特許第6751260号(P6751260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751260
(24)【登録日】2020年8月18日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】大断面トンネルの構築方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/01 20060101AFI20200824BHJP
   E21D 9/04 20060101ALI20200824BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   E21D9/01
   E21D9/04 F
   E21D9/06 301D
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-132048(P2016-132048)
(22)【出願日】2016年7月1日
(65)【公開番号】特開2018-3453(P2018-3453A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】宮元 克洋
(72)【発明者】
【氏名】足立 邦靖
(72)【発明者】
【氏名】磐田 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直弘
(72)【発明者】
【氏名】屋代 勉
(72)【発明者】
【氏名】内村 裕之
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−062292(JP,A)
【文献】 特開2015−151675(JP,A)
【文献】 特開2014−181490(JP,A)
【文献】 米国特許第04607889(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/01
E21D 9/04
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大断面トンネルが構築される構築予定領域の周縁に沿って複数本からなる小径シールドトンネルを該大断面トンネルのトンネル軸線方向に延設し、該複数本の小径シールドトンネルを先受け構造体として外殻を構築した後、該外殻で囲まれた内側領域を掘削する大断面トンネルの構築方法において、
前記小径シールドトンネルを構築するにあたって小径シールドで地山掘削を行う際、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合には、該先行構築側で、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成するとともに、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていない場合には、該未構築側で側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成し、
前記側方空間の形成工程と並行して又はその形成後、該側方空間に流動性固化材を充填することにより、前記先行構築側では、前記裏込め領域と連続一体化する拡張裏込め領域を形成するとともに、前記未構築側では、あらたな裏込め領域を形成する大断面トンネルの構築方法であって、
前記小径シールドを、径方向に沿って出入自在なサイドカッターが設けられた小径シールドとし、該小径シールドを発進到達させる際には、前記サイドカッターを前記小径シールドのシールド本体周面よりも内側に退避させ、前記各側方空間を形成する際には、前記サイドカッターを前記シールド本体の周面よりも外側に突出させることを特徴とする大断面トンネルの構築方法。
【請求項2】
前記外殻を構築する際の施工範囲が前記拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に及ぶことがないように該拡張裏込め領域を形成する請求項1記載の大断面トンネルの構築方法。
【請求項3】
前記構築予定領域をシールドトンネルの拡幅予定領域とするとともに該拡幅予定領域の横断面が最大となる断面位置を基準断面位置とし、該基準断面位置と横断面の大きさが実質的に同一の区間を大断面区間、前記基準断面位置よりも横断面の大きさが小さくかつその大きさが実質的に変化しない区間を小断面区間、横断面の大きさが前記大断面区間における大きさから前記小断面区間における大きさへと徐々に変化する区間を移行区間として、前記大断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルが前記拡幅予定領域の横断面輪郭線に沿ってすべて配置されるように、前記小断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるように、前記移行区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるとともに残りがその背後に配置されるように、前記複数本の小径シールドトンネルをそれぞれ延設するとともに、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネルを構築する際及び前記横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルと該小径シールドトンネルに隣り合うように背後に配置された小径シールドトンネルとを構築する際に前記側方空間の形成工程と前記充填工程とを行う請求項1記載の大断面トンネルの構築方法。
【請求項4】
前記外殻を構築する際の施工範囲が、前記拡張裏込め領域のうち、前記横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネル間に形成される拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に及ぶことがないように該拡張裏込め領域を形成する請求項3記載の大断面トンネルの構築方法。
【請求項5】
大断面トンネルが構築される構築予定領域の周縁に沿って複数本からなる小径シールドトンネルを該大断面トンネルのトンネル軸線方向に延設し、該複数本の小径シールドトンネルを先受け構造体として外殻を構築した後、該外殻で囲まれた内側領域を掘削する大断面トンネルの構築方法において、
前記小径シールドトンネルを構築するにあたって小径シールドで地山掘削を行う際、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合には、該先行構築側で、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成するとともに、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていない場合には、該未構築側で側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成し、
