特許第6751025号(P6751025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6751025慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断方法、キット及びバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751025
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断方法、キット及びバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20200824BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20200824BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20200824BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20200824BHJP
【FI】
   G01N33/53 NZNA
   G01N33/49 K
   !C07K16/18
   !C12Q1/02
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-570686(P2016-570686)
(86)(22)【出願日】2016年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2016051606
(87)【国際公開番号】WO2016117618
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2018年12月7日
(31)【優先権主張番号】62/105,313
(32)【優先日】2015年1月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉良 潤一
(72)【発明者】
【氏名】河村 信利
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 亮
(72)【発明者】
【氏名】松瀬 大
(72)【発明者】
【氏名】緒方 英紀
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 Judy King Man NG, et al.,Neurofascin as a target for autoantibodies in peripheral neuropathies,Neurology,米国,American Academy of Neurology,2012年12月 4日,Vol.79/No.23,pp.2241-2248
【文献】 Ryo YAMASAKI,Anti-neurofascin antibody in combined central and peripheral demyelination,Clinical and Experimental Neuroimmunology,日本,Japanese Society for Neuroimmunology,2013年11月28日,Vol.4/Suppl.1,pp.68-75
【文献】 Luis QUEROL et al.,Neurofascin IgG4 antibodies in CIDP associate with disabling tremor and poor response to IVIg,Neurology,米国,American Academy of Neurology,2014年 3月11日,Vol.82/No.10,pp.879-886
【文献】 Nobutoshi KAWAMURA et al.,Anti-neurofascin antibody in patients with combined central and peripheral demyelination,Neurology,米国,American Academy of Neurology,2013年 8月20日,Vol.81/No.8,pp.714-722
【文献】 Francesca NOTTURNO et al.,Autoantibodies to neurofascin-186 and gliomedin in multifocal motor neuropathy,Journal of Neuroimmunology,Elsevier B.V.,2014年11月15日,Vol.276/Issues1-2,pp.207-212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中に含まれる、IgG4が主体である抗ニューロファシン155抗体を測定し、抗ニューロファシン155抗体陽性又は陰性を判定する工程を含み、
抗ニューロファシン155抗体陽性の場合に、抗ニューロファシン155抗体陰性の場合と比較して、末梢神経遠位部及び神経根における神経伝導速度が低く、近位末梢神経及び神経根の肥厚が大きく、かつ髄液蛋白値が高いと判定する、
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断を補助する方法。
【請求項2】
