特許第6751109号(P6751109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6751109水性スルホン化芳香族ポリマー及び水性ポリエチレンオキサイドを用いた向上した水分保持のための連続処理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751109
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】水性スルホン化芳香族ポリマー及び水性ポリエチレンオキサイドを用いた向上した水分保持のための連続処理
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/18 20060101AFI20200824BHJP
   C05G 3/80 20200101ALI20200824BHJP
【FI】
   C09K17/18 H
   C05G3/80
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-565814(P2017-565814)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公表番号】特表2018-522974(P2018-522974A)
(43)【公表日】2018年8月16日
(86)【国際出願番号】US2016038975
(87)【国際公開番号】WO2016210100
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2019年6月11日
(31)【優先権主張番号】62/185,217
(32)【優先日】2015年6月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ワンリン・ユー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ジェイ・ラドラー
(72)【発明者】
【氏名】スン−ユ・ク
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭39−022199(JP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0022570(US,A1)
【文献】 特表2003−507604(JP,A)
【文献】 特開昭59−193980(JP,A)
【文献】 特開2013−001604(JP,A)
【文献】 特開昭59−015476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
C05G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異なる水性混合物、最初に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物、次に、ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物を用いて、農業用途で圃場の土壌を処理することを含む、方法であって、前記スルホン化芳香族ポリマー成分がスルホン化ナフタレンホルムアルデヒド重縮合物である、方法
【請求項2】
前記スルホン化芳香族ポリマー成分の水性混合物中の前記スルホン化芳香族ポリマー成分の濃度が、前記スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する前記水性混合物の100万重量部に基づいて、0.1重量部以上かつ10,000重量部以下である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物中のポリエチレンオキサイドの濃度が、前記ポリエチレンオキサイドを含有する前記水性混合物の100万重量部に基づいて、0.1重量部以上かつ10,000重量部以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリエチレンオキサイドが、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定された、200g/モル以上かつ10,000,000g/モル以下の分子量を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドの双方が水溶性である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水性混合物のうちの一方または双方が、肥料を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌などの微粒子凝集物を、2つの異なる水性混合物で処理して微粒子凝集物の水保持能力を増加させるための方法に関する。一方の水性混合物は、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有し、他方の水性混合物は、ポリエチレンオキサイドを含有する。