前記側方空間の形成工程と並行して又はその形成後、該側方空間に流動性固化材を充填することにより、前記先行構築側では、前記裏込め領域と連続一体化する拡張裏込め領域を形成するとともに、前記未構築側では、あらたな裏込め領域を形成する大断面トンネルの構築方法であって、
前記側方空間を形成する工程において、先行構築側で掘削する際には、前記先行構築された小径シールドトンネルに最も近い角度位置における深さよりもその両側における深さの方が大きくなるように前記側方空間を形成し、未構築側で掘削する際には、構築予定の小径シールドトンネルに最も近い角度位置を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように前記側方空間を形成することを特徴とする大断面トンネルの構築方法。
【請求項6】
大断面トンネルが構築される構築予定領域の周縁に沿って複数本からなる小径シールドトンネルを該大断面トンネルのトンネル軸線方向に延設し、該複数本の小径シールドトンネルを先受け構造体として外殻を構築した後、該外殻で囲まれた内側領域を掘削する大断面トンネルの構築方法において、
前記小径シールドトンネルを構築するにあたって小径シールドで地山掘削を行う際、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合には、該先行構築側で、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を前記小径シールドの径方向に余堀りする形で形成するとともに、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていない場合には、該未構築側で側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を前記小径シールドの径方向に余堀りする形で形成し、
前記側方空間の形成工程と並行して又はその形成後、該側方空間に流動性固化材を充填することにより、前記先行構築側では、前記裏込め領域と連続一体化する拡張裏込め領域を形成するとともに、前記未構築側では、あらたな裏込め領域を形成する大断面トンネルの構築方法であって、
前記構築予定領域をシールドトンネルの拡幅予定領域とするとともに該拡幅予定領域の横断面が最大となる断面位置を基準断面位置とし、該基準断面位置と横断面の大きさが実質的に同一の区間を大断面区間、前記基準断面位置よりも横断面の大きさが小さくかつその大きさが実質的に変化しない区間を小断面区間、横断面の大きさが前記大断面区間における大きさから前記小断面区間における大きさへと徐々に変化する区間を移行区間として、前記大断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルが前記拡幅予定領域の横断面輪郭線に沿ってすべて配置されるように、前記小断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるように、前記移行区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるとともに残りがその背後に配置されるように、前記複数本の小径シールドトンネルをそれぞれ延設するとともに、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネルを構築する際及び前記横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルと該小径シールドトンネルに隣り合うように背後に配置された小径シールドトンネルとを構築する際に前記側方空間の形成工程と前記充填工程とを行うことを特徴とする大断面トンネルの構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本からなる小径シールドトンネルを用いて大断面トンネルを構築する際、特にシールドトンネルに拡幅部を設ける際に適用される大断面トンネルの構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルにおいては、その分岐合流部、典型的には本線トンネルとランプトンネルとの接合箇所における分岐合流部でトンネル断面を拡幅する必要がある。
【0003】
トンネルの分岐合流部は、道路トンネルであれば、幅が20mを上回る大断面となることも多く、直径が15mを超えるシールドマシン(シールド機、以下、単にシールド)も製作されるようになってきたとはいえ、分岐合流部という限られた区間をシールドマシンで全断面掘削することは現実的ではない。
【0004】
このような状況下、シールドトンネルの断面を拡幅可能な技術として、分岐合流部が構築される構築予定領域の周縁に沿って複数本からなる小径のシールドトンネルをシールドトンネルのトンネル軸線方向に沿って複数本配置し、次いで、それらを用いてRC躯体を円筒状に構築して外殻とした後、その内側領域を掘削して分岐合流部を構築する工法が開発されている(特許文献1〜4)。
【0005】
これらの工法においては、小径シールドトンネルを先受け構造体として周辺土圧を支持しながら、これを切り開くことでRC躯体を連続的に構築するものであるため、小径シールドトンネルの切り開きからRC躯体の構築に至るまでの間、周辺地山からの漏水を防止するとともに該地山の崩落を防止して安全性を確保することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−43738号公報
【特許文献2】特許第4228311号公報
【特許文献3】特許第4958035号公報
【特許文献4】特許第5605522号公報
【特許文献5】特開2015−151675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、複数本の小径シールドトンネルは、分岐合流部におけるトンネル横断面の大きさに応じて配置する必要があるため、横断面が大きな断面位置では、隣り合う小径シールドトンネル相互の間隔が大きくなり、特許文献1〜4記載の各工法では、上述した止水性や安全性を確保すべく、周辺地山の改良をより大規模に行わねばならない。
【0008】
一方、分岐合流部におけるトンネル横断面の大きさに応じて小径シールドトンネルの本数を断面位置ごとに変化させる工法も提案されており(特許文献5)、同工法によれば、どの断面位置でも小径シールドトンネル相互の間隔を概ね一定にすることができるため、止水性や安全性確保のための地盤改良を過大な規模で行う必要がなくなる。
【0009】
