特許第6751569号(P6751569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6751569有価書類識別装置、有価書類処理機、画像センサユニット及び光学可変素子領域の検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751569
(24)【登録日】2020年8月19日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】有価書類識別装置、有価書類処理機、画像センサユニット及び光学可変素子領域の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G07D 7/12 20160101AFI20200831BHJP
   G07D 7/20 20160101ALI20200831BHJP
【FI】
   G07D7/12
   G07D7/20
【請求項の数】19
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-32543(P2016-32543)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-151654(P2017-151654A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001432
【氏名又は名称】グローリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋岡 史哲
(72)【発明者】
【氏名】柳内 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】坊垣 晶
(72)【発明者】
【氏名】森本 高明
【審査官】 木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−521050(JP,A)
【文献】 特開2009−157504(JP,A)
【文献】 特開2013−020540(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103018243(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0129282(US,A1)
【文献】 特開2006−133054(JP,A)
【文献】 特開平08−153233(JP,A)
【文献】 特開2007−249656(JP,A)
【文献】 特開2008−257395(JP,A)
【文献】 特開2007−325050(JP,A)
【文献】 特開2011−107512(JP,A)
【文献】 特開2010−277252(JP,A)
【文献】 特開2006−146321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 1/00−13/00
G07F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学可変素子領域を有する有価書類の真偽を識別する有価書類識別装置であって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第一光源と、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第二光源と、
前記光学可変素子領域から反射された光を第三の方向から受光する受光部と、
前記第一光源の反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二光源の反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定部と、を備え、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第三の角度は25°以上、90°未満であり、
前記有価書類は、前記光学可変素子領域として、光学可変インク領域及びホログラム領域を有し、
前記判定部は、前記有価書類の種類を判定し、判定された種類の有価書類に関する情報から前記光学可変インク領域の位置と前記ホログラム領域の位置とを特定し、前記光学可変インク領域では前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間の色の違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定し、かつ、前記ホログラム領域では前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間における色、輝度及び形状の少なくとも1つの違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定する有価書類識別装置。
【請求項2】
光学可変素子領域を有する有価書類の真偽を識別する有価書類識別装置であって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第一光源と、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第二光源と、
前記第一光源及び前記第二光源から照射されて前記光学可変素子領域で第三の方向に反射された光を前記第三の方向から受光する受光部と、
前記第一光源の反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二光源の反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定部と、を備え、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第三の角度は25°以上、90°未満であり、
前記第一の角度は、前記第三の角度より小さく、
前記第二の角度は、前記第三の角度より大きい有価書類識別装置。
【請求項3】
前記第三の角度は、60°以下である請求項1又は2に記載の有価書類識別装置。
【請求項4】
前記第三の角度は、55°以下である請求項記載の有価書類識別装置。
【請求項5】
前記第一の角度は、−10°〜20°であり、
前記第二の角度は、40°〜70°である請求項1〜のいずれかに記載の有価書類識別装置。
【請求項6】
前記第一の角度は、−5°〜15°であり、
前記第二の角度は、45°〜65°である請求項記載の有価書類識別装置。
【請求項7】
光学可変素子領域を有する有価書類の真偽を識別する有価書類識別装置であって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第一光源と、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第二光源と、
前記第一光源及び前記第二光源から照射されて前記光学可変素子領域で第三の方向に反射された光を前記第三の方向から受光する受光部と、
前記第一光源の反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二光源の反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定部と、を備え、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第一の角度は、−5°〜15°であり、
前記第二の角度は、40°〜60°であり、
前記第三の角度は、50°〜60°である有価書類識別装置。
【請求項8】
前記光学可変素子領域は、光干渉構造及び光回折構造の少なくとも一方を有する請求項1〜7のいずれかに記載の有価書類識別装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間の色の違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定する請求項2〜8のいずれかに記載の有価書類識別装置。