【背景技術】
【0002】
乾燥及び半乾燥気候下では、土壌中に水を保持することが困難であるため、そこでの農業は困難である。地球規模の人口増加及び発展途上国で高まる農作物に対する需要は、乾燥及び半乾燥地域での干ばつの発生頻度の高まりとも相まって、農業生産における水の利用効率を高めることを必要としている。保水容量(WHC)が増加し、かつ、植物の根域で土壌の利用可能な水が保持されることは、作物収量に有益である。さらに、WHCが増えると、環境への肥料の溶脱の削減と、肥料の効率の改善にも役立つ。
【0003】
土壌添加剤としてハイドロゲルまたは超吸収性ポリマー(SAP)の材料を利用することは、土壌でのWHCを増加させるための1つの方法である。SAP土壌添加剤は、園芸、ポットミックス、ガーデニング、及び一部の高付加価値作物の用途に使用されている。しかしながら、ハイドロゲル及びSAP材料の目的は、それらを圃場に提供することにある。圃場の根圏にこれらの材料を導入するためには、それらを、圃場に微粒子の形態で提供し、かつ、機械的に加工する必要があり、それらは、圃場の準備に対して追加レベルの複雑さを加える。あるいは、ハイドロゲルまたはSAP材料は、種子または農業強化剤(例えば、殺虫剤、及び、肥料など)に対して直接コーティングすることができる。ハイドロゲルまたはSAP材料を、種子及び農業強化剤にコーティングすることは、農業プロセスに対して、費用負担と複雑さをも加える。
【0004】
現在の材料に対して相当の複雑さまたは追加の費用を加えることなく、容易に圃場に送達可能なように、土壌のWHCを効率的に増加させる方法を特定することが好ましい。灌漑システムまたは現在の水性混合物の送達方法に対して容易に利用できるように、水性混合物として、圃場の土壌にWHC増加添加剤を送達できることが特に好ましい。肥料などの農業用強化剤と組み合わせて、水性混合物として圃場の土壌にWHC増強用添加剤を送達する方法を特定することが、なおもさらに好ましい。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、現在の農業用材料及び農業プロセスに対して相当の複雑さまたは追加の費用を加えることなく、容易に圃場に送達可能なように、土壌のような微粒子凝集物のWHCを効率的に増加させる方法を提供する。本発明は、現在の灌漑システムまたは肥料システムなどの水性混合物の送達方法に対して容易に利用できるように、水性混合物の形態である、圃場の土壌などの微粒子凝集物にWHC増加添加剤を送達する方法を提供する。本発明の方法は、肥料などの農業用強化剤と組み合わせて、水性混合物として圃場の土壌などの微粒子凝集物にWHC増強用添加剤を送達する方法を含むことさえも可能である。
【0006】
驚くべきことに、土壌などの微粒子凝集物を、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物で、そして、次に、ポリエチレンオキサイド材料を含有する別個の水性混合物で処理することで、いずれかの水性混合物だけで微粒子凝集物を処理することによって達成されるものを超えさえもする、微粒子凝集物の増大したWHCがもたらされることが認められた。さらに驚くべきことに、同じ水性混合物を、逆の順序で(つまり、最初に、ポリエチレンオキサイド混合物で、そして、次に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含む混合物で)微粒子凝集物を処理しても、この相乗効果は起こらない。
【0007】
第1の態様において、本発明は、2つの異なる水性混合物、最初に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物、次に、ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物を用いて、微粒子凝集物を処理することを含む方法である。
【0008】
本発明は、例えば、農業用土壌の保水容量を増加させるための方法として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「及び/または」は、「及び、または代替として」を意味する。「複数」は、2つ以上を意味する。全ての範囲は、特に断りのない限り、端点を含む。特に断りのない限り、「分子量」は、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定された重量平均分子量のことを指す。
【0010】
試験方法は、日付がハイフンでつながれた2桁の数字として試験方法番号に示されていない限り、本願の優先日の時点で最新の試験方法のことを指す。試験方法の参照は、試験団体及び試験方法番号の両方を含む。試験方法の機関は、以下の略語のうちのいずれか1つによって参照される:ASTMは、ASTM International(以前のAmerican Society for Testing and Materialsとして知られている)のことを指し、ENは、European Normのことを指し、DINは、Deutsches Institut fur Normungのことを指し、ISOは、International Organization for Standardsのことを指す。
