(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
窒化タンタル(Ta
3N
5)は、顔料、誘電体や超電導体などとして使用される金属窒化物である。さらに、近年では炭酸ガス排出削減、再生可能エネルギーの観点から、太陽光エネルギーを利用して、光触媒により水を分解して、水素や酸素を製造する技術に注目が集まっており、窒化タンタルは光触媒として利用可能である(特許文献1)。
【0003】
一方で、光触媒に含まれる酸素は忌避成分となり、水素の発生を阻害する。そこで、酸素を含まない高純度の窒化タンタルが求められている。
非特許文献1では、酸化タンタル(Ta
2O
5)をアンモニアで800℃で窒化反応させることにより、窒化タンタルを得ている。特許文献1では、酸化タンタル(Ta
2O
5)をアンモニア気流中、850℃で25時間窒化することで窒化タンタルを得て、光触媒に用いている。
特許文献2では、フラックスの存在下または不存在下で酸化タンタルとアンモニアを500〜1100℃で窒化反応をさせることにより、窒化タンタルを得ている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1では、酸化タンタルをアンモニアで800℃で窒化反応させることにより、窒化タンタルを得ている。しかし、得られる窒化タンタルは、酸素を含む窒化タンタルであり、酸素含有量の低い窒化タンタルは得られない。また、特許文献1記載の酸化タンタルとアンモニアの製造方法を追試したところ、窒化タンタル以外に酸窒化タンタルが生成し、酸素含有量が多く、純度が低いことが判明した。
特許文献2は、添加する融剤が分解して酸素を放出するため、酸化タンタルの窒化反応に影響し、窒化タンタルを酸化するため、酸素量が多くなる。また、融剤が溶解して酸化タンタル表面に吸着、付着すると、窒化反応が妨げられて、未反応の酸化タンタルが残存する。これらにより、窒化タンタルのみを得ることはできない。
【0007】
従って、本発明の課題は、酸素含有量が少なく、かつ単一相の窒化タンタルの工業的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、酸化タンタルと2族元素系材料を出発原料として用い、800〜950℃という特定の温度でアンモニアガスで窒化反応させ、得られる生成物を酸水溶液で処理することにより2族元素系材料が溶解して除去できるため、酸素量が少なく、かつ単相の窒化タンタルが選択的に得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔6〕を提供するものである。
〔1〕酸化タンタルと2族元素系材料との混合物を、800〜950℃、アンモニアガス下で窒化後、酸水溶液処理することを特徴とする窒化タンタルの製造法。
〔2〕2族元素系材料が、カルシウム系材料、マグネシウム系材料、ストロンチウム系材料及びバリウム系材料から選ばれる材料である〔1〕記載の窒化タンタルの製造法。
〔3〕2族元素系材料が、窒化カルシウム、カルシウムアミド、カルシウムイミド、窒化マグネシウム、マグネシウムアミド、マグネシウムイミド、窒化ストロンチウム、ストロンチウムアミド、ストロンチウムイミド、窒化バリウム、バリウムアミド及びバリウムイミドから選ばれる材料である〔1〕又は〔2〕記載の窒化タンタルの製造法。
〔4〕酸化タンタルと2族元素系材料との混合比が、酸化タンタル1モルに対して2族元素系材料中の2族元素が3〜20モルである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の窒化タンタルの製造法。
〔5〕得られる窒化タンタルの酸素含有量が1質量%以下である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の窒化タンタルの製造法。
〔6〕酸素含有量が1質量%以下である高純度窒化タンタル。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、酸素量が少なく高純度の窒化タンタルが工業的に有利に製造できる。また、本発明の窒化タンタルは、酸素含有量が少なく高純度であり、可視光で触媒作用を有する光触媒として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の窒化タンタル(Ta
3N
5)の製造方法は、酸化タンタル(Ta
2O
5)と2族元素系材料と材料を出発原料として用い、800〜950℃という特定の温度でアンモニアガスで窒化反応させ、得られる生成物を酸水溶液処理することを特徴とする。
【0013】
本発明に用いる原料は、酸化タンタル(Ta
2O
5)である。このような酸化タンタルを原料として用いるにもかかわらず、本発明においては、2族元素系材料と混合し、アンモニアと窒化反応することにより、高純度で酸素含有量の少ない窒化タンタルが得られる。
酸化タンタル(Ta
2O
5)としては、粒子径1μm程度の通常の市販品を用いることができる。
