(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に使用する液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルである。
【0016】
液晶ポリエステルの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0017】
以下、液晶ポリエステル(A)について説明する。
【0018】
本発明に使用する液晶ポリエステル(A)としては、式(I)〜(IV)で表される繰返し単位を含むものが好適に使用される。
【化3】
[p、q、rおよびsは、液晶ポリエステル(A)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
60≦p+q≦78、
0.05≦q≦5、
11≦r≦20、および
11≦s≦20]
【0019】
式(I)の繰返し単位および式(II)の繰返し単位の合計量[p+q]は、60〜78モル%であり、好ましくは65〜75モル%である。
【0020】
式(I)の繰返し単位の量[q]は、0.05〜3モル%であり、好ましくは0.5〜2.5モル%である。
【0021】
液晶ポリエステル(A)において、式(III)で表される芳香族ジオキシ繰返し単位の含有量と、式(IV)で表される芳香族ジカルボニル繰返し単位の含有量は、実質的に等モルであるのが好ましい。
【0022】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、およびそのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、およびそのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、ハイドロキノンまたはそのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0025】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、または、そのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
液晶ポリエステル(A)において繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0027】
液晶ポリエステル(A)を構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、他の芳香族ジオール、他の芳香族ジカルボン酸あるいは芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0028】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0029】
他の芳香族ジオールの具体例としては、例えば、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテルなどの芳香族ジオールおよびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0030】
他の芳香族ジカルボン酸の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニルなどの芳香族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0031】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ヒドロキシジカルボン酸の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸などのヒドロキシ芳香族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、例えば、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルなどの芳香族ヒドロキシアミンおよびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0033】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレンなどの芳香族ジアミンおよびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0034】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族アミノカルボン酸の具体例としては、例えば、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸などの芳香族アミノカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0035】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の割合は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0036】
本発明に使用される液晶ポリエステル(A)の結晶融解温度は、特に限定はされないが、310〜360℃であるものが好ましい。
【0037】
本発明に使用される液晶ポリエステル(A)は、キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000s
−1の条件下、結晶融解温度+30℃で測定した溶融粘度が、1〜1000Pa・sであるものが好ましく、5〜300Pa・sであるものがより好ましい。
【0038】
次に、液晶ポリエステル(B)について説明する。
本発明に使用する液晶ポリエステル(B)としては、式(V)および(VI)で表される繰返し単位を含むものが好適に使用される。
【化4】
[式中、
tおよびuはそれぞれ、液晶ポリエステル(B)中の各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
80/20≦t/u≦60/40]
【0039】
液晶ポリエステル(B)において、式(V)で表される繰返し単位および式(VI)で表される繰返し単位のモル比率[t/u]は、80/20〜60/40であり、好ましくは75/25〜70/30である。
【0040】
式(V)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、およびそのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0041】
式(VI)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、およびそのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0042】
液晶ポリエステル(B)において繰返し単位の組成比の合計[t+u]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0043】
液晶ポリエステル(B)を構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸あるいは芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0044】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸の具体例は、液晶ポリエステル(A)の場合と同様である。