【0011】
本発明は、微粒子凝集物を処理する上で有用な方法である。微粒子凝集物とは、複数の微粒子、または、粒子を含む物質のことである。例えば、砂は、複数の二酸化ケイ素微粒子を含む微粒子凝集物である。微粒子凝集物は、有機材料、好ましくは、有機微粒子を含むことが好ましい。土壌は、複数の有機及び無機微粒子を含む微粒子凝集物であり、そこで生物及び/または植物の生命を育むことができる。土壌には、多くの種類がある。本発明は、あらゆるタイプの土壌の処理において特に有用である。
【0012】
本発明の方法は、この方法で処理される微粒子凝集物の保水容量(WHC)を増大させる上で有用である。WHCとは、微粒子凝集物による水分保持の測定値である。保水容量(WHC)測定法を用いる微粒子凝集物のためにWHCを決定することは、以下の実施例の欄に記載している。
【0013】
本発明の方法は、2つの別個の水性混合物で微粒子凝集物を処理することが必要である。「水性混合物」とは、構成要素の一方が水である組み合わせのことを指す。水性混合物での非水成分は、必ずしも必要ではないが、水溶性であることが好ましい。成分が「水溶性」であるとは、少なくとも0.01グラムの成分が、23℃で、100ミリリットルの水に溶解して、水性溶液を形成する場合である。水性溶液とは、水における1つまたは複数の成分の均一な分布である。混合物の成分を、30分間、一緒に混合した後に、混合物の目視検査をして、沈降または相分離が存在しないことを基準にして、成分が均一に分布しているかどうかを決定する。一方または双方の水性混合物は、適用装置を詰まらせる危険性もなく、水性混合物の適用が容易な、好ましい水溶液である。
【0014】
第1の水性混合物とは、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物である。望ましくは、スルホン化芳香族ポリマー成分は、水溶性である。適切なスルホン化芳香族ポリマー成分の例は、スルホン化ナフタレンホルムアルデヒド重縮合物、スルホン化フェノールホルムアルデヒド重縮合物、ポリスチレンスルホネート、オルト及びパラトルエンスルホンアミドホルムアルデヒドポリマー、並びにリグノスルホネートからなる群から選択される、1つ、または複数の任意の組み合わせを含む。スルホン化芳香族ポリマー成分の芳香環は、1〜18個の炭素原子を有するアルキルまたはアルキレン基を1つまたは複数を含むことができる。
【0015】
スルホン化芳香族ポリマー成分は、好ましくは、700g/モル(グラム/モル)、好ましくは、900g/モル以上、より好ましくは、1000g/モル以上の分子量を有するポリマーであり、1100g/モル以上、1500g/モル以上、2000g/モル以上、5,000g/モル以上、10,000g/モル以上、25,000g/モル以上、50,000g/モル以上、及び、さらに100,000g/モル以上とすることができる一方で、同時に、分子量に関する上限値は知られていないが、典型的に、500万g/モル以下、さらに典型的に、100万g/モル以下の分子量を有し、750,000g/モル以下、500,000g/モル以下、250,000g/モル以下、100,000g/モル以下、さらに70,000g/モル以下、50,000g/モル以下、10,000g/モル以下、5,000g/モル以下、または1,250g/モル以下とすることができる。当業者であれば、スルホン化の程度を変更することによって、つまり、水への溶解性を大きくするスルホン化を増大することによって、スルホン化芳香族ポリマー成分の水への溶解度を調整することができる。典型的に、スルホン化の平均度は、望ましくは、芳香族基の総モルに基づいて、50モルパーセント(モル%)以上、好ましくは、90モル%以上であり、同時に、一般的には、100モル%以下である。
【0016】
スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物は、微粒子凝集物に適用する前に希釈される濃縮物であってもよく、または、それは、微粒子凝集物に適用するための準備のための水性混合物とすることができる。濃縮物の場合、水性混合物は、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物の総重量に基づいて、0.1重量パーセント(重量%)以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上で含有することができ、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、及び、さらには40重量%以上を含有することができ、または、同時に50重量%以下のスルホン化芳香族ポリマー成分を含む。スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物を微粒子凝集物に適用する場合、スルホン化芳香族ポリマー成分の濃縮物は、望ましくは、スルホン化芳香族ポリマー成分を含む水性混合物の総重量に基づいて、百万分の1重量部(ppm)以上、好ましくは、10ppm以上、より好ましくは、50ppm以上であり、100ppm以上、500ppm以上、1000ppm以上、さらには5000ppm以上とすることができる一方で、同時に、典型的に、10,000ppm以下である。