検体中に含まれる抗ニューロファシン186抗体を測定する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ニューロファシン155とは反応するが、ニューロファシン186とは反応しない抗体を検出する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ニューロファシン155を強制発現させた細胞及びニューロファシン186を強制発現させた細胞と、検体とを接触させ、抗ニューロファシン155抗体及び/又は抗ニューロファシン186抗体の存在を、蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を用いて測定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
フローサイトメトリー法により行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ギランバレー症候群又は多発性硬化症と、慢性炎症性脱髄性多発神経炎とを識別する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
検体が血液または髄液である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ニューロファシン155を強制発現させた細胞株を含み、抗ニューロファシン155抗体陽性又は陰性を判定するための慢性炎症性脱髄性多発神経炎診断用キットであって、
抗ニューロファシン155抗体陽性の場合に、抗ニューロファシン155抗体陰性の場合と比較して、末梢神経遠位部及び神経根における神経伝導速度が低く、近位末梢神経及び神経根の肥厚が大きく、かつ髄液蛋白値が高いと診断するための、
慢性炎症性脱髄性多発神経炎診断用キット。
【請求項9】
ニューロファシン186を強制発現させた細胞株を更に含む、請求項に記載のキット。
【請求項10】
蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を更に含む、請求項又はに記載のキット。
【請求項11】
IgG4が主体である抗ニューロファシン155抗体からなり、抗ニューロファシン155抗体陽性又は陰性を判定することにより慢性炎症性脱髄性多発神経炎を診断するためのバイオマーカーであって、
抗ニューロファシン155抗体陽性の場合に、抗ニューロファシン155抗体陰性の場合と比較して、末梢神経遠位部及び神経根における神経伝導速度が低く、近位末梢神経及び神経根の肥厚が大きく、かつ髄液蛋白値が高いと診断するための、
バイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎を特異的に診断するための診断方法、その診断に使用するためのキット及びバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:以下CIDPともいう)は2ヶ月以上にわたる慢性進行性あるいは階段性、再発性の左右対称性の四肢の遠位、近位筋の筋力低下及び感覚障害を主徴とする末梢神経疾患である。CIDPの病因は末梢神経ミエリンの構成成分に対する免疫異常により生ずる自己免疫性疾患と考えられているが、詳細は不明である。
【0003】
現在のところ、CIDPの診断としては、2010年に改訂された欧州神経学連合・国際末梢神経学会(European Federation of Neurological Societies Peripheral Nerve Society:EFNSPNS)により提唱されたガイドラインが用いられることが多く、臨床症状、電気生理学的基準、その他、髄液所見やMRIでの神経根肥厚などを総合して行われている。
【0004】
一方、CIDP疾患特異的なバイオマーカーは、現在まで報告されていない。なお、ミエリン関連糖タンパク質(myelin−associated glycoprotein(MAG))に対する自己抗体陽性のニューロパチーは、独立した疾患とされており、CIDPからは除外されている。
【0005】
CIDPは、その経過、治療反応性及び予後が症例により異なることから、様々な病態を含む症候群であることが想定されており、それぞれの病態に応じた治療法を確立することが喫緊の課題である。
【0006】
本発明者らはこれまでに、中枢神経系、末梢神経系のいずれの脱髄をもきたす稀な疾患である中枢・末梢連合脱髄症(combined central and peripheral demyelination:CCPD)症例の血清が、抗ニューロファシン155(NF155)抗体陽性であることを見出している(非特許文献1)。また、CIDPのごく一部(約4%)において抗NF155抗体が陽性になることも報告されている(非特許文献2及び非特許文献3)。
【0007】
しかしながら上記の報告は少数例の検討に過ぎず、抗体陽性CIDPと抗体陰性CIDPとの比較もされていない。このため、CIDPの中で特異な亜型が陽性になるのか否か、及び臨床像との関連は不明であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Neurology.2013 Aug 20;81(8):714−22
【非特許文献2】Neurology.2012 Dec 4;79(23):2241−8
【非特許文献3】Neurology.2014 Mar 11;82(10):879−86
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、従来のCIDPの診断は、2010年に改訂された欧州神経学連合・国際末梢神経学会(European Federation of Neurological Societies Peripheral Nerve Society:EFNSPNS)により提唱されたガイドラインを用いて行われることが多かった。
【0010】
また、CIDPの診断は、臨床症状、電気生理学的基準、その他、髄液所見やMRIでの神経根肥厚などを総合して行われており、CIDPに対して特異性の高いバイオマーカーはまだ報告されていない。また、CIDPは様々な病態を含む症候群であると想定されており、それぞれの病態に対応したバイオマーカー及び治療法を確立することが喫緊の課題となっている。
