特許第6751017号(P6751017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6751017外側コーティングの性能を改良するケイ素/有機層で被覆された物品
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  • 特許6751017-外側コーティングの性能を改良するケイ素/有機層で被覆された物品 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751017
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】外側コーティングの性能を改良するケイ素/有機層で被覆された物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20200824BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20200824BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20200824BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20200824BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   G02B1/115
   G02B1/18
   G02C7/00
   C23C14/10
   C23C14/12
【請求項の数】14
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-518574(P2016-518574)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公表番号】特表2016-521871(P2016-521871A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】FR2014051463
(87)【国際公開番号】WO2014199103
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2017年6月12日
(31)【優先権主張番号】1355604
(32)【優先日】2013年6月14日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】598142955
【氏名又は名称】エシロール アンテルナショナル
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン シャーロット
(72)【発明者】
【氏名】ブルース フォール
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー ペガ
(72)【発明者】
【氏名】カリン シェラー
【審査官】 山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−175500(JP,A)
【文献】 特開2004−013127(JP,A)
【文献】 特開2006−249302(JP,A)
【文献】 特開2001−335920(JP,A)
【文献】 特開2004−198445(JP,A)
【文献】 特開2010−217630(JP,A)
【文献】 特開平06−138305(JP,A)
【文献】 特開2006−039239(JP,A)
【文献】 特開2002−006103(JP,A)
【文献】 特開2002−046143(JP,A)
【文献】 特開2000−162402(JP,A)
【文献】 特開2008−152085(JP,A)
【文献】 特開2008−080704(JP,A)
【文献】 特開2003−255107(JP,A)
【文献】 特開2003−202407(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0198818(US,A1)
【文献】 特開2006−171204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00−1/18
G02B 3/00−3/14
G02C 1/00−13/00
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性外側コーティングBに直接接触する層Aで被覆された少なくとも1つの主表面を有する基材を含む物品であって、前記層Aが、構造中に、
・ 少なくとも1個の炭素原子と、
・ 少なくとも1個の水素原子と、
・ 少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、
・ 任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子と、
を含有するガス状の少なくとも1種の化合物Cに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られ、ここで前記イオンビームは前記化合物Cの活性化/解離を引き起こすものであり、
前記化合物Cが、テトラメチルジシロキサンでもテトラエトキシシランでもビニルメチルジエトキシシランでもヘキサメチルシクロトリシラザンでもなく、前記層Aはフルオロ化合物を含有せず、且つ前記層Aが、無機前駆体化合物から形成されないものであって、
前記化合物Cが、式:
【化1】
(式中、R’1〜R’4は、独立して、アルキル基、ビニル基、若しくはアリール基、又は基Xを表し、少なくともR’1〜R’4の1つは、基Xを表し、Xは、前記定義のとおりである)
で示される少なくとも1個の基を含有するか、又は
前記化合物Cが、式:
【化2】
(式中、Xは、前記定義のとおりであり、nは、2〜20の範囲内の整数を表し、且つR1a及びR2aは、独立して、アルキル基、ビニル基、若しくはアリール基、又は加水分解性基を表す)
で示される化合物であることを特徴とする物品。
【請求項2】
前記イオンビームがイオン銃により放出されることを特徴とする、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記化合物Cが少なくとも1個のSi−C結合を含有することを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の物品。
【請求項4】
前記基Si−Xのケイ素原子が少なくとも1個の炭素原子、好ましくは少なくとも1個のアルキル基に直接結合されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記層Aが20〜150nmの範囲内の厚さを有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
前記基Si−XがSi−H基であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
前記層Aが1.55以下の屈折率を有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記層Aが多層干渉コーティングの外層であることを特徴とする、請求項に記載の物品。
【請求項9】
前記干渉コーティングが反射防止コーティングであることを特徴とする、請求項に記載の物品。
【請求項10】
前記干渉コーティングが、1.55以下の屈折率を有する低屈折率層を含有し、且つ前記層A以外のすべてのこれらの低屈折率層が、無機性であることを特徴とする、請求項8〜9のいずれか一項に記載の物品。
【請求項11】
前記層A以外の前記干渉コーティングのすべて層が無機性であることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一項に記載の物品。
【請求項12】
前記基Si−Xのケイ素原子が2個超の非加水分解性基に結合されないことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項13】
光学レンズ、好ましくは眼用レンズであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の物品。
【請求項14】
少なくとも以下の工程、すなわち、
・ 少なくとも1つの主表面を有する基材を含む物品を提供する工程と、
・ 前記基材の前記主表面に層Aを堆積する工程と、
・ 疎水性外側コーティングBを前記層A上に直接堆積する工程と、
・ 前記疎水性外側コーティングBに直接接触する前記層Aで被覆された主表面を有する基材を含む物品を取得する工程と、
を含み、前記層Aが、構造中に、
・ 少なくとも1個の炭素原子と、
・ 少なくとも1個の水素原子と、
・ 少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、
・ 任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子と、
を含有するガス状の少なくとも1種の化合物Cに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られたものであり、ここで前記イオンビームは前記化合物Cの活性化/解離を引き起こすものであり、
前記化合物Cが、テトラメチルジシロキサンでもテトラエトキシシランでもビニルメチルジエトキシシランでもヘキサメチルシクロトリシラザンでもなく、前記層Aはフルオロ化合物を含有せず、且つ前記層Aが、無機前駆体化合物から形成されないものであり、
前記化合物Cが、式:
【化3】
(式中、R’1〜R’4は、独立して、アルキル基、ビニル基、若しくはアリール基、又は基Xを表し、少なくともR’1〜R’4の1つは、基Xを表し、Xは、前記定義のとおりである)