【0017】
望ましくは、スルホン化芳香族成分と水とを一緒に混合することによって、スルホン化芳香族ポリマー成分の水性混合物を提供する。典型的に、水と混合した際に、スルホン化芳香族ポリマー成分は、農業用強化剤などのあらゆる他の成分と会合しない。他の成分と「会合しない」とは、未結合、結合しない、及び、水性混合物を形成するために水に混合し得るあらゆる他の成分とは異なることを意味する。例えば、水性混合物が、スルホン化芳香族ポリマー成分と肥料との双方を含有しているのであれば、スルホン化芳香族ポリマー成分は、例えば、スルホン化芳香族ポリマー成分でコーティングした肥料を水を加えるのとは対照的に、これらの2つを別々に水に対して加えるのであれば、肥料と会合しない。同様に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物において、スルホン化芳香族ポリマー成分の大部分(50重量%を超える部分)は、水性混合物とし得る他の成分に対して未結合かつ結合しない。
【0018】
第2の水性混合物は、ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物である。ポリエチレンオキサイドは、エチレンオキサイドのホモポリマー、他のアルキレンオキサイドとエチレンオキサイドとのコポリマー、または、エチレンオキサイドホモポリマーと、他のアルキレンオキサイドとエチレンオキサイドとのコポリマーとの組み合わせとすることができる。
【0019】
エチレンオキサイドのコポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、または、ランダム及びブロックコポリマーの組み合わせとすることができる。エチレンオキサイドと共重合してエチレンオキサイドコポリマーを形成することができる適切なアルキレンオキサイドとして、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドがある。望ましくは、エチレンオキサイドコポリマーは、共重合したアルキレンオキサイドの総重量に基づいて、10重量%以上、好ましくは、20重量%以上の共重合したエチレンオキサイドを含有する。
【0020】
ポリエチレンオキサイドは、典型的に、1つまたは複数の水酸(−OH)基、及び/または、カルボキシル(−COOH)基を有する材料で開始され、1つ以上のアミン(−NH)基、及び/または、チオ(−SH)基を有する物質を用いて開始することができる。開始剤は、1〜18個の炭素原子を有するモノオール、ジオール、及び、トリオールから選択されることが多くある。モノオールは、単一の水酸基を有する。ジオールは、2つの水酸基を有する。トリオールは、3つの水酸基を有する。望ましいモノオール開始剤の例として、1−ドデカノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、デカノール、及び、オレイルアルコールがある。適切なジオールの例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、及び、1,4−ブタンジオールがある。適切なトリオールの例として、グリセロール及びトリメチロールプロパンがある。
【0021】
ポリエチレンオキサイドは、ヒドロキシル末端とすることができ、あるいは、1〜18個の炭素を有するアルキルまたはアルケニル、ベンジル、ハロゲン化物、または、C(O)R(式中、Rは、1〜10個の炭素を有するアルキルである)からなる群から選択されるキャッピング基で部分的または完全にキャップすることができる。「部分的にキャップされた」とは、末端水酸基の全てがキャップされていないことを意味する。
【0022】
ポリエチレンオキサイドは、望ましくは、200g/モル以上、好ましくは、500g/モル以上、より好ましくは、1,000g/モル以上の分子量を有し、10,000g/モル以上、50,000g/モル以上、100,000g/モル以上、200,000g/モル以上、500,000g/モル以上、1,000,000g/モル以上、及び、さらに5,000,000g/モル以上として、同時に、10,000,000g/モル以下とすることができる。
【0023】
望ましくは、ポリエチレンオキサイドは、水溶性である。すなわち、そのことは、得られるポリエチレンオキサイドが水溶性となるような、分子量、キャップ組成物、及び、コポリマー比を選択することが好ましいことを意味する。ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物は、好ましくは、水溶性でないポリエチレンオキサイドを含まない。
