(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に、Mgを0.1原子%以上30原子%未満含有し、Cuが0.6原子%未満に規制された酸化皮膜を形成する酸化皮膜形成工程と、
前記酸化皮膜の少なくとも一部に、0.005質量%以上1質量%未満のアルキルシリケートまたはそのオリゴマーと、0.005質量%以上1質量%未満の有機シラン化合物とを含み、pHが2以上7以下である水溶液を塗布することを含む表面処理皮膜形成工程と
を備えるアルミニウム合金材の製造方法。
前記有機シラン化合物が分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を複数有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む請求項1に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
前記アルミニウム合金基材は、Al−Mg系合金、Al−Cu−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金又はAl−Zn−Mg系合金からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0029】
(第1の実施形態)
まず、本実施形態のアルミニウム合金材の製造方法及び当該製造方法により得られるアルミニウム合金材について説明する。本実施形態に係るアルミニウム合金材の製造方法は、アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に、Mgを0.1原子%以上30原子%未満含有し、Cuが0.6原子%未満に規制された酸化皮膜を形成する酸化皮膜形成工程と、前記酸化皮膜の少なくとも一部に、0.005質量%以上1質量%未満のアルキルシリケートまたはそのオリゴマーと、0.005質量%以上1質量%未満の有機シラン化合物とを含み、pHが2以上7以下である水溶液を塗布することを含む表面処理皮膜形成工程とを備えるものである。
図1は本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法を示すフローチャート図である。
図1に示すように、本実施形態のアルミニウム合金材10を製造する際は、基材作製工程S1、酸化皮膜形成工程S2、及び表面処理皮膜形成工程S3を行う。以下、各工程について説明する。
【0030】
<ステップS1:基材作製工程>
基材の形状は特に限定されるものではなく、アルミニウム合金材を用いて作製する部材の形状等に応じて、板状の他、鋳造材、鍛造材、押し出し材(例えば、中空棒状等)等としてとりうる任意の形状であってもよい。基材作製工程S1では、例として板状の基材(基板)を作製する場合には、例えば下記の手順で、基板を作製する。先ず、所定の組成を有するアルミニウム合金を、連続鋳造により溶解し、鋳造して鋳塊を作製する(溶解鋳造工程)。次に、作製した鋳塊に均質化熱処理を施す(均質化熱処理工程)。その後、均質化熱処理された鋳塊に、熱間圧延を施して熱延板を作製する(熱間圧延工程)。そして、この熱延板に300〜580℃で荒焼鈍又は中間焼鈍を行い、最終冷間圧延率5%以上の冷間圧延を少なくとも1回施して、所定の板厚の冷延板(基板)を得る(冷間圧延工程)。
【0031】
冷間圧延工程では、荒焼鈍又は中間焼鈍の温度を300℃以上とすることが好ましく、これにより、成形性向上の効果がより発揮される。また、荒焼鈍又は中間焼鈍の温度は、580℃以下とすることが好ましく、これにより、バーニングの発生による成形性の低下を抑制しやすくなる。一方、最終冷間圧延率は、5%以上とすることが好ましく、これにより、成形性向上の効果がより発揮される。なお、均質化熱処理及び熱間圧延の条件は、特に限定されるものではなく、熱延板を通常得る場合の条件で行うことができる。また、中間焼鈍は行わなくてもよい。
【0032】
[基材]
基材(アルミニウム合金基材)は、アルミニウム合金からなる。基材を形成するアルミニウム合金の種類は、特に限定されるものではなく、加工される部材の用途に応じて、JISに規定される又はJISに近似する種々の非熱処理型若しくは熱処理型のアルミニウム合金から適宜選択して使用することができる。ここで、非熱処理型アルミニウム合金としては、純アルミニウム(1000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Si系合金(4000系)及びAl−Mg系合金(5000系)がある。また、熱処理型アルミニウム合金としては、Al−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)及びAl−Zn−Mg系合金(7000系)がある。
【0033】
例えば、本実施形態のアルミニウム合金材を自動車用部材に用いる場合は、強度の観点から、基材は0.2%耐力が100MPa以上であることが好ましい。このような特性を満足する基材を形成可能なアルミニウム合金としては、2000系、5000系、6000系及び7000系などのように、マグネシウムを比較的多く含有するものがあり、これらの合金は必要に応じて調質してもよい。また、各種アルミニウム合金の中でも、時効硬化能に優れ、合金元素量が比較的少なくスクラップのリサイクル性や成形性にも優れていることから、6000系アルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0034】
<ステップS2:酸化皮膜形成工程>
酸化皮膜形成工程(ステップS2)では、ステップS1の基材作製工程で作製された基材の表面の少なくとも一部(すなわち、一部又は全部)に、Mgを0.1原子%以上30原子%未満含有し、Cuが0.6原子%未満に規制された酸化皮膜を形成する。本実施形態において、酸化皮膜形成工程(ステップS2)は、具体的には、例えば、基材3を加熱処理して酸化皮膜1を形成する加熱処理段階と、当該加熱処理段階後のエッチング処理段階とを備える。
【0035】
図2に、基材3の表面に酸化皮膜1が形成された、表面処理皮膜形成工程前のアルミニウム合金材を示す。なお、
図2に示される表面処理皮膜形成工程前のアルミニウム合金材では、基材3の一方の表面の全部に酸化皮膜1が形成されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、基材3の表面の一部のみに酸化皮膜1が形成されていてもよい。また、基材3の両面に酸化皮膜1が形成されていてもよい。
【0036】
