特許第6751052号(P6751052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751052
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】高温超電導線材及び超電導コイル
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20200824BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20200824BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20200824BHJP
   C01G 3/00 20060101ALI20200824BHJP
   H01L 39/02 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   H01B12/06ZAA
   H01F6/06 140
   H01F6/06 110
   C01G1/00 S
   C01G3/00
   H01L39/02 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-107682(P2017-107682)
(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-206521(P2018-206521A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−232297(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129568(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0357495(US,A1)
【文献】 特開2015−228357(JP,A)
【文献】 特開2015−046322(JP,A)
【文献】 特開2014−002848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
C01G 1/00
C01G 3/00
H01F 6/06
H01L 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温超電導体と安定化層を有する高温超電導線材であって、
前記安定化層は、前記高温超電導線材の少なくとも一方の主面において、2層の安定化層を有し、前記2層の安定化層のうち、内側の安定化層のヤング率が、外側の安定化層のヤング率より低いことを特徴とする高温超電導線材。
【請求項2】
前記安定化層は、テープ状の基材と、前記基材上に形成された中間層と、前記中間層上に形成されて前記高温超電導体からなる超電導層と、前記超電導層上に形成された保護層とを有する超電導積層体の外周に設けられ、前記2層の安定化層は、少なくとも前記保護層の表面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高温超電導線材が巻回され、その間に樹脂が含浸されてなることを特徴とする超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超電導線材及び超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導線材を巻回させた超電導コイルを使用する際には、超電導特性を発現させるために冷却が必要となる。超電導コイルを冷却する際、含浸樹脂と高温超電導線材との熱収縮の差により、高温超電導線材の内部には高温超電導層が基材から剥離する方向に剥離応力が発生する。この剥離応力により、層間剥離やクラックが発生すると、安定した超電導特性を得ることができないおそれがある。
【0003】
剥離応力を低減するため、従来、様々な構造が提案されている。例えば、特許文献1には、超電導線材の表面に離形材層を設けた構造が記載されている。また、特許文献2には、超電導線材の表面にカーボン層を形成し、含浸樹脂と超電導線材との間で、カーボン層が弱い力で破断することにより、超電導層の破損を防止する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−267550号公報
【特許文献2】特開2016−134418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超電導線材に離形材層やカーボン層等の柔軟な層を設ける場合、線材全体のヤング率が低くなり、超電導線材の引張強度が低下する。超電導線材をコイル状に巻回する際に離形材の塗布やカーボン層の形成を行う場合、超電導コイルの製造工程が複雑になる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、冷却時の剥離応力が低減され、引張強度を維持することが可能な高温超電導線材及び超電導コイルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、高温超電導体と安定化層を有する高温超電導線材であって、前記安定化層は、前記高温超電導線材の少なくとも一方の主面において、2層の安定化層を有し、前記2層の安定化層のうち、内側の安定化層のヤング率が、外側の安定化層のヤング率より低いことを特徴とする高温超電導線材を提供する。
【0008】
前記安定化層は、テープ状の基材と、前記基材上に形成された中間層と、前記中間層上に形成されて前記高温超電導体からなる超電導層と、前記超電導層上に形成された保護層とを有する超電導積層体の外周に設けられ、前記2層の安定化層は、少なくとも前記保護層の表面に設けられていてもよい。
