特許第6751488号(P6751488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6751488コイルばねの加工装置及びコイルばねの加工方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6751488
(24)【登録日】2020年8月18日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】コイルばねの加工装置及びコイルばねの加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21F 35/00 20060101AFI20200824BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20200824BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   B21F35/00 A
   F16F1/02 B
   F16F1/06 A
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-3180(P2020-3180)
(22)【出願日】2020年1月10日
【審査請求日】2020年4月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】尾木 真
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 凌
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】篠原 信一
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−170461(JP,A)
【文献】 実公昭47−006420(JP,Y1)
【文献】 特開2013−220447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21F 35/00
F16F 1/02
F16F 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板、基端が該支持基板の片面に接続された拡径治具、圧入具及び離脱具を備え、
該拡径治具は該基端から先端に向かって外径が漸次低減する円錐台形状部を有し、
該圧入具は、該拡径治具に対して該先端から該基端に向かう作動方向及び該基端から該先端に向かう離脱方向に往復動自在であり、該作動方向に移動される際に該拡径治具の先端部に被嵌されたコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の基端部に移動させて拡径し、
該支持基板には、該拡径治具の該基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通孔が形成されており、
該離脱具は、該支持基板の他面側から該貫通孔を通って該拡径治具の該基端から該先端に向かう作動方向及び該先端から該基端に向かう離脱方向に往復動自在であり、該作動方向に移動する際に、該拡径治具の該基端部に位置するコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の先端部に移動させて該拡径治具から離脱させる、ことを特徴とするコイルばね加工装置。
【請求項2】
該拡径治具の該基端部に移動されたコイルばねは加熱手段によって加熱される、請求項1に記載のコイルばねの加工装置。
【請求項3】
該貫通孔は扇形状であって直径方向に対向して2つ形成されている、請求項1又は2に記載のコイルばねの加工装置。
【請求項4】
該圧入具は、断面が円弧形状であって該作動方向に直線状に延びる複数個の圧入作用片を円筒形状に組み合わせて構成され、該複数個の圧入作用片の夫々の基端部は固定されているが、先端は自由端である、請求項1乃至3のいずれかに記載のコイルばねの加工装置。
【請求項5】
該圧入具の先端部の外周面には弾性リングが配設されている、請求項4に記載のコイルばねの加工装置。
【請求項6】
該圧入具の内側にはコイルスプリングによって該作動方向に付勢された押圧片が配設されている、請求項5に記載のコイルばねの加工装置。
【請求項7】
該圧入具の該先端の内径は、該拡径治具の該先端部の外径よりも大きく且つ該拡径治具の該基端部の外径よりも小さい、請求項4乃至6のいずれかに記載のコイルばねの加工装置。
【請求項8】
