【実施例】
【0020】
図1〜
図9は、本発明の実施例を示す。
【0021】
最初に、電極本体について説明する。
【0022】
銅合金製の電極本体1は、円筒状の形状であり、静止部材11に差し込まれる固定部2と、鋼板部品3が載置されるキャップ部4がねじ部5において結合されている。電極本体1の中心軸線は、符号O−Oで示されている。電極本体1には、断面円形のガイド孔6が形成されている。
【0023】
固定部2の下部にテーパ部12が形成され、このテーパ部12が静止部材11に設けたテーパ孔に嵌入されるようになっている。固定部2の側部に、冷却用の圧縮空気をガイド孔6に導入する通気口13が設けてある。
【0024】
電極本体1は固定電極であり、それに対する可動電極は符号24で示されている。
【0025】
つぎに、摺動部材について説明する。
【0026】
摺動部材15は、ガイドピン16がインサートされているインサート部17と、インサート部17に連続している円筒状の延長部18と、インサート部17と延長部18の境界部に形成されているとともに、ガイドピン16の端面19が密着している断熱部20によって構成されている。
【0027】
ガイドピン16は、ステンレス鋼のような金属材料またはセラミック材料等の耐熱硬質材料で構成されている。摺動部材15は、耐熱性に優れた絶縁性合成樹脂、例えば、射出成型に適したPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂によって構成されている。ガイドピン16は、摺動部材15を射出成型で成型する際に、摺動部材15に挿入された状態となる。
【0028】
ガイドピン16と摺動部材15は、いずれも断面円形であり、ガイドピン16は、キャップ部4に設けた通孔8および鋼板部品3の下孔7を相対的に貫通して、鋼板部品3の位置決め機能を果たし、その先端部に嵌め合わされた鉄製のプロジェクションナット9を支持している。そのために、プロジェクションナット9のねじ孔に合致する小径部10が形成されている。
【0029】
以下の説明において、プロジェクションナットを単にナットと表現する場合もある。
【0030】
図6に示すように、インサート部17は、摺動部材15の上端からガイドピン16の下端までの区間Aに相当する摺動部材15の部分である。延長部18は、インサート部17に連続している円筒状の部分であり、後述の断熱部20の下端面から延長部18の下端までの区間Bに相当する摺動部材15の部分である。断熱部20は、ガイドピン16の下端部、すなわち端面19から延長部18の天井面21までの区間Cに相当する摺動部材15の部分である。この断熱部20は、インサート部17の底部材に相当している。
【0031】
ガイドピン16が摺動部材15に挿入された状態で一体化された、複合構造物が形成されている。この一体化は、摺動部材15を射出成型によって成型するときになされる。射出成型機の金型空間内に突き出た状態でガイドピン16を保持し、金型空間に溶融状態の合成樹脂を注入してガイドピン16が鋳込まれた状態になる。つまり、一般的に採用されているインサート成型である。この合成樹脂は、前述のPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂である。
【0032】
上記鋳込まれたガイドピン16と、摺動部材15の一体性をより強固なものとするために、摺動部材15にインサートされるガイドピン16の表面に、微細な凹凸形状部14が形成されている。この凹凸形状部14は、ガイドピン16の表面に化学処理をしたり、塑性変形を付与したりして求めることができる。
【0033】
ここでは、後者の塑性変形であり、ローレット加工である。回転式金型の表面に微細な凹凸が形成され、これをガイドピン16の表面に押し付けて回転させ、塑性変形による凹凸形状がえられる。この凹凸形状は、
図5などに示すように、傾斜方向の平行な溝をクロスした状態でガイドピン表面に形成し、手で触るとざらざらした感触である。射出成型が完了すると、
図4に示すように、凹凸部の突部や谷部の隅々に合成樹脂が行きわたって、ガイドピン16と摺動部材15の一体化がなされている。
【0034】
金型にガイドピン16をセットするときには、凹凸形状部14が金型空間に露出した状態とされ、これによって凹凸形状部14が合成樹脂で鋳込まれるようになる。
【0035】
摺動部材15は、ガイド孔6内に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込んである。通気孔13から入ってきた冷却空気を摺動部材15に沿って流通させるために、空気通路22が形成してある。空気通路22は、摺動部材15の外周面に平面部23を形成して、中心軸線O−O方向に形成してある。平面部23に相当する金型形状が定められており、平面部23は、射出成型時に型成型で求められる。
