特許第6751055号(P6751055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6751055イムノクロマトグラフィーを利用した癌胎児性フィブロネクチンの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751055
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】イムノクロマトグラフィーを利用した癌胎児性フィブロネクチンの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20200824BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N33/574 A
   G01N33/543 515B
   G01N33/543 515H
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-121178(P2017-121178)
(22)【出願日】2017年6月21日
(62)【分割の表示】特願2017-524062(P2017-524062)の分割
【原出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-161552(P2017-161552A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-33463(P2016-33463)
(32)【優先日】2016年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佳菜子
(72)【発明者】
【氏名】森田 元喜
(72)【発明者】
【氏名】河野 景吾
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−502045(JP,A)
【文献】 特開平01−195848(JP,A)
【文献】 特開2011−039068(JP,A)
【文献】 特表2013−539041(JP,A)
【文献】 IAMS, Jay D. et al,Fetal Fibronectin Improves the Accuracy of Diagnosis of Preterm Labor,American Journal of Obstetrics & Gynecology,米国,1995年,Vol. 173, No. 1,p. 141-145
【文献】 LOCKWOOD, Charles J. et al,Fetal Fibronectin in Cervical and Vaginal Secretions as a Predictor of Preterm Delivery,The New England Journal of Medicine,1991年,Vol. 325, No. 10,p. 669-674
【文献】 MATSUURA, Hidemitsu et al,The Oncofetal Domain of Fibronectin Defined by Monoclonal Antibody FDC-6: Its Presence in Fibronecti,Proceedings of the National Academy of Sciences,1985年,Vol. 82,p. 6517-6521
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノクロマトグラフィーを利用した検出方法であって、(A)〜(C)の工程を含む検出方法。
(A)下記テストストリップのサンプル供給部に癌胎児性フィブロネクチン血漿フィブロネクチンを含み得るサンプルを供給する工程
テストストリップ; 少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、展開部の一部には、標識物質で標識された抗フィブロネクチンモノクローナル抗体を含むコンジュゲートが溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であってコンジュゲート保持部分より下流側に抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体が固定化されている検出部を有する
(B)サンプル中の癌胎児性フィブロネクチンをpH5.0〜6.7の緩衝液の存在下にコンジュゲートと接触させる工程
(C)サンプル中の癌胎児性フィブロネクチンとコンジュゲートの複合体を検出部において検出する工程
【請求項2】
緩衝液が、リン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、HEPES、MOPS、PIPES及びTrisからなる群から選ばれるいずれか1種以上である請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
標識物質が金コロイドである、請求項1〜のいずれかに記載の検出方法。
【請求項5】
以下の構成(1)および(2)を含む、イムノクロマトグラフィー用テストストリップ。 (1)少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、展開部の一部には、標識物質で標識された抗フィブロネクチンモノクローナル抗体を含むコンジュゲートが溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であって前記コンジュゲート保持部分より下流側に、抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体が固定化されている検出部を有する
(2)サンプル供給部から展開部の検出部までのすくなくとも一部にpH5.0〜6.7の緩衝液成分が含まれている
【請求項6】
サンプルパッド、コンジュゲートパッド、および抗体固定化メンブレンを上から順に配置し、サンプルパッドがサンプル供給部を含み、コンジュゲートパッドがコンジュゲート保持部分および緩衝液成分を含み、抗体固定化メンブレンが検出部を含む請求項に記載のテストストリップ。
【請求項7】
コンジュゲートパッドと抗体固定化メンブレンの間にさらにサードパッドを含む請求項またはに記載のテストストリップ。
【請求項8】
緩衝液が、リン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、HEPE S、MOPS、PIPES及びTrisからなる群から選ばれるいずれか1種以上である請求項のいずれかに記載のテストストリップ。
【請求項9】
緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである請求項のいずれかに記載のテストストリップ。
【請求項10】
標識物質が金コロイドである、請求項のいずれかに記載のテストストリップ。
【請求項11】
以下の構成(1)および(2)を含む、イムノクロマトグラフィー用検出キット。
(1)少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、展開部の一部には、標識物質で標識された抗フィブロネクチンモノクローナル抗体を含むコンジュゲートが溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であって前記コンジュゲート保持部分より下流側に、抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体が固定化されている検出部を有するイムノクロマトグラフィー用テストストリップ
(2)pH5.0〜6.7の緩衝液
【請求項12】
緩衝液を展開液又は検体抽出液として使用する請求項11に記載の検出キット。
【請求項13】
緩衝液がリン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、HEPES 、MOPS、PIPES及びTrisからなる群から選ばれるいずれか1種以上である請求項11又は12記載の検出キット。
【請求項14】
緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである請求項1113のいずれかに記載の検出キット。
【請求項15】
癌胎児性フィブロネクチン検出のためのイムノクロマトグラフィー用展開液であって、下記(1)及び(2)を含む前記展開液。
(1)pH5.0〜pH6.7の緩衝液
(2)標識物質で標識された抗フィブロネクチンモノクローナル抗体を含むコンジュゲート
【請求項16】
緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである請求項15に記載の展開液 。
【請求項17】
