特許第6751038号(P6751038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751038
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20200824BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20200824BHJP
【FI】
   H02M7/12 F
   H02M7/48 R
   H02M7/48 M
   H02M7/12 M
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-41285(P2017-41285)
(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公開番号】特開2018-148685(P2018-148685A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】新井 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/121983(WO,A1)
【文献】 特開2016−208743(JP,A)
【文献】 特開2004−039438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正側直流端子及び負側直流端子を有する直流端子と3相交流端子との間に設けられ、直流系統と3相交流系統との間で相互に電力を変換する電力変換装置であって、
前記電力変換装置は、交流遮断器を介して3相交流系統と接続され、
スイッチング素子とコンデンサとを含む単位変換器がそれぞれ多段接続されてなり、前記正側直流端子と前記負側直流端子との間の3相各相に直列接続された正側アーム及び負側アームと、
前記正側直流端子と前記負側直流端子との間には、前記正側直流端子と前記負側直流端子とを接地点を介して又は直接に接続する短絡スイッチと、
を備え、
前記短絡スイッチが、前記交流遮断器の遮断動作の前に、前記正側直流端子および負側直流端子を短絡する電力変換装置。
【請求項2】
前記負側直流端子が接地され、前記短絡スイッチは、前記正側直流端子と前記接地点とを接続すること、
を特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記正側直流端子が接地され、前記短絡スイッチは、前記負側直流端子と前記接地点とを接続すること、
を特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記正側アーム及び前記負側アームとの間に接続された多巻線変圧器を各相に備え、
前記多巻線変圧器は、
3相交流系統に接続される交流系統側巻線と、
前記正側アームと前記負側アームとの間に逆極性で直列接続された第1の直流系統側巻線及び第2の直流系統側巻線と、
を有すること、
を特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
正側直流端子及び負側直流端子を有する直流端子と3相交流端子との間に設けられ、直流系統と3相交流系統との間で相互に電力を変換する電力変換装置であって、
スイッチング素子とコンデンサとを含む単位変換器がそれぞれ多段接続されてなり、前記正側直流端子と前記負側直流端子との間の3相各相に直列接続された正側アーム及び負側アームと、
前記正側アーム及び前記負側アームとの間に接続された多巻線変圧器を各相に備え、
前記多巻線変圧器は、
3相交流系統に接続される交流系統側巻線と、
前記正側アームと前記負側アームとの間に逆極性で直列接続された第1の直流系統側巻線及び第2の直流系統側巻線と、
3相各相の前記第1の直流系統側巻線と前記第2の直流系統側巻線との間から延びる互いに結線された中性線と、
前記中性線と接地点とを接続する短絡スイッチと、
を有する電力変換装置。
【請求項6】
前記短絡スイッチは、交流遮断器の遮断動作の前に、前記中性線と接地点とを接続する請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記短絡スイッチと前記接地点との間に抵抗が接続されていること、
を特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記短絡スイッチと前記接地点との間にリアクトルが接続されていること、