【0045】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ジオールの具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテルなどの芳香族ジオールおよびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0046】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ジカルボン酸の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニルなどの芳香族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0047】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の割合は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0048】
本発明に使用される液晶ポリエステル(B)の結晶融解温度は、特に限定はされないが、250〜300℃であるものが好ましい。
【0049】
本発明に使用される液晶ポリエステル(B)は、キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000s
−1の条件下、結晶融解温度+40℃で測定した溶融粘度が、1〜1000Pa・sであるものが好ましく、5〜300Pa・sであるものがより好ましい。
【0050】
以下、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法について説明する。
【0051】
本発明に用いる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0052】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する液晶ポリエステルの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0053】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0054】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0055】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステルの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0056】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0057】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(例えばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物、二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物、カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(例えば酢酸カリウム)、無機酸塩類(例えば硫酸カリウム)、ルイス酸(例えば三フッ化硼素)、ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0058】
触媒の使用割合は、通常モノマー全量に対して1〜1000ppm、好ましくは2〜100ppmである。
【0059】
このようにして重縮合反応されて得られた液晶ポリエステルは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0060】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステルは、分子量を高め耐熱性を向上させる目的などで、減圧下または不活性ガス雰囲気下において、実質的に固相状態において熱処理を行ってもよい。
【0061】
このようにして得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工された液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて、溶融混練され本発明の液晶ポリエステルブレンドとされる。
【0062】
液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の重量比[A/B]は、95/5〜45/55であり、好ましくは90/10〜65/35である。
【0063】
[A/B]が95/5を超えると液晶ポリエステル樹脂組成物の強度が十分に改善されず、[A/B]が60/40未満であると液晶ポリエステル樹脂組成物の耐熱性が低くなるだけでなく十分な曲げ弾性率が得られなくなる。
【0064】
液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の重量比は、予め溶融混練などによるブレンド樹脂とする際に調整されてもよく、(A)および(B)が個別または同時にガラス繊維(C)と配合されて液晶ポリエステル樹脂組成物とする際に調整されてもよい。
【0065】
本発明に使用するエポキシ樹脂を表面に有する表面処理ガラス繊維(C)は、エポキシ樹脂で被覆および集束処理がされたものである。被覆および集束用樹脂材料としては、他にウレタン樹脂、エポキシウレタン樹脂などがあるが、液晶ポリエステルに対して濡れ性に優れることにより高剛性および高強度が得られる点からエポキシ樹脂で処理されたものが使用される。また、ガラス繊維の表面と被覆および集束用樹脂材料との接着性を向上させるために、ガラス繊維はシラン系カップリング剤等で表面が処理されていてもよい。
【0066】
本発明に使用するガラス繊維(C)の樹脂組成物中における数平均繊維長は、好ましくは100〜300μm、より好ましくは120〜200μmである。数平均繊維長が100μm未満であると剛性および強度が劣り、300μmを超えると流動性が低下する傾向がある。ガラス繊維(C)は、通常、液晶ポリエステル等との配合の際に折れたり砕けたりすること等により上記樹脂組成物中における数平均繊維長となる。本発明の樹脂組成物を製造する場合、上記樹脂組成物中における数平均繊維長より長い数平均繊維長を有するガラス繊維、例えば0.5〜10mmの数平均繊維長を有するガラス繊維を用いることができる。
【0067】
本発明に使用するガラス繊維(C)の数平均繊維径は、5〜20μmであり、好ましくは8〜18μmである。数平均繊維径が5μm未満であると剛性および強度が劣る傾向がある。
【0068】
なお、ガラス繊維の数平均繊維径および数平均繊維長は、マイクロスコープで観察することにより測定できる。まず、液晶ポリエステル樹脂組成物1.0gをるつぼに採取し、電気炉内にて500℃で5時間処理して灰化させ、その残渣をメタノールに分散させてスライドガラス上に展開して試料とする。次に、マイクロスコープ視野におけるガラス繊維の投影像において、長手方向の長さを繊維長、長手方向に直交する方向の長さを繊維径として読み取り、算術平均値を算出することにより求める。平均値の母数は200以上とする。
【0069】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物におけるガラス繊維(C)の含有量は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の合計量100重量部に対して、70〜200重量部であり、好ましくは80〜180重量部であり、より好ましくは100〜150重量部である。
【0070】
ガラス繊維(C)の含有量が70重量部未満であると得られる液晶ポリエステル樹脂組成物の剛性および強度が改善されない。また、ガラス繊維(C)の含有量が200重量部を超えると成形加工性が低下したり成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなると同時にひずみ量1.2%における曲げ強度が十分に得られない。
【0071】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述のガラス繊維(C)以外に、例えば、他の繊維状、板状、粒状の充填材を含有することができる。好ましくは、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、充填材としてガラス繊維(C)のみを含む。
【0072】