pH5.0〜pH6.7の緩衝液を含有する癌胎児性フィブロネクチン検出用検体抽出液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィーを利用した検出方法において、サンプル中に検出対象物質と類似した抗原性を有する物質が共存しうる場合の検出方法に関する。さらに詳しくは、イムノクロマトグラフィーを利用した癌胎児性フィブロネクチンの検出方法において、他のフィブロネクチンが共存しうる場合の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポイントオブケア検査(POCT)は、開業医や、病棟および外来患者向け診療室など、患者の周辺で行われることを意図した検査の総称で、簡便な操作によって得られた検査結果に基づき、迅速に診断、処置を行えるようになるため、診療の質の向上に貢献すると期待されている。
POCTに繁用される方法としてイムノクロマトグラフィーを利用した検出方法(以下、単にイムノクロマト法ということがある)があり、インフルエンザ感染などの感染症領域、妊娠や早産などの産科領域、糖尿病や心臓疾患などの生活習慣病領域ほかで多数実用化されている。
【0003】
イムノクロマト法は、その操作工程中に、測定対象物に由来する抗原抗体複合物以外の試料中の成分を検出対象物の検出前に洗浄する工程(以下、単に洗浄工程ということがある)を含むヘテロジニアス法(以下、単にヘテロジニアス法ということがある)に対して、当該洗浄工程を含まない、ホモジニアス法(以下、単にホモジニアス法ということがある)に分類される。
サンプル(検体)中に検出対象物質と類似した抗原性を有する物質(以下、類似抗原ということがある)が存在する場合、ヘテロジニアス法では問題を生じない程度の量であっても、ホモジニアス法では、測定結果に誤差を与えことがある。
【0004】
血液などのサンプルへの混入により類似抗原が含まれうるような検出対象物としてフィブロネクチンが挙げられる。フィブロネクチンは単一遺伝子から発現されるタンパク質ファミリーを構成し、血漿、ならびに結合組織、皮膚、結腸、肝臓、脾臓および腎臓を含む生体組織に様々なイソ型が存在することが知られている(Matsuura and Hakomori, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:6517−6521 (1985))。胎児組織および数種の腫瘍細胞は、「胎児性」または「癌胎児性」フィブロネクチンと総称されるフィブロネクチンのイソ型を含む。癌胎児性フィブロネクチン(以下、単に「fFN」ということがある)は妊娠していない婦人や妊娠22週以上で卵膜に障害のない妊婦の膣分泌液中にはほとんど存在しないが、細菌感染や物理的要因による卵膜の損傷や脆弱があると膣分泌液中に漏出する。よって、妊娠22〜33週の妊婦の膣分泌液中のfFN濃度は切迫早産傾向のマーカーとして有用である。なお、このような産科で検査する癌胎児性フィブロネクチンは、初期に「oncofetal fibronectin」と書かれており、日本語では「癌胎児性」フィブロネクチンと訳されて使用されてきた経緯があるが、現在では、「胎児性」フィブロネクチン(fetal fibronectin)という表現を使用する傾向にある。本発明では特段断りのない限り、「癌胎児性フィブロネクチン」という表現で統一する。
フィブロネクチンとは、上述のとおり単一遺伝子から発現されるタンパク質ファミリーであり、細胞外マトリックスを構成する分子量約500kDaの主要タンパク質である。fFNは血漿由来FN(以下、単に血漿FN、FNと略することがある)と同一のアミノ酸配列を有し、糖鎖結合部位だけが異なるという関係にある。fFNの糖含量はおよそ9.5%、血漿フィブロネクチンの糖含量は5.8%である。このように血漿FNとfFNとはアミノ酸配列が同一であり、現在特定されているfFN特異的なエピトープが1箇所のみであることから、fFNに特異的に反応し、血漿FNには完全に反応しないような抗体を2種以上取得するのは非常に困難である。
したがって、サンドイッチ複合体を形成するための2つの抗体としては、一方をfFNに特異的に結合し他のフィブロネクチンには結合しない抗体が必要であり、もう一方には、両方のフィブロネクチンに結合してしまう抗体を組み合わせる必要性も生じうる。
実際、出願人が、fFNにのみ特異的に結合するモノクローナル抗体を取得すべく、fFNに特有の糖鎖部位を含むペプチドを免疫原としてモノクローナル抗体の取得を試みたところ、取得できたモノクローナル抗体は、fFNに特異的に反応するものの、血漿FNにもわずかに交差反応を示す抗体であった。
【0005】
現在、fFNの体外診断用医薬品として既に流通している試薬としては、ELISA法を採用した試薬「イムノテスタ(登録商標)fFN」(積水メディカル社製)が知られている(非特許文献1)。
前記イムノテスタは、イムノプレートを使用する2ステップサンドイッチELISA法であり、洗浄工程を有するヘテロジニアス法である。当該試薬では、切迫早産リスクの目安としてカットオフ値が50ng/mLであるが、検体に血液が混入しても洗浄工程があることから、偽陽性反応を生じにくく臨床上の問題は生じない。
一方、イムノクロマトグラフィーを利用する検出方法は、洗浄工程を有しないホモジニアス法であるため特に血液混入等の影響を受けやすいという問題がある。例えば、0.1%以上の血液混入検体は、色調で識別可能であるが、0.1%未満の血液混入では目視による見分けは難しい。したがって、0.1%未満の血液混入時であっても、偽陽性の生じないような試薬が望まれる。
イムノクロマトグラフィーを利用したヒトfFNの検出方法としては、特許文献1、2が知られているものの、癌胎児性フィブロネクチンを特異的に測定するような試薬が実際に製品化されたものは存在しない。特許文献1は、一般的なイムノクロマトグラフィーを示す文献であり、検出対象として胎児性フィブロネクチンが挙げられているのみであり、特許文献2はfFNに対する抗体とバックグラウンド物質の非特異結合を抑制するためにBSAなどをサンプルに添加することが記載されている。
なお、上記特許文献1,2いずれにもfFNと他のフィブロネクチンとの抗原類似性に伴う課題について記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008-514900号公報
【特許文献2】特開2011-39068号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「イムノテスタ(登録商標)fFN」(積水メディカル株式会社)体外診断用医薬品の添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
類似抗原の混入可能性のあるサンプル中の検出対象物質をイムノクロマトグラフィーを利用して検出する場合には、類似抗原をも検出してしまい、測定値の誤差や偽陽性を示す結果が得られるという問題点がある。
特に、血液混入の可能性のあるサンプルのfFNをイムノクロマトグラフィーを利用して検出する場合には、血漿由来のフィブロネクチンをも検出してしまい、測定値の誤差や偽陽性を示す結果が得られるという問題点がある。
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、イムノクロマトグラフィーを利用した検出方法において、検出対象物の類似抗原成分との交差反応を抑制し、類似抗原の検出を低減し、測定値の誤差や偽陽性反応を防止するとともに、検出対象物の検出感度を維持あるいは向上させて正確な判断ができるようにすることを課題とする。
特に、fFNをイムノクロマトグラフィーを利用して検出する方法において、血液が混入しても測定誤差や偽陽性反応を生じにくく、fFNの検出感度を維持あるいは向上させて正確な判断ができるようにすることも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、緩衝液を特定のpH領域で使用する条件下で、検出対象物と検出対象物に特異的に結合する抗体を反応させると、類似抗原が共存した場合でも前記抗体と類似抗原との交差反応性を抑え、正確に検出対象物を検出できることを見出し本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は以下のとおりである。
<1>イムノクロマトグラフィーを利用した検出方法であって、(A)〜(C)の工程を含む検出方法。
(A)下記テストストリップのサンプル供給部に検出対象物質と検出対象物質に類似する物質を含み得るサンプルを供給する工程
テストストリップ;
少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、展開部の一部には、標識物質で標識された第一の抗体を含むコンジュゲートが溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であってコンジュゲート保持部分より下流側に第二の抗体が固定化されている検出部を有する
ここで、第一の抗体及び第二の抗体のいずれか一方が抗検出対象物質抗体であって、もう一方が検出対象物質に結合する抗体である
(B)サンプル中の検出対象物質をpH5.0〜6.7の緩衝液の存在下にコンジュゲートと接触させる工程
(C)サンプル中の検出対象物質とコンジュゲートの複合体を検出部において検出する工程
