特許第6751105号(P6751105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オットー・ボック・ヘルスケア・プロダクツ・ゲーエムベーハーの特許一覧

特許6751105人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法
<>
  • 特許6751105-人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法 図000002
  • 特許6751105-人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751105
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/70 20060101AFI20200824BHJP
   A61F 2/64 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   A61F2/70
   A61F2/64
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-555539(P2017-555539)
(86)(22)【出願日】2016年4月15日
(65)【公表番号】特表2018-516635(P2018-516635A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】EP2016058394
(87)【国際公開番号】WO2016169853
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2019年3月6日
(31)【優先権主張番号】102015106392.1
(32)【優先日】2015年4月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506153712
【氏名又は名称】オットー・ボック・ヘルスケア・プロダクツ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】サイフェルト、ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ツァーリング、スベン
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102012013141(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0018972(US,A1)
【文献】 特表2009−536050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/70
A61F 2/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法であって、前記人工膝関節は、旋回軸線(4)を中心として相互に旋回可能に締結されている上部(1)及び下部(2)、並びに前記上部(1)と前記下部(2)との間に設けられた抵抗部(6)を有し、前記抵抗部(6)は、緩衝抵抗(F)を変化させる調整器(7)と、前記調整器(7)と結合され少なくとも1つのセンサー(9)に接続された制御装置(8)とを有し、調整がセンサー情報に基づいて実行される制御方法において、
立脚期末までの立脚期屈曲時、膝角度(α)が前記少なくとも1つのセンサー(9)によって検出されることと、屈曲緩衝(F)が、所定の最大膝角度(αmax)が到達されたときに更なる屈曲が回避されるように初期屈曲緩衝(FDI)より高いレベル(FDmax)に増加させられることとを特徴とする、制御方法。
【請求項2】
前記屈曲緩衝(F)が、最大膝角度(αmax)が到達されたときのレベル(FDmax)で維持されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記屈曲緩衝(F)が、初期ヒール・ストライク中に一定に保持され、前記屈曲緩衝(F)が、荷重に応じて増加させられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記下部(2)の、遠位の回旋点を中心とする前方向回転が検出されることと、前記最大膝角度(αmax)が到達された後に継続する前方向回転がある場合、前記屈曲緩衝(F)が減少させられることとを