該離脱具は、直線状に延びて該貫通孔の断面形状と対応した断面形状を有する離脱作用片を備えており、該離脱具が該作動方向に移動すると、該離脱作用片の先端部が該貫通孔を通過する、請求項1乃至7のいずれかに記載のコイルばねの加工装置。
【請求項9】
該離脱具の外周面には、コイルスプリングが装着されている、請求項1乃至8のいずれかに記載のコイルばねの加工装置。
【請求項10】
該支持基板には該拡径治具が複数設けられており、複数の該拡径治具の夫々に該貫通孔が形成されている、請求項1乃至9のいずれかに記載のコイルばねの加工装置。
【請求項11】
所定搬送方向に沿って該支持基板を該圧入具及び該離脱具に対して移動可能な搬送手段を備えている、請求項1乃至10のいずれかに記載のコイルばねの加工装置。
【請求項12】
支持基板、基端が該支持基板の片面に接続された拡径治具、圧入具及び離脱具を備え、
該支持基板には、該拡径治具の該基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通孔が形成されており、
該拡径治具は該基端から先端に向かって外径が漸次低減する円錐台形状部を有し、
該圧入具は、該拡径治具に対して該先端から該基端に向かう作動方向及び該基端から該先端に向かう離脱方向に往復動自在であり、
該離脱具は、該拡径治具に対して該基端から該先端に向かう作動方向及び該先端から該基端に向かう離脱方向に往復動自在である装置を用いたコイルばねの加工方法であって、
該圧入具が該作動方向に移動することで、該圧入具の先端が該拡径治具の先端部に被嵌されたコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の基端部に移動させて拡径させる圧入工程と、
該圧入工程の後に該離脱具が該作動方向に移動することで、該離脱具の先端が該支持基板の他面側から該貫通孔を通って該拡径治具の該基端部に位置するコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の先端部に移動させて該拡径治具から離脱させる離脱工程とを含む、ことを特徴とするコイルばねの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルばねを一時的に拡径させる加工処理を行うための加工装置及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コイルばねを製造する工程においては、コイルばねの所謂へたりを防止することを目的として「セッチング」と呼ばれる加工処理が行われている。かかる加工処理は、コイルばねを一時的に拡径させるものであって、冷間(常温)若しくは温間(例えば200乃至400度)で行われる。コイルばねをセッチングするための加工装置としては、下記特許文献1に開示されている形態の加工装置が存在する。
【0003】
下記特許文献1に開示されているコイルばねの加工装置は、基端から先端に向かって外径が漸次低減する円錐台形状部を備えた拡径治具と、この拡径治具の両端部に配置されたカラーとを備えている。拡径治具の両端部には小径円柱形状部及び大径円柱形状部が設けられており、小径円柱形状部と円錐台形上部と大円柱形状部とは軸方向に直列に接続されている。コイルばねは、最初に小円柱形状部に被嵌され、次いで小円柱形状部側に位置するカラーが大円柱形状部に向かって移動することでこれに当接してこれと共に大円柱形状部に移動せしめられる。コイルばねは円錐台形上部を通過する際に拡径せしめられ、大径円柱形状部においてその外周面に密着せしめられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−170461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、特許文献1には必ずしも拡径治具の大径円柱形状部の外周面に密着せしめられたコイルばねを拡径治具から離脱させるための具体的な手段については開示されておらず、多数のコイルばねを連続して効率的に上述した加工処理を行うことができない。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、拡径治具に拡径されて密着せしめられたコイルばねを拡径治具から離脱させるための具体的な加工方法を提案すると共に、かかる加工方法を用いて多数のコイルばねに連続して所要とおりの加工処理を遂行することが可能な加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、支持基板の片面に拡径治具の基端を接続すると共に、支持基板には拡径治具の基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通穴を形成し、離脱具が支持基板の他面側から貫通穴を通って拡径治具の基端から先端に向かう方向に移動する際に、拡径治具の基端部に位置するコイルばねに当接してコイルばねを拡径治具の先端部に向かって移動させることで、上記主たる技術的課題を達成することを見出した。
