(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加熱工程は、前記ボール部および前記ハウジングを、前記ボール部の中心点回りに相対的に回転させることを特徴とする請求項1に記載のボールジョイントの製造方法。
前記加熱工程は、前記ボール部および前記ハウジングを相対的に、前記軸部回りに回転させるとともに、前記ボール部の中心点回りに揺動させることを特徴とする請求項1または2に記載のボールジョイントの製造方法。
前記組付け工程は、前記ボール部をインサート品として前記ハウジングを射出成形することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のボールジョイントの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のボールジョイントの製造方法では、加熱工程時に、ボール部の外周面側および窪み部の内面側をそれぞれ、全域にわたってばらつき少なく精度よく加熱することが困難であるという問題があった。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、加熱工程時に、ボール部の外周面側および窪み部の内面側をそれぞれ、全域にわたってばらつき少なく精度よく加熱することができるボールジョイントの製造方法
、およびスタビライザリンクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明のボールジョイントの製造方法は、軸部およびボール部が互いに連結された金属製のボールスタッドと、前記ボール部がその中心点回りに回転可能に挿入された窪み部を有する熱可塑性樹脂からなるハウジングと、を備えるボールジョイントの製造方法であって、前記ボール部の外周面と、前記窪み部の内面と、を密接させて、前記ボールスタッドと前記ハウジングとを組み合わせる組付け工程と、前記ボール部を前記窪み部内で相対移動させることで、互いに
全面的に密接している前記ボール部の外周面側および前記窪み部の内面側を摩擦熱により加熱し、前記窪み部の内面側の結晶化度を高める加熱工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、加熱工程時に、熱膨張したボール部の外周面が、軟化した窪み部の内面に押し付けられることで、窪み部の内面側が拡張変形しつつ、窪み部の内面側の結晶化度が高められるとともに、窪み部の内面側を形成する材料が流動することとなり、その後の冷却時に、ボール部は元の大きさまで縮小する一方、窪み部の内面側は元の大きさより大きい状態に保たれる。したがって、ボール部の外周面と窪み部の内面との密接状態を緩和し、ボール部の外周面と窪み部の内面との間の隙間、若しくは締め代等の当接状態を調整することができる。
特に、加熱工程時に、ボール部を窪み部内で相対移動させることで、互いに密接しているボール部の外周面側および窪み部の内面側を摩擦熱により加熱するので、例えば誘導加熱装置またはヒータ等を用いる場合と比べて、ボールジョイントのうち、加熱するボール部の外周面および窪み部の内面以外の部位の形状要因、および環境要因等が、ボール部の外周面側および窪み部の内面側の各加熱温度に及ぼす影響を低減することができる。
したがって、ボール部の外周面側および窪み部の内面側をそれぞれ、全域にわたってばらつき少なく精度よく加熱することが可能になり、窪み部の内面側が所期した結晶化度まで高められ、ボール部の外周面と窪み部の内面との間の前述の調整を高精度に行うことができる。これにより、ボールスタッドのハウジングに対するガタツキ、つまり異音の発生を防ぎつつ、ボール部の外周面と窪み部の内面との間に発生する摩擦力が抑えられたボールジョイントが得られる。
また、加熱工程時に、窪み部の内面側の結晶化度を高めることから、窪み部の内面側の硬度を向上させることができるとともに、表面粗さを低減することができる。したがって、ボール部の外周面と窪み部の内面との間の隙間を極力抑えて、ボールジョイントから外力に起因した異音が発生することを確実に防止したとしても、ボールスタッド、およびハウジングの円滑な相対移動、並びに、窪み部の内面側の耐摩耗性の双方を確保することができる。
【0008】
ここで、前記加熱工程は、前記ボール部および前記ハウジングを、前記ボール部の中心点回りに相対的に回転させてもよい。
【0009】
この場合、加熱工程時に、ボール部およびハウジングを、ボール部の中心点回りに相対的に回転させるので、ボール部の外周面および窪み部の内面に、短い移動量で効率よく摩擦熱を発生させることができる。