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記屈曲緩衝(F)が、前方向回転の所定範囲を超過した場合及び/又は膝角度(α)が減少する場合に、減少させられることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記屈曲緩衝(F)が、前記初期屈曲緩衝(FDI)又はそれより高い値まで減少させられることを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記屈曲緩衝(F)が、所定の最大膝角度(α)が到達されかつ下部(2)が相対的な前方向回転をした場合に減少させられることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記最大膝角度(αmax)が、7度〜12度又は9度〜11度の範囲から選択され決定されることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記最大膝角度(αmax)が、検出された平面歩行の膝角度(α)の統計的評価に基づいて決定されることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記最大膝角度(αmax)は、人工膝関節の各使用者に対して個別に設定可能であることを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法に関するものであって、該人工膝関節は、旋回軸線を中心として相互に旋回可能に締結されている上部及び下部、並びに上部と下部との間に設けられた抵抗部を有し、該抵抗部は、緩衝抵抗を変化させる調整器と、調整器と結合され少なくとも1つのセンサーに接続された制御装置とを有し、調整はセンサー情報に基づいて実行される。
【背景技術】
【0002】
矯正器具、外骨格又は義肢の膝関節は、関節によって相互に接続された、上方の接続部を含む上部と下方の接続部を含む下部とを有する。通常上方の接続部には大腿断端又は大腿副木の取り付け手段が設けられ、下方の接続部には下腿管又は下腿副木が設けられている。最も簡単な場合には、上部と下部が単軸関節により旋回可能に相互に接続されている。
【0003】
夫々の一歩行の段階又はその他の動きや行動における様々な必要条件をできるだけ自然に模倣又は支持するために、屈曲抵抗と伸展抵抗を提供する抵抗装置が設けられていることが多い。力が発揮された場合、下部を上部に対して後方へどの程度旋回させ易くするかが屈曲抵抗により設定される。伸展抵抗によって下部の前進運動速度は落とされ、伸展停止部位等が形成される。
【0004】
DE 10 2008 008 284 A1から、上部とそれに旋回可能に設けられた下部とを含み、屈曲角センサー、加速センサー、傾斜センサー及び/又は力センサー等の複数のセンサーが設けられた、整形外科技術の膝関節が周知である。センサー情報によって伸展停止部位の姿勢を検出する。
【0005】
DE 10 2006 021 802 A1には、上方の結合手段と義足への接続要素とを含む義肢装置を適応させるために、屈曲方向に調整可能な緩衝手段を含む受動的義肢膝関節を制御する工程が記載されている。該適応は、階段を上るときに行われる。その際、義足が低運動量で持ち上げられたと検出され、持ち上げ期において屈曲緩衝は平面歩行に適度なレベルより低く設定される。屈曲緩衝は、膝角度の変化と下腿に作用する軸力とに応じて高く設定され得る。
【0006】
DE 10 2009 052 887 A1には、抵抗装置とセンサーとを含む、矯正用の又は人工装具の関節を制御する方法等が記載され、関節の使用時に状態情報がセンサーにより提供される。該センサーは、運動量又は力を検出し、検出値のうち少なくとも二つの検出値に関するセンサー情報は数学的演算により結合され、補助変数が算出され、その補助変数に屈曲抵抗及び/又は伸展抵抗の制御が基づく。
【0007】
緩衝動作変化を制御するために、従来技術ではセンサー情報は定量的に評価され、つまり、通常、アクチュエータは所定の境界値が到達される又は到達されない場合に稼働又は停止され、それゆえに抵抗装置は、増加又は減少させられた屈曲抵抗又は伸展抵抗を提供する。
【0008】