<2>検出対象物質が癌胎児性フィブロネクチンであり、検出対象物質に類似する物質が血漿フィブロネクチンである<1>に記載の検出方法。
<3>第一の抗体が抗フィブロネクチンモノクローナル抗体であり、第二の抗体が抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体である<2>に記載の検出方法。
<4>緩衝液が、リン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、HEPES、MOPS、PIPES及びTrisからなる群から選ばれるいずれか1種以上である<1>〜<3>のいずれかに記載の検出方法。
<5>緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである<1>〜<4>のいずれかに記載の検出方法。
<6>標識物質が金コロイドである、<1>〜<5>のいずれかに記載の検出方法。
<7>以下の構成(1)および(2)を含む、イムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
(1)少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、展開部の一部には、標識物質で標識された第一の抗体を含むコンジュゲートが溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であって前記コンジュゲート保持部分より下流側に、第二の抗体が固定化されている検出部を有する
ここで、第一の抗体及び第二の抗体のいずれか一方が抗検出対象物質抗体であって、もう一方が検出対象物質に結合する抗体である。
(2)サンプル供給部から、展開部の検出部までのすくなくとも一部にpH5.0〜6.7の緩衝液成分が含まれている
<8>サンプルパッド、コンジュゲートパッド、および抗体固定化メンブレンを上から順に配置し、サンプルパッドがサンプル供給部を含み、コンジュゲートパッドがコンジュゲート保持部分および緩衝液成分を含み、抗体固定化メンブレンが検出部を含む<7>に記載のテストストリップ。
<9>コンジュゲートパッドと抗体固定化メンブレンの間にさらにサードパッドを含む<7>または<8>に記載のテストストリップ。
<10>検出対象物質が癌胎児性フィブロネクチンであり、検出対象物質に類似する物質が血漿フィブロネクチンであり、第一の抗体及び第二の抗体のいずれか一方が抗フィブロネクチンモノクローナル抗体であって、もう一方が抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体である<7>〜<9>のいずれかに記載のテストストリップ。
<11>第一の抗体が抗フィブロネクチンモノクローナル抗体であり、第二の抗体が抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体である<10>に記載のテストストリップ。
<12>緩衝液が、リン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、HEPES、MOPS、PIPES及びTrisからなる群から選ばれるいずれか1種以上である<7>〜<11>のいずれかに記載のテストストリップ。
<13>緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである<7>〜<12>のいずれかに記載のテストストリップ。
<14>標識物質が金コロイドである、<7>〜<13>のいずれかに記載のテストストリップ。
<15>以下の構成(1)および(2)を含む、イムノクロマトグラフィー用検出キット。
(1)少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、展開部の一部には、標識物質で標識された第一の抗体を含むコンジュゲートが溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であって前記コンジュゲート保持部分より下流側に、第二の抗体が固定化されている検出部を有するイムノクロマトグラフィー用テストストリップ
ここで、第一の抗体及び第二の抗体のいずれか一方が抗検出対象物質抗体であって、もう一方が検出対象物質に結合する抗体である。
(2)pH5.0〜6.7の緩衝液
<16>検出対象物質が癌胎児性フィブロネクチンであり、検出対象物質に類似する物質が血漿フィブロネクチンであり、第一の抗体及び第二の抗体のいずれか一方が抗フィブロネクチンモノクローナル抗体であって、もう一方が抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体である<15>に記載の検出キット。
<17>緩衝液を展開液又は検体抽出液として使用する<15>又は<16>に記載の検出キット。
<18>緩衝液がリン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、HEPES、MOPS、PIPES及びTrisからなる群から選ばれるいずれか1種以上である<15>〜<17>のいずれか記載の検出キット。
<19>緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである<15>〜<18>のいずれかに記載の検出キット。
<20>イムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いてサンプル中の検出対象物質を検出する方法における、検出対象物質と類似する物質の交差反応を低減化する方法であって、
以下の工程を有する前記方法。
(A)下記テストストリップのサンプル供給部に検出対象物質と検出対象物質に類似する物質を含み得るサンプルを供給する工程
テストストリップ;
少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、展開部の一部には、標識物質で標識された第一の抗体を含むコンジュゲートが溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であってコンジュゲート保持部分より下流側に第二の抗体が固定化されている検出部を有する
ここで、第一の抗体及び第二の抗体のいずれか一方が抗検出対象物質抗体であって、もう一方が検出対象物質に結合する抗体である
(B)サンプル中の検出対象物質をpH5.0〜pH6.7の緩衝液の存在下にコンジュゲートと接触させる工程
(C)サンプル中の検出対象物質とコンジュゲートの複合体を検出部において検出する工程
<21>検出対象物質が癌胎児性フィブロネクチンであり、検出対象物質に類似する物質が血漿フィブロネクチンである<20>に記載の方法。
<22>第一の抗体が抗フィブロネクチンモノクローナル抗体であり、第二の抗体が抗癌胎児性フィブロネクチンモノクローナル抗体である<21>に記載の方法。
<23>緩衝液が、リン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、HEPES、MOPS、PIPES及びTrisからなる群から選ばれるいずれか1種以上である<20>〜<22>のいずれかに記載の方法。
<24>緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである<20>〜<23>のいずれかに記載の方法。
<25>標識物質が金コロイドである、<20>〜<24>のいずれかに記載の方法。
<26>
癌胎児性フィブロネクチン検出のためのイムノクロマトグラフィー用展開液であって、下記(1)及び(2)を含む前記展開液。
(1)pH5.0〜pH6.7の緩衝液
(2)標識物質で標識された第一の抗体を含むコンジュゲート
<27>緩衝液の濃度が、20mmol/L〜80mmol/Lである<26>に記載の展開液。
<28>pH5.0〜pH6.7の緩衝液を含有する癌胎児性フィブロネクチン検出用検体抽出液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イムノクロマト法において、類似抗原が存在した場合でも、検出対象物に対する抗体と類似抗原との交差反応を低減し、測定値の誤差や偽陽性反応を防止するとともに、分析対象物の検出感度を維持あるいは向上させて正確な判断ができるようになった。
特に、癌胎児性フィブロネクチン(fFN)をイムノクロマトグラフィーを利用して検出する方法において、血液が混入しても測定誤差や偽陽性を生じにくく、fFNの検出感度を維持あるいは向上させて正確な判断ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの一例を示す模式構造図である。
図2】pHの違いによる血漿フィブロネクチンとの交差反応への影響を確認した試験結果を示すグラフである。(実施例1、pH5.5,6.0.7.0)
図3】リン酸バッファー(pH6.0)におけるバッファー濃度の違いによる血漿フィブロネクチンとの交差反応への影響を確認した試験結果を示すグラフである。(実施例2)
図4】リン酸バッファーにおけるバッファー濃度・pHの違いによる血漿フィブロネクチンとの交差反応への影響を確認した試験結果を示すグラフである。(実施例3)