【請求項10】
前記受光部は、前記有価書類を直線状に撮像するラインセンサを備え、
前記第一光源及び前記第二の光源はそれぞれ、前記ラインセンサによる直線状の被撮像領域に光を照射する請求項1〜のいずれかに記載の有価書類識別装置。
【請求項11】
前記受光部は、前記第一光源及び前記第二光源から照射されて、前記光学可変素子領域で反射された光を受光し、
前記第一の角度、前記第二の角度及び前記第三の角度は、前記直線状の被撮像領域に直交する基準面上における角度であり、
前記第一の角度は、前記第三の角度より小さく、
前記第二の角度は、前記第三の角度より大きい請求項10記載の有価書類識別装置。
【請求項12】
前記有価書類を搬送させる搬送機構を更に備える請求項1〜11のいずれかに記載の有価書類識別装置。
【請求項13】
前記判定部は、前記第一反射光情報に基づく第一画像の色と、前記第二反射光情報に基づく第二画像の色とを比較して前記有価書類の真偽を判定する請求項1〜12のいずれかに記載の有価書類識別装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の有価書類識別装置を備える有価書類処理機。
【請求項15】
有価書類の光学可変素子領域の検出方法であって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第一読取ステップと、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第二読取ステップと、
前記第一読取ステップでの反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二読取ステップでの反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定ステップと、を含み、
前記第一読取ステップ及び前記第二読取ステップでは、前記光学可変素子領域から反射された光を第三の方向から受光し、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第三の角度は25°以上、90°未満であり、
前記有価書類は、前記光学可変素子領域として、光学可変インク領域及びホログラム領域を有し、
前記判定ステップでは、前記有価書類の種類を判定し、判定された種類の有価書類に関する情報から前記光学可変インク領域の位置と前記ホログラム領域の位置とを特定し、前記光学可変インク領域では前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間の色の違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定し、かつ、前記ホログラム領域では前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間における色、輝度及び形状の少なくとも1つの違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定する光学可変素子領域の検出方法。
【請求項16】
有価書類の光学可変素子領域の検出方法であって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第一読取ステップと、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第二読取ステップと、
前記第一読取ステップでの反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二読取ステップでの反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定ステップと、を含み、
前記第一読取ステップ及び前記第二読取ステップでは、前記第一の方向及び前記第二の方向から照射されて前記光学可変素子領域で第三の方向に反射された光を前記第三の方向から受光し、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第三の角度は25°以上、90°未満であり、
前記第一の角度は、前記第三の角度より小さく、
前記第二の角度は、前記第三の角度より大きい光学可変素子領域の検出方法。
【請求項17】
有価書類の光学可変素子領域の検出方法であって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第一読取ステップと、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第二読取ステップと、
前記第一読取ステップでの反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二読取ステップでの反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定ステップと、を含み、
前記第一読取ステップ及び前記第二読取ステップでは、前記第一の方向及び前記第二の方向から照射されて前記光学可変素子領域で第三の方向に反射された光を前記第三の方向から受光し、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第一の角度は、−5°〜15°であり、
前記第二の角度は、40°〜60°であり、
前記第三の角度は、50°〜60°である光学可変素子領域の検出方法。
【請求項18】
有価書類の光学可変素子領域を検出するための画像センサユニットであって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第一光源と、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第二光源と、
前記第一光源及び前記第二光源から照射されて前記光学可変素子領域で第三の方向に反射された光を前記第三の方向から受光する受光部と、を備え、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第三の角度は25°以上、90°未満であり、
前記第一の角度は、前記第三の角度より小さく、
前記第二の角度は、前記第三の角度より大きい画像センサユニット。
【請求項19】
有価書類の光学可変素子領域を検出するための画像センサユニットであって、
第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第一光源と、
第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第二光源と、
前記第一光源及び前記第二光源から照射されて前記光学可変素子領域で第三の方向に反射された光を前記第三の方向から受光する受光部と、を備え、
前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、
前記第一の角度は、−5°〜15°であり、
前記第二の角度は、40°〜60°であり、
前記第三の角度は、50°〜60°である画像センサユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価書類識別装置、有価書類処理機、画像センサユニット及び光学可変素子領域の検出方法に関する。より詳しくは、光学可変素子領域を備えた、紙幣(銀行券)や商品券、小切手、カード状媒体等の有価書類(valuable documents)の真偽判定に好適な有価書類識別装置、有価書類処理機、画像センサユニット及び光学可変素子領域の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣(銀行券)や商品券、小切手等の有価書類には、偽造防止のために様々なセキュリティ特徴が付与されている。例えば、紙幣に用いられる紙は、植物繊維を素材にした紙が主流だが、耐久性や耐水性、セキュリティ性等の向上を目的として、合成繊維を素材とした紙を用いたり、合成樹脂のシートであるポリマーシートが用いられることがある。ポリマーシートから作られた紙幣は、ポリマー紙幣と呼ばれ、透明の窓が設けられたポリマー紙幣は偽造が難しい。