【0009】
また、本発明は、前記高温超電導線材が巻回され、その間に樹脂が含浸されてなることを特徴とする超電導コイルを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外側の安定化層の内側に、ヤング率が低い安定化層が設けられているため、冷却時の剥離応力が低減され、引張強度を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】超電導コイルの一例を模式的に示す斜視図である。
図2】実施形態の超電導コイルの一例を示す部分拡大断面図である。
図3】超電導積層体の一例を模式的に示す断面図である。
図4】比較例1の超電導コイルの一例を示す部分拡大断面図である。
図5】比較例2の超電導コイルの一例を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、超電導コイルの一例を模式的に示す。図2に、図1のA部の断面を示す。図3に、超電導積層体の一例を示す。本実施形態の超電導コイル20は、高温超電導線材10が巻回された間に、樹脂21が含浸されてなる。高温超電導線材10は、超電導積層体11の周囲に安定化層12を有する。
【0013】
超電導積層体11は、テープ状の基材11aと、基材11a上に形成された中間層11bと、中間層11b上に形成された超電導層11cと、超電導層11c上に形成された保護層11dとを有する。本明細書において、基材11a、中間層11b、超電導層11c、保護層11d等の各層が積層される方向が厚さ方向である。また、幅方向は、長手方向及び厚さ方向に垂直な方向である。
【0014】
基材11aは、例えばテープ状の金属基材であり、厚さ方向の両側に、それぞれ主面を有する。基材11aの幅は、例えば5〜20mm程度である。基材11aの厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、例えば10〜500μmの範囲である。
【0015】
中間層11bは、基材11aと超電導層11cとの間に設けられる。中間層11bは、多層構成でもよく、例えば基材11a側から超電導層11c側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。
【0016】
超電導層11cは、高温超電導体から構成される。高温超電導体は、転移温度が約25K以上の超電導体であり、なかでも、転移温度が液体窒素温度(約77K)以上の超電導体が好ましい。高温超電導体の具体例として、希土類元素(RE)を含むRE−Ba−Cu−O系酸化物、ビスマス元素(Bi)を含むBi−Sr−Ca−Cu−O系酸化物が挙げられる。
【0017】
保護層11dは、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導層11cと保護層11dの上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層11dの材質としては、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、金と銀との合金、その他の銀合金、銅合金、金合金などが挙げられる。保護層11dは、少なくとも超電導層11cの表面を覆っている。
【0018】
高温超電導線材10は、超電導積層体11の外周に、金属めっき、金属箔等の金属からなる安定化層12を有する。安定化層12は、保護層11dの表面、保護層11dの側面、超電導層11cの側面、中間層11bの側面、基材11aの側面、基材11aの裏面から選択される領域の一部または全部を覆ってもよい。安定化層12の厚さとしては、例えば10〜300μm程度が挙げられる。
【0019】
本実施形態の高温超電導線材10において、安定化層12は、高温超電導線材10の少なくとも一方の主面において、2層の安定化層12a,12bを有する。高温超電導線材10の主面とは、高温超電導線材10の厚さ方向の両側の面である。図2に示すように、超電導コイル20において、高温超電導線材10を巻回すると、高温超電導線材10の主面が対向する間に樹脂21が含浸されている。例えば、図3に示す超電導積層体11の外周上では、保護層11dの表面上、又は基材11aの裏面上が、高温超電導線材10の主面に相当する。
【0020】
2層の安定化層12a,12bにおいて、ヤング率が低い安定化層12aを内側に、ヤング率が高い安定化層12bを外側に配することにより、内側のヤング率が低い安定化層12aが緩衝材の役割を果たすため、高温超電導線材10にかかる剥離応力を低減することができる。また、外側のヤング率が高い安定化層12bは、高温超電導線材10の長手方向の引張強度を保つとともに、含浸樹脂21の熱収縮等に対して機械的な耐久性を付与することができる。2層の安定化層12a,12bは、金属同士で密着性に優れる。
【0021】
基材11aを有する超電導積層体11において、一般に基材11aの厚さが超電導積層体11の厚さの大部分を占めることから、基材11aの裏面上よりも、保護層11dの表面上のほうが、超電導層11cに近くなる。そこで、2層の安定化層12a,12bは、少なくとも保護層11dの表面上に設けられることが好ましい。
【0022】