なお、ボール部およびハウジングの、ボール部の中心点回りの相対回転としては、例えば、前記中心点回りの揺動、並びに、ボール部の中心点が軸部の中心軸線上に位置する場合には軸部回りの回転等がある。
【0010】
また、前記加熱工程は、前記ボール部および前記ハウジングを相対的に、前記軸部回りに回転させるとともに、前記ボール部の中心点回りに揺動させてもよい。
【0011】
この場合、加熱工程時に、ボール部およびハウジングを相対的に、軸部回りに回転させるとともに、ボール部の中心点回りに揺動させるので、ボール部の外周面を、ボール部の中心点を挟んで軸部との連結部分の反対側に位置する極部を含む全域にわたって、ばらつき少なく精度よく確実に加熱することが可能になり、窪み部の内面に温度分布が生ずるのを確実に抑制することができる。
【0012】
また、前記組付け工程は、前記ボール部をインサート品として前記ハウジングを射出成形してもよい。
【0013】
この場合、組付け工程時に、ボール部をインサート品としてハウジングを射出成形するので、ボール部の外周面に対する窪み部の内面の締め代が大きくなることから、前述の調整を高精度に行うことが可能になる作用効果が顕著に奏功される。
また、ハウジングがインサート成形により形成されることから、ボール部の外周面が、全域にわたって均等に窪み部の内面に締め付けられることとなり、加熱工程時に、前述の摩擦熱によってボール部の外周面側および窪み部の内面側をそれぞれ、全域にわたってばらつき少なく精度よく加熱することをより一層確実に実現することができる。
【0014】
本発明のスタビライザリンクの製造方法は、軸部およびボール部が互いに連結された金属製のボールスタッドと、前記ボール部がその中心点回りに回転可能に挿入された窪み部を有する熱可塑性樹脂からなるハウジングと、を備えるボールジョイントが、前記ハウジングを介してサポートバーの両端部に各別に連結され、一対の前記ボールジョイントのうちのいずれか一方の前記軸部がスタビライザに連結されるとともに、他方の前記軸部が懸架装置に連結されるスタビライザリンクの製造方法であって、前記ボールジョイントを、本発明のボールジョイントの製造方法により形成することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、ボールスタッドのハウジングに対するガタツキを防ぎつつ、ボール部の外周面と窪み部の内面との間に発生する摩擦力が抑えられたスタビライザリンクが得られることとなり、このスタビライザリンクの装着された車両の走行時に、スタビライザリンクから異音が発生するのを防ぐことができるとともに、快適な乗り心地性に寄与することが可能なスタビライザリンクを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係るボールジョイントの製造方法、およびスタビライザリンクの製造方法によれば、加熱工程時に、ボール部の外周面側および窪み部の内面側をそれぞれ、全域にわたってばらつき少なく精度よく加熱することができる。また、この発明に係るボールジョイントによれば、ボールスタッド、およびハウジングの円滑な相対移動、並びに、窪み部の内面側の耐摩耗性の双方を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るスタビライザリンクの製造方法の一実施形態を、
図1を参照しながら説明する。
本実施形態のスタビライザリンク1は、軸部11およびボール部12が互いに連結された金属製のボールスタッド13と、ボール部12が挿入された窪み部14を有する結晶性の熱可塑性樹脂からなるハウジング15と、を備えるボールジョイント10が、ハウジング15を介してサポートバー16の両端部16aに各別に連結されて構成されている。
スタビライザリンク1は、一対のボールジョイント10のうちのいずれか一方の軸部11がスタビライザ2に連結されるとともに、他方の軸部11が懸架装置3に連結される。なお、他方の軸部11は、懸架装置3のうち、例えばダンパーのシリンダ若しくはアーム部材等に連結される。一対のボールジョイント10は、互いに同じ大きさで同じ形状に形成されている。なお、一対のボールジョイント10は、互いに異なる大きさで異なる形状に形成されてもよい。
【0021】
ハウジング15は、例えば、ポリアミド66(PA66)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、若しくはポリアセタール(POM)等、または、これらの熱可塑性樹脂材料に、例えば炭素繊維、若しくはガラス繊維等の強化繊維が含有された材料により形成されている。本実施形態では、ハウジング15は、ガラス繊維を30重量%含有したPA66により形成されている。