【0008】
即ち、本発明の第一の局面によれば、上記主たる技術的課題を解決するためのコイルばねの加工装置として、支持基板、基端が該支持基板の片面に接続された拡径治具、圧入具及び離脱具を備え、
該拡径治具は該基端から先端に向かって外径が漸次低減する円錐台形状部を有し、
該圧入具は、該拡径治具に対して該先端から該基端に向かう作動方向及び該基端から該先端に向かう離脱方向に往復動自在であり、該作動方向に移動される際に該拡径治具の先端部に被嵌されたコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の基端部に移動させて拡径し、
該支持基板には、該拡径治具の該基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通孔が形成されており、
該離脱具は、該支持基板の他面側から該貫通孔を通って該拡径治具の該基端から該先端に向かう作動方向及び該先端から該基端に向かう離脱方向に往復動自在であり、該作動方向に移動する際に、該拡径治具の該基端部に位置するコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の先端部に移動させて該拡径治具から離脱させる、ことを特徴とするコイルばね加工装置が提供される。
【0009】
好ましくは、該拡径治具の該基端部に移動されたコイルばねは加熱手段によって加熱される。該貫通孔は扇形状であって直径方向に対向して2つ形成されているのが好適である。該圧入具は、断面が円弧形状であって該作動方向に直線状に延びる複数個の圧入作用片を円筒形状に組み合わせて構成され、該複数個の圧入作用片の夫々の基端部は固定されているが、先端は自由端であるのが好ましい。この場合には、該圧入具の先端部の外周面には弾性リングが配設されているのがよい。また、該圧入具の内側にはコイルスプリングによって該作動方向に付勢された押圧片が配設されているのが好ましい。更に、該圧入具の該先端の内径は、該拡径治具の該先端部の外径よりも大きく且つ該拡径治具の該基端部の外径よりも小さいのが好都合である。好適には、該離脱具は、直線状に延びて該貫通孔の断面形状と対応した断面形状を有する離脱作用片を備えており、該離脱具が該作動方向に移動すると、該離脱作用片の先端部が該貫通孔を通過する。好ましくは、該離脱具の外周面には、コイルスプリングが装着されている。該支持基板には該拡径治具が複数設けられており、複数の該拡径治具の夫々に該貫通孔が形成されているのが好適である。所定搬送方向に沿って該支持基板を該圧入具及び該離脱具に対して移動可能な搬送手段を備えているのがよい。
【0010】
また、本発明の第二の局面によれば、支持基板、基端が該支持基板の片面に接続された拡径治具、圧入具及び離脱具を備え、
該支持基板には、該拡径治具の該基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通孔が形成されており、
該拡径治具は該基端から先端に向かって外径が漸次低減する円錐台形状部を有し、
該圧入具は、該拡径治具に対して該先端から該基端に向かう作動方向及び該基端から該先端に向かう離脱方向に往復動自在であり、
該離脱具は、該拡径治具に対して該基端から該先端に向かう作動方向及び該先端から該基端に向かう離脱方向に往復動自在である装置を用いたコイルばねの加工方法であって、
該圧入具が該作動方向に移動することで、該圧入具の先端が該拡径治具の先端部に被嵌されたコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の基端部に移動させて拡径させる圧入工程と、