【0014】
2族元素系材料としては、カルシウム系材料、マグネシウム系材料、ストロンチウム系材料及びバリウム系材料から選ばれる1種以上を用いることができる。好ましくは酸水溶液による除去性の点から、2族元素窒化物、2族元素アミド又は2族元素イミドが挙げられる。具体的には、窒化カルシウム、カルシウムアミド、カルシウムイミド、窒化マグネシウム、マグネシウムアミド、マグネシウムイミド、窒化ストロンチウム、ストロンチウムアミド、ストロンチウムイミド、窒化バリウム、バリウムアミド及びバリウムイミドから選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、このうち窒化カルシウム(Ca
3N
2)、カルシウムアミド(Ca(NH
2)
2)及びカルシウムイミド(CaNH)から選ばれる1種以上を用いるのが経済性及び酸水溶液処理による除去性の点からより好ましい。
【0015】
これらの2族元素系材料(式ではカルシウム系材料の例)を用いることにより、式(1)〜式(3)に示すように酸化タンタルから窒化タンタルへの窒化反応で発生する酸素を2族元素系材料中の2族元素が安定な酸化2族元素(例えば酸化カルシウム)として固定して酸素濃度を低下させ、窒化タンタルの酸化を防止する。
【0016】
3Ta
2O
5+5Ca
3N
2→2Ta
3N
5+15CaO 式(1)
3Ta
2O
5+15Ca(NH
2)
2→
2Ta
3N
5+15CaO+20NH
3 式(2)
3Ta
2O
5+15CaNH→2Ta
3N
5+15CaO+5NH
3 式(3)
【0017】
また、カルシウムアミド(Ca(NH
2)
2)、カルシウムイミド(CaNH)等の2族元素系アミド、2族元素系イミドは、酸化タンタルから窒化タンタルへの窒化反応で発生する酸素を2族元素系材料中の2族元素が安定な酸化2族元素として固定するとき、アンモニアを発生し、アンモニア濃度を高くすることができる。そのため、窒化タンタルを安定して生成することができ、窒化反応に使用するアンモニアの量を減らすことができるため、より好ましい。
【0018】
酸化タンタルと2族元素系材料の混合比(モル比)は、酸化タンタル(Ta
2O
5)1モルに対して2族元素系材料中の2族元素が3〜20モルが好ましく、より好ましくは4〜10モル、さらに好ましくは5〜7モルである。混合比が3〜20の範囲内であれば、これらの材料による酸素の固定が十分となり、窒化タンタルの酸化が防止でき酸素含有量が少なくなる。また、2族元素系材料の使用量が過剰にならず、製造できる窒化タンタルの量が多くなり、製造コストが抑制でき、酸水溶液による溶解工程と洗浄工程が短縮される。
【0019】
窒化する温度(加熱温度)は、800℃以上950℃以下である。800℃未満の場合、窒化が十分に進行しない。950℃超の場合、窒化タンタルから窒素が放出され金属タンタルとなるため高純度の窒化タンタルが得られない。より好ましい窒化温度は、800℃以上900℃以下である。
【0020】
窒化する際のアンモニアガス量は、酸化タンタル1gあたり0.01L/min以上0.8L/min以下が好ましい。さらに好ましくは、0.02L/min以上0.5L/min以下である。アンモニアガス量がこの範囲であれば、窒化時間が短く、工業的に有利である。また、窒化に使用されないアンモニアガス量が抑制でき、製造コストを抑制できる。
【0021】
また、加熱時間は、加熱温度との関係で決定され、窒化を十分に進行させ、Ta
3N
5を高純度で生成させる点から、加熱温度(℃)と加熱時間(hr)の積が、10000〜25000になる時間が好ましい。この加熱時間が10000未満の場合には、窒化が十分に進行しないおそれがある。より好ましい前記積は12000〜20000であり、さらに好ましくは16000〜20000である。
具体的な加熱時間は13〜30時間が好ましく、15〜30時間がより好ましい。なお、ここで加熱時間は、800〜950℃の範囲に加熱されている時間である。
【0022】
反応装置は、1000℃程度の熱に耐えられる装置であればよく、例えば、管状炉、電気炉、バッチ式キルン、ロータリーキルンを用いれば良い。
【0023】
窒化反応により得られる生成物は、窒化タンタルと酸化2族元素であり、2族元素系材料の添加量によっては2族元素系材料が未反応として残存することである。
窒化タンタルは難溶解性物質であり、一方、2族元素酸化物、2族元素系材料は酸水溶液に溶解する。以下、カルシウム系材料を例にとって説明する。窒化タンタル、酸化カルシウム、未反応のカルシウム系材料を含む生成物は、塩酸、硝酸の酸水溶液により処理することで、酸化カルシウムとカルシウム系材料が溶解し、窒化タンタルは溶解しないため、粉末として分離できる。生成物を溶解する方法は、水に生成物を添加、撹拌してから、塩酸や硝酸を滴下して溶解する方法、水に塩酸や硝酸などの酸を混合して希釈した酸水溶液に生成物を添加、撹拌して溶解する方法がある。このとき使用する水は、イオン交換水、蒸留水などの不純物の少ないものが好ましい。
【0024】