例えば、PA66のガラス転位温度は約50℃、結晶化温度は約232℃、融点は約265℃となっている。
【0022】
ハウジング15は、扁平な有底筒状に形成され、その内側が窪み部14となっている。ハウジング15の肉厚は2mm以上となっている。窪み部14は、ハウジング15の中心軸線Oに沿う軸方向の一方側が開口し、他方側が閉塞されている。窪み部14は、中心点が中心軸線O上に位置する球状に形成されている。
以下、軸方向から見て、中心軸線Oに交差する方向を径方向といい、中心軸線O回りに周回する方向を周方向という。
【0023】
窪み部14の内面のうち、少なくとも、中心軸線Oに直交しかつ窪み部14の中心点を通る平面を基準に、窪み部14の中心点を中心とする±20°の範囲にわたる部分の、十点平均粗さRzjis(JIS B 0601:2001)が、基準長さ0.8mmで例えば約20μm以下となっている。
窪み部14の内面の硬さは、ハウジング15において、窪み部14の内面から深さ1mmに位置する部分の硬さの例えば約110%以上となっている。この硬さは、ナノインデンテーション法に基づいて測定できる。例えば、Hysitron社製TriboIndenterを用い、23℃の温度下で、先端縁の半径が50nm以下の三角錐型の圧子を一定の深さまで押し込むのに要する力と、前記圧子のうち押し込まれた部分の投影面積と、に基づいて測定できる。
【0024】
ハウジング15における窪み部14の開口周縁部に、軸方向に突出し全周にわたって連続して延びる突条部15aが形成されている。突条部15aの内周面は、軸方向に沿ってハウジング15の外側に向かうに従い漸次、径方向の外側に向けて延びている。突条部15aの内周面の、中心軸線Oに対する傾斜角度は、例えばボールスタッド13の、ボール部12の中心点S回りの揺動角等に応じて適宜設定してもよい。ハウジング15は全体が同一の材質で一体に形成されている。
【0025】
ボールスタッド13は、例えば鋼材等により形成され、軸部11とボール部12とは溶接により連結されている。なお、ボールスタッド13全体を一体に形成してもよい。ボール部12は球体とされ、軸部11は円柱体となっている。軸部11において、その中心軸線に沿う軸方向の両端部のうちの一方側の端部にボール部12が連結されている。軸部11の中心軸線上にボール部12の中心点Sが位置している。
以下、ボールスタッド13が、ハウジング15の中心軸線Oと同軸に配設された状態を説明する。
【0026】
軸部11における軸方向の中間部に、径方向の外側に向けて突出するフランジ部11aが全周にわたって形成されている。軸部11において、フランジ部11aを軸方向に挟んでボール部12の反対側に位置する部分に雄ねじ部が形成されている。軸部11において、フランジ部11aとボール部12との間に位置する部分におけるフランジ部11a側の端部に、全周にわたって連続して延びる周溝11bが形成されている。
ボール部12の外径は、軸部11において、フランジ部11aを除く部分の外径より大きくなっている。
【0027】
ボール部12は、その中心点S回りに回転可能にハウジング15の窪み部14内に挿入されている。ボール部12の中心点Sは、ハウジング15の窪み部14の中心点とほぼ一致している。ボール部12の直径は、窪み部14の直径よりわずかに小さい。なお、ボール部12の直径を、窪み部14の直径以上としてもよい。ボール部12における軸部11との連結部分は、窪み部14から軸方向の外側に張り出している。窪み部14は、ボール部12の外周面のうち半分を超える部分を覆っている。ボール部12のうち、窪み部14から軸方向の外側に張り出した部分は、突条部15aより軸方向の内側に位置しており、突条部15aにより全域にわたって径方向の外側から囲繞されている。なお、ボール部12のうち、窪み部14から軸方向の外側に張り出した部分を、突条部15aより軸方向の外側に位置させてもよい。
【0028】
図示の例では、スタビライザリンク1は、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との間に、水、埃、および塵等が進入するのを防止するダストカバー17を備えている。ダストカバー17は、弾性変形可能に筒状に形成されるとともに、中心軸線Oと同軸に配設されている。ダストカバー17における軸方向の両端部のうち、いずれか一方は軸部11の周溝11b内に装着され、他方はハウジング15の突条部15aに外嵌されている。なお、スタビライザリンク1は、ダストカバー17を有しなくてもよい。
【0029】