【0003】
更に、これら有価書類の偽造防止技術として、光学可変素子(Optical Variable Device: OVD)が多くの国で用いられている。光学可変素子は、回折格子や薄膜、マイクロレンズ等の光学素子を用いて、色や模様の変化等、光学的な効果を生じさせるものである。具体的には、光学可変素子に照らす光の角度、及び/又は、光学可変素子が見られる角度が変化することにより、色や模様等の光学可変素子の外観が変化する。ホログラムや光学可変インク(Optical Variable Ink: OVI)、モーションスレッド等は、光学可変素子の一種である。例えば、モーションスレッドは、アイコンと呼ばれる複数の微小画像の上に光学スペーサを介してマイクロレンズを配置して形成されるものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
光学可変素子は、肉眼だけでなく、装置を用いた有価書類の真偽判定にも有用である。具体的には、有価書類の種類に応じた位置に光学可変素子が有るか無いかを判別し、無い場合には偽券又は真偽不確定券と判定する。有価書類の真偽判定に光学可変素子を用いる技術としては、他に以下が開示されている。
【0005】
特許文献2には、異なる角度から見ると色が異なるカラーシフトインク(Color-shifting ink)を検出するために、光電変換素子と組み合わされたレンズ両側に発光角度の異なる光源が配置され、透光版内面に無反射膜が貼着された密着イメージセンサが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、文書の少なくとも一部が第1の入射角からの第1の電磁照射線に晒される間に文書の少なくとも一部の第1の像を撮影する工程と、文書の少なくとも一部が第2の入射角からの第2の電磁照射線に晒される間に文書の少なくとも一部の第2の像を撮影する工程と、を含む光学的可変素子を検出するための方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、光学可変インクを識別して有価チケットの真偽を検証する検証装置が開示されており、該検証装置では、第一光源発光ユニット及び第二光源発光ユニットと、受光素子とが有価チケットの法線を挟んで両側に配置されており、第二光源発光ユニットの光軸と上記法線とのなす角が第一光源発光ユニットの光軸と上記法線とのなす角より大きい。
【0008】
特許文献5には、紙葉類に向けて第1方向から光を照射する第1光源により撮像された第1画像と、第2方向から紙葉類に向けて光を照射する第2光源により撮像された第2画像とを生成し、第1画像に含まれるスレッド画像と第2画像に含まれるスレッド画像とが異なる場合に紙葉類がモーションスレッドを有すると判定する紙葉類識別装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7333268号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第101986352号明細書
【特許文献3】国際公開第2011/085041号
【特許文献4】中国特許出願公開第104424688号明細書
【特許文献5】特開2013−20540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光学可変インクやカラーシフトインク等の観察者が見る角度や照射光が入射する角度に応じて色が変化する光学可変素子や、レインボーホログラムのように色とともに模様が変化する光学可変素子等の外観が変わる光学可変素子の有無を検出することは、紙幣等の有価書類の正確な真偽判定に有用である。しかしながら、肉眼での観察のように、光学可変素子を異なる角度から観察しようとすると、受光角が異なる複数の光センサを設ける必要があり、装置のコストが高くなってしまう。このため、照射角が異なる複数の光源と、1つの光センサを設けることが好ましい。このとき、光源の角度と光センサの角度によって光学可変素子の検出能力が変わるため、それぞれの角度を適切な角度とする必要がある。
【0011】
上述の特許文献2〜5には、光学可変素子を検出するために複数の光源と1つの光センサを用いる装置が開示されている。
【0012】
特許文献2は、紙幣の面に対して垂直方向に光電変換素子の列を配置したセンサユニットを開示している。このセンサユニットでは、搬送されるシート上の紙幣識別表面変色インクを垂直方向から撮影することになる。しかしながら、実験によると、垂直方向から見る光学可変インクの色の変化は、斜め方向から見る場合に比べて乏しい。したがって、見る角度に応じて色が変わる光学可変インクの検出には適していない。
【0013】
特許文献3には、電磁放射線源の入射角を−90〜90°、撮像装置の入射角を−90〜90°とした例が開示されている。しかしながら、撮像装置の角度によっては、上述のように、光学可変インクの検出に適さなくなる。また、この例では、光学可変材料に電磁照射線を直接照射し、撮影しているが、センサユニットおいては、特許文献2に記載されているように、光源及び受光部と光学可変素子との間に、ガラス等から形成された透明な窓部を設けることが一般的である。透明なガラスを配置した場合、撮像装置を±90°付近に配置すると、ガラス表面での反射により、照明も撮影も良好にできないことがある。よって、特許文献3では、撮像装置の角度は特定されていないに等しい。
【0014】
特許文献4では、第一光源発光ユニットの光軸と有価チケットの法線とのなす角度が0〜30°であり、受光素子の光軸と上記法線とのなす角度が0〜20°である。しかしながら、受光素子が0〜20°では、上述した通り、見る角度に応じて色が変わる光学可変インクの検出に適していない。また、第一光源発光ユニットと受光素子とが有価チケットの法線に対してほぼ対称な位置に配置されているため、ガラスから形成された透明な窓部を設けると、ガラス表面で反射した光が直接受光センサを照らすおそれがあり、光学可変素子を良好に撮像できない可能性がある。
【0015】
特許文献5は、特許文献1に記載のようなモーションスレッド、すなわち、見る角度に応じて画像(図柄)そのものが変化する光学可変素子の識別を行うものであるため、特許文献5に開示の識別装置や識別方法をそのまま、ホログラムや光学可変インクの検出に利用することはできない。なぜなら、回折や干渉等の光学的な効果によって色や模様が変化するホログラムや光学可変インクに対して、モーションスレッドの色や模様の変化は、マイクロレンズが結像する位置に置かれる色や模様によって決まる。すなわちモーションスレッドの設計上の問題であるため、特定のモーションスレッドにおいて有効な技術が、他のモーションスレッドでも有効とは限らない。まして、ホログラムや光学可変インク等の光学的な効果で外観が変化する光学可変素子に対して示唆を与えるものではない。また、特許文献5は、ガラスから形成された透明な窓部を設けた場合のガラス表面での反射に起因する課題も考慮されていない。