加えて、上記工法によれば、小径シールドトンネル相互の間隔を小さく保つことができるため、互いに隣り合う2つの小径シールドトンネルのうち、一方の小径シールドトンネルから互いに異なる角度方向に向けて2本の突条を延設するとともに、該2本の突条を、他方の小径シールドトンネルから同様に延設された2本の突条とそれらの先端でそれぞれ接続することにより、小径シールドトンネル同士の隙間を確実に閉じることが可能となり、上記箇所における止水性確保を裏込めのみによって行いやすくなるとともに、地盤改良工事が別途必要になるとしても、その改良範囲や改良程度を最小限に抑えることができる。
【0010】
しかしながら、上述の突条を設けるためには、小径シールドのカッターヘッドで掘削された円形断面空間を側方に余堀り可能なサイドカッターを、小径シールドの周面から突設される形で該小径シールドに設けておかねばならない。
【0011】
そのため、小径シールドを発進到達させる際、サイドカッターが坑口周縁に設けられた環状止水部材を押し拡げて該環状止水部材を小径シールドの周面から離間させ、該離間箇所で止水性が低下する懸念があった。
【0012】
加えて、上述した突条は、2本を一組として二組設ける必要があるとともに、対向する突条同士を接続しなければならないため、突条を形成するのに精度が要求されるという問題も生じていた。
【0013】
ちなみに、この問題は、小径シールドトンネルの本数を変化させない工法、例えば特許文献1〜4記載の各工法に上記構成を適用する際にも同様に生じる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、隣り合う2本の小径シールドトンネル間における止水性や安全性確保に多大なコストをかけることなく、なおかつ小径シールドを発進到達させる際に坑口での止水性低下を防止可能な大断面トンネルの構築方法を提供することを目的とする。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る大断面トンネルの構築方法は請求項1に記載したように、大断面トンネルが構築される構築予定領域の周縁に沿って複数本からなる小径シールドトンネルを該大断面トンネルのトンネル軸線方向に延設し、該複数本の小径シールドトンネルを先受け構造体として外殻を構築した後、該外殻で囲まれた内側領域を掘削する大断面トンネルの構築方法において、
前記小径シールドトンネルを構築するにあたって小径シールドで地山掘削を行う際、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合には、該先行構築側で、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成するとともに、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていない場合には、該未構築側で側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成し、
前記側方空間の形成工程と並行して又はその形成後、該側方空間に流動性固化材を充填することにより、前記先行構築側では、前記裏込め領域と連続一体化する拡張裏込め領域を形成するとともに、前記未構築側では、あらたな裏込め領域を形成する大断面トンネルの構築方法であって、
前記小径シールドを、径方向に沿って出入自在なサイドカッターが設けられた小径シールドとし、該小径シールドを発進到達させる際には、前記サイドカッターを前記小径シールドのシールド本体周面よりも内側に退避させ、前記各側方空間を形成する際には、前記サイドカッターを前記シールド本体の周面よりも外側に突出させるものである。
【0016】
また、本発明に係る大断面トンネルの構築方法は、前記外殻を構築する際の施工範囲が前記拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に及ぶことがないように該拡張裏込め領域を形成するものである。
【0017】
また、本発明に係る大断面トンネルの構築方法は、前記構築予定領域をシールドトンネルの拡幅予定領域とするとともに該拡幅予定領域の横断面が最大となる断面位置を基準断面位置とし、該基準断面位置と横断面の大きさが実質的に同一の区間を大断面区間、前記基準断面位置よりも横断面の大きさが小さくかつその大きさが実質的に変化しない区間を小断面区間、横断面の大きさが前記大断面区間における大きさから前記小断面区間における大きさへと徐々に変化する区間を移行区間として、前記大断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルが前記拡幅予定領域の横断面輪郭線に沿ってすべて配置されるように、前記小断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるように、前記移行区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるとともに残りがその背後に配置されるように、前記複数本の小径シールドトンネルをそれぞれ延設するとともに、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネルを構築する際及び前記横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルと該小径シールドトンネルに隣り合うように背後に配置された小径シールドトンネルとを構築する際に前記側方空間の形成工程と前記充填工程とを行うものである。
【0018】
また、本発明に係る大断面トンネルの構築方法は、前記外殻を構築する際の施工範囲が、前記拡張裏込め領域のうち、前記横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネル間に形成される拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に及ぶことがないように該拡張裏込め領域を形成するものである。
【0019】
また、本発明に係る大断面トンネルの構築方法は請求項5に記載したように、大断面トンネルが構築される構築予定領域の周縁に沿って複数本からなる小径シールドトンネルを該大断面トンネルのトンネル軸線方向に延設し、該複数本の小径シールドトンネルを先受け構造体として外殻を構築した後、該外殻で囲まれた内側領域を掘削する大断面トンネルの構築方法において、
前記小径シールドトンネルを構築するにあたって小径シールドで地山掘削を行う際、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合には、該先行構築側で、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成するとともに、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていない場合には、該未構築側で側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成し、