加熱処理段階における加熱処理としては、基材3を、例えば400〜580℃の温度に加熱して、基材3の表面に酸化皮膜1を形成する。また、加熱処理は、アルミニウム合金材10の強度を調整する効果もある。なお、ここで行う加熱処理は、基材3が熱処理型アルミニウム合金で形成されている場合には溶体化処理であり、基材3が非熱処理型アルミニウム合金で形成されている場合には、焼鈍(最終焼鈍)における加熱処理である。
【0037】
この加熱処理は、強度向上の観点から、加熱速度100℃/分以上の急速加熱とすることが好ましい。また、加熱温度を400℃以上に設定して急速加熱することで、アルミニウム合金材10の強度や、そのアルミニウム合金材10の塗装後加熱(ベーキング)した後の強度を、より高めることができる。一方、加熱温度を580℃以下に設定して急速加熱することにより、バーニングの発生による成形性の低下を抑制することができる。更に、強度を向上させる観点からは、加熱処理における保持時間は3〜30秒とすることが好ましい。このように基材3を、加熱温度400〜580℃で加熱すると、基材3の表面に、例えば、膜厚が1〜30nmの酸化皮膜1が形成される。なお、加熱処理の前には、必要に応じてアルカリ脱脂等を行ってもよい。
【0038】
加熱処理後のエッチング処理段階においては、アルミニウム合金基材3の表面の一部又は全部に対して、酸性溶液による処理(酸洗)及びアルカリ溶液による処理(アルカリ洗浄、アルカリ脱脂)のうちの少なくとも1つを行う。酸洗の際に用いる薬液(酸洗剤)は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、硝酸及びフッ酸から選ばれる群からなる1種以上を含む溶液を用いることができる。また、酸洗剤には、脱脂性を高めるために界面活性剤を含有させてもよい。また、酸洗の条件は、基材3の合金組成や酸化皮膜1の厚み等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、たとえば、pHが4以下(好ましくは2以下)、処理温度10〜80℃、処理時間1〜120秒の条件を適用することができる。
【0039】
また、アルカリ洗浄(アルカリ脱脂)の際に用いる薬液も、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる群からなる1種以上を含む溶液を用いることができる。また、アルカリ溶液による処理の条件は、基材3の合金組成や酸化皮膜1の厚み等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、pHが10以上、処理温度10〜80℃、処理時間1〜120秒の条件を適用することができる。
【0040】
なお、アルカリ洗浄を行う場合においては、アルカリ洗浄よりも後に、酸洗を行うことが好ましい。また、アルカリ洗浄なしで、酸洗だけを行ってもよい。すなわち、エッチング処理段階においては、最後の段階が酸洗であることが好ましい。この理由は以下のとおりである。すなわち、アルカリ洗浄では、基材表面のMgを除去することが難しく、基材表面のMgの存在によりエッチング量を増やす必要がある。しかしながら、エッチング量が増えるとCuの濃化の原因となることから、酸洗でMgを除去する必要があるためである。
【0041】
また、各薬液での洗浄後にはリンスを行うことが好ましい。リンスの方法は特に限定されないが、例えば、スプレー、浸漬等が挙げられる。また、リンスに用いられる洗浄液としては、例えば、工業水、純水、イオン交換水等が挙げられる。
【0042】
以上のようなエッチング処理段階を実施することにより、酸化皮膜1中のMg量を0.1原子%以上30原子%未満に調整し、かつ、Cu量を0.6原子%未満に規制する。ここで、酸化皮膜中のMg量及びCu量は、酸洗やアルカリ洗浄における各種条件(処理時間、処理温度、及び、薬液の濃度及びpH等)を適宜制御することによって調整ないし規制することができる。
【0043】
また、エッチング処理段階におけるエッチング量は、1.9g/m
2以下であることが好ましい。エッチング量1.9g/m
2を超えると、基材3の表面において銅の濃化が生じ、劣化環境である高温湿潤環境において、接着樹脂の劣化の原因となるおそれがある。また、当該エッチング量は、より好ましくは1.5g/m
2以下であり、さらに好ましくは1.3g/m
2以下である。なお、当該エッチング量の下限は、特に限定されるものではないが、例えば、0.005g/m
2である。
【0044】
ここで、本明細書中におけるエッチング量(単位:g/m
2)は、酸化皮膜形成工程前後の基材の重量の減少量(単位:g)を測定し、これを基材の表面積(単位:m
2)で割ることにより算出される値である。
【0045】
[酸化皮膜1]
本酸化皮膜形成工程によれば、基材3の表面の少なくとも一部に、Mgを0.1原子%以上30原子%未満含有し、Cuが0.6原子%未満に規制された酸化皮膜1が形成される。以下、酸化皮膜1に含まれる各成分量の好適な範囲について説明する。
【0046】
<Mg含有量>
アルミニウム合金材の基材を構成するアルミニウム合金には、通常、合金成分としてマグネシウムが含まれており、このような基材3の表面にアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物である酸化皮膜1を形成すると、表面にマグネシウム酸化皮膜が濃化した状態で存在することとなる。よって、この状態では、後述する次のステップS3である表面処理皮膜形成工程を経ようとも、マグネシウム酸化皮膜層が厚すぎることから、後述する表面処理皮膜2に多くのマグネシウムが含まれることとなり、このように形成した表面処理皮膜2では、皮膜自体の強度が得られず、初期の接着性が低下する。
【0047】
また、水分、酸素及び塩化物イオンなどが浸透してくる高温湿潤環境においては、接着樹脂層との界面の水和や基材の腐食の原因となり、アルミニウム合金材の接着耐久性を低下させる。具体的には、後述する表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1中のMg含有量が30原子%以上になると、表面処理皮膜形成後のアルミニウム合金材の初期の接着性や接着耐久性が低下する傾向がある。そこで、本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法では、表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1におけるMg含有量を30原子%未満に規制する。これにより、初期の接着性や接着耐久性を向上することができる。表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1のMg含有量は、初期の接着性や接着耐久性の向上の観点から、25原子%未満が好ましく、20原子%未満がより好ましく、さらに好ましくは10原子%未満である。
【0048】