【0016】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有価書類表面の光学可変素子領域の有無の判定精度を向上し、有価書類の真偽を高精度に判定可能な有価書類識別装置、有価書類処理機、画像センサユニット及び光学可変素子領域の検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、光学可変素子領域を有する有価書類の真偽を識別する有価書類識別装置であって、第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第一光源と、第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第二光源と、前記光学可変素子領域から反射された光を第三の方向から受光する受光部と、前記第一光源の反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二光源の反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定部と、を備え、前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、前記第三の角度は25°以上、90°未満であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記発明において、前記光学可変素子領域は、光干渉構造及び光回折構造の少なくとも一方を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記発明において、前記判定部は、前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間の色の違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記発明において、前記有価書類は、前記光学可変素子領域として、光学可変インク領域及びホログラム領域を有し、前記判定部は、前記有価書類の種類を判定し、前記種類判定部で判定された種類の有価書類に関する情報から前記光学可変インク領域の位置と前記ホログラム領域の位置とを特定し、前記光学可変インク領域では前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間の色の違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定し、かつ、前記ホログラム領域では前記第一反射光情報と前記第二反射光情報との間における色、輝度及び形状の少なくとも1つの違いに基づいて前記有価書類の真偽を判定することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記発明において、前記第三の角度は、60°以下であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記発明において、前記第三の角度は、55°以下であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記発明において、前記第一の角度は、−10°〜20°であり、前記第二の角度は、40°〜70°であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、上記発明において、前記第一の角度は、−5°〜15°であり、前記第二の角度は、45°〜65°であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、上記発明において、前記第一光源、前記第二光源及び前記受光部は、同一平面上に配置されており、前記有価書類識別装置は、前記第一光源及び前記第二光源と前記有価書類との間に配置された透明板を更に備え、前記第一光源及び前記第二光源は、前記透明板に光を照射したとすると正反射光が前記受光部に入射する領域を間に挟んで配置されていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、上記発明において、前記受光部は、前記有価書類を直線状に撮像するラインセンサを備え、前記第一光源及び前記第二の光源はそれぞれ、前記ラインセンサによる直線状の被撮像領域に光を照射することを特徴とする。
【0027】
また、本発明は、上記発明において、前記受光部は、前記第一光源及び前記第二光源から照射されて、前記光学可変素子領域で反射された光を受光し、前記第一の角度、前記第二の角度及び前記第三の角度は、前記直線状の被撮像領域に直交する基準面上における角度であり、前記第一の角度は、前記第三の角度より小さく、前記第二の角度は、前記第三の角度より大きいことを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、上記発明において、前記有価書類を搬送させる搬送機構を更に備えることを特徴とする。
【0029】
また、本発明は、上記発明において、前記判定部は、前記第一反射光情報に基づく第一画像の色と、前記第二反射光情報に基づく第二画像の色とを比較して前記有価書類の真偽を判定することを特徴とする。
【0030】
また、本発明は、前記有価書類識別装置を備えることを特徴とする有価書類処理機である。
【0031】
また、本発明は、有価書類の光学可変素子領域の検出方法であって、第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第一読取ステップと、第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射し、前記光学可変素子領域から反射された光を受光する第二読取ステップと、前記第一読取ステップでの反射光の情報である第一反射光情報と、前記第二読取ステップでの反射光の情報である第二反射光情報とに基づいて前記光学可変素子領域の有無を判定する判定ステップと、を含み、前記第一照射ステップ及び前記第二照射ステップでは、前記光学可変素子領域から反射された光を第三の方向から受光し、前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、前記第三の角度は25°以上、90°未満であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明は、有価書類の光学可変素子領域を検出するための画像センサユニットであって、第一の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第一光源と、第二の方向から前記光学可変素子領域に光を照射する第二光源と、前記光学可変素子領域から反射された光を第三の方向から受光する受光部と、を備え、前記光学可変素子領域を含む前記有価書類の面の垂直線と前記第一の方向とのなす角度である第一の角度と、前記垂直線と前記第二の方向とのなす角度である第二の角度と、前記垂直線と前記第三の方向とのなす角度である第三の角度と、は互いに異なり、前記第三の角度は25°以上、90°未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明の有価書類識別装置、有価書類処理機、画像センサユニット及び光学可変素子領域の検出方法によれば、有価書類表面の光学可変素子領域の有無の判定精度を向上することができる。そのため、有価書類の真偽を高精度に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】(a)は、実施形態1に係る画像取得装置の断面模式図であり、(b)は、(a)の図における円で囲まれた領域の拡大図である。
図2】実施形態1に係る有価書類の平面模式図である。
図3】実施形態1に係る画像取得装置の平面模式図である。
図4】実施形態1に係る画像取得装置における撮像方法を説明するための斜視模式図である。
図5】透明板表面での反射率の入射角依存性を示すグラフであり、透明板の屈折率を1.5とし、フレネルの式から導出されたものである。
図6】実施形態1に係る画像取得装置の別の断面模式図である。
図7】(a)は、実施形態1に係る撮像画像(照射角0°、受光角45°)を示した図であり、(b)は、(a)の撮像画像から算出したR、G、Bの強度分布を示すヒストグラムである。
図8】(a)は、実施形態1に係る撮像画像(照射角60°、受光角45°)を示した図であり、(b)は、(a)の撮像画像から算出したR、G、Bの強度分布を示すヒストグラムである。
図9】本券において、青の色比率を照射角60°の値で規格化した結果を示すグラフである。
図10】第一の試験用サンプルにおいて、青の色比率を照射角60°の値で規格化した結果を示すグラフである。
図11】第二の試験用サンプルにおいて、青の色比率を照射角60°の値で規格化した結果を示すグラフである。
図12】実施形態1に係る有価書類識別装置の断面模式図である。
図13】実施形態1に係る有価書類識別装置の機能ブロック図である。
図14】実施形態1に係る光学可変インク領域の層構成を示す断面模式図であり、光学可変インクとして有価書類上に薄膜構造が設けられた場合を示す。