で示される少なくとも1個の基を含有するか、又は
前記化合物Cが、式:
【化4】
(式中、Xは、前記定義のとおりであり、nは、2〜20の範囲内の整数を表し、且つR1a及びR2aは、独立して、アルキル基、ビニル基、若しくはアリール基、又は加水分解性基を表す)
で示される化合物であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の物品の製造プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、下層の存在により性能が改良された外側コーティング、好ましくは防汚コーティングを有する物品、好ましくは光学物品、特定的には眼用レンズと、そのような物品の製造プロセスとに関する。物品はさらに、改良された熱機械的性質と、制限された経時的化粧欠陥発生傾向とを有する。
【背景技術】
【0002】
光学物品は、ほとんどの場合、表面エネルギーを調整する外層、たとえば、当技術分野で周知の疎水性及び/又は疎油性の防汚コーティングを含み、一般的には、反射防止コーティングを伴う。それは、ほとんどの場合、油脂汚れの付着を防止して除去をより容易にするために表面エネルギーを減少させるフルオロシラン型材料に関する問題である。
【0003】
本出願人名義の特許出願第PCT/FR12053092号明細書には、多層干渉コーティングで被覆された少なくとも1つの主表面を有する基材を含む物品が記載されている。前記コーティングは、無機前駆体化合物から形成されない且つ1.55以下の屈折率を有する層Aを含有し、この層は、
・ 干渉コーティングの外層
・ 又は干渉コーティングの外層に直接接触する中間層
のいずれかであり、干渉コーティングのこの外層は、この第2の場合、1.55以下の屈折率を有する追加の層であり、前記層Aは、ガス状且つケイ素−有機性の少なくとも1種の前駆体化合物Cたとえばオクタメチルシクロテトラシロキサンに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られる。
【0004】
層Aが干渉コーティングの外層である場合、この層A上に直接堆積された防汚コーティングの性能は、不満足であることが観測された。層Aと防汚コーティングとの間に追加の層、典型的にはシリカ層を堆積することにより、防汚コーティングの性能を改良することが可能であるが、堆積プロセスが複雑化し、以上の実施形態と対比して耐引掻き性及び接着性がわずかに減少する。
【0005】
このため、有機層Aの利点を十分に生かせるように、層Aとこの外側コーティングとの間に追加の層を介在させる必要なく、外側コーティング、特定的には防汚コーティングの性能を改良できることが望ましいであろう。さらに、イオンビームにより堆積された有機層Aを使用すると、特定の基材上で、レンズの全表面にわたり延在するスポット及びラインの形態をとる且つ特定の照明条件(アークランプ又はテンシオスコープ(tensioscope))下で目に見える、帯白色及び半透明の化粧欠陥が、徐々に出現するおそれがある。製造後に光学物品上に化粧欠陥が出現すると、その販売の妨げとなる。基材に依存して、これらの欠陥は、最初から存在するか、又は眼用レンズを着用しているうちに数日間〜数ヵ月間にわたりうる特定の期間の後に出現する。
【0006】
特許出願第PCT/FR12053092号明細書では、これらの欠陥の出現は、特定的には、層Aの堆積時にアルゴンのフローを用いて防止されうる。それにもかかわらず、これは、化粧欠陥の不在を保証するために、プロセスの調整及び制御が必要であるという欠点を有する。したがって、パラメーター変化の影響を受けにくいよりロバストなプロセスを有することが好ましいであろう。
【0007】
米国特許第6,919,134号明細書には、より良好な接着性、より良好な耐熱性、且つより良好な耐摩耗性を有するコーティングが提供されるように有機化合物と無機化合物とを共蒸発させることにより得られる少なくとも1つのいわゆる「ハイブリッド」層を含有する反射防止コーティングを含む光学物品が記載されている。反射防止コーティングは、好ましくは、2つの「ハイブリッド」層を含有し、一方が内側位置及び他方が外側位置にある。これらの層は、一般的には、イオン支援共蒸発により、典型的には、シリカと変性シリコーン油とのイオン支援共蒸発により、堆積される。
【0008】
特開2007−078780号公報には、多層反射防止コーティングを含む眼鏡レンズが記載されている。その外層は、いわゆる「有機」低屈折率層である。この層は、湿式処理(スピンコーティング又はディップコーティング)により堆積されるが、反射防止コーティングの無機層は、イオン支援真空堆積により堆積される。そのような反射防止スタックは、排他的に無機層で構成される反射防止コーティングよりも良好な耐熱性を有することが、特許出願から示唆される。前記「有機」層は、好ましくは、シリカ粒子とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのオルガノシランバインダーとの混合物を含有する。
【0009】
特開平05−323103号公報には、疎水性にすることによって水の吸収により引き起こされる光学特性の変化を最小限に抑えることを意図して、SiO2層とTiO2層とを含有する光学多層スタックの最終層への有機フルオロ化合物の組込みが記載されている。フッ素含有層は、テトラフルオロエチレン又はフルオロアルキルシランでありうるフッ素含有前駆体で構成される雰囲気中で層の構成材料を気相堆積することにより得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に引用された文書のいずれでも、化粧欠陥の出現及び外側コーティングの性能に関する問題は、対処されていない。
【0011】
さらに、眼鏡店での眼鏡レンズのトリミング時及び取付け時、とくに操作が注意して行われない場合、眼鏡レンズは、ミネラル干渉コーティングに亀裂を生じるおそれのある機械的変形を受ける。同様に、熱応力(フレームの加熱)も、干渉コーティングに亀裂を生じるおそれがある。亀裂の数及びサイズに依存して、亀裂は、着用者の視界を損ねたり、眼鏡レンズの販売の妨げとなったりしうる。さらに、処理された有機眼鏡レンズを着用しているうちに、引掻き傷が出現するおそれがある。ミネラル干渉コーティングでは、特定の引掻き傷が亀裂を引き起こして、光の散乱が理由で引掻き傷がより目に見えるようになる。
【0012】
したがって、本発明の他の目的は、良好な接着性を保持しつつ改良された熱機械的性質を有するコーティング、特定的には干渉コーティング、より特定的には反射防止コーティング、さらには経時的に化粧欠陥をまったく(又はほとんど)発生しないコーティングを得ることである。特定的には、本発明は、改良された限界温度を有する、すなわち、温度上昇を受けた時に良好な耐亀裂性を有する、物品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
具体的には、物品の外側コーティングの下に直接堆積される層、眼用光学品では、一般的には、防汚コーティングに接触する干渉コーティングの低屈折率層(典型的にはシリカ層)の性質を調整することにより、対象となる目的を達成可能であることを、本発明者らは発見した。本発明によれば、この層は、少なくとも1つのケイ素−加水分解性基結合、好ましくは少なくとも1つの水素−ケイ素結合を含有する有機性の前駆体材料から好ましくは排他的に得られる種であるガス状の活性化種をイオンビーム下で堆積することにより形成される。
【0014】
したがって、対象となる目的は、層Aで被覆された少なくとも1つの主表面を有する基材を含む物品により本発に従って達成される。ただし、前記層Aは、疎水性外側コーティングBに直接接触しており、且つ構造中に、
・少なくとも1個の炭素原子と、
・少なくとも1個の水素原子と、
・少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、
・任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子と、
を含有するガス状の少なくとも1種の化合物Cに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られたものであり、
前記化合物Cは、テトラメチルジシロキサンでもテトラエトキシシランでもビニルメチルジエトキシシランでもヘキサメチルシクロトリシラザンでもなく、且つ前記層Aは、無機前駆体化合物から形成されない。
【0015】
添付の図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、眼鏡レンズが受ける変形及びこの変形Dを実験の節に記載の耐曲げ性試験で測定する方法を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本出願では、物品がその表面上に1つ以上のコーティングを有する場合、「物品上に層又はコーティングを堆積する」という表現は、物品の外側コーティング、すなわち、基材から最も離れたそのコーティングの覆われていない(露出した)表面上に層又はコーティングを堆積することを意味するものと理解される。
【0018】
基材「上」にある又は基材「上」に堆積されたコーティングとは、(i)基材の上方に配置されたコーティング、(ii)基材に必ずしも接触しているわけではない(ただし、好ましくは接触している)、すなわち、基材と対象のコーティングとの間に1つ以上のコーティングが配置されていてもよいコーティング、及び(iii)基材を必ずしも完全に覆っているわけではない(ただし、好ましくは完全に覆っている)コーティングとして定義される。「層1が層2の下に位置する」場合、層2が層1よりも基材から離れていることは、理解されよう。