ヤング率が低い安定化層12aを構成する材料としては、例えばヤング率Eが50GPa以下の金属材料が好ましく、Eが40GPa以下の金属材料がより好ましい。具体例として、Sn−Ag−Cu(E=31GPa)、Sn−Zn−Al(E=37GPa)、Sn−Bi−Ag(E=24GPa)、Sn−Pb(E=22GPa)等の半田が挙げられる。ヤング率が低い安定化層12aの厚さは、例えば5μm以上であり、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、約45μm、約50μm等が挙げられる。ヤング率の低い安定化層12aは、高温超電導線材10の厚さ方向に働く剥離応力を低減する緩衝層として働くことから、高温超電導線材10の側面よりも保護層11dの表面と基材11aにおいて厚く形成されていると良い。他方、高温超電導線材10の側面においては、線材の断面形状が歪になるのを避けるために、ヤング率の低い安定化層12aは薄く形成されていると良い。
【0023】
ヤング率が高い安定化層12bを構成する材料としては、例えばヤング率Eが70GPa以上の金属材料が好ましく、Eが100GPa以上の金属材料がより好ましい。銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等が挙げられる。ヤング率が高い安定化層12bの厚さは、例えば5μm以上であり、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、約45μm、約50μm等が挙げられる。
【0024】
2層の安定化層12a,12bの厚さの比率として、例えば10%:90%〜90%:10%が挙げられる。この比率の具体例として、10%:90%程度、20%:80%程度、30%:70%程度、40%:60%程度、50%:50%程度、60%:40%程度、70%:30%程度、80%:20%程度、90%:10%程度が挙げられる。
【0025】
比較のため、図4に、超電導積層体11の外周にヤング率が中程度の安定化層12cを1層のみ積層してなる高温超電導線材101から作製した超電導コイル201を示す。この場合、安定化層12cに緩衝作用がないため、冷却時の剥離応力が低減されず、特性の劣化が多くなると考えられる。
また、図5に、ヤング率が低い安定化層12aを外側に、ヤング率が高い安定化層12bを内側に配した高温超電導線材102から作製した超電導コイル202を示す。この場合、ヤング率が低い安定化層12aが超電導層から離れるため、剥離応力を低減する効果が薄く、特性の劣化が多くなると考えられる。
【0026】
テープ状の高温超電導線材10を使用して超電導コイル20を作製するには、例えば線材を巻枠の外周面に沿って必要な層数巻き付けてコイル形状の多層巻きコイルを構成した後、巻き付けた線材を覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて、超電導線材を固定する方法が挙げられる。
【0027】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
高温超電導線材及び超電導コイルは、外部との接続端子や線材同士の接続部を有することができる。これらの箇所では、他の箇所と異なる断面構造を有してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
(超電導積層体の作製)
厚さ75μm、幅12mmのハステロイ(登録商標)テープ基材の表面に、IBAD(イオンビームアシスト蒸着)法により厚さ1μmのGdZrからなる第一中間層を成膜した。次に、第一中間層の上に、パルスレーザー蒸着(PLD)法により厚さ0.5μmのCeOからなる第二中間層を成膜した。次に、第二中間層の上に、PLD法により厚さ2μmのGdBaCu7−xからなる超電導層を成膜した。次に、超電導層の上に、スパッタ法により厚さ7μmのAgからなる保護層を積層した。得られた積層体に対し、温度500℃で酸素アニール処理を施すことにより、超電導積層体を得た。
【0029】
(実施例)
超電導積層体の外周に、厚さ20μmでヤング率30GPaの第一安定化層を積層した。次に、第一安定化層の上に、厚さ20μmでヤング率130GPaの第二安定化層を積層して、2層の安定化層を有する超電導線材を作製した。得られた超電導線材を巻回し、線材間にエポキシ等の樹脂を含浸して、外径(OD)が140mm、内径(ID)が100mmの超電導コイルを作製した。20個の超電導コイルを作製して液体窒素温度に冷却し、超電導線材に通電したところ、20個中1個のコイル劣化が認められた。
【0030】
(比較例1)
超電導積層体の外周に、厚さ40μmでヤング率50GPaの安定化層を積層して、1層の安定化層を有する超電導線材を作製した。得られた超電導線材を巻回し、線材間にエポキシ等の樹脂を含浸して、外径(OD)が140mm、内径(ID)が100mmの超電導コイルを作製した。20個の超電導コイルを作製して液体窒素温度に冷却し、超電導線材に通電したところ、20個中6個のコイル劣化が認められた。
【0031】
(比較例2)
超電導積層体の外周に、厚さ20μmでヤング率130GPaの第一安定化層を積層した。次に、第一安定化層の上に、厚さ20μmでヤング率30GPaの第二安定化層を積層して、2層の安定化層を有する超電導線材を作製した。得られた超電導線材を巻回し、線材間にエポキシ等の樹脂を含浸して、外径(OD)が140mm、内径(ID)が100mmの超電導コイルを作製した。20個の超電導コイルを作製して液体窒素温度に冷却し、超電導線材に通電したところ、20個中10個のコイル劣化が認められた。
【0032】
実施例1は、比較例1〜2と比較して、超電導線材全体のヤング率が同じであるが、冷却時のコイル劣化を著しく低減することができた。この結果から、実施例1は、比較例1〜2と比較して、剥離応力に強い構造であることが実証された。
【符号の説明】
【0033】
10…高温超電導線材、11…超電導積層体、11a…基材、11b…中間層、11c…超電導層、11d…保護層、12…安定化層、12a…ヤング率が低い安定化層、12b…ヤング率が高い安定化層、20…超電導コイル、21…含浸樹脂。
図1
図2
図3
図4
図5