【0024】
スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドは、同じ水性混合物に存在する場合、相互作用をして、特に、圃場において、土壌のような微粒子凝集物に適用することが困難となるに十分な粘性であるゲルまたは溶液を形成する傾向がある。したがって、水性混合物が、ポリエチレンオキサイドを含まずに、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有することが好ましい。同様に、ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物が、スルホン化芳香族ポリマー成分を含まないことが望ましい。同様に、スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドの水性溶液との水性混合物は、望ましくは、微粒子凝集物に対して混合物を適用する間または後まで互いに分離して、適用前のゲル化を回避しておくことが望ましく、このことが、これらの混合物を「2つの異なる」水性混合物として適用する、ことを意味している。
【0025】
最初に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性溶液で処理し、次に、ポリエチレンオキサイドを含有する水性溶液で処理することによって、2つの異なる水性混合物で微粒子凝集物を処理する。驚くべきことに、スルホン化芳香族ポリマー成分の水性混合物を、微粒子凝集物に最初に適用し、次に、ポリエチレンオキサイドの水性混合物を微粒子凝集物に適用したときに、とりわけ大きなWHC値を示す微粒子凝集物が達成されることが知見された。微粒子凝集物が、この順で、水性混合物で処理した場合、スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドとの間に相乗的影響が認められ、その影響は、いずれかの水性混合物だけで達成されるWHC値を超えるWHCにまで増大し、水性混合物を逆の順序で適用した場合には認められない。
【0026】
微粒子凝集物に対して適用されるスルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドの相対比は、本発明の最も広範な範囲において重要ではない。典型的に、微粒子凝集物に対して適用されるポリエチレンオキサイドに対するスルホン化芳香族ポリマー成分の重量比は、10:1以下であり、及び、1:1以下とすることができ、ならびに、同時に、一般的に、1:10以上であり、及び、1:1以上とすることができる(第1の数字が、第2の数に比べて増加するときに、比率は「大きく」なる)。
【0027】
驚くべきことに、微粒子凝集物において、スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドとの組み合わせは、スルホン化芳香族ポリマー成分またはポリエチレンオキサイドの一方のみを微粒子凝集物に適用した場合よりも、微粒子凝集物について、より大きなWHCを示すことができる。いかなる理論にも拘束されものではないが、スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドとの組み合わせは、ポリエチレンオキサイドのアルキルプロトンが、スルホン化芳香族ポリマー成分での芳香環のπ電子に引き寄せられて、CH−π相互作用として知られている相互作用を受けている、ものと考えられる。そのような相互作用は、水を保持するのに役立ち、スルホン化芳香族ポリマー成分分子とポリエチレンオキサイド分子との間の超分子構造を誘導することができる。スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドとが単一の水性混合物と組み合わされる場合には、そのような構造も、ゲル形成の原因となるであろう。
【0028】
さらに驚くべきことは、WHCの増大がスルホン化芳香族ポリマーとポリエチレンオキサイドとの組み合わせによって達成されることが、最初に、粒子凝集物に対してスルホン化芳香族ポリマー成分を適用し、次いで、ポリエチレンオキサイドを適用することを必要とする。2つの成分の適用が逆の順序で行われる場合には、増大は認められない。いかなる理論にも拘束されものではないが、1つの仮説は、最初に、凝集粒子に対してポリエチレンオキサイドを適用してしまうと、凝集粒子との相互作用は、スルホン化芳香族ポリマー成分とのCH−π相互作用を達成することから、ポリエチレンオキサイドを阻害する、というものである。
【0029】