【0019】
本発明に従って製造された物品は、前側主面と後側主面とを有する基材、好ましくは、透明基材を含み、前記主面の少なくとも一方、好ましくは両方の主面は、層Aを含む。
【0020】
基材の「後面」(後面は一般的には凹状である)とは、物品が使用される時、着用者の眼に最も近い面であると理解される。反対に、基材の「前面」(前面は一般的には凸状である)とは、物品が使用される時、着用者の眼から最も遠い面であると理解される。
【0021】
本発明に係る物品は、任意のタイプの物品、たとえば、スクリーン、グレージングユニット、作業環境でとくに使用されうる保護眼鏡、ミラー、又はエレクトロニクスで使用される物品であるが、好ましくは、光学物品、より好ましくは光学レンズ、さらにより好ましくは眼鏡用の眼用レンズ、又はブランクの光学レンズ若しくは眼用レンズ、たとえば半完成の光学レンズ、とくに眼鏡レンズである。レンズは、偏光レンズ又は着色レンズ又は調光レンズでありうる。好ましくは、本発明に係る眼用レンズは、高い透過率を有する。
【0022】
本発明に係る層Aは、ベア基材(すなわち、被覆されていない基材)の主面の少なくとも1つの上、又は1つ以上の機能性コーティングですでに被覆された基材の主面の少なくとも1つの上、に形成されうる。
【0023】
本発明に係る物品の基材は、好ましくは、有機眼鏡レンズ、たとえば、熱可塑性又は熱硬化性のプラスチックで作製されたものである。この基材は、国際公開第2008/062142号パンフレットに挙げられた基材から選択されうるとともに、たとえば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートの(共)重合により得られた基材、ポリ(チオ)ウレタン基材、又は(熱可塑性)ビスフェノールAポリカーボネート(PC)で作製された基材でありうる。
【0024】
たとえば耐摩耗性及び/又は耐引掻き性のコーティングで任意選択で被覆された基材上に層Aを堆積する前に、前記任意選択で被覆された基材の表面を、層Aの接着性を増加させることが意図された物理的又は化学的な活性化処理に付すことが一般的である。この前処理は、一般的には真空下で行われる。それは、エネルギー種及び/又は反応性種、たとえば、イオンビーム(イオンプレクリーニング若しくはIPC)又は電子ビームの衝撃、コロナ放電処理、グロー放電処理、UV処理、あるいは真空プラズマ処理、一般的には、酸素プラズマ処理又はアルゴンプラズマ処理に関する問題でありうる。それはまた、酸若しくは塩基による表面処理及び/又は溶媒(水若しくは有機溶媒)による処理に関する問題でありうる。これらの処理のいくつかは、組み合わされうる。これらの清浄化処理により、基材の表面の清浄性及び反応性が最適化される。
【0025】
「エネルギー種」(及び/又は「反応性種」)という用語は、1〜300eV、好ましくは1〜150eV、より良好には10〜150eV、さらにより良好には40〜150eVの範囲内のエネルギーを有するイオン種をとくに意味するものと理解される。エネルギー種は、イオンやラジカルなどの化学種、又は光子や電子などの種でありうる。
【0026】
基材の表面の好ましい前処理は、イオン銃を利用して行われるイオン衝撃処理であり、イオンは、ガス原子から1個以上の電子が除去されて形成される粒子である。好ましくはアルゴンがイオン化ガス(Ar+イオン)として使用されるが、酸素又は酸素とアルゴンとの混合物もまた、一般的には50〜200Vの範囲内の加速電圧下、活性化表面で一般的には10〜100μA/cm2に含まれる電流密度、及び一般的にはおそらく8×10-5mbar〜2×10-4mbarの範囲内の真空チャンバー内残留圧力下で使用されうる。
【0027】
本発明に係る物品は、単層干渉コーティングから、又は多層コーティング、好ましくは多層干渉コーティングの外層、すなわち、スタック順に基材から最も離れた(干渉)コーティングの層から、好ましくはなる層Aを含む。前記干渉コーティングは、好ましくは、耐摩耗性コーティング上に形成される。ケイ素原子に結合された少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個の加水分解性基を含有するエポキシシラン加水分解物系の耐摩耗性コーティングが好ましい。加水分解性基は、好ましくは、アルコキシシラン基である。
【0028】
干渉コーティングは、ガス状の有機誘導体、好ましくはケイ素の水素化物に由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより形成された外層Aを含有するかぎり、光学品、特定的には眼用光学品の分野で従来から使用されている任意の干渉コーティングでありうる。干渉コーティングは、反射防止コーティング、反射(ミラー)コーティング、赤外フィルター、又は紫外フィルターでありうるが、好ましくは反射防止コーティングである。ただし、これらに限定されるものではない。
【0029】
反射防止コーティングは、物品の表面上に堆積されて最終物品の反射防止性を改良するコーティングである。それは、可視スペクトルの比較的広い部分にわたり物品/空気界面での光の反射を低減する。
【0030】
周知のように、これらの干渉(好ましくは反射防止)コーティングは、従来的には、誘電体材料の単層又は多層スタックを含有する。これらは、好ましくは、高屈折率(HI)を有する層と低屈折率(LI)を有する層とを含む多層コーティングである。
【0031】
本特許出願では、干渉コーティングの層は、その屈折率が1.55超、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.8以上、さらにより好ましくは2.0以上のある場合、高屈折率層であると言われる。干渉コーティングの層は、その屈折率が1.55以下、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.45以下である場合、低屈折率層であると言われる。とくに指定がないかぎり、本発明で参照される屈折率は、25℃で630nmの波長に対して表される。
【0032】
HI層は、当技術分野で周知の従来の高屈折率層である。それらは、一般的には、1種以上のミネラル酸化物、たとえば、ジルコニア(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、五酸化タンタル(Ta25)、酸化ネオジム(Nd25)、ハフニウムオキシド(HfO2)、酸化プラセオジム(Pr23)、チタン酸プラセオジム(PrTiO3)、La23、Nb25、Y23、酸化インジウムIn23、又は酸化スズSnO2を含有するが、これらに限定されるものではない。好ましい材料は、TiO2、Ta25、PrTiO3、ZrO2、SnO2、In23、及びそれらの混合物である。
【0033】
LI層もまた、周知の層であり、SiO2、MgF2、ZrF4、少ない割合でアルミナ(Al23)、AlF3、及びそれらの混合物を含有しうるが、好ましくはSiO2層である。ただし、これらに限定されるものではない。SiOF(フッ素ドープSiO2)で作製された層もまた、使用されうる。理想的には、本発明に係る干渉コーティングは、シリカとアルミナとの混合物を含有する層を含まない。
【0034】
一般的には、HI層は、10nm〜120nmの範囲内の物理的厚さを有し、且つLI層は、10nm〜100nmの範囲内の物理的厚さを有する。
【0035】
干渉コーティングの全厚さは、好ましくは1ミクロン未満、より好ましくは800nm以下、さらにより好ましくは500nm以下である。干渉コーティングの全厚さは、一般的には100nm超、好ましくは150nm超である。
【0036】
さらにより好ましくは、好ましくは反射防止コーティングである干渉コーティングは、少なくとも2つの低屈折率(LI)層と少なくとも2つの高い屈折率(HI)層とを含有する。干渉コーティングの層の全数は、好ましくは8つ以下、より好ましくは6以下である。
【0037】
HI層及びLI層は、干渉コーティングで交互である必要はないが、本発明の一実施形態では交互である。2つ(又はそれ以上)のHI層は、互いの上に堆積されうるとともに、まったく同様に、2つ(又はそれ以上)のLI層も、互いの上に堆積されうる。
【0038】
好ましくは、層Aを除く本発明に係る干渉コーティングの低屈折率層はすべて、無機性である(すなわち、干渉コーティングの他の低屈折率層は、好ましくは、いかなる有機化合物も含有しない)。
【0039】
好ましくは、層Aを除く本発明に係る干渉コーティングの層はすべて、無機性である。言い換えれば、層Aは、好ましくは、本発明に係る干渉コーティングの唯一の有機性層である(干渉コーティングの他の層は、好ましくは、有機化合物をまったく含有しない)。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、干渉コーティングは、下層を含む。この場合、下層は、一般的には、層の堆積順にこの干渉コーティングの第1の層を形成する。すなわち、下層は、下側コーティング(一般的には、耐摩耗性及び/又は耐引掻きのコーティング)に、又は干渉コーティングが基材上に直接堆積される場合は基材に、接触する干渉コーティングの層である。
【0041】
「干渉コーティングの下層」という表現は、前記コーティングの耐摩耗性及び/若しくは耐引掻き性の改良、並びに/又は基材若しくは下側コーティングへのコーティングの接着の促進を目的として使用される比較的厚さのあるコーティングを意味するものと理解される。本発明に係る下層は、国際公開第2010/109154号パンフレットに記載の下層から選択されうる。好ましくは、下層は、100〜200nmの厚さである。それは、好ましくは排他的にミネラル性であり、好ましくはシリカSiO2で作製される。
【0042】
