(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材シート上に接合剤および液体香料を含有する混合液を塗工する塗工工程と、前記塗工工程により塗工されたシートを乾燥させる乾燥工程とを有する芳香シートの製造方法であって、前記乾燥工程が、前記塗工されたシートを、風速1m/秒未満で10〜45℃の雰囲気下に保持する乾燥工程Aおよび前記乾燥工程Aの後に風速1m/秒以上で45〜95℃の雰囲気下に保持する乾燥工程Bを有する、芳香シートの製造方法。
前記乾燥工程Bが、少なくとも第1乾燥ゾーンおよび最終乾燥ゾーンを含む2以上の乾燥ゾーンによる乾燥処理を含み、前記第1乾燥ゾーンの設定温度が45〜60℃であり、前記最終乾燥ゾーンの設定温度が75〜95℃である、請求項1または2記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、塗工工程及び乾燥工程を有する。
【0011】
本発明にかかる塗工工程は、基材シート上に接合剤および液体香料を含有する混合液を塗工する工程である。塗工方式は、任意の適切な方式が採用され得る。例えば、塗工は、連続方式で行ってもよく、バッチ方式で行ってもよい。連続方式としては、前記混合液を塗工装置に連続的に供給し、塗工装置に取り付けたダイスなどの吐出手段により、基材シート上に薄層に押し出す方法や、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、リバースコーター、グラビアコーター等を使用して行う方法などが挙げられる。バッチ方式としては、基材シート上に、前記混合液を流延して、アプリケーター、マイヤーバー、ナイフコーターなどを用いて薄層を形成する方法などが挙げられる。
【0012】
基材シートとしては、高分子樹脂シートなどを使用することができる。高分子樹脂シートとしては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの公知のプラスチック材料を用いることができ、ソルベントキャスト法や押出法など任意の方法により形成することができる。
【0013】
また、後述するように基材シートは単層の態様、複数層の態様のいずれも取り得るが、基材シートのうち、最も外側に設けられた基材シートの少なくとも一方は、芳香性の観点から、ガス透過性シートであることが好ましい。本明細書において、ガス透過性シートとは、酸素透過度が1,000×10
−15mol/(m
2・s・Pa)以上のものをいう。ガス透過性シートとしては、芳香性の観点から、酸素透過度は、1,500×10
−15mol/(m
2・s・Pa)以上が好ましく、2,500×10
−15mol/(m
2・s・Pa)以上がより好ましい。また、香りの持続性の観点から、酸素透過度は、35,000×10
−15mol/(m
2・s・Pa)以下が好ましく、30,000×10
−15mol/(m
2・s・Pa)以下がより好ましい。
【0014】
本明細書中の酸素透過度は、温度20℃、相対湿度80%でJISK 7126による差圧法で測定された値を指す。
【0015】
基材シートの厚さは、鋏や断裁機などで容易に裁断できる加工性を満足する限りにおいて特に限定されず、印刷やエンボス等の美粧化加工等により任意に処理されたものであっても良い。
【0016】
塗工する混合液は、芳香機能性接合層を形成するものであり、少なくとも接合剤と液体香料とを含む。
【0017】
接合剤としては、ポリウレタン樹脂または(メタ)アクリル樹脂などの粘着剤や接着剤を用いることが好ましく、接合剤の低臭気性及び芳香機能性接合層のシート端部からのはみ出しを防止する観点から、ポリウレタン樹脂がより好ましい。本明細書において、(メタ)アクリルの記載は、アクリルおよびメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0018】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリウレタンポリオールを含有する主剤に、多官能イソシアネートを含有する硬化剤を配合して架橋したものを使用することができる。
【0019】
ポリウレタン樹脂のゲル分率は、未架橋成分による汚損を低減する観点から、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。本明細書においてゲル分率は、架橋後の接合剤をトルエンに含浸し、不溶分の質量を測定し、含浸前の質量との割合によって算出された値を指す。
【0020】
ここで、主剤に含まれるポリウレタンポリオールの重量平均分子量(Mw)は、十分な凝集力を得る観点から、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、また、十分な接着強度を得る観点から、好ましくは500,000以下であり、より好ましくは400,000以下であり、さらに好ましくは300,000以下である。本明細書において、重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)により測定したポリスチレン換算値とする。
