(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751108
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】熱成形可能な半剛性装具
(51)【国際特許分類】
A61F 5/01 20060101AFI20200824BHJP
A61F 5/02 20060101ALI20200824BHJP
A61F 13/06 20060101ALI20200824BHJP
A61F 13/10 20060101ALI20200824BHJP
A41D 13/06 20060101ALI20200824BHJP
A41D 13/08 20060101ALI20200824BHJP
A41D 13/05 20060101ALI20200824BHJP
A61F 5/10 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
A61F5/01 N
A61F5/02 N
A61F13/06 B
A61F13/10 A
A41D13/06
A41D13/08 101
A41D13/05 156
A41D13/05 175
A61F5/10
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-563079(P2017-563079)
(86)(22)【出願日】2016年6月7日
(65)【公表番号】特表2018-525048(P2018-525048A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】FR2016051355
(87)【国際公開番号】WO2016198778
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2019年5月9日
(31)【優先権主張番号】1555282
(32)【優先日】2015年6月10日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515315576
【氏名又は名称】ミレー イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フォンテーヌ,ティエリー
【審査官】
野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−023858(JP,A)
【文献】
特開昭63−161961(JP,A)
【文献】
特開2002−102263(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/028734(WO,A1)
【文献】
米国特許第06475174(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F5/00−5/10
A61F13/06
A61F13/10
A41D13/05−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは脊椎動物の手足または関節を維持するための装具であって、
弾性織物で形成され、かつ手足または関節を圧迫するように成形されたスリーブ(10)と、
熱成形可能な材料で作られたプレート(12)と、
前記プレートを受け入れるために前記スリーブ上に形成され、かつ前記プレートの形状に合わせて調整された形状を有するポケットと、
を含む、装具であり、
前記プレート(12)の表面および/または前記ポケットの内面は、前記ポケットを形成する前記弾性織物(10、11)の糸の前記プレート内への埋め込み効果を低下させ、それにより前記プレートが前記ポケットの中に存在した状態で前記スリーブを前記手足または関節の上に配置することによって行われる前記プレートの熱成形作業の間および後に前記ポケットを形成する前記弾性織物に対する前記プレートの相対的移動を可能にするように処理されていることを特徴とする、装具。
【請求項2】
前記ポケットは、維持される前記手足または前記関節の皮膚に接触するように構成された前記スリーブ(10)の内面に取り付けられた層(11)によって形成されている、請求項1に記載の装具。
【請求項3】
前記ポケットは、前記スリーブ(10)に取り付けられたパッド入り織物で作られた層(11)によって形成されている、請求項1または2に記載の装具。
【請求項4】
前記ポケットで覆われていない前記スリーブ(10)の一部は弾性織物で作られている、請求項1乃至3のうちの1項に記載の装具。
【請求項5】
前記スリーブ(10)は0.2〜1.5mmの厚さを有する弾性織物で作られている、請求項1乃至4のうちの1項に記載の装具。
【請求項6】
前記プレート(12)および/または前記プレートに接触するように構成された前記ポケットの内面は、前記プレートを前記ポケットの中に配置したままでの前記プレートの熱成形作業の間および後に前記プレートと前記ポケットの内面との接着を低下させるためにフィルムまたはコーティングで覆われている、請求項1乃至5のうちの1項に記載の装具。