該圧入工程の後に該離脱具が該作動方向に移動することで、該離脱具の先端が該支持基板の他面側から該貫通孔を通って該拡径治具の該基端部に位置するコイルばねに当接してコイルばねを該拡径治具の先端部に移動させて該拡径治具から離脱させる離脱工程とを含む、ことを特徴とするコイルばねの加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコイルばねの加工装置においては、拡径治具の基端が支持基板の片側に接続され、支持基板には拡径治具の基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通穴が形成されており、(1)圧入具が拡径治具に対してその先端から基端に向かう作動方向に移動する際に、拡径治具の先端部に被嵌されたコイルばねに当接してこれを拡径治具の基端部に移動させて拡径し、(2)離脱具が支持基板の他面側から貫通穴を通って拡径治具の基端から先端に向かう方向に移動する際に、離脱具が拡径治具の基端部に位置するコイルばねに当接してこれを拡径治具の先端部に移動させて拡径治具から離脱させる。このことから、上記(1)及び(2)を交互に繰り返すことで多数のコイルばねを連続して効率的に所要とおりの加工処理を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に従って構成されたコイルばねの加工装置の好適実施形態の簡略斜視図。
図2図1に示すコイルばねの加工装置において、圧入具が設けられた部分の正面図。
図3図2に示す部分の右側面図。
図4図1に示すコイルばねの加工装置において、離脱具が設けられた部分の正面図。
図5図4に示す部分の右側面図。
図6-1】図1に示すコイルばねの加工装置における、拡径治具が接続された支持基板を支持基板の片面側から見た斜視図。
図6-2】図1に示すコイルばねの加工装置における、拡径治具が接続された支持基板を支持基板の他面側から見た斜視図。
図6-3】図1に示すコイルばねの加工装置における、拡径治具が接続された支持基板を単体で示す図。
図7-1】図1に示すコイルばねの加工装置における、圧入具を単体で示す斜視図。
図7-2】図7−1に示す圧入具の内部構造を示す斜視図。
図7-3】図7−1に示す圧入具を平面的に示す図。
図8-1】図1に示すコイルばねの加工装置における、離脱具を単体で示す斜視図。
図8-2】図8−1に示す離脱具を平面的に示す図。
図8-3】図8−1に示す離脱具にコイルスプリングが装着された状態の斜視図。
図9-1】図1に示すコイルばねの加工装置を用いて、拡径治具にコイルばねを圧入する工程を説明するための簡略模式図。
図9-2】図9−1の後にコイルばねを拡径治具から離脱させる工程を説明するための簡略模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に従って構成されたコイルばねの加工装置及び加工方法の好適実施形態について、更に詳述する。
【0014】
図1に示すとおり、全体が番号2で示される本発明に従って構成されたコイルばねの加工装置は、支持基板4、拡径治具6、圧入具8及び離脱具10を備えている。図示の実施形態においては、圧入具8及び離脱具10は床面12に設置された後述する搬送レール30に沿って直列に配置されている。
【0015】
図6−1乃至図6−3を参照して説明すると、支持基板4は全体的に正方形であって、その片面14には拡径治具6の基端が接続されている。支持基板4には、拡径治具6の基端の外周に沿って片面14から他面16に貫通する少なくとも1個の貫通孔18が形成されている(図1においては、貫通孔18は省略されている)。図示の実施形態においては、支持基板4には9個の拡径治具6が3行3列の格子状に間隔をおいて設けられており、9個の拡径治具6の夫々に貫通孔18が形成されている。貫通孔18はいずれも扇形状であり、平面視において直径方向に対向して2つずつ形成されている。図6−3下段図を参照して説明すると、断面が扇形状である貫通孔18の内周面のうち、周方向両側面及び径方向外側面はいずれも他面16から片面14に向かって垂直に延出しているが、径方向内側面は他面16から片面14に向かって径方向外側に傾斜して延出しており、かかる面は離脱具案内面20をなしている(図6−1及び6−2も参照されたい)。図6−1を参照することによって理解されるとおり、かかる離脱具案内面20は片面14において拡径治具6の基端に接続されている。支持基板4には、その片面14から他面16に貫通する小孔21も形成されている。小孔21は支持基板4に間隔をおいて多数設けられており、これらは支持基板4を後述する搬送テーブルに載置する際の位置合わせのために用いられる。
【0016】