一方、本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法では、表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1のMg含有量の下限値は、経済性の観点から0.1原子%以上とする。なお、ここでいう表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1中のMg含有量は、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES)により測定することができる。
【0049】
<Cu含有量>
酸化皮膜1を形成する際に基材3に対して脱脂工程や酸洗工程などにより過剰なエッチングを行うと、基材3に含まれるCuが表面に濃化し、酸化皮膜1のCu含有量が増加する。酸化皮膜1の表面にCuが存在すると、後述する次のステップS3である表面処理皮膜形成工程において形成される表面処理皮膜2にCuが過剰に含まれることとなり、接着耐久性の低下原因となる。
【0050】
そこで、本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法では、表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1中のCu含有量を0.6原子%未満に規制する。なお、表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1におけるCu含有量は、0.5原子%未満であることがより好ましい。
【0051】
<膜厚>
表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1の膜厚は、1〜30nmであることが好ましい。表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1の膜厚が1nm未満の場合、表面処理皮膜形成工程で使用される表面処理液が反応する酸化皮膜1が薄く、表面処理液が過剰となり、未反応の表面処理液が基材上に残り、これが接着耐久性の低下の原因となるおそれがある。また、表面処理液が過剰でない場合でも、表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1の膜厚を1nm未満に制御するには、過度の酸洗浄などが必要となるため、生産性が劣り、実用性が低下しやすい。また、アルカリ脱脂や酸による過剰なエッチングは基材3に含有されるCuが表面濃化する原因となり、接着耐久性の低下の原因となるため、エッチング量は1.9g/m
2以下にすることが好ましい。
【0052】
一方、表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1の膜厚が30nmを超えると、表面処理皮膜形成工程で使用される表面処理液が反応する酸化皮膜1に対して不足し、酸化皮膜1との反応が不十分となり、これが接着耐久性の低下の原因となるおそれがある。また、膜厚が30nmを超える酸化皮膜1には多くのマグネシウムが含まれており、皮膜自体の強度が低下し、初期の接着性が悪くなるおそれがある。なお、表面処理皮膜形成前の酸化皮膜1の膜厚は、化成性及び生産性などの観点から、2nm以上20nm未満であることがより好ましい。
【0053】
<ステップS3:表面処理皮膜形成工程>
表面処理皮膜形成工程(ステップS3)は、ステップ2で形成された酸化皮膜1の少なくとも一部に、0.005質量%以上1質量%未満のアルキルシリケートまたはそのオリゴマーと、0.005質量%以上1質量%未満の有機シラン化合物とを含み、pHが2以上7以下である水溶液(表面処理液)を塗布することを含む。前記酸化皮膜形成工程(ステップS2)で形成された酸化皮膜1に当該表面処理液を塗布して表面処理することにより、酸化皮膜1と表面処理液が反応し、少なくともアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、酸素(O)、及び、有機シラン化合物を含む表面処理皮膜2が基材3の表面上に形成される。ただし、酸化皮膜1が均一な表面処理皮膜2になるわけではなく、酸化皮膜1はAlとOを主として含み、かつSiを含む(Al−O−Si結合を含む)皮膜に改質され、その上に、SiとO(シロキサン結合)を主として含み、かつAlを含む(Al−O−Si結合を含む)皮膜が形成されて、最表面側から基材側に向けてSi濃度が低下し、また、Al濃度が増加する構造を有する皮膜となる。すなわち、Al−O−Si結合のAlとSiの比が断面方向で異なっており、表面処理皮膜2とアルミニウム合金基材3との結合はAlリッチなAl−O−Si結合であり、アルミニウム合金基材とこの皮膜との間の強度は酸化皮膜1と同様の強度を保つことができ、また、表面処理材(表面処理後のアルミニウム合金材)の表面はSiリッチなAl−O−Si結合を有する。また、有機シラン化合物と接着樹脂の化学結合を形成することも可能であり、これによってより良好な耐食性となり、接着樹脂との結合も強化される。また、この皮膜2自体は非常に薄く、アルキルシリケートまたはそのオリゴマーと有機シラン化合物の皮膜厚み方向の分布状態は異なるが、少なくとも混じった構造となっており、更に極薄であり、皮膜2自体の強度も高い。この様に、アルキルシリケートまたはそのオリゴマー及び有機シラン化合物のいずれをも含む表面処理液を用いて表面処理を行うことで、上記の表面処理皮膜2が形成され、有機シラン化合物のみを用いて表面処理するよりも接着耐久性が向上した合金材を得ることができる。
【0054】
図3に、基材3の表面上に表面処理皮膜2が形成された本実施形態のアルミニウム合金材を示す。なお、
図3に示されるアルミニウム合金材では、基材3の一方の表面の全部に表面処理皮膜2が形成されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、基材3の表面の一部のみに表面処理皮膜2が形成されていてもよい。また、基材3の両面に表面処理皮膜2が形成されていてもよい。
【0055】
以下、表面処理皮膜を形成するために用いる表面処理液について説明する。
当該表面処理液のpHは2以上7以下である。表面処理液のpHが2よりも低いとアルミニウム合金が溶解しすぎ均一な皮膜が得られない。そのため、皮膜強度が低下し、応力がかかった際に有機シラン化合物処理層の内部で破壊が生じてしまう。一方、表面処理液のpHが7よりも高いとアルキルシリケートまたはそのオリゴマーが沈殿するため、アルミニウムとケイ素が反応することができなくなる。したがって、表面処理液のpHは2以上7以下の範囲とする必要がある。表面処理液のpHは、金属酸化被膜との反応性を考慮すると、好ましくは3以上である。表面処理液のpHは、TEOSの安定性の観点からは、好ましくは6以下である。なお、表面処理液のpHは、例えば塩酸や硫酸、硝酸、酢酸などの酸を添加すること等により適宜調整することができる。