本発明に係る物品は、少なくとも1つの電気伝導性層を干渉コーティングに組み込むことにより、帯電防止性にしうる。「帯電防止性」という用語は、認知可能な静電荷の貯蔵及び/又は蓄積をしない性質を意味するものと理解される。物品は、一般的には、その表面の1つを適切な布で摩擦した後、粉塵や小粒子を引き寄せたり保持したりしない場合、許容可能な帯電防止性を有すると考えられる。
【0043】
電気伝導性層は、これが干渉コーティングの反射防止性を妨害しないかぎり、干渉コーティングの種々の場所に位置しうる。それは、下層が存在する場合、たとえば、干渉コーティングの下層上に堆積されうる。それは、好ましくは、干渉コーティングの2つの誘電体層間及び/又は干渉コーティングの低屈折率層下に位置する。
【0044】
電気伝導性層は、干渉コーティングの透明度を減少しない程度に十分薄くなければならない。一般的には、その厚さは、その性質に依存して、0.1〜150nm、好ましくは0.1〜50nmの範囲内である。0.1nm未満の厚さでは、一般的には、十分な電気伝導性を得ることができず、一方、150nm超の厚さでは、一般的には、所要の透明性及び低吸収性を得ることができない。
【0045】
電気伝導性層は、好ましくは、電気伝導性且つ高透明性の材料から作製される。この場合、その厚さは、好ましくは0.1〜30nm、より好ましくは1〜20nm、さらにより好ましくは2〜15nmの範囲内である。電気伝導性層は、好ましくは、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、及びそれらの混合物から選択される金属酸化物を含有する。酸化インジウムスズ(スズドープ酸化インジウム、In23:Sn)、酸化インジウム(In23)、及び酸化スズSnO2が好ましい。最適な一実施形態によれば、電気伝導性且つ光透明性の層は、酸化インジウムスズ(ITO)の層である。
【0046】
一般的には、電気伝導性層は、得られる反射防止性に寄与し、干渉コーティングの高屈折率層を形成する。このことは、ITOの層などの電気伝導性且つ高透明性の材料から作製される層の場合にあてはまる。
【0047】
電気伝導性層はまた、貴金属(Ag、Au、Ptなど)の非常に薄い層、典型的には1nm未満の厚さ、好ましくは0.5nm未満の厚さでありうる。
【0048】
層A以外の干渉コーティングの種々の層(任意選択の帯電防止層を含む)は、好ましくは、次の技術、すなわち、i)蒸発、任意選択でイオン支援蒸発、ii)イオンビームスパッタリング、iii)カソードスパッタリング、又はiv)プラズマ増強化学気相堆積の1つを用いて真空堆積により堆積される。これらの種々の技術は、書籍“Thin Film Processes”及び“Thin Film Processes II”,edited by Vossen and Kern,Academic Press,1978 and 1991にそれぞれ記載されている。真空蒸発技術がとくに推奨される。
【0049】
好ましくは、干渉コーティングの各層は、真空蒸発により堆積される。
【0050】
層Aは、好ましくは、屈折率≦1.55を有する本発明に従って規定される低屈折率層である。本発明のいくつかの実施形態では、層Aの屈折率は、好ましくは1.45以上、より好ましくは1.47以上、さらにより好ましくは1.48以上、理想的には1.49以上である。
【0051】
層Aは、構造中に、少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、少なくとも1個の炭素原子と、少なくとも1個の水素原子と、任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子とを含有するガス状の少なくとも1種の化合物Cに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られる。ただし、前記化合物Cは、テトラメチルジシロキサンでもテトラエトキシシランでもビニルメチルジエトキシシランでもヘキサメチルシクロトリシラザンでもない。
【0052】
好ましくは、化合物Cは、1,2,3,4,5,6−ヘキサメチルシクロトリシラザンでも2,2,4,4,6,6−ヘキサメチルシクロトリシラザンでもない。上述した基−NR12及び−N(R3)−Siの定義では、当然ながら、ヘキサメチルジシラザンなどの化合物は除外される。
【0053】
好ましくは、堆積は、被覆される基材に方向付けされたイオン銃を含む真空チャンバー内で行われ、イオン銃は、イオン銃内のプラズマ中に生成された正イオンのビームを前記基材に向けて放出する。好ましくは、イオン銃から放出されるイオンは、ガス原子から1個以上の電子が除去されて形成される粒子であり、ガスは、貴ガス、酸素、又はこれらのガスの2種以上の混合物である。
【0054】
前駆体化合物Cは、ガス状態で真空チャンバー内に好ましくはイオンビームの方向に導入され、イオン銃の作用下で活性化される。
【0055】
いかなる一理論にも限定されることを望むものではないが、イオン銃のプラズマは、被覆される基材に達することなく銃の前の特定の距離に位置するゾーン内に突出し、このゾーン内で、より一般的にはイオン銃近傍で、及びそれほどでもないがイオン銃内で、前駆体化合物Cの活性化/解離が優先的に行われると、本発明者らは考えている。
【0056】
「イオンビーム堆積」として参照されることもある、イオン銃とガス状前駆体とを用いるこの堆積技術は、特定的には、米国特許第5508368号明細書に記載されている。
【0057】
本発明によれば、イオン銃は、好ましくは、プラズマが発生されるチャンバー内の唯一の場所である。
【0058】
イオンは、所要により、イオン銃から出る前に中和されうる。この場合、衝撃は、依然としてイオン衝撃であると考えられる。イオン衝撃は、堆積される層中の原子再配列及びその緻密化を引き起こし、形成中にタンピングする。
【0059】
本発明に係るプロセスの実行時、処理される表面は、好ましくは、活性化表面で一般的には20〜1000μA/cm2、好ましくは30〜500μA/cm2、より好ましくは30〜200μA/cm2に含まれる電流密度で、且つ一般的にはおそらく6×10-5mbar〜2×10-4mbar、好ましくは8×10-5mbar〜2×10-4mbarの範囲内の真空チャンバー内の残留圧力下で、イオンにより衝撃される。好ましくは、アルゴン及び/又は酸素のイオンビームが使用される。アルゴンと酸素との混合物が使用される場合、Ar:O2モル比は、好ましくは≦1、より好ましくは≦0.75、さらにより好ましくは≦0.5である。この比は、イオン銃内のガス流量を調整することにより制御されうる。アルゴン流量は、好ましくは0〜30sccmの範囲内である。酸素O2流量は、好ましくは5〜30sccmの範囲内であり、且つ層Aの前駆体化合物の流量に比例して上昇する。
【0060】
好ましくは層Aの堆積時に使用されるイオン銃から放出されるイオンビームのイオンは、好ましくは75〜150eV、より好ましくは80〜140eV、さらにより好ましくは90〜110eVの範囲内のエネルギーを有する。形成される活性化種は、典型的には、ラジカル又はイオンである。
【0061】
本発明に係る技術は、形成される層Aをイオンビームにより衝撃することを含むという点で、プラズマを利用した堆積(たとえば、PECVD)とは異なる。ビームは、好ましくはイオン銃により放出される。
【0062】
堆積時のイオン衝撃に加えて、任意選択で層Aのイオンビーム下での堆積と同時に、プラズマ処理を行うことが可能である。層は、好ましくは、基材レベルでプラズマ支援なしに堆積される。
【0063】
前駆体化合物Cが酸素原子を含有しておらず(又は十分に含有しておらず)、且つ層Aが特定の割合の酸素を含有することが望まれる場合、前記層Aは、酸素源の存在下で堆積される。同様に、前駆体化合物Cが窒素原子を含有しておらず(又は十分に含有しておらず)、且つ層Aが特定の割合の窒素を含有することが望まれる場合、前記層Aは、窒素源の存在下で堆積される。
【0064】
層A以外に、干渉コーティングの他の層がイオンビーム下で堆積されうる。真空下で行われる層Aの前駆体材料の蒸発は、ジュール熱源を用いて達成されうる。
【0065】
層Aの前駆体材料は、構造中に、少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、少なくとも1個の炭素原子と、少なくとも1個の水素原子と、任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子とを含有する少なくとも1種の有機性化合物Cを含む。ただし、前記化合物Cは、テトラメチルジシロキサンでもテトラエトキシシランでもビニルメチルジエトキシシランでもヘキサメチルシクロトリシラザンでもない。
【0066】
化合物Cは、好ましくは、その構造中に少なくとも1個のSi−H基に含有する。すなわち、水素化ケイ素である。好ましくは、基Si−Xのケイ素原子は、アルキル基やアリール基などの2個超の非加水分解性基に結合されない。
【0067】