【請求項7】
前記プレート(12)は抗接着処理されたシート材料から切り取られたものであり、前記プレートの縁部の一部は、前記ポケットの内面に接着せず、かつ前記プレートの熱成形作業の間および後に前記プレートと前記ポケットの内面との接着を制限するストリップで覆われている、請求項1乃至5のうちの1項に記載の装具。
【請求項8】
前記スリーブ(20)は、
脚を通すための近位開口部(20b)、前足を通すための遠位開口部(20d)および踵を通すための中間開口部(20a)を有し、かつ熱成形可能な材料からなる2枚のプレート(22a、22b)を受け入れるように構成された、足底(20c)と前記スリーブの前記近位開口部との間に延在する足首の踝を覆うための2つのポケット(21a、21b)を含むヒトの足首および足の形状、
手の親指の遠位部を通すための遠位開口部(30b)、前腕を通すための近位開口部(30a)および手のその他の指を通すための中間開口部(30c)を有し、かつ熱成形可能な材料からなるプレート(32)を受け入れるように構成された、手の側を覆う前記スリーブの一部を除く前記スリーブ全体を覆うためのポケット(31)を含むヒトの手首および手の近位部および手の親指の形状、
足の親指の遠位部を通すための遠位開口部(40b)、足を通すための近位開口部(40a)および足のその他の指を通すための中間開口部(40c)を有し、かつ足の内側面の一部および足の親指を覆うように構成されたスリーブの一部に熱成形可能な材料からなるプレート(42)を受け入れるように構成されたポケット(41)を含むヒトの足および足の親指の近位部の形状
のうちの1つに適合する、請求項1乃至7のうちの1項に記載の装具。
【請求項9】
前記スリーブ(20)はヒトの足首および足の形状に適合し、前記プレートの熱成形中に前記スリーブを前記足および前記足首の周りにさらに締め付けるために前記足および前記足首の周りに巻き付けられるように構成されたバンド(24)に固定されている、請求項8に記載の装具。
【請求項10】
維持される前記手足または前記関節の皮膚に接触するように構成された前記ポケット(41)の外面はポリマーゲル層で被覆されており、ポリマーゲルで被覆された前記ポケットの一部は前記手足の軸に平行な方向の弾性よりも大きいか等しい前記手足の軸に垂直な方向の弾性を有する、請求項8に記載の装具。
【請求項11】
ポリマーゲルで被覆されたポケット(41)の外面に取り外し可能に取り付けられたポリマーゲルペレット(44)を含む、請求項10に記載の装具。
【請求項12】
ヒトまたは脊椎動物の手足または関節を維持するための装具を製造する方法であって、
弾性織物で作られかつ手足または関節を圧迫するように成形されたスリーブ(10)を作製する工程と、
熱成形可能な材料からなるプレート(12)の形状を前記手足または関節の一部に合わせて調整する工程と、
前記プレートを受け入れるために前記スリーブ上に前記プレートの形状に合わせて調整された形状を有するポケットを形成する工程と、
を含む、方法であり、
前記ポケットを形成する弾性織物(10、11)の糸の前記プレート内への埋め込み効果を低下させ、このようにして前記プレートが前記ポケットの中に存在した状態で前記スリーブを前記手足または関節の上に配置することによって行われる前記プレートの熱成形作業の間および後に前記ポケットを形成する弾性織物に対する前記プレートの相対的移動を可能にするように前記プレート(12)の表面および/または前記ポケットの内面を処理する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
維持される前記手足または前記関節の皮膚に接触するように構成されたスリーブ(10)の内面に層(11)を取り付けることによって前記ポケットの形成を行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ヒトまたは脊椎動物の手足または関節を維持するための装具を製造するための方法であって、請求項12および13のうちの1項に記載の方法を実施する工程およびプレート(12)を前記ポケットの中に配置する工程、ならびに前記装具を前記プレートを軟らかくするのに十分な温度まで加熱する工程および前記プレートが硬化する前に前記スリーブを手足または関節の周りに配置する工程を含む前記装具の熱成形作業を含む、方法。
【請求項15】