【0011】
また、末梢神経を急性に侵すギランバレー症候群(以下GBSともいう)は、初回発作時はCIDPとの鑑別は困難であり、また、両者は治療法も異なる。そのため、両者を鑑別するバイオマーカーが必要とされているが、そのようなバイオマーカーはこれまでに報告がない。
【0012】
さらに、CCPDが中枢神経病変で発症した場合、中枢神経のみを侵す脱髄性疾患である多発性硬化症(multiple sclerosis:以下MSともいう)との鑑別が困難であった。MSの治療ではインターフェロンベータ(IFNβ)製剤が有効であるが、CCPDにおいては、IFNβ製剤は無効であるばかりか、30%程度の症例において症状を憎悪させてしまう。そのため、両者を鑑別するためのバイオマーカーが必要とされている。
【0013】
以上のことから、CIDPの診断する方法を開発することは極めて重要であるが、これまでに、CIDPを精度よく診断する方法は確立されていない。また、そのような方法に使用するためのバイオマーカーについても従来報告はなく、このようなNF155と特異的に結合する抗体の存在の有無を決定することは、CIDPを診断する上で重要である。したがって、本発明は、CIDPを診断する方法、特にCIDPの中から特定の病態生理を有する一群を特異的に診断するための診断方法、その診断に使用するためのキット及びバイオマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、一部のCIDP患者の検体中にNF155と反応する抗体が存在することを見出し、当該NF155と反応する抗体を測定することにより、CIDPと診断できること見出した。すなわち、NF155と反応する抗体を測定することにより、様々な病態を含むCIDPについて、それぞれの病態に対応した治療法を確立することが可能となりうることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(15)に関する。
(1)検体中に含まれる抗ニューロファシン155抗体を測定する工程を含む、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断方法。
(2)検体中に含まれる抗ニューロファシン186抗体を測定する工程を更に含む、(1)に記載の診断方法。
(3)ニューロファシン155とは反応するが、ニューロファシン186とは反応しない抗体を検出する工程を含む、(2)に記載の診断方法。
(4)ニューロファシン155を強制発現させた細胞及びニューロファシン186を強制発現させた細胞と、検体とを接触させ、抗ニューロファシン155抗体及び/又は抗ニューロファシン186抗体の存在を、蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を用いて測定する、(1)〜(3)のいずれか1に記載の診断方法。
(5)フローサイトメトリー法により行う、(4)に記載の診断方法。
(6)ギランバレー症候群又は多発性硬化症と、慢性炎症性脱髄性多発神経炎とを識別する、(1)〜(5)のいずれか1に記載の診断方法。
(7)検体が血液または髄液である、(1)〜(6)のいずれか1に記載の診断方法。
(8)検体中の抗ニューロファシン155抗体及び/又は抗ニューロファシン186抗体を測定する方法であって、ニューロファシン155を強制発現させた細胞及びニューロファシン186を強制発現させた細胞と、検体とを接触させた後、蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を用いて、抗ニューロファシン155抗体及び抗ニューロファシン186抗体を測定する方法。
(9)フローサイトメトリー法により行う、(8)に記載の方法。
(10)抗ニューロファシン155抗体が存在するが、抗ニューロファシン186抗体が存在しない検体を選択することを含む、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)検体が血液または髄液である、(8)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)ニューロファシン155を強制発現させた細胞株を含む、慢性炎症性脱髄性多発神経炎診断用キット。
(13)ニューロファシン186を強制発現させた細胞株を更に含む(12)に記載のキット。
(14)蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を更に含む、(12)又は(13)に記載のキット。
(15)抗ニューロファシン155抗体からなる、慢性炎症性脱髄性多発神経炎を診断するためのバイオマーカー。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検体中の抗NF155抗体を検出することによって、CIDPの診断が可能となる。特に、本発明によれば、炎症性脱髄性疾患症例の検体中の抗NF155抗体及び抗NF186抗体を測定し、NF155とのみ反応する陽性例を抽出することにより、同一な病態生理を有する患者群を抽出することが可能となる。そして、様々な病態を有する疾患群であったCIDPでは各症例において治療効果も様々であったが、抗NF155抗体を有する症例を選別することにより、より適切な治療法を提供することができるようになる。
【0017】
また、本発明により、GBS及びCIDPとの識別や、MS及びCCPDとの識別も可能である。
【0018】
