【実施例1】
【0021】
図1は、本実施例の放射性廃棄物測定装置の構成を示したものである。
【0022】
本図において、放射性廃棄物測定装置は、収納パターン記憶装置2(収納パターン記憶部)と、領域分割情報入力装置3(領域分割情報入力部)と、密度分布計算装置4(密度分布計算部)と、スペクトル計算装置5(スペクトル計算部)と、計算スペクトル記憶装置6(計算スペクトル記憶部)と、濃度分布評価装置7(評価部)と、出力装置8と、で構成されている。収納パターン記憶装置2は、解体廃棄物102が収納容器101に収納されている状態について、プラント解体計画支援システム1からの情報を収納パターンデータとして受け取り、蓄積するものである。収納パターンデータは、プラント解体計画支援システム1により評価された情報である。なお、プラント解体計画支援システム1の詳細については、特許文献3に記載されているため、ここでは説明を省略する。
【0023】
図2は、収納パターンデータの一例を示したものである。
【0024】
本図に示す収納パターンデータ200は、収納容器の内部に解体廃棄物が収納されている状態をデータとして記録したものである。本図は、収納容器の上部から俯瞰した状態を示すデータを図示したものである。言い換えると、収納パターンデータ200は、収納容器データ201と解体廃棄物データ202とが結合したデータである。本図においては、解体廃棄物データ202の一例として、切断された配管が収納されている場合を示している。
【0025】
図1に戻る。
【0026】
収納パターン記憶装置2の収納パターンデータを用いて密度分布を計算する際には、領域分割情報入力装置3及び密度分布計算装置4が使用される。領域分割情報入力装置3は、収納パターンデータ(
図2の符号200)を呼び出し、この収納パターンデータから解体廃棄物の密度分布を評価するために、解体廃棄物データ(
図2の符号202)をどのように領域分割するかについての情報を入力する。密度分布計算装置4は、領域分割情報入力装置3への入力情報に基づき、収納容器内における解体廃棄物の密度分布を計算する。
【0027】
計算された密度分布は、スペクトル計算装置5に入力される。スペクトル計算装置5は、その密度分布の情報に基づき、測定体系を模擬した検出器応答シミュレーションを実施し、計算スペクトルを計算する。その計算スペクトルの結果は、計算スペクトル記憶装置6に記憶される。
【0028】
なお、計算スペクトルの計算は、後述する放射能濃度評価の段階で実施してもよい。この場合、計算スペクトル記憶装置6は不要となる。しかし、計算スペクトルの計算は、あらかじめ実施しておくことが望ましい。なぜならば、計算スペクトルの計算には、通常、モンテカルロ法と呼ばれるシミュレーション手法が用いられるが、この計算は一般的に時間がかかるためである。さらに、あらかじめ実施しておいた計算スペクトルをデータベースの形式で計算スペクトル記憶装置6に保存しておくことで、後述する放射能濃度評価の段階での計算スペクトルの呼び出しが簡便になる。
【0029】
以上の流れとは別に、あるいは並行して、実際に解体廃棄物102が収納された収納容器101に対して、放射線検出器11による放射線測定を実施する。放射線測定では、放射性物質に汚染された解体廃棄物102から放射されるガンマ線のエネルギスペクトルをデータ収集装置12にて収集する。そのため、放射線検出器11は、ゲルマニウム検出器や半導体検出器のように、ガンマ線のエネルギスペクトルを測定できるものが望ましい。収集されたガンマ線のエネルギスペクトルは、エネルギスペクトルデータとして測定スペクトル記憶装置13(測定スペクトル記憶部)に記憶される。なお、
図1においては、放射線検出器11は、収納容器101の各側面に配置されているが、本発明は、これに限定されるものではなく、1つの放射線検出器11を用いて走査してもよい。放射線検出器11及びデータ収集装置12は、放射線計測部を構成する。
【0030】
解体廃棄物102の放射能濃度評価では、濃度分布評価装置7において、測定スペクトル記憶装置13に保存された測定スペクトルデータを呼び出し、計算スペクトル記憶装置6から対応する計算スペクトルを呼び出し、測定スペクトルと計算スペクトルとの比較により、測定スペクトルを再現する放射能濃度分布を評価し、出力装置8により放射能濃度分布の評価結果を出力する。
【0031】
図3は、
図1の収納パターン記憶装置2、領域分割情報入力装置3及び密度分布計算装置4を用いて密度分布を計算する方法について具体的な処理フローの一例を示したものである。
【0032】
初めに、収納パターンデータ(