患者は、義肢、外骨格又は矯正器具を様々な環境で使用し得るとともに、階段又は斜面を下がることや様々な速度で平面を歩行し得る。また、患者は荷を運び得、それは義肢又は矯正器具の動作に影響を与える。特に遊脚期後(つまり処置されている脚が接地した後に体重が処置されている脚に移るとき)に、多くの患者はより高い安全性を要求する。しかし、初期の屈曲緩衝(つまり人工膝関節の屈曲に対抗する緩衝)が高過ぎると、股関節中に突発的な荷重が生じ、装着感の悪化と共に義肢又は矯正器具に対する受容性が悪化してしまう。
【発明の概要】
【0009】
本願発明の課題は、様々な歩行状況への適応性と心地良い歩行動作と最大の安全性とを実現させる人工膝関節の制御方法、特に人工膝関節中の緩衝変化の制御方法を提供することである。
【0010】
本願発明の課題は、独立請求項に記載の事項を含む方法により解決される。本願発明の効果的な実施例及び変形例は従属請求項、明細書及び図面に記載される。
【0011】
旋回軸線を中心として相互に旋回可能に締結されている上部及び下部、並びに上部と下部との間に設けられた抵抗部を有する人工膝関節において、該抵抗部は、緩衝抵抗を変化させる調整器と、調整器と結合され少なくとも1つのセンサーに接続された制御装置とを有し、該調整はセンサー情報に基づいて実行される、本願発明による人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法では、立脚期末までの立脚期屈曲時の膝角度が少なくとも1つのセンサーによって検出され、所定の最大膝角度に到達したときに更なる屈曲が回避されるように屈曲緩衝が初期屈曲緩衝より高いレベルに増加させられる。遊脚期の完了後に、緩衝抵抗(屈曲抵抗が重要)はヒール・ストライク時に十分な緩衝を供給するレベルに設定される。すると、そのレベルは初期屈曲緩衝のレベルになる。その後の立脚期の推移では、ヒール・ストライクによりインパルスのような地面からの反力が発生し、体の前進運動に伴う力の導入によりトルクが旋回軸周囲にもたらされるため、膝角度は増加する。処置されていない脚では踵接地は筋肉収縮により和らげられるが、処置されている脚では踵接地は抵抗部による初期屈曲緩衝により和らげられる。初期接地又は踵接地において約5度の屈曲角度又は膝角度が到達される。荷重反応である後続の運動期において、体重により脚への荷重は強まり、膝関節が更に屈曲する又は不安定になることにつながる。処置されていない脚では脚伸筋を緊張させることによって更なる屈曲に対処する。本願発明では、初期接地後又は踵接地後に屈曲緩衝は初期屈曲緩衝より高いレベルにされ、それは所定の最大膝角度に到達したときの更なる屈曲を抑制するレベルである。最大膝角度は予め決定され、斜面歩行又は平面歩行において、最大膝角度は7度〜12度である。従って、屈曲緩衝の変化は、膝角度(最大伸展になった姿勢では0度である)の増加に伴い屈曲緩衝を監視するように、つまり膝角度が増加するか否か、かつどのように増加するかを監視するように実行される。膝角度が所定の最大膝角度に近付くと、屈曲緩衝は増加させられ、望ましくは漸進的増加が実行される。つまり屈曲緩衝はゆっくり増加させられた後に、所定の最大膝角度に到達する直前に、更なる屈曲を発生させない、すなわち屈曲停止となるように、増加させられる。油圧式、空気圧式、電気式又は機械式抵抗部又はブレーキ等として構成され得る抵抗部はブロックされる。油圧式又は空気圧式抵抗部では、媒体が伸展室から屈曲室へ流れ込まないように、越流管は閉鎖される。機械式抵抗装置では、更なる屈曲が発生しないように例えば摩擦は増加させられる。電動式抵抗装置についても同様である。本願発明の方法は、義肢、矯正器具及び外骨格を制御するものである。以下、「矯正器具」に関する記載は、外骨格の形状を有する矯正器具の特殊型にも当てはまる。全立脚期に渡って、つまり足又は足部の初めての接地(初期接地、踵接地又はヒール・ストライク)から、膝関節が完全に伸展し膝関節が背側伸展に対する抵抗を介して伸展された姿勢で保持されるとともに力ベクトルの位置が膝軸前にある立脚期末まで、センサーは測定値を検出する。立脚期末の後、いわゆる前遊脚期において遊脚期は準備されるが、健脚の場合は膝関節による受動的屈曲は発生するものの爪先はまだ地面から離れない。
【0012】
本願発明による変形例では、屈曲緩衝は最大膝角度に到達したときのレベルで保持される。これにより、高い安全性が確保され、後続の歩行推移では人工膝関節は崩れ落ちない。平面歩行においては、相対的な最大値の後に膝角度は減少し、つまり立脚期末に至るまで伸展する。この期間において、膝角度は完全な伸展まで減少する。従って、荷重反応時に屈曲緩衝を最大膝角度のレベルに維持することは、安定性を平面歩行に支障なく増加することとなる。
【0013】
