(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリアルキレンオキシド部分が、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドチオラート、ポリプロピレンオキシド、またはポリプロピレンオキシドチオラートを含む、請求項2に記載のコポリマー。
前記疎水性分子が、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カンプトテシン、イリノテカン、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、またはデキサメタゾンである、請求項15に記載のナノ粒子。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
開示された方法および材料を記載する前に、本明細書に記載された態様が具体的実施形態、方法、装置、または形態に限定されず、もちろんそれ自体が変動し得ることが理解されなければならない。同じく、本明細書で用いられる用語法が特別な態様を記載することを目的とし、本明細書に具体的に定義されない限り、限定を意図するものでないことが理解されなければならない。
【0016】
本開示の観点において、本明細書に記載された方法は、当業者によって構成されて、所望の要件を適えることができる。例えば特定の態様において、開示のコポリマーは、ステロイド含有ブロックと、ポリアルキレンオキシド含有ブロック、ポリエステル含有ブロック、またはポリペプチド部分含有ブロックと、で構成される。そのようなコポリマーは、音波処理またはホモジネーションを利用せずに水溶液中でナノ粒子として即座に自己組織化し、良好な生体適合性、高い薬物負荷能力、循環内での長期滞留、マルチモダリティの可能性を有し、容易に大規模製造することができる。別の実施例において、本開示のナノ構造は、抗癌剤などの疎水性治療活性分子を封入するために用いられ得る。抗癌剤を封入するナノ粒子は、遊離型抗癌剤に比較して、有意に低い毒性と共に高い腫瘍蓄積および抗腫瘍効力を示す。別の実施例において、本開示のブロックコポリマーは、官能基化され得(例えば、チオールで)、そのようなコポリマーはまた、水性媒体中で自己組織化して、官能基を有する明確に定義されたナノ粒子を形成した。チオールで官能基化されたナノ粒子は、物理的捕捉を介した疎水性抗癌剤と、チオール基への共有結合を介した金ナノ粒子(Au NP)と、の二重の封入のための多官能基担体として働いた。これらの二重のナノ粒子は、高い薬物負荷、高い封入効率、均一な粒度分布、および良好な安定性を示した。非還元性対照として、ジスルフィド結合を含まないコポリマーも合成し、インビトロおよびインビボで比較した。どちらの両親媒性液晶ポリマーも、水性媒体中で自己組織化して、生還元性および非還元性のナノ粒子を形成した。得られた本開示のジスルフィド含有ナノ粒子は、細胞外環境下で高い安定性を有し、細胞内還元条件下で急速な薬物放出を示した。
【0017】
本開示のブロックコポリマーは、第一のブロックがリンカーを場合により含むステロイド部分を含むことを必要とする。適切なステロイドは、所望の要件に適うように選択され得る。例えば該ステロイド部分は、コレステロール、コール酸、デオキシコール酸、タウロコール酸、ラノステロール、エストラジオール、テストステロン、胆汁酸、デキサメタゾン、セコステロイド、フィトステロールなどを含む。別の実施例において、該ステロイド部分は、コレステロール、コール酸、デオキシコール酸およびタウロコール酸から選択される。別の実施形態において、該ステロイド部分は、コレステロールを含む。
【0018】
ステロイドを含有する第一のブロックは、ブロックコポリマーの総重量の約1%〜約80%(即ち、約1%〜約80%の重量分率)存在し得る。例えば第一のブロックの重量分率は、ブロックコポリマーの総重量に基づき50%を超える、または50%未満、または約5%〜約70%、または約40%〜約70%、または約40%〜約50%、または約60%〜約70%、または約2%〜約30%、または約3%〜約30%、または約5%〜約30%、または約2%〜約20%、または約3%〜約20%、または約5%〜約20%、または約7%〜約20%であり得る。
【0019】
該ステロイド部分は、適切なリンカーR
11を介してポリマーバックボーンに連結され得る。リンカーR
11の幾つかの例としては、
【化3】
ポリラクトン、またはシロキサンのオリゴマーが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、R
11のリンカーは、
【化4】
である。別の実施形態において、R
11のリンカーは、
【化5】
である。別の実施形態において、R
11のリンカーは、
【化6】
である。一実施形態において、R
11のリンカーは、
【化7】
である。
【0020】
本開示のブロックコポリマーは、バックボーン部分Aを必要とする。本明細書に記載されたブロックコポリマーは、例えば当業者に入手可能なポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリノルボネン、ポリシクロペンテン、ポリシクロオクテン、ポリシロキサン、ポリエステル、またはポリペプチドバックボーンAを含有し得、所望の生成物に応じて変動し得る。一実施形態において、本開示のブロックコポリマーは、各Aが独立してポリアクリラート、ポリメタクリラート、またはポリエステルであるブロックコポリマーである。別の実施形態において、各Aは、独立してポリアクリラートまたはポリメタクリラートである。別の実施形態において、各Aは、独立して、ポリアクリラートである。別の実施形態において、各Aは、独立して、ポリメタクリラートである。別の実施形態において、各Aは、独立してポリエステルである。
【0021】
例示的実施形態において、該第一のブロックは、式:
【化8】
で示される。
【0022】
本開示のブロックコポリマーは、第二のブロックが
【化9】
であることを必要とする。したがって第二のブロックは、ポリアルキレンオキシド、ポリエステル、またはポリペプチド部分であり得るR
2部分を含む。
【0023】
一実施形態において、R
2は、ポリアルキレンオキシド部分である。適切なポリアルキレンオキシドは、所望の要件に適うように選択され得る。幾つかの実施形態において、該ポリアルキレンオキシド部分は、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドチオラート、ポリプロピレンオキシド、またはポリプロピレンオキシドチオラートを含む。別の実施形態において、該ポリアルキレンオキシド部分は、ポリエチレンオキシドまたはポリエチレンオキシドチオラートを含む。別の実施形態において、該ポリアルキレンオキシド部分は、ポリエチレンオキシドを含む。
【0024】
一実施形態において、R
2は、ポリエステル部分である。適切なポリエステルとしては、主鎖にエステル官能基を含むポリマーが挙げられる。例としては、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