【0021】
主剤には、溶剤を含有させ、ポリウレタンポリオールを適宜希釈することができる。溶剤としては、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、アセトン等、公知のものを使用できる。
【0022】
主剤に含有されるポリウレタンポリオールは、ウレタン結合を有すると共に硬化剤の多官能イソシアネートと反応可能な水酸基を有している。主剤に含有されるポリウレタンポリオールは、主としてポリオールと多官能イソシアネートとを触媒の存在下で反応させることにより得られる。
【0023】
ポリウレタンポリオールを製造するためのポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。
【0024】
ポリウレタンポリオールを製造するための多官能イソシアネートとしては、公知の芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0025】
芳香族ポリイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、トリイソシアネートトルエン、トリイソシアネートベンゼン、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0026】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0027】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ジイソシアネートジメチルベンゼン、ジイソシアネートジエチルベンゼン、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0028】
脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、シクロペンタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ビス(イソシネートメチル)シクロヘキサン、トリメチルシクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられる。
【0029】
硬化剤に含有される多官能イソシアネートとしては、ポリウレタンポリオールを製造するために用いられる多官能イソシアネートと同じものを使用することができる。この硬化剤を配合することにより、ポリウレタン樹脂の架橋密度を適切にコントロールすることができる。
【0030】
主剤と硬化剤の配合例として、硬化剤の多官能イソシアネートを主剤のポリウレタンポリオールの固形分100質量部に対して固形分0.5〜40質量部添加する態様などが挙げられる。なお、主剤および硬化剤以外に本発明の要旨を逸脱しない範囲において、酸化防止剤、腐食防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、重合禁止剤、無機または有機の充填剤、金属粉、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤などの添加剤が任意に用いられていてもよい。
【0031】
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系ポリマーにイソシアネート系の硬化剤を導入して架橋したものを使用することができる。
【0032】
(メタ)アクリル樹脂のゲル分率は、未架橋成分による汚損を低減する観点から、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。
【0033】
使用される(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、高粘着力でかつ高剪断力であることから、好ましくは300,000〜2,000,000であり、より好ましくは500,000〜1,300,000である。(メタ)アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これに極性モノマーを共重合したものなどを使用することができる。