屈曲緩衝は、初期ヒール・ストライク中に一定に保持され、荷重に応じて増加させられ得る。望ましくは、いわゆる荷重反応に到達してから初めて増加させられる。荷重反応は歩行のひとつの局面であり、ここにおいて、足が完全に接地するとともに、力ベクトルが初期踵接地後に膝軸の後方に移動することによって膝屈曲は発生させられる。健脚の場合では、大腿筋が稼働され屈曲速度は落とされる。人工膝関節では、ヒール・ストライク後に屈曲緩衝は荷重に応じて増加させられる。荷重が少ない場合より荷重が大きい場合の方が増加させられる。
【0014】
本願発明による変形例では、下部(つまり矯正器具における下腿副木又は義肢における下腿管)の、遠位の回旋点を中心とする前方向回転が検出され、望ましくはセンサーによって検出される。後続の運動動作について結論を引き出すために、足首関節又は地面領域における仮想の回旋点の周囲の下腿による運動が測定又は検出される。前方向回転が最大膝角度の到達後に継続した場合、屈曲緩衝は減少させられ得る。このようにして、立脚期末中又は前遊脚期中に膝関節が十分に屈曲しやすくなり、爪先を地面から離しやすくなる。継続的な前方向回転は、例えば斜面や階段を下るとき、つまり下部が踵又は階段ステップ端の回旋点周囲を更にロール・オフすることで更に前方向に回転した場合、膝角度が減少しなくても生じ得る。それは、例えば慣性角度センサー等の個別センサーにより検出され得る。このセンサーも調整器と結合され屈曲抵抗を適応させる制御装置に接続されている。
【0015】
前方向回転の所定範囲を超過した場合及び/又は膝角度が減少する場合、屈曲緩衝は減少させられ得る。前方向回転の範囲は、例えば所定の角度範囲を含み得る。その角度範囲に基づいて、下部は遠位の回旋点を中心とする前方向回転をしなければならない。例えば、5度〜10度の前方向回転が検出された場合、制御装置は、平面歩行又は斜面及び/又は階段を下りる交互的歩行において、更なる前進運動が行われ、屈曲緩衝を減少させる必要があると仮定する。前方向回転の所定範囲の監視に基づいて屈曲緩衝を減少させることは、個別に、又は減少する膝角度の検出と組み合わせて採用され得る。
【0016】
屈曲緩衝は、初期立脚期の最大屈曲緩衝に適応させられた後に初期立脚期の屈曲緩衝値又はそれより高い値まで減少させられ得る。このようにして、斜面下り又は階段下り等において好ましくない屈曲に対する高い安定性も提供される。
【0017】
本願発明による変形例では、所定の最大膝角度が到達され、下部が前方向回転した後に、屈曲緩衝が減少させられる。特に斜面下り又は傾斜地下りの歩行において、患者に対して検出された又はあらかじめ定められた最大膝角度が到達された場合、かつ下部が慣性角度センサー又は足首関節角度センサー等により検出される前方向回転をした場合、本願発明による変形例では、膝関節の更なる屈曲及びそれゆえの一様な歩行と自然な歩行パターンを提供するために屈曲抵抗は減少させられる。
【0018】
最大膝角度は7度〜12度又は11度〜9度の範囲から選択し決定され得る。最大膝角度は10度が多い。その値は、荷重反応時に処置されていない脚の屈曲により到達される膝角度の凡そ半分である。
【0019】
また、最大膝角度は、検出された平面歩行の膝角度の統計的評価に基づいて設定され得る。その統計的評価は人工膝関節の制御装置において実行され得る。このようにして、人工膝関節の各使用者のために最大膝角度を個別に設定し得る。
【0020】
本願発明による方法は、特に平面歩行時及び斜面下り時における立脚期緩衝制御に適している。特殊状況である階段下りは別の制御を必要とする。
【0021】
抵抗部は、例えばアクチュエータであり得、例えば油圧式、空気圧式、磁気流動式、磁気式、電気式、機械式又は電磁気式抵抗部として構成され得る。油圧式又は空気圧式抵抗部では、越流管が閉鎖され、媒体は越流管を通過して伸展室から屈曲室へ流れなくなる。このようにして、伸展室と屈曲室との間の媒体流量は場合によって完全に抑制され得る。機械式抵抗装置では、例えば摩擦は更なる屈曲が発生しない程度に増加させられる。電動式抵抗部も同様である。
【0022】
システムにエネルギーを積極的に加えることと、そして逆にシステムからエネルギーを吸収し抵抗部として機能することと、その両方ができるアクチュエータも採用され得る。アクチュエータは、例えば電気モーター、油圧式又は空気圧式ポンプ、或いは圧電式素子として構成され得る。
【0023】
以下、図面を参照して本願発明による実施例を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は義足を示す略図である。