基Xのうち、アシルオキシ基は、式−O−C(O)R4(式中、R4は、1個以上の官能基で任意選択で置換された好ましくはC6〜C12のアリール基、又は1個以上の官能基で任意選択で置換された且つ1個以上の二重結合をさらに含みうる線状若しくは分岐状の好ましくはC1〜C6のアルキル基、たとえば、フェニル基、メチル基、又はエチル基である)を有し、アリールオキシ基及びアルコキシ基は、式−O−R5(式中、R5は、1個以上の官能基で任意選択で置換された好ましくはC6〜C12のアリール基、又は1個以上の官能基で任意選択で置換された且つ1個以上の二重結合をさらに含みうる線状若しくは分岐状の好ましくはC1〜C6のアルキル基、たとえば、フェニル基、メチル基、又はエチル基である)を有し、ハロゲンは、好ましくは、F、Cl、Br、又はIであり、式−NR12で示される基Xは、アミノ基NH2、又はアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、若しくはジアリールアミノ基を表しうるとともに、R1及びR2は、独立して、水素原子、1個以上の官能基で任意選択で置換された好ましくはC6〜C12のアリール基、又は1個以上の官能基で任意選択で置換された且つ1個以上の二重結合をさらに含みうる線状若しくは分岐状の好ましくはC1〜C6のアルキル基、たとえば、フェニル基、メチル基、又はエチル基を表し、而も式−N(R3)−Siで示される基Xは、その窒素原子を介してケイ素原子に結合され、且つそのケイ素原子は、当然ながら、3つの他の置換基を含み、R3は、1個以上の官能基で任意選択で置換された好ましくはC6〜C12のアリール基、又は1個以上の官能基で任意選択で置換された且つ1個以上の二重結合をさらに含みうる線状若しくは分岐状の好ましくはC1〜C6のアルキル基、たとえば、フェニル基、メチル基、又はエチル基を表す。
【0068】
好ましいアシルオキシ基は、アセトキシ基である。好ましいアリールオキシ基は、フェノキシ基である。好ましいハロゲンは、Clである。好ましいアルコキシ基は、メトキシ基及びエトキシ基である。
【0069】
好ましくは、化合物Cは、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子、好ましくは少なくとも1個の酸素原子を含有する。
【0070】
層A中の各化学元素(Si、O、C、H、N)の濃度は、ラザフォード後方散乱分光測定技術(RBS)及び弾性反跳検出分析(ERDA)を用いて決定されうる。
【0071】
層A中の炭素原子の原子パーセントは、好ましくは8〜25%、より好ましくは15〜25%の範囲内である。層A中の水素原子の原子パーセントは、好ましくは8〜40%、より好ましくは10〜20%の範囲内である。層A中のケイ素原子の原子パーセントは、好ましくは5〜30%、より好ましくは15〜25%の範囲内である。層A中の酸素原子の原子パーセントは、好ましくは20〜60%、より好ましくは35〜45%の範囲内である。
【0072】
層Aの前駆体化合物は、好ましくは、少なくとも1個の好ましくはC1〜C4のアルキル基を有する少なくとも1個のケイ素原子、より良好には、1個又は2個の同一又は異なる好ましくはC1〜C4のアルキル基を有する少なくとも1個のケイ素原子と、ケイ素原子に直接結合された基X(好ましくは水素原子)とを含有する。ただし、Xは、上述した意味を有する。好ましいアルキル基は、メチル基である。アルキル基の代わりに、ビニル基も使用しうる。好ましくは、化合物Cは、少なくとも1個のSi−C結合を含み、より良好には、基Si−Xのケイ素原子は、少なくとも1個の炭素原子に直接結合される。
【0073】
好ましくは、化合物Cの各ケイ素原子は、3個超の基Xに直接結合されず、より良好には、2個超の基X(好ましくは水素原子)に直接結合されず、より良好には、化合物Cの各ケイ素原子は、単一の基X(好ましくは水素原子)に直接結合される。好ましくは、化合物Cは、1に等しいSi/O原子比を有する。好ましくは、化合物Cは、<2、好ましくは≦1.8、より良好には≦1.6、さらにより良好には≦1.5又は≦1.3、最適には1に等しいC/Si原子比を有する。この場合も、好ましくは、化合物Cは、1に等しいC/O原子比を有する。一実施形態によれば、化合物Cは、Si−N基を含まず、より良好にはいかなる窒素原子も含まない。
【0074】
層Aの前駆体化合物の1個又は複数のケイ素原子は、Si−O−Si基又はSi−NH−Si基が形成されるように、好ましくは、アルキル基、水素、及び/又は−O−Si鎖若しくは−NH−Si鎖を含有する基のみに結合される。一実施形態では、化合物Cは、少なくとも1個のSi−O−Si−X基又は少なくとも1個のSi−NH−Si−X基を含有する。ただし、Xは、上述した意味を有し、好ましくは水素原子を表す。
【0075】
層Aの前駆体化合物は、好ましくはSi−O−Si基、より好ましくは式:
【化1】
で示される基を含有する。式中、R’1〜R’4は、独立して、好ましくは、C1〜C4ビニル基若しくはアルキル基(たとえばメチル基)、アリール基、又は基X(好ましくは水素原子)を表し、少なくともR’1〜R’4の1つは、基X(好ましくは水素原子)を表す。ただし、Xは、上述した意味を有する。
【0076】
好ましい一実施形態によれば、化合物Cは、式:
【化2】
で示される環状ポリシロキサンである。式中、Xは、上述した意味を有し、好ましくは水素原子を表し、nは、2〜20、好ましくは3〜8の範囲内の整数を表し、且つR1a及びR2aは、独立して、好ましくはC1〜C4のアルキル基(たとえばメチル基)又はビニル基又はアリール基又は加水分解性基を表す。R1a及びR2aの加水分解性基の例としては、クロロ基、ブロモ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、及びH基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この群に属する最も一般的なメンバーは、テトラ−、ペンタ−、及びヘキサ−アルキルシクロテトラシロキサン、好ましくは、テトラ−、ペンタ−、及びヘキサ−メチルシクロテトラシロキサンであり、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)が好ましい化合物である。特定の場合、層Aは、nが上述した範囲内で異なりうる特定数の化合物の混合物から得られる。
【0077】
他の実施形態によれば、化合物Cは、線状アルキルヒドロシロキサン、より良好には、線状メチルヒドロシロキサン、たとえば、1,1,1,3,5,7,7,7−オクタメチルテトラシロキサン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、又は1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサンである。
【0078】
次の化合物は、層Aの環状又は非環状の有機前駆体化合物の例であるが、これらに限定されるものではない。2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン(式(1)で示されるTMCTS)、2,4,6,8−テトラエチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8−テトラフェニルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8−テトラオクチルシクロテトラシロキサン、2,2,4,6,6,8−ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサン、シクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10−ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7−オクタメチルテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン(式(2)で示される)、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタメチルシクロテトラシラザン、ノナメチルトリシラザン、及びトリス(ジメチルシリル)アミン。
【化3】
【0079】
層Aの前駆体化合物は、好ましくは、本発明に係る物品が製造される真空チャンバー内にその流量を制御しながらガス状で導入される。言い換えれば、それは、好ましくは、真空チャンバー内で蒸発されない。層Aの前駆体化合物の供給は、イオン銃の出口から好ましくは30〜50cmの範囲内の離れた距離に位置決めされる。
【0080】
好ましくは、層Aは、フルオロ化合物を含有しない。本発明によれば、それは、無機(ミネラル)前駆体化合物から形成されず、特定的には、それは、金属酸化物の性質を有する前駆体から形成されない。したがって、それは、この場合、米国特許第6919134号明細書に記載の「ハイブリッド」層とはとくに異なる。好ましくは、層Aは、個別の金属酸化物相を含有しておらず、より好ましくはいかなる無機化合物も含有しない。本出願では、メタロイド酸化物は、金属酸化物であると考えられる。
【0081】
したがって、本発明に係る干渉コーティングの形成を可能にするプロセスは、有機化合物と無機化合物とが共蒸発されるプロセス、たとえば、米国特許第6919134号明細書に記載のプロセスよりもかなり単純であり、且つそれほど経費がかからない。実際には、共蒸発プロセスは、実行が非常に困難であり、再現性に問題があるため、制御が困難である。具体的には、堆積層に存在する有機化合物及び無機化合物のそれぞれの量は、操作によって大きく変化する。
【0082】
層Aは、真空堆積により形成されるので、シラン加水分解物をなんら含有しておらず、したがって、液体処理により得られるゾル−ゲルコーティングとは異なる。
【0083】
層Aは、好ましくは、20〜150nm、より好ましくは25〜120nmの範囲内の厚さを有する。干渉コーティングの外層を形成する場合、層Aは、好ましくは60〜100nmの範囲内の厚さを有する。
【0084】
本発明に係るスタック、たとえば、干渉コーティングを設計する場合、機械的応力は、考慮すべき他の性質である。層Aの応力は、ゼロ又は負である。後者の場合、層は、圧縮下にある。この圧縮応力は、好ましくは0〜−500MPa、より良好には−20〜−500MPa、さらにより良好には−50〜−500MPaの範囲内である。最適圧縮応力は、−150〜−400MPa、好ましくは−200〜−400MPaの範囲内である。それは、以下に記載されるように、20℃の温度で且つ50%の相対湿度下で測定される。この応力が達成されるようにすることが、本発明の堆積条件である。