【0034】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されるものではないが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどが挙げられ、低温粘着性に優れる観点から、ガラス転移温度(Tg)の低いn−ブチルアクリレート(Tg=−55℃)又は2−エチルヘキシルアクリレート(Tg=−70℃)を使用することが好ましい。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合する極性モノマーとしては、窒素含有モノマー、水酸基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、不飽和脂肪族カルボン酸などを使用することができる。極性モノマーは、前記アクリル系ポリマーを架橋する際の架橋点として作用する。
【0036】
窒素含有モノマーとしては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホルン、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0037】
水酸基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられ、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0038】
エポキシ基含有モノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0039】
不飽和脂肪族カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
【0040】
(メタ)アクリル系ポリマーは、各種公知の方法により製造することができ、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法等のラジカル重合法を適宜選択することができる。重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のアゾ系重合開始剤、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル(BPO)等のパーオキサイド化合物、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系開始剤、2−メチルチオキサントン等のチオキサントン系開始剤、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインエーテル系開始剤等を使用することができるが、重合性などの観点からアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤が特に好ましい。そして、上記方法により製造したアクリル系ポリマーをトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解させ、アクリル系ポリマー溶液を調製することができる。
【0041】
イソシアネート系の硬化剤としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0042】
ここで、硬化剤の配合量は、粘着特性、耐熱性、および耐湿熱性の観点から、(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して0.05〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましく、0.2〜2質量部がさらに好ましい。
【0043】
液体香料としては植物の花、葉から抽出されるフローラル系のもの、動物由来のオリエンタル系のもの、柑橘系由来のフルーツ系のもの、香木から抽出されるウッディ系のものに大別されるが、そのいずれも使用することができる。また合成香料も使用できる。液体香料は1種類でもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
フローラル系の代表例としてはバラ、ジャスミン、スズランなどが挙げられる。オリエンタル系の代表例としてアンバーグリス、ムスク、シベット、バニラ、ミルラ、乳香などが挙げられる。フルーツ系の代表例としてはレモン、ライム、オレンジ、ベルガモット、マンダリンなど相橘類に由来するシトラス系のものなどが挙げられる。ウッディ系の代表例としては、ビャクダン、パチュリなどが挙げられる。
【0045】