【0036】
図3に示すように、摺動部材15の4箇所に空気通路22が形成してあるので、空気通路22以外の4箇所に円筒面32が存置され、これがガイド孔6の内面に対してほぼ隙間のない状態で摺動する。なお、摺動部材15は、可動電極24が進出動作をして、溶接電流が通電されたときに、電流がナット9の溶着用突起46から鋼板部品3にのみ流れるように、絶縁機能を果たしている。
【0037】
ガイドピン16が通孔8を貫通している箇所において、通孔8とガイドピン16の間に空隙26が形成され、冷却空気の空気通路となっている。
【0038】
ガイドピン16は、摺動部材15に挿入された状態で一体化され、通孔8および下孔7を貫通して鋼板部品3の上側に突き出ており、この突き出た箇所にナット9を保持している。
【0039】
摺動部材15とガイド孔6の内底面の間に圧縮コイルスプリング27が嵌め込まれており、その張力が摺動部材15に作用している。摺動部材15の下側には、圧縮コイルスプリング27を受け入れる円形の開口部28が形成されている。符号29は、ガイド孔6の内底面に嵌め込んだ絶縁シートである。また、圧縮コイルスプリング27の張力に換えて、通気口13から導入した空気圧を利用することも可能である。
【0040】
つぎに、開閉弁構造部について説明する。
【0041】
開閉弁構造部43は、通気口13から導入された冷却空気を空隙26へ流すか、あるいは空隙26への流通を封鎖するかどうかを行うもので、開閉弁機能を果たしている。開閉弁構造部43は、ガイド孔6の内端面44に対して、摺動部材15の端面45が密着して冷却空気流を遮断したり、端面45が内端面44から離れて冷却空気を流したりしている。このように両面44、45を確実に密着させて気密性を維持するために、両面44、45は、中心軸線O−Oが垂直に交差している仮想平面上に存在している。
【0042】
摺動部材15の上側端面が、摺動部材15側の密着面(端面45)を構成しており、この密着面は上述のように、中心軸線O−Oが垂直に交差する仮想平面上に存在している。
【0043】
両面44、45の密着は、圧縮コイルスプリング27の張力で行われており、密着状態では、溶着用突起46と鋼板部品3の間に空隙Lが付与してある。
【0044】
可動電極24の進出によって、圧縮コイルスプリング27を押し縮めながらガイドピン16が押し下げられると、開閉弁構造部43が開いて、空気流通の空隙が形成される。これと同時に、溶着用突起46が鋼板部品3に加圧され、溶接電流が通電される。上記のガイドピン16の押し下げにより、通気口13から送り込まれた冷却空気が、ガイド孔6、空気通路22、開通した開閉弁構造部43、空隙26、下孔7を経て流通し、ナット9の溶着部の冷却や、スパッタの進入防止がなされる。
【0045】
つぎに、インサート部と延長部の厚さについて説明する。
【0046】
電極の直径方向で見たインサート部17の厚さT1は、
図6に示すように、ガイドピン16と摺動部材15の結合剛性を適正に維持できる値に設定してある。厚さT1は、熱膨張の観点からすると、厚すぎるのであるが、ガイドピン16と摺動部材15の結合剛性を適正に維持することを主眼にして、厚く設定されている。後述するが、このために、インサート部17の熱膨張量が大きくなり、摩耗量も増大する。
【0047】
延長部18の厚さT2は、熱膨張時に直径方向に働く力の強さを低減することを意図して設定してあり、インサート部17の厚さT1よりも薄く設定してある。
図7から明らかなように、平面部23を形成することによって、空気通路22がガイド孔6の内面との間に形成されるとともに、延長部18に薄肉変形部30が形成されている。
【0048】
延長部18が加熱されたときに、薄肉変形部30が形成されていない非薄肉変形部31の円周方向の膨張力が、矢線33で示すように、非薄肉変形部31に発生する。この矢線33で示す円弧状の膨張力が薄肉変形部30の両側に作用して、薄肉変形部30の表面、すなわち上記平面部23が空気通路22内へ膨出する。このような膨出によって、延長部18がガイド孔6の内面を押す力が小量化される。したがって、熱膨張時の延長部18におけるガイド孔6の内面に対する加圧力が、熱膨張時のインサート部17におけるガイド孔6の内面に対する加圧力よりも小さくなる。
【0049】
このため、延長部18における摺動摩耗量がインサート部17における摺動摩耗量よりも大幅に低減する。薄肉変形部30の表面が膨らんで張り出した形状が、2点鎖線で示した膨張線34で示されている。膨張線34で示された緩やかなほぼ円筒状の膨らみは、中心軸線O−O方向に連続した状態になっている。
【0050】