図5】ADAバッファーにおけるバッファー濃度・pHの違いによる血漿フィブロネクチンとの交差反応への影響を確認した試験結果を示すグラフである。(実施例3)
図6】MESバッファーにおけるバッファー濃度・pHの違いによる血漿フィブロネクチンとの交差反応への影響を確認した試験結果を示すグラフである。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において「サンプル」とは、尿、リンパ、血液、血漿、血清、唾液、精漿、洗浄液、子宮頸分泌液、頸膣分泌液、膣分泌液、乳房分泌液、母乳、滑液、精液、精漿、便、痰、脳脊髄液、涙、粘液、間質液、卵胞液、羊水、眼房水、硝子体液、腹腔液、腹水、汗、リンパ液、および肺痰のいずれであってもよい。
そして、前記検体から遠心分離、ろ過、精製などの手段により分離・分画された成分、有機溶媒などにより抽出された成分、界面活性剤などにより可溶化された成分、緩衝液などにより希釈された成分、化学反応などにより修飾・改変された成分なども本発明の検体に含まれる。
本願明細書中、「検体」と「サンプル」とは同義で用いられ、本発明のイムノクロマトグラフィーの固相に添加、展開する時点で液体(流体)である。
【0013】
本発明の検出対象物とは、上記「サンプル」に含まれる成分であって、例えば、フィブロネクチン、fFN、フィブリン分解産物(例えばDダイマー)、可溶性フィブリン、TAT(トロンビン−アンチトロンビン複合体)、PIC(プラスミン−プラスミンインヒビター複合体)などの凝固・線溶マーカー、酸化LDL、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)などの循環関連マーカー、アディポネクチンなどの代謝関連マーカー、CEA(癌胎児性抗原)、AFP(α−フェトプロテイン)、CA19−9、CA125、PSA(前立腺特異抗原)などの腫瘍マーカー、CRP(C反応性蛋白)、IgA、IgG、IgMなどの炎症関係マーカー、インフルエンザ、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、HBV(B型肝炎ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)、トキソプラズマ、クラミジア、梅毒などの感染症関連マーカー、アレルゲン特異IgE(免疫グロブリンE)、ホルモン、薬物、SNPs(一塩基多型)に係わる核酸鎖及びその断片、該核酸鎖の相補鎖、などが例示される。
このうちでも、検出対象物質は、検出対象物質と類似する抗原がサンプル中に存在しうるような抗原が好ましく、検出対象物と類似する抗原のアミノ酸配列が同一あるいは同一性が極めて高い(80%以上、望ましくは90%以上、より望ましくは95%以上などの)関係にある抗原が望ましい。このような抗原としてタンパク質ファミリーの存在するフィブロネクチンが好ましく、癌胎児性フィブロネクチン(fFN)が本発明の最も好ましい検出対象である。
【0014】
(特定の緩衝液)
本発明の緩衝液は、イムノクロマトグラフィーを利用して検出する方法において、分析対象物と類似する抗原が存在した場合でも、検出対象物に対する抗体と類似抗原との交差反応を低減する作用および分析対象物の検出感度を維持あるいは向上させる作用を有することを必要とする。
検出対象物をfFN、類似抗原を血漿FNとした場合を例にとると、本発明の緩衝液は、サンプル中の血漿FNと抗fFN抗体との交差反応を抑制する作用およびfFNの検出感度を維持あるいは向上させる作用を有する必要がある。
そのような作用を有する緩衝液としては、pHが5.0〜6.7の緩衝液が挙げられ、好ましくは、5.0〜6.5の緩衝液、より好ましくは5.5〜6.5の緩衝液、更により好ましくは5.5〜6.0の緩衝液である。これらの緩衝液について、類似する抗原性を有する2種類の抗原の一方のみと特異的抗体が結合する反応を維持あるいは促進し、もう一方の抗原との交差反応性を抑制する方向に作用するという機能は知られていない。
上記緩衝液としては、リン酸、ADA、MES、ACES、Bis−Tris、クエン酸、MOPS、PIPES及びTris緩衝液等が挙げられる。このうちでも好ましくは、リン酸、ADA、MES、Bis−Tris、クエン酸である。
【0015】
これら緩衝液成分の緩衝液中の濃度は、検出対象物とこれに対する特異的抗体の反応以外の交差反応を抑えることができる量であればよく、例えばサンプルパッド、コンジュゲートパッドの片方、または両方について、パッドに浸み込ませる溶液中に10mmol/L以上、好適な範囲としては10〜100mmol/L、10〜90mmol/L、20〜80mmol/L、20〜70mmol/L、20〜60mmol/L、20〜50mmol/L、20〜40mmol/Lが挙げられる。
【0016】
本発明の特定の緩衝液の使用態様としては、イムノクロマトグラフィー用のテストストリップにおいてサンプル供給部から、展開部であって検出部位まで、の少なくとも一部に検体成分と接触可能に含浸されていればよい。より好ましくは、サンプル供給部から、展開部であってコンジュゲート固定化部位まで、の少なくとも一部である。したがって、サンプル供給部のみでもよく、またサンプル供給部から展開部までの全ての部位であってもよい。緩衝液をサンプル供給部および/またはコンジュゲートパッドに含ませた態様には、液状の緩衝液がパッドに含まれている態様のほかに、緩衝液をパッドに含浸させた後、乾燥させて緩衝液成分が乾燥状態でパッドに付着している態様も含まれる。
【0017】
また、本発明の特定の緩衝液は、検体抽出液として使用することもできる。この場合も緩衝液の濃度は、検体抽出液中に10mmol/L以上、好適には20〜80mmol/L含まれていることが望ましい。pHは、検体抽出液中で5.0〜6.7が有効であり、好ましくは、5.0〜6.5、より好ましくは5.5〜6.5、更により好ましくは5.5〜6.0である。
本発明において、上述のとおり、緩衝液を特定のpH領域で使用することが必要であるが、その他の目的で上記以外の他の緩衝液または上記以外の他の使用態様にて使用することを妨げるものではない。例えば、サンプル供給部から展開部のコンジュゲート固定化部位まで本発明の緩衝液を含浸させ、展開部の抗体固定化部位は上記以外の緩衝液を含浸させる態様とすることも本発明の範囲内に含まれることは言うまでもない。
【0018】
(イムノクロマトグラフィー用テストストリップ)
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、少なくとも「サンプル供給部」、「展開部」、「検出部」とを備えた多孔質体からなるメンブレンであって、検出対象物に対する標識抗体が、サンプルとの接触後に展開部を通過して検出部に到達できるよう、展開部の展開開始部位に溶出可能に保持され、さらに固定化抗体が展開部の一部に固定化され検出部を構成する構造を有している。
これらを具現化する一例として、サンプル供給部を担うサンプルパッド、検出対象物に対する標識抗体が溶出可能に保持され、展開部を担うコンジュゲートパッド、固定化抗体が一部に固定化され、展開部および検出部を担う不溶性メンブレン、を含むテストストリップが挙げられる。すなわち、本発明の典型的なイムノクロマトグラフィー用テストストリップは以下の構成を有する。
(1)サンプルが供給されるサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流に配置され、金コロイド表面に第一の抗体が感作されたコンジュゲートが溶出可能に保持されたコンジュゲートパッド
(3)コンジュゲートパッドの下流に配置され、コンジュゲートと検出対象物との複合体と結合する第二の抗体が固定化された不溶性メンブレン
ここで、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、不溶性メンブレンはそれぞれが別々の担体を構成する場合、あるいは2つが1つの担体を構成する場合もあり、サンプルの流れ方向の上流から下流に向かって、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、不溶性メンブレンの順序で構成されるものであればいずれの態様も含まれる。
イムノクロマトグラフィー用テストストリップは、上記構成のほかに、吸収パッド、サードパッドのいずれか一以上をさらに配置装着されたものも含む。該テストストリップは、通常、プラスチック製粘着シートのような固相支持体上に配列させる。該固相支持体を、サンプルの毛管流を妨げない物質で構成することはもとより、接着剤の成分をサンプルの毛管流を妨げない物質とすることは明らかである。なお、抗体固定化メンブレンの機械的強度を上げ且つアッセイ中の水分の蒸発(乾燥)を防ぐ目的でポリエステルフィルムなどをラミネート加工することも可能である。
【0019】
(標識体)