例えば、フローラル系の中には、香りによって気分を和らげたり、よい睡眠が得られるなど様々な効能があると言われるハーブ系の香料があり、好適に用いることができる。この種の香料としては、ローズヒップ、ローズマリー、ローリエ、ヒソップ、レモンパーム、ミント、ハッカ、ジャスミン、バジリコ、オレガノ、マジョラム、シソ、エゴマ、セージ、セイボリー、タイム、アニス、イノンド、ディル、アンゼリカ、チャービル、コリアンダー、ミツバ、フェンネル、ロベッジ、ラビジ、パセリ、チャイブ、ニラ、タラゴン、レモンマートル、ルリジサ、ボリジ、ケッパー、レモングラス、ゲッケイジュ、ベイリーフ、ローレル、レモンパーベナ、オオバゲッキツ、カレーリーフ、ギシギシ、セイバ、キンレンカ、ナスタチウム、マスティハ、セイヨウノコギリソウ、ヤロー、ムラサキバレンギク、エキナセア、エキナシア、カモミール、ナツシロギク、フィーバーフュー、セイヨウタンポポ、ダンデライオン、ニガヨモギ、ワームウッド、タンジー、ヨモギギク、セイヨウフキ、バターパー、ラベンダー、ホアハウンド、イヌハッカ、キャットニップ、チクマハッカ、キャットミント、クラリセージ、オニサルビア、サンザシ、セント・ジョーンズ・ワート、セイヨウオトギリソウ、トケイソウ、パッションフラワー、ヘンルーダ、セイヨウカノコソウ、ゲッケイジュ、イランイランなどが挙げられる。
【0046】
液体香料は、アルコール成分を含有し、アルコール成分としては、オクタノール、デカノール、l−メントール、dl−メントール、イソオイゲノール、オイゲノール、ゲラニオール、シトロネロール、シンナミルアルコール、テルピネオール、ベンジルアルコール、d−ボルネオール、マルトールなどに加え、脂肪族高級アルコール類、芳香族アルコール類などが挙げられる。
【0047】
液体香料中のアルコール成分の含有量は、液体香料を2種以上使用した場合においては合計量を指し、芳香性および芳香持続性を維持する観点から、55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。含有量の下限値としては、例えば、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上などが挙げられる。
【0048】
また、液体香料中のアルコール成分の含有量は、芳香性および芳香持続性を維持する観点から、接合剤100質量部に対して2質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、また、芳香機能性接合層のシート端部からのはみ出しを防止する観点から、20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましい。
【0049】
接合剤100質量部に対する液体香料の含有量は、香りの持続性の観点から、7質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、上限としては例えば、100質量部以下、80質量部以下、50質量部以下などが挙げられる。
【0050】
その他、混合液は、任意に、他の添加剤を含んでいても良い。他の添加剤としては、酸化防止剤、腐食防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、重合禁止剤、無機または有機の充填剤、金属粉、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤などが挙げられる。
【0051】
このような混合液を使用して形成された芳香機能性接合層の25℃における貯蔵弾性率(G’)は、芳香機能性接合層のシート端部からのはみ出しを防止する観点から、0.1MPa以上が好ましく、0.15MPa以上がより好ましく、0.2MPa以上がさらに好ましく、また、柔軟性の観点から、1,000MPa以下が好ましく、100MPa以下がより好ましく、10MPa以下がさらに好ましい。また、芳香機能性接合層の60℃における貯蔵弾性率(G’)は、高温下での使用の観点から、0.001MPa以上1MPa以下が好ましい。
【0052】
本明細書において、貯蔵弾性率(G’)は、JIS K 7244に準拠して測定した値である。より詳細には、動的粘弾性測定装置(日本シーベルヘグナー社製、型番:MCR301)を使用し、−40℃〜190℃の温度範囲において、昇温速度3℃/min、周波数1Hzにてズリ測定し、25℃もしくは60℃における値である。
【0053】
また、芳香機能性接合層の厚みは、香りの持続性の観点から、3μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、12μm以上がさらに好ましく、また、芳香機能性接合層のシート端部からのはみ出しを防止する観点から、500μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0054】
本発明にかかる乾燥工程は、乾燥工程A及び乾燥工程Bを有する。シート製品の乾燥工程においては、乾燥装置などを使用して、シートに乾燥風を当てながら乾燥させる方法が挙げられるが、生産性の観点から、塗工後すぐに乾燥装置を使用することが好ましい。しかしながら、液体香料を使用するシート製品において、塗工後すぐに乾燥装置を使用すると、塗工液の表層だけが乾燥して皮張りが発生したり、塗工液の突沸により芳香機能性接合層に気泡が生じるなど、外観不良となる場合がある。更に、塗工液中の溶媒を乾燥させるのに必要な熱量以上で加熱されることにより、液体香料自体の芳香機能を損なう可能性がある。本発明の製造方法においては、乾燥装置を使用する乾燥工程Bを行う前に乾燥工程Aを設けているため、かかる不具合を防止し、外観が良好な芳香シートを製造することができる。