そして、検体(例えば血清・髄液)中の抗NF155特異抗体を測定することにより診断や治療効果判定の指標となる。抗NF155抗体の意義が世界的に認知されれば、抗MAG抗体陽性ニューロパチーと同様、抗NF155抗体陽性ニューロパチーがCIDPから独立した疾患概念として確立される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1Aはフローサイトメトリー法による、抗NF155抗体測定の結果を示す図である。図1Bは、抗NF155抗体陽性のCIDP患者の血清の希釈率とデルタMFI値の関係(上)及び抗NF155抗体陽性のCIDP患者の血清の希釈率とMFI比率の関係(下)を示す図である。図1Bにおいて、血清の希釈率は1:20、1:100、1:200、1:400、1:800、1:1600、1:3200、1:6400、1:12800である。
図2図2A及び図2Bは、抗NF155抗体陽性又は陰性のCIDP患者の血清を、ヒトNF155またはヒトNF186を発現する細胞と反応させたときの免疫組織学的結果である。各図中、左図はTurbo-GFPを描出した図、中央図は患者血清由来のIgGに結合した蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を描出した図、右図は両者を重ね合わせた図を示す。
図3図3は、患者の血清中に含まれる抗ヒトNF155抗体のIgGサブクラス示す図である。
図4図4A図4Dは、各症例について、抗NF155抗体および抗NF186抗体の検出を行った結果を示す図である。
図5図5Aは、7例の抗NF155抗体陽性患者の頚部MRIを示す図であり、図5Bは7例の抗NF155抗体陽性患者の腰仙骨部神経根MRIを示す図である。図5A及び図5Bにおいて、左端は正常コントロールである。
図6図6A図6Cは、抗NF155抗体陽性患者の脳MRIを示す図である。図6A図6Bは大脳水平断で脱髄病巣を示し、図6Cは大脳矢状断の図で図6Aの病巣を示している。
図7図7は、CIDPにおける抗ヒトNF155特異抗体の位置づけを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)]
本発明は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)を診断する方法を提供する。本発明で診断できるCIDPとは、上述したように様々な病態を含む症候群であり、典型的CIDPと、非典型的CIDPに大きく分けられる。典型的CIDPは、2カ月以上進行する対称性の運動感覚障害を呈し、近位筋と遠位筋が同時に侵され、腱反射は四肢で低下・消失する。脳神経が障害されることがある。非典型的CIDPとしては、DADS、MADSAM、focal type、pure sensory type、pure Motor type等が挙げられる。
【0021】
本発明の診断方法によれば、このような数ある不均一な疾患が混在したCIDP症例から、均一な、あるいは関連する病態生理を有する疾患を抽出することができる。これにより、より適切な治療法を提供することができるようになる。
[診断対象]
本発明の診断方法において、診断対象はヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、又はマウスなど、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)に罹患し得る任意の動物とする。以下、ヒトを対象として説明するが、他の動物においても同様である。
【0022】
なお、以下の説明において、ニューロファシン155(NF155)、ニューロファシン186(NF186)という場合には、ヒトNF155、ヒトNF186を意味し、抗NF155抗体、抗NF186抗体という場合には、ヒトNF155、ヒトNF186と結合する抗体を意味する。
【0023】
[ニューロファシンNF155(NF155)]
ニューロファシンNF155(NF155)はパラノード(paranode)の髄鞘側に局在する、155kDaの分子量のタンパク質である。末梢神経系においてはシュワン細胞、中枢神経系においてはオリゴデンドロサイトの細胞膜突起が幾重にもループのように軸索を取り巻くことで髄鞘が形成され、その部分が絶縁体の構造をとることで神経軸索における電気的信号の跳躍伝導に寄与している。軸索と髄鞘の接着部分はパラノード(paranode)、傍パラノード(juxtaparanode)、インターノード(internode)に分けられる。
【0024】
[ニューロファシンNF186(NF186)]
ニューロファシンNF186(NF186)は、絞輪部に集積している186kDaの分子量のタンパク質である。隣り合う髄鞘の間は絞輪部(ノード:node)と呼ばれる。
【0025】
それぞれのアミノ酸配列を配列番号1(NF155)及び配列番号2(NF186)に示す。
【0026】
[検体]
本発明において診断対象とする検体は、診断対象の血液(全血、血清、血漿)、唾液、髄液、その他の体液、各種組織等のいずれでもよい。検体は血清または髄液が好ましい。
【0027】
[測定方法]
検体中の各抗体の測定方法は、免疫学的測定法として、抗体を検出し測定するために使用される方法であれば特に制限されない。例えば、酵素、蛍光物質、放射性物質、着色物質などを標識物質とする慣用の測定方法がいずれも使用可能であり、フローサイトメトリー法を好ましく使用することができる。
【0028】
[診断方法]
本発明の慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の診断方法は、検体中に含まれる抗NF155抗体を測定する工程を含む。また、本発明の慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断方法は、検体中に含まれる抗NF186抗体を測定する工程を更に含んでいることが好ましい。抗NF155抗体が陽性である場合に、検体中に含まれる抗NF186抗体を測定し、抗NF186抗体が陰性であれば、抗NF155抗体はNF186にはないNF155の特定のエピトープに結合していることがわかり、より確実に慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)と診断することが可能であるからである。