前記側方空間の形成工程と並行して又はその形成後、該側方空間に流動性固化材を充填することにより、前記先行構築側では、前記裏込め領域と連続一体化する拡張裏込め領域を形成するとともに、前記未構築側では、あらたな裏込め領域を形成する大断面トンネルの構築方法であって、
前記側方空間を形成する工程において、先行構築側で掘削する際には、前記先行構築された小径シールドトンネルに最も近い角度位置における深さよりもその両側における深さの方が大きくなるように前記側方空間を形成し、未構築側で掘削する際には、構築予定の小径シールドトンネルに最も近い角度位置を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように前記側方空間を形成するものである。
また、本発明に係る大断面トンネルの構築方法は請求項6に記載したように、大断面トンネルが構築される構築予定領域の周縁に沿って複数本からなる小径シールドトンネルを該大断面トンネルのトンネル軸線方向に延設し、該複数本の小径シールドトンネルを先受け構造体として外殻を構築した後、該外殻で囲まれた内側領域を掘削する大断面トンネルの構築方法において、
前記小径シールドトンネルを構築するにあたって小径シールドで地山掘削を行う際、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合には、該先行構築側で、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を前記小径シールドの径方向に余堀りする形で形成するとともに、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていない場合には、該未構築側で側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を前記小径シールドの径方向に余堀りする形で形成し、
前記側方空間の形成工程と並行して又はその形成後、該側方空間に流動性固化材を充填することにより、前記先行構築側では、前記裏込め領域と連続一体化する拡張裏込め領域を形成するとともに、前記未構築側では、あらたな裏込め領域を形成する大断面トンネルの構築方法であって、
前記構築予定領域をシールドトンネルの拡幅予定領域とするとともに該拡幅予定領域の横断面が最大となる断面位置を基準断面位置とし、該基準断面位置と横断面の大きさが実質的に同一の区間を大断面区間、前記基準断面位置よりも横断面の大きさが小さくかつその大きさが実質的に変化しない区間を小断面区間、横断面の大きさが前記大断面区間における大きさから前記小断面区間における大きさへと徐々に変化する区間を移行区間として、前記大断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルが前記拡幅予定領域の横断面輪郭線に沿ってすべて配置されるように、前記小断面区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるように、前記移行区間では、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが前記横断面輪郭線に沿って配置されるとともに残りがその背後に配置されるように、前記複数本の小径シールドトンネルをそれぞれ延設するとともに、前記複数本の小径シールドトンネルのうち、前記横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネルを構築する際及び前記横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルと該小径シールドトンネルに隣り合うように背後に配置された小径シールドトンネルとを構築する際に前記側方空間の形成工程と前記充填工程とを行うものである。
【0020】
本発明に係る大断面トンネルの構築方法においては、小径シールドトンネルを構築するにあたって小径シールドで地山掘削を行う際、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合には、該先行構築側で、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することで、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成する。
【0021】
一方、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていない場合には、該未構築側で側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成する。
【0022】
これらの側方空間は、小径シールドの先端に設けられたカッターヘッドによる円形断面状の掘削空間を径方向に拡張する、つまり径方向に余堀りする形で形成される。
【0023】
なお、先行構築側の側方空間を形成するにあたっては、裏込め領域の一部を切削する際、先行構築された小径シールドトンネルと干渉することがないよう、該小径シールドトンネルに最も近い角度位置における深さよりもその両側における深さの方が大きくなるように形成するのが典型例となり、未構築側の側方空間を形成するにあたっては、構築予定の小径シールドトンネルに最も近い角度位置を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように形成するのが典型例となる。
【0024】
上述した側方空間が形成されたならば、それと並行して又はその後、該側方空間に流動性固化材を充填することにより、先行構築側では、上述の裏込め領域と連続一体化する拡張裏込め領域を形成するとともに、未構築側では、あらたな裏込め領域を形成する。
【0025】
このようにすると、隣り合う2つの小径シールドトンネル間に形成された拡張裏込め領域によって止水性と地山崩落に対する安全性が確保されるため、外殻を構築する際に大がかりな地盤改良が不要になるほか、従来工法のように、2本を一組とした突条を二組設けた上で、対向する突条同士を先端で接続するという複雑な構造を構築する必要もない。
【0026】
小径シールドで地山掘削を行う際には、上述したように、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築されている場合と未だ構築されていない場合とがあるが、例えば小径シールドトンネルの構築開始時のように、いずれの側も未構築側となる場合がある一方で、構築終了時のように、いずれの側も先行構築側となる場合があり、前者の場合には、両側であらたな裏込め領域がそれぞれ形成され、後者の場合には、両側で拡張裏込め領域がそれぞれ形成されることとなる。
【0027】
拡張裏込め領域は、隣り合う2つの小径シールドトンネル間に外殻を構築する際、一定の止水性と地山崩落に対する安全性が確保されれば足りるものであって、必ずしも外殻構築時の施工範囲をすべてカバーする必要はなく、薬液注入等の止水措置を部分的に施しながら、拡張裏込め領域の機能を補う構成が可能であるが、外殻を構築する際の施工範囲が前記拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に及ぶことがないように該拡張裏込め領域を形成するようにしたならば、外殻構築作業が拡張裏込め領域内で行われることとなって、追加の止水措置を省略し、あるいは軽減することが可能となる。