【0055】
本発明にかかる乾燥工程Aは、塗工工程により塗工されたシートを、風速1m/秒未満で10〜45℃の雰囲気下に保持する工程である。乾燥工程Aにおいては、乾燥装置などを用いてシートに積極的に乾燥風を当てる工程ではなく、実質的に無風下であることが好ましい。実質的に無風下であるとは、風速0.1m/秒以下のような条件も含む。
【0056】
乾燥工程Aの温度は、生産性の観点から、10℃以上であり、20℃以上が好ましく、また、外観を良好なものとする観点から、45℃以下であり、35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0057】
乾燥工程Aを行う時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは2秒〜25秒間であり、より好ましくは3秒〜20秒間であり、さらに好ましくは4秒〜15秒間である。
【0058】
乾燥工程Aの態様の具体例として、コンベアなどにより連続的に移送されるシートの製造においては、乾燥工程Aが実施される区間の雰囲気温度が前記温度となるように、製造工程内の室温を調整し、塗工装置と乾燥装置との間隔を、前記実施時間となるような間隔に調整する態様が挙げられる。
【0059】
本発明にかかる乾燥工程Bは、乾燥工程Aの後に風速1m/秒以上で45〜95℃の雰囲気下に保持する工程である。
【0060】
乾燥工程Bを行う時間は特に限定されるものではないが、15〜200秒間が好ましく、25〜150秒間がより好ましく、35秒〜100秒間がさらに好ましい。
【0061】
乾燥工程Bは、シートを緩やかな温度勾配で昇温させる観点から、少なくとも第1の乾燥ゾーン(最初の乾燥ゾーン)および最終乾燥ゾーンを含む2以上の乾燥ゾーンによる乾燥処理を含む態様が好ましく、第1乾燥ゾーンから最終乾燥ゾーンになるに従って乾燥装置の設定温度が高くなるように設定される態様が好ましい。この場合において、第1乾燥ゾーンと乾燥工程Aとの温度差(第1乾燥ゾーン乾燥工程A)は、生産性の観点から、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、また、塗工液の突沸や皮張りを防止する観点から、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。このような第1乾燥ゾーンの設定温度としては、例えば、45〜60℃が挙げられる。以降の乾燥ゾーンについては、第1乾燥ゾーンの温度から徐々に高くなるように設定することが好ましい。最終乾燥ゾーンは、塗工液に含まれる希釈溶媒を除去する観点から、75℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、また、芳香成分の揮散を防止する観点から、95℃以下である。
【0062】
乾燥工程Bに使用する乾燥装置は、公知の乾燥装置を使用することができる。公知の乾燥装置としては、オーブン、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒーター、熱風循環乾燥炉などが挙げられ、これらを単独で、また必要に応じて組み合わせて使用することができ、種々の態様を取り得る。
【0063】
乾燥装置の送風手段としては、例えばカウンターフロー式により施すことができる。風速は、1m/秒以上であれば特に限定されるものではなく、設定温度により好適範囲が異なるが、1〜35m/秒とすることができる。例えば、設定温度が65℃未満の場合、3〜35m/秒が好ましく、4〜25m/秒がより好ましく、5〜20m/秒がさらに好ましく、設定温度が65℃以上の場合、1〜25m/秒が好ましく、2〜20m/秒がより好ましく、3〜15m/秒がさらに好ましい。本明細書において、風速は、基材シート上に塗工されている塗工液の上、3cmの位置の風速を、風速計を用いて測定した値を指す。風速計としては、ミニベーン型デジタル風速計(日本カノマックス(株)製の風速計MODEL1560/SYSTEM6243)を使用することができる。
【0064】
本発明の製造方法においては、冷却工程、貼り合せ工程など他の工程を任意に設けることができる。
【0065】
ここで冷却工程とは、公知の手段により乾燥工程後のシートを冷却する工程である。乾燥工程から急激に冷やされると、シートに結露が生じ、品質の低下や生産設備の汚染をまねくおそれがあり、これを防止する観点から、乾燥工程後のシートが10〜30℃になるまで徐々に冷却することが好ましい。
【0066】