前記熱成形作業は、前記スリーブを前記手足または関節の周りに配置する前に前記手足または関節をフィルムで覆う工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記熱成形作業は、前記スリーブを前記手足または前記関節の周りに配置する前に皮膚に接触するように構成された前記ポケットの外面の領域にペレット(44)を配置し、前記ペレットを前記熱成形作業後に前記スリーブから取り出して前記プレートと前記皮膚との間に隙間を形成する工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手足の移動を制限することを目的とした装具、すなわち例えば機械的影響下で足の親指の関節を再位置合わせする外反母趾の治療のために使用されるような矯正用装具に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量装具の設計では、維持される手足の形状に適合する剛性要素を提供する必要がある2つの状況を特定することができる。いくつかの状況では、手足を固定する必要がある。これは母指CM関節症(rhizarthrosis)の影響を軽減することに関して言えば手の親指の場合である。またこれは、特に高い精度を必要とする治療のため、例えば癌の治療のために人を放射線療法用装置下に位置づけるために手足を特定の位置に保持しなければならない場合である。
【0003】
足首または手首を含む特定の関節外傷を治療するために、関節の若干の維持を確保することが必要な場合もある。他の状況では、矯正目的のために関節に張力をかけることが必要な場合もある。これは例えば外反母趾を治療するための足の親指の場合である。足首などの特定の関節の場合、ウォーキングなどの特定の運動の実施中に関節を維持することで外傷を防止することが有用であり得る。保持により関節の弛緩を補正することができる。
【0004】
剛性ならびに手足および/または関節の形状への適合というという要求を満たすために、装具士はさらなる加熱成形により自由自在に形状を変えることができる熱成形可能な材料を使用する。そのような材料からなるプレートは一般に患者が耐えることができる温度の熱水に数分間浸漬することで加熱される。次いで、このプレートは維持される領域の形状に一致するのに十分な程に軟らかくなった後に硬化する。
【0005】
現在、装具士はこれらの材料の製造業者によって定められている手順に従って熱成形可能な材料を含む特注の装具を作製している。これらの手順は全て患者自身が行うことができず、通常は専門家によって実施されることを意図して作られていることが分かっている。さらに、これらの手順に従って作製される装具は、特に重くかつ厚いニットウェアならびにループおよびフックを有する固定バンド(ベルクロ型)の使用により比較的重くかつ嵩張る。
【0006】
国際公開第2014/110026号、米国特許第4,716,892号および米国特許第4,572,167号から、実施者がその形状を得るために手足の上にしっかりと当てながら閉じることができる開放した被覆システムに付随する一般に開放したポケットの中にこの種の材料を置いて使用することが知られている。
【0007】
従って、手足または関節の剛性保持を確保するように構成された装具を提供することが望ましい。また、この装具は現在使用されている装具よりも軽量かつ煩わしさが少ないものであることが望ましい。また、この装具は専門家の助けを必要とすることなく適合可能かつ/または使用可能であることが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
実施形態は
、弾性織物で形成され、かつ手足または関節を圧迫するように成形されたスリーブと、熱成形可能な材料で作られたプレートと、プレートを受け入れるためにスリーブ上に形成され、かつプレートの形状に合わせて調整された形状を有するポケットとを含む、ヒトまたは脊椎動物の手足または関節を維持するための装具に関する。
プレートの表面および/またはポケットの内面は、ポケットを形成する織物の糸のプレート内への埋め込み効果を低下させ、それによりプレートがポケットの中に存在した状態で装具を手足または関節の上に配置することによって行われるプレートの熱成形作業の間および後にポケットを形成する織物に対するプレートの相対的移動を可能にするように処理されている。
【0009】
一実施形態によれば、ポケットは維持される手足または関節の皮膚に接触するように構成されたスリーブの内面に取り付けられた層によって形成されている。
【0010】
一実施形態によれば、ポケットはスリーブに取り付けられたパッド入り織物で作られた層によって形成されている。
【0011】
一実施形態によれば、ポケットで覆われていないスリーブの一部は弾性織物で作られている。
【0012】
一実施形態によれば、スリーブは0.2〜1.5mmの厚さを有する弾性織物で作られている。
【0013】
一実施形態によれば、プレートおよび/またはプレートに接触するように構成されたポケットの内面は、プレートをポケットの中に配置したままでのプレートの熱成形作業の間および後にプレートとポケットの内面との接着を低下させるためにフィルムまたはコーティングで覆われている。
【0014】
一実施形態によれば、プレートは抗接着処理されたシート材料から切り取られたものであり、プレート縁部の一部は、ポケットの内面に接着せず、かつプレートの熱成形作業の間および後にプレートとポケットの内面との接着を制限するストリップで覆われている。