【0028】
本発明に係る大断面トンネルの構築方法において、小径シールドトンネルとは、大断面トンネルに対する相対的概念を表した表現であって、その径がシールド工法における当業者の認識に拘束されるものではなく、本発明の小径シールドトンネルとして、シールド工法分野で中口径と呼ばれる大きさ、例えばφ4m程度のシールドトンネルを用いる場合も本発明に包摂される。
【0029】
また、本発明に係る大断面トンネルの構築方法は、大断面トンネルの構築予定領域の周縁に沿って複数本の小径シールドトンネルを延設し、次いで、該小径シールドトンネルを利用して外殻を構築した後、該外殻の内側を掘削して大断面トンネル空間を形成する工法であって、外殻構築の際、隣り合う2本の小径シールドトンネル相互の離間による止水性や安全性の低下を防止する必要がある全ての場合に適用可能であり、複数本の小径シールドトンネルをどのように構築するかは任意であるし、大断面トンネルの用途も任意であり、さらには、断面位置によって小径シールドトンネルの本数が変化するか一定であるかも任意である。
【0030】
例えば、大断面トンネルの構築予定領域をシールドトンネルの拡幅予定領域とし、大断面区間では、複数本の小径シールドトンネルが拡幅予定領域の横断面輪郭線に沿ってすべて配置されるように、小断面区間では、複数本の小径シールドトンネルのうち、基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが横断面輪郭線に沿って配置されるように、移行区間では、複数本の小径シールドトンネルのうち、基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数だけが横断面輪郭線に沿って配置されるとともに残りがその背後に配置されるように、複数本の小径シールドトンネルをそれぞれ延設する場合にも適用可能である。
【0031】
かかる場合においては、複数本の小径シールドトンネルのうち、横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネルを構築する際に上述した各側方空間の形成工程と充填工程とを行うが、横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルが該横断面輪郭線から離隔して他の小径シールドトンネルから離脱する箇所や、横断面輪郭線から離隔する小径シールドトンネルが該横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルに割り込むように進入する箇所では、横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネル相互の間隔が大きくなって、上述した各側方空間の形成工程及び充填工程の実施が困難になる場合がある。
【0032】
しかし、その場合であっても、横断面輪郭線に沿った小径シールドトンネルの背後に、離脱又は進入しようとする小径シールドトンネルが近接配置されているので、これらを構築する際に上述した各側方空間の形成工程及び充填工程を行えば、横断面輪郭線に沿った小径シールドトンネルとその背後に配置された小径シールドトンネルとの間が確実に閉じられることとなり、その結果、横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネル相互の間隔が大きくなる場合にも、大がかりな地盤改良を行うことなく、止水性と地山崩落に対する安全性を確保することが可能となる。
【0033】
拡幅部は、シールドトンネルの分岐合流部、特に本線トンネルとランプトンネルとの接合箇所における分岐合流部として形成される場合が典型例となるが、緊急避難ゾーン、非常駐車帯その他任意の目的で構築される拡幅部が包摂される。
【0034】
拡張裏込め領域のうち、横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネル間に形成される拡張裏込め領域については、上述したと同様、必ずしも外殻構築時の施工範囲をすべてカバーする必要はなく、薬液注入等の止水措置を部分的に施しながら、拡張裏込め領域の機能を補う構成が可能であるが、外殻を構築する際の施工範囲が前記拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に及ぶことがないように該拡張裏込め領域を形成するようにしたならば、外殻構築作業が拡張裏込め領域内で行われることとなって、追加の止水措置を省略し、あるいは軽減することが可能となる。
【0035】
一方、拡張裏込め領域のうち、横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルと該小径シールドトンネルに隣り合うように背後に配置された小径シールドトンネルとの間に形成される拡張裏込め領域については、後者の小径シールドトンネルが横断面輪郭線から離隔しているため、該拡張裏込め領域で外殻構築時の施工範囲をすべてカバーすることは本来的に困難であって、拡張裏込め領域が形成された反対の側から地下水が外殻構築時の施工範囲に浸水するおそれがあるが、かかる場合には、拡張裏込め領域でカバーされていない範囲を薬液注入や凍結といった方法で別途止水すればよい。
【0036】
上述した各側方空間をどのように形成するかは任意であるが、例えば、前記小径シールドを、径方向に沿って出入自在なサイドカッターが設けられた小径シールドとし、該小径シールドを発進到達させる際には、前記サイドカッターを前記小径シールドのシールド本体周面よりも内側に退避させ、前記各側方空間を形成する際には、前記サイドカッターを前記シールド本体の周面よりも外側に突出させる構成を採用することが可能である。
【0037】
かかる構成によれば、小径シールドの周面に突出物がない状態で該小径シールドの発進到達が可能になるため、発進エリアの坑口に設けられた環状止水部材は、該小径シールドの周面に密着し隙間が生じるおそれがなくなり、かくして坑口での止水性低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施形態に係る大断面トンネルの構築方法を用いて、本線トンネル1の拡幅部を複数本の小径シールドトンネル4−1〜4−24で取り囲んで外殻を構築する様子を示した全体平面図。
図2図1の横断面図であり、(a)はA−A線、(b)はB−B線に沿う各横断面図。
図3】同じく図1の横断面図であり、(a)はC−C線、(b)はD−D線に沿う横断面図。
図4】大断面区間において小径シールドトンネル4−1を構築する様子を示した図であり、(a)は余堀りによって側方空間41,41を形成した様子を示した横断面図、(b)はそれに用いる小径シールド42を示した正面図、(c)は側方空間41,41に裏込め材を充填する様子を示した横断面図。