図15】実施形態1に係る光学可変インク領域の層構成を示す断面模式図であり、光学可変インクが光学可変性の顔料を含む場合を示す。
図16】実施形態1に係る有価書類識別装置によって行われる光学可変インク領域の判定処理を示すフローチャートである。
図17】実施形態1に係る有価書類識別装置によって行われる光学可変インク領域の判定方法を示すフローチャートである。
図18図17に示したフローによって2005年発行の100元紙幣を処理する場合を説明するための模式図である。
図19】実施形態1に係る有価書類識別装置によって行われる光学可変インク領域の評価値の演算方法を示すフローチャートである。
図20図19に示したフローによって2005年発行の100元紙幣を処理する場合を説明するための図である。
図21】受光角0°における本券と試験用サンプルの評価値分布を示したグラフである。
図22】受光角15°における本券と試験用サンプルの評価値分布を示したグラフである。
図23】受光角30°における本券と試験用サンプルの評価値分布を示したグラフである。
図24】受光角40°における本券と試験用サンプルの評価値分布を示したグラフである。
図25】受光角45°における本券と試験用サンプルの評価値分布を示したグラフである。
図26】受光角50°における本券と試験用サンプルの評価値分布を示したグラフである。
図27】(a)は、実施形態1に係る有価書類処理装置の外観を示す斜視模式図であり、(b)は、実施形態1に係る有価書類処理装置内部の構造概要を示す断面模式図である。
図28】実施形態1に係る別の有価書類処理装置の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明に係る有価書類識別装置及び有価書類識別方法の好適な実施形態を詳細に説明する。まず、本実施形態に係る有価書類識別装置が備える画像取得装置(画像センサユニット)について説明する。該画像取得装置は、紙幣、小切手、商品券、有価証券等、様々な有価書類から、反射光情報として少なくともカラー画像情報を取得する機能を有し、本実施形態に係る有価書類識別装置内で、取得した画像情報から特徴を抽出して有価書類の種類や光学可変素子領域の有無を判定するために利用される。
【0036】
本実施形態に係る有価書類識別装置は、図1(a)に示される画像取得装置(画像センサユニット)10を備えている。画像取得装置10は、搬送されている有価書類100の反射画像を取得するものである。有価書類100の搬送方向をX軸負方向とし、搬送面に垂直な軸をZ軸とし、Y軸はX軸及びZ軸に直交するものとする。また、有価書類100は搬送面と略平行に搬送されるものとし、Z軸正側を上方、Z軸負側を下方という。更に、説明の便宜上、有価書類100のZ軸正側の面を上面といい、有価書類100のZ軸負側の面を下面という。
【0037】
有価書類100には、光学可変素子領域101が設けられており、光学可変素子領域101には、光学可変素子によって数字等の記号や模様が描かれている。例えば、有価書類100が2005年発行の中国の100元札のとき、図2に示すように、光学可変素子で「100」の文字が描かれている。本実施形態で利用可能な光学可変素子としては、ホログラム及び光学可変インクのような光学的な効果によって色や模様が変化する光学可変素子が挙げられる。なかでも、光学可変インクのように、光学的な効果によって色が変化する光学的可変素子が好適である。この光学可変素子の色の変化は、光学可変素子に照射された光の反射光が、薄膜や回折格子の効果により、干渉することによって起こるものである。
【0038】
画像取得装置10は、筺体18を有し、筺体18の一面(有価書類100に対向する面)にはガラス又は樹脂から形成された透明板19が嵌め込まれて透明な窓部を構成している。画像取得装置10は、有価書類100の表面に光を照射する第一光源11及び第二光源12と、有価書類100の表面で反射される光を受光する受光部13とを有する。第一光源11及び第二光源12から照射された光は、有価書類100の表面で反射されて、受光部13によって受光される。
【0039】
受光部13は、ラインセンサ14を備え、ラインセンサ14は、複数の結像素子15と、基板17と、基板17上に設けられた複数の受光素子16から構成される。図3に示すように、複数の結像素子15は、Y軸方向に配列されて結像素子アレイを構成し、複数の受光素子16は、Y軸方向に配列されて受光素子アレイを構成する。結像素子15は、第一光源11から出射されて有価書類100の表面で反射した反射光と、第二光源12から出射されて有価書類100の表面で反射した反射光とを集光して、受光素子16に受光させるように配置される。Y軸方向に配置された受光素子アレイ及び結像素子アレイを有するラインセンサ14は、図4に示すように、Y軸方向全体にわたって有価書類100の直線状の被撮像領域102を一度に撮像する。また、ラインセンサ14は、搬送されている有価書類100に対して、このような撮像を順次行うことにより、有価書類100全体の撮像を行う。
【0040】
結像素子15は、ロッドレンズと呼ばれるような透明の筒状の集光レンズであり、有価書類100で反射された反射光を受光素子16に集光するとともに伝搬する。
【0041】
受光素子16は、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のアレイ状の受光素子を構成し、有価書類100で反射された反射光を受光すると、その受光量に応じた信号を基板17に出力する。また、各受光素子16には、色選択用のフィルタ、具体的には光の三原色である赤(R)、緑(G)又は青(B)のカラーフィルタが設けられている。これにより、各画素に色情報を持たせ、出力信号をカラー化している。
【0042】
なお、有価書類100を撮像可能であれば、受光部13のセンサの種類はラインセンサ14に限定されず、カメラに用いられるエリアセンサ等の他のセンサを利用してもよい。結像素子15についても、受光部13のセンサによって鮮明な画像を撮像可能であれば、ロッドレンズのような等倍光学系に限らず、縮小光学系でもよいし、画像取得装置10が結像素子15等の光学系を有さない構造であってもよい。また、例えばミラーを用いる等、結像素子15の構成によっては、結像素子15の光軸と受光素子16の撮像光軸とが、一直線上にない場合もある。
【0043】
基板17は、受光素子16を駆動するための駆動回路と、受光素子16からの信号を処理して出力するための信号処理回路とを含んでいる。基板17は、各受光素子16の出力信号をAFE(Analog Front End)により取り出し増幅し、A/Dコンバータによりデジタル値に変換し、暗出力をカットした上で、後述する画像処理部に出力する。
【0044】
第一光源11及び第二光源12は、搬送される有価書類100に向けて互いに異なる方向から光を照射するように配置されている。図3に示すように、各光源11、12は、線状光源であり、有価書類100が通過する際に、少なくとも直線状の被撮像領域102を含む領域に直線状の光を照射することができる。また、各光源11、12は、赤、緑及び青の光を含む白色光を照射する。第一光源11及び第二光源12としては、例えば、赤色LED素子、緑色LED素子及び青色LED素子が配列されたLEDアレイや白色LEDが配列されたLEDアレイを用いた線状の光源を利用することができる。あるいは、赤色LED素子、緑色LED素子及び青色LED素子からの、又は白色LEDからの光を導光体で伝播し、直線状に光を照射する線状光源を利用することができる。
【0045】
なお、各光源11、12が照射する光は、光学可変素子領域101の色に対応する波長の光を含むものであれば特に限定されない。また、各光源11、12は、赤、緑及び青の光を順次照射してもよく、この場合は、各受光素子16に色選択用のフィルタを設けなくてもよい。更に、各光源11、12は、面光源であってもよい。
【0046】