延長部18が膨張すると、非薄肉変形部31において直径方向に作用する力が矢線35のように、ガイド孔6の内面に対して作用する。このような矢線35で示される力成分は、薄肉変形部30が形成されていない非薄肉変形部31の円周方向の膨張力(矢線33)に変換される。この矢線33で示す円周方向の力が非薄肉変形部31から薄肉変形部30の両側に作用して、薄肉変形部30の表面(平面部23)が空気通路22の空間側へ膨らんだ状態で張り出した変形を行う。すなわち、膨張線34のような形状となる。熱膨張で延長部18がガイド孔6の内面を押し付ける力は、薄肉変形部30の空気通路22への張り出し変形のために変換あるいは分散した状態になるので、インサート部17のそれよりも大幅に小さなものとなる。
【0051】
可動電極24によって加圧が繰り返されるので、摺動部材15が新品の間は、摺動部材15の全長域にわたって摺動摩耗が進行するが、延長部18においては膨張量が少ないので、摺動回数の少ない早い時期に摺動摩耗が進行しなくなる。しかし、インサート部17においてはその肉厚が大きく、膨張量が
図6に符号37で示すように、大きくなっているので、可動電極24による摺動回数が増大しても摺動摩耗が継続する。つまり、インサート部17は延長部18よりも肉厚が大きいので、ガイド孔6の内面を加圧する期間が長期化され、摺動摩耗が長期にわたって継続し、摩耗量は延長部18よりも遥かに多くなる。このような状態で摺動部材15が溶接稼働の停止で常温に戻ったり、溶接回数が低減したりすると、温度が低下して摺動部材15の収縮し、
図9に示すように、インサート部17の直径が延長部18の直径よりも小さくなる。
【0052】
このようなガイド孔6の内面に対する加圧力が、インサート部17において大きく現れ、延長部18において小さく現れるので、延長部18の摺動摩耗量はインサート部17の摺動摩耗量はよりもはるかに小さな値となる。
【0053】
さらに、
図6に示すように、延長部18が膨張すると、その内側には2点鎖線で示すように、内向き膨張部36が形成される。この内向き膨張部36は、延長部18の端部に向かって次第に大きくなっている。延長部18は、インサート部17よりも薄肉とされているので、このような内向きの膨張現象がえられて、延長部18のガイド孔6の内面に対する加圧力が一層低減される。なお、内向き膨張部36は理解しやすくするために、誇張して図示されている。
【0054】
つぎに、ガイドピンの揺動について説明する。
【0055】
図6に2点鎖線で示すように、インサート部17の膨張量の大きな膨張部37によって、この部分の摺動摩耗量が増大する。一方、延長部18には、延長部18の小さな膨張量によってほとんど目視できないような摺動摩耗量が形成される。稼働停止による常温化や溶接回数減少による低温化によって、摺動部材15が収縮したときには、インサート部17と延長部18の外形状態が、
図9に示されている。延長部18とガイド孔6の内面との間の間隙はほとんどゼロに近く、隙間のない状態で擦れている。したがって、中心軸線O−Oに対するガイドピン16の傾き角度θ1はごく微量なものとなっている。
【0056】
延長部18の下端片側は、接点39においてガイド孔6の内面に点接触をし、延長部18の上端他側は、接点40においてガイド孔6の内面に点接触をしている。このとき、インサート部17の上端はガイド孔6との間に空隙があり、ガイド孔6の内面には接触していない。
【0057】
他方、前述のように、すなわち特許文献1記載の発明のように、摺動部材15の厚さが全長にわたって均一に維持されているために、摺動部材15が加熱されて膨張すると、膨張量は一層増大し、そのために電極本体1のガイド孔6の内面に対して、摺動部材15が全長にわたって一層強く加圧される。このような増大した膨張量のもとで強制的に摺動すると、摺動摩耗量が多くなり、摺動部材15が常温に戻ったり、溶接回数減少による低温化が生じたりすると、摺動部材15とガイド孔6の間の隙間が過大になる。
【0058】
摺動部材15全域にわたって過大隙間になるので、電極の中心軸線O−Oに対する摺動部材15やガイドピン16の傾きが大きく現れる。符号41は、ガイド孔6の内面に対する下側の接点であり、符号42は、ガイド孔6の内面に対する上側の接点を示す。この傾き角度は、
図10においてθ2で示されている。したがって、鋼板部品3の下孔7にガイドピン16が強く接触したりして、鋼板部品3と電極本体1の相対位置に大きな狂いが発生し、溶接精度向上にとって不都合なこととなる。
【0059】
つぎに、変形例を説明する。
【0060】
図8に示した変形例は、ガイドピン16がプロジェクションボルト47に対応したものである。プロジェクションボルト47は、雄ねじが切られた軸部48と、それと一体に形成されている円形のフランジ49と、フランジ49の下面に形成された溶着用突起50によって構成されている。ガイドピン16は、軸部48を挿入するために、受入孔51が形成された中空ピンの形状とされている。以下の説明において、プロジェクションボルトを単にボルトと表現する場合もある。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の事例と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。摺動部材15の熱膨張や摺動摩耗なども、先の事例と同じである。