図5】引き続き小径シールドトンネル4−2を構築する様子を示した横断面図。
図6】移行区間において小径シールドトンネル4−1〜4−5を構築する様子を示した横断面図。
図7】同じくその構築が完了した様子を示した横断面図。
図8】小断面区間において小径シールドトンネル4−2〜4−7(小径シールドトンネル4−5は除く)を構築する様子を示した横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る大断面トンネルの構築方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0040】
図1は、シールドトンネルとしての本線トンネル1をランプトンネル2と接合するための分岐合流部を設けるべく、該本線トンネルに大断面トンネルとしての拡幅部を形成する場合に本発明を適用した例であって、複数本の小径シールドトンネル4−1〜4−24からなる先受け構造体を示した全体平面図、図2(a)、(b)はそれぞれ、図1のA−A線、B−B線に沿う横断面図、図3(a)、(b)はそれぞれ、図1のC−C線、D−D線に沿う横断面図である。
【0041】
これらの図に示すように、本実施形態に係る大断面トンネルの構築方法は、まず、大断面トンネルが構築される構築予定領域であるところの本線トンネル1の拡幅予定領域3の周縁に沿って、計24本からなる小径シールドトンネル4−1〜4−24を該本線トンネルのトンネル軸線方向に沿って延設する。
【0042】
これら24本の小径シールドトンネル4−1〜4−24は、拡幅予定領域3の掘削前に必要となる外殻71を構築する際の先受け構造体となる。
【0043】
小径シールドトンネル4−1〜4−24は、本線トンネル1の外側近傍に設けられた発進エリア6から小径シールドを発進させて構築すればよい。
【0044】
発進エリア6は、本線トンネル1のシールドセグメント(図示せず)を内側から一部切り開いて円周トンネル掘削機を挿入設置し、該円周トンネル掘削機で本線トンネル1の外側に拡がる周辺地盤を矩形断面の環状空間が形成されるように掘削形成した後、残りのシールドセグメントを切り開いて環状のトレンチとして露出させて構成することが可能であり、該環状のトレンチから小径シールドを発進させることができる。
【0045】
ここで、小径シールドトンネル4−1〜4−24は図1に示したように、拡幅予定領域3の横断面が最大となる断面位置、本実施形態では発進エリア6近傍を基準断面位置とし、該基準断面位置と横断面の大きさが実質的に同一の区間を大断面区間、基準断面位置よりも横断面の大きさが小さくかつその大きさが実質的に変化しない区間を小断面区間、横断面の大きさが大断面区間における大きさから小断面区間における大きさへと徐々に変化する区間を移行区間として、大断面区間では図2(a)に示す通り、拡幅予定領域3の横断面輪郭線に沿ってすべて配置する。
【0046】
一方、小断面区間では図3(b)に示す通り、複数本の小径シールドトンネル4−1〜4−24のうち、基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数、本実施形態では18本だけを横断面輪郭線に沿って配置する。
【0047】
また、移行区間では図2(b)に示す通り、複数本の小径シールドトンネル4−1〜4−24のうち、基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数、本実施形態では18本だけを横断面輪郭線に沿って配置するとともに、残りの6本である小径シールドトンネル4−1,4−5,4−9,4−13,4−17,4−21は、横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルの背後に配置する。
【0048】
これら24本の小径シールドトンネル4−1〜4−24を構築するにあたっては、上述したように、発進エリア6から小径シールドを適宜発進させればよいが、該小径シールドで地山掘削を行うにあたっては、以下で詳述するように、側方地山を余堀りしつつ、該余堀りによって形成された側方空間に流動性固化材を充填することで、シールドセグメント背後に裏込め領域を形成する。
【0049】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、大断面区間及び移行区間では、小径シールドトンネル4−1〜4−24を構築するための小径シールドによる地山掘削を、図番号の昇順、図2(a),(b)で言えば時計回りに順次行い、小断面区間では、小径シールドトンネル4−1,4−5,4−9,4−13,4−17,4−21の6本を除く残りの18本について図番号の昇順、図3で言えば同じく時計回りに順次行うものとする。
【0050】
まず、大断面区間では、図2(a)に示すように、24本の小径シールドトンネル4−1〜4−24を横断面輪郭線に沿ってそれらの間隔が均等になるように構築するが、地山掘削の際には、隣り合う小径シールドトンネルが先行構築された側を先行構築側、未だ構築されていない側を未構築側として、該先行構築側では、先行構築された小径シールドトンネルのシールドセグメント背後に拡がる裏込め領域の一部を切削しつつ、該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することで、トンネル軸線方向に沿った側方空間を形成し、未構築側では側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間をそれぞれ形成する。
【0051】
図4は、小径シールドトンネル4−1を構築する様子を示したものであって、該小径シールドトンネル構築のための地山掘削を行う時点では、隣り合う小径シールドトンネルが未だ構築されていないため、同図(a)に示すように、構築予定の小径シールドトンネル4−2に最も近い角度位置を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように余堀りすることで側方空間41を同図右側に形成する。また、同図左側においても、構築予定の小径シールドトンネル4−24に最も近い角度位置を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように余堀りすることで側方空間41を同様に形成する。
【0052】
図4(b)は、側方空間41,41を形成可能な小径シールド42を先端側から見たものであり、シールド本体(図示せず)の先端に設けられたカッターヘッド43(シールド本体と同径)を同図紙面に垂直な軸線廻り(以下、機軸廻り)に回転させることで前方地山を掘削するとともに、該カッターヘッドに設置されたサイドカッター47によってカッターヘッド43による円形断面状の掘削空間を側方に拡張できるようになっている。
【0053】