図2図2は制御図である。
【0025】
図1には、上部1を含む義足が示されている。大腿断端を取り付けるための大腿シャフト10が締結されている。上部1には、下腿部の形状を有する下部2が旋回可能に設けられている。下部2は、上部1の旋回軸線4を中心として旋回可能に設けられている。下部2は、下腿管5を有し、その遠位端には、義足3が締結されている。義足3には、下腿管5に作用する軸力と、義足3の締結部位を中心として下腿管5に作用する足首運動量とを検出する装置が収納され得る。
【0026】
下部2の内側又は外面側には、緩衝装置又はアクチュエータ等として構成され得る抵抗装置6が取り付けられている。抵抗装置6は、調整可能な伸展抵抗及び屈曲抵抗を提供するために、上部1と下部2の間に支持されている。抵抗装置6には、モーター、磁石又はその他の抵抗装置6内の各抵抗Rを変化可能なアクチュエータ等の調整器7が設けられている。抵抗装置6が油圧緩衝装置又は空気緩衝装置として構成される場合、調整器7により、越流管路の流量横断面を増加若しくは減少し、又は流量抵抗を他の方法により変化し得る。また、それは弁の開閉、或いは粘度又は磁気流動的特性を変化させることによって実現され得る。抵抗装置が発電機として作用する電気モーターとして構成される場合、電気抵抗を変化させることによって屈曲又は伸展に対する抵抗の増加又は減少を適応することができる。
【0027】
調整器7を稼働又は停止させるために、下部2には、特に下腿ケーシングに収納された制御装置8が設けられている。制御装置8により、対応する稼働信号又は停止信号が調整器7に送信される。調整器7は、センサー情報に基づいて稼働させられ又は停止される。センサー情報は、人工膝関節に設けられた一つ又は複数のセンサー9により提供される。センサー9は、角度センサー、加速センサー及び/又は力センサーであっても良い。センサー9は、ケーブル又は無線送信装置等を介して制御装置8と接続されている。図示の実施例においてセンサー9は特に膝角度センサーとして構成されている。
【0028】
センサー9により、踵接地(ヒール・ストライク)から次の後続のヒール・ストライク(HS)までの一歩行の全周期、つまり遊脚期伸展と遊脚期屈曲とを含む全遊脚期、が監視される。
【0029】
図2の線図には膝角度α及び屈曲緩衝Fの経時的な変化が描画されている。二つの歩行状況の膝角度αが、立脚期開始、つまりヒール・ストライクHSから立脚期末まで示されている。下方の曲線推移αは平面歩行の膝角度推移を示す。上方の曲線推移αは斜面下り又は階段下りの膝角度推移を示し、それは交互的歩行時の処置されている脚についてのものである。
【0030】
通常では、曲線αによる平面歩行の膝角度推移は、ヒール・ストライクHSの範囲にある最大伸展した姿勢から始まり、初期接地後、荷重反応末期に局所的最大値αmaxに増加し、立脚期の途中で再び低下する。ここで、脚はほぼ伸展した姿勢をとり、一歩行の更なる推移において膝角度αは立脚期末及び前遊脚期の範囲で再び増加する。
【0031】
曲線αが示すように、交互的斜面下りの膝角度推移は荷重反応末期に低下しない。むしろ、人工膝関節は一定値αmaxで留まり、その後に、平面歩行より早く、更に屈曲させられる。
【0032】
両方の歩行様式に対して安定した立脚期屈曲の緩衝動作を提供するために、緩衝抵抗F又は屈曲抵抗は先ず初期緩衝レベルFDIに設定される。このレベルでは、初期接地時に人工膝関節は屈曲可能であるものの、屈曲は人工膝関節が崩れ落ちないために緩衝し制動される。この初期の屈曲緩衝FDIは、膝角度αがある閾値に到達するまで一定にさせられる。図示の実施例では、その閾値は許容される又は許容されると見做される所定の最大膝角度αmaxの約30%である。屈曲緩衝Fの増加は凡そヒール・ストライクの直後から始まる。また、その代わりに、閾値はより大きい膝角度、例えば許容される又は許容されると見做される最大膝角度αmaxの50%又は70%であり得る。膝角度αの設定閾値に到達したときに屈曲緩衝Fは増加させられる。このようして、膝関節の更なる屈曲は制動され最大膝角度αmaxに到達したときにブロックされる。図示の実施例では、屈曲緩衝は漸進的に増加させられるが、逓減的又は直線的にも増加させられ得る。屈曲緩衝Fは、最大膝角度αmaxの到達時に更なる屈曲が不可能な最大屈曲緩衝値FDmaxになる。この抵抗FDmaxは、設定期間ΔTに渡って維持される。最大屈曲抵抗FDmaxの水平域Dが生じ、その期間に人工膝関節は屈曲できない。
【0033】