を特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の電力変換装置。
【請求項9】
3相交流系統と、前記正側アーム及び前記負側アーム間の接続点との間の交流電路に設けられた交流遮断器に遮断指令を出力する遮断器制御部と、前記短絡スイッチに閉指令を出力する短絡スイッチ制御部とを有する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記短絡スイッチ制御部が前記短絡スイッチに前記閉指令を出力し、前記短絡スイッチの閉状態を示す信号を受けた後、前記遮断器制御部が前記交流遮断器に前記遮断指令を出力すること、
を特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の電力変換装置。
【請求項10】
3相交流系統と、前記正側アーム及び前記負側アーム間の接続点との間の交流電路に設けられた交流遮断器に遮断指令を出力する遮断器制御部と、前記短絡スイッチに閉指令を出力する短絡スイッチ制御部とを有する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記短絡スイッチ制御部が前記短絡スイッチに前記閉指令を出力し、前記短絡スイッチの閉状態を示す信号を受ける前に、前記遮断器制御部が前記交流遮断器に前記遮断指令を出力すること、
を特徴とする請求項1〜の何れかに記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記短絡スイッチは、半導体スイッチであること、
を特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、直流と交流との間で相互に電力を変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流と交流との間で相互に電力を変換する電力変換装置には、3相2レベル変換器が適用されてきた。3相2レベル変換器は、直流から3相交流を出力する電力変換装置を構成する上で必要最小限の半導体スイッチング素子6個で構成されるため、小型化及び低コスト化を図ることができる利点がある。
【0003】
一方、その出力電圧波形は、入力直流電圧をVdcとしたとき、各相毎に、+Vdc/2と、−Vdc/2の2値の切替をPWM(パルス幅変調)で行って、擬似的に生成された交流波形となる。高耐圧のスイッチング素子を使用していてPWMスイッチング周波数を高くできない高電圧モータドライブや、直流送電などの電力系統接続機器においては、スイッチング高調波低減のために、3相交流出力にリアクトルやコンデンサで構成されるフィルタを挿入するが、電力系統に流れ出す高調波成分が他の機器に悪影響を及ぼさないレベルまで低減するためには、このフィルタ容量を大きくする必要があり、コスト上昇と重量増加を招いていた。
【0004】
そこで、モジュラーマルチレベル変換器(以下、MMCという。)のように、コンデンサなどの直流電圧源を含んでなる単位変換器を多段接続し、電力系統、配電系統電圧と同等な高電圧を変換できる電力変換器の研究開発が進められている。MMCは、重量及び体積が大きくシステム全体に占めるコストも比較的大きいトランスを簡略にすることができる。また、単位変換器は、スイッチング素子及び直流コンデンサを含み構成され、スイッチング素子のオンオフのタイミングをずらすことにより、出力電圧及び電圧波形が多レベル化でき、正弦波に近づけることができるので、高調波フィルタが不要になるメリットを享受することができる。
【0005】
このような単位変換器を多段に接続した回路方式では、各単位変換器の直流コンデンサの電圧値を一定に制御するために、直流電源を還流させる還流電流を常時流すことが原理的に必要である。3相を同一の直流電源に接続すると、各相の直流電圧合成値がわずかにでも異なると、相間に過大な短絡電流が流れてしまい、機器を破壊してしまう虞がある。従来では機器を保護するため、各相にバッファリアクトルを挿入し、短絡電流が過大にならないように制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−115837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来から、電力変換装置は、落雷や経年劣化による絶縁破壊、人為的ミスによる誤動作などによって、電力変換装置が地絡又は短絡し、交流系統から過大な事故電流が流れた場合に備えて、交流系統との間の交流電路に交流遮断器を設置する。この交流遮断器は、接点を開離した際に接点間に生じたアーク放電を消滅させて上記のような過大な事故電流を遮断し、交流系統と電力変換装置とを電気的に切り離す。
