して20重量%となるように加えた。炭酸カリウム添加後のたばこ原料の水分含有量は40重量%、pHは9.7であった。
その後、たばこ原料を周辺空気で換気しながら(換気量15L/min/500g−刻)、120℃で加熱(ジャケット加熱)した。加熱時間は150分とした。
たばこ原料の加熱時に気相中に放出された放出成分を
図2で示す捕集装置20を用いて捕集した。捕集溶媒としてグリセリンを用い、捕集溶媒の温度を4℃(ジャケット冷却)に設定した。得られた捕集溶媒は圧力25mmHg、温浴温度37℃の条件で、香喫味成分(ここではニコチン)の濃度が20重量%程度になるまで濃縮して濃縮液を得た。
加熱処理を行い、香喫味成分(ここではニコチン)が除去されたたばこ原料が残されている装置10内に、洗浄液を、たばこ原料と洗浄液の重量の比が1:15となるように投入し、30分間回転・搖動した。この操作を、洗浄液として1回目:60℃温水、2回目:60℃温水、3回目:常温水+CO
2バブリング(10L/min)、4回目:常温水+CO
2バブリング(10L/min)を用いて繰り返し行った。
装置10内を加熱温度120℃(ジャケット加熱)、換気量15L/min/250g−刻、処理時間を120分として乾燥し、たばこ原料の残渣を乾燥させた。
その後、装置10内に噴霧器12から前記の濃縮液を乾燥させたたばこ原料に噴霧した。噴霧は装置10を回転・搖動させながら15分間行い、たばこ原料に均一に濃縮液が噴霧されるようにした。
その後さらに、装置10内を減圧し、陰圧状態(ゲージ圧:−0.1MPa)で密閉した。密閉状態のまま、105℃(ジャケット加熱)で15〜45分間加熱し、滅菌した。
そして、ジャケットを冷却して常温に戻った後に減圧解放し、たばこ組成物(乾燥たばこの重量を100重量%としたときのニコチン含有量5.37重量%、水分含有量16.9重量%、ニコチン1mgあたりのTSNA含有量:8.01ng)を得た。
【0056】
上記の操作を経て得られたたばこ組成物(サンプル1)に酸(リンゴ酸)を加えたり(サンプル3〜7)、塩基性物質(NaOH)を加えたり(サンプル3、5〜8)することで、pH及びたばこ組成物のA/N比を表2に示すように調整した各サンプルを調製した。サンプル2はサンプル1と同じたばこ原料を用いて、サンプル1と同様の操作を行った後、蔵置期間として異なる期間を採用して得られたものである。サンプル8は、サンプル1の作製に用いたたばこ原料について、上述の操作を行っていないものである。
なお、サンプル1のニコチン含有量及び各酸の含有量は以下の表2に示す通りであった。
表中、NDは検出限界以下を、NQは定量限界以下をそれぞれ示す。なお、リンゴ酸やクエン酸については、検出限界以下であったため、A/N比の算出の際には0とした。また、コハク酸については、定量限界以下であったため、A/N比の算出の際には0とした。
また、サンプル1〜8において、含有量が定量限界以下の酸についてはA/N比の算出の際には0とした。
【0057】
【表2】
【0058】
そして、得られたサンプル1〜8について、使用時のたばこ組成物の特有の感覚(表3中、「特有の感覚」と表記)についての官能評価を行った。その結果を表3に示す。特有の感覚とは、上記でも説明したとおり、使用者の咽喉や食道への特有の感覚を意味する。官能評価は、5名の被験者により行われ、各人の特有の感覚の感じ方はほぼ同様であり、被験者が試験時に感じた特有の感覚を表3の「特有の感覚」欄に記載した。特有の感覚の数値は唾液を介したたばこ原料に特有の感覚の程度を示すものであり、未処理のたばこ原料では10、その特有の感覚を感じない場合を0として数値化したものである。なお、このたばこ原料に特有の感覚は、人によっては刺激と感じることもある。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に記載の結果についてみると、サンプル3と4の比較から、A/N比が一定であればpHの値によらず特有の感覚も一定であることが分かった。また、サンプル1〜3、5〜7の比較から、pHがほぼ一定である場合、A/N比が変化すれば特有の感覚も変化することが分かった。そして、たばこ組成物のA/N比を大きくすることで、特有の感覚を増大させられることがわかった。