【0015】
一実施形態によれば、スリーブは、脚を通すための近位開口部、前足を通すための遠位開口部および踵を通すための中間開口部を有し、かつ熱成形可能な材料からなる2枚のプレートを受け入れるように構成された、足底とスリーブの近位開口部との間に延在する足首の踝を覆うための2つのポケットを含むヒトの足首および足の形状、手の親指の遠位部を通すための遠位開口部、前腕を通すための近位開口部および手のその他の指を通すための中間開口部を有し、かつ熱成形可能な材料からなるプレートを受け入れるように構成された、手の側を覆うスリーブの一部を除くスリーブ全体を覆うためのポケットを含むヒトの手首および手の近位部および手の親指の形状、足の親指の遠位部を通すための遠位開口部、足を通すための近位開口部および足のその他の指を通すための中間開口部を有し、かつ足の内側面の一部および足の親指を覆うように構成されたスリーブの一部に熱成形可能な材料からなるプレートを受け入れるように構成されたポケットを含むヒトの足および足の親指の近位部の形状のうちの1つに適合する。
【0016】
一実施形態によれば、スリーブはヒトの足首および足の形状に適合し、特にプレートの熱成形中にスリーブを足および足首の周りにさらに締め付けるために足および足首の周りに巻き付けられるように構成されたバンドに固定されている。
【0017】
一実施形態によれば、維持される手足または関節の皮膚に接触するように構成されたポケットの外面はポリマーゲル層で被覆されており、ポリマーゲルで被覆されたポケットの一部は手足の軸に平行な方向の弾性よりも大きいか等しい手足の軸に垂直な方向の弾性を有する。
【0018】
一実施形態によれば、本装具は、ポリマーゲルで被覆されたポケットの外面に取り外し可能に取り付けられたポリマーゲルペレットを含む。
【0019】
また実施形態は、手足または関節を圧迫するように成形された弾性織物スリーブを作製する工程と、熱成形可能な材料からなるプレートの形状を手足または関節の一部に合わせて調整する工程と、プレートを受け入れるためにスリーブ上にプレートの形状に合わせて調整された形状を有するポケットを形成する工程とを含む、ヒトまたは脊椎動物の手足または関節を維持するための装具の製造方法に関するものであってもよい。上記方法は、ポケットを形成する織物の糸のプレート内への埋め込み効果を低下させ、このようにしてプレートがポケットの中に存在した状態で装具を手足または関節の上に配置することによって行われるプレートの熱成形作業の間および後にポケットを形成する織物に対するプレートの相対的移動を可能にするようにプレートの表面および/またはポケットの内面を処理する工程を含む。
【0020】
一実施形態によれば、維持される手足または関節の皮膚に接触するように構成されたスリーブの内面に層を取り付けることによってポケットの形成を行う。
【0021】
また、実施形態は、先に定義した製造方法を実施する工程およびプレートをポケットの中に配置する工程を含むヒトまたは脊椎動物の手足または関節を維持するための装具の製造ならびに本装具をプレートを軟らかくするのに十分な温度まで加熱する工程およびプレートが硬化する前にスリーブを手足または関節の周りに配置する工程を含む本装具の熱成形作業に関するものであってもよい。
【0022】
一実施形態によれば、熱成形作業はスリーブを手足または関節の周りに配置する前に手足または関節をフィルムで覆う工程を含む。
【0023】
一実施形態によれば、熱成形作業は、スリーブを手足または関節の周りに配置する前に皮膚に接触するように構成されたポケットの外面の領域にペレットを配置し、ペレットを熱成形作業後にスリーブから取り出してプレートと皮膚との間に隙間を形成する工程を含む。
【0024】
以下、本発明の例示的な実施形態を限定することなく添付の図面に関連させながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2A】熱成形作業の異なる時間における本装具の一部を断面図で概略的に示す。
【
図2B】熱成形作業の異なる時間における本装具の一部を断面図で概略的に示す。
【
図2C】熱成形作業の異なる時間における本装具の一部を断面図で概略的に示す。
【
図2D】熱成形作業の異なる時間における本装具の一部を断面図で概略的に示す。
【
図2E】熱成形作業の異なる時間における本装具の一部を断面図で概略的に示す。
【
図2F】熱成形作業の異なる時間における本装具の一部を断面図で概略的に示す。
【
図3】一実施形態に係る足首装具が装着された足および足首の外側面を概略的に示す。
【
図3A】一実施形態に係る
図3の足首装具の熱成形可能な部分を示す。
【
図4】
図3に示す本装具が装着された足および足首の内側面を概略的に示す。
【
図4A】一実施形態に係る
図3の足首装具の別の熱成形可能な部分を示す。
【
図5】一実施形態に係る手の親指装具を概略的に示す。
【
図5A】一実施形態に係る