一実施形態において、R
2は、ポリペプチド部分である。適切なポリペプチドは、ペプチド(アミド)結合によって互いに連結されたアミノ酸モノマーの1つまたは複数の鎖を含み、L−アミノ酸、D−アミノ酸(インビボでL−アミノ酸特異的プロテアーゼに耐性がある)、またはD−アミノ酸とL−アミノ酸の組み合わせを含み得る。典型的には、本明細書に記載されたポリペプチドは、約100アミノ酸長未満の鎖を指す。本明細書に記載されたポリペプチドは、化学合成または組換え発現され得る。
【0026】
第二のブロックは、ブロックコポリマーの総重量の約20%〜約99%(即ち、約20%〜約99%の重量分率)存在し得る。例えば第二のブロックの重量分率は、ブロックコポリマーの総重量に基づいて、50%を超える、または50%未満、または約30%〜約95%、または約30%〜約60%、または約50%〜約60%、または約30%〜約40%、または約70%〜約98%、または約70%〜約97%、または約70%〜約95%、または約80%〜約98%、または約8%〜約97%、または約80%〜約95%、または約80%〜約93%であり得る。
【0027】
第二のブロックはまた、還元性ジスルフィド結合を含むR
3リンカーを含む。一実施形態において、R
3は、
【化10】
からなる群から選択される。一実施形態において、R
3は、
【化11】
である。別の実施形態において、R
3は、
【化12】
から得られる。
【0028】
特定の実施形態において、本開示のコポリマーは、鎖の末端部分X:
【化13】
をさらに含み得る。一実施形態において、Xは、トリチオカルボナート、ジチオカルバマート、またはジチオエステルである。別の実施形態において、Xは、SC(S)S−(C
1〜C
24アルキル)である。別の実施形態において、Xは、−SC(S)S−C
12H
25である。
【0029】
一実施形態において、本開示のコポリマーは、ポリアクリラートまたはポリメタクリラートを有するコレステロールブロックと、還元性ジスルフィド結合を有するポリアルキレンオキシドブロックと、を含む。一実施形態において、本開示のコポリマーは、ポリアクリラートまたはポリメタクリラートを有するコレステロールブロックと、還元性ジスルフィド結合を有するポリエチレングリコールブロックと、を含む。
【0030】
一実施形態において、本開示のブロックコポリマーは、構造:
【化14】
(式中、mは、約5〜約200の整数であり、nは、約5〜約100の整数である)を含む。
【0031】
mおよびnの値は、当業者によって選択され得、所望の生成物に応じて変化し得る。例えばmは、約10〜約100であり得、そして/またはnは、約15〜約85であり得る。本開示のブロックコポリマーの分子量は、約5,000〜約200,000Daであり得る。一実施形態において、本開示のブロックコポリマーは、約5,000〜約150,000Da、または約5,000〜約100,000Da、約5,000〜約60,000Da、または約10,000〜約150,000Da、または約10,000〜約100,000Da、または約10,000〜約60,000Da、または約20,000〜約150,000Da、または約20,000〜約100,000Da,または約20,000〜約60,000Daである。
【0032】
本開示のブロックコポリマーは、1種または複数のさらなる官能基をさらに含み得る。官能基の例としては、チオール基、リン酸基、カルボン酸基などが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、特定の用途に基づいて所望の官能基を選択することができよう。例えばチオール官能基化ブロックコポリマーは、疎水性抗癌剤(即ち、物理的捕捉を介した)と、チオール基への共有結合を介した金ナノ粒子(Au NP)と、の二重の封入のための多官能基担体として働き得る。同様にリン酸またはカルボン酸官能基化ブロックコポリマーは、量子ドット(例えば、CdSeなど)または磁気ナノ粒子を封入するために用いられ得る。
【0033】
本明細書に開示されたブロックコポリマーは、例えば比較的低い多分散性をはじめとする複数の所望の性質を有する。場合により本発明の実施形態において、該ポリマー鎖は、M
w/M
nが約1.0〜約2.5になるような多分散指数を示す。幾つかの実施形態において、該多分散指数は、約1.0〜約2.0、または約1.0〜約1.9、または約1.1〜約1.9、または約1.0〜約1.8、または約1.1〜約1.8、または約1.0〜約1.5、または約1.5〜約1.5、または約1.0〜約1.3、または約1.0〜約1.2、または約1.0、または約1.1、または約1.2、または約1.3、または約1.4、または約1.5、または約1.6、または約1.7、または約1.8、または約1.9、または約2.0である。特定の実施形態において、該ポリマーは、M
w/M
nが約1.0〜約1.5の多分散性を示す。特定の他の実施形態において、該ポリマーは、M
w/M
nが約1.0〜約1.2の多分散性を示す。
【0034】
一態様において本開示のコポリマーは、ナノ粒子形態(例えば、コア/シェルナノ粒子形態)で存在し得る。一実施形態において、該コア/シェルナノ粒子形態は、水溶液中で自己組織化された本開示のブロックコポリマーである。そのようなナノ粒子は、自己組織化工程の間に多量の疎水性薬物分子をナノ粒子中に封入することが可能である。したがって一態様において、本開示は、本開示の両親媒性コポリマーを用いた薬物送達のためのナノ粒子系を提供する。一態様において、本開示は、本開示のブロックコポリマーと、疎水性医薬活性分子と、を含むナノ粒子を提供する。任意の適切な疎水性医薬活性分子は、所望の治療効果に応じて用いられ得る。幾つかの例としては、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カンプトテシン、イリノテカン、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、またはデキサメタゾンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本開示のナノ粒子は、金ナノ粒子などの金属ナノ粒子および/または磁気ナノ粒子および/または量子ドット(例えば、近赤外(NIR)量子ドット、CdSeなど)の1種または複数をさらに含み得る。
【0036】
本明細書に開示されたブロックコポリマーは、例えば均一な粒度分布によって明確に定義されたような複数の所望の性質を有する。本開示のナノ粒子は、約5〜約900nmのサイズのいずれかであり得る。例えばナノ粒子は、約5〜約200nm、または約10〜約100nm、または約10〜約200nm、または約50〜約150nm、または約100〜約250nm、または約100〜約200nm、または約120〜約150nm、または約110〜約150nm、または約120〜約180nm、または約150〜約250nm、または約150〜約200nmであり得る。
【0037】