一方または双方のスルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物及びポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物は、水及びポリエチレンオキサイドまたはスルホン化芳香族ポリマー成分のいずれか以外に、他の成分をさらに含有することができる。望ましくは、他の成分は、水溶性である。適切な他の成分の例は、アニオン性界面活性剤(アルキルベンゼンスルホネート、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、アルキルジフェニルエーテルスルホネートなど)、非イオン性界面活性剤(アルキルフェノールエトキシレート、直鎖及び分枝アルコールエトキシレートまたはアルコキシレート、アルキルアミンエトキシレートまたはアルコキシレート、アルキルポリグルコシドなど)、土壌浸食阻害剤(水溶性線状ポリアクリルアミドなど)、湿潤剤、及び、肥料(硝酸アンモニウム、及び/または、窒素、リン、カリウム、硫黄、亜鉛、鉄、銅、ホウ素、マンガン、塩素、及び、モリブデンから選択される1つもしくは複数の元素を含有する肥料、好ましくは、リン、カリウム、硫黄、亜鉛、鉄、銅、ホウ素、マンガン、塩素、及び、モリブデンから選択される1つもしくは複数の元素を含有する尿素含有肥料、ならびに、硝酸アンモニウム肥料を含む尿素含有肥料である)を含む。
【0030】
水性混合物は、アラクロール、及び、アラクロールの反応生成物を含まないことが望ましい。アラクロール及びその反応生成物は、除草剤として有用であり、及び、本発明の望ましい1つの用途は、農業など、農業用途の土壌のWHCを増加させることにある。特に、そのような用途において、アラクロール及びその反応生成物は、望ましくない。
【0031】
本発明の方法は、微粒子凝集物が圃場の土壌である農業用途に、特に適している。農業プロセス(例えば、施肥及び灌漑)は、圃場に対して水性溶液の適用を必要とする方法をすでに採用しており、そのようなプロセスは、本発明の方法に容易に組み込むことができる。例えば、スルホン化芳香族ポリマー成分及びポリエチレンオキサイドを、容易に、灌注ラインに導入して、灌漑の間に土壌のWHCを高めることができる。別の例として、肥料の水性溶液を適用する既存の方法を、本発明で説明をした2つの水性混合物であって、水性混合物の少なくとも1つが、肥料をさらに含む水性混合物の適用に変更をすることができる。そのように変更されたプロセスは、肥料だけを追加するプロセスと実質的に同じである単一プロセスにおいて、肥料及び土壌のWHCの増加の双方に対して作用する。
【実施例】
【0032】
以下の実施例は、本発明の最も広範な範囲を規定するものではなく、本発明の実施形態を例示するためのものである。
【0033】
保水容量(WHC)測定法
土壌などの微粒子凝集物(「試料」)のWHCを測定するための手順は、以下の通りである。
【0034】
(1)内径が6.35センチメートル(cm)内径で、高さが5.74cmのポリ塩化ビニル(PVC)ドレイン廃棄口(DWV)継ぎ手を用意した。1枚の濾紙(Schleicher & Schuell 番号0980)を計量し、「濾紙重量」として記録した。継ぎ手の一端を、1枚の濾紙で覆い(そして、ゴムバンドを用いて、継ぎ手に濾紙を取り付けて、平滑濾紙表面が、継ぎ手の一端(底部)上に達成されるようにする。
【0035】
(2)ゴムバンドと濾紙とを有する継ぎ手を計量し、重量(W1)を記録する。
【0036】
(3)100×50ミリメートル(mm)の結晶皿に継ぎ手を置き、濾紙で覆われた側を皿に向き合うようにする。継ぎ手に、50.00グラムの試料を入れる。試料の表面を、スパチュラで滑らかにする。
【0037】
(4)100ミリリットル(ml)の水性流体(例えば、水または1つまたは複数の水性混合物)を、スポイトを用いて、均一に試料に対して、ゆっくりと撒く。添加速度を制御して、試料表面がいびつになるのを避け、また、継ぎ手の頂部に蓄積された水性流体が溢れないようにする。
【0038】
(5)水性流体は、土壌を介して流れるようになる。結晶皿内の水位は、継ぎ手内部の試料の高さのおおよそ半分の高さに達する。プラスチックで結晶皿の開口部を覆って、皿から水が蒸発することを防ぐ。試料を入れた継ぎ手は、22〜26時間、皿に留めて、手順を進める前に、水性流体で試料を飽和させるようにする。
【0039】
(6)電子天秤(0.001g単位で、1000グラムを上限とする)の頂部に、12×12cmのガラス板を置く。ガラス板に、6枚のグレード2294濾紙(GE Healthcare Lifescienceの110ミリメートル直径)を並べ、同時に、いずれの濾紙も平坦で、互いの間に隙間がないことを確認する。
【0040】
(7)飽和試料の入った継ぎ手を皿から除去し、グレード2294濾紙本体と接する継ぎ手アセンブリの濾紙を用いて、グレード2294濾紙本体の表面の中央に置く。グレード2294濾紙本体は、継ぎ手アセンブリの濾紙と試料から水性流体を緩慢に吸い上げる。30分間静置し、その後、濾紙と試料を有する継ぎ手を慎重に除去し、次いで、秤の計量値(R1)を記録する。グレード2294濾紙本体上の試料を有する継ぎ手を交換し、10分間静置する。改めて、濾紙、ゴムバンド、及び、試料を有する継ぎ手を慎重に除去し、再度、秤の計量値(Reading 2)を記録する。R2が、R1と(0.05グラムの範囲内で)同一であるか、または、それよりも小さく、そして、平衡が達成された場合には、ステップ(8)に進むことができるが、そうでなければ、さらに10分間かけて、グレード2294濾紙本体上の継ぎ手を交換し、除去し、計量をする。連続する2度の計量値が互いの0.05グラムの範囲内になるまで、または、2度目の値が1度目の値よりも小さくなるまで、必要に応じて反復する。