サイドカッター47は、機軸廻りに揺動自在となるようにカッターヘッド43の外周リング48に設置された揺動カッターアーム46と、該揺動カッターアームの揺動中心から若干離隔した位置にロッドの先端が連結された油圧シリンダ45とで構成してある。
【0054】
揺動カッターアーム46は、2本の切削アーム44a,44bを、全体がシールド本体側に折り曲げられた形態となるように、言い換えれば全体がブーメラン状になるように揺動中心から反対方向に延設するとともに、該各切削アームの長手縁部のうち、シールド本体とは反対の側、掘削姿勢においては地山側となる縁部に切削ビット50をそれぞれ列状に並設して構成してある。
【0055】
油圧シリンダ45は、シリンダ側をカッターヘッド43のスポーク49に連結してあり、ロッドのストロークを中立位置に保持することで揺動カッターアーム46全体をシールド本体の周面よりも内側に退避させることができる(同図(b)実線)。
【0056】
一方、油圧シリンダ45は、ロッドを上述の中立位置から伸長させることで、揺動カッターアーム46を反時計廻りに揺動させて切削アーム44bをシールド本体周面から外側に突出させるとともに、ロッドを中立位置から収縮させることで、揺動カッターアーム46を時計廻りに揺動させて切削アーム44aをシールド本体周面から外側に突出させるようになっており、サイドカッター47全体がカッターヘッド43の回転に連動して全体的に機軸廻りに回転するため、カッターヘッド43の時計回り及び反時計回りの回転操作にロッドの伸縮操作を加えれば、カッターヘッド43による円形断面状の掘削空間を所望の断面形状で径方向に拡張することができる。
【0057】
小径シールド42を発進エリア6から発進させる際には、油圧シリンダ45のロッドを中立位置に保持してサイドカッター47の揺動カッターアーム46をシールド本体の周面よりも内側に退避させ、発進エリア6の坑口を通過した後、上述したように揺動カッターアーム46を適宜揺動させる。
【0058】
サイドカッター47を用いて図4(a)に示すように側方地山を掘削することにより、トンネル軸線方向に沿った側方空間41,41をそれぞれ形成したならば、次に、小径シールド42のテール部でシールドセグメント51を組み立てつつ、該シールドセグメントの背後に拡がる側方空間41,41に流動性固化材としての裏込め材を充填することにより、あらたな裏込め領域52,52を形成する。
【0059】
次に、先行構築された小径シールドトンネル4−1の右側に図5(a)に示すように小径シールドトンネル4−2を構築するにあたっては、小径シールドトンネル4−1を構築する際と同様に小径シールド42を発進エリア6から発進させ、次いで、同図に示すように、先行構築された小径シールドトンネル4−1のシールドセグメント51背後に拡がる裏込め領域52の一部を切削しつつ、該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することで、トンネル軸線方向に沿った先行構築側の側方空間61を形成する。
【0060】
側方空間61は、小径シールドトンネル4−1の側方空間41を形成したと同様、小径シールド42のサイドカッター47を用いて形成すればよい。
【0061】
なお、側方空間61を形成するにあたっては、裏込め領域52の一部を切削する際、先行構築された小径シールドトンネル4−1と干渉することがないよう、該小径シールドトンネルに最も近い角度位置における深さよりもその両側における深さの方が大きくなるようにする。
【0062】
一方、隣り合う小径シールドトンネル4−3が未だ構築されていない未構築側では、側方地山を掘削することにより、小径シールドトンネル4−1の側方空間41と同様にして、トンネル軸線方向に沿った側方空間41を形成する。
【0063】
側方空間41,61が形成されたならば、図5(b)に示すように、小径シールド42のテール部でシールドセグメント51を組み立てつつ、該シールドセグメントの背後に拡がる未構築側の側方空間41に裏込め材を充填することにより、あらたな裏込め領域52を形成する。
【0064】
一方、先行構築側では、シールドセグメント51の背後に拡がる側方空間61に裏込め材を充填することで、小径シールドトンネル4−1の裏込め領域52と連続一体化する拡張裏込め領域62を形成する。
【0065】
拡張裏込め領域62は、それらを挟むように隣り合う2つの小径シールドトンネルからそれぞれ注入された裏込め材がX字状の横断面で連続一体化したものであって、該拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に外殻71を構築する際の施工範囲が及ぶことがないように、換言すれば、隣り合う2つの小径シールドトンネル間における外殻施工範囲が該拡張裏込め領域に包含されるように形成する。
【0066】
以上の手順を繰り返すことにより、大断面区間では、小径シールドトンネル4−1〜4−23を、それらの間に拡張裏込め領域62を形成しつつ時計回りに順次構築するとともに、小径シールドトンネル4−24を、両側方が先行構築側となって拡張裏込め領域62,62が形成されるように構築することにより、小径シールドトンネル4−1〜4−24を拡幅予定領域3の横断面輪郭線に沿って同等の間隔で環状に配置する。
【0067】
次に、図1のB−B線に沿う断面図(図2(b))で示した移行区間についても、概ね大断面区間と同様に行うが、移行区間では、上述したように小径シールドトンネル4−1〜4−24のうち、基準断面位置での配置間隔とほぼ同等になるために必要な本数、本実施形態では18本だけが横断面輪郭線に沿って配置され、残りの6本である小径シールドトンネル4−1,4−5,4−9,4−13,4−17,4−21は、横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルの背後に配置される。
【0068】
したがって、小径シールドトンネル4−1を構築する際にその両側方に形成すべき側方空間は、構築予定の小径シールドトンネル4−2,4−24に最も近い角度位置が図6(a)でわかる通り、小径シールドトンネル4−1を真上にして見たときに右斜め下方と左斜め下方となり、そのため、側方空間は、かかる2つの斜め角度を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように余堀りして形成するとともに、該各側方空間に裏込め材を充填して裏込め領域52,52を形成し、引き続き、その右側に小径シールドトンネル4−2を構築するとともに、上述したと同様に拡張裏込め領域62を形成する。
【0069】