サポートバー16は、例えば鋼材等により筒状に形成されている。サポートバー16の中心軸線Lは、ボール部12の中心点Sを通り、かつハウジング15の中心軸線Oと直交している。サポートバー16の両端部16aは、プレス加工等により軸方向に圧潰されて平板状に形成されている。サポートバー16の両端部16aは、熱可塑性樹脂からなる被覆体18で覆われている。被覆体18はハウジング15と一体に形成されている。
なお、サポートバー16は中実に形成してもよく、また、サポートバー16の端部16aは平板状に形成しなくてもよく、サポートバー16の端部16aを被覆体18で覆わなくてもよい。
【0030】
次に、以上のように構成されたスタビライザリンク1の製造方法について説明する。
スタビライザリンク1の製造方法は、組付け工程と加熱工程とを有する。
【0031】
組付け工程は、ボール部12の外周面と、窪み部14の内面と、を密接させて、ボールスタッド13とハウジング15とを組み合わせる。本実施形態では、組付け工程は、ボール部12、およびサポートバー16の端部16aをインサート品として、ハウジング15および被覆体18を射出成形する。その後、熱可塑性樹脂の成形収縮により、ボール部12の外周面が窪み部14の内面に締め付けられる。なお、組付け工程の前に予め、サポートバー16の端部16aに接着剤を塗布しておくことで、被覆体18をサポートバー16の端部16aに接着してもよい。
【0032】
ここで、組付け工程時に金型温度は例えば約80℃以下とする。これにより、得られた成形品が脱型可能になるまでの時間を短く抑えることができるとともに、ハウジング15の外周面側の結晶化が抑えられ、ハウジング15の成形収縮を抑えることが可能になり、窪み部14の内面の、ボール部12の外周面に対する締め付けを抑制することができる。
【0033】
加熱工程は、ボール部12を窪み部14内で相対移動させることで、ボール部12の外周面側および窪み部14の内面側を摩擦熱により加熱し、窪み部14の内面側の結晶化度を高める。加熱工程は、ボール部12およびハウジング15を、ボール部12の中心点S回りに相対的に回転させる。本実施形態では、加熱工程は、ボール部12およびハウジング15を相対的に、軸部11回りに回転させるとともに、ボール部12の中心点S回りに揺動させる。この際、ボールスタッド13に軸方向の力を加えない状態で、ボール部12を窪み部14内で相対移動させる。また、ボール部12およびハウジング15のうち、いずれか一方を軸部11回りに回転させ、他方をボール部12の中心点S回りに揺動させる。この場合、装置構造の複雑化を抑えつつ、回転および揺動の調整を各別に精度よく容易に行うことができる。
なお、ボール部12およびハウジング15のうち、いずれか一方のみを軸部11回りに回転させ、かつボール部12の中心点S回りに揺動させてもよい。また、ボールスタッド13に軸方向の力を加えた状態で、ボール部12を窪み部14内で相対移動させてもよい。
【0034】
加熱工程時に、窪み部14の内面側を、前述の摩擦熱により、ガラス転位点より高く融点より低い結晶化温度、またはその付近まで加熱し、窪み部14の内面側の結晶化度を高める。
なお、ボール部12の外周面、および窪み部14の内面の相対的な移動速度、移動回数、および移動時間等は、ボール部12の外周面に対する窪み部14の内面の締め付け力(押圧力)毎に、摩擦熱による発熱温度との関係を予め実験して求めておき、この実験データに基づいて設定してもよい。前記締め付け力は成形条件により特定できる。
また、結晶化温度は、例えば、DSC(示差走査熱量計)を用い、窒素雰囲気下で溶融状態から20℃/分の速度で降温した際に観測される発熱ピークのピークトップの温度として求めることができる。
結晶化度は、100%結晶時の理論融解熱量に対する測定融解熱量の比率として求めることができる。測定融解熱量は、例えば、DSCを用い、窒素雰囲気下で10℃/分の速度で融点以上まで昇温した際に観測される吸熱ピークの熱量と発熱ピークの熱量との差から求めることができる。
【0035】
加熱工程時に、窪み部14の内面側の結晶化度が高まることで、ハウジング15を形成する熱可塑性樹脂に含まれる強化繊維が、窪み部14の内面側からハウジング15の外面側に向けて移動し、窪み部14の内面の表面粗さが低くなると考えられる。
なお、加熱工程を、組付け工程後に成形金型を型開きせず、組付け工程の直後に成形金型のキャビティ内で行ってもよいし、組付け工程後、脱型した後に行ってもよい。前者の場合、加熱工程時に、窪み部14の内面側を結晶化温度、またはその付近まで加熱するのに要する時間が短く抑えられ、後者の場合、成形サイクルが長くなるのを防ぐことができる。