【0056】
表面処理液中のアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度は、0.005質量%以上1質量%未満である。表面処理液中のアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度が1質量%以上であると、生成する皮膜が厚くなり、強度が低下する。一方、表面処理液中のアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度が0.005質量%未満であると、アルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度が低すぎるため、アルミニウムとケイ素が十分に反応することができなくなり、十分な接着耐久性が得られなくなる。表面処理液中のアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度は、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.02質量%以上である。また、表面処理液中のケイ酸塩の濃度は、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.2質量%未満である。
【0057】
また、表面処理液中の有機シラン化合物の濃度は、0.005質量%以上1質量%未満である。表面処理液中の有機シラン化合物の濃度が1質量%以上であると、生成する表面処理皮膜が厚くなり、強度が低下してしまう。一方、表面処理液中の有機シラン化合物の濃度が0.005質量%未満であると、有機シラン化合物の濃度が低すぎるため、有機シラン化合物を含む表面処理皮膜を十分に形成することができなくなり、十分な接着耐久性が得られなくなる。表面処理液中の有機シラン化合物の濃度は、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.02質量%以上である。また、表面処理液中の有機シラン化合物の濃度は、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.2質量%未満である。
【0058】
本発明において、表面処理液に含まれるアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの種類は特に限定されないが、反応後に皮膜の腐食や接着樹脂の劣化の原因となるような副生成物を生じないテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーが好ましい。この観点からは、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトライソプロピルオルソシリケート等のテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーが好ましく、中でも、経済性や安全性の観点からは、テトラエチルオルソシリケートまたはそのオリゴマーが好ましい。なお、重合物には、オリゴマーなどが含まれる。ここで、アルキルシリケートまたはそのオリゴマーとしては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本発明において、表面処理液に含まれる有機シラン化合物の種類は特に限定されないが、有機シラン化合物は加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に複数有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含んでいてもよい。分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を複数有するシラン化合物は、緻密なシロキサン結合を形成するだけでなく、金属酸化物との反応性が高く、化学的に安定な皮膜を形成するため、皮膜の湿潤耐久性を更に高めることができる。また、有機シラン処理皮膜は加工油、プレス油等の機械油や接着剤のような有機化合物との相互溶解性が高く、皮膜に加工油、プレス油等の機械油が付着していてもその影響を緩和できるため、塗油による接着耐久性の低下を防ぐ役割も担う。上記シラン化合物の種類は特に限定されないが、経済性の観点からは、加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に2つ有するシラン化合物(ビスシラン化合物)が好ましく、例えば、ビストリアルコキシシリルエタン、ビストリアルコキシシリルベンゼン、ビストリアルコキシシリルヘキサン、ビストリアルコキシシリルプロピルアミン、ビストリアルコキシシリルプロピルテトラスルフィドなどを用いることができる。とりわけ、汎用性、経済性の観点から、ビストリエトキシシリルエタン(BTSE)が好ましい。ここで、有機シラン化合物としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
また、有機シラン化合物は、有機樹脂成分と化学結合しうる反応性官能基を有するシランカップリング剤、その加水分解物またはその重合体を含んでいてもよい。例えば、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基及びメルカプト基などの反応性官能基をもつシランカップリング剤を単独で使用、もしくはシラン化合物と併用することで、皮膜と樹脂との間に化学結合を形成させ、接着耐久性を更に高めることができる。なおシランカップリング剤の官能基は、前述したものに限定されるものではなく、各種官能基を有するシランカップリング剤を、使用する接着樹脂に応じて適宜選択して使用することができる。シランカップリング剤の好適な具体例としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−アミノエチル)−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。ここで、シランカップリング剤としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
なお、表面処理液は、上記アルキルシリケートまたはそのオリゴマーや有機シラン化合物以外にも、所望により、安定剤、補助剤等の1つ以上をさらに含んでいてもよい。例えば、安定剤として、ギ酸、酢酸等の炭素数1〜4のカルボン酸や、メタノール、エタノール等の炭素数1〜4のアルコール等の有機化合物等を含んでいてもよい。
【0062】