【0061】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0062】
鋼板部品3にナット9やボルト47を電気抵抗溶接で溶接するときの溶融熱は、鋼板部品3から電極本体1を経て摺動部材15に伝熱されるのと同時に、ガイドピン16から摺動部材15に伝熱される。摺動部材15への伝熱状態は、ガイドピン16がインサートされているインサート部17から、インサート部17に連続している円筒状の延長部18に及ぶのであるが、電極の中心軸線O−O方向で見た温度分布は、インサート部17が溶融部位に近いこともあって、インサート部17の方が延長部18よりも高温となる。
【0063】
インサート部17においては、中心側にガイドピン16が存在しているので、熱膨張時のインサート部17における直径方向の力は、ガイド孔6の内面に対して強く作用する。さらに、ガイドピン16自体の膨張が加算されるので、ガイド孔6の内面への加圧力が高くなる。そして、インサート部17においては、ガイドピン16からも受熱する。
【0064】
上述のような加熱現象により、インサート部17では電極の使用時と非使用時における温度の高低差が大きくなり、インサート部17の伸縮量も大きくなる。このような環境におかれたインサート部17の摩耗は、大きな摩耗量となる。
【0065】
延長部18は円筒状とされ、内部が空間とされている。これに加えて、インサート部17と延長部18の境界部に形成されているとともに、ガイドピン16の端面19が密着している断熱部20が配置してあるので、延長部18への伝熱量はインサート部17への伝熱量よりも少なくなる。
【0066】
本実施例においては、ガイドピン16の直径方向で見た延長部18の厚さT2は、インサート部17の厚さT1よりも薄く成型されている。このような薄い延長部18に加えて、空気通路22用の平面部23を摺動部材15に設けて、さらに薄い薄肉変形部30が形成されている。したがって、延長部18が加熱されたときに、薄肉変形部30が形成されていない非薄肉変形部31の円周方向の膨張力が薄肉変形部30の両側から作用して、薄肉変形部30の表面23が空気通路22内へ膨出し、熱膨張時の延長部18におけるガイド孔6の内面に対する加圧力が、熱膨張時のインサート部17におけるガイド孔6の内面に対する加圧力よりも小さくなる。このため、延長部18における摺動摩耗量がインサート部17における摺動摩耗量よりも大幅に少なくなる。
【0067】
延長部18が膨張すると、非薄肉変形部31において直径方向に作用する力35が、ガイド孔6の内面に対して作用する。このような力成分35は、非薄肉変形部31の円周方向の膨張力に変換される。非薄肉変形部31の円周方向の膨張力が薄肉変形部30の両側から作用して、薄肉変形部30の表面23が空気通路22の空間側へ膨らんだ状態で張り出した変形を行う。熱膨張で延長部18をガイド孔6の内面に押し付ける力35は、薄肉変形部30の空気通路22への張り出し変形のために分散した状態になるので、インサート部17よりも大幅に小さなものとなる。
【0068】
上述のような現象から、インサート部17において摩耗が進行しても、延長部18における摩耗がわずかな量となるか、あるいは実質的に摩耗ゼロとなる。操業停止などで摺動部材15が常温に戻ったり、溶接回数減少による低温化になったりして摺動部材15が収縮しても、インサート部17とガイド孔6の間の隙間は大きく存在するが、延長部18とガイド孔6の間の隙間はごくわずかか、あるいは実質的に存在しない状態になる。
【0069】
したがって、摺動部材15全域にわたる摩耗が進行することが防止され、延長部18における正常摺動が維持されて、異常な大きさのガイドピン16の傾斜が防止される。つまり、特許文献1記載の発明のように、摺動部材15全域が異常に多く摩耗をして、常温時や溶接回数減少時に摺動部材15全体とガイド孔6との間に大きな隙間ができて、摺動部材15やガイドピン16の傾斜が大きく現れることが防止される。上記のように延長部18における正常摺動が維持されているので、摺動部材15やガイドピン16の傾斜が小さくなる。このようにしてガイドピン16の揺動方向の位置ずれが少なくなるので、ガイドピン16と鋼板部品3の相対位置の狂いが許容範囲内に収まり、溶接品質の向上にとって有効なものとなる。
【0070】
上述のように、インサート部17の熱伸縮量は大きく現れるのであるが、微細な凹凸形状部14に合成樹脂材料が食い込んでいるので、インサート部17におけるガイドピン16と合成樹脂材料の一体性は確実に維持できる。