【0008】
そのため、交流遮断器が遮断するには、当該遮断器に流れる事故電流がアーク放電が消滅させられる程度まで低下する必要がある。交流系統からの事故電流は、通常交流であり、交流1周期に極性が切り替わる。従って、1周期の間にアーク放電を消滅させられる程度まで事故電流が低下した場合に、安全かつ迅速に遮断が可能となる。
【0009】
しかし、電力変換装置の3相のうち1相のように、3相のバランスが崩れた状態で地絡や短絡などの事故が発生した場合、相毎の事故電流の大きさが変わり、交流系統側に直流事故電流が流れることがある。この場合、事故電流は、交流電流に直流成分が重畳した電流となるため、アーク放電が消滅する程度になるまで事故電流が低下せず、交流遮断器で事故電流を遮断できないという問題があった。
【0010】
本発明の実施形態に係る電力変換装置は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、交流系統側に直流事故電流が流れても、交流遮断器を通過する事故電流を低下させ、安全かつ迅速に事故電流を遮断することのできる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本実施形態の電力変換装置は、正側直流端子及び負側直流端子を有する直流端子と3相交流端子との間に設けられ、直流と3相交流との間で相互に電力を変換する電力変換装置であって、スイッチング素子とコンデンサとを含む単位変換器がそれぞれ多段接続されてなり、前記正側直流端子と前記負側直流端子との間に直列接続された正側アーム及び負側アームを3相各相に備え、前記正側直流端子と前記負側直流端子との間には、前記正側直流端子と前記負側直流端子とを接地点を介して又は直接に接続する短絡スイッチが設けられていること、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
図2】チョッパセルの構成を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る制御装置のシーケンス図である。
図4】1相の正側アームと負側アームとの間の接続点で地絡事故が発生した場合の地絡電流経路を示す図である。
図5】ゼロ点補助電流が流れる電流経路を示す図である。
図6】(a)は、短絡スイッチが設けられていない場合における事故発生前後の交流遮断器の電流波形図である。(b)は、短絡スイッチが設けられた場合における事故発生前後の交流遮断器の電流波形図である。
図7】1相の正側アームで短絡事故が発生した場合の短絡電流経路を示す図である。
図8】第1の実施形態の変形例に係る電力変換装置の構成を示す図である。
図9】第2の実施形態の電力変換装置の構成を示す図である。
図10】多巻線変圧器の中性線に短絡スイッチが設けられた場合における事故発生前後の交流遮断器の電流波形図である。
図11】第3の実施形態の電力変換装置の構成を示す図である。
図12】第4の実施形態に係る制御装置のシーケンス図の一例である。
図13】フルブリッジセルの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.第1の実施形態]
[1−1.構成]
以下では、図1図2を参照しつつ、本実施形態の電力変換装置について説明する。図1は、本実施形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
【0014】
電力変換装置は、交流と直流の間で相互に電力を変換し、交流から直流に又は直流から交流に変換して電力伝送を行う。電力変換装置は、正側直流端子10a及び負側直流端子10bを有する直流端子と、3相交流系統100に接続される3相交流端子との間に接続されている。この正側直流端子10a及び負側直流端子10bが、例えば、他の電力変換装置や直流線路と接続されて、電力変換装置は、50Hzから60Hzに変換するなどの周波数変換や、直流送電システムに用いられる。なお、各回路構成を説明するのに、正側直流端子10a側を「正側」と称し、負側直流端子10b側を「負側」と称する。