表面処理液の塗布方法としては、浸漬処理、スプレー、ロールコート、バーコート、静電塗布等が挙げられる。また、表面処理後にはリンスは無い方が良いが、場合によっては純水等で行ってもよい。
【0063】
上記表面処理液の塗布後には、必要に応じて、加熱により表面処理液を乾燥させる。加熱温度は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上である。また、加熱温度が高すぎると、アルミニウム合金の特性に影響を及ぼすため、当該加熱温度は、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。また、乾燥時間は、加熱温度にもよるが、好ましくは2秒以上であり、より好ましくは5秒以上であり、さらに好ましくは10秒以上である。また、当該乾燥時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは5分以下、さらに好ましくは2分以下である。
【0064】
表面処理液の塗布量は、十分な接着耐久性の向上効果を得る観点から、乾燥後の皮膜量が0.5mg/m
2以上20mg/m
2以下となるように調整することが好ましい。また、より好ましくは、乾燥後の皮膜量が1mg/m
2以上15mg/m
2以下となるように調整する。表面処理液の塗布量が少なすぎると、アルキルシリケートまたはそのオリゴマーあるいは有機シラン化合物の量が少なくなりすぎ、良好な接着耐久性を得られない場合がある。また、表面処理液の塗布量が多くなりすぎると、形成される表面処理皮膜が厚くなりすぎて表面処理皮膜内で剥離がおこり、接着耐久性が損なわれる場合がある。また、例えば自動車の組み立て工程後の塗装工程の前処理工程として行われるリン酸亜鉛処理において十分なリン酸亜鉛の付着が得られず、十分な耐食性が得られない。
【0065】
<その他の工程>
本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法では、前述した各工程に悪影響を与えない範囲において、各工程の間又は前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、表面処理皮膜形成工程S3後に、予備時効処理を施す予備時効処理工程を設けてもよい。この予備時効処理は、72時間以内に40〜120℃で、8〜36時間の低温加熱することにより行うことが好ましい。この条件で予備時効処理することにより、成形性及びベーキング後の強度向上を図ることができる。その他に、例えばアルミニウム合金材10の表面の異物を除去する異物除去工程や、各工程で発生した不良品を除去する不良品除去工程などを行ってもよい。
【0066】
そして、製造されたアルミニウム合金材10は、接合体の作製前又は自動車用部材への加工前に、その表面にプレス油等の機械油が塗布される。プレス油は、エステル成分を含有するものが主に使用される。アルミニウム合金材10にプレス油を塗布する方法や条件は、特に限定されるものではなく、通常のプレス油を塗布する方法や条件が広く適用でき、例えば、エステル成分としてオレイン酸エチルを含有するプレス油に、アルミニウム合金材10を浸漬すればよい。なお、エステル成分もオレイン酸エチルに限定されるものではなく、ステアリン酸ブチルやソルビタンモノステアレートなど、様々なものを利用することができる。
【0067】
ここで、本実施形態のアルミニウム合金材10は、最表面に機械油の溶解性に富む皮膜2を備えているため、機械油が塗布された後でも、その上に接着樹脂を良好に接合することができる。
【0068】
以上詳述したように、本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法によれば、酸化皮膜を形成したアルミニウム合金基材に対して、アルキルシリケートまたはそのオリゴマーと有機シラン化合物とを含む水溶液を用いて、シリケート処理及び有機シラン処理を同時に行うことで、簡略化された工程でアルミニウム合金材の製造が可能となり、設備投資費や製造コストを低減することができる。また、本実施形態のアルミニウム合金材10は、表面処理皮膜形成工程前の酸化皮膜1中のMg量を特定範囲に調整しているため、基材3の溶出を抑制でき、またそれに伴う基材3の表面のマグネシウム酸化物による脆弱性を抑制して、接着樹脂の劣化を抑制できる。さらに、表面処理皮膜形成工程前の酸化皮膜1中のCu量を特定量未満に規制しているため、酸化皮膜1に表面処理を施すことにより形成される表面処理皮膜2と接着樹脂の接着耐久性が向上する。その結果、本実施形態のアルミニウム合金材10は、高温湿潤環境に曝されても、界面剥離が抑制され、長期間に亘って接着強度の低下を抑制できる。また、有機シラン化合物のみを用いて表面処理するよりも接着耐久性を向上させることができる。
【0069】
(第1の実施形態の変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の変形例に係る接着樹脂層付きアルミニウム合金材について説明する。
図4は本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。なお、
図4においては、
図3に示すアルミニウム合金材10の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図4に示すように、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11は、前述した第1の実施形態のアルミニウム合金材における表面処理皮膜2を覆うように、接着樹脂からなる接着樹脂層4が形成されている。
【0070】
[接着樹脂層4]
接着樹脂層4は、接着樹脂などからなり、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11は、この接着樹脂層4を介して他の部材と接合される。なお、他の部材には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と同様に表面処理皮膜が形成されている別のアルミニウム合金材、酸化皮膜及び表面処理皮膜が形成されていないアルミニウム合金材、樹脂成形体等が包含される。
【0071】
接着樹脂層4を構成する接着樹脂は、特に限定されるものではなく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂など、従来からアルミニウム合金材を接合する際に用いられてきた接着樹脂を用いることができる。
【0072】