本開示はまた、(a)請求項1〜23のいずれか1項に記載のコポリマーを有機溶媒に溶解して、コポリマー溶液を得ること;および(b)水溶液中で該コポリマー溶液を混合して、ナノ粒子を形成させること、を含む、本開示のナノ粒子を調製する方法を提供する。ナノ粒子の調製に適した有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。該コポリマー溶液を混合することは、水溶液中での透析によって実施され得る。
【0038】
定義
本明細書全体を通して、文脈で他に要求されない限り、言語「含む」および「包含する」およびその活用(例えば、「含む(comprises)」、「含んでいる」、「包含する(includes)」、「包含している」)は、言及された成分、特色、要素、または成分のステップもしくは群、複数の特色、複数の要素、あるいは複数のステップの包含を意味するが、任意の他の整数もしくはステップ、または整数もしくはステップの群を除外しないことは理解されよう。
【0039】
本明細書および添付の特許明細書で用いられる単数形の「a」、「an」および「the」は、他に明確な断りがなければ、複数の対象を含む。
【0040】
範囲は、本明細書において、「約」特定の値、および/または「約」別の特定の値のように表現され得る。そのような範囲が、表されている場合、別の態様は、1つの特定の値から、そして/または別の特定の値までを含む。同様に、先行詞「約」の使用によって値が近似値として表されている場合、特定の値が別の態様を形成していることが理解されよう。範囲それぞれのエンドポイントが他のエンドポイントに関係して、そして他のエンドポイントと独立して、の両方において有意であることがさらに理解されよう。幾つかの実施形態において、用語「約」は、列挙された値の±10%を意味する。別の実施形態において、用語「約」は、列挙された値の±5%を意味する。
【0041】
本明細書で用いられる用語「組み合わせること」は、1つまたは複数の物質を反応混合物に添加することを包含する。
【0042】
本明細書で用いられる用語「分散性」、「多分散性」、「多分散性指数」、「PDI」および「M
w/M
n」は、互換的に用いられ、分子量の分布に関するポリマー均一性の尺度を指す。分散性は、重量平均分子量(M
w)を数平均分子量(M
n)で除算することによって計算され得る(即ち、M
w/M
n)。特定の実施形態において、分散性は、重合度に従って計算され得、ここで分散性は、X
w/X
nであり、X
wは、重量平均重合度であり、X
nは、数平均重合度である。
【0043】
本明細書における全ての%値、比率および割合は、他に断りがなければ重量による。成分の重量%(重量%、wt%とも)は、反することが明記されない限り、成分を含む組成物の総重量に(例えば、反応混合物の総量に)基づいている。
【0044】
実施例
本開示の材料および方法を、さらに以下の実施例によって例示するが、範囲または主旨における開示を、実施例に記載された具体的手順および材料に限定するものと解釈されるべきではない。
【0045】
材料および方法
ドキソルビシン塩酸塩(DOX.HCl)は、Biotang Inc(Waltham、米国マサチューセッツ州所在)から購入した。D,L−ジチオトレイトール(DTT)、チオグリコール酸(98%)、p−トルエンスルホン酸一水和物(PTSA)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、ピレンおよび他の従来の試薬は、Sigma−Aldrich Chemical Co.(米国ミズーリ州セントルイス所在)から得た。トリエチルアミン(TEA)およびジメチルホルムアミド(DMF)を、Fisher Scientific(米国マサチューセッツ州ボストン所在)から購入した。ペニシリン−ストレプトマイシン、0.25%(w/v)トリプシン−0.03%(w/v)EDTA溶液、RPMI 1640、およびDMEM培地は、American Type Culture Collection(米国メリーランド州ロックビル所在)から購入した。マウス線維芽細胞(NIH3T3)およびヒト肺癌細胞株(A549)は、米国立癌研究所(米国メリーランド州フレデリック所在)から購入した。ウシ胎児血清は、Atlanta Biologicals(米国ジョージア州ノークロス所在)から購入した。1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドトリカルボシアニンヨージド(DiR)およびインビトロ毒性検査キット(MTTに基づく)は、Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド所在)から得た。Spectra/Pro膜は、Spectrum Laboratories,Inc.(米国カリフォルニア州ランチョドミンゲル所在)から購入した。化学薬品は全て、分析等級であり、精製せずに用いた。液晶モノマーである6−メタクリロイルオキシヘキサン酸コレステリル(C5MA)は、Hamleyら(Soft Matter. 2005;1:355−363.)に従って調製した。RAFT剤であるS−1−ドデシル−S’−(α,α’−ジメチル酢酸)トリチオカルボナート(CTA)は、Laiら(Macromolecules. 2002; 35:6754−6756)に従って合成した。
【0046】
データは、平均±標準偏差として表した。実験群と対照群の差の統計学的有意性は、スチューデントt検定を用いて決定した。0.05未満の確率(p)は、統計学的に有意と見なした。
【0047】
実施例1:ジスルフィド結合を有するコレステロール系ブロックコポリマーPEO−SS−PC5MAの合成および精製
【化15】
【0048】
RAFT剤:ヒドロキシメルカプトピリジン(2.52g、13.46mmol)を、ジクロロメタン50mLに溶解し、S−ドデシル−S’−2−(2,2−ジメチル酢酸)トリチオカルボナート(3.62g、11.21mmol)をこの溶液に添加した。DCC(2.78g、13.46mmol)およびDMAP(0.4g、3.36mmol) をこの混合物に引き続き添加して、溶液を室温で12時間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、粗反応混合物を、固定相としてのシリカゲルおよび溶離液としての酢酸エチル/ヘキサン(4:1v/v比)混合物を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製して、RAFT剤4.4g(83%)を黄色液として得た。
1HNMR(CDCl
3,ppm)δ:8.41(d,1H),7.70−7.62(m,2H),7.03(t,1H),4.32(t,2H),3.22(t,2H),3.00(t,2H),1.67−1.60(m,8H),1.33−1.21(m,18H),0.84(t,3H);
13C−NMR(CDCl3,ppm)δ:172.7,159.9,149.6,137.1,120.8,119.7,63.3,55.8,37.2,37.0,31.9,29.6,29.5,29.4,29.3,29.1,28.9,27.9,25.3,22.7,14.2。
【0049】