酸化カルシウムと未反応のカルシウム系材料は、水や空気と反応すると、発熱、アンモニアの発生などが起きる。窒化反応が終了し、冷却(室温程度)後、管状炉内に空気、炭酸ガス、水分を含むガスを吹き込み、水との反応性が穏やかな水酸化カルシウムや炭酸カルシウムとしてもよい。これらの化合物も、酸に溶解させること、窒化タンタルを分離することができる。
溶解処理後、窒化タンタルをろ過して、回収する。窒化タンタルにカルシウムが溶解した水溶液が付着しているため、水で洗浄し、付着しているカルシウムを除去する。洗浄後、粉末の窒化タンタルを回収、乾燥して、窒化タンタル粉末を得られる。
【0025】
乾燥は、熱風式乾燥器、真空式乾燥器などの乾燥器であればよく、窒化タンタルに付着している水分を除去できればよい。
【0026】
得られる窒化タンタルは、窒化タンタルのみからなり、酸素含有量は1質量%以下が好ましく、0.85質量%以下であるのがより好ましい。酸素含有量が、1質量%以下の窒化タンタルは光触媒として特に有用である。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
・使用した原料
酸化タンタル:三井金属鉱業(株)製、白色粉末
カルシウムアミド:太平洋セメント(株)製、金属カルシウムをアミド化したもの
カルシウムイミド:太平洋セメント(株)製、金属カルシウムをイミド化したもの
窒化カルシウム:太平洋セメント(株)製、金属カルシウムを窒化したもの
【0028】
実施例1
グローブボックス内で、酸化タンタル20gとカルシウムアミド20gを計量し、ビニール袋で混合をした混合原料(Ca/Ta
2O
5モル比=6.1)をアルミナボートに入れ、アルミナ製の炉芯管に入れ、両端をバルブ付きの蓋をして、取り出した。炉芯管を管状炉に設置し、900℃、20時間、アンモニアガス流量を1L/min(0.05L/min・Ta
2O
5−g)で窒化反応を行った。冷却後、炉芯管から試料を取り出し、窒化反応後の生成物の鉱物組成を粉末X線回折(XRD)で同定を行った結果、窒化タンタル(Ta
3N
5)と酸化カルシウム(CaO)であり、窒化反応後の生成物のXRDパターンを
図1に示す。
試料15gを0.5mol/Lの塩酸300mLに添加、撹拌し、溶解後、吸引ろ過を行い、窒化タンタルとカルシウムが溶解している水溶液と分離し、窒化タンタルを水で洗浄し、付着しているカルシウムを除去し、乾燥を行った。乾燥後、溶解後の試料の鉱物組成をXRDで同定を行った結果、窒化タンタル(Ta
3N
5)のみであった。溶解後の試料のXRDパターンを
図2に示す。
溶解後の試料の酸素含有量は、0.6質量%であった。
【0029】
実施例2
酸化タンタル20gとカルシウムアミド18gを計量し、ビニール袋で混合をした混合試料(Ca/Ta
2O
5モル比=5.5)をアルミナボードに入れ、以下実施例1と同様に行った。
窒化反応後の生成物の鉱物組成は窒化タンタル(Ta
3N
5)と酸化カルシウム(CaO)であり、溶解後の試料の鉱物組成は、窒化タンタル(Ta
3N
5)のみであった。溶解後の試料の酸素含有量は、0.7質量%であった。
【0030】
実施例3
酸化タンタル20gとカルシウムイミド13gを計量し、ビニール袋で混合をした混合試料(Ca/Ta
2O
5モル比=5.2)をアルミナボードに入れ、以下実施例1と同様に行った。
窒化反応後の生成物の鉱物組成は窒化タンタル(Ta
3N
5)と酸化カルシウム(CaO)であり、溶解後の試料の鉱物組成は、窒化タンタル(Ta
3N
5)のみであった。溶解後の試料の酸素含有量は、0.5質量%であった。
【0031】
実施例4
酸化タンタル20gと窒化カルシウム12gを計量し、ビニール袋で混合をした混合試料(Ca/Ta
2O
5モル比=5.4)をアルミナボードに入れ、以下実施例1と同様に行った。
窒化反応後の生成物の鉱物組成は窒化タンタル(Ta
3N
5)と酸化カルシウム(CaO)であり、溶解後の試料の鉱物組成は、窒化タンタル(Ta
3N
5)のみであった。溶解後の試料の酸素含有量は、0.6質量%であった。
【0032】
比較例1
グローブボックス内で、酸化タンタル20gをアルミナボートに入れ、以下実施例1と同様に行った。
窒化反応後の生成物の鉱物組成は窒化タンタル(Ta
3N
5)と酸窒化タンタル(TaON)であり、溶解後の試料の鉱物組成も窒化タンタル(Ta
3N
5)と酸窒化タンタル(TaON)であった。溶解後の試料の酸素含有量は、2.5質量%であった。
【0033】
実施例1〜4は、窒化反応後の生成物は、窒化タンタルと酸化カルシウムであり、比較例1は、窒化タンタルと酸窒化タンタルであった。これらの生成物を0.5mol/Lの塩酸で溶解処理した結果、実施例1〜4は、酸化カルシウムが溶解し、酸素含有量が0.5〜0.7質量%と低い窒化タンタルのみが得られた。
しかし、比較例
1は、0.5mol/Lの塩酸で溶解処理しても、酸窒化タンタルは溶解しないため、窒化タンタルと酸窒化タンタルの混合物であり、酸素含有量は2.5質量%と高かった。
【0034】
【表1】