【0085】
応力測定の原理は、薄い基材の変形の検出に基づく。基材のジオメトリー及び機械的性質、その変形、並びに堆積層の厚さは既知であるので、応力は、ストーニーの式を用いて計算されうる。応力σtotは、非常にわずかな凹部を有する基材の面上への本発明に係る単層又は完全干渉スタックの堆積の前後の(100)シリコン又はミネラルガラスで作製された実質的にフラットな研磨基材の曲率を測定することにより、次いで、ストーニーの式:
【数1】
(式中、
【数2】
は、基材の二軸弾性率であり、dsは、基材の厚さ(m)であり、dfは、膜の厚さ(m)であり、Esは、基材のヤング率(Pa)であり、νsは、基材のポアソン比である)、及び
【数3】
(式中、R1は、堆積前の基材の測定された曲率半径であり、R2は、堆積後の膜で被覆された基材の測定された曲率半径である)
を用いて応力値を計算することにより、得られる。曲率は、Tencor FLX 2900(Flexus)装置を利用して測定される。670nmの4ミリワット(mW)のパワーのクラスIIIaレーザーが測定に使用される。この装置により、内部応力を時間又は温度(900℃の最高温度)の関数として測定可能である。
【0086】
応力を計算するために次のパラメーターが使用される。Siの二軸弾性率:180GPa、Si基材の厚さ:300ミクロン、スキャン長さ:40mm、堆積膜の厚さ(エリプソメトリーにより測定):200〜500nm。測定は、空気下、室温で行われる。
【0087】
干渉コーティングの応力を決定するために、コーティングを所与の好適な基材上に堆積し、次いで、以上のように応力を測定する。本発明に係る干渉コーティングの応力は、一般的には0〜−400MPa、好ましくは−50〜−300MPa、より好ましくは−80〜−250MPa、さらにより好ましくは−100〜−200MPaの範囲内である。
【0088】
本発明に係る層Aは、無機層のものよりも大きい破断点伸びを有するので、亀裂を生じることなく変形を起こしうる。したがって、本発明に係る物品は、実験の節に示されるように、より大きい耐曲げ性を有する。
【0089】
本発明に係る被覆物品の限界温度は、好ましくは80℃以上、より良好には90℃以上、さらにより良好には100℃以上である。本出願では、物品又はコーティングの限界温度は、基材の表面上に存在するスタックに亀裂の出現が観測される温度として定義され、これは、コーティングの劣化をもたらす。この高い限界温度は、実験の節で実証されるように、物品の表面上の層Aの存在に起因する。本発明の一解釈に限定されることを望むものではないが、層Aを用いると、層の性質以外に、スタック全体の圧縮応力の増加が可能になるので、物品の限界温度が改良されると、本発明者らは考えている。
【0090】
任意選択で干渉コーティングの一部を形成する層Aは、その熱機械的性質が改良されるので、とくに半完成レンズの片面、一般的にはその前面に適用されうるとともに、このレンズの他の面は、依然として、機械加工及び処理が必要される。レンズの前面に存在するスタックは、後面に堆積されたコーティングが硬化された場合、後面が受ける処理による温度上昇によっても、レンズの温度を増加させるおそれのあるいかなる他の作用によっても、劣化しないであろう。
【0091】
好ましい一実施形態によれば、本発明に係る干渉コーティングは、任意選択で被覆された基材の表面上に、堆積順に、一般的には10〜40nmの厚さ、好ましくは15〜35nmの厚さのZrO2層、一般的には10〜40nmの厚さ、好ましくは15〜35nmの厚さのSiO2層、一般的には40〜150nmの厚さ、好ましくは50〜120nmの厚さのZrO2層又はTiO2層、及び一般的には1〜15nmの厚さ、好ましくは2〜10nmの厚さのITO層、並びに一般的には50〜150nmの厚さ、好ましくは60〜100nmの厚さの本発明に係る層Aを含む反射防止コーティングである。
【0092】
好ましくは、本発明に係る干渉コーティングで被覆された物品の可視領域(400〜700nm)の平均反射率(Rmで表される)は、1面あたり2.5%未満、好ましくは1面あたり2%未満、さらにより好ましくは物品の1面あたり1%未満である。最適な一実施形態では、物品は、基材を含み、その2つの主表面は、本発明に係る干渉コーティングで被覆され、且つ1%未満の全Rm値(2つの面に基づく累積反射)を有する。そのようなRm値を達成するための手段は、当業者に公知である。
【0093】
本発明に係る干渉コーティングの光反射率RVは、1面あたり2.5%未満、好ましくは1面あたり2%未満、より好ましくは物品の1面あたり1%未満、さらにより好ましくは≦0.75%、さらにより好ましくは≦0.5%である。
【0094】
本出願では、「平均反射率」Rm(400〜700nmの全可視スペクトルにわたる分光反射の平均)及び「光反射率」Rvは、規格ISO13666:1998に定義されるとおりであり、規格ISO8980−4に従って測定される。
【0095】
いくつかの用途では、基材の主表面は、層Aの堆積前の1つ以上の機能性コーティング又は外層を介して層Aを含む多層コーティングで被覆されることが好ましい。光学品で従来的には使用されるこれらの機能性コーティングは、最終製品中の続く層の耐衝撃性及び/若しくは接着性を改良するためのプライマー層、耐摩耗性及び/若しくは耐引掻き性コーティング、偏光コーティング、調光コーティング、又は着色コーティングでありうるとともに、特定的には、耐摩耗性及び/又は耐引掻き性層で被覆されたプライマー層でありうるが、これらに限定されるものではない。最後の2つのコーティングは、国際公開第2008/015364号パンフレット及び国際公開第2010/109154号パンフレットに、より詳細に記載されている。
【0096】
本発明に係る物品は、層A上に直接堆積された且つその表面性を調整可能な疎水性外側コーティングB、たとえば、疎水性及び/又は疎油性コーティングを含む(本出願では、トップコート又は防汚コーティングとも呼ばれる)。その厚さは、一般的には10nm以下、好ましくは1〜10nm、より良好には1〜5nmである。それは、国際公開第2009/047426号パンフレットに記載されている。疎水性外側コーティングBは、単層又は多層コーティングでありうるとともに、好ましくは単層コーティングである。コーティングBが複数の層を含む場合、層Aは、コーティングBの内層、すなわち、スタック順に基材に最も近いコーティングBの層に直接接触する。
【0097】
疎水性及び/又は疎油性コーティングは、脱イオン水との静的接触角が75°以上、好ましくは90°以上、より良好には100°以上のコーティングとして定義される。静的接触角は、2mm未満の直径を有する液体ドロップレットを固体非吸収性表面上に穏やかに堆積して、液体と固体表面との界面の角度を測定する液体ドロップレット法を用いて、決定されうる。
【0098】
好ましくは、疎水性及び/又は疎油性コーティングは、好ましくは少なくとも1種のフルオロ化合物、より良好には1個以上のフッ素化基、とくにフッ素化さらには過フッ素化炭化水素基を有するシラン及び/又はシラザンの性質の少なくとも1種の化合物(フルオロシラン又はフルオロシラザンという名称の化合物)を含む有機コーティングである。
【0099】
それは、好ましくは1分子あたり少なくとも2個の加水分解性基を含有するフルオロシラン前駆体又はフルオロシラザン前駆体の堆積により得られうる。フルオロシラン前駆体は、好ましくはフルオロポリエーテル基、より好ましくはペルフルオロポリエーテル基を含有する。これらのフルオロシランは、周知であり、とくに、米国特許第5,081,192号明細書、米国特許第5,763,061号明細書、米国特許第6,183,872号明細書、米国特許第5,739,639号明細書、米国特許第5,922,787号明細書、米国特許第6,337,235号明細書、米国特許第6,277,485号明細書、及び欧州特許第0933377号明細書に記載されている。そのような化合物は、表面に堆積された場合、直接又は加水分解後に重合反応及び/又は架橋反応を起こしうる。
【0100】
外側の疎水性及び/又は疎油性コーティングは、好ましくは、14mJ/m2以下、より好ましくは13mJ/m2以下、さらにより好ましくは12mL/m2以下の表面エネルギーを有する。表面エネルギーは、論文:“Estimation of the surface force energy of polymers”Owens D.K.,Wendt R.G.(1969),J.Appl.Polym.Sci.,13,1741−1747に記載のオーエンズ・ウェント法を用いて計算される。
【0101】
そのような防汚コーティングを得るために使用しうる化合物は、特開2005−187936号公報及び米国特許第6183872号明細書に記載されている。
【0102】
疎水性及び/又は疎油性コーティングの作製を可能にする市販の組成物としては、信越化学工業株式会社により販売されているKY130(登録商標)(特開2005−187936号公報の式に関連する)及びKP801M(登録商標)、並びにダイキン工業株式会社により販売されている組成物オプツールDSX(登録商標)(米国特許第6,183,872号明細書の式に関連するペルフルオロプロピレン基を含むフッ素化樹脂)が挙げられる。組成物オプツールDSX(登録商標)は、好ましい防汚コーティング組成物である。
【0103】
典型的には、本発明に係る物品は、接着性及び/又は耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び/又は耐引掻き性コーティング、外層を介して層Aを含有する本発明に係る任意選択で帯電防止性の干渉コーティング、並びに疎水性及び/又は疎油性コーティングで逐次被覆された基材を含む。