PEO−SH:メトキシポリエチレングリコール20000(5.0g、0.25mmol)およびPTSA(17mg、0.01mmol)を、丸底フラスコ中の新たに蒸留されたトルエンに添加した。その後、この溶液に、チオグリコール酸(150mg、1.0mmol)を緩やかに添加した。この溶液を、その後、Ar雰囲気下で一晩還流した。反応混合物を冷まして、真空濃縮した。残渣を、ジクロロメタン/水を用いて分別し、有機層をMgSO
4で脱水した。有機層を回収して、濃縮した。その後、粗生成物をメタノール20mLに溶解した後、DTT(308mg、2.0mmol)を添加して、ジスルフィドを形成する可能性を低減した。溶液を室温で3時間撹拌した。得られた溶液をジエチルエーテルに注ぎ、生成物PEO−SHを沈殿させ、エーテルで5回洗浄して、DTTを除去した。純粋な生成物4.0gを白色固体として収率80%で得た。GPC(THF) M
n:20250。PDI:1.06。
1H NMR(400MHz,CDCl
3)δ:4.27(t,2H,−COOCH
2−,PEO末端基中),3.79−3.44(m,−CH
2CH
2O−,PEOの繰り返し単位),3.35(s,−OCH
3);
13C NMR(CDCl
3)δ:170.9(−COO),70.3,64.8,59.7(PEO中の−CH
2繰り返し単位)。
【0050】
PEOマクロ連鎖移動剤:RAFT剤(3.0g、5.62mmol)、PEO−SH(4.5g、0.25mmol)、および氷酢酸0.5mLを、メタノール(50mL)に溶解して、反応混合物を窒素雰囲気下、室温で6時間撹拌した。反応を停止させて、溶媒を蒸発させた。粗PEOマクロ連鎖移動剤生成物を、固定相としてのシリカゲルおよび溶離液としての酢酸エチル/ヘキサン(4:1v/v比)および塩化メチレン/メタノール(4:1v/v比)の混合物を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製した。純粋物5.8gを、淡黄色固体として収率76%で得た。GPC(THF) M
n:20400。PDI:1.12。
1H NMR(400MHz,CDCl
3)δ:4.26−4.19(m,4H,−COOCH
2−,PEO末端基中),3.80−3.42(m,−CH
2CH
2O−,PEOの繰り返し単位),3.35(s,−OCH
3),3.22(t,CH
3C
10H
20CH
2−S−),1.67−1.60(m,−S−C(CH
3)
2COO−),1.33−1.21(m,CH
3C
10H
20CH
2S−),0.84(t,CH
3C
10H
20CH
2S−);
13C NMR(CDCl
3)δ:172.6,169.4,70.8,70.4,68.8,64.6,63.4,62.1,58.9,55.8,53.4,41.5,36.9,36.5,31.8,29.5,29.3,29.0,27.8,25.3,22.6,21.2,14.1。
【0051】
PEO−SS−PC5MA:代表的手順において、PEOマクロ連鎖移動剤(1.2g、0.2mmol)と、C5MA(3.8g、28.0mmol)と、AIBN(6mg、0.04mmol)との混合物を、1,4−ジオキサン(3mL)に溶解して、3回の凍結−排気−解凍サイクルを実施することによって脱気した。反応混合物を密閉し、その後、オイルバスに入れて、90℃で20時間保持した。得られた混合物を濃縮し、大過剰のメタノールに沈殿させた。粗生成物を回収し、ソックスレーでメタノールを用いて一晩抽出し、未反応のモノマーを除去し、その後、THFで抽出して、メタノールに再沈殿させた。生成物PEO−SS−PC5MAを回収して、真空乾燥させた。
1H NMR(CDCl
3,δppm):5.33(d,1H,−C=CH−,コレステリル部分のオレフィン基),4.5(m,1H,−CH
2−COO−CH),3.9(m,2H,−COOCH
2CH
2),3.64(m,PEOの−CH
2CH
2O−繰り返し単位),3.45(m,2H,−CH
2OCH−),3.36(s,−OCH
3),3.2(t,2H,CH
3C
10H
20CH
2−S−),2.50−0.55(m,−CH
3,−CH
2−,−CH−,コレステリル部分の−CH−(CH
3)−,−CH
2−C(CH
3)COO−,スペーサの−CH
2CH
2−CH
2CH
2CH
2−)。
13C NMR(CDCl
3,δppm):170.9(−COO),140.9(−C=CH−,コレステロール中のオレフィン基),121.9(−C=CH−,コレステロール中のオレフィン基),133,126.6(−CH
2,ビニル基中のCH),74.5(−COOCH),70.3および64.8(PEO中の−CH
2繰り返し単位),51.3−11.2(−CH
2−C(CH
3)COO−,−コレステロール)。
【0052】
合成されたままのPEO−SS−PC5MAの詳細な化学構造を、
1H−NMRによって確認した。
1H−NMRでは、得られたブロックコポリマーのモル組成および分子量の決定が可能になった。5.3、3.9および2.5〜0.55ppmのシグナルは、コレステロールのプロトンに起因した。加えて、モノマーオレフィンの6.42、6.09および5.54ppmのピークは、PEO−SS−PC5MAには存在しなかった。PEO繰り返し単位およびPEOのメチレン末端基に対応するPEOブロックのシグナルが、それぞれ3.6ppmおよび4.25ppmに観察された。5.33ppm(コレステリル部分のオレフィン基)および3.64ppm(PEO繰り返し単位)の
1H−NMRスペクトルにおけるピークの積分値を比較することによって、各ブロックの重量分率を決定した。ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いて、PEO−SS−PC5MAの数平均分子量(M
n)および多分散指数(PDI)を測定した(表1)。
【表1】
【0053】
実施例2:ジスルフィド結合を有さないコレステロール系ブロックコポリマーPEO−PC5MAの合成および精製
【化16】
【0054】
PEOマクロ連鎖移動剤:メトキシポリエチレングリコール20000(5.0g、0,25mmol)、RAFT剤(3.0g、5.62mmol)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(1.20g、6mmol)を、室温の無水CH
2Cl
2 40mLに溶解して、反応混合物を10分間撹拌した。4−ジ(メチルアミノ)ピリジン(73.2mg、0.6mmol)の添加の後、反応混合物を室温でさらに20時間撹拌した。反応を停止させて、溶媒を蒸発させた。得られた溶液をジエチルエーテルに注ぎ、生成物を沈殿させた。粗生成物を、固定相としてのシリカゲルおよび溶離液としての塩化メチレン/メタノール(4:1v/v比)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製した。純粋なPEOマクロ連鎖移動剤を、黄色固体として収率82%で得た。GPC(THF) M
n:20 800。PDI:1.09。
1H NMR(400MHz,CDCl
3)δ:4.26−4.19(m,4H,−COOCH
2−,PEO末端基中),3.80−3.42(m,−CH