接着樹脂層4の厚さも、特に限定されるものではないが、10〜500μmが好ましく、50〜400μmがより好ましい。接着樹脂層4の厚さが10μm未満の場合には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と、他の接着樹脂層を備えていないアルミニウム合金材とを接着樹脂層4を介して接合する場合に、高い接着耐久性が得られないことがある。一方、接着樹脂層4の厚さが500μmを超える場合には、接着強度が小さくなる場合がある。
【0073】
[製造方法]
次に、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の製造方法について説明する。
図5は本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の製造方法を示すフローチャート図である。
図5に示すように、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11を製造する際は、前述したステップS1〜S3に加えて、接着樹脂層形成工程S4を行う。
【0074】
[ステップS4:接着樹脂層形成工程]
接着樹脂層形成工程S4では、表面処理皮膜2を覆うように、接着剤などからなる接着樹脂層4を形成する。接着樹脂層4の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、接着樹脂が固体である場合には、熱を加えて圧着したり、これを溶剤に溶解させて溶液とした後に、また、接着樹脂が液状である場合にはそのまま、表面処理皮膜2の表面に噴霧したり塗布する方法が挙げられる。
【0075】
また、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11においても、前述した第1の実施形態と同様に、酸化皮膜形成工程S2、表面処理皮膜形成工程S3及び/又は接着樹脂層形成工程S4の後に、予備時効処理を施す予備時効処理工程を設けてもよい。
【0076】
本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材においては、接着樹脂層をあらかじめ備えるため、接合体や自動車用部材を作製する際に、アルミニウム合金材の表面に接着樹脂を塗布するなどの作業を省略することができる。なお、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0077】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る接合体について説明する。本実施形態の接合体は、前述した第1の実施形態のアルミニウム合金材又はその変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材を用いたものである。
図6〜9Bは本実施形態の接合体の構成例を模式的に示す断面図である。なお、
図6〜9Bにおいては、
図3及び4に示すアルミニウム合金材10、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0078】
[接合体の構成]
本実施形態の接合体は、例えば、
図6に示す接合体20のように、
図3に示す2枚のアルミニウム合金材10を、表面処理皮膜2が形成されている面同士が対向するように配置し、接着樹脂5を介して接合した構成とすることができる。即ち、接合体20では、接着樹脂5は、一面が一方のアルミニウム合金材10の表面処理皮膜2側に接合され、その他面が他方のアルミニウム合金材10の表面処理皮膜2側に接合されている。
【0079】
ここで、本実施形態の接合体における接着樹脂5は、前述した接着樹脂層4を構成する接着樹脂と同様のものを使用することができる。具体的には、接着樹脂5は、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂などを使用することができる。また、接着樹脂5の厚さは、特に限定されるものではないが、接着強度向上の観点から、10〜500μmが好ましく、より好ましくは50〜400μmである。
【0080】
接合体20では、前述したように、接着樹脂5の両面が、第1の実施形態のアルミニウム合金材10の表面処理皮膜2であるため、自動車用部材に用いた際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂5と表面処理皮膜2との界面の接着強度が低下しにくく、接着耐久性が向上する。また、本実施形態の接合体20では、接着樹脂5の種類に影響されず、従来からアルミニウム合金材の接合に用いられている接着樹脂全般において界面での接着耐久性が向上する。
【0081】
また、
図7Aに示す接合体21a又は
図7Bに示す接合体21bのように、
図3に示すアルミニウム合金材10の表面処理皮膜2が形成されている面に、接着樹脂5を介して、酸化皮膜及び表面処理皮膜が形成されていない他のアルミニウム合金材6又は樹脂成形体7を接合した構成とすることもできる。
【0082】
ここで、酸化皮膜及び表面処理皮膜が形成されていない他のアルミニウム合金材6には、前述した基材3と同様のものを使用することができ、具体的には、JISに規定される又はJISに近似する種々の非熱処理型若しくは熱処理型アルミニウム合金からなるものを使用することができる。
【0083】
また、樹脂成形体7としては、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP,KFRP)、ポリエチレン繊維強化プラスチック(DFRP)及びザイロン強化プラスチック(ZFRP)などの各種繊維強化プラスチックにより形成した繊維強化プラスチック成形体を用いることができる。これらの繊維強化プラスチック成形体を用いることにより、一定の強度を維持しつつ、接合体を軽量化することが可能となる。
【0084】
なお、樹脂成形体7は、前述した繊維強化プラスチック以外に、ポリプロピレン(PP)、アクリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフタルアミド(PPA)などの繊維強化されていない樹脂を使用することもできる。
【0085】
図7A及び
図7Bに示す接合体21a,21bでは、接着樹脂5の片面が表面処理皮膜2側に接合されているため、前述した接合体20と同様に、自動車用部材に用いた際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。また、
図7Bに示す接合体21bは、アルミニウム合金材10と樹脂成形体7とを接合しているため、アルミニウム合金材同士の接合体に比べて軽量であり、この接合体21bを用いることにより自動車の更なる軽量化を実現することができる。なお、
図7A及び
図7Bに示す接合体21a,21bにおける上記以外の構成及び効果は、
図6に示す接合体20と同様である。
【0086】
更に、
図8に示す接合体22のように、