【0104】
OMCTS、ヘキサメチルジシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの前駆体化合物ではなく本発明に係る前駆体化合物Cを特定的に使用することにより、有機層Aが疎水性外側コーティングBに直接接触しても、満足な性能を有する疎水性外側コーティングBを得ることが可能であることを、本発明者らは観測した。
【0105】
一理論に拘束されることを望むものではないが、Si−X結合は、Si−C結合ほど安定でなく、とくに、周囲空気中に存在する酸素及び水の存在下で酸化及び加水分解をより受けやすいので、前駆体化合物C中のSi−X結合(Xは上述した意味を有する)の存在は、この結果を得るうえできわめて重要であると、本発明者らは考えている。前駆体Cの分子構造の少なくとも一部は、この前駆体を堆積するように特定のプロセスが実行されるので、層Aを堆積するプロセス時に完全に保持されると推定される。したがって、層A中に、特定的には堆積層の表面に、前駆体分子の成分構造が見いだされるであろう。
【0106】
この仮説によれば、本発明に係る前駆体(C)から得られた層Aは、その表面上に特定の割合のダングリング反応性Si−X結合を含むであろう。Si−X結合は、周囲空気及び湿分に暴露されると、上層(一般的には防汚コーティング)に分子を結合するのに有利な反応性Si−OH部位を形成できるであろう。これとは対照的に、同一の条件下でOMCTS、ヘキサメチルジシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの前駆体から形成された有機層は、ダングリングSi−アルキル結合のみを有する。これらの基は、疎水性且つ安定であるので、それらの存在は、後続のコーティングの前駆体分子をグラフトするのに必要な縮合反応及び加水分解反応をアプリオリに促進しない。
【0107】
OMCTS、ヘキサメチルジシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの前駆体と対比される本発明に係る前駆体化合物Cの他の利点は、広範にわたる堆積条件で化粧欠陥のないスタックが得られることであり、化粧欠陥をより発生しやすいスタックでさえも、この有利な効果が得られる。
【0108】
さらに、干渉スタックの場合、層Aがこのスタックの外層であるという事実は、とくに有利である。なぜなら、これにより、耐引掻き性及び耐摩耗性を増加させることが可能であるので、干渉コーティングに亀裂を発生しやすい引掻き傷の数がとりわけ減少するからである。
【0109】
本発明はまた、少なくとも以下の工程、すなわち、
・ 少なくとも1つの主表面を有する基材を含む物品を提供する工程と、
・ 基材の前記主表面に層Aを堆積する工程と、
・ 疎水性外側コーティングBを前記層A上に直接堆積する工程と、
・ 疎水性外側コーティングBに直接接触する前記層Aで被覆された主表面を有する基材を含む物品を取得する工程と、
を含む、以上に定義されるような物品の製造プロセスに関する。ただし、前記層Aは、構造中に、少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、少なくとも1個の炭素原子と、少なくとも1個の水素原子と、任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子とを含有するガス状の少なくとも1種の化合物Cに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られたものであり、前記層Aは、無機前駆体化合物から形成されない。
【0110】
以下の実施例により本発明を例示するが、これらに限定されるものではない。とくに指定がないかぎり、屈折率は、630nmの波長及びT=20〜25℃で与えられる。
【実施例】
【0111】
1.一般的手順
実施例で利用した物品は、国際公開第2010/109154号パンフレットの実験の節に開示された耐衝撃性プライマーコーティング並びに耐引掻き性及び耐摩耗性コーティング(硬質コート)、国際公開第2010/109154号パンフレットの実験の節に開示された反射防止コーティング及び防汚コーティングが凹面上に被覆された、−2.00ディオプターの度数及び1.2mmの厚さを有する直径65mmのORMA(登録商標)ESSILORレンズ基材を含んでいた(三井東圧化学株式会社製の1.59の屈折率のMR8チオウレタン基材上で行われた以外はすべて同じである化粧欠陥の存在を評価する試験を除く)。
【0112】
任意選択で、指定された場合、酸素イオン及び場合によりアルゴンイオン(蒸発源:電子銃)のビームにより堆積時に支援された、真空蒸発により、基材を加熱することなく、反射防止コーティング層を堆積した。
【0113】
真空堆積反応器は、前駆体材料蒸発用の電子銃と、熱蒸発器と、層A又は他の層のアルゴンイオン衝撃及びイオン支援堆積(IAD)による基材の表面の作製(IPC)の予備段階で使用するためのKRI EH 1000 Fイオン銃(Kaufman & Robinson Inc.製)と、層Aの前駆体化合物が標準温度及び標準圧力の条件下で液体であった場合(TMCTSの場合)に使用したシステムである、液体を導入するためのシステムとを備えたLeybold LAB 1100+機であった。このシステムは、層Aの液体前駆体化合物を含有する貯蔵槽と、貯蔵槽を加熱するための抵抗ヒーターと、液体前駆体の貯蔵槽を真空堆積機に接続するチューブと、MKS製の蒸気流量計(MKS1150C)とを含み、好ましくは10〜50sccmで変化させる蒸発前駆体の流量に依存して、その使用時に30〜150℃の温度に上昇させた。前駆体蒸気は、イオン銃から約30cmの距離で機械内のチューブから出た。酸素及び任意選択でアルゴンのフローをイオン銃内に導入した。好ましくは、アルゴンも任意の他の貴ガスもイオン銃内に導入しない。
【0114】
イオン衝撃下でTMCTS化合物を蒸発させることにより、本発明に係る層Aを形成した。
【0115】
石英微量天秤を利用して堆積層の厚さをリアルタイムに制御した。とくに指定がないかぎり、挙げられた厚さは、物理的厚さである。各眼鏡レンズのいくつかのサンプルを作製した。
【0116】
2.操作モード
本発明に係る光学物品の製造に使用した方法は、以上に定義されたプライマーコーティング及び耐摩耗性コーティングで被覆された基材を真空堆積チャンバー内に導入する工程と、気化器、チューブ、及び蒸気流量計を所定の温度に予備加熱する工程(約20分間)と、一次ポンプ操作工程と、次いで、400秒間持続して二次真空(約2×10-5mbar、ベアード・アルパートゲージにより読み取られた圧力)を達成する二次ポンプ操作工程と、アルゴンイオンビームで基材の表面を活性化する工程(IPC:1分間、100V、1A、この工程の終了時にイオン銃を停止させる)と、次いで、各層で所望の厚さが得られるまで電子銃を用いて、以下の無機層、すなわち、
・ 20nmの厚さのZrO2層、
・ 25nmの厚さのSiO2層、
・ 80nmの厚さのZrO2層、及び
・ 酸素イオン支援により堆積された6nmの厚さの電気伝導性ITO層
を蒸発させることにより堆積する工程と、
を含んでいた。
【0117】
次いで、以下のように層AをITO層上に堆積した。
【0118】
次いで、イオン銃をアルゴンで開始し、設定流量(20sccm)で酸素をイオン銃に添加し、アルゴンのフローを停止し、所望のアノード電流(3A)を入力し、TMCTS化合物をチャンバー内に導入した(流量を20sccmに設定)。(堆積条件(流量)の概要:TMCTS:20sccm、Ar:0sccm、及びO2:20sccm、電流3A)。
【0119】
一般的には、本発明に係るプロセスは、イオン銃内に導入される貴ガスの不在下でイオン銃内の酸素(O2)を用いて行われる。
【0120】
所望の厚さが得られたら、TMCTS化合物の供給を停止し、次いで、イオン銃を停止した。
【0121】
実施例1では、反射防止コーティングの外層を形成する85nmの厚さの層A上に、ダイキン工業株式会社製の約5nmのオプツールDSX(商標)系防汚コーティング層(トップコート)を直接堆積した。
【0122】
最後に、ベント工程を行った。
【0123】
比較例1は、層Aを同一厚さ(85nm)のシリカ層と置き換えたという点で、本発明に係るスタックとは異なる。
【0124】
比較例2は、ABCR社により提供された化合物OMCTS(Si−加水分解性基結合を有していないオクタメチルシクロテトラシロキサン)を化合物TMCTSの代わりにイオン衝撃下で蒸発させることにより、同一条件下で得られた同一厚さ(85nm)の層と層Aを置き換えたという点で、本発明に係るスタックとは異なる。比較例2の物品は、特許出願第PCT/FR12053092号明細書の主題を形成するものに従う。
【0125】
3.キャラクタリゼーション
国際公開第2008/001011号パンフレットに記載の方法(規格ASTM F 735.81)を用いて、反射防止コーティング及び防汚コーティングで被覆された基材で、Bayer ASTM(Bayerサンド)値を決定することにより、耐摩耗性を評価した。Bayer試験で得られた値が高いほど、耐摩耗性が高い。したがって、Bayer ASTM(Bayerサンド)値は、3.4以上且つ4.5未満で良好、4.5以上の値で優秀と見なされた。
【0126】
この物品の作製の24時間後、国際公開第2008/001011号パンフレットに示されるように、物品の限界温度を測定した。
【0127】