【0029】
抗NF155抗体及び抗NF186抗体を測定するには、上述のフローサイトメトリー法を用いて行うことが好ましい。フローサイトメトリー法を用いる場合、NF155を強制発現させた細胞及びNF186を強制発現させた細胞と、二次抗体を用いて測定することができる。二次抗体としては特に制限されないが、実施例に挙げるような蛍光標識された抗体が好ましく、蛍光標識された抗ヒトIgG抗体がさらに好ましい。
【0030】
フローサイトメトリー法は周知の方法により容易に実施することができる。本発明において使用されるフローサイトメトリー法では、例えば、蛍光標識した抗ヒトIgG抗体を用いており、細胞及び検体と接触させた後、検体中に抗体が存在する場合には、抗原抗体反応により、検体中に含まれる抗体を介して細胞に蛍光標識抗体が結合した細胞数を計数することができる。それにより、検体中に抗体が存在するか否かを判定することが可能である。フローサイトメトリー法の装置及び必要な試薬類は市販されており、当業者が容易に実施することが可能である。
【0031】
すなわち、検体を、NF155を強制発現させた細胞及びNF186を強制発現させた細胞と接触させる。なお本発明においては、実施例において詳述するように、NF155又はNF186を強制発現させた細胞は、ヒトNF155又はNF186のcDNAが組み込まれたベクターを、NF155又はNF186を発現するのに適した細胞に導入することによって作製することができる。
【0032】
本発明によれば、NF155及びNF186を強制発現させた細胞をそれぞれ抗原としたフローサイトメトリー法が提供され、NF155と反応する抗体が、CIDP陽性となる可能性が高いことがわかる。
【0033】
また、本発明者らは、抗NF155抗体陽性CIDP症例は、若年発症で、末梢神経遠位部と神経根から著明な脱髄(神経伝導の遅延)をきたし、MRIで神経根の高度の肥厚を呈し、髄液蛋白が高度に上昇するという特徴的な病像を呈することを見出した。このタイプのCIDPは、発症初期から不可逆性の顕著な神経肥厚を呈することから、初発時から抗NF155抗体が陽性の場合は、積極的な免疫療法の適応となる。
【0034】
また、抗NF155抗体陽性CIDPは、抗NF155抗体のサブクラスがIgG4主体なので、抗NF155抗体のIgGサブクラスを測定した結果IgG4が主体であれば、より神経肥厚をきたしやすいので、積極的な免疫療法を初期から導入することが可能になる。ここで、「IgG4が主体である」とは、MFI比率およびデルタMFIがIgGサブクラスの中で最も高いことを意図する。
【0035】
また、本発明の診断方法によれば、CIDPとギランバレー症候群(GBS)との鑑別も可能となる。CIDPの初発発作は、単相性の経過をとるギランバレー症候群(GBS)との識別が困難である。しかしながら、本発明により検体が抗NF155抗体に陽性の結果となれば、その後に再発性・進行性の経過をとり、GBSではなくCIDPとなる可能性が高いことがわかった。抗NF155抗体に陽性の結果となり、GBSではなくCIDPである可能性が高いことがわかれば、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)、単純血漿交換膜(PE)、副腎皮質ステロイド薬、その他の免疫抑制薬による継続的な治療が必要となってくる。
【0036】
また、抗NF155抗体陽性CIDPの一部は中枢神経病変を合併し、この場合はCCPDの範疇にも含まれ、抗NF155抗体陽性CIDP/CCPDという一連のスペクトルムを構成すると考えられる。中枢神経病変で発症した場合は、中枢神経のみを侵す脱髄性疾患である多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)との識別が困難であり、MSで有効なインターフェロンベータ(IFNβ)製剤がCCPDでは無効であるばかりか30%程度で症状を増悪させる。しかしながら、本発明により検体が抗NF155抗体に陽性の結果となれば、MSではなくCIDPと診断できる可能性が高いことがわかった。したがってMS例においても、IFNβをはじめとする疾患修飾薬の導入時には、抗NF155抗体を測定する意義がある。また、中枢と末梢と両者を侵すCCPDでは、抗NF155抗体の測定が必要である。
【0037】
本発明はまた、検体中の抗NF155抗体及び/又は抗NF186抗体を測定する方法であって、NF155を強制発現させた細胞及びNF186を強制発現させた細胞と、検体とを接触させた後、蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を用いて、抗NF155抗体及び抗NF186抗体の存在を測定する方法を提供する。
【0038】
検体、NF155を強制発現させた細胞、NF186を強制発現させた細胞等については上述した通りである。該方法によれば、検体中にNF155及び/又はNF186が存在するか否かを測定することが可能であり、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断に有用である。また、該方法によれば、ギランバレー症候群(GBS)及び多発性硬化症(MS)と、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)とを識別することができる。
【0039】
[CIDP診断用キット]
次に、本発明のキットについて説明する。
本発明の慢性炎症性脱髄性多発神経炎診断用キットは、NF155を強制発現させた細胞株を含む。また、NF186を強制発現させた細胞株を更に含んでいてもよい。