図2の符号200)を呼び出す(処理S1001)。収納パターンデータは、通常、CADデータが使用されるが、形状表面を三角メッシュで表現するSTLデータのように、一般的なCADソフトウェアにて読み込みが可能なデータ形式であってもよい。ここで、CADは、Computer−Aided Designの略称である。また、STLは、Standard Triangulated Languageの略称である。
【0033】
次に、この収納パターンデータに対して、領域分割情報を入力する(処理S1002)。領域分割は、密度分布の計算における空間的な分布の細かさの最小単位を設定するために実施する。
【0034】
図4に領域分割の一例を示す。
図4は、
図2と同様、収納容器データ201に解体廃棄物データ202が収納されている様子を収納容器データ201の上部から俯瞰したものである。これに、収納容器データ201の内部を区切るための幾何形状データである領域分割面データ251、252を設定する。この領域分割面データ251、252により区切られた領域、具体的には
図4に示す点線により区切られた9つの領域のそれぞれが分割された領域を表す。ここでは、水平方向に3×3の領域への分割を図示しているが、必要精度やスループット等の条件に合わせて、分割数を変更する、鉛直方向にも分割する等としてもよい。また、領域分割のための幾何形状データは、3次元空間の各軸(X,Y,Z)に垂直な面に限られるものではなく、斜めの平面データであってもよい。さらには、領域分割のための幾何形状データは平面に限られるものではなく、必要に応じて曲面データ等他の幾何形状データを利用してもよい。
【0035】
なお、領域分割面データ251、252は、収納容器ごとにあらかじめ定めておいてもよい。すなわち、領域分割情報を収納容器ごとにあらかじめ定めておいてもよい。この場合、次に示すような領域分割面データ251、252の設定、領域分割情報の入力等をすることなく、放射性廃棄物の密度分布を計算することができる。もちろん、領域分割面データ251、252は、修正可能としておくことが望ましい。
【0036】
図5は、領域分割情報を入力する場合の画面の一例を示したものである。
【0037】
本図においては、これまでに説明してきた体系を例に、上記の領域分割面データ251、252を設定する画面を示している。
【0038】
領域分割情報入力画面61には、X軸に垂直な領域分割面データ251を設定する表示部62aと、Y軸に垂直な領域分割面データ252を設定する表示部62bと、をそれぞれ左右に示している。それぞれの表示部62a、62bの下方には、領域分割面データ251の設定情報を数値的に表示する表示部63a、及び領域分割面データ252の設定情報を数値的に表示する表示部63bも示している。
【0039】
領域分割面データ251、252は、一般的なCADソフトウェアが提供している、平面データの部品を画面上で選択し、設定しようとする場所までドラッグして設定することが可能である。また、表示部63a、63bに示される数値情報を入力または修正できる機能を設けておくことで、領域分割面データ251、252の位置をさらに正確に設定することが可能となる。この図の例では、表示部62a、62bを画面61上に左右別々に表示しているが、表示部62a、62bを一つの表示部に統合してもよい。また、領域分割面データ251、252の設定をより簡便にするために、三面図のような表示とすることも可能である。
【0040】
図3に戻る。
【0041】
次に、解体廃棄物データ(
図2の符号202)を分割する処理を実施する(S1003)。領域分割面データ(
図4の251、252)の設定座標値などの位置情報から、解体廃棄物データ(
図2の符号202)を、その領域分割面データ(
図4の251、252)の位置で分割し、分割廃棄物データを生成する。
【0042】
図6は、生成される分割廃棄物データの一例を示したものである。
【0043】
本図において、分割廃棄物データ203は、領域分割面データ251、252で区切られた1つの領域の状態を示すデータである。
【0044】
再度、
図3に戻る。
【0045】
次に、分割廃棄物データの質量を算出する処理を実施する(処理S1004)。
【0046】
分割廃棄物データ(
図6の符号203)は、CADデータであるため、切断後の寸法(空間座標値)の他、材質または質量といった属性情報が付随しているか、あるいは属性情報を付与することが可能である。分割後の分割廃棄物データ(
図6の符号203)の質量を、分割前の解体廃棄物データ(
図2の符号202)から直接求めることができればよいが、それが難しい場合であっても、分割後の寸法と材質情報に対応する密度値を与えることにより、分割廃棄物データ(
図6の符号203)の質量を算出することが可能である。