次に、画像取得装置10における第一光源11、第二光源12及び受光部13の配置について説明する。図1及び図4に示すように、第一光源11及び第二光源12は、それぞれ、第一の方向及び第二の方向から有価書類100(光学可変素子領域101)に光を照射するように配設されている。また、受光部13は、有価書類100(光学可変素子領域101)から反射される光を第三の方向から受光するように配設されている。より具体的には、第一光源11及び第二光源12から照射される光の光軸11A及び12Aは、それぞれ、第一の方向及び第二の方向と平行で、透明板19の屈折率に応じて有価書類100の面の垂直線103側(Z軸正側)にオフセットして配設されている。また、各結像素子15の光軸15A及び各受光素子16の撮像光軸16Aは、第三の方向と平行で、透明板19の屈折率に応じて垂直軸103側(Z軸正側)にオフセットして配設されている。各光軸のオフセットの量は、透明板19の屈折率及び厚みに応じて決定されている。なお、透光板19に入射前の光の進行方向と、透光板19を透過後の光の進行方向とは、図1(b)に示すように、互いに平行であることから、以下の第一の方向、第二の方向及び第三の方向と垂直線103とがなす角度に関する説明では、特に必要がない限り、各光軸のオフセットを考慮せずに説明する。
【0047】
ここで、有価書類100の面の垂直線103に対して、第一の方向、第二の方向及び第三の方向がなす角度をそれぞれ、第一の角度θ1、第二の角度θ2及び第三の角度θ3とすると、第一光源11、第二光源12及び受光部13は、θ1、θ2及びθ3が互いに異なる関係となるように配置されている。これにより、第一光源11による有価書類100の第一画像における光学可変素子領域101の色等の外観と、第二光源12による有価書類100の第二画像における光学可変素子領域101の色等の外観とが異なることになり、光学可変素子領域101の検出が可能となる。
【0048】
特に第三の角度θ3に関しては、25°以上、90°未満となるように設定されている。θ3を25°以上とすることによって、後述するように、第一画像における光学可変素子領域101の色と第二画像における光学可変素子領域101の色との相違を明確にすることができ、光学可変素子領域101を高精度に検出することが可能となる。他方、θ3が25°未満であると、これらの色の変化が乏しく、光学可変素子領域101の検出精度が著しく低下する。
【0049】
第三の角度θ3の上限は、有価書類100表面における反射光を受光できる範囲、すなわち90°未満であれば特に限定されないが、65°以下であることが好ましく、60°以下であることがより好ましく、55°以下であることが更に好ましい。図5に示すように、透明板19表面での反射率は、入射角が65°を超えると急激に大きくなるため、θ3が65°を超えると、透明板19表面での反射光に起因して、第一画像及び第二画像が不明瞭となる場合がある。θ3が60°を超えると、受光部13を筺体18内に収容することが困難になる場合がある。また、θ3を55°以下とすることによって、第一画像における光学可変素子領域101と第二画像における光学可変素子領域101との間における色の変化をより確実なものとすることができる。
【0050】
第一の角度θ1及び第二の角度θ2は特に限定されないが、光学可変素子領域101の色変化を大きくすることが好ましい。したがって、第一の方向は垂直線103にできるだけ近いことが好ましく、他方、第二の方向は垂直線103からできるだけ離れていることが好ましい。また、θ2がθ3に近くなると、後述するように第二光源12からの正反射成分が受光部13に直接入射する可能性がある。更に、図5に示したように、透明板19表面での反射率は、入射角が65°を超えると急激に大きくなる。以上のような観点から、θ1は、−10°〜20°であり、θ2は、40°〜70°であることが好ましく、θ1は、−5°〜15°であり、θ2は、45°〜65°であることがより好ましい。なお、第一光源11及び第二光源12は、通常、無偏光を照射するため、第二光源12からの正反射成分の反射率は、反射率=S波成分の割合×S波の反射率+P波成分の割合×P波の反射率(ただし、S波成分の割合=P波成分の割合=50%)の式で表されると考えられる。すなわち、反射率=(S波の反射率+P波の反射率)/2の式で表されると考えられる。
【0051】
第一光源11、第二光源12及び受光部13は、直線状の被撮像領域102に沿って平行に配置されている。そのため、図4及び図6に示すように、被撮像領域102と任意の位置で直交する基準面104において、それらの位置関係は図示するような位置関係となる。また、透明板19は、第一光源11及び第二光源12と、有価書類100との間に配置されている。そのため、図6に示すように、透明板19での正反射光が受光部13に入射し得る領域19Rが存在する。この透明板19での正反射光が受光部13に入射すると光学可変素子領域101の検出精度が低下する。そこで、第一光源11及び第二光源12は、この領域19R内に配置されずに、領域19Rを間に挟んで配置されている。これにより、透明板19での正反射光が受光部13に入射することを効果的に抑制している。
【0052】
なお、透明板19の少なくとも一方の面(好ましくは両面)に反射防止層を設けてもよく、これによっても、透明板19での正反射光が受光部13に入射することを軽減することが可能である。
【0053】
ここで実際に、種々の光源の照射角と種々の受光部の受光角において、2005年発行の100元紙幣(本券。以下、単に100元紙幣とも言う。)と、本券の光学可変インク部の図柄を一般的なインクで印刷した試験用サンプル二種との光学可変インク領域を撮像し、得られた画像の赤(R)、緑(G)、青(B)の強度比を測定した結果を示す。ここでは、透明板を配置せず、白色光源(平行光)を紙幣に直接照明し、ラインセンサにより撮影した。照射角とは、光源の照射方向(光軸)と紙幣面の垂直線との間のなす角を意味し、上記θ1及びθ2に相当する。受光角とは、ラインセンサの撮像方向(撮像光軸)と紙幣面の垂直線との間のなす角を意味し、上記θ3に相当する。
【0054】
具体的には、まず、図7(a)及び図8(a)に示すように、各条件において得られた画像から、同じ場所の5×5画素(0.5mm×0.5mm)のデータを抽出した。抽出する画素の範囲は、照射角及び受光角によって色の変化が大きくなるように決定した。次に、図7(b)及び図8(b)に示すように、抽出した範囲でR、G、Bの強度分布を算出した。
【0055】
次に、図7(b)及び図8(b)に示すように、各画像について、R、G、Bの各強度の平均を算出し、算出したR、G、Bの各平均強度の、R、G及びBの平均強度全体に対する比率(色比率)を算出した。そして、照射角及び受光角を変化させた際の青の色比率の変動を評価した。なお、青の色比率を用いた理由は、100元紙幣の光学可変インク領域は、照射角及び受光角が大きくなるにつれて緑色から青色に変化し、青色成分の変化が大きいためである。また、図9〜11に、各媒体別に、青の色比率を照射角60°の値で規格化した結果を示す。なお、測定装置の配置の関係上、受光角0°では照射角25°以上、受光角15°では照射角10°以上で測定を行った。図10及び図11に示すように、試験用サンプルでは、いずれの受光角でも照射角を変化させたときの青の色比率の変動は小さいのに対して、図9に示すように、本券では、受光角がある程度大きくなると、照射角を変化させた時の青の色比率の変動が大きくなった。
【0056】
また、本券について、各受光角において、照射角60°の青の色比率を最小の照射角の青の色比率で割り、青色の増加率を算出した結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
この結果、本券では、受光角25°以上(好ましくは30°以上)であれば、光学可変インク領域の色の変化が充分に大きくなるため、光学可変インク領域の検出が可能であることが分かった。なお、後述するように、個々の紙幣の測定値にはばらつきがあるため、受光角0°又は15°では、本券の青色の増加率が小さいものと、試験用サンプルの青色の増加率が大きいものとが混同されるおそれがある。
【0059】