小径シールドトンネル4−5,4−9,4−13,4−17,4−21については、それらを構築する時点で一方が先行構築側、他方が未構築側となるが、小径シールドトンネル4−5を例に説明すると、図6(b)に示すように、未構築側では、上述した斜め角度を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように側方地山を掘削して側方空間41を形成するとともに、先行構築側では、上述した斜め角度における深さよりもその両側における深さの方が大きくなるように先行構築側の裏込め領域52の一部を切削しつつ、該裏込め領域に近接する側方地山を掘削することで側方空間61を形成し、次いで、未構築側の側方空間41に裏込め材を充填することであらたな裏込め領域52を形成するとともに、先行構築側の側方空間61に裏込め材を充填することで、小径シールドトンネル4−4の裏込め領域52と連続一体化する拡張裏込め領域62を図7のように形成する。
【0070】
拡張裏込め領域62のうち、横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネル間に形成される拡張裏込め領域については、上述したと同様、該拡張裏込め領域の外側に拡がる隣接地山に外殻71を構築する際の施工範囲が及ぶことがないように形成する。
【0071】
図1のC−C線あるいはD−D線に沿う断面図(図3(a)、(b))で示した小断面区間については、図8に示すように、小径シールドトンネル4−1,4−5,4−9,4−13,4−17,4−21の6本を除く残りの18本について大断面区間と同様に構築すればよい。
【0072】
なお、6本の小径シールドトンネル4−1,4−5,4−9,4−13,4−17,4−21は、横断面輪郭線から十分に離隔して他の小径シールドトンネルから離脱し、該各小径シールドトンネルを介して隣り合っていた2つの小径シールドトンネルが、基準断面位置での配置間隔と同等の配置間隔で横断面輪郭線に沿って直接的に隣り合うようになった時点で、すなわち図8に示した状態になれば、先受け構造体としての役目を終えるため、端部からの地下水流入が防止される形でそれらの延設を終了する。
【0073】
小径シールドトンネル4−1〜4−24がすべての区間で構築されたならば、該小径シールドトンネルを先受け構造体として周辺土圧や水圧を支持しながら、これらを切り開いてRC躯体を円筒状に構築して外殻71とし、しかる後、その内側領域を掘削して分岐合流部を構築すればよい。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係る大断面トンネルの構築方法によれば、隣り合う2つの小径シールドトンネル間に形成された拡張裏込め領域62によって大断面トンネルの外側からの止水性や地山崩落に対する安全性が確保されるため、大がかりな地盤改良が不要になるほか、従来工法のように、2本を一組とした突条を二組設けた上で、対向する突条同士を先端で接続するという複雑な構造を構築する必要もない。
【0075】
また、本実施形態に係る大断面トンネルの構築方法によれば、拡張裏込め領域62のうち、横断面輪郭線に沿って隣り合う2つの小径シールドトンネル間に形成される拡張裏込め領域については、外側に拡がる隣接地山に外殻71を構築する際の施工範囲が及ぶことがないように該拡張裏込め領域を形成したので、外殻71を構築する作業が拡張裏込め領域62内で行われることとなり、追加の止水措置を省略し、あるいは軽減することが可能となる。
【0076】
また、本実施形態に係る大断面トンネルの構築方法によれば、横断面輪郭線に沿った小径シールドトンネルとその背後に配置された小径シールドトンネルとの間についても上述した拡張裏込め領域62を形成するようにしたので、小径シールドトンネルの本数が変化する移行区間において、隣り合う2つの小径シールドトンネル相互の間隔が大きくなっても、大がかりな地盤改良を行うことなく、拡幅予定領域3の外側から内側に向けて径方向に作用する土圧や水圧に対する安全性、さらには該方向からの地下水流入に対する止水性を確保することが可能となる。
【0077】
また、本実施形態に係る大断面トンネルの構築方法によれば、径方向に沿って出入自在なサイドカッター47が設けられた小径シールド42を用いて小径シールドトンネル4−1〜4−24を構築するとともに、サイドカッター47で余堀りして側方空間41や側方空間61を形成するようにしたので、小径シールドの周面に突出物がない状態で該小径シールドの発進到達が可能となる。
【0078】
そのため、小径シールド42を発進到達させる際、発進エリア6の坑口に設けられた環状止水部材は、該小径シールドの周面に密着し隙間が生じるおそれがなくなり、かくして坑口での止水性低下を防止することが可能となる。
【0079】
本実施形態では、先行構築側の側方空間を、小径シールドトンネルに最も近い角度位置における深さよりもその両側における深さの方が大きくなるように形成するとともに、未構築側の側方空間を、構築予定の小径シールドトンネルに最も近い角度位置を中心とした一定角度範囲で深さがほぼ均等となるように形成したが、隣り合う2つの小径シールドトンネルの間に拡張裏込め領域が形成されるのであれば、側方空間をどのような深さに形成するかは任意である。
【0080】
また、本実施形態では、大断面トンネルの構築予定領域を取り囲む小径シールドトンネルの本数が断面位置で変化する場合に本発明を適用した例を説明したが、断面位置によって小径シールドトンネルの本数が一定の場合にも本発明を適用することが可能である。
【0081】
また、本実施形態では、サイドカッター47で余堀りして側方空間41や側方空間61を形成するようにしたが、これらの側方空間をどのように形成するかは任意であって、サイドカッター47に代えて、公知の切削手段を採用することが可能である。
【0082】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、拡張裏込め領域62のうち、横断面輪郭線に沿って配置された小径シールドトンネルと該小径シールドトンネルに隣り合うように背後に配置された小径シールドトンネルとの間、図7では、小径シールドトンネル4−2と小径シールドトンネル4−1との間や、小径シールドトンネル4−4と小径シールドトンネル4−5との間、あるいは小径シールドトンネル4−6と小径シールドトンネル4−5との間に形成される拡張裏込め領域62については、小径シールドトンネル4−1や小径シールドトンネル4−5が横断面輪郭線から離隔しているため、同図でよくわかるように、該拡張裏込め領域で外殻71を構築する際の施工範囲をすべてカバーすることは本来的に困難である。
【0083】
この場合には、拡張裏込め領域が形成された反対の側から外殻構築時の施工範囲に浸水することがないよう、拡張裏込め領域でカバーされていない範囲を薬液注入や凍結といった方法で別途止水すればよい。
【符号の説明】
【0084】
1 本線トンネル(シールドトンネル)
3 シールドトンネルの拡幅予定領域(大断面トンネルの構築予定領域)
4−1〜4−24
小径シールドトンネル
41,61 側方空間
42 小径シールド
47 サイドカッター
51 シールドセグメント
52 裏込め領域
62 拡張裏込め領域
71 外殻
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8