最後に、ダストカバー17における軸方向の両端部のうち、一方を軸部11の周溝11b内に装着し、他方をハウジング15の突条部15aに外嵌する。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によるスタビライザリンク1の製造方法によれば、加熱工程時に、熱膨張したボール部12の外周面が、軟化した窪み部14の内面に押し付けられることで、窪み部14の内面側が拡張変形しつつ、窪み部14の内面側の結晶化度が高められるとともに、窪み部14の内面側を形成する材料が流動することとなり、その後の冷却時に、ボール部12は元の大きさまで縮小する一方、窪み部14の内面側は元の大きさより大きい状態に保たれる。したがって、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との密接状態を緩和し、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との間の隙間、若しくは締め代等の当接状態を調整することができる。
【0037】
特に、加熱工程時に、ボール部12を窪み部14内で相対移動させることで、互いに密接しているボール部12の外周面側および窪み部14の内面側を摩擦熱により加熱するので、例えば誘導加熱装置またはヒータ等を用いる場合と比べて、ボールジョイント10のうち、加熱するボール部12の外周面および窪み部14の内面以外の部位の形状要因、および環境要因等が、ボール部12の外周面側および窪み部14の内面側の各加熱温度に及ぼす影響を低減することができる。
【0038】
したがって、ボール部12の外周面側および窪み部14の内面側をそれぞれ、全域にわたってばらつき少なく精度よく加熱することが可能になり、窪み部14の内面側が所期した結晶化度まで高められ、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との間の前述の調整を高精度に行うことができる。これにより、ボールスタッド13のハウジング15に対するガタツキ、つまり異音の発生を防ぎつつ、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との間に発生する摩擦力が抑えられたボールジョイント10が得られる。
【0039】
また、加熱工程時に、窪み部14の内面側の結晶化度を高めることから、窪み部14の内面側の硬度を向上させることができるとともに、表面粗さを低減することができる。したがって、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との間の隙間を極力抑えて、ボールジョイント10から外力に起因した異音が発生することを確実に防止したとしても、ボールスタッド13、およびハウジング15の円滑な相対移動、並びに、窪み部14の内面側の耐摩耗性の双方を確保することができる。
【0040】
また、加熱工程時に、ボール部12およびハウジング15を、ボール部12の中心点S回りに相対的に回転させるので、ボール部12の外周面および窪み部14の内面に、短い移動量で効率よく摩擦熱を発生させることができる。
また、加熱工程時に、ボール部12およびハウジング15を相対的に、軸部11回りに回転させるとともに、ボール部12の中心点S回りに揺動させるので、ボール部12の外周面を、ボール部12の中心点Sを挟んで軸部11との連結部分の反対側に位置する極部12aを含む全域にわたって、ばらつき少なく精度よく確実に加熱することが可能になり、窪み部14の内面に温度分布が生ずるのを確実に抑制することができる。
【0041】
また、組付け工程時に、ボール部12をインサート品としてハウジング15を射出成形するので、ボール部12の外周面に対する窪み部14の内面の締め代が大きくなることから、前述の調整を高精度に行うことが可能になる作用効果が顕著に奏功される。
また、ハウジング15がインサート成形により形成されることから、ボール部12の外周面が、全域にわたって均等に窪み部14の内面に締め付けられることとなり、加熱工程時に、前述の摩擦熱によってボール部12の外周面側および窪み部14の内面側をそれぞれ、全域にわたってばらつき少なく精度よく加熱することをより一層確実に実現することができる。
【0042】
以上のように、ボールスタッド13のハウジング15に対するガタツキを防ぎつつ、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との間に発生する摩擦力が抑えられたスタビライザリンク1が得られることとなり、このスタビライザリンク1の装着された車両の走行時に、スタビライザリンク1から異音が発生するのを防ぐことができるとともに、快適な乗り心地性に寄与することが可能なスタビライザリンク1を得ることができる。