図5の手の親指装具の熱成形可能な部分を示す。
【
図6】
図5の手の親指装具が装着された手および手首を示す。
【
図7】一実施形態に係る外反母趾の矯正装具を概略的に示す。
【
図7A】一実施形態に係る
図7の矯正装具の熱成形可能な部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は一実施形態に係る装具1を示す。装具1は2つの層10、11を含む。層10は少なくとも部分的に弾性であり、維持される手足または関節の周りで特定の圧力をかけることによって調整されるスリーブを形成するように成形されている。熱成形可能な材料からなるプレート12が挿入されるポケットを形成するように層11が層10の上に取り付けられている。ポケットの形状はプレート12の形状に合わせて調整される。従って、プレートによるポケットの充填率は80〜95%であってもよい。プレート12の形状自体は、維持が確保されなければならない手足または関節の領域に従って定めてもよい。
【0027】
層10を患者の皮膚6に直接接触させてもよい。層10の面の一方または他方で溶接線または縫い目線13によって層11を層10の上に取り付けてもよい。
【0028】
図2A〜
図2Fによって示されている以下の方法で装具1を使用することができる。
図2A〜
図2Fは、プレート12および層10、11を形成する糸の一部を示す。最初の使用前に、本装具(
図2A)を熱成形作業に供しなければならない。この目的のために、例えばプレート12をポケットの中に配置したままプレート12を軟らかくするのに十分な温度の熱水に浸漬して加熱する。プレート12は熱水と接触してから特定の時間を経て軟らかくなる(
図2B)。次いで、本装具を熱水から取り出して水を拭うと、その軟かい状態でのプレートの延性により層10、11の糸がプレート12の中に僅かに進入する(
図2C)。プレートがその剛性を取り戻す前に、患者は層10(
図2D)によって形成されたスリーブを広げ、好ましくはポケットおよびプレートの外側の領域を引っ張って本装具を維持される手足または関節の周りに装着する。次いでその延性により、プレート12を僅かに引き伸ばす。次いで、プレート12内の織物の糸によって形成された押し跡を僅かに広げてもよい。次いで、スリーブを解放する(
図2E)。手足または関節の周りの層10によってかけられる弾性張力が患者の皮膚に接するまでプレート12に加わる。次いでその展性により、プレート12はそれが施用される領域の形状をなし、次いで数分後に硬化する。プレートの硬化中に(
図2F)、維持される手足は所望の最終位置に保持される。従って、本装具はプレート12の熱成形によりそれが施用される領域の形態に適合し、この適合は、単に本装具を手足の上に装着し、維持を確保するための層10によってかけられる弾性力および予め軟らかくしたプレート12の変形を生じさせるだけで達成される。この作業は別の人、特に専門家の介入を必要としない。このような結果は、織物の特性および手足の周りでの織物の張力ならびに織物とプレート12との界面の特性、特にプレートと織物との摩擦係数およびプレートの延性を組み合わせることによって達成される。
【0029】
熱成形作業前に、維持される手足または関節の一部をプラスチックフィルムなどのフィルムで覆って、熱成形作業の終了時の湿った装具の取り外しを容易にしてもよい。
【0030】
プレート12は、例えばPatterson社によって製造されている「Aquaplast」などの材料で作られていてもよく、1.5〜5mm、例えば約1.6mmの厚さを有する。この材料は65〜75℃で軟らかくなり、約4分間展性のままである。従って、プレート12の熱成形作業を必要に応じて何度も繰り返すことができる。
【0031】
患者の皮膚とプレート12との間に位置する層11は、皮膚への剛性プレートの施用により生じ得る不快感を制限するのに十分な程に厚いパッド入り織物(1〜2mmの厚さ)で作られていてもよい。層10は0.2〜1.5mm、例えば約0.5mmの厚さを有する弾性織物で作られていてもよい。これらの構成により、専門家の介入を必要とすることなく、より重くかつ煩わしい既存の装具と同じ効用を提供しながらも軽量かつ場所を取らない装具の作製が可能になる。
【0032】
熱成形後にそのポケットからのプレートの取り出しを可能にすることが望ましい場合がある。また、プレート12と層10、11のプレートと接触する領域との強力な接着を回避することが望ましい場合がある。実際にそのような接着は、これらの領域において織物を非弾性にし、かつ手足または関節の周りでの層10によって形成されたスリーブによってかけられる張力の一様分布を妨げる。そのような接着はその後の手足または関節の上へのプレート12の正確な位置決めも妨げる場合がある。
【0033】
プレートの延性により熱成形作業の終了時にプレート12を層10、11から分離するのを非常に難しくし得る程度まで層10および11を形成する織物の糸をプレート12の材料の中に埋め込み得ることが分かる。特に本装具を手足または関節の周りに装着し、かつプレートが熱成形作業中に硬化する間に層10によって形成されたスリーブを広げた場合に、この埋め込み効果が生じる。