2CH
2O−,PEOの繰り返し単位),3.35(s,−OCH
3),3.22(t,CH
3C
10H
20CH
2−S−),1.67−1.60(m,−S−C(CH
3)
2COO−),1.33−1.21(m,CH
3C
10H
20CH
2S−),0.84(t,CH
3C
10H
20CH
2S−);
13C NMR(CDCl
3)δ:172.6,169.4,70.8,70.4,68.8,64.6,63.4,62.1,58.9,55.8,53.4,41.5,36.9,36.5,31.8,29.5,29.3,29.0,27.8,25.3,22.6,21.2,14.1。
【0055】
PC5MA−PEO−チオエステル:PEOマクロ連鎖移動剤(1.2g、0.2mmol)と、C5MA(3.8g、28.0mmol)と、AIBN(6mg、0.04mmol)との混合物を、1,4−ジオキサン(3mL)に溶解して、3回の凍結−排気−解凍サイクルを実施することによって脱気した。反応混合物を密閉し、その後、オイルバスに入れて、90℃で20時間保持した。得られた混合物を濃縮し、大過剰のメタノールに沈殿させた。粗生成物を回収し、ソックスレーでメタノールを用いて一晩抽出し、未反応のモノマーを除去し、その後、THFで抽出して、メタノールに再沈殿させた。生成物PC5MA−PEO−チオエステルを回収して、真空乾燥させた。チオエステルのピークが、UV可視分光法による測定で310nmに現れた。
1H NMR(CDCl
3,δppm):5.33(d,1H,−C=CH−,コレステリル部分のオレフィン基),4.5(m,1H,−CH
2−COO−CH),3.9(m,2H,−COOCH
2CH
2),3.64(m,PEOの−CH
2CH
2O−繰り返し単位),3.45(m,2H,−CH
2OCH−),3.36(s,−OCH
3),3.2(t,2H,CH
3C
10H
20CH
2−S−),2.50−0.55(m,−CH
3,−CH
2−,−CH−,コレステリル部分の−CH−(CH
3)−,−CH
2−C(CH
3)COO−,スペーサの−CH
2CH
2−CH
2CH
2CH
2−)。
13C NMR(CDCl
3,δppm):170.9(−COO),140.9(−C=CH−,コレステロール中のオレフィン基),121.9(−C=CH−,コレステロール中のオレフィン基),133,126.6(−CH
2,ビニル基のCH),74.5(−COOCH),70.3および64.8(PEOの−CH
2繰り返し単位),51.3−11.2(−CH
2−C(CH
3)COO−,−コレステロール)。GPC(40℃,THF移動相,ポリスチレン標準):M
n=39600g/mol,PDI=1.17。
【0056】
実施例3:自己組織化ナノ粒子およびDOX−NPの調製および特徴づけ
ブランク・自己組織化NPを、透析法によって調製した。手短に述べると、PC5MA−SS−PEOまたはPC5MA−PEO−チオエステルを、音波処理の助けを借りてDMFに溶解した。その後、溶液を透析袋(MWCO:10,000Da)に移し、蒸留水で48時間透析した。DOX負荷SS−NPおよびチオエステル−NPを調製するために、DOX.HClを最初、トリエチルアミン(TEA)2当量を含有するDMFに溶解して、暗室で一晩撹拌し、疎水性DOXおよびTEA.HClを形成させた。各コポリマーを添加し、その後、溶液をさらに暗室で1時間撹拌した。その後、溶液を蒸留水で48時間透析して、溶媒を除去した。DOXは疎水性で、溶解度が低いため、その溶解度を超える非封入DOXが、水に沈殿することになる。沈殿したDOXを、8000rpmで10分間の遠心分離によって除去し、続いて0.45μmシリンジによりろ過し、DOX封入ナノ粒子の透明の赤色溶液を回収した。最終生成物を、凍結乾燥後に回収した。
【0057】
DOX負荷SSまたはチオエステルNP(1mg/mL)の平均粒子径、粒度分布およびゼータ電位を、動的光散乱法(DLS)(Malvern Zetasizer)を用いて測定した。DOX負荷SSまたはチオエステルNPの形態を、TEM(FEI Tecnai Biotwin、オランダ アイントホーフェン所在)により撮像した。ナノ粒子の懸濁液をホルムバール/カーボンフィルムグリッドに滴加して風乾することにより、標本を調製した。
【0058】
PC5MA−SS−PEOまたはPC5MA−PEO−チオエステルコポリマーの臨界凝集濃度(CAC)を、ピレンを疎水性プローブとして用いて蛍光測定することによって決定した。アセトン中のピレン溶液(3×10
−4M)をガラス管に添加し、続いて蒸発させて有機溶媒を除去した。様々な濃度のコポリマー溶液(10mL)をガラス管に添加して、60℃で3時間音波処理し、ピレンとナノ粒子を平衡にした。コポリマー濃度は、0.005〜0.5mg/mLの範囲内であり、ピレンの最終濃度は、6.0×10
−7Mであった。ピレンの発光スペクトルを、336nmの励起波長で蛍光分光光度計(Perkin Elmer LS−55b、米国)を用いて350〜450nmで記録した。ピレン発光スペクトルの一番目(374.5nm)と三番目に高いエネルギーバンド(386nm)の強度比の測定では、励起および発光スペクトルのスリット開口を5nmに設定した。
【0059】
ナノ粒子へのDOX封入の量を、比色法によって決定した。凍結乾燥されたDOX負荷SSまたはチオエステルNP(0.5mg)をDMF(2mL)に溶解して、透明溶液を得た。480nmでの吸光度を、UV−VIS分光光度計(島津製作所、日本所在)で検出した。DOX溶液を様々な濃度で調製して、480nmの吸光度を測定し、薬物負荷量を計算するための検量線を作成した。薬物負荷量(DLC)および封入効率(EE)を、以下の方程式を利用して計算した。
【数1】
【数2】
【0060】
水溶液中のPC5MA−SS−PEOコポリマーの自己組織化挙動を、ピレンを疎水性蛍光プローブとして用いて臨界ミセル濃度(CMC)を測定することによって特徴づけた。PC5MA−SS−PEOコポリマーのCMC値(11.4±0.1mg/L)は、PC5MA−PEO−チオエステルコポリマーの値(13.1±0.3mg/L)よりもわずかに低かった(表2)。
【表2】
【表3】
【0061】
疎水性DOXを、DOXとコレステロール部分の間の疎水性相互作用を通して、PC5MA−SS−PEOおよびPC5MA−PEO−チオエステルで自己組織化されたNPに封入した。DOX.HCl供給比20%(w/w)を用いると、PC5MA−PEO−チオエステルNPの薬物負荷量(DLC)は、約17.1%であり、封入効率(EE)は、88.1%であった。DLCおよびEE値は、PC5MA−SS−PEOコポリマーがわずかに高かった (それぞれ18.2%w/wおよび94.9%)(表2)。ブランク・PC5MA−SS−PEO NP、ブランク・PC5MA−PEO−チオエステルNP、DOX封入PC5MA−SS−PEO NP、およびDOX封入PC5MA−PEO−チオエステルNPのサイズおよび形態を、それぞれTEM(
図2)および動的光散乱法(DLS)(表2)によって検査した。TEM画像から、自己組織化ナノ粒子の全てが、20〜40nmサイズの球形であることが示された(