なお、加熱工程を、組付け工程後、脱型した後に行う場合、加熱工程時に、ボール部12を窪み部14内で相対移動させつつ、ハウジング15の外周面側を、例えば空気を吹き付ける等して冷却することで、ハウジング15の外周面側の結晶化が抑えられ、ハウジング15の熱収縮を抑制することが可能になり、前述の調整をより一層精度よく行うことができる。
【0043】
また、本実施形態によるボールジョイントによれば、窪み部14の内面のうち、少なくとも、前記平面を基準に、窪み部14の中心点を中心とする±20°の範囲にわたる部分の、十点平均粗さRzjis(JIS B 0601:2001)が、基準長さ0.8mmで20μm以下となっているので、ボール部12の外周面と窪み部14の内面との間に発生する摩擦力を確実に抑えることができるとともに、ボールスタッド13、およびハウジング15の円滑な相対移動を確保することができる。
また、窪み部14の内面の硬さが、ハウジング15において、窪み部14の内面から深さ1mmに位置する部分の硬さの110%以上となっているので、窪み部14の内面側の耐摩耗性を確保することができる。
また、ハウジング15が、肉厚が2mm以上の有底筒状に形成されているので、良好な成形性を確保することもできる。
【0044】
次に、以上説明した作用効果の検証試験について説明する。
実施例として、本実施形態のスタビライザリンク1の製造方法で得られたハウジング15を採用し、比較例として、本実施形態のスタビライザリンク1の製造方法のうち、加熱工程を有しない製造方法で得られたハウジングを採用した。
【0045】
窪み部の内面側の硬さを、ナノインデンテーション法に基づいて測定した。この測定は、Hysitron社製TriboIndenterを用い、23℃の温度下で、先端縁の半径が50nm以下の三角錐型の圧子を一定の深さまで押し込むのに要する力と、前記圧子のうち押し込まれた部分の投影面積と、に基づいて測定した。この測定を、実施例および比較例それぞれについて、押し込み深さを異ならせて行った。
その結果、
図2に示されるように、実施例の方が、比較例より窪み部の内面側の硬さが大きくなっていることが確認された。
【0046】
窪み部の内面側の弾性率を、ナノインデンテーション法に基づいて測定した。この測定は、Hysitron社製TriboIndenterを用い、23℃の温度下で、前記圧子を一定深さまで押し込んだ後に、除荷したときの荷重−変位曲線における最大荷重時の傾きと、前記投影面積と、に基づいて測定した。この測定を、実施例および比較例それぞれについて、押し込み深さを異ならせて行った。
その結果、
図3に示されるように、実施例の方が、比較例より窪み部の内面側の弾性率が大きくなっていることが確認された。
以上より、実施例の方が、比較例よりナノインデンテーション法に基づく、窪み部の内面側の硬さおよび弾性率が大きくなっており、実施例の方が、比較例より窪み部の内面側の硬度が高くなっていることが確認された。
【0047】
次に、窪み部の内面の凹凸高さを測定した。
実施例、および比較例それぞれについて、測定長さは同じにした。結果を
図4および
図5に示す。なお、
図4および
図5において、縦軸の凹凸高さのオーダーは一致している。
その結果、実施例の方が、比較例より窪み部の内面の表面粗さが小さくなっていることが確認された。また、比較例では、窪み部の内面にガラス繊維が目視できたが、実施例では目視できなかった。
【0048】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
例えば前記実施形態では、ボールジョイント10が、ハウジング15を介してサポートバー16の両端部16aに各別に連結されてなるスタビライザリンク1を示したが、サポートバー16を有さないボールジョイント10単体であっても本発明は適用可能である。ボールジョイント10単体は、例えばロボットアーム等に適用してもよい。
前記実施形態では、ハウジング15として、全体が同一の材質で一体に形成された構成を示したが、これに限らず例えば、凹部を有するハウジング本体と、凹部内に配設されて窪み部14の内面を構成する結晶性の熱可塑性樹脂からなるボールシートと、を備えてもよい。この構成において、ハウジング本体が強化繊維を含有し、ボールシートは強化繊維を含有しなくてもよい。
前記実施形態では、組付け工程として、ボール部12をインサート品としてハウジング15を射出成形するインサート成形を示したが、これに限らず例えば、窪み部14を有するハウジング15を射出成形した後に、窪み部14内にボール部12を圧入することで、ボール部12の外周面と、窪み部14の内面と、を密接させて、ボールスタッド13とハウジング15とを組み合わせてもよい。
【0050】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。