拡径治具6は支持基板4の片面14に接続された基端から図6−3の中段図において上方に延びる断面円形の軸状部材であって、基端から先端に向かって外径が漸次低減する円錐台形状部22を有している。図示の実施形態においては、拡径治具6には、支持基板4の片面14に接続されて外径が比較的大きく且つ軸方向に一定な基端部24が形成されており、基端部24の上端に円錐台形状部22の基端(下端)が接続されている。基端部24の外径と円錐台形状部22の基端の外径とは同一である。円錐台形状部22の上端には上方に向かって膨出する頂部26も形成されている。拡径治具6は図示しない加熱手段によって少なくともその外周面が加熱されるようにしてもよい。加熱手段は、これが拡径治具6の内部に配設されて拡径治具6をその内側から加熱するものであっても、拡径治具6の外部に配設されて拡径治具6をその外側から加熱するものであってもよい。
【0017】
図示の実施形態においては、支持基板4及び拡径治具6は共に金属製であってこれらは各別に成形された後に適宜の固定方法によって固定されているが、所望ならば、これらは適宜の金属加工方法によって一体で成形されてもよい。なお、図示の実施形態においては、支持基板4は金属製であるが、これは合成樹脂製であってもよい。
【0018】
図1を参照して説明すると、拡径治具6が接続された支持基板4は搬送手段28によって圧入具8及び離脱具10に対し所定搬送方向(同図において矢印で示す方向)に移動自在である。搬送手段28は、床面12に配設された搬送レール30と、搬送レール30上をこれに沿って移動可能な搬送テーブル32とを備えている。搬送テーブル32は図示しない駆動源によって連続的又は間欠的に移動可能である。拡径治具6が接続された支持基板4は小孔21を用いて搬送テーブル32上の所定位置に直接又は後述する補助台を介して配置される。
【0019】
図1乃至図3を参照して説明すると、図示の実施形態においては、圧入具8はその全体が床面12から上方に離隔した状態で圧入具保持部材34によって保持されている。図7−1乃至図7−3も参照して圧入具8について更に説明を続けると、圧入具8は、断面が円弧形状であって上下方向に直線状に延びる複数個(図示の実施形態においては4個)の圧入作用片36を円筒形状に組み合わせて構成されている。圧入作用片36は金属製であって、その上端部には小孔38が形成されている。圧入作用片36は、小孔38にボルトの如き適宜の固定具を挿通することで、上端部が圧入具保持部材34の一部である接続部40(図7−2及び図7−3において二点鎖線で示す)の外周面に固定され、下端面が床面12と対向する。このことから、圧入作用片36の上端は固定端であるが下端は自由端であって、圧入作用片36の下端部は径方向へ僅かに弾性変形が可能となる。圧入作用片36の下端には径方向内側に延出する扇形状の端板片42が設けられており、複数の圧入作用片36を組み合わせることで、圧入具8の下端には中央に開口が形成された端板44が画成される。圧入具8の内側にはコイルスプリング46によって下方に向かって付勢された押圧片48が配設されている。押圧片48はコイルスプリング46によって上述したとおりに付勢されているものの、端板44によって圧入具8の外方に飛び出すことは規制されている。圧入作用片36の下端部の外周面には周方向に延びる溝50が形成されており、すべての圧入作用片36の溝50には共通の弾性リング52が装着されている。
【0020】
図2及び図3を参照して説明を続けると、図示の実施形態においては、圧入具保持部材34は3個の圧入具8を共通して保持しており、これら3個の圧入具8は支持基板4の片面14に接続された複数個の拡径治具6と対応して1行3列で配列される。つまり、所定の状態においては、3個の圧入具8は同時に3個の拡径治具6と所定搬送方向において整合可能である。圧入具保持部材34は、床面12に配置された支持台54の天板56の下面に接続されており、図示しない駆動源によって上下方向に移動可能である。これにより、圧入具8は、拡径治具6に対して先端から基端に向かう作動方向(同図において実線矢印で示す方向であって、本実施形態においては同図の下方向)及び基端から先端に向かう離脱方向(同図において破線矢印で示す方向であって、本実施形態においては同図の上方向)に往復動自在となる。
【0021】
図1と共に図4及び図5を参照して説明すると、図示の実施形態においては、離脱具10はその全体が床面12から上方に離隔した状態で離脱具保持部材58によって保持されている。図8−1乃至図8−3を参照して離脱具10について更に説明を続けると、離脱具10は、上下方向に延びる一対の離脱作用片60を組み合わせることで構成されている。離脱作用片60は金属製であって、上方の基部62と、基部62の下端から下方に延出する爪部64とに区画される。基部62は全体的に半円筒形状であって、その上端部の周方向中央には小孔66が形成されている。爪部64の断面形状は円弧形状であり、基部62の周方向中央の下面に接続されている。