図2a〜d)。DLSによって測定されたブランク・PC5MA−SS−PEO NPおよびブランク・PC5MA−PEO−チオエステルNPの平均粒子径は、それぞれ約85.1nmおよび92.3nmであり、狭い粒度分布であった(PDI 0.2未満)(表2)。これらは、TEMによって測定されたサイズよりも大きく、それは自己組織化NPが水性媒体において膨潤状態で存在するためであり得る。DOXの封入によって、ナノ粒子の粒子径がDOX封入PC5MA−SS−PEO NPでは89.4nmに、そしてDOX封入PC5MA−PEOチオエステルNPでは101.3nmにわずかに増加した。SS−NP、チオエステル−NP、およびDOX負荷NPは、−22mV〜−26mVの範囲内のゼータ電位値に反映される通り、表面は負に帯電していた。DOXの物理的負荷は、ナノ粒子の表面負電荷をわずかに低下させた。
【0062】
還元により惹起された不安定化を観察するために、PC5MA−SS−PEO NPをPBS緩衝液(pH7.4、10mM)中の10mM DTTと共に振とうしながら37℃でインキュベートし、NPのサイズ変動を異なる時間間隔で検査した。PC5MA−SS−PEO NPのサイズ増加、および2つのピークの出現が、DTTとの30分間のインキュベートの際に観察された(
図3)。PC5MA−SS−PEO NPの初期サイズは、単峰型分布で85.1±3.1nmの平均水力学的径を示した。しかしNPの粒子径は、DTTとの30分インキュベート後に235nmに、そして2時間インキュベート後に540nmに劇的に増加した。4時間のDTTとのインキュベーション後には、粒子径が測定することができず、SS−NPの解離の完了が示された。
【0063】
実施例4:DOX封入NPの安定性
凍結乾燥されたDOX負荷SSまたはチオエステルNP(1mg/mL)を、血清含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(50%FBS)に懸濁させた後、10分間音波処理し、0.45μmシリンジろ過膜でろ過した。4℃で貯蔵されたナノ粒子の粒子径を、Malvern Zetasizerを用いて貯蔵時間にわたってモニタリングした。還元で惹起されたDOX封入SS−NPの不安定化を、水性媒体中の10mM DTTに応答したNPのサイズ変動を検出することによって観察した。手短に述べると、DOX封入SS−NPを1mg/mL濃度で、10mM DTTを含有するPBSに溶解し、その後、37℃の振とう浴に保持した。粒子径を、所定の時間にDLSによって測定した。DOX封入PC5MA−SS−PEO NPおよびPC5MA−PEO−チオエステルNPの平均粒子径は、50%FBS中での4℃での1週間貯蔵後に有意に変化せず(
図4a)、沈殿または凝集が観察されなかった。
【0064】
実施例5:還元により惹起されたSSまたはチオエステルNPからのDOX放出
ナノ粒子からのDOXのインビトロ放出を、透析法を利用して試験した。手短に述べると、凍結乾燥されたDOX負荷NP(6mg)を、PBS(0.01M、pH7.4)3mLに懸濁させた後、10分間音波処理して、光学的に透明な懸濁液を得た。懸濁液を5mL透析器(MWCO:10,000Da)に導入して、100rpmの振とう浴において37℃で、PBSまたは10mM DTT含有のPBS 20mLに浸漬した。選択された時間間隔で、アリコット(10mL)を溶解媒体から取り出し、同容量の新しい培地を補充した。DOX濃度を、480nmのUVにより直ちに測定した。放出されたDOXの割合%を、既知DOX濃度の標準曲線に基づいて計算した。
【0065】
DOX封入SS−NPは、細胞内区画と類似の還元環境である10mM DTTの存在下で、DOXを急速に放出し、5時間以内に50%DOX放出および24時間以内に約70%薬物放出を示した。反対に、最小薬物放出(約10%)が、同じ条件下の非還元性PC5MA−PEO−チオエステルNPおよびDTTの非存在下でのPC5MA−SS−PEO NPで24時間後に観察された(
図4b)。
【0066】
実施例6:A549およびNIH3T3細胞におけるDOX封入NPの細胞内取り込みおよび放出挙動
A549(癌細胞)およびNIH3T3(正常細胞)細胞を、Lab−Tek IIチャンバースライドの8ウェルチャンバーにおいて1.0×10
5個/ウェルの密度で播種し、37℃および5%CO
2で24時間プレインキュベートした。同一用量(10μg/mL)の遊離DOXおよびDOX−NPを含有する無血清DMEMを各ウェルに添加した後、37℃で30分間、2時間および4時間インキュベートした。その後、細胞をPBSですすぎ、4%ホルムアルデヒド溶液で10分間固定した。その後、カバーガラスをガラススライドに配置した。DOX封入SSまたはチオエステルNPの細胞内取り込みおよび放出挙動を、DOXの励起波長488nmで共焦点レーザ顕微鏡(CLSM)(Leica、英国所在)によって撮像した。DOXそのものが蛍光性であるため、それを用いて、ナノ粒子のさらなる蛍光標識を行わずに直接、細胞内取り込みを検討した。
【0067】
図5に示された通り、A549細胞をDOX封入チオエステルNPおよびDOX封入SS−NPと共に30分間インキュベートすると、赤色蛍光シグナルが、主に細胞質で観察されたが、遊離DOXは、細胞核に進入していた。2時間および4時間までインキュベーション時間を増加させることによって、遊離DOXおよびDOX封入SS−NPが細胞核内で強力な赤色シグナルを示したが(
図5a)、DOX封入チオエステル−NPは、依然として細胞質のままであった(
図5b〜c)。反対に、非還元性DOX封入チオエステル−NPからの細胞内薬物放出は、同じ条件下で無視できる程度であった。陰性対照として、NIH3T3細胞は、DOX封入チオエステル−NPおよびDOX封入SS−NPの細胞内取り込みを比較するために用いた。細胞を遊離DOXと共にインキュベートすると、赤色シグナルが30分〜4時間の全ての時点で細胞核内において観察された。細胞がDOX封入チオエステル−NPおよびDOX封入SS−NPに暴露されると、赤色蛍光シグナルが4時間まで主に細胞質内で視覚化された(
図5a〜c)。結果から、レドックス感受性ナノ粒子からのDOX放出が、4時間インキュベーションの間、NIH3T3などの正常細胞では無視できる程度であることが示された。
【0068】
実施例7:A549およびNIH3T3細胞におけるDOX封入NPの細胞毒性
A549およびNIH3T3細胞(7500個/ウェル)を96ウェルプレートに播種し、10%FBS、1%抗体、および1%L−グルタミンを補充されたDMEM 200μL中、37℃および5%CO
2で24時間培養した。インキュベーション後に、補充物質を含まないDMEMに溶解された様々な濃度のDOX封入SSまたはチオエステルNPおよび遊離DOX(1〜50μg/mL DOX当量)を添加した。24時間のインキュベーション後に、細胞毒性を、マイクロプレートリーダー(Tecan group Ltd.、スイス メンネドルフ所在)で540nmでの3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−3,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド色素(MTT色素、最終濃度0.5mg/mL)の取り込みを利用して決定した。