他の繊維状充填材としては、例えば、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0073】
他の板状充填材としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、クレー、バーミキュライト、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0074】
他の粒状の無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0075】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤を含有することができる。
【0076】
他の添加剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう)、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤、カーボンブラック、染料、顔料などの着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0077】
これらの他の添加剤の含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部であるのがよい。これら他の添加剤の含有量が10重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0078】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、液晶ポリエステル樹脂組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットの表面に付着させてもよい。
【0079】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、他の樹脂成分を含有させてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0080】
他の樹脂成分は、単独でまたは2種以上を併せて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定的ではなく、液晶ポリエステル組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよいが、典型的には液晶ポリエステル100重量部に対する他の樹脂の合計含有量が0.1〜100重量部、特に0.1〜80重量部となる範囲で添加される。
【0081】
液晶ポリエステル(A)、液晶ポリエステル(B)およびガラス繊維(C)と、所望により他の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、液晶ポリエステルブレンド組成物とすることができる。
【0082】
これらのガラス繊維(C)、他の充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などの配合は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)のいずれか一方または両方に対しておこなってよく、あるいは、(A)および(B)からなるブレンド樹脂に対して行ってよい。
【0083】
この様にして得られた、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって加工される。
【0084】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の荷重たわみ温度(ASTM D648、荷重1.82MPa)は、短冊状の試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm)において、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは260℃以上である。
【0085】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、短冊状の試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm)を用いた曲げ試験(ASTM D790)において、曲げひずみ量1.2%における曲げ強度が170MPa以上、好ましくは180MPa以上であり、曲げ弾性率が17GPa以上、好ましくは18GPa以上、より好ましくは19GPa以上である。上記曲げ強度の上限値は、特に限定されないが、例えば200MPaである。また、上記曲げ弾性率の上限値は、特に限定されないが、例えば21Gpaである。したがって、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、上記曲げ強度が例えば170〜200MPa、180MPa〜200MPaであり、上記曲げ弾性率が17〜21GPa、好ましくは18〜20GPa、19〜20GPa等である。
【0086】
曲げ強度とは、一般的には、曲げ試験片が破断または降伏した曲げひずみ量における荷重から導かれるが、本発明においては、FPCまたはFFC用コネクタのアクチュエータ部品の捩れによる破損や固定不足を評価するにあたり、必要な剛性と強度のバランスの評価に好ましいことから、上記のように一定の曲げひずみ量1.2%における荷重から導かれるものとした。
【0087】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、剛性および強度に優れるため、コネクタ、リレー、スイッチなどの電子部品、特に、FPCまたはFFC用コネクタのハウジング部品や同じくアクチュエータ部品の樹脂材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
実施例中の溶融粘度、荷重たわみ温度、曲げ弾性率、曲げ強度およびアクチュエータ部品固定確認の測定および評価は以下に記載の方法で行った。
【0090】
(1)溶融粘度
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、合成例の液晶ポリエステルについては0.7mmφ×10mm、実施例1〜6および比較例1〜7の液晶ポリエステル組成物については1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec
−1、350℃(LCP−2および比較例2については320℃)の条件下での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0091】
(2)荷重たわみ温度(DTUL)
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダー設定温度350℃(比較例2については300℃)、金型温度70℃で、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0092】
(3)曲げ強度
荷重たわみ温度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、ASTM D790に準拠した測定を行い、曲げひずみ量1.2%における荷重から曲げ強度を導いた。
【0093】
(4)曲げ弾性率
荷重たわみ温度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、ASTM D790に準拠して測定した。
【0094】
(5)結晶融解温度
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000を用い、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、その際に観測される発熱ピークのピークトップの温度を液晶ポリエステルの結晶化温度(Tc)とし、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステルの結晶融解温度(Tm)とした。
【0095】
(6)アクチュエータ部品の固定確認
固定確認に用いた試験片を
図1に示す。