爪部64の周方向角度領域は、基部62の下端に接続される上端部を除いて比較的小さく且つ下方に向かって漸次低減せしめられており、少なくとも下端部は支持基板4に形成された貫通孔18を通過可能である。爪部64は更にその全体が下方に向かって径方向内側に幾分傾斜せしめられている。離脱作用片60は、小孔66にボルトの如き適宜の固定具を挿通することで上端部が離脱具保持部材58の一部である接続部(図示せず)の外周面に固定され、下端面が床面12と対向する。このことから、離脱作用片60の上端は固定端であるが下端は自由端であって、離脱作用片60の下端部は径方向へ僅かに弾性変形が可能である。図示の実施形態においては、離脱具10の外周面には、図8−3に示すように、コイルスプリング68が配設されている。コイルスプリング68の上端部は離脱具10の外周面に固定されているが下端は自由端である。図1図4及び図5においては、コイルスプリング68は省略して示されている。
【0022】
図4及び図5を参照して説明を続けると、図示の実施形態においては、離脱具保持部材58は3個の離脱具10を共通して保持しており、これら3個の離脱具10は支持基板4の片面14に接続された拡径治具6と対応して1行3列で配列される。つまり、所定の状態においては、3個の離脱具10は同時に3個の拡径治具6と所定搬送方向において整合可能である。離脱具保持部材58は床面12に配置された支持台70の天板72の下面に接続されており、図示しない駆動源によって上下方向に移動可能である。これにより、離脱具10は、少なくともその先端が支持基板4の他面16側から貫通孔18を通って拡径治具6の基端から先端に向かう作動方向(同図において実線矢印で示す方向であって、本実施形態においては同図の下方向)及び先端から基端に向かう離脱方向(同図において破線矢印で示す方向であって、本実施形態においては同図の上方向)に往復動自在となる。なお、本実施形態においては、離脱具10が作動する際には、支持基板4は上下反転せしめられているが、これについては後述する。
【0023】
図1を参照して説明すると、図示の実施形態のコイルばねの加工装置2は支持基板反転手段74も備えている。支持基板反転手段74は、所定搬送方向に見て圧入具8と離脱具10との間に設けられている。上下反転せしめられた支持基板4は補助台76によって支持された状態で搬送テーブル32上に配置される。補助台76は略正方形で支持基板4よりも大きい天板78と、この天板78の四隅から下方に垂下する脚80とを備えており、補助台76は搬送テーブル32上の所定位置に配置される。天板78には、図示は省略するが、拡径治具6及び貫通孔18と対応する貫通孔が形成されており、支持基板4の上下を反転せしめてこれが天板78上に支持される際には、拡径治具6は上述した天板78に形成された図示しない貫通孔を通過する。これにより、拡径治具6が接続された支持基板4は図1の下方に示すように補助台76に支持され、支持基板4に形成された貫通孔18が上方に露呈せしめられる。上述した支持基板4の反転操作は人間が手動で行ってもよいし、ロボットアームやその他の機構により自動で行ってもよい。
【0024】
続いて、図1と共に図9−1及び図9−2を参照して、コイルばねの加工装置2を用いてコイルばねsを加工する工程について説明する。線材に適宜の機械加工をすることによって形成されたコイルばねsは、図9−1に示される圧入工程で拡径治具6の基端部24に圧入されて拡径せしめられた後、図9−2に示される離脱工程で拡径治具6から離脱せしめられる。
【0025】
最初に、図9−1(a)に示されるとおり、コイルばねsが拡径治具6の円錐台形状部22の上端部の外周面に被嵌される。コイルばねsが被嵌された拡径治具6は、これの基端が接続された支持基板4と共に搬送テーブル32上の所定位置に配置される(図1も参照されたい)。このとき、圧入具8の下端は拡径治具36の上端よりも上方に位置する。次いで、搬送テーブル32は図1において矢印で示される所定搬送方向(又はその反対方向)に適宜移動した後、所定搬送方向の最前端に位置する3列の拡径治具6が圧入具8と整合する位置で停止する。
【0026】