このようなキットを用いることにより、上述したような、本発明の慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断方法、抗NF155抗体及び抗NF186抗体の存在を測定する方法を容易に実施することが可能である。
【0040】
本発明の慢性炎症性脱髄性多発神経炎診断用キットは、蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を更に含んでいてもよい。このような蛍光標識された抗ヒトIgG抗体を含むことにより、上述したようにフローサイトメトリー法により、本発明の慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断方法、抗NF155抗体及び抗NF186抗体の存在を測定する方法を実施することができる。
上記のように、フローサイトメトリーにより、上記方法を実施するために、本発明の慢性炎症性脱髄性多発神経炎診断用キットは、フローサイトメトリー法を実施するのに必要な試薬を含んでいてもよい。
【0041】
[バイオマーカー]
次に、本発明のバイオマーカーについて説明する。本発明のバイオマーカーは、抗NF155抗体からなり、CIDPを診断するために用いることができる。この抗NF155抗体には、例えば以下のような応用例が考えられる。
【0042】
本発明のバイオマーカーは、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断に使用できる他、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の予防又は治療薬のスクリーニングに使用することもできる。
【0043】
また、例えば、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の薬剤をテーラーメイド医療で使用する際に、その薬物が、特定の患者に対して有効であるかどうかについて、バイオマーカーを使用することにより簡便に知ることができる。
【0044】
すなわち、その薬剤を投与する前後で、患者検体中のバイオマーカーの量を比較する。投与後のバイオマーカーの量が投与前より低下した場合には、その薬剤が、その患者に有効であると判断することができ、投与前後でバイオマーカーの量が同じであるか、又は投与後のバイオマーカーの量が投与前より高い場合には、その薬剤がその患者に対して無効であると判断することができる。
また、本発明のバイオマーカーは、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の有無又は進行度の指標として用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
以下の実施例において、検体として使用する対象としては、2004年〜2014年に九州大学病院を受診および入院した症例のうち、EFNS/PNSのCIDP診断基準の電気生理学的診断基準を、definiteで満たすCIDP症例50例を使用した。なお、CCPD症例については、いずれも脱髄性末梢神経障害を有し、CIDPの診断基準を満たすことから今回はCIDPとして扱った。対照群としては、多発性硬化症(MS)32例、ギランバレー症候群(GBS)・フィッシャー症候群(FS)26例を含むCIDP以外の末梢神経障害40例、健常者(HCs)30例を用いた。
上記症例から血清を採取し、実施例において使用した。CIDP症例50名のうち、典型的な症例は36名、非典型的症例は14名であり、14名の内、DADSは5名、多巣性脱髄性感覚運動型(multifocal acquired demyelinating sensory)(MADSAM)は4名、限局型が2名、純粋運動型が1名、純粋感覚型が2名であった。次いで、他の診療所からの抗NF155抗体を有する4名の患者を加え、それぞれの臨床兆候により評価した。結果は、典型的症例が37名、非典型的症例が17名であり、そのうち、DADSが8名、MADSAMは4例、限局型が2名、純粋運動型が1名、純粋感覚型が2名であった。合計54名のうち、抗NF155を有しないCIDP患者は41名であり、抗NF155抗体を有する患者は13名であった。
【0047】
[実施例1]
ヒトNF155を強制発現させた細胞株、及びヒトNF186を強制発現させた細胞株の作製
ヒトNF155cDNAが含まれるベクター、及びヒトNF186cDNAが含まれるベクターは、それぞれOrigene社から購入した。いずれのベクターにもTurbo−GFPをコードする配列が各蛋白のC末端に組み込まれている。
次いで、上記ベクターを、制限酵素ScaIを使用して直鎖化した。具体的には、ScaIとしてはタカラバイオ株式会社製のScaIを用い、反応は、タカラバイオ株式会社の添付文書に記載された通りに行った。具体的には、ScaI 2μL、10×Hバッファー 4μL、基質DNA 1.5μg、滅菌精製水で合計40μLの溶液とし、37℃にて反応を行った。
【0048】
上述のようにして直鎖化したベクターを、Fugene6(Roche社製)を用いたリポフェクションにより、添付文書に準じてHK293細胞にトランスフェクションした。次いで、G418(Life Technologies社製)1mg/mlを添加してDMEMで培養し、G418耐性株を選択した。増殖したコロニーを、クローニングシリンダーを用いて単離し、それぞれヒトNF155を強制発現させた細胞株、及びヒトNF186細胞を強制発現させた細胞株とした。
【0049】
[実施例2]
フローサイトメトリー法を利用した抗NF155抗体測定