【0015】
電力変換装置は、MMC、変圧器3、バッファリアクトル4、交流遮断器5、短絡スイッチ6、及び制御装置7を備える。
【0016】
MMCは、多数の単位変換器の列から構成され、各単位変換器のスイッチングタイミングがずらされることにより、階段状の交流電圧などの任意の電圧を出力する。単位変換器は、例えば、図2に示すようなチョッパセル1である。
【0017】
チョッパセル1は、2つのスイッチング素子11a、11b、ダイオード12a、12b、及びコンデンサ13を有し、コンデンサ13を電圧源とし、スイッチング素子11a、11bのオンオフ動作により所望の直流電圧を出力する。
【0018】
具体的には、スイッチング素子11a、11bは、互いに直列接続されてレグを構成し、コンデンサ13はこのレグに並列に接続されている。スイッチング素子11a、11bとしては、IEGT、GTO、GCT、MOSFET、又はIGBTなどの制御可能な自己消弧型素子を用いることができる。スイッチング素子11a、11bには、帰還ダイオード12a、12bが逆並列に接続されている。チョッパセル1は、スイッチング素子11aがオン時にコンデンサ13の直流電圧Vcを出力し、スイッチング素子11bがオン時にゼロ電圧となる。
【0019】
MMCは、このような単位変換器が正側直流端子10a及び負側直流端子10b間にU相、V相、及びW相の相ごとに、多段に直列接続されている。直流端子10a、10b間の単位変換器の並びをレグ2と称すると、各相のレグ2は正側直流端子10aと負側直流端子10bとの間に並列接続される。
【0020】
このようなレグは、正側アーム2aと負側アーム2bとに大別される。すなわち、正側アーム2aは、単位変換器が多段に直列接続されてなる単位変換器群であり、その一端が正側直流端子10aに接続される。負側アーム2bは、単位変換器が多段に直列接続されてなる単位変換器群であり、その一端が負側直流端子10bに接続される。正側アーム2aと負側アーム2bは他端同士で互いに接続される。各アーム2a、2bの正側直流端子10a、負側直流端子10bに接続される端子がMMCの直流端子となり、正側アーム2aと負側アーム2bの接続点が交流端子となる。
【0021】
変圧器3は、交流端子と交流系統100との間に接続されている。変圧器3は、交流系統100と電力変換装置との電気的な絶縁及びMMCと交流系統100との電圧レベルの差を合わせるものであり、必ずしも必要ではない。
【0022】
バッファリアクトル4は、正側アーム2aと負側アーム2bにそれぞれ設けられている。すなわち、正側アーム2aのバッファリアクトル4は、交流端子と正側アーム2aとの間に直列接続される。負側アーム2bのバッファリアクトル4は、交流端子と負側アーム2bとの間に直列接続される。バッファリアクトル4は、3相の直流電圧が異なることにより、相間に過大な短絡電流が流れるのを防止するリアクトルである。
【0023】
交流遮断器5は、交流端子と交流系統100との間に接続される。交流遮断器5は、入力する信号に応じて、閉路、開路の動作が可能なスイッチである。交流遮断器5は、接点の接離により開閉可能な機械的な遮断器であり、例えば、ガス遮断器を用いることができる。
【0024】
短絡スイッチ6は、ここでは、直流端子と接続点との間に接続されており、入力された信号に応じて閉路、開路の選択が可能なスイッチである。本実施形態では、負側直流端子10bが接地電位となっており、短絡スイッチ6は接地点及び正側直流端子10aに接続されている。短絡スイッチ6がオンになると正側直流端子10aと負側直流端子10bとが接地点を介して短絡する。短絡スイッチ6は、MMCの3相のレグ2の全てに接続されていれば良く、正側直流端子10aを接地電位として、短絡スイッチ6を接地点及び負側直流端子10bに接続するようにしても良い。また、正側直流端子10aと負側直流端子10bとの間に接続するようにしても良い。
【0025】
短絡スイッチ6は、短絡に耐え得る定格を有するスイッチであり、数十msのオーダーでオンとなるような迅速な応答性を有するスイッチである。例えば、短絡スイッチ6としては、サイリスタなどの半導体スイッチを用いることができる。
【0026】