また、貼り合せ工程とは、乾燥工程後または冷却工程後、公知の貼り合せ手段を使用して芳香機能性接合層上に基材シートや剥離シートなどを貼り合せる工程である。例えば、基材シートを貼り合せた芳香シートの態様について、
図1を用いて説明する。
図1の態様において、芳香シート1は、2つの基材シート2を備える。基材シート2は、芳香機能性接合層3を介して、その厚さ方向に積層されている。本態様において、芳香機能性接合層3から基材シートが容易に剥がれるのを予防する観点から、芳香機能性接合層3の接着強度は、1N/25mm以上が好ましく、3N/25mm以上がより好ましい。なお、図示はしないが、貼り合せ工程において芳香機能性接合層上に剥離シートを貼り合せる態様(即ち、
図1において、上側の基材シート2に代えて剥離シートとする態様)における接着強度としては、剥離容易性等の観点から、0.003〜0.3N/25mmが好ましい。
【0067】
前記の芳香機能性接合層の接着強度は、JIS K 6854−3に準拠して、芳香機能性接合層に隣接する2つの基材シートを、23℃50%RH環境下で引張速度200mm/分の条件でT型剥離した際の剥離強度である。
【0068】
なお、本発明の製造方法は、前記
図1の態様の芳香シートの製造に係るものの他、
図2、
図3に例示するような芳香シートの製造方法にも使用することができる。
【0069】
図2の態様において、芳香シート1は、3つの基材シート2を備える。基材シート2は、シート間にそれぞれ芳香機能性接合層3を介して、その厚さ方向に積層されている。
【0070】
図3の態様において、芳香シート1は、3つの基材シート2を備える。基材シート2は、一方のシート間に芳香機能性接合層3を介して、他方のシート間には芳香機能性接合層以外の層4を介して、その厚さ方向に積層されている。ここで、芳香機能性接合層以外の層4としては、粘着層、芳香機能を有しない接合層などが挙げられるが特に限定されるものではない。
【0071】
なお、図示はしないが他の態様として、少なくとも1の芳香機能性接合層を備えることを前提に、種々の態様が考えられる。例えば、
図3において芳香機能性接合層以外の層が多層構造であってもよいし、融着などにより基材シート同士が直接積層されていてもよい。また、基材シートの数についても前記態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
ポリウレタンポリオールの調製例
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコにキシリレンジイソシアネート66.52質量部、ポリカーボネートポリオール(クラレポリオールC−1015N 株式会社クラレ製)98.56質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸27.89質量部、トルエン100質量部を仕込み、100℃まで徐々に昇温し4時間反応を行った。滴定でイソシアネート基残量を確認した後、40℃まで冷却し、酢酸エチル100質量部を加えた後、エチレンジアミン30質量部を1時間で滴下し、更に1時間反応を行い、ポリウレタンポリオールを得た。得られたポリウレタンポリオールの重量平均分子量(Mw)は132,000、酸価は30.0mgKOH/gであった。
【0073】
メタクリル系ポリマーの調製例
メチルアクリレート8質量部、n−ブチルアクリレート75質量部、2−エチルヘキシルアクリレート8質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5質量部、及びアクリルアミド4質量部からなる構成モノマーを、重量平均分子量(Mw)が1,100,000となるよう重合して、メタクリル系ポリマーを得た。
【0074】
実施例1〜5、比較例3〜6
接合剤となる樹脂原料として、前記のとおり調製されたポリウレタンポリオール100質量部および硬化剤としてイソホロンジイソシアネート25質量部を配合した。さらに液体香料(バラの香りサンプル/アルコール成分30質量%)を前記接合剤100質量部に対して40質量部となるように配合して、樹脂原料と液体香料との混合液を得た。得られた混合液を、芳香機能性接合層の乾燥後の厚みが20μmとなるように、厚み12μmのポリエチレンテレフタレート樹脂シート上にアプリケーターを用いて塗工し、表1に記載の条件で乾燥工程Aを行った。この後、表2に示す第1〜第5の乾燥ゾーンを設定したオーブン中で乾燥工程Bを行って溶媒を除去し、シートに結露が生じないように28℃まで冷却して、芳香機能性接合層を形成した。形成された芳香機能性接合層の表面に、厚み25μmの無延伸ポリプロピレン樹脂シートをニップローラーで貼り合せて、芳香シートを調製した。得られた芳香シートの養生条件は、23℃、50%RHで14日間とした。
【0075】
実施例6