本発明に用いる標識体としては、金属コロイド粒子(金コロイドなど)や着色粒子(着色ラテックスなど)などの可視化可能な微小粒子、磁性粒子、蛍光粒子、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼなどの酵素、ヨウ素125などの放射性同位元素、アクリジニウム化合物、ルミノールなどの発光物質、フルオレセインイソチオシアネートあるいはユーロピウム(III)キレートなどの蛍光物質などが知られており、好ましくは、金属コロイド、着色ラテックスである。抗体等への標識方法(標識物質の導入・結合方法)も公知の方法を制限なく使用することができる。
金コロイドは、抗体を感作(固定化)させてコンジュゲートを構成することができ、サンプルと接触させてサンプル中の対象物(抗原)を検出する方法において標識体としての役割を担うことができるような金コロイドであればいずれでもよい。
金コロイドとしては、金コロイドのほかに白金コロイドも本発明の金コロイドに含まれるものとする。
金コロイド粒子の粒径は、検出感度に大きく影響することが知られているが、たとえば、イムノクロマトグラフィー用テストストリップに保持させて使用する場合、金コロイド粒子の粒径としては、20〜60nmが好ましく、より好ましくは40〜60nmであり、特に45〜55nmが好ましい。上記の金コロイドは一般に知られている方法、例えば、加熱したテトラクロロ金(III)酸水溶液にクエン酸三ナトリウム水溶液やクエン酸三アンモニウム水溶液を滴下攪拌することによって製造することができる。
【0020】
(金コロイドへの抗体の感作)
検出対象物に対する抗体の金コロイドへの固定化は、通常、物理吸着によって行う。この際、抗体濃度は1〜5μg/mL緩衝液の濃度に調製されるのが好ましい。緩衝液の種類とpHは、2〜10mmol/L Tris緩衝液(pH7〜9)等を用いるが、他の緩衝液の使用も含め、これに限定されるものではない。本明細書では、上記のような金コロイドに検出対象物に対する抗体、またはコントロール用抗体(あるいは抗原)が固定化されたものを「コンジュゲート」という。
【0021】
(ブロッキング)
本発明のコンジュゲートは、金コロイド表面において抗体が結合していない領域をブロッキング剤によりブロッキングすることもできる。
金コロイドコンジュゲートのブロッキング剤としては、生物由来成分、非生物由来成分が用いられ、生物由来成分としては、生物に由来する成分であってブロッキング作用を有する成分であればいずれでもよく、たとえば動物性タンパクおよび動物性タンパク由来のペプチドが挙げられる。具体的には、牛血清アルブミンであるBSA、微生物由来であるBlocking Peptide Fragment(TOYOBO製)、絹タンパク質由来(セリシンの加水分解物)であるNEO PROTEIN SAVER(TOYOBO製)、StartingBlockTM(PBS)Blocking Buffer(PIERCE製)、Stabil CoatTM(SurModics社製)、Caseinが挙げられる。
生物由来成分の濃度としては、使用する成分により適宜決定すれば良い。例えば、1OD/mLに調整した金コロイド溶液に抗体液を加えて混合した後、該混合液に前記の生物由来成分を、終濃度が0.1〜10%の範囲で添加することによりブロッキングするものであり、より好ましくは0.2〜5%の範囲で使用する。
このほかに、非生物由来成分と生物由来成分の両者を混合したものを金コロイドのブロッキング剤として用いることもできる。
【0022】
なお、本明細書において、「検出」又は「測定」という用語は、検出対象の存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0023】
(検体抽出液)
本発明において、サンプル中の検出対象物の濃度に応じて、サンプルの抽出が必要な場合は、検体抽出液を用いることがある。検体抽出液は、抗原抗体反応を著しく阻害したり、または反対に著しく反応を促進して標識体が過凝集するために毛細管現象における展開不良を起こしたり、抗原濃度に応じた抗原抗体反応のシグナル検出が不可能にさえならなければ、いずれの組成の抽出液を用いても良い。
このような作用を有する検体抽出液としては、例えば、精製水、生理食塩水、低濃度の緩衝液、例えば10〜20mmol/Lリン酸緩衝液や10〜20mmol/L Tris−HCl緩衝液、10〜20mmol/L Bis−Tris緩衝液が挙げられる。また、サンプルのストリップでの展開速度を制御する目的で、これらの抽出液に界面活性剤を添加することも可能である。
また、本発明の検体抽出液には、前述のとおり、検出対象物とこれに対する特異的抗体の反応以外の交差反応を抑える能力を有する緩衝液を含ませておくこともできる。この場合、上記緩衝液に換えて本発明の特定の緩衝液を検体抽出液として用いる。
【0024】
(展開液)
本発明において、展開液とは、イムノクロマトグラフィー用テストストリップ上を展開する検体液及びコンジュゲートパッド成分の混合溶液をいう。テストストリップがサンプルパッドを備える場合には、サンプルパッド成分を含んでもよく、さらに、抗体固相化メンブレン成分を含んでもよい。
また、本発明の展開液には、上記本発明の特定の緩衝液を含ませることもできる。この場合、pHおよび濃度は上述の特定の緩衝液と同じ範囲である。すなわち、pHが5.0〜6.7の緩衝液であり、好ましくは、5.0〜6.5、より好ましくは5.5〜6.5、更により好ましくは5.5〜6.0である。展開液中の緩衝液中の濃度は、10mmol/L以上、好適には20〜80mmol/L含まれていることが望ましい。
【0025】
(サンプルパッド)
本発明において、「サンプルパッド」とは、サンプルを受け入れるサンプル供給部を担う部位であり、パッドに成型された状態で液体のサンプルを吸収し、液体と検出対象物の成分とが通り抜けることができる物質及び形態であればいずれのものをも含む。
その場合、サンプルパッドの少なくとも一部に含まれていればよく、全部に含ませておくこともできる。
また、本発明のサンプルパッドには、前述のとおり、本発明の緩衝液を含ませておくこともできる。その場合、サンプルパッドの少なくとも一部に含まれていればよく、全部に含ませることもできる。
サンプルパッドに適した材料の具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。該サンプルパッドには、後述するコンジュゲートパッドの機能を併せ持たせることも出来る。また、サンプルパッドには、本発明の目的を逸脱せず、反応系に影響のない範囲において、必要に応じ通常使用されるブロッキング試薬を含ませることもできる。
【0026】
(コンジュゲートパッド)
本発明において、「コンジュゲートパッド」とは、検出対象物と特異的に反応する検出試薬を後述のコンジュゲートパッドに適した材料に含浸させて乾燥させたものである。コンジュゲートパッドは、サンプルが該コンジュゲートパッドを通過する際、検出試薬と検出対象物とが複合体を形成する機能を有する。該コンジュゲートパッドは、それ単独で抗体固定化メンブレンに接するように配置されていてもよい。あるいは、前記サンプルパッドと接触して配置され、毛細管流によってサンプルパッドを通過したサンプルを受入れ、引き続き該サンプルを毛細管流によって前記サンプルパッドとの接触面とは異なる面で接触する別のパッド(以下、「3rd Pad」ということがある)に移送するように配置してもよい。なお、サンプルパッド、コンジュゲートパッドの一種以上の部位の選択や、選択された部位を抗体固定化メンブレンにどのように配置するかは、適宜に変更可能である。
また、本発明のコンジュゲートパッドには、前述のとおり、緩衝液を含ませておくこともできる。その場合、コンジュゲートパッドの少なくともコンジュゲートが固定化されている部位の上流を含む一部に含まれていればよく、全部に含ませることもできる。
該コンジュゲートパッドに適した材料として、紙、セルロース混合物、ニトロセルロース、ポリエステル、アクリロニトリルコポリマー、ガラス繊維またはレーヨンのような不織繊維が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。
該コンジュゲートパッドには、必要に応じて、イムノクロマトグラフィーの信頼性を担保するための「コントロール試薬」、例えば、標識体で標識されたサンプル成分とは反応しない抗体や標識体で標識されたKLH(スカシ貝ヘモシアニン)などの高抗原性タンパク質などを含み得る。これらのコントロール試薬は、サンプル中に存在する可能性が考えられない成分(物質)であり、適宜に選択可能である。
【0027】
(サードパッド)
本発明において、サードパッドとは、サンプルと検出試薬との反応成分のうち、検出対象物の検出に不要な成分を除去し、反応に必要な成分が、抗体が固定化された不溶性メンブレンをスムーズに展開できるようにすることを目的として配置させることができる。
例えば、血球や不溶性の血球破砕物などは、検出に不要な成分として除去されることが望ましい。また、このサードパッドには、抗原抗体反応により生成する凝集体のうち、抗体固定化メンブレンに移動し、スムーズに展開できない位に大きくなった凝集体をあらかじめ除去するという付加的な効果を併せ持たせることも可能である。サードパッドとしては、液体と検出対象の成分とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。