【0034】
但し、熱成形可能な材料は一般に非常に延性であり、可能な限り正確に形状を一致させるためにこの性質が求められる。従って、プレート12と織物10、11との低い延性を有する界面の使用は、特に曲率半径において大きなばらつきを有する手足または関節の領域における熱成形プロセスの正確性に必然的に影響を与える。さらに、快適性および健康上の理由で、この効果を本装具によって覆われた体の領域の上の層10によってかけられる弾性張力を増加させることによって補償することは難しい。さらに、圧迫の最大値を課す基準が存在する。
【0035】
プレート12を本装具に形成されたポケットの中に挿入する前にフィルムまたはコーティングで覆うことができる。また、コーティングなどの表面処理をポケット内部の層10、11に施して、これらの層を形成する織物の糸によってプレート上に形成される隆起部を減少させ、このようにして熱成形作業後に顕著になり得る熱成形可能な材料の接着を減少させてもよい。プレート材料が軟らかくなった際の熱成形中のスリーブの延伸とその後の解放により、プレート12内の織物の糸によって形成される押し跡が広がりやすくもなる。
【0036】
一実施形態によれば、プレート12を表面処理したシート材料から切り取って、層10、11の織物へのその接着を減少させる。従って、プレートを例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の薄層で被覆することができる。要するに、先に説明した理由により熱成形可能な材料の芯部は抗接着処理を受けることができないため、織物の糸をプレート12を形成する熱成形可能な材料の中に埋め込むことによってプレート12の縁部は織物に強力に接着することができるということである。プレート12の周囲全体が織物に強力に接着すれば、プレート12に接触している織物の弾性を使用することができず、これが本装具によって覆われた体の領域の上の層10によってかけられる弾性張力の一様分布も妨げる。
【0037】
一実施形態によれば、プレート12の縁部の一部は、ポケットを形成する織物10、11の糸がプレートの材料の中に埋め込まれるのを防止するか熱成形作業中の埋め込みを制限する材料で形成された、織物に接着しないストリップによって覆われている。この材料は、例えば不織繊維をベースとしていてもよい。ストリップで覆われたプレート12の縁部の一部は、プレートの考慮される側に垂直に引き伸ばされることを目的とした層10、11の領域と接触しているプレートの片側に制限されていてもよい。
【0038】
従って、スリーブを引き伸ばして本装具(
図2D)を装着すると、層10、11の糸はプレート12内に押し跡を形成する。これらの押し跡は糸の直径よりも幅が広く、それは糸が力FH、FT(どちらもプレート12の表面に垂直であり、かつこの表面に対して接線方向である)をかけるからである。従って、押し跡はポケットを形成する織物(10、11)に対するプレート12の移動を妨げない。実際の熱成形作業中に、スリーブは解放される(
図2E)。押し跡が糸の直径よりも幅が広いため、ポケットを形成する織物(10、11)はスリーブが解放されるにつれてプレート12上に適合することができる。従って、小さい曲率半径を有する領域において、ポケットを形成する織物10、11の糸はプレート12の表面に実質的に垂直な力FHをかける。1本がそのような領域から離れて移動するにつれて、糸によってかけられる力はプレートの表面に対して接線方向の増加する成分FTを有する。力FHおよびFTから得られる力FRは、プレート12によって覆われた手足の領域の曲率とは無関係に手足に接するまでプレート12を押圧する。
【0039】
プレート12と織物との界面が接着を防止するために処理されていなければ、織物(10、11)の糸はプレート12の中に埋め込まれ、従ってそれらのそれぞれの位置は、スリーブの延伸および弛緩中に固まる。次いで、プレート12と接触している領域における織物の弾性は、硬化状態では非常に剛性であるプレートの弾性になる。
【0040】
このような条件では、手足または関節に2.5〜5hPaの圧力をかけるように層10に対応するスリーブを同じにすることにより、プレート12の正確な熱成形を得ることができる。
図3および
図4に示すような足首装具でこれらの値を測定した。
【0041】
図3および
図4は、例えば外傷後に足首を維持するように構成された装具2を示す。装具2は装具1(
図1)の構造を有する。従って、装具2は、脚を通すための近位開口部20b、足を通すための遠位開口部20dおよび踵を通すための中間開口部20aを有する足首および足を圧迫するように成形されたスリーブを形成する層20を含む。層20は少なくとも部分的に弾性である。熱成形可能な材料からなる第1のプレート22aが挿入される第1のポケットを形成するように、層21aは層20の上に固定されている。第1のポケットの形状はプレート22aの形状に合わせて調整される。第1のポケットは外踝に対応する位置で層20の上に形成されており、開口部20aおよび20dの間を側方に延在し、かつ層20の近位開口部20bと層20の一部20c(足底領域と足甲領域との間の足の側面を覆っている)との間を延在している。プレート22aの形状は