次いで、図9−1(b)に示されるとおり、圧入具8が降下(つまり同図において実線で示される作動方向に移動)する。圧入具8が降下すると、その下端から拡径治具6が内側に進入し、拡径治具6の円錐台形上部22の上端部に被嵌されたコイルばねsは、圧入具8の下端に設けられた端板44と当接して基端部24まで下方に移動させられる。この際、コイルばねsは円錐台形状部22によって漸次拡径せしめられ、拡径した状態で基端部24の外周面に密着せしめられる。また、自由状態における圧入具8の下端に設けられた端板44の内径は拡径治具6の上端部(少なくとも円錐台形状部22の上端)の外径よりも大きく且つ拡径治具6の基端部24の外径よりも小さいことから、圧入具8が降下する際、その初期においては圧入具8の下端の内周面と拡径治具6の外周面とは水平方向に離隔するが、圧入具8が所定程度降下すると、圧入具8の下端の内周面と拡径治具6の外周面とが当接する。圧入具8の下端の内周面と拡径治具6の外周面とが当接した状態から圧入具8が更に降下すると、圧入作用片36の下端は拡径治具6の外周面に沿って移動し、これによって圧入作用片36の下端部は径方向外方に僅かに弾性変形する。このとき、圧入具8の下端部の外周面には弾性リング52が配設されていることから、圧入作用片36の下端部にはこれを径方向内側に押し付ける力が付与され、圧入具8はその下端がコイルばねsを乗り越えることなく充分確実にこれを拡径治具6の基端部24まで移動させることが可能となる。拡径治具6がその先端から圧入具8の内側に進入する際には更に、拡径治具6の先端はコイルスプリング46によって下方に付勢された押圧片48と当接してこれから下方に作用する反力を受ける。
【0027】
その後、図9−1(c)に示されるとおり、圧入具8は上昇(つまり同図において破線で示される離脱方向に移動)して拡径治具6から離脱せしめられ、拡径治具6の基端部24にはコイルばねsが残留せしめられる。その際、図示の実施形態においては、圧入具8の下端部の外周面には弾性リング52が配設されていることから、圧入具8の下端部が拡径治具6を把持してこれと共にこれの基端が接続された支持基板4を上昇させてしまう虞があるが、拡径治具の6の上端が下方に付勢された押圧片48と当接することで、拡径治具6及び支持基板4の上記上昇は防止される。
【0028】
次いで、搬送テーブル32が所定搬送方向に再び移動した後、所定搬送方向の前方から2番目に位置する3列の拡径治具6が圧入具8と整合する位置で停止し、上述したコイルばねsの一連の圧入工程が実施される。かかる圧入工程は、支持基板4に接続された拡径治具6に被嵌された全てのコイルばねsに対して遂行される。かくして、コイルばねの所謂へたりを防止するセッチング加工が遂行される。ここで、上述した圧入工程は、拡径治具6を上述した図示しない加熱手段によって加熱した状態で実施される場合もある。また、圧入工程が完了した後に拡径治具6が加熱手段によって加熱される場合もある。さらにまた、圧入工程が完了した後に所定時間放置される場合もある。
【0029】
支持基板4に配設された全てのコイルばねsの圧入工程が完了した後、搬送テーブル32は所定搬送方向に再び移動し、支持基板4は支持基板反転手段74によって反転せしめられる。そして、支持基板4は上述したとおり補助台76を介して再び搬送テーブル32上の所定位置に配置される。これにより、支持基板4の他側16の面が上方に露呈される。そして、搬送テーブル32は再び所定搬送方向に移動した後に、図9−2(a)に示すとおり、所定搬送方向の最前端に位置する3列の拡径治具6が離脱具10と整合する位置で停止する。このとき、離脱具10の下端は支持基板4の他側16の面よりも上方に位置する。
【0030】
次いで、図9−2(b)に示されるとおり、離脱具10が降下(つまり同図において実線で示される作動方向に移動)する。離脱具10が降下すると、離脱具10の下端つまり一対の離脱作用片60の各々の爪部64の下端が支持基板4の他面16側から貫通孔18(及び補助台76の天板78に形成されている図示しない貫通孔)を通過して拡径治具6の基端部24の外周面に密着するコイルばねsと当接し、これを下方に強制する。かくして拡径治具6からコイルばねsが離脱される。この際、支持基板4には離脱具案内面20が形成されていることに起因して、離脱具10の下端は支持基板4の貫通孔18に他面16側から円滑に進入することができる。また、一対の離脱作用片60の各々の爪部64は、その全体が下方に向かって径方向内側に傾斜して延びていることに起因し、爪部64の下端部が拡径治具6によって径方向外側に僅かに弾性変形せしめられた場合にはその復元力によって径方向内側に押し付ける力が発生する。これにより、離脱具10はその下端がコイルばねsを乗り越えることなく充分確実にこれを下方に強制することができる。離脱具10が降下すると、コイルスプリング68は支持基板4の他面16と当接して圧縮せしめられるため、離脱具10はコイルスプリング68の弾性反発力に抗して降下する。
【0031】