具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。
また、本発明のサードパッドには、前述のとおり、緩衝液を含ませておくこともできる。その場合、サードパッドの少なくとも一部に含まれていればよく、全部に含ませることもできる。
【0028】
(抗体の不溶性メンブレンへの固定化)
本発明のイムノクロマト試薬における検出対象物に対する抗体の不溶性メンブレンへの固定化は、一般に周知の方法で実施することができる。例えば、フロースルー式の場合、上記の抗体を所定の濃度に調製し、その液を一定量、点あるいは+など特定のシンボル状に、不溶性メンブレンに塗布する。またこの際、イムノクロマトグラフィーの信頼性を担保するため、コンジュゲートと結合できるタンパク質あるいは化合物を、検出対象物に対する抗体とは異なる位置に固定化して「コントロールライン」とすることが一般的である。また、前記のコントロール試薬に対する抗体を検出対象物に対する抗体とは異なる位置に固定化して「コントロールライン」とすることもできる。
【0029】
ラテラルフロー式の場合には、上記の抗体を所定の濃度に調製しその液をノズルから一定の速度で吐出しながら水平方向に移動させることのできる機構を有する装置などを用いて、ライン状に不溶性メンブレンに塗布することにより行われる。この際、抗体の濃度は0.1〜5mg/mLが好ましく、0.5〜3mg/mLがさらに好適である。また、抗体の不溶性メンブレンの固定化量は、フロースルー式の場合には不溶性メンブレンに滴下する塗付量を調節することによって最適化でき、ラテラルフロー式の場合には上記の装置のノズルからの吐出速度を調節することによって最適化できる。特に、ラテラルフロー式の場合、0.5〜2μL/cmが好適である。なお、本発明において、「フロースルー式メンブレンアッセイ」という場合は、サンプル液等が不溶性メンブレンに対して垂直に通過するように展開する方式を指し、「ラテラルフロー式メンブレンアッセイ」という場合は、サンプル液等が不溶性メンブレンに対して並行方向に移動するように展開する方式を指す。
【0030】
また、本発明において、対象物に対する抗体の不溶性メンブレンへの塗付位置については、ラテラルフロー式の場合、コンジュゲートパッドから、上記検出試薬が毛細管現象によって展開し、それぞれの抗体が塗付されたラインを順に通過するように配置されれば良い。好ましくは検出対象物に対する抗体の塗付されたラインが上流にあり、コントロール抗体の塗付されたラインはその下流に位置するように配置するのが好ましい。この際、それぞれのライン間の距離は標識体のシグナル検出が可能であるように十分の距離をとることが望ましい。フロースルー式の場合にも、対象物に対する抗体の塗付位置は標識体のシグナル検出が可能であるように配置されていれば良い。
【0031】
上記の不溶性メンブレンへ塗付する抗体液は、通常所定の緩衝液を用いて調製することができる。その緩衝液の種類としては、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液など通常使用される緩衝液を挙げることができる。緩衝液のpHは、6.0〜11の範囲が好ましく、使用する抗体の性質に応じ適宜設定すれば良い。例えば、後述の抗fFNモノクローナル抗体ではpH7.2の緩衝液が使用できる。
緩衝液には、さらにNaClなどの塩類、スクロースなどの安定剤や保存剤、プロクリンなどの防腐剤等を含んでもよい。塩類はNaClなどのようにイオン強度の調整のために含ませるもののほか、水酸化ナトリウムなど緩衝液のpHを調整する工程で添加するようになるものも含まれる。不溶性メンブレンに抗体を固定化した後、さらに、通常使用されるブロッキング剤を溶液あるいは蒸気状にして抗体固定化部位以外を被覆し、ブロッキングを行うこともできる。本明細書では、上記のように抗体が固定化された不溶性メンブレンを「抗体固定化メンブレン」ということがある。
【0032】
(不溶性メンブレン)
本発明において、不溶性メンブレン(以下、単にメンブレンと記載することがある)としては、任意の材質のものが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン類、ガラス、セルロースやセルロース誘導体などの多糖類あるいはセラミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。具体的には、メルク社、東洋濾紙社、ワットマン社などより販売されているガラス繊維ろ紙やセルロースろ紙などをあげることができる。また、この不溶性メンブレンの孔径と構造を適宜選択することにより、金コロイド標識抗体と対象物との免疫複合体がメンブレン中を流れる速度を制御することが可能である。メンブレン中を流れる速度の制御により、メンブレンに固定化された上記抗体に結合する標識抗体量を調節することができるため、メンブレンの孔径と構造は、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップのほかの構成材料との組み合わせを考慮して最適化することが望ましい。
また、本発明の不溶性メンブレンには、前述のとおり、緩衝液を含ませておくこともできる。その場合、不溶性メンブレンのうち抗体が固定化された検出部位より上流の少なくとも一部に含まれていればよく、全部に含ませることもできる。
【0033】
(吸収パッド)
本発明において、吸収パッドとは、不溶性メンブレンを移動・通過したサンプルを吸収することにより、サンプルの展開を制御する液体吸収性を有する部位である。ラテラルフロー式においては、ストリップ構成の最下流に設ければよく、フロースルー式においては、例えば抗体固定化メンブレンの下部に設ければよい。該吸収パッドとしては、例えば、ろ紙を用いることができるが、これに限定されない。
【0034】
(検出デバイス)
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、ストリップの大きさや、サンプルの添加方法・位置、抗体固定化メンブレンにおける抗体の固定化位置、シグナルの検出方法などを考慮した適当な容器(ハウジング)に格納・搭載して使用することができ、このように格納・搭載された状態を「デバイス」という。
【0035】
(その他)
本明細書において、「不溶性メンブレン」を「固相」、抗原や抗体を不溶性メンブレンに物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」、「感作」、「吸着」と表現することがある。
【0036】
(本発明で用いられる抗体)
本発明に用いられる検出対象物に対する抗体は、検出対象物に対して特異的に反応する抗体であれば、作製する方法によって何ら限定されるものではなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。一般的に当該抗体を産生するハイブリドーマは、KohlerとMilsteinの方法(Nature、第256巻495頁(1975年)参照)に準じ、検出対象物を免疫原として免疫した動物の脾臓細胞と同種のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを細胞融合して作製することができる。
ここで、いわゆるサンドイッチの形成により検出対象物を検出する測定法において用いられる抗体がモノクローナル抗体の場合、コンジュゲートに含まれる標識物質で標識される抗体(第一の抗体)と展開部に固定化される不溶性メンブレン固定化用抗体(第二の抗体)の関係は、第二の抗体のエピトープは第一の抗体と異なるものが用いられる。第一の抗体又は第二の抗体のいずれか一方が抗検出対象物質抗体であり、もう一方が検出対象物に結合する抗体であることが望ましく、さらに望ましくは第一の抗体が検出対象物に結合する抗体であり、第二の抗体が抗検出対象物抗体である。検出対象物に結合する抗体とは、検出対象物に結合する抗体であればよく、検体に混入する可能性のある検出対象物に類似する抗原に対して結合するものであってもよい。
後述する実施例1では検出対象のタンパク質としてfFN、これに類似する抗原として血漿FNを想定し、fFNに特異的に結合し血漿FNには結合しない抗fFNモノクローナル抗体(以下、抗fFNモノクローナル抗体という)および、fFNにも血漿FNにも結合する抗フィブロネクチン抗体(以下、抗FN抗体という)を使用している。
fFNと血漿FNは、同じアミノ酸配列を有し、糖鎖含有量のみが異なる糖タンパク質である。ここで、fFNを含む検体である妊婦の膣分泌物等の採取には、血液が混入する可能性があることから、検体に血漿FNとfFNの両方が含まれることになる。fFNに特異的な抗体は糖鎖部分の違いを認識する抗体のため、2種類得ることが難しくこのため、サンドイッチイムノクロマトに利用する場合には、片方が抗癌胎児性モノクローナル抗体であり、もう片方が抗FNモノクローナル抗体の2種類の抗体で測定系を構築する必要がある場合がある。