図3Aに示されている。第1のポケットは、固定線23aに沿って層21aを層20の上に取り付けることによって形成されている。第1のポケットは、プレート22aをポケットに挿入するかそこから取り外すために、例えばスリーブ20の近位開口部20bに沿って開口部を有する。
【0042】
一実施形態によれば、装具2は、内踝を覆うことを目的とした位置で層20の上に形成された第2のポケットの中に配置され、かつ内踝の周りの層20の上を側方にスリーブ20の開口部20bまで延在する熱成形可能な材料で作られた第2のプレート22bを含む。プレート22bの形状は
図4Aに示されている。第2のポケットは固定線23bに沿ってスリーブ20の上に取り付けられる織物21bの層を用いて形成されている。第2のポケットは、プレート22bをポケットに挿入するかそこから取り出すためにスリーブ20の近位開口部20bに沿って開口部を有していてもよい。
【0043】
必要であれば、足および足首の周りに巻き付けられて締め付けられることを目的としたバンド24(その一部が
図4に示されている)を使用して、本装具を足首および足の周りにさらに締め付けることができる。
【0044】
上に説明したように、プレート22a、22bの縁部の一部は、層20、21a、21bを形成する織物に接着せず、かつこれらの織物の糸がプレート22a、22bの縁部の中に埋め込まれるのを防止するストリップ28a、28bで覆われていてもよい。
図3A、
図4Aの例では、ストリップ28a、28bは、プレート22a、22bの前方縁部の大部分を(足の前部に向かって)覆っている。
【0045】
図5および
図6は、特に母指CM関節症に罹患している患者を和らげるために手の親指を維持し、特に夜間に手の親指を確実に保持するように設計された装具3を示す。装具3は装具1(
図1)の構造を有する。従って、装具3は2つの層30、31を含む。層30は少なくとも部分的に弾性である。熱成形可能な材料からなるプレート32が挿入されるポケットを形成するように、層31が層30の上に取り付けられている。ポケットの形状はプレート32の形状に合わせて調整される。一実施形態によれば、装具3は、手の親指および第1中手骨の正確さを維持するように成形されている。この目的のために、装具3は、前腕を通すための近位開口部30a、手の親指の遠位端を通すための遠位開口部30bおよび手のその他の指を通すための中間開口部30cを有する、手首および手の親指の2つの指骨と共に手の基部を圧迫するように構成されたスリーブの形状を有する。特に
図5Aに示すようなプレート32は、手の尺骨側縁部の領域を除き、手の親指の第1指骨およびこの第1指骨と第1中手骨との間の関節、手の基部および手首を覆うように成形されている。ポケットはプレート32によって覆われている部分に対応する位置で層30の上に形成されている。従って、ポケットは手の尺骨側縁部の領域を覆うスリーブの一部を除きスリーブ全体にわたって延在している。ポケットは層31を固定線33に沿って層30の上に取り付けることによって形成されている。ポケットは、プレート32をポケットに挿入するかそこから取り出すために例えばスリーブ30の近位開口部30aに沿って開口部を有する。層31で覆われていない層30の一部は、特にプレート32が熱成形されている場合に本装具の取り外しを可能にするのに十分な程に弾性である。層30の弾性張力は、手の上の適所に置いたままでのその熱成形中に皮膚に接するまでプレート32を押圧するのに十分である。熱成形中に必要であればバンドをスリーブに結合させて圧迫を強めてもよい。一実施形態によれば、このバンドを熱成形後に取り外す。
【0046】
単一のポケットおよび単一のプレートの代わりに、熱成形可能な材料からなる2枚のプレートを受け入れるように設計された手掌側ポケットおよび手甲側ポケットを設けてもよい。
【0047】
図7および
図8は、特に夜間に外反母趾を治療するために設計された装具4を示し、足の親指の近位指骨を第1中足骨に対して再位置合わせしやすい力をかける。この目的のために、一実施形態によれば、装具4は、足の親指を第1中足骨の延長線上に維持するように成形されている。装具4は装具1(
図1)の構造を有する。従って、装具4は2つの層40、41を含む。層40は少なくとも部分的に弾性である。熱成形可能な材料からなるプレート42が挿入されるポケットを形成するように層41が層40の上に取り付けられている。ポケットの形状はプレート42の形状に合わせて調整される。層40は、足の親指を取り囲む部分、足を通すための近位開口部40a、足の親指の遠位端を通すための遠位開口部40bおよび足のその他の指を通すための中間開口部40cを有する、足を圧迫するように構成されたスリーブの形状を有する。特に