A/N比が0.06以上であると、被験者が十分に認知できる程度に特有の感覚を感じられるようになることがわかった。
【0061】
<参考例>
TSNAの含有量がニコチン1mgあたり20ngよりも大きい未処理のたばこ葉について、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸の総含有量を測定した。測定に供したたばこ葉は、黄色種:58試料、バーレー種:28試料、オリエント種:18試料の合計104試料であった。未処理のたばこ葉のA/N比について、以下の表4に、種類ごとに区分した。また、ニコチンの含有量で区分した未処理のたばこ葉のA/N比を表5にまとめた。
その結果、A/N比は1.37〜19.56(平均値:4.70)であった。
各試料を品種別と原料中ニコチン重量%(ドライベース)別でまとめると以下の様になった。
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
たばこ組成物に含まれる酸の定量は以下の手順により行った。
1)30ml容スクリュー管(アズワン)に分析対象となるたばこ組成物を2g秤量し蒸留水を25ml加えた。
2)超音波洗浄器(US-106、エヌエヌディ)で20分間超音波処理を行い、遠沈管に移した。
3)これを遠心分離機(H-103N、コクサン)に設置し、3500rpmで5分間遠心分離した。
4)水層を採取し、Ultrafree-MC Centrifugal Filter Unitに移した。
5)これを卓上型高速遠心機(KINTARO-18、TOMY)に設置し、12,000 rpmで約10秒間ろ過を行い、ろ液を分析試料とした。
6)分析試料はUV検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて分離・定量した。
【0065】
たばこ組成物に含まれるニコチンの定量については、以下の手順で行った。
ドイツ標準化機構DIN 10373に準ずる方法で行った。すなわち、たばこ組成物を250mg採取し、11%水酸化ナトリウム水溶液7.5mLとヘキサン10mLを加え、60分間振とう抽出した。抽出後、上澄みであるヘキサン相をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)に供し、たばこ組成物に含まれるニコチン重量を定量した。
【0066】
<pHの分析方法>
・口腔用たばこ組成物400mgを採取し、純水4mLを添加し60分間振とう抽出した。
・抽出液を22℃の室温でコントロールされた実験室内で、室温になるまで密閉容器内で放置して温度調和した。
・調和後、ふたを開けて、pHメーター(METTLER TOLEDO社製:セブンイージーS20)のガラス電極を捕集液に浸して測定を開始した。pHメーターは、あらかじめpH4.01、6.87、9.21のpHメーター校正液にて校正した。センサーからの出力変動が5秒間で0.1mV以内に安定した点を、その抽出溶液のpHとした。
【0067】
(たばこ組成物に含まれるTSNAの測定方法)
たばこ組成物に含まれるTSNAの分析は下記の手順に従った。
たばこ組成物に内部標準物質を添加し、0.1M酢酸アンモニウム水溶液で振とう抽出した。たばこ抽出液を0.1M酢酸アンモニウム水溶液で10倍希釈した後、フィルター(孔径0.2μm)ろ過を行い、試料溶液とした。試料溶液中のTSNAは超高速液体クロマトグラフ質量分析計(UPLC/MS/MS)で測定を行った。
【0068】
本発明の口腔用たばこ組成物では、たばこ葉に含まれていたTSNAのような夾雑物質が除去されている一方で、特定の酸とニコチンの含有量の比が所定の範囲内に設定されていることで、たばこ原料に特有の咽喉や食道への感覚を使用者に与えることができる。また、本発明の製造方法によれば、たばこ葉に含まれていたTSNAのような夾雑物質が除
去されているとともに、特定の酸とニコチンの含有量の比が所定の範囲内のたばこ組成物を製造することができる。