本発明で使用した抗fFNモノクローナル抗体は、fFN特有の糖鎖結合部位を含む糖鎖ペプチドを合成し、カルボジイミド法によりトランスフェリンまたはOVAに結合したものを免疫原としてフットパッド免疫と皮下免疫により得られたfFNに特異的に反応するモノクローナル抗体である。また、本発明で使用した抗FNモノクローナル抗体は、血漿FNの全長タンパク質を免疫原として同様に免疫することにより得られた癌胎児性FNおよび血漿由来FNのいずれにも反応するモノクローナル抗体である。
本発明はこれらに限らず、市販の抗FNモノクローナル抗体および抗fFNモノクローナル抗体を用いてもよい。市販の抗FNモノクローナル抗体の例としては、Anti-Human Fibronectin, Monoclonal (Clone FN12-8)、Anti-Human Fibronectin, Monoclonal (Clone FN30-8)(タカラバイオ社製)、が挙げられる(尚、モノクローナル抗体は便宜上それぞれを産生するハイブリドーマのクローン名で表すことがある。以下同じ)。
癌胎児性フィブロネクチンを検出する場合、第一の抗体又は第二の抗体のいずれか一方が抗fFNモノクローナル抗体であり、もう一方が抗FNモノクローナル抗体であることが望ましく、さらに望ましくは第一の抗体が抗FNモノクローナル抗体であり、第二の抗体が抗fFNモノクローナル抗体である。
【0037】
(抗fFNモノクローナル抗体、抗FNモノクローナル抗体の調製例)
以下の試験に用いた抗fFNモノクローナル抗体(Clone#90204)は、fFNペプチド断片結合OVAまたfFNペプチド断片結合トランスフェリンをマウスに免疫することにより、また、抗FNモノクローナル抗体(Clone#90412)は、血漿フィブロネクチンの全長タンパク質をマウスに免疫することにより、当業者がモノクローナル抗体を製造するために通常行う方法(KohlerとMilsteinの方法(Nature、第256巻495頁(1975年)等)により得られた。
【0038】
(測定)
金コロイドに由来するシグナルを定量する方法としては、公知の方法に従って行えばよく、吸光度あるいは反射光強度を測定すればよい。この吸光度もしくは反射光強度の変化量を既知濃度のサンプルの検量線に外挿して、対象物の濃度を測定することもできる。
【0039】
(キット)
イムノクロマトテストストリップと検体抽出液、使用説明書、などのいずれか一以上と組み合わせてキットとして使用することもできる。この場合、本発明の緩衝液成分は、イムノクロマトテストストリップのコンジュゲートパッド、サンプルパッド、検体抽出液のいずれか1以上にふくまれていればよい。
【0040】
(イムノクロマトグラフィーを利用した検出方法)
本発明のイムノクロマトグラフィーを利用した検出方法は、少なくとも以下の(A)〜(C)の工程を有する方法であるが、以下、検出対象物をfFN、類似抗原を血漿FNとした場合を例に典型的な検出方法を説明する。
(A)少なくともサンプル供給部、展開部および検出部とを備えた多孔質体からなるメンブレンを有し、
展開部の一部には、金コロイドで標識された抗FN抗体(コンジュゲート)が溶出可能に保持され、さらに展開部の一部であってコンジュゲート保持部分より下流側に、抗fFN抗体が固定化されている検出部を有するテストストリップのサンプル供給部にサンプルを供給する工程
(B)サンプル(検体)を前記コンジュゲートと接触させる工程であって、サンプル中の血漿FNと抗fFN抗体との交差反応を抑制する能力を有する緩衝液の存在下に行う工程
(C)(B)の工程により得られた、サンプル成分中のfFNと金コロイドで標識された抗FN抗体(コンジュゲート)の複合体、を抗fFN抗体が固定化されている検出部において検出する工程
【実施例】
【0041】
〔試験例1〕本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの作製
1.金コロイド標識抗FN抗体溶液調製
以下の手順で行った。
(i)50nm金コロイド原液を精製水にて1.0 ODとなるよう希釈し、0.2M炭酸カリウム水溶液でpH8.5に調整した。
(ii)抗血漿FNマウスモノクローナル抗体(clone#90412)を80μg/mL、5mMホウ酸となるように希釈した。
(iii)BSAを精製水にて10%溶液となるよう溶解した。
(iv)20mLの(i)に、攪拌しながら1mLの(ii)を添加し、10分間攪拌した。
(v)(iv)に攪拌しながら2mLの(iii)を添加し、5分間攪拌した。
(vi)(v)を10°C、10,000rpmで45分間遠心し、上清を吸引除去後1mLのコンジュゲート希釈液(Buffer Conjugate Dilution、SCRIPPS社)で沈殿を懸濁し、金コロイド標識抗FN抗体溶液(抗FN抗体コンジュゲート)を得た。
(vii)(vi)を45°Cで18時間加温した。
【0042】
2.コンジュゲートパッド作製
上記1.で調製した金コロイド標識抗FN抗体溶液を3.75 OD/mLとなるように、それぞれ、2.0%BSA、2.4%ラクトース溶液を含む20mMリン酸一ナトリウム水溶液と混合してコンジュゲート溶液(pH7)を作製し、クッキーシート上でグラスファイバー製パッドに66.93μL/cmの割合で浸透させ、70°Cのドライオーブンで45分間乾燥したものをコンジュゲートパッドとして用いた。
【0043】
3.サンプルパッド作製
20mMリン酸一ナトリウム水溶液(pH7)をクッキーシート上でグラスファイバー製パッドに62.99μL/cmの割合で浸透させ、70°Cのドライオーブンで45分間乾燥したものをサンプルパッドとして用いた。
【0044】
4.抗fFN抗体、抗マウスIgG抗体メンブレン塗布液調製
(i)抗fFN抗体メンブレン塗布液調製
抗fFNマウスモノクローナル抗体(clone#90204)を抗体濃度2.0mg/mLとなるように2.5% Sucroseを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.2)で希釈し、抗fFN抗体メンブレン塗布液とした。
(ii)抗マウスIgG抗体メンブレン塗布液調製
抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体(Jackson Immuno Research Laboratories) を上記(i)と同様に、抗体濃度0.5mg/mLとなるように2.5%Sucroseを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.2)で希釈し、抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体メンブレン塗布液とした。
【0045】
5.抗体固相化メンブレン作製
イムノクロマト用ディスペンサーXYZ3000(BIO DOT社) を用い、ニトロセルロースメンブレン(Hi-Flow Plus HF180 (Merck Millipore))の下端より11mmの位置に抗fFN抗体メンブレン塗布液、15mmの位置に抗マウスIgG抗体メンブレン塗布液を1.0μL/cmで塗布し、70°Cのドライオーブンで45分間乾燥し抗体固定化メンブレンとした。
【0046】
6.テストデバイス作製
プラスチック製粘着シート(g)に上記抗体固定化メンブレン(d)を貼り、展開上流部側に抗fFN抗体(e)、次いでコントロール試薬である抗マウスIgG抗体(j)の順に塗布部を配置し、さらにサードパッド(c)を装着した。次いで、上記で作製したコンジュゲートパッド(b)を配置装着し、さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記で作製したサンプルパッド(a)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(f)を配置装着した。抗体固定化メンブレンと吸収パッド表面に透明のプラスチックフィルム(h)を被覆し、各構成要素を重ね合わせた構造物を切断してイムノクロマトグラフィー用テストストリップを作製した。
該テストストリップは、アッセイの際、サンプル添加窓部及び検出窓部を有するプラスチック性の専用のハウジング(DKVIN (シン・コーポレイション) 、(図1中図示せず))に格納・搭載し、イムノクロマトテストデバイスの形態にした。図1にイムノクロマトグラフィー用テストストリップの模式構成図を示した。
【0047】
[実施例1]コンジュゲートパッド塗布溶液のpHの検討
コンジュゲートパッド塗布溶液のバッファーのpHを変更し、感度と血漿FNの交差反応への影響を確認した。
1.試験方法
(1)テストデバイスの作製
上記本発明の「イムノクロマトテストデバイスの作製」、「2.コンジュゲートパッド作製」および「3.サンプルパッド作製 」におけるリン酸−ナトリウム水溶液を終濃度で「20mM リン酸(pH5.5)」、「20mM リン酸(pH6.0)」、「20mM リン酸(pH7.0)」、「20mM リン酸(pH8.0)」となるように調整した以外は、同様の方法によりテストデバイスを作製した。
(2)検体の調製
(2−1)fFN検出感度を測定するための試験
下記市販ヒト羊水についてイムノテスタでfFN濃度を算出し、fFN検体抽出液に50ng/mLとなるように添加したものを検体として用いた。
材料;
・市販ヒト羊水 (Golden West Biologicals, Inc.)