その後、図9−2(c)に示されるとおり、離脱具10は上昇(つまり同図において破線で示される離脱方向に移動)して拡径治具6から離脱せしめられる。この際、図示の実施形態においては、離脱具10の外周面にはコイルスプリング68が装着されており、圧入具8が上昇するときと同様、離脱具10が拡径治具6を把持して拡径治具6及び支持基板4が上昇することが防止される。
【0032】
次いで、搬送テーブル32が所定搬送方向に再び移動した後、所定搬送方向の前方から2番目に位置する3列の拡径治具6が離脱具10と整合する位置で停止し、上述したコイルばねsの一連の離脱工程が実施される。かかる離脱工程は、支持基板4に接続された拡径治具6の基端部24の外周面に密着された全てのコイルばねsに対して遂行される。かくして、支持基板4に接続された拡径治具6に被嵌された全てのコイルばねsが加工装置2から離脱される。その後に、支持基板4は所定搬送方向を反対側に移動してコイルばねsが拡径治具6に被嵌される前の状態に戻る。一方、拡径治具6から離脱したコイルばねsはホッパーの如き図示しない適宜の収集手段によって収集される。
【0033】
本発明のコイルばねの加工装置においては、拡径治具の基端が支持基板の片側に接続され、支持基板には拡径治具の基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通穴が形成されており、(1)圧入具が拡径治具に対してその先端から基端に向かう作動方向に移動する際に、拡径治具の先端部に被嵌されたコイルばねに当接してこれを拡径治具の基端部に移動させて拡径し、(2)離脱具が支持基板の他面側から貫通穴を通って拡径治具の基端から先端に向かう方向に移動する際に、離脱具が拡径治具の基端部に位置するコイルばねに当接してこれを拡径治具の先端部に移動させて拡径治具から離脱させる。このことから、上記(1)及び(2)を交互に繰り返すことで多数のコイルばねを連続して効率的に所要とおりの加工処理を施すことができる。
【0034】
以上、添付した図面を参照して本発明に従って構成されたコイルばねの加工装置の好適実施形態について詳述したが、本発明は上記コイルばねの加工装置の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の変形例が考えられる。例えば、図示の実施形態においては、拡径治具は上下方向に延び、圧入具及び離脱具は共に上下方向に往復動自在であったが、これに替えて、拡径治具が左右方向に延び、圧入具及び離脱具が共に左右方向に往復動自在であってもよい。
【0035】
また、図示の実施形態においては、圧入具の作動方向(及び離脱方向)と離脱具の作動方向(及び離脱方向)は共に同一方向であったが、これらの方向は相互に反対であってもよい。この場合には、支持基板反転手段を設ける必要はないが、支持基板を支持する板部材(例えば搬送テーブル)にも離脱具の先端が通過する所要とおりの貫通孔を形成する必要がある。
【0036】
また、図示の実施形態において搬送レールは有端であったが、これをベルトコンベアーの如き無端状としてもよく、搬送レールを無端状とした場合には、支持基板を所定搬送方向に沿って連続的に搬送可能であって、より一層効率よくコイルばねを加工することができる。
【0037】
また、図示の実施形態においては、拡径治具は、外径が軸方向に一定の基端部を備えていたが、これは必ずしも必要はなく、拡径治具の全体が円錐台形状部であってもよい。
【0038】
また、図示の実施形態においては、圧入具及び離脱具は床面に設置された搬送レールに沿って直列に配置されていたが、これに替えて、圧入具と離脱具を都度交換するようにすることで、支持基台の移動を省略することもできる。
【符号の説明】
【0039】
2:コイルばねの加工装置
4:支持基板
6:拡径治具
8:圧入具
10:離脱具
12:床面
14:片面
16:他面
18:貫通孔
22:円錐台形状部
36:圧入作用片
60:離脱作用片
s:コイルばね
【要約】
【課題】拡径治具に拡径されて密着せしめられたコイルばねを拡径治具から離脱させるための具体的な加工方法を提案すると共に、かかる加工方法を用いて多数のコイルばねに連続して所要とおりの加工処理を遂行することが可能な加工装置を提供すること。
【解決手段】支持基板4の片面12に拡径治具6の基端を接続すると共に、支持基板4には拡径治具6の基端の外周に沿って少なくとも1個の貫通穴18を形成し、離脱具10が支持基板4の他面16側から貫通穴18を通って拡径治具6の基端から先端に向かう方向に移動する際に、拡径治具6の基端部24に位置するコイルばねに当接してコイルばねを拡径治具24の先端部に向かって移動させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】