次に、本実施形態に係る有価書類識別装置及び有価書類識別方法を詳細に説明する。本実施形態に係る有価書類識別装置は、有価書類の識別を行うに際し、識別対象となる有価書類における光学可変素子領域の有無を判定する。光学可変素子領域が設けられた有価書類であれば、有価書類の種類に拘わらず適用可能な技術である。
【0060】
本実施形態では、観察する角度によって外観が変化する光学可変素子の特徴から、光学可変素子領域を撮像する受光部の位置を固定して光源を移動すると、該受光部の位置で観察される光学可変素子領域の外観が変化することを利用する。すなわち、異なる2つの方向から有価書類に向けて光を照射し、各方向からの光を利用して得られた2つの光学可変素子領域の反射光情報、具体的には画像情報に基づいて有価書類が光学可変素子領域を有するか否かを判定するものである。
【0061】
本実施形態に係る有価書類識別装置1は、図12に示すように、有価書類100の到来を検知するタイミングセンサ2と、有価書類100を搬送するローラ(搬送機構)3と、2つの画像取得装置(画像センサユニット)10a及び10bとを備えている。画像取得装置10a及び10bは、それぞれ、搬送面のZ軸方向正側及びZ軸方向負側に設けられている。各画像取得装置10a、10bは、上述した画像取得装置10と同様の構成を有する。本実施形態に係る有価書類識別装置1は、このような2つの画像取得装置10a及び10bを備えることによって、有価書類100の上面若しくは下面の一方、又は、有価書類100の上下両面を撮像することが可能であり、搬送されてきた有価書類100の表裏に関わらず、有価書類100の光学可変素子領域を撮像することができる。
【0062】
タイミングセンサ2は、識別対象となる有価書類100の到来を検知する機能を有し、この有価書類100に関する処理を開始するタイミングを決定するために利用される。タイミングセンサ2は、例えば投光部及び受光部によって形成される。投光部から投光されて受光部によって受光される光が、投光部と受光部の間を搬送される有価書類100によって遮られることを利用して、有価書類100の到来が検知される。そして、処理対象となる有価書類100の到来が検知されると、有価書類100の画像を撮像するための処理等が開始される。これらの処理の詳細は後述する。
【0063】
ローラ3は、モータ等の図示しない駆動装置で駆動され、有価書類識別装置1内で有価書類100を搬送する搬送機構として機能する。有価書類識別装置1に受け入れられた有価書類100は、装置内に設けられた複数のローラ3によって搬送され、画像取得装置10a及び10bの間を通過して、装置外へ排出される。各ローラ3は、時計回り及び反時計回りのいずれにも回転可能に設置されており、これらのローラ3の回転が後述の搬送制御部によって制御されることによって、有価書類100は、X軸負方向へ搬送される。
【0064】
なお、有価書類100の搬送方向(X軸方向)が、有価書類100の長手方向又は短手方向のいずれと平行な方向となるかは特に限定されない。例えば、光学可変素子領域の色等の外観が全方位で変化する場合には、有価書類100の長手方向又は短手方向のいずれに有価書類100を搬送してもよい。また、光学可変素子領域の色等の外観が有価書類100の長手方向又は短手方向のいずれかと平行な方向に搬送される時のみで変化する場合には、その方向と平行な長手方向又は短手方向に有価書類100を搬送すればよい。搬送方向や搬送速度等を含む有価書類100の搬送方法は、光学可変素子の特性に応じて、後述する方法によって光学可変素子領域の有無を検出できるように適宜決定される。
【0065】
有価書類識別装置1は、図1及び図12に示した構成の他に、図13に示すように、通信インターフェイス4(以下「通信I/F」と記載する)、制御部20及び記憶部30を有している。また、制御部20は、有価書類100の種類等の識別や光学可変素子領域の有無を判定する判定部21と、各光源11、12を制御する光源制御部22と、有価書類100の撮像及び撮像した画像の画像処理を行う画像処理部23と、有価書類100を搬送するローラ3等の搬送機構を制御する搬送制御部24とを有する。また、記憶部30は、第一光源11からの照射光によって撮像された有価書類100の第一画像31と、第二光源12からの照射光によって撮像された有価書類100の第二画像32と、有価書類100を撮像した各画像31、32の全体又は特徴部の判定処理等を行うために利用される各種の基準画像33と、これらに関連する情報とを記憶している。
【0066】
判定部21は、有価書類100を撮像した第一画像31又は第二画像32と、予め処理対象となる有価書類100に関して記憶部30に記憶されている基準画像33とを比較することにより、有価書類100の種類等を特定する機能を有する。
【0067】
具体的には、例えば、処理対象が米国紙幣である場合には、記憶部30には予め1ドル、2ドル、5ドル、10ドル、20ドル、50ドル及び100ドルの各紙幣の基準画像33が記憶されている。そして、処理中の有価書類100を撮像した画像の特徴部分が、各基準画像33と比較される。その結果、有価書類100を撮像した画像の特徴部分が、100ドル紙幣の基準画像33と一致するとともに他の金種の基準画像33と異なる場合に、この有価書類100を100ドル紙幣であると判定する。処理対象とする有価書類100が紙幣である場合には、判定部21は、このように金種識別を行う他、紙幣が本物であるか否かを判定する真偽判別や、紙幣が所定基準を満たし再利用可能な紙幣であるか否かを判定する正損判別等の処理を行うこともできる。このような有価書類の識別処理は、有価書類識別装置の分野において従来から利用されている技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0068】
また、判定部21は、有価書類100が光学可変素子領域101を有するか否かの判定を行う機能を有している。有価書類100を撮像した第一画像31及び第二画像32を利用して、有価書類100が光学可変素子領域101を有するか否かを判定するものであるが、これについての詳細は後述する。
【0069】
光源制御部22は、各画像取得装置10a、10bの第一光源11及び第二光源12の点灯を制御する機能を有する。各光源11、12による個別の有価書類画像を撮像するために、各光源11、12を順に点灯させる動的点灯制御を行うものである。
【0070】
画像処理部23は、光源制御部22が制御する各光源11、12の点灯のタイミングに合わせて受光素子16による受光を制御する機能を有する。また、受光部13からの出力信号を処理して、第一画像31及び第二画像32を記憶部30に保存する機能を有する。また、判定部21による処理に応じて各画像31、32の画像処理を行う機能も有するが、これらについての詳細は後述する。
【0071】
記憶部30は、揮発性又は不揮発性のメモリやハードディスク等の記憶装置で構成され、有価書類識別装置1で行われる処理に必要な各種のデータを記憶するために利用される。
【0072】
通信I/F4は、有価書類識別装置1の外部からの信号を受信したり、有価書類識別装置1から外部へ信号を送信する機能を有する。通信I/F4によって、例えば、外部からの信号を受信して、制御部20の動作設定を変更したり、記憶部30に記憶されているソフトウェアプログラムやデータの更新、追加及び削除の処理を行ったり、有価書類識別装置1による有価書類100の判定結果を外部へ出力することができる。
【0073】
なお、制御部20は、例えば、各種の処理を実現するためのソフトウェアプログラムと、当該ソフトウェアプログラムを実行するCPUと、当該CPUによって制御される各種ハードウェア等によって構成されている。各部の動作に必要なソフトウェアプログラムやデータの保存には、記憶部30や、別途専用に設けられたRAMやROM等のメモリやハードディスク等が利用される。
【0074】
次に、有価書類識別装置1によって有価書類100上の光学可変素子領域、特に光学可変インク領域の有無を判定するための処理について説明する。
【0075】