電力変換装置には、各部の電圧、電流を測定する測定器(不図示)が設けられている。この測定器は、電流計、電圧計であり、例えば、正側アーム2a、負側アーム2bの電流や、変圧器3の電圧、電流、直流端子の電圧、電流を測定する。
【0027】
制御装置7は、電力変換装置の制御を行う装置である。制御装置7は、測定器から各部の電流値、電圧値を取得し、事故発生を検出する検出部と、交流遮断器5に交流系統100と交流端子との間の交流電路を遮断させる信号を生成し、出力する遮断器制御部と、短絡スイッチ6に閉指令を出力する短絡スイッチ制御部とを有する。制御装置7は、チョッパセル1のスイッチング素子11a、11bのオンオフのタイミングを制御する。
【0028】
なお、交流遮断器5および短絡スイッチ6には、交流遮断器5、短絡スイッチ6のメインの開閉状態と機械的に同期して動作する補助接点と称されるスイッチがそれぞれ設けられており、当該補助接点のオンオフ状態をセンサで読み取って開閉状態を示す信号が制御装置7に入力させることができる。
【0029】
[1−2.作用]
上記のような構成を有する電力変換装置の作用について、図3図6を用いて説明する。図3は、制御装置7のシーケンス図である。制御装置7は、検出部により各部の電流、電圧の値から事故を検出する。例えば、地絡事故が発生したとすると、検出部は正側アーム2a、負側アーム2b、変圧器3の2次側の電流値を取得し、それらの差動電流を求めることで、ある相の正側アーム2aと負側アーム2bの間の接続点で地絡事故が発生したことを検出できる。なお、以下では、事故は地絡事故を例に説明する。
【0030】
図4は、1相の正側アーム2aと負側アーム2bとの間の接続点で地絡事故が発生した場合の地絡電流経路であり、3相交流の1周期分の経路を示す。図4に示すように、地絡事故が生じると、事故電流として、地絡点に向かって交流系統100から地絡電流が供給される。この地絡電流は、電力変換装置の負側直流端子10bの接地点から、地絡事故が生じていない他の2相の負側アーム2bを通り、交流系統100へ戻る。
【0031】
事故の検出後、制御装置7は、スイッチング素子11a、11bをオフにしてMMCをゲートブロック状態とする。
【0032】
ここで、仮に交流遮断器5を開離動作させると、接点間が開離し両接点間にアーク放電が発生する。通常、事故が発生しない場合は、電流ゼロ点でアーク放電が消滅することにより事故電流が遮断されるが、1相が地絡したことにより、3相の地絡電流のバランスが崩れる。例えば、U相で地絡した場合、図4に示すように、3相の交流電圧の大小関係にも依るが、交流系統100から地絡点に向かって地絡電流が供給され、負側直流端子10bの接地点を介してV相、W相の負側アーム2bを通って交流系統100へ戻る経路となり、3相が不平衡になる。その際、交流遮断器5を通過する地絡電流に直流成分が重畳し、遮断できる程度まで電流が低下しない場合がある。例えば、U相が地絡した場合、U相の直流電流成分が大きくなり、交流の地絡電流がシフトし、電流ゼロ点にクロスしない場合がある。
【0033】
そこで、制御装置7は、短絡スイッチ制御部により、短絡スイッチ6をオンにする信号を当該スイッチに出力する。これにより、短絡スイッチ6がオンとなり、正側直流端子10aと接地点とが接続され、接地点を介して正側直流端子10aと負側直流端子10bとが短絡する。その結果、事故電流に電流ゼロ点を作り出すことをアシストするゼロ点補助電流が流れる。
【0034】
図5は、ゼロ点補助電流が流れる電流経路を示す図であり、3相交流の一周期分の経路を示す。図5に示すように、3相の交流電圧の大小関係によって流れる相は変わるが、短絡スイッチ6が正側直流端子10aを介して3相のレグ2の全てに接続されているため、直流端子10a、10b間を短絡させることで、3相全てにバランスしてゼロ点補助電流が流れる。これにより、3相不平衡な地絡電流に3相平衡なゼロ点補助電流が加わることで、交流系統100からは、地絡電流とゼロ点補助電流の両方が電力変換装置に供給される。つまり、交流遮断器5に流れる事故電流は、例えば交流1周期の時間平均で考えると、地絡電流とゼロ点補助電流の和となり、地絡電流の直流成分がゼロ点補助電流の直流成分により相殺され、交流遮断器5が遮断可能な程度にまで電流を低下させることができる。
【0035】
実際にゼロ点補助電流により、電流ゼロ点が作り出されていることが確認できる解析結果を示す。すなわち、図6(a)は、短絡スイッチ6が設けられていない場合における事故発生前後の交流遮断器の電流波形図であり、図6(b)は、短絡スイッチ6が設けられた場合における事故発生前後の交流遮断器5の電流波形図である。