【0096】
試験片1は、射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダー設定温度350℃(比較例2については300℃)、金型温度70℃で、ハウジング部品2およびアクチュエータ部品3(30mm×1mm×0.5mmの略短冊片)をそれぞれ成形し、これを組み合わせることにより作製した。
【0097】
次に、
図2に示すように、試験片1の開口部分にフラットケーブル4(厚さ0.3mm)を載置し、アクチュエータ部品3の両端に設けられた固定部6aおよび6bのうち、固定部6a付近のみを押圧することにより、固定部6aがハウジング部品2の掛止部7aにロックされるまで移動させ、フラットケーブル4をコンタクト5に圧接させた。
この動作を繰り返して、アクチュエータ部品3の他方の固定部6bが掛止部7bにロックされなくなるまでの回数を測定し、表1に示すように評価した。
【0098】
【表1】
【0099】
以下、実施例および比較例において使用する液晶ポリエステルの合成例を記した。合成例における化合物の略号は以下の通りである。
【0100】
〔液晶ポリエステル合成に用いた単量体〕
POB:4−ヒドロキシ安息香酸
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
NDA:2,6−ナフタレンジカルボン酸
BP:4,4’−ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
【0101】
[合成例1(LCP−1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:641.9g(71.5モル%)、BON6:30.6g(2.5モル%)、HQ:93.0g(13モル%)およびNDA:182.7g(13モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0102】
窒素ガス雰囲気下に室温〜145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ345℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は321℃であり、溶融粘度は23Pa・sであった。
【0103】
[合成例2(LCP−2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:655.4g(73モル%)およびBON6:330.2g(27モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.02倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0104】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間で昇温し、145℃にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ320℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は279℃であり、溶融粘度は21Pa・sであった。
【0105】
[合成例3(LCP−3)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:323.2g(36モル%)、BON6:48.9g(4モル%)、BP:169.4g(14モル%)、HQ:114.5g(16モル%)およびTPA:323.9g(30モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0106】
窒素ガス雰囲気下に室温〜145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は335℃であり、溶融粘度は20Pa・sであった。
【0107】
以下の実施例および比較例で使用した充填材を示す。
〈ガラス繊維〉
GF−1:日本電気硝子社製、ECS03T−747H(数平均繊維径10.5μm、数平均繊維長3mm、エポキシ樹脂集束剤およびシラン系カップリング剤で表面処理)
GF−2:日本電気硝子社製、ECS03T−747N(数平均繊維径17μm、数平均繊維長3mm、エポキシ樹脂集束剤およびシラン系カップリング剤で表面処理)
GF−3:日本電気硝子社製、ECS03T−747DE(数平均繊維径6.5μm、数平均繊維長3mm、エポキシ樹脂集束剤およびシラン系カップリング剤で表面処理)
GF−4:日東紡績社製、CS3J256(数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mm、ウレタン樹脂集束剤およびシラン系カップリング剤で表面処理)
〈マイカ〉
マイカ:株式会社ヤマグチマイカ製、AB−25S(粒子径22μm)
【0108】
実施例1〜6、比較例1〜7
LCP−1を液晶ポリエステル(A)、LCP−2を液晶ポリエステル(B)として、LCP−1〜3、GF−1〜4およびマイカについて、表2に記載の含有量となるように配合し、二軸押出機TEX−30(日本製鋼所株式会社製)を用いて、350℃(比較例2については300℃)にて溶融混練を行い、液晶ポリエステル樹脂組成物をペレットとして得た。上記の方法により、溶融粘度、荷重たわみ温度、曲げ強度、曲げ弾性率、およびアクチュエータ部品固定確認を測定および評価した。
【0109】
【表2】
【0110】
表2に示されるように、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物(実施例1〜6)はいずれにおいても、DTULが240℃以上、曲げ強度が170MPa以上、曲げ弾性率が18GPa以上であり、かつ、良好なアクチュエータ部品固定確認の評価となった。
【0111】
これに対して、比較例1〜7のように、本発明から外れる場合は、曲げ強度および曲げ弾性率の少なくとも一つ、およびアクチュエータ部品固定確認の評価が好ましくない結果となった。
本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕式(I)〜(IV)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(A)と、
【化1】
[式中、
p、q、rおよびsはそれぞれ、液晶ポリエステル(A)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
60≦p+q≦78、
0.05≦q≦5、
11≦r≦20、および
11≦s≦20]
式(V)および(VI)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(B)と、
【化2】
[式中、
tおよびuはそれぞれ、液晶ポリエステル(B)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
80/20≦t/u≦60/40]
エポキシ樹脂を表面に有する表面処理ガラス繊維(C)とを含有し、
(A)と(B)の重量比[A/B]が95/5〜45/55であり、
(A)と(B)の合計量100重量部に対して、(C)の含有量が70〜200重量部
である液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
短冊状の成形品(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm)を用いた曲げ試験(ASTM D790)において、曲げひずみ量1.2%における曲げ強度が170MPa以上であり、曲げ弾性率が17GPa以上である液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔2〕荷重たわみ温度(ASTM D648、荷重1.82MPa)が240℃以上である、〔1〕に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載の樹脂組成物から構成される成形品。
〔4〕FPCまたはFFC用コネクタのアクチュエータ部品またはそのハウジング部品である、〔3〕に記載の成形品。