【0069】
DOX封入チオエステル−NPおよびDOX封入SS−NPのインビトロ細胞毒性を、MMTアッセイを利用してA549およびNIH3T3細胞における遊離DOXと比較した。
図6は、異なるDOX当量濃度でのブランク・ナノ粒子、遊離DOX、DOX封入チオエステル−NPおよびDOX封入SS−NPで処置されたA549およびNIH3T3細胞の生存性を示す。ブランク・チオエステル−NPおよびSS−NPは、1mg/mL濃度であってもA549細胞に対して無視できる程度の毒性を示し、処置の24時間後に90%を超える細胞生存性を有しており、A549細胞への該ナノ粒子の良好な適合性が示された(
図6a)。遊離DOXおよびDOX封入ナノ粒子は、用量依存的に(1〜50μg/mL DOX)24時間インキュベーションの後に細胞生存性を5〜82%低下させた(
図6b)。DOX濃度を1μg/mLから50μg/mLへ上昇させることによって、遊離DOXおよびDOX封入SS−NPは、細胞生存性を大幅に低下させたが、DOX封入チオエステル−NPは、細胞生存性を徐々に低下させた。全てのDOX濃度で、遊離DOXおよびDOX封入SS−NPの細胞毒性は、DOX封入チオエステル−NPよりも有意に高かった。NIH3T3細胞では、DOX封入チオエステル−NPの毒性は、全てのテスト濃度のDOXでDOX封入SS−NPと同等であった(
図6c)。
【0070】
実施例6:HeLa細胞におけるDOX封入NPの細胞内取り込みおよび放出挙動
細胞内取り込みを観察するために、HeLa(癌細胞)をLab−Tek IIチャンバースライドの8ウェルチャンバーにおいて1.0×10
5個/ウェルの密度で播種し、37℃および5%CO
2で24時間プレインキュベートした。同一用量(25μg/mL)の遊離DOXおよびDOX−NPを含有する無血清DMEMを各ウェルに添加した後、37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞をPBSですすぎ、10μM Draq5で染色して、4%ホルムアルデヒド溶液で10分間固定した。その後、カバーガラスをガラススライドに配置した。遊離DOXおよびDOX−NPの細胞内取り込みを、DOXの励起波長488nmでCLSMによって撮像した。細胞内取り込みを定量するために、0.5mL中のHeLa細胞(5×10
5個/ウェル)を24ウェルプレートにおいて、5%CO
2の加湿雰囲気下、37℃で24時間生育した。同一用量(25μg/mL)の遊離DOXおよびDOX−NPを含有する無血清DMEMを細胞に添加し、引き続き2時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで3回すすぎ、トリプシン処理によって回収して、蛍光活性化セルソーター(FACS)試験管に移した。試料は全て、フローサイトメトリー(FACSCalibur、BD Biosciences、カリフォルニア州サンホセ所在)によって分析して、細胞内在化を決定した。細胞内DOXの蛍光測定を、FL2チャンネルで実施した。
【0071】
図7に示された通り、2時間インキュベートの後、赤色蛍光シグナルが、遊離DOXおよびDOX封入SS−NP処置細胞で観察されたが、DOX封入チオエステル−NP処置細胞では、弱い赤色蛍光シグナルが観察された。4時間までインキュベーション時間を増加させることによって、遊離DOXおよびDOX封入SS−NP処置細胞は、赤色シグナルを有意に増加させたが、DOX封入チオエステル−NP処置細胞は、無視できる程度の赤色シグナルを呈した。加えて、遊離DOX、DOX封入チオエステル−NPおよびDOX封入SS−NPによるHeLa細胞の4時間の処置は、細胞の萎縮および突出を生じ、ナノ粒子におけるDOXの細胞毒性作用が示された。理想的サイズのナノ粒子が、EPR効果により腫瘍微細環境内に蓄積されることは、周知である。細胞内在化は、腫瘍細胞内で生物学的機能を発揮する抗癌剤を必要とするため、腫瘍組織内の蓄積は、いつも治療転帰と相関するとは限らない。DOX封入SS−NPの効率的な細胞内取り込みおよび薬物放出は、より大きな薬物効力を示し、癌に対するDOXの治療効果を改善する。
【0072】
実施例9:HeLa細胞におけるDOX封入NPの細胞毒性
HeLa細胞(7500個/ウェル)を96ウェルプレートに播種し、10%FBS、1%抗体、および1%L−グルタミンを補充されたDMEM 200μL中、37℃および5%CO
2で24時間培養した。インキュベーション後に、補充物質を含まないDMEMに溶解された様々な濃度のブランク・ナノ粒子(0.2〜1mg/L)、DOX−NP、および遊離DOX(1〜50μg/mL DOX当量)を添加した。遊離DOXおよびDOX−NPとの24時間のインキュベーション、ならびにブランク・ナノ粒子との48時間のインキュベーション後に、細胞毒性をマイクロプレートリーダー(Tecan group Ltd.、スイス メンネドルフ所在)で540nmでの3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−3,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド色素(MTT色素、最終濃度0.5mg/mL)の取り込みを利用して決定した。
【0073】
図8は、異なるナノ粒子および同一DOX濃度の遊離DOX、DOX封入チオエステル−NPおよびDOX封入SS−NPで処置されたHeLa細胞の生存性を示す。遊離DOX、DOX封入チオエステル−NPおよびDOX封入SS−NPは、4時間インキュベーションの後、細胞生存性を用量依存的に(1〜50μg/mL DOX)80〜90%低下させた。DOX濃度を1μg/mLから5μg/mLに、そして50μg/mLまで上昇させると、遊離DOXは、細胞生存性を有意に低下させたが、DOX封入NPは、細胞生存性を徐々に低下させた。全てのDOX濃度で、遊離DOXは、DOX封入NPよりも有意に高い細胞毒性を示しており、それはことによると遊離DOXおよびDOX封入NPの取り込み経路の差異、ならびにDOX封入NPの持続的放出特性が原因の可能性がある。類似のDOXレベルでは、DOX封入SS−NPの細胞毒性は、DOX封入チオエステル−NPよりも有意に低く、細胞によって取り込まれたDOX封入SS−NPが遊離形態のDOXを放出することが示された。
【0074】
実施例8:PC5MA−SS−PEO NPのインビボ撮像
PC5MA−SS−PEO NPの生体分布を、インビボ近赤外線(NIR)撮像によって評価した。NIRフルオロフォアであるDiRを、透析法によってナノ粒子に負荷した。手短に述べると、PC5MA−SS−PEO(10mg)およびDiR(0.6mgを、DMF(3mL)に溶解した。得られた溶液を、蒸留水で48時間透析し、その後、0.45μm膜でろ過して凍結乾燥した。DiRの負荷量を、750nm波長で分光光度法により決定した。腫瘍モデルは、A549細胞(PBS 100μL中に2×10