【0041】
(8)ステップ(7)を終え次第に直ちに、継ぎ手、ゴムバンド、濾紙、及び、試料の重量を0.001グラム単位で測定し、W2として重量を記録する。
【0042】
(9)グレード2294濾紙本体を観察する。グレード2294濾紙本体の底面(すなわち、ガラス板と接している面)がひどく湿っている場合には、この方法を止める。この方法は、予備のさらに多くの枚数のグレード2294濾紙を用いて、繰り返さなくてはならない。
【0043】
(10)継ぎ手からゴムバンドを外し、そして、風袋を計量したガラスビーカーに試料を移す。継ぎ手に残った試料残留物を除去し、そして、試料残留物をガラスビーカーに移すために濾紙を使用する。ガラスビーカーに、濾紙を加える。既存のオーブン内に、摂氏105度(℃)で、少なくとも10時間(一晩)、濾紙と試料が入ったビーカーを置く。
【0044】
(11)濾紙と試料が入ったビーカーには、21℃及び相対湿度50%で、2時間の設定をする。ビーカー、試料、及び、濾紙の合計重量を測定し、濾紙とビーカーの重量を控除して、乾燥試料(W3)の重量を得る。
【0045】
(12)以下の式に従って、乾燥試料に対する水の重量%としてWHCを算出する。
WHC=100*(W2−W1−W3)/W3
【0046】
実施例で使用した材料
表1に、実施例(Ex)及び比較例(Comp Ex)のための成分を列挙している。
【0047】
【表1】
【0048】
比較例A−水を用いるWHC。
この方法における「水性液体」として[100ミリリットルの脱イオン水を用いる保水容量(WHC)測定法を使用して、土壌のWHCを決定する。新たな土壌試料を用いて、この手順を、5回反復する。5回の測定での平均WHCは、27.8%である。
【0049】
比較例B及びC−スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性溶液を用いるWHC。
この方法における「水性液体」としてSNFPを含有する100ミリリットルの水性溶液を用いる保水容量(WHC)測定法を使用して、土壌のWHCを決定する。比較例Bについては、1000ppmのSNFPを含有する水性溶液を用いる。比較例Cについては、2000ppmのSNFPを含有する水性溶液を用いる。水性溶液の総重量に対するppmを測定する。各比較例について、この方法を、2回反復し、そして、その平均値を得て、比較例についてのWHCとする。
【0050】
比較例B(1000ppm)は、31.2%のWHCを有する。比較例C(2000ppm)は、29.7%のWHCを有する。これら双方のWHC値は、脱イオン水を用いて達成された数値よりも大きく、このことは、SNFPが、WHCを強化する添加物であることを示している。
【0051】
比較例D及びE−ポリエチレンオキサイドを含有する水性溶液を用いるWHC。
この方法における「水性液体」としてポリエチレンオキサイドを含有する100ミリリットルの水性溶液を用いる保水容量(WHC)測定法を使用して、土壌のWHCを決定する。比較例Dについては、1000ppmのPEG 8000を含有する水性溶液を用いる。比較例Eについては、1000ppmのWSR 301を含有する水性溶液を用いる。水性溶液の総重量に対するppmを測定する。各比較例について、この方法を、2回反復し、そして、その平均値を得て、比較例についてのWHCとする。
【0052】
比較例D(PEG 8000)は、27.7%のWHCを有する。比較例E(WSR 301)は、27.2%のWHCを有する。これら双方のWHC値は、脱イオン水を用いて達成された数値よりも小さく、このことは、ポリエチレンオキサイド単体が、WHCを強化する添加物ではないことを示している。
【0053】
比較例F及びG−ポリエチレンオキサイドを含有する水性溶液、次に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性溶液の連続処理を用いるWHC。
最初に、1000ppmのポリエチレンオキサイドを含有する50ミリリットルの水性溶液を適用し、次に、3000ppmのSNFPを含有する50ミリリットルの水性溶液を即座に適用する保水容量(WHC)測定法を使用して、土壌のWHCを決定する。比較例Fについては、ポリエチレンオキサイドとしてPEG 8000を使用し、2回の測定の平均値を得て、WHCを計算する。比較例Gについては、ポリエチレンオキサイドとしてWSR 301を使用し、4回の測定の平均値を得て、WHCを計算する。
【0054】