FACSバッファー1(DMEM、1mM EDTA、1%FBS)を用い、HEK293細胞及びNF155発現細胞をそれぞれ1×10/mlとなるように混合した。96穴のマイクロタイタープレートに47.5μLずつ細胞溶液を入れ、次いでCIDP患者血清2.5μLを加えて混合した(血清希釈倍率1:20)。次いで、マイクロタイタープレートを4℃で60分間インキュベーションし、200μLのFACSバッファー1で2回洗浄した後、2次抗体(Alexa 647−conjugated anti−human IgG antibody、Life Ttechnologies社製)(希釈倍率1:500)と抗原抗体反応を起こさせた後、4℃で60分間インキュベーションした。次いで、200μLのFACSバッファー2(PBS、5mM EDTA)で2回洗浄し、それぞれの細胞群における蛍光2次抗体(Alexa 647)の平均蛍光強度(MFI:Mean fluorescence Intensity)の比(ratio)または差(delta)を評価した
上記と同様の方法で、抗NF155抗体陽性の一部において、抗NF186抗体の有無を、NF186発現細胞株を用いたフローサイトメトリー法及び免疫染色法で評価した。
なお、カットオフ値は、MFI比、delta MFI比について、それぞれ10及び100とした。
【0050】
[結果]
フローサイトメトリー法による、抗NF155抗体測定(実施例2)の結果を図1Aに示す。グラフの縦軸及び横軸は、それぞれAlexa647及びTurbo−GFPの蛍光強度を示す。図1Aの左側の図は、血清を含まない系での結果を示す。図1Aから明らかなように、ヒトNF155を発現しているHEK293細胞と発現していないHEK293細胞はTurbo−GFPの蛍光強度により2つの細胞集団に分離することができた。左図は患者血清を投与せず、二次抗体のみ付加した例であるが、いずれの細胞集団もAlexa647の蛍光強度は低い値であることを示している。
図1Aの中央の図は陰性例である。血清を投与することにより、いずれの細胞集団も非特異的にAlexa647の蛍光強度が上昇しているが、MFI ratio及びdelta MFIの値は、それぞれ1.37及び1.88であり、いずれも低い値であった。
また、図1Aの右側の図は陽性例を示す。MFI比及びdelta MFIはそれぞれ48及び276であり、図1Aの中央の図に示す陰性例と比較して顕著に上昇していた。
また、段階希釈した血清を用いて測定も行った。その結果を図1Bに示す。図から明らかなように連続的に値が変化することを確認した。
また、図2A及び図2Bは、抗NF155抗体陽性又は陰性のCIDP患者の血清を、ヒトNF155またはヒトNF186を発現する細胞と反応させたときの免疫組織学的結果である。抗NF155抗体陽性のCIDP患者の血清が、ヒトNF186を発現する細胞ではなく、ヒトNF155を発現する細胞で反応したことを示している。
【0051】
[実施例3]
抗NF155抗体IgGサブクラスの検出
FACSバッファー1(DMEM、1mM EDTA、1%FBS)を用い、HEK293細胞及びNF155発現細胞をそれぞれ1×10/mlとなるよう混合した。96穴のマイクロタイタープレートに47.5μLずつ細胞溶液を入れ、次いで患者血清2.5μLを加えて混合した(血清希釈倍率1:20)。次いで、マイクロタイタープレートを4℃で60分間インキュベーションし、200μLのFACSバッファー1で2回洗浄した後、以下の2次抗体を希釈倍率1:500で細胞と混合し、抗原抗体反応を起こさせた。
【0052】
使用した2次抗体
PE−conjugated anti−IgG1 antibody(Cell Lab、733179)
PE−conjugated anti−IgG2 antibody(Cell Lab、736408)
PE−conjugated anti−IgG3 antibody(Cell Lab、736487)
PE−conjugated anti−IgG4 antibody(Cell Lab、733219)
次いで、4℃で60分間インキュベーションした後、200μLのFACSバッファー2(PBS、5mM EDTA)で2回洗浄し、それぞれの細胞群における蛍光2次抗体(PE)の平均蛍光強度(MFI:Mean fluorescence Intensity)の比(ratio)もしくは差(delta)で評価した。
【0053】
[結果]
結果を図3に示す。図3に示されるように、実験を行った13例全てにおいて、IgG4が主体であることが確認できた。一方、抗NF155抗体に陽性であったGBS症例においては、IgG4が主体ではなかった。以上の結果により、抗NF155抗体のIgGサブクラスを検出することで、より高確率にCIDPの診断を行うことができることが分かった。
【0054】
[実施例4]
実施例2に記載した同様の方法を用いて、電気生理学的基準による定義によってCIDPと診断された50例、対照群として、他の診療所の抗NF155抗体陽性CIDP患者4例、MS32例、ON(GBS/FS、血管炎によるニューロパチー、POEMS、HMSN、及び抗MAG抗体陽性ニューロパチー)40例、及びHCs(健常者)30例において、抗NF155抗体の測定を行った。結果を図4および下記表1に示す。全体の陽性率は18.0%(9/50)であった。CIDPの中では、DADS型で3/5(60%)と高い陽性率であったが、それ以外の9例の非典型的CIDPでは陽性例はなかった。典型的CIDPでは、16.7%(6/36)の陽性率であった。対象群では、多発性硬化症(MS)で0%(0/32)、ギランバレー症候群(GBS)・フィッシャー症候群(FS)で3.8%(1/26)、健常者(HC)で0%(0/30)であった。
また、抗NF186抗体はいずれの症例においても陰性であった。
【0055】
【表1】
【0056】