図7Aに示すように、プレート42は、足の親指の指骨の間の関節まで第1中足骨に沿った足の内縁および足の親指と第1中足骨との間の関節を覆うように成形されている。ポケットはプレート42によって覆われている部分に対応する位置で層40の上に形成されている。ポケットは層41を層40の上に固定線43に沿って取り付けることによって形成されている。ポケットは例えばスリーブ40の近位開口部40aに沿って、プレート42をポケットに挿入するかそこから取り外すための開口部を有する。層41で覆われていないスリーブ40の一部は、特にプレート42が熱成形されている場合に本装具の取り外しを可能にするのに十分な程に弾性である。足の周りの層40の張力は、足の上の適所における本装具の熱成形作業中に皮膚に接するまでプレート42に力をかけるのに十分である。プレート42の熱成形中に、足の親指は可能な限り第1中足骨の軸の中に維持される。熱成形されると、プレート42は第1中足骨と足の親指との間で梃子のように機能して第1中足骨と足の親指の近位指骨との再位置合わせ作用を与える。高剛性の梃子のその役割を完全に果たすために、プレートは2〜5mm、例えば約3.2mmの厚さを有していてもよい。但し、
図8では、プレート42は熱成形されると足の軸に垂直な面、すなわちプレートが高い剛性を有することが望ましい方向に湾曲部を有することに気づく。この湾曲部はこの軸に沿ったプレート42の剛性に寄与する。
【0048】
一実施形態によれば、層40と共にポケットを形成する層41は、片側が0.4〜0.6mmの厚さを示すシリコーンゲル(すなわちポリジメチルシロキサン(PDMS))などのポリマーゲルの層で被覆された弾性織物で作られている。織物のポリマーゲル被覆面は皮膚に接触するように設計されている。使用されるポリマーゲルは層41の織物の摩擦係数よりも高い皮膚との摩擦係数を有するため、このポリマーゲル層は本装具が足の前方または後方に向かって、あるいは足の親指の周りで皮膚の上を滑るのを防止し、従ってプレート42の悪い位置決めを回避する。ポリマーゲルで被覆された織物が足の軸に平行な方向の織物の弾性よりも大きいか等しい足の軸に垂直な方向の弾性を有することが好ましい。
【0049】
一実施形態によれば、熱成形前に柔軟なペレット44を第1中足骨と足の親指との間の関節を覆うことを目的とした領域の上の層41の上(本装具の内側)に配置する。熱成形後にペレット44を取り出して本装具が足の親指と第1中足骨との間の関節に圧力をかけるのを防止する隙間を得る。必要であればペレット44の存在下でプレート42のさらなる熱成形作業を行って本装具によってかけられる再位置合わせ力を調整し、かつ本装具の矯正作用を続けることができる。
【0050】
ペレット44はレンズ形状を有していてもよく、滑らかなシリコーンゲルなどの滑らかなポリマーゲルで作られていてもよい。従って、シリコーンゲルの特性のおかげで、ペレット44はポリマーゲル層に自然に接着し、滑らかでもあり、層41を被覆する。この接着効果により、特に本装具を熱水に浸漬して熱成形作業を行う場合に、ペレット44が適所に留まることができる。吸込み効果を生じさせる凹面を有するペレット44を構成することにより、この接着効果を強化してもよい。そのような凹面は、型に注ぎ入れられ、次いで重合される液体からペレットを形成すれば容易に得ることができる。実際には、液体の表面張力により液体の表面を型の縁部に沿って上昇させる。
【0051】
本明細書に記載されている装具2から4は、維持される手足または関節の領域に合わせて調整される。熱成形可能なプレートの形状も維持される領域に合わせて調整される。さらに、プレートは本装具に対して固定されたポケット内に配置されており、ポケットの寸法はプレートの寸法に対応しているため、プレートはポケット内で移動することができない。これらの条件により、プレートを維持される手足または関節に対して正確に位置づけることができる。その結果、本装具の患者への適合は専門家の介入を必要としない。さらに、加熱されたプレートを含む本装具を維持される手足または関節の上に直接装着することによりプレートの熱成形を容易に行うことができ、維持される手足または関節の上の本装具の位置は本装具の形状によって定められる。その結果、熱成形作業を別の人の助けを借りずに患者自身が直接行うことができる。人による形態のばらつきを考慮するために、いくつかのサイズ、例えば3つまたは4つの異なるサイズの各種装具を製造することを想定することができる。
【0052】
本発明は各種代替形態および用途にも適用可能であることは当業者には明らかであろう。特に、本発明は記載されている用途に限定されず、脊椎動物の手足または関節を含むあらゆる他の手足または関節にも適用することができる。
【0053】
さらに、織物以外の他の材料を使用して、溶接によって組み立てられるフィルムまたは微孔膜などのスリーブおよびポケットを作製してもよい。