耐曲げ性試験により、曲率を有する物品が機械的変形を受ける許容量を評価することが可能であった。50×25mmのサイズの矩形形状にトリミングされた初期は球面のレンズで、この試験を行った。この試験で加えられる力は、眼鏡店でレンズを取り付ける時、すなわち、レンズを金属フレームに挿入するために「圧縮」する時に加えられる力に相当する。この試験では、眼鏡レンズを制御可能に変形させるInstron機、眼鏡レンズに照射する発光ダイオード(LED)、ビデオカメラ、及び画像解析ソフトウェアパッケージを使用した。Instron機を用いて、移動方向に垂直に反射防止コーティングに亀裂が出現するまで、トリミングされた眼鏡レンズの主要長さの軸に沿って作用する力を加えることにより、被覆された眼鏡レンズを圧縮し、透過方式の画像解析により亀裂を検出した。試験の結果は、亀裂が出現する前に眼鏡レンズが受けうるmm単位の限界変形Dであった(図1参照)。眼鏡レンズの作製の1ヶ月後、この試験を行った。変形の値が高いほど、加えられた機械的変形に対する耐性が良好である。
【0128】
一般的には、本発明に係る干渉コーティングは、0.7〜1.2mm、好ましくは0.8〜1.2mm、より好ましくは0.9〜1.2mmの範囲内の限界変形値を有する。
【0129】
40℃、相対湿度80%、大気圧に調整された「環境」チャンバー内の熱帯条件下で、設定期間(t0+1週間又はt0+1ヶ月間、参照期間t0は物品の作製の1日後に対応する)にわたり物品を貯蔵した後、光学物品(本発明に係る物品又は比較の物品)の化粧欠陥の存在可能性をアークランプ(高強度ランプ)下で目視評価した。「大気圧」という表現は、1.01325barの圧力を意味するものと理解される。これらの貯蔵条件により、光学物品の早期老化及び化粧欠陥の出現可能性の加速が可能であった。アークランプ下で目に見える欠陥は、スポット又は小さいフィラメントの形態をとった。これらは、局所的な光学欠陥であった。最も顕著なものはグレージング角の反射により肉眼で目視可能であったが、その観測は、アークランプの使用により容易になった。
【0130】
接着試験により、コーティングの接着性を評価することが可能であった。それは、物品を温水に浸漬してからその表面に機械的応力を加えることに依拠するものであった。得られた結果が高いほど、接着性が良好である。
【0131】
インク試験により、防汚コーティングの性能を評価することが可能であった。この試験は、寺西化学工業株式会社製のNo.500「マジックインク」フェルトチップで線を引いてから、眼鏡レンズ上に残存する痕跡を評価することに依拠するものであった。インクが迅速に小ドロップレットに収縮した場合(<3秒)、結果は、「合格」であると考えられた。痕跡が連続するか又は連続区間を含む場合、結果は、「不合格」であると考えられた。
【0132】
4.結果
以下の表は、実施例及び比較例のそれぞれについて、作製された物品の試験結果を示している。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
本発明に係る物品は、比較例1と対比して、より良好な限界温度を有し、且つ亀裂出現前の曲げ可能性の有意な改良を呈する。これらの改良は、反射防止スタック中の層Aの存在に直接帰属可能である。熱機械的応力に関する製品の挙動で改良を得るために、反射防止コーティングのすべての層を層Aのように有機性の層にする必要がないことは、注目に値しよう。
【0136】
本発明に係る物品は、良好な機械的性質を維持しつつ、インク試験により明らかにされたように、比較例2よりも高い性能を有する防汚コーティングを有し、且つシリカ層上に堆積された防汚コーティング(比較例1)に等しい性能を有する。OMCTSのようにSi−加水分解性基結合を有していないヘキサメチルジシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの他の前駆体を使用すると、本発明に係る層Aを用いて得られたものよりも劣った防汚コーティング性能を生じることは、注目に値しよう。さらに、本発明に係る物品は、制限された経時的化粧欠陥発生傾向を有するが、比較例2の物品は、その作製後、比較的短い期間でそのような欠陥を呈する。
以下に、本発明に関連する発明の実施形態について例示する。
[実施形態1]
疎水性外側コーティングBに直接接触する層Aで被覆された少なくとも1つの主表面を有する基材を含む物品であって、前記層Aが、構造中に、
少なくとも1個の炭素原子と、
少なくとも1個の水素原子と、
少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、
任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子と、
を含有するガス状の少なくとも1種の化合物Cに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られ、
前記化合物Cが、テトラメチルジシロキサンでもテトラエトキシシランでもビニルメチルジエトキシシランでもヘキサメチルシクロトリシラザンでもなく、且つ前記層Aが、無機前駆体化合物から形成されないことを特徴とする物品。
[実施形態2]
前記イオンビームがイオン銃により放出されることを特徴とする、実施形態1に記載の物品。
[実施形態3]
前記化合物Cが少なくとも1個のSi−C結合を含有することを特徴とする、実施形態1〜2のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態4]
前記基Si−Xのケイ素原子が少なくとも1個の炭素原子、好ましくは少なくとも1個のアルキル基に直接結合されることを特徴とする、実施形態1〜3のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態5]
前記化合物Cが、式:
【化4】
(式中、R’1〜R’4は、独立して、アルキル基、ビニル基、若しくはアリール基、又は基Xを表し、少なくともR’1〜R’4の1つは、基Xを表し、Xは、実施形態1で定義されたとおりである)
で示される少なくとも1個の基を含有することを特徴とする、実施形態1〜4のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態6]
前記化合物Cが、式:
【化5】
(式中、Xは、実施形態1で定義されたとおりであり、nは、2〜20の範囲内の整数を表し、且つR1a及びR2aは、独立して、アルキル基、ビニル基、若しくはアリール基、又は加水分解性基を表す)
で示される化合物であることを特徴とする、実施形態1〜4のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態7]
前記層Aが20〜150nmの範囲内の厚さを有することを特徴とする、実施形態1〜6のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態8]
前記基Si−XがSi−H基であることを特徴とする、実施形態1〜7のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態9]
前記層Aが1.55以下の屈折率を有することを特徴とする、実施形態1〜8のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態10]
前記層Aが多層干渉コーティングの外層であることを特徴とする、実施形態9に記載の物品。
[実施形態11]
前記干渉コーティングが反射防止コーティングであることを特徴とする、実施形態10に記載の物品。
[実施形態12]
前記干渉コーティングが、1.55以下の屈折率を有する低屈折率層を含有し、且つ前記層A以外のすべてのこれらの低屈折率層が、無機性であることを特徴とする、実施形態10〜11のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態13]
前記層A以外の前記干渉コーティングのすべて層が無機性であることを特徴とする、実施形態10〜12のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態14]
前記基Si−Xのケイ素原子が2個超の非加水分解性基に結合されないことを特徴とする、実施形態1〜13のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態15]
光学レンズ、好ましくは眼用レンズであることを特徴とする、実施形態1〜14のいずれか一項に記載の物品。
[実施形態16]
少なくとも以下の工程、すなわち、
少なくとも1つの主表面を有する基材を含む物品を提供する工程と、
前記基材の前記主表面に層Aを堆積する工程と、
疎水性外側コーティングBを前記層A上に直接堆積する工程と、
前記疎水性外側コーティングBに直接接触する前記層Aで被覆された主表面を有する基材を含む物品を取得する工程と、
を含み、前記層Aが、構造中に、
少なくとも1個の炭素原子と、
少なくとも1個の水素原子と、
少なくとも1個のSi−X基(式中、Xは、ヒドロキシ基であるか、又は次の基、すなわち、H、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、−NR12(ここで、R1及びR2は、独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す)、及び−N(R3)−Si(ここで、R3は、アルキル基又はアリール基を表す)から選択される加水分解性基である)と、
任意選択で、少なくとも1個の窒素原子及び/又は少なくとも1個の酸素原子と、
を含有するガス状の少なくとも1種の化合物Cに由来する活性化種をイオンビーム下で堆積することにより得られたものであり、
前記化合物Cが、テトラメチルジシロキサンでもテトラエトキシシランでもビニルメチルジエトキシシランでもヘキサメチルシクロトリシラザンでもなく、且つ前記層Aが、無機前駆体化合物から形成されないことを特徴とする、実施形態1〜15のいずれか一項に記載の物品の製造プロセス。
図1