接合剤となる樹脂原料として、ポリウレタンポリオール100質量部に代えて前記のとおり調製されたメタクリル系ポリマー100質量部を配合し、イソホロンジイソシアネート25質量部に代えてキシリレンジイソシアネート0.4質量部を配合し、養生条件を7日間とした以外は、実施例1と同様にして芳香シートを調製した。
【0076】
比較例1、2
塗工工程の直後に乾燥工程Bを実施した以外は実施例1と同様にして芳香シートを調製した。
【0077】
実施例1の芳香機能性接合層の貯蔵弾性率および接着強度について、前記の測定方法で測定したところ、25℃における貯蔵弾性率(G’)は0.398MPa、60℃における貯蔵弾性率(G’)は0.317MPa、接着強度は4N/25mmであった。また、実施例1の芳香シートに接合剤として含まれるポリウレタン樹脂のゲル分率は94%であった。
【0078】
実施例6の芳香機能性接合層の貯蔵弾性率および接着強度について、前記の測定方法で測定したところ、25℃における貯蔵弾性率(G’)は0.217MPa、60℃における貯蔵弾性率(G’)は0.145MPa、接着強度は5N/25mmであった。また、実施例6の芳香シートに接合剤として含まれるメタクリル樹脂のゲル分率は83%であった。
【0079】
各実施例、比較例で使用された基材シートの酸素透過度は、ポリエチレンテレフタレート(12μm):384×10
−15mol/(m
2・s・Pa)、無延伸ポリプロピレン(25μm):11,520×10
−15mol/(m
2・s・Pa)であった。
【0080】
(芳香持続性)
各実施例、比較例の芳香シートについて、10cm×10cmのサイズに裁断した後、60℃95%RH環境下に24時間静置した後取り出し、ウェザーメーター(照射条件:フレーム側キセノン照射、照度:70W/m
2、温度・湿度条件:B.P.T;65℃・50%)で24時間照射後に、所望の香りが得られているかについて、年齢が10代から50代までの各年代の男女各5人の計50人の被験者が三点比較式臭袋法による臭気判定を行い、その判定結果を以下のように評価した。結果を表1に示す。
◎:50人中、48〜50人全員が正しく判定できる。
○:50人中、43〜47人が正しく判定できる。
△:50人中、40〜42人が正しく判定できる。
×:50人中、正しく判定できる人数が39人以下。
【0081】
(塗工面の均一性)
各実施例、比較例の芳香シートについて、芳香シート製造直後に1m×1mのサイズでサンプリングを行い、三波長蛍光灯を用いて光を反射する方法で、目視で塗工面の確認を行い、以下のように評価した。結果を表1に示す。
◎:芳香シートに用いた基材の地合いと、塗工時の流れ方向のさざ波状のゆらぎ以外に、顕著なゆらぎがない。
○:芳香シートに用いた基材の地合いと、塗工時の流れ方向のさざ波状のゆらぎ以外に、顕著なゆらぎはなく、流れ方向のさざ波状のゆらぎがやや目立つが、実用上に支障がない。
△:芳香シートに用いた基材の地合いと、塗工時の流れ方向のさざ波状のゆらぎ以外に、ゆらぎが見られ、実用に供するにはやや難がある。
×:芳香シートに用いた基材の地合いと、塗工時の流れ方向のさざ波状のゆらぎ以外に、顕著なゆらぎが見られ、実用性が全くない。
【0082】
(気泡の有無)
各実施例、比較例の芳香シートについて、芳香シート製造直後に1m×1mのサイズで5枚サンプリングを行い、三波長蛍光灯を用いて光を透過する方法で、目視で気泡のサイズと数を確認し、1枚あたりの気泡の平均個数を算出して、以下のように評価した。結果を表1に示す。
◎:0.5mm
2以上の気泡の平均個数が、1個/m
2未満である。
○:0.5mm
2以上の気泡の平均個数が、1個/m
2以上3個/m
2未満であり、使用上支障が生じない。
△:0.5mm
2以上の気泡の平均個数が、3個/m
2以上8個/m
2未満であり、実用に供するにはやや難がある。
×:0.5mm
2以上の気泡の平均個数が、8個/m
2以上であり、実用性が全くない。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
各実施例と比較例1、2との対比から、乾燥工程Aを実施しないと芳香持続性及び外観が劣る結果となることが分かる。また、各実施例と比較例3、4との対比から、乾燥工程Aの規定温度範囲を外れると、芳香持続性及び外観が劣る結果となることが分かる。また、各実施例と比較例5、6との対比から、乾燥工程Bの規定温度範囲から外れると、芳香持続性及び外観が非常に劣る結果となることが分かる。
【0086】
一方、乾燥工程AおよびBを実施した各実施例においては、芳香持続性及び外観について優れていたことが分かる。なお、実施例の中でも、乾燥工程Aを温度30℃、乾燥時間10秒で実施した、実施例1、6について、特に優れた結果が得られた。
【0087】
本発明は、前記の実施態様および実施例によりなんら限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の実施態様を取り得る。