【0036】
図6(a)に示すように、実線で示す事故相の電流波形は、地絡事故発生後に電流ゼロのラインから上昇して上下に振動しており、地絡電流に直流成分が重畳したことが確認できる。また、直流成分の重畳により、電流ゼロのラインとクロスしておらず、交流遮断器5で遮断できないことが分かる。なお、破線及び点線で示す他の2相の電流波形は、地絡事故発生後に電流ゼロのラインから下降して上下に振動しており、1相の事故の影響を受けて地絡電流に直流成分が重畳したことが確認できる。
【0037】
一方、図6(b)に示すように、短絡スイッチ6をオンにするまでは各相の電流波形は図6(a)と同じ挙動となるが、短絡スイッチ6をオンにした後は、実線で示す事故相の電流波形は、電流ゼロのラインにクロスするように低減しており、ゼロ点補助電流により地絡電流の直流成分が相殺されていることが確認できる。なお、破線及び点線で示す他の2相の電流波形も、地絡事故発生後に電流ゼロのラインに近づくような挙動を示しており、ゼロ点補助電流によって地絡電流に含まれる直流成分が相殺されたことが確認できる。
【0038】
以上のように、短絡スイッチ6により、直流端子10a、10b間を短絡させ、3相平衡なゼロ点補助電流を流すことで、交流遮断器5に流れる事故電流に人工的に電流ゼロ点を作り出すことができる。
【0039】
上記のように、短絡スイッチ6がオンになり、制御装置7は、短絡スイッチ6の閉状態を示す信号を受けた後、遮断器制御部により、交流遮断器5に交流電路を遮断させる。このように人工的に電流ゼロ点を作り出すことができるので、事故が発生して事故電流に直流成分が重畳した場合でも、事故電流を低下させ、安全かつ迅速に事故電流を遮断することができる。
【0040】
上記では、地絡事故を例に説明したが、短絡事故でも同様の作用効果を得ることができる。例えば、ある相の正側アーム2a又は負側アーム2bが短絡した場合、短絡電流は、図7に示すように、交流系統100から当該短絡事故相の正側アーム2a又は負側アーム2bに流れ、他の2相の正側アーム2a又は負側アーム2bを経由して交流系統100へ戻る際、短絡電流に直流成分が重畳することがある。このような場合でも、短絡スイッチ6により、短絡電流を低下させ、安全かつ迅速に事故電流を遮断することができる。
【0041】
[1−3.効果]
(1)本実施形態に係る電力変換装置は、正側直流端子10a及び負側直流端子10bを有する直流端子と3相交流端子との間に設けられ、直流と3相交流との間で相互に電力を変換する電力変換装置であって、スイッチング素子11a、11bとコンデンサ13とを含む単位変換器がそれぞれ多段接続されてなり、正側直流端子10aと負側直流端子10bとの間を直列接続された正側アーム2a及び負側アーム2bを3相各相に備え、正側直流端子10aと負側直流端子10bとの間には、正側直流端子10aと負側直流端子10bとを接地点を介して接続する短絡スイッチ6を設けるようにした。
【0042】
これにより、電力変換装置に地絡や短絡などの事故が発生し、交流系統100側に直流の事故電流が流れる場合でも、短絡スイッチ6により直流端子10a、10b間を短絡させて電力変換装置から交流遮断器5に直流成分を含むゼロ点補助電流を流すことができるので、事故電流の直流成分を低減させることができる。すなわち、短絡スイッチ6は、正側アーム2a又は負側アーム2bの3相のいずれにも接続されているので、短絡スイッチ6をオンにすることで、3相全てにバランスしてゼロ点補助電流を流すことができる。従って、交流遮断器5に流れる電流は、事故電流とゼロ点補助電流との和となり、交流遮断器に流れる事故電流のうち、直流成分を相殺することができる。そのため、事故により3相不平衡になっても、電流ゼロ点を作り出すことができ、安全かつ迅速に遮断することができる。
【0043】
(2)3相の交流系統100と、正側アーム2a及び負側アーム2b間の接続点との間の交流電路に設けられた交流遮断器5に遮断指令を出力する遮断器制御部と、短絡スイッチ6に閉指令を出力する短絡スイッチ制御部とを有する制御装置7を備え、制御装置7は、短絡スイッチ制御部が短絡スイッチ6に閉指令を出力し、短絡スイッチ6の閉状態を示す信号を受けた後、遮断器制御部が交流遮断器5に遮断指令を出力するようにした。これにより、交流遮断器5にゼロ点が生じることを担保した上で交流遮断器5による遮断をすることができる。結果的に、交流遮断器5の不動作によって短絡スイッチ6などの他の機器の道連れ的な故障を防止することができる。