上記表1中、CIDP=慢性炎症性脱髄性多発神経炎、DADS=遠位対称型慢性炎症性脱髄性多発神経炎、FS=Fisher症候群、GBS=Guillain−Barre症候群、HCs=健常対照、HMSN=遺伝性運動感覚性ニューロパチー、MADSAM=多巣性脱髄性感覚運動型慢性炎症性脱髄性多発神経炎、MAG=ミエリン関連糖蛋白、MS=多発性硬化症、n=陽性症例数、N=照合された症例数、POEMS=polyneuropathy,organomegaly,endocrinopathy,M protein,and skin changes(POEMS)症候群 である。
【0057】
抗NF155抗体陽性例において抗NF186抗体はいずれにおいても陰性であったのは、NF155及びNF186の差異は選択的スプライシングにより発生するため、考えられるエピトープはNF155にあってNF186にないアミノ酸配列であると想定される。
【0058】
[実施例5]
抗NF155陽性CIDP及び陰性例について、臨床データの比較を行った。その結果を表2に示す。抗NF155抗体陽性CIDP(n=13)では陰性CIDP(n=41)と比較して、発症年齢が低い(47.9±17.0に対して25.2±10.7、p<0.0001)、末梢優位に筋力低下が目立つDADS型が多い(4.9%に対して46.2%、p=0.0014)、下垂足を呈する割合が多い(31.7%に対して69.2%、p=0.0242)、歩行障害の割合が多い(73.2%に対して100%、p=0.0484)、振戦の割合が多い(19.5%に対して53.8%、p=0.0300)、髄液蛋白値が高い(103.8±75.8に対して317.0±141.1、p<0.0001)という特徴がみられた。
また、患者の神経根MRIの結果を図5A及び図5Bに示す。図5A及び図5Bから明らかなように、撮像し得た7例の抗NF155抗体陽性CIDPおいて、いずれも頚部および腰部神経根、近位末梢神経の顕著な肥厚が認められ、髄液蛋白が高度に上昇するという特徴的な病像を呈することがわかった。
また、脳MRIについても撮像し、その結果を図6A図6Cに示す。図6A図6Cに示すように、脳MRIについては脱髄性病変を認める症例もみられた。
【0059】
【表2】
【0060】
上記表2中、CIDP=慢性炎症性脱髄性多発神経炎、DADS=遠位対称型慢性炎症性脱髄性多発神経炎、MADSAM=多巣性脱髄性感覚運動型慢性炎症性脱髄性多発神経炎、n=関連する症例数、N=照合された症例数、NS=有意でない、SD=標準偏差 である。
【0061】
[実施例6]
抗NF155抗体陽性CIDP及び陰性例において、末梢神経伝導検査を行った。
抗NF155抗体陽性CIDP及び陰性例のNCS(神経伝導速度)所見の比較を行った結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
上記表3中、CIDP=慢性炎症性脱髄性多発神経炎、CMAP=複合筋活動電位;MCV=運動神経伝導速度;N=検査を実施された神経の数;NF=ニューロファシン;SCV=感覚神経伝導速度;SNAP=感覚神経活動電位;TLI=terminal latency index、n=関連する症例数、N=照合された症例数、NS=有意でない、SD=標準偏差 である。
全ての連続変数は平均±SDで示し,括弧内には誘発された神経の数/施行した神経の数を記載している.
【0064】
遠位潜時の基準値:正中神経,3.49±0.34ms;尺骨神経,2.59±0.39ms;脛骨神経,3.96±1.00ms.MCVの基準値MCV:正中神経,57.7±4.9m/s;尺骨神経,58.7±5.1m/s;脛骨神経,48.5±3.6m/s.CMAP振幅の基準値:正中神経,7.0±3.0mV;尺骨神経,5.7±2.0mV;脛骨神経,5.8±1.9mV.F波潜時の基準値:正中神経,26.2±2.2ms;尺骨神経,27.6±2.2ms;脛骨神経,47.7±5.0ms.遠位潜時の正常上限:正中神経,4.2ms;尺骨神経,3.4ms;脛骨神経6.0ms.MCVの正常下限:正中神経,48m/s;尺骨神経,49m/s;脛骨神経,41m/s.CMAP振幅の正常下限:正中神経,3.5mV;尺骨神経,2.8mV;脛骨神経,2.9mV.F波潜時の正常上限:正中神経,31ms;尺骨神経,32ms;脛骨神経,58ms.SCVの正常下限:正中神経,44m/s;尺骨神経,44m/s;腓腹神経,45m/s。
【0065】
表3から明らかなように、抗NF155陽性CIDPでは、陰性CIDPと比較して尺骨神経、脛骨神経において遠位潜時が、正中神経、尺骨神経、脛骨神経においてF波の潜時が有意に延長していることがわかった。
【0066】
さらにまた、CCPD(中枢・抹消連合脱髄症)には、主にCIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)及びMS(多発性硬化症)があるが、検体中の抗−NF155抗体の有無で、CIDPとMSとを識別できることが分かった。
【0067】
また、CIDPとギラン・バレー症候群(GBS)においても、検体中の抗NF155抗体の有無で、両者を識別できることが分かった。すなわち、従来、末梢神経を急性に侵す脱髄性疾患であるギラン・バレー症候群は、初回発作時はCIDPとの鑑別が困難であったが、上記結果により、本発明の抗NF155抗体が陽性であれば、再発しCIDPとなる可能性が高いことがわかり、GBSと再発するCIDPとの鑑別において抗NF155抗体の測定は有用であることがわかった。
【0068】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2015年1月20日付で出願された米国仮出願(US62/105,313)に基づいており、その全体が引用により援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]