図4に示す接着樹脂層4を備えた接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と、
図3に示す接着樹脂層4を備えていないアルミニウム合金材10とを接合した構成とすることもできる。具体的には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4側に、アルミニウム合金材10の表面処理皮膜2が接合されたものである。その結果、アルミニウム合金材10の皮膜2と接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の皮膜2は、それぞれ接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4を介して、互いに対向するように配置された構成となっている。
【0087】
接合体22では、接着樹脂層4の両面が表面処理皮膜2側に接合されているため、前述した接合体20と同様に、接合体22を自動車用部材に用いた際に、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。なお、
図8に示す接合体22における上記以外の構成及び効果は、
図6に示す接合体20と同様である。
【0088】
更に、
図9Aに示す接合体23a又は
図9Bに示す接合体23bのように、
図4に示す接着樹脂層4を備えた接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4側に、表面処理皮膜が形成されていない他のアルミニウム合金材6又は繊維強化プラスチック成形体などの樹脂成形体7を接合した構成とすることもできる。これら接合体23a,23bでは、接着樹脂層4の片面が表面処理皮膜2側に接合されているため、前述した接合体20と同様に、接合体23を自動車用部材に用いる際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。
【0089】
また、
図9Bに示す接合体23bは、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と樹脂成形体7とを接合しているため、アルミニウム合金材同士の接合体に比べて軽量であり、軽量化が求められている自動車や車両の部材に好適である。なお、
図9A及び
図9Bに示す接合体23a,23bにおける上記以外の構成及び効果は、
図6に示す接合体20と同様である。
【0090】
[接合体の製造方法]
前述した接合体20〜23の製造方法、特に接合方法は、従来公知の接合方法を用いることができる。そして、接着樹脂5をアルミニウム合金材に形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、予め接着樹脂5によって作製した接着シートを用いてもよいし、接着樹脂5を表面処理皮膜2の表面に噴霧または塗布することによって形成してもよい。なお、接合体20〜23は、アルミニウム合金材10や接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と同様に、自動車用部材への加工前に、その表面にプレス油を塗布してもよい。
【0091】
また、図示しないが、本実施形態の接合体に、両面に表面処理皮膜2が形成されたアルミニウム合金材を用いた場合、接着樹脂5又は接着樹脂層4を介して、これらのアルミニウム合金材又は皮膜2が形成されていない他のアルミニウム合金材6又は樹脂成形体7を、さらに接合することが可能となる。
【0092】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る自動車用部材について説明する。本実施形態の自動車用部材は、前述した第2の実施形態の接合体を用いたものであり、例えば、自動車用パネルなどである。
【0093】
また、本実施形態の自動車用部材の製造方法は、特に限定されるものではないが、従来公知の製造方法を適用することができる。例えば、
図6〜9Bに示す接合体20〜23bに切断加工やプレス加工などを施して所定形状の自動車用部材を製造する。
【0094】
本実施形態の自動車用部材は、前述した第2の実施形態の接合体から製造されるため、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂又は接着樹脂層と、酸化皮膜の水和の影響をほとんど受けることなく、アルミニウム合金基材の溶出も抑制できる。その結果、本実施形態の自動車用部材では、高温湿潤環境に曝された場合の界面剥離を抑制し、接着強度の低下を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法及び条件で、アルミニウム合金材を作製し、その接着耐久性などを評価した。
【0096】
(基材作製工程及び酸化皮膜形成工程)
基材の作製及び酸化皮膜の形成は以下のようにして行った。
【0097】
<実施例1>
JIS6016(Mg:0.54質量%、Si:1.11質量%、Cu:0.14質量%)の6000系アルミニウム合金を用いて、前述した方法により板厚1mmのアルミニウム合金冷延板を作製した。そして、この冷延板を長さ100mm、幅25mmに切断して基材とした。次に、実体到達温度550℃まで加熱処理し、冷却した。
つづいて、アルカリ溶液による処理として、基材にpH13に調整した水酸化カリウム溶液を用いて、温度50℃、処理時間10秒間の条件で浸漬処理を行い、その後水洗を行った。
次に、酸洗として、pH1に調整した硫酸とフッ酸を含む水溶液を用いて、温度50℃、処理時間10秒の条件で浸漬処理を行い、その後水洗した。この操作により表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0098】
<実施例2>
酸洗の処理時間を60秒とした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0099】
<実施例3>
酸洗の処理時間を120秒とした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0100】
<実施例4>
アルカリ溶液による処理の処理時間を110秒とし、酸洗の処理時間を110秒とした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0101】
<実施例5>
アルカリ溶液による処理の処理時間を90秒とし、酸洗条件として、pH1に調整した硫酸を含む水溶液を用いて、温度60℃、処理時間100秒とした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0102】
<実施例6>