【0044】
(3)短絡スイッチ6を半導体スイッチとした。これにより、瞬時に接地点を介して正側直流端子10aと負側直流端子10bとの間を短絡させることができる。すなわち、ゼロ点補助電流により事故電流の直流成分を瞬時に相殺することができるので、電流ゼロ点を迅速に作り出すことができ、交流遮断器5の破壊を防止できるとともに、安全かつ迅速に電流を遮断することができる。
【0045】
[1−4.変形例]
第1の実施形態に係る電力変換装置の変形例を、図8を用いて説明する。本変形例は、第1の実施形態と基本構成は同じである。よって、第1の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0046】
図8は、第1の実施形態の変形例に係る電力変換装置の構成を示す図である。本変形例は、バッファリアクトル4に代えて多巻線変圧器8を備える。U相、V相、及びW相の多巻線変圧器8はスター結線されている。多巻線変圧器8は、少なくとも3つ以上の巻線を有する変圧器である。多巻線変圧器8は、3相交流系統100と接続される交流系統側巻線81と、正側アーム2aと負側アーム2bとの間に直列接続された第1の直流系統側巻線82及び第2の直流系統側巻線83と、不図示の鉄心とを有する。多巻線変圧器8は、系統に流出する高調波抑制のための安定巻線を有していても良い。巻線81〜83は、鉄心に巻回されている。巻線82、83は、巻き数が等しく、負極性が互いに接続されることで逆極性を有する。
【0047】
また、多巻線変圧器8は、3相各相の第1の直流系統側巻線82と第2の直流系統側巻線83との間に中性線84を有する。中性線84は、3相各相の第1の直流系統側巻線82と第2の直流系統側巻線83との間から延びて互いに結線しており、U相、V相及びW相の多巻線変圧器8を互いに接続している。
【0048】
このように、バッファリアクトル4を多巻線変圧器8に代えたことで、電力変換装置内の直流電流は、正側アーム2aから第1の直流系統側巻線82、第2の直流系統側巻線83を介して負側アーム2bへ流れる。従って、第1の直流系統側巻線82、第2の直流系統側巻線83が逆極性で直列接続されているので、それぞれ流れる直流電流による直流起磁力は、互いに逆極性になって打ち消し合い、鉄心内に直流磁束が生じない。更に、同一相内で直流起磁力を打ち消すことができるため、事故時などに交流系統に不平衡が生じた場合でも、多巻線変圧器8の鉄心は偏磁や飽和せずに動作することができる。
【0049】
また、このバッファリアクトル4は、装置の大型化及び高コスト化の要因となっていたが、多巻線変圧器8により、正側アーム2aと負側アーム2bとの間にバッファリアクトル4を介在させる必要がなくなる。そのため、装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0050】
[2.第2の実施形態]
第2の実施形態について、図9を用いて説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態の変形例と基本構成は同じである。よって、第1の実施形態の変形例と異なる点のみを説明し、第1の実施形態の変形例と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0051】
図9は、第2の実施形態の電力変換装置の構成を示す図である。第2の実施形態では、短絡スイッチ6は、多巻線変圧器8の中性線84と接地点とを接続する。
【0052】
これにより、中性線84が3相全てに接続されているので、短絡スイッチ6をオンにして中性線84と、接地された直流端子(ここでは負側直流端子10b)とを短絡させて閉路にした回路は、3相でバランスした回路構成となる。そのため、当該回路に流れるゼロ点補助電流も3相でバランスした電流となる。従って、交流遮断器5に流れる電流は、事故電流とゼロ点補助電流との和となり、交流遮断器5に流れる事故電流のうち、直流成分を相殺することができる。図10に示すように、実線で示す事故相の電流波形は、電流ゼロのラインにクロスするように低減しており、ゼロ点補助電流により地絡電流の直流成分が相殺されていることが確認できる。このように、事故により3相不平衡になっても、電流ゼロ点を作り出すことができ、速やかに遮断することができる。