レベルFDmaxが維持される期間ΔTは、タイムスイッチ要素によって又は下部2(例えば下腿管5)の前方向回転ΔΦ又は義足3の足首関節周囲の旋回運動の検出によって検出される。加速センサー、角度センサー及び/又は慣性角度センサーにより検出され得る角度Φの更なる前方向回転が実行されると、人工膝関節の使用者は更に前方向に進む。更なる前方向回転Φの角度範囲としては5度〜10度の旋回角が考えられる。更なる前方向回転の閾値に到達し又は時間が過ぎた場合、屈曲緩衝FDmaxは減少させられる。その減少は、図示の実施例において逓減的に実行される。このようにして、例えば斜面歩行時に更なる屈曲を可能にするために、先ず屈曲緩衝は迅速に低下する(曲線αの推移参照)。他の緩衝減少推移、例えば漸進的又は直線的推移も設定され得る。期間ΔT中、抵抗水平域Dの水平域範囲において、人工膝関節は更なる屈曲運動をしない。屈曲抵抗Fが最大屈曲抵抗FDmaxより低いレベル(図示の実施例では、低下曲線FDSの範囲内にある初期屈曲緩衝FDIより高いレベル)に低下させられた時点で、屈曲の増加が初めて可能になる。
【0034】
この制御の効果は、高い安定性にある。その安定性は、常に最大膝角度αmaxに制限される初期膝屈曲に基づいているものであり、後続の運動推移における運動範囲又は機能性は制限されない。最大膝角度αmaxが到達され、かつ曲線αに示すように膝伸展が発生せずに脚が更に前方向に回転した場合、屈曲緩衝Fは高い緩衝まで、場合によっては初期の屈曲緩衝FDIまで、継続的に減少させられる。このようにして、斜面下り又は階段下りのとき、安定性を喪失せずに後続の運動推移が中断なしに実行可能であることが確保される。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1]人工膝関節における立脚期緩衝の制御方法であって、前記人工膝関節は、旋回軸線(4)を中心として相互に旋回可能に締結されている上部(1)及び下部(2)、並びに前記上部(1)と前記下部(2)との間に設けられた抵抗部(6)を有し、前記抵抗部(6)は、緩衝抵抗(F)を変化させる調整器(7)と、前記調整器(7)と結合され少なくとも1つのセンサー(9)に接続された制御装置(8)とを有し、調整がセンサー情報に基づいて実行される制御方法において、
立脚期末までの立脚期屈曲時、膝角度(α)が前記少なくとも1つのセンサー(9)によって検出されることと、屈曲緩衝(F)が、所定の最大膝角度(αmax)が到達されたときに更なる屈曲が回避されるように初期屈曲緩衝(FDI)より高いレベル(FDmax)に増加させられることとを特徴とする、制御方法。
[2]前記屈曲緩衝(F)が、最大膝角度(αmax)が到達されたときのレベル(FDmax)で維持されることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]前記屈曲緩衝(F)が、初期ヒール・ストライク中に一定に保持され、前記屈曲緩衝(F)が、荷重に応じて増加させられることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記下部(2)の、遠位の回旋点を中心とする前方向回転が検出されることと、前記最大膝角度(αmax)が到達された後に継続する前方向回転がある場合、前記屈曲緩衝(F)が減少させられることとを特徴とする、[1]〜[3]の何れか一項に記載の方法。
[5]前記屈曲緩衝(F)が、前記前方向回転の所定範囲を超過した場合及び/又は膝角度(α)が減少する場合に、減少させられることを特徴とする、[1]〜[4]の何れか一項に記載の方法。
[6]前記屈曲緩衝(F)が、前記初期立脚期屈曲緩衝(FDI)又はそれより高い値まで減少させられることを特徴とする、[4]又は[5]に記載の方法。
[7]前記屈曲緩衝(F)が、所定の最大膝角度(α)が到達されかつ下部(2)が相対的な前方向回転をした場合に減少させられることを特徴とする、[1]〜[6]の何れか一項に記載の方法。
[8]前記最大膝角度(αmax)が、7度〜12度又は9度〜11度の範囲から選択され決定されることを特徴とする、[1]〜[7]の何れか一項に記載の方法。
[9]前記最大膝角度(αmax)が、検出された平面歩行の膝角度(α)の統計的評価に基づいて決定されることを特徴とする、[1]〜[8]の何れか一項に記載の方法。
[10]前記最大膝角度(αmax)は、人工膝関節の各使用者に対して個別に設定可能であることを特徴とする、[1]〜[9]の何れか一項に記載の方法。
図1
図2