特に、これらの測定に適用したSNFPの総量は、1500ppmのSNFPの100ミリリットルに匹敵するので、SNFPとポリエチレングリコールが、相乗的に作用しなかったのであれば、WHCは、比較例A(31.2%)と比較例B(29.7%)の間の数値であると予想されるであろう。
【0055】
比較例Fは、27.8%のWHCを有し、比較例Gは、30.1%のWHCを有する。これらの数値は、等量のSNFP単体について予想されたWHC値の間であるか、あるいは、それらよりもわずかに小さいかのどちらかであり、土壌を、最初に、水性ポリエチレンオキサイド混合物で、次に、水性スルホン化芳香族ポリマー成分混合物で処理した場合には、SNFPとポリエチレンオキサイドとの間に相乗作用がないことを示唆している。
【0056】
実施例1及び2−スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性溶液、次に、ポリエチレンオキサイドを含有する水性溶液の連続処理を用いるWHC。
最初に、3000ppmのSNFPを含有する50ミリリットルの水性溶液を適用し、次に、1000ppmのポリエチレンオキサイドを含有する50ミリリットルの水性溶液を即座に適用する保水容量(WHC)測定法を使用して、土壌のWHCを決定する。実施例1については、ポリエチレンオキサイドとしてPEG 8000を使用し、2回の測定の平均値を得て、WHCを計算する。実施例2については、ポリエチレンオキサイドとしてWSR 301を使用し、4回の測定の平均値を得て、WHCを計算する。
【0057】
特に、適用したSNFPの総量は、1500ppmのSNFPの100ミリリットルに匹敵するので、SNFPとポリエチレングリコールが、相乗的に作用しなかったのであれば、WHCは、比較例A(31.2%)と比較例B(29.7%)の間の数値であると予想されるであろう。
【0058】
実施例1は、33.6%のWHCを有し、実施例2は、40.8%のWHCを有しており、これらの数値は、いずれも、スルホン化芳香族ポリマー成分、または、ポリエチレンオキサイド成分のいずれか単体の水性溶液についてのWHC値よりも有意に大きい。この結果は、最初に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性溶液で、続いて、ポリエチレンオキサイドを含有する水性溶液で、土壌の連続処理を行うことで、WHCにおいて相乗的改善が認められることを示している。

本出願は例えば以下の発明を提供する。
[1] 2つの異なる水性混合物、最初に、スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する水性混合物、次に、ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物を用いて、微粒子凝集物を処理することを含む、方法。
[2] 前記スルホン化芳香族ポリマー成分が、スルホン化ナフタレンホルムアルデヒド重縮合物、スルホン化フェノールホルムアルデヒド重縮合物、ポリスチレンスルホネート、オルト及びパラトルエンスルホンアミドホルムアルデヒドポリマー、並びに、リグノスルホネートからなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[3] 前記スルホン化芳香族ポリマー成分が、スルホン化ナフタレンホルムアルデヒド重縮合物である、[2]に記載の方法。
[4] 前記スルホン化芳香族ポリマー成分の水性混合物中の前記スルホン化芳香族ポリマー成分の濃度が、前記スルホン化芳香族ポリマー成分を含有する前記水性混合物の100万重量部に基づいて、0.1重量部以上かつ10,000重量部以下である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記ポリエチレンオキサイドを含有する水性混合物中のポリエチレンオキサイドの濃度が、前記ポリエチレンオキサイドを含有する前記水性混合物の100万重量部に基づいて、0.1重量部以上かつ10,000重量部以下である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] 前記ポリエチレンオキサイドが、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定された、200g/モル以上かつ10,000,000g/モル以下の分子量を有する、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 前記スルホン化芳香族ポリマー成分とポリエチレンオキサイドの双方が水溶性である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8] 水性混合物のうちの一方または双方が、肥料を含む、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9] 前記微粒子凝集物が、土壌を含む、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10] 水性混合物のうちの一方または双方が、肥料を含む、[9]に記載の方法。