6個)を雄SCIDマウスの脇腹に皮下注射することによって樹立した。腫瘍が、許容し得るサイズに達したら、マウスの尾静脈注射を介してDiR負荷NP(5μg/kg DiR当量)で処置した。全身画像を、IVIS画像システム(PerkinElmer、米国マサチューセッツ州ホプキントン所在)を用いて注射後1時間目、3時間目、6時間目、24時間目、48時間目および72時間目に得た。心臓、腎臓、肝臓、脾臓、肺、および腫瘍をはじめとする様々な臓器の画像も、注射後72時間目のマウスの殺処分後に得た。
【0075】
疎水性NIRF色素であるDiRを、PC5MA−SS−PEO NP(5%w/w)への封入のためのモデル薬物として用いた。SS−NPからのDiR放出を模倣した生理学的条件下で検討し、結果はいずれのバースト放出も含まずに24時間で7%未満のDiR放出を示し、ナノ粒子中でのDiRの安定性が示された。この色素は、水またはヘモグロビンによって最小限に吸収される、強力なNIR蛍光を発する。これにより、非観血的動物撮像の際に、バックグランド蛍光からの少ない干渉が可能になる。DiR負荷PC5MA−SS−PEO NPを、尾静脈注射を介してA549腫瘍負荷SCIDマウスに投与した。注射後1時間および3時間目に、蛍光シグナルを動物全体から検出することができた。肝臓における蛍光シグナルは、腫瘍シグナルよりも比較的弱かった(
図9a)。その上、動物の周辺組織に比較した腫瘍におけるDiRシグナルの対比は、2匹のマウスにおいてPC5MA−SS−PEO NPの注射後6時間目に既に明らかであり、1匹では注射後1時間目でも明らかであった。注射後24時間目に、強力な赤色シグナルが、腫瘍組織において観察され、低いシグナルのみが、肝臓において観察された。腫瘍におけるこの強力な蛍光シグナルは、注射後72時間目まで持続した。この時間の後、マウスを殺処分して、主要臓器を単離し、DiR負荷ナノ粒子の組織分布を分析した。
図9bに示された通り、最高のNIRF強度が、腫瘍組織において観察されたが、シグナル強度は、肝臓などの他の組織ではより低く、心臓ではいずれの検出可能な蛍光シグナルも存在しなかった。
【0076】
結果
合成されたままのブロックコポリマーは、水溶液中で即座に自己組織化して、コレステロール部分の間の疎水性相互作用によってナノ粒子を形成した。CMC値は、PEG系ブロックコポリマーの典型的な範囲内であり、PC5MA−SS−PEOコポリマーがインビボで自己組織化ナノ粒子として長期間循環され得ることが示唆された。これらのナノ粒子は、疎水性薬物を封入し得る疎水性コレステロール内部コアを有するコア/シェル構造を有する。DOX封入されたPC5MA−SS−PEOおよびPC5MA−PEOチオエステルNPは、100nm未満のサイズおよび負電荷の表面を有する。腎クリアランスおよび肝捕捉を回避するための自己組織化ナノ粒子の理想的サイズが、それぞれ10nmより大きいことおよび100nm未満であることが報告されている。それゆえ還元性NPは、EPR効果を介した腫瘍ターゲティングに適したサイズおよび表面電荷を有する。
【0077】
DTTの還元環境において、DOX封入されたPC5MA−SS−PEO NPの粒子径は有意に増加し、該ナノ粒子が不安定であることが示された。さらに、いずれの粒子径も、インキュベーションの4時間後に検出可能でなく、ナノ粒子の完全な解離が示された。これは、還元環境でNPを破壊可能にするジスルフィド結合の存在によるものであった。これらの結果から、PC5MA−SS−PEO NPが、全身血液循環の際に安定したままであるが、PC5MAブロックとPEOブロックの間のジスルフィドリンカーの切断によって、細胞内還元環境ではDOXを急速に解離させて放出することが示唆される。この結果は、PC5MA−SS−PEO NPが10mM DTTによって不安定化した過去の観察と一致した。さらに、DOX封入SS−NPがDTTの非存在下でPBS中での初期バースト放出を行わずに持続的放出パターンでDOXを放出したことが、留意されなければならない。高濃度の細胞内GSHの存在下でのナノ粒子の解離によって薬物放出が癌細胞内で惹起されると、ナノ粒子が腫瘍組織に到達するまでに血流に放出される薬物の量が制限されているという点で、PC5MA−SS−PEO NPの放出挙動は抗癌剤の送達に有用である。
【0078】
インビトロ実験の結果から、DOX分子の放出を惹起する細胞内還性条件におけるDOX封入SS−NPの急速な解離が、癌細胞対正常細胞での細胞内取り込み試験から明白な通り、核内への急速な薬物流入をもたらすことが示された。DOX封入SS−NPからの惹起されたDOX放出は、非還元性NPに比較して有意に高い細胞毒性作用をもたらした。理想的サイズのナノ粒子が、EPR効果によって腫瘍微細環境内に蓄積されることは、周知である。しかし、細胞内在化は、腫瘍細胞内で生物学的機能を発揮する抗癌剤を必要とするため、腫瘍組織内の蓄積は、いつも治療転帰と相関するとは限らない。結果から、DOX封入SS−NPの効率的な細胞内取り込みおよび薬物放出が、癌に対するDOXの治療効果を改善することが示唆される。加えて、細胞毒性の結果から、DOX封入SS−NPが癌細胞内で遊離形態のDOXを放出し、治療効果を誘導することがさらに確認された。結果から、PC5MA−SS−PEO NPが抗癌剤の癌細胞特異的送達に効果的であることが示唆される。
【0079】
PC5MA−SS−PEO NPの生体分布を評価するために、担腫瘍SCIDマウスにおけるPC5MA−SS−PEO NPのインビボ蛍光画像を、非浸潤性近赤外蛍光(NIRF)撮像を利用して得た。注射後1時間目および3時間目の弱い肝臓内蛍光シグナルが、過去に報告されたコレステロール含有ナノ粒子と一致していた(Tran et al. “Long circulating self−assembled nanoparticles from cholesterol−containing brush−like block copolymers for improved drug delivery to tumors.” Biomacromolecules. 2014;15:4363−75)。強い全身蛍光が、注射後6時間目に連続して観察され、DiR負荷PC5MA−SS−PEO NPの長期循環時間が示された。過去のインビボ撮像試験から、遊離疎水性DiRが1時間〜24時間に肝臓内に蓄積され、腫瘍蓄積が無視できる程度であることが示された(Tran et al. 2014)。結果から、腫瘍組織におけるPC5MA−SS−PEO NPの効果的蓄積が実証された。PC5MA−SS−PEO NPのこの特筆すべき腫瘍ターゲティング化能力は、ナノ粒子の安定性によって実現された長期循環時間と、小サイズであり腫瘍蓄積に好適で肝臓による捕捉を低減することによる腫瘍組織でのEPR効果と、から得られた可能性がある。腫瘍組織に蓄積されると、DOXの治療効果は、NPからDOXを放出して腫瘍細胞核に急速に拡散する還元性NOの惹起作用によって増大し得る。
【0080】
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