【0047】
次に、分割領域ごとに密度を算出する処理を実施する(処理S1005)。処理S1004にて算出されたそれぞれの分割領域に対する質量と、各分割領域の体積とから、各分割領域の密度を個別に算出する。
【0048】
以上求めた各分割領域の密度から、解体廃棄物データ202の密度分布が決定される(処理S1006)。
【0049】
図7は、処理S1006の結果である密度分布を表示した画面64の一例を示したものである。
【0050】
以降は、本実施例の冒頭に説明したとおり、計算スペクトルの生成、測定スペクトルの収集、及び濃度分布の評価のプロセスを経過し、出力する。
【0051】
以上に記載したとおり、本実施例により、収納容器内に解体廃棄物の密度分布がある場合や偏在がある場合でも、高精度に放射能濃度を評価することが可能である。
【実施例2】
【0052】
本実施例については、
図8〜10を用いて説明する。
【0053】
本実施例は、実施例1(
図1)のように、収納パターンデータに従い、実際に収納容器101に解体廃棄物102を収納した場合であっても、コンピュータ上で評価された収納パターンデータに基づく密度と、実際の密度との間に誤差が発生することが否定できないため、実際に解体廃棄物102が収納された状況に基づき、密度分布を補正するための方法の一例である。
【0054】
図8は、実施例2の放射性廃棄物測定装置の構成を示したものである。
【0055】
本図においては、収納容器101に収納された解体廃棄物102の密度分布を補正するために、外部の放射線源30を用いた測定を実施する。ここでは、外部の放射線源30として、非破壊検査に使用される電子線形加速器を用いたX線源を例として示している。放射線源30は、解体廃棄物102のサイズや密度に応じて、X線管球タイプのX線発生装置や、Co−60やIr−192等、非破壊検査で使用されるガンマ線源を選択することも可能である。
【0056】
ただし、Co−60線源を使用する場合には、解体廃棄物102から放射されるCo−60のガンマ線と区別する必要がある。例えば、解体廃棄物102を収納した収納容器101の外部の放射線源30を用いないガンマ線測定を先に実施し、外部の放射線源30を用いた測定は後から実施し、後から実施した測定値から、先に実施した測定値を差し引くことで、区別可能である。また、外部の放射線源30の放射線32の測定に用いる放射線検出器は、解体廃棄物102の測定するものと同じものでもよいし、異なっていてもよい。また、外部の放射線源30の放射線32を測定する際には、放射線の飛来方向を特定するためのコリメータ(図示せず)を装着する方が、より精度の高い測定が可能である。
【0057】
放射線源30から放射された放射線32は、収納容器101および解体廃棄物102を透過し、放射線検出器11により測定される。放射線32は、収納容器101および解体廃棄物102を透過する際に、収納容器101および解体廃棄物102の構成材との相互作用により減衰する。この減衰量から、放射線32の透過経路上における密度を算出する。具体的な算出方法については後述する。放射線検出器11の測定データは、データ収集装置12を介して、測定条件・透過データ記憶装置41に記憶される。また、測定条件・透過データ記憶装置41には、放射線32の透過データ測定における、放射線源30や放射線検出器11の、収納容器101または解体廃棄物102に対する設置位置、すなわち放射線32の透過経路、放射線源30から放射される放射線32の照射条件等の測定条件も記憶される。
【0058】
このように、本実施例においては、密度分布計算装置4は、領域分割情報入力装置3及び測定条件・透過データ記憶装置41から得られる情報に基いて密度分布を算出する。
【0059】
本実施例において、放射線源30、放射線検出器11及びデータ収集装置12は、透過放射線計測部を構成する。
【0060】
なお、
図8には、収納容器101及び解体廃棄物102が2か所に記載されているが、これらは、同一の収納容器101及び解体廃棄物102であり、同一の対象物について異なる測定により、異なるデータを取得しているため、便宜的に2か所に記載したものである。
【0061】
図9は、本実施例における、密度分布の計算方法の具体的な処理フローの一例を示したものである。
【0062】
本実施例の場合、
図8の収納パターン記憶装置2、領域分割情報入力装置3及び密度分布計算装置4だけでなく、
図8の測定条件・透過データ記憶装置41も用いて密度分布を計算する。
【0063】
図9に示すように、処理S1001〜S1005までは、実施例1の場合と同様である。以下、
図9において実施例1と異なる工程について説明する。
【0064】