・fFN検体抽出液 (イムノテスタ用検体抽出液)
測定感度の評価基準は以下のとおりである。
記号 記号の意味
「−」検出不能
「+」検出可能
「++」検出可能かつ検出感度が高い
(2−2)血漿FNの交差反応性を測定するための試験
健常人血漿プールをfFN検体抽出液で希釈して血漿0.1%、0.2%の検体を調整した。
(3)測定
テストデバイスに120μLの各検体を滴下し、10分後にラピッドピア((登録商標)積水メディカル社製)およびソフトウェア(C10066)にてテストラインおよびコントロールラインの反射吸光度を測定した。
【0048】
2.試験結果
結果を図2及び表1に示す。
コンジュゲートパッド塗布溶液のリン酸のpHを6.0に下げたテストデバイスにおいて、pH7.0に比べてfFNの検出感度を維持しつつ血漿FNに対する交差反応は小さくなった。
また、pHを5.5に下げたデバイスでは、pH6.0のデバイスに比べてさらに、血漿FNに対する交差反応が小さくなった。
【表1】
【0049】
[実施例2]特定pHにおけるバッファー濃度の検討
コンジュゲートパッド塗布溶液のバッファーのpHを固定し、バッファー濃度を変更し血漿FNの交差反応への影響を確認した。
1.試験方法
(1)テストデバイスの作製
上記本発明の「イムノクロマトテストデバイスの作製」、「2.コンジュゲートパッドの作製」および「3.サンプルパッド作製」におけるリン酸−ナトリウム水溶液を、終濃度で「20mM リン酸(pH6.0)」、「40mM リン酸(pH6.0)」「80mM リン酸(pH6.0)」となるように調整した以外は、同様の方法によりテストデバイスを作製した。参照用に「20mM リン酸(pH7.0)」のテストデバイスを用いた。
(2)検体の調製
実施例1(2−2)と同じ
(3)測定
実施例1と同じ
【0050】
2.試験結果
結果を表2、図3に示す。
コンジュゲートパッド塗布溶液として、リン酸(pH6.0)を使用した場合、バッファー濃度を上昇することによりfFNの検出感度は検出可能な程度に維持しつつ血漿FNの交差反応性を低減できることがわかった。
【表2】
【0051】
[実施例3]バッファー種類、濃度、pHの検討
コンジュゲートパッド塗布溶液のバッファーの種類、濃度、pHを変更し、感度と血漿FNの交差反応への影響を確認した。
1.試験方法
(1)テストデバイスの作製
上記本発明の「イムノクロマトテストデバイスの作製」、「2.のコンジュゲートパッドの作製」および「3.サンプルパッド作製 」におけるリン酸−ナトリウム水溶液を終濃度で「20mM リン酸(pH6.0)」、「40mM リン酸(pH6.0)」、「40mM リン酸(pH5.5)」、「20mM ADA(pH6.0)」、「40mM ADA(pH6.0)」、「40mM ADA(pH5.5)」、「20mM MES(pH6.0)」、「40mM MES(pH6.0)」、「40mM MES(pH5.5)」となるように調整した以外は、同様の方法によりテストデバイスを作製した。
(2)検体の調製
実施例1と同じ
(3)測定
実施例1と同じ
【0052】
2.試験結果
結果を表3、図4、5、6に示す。
コンジュゲートパッド塗布溶液として、リン酸を使用した場合には、40mM(pH6.0)、40mM(pH5.5)ともに20mM(pH6.0)と同様にfFNの検出感度が得られ、かつ、血漿FNに対する交差反応も同様に低かった。
また、ADAを使用したものは、20mM(pH6.0)、40mM(pH6.0)、40mM(pH5.5)いずれもリン酸(pH6.0)と同様のfFNの測定感度が得られ、かつ、血漿FNに対する交差反応もリン酸と同様に低かった。
また、MESを使用したものは、20mM(pH6.0)、40mM(pH6.0)、はリン酸(pH6.0)と同様のfFNの検出感度が得られた。また、40mM(pH5.5)の場合も、検出可能なfFNの感度が得られ、血漿FNに対する交差反応も低かった。
このように、ADA、MES、リン酸ともpHの低減またはバッファー濃度の上昇によりfFNの検出感度は維持しつつも、血漿FNに対する交差反応が抑えられることがわかった。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0053】
イムノクロマトグラフィーを利用した検出方法において、類似抗原が存在した場合でも、検出対象物に対する抗体と類似抗原との交差反応を低減し、測定値の誤差や偽陽性反応を防止するとともに、分析対象物の検出感度を維持あるいは向上させて正確な判断ができる。
特に、癌胎児性フィブロネクチン(fFN)をイムノクロマトグラフィーを利用して検出する方法において、血液が混入しても測定誤差や偽陽性を生じにくく、fFNの検出感度を維持あるいは向上させて正確な判断ができる。したがって、POCTに繁用されるイムノクロマトグラフィーを利用した切迫早産の検出試薬を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0054】
(a)サンプルパッド
(b)コンジュゲートパッド
(c)サードパッド
(d)抗体固定化メンブレン
(e)抗fFN抗体
(f)吸収パッド
(g)プラスチック製粘着シート
(h)プラスチックフィルム
(j)コントロール抗体
図1
図2
図3
図4
図5
図6