【0053】
また、短絡スイッチ6を直流端子と接続する場合と比べて、印加される電圧が1/2で済むため、短絡スイッチ6の耐圧を低減することができる。
【0054】
[3.第3の実施形態]
第3の実施形態について、図11を用いて説明する。第3の実施形態は、第2の実施形態と基本構成は同じである。よって、第2の実施形態と異なる点のみを説明し、第2の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0055】
図11は、第3の実施形態の電力変換装置の構成を示す図である。第3の実施形態では、短絡スイッチ6と接地点との間にインピーダンス9が挿入されている。インピーダンス9は、例えば抵抗、リアクトル、又はこれらを直列接続して構成することができる。
【0056】
このように、短絡スイッチ6と直列にインピーダンス9が挿入されるので、ゼロ点補助電流の大きさを変化させることができる。例えば、ゼロ点補助電流の大きさを大きくしたいときは、インピーダンス9を小さくし、ゼロ点補助電流の大きさを小さくしたいときは、インピーダンス9を大きくする。これにより、交流遮断器5を通過する事故電流を低下させて、電流ゼロ点を作り出すことができる。そのため、交流系統100への影響を最小限に抑えることができる。
【0057】
[4.第4の実施形態]
第4の実施形態について、図12を用いて説明する。第4の実施形態は、第1の実施形態と基本構成は同じである。よって、第1の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0058】
図12は、第4の実施形態に係る制御装置7のシーケンス図である。制御装置7は、検出部により事故を検出した後、短絡スイッチ制御部が短絡スイッチ6に閉指令を出力し、短絡スイッチ6の閉動作を示す信号を受ける前に、遮断器制御部が交流遮断器5に遮断指令を出力する。遮断器制御部による遮断指令は、短絡スイッチ6の閉状態を示す信号の受信前であれば良い。例えば、図12に示すように、制御装置7は、遮断器制御部及び短絡スイッチ制御部により、交流遮断器5への遮断指令と同時に短絡スイッチ6に閉指令を出力しても良い。
【0059】
これにより、交流遮断器5の開動作タイミングと短絡スイッチ6の閉動作タイミングを近づけることができるため、交流遮断器5の事故電流通過時間を短くすることができる。その結果、交流遮断器5での発生熱量を当該遮断器5の発生熱量規定値未満に抑えることができ、交流遮断器5の破壊を防止することができる。
【0060】
[5.その他の実施形態]
本明細書においては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0061】
例えば、上記の実施形態では、単位変換器をチョッパセル1としたが、フルブリッジセルとしても良い。図13に示すように、単位変換器を4つのスイッチング素子11a、11bと直流電圧源のコンデンサ13と4つのダイオード12a、12bで構成されるフルブリッジセルにすることにより、直流地絡事故などの事故電流を遮断することができる。
【0062】
チョッパセル1のスイッチング素子11a、11bのオンオフのタイミングは、制御装置7が行うようにしたが、別の制御装置が行うようにしても良い。
【0063】
第3の実施形態は、第2の実施形態を基本として説明したが、第1の実施形態、その変形例、第4の実施形態に対しても適用可能である。
【0064】
第4の実施形態は、第1の実施形態を基本として説明したが、第1の実施形態の変形例、第2の実施形態、及び第3の実施形態に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 チョッパセル
10a 正側直流端子
10b 負側直流端子
11a、11b スイッチング素子
12a、12b ダイオード
13 コンデンサ
2 レグ
2a 正側アーム
2b 負側アーム
3 変圧器
4 バッファリアクトル
5 交流遮断器
6 短絡スイッチ
7 制御装置
8 多巻線変圧器
81 交流系統側巻線
82 第1の直流系統側巻線
83 第2の直流系統側巻線
84 中性線
9 インピーダンス
100 交流系統
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13