処理S1005にて分割領域ごとの密度を算出したのち、密度分布計算装置4は、測定条件・透過データ記憶装置41から測定条件および透過データを呼び出す(処理S2001)。その後、測定条件から、放射線源30や放射線検出器11の、収納容器101または解体廃棄物102に対する設置位置の情報、すなわち放射線32の透過経路の情報を抽出する(処理S2002)。
【0065】
ここで、透過経路について
図10を用いて説明する。
【0066】
図10は、本実施例における密度分布の補正のための測定の概念を表したものである。
【0067】
本図においては、放射線源30から放射線検出器11に向かう透過経路51が収納容器101の中央部を貫く場合を示している。放射線源30から放射される放射線32は、破線で示す範囲に照射される。収納容器101の内部の透過経路51を3つに分割し、それぞれの分割領域の密度をρ
1、ρ
2、ρ
3で表している。また、透過経路51に沿った方向におけるそれぞれの分割領域の長さ(透過長)をそれぞれt
1、t
2、t
3で表している。
【0068】
次に、処理S1005にて算出した各分割領域の密度のうち、透過経路51上にある分割領域の密度と透過長の積(密度×透過長)の比を算出する(処理S2003)。
【0069】
密度×透過長の比の算出について、
図10を用いて説明する。
【0070】
放射線32の物質透過に伴う減衰は、下記式(1)により表される。
【0071】
I/I
o=exp(−ρμ
mt) …(1)
ここで、Iは、物質透過により減衰した放射線32の強度である。I
oは、減衰のない場合の放射線32の強度である。ρは、物質の密度である。μ
mは、質量減弱係数と呼ばれる、単位質量当たりのX線またはガンマ線との相互作用確率の値である。tは、放射線32が物質中を透過する長さである。
【0072】
図10に示す場合においては、上記式(1)は、次の式(2)のように表される。
【0073】
I/I
o=exp(−{ρ
1t
1+ρ
2t
2+ρ
3t
3}μ
m) …(2)
ところで、μ
mは、物質にはあまり依存せず、X線またはガンマ線のエネルギに強く依存することが知られている。このため、以降の処理における測定による透過データと比較では、ρt、すなわち(密度×透過長)がパラメータとなる。そこで、処理S2003では、透過経路51上の分割領域における密度×透過長の比を求める。ここでは、例えば、下記式(3)に示す比が得られるものとする。
【0074】
ρ
1t
1:ρ
2t
2:ρ
3t
3=a:b:c …(3)
次に、密度×透過長の比と透過データから透過経路上の密度分布を補正する処理を実施する(処理S2004)。
【0075】
透過データに基づく、透過経路51上における物質透過により減衰した放射線32の強度をI
m、平均密度をρ
mとすると、物質の透過に伴う減衰の上記式(1)は、下記式(4)の形で表される。
【0076】
I
m/I
o=exp(−ρ
m{t
1+t
2+t
3}μ
m) …(4)
なお、減衰のない場合の放射線32の強度I
oについては、
図11に示すように、解体廃棄物102が収納されていない状態で測定して求めることができる。
図11に示す測定体系・条件は、
図10と同じである。この場合、
図10と
図11の違いは、解体廃棄物102の有無だけである。このため、放射線32の減衰は、解体廃棄物102のみによることになり、収納容器101の影響を考慮する必要がない。
【0077】
収納容器101への解体廃棄物102の収納は、収納パターンデータ200に基づき実施されるため、分割領域ごとの密度×透過長の比は維持されていると考えられる。すなわち、各分割領域の補正密度をそれぞれρ
1’、ρ
2’、ρ
3’とすると、補正密度に対する密度×透過長はそれぞれ、以下の式により求められる。
【0078】
ρ
1’t
1=aρ
m{t
1+t
2+t
3}/(a+b+c) …(5)
ρ
2’t
2=bρ
m{t
1+t
2+t
3}/(a+b+c) …(6)
ρ
3’t
3=cρ
m{t
1+t
2+t
3}/(a+b+c) …(7)
ここで、t
1、t
2、t
3は、処理S1002において設定した分割領域サイズであるため、上記式(5)〜(7)からそれぞれ補正密度ρ
1’、ρ
2’、ρ
3’が求められる。
【0079】
処理S2004の後、処理S1006により実際の解体廃棄物に基づいた収納容器101内の密度分布が算出される。
【0080】
以降、放射能濃度分布の評価、結果の出力に至るプロセスは、実施例1と同様である。
【0081】
以上に記載したとおり、本実施例によれば、実際の解体廃棄物の状況を考慮することができ、より高精度に放射能濃度を評価することが可能である。