アルカリ溶液による処理を行わず、酸洗条件として、pH1に調整した硝酸を含む水溶液を用いて、温度60℃とした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0103】
<実施例7>
アルカリ溶液による処理を行わず、酸洗条件として、pH3にした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0104】
<実施例8>
アルカリ溶液による処理を行わず、酸洗条件として、pH3、処理時間2秒にした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0105】
<比較例1>
アルカリ溶液による処理の処理時間が130秒、酸洗条件として、pH1に調整した硫酸を含む水溶液を用いて、温度60℃、処理時間200秒とした以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のエッチング量、及びMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0106】
<比較例2>
アルカリ溶液による処理と酸洗、すなわちエッチングを行わなかった以外は、実施例1同様の処理を行い、表1に記載のMg量とCu量の酸化皮膜を基材に形成した。
【0107】
(表面処理皮膜形成工程)
つづいて、各実施例1〜8及び比較例1〜2において、基材表面上の酸化皮膜に、0.15質量%のテトラエチルオルソシリケート(TEOS)と、0.1質量%のビストリエトキシシリルエタン(BTSE)とを含み、かつ直径1nm以上のゾルを含まないpHが5に調整された水溶液(表面処理液)を、ディップまたはバーコータにより塗布して表面処理皮膜を形成し、各実施例及び比較例のアルミニウム合金材を作製した。なお、表面処理液の塗布後の乾燥は、105℃で、1分間行った。乾燥後の塗布量は、蛍光X線で、塗布前後の測定から、バーコーターで5mg/m
2程度、ディップで4mg/m
2程度であることを確認した。
【0108】
<比較例3>
実施例5の同様の基材作製工程及び酸化皮膜形成工程を行い、基材表面上の酸化皮膜に、1.2質量%のテトラエチルオルソシリケート(TEOS)と、1.2質量%のビストリエトキシシリルエタン(BTSE)とを含み、かつ直径1nm以上のゾルを含まないpHが4に調整された水溶液(表面処理液)を、バーコータにより塗布して表面処理皮膜を形成し、各実施例及び比較例のアルミニウム合金材を作製した。なお、表面処理液の塗布後の乾燥は、105℃で、1分間行った。乾燥後の塗布量は、蛍光X線で、塗布前後の測定から、29mg/m
2程度であることを確認した。
【0109】
この様に作製した各実施例及び比較例に係るアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/m
2となるように塗布した。
【0110】
<酸化皮膜成分の測定>
酸化皮膜を形成後、表面処理皮膜を形成する前の各実施例及び比較例に係るアルミニウム合金基材の酸化皮膜について、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES:ホリバ・ジョバンイボン社製型式JY−5000RF)により膜厚方向にスパッタしながら測定し、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、鉄(Fe)及びチタン(Ti)等の金属元素、及び酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ケイ素(Si)及び硫黄(S)等の元素について、各成分量の測定を行った。酸化皮膜中のマグネシウム(Mg)、銅(Cu)の最大濃度を、その皮膜中の皮膜濃度とした。ここで、これら各元素の濃度の算出において、特に酸素(O)及び炭素(C)は最表面やその近傍でコンタミの影響を受けやすい。以上のことから、各元素の濃度計算では、酸素(O)及び炭素(C)を除いて、濃度を算出した。
【0111】
<エッチング量>
エッチング量(単位:g/cm
2)は、酸化皮膜形成工程前後の基材の重量の減少量(単位:g)を測定し、これを基材の表面積(単位:m
2)で割ることにより算出した。
【0112】
<凝集破壊率(接着耐久性)>
図10A及び
図10Bは凝集破壊率の測定方法を模式的に示す図であり、
図10Aは側面図であり、
図10Bは平面図である。
図10A及び
図10Bに示すように、構成が同じ2枚の供試材31a,31b(25mm幅)の端部を、熱硬化型エポキシ樹脂系接着樹脂によりラップ長10mm(接着面積:25mm×10mm)となるように重ね合わせ貼り付けた。
ここで用いた接着樹脂35は熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤(ビスフェノールA型エポキシ樹脂量40〜50質量%)である。また、接着樹脂35の厚さが250μmとなるように微量のガラスビーズ(粒径250μm)を接着樹脂35に添加して調節した。
重ね合わせてから30分間、室温で乾燥させて、その後、170℃で20分間加熱し、熱硬化処理を実施した。その後、室温で24時間静置して接着試験体を作製した。
【0113】
作製した接着試験体を、50℃、相対湿度95%の高温湿潤環境に30日間保持後、引張試験機にて50mm/分の速度で引張り、接着部分の接着樹脂の凝集破壊率を評価した。凝集破壊率は下記数式1に基づいて算出した。なお、下記数式1においては、接着試験体の引張後の片側を試験片a、もう片方を試験片bとした。
【0114】
【数1】
【0115】
各試験条件とも3本ずつ作製し、凝集破壊率は3本の平均値とした。また、評価基準は、凝集破壊率が60%未満を不良(×)、60%以上70%未満をやや良好(△)、70%以上90%未満を良好(○)、90%以上を特に良好(◎)とし、60%以上を合格とした。
【0116】
以上の結果を、表1にまとめて示す。
【0117】
【表1】
【0118】
上記表1に示すように、酸化皮膜中のCuの濃度が本発明規定の範囲から外れている比較例1のアルミニウム合金材は、凝集破壊率が60%未満と不良であり、高温湿潤環境での接着耐久性に劣るものであった。
また、酸洗やアルカリ洗浄を経ずに作製された比較例2のアルミニウム合金材は、酸化皮膜中のMgの濃度が本発明規定の範囲から外れており、凝集破壊率が60%未満と不良であり、高温湿潤環境での接着耐久性に劣るものであった。
また、TEOS濃度及びBTSE濃度が本発明規定の範囲から外れている比較例3のアルミニウム合金材は、凝集破壊率が60%未満と不良であり、高温湿潤環境での接着耐久性に劣るものであった。
【0119】
これに対して、本発明の製造方法により得られた実施例1〜8のアルミニウム合金材は、いずれも凝集破壊率が60%以上であり、高温湿潤環境での接着耐久性が良好であった。