まず、有価書類100に印刷された光学可変インクについて説明する。有価書類100に使用される偽造防止用インクには様々な種類のものがあるが、光学可変インク又はカラーシフトインクとは、光の照射角及び受光角(観察方向)により、光学可変インク(印刷された模様)の色、より詳細には色相及び/又は明度が変化する様子が観察される特殊なインク構造のことを言う。光学可変インク領域110には、異なる界面における反射光が互いに干渉する多層薄膜構造から構成される光干渉構造が設けられている。より具体的には、図14に示すように、多層薄膜構造(光干渉構造)111が有価書類100の基材105上に積層されていてもよいし、図15に示すように、光学可変性の顔料として多層薄膜構造(光干渉構造)111を含有するインクから形成された層が設けられていてもよい。前者の場合、多層薄膜構造111は、基材105側から、反射層112、光透過層113及びコーティング層114がこの順に積層された構造を有する。後者の場合、多層薄膜構造111は、反射層112が光透過層113で挟み込まれた構造全体がコーティング層114で被覆された構造を有する。いずれの場合も、反射層112は、アルミニウム等の金属から形成され、光透過層113は、樹脂、ガラス等の光透過材料から形成され、コーティング層114は、半透明の金属層であり、ハーフミラーとして機能する。このような構造により、反射層112からの反射光と、コーティング層114からの反射光との干渉により、強め合う波長の光が出射される。そして、入射角及び反射角の大きさによって干渉光の色が変化することになる。また、光透過層113の厚みを変更することによって、様々な色のインクを作製することができる。紙幣の光学可変インク領域に白色光を照射した場合について例示すると、照射角及び受光角が大きくなるにつれて、100元紙幣では緑色から青色に、2003年発行の米国20ドル紙幣では黄色から緑色に、2002年発行の50ユーロ紙幣では紫色から緑色に、2013年発行の5ユーロ紙幣では緑色から青色に、それぞれ変化する。
【0076】
有価書類識別装置1では、第一光源11から白色光を照射して受光部13によって撮像される光学可変インク領域110の色と、第二光源12から白色光を照射して受光部13によって撮像される光学可変インク領域110の色とが互いに異なるように、受光部13の位置と、受光部13に対する第一光源11及び第二光源12の位置とが調整されている。すなわち、各光源11及び12によって異なる色の光学可変インク領域110の画像が撮像されるように、上述の角度θ1、θ2及びθ3が調整されている。
【0077】
次に、図16のフローチャートを参照して、有価書類100が光学可変インク領域110を含むものであるか否かを判定するための処理について説明する。
【0078】
まず、タイミングセンサ2により有価書類識別装置1に有価書類100が到来したことが検知されると(ステップS1;Yes)、制御部20では、光源制御部22による各光源11、12の点灯制御が開始されるとともに、画像処理部23による有価書類100の撮像及び撮像された画像の記憶部30への保存処理が開始される(ステップS2)。なお、有価書類識別装置1は、有価書類100を検知しない間は(ステップS1;No)、有価書類100の到来を監視する状態にある。
【0079】
ステップS2では、有価書類100がラインセンサ14の下方を通過する1回の搬送中に、画像取得装置10aの第一光源11による第一画像及び第二光源12による第二画像と、画像取得装置10bの第一光源11による第一画像及び第二光源12による第二画像との4種類の画像が撮像される。なお、光学可変インク領域110が有価書類100の片面のみに設けられている場合は、その面のみの画像を撮像してもよい。以下では、有価書類100の上面、すなわち画像取得装置10a側に光学可変インク領域110が設けられている場合について説明するが、有価書類100の下面に光学可変インク領域110が設けられている場合についても同様に処理することができる。
【0080】
各光源11、12による有価書類100の画像は個別に色毎に撮像する必要があるために、光源制御部22は各光源11、12を異なるタイミングで繰り返し点灯する動的点灯制御を行う。そして、各光源11、12から射出され、有価書類100で反射された反射光が、受光部13のラインセンサ14によって計測される。ラインセンサ14によって計測された信号は、画像処理部23に入力される。そして、画像処理部23によって、適宜処理が施されたデータは、第一画像31及び第二画像32を形成するデータとして記憶部30に保存される。各画像31、32のデータは、赤(R)、緑(G)、青(B)の色毎に保存される。
【0081】
このように、各光源11、12は異なるタイミングで発光するように制御され、各光源11、12を利用して受光部13によって計測された信号は順次記憶部30に保存される。この結果、有価書類100が受光部13の下方を1回通過する間に、記憶部30には、各光源11、12の下で有価書類100の全面が撮像された第一画像31及び第二画像32が記憶された状態となる。
【0082】
なお、具体的な動的点灯制御は特に限定されない。また、第一光源11による有価書類100の第一画像31と、第二光源12による有価書類100の第二画像32とを別々に撮像することができれば、各光源11、12の発光タイミングやデータ処理の順序は特に限定されず、ラインセンサ14の処理速度等に応じて、適宜決定される。例えば、有価書類100を高速に処理することが求められない場合には、動的点灯を行わず、有価書類100をX軸正方向へ搬送して第一光源11による第一画像31を撮像した後、再度有価書類をX軸負方向へ搬送して第二光源12による第二画像32を撮像してもよい。また、各画像31、32は、有価書類画像を利用して行われる他の識別処理にも利用できるように有価書類100の全面を撮像した画像であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、光学可変素子領域101が含まれる部分領域のみを撮像した画像であっても構わない。
【0083】
こうして得られた第一画像31及び第二画像32を用いて、上述のように、判定部21が有価書類100の種類(紙幣の場合は金種)と方向を判定する(ステップS3)。その後、判定部21によって、有価書類100が光学可変インク領域110を有するか否かを判定する処理が行われる(ステップS4)。以下では、100元紙幣を用いた場合を適宜例示しながら説明するが、どのような種類の有価書類100であっても同様に処理が可能である。
【0084】
本実施形態では、図17に示すフローにより、第一画像31の光学可変インク領域110の色と、第二画像32の光学可変インク領域110の色との相違を算出することによって光学可変インク領域110の有無を判定する。図18には100元紙幣を処理する場合を示す。
【0085】
まず、判定された有価書類100の種類(紙幣の場合は金種)と方向から光学可変インク部の位置が分かるため、画像処理部23によって、第一画像31から光学可変インク領域110に対応する部分領域画像(以下「第一OVI画像」と言う。)を抽出するとともに、同様に、第二画像32から光学可変インク領域110に対応する部分領域画像(以下「第二OVI画像」と言う。)を抽出する(ステップS10)。
【0086】
例えば、各画像31、32から、有価書類100の種類と方向に応じた特定の位置の画素を抽出し、各OVI画像としてもよい。また、有価書類100の種類と方向に応じた特定のマスク画像、具体的には光学可変インク部を1、他の部分を0としたマスク画像を各画像31、32に掛け合わせて画素を抽出し、各OVI画像としてもよい。
【0087】
こうして得られた第一OVI画像及び第二OVI画像を用いて、光学可変インク領域110の評価値を演算する処理が行われる(ステップS11)。
【0088】
次に、図19を参照し、第一OVI画像及び第二OVI画像を利用して光学可変インク領域110の評価値を演算する方法について説明する。本実施形態では、第一画像31の光学可変インク領域110の色比率と、第二画像32の光学可変インク領域110の色比率とを算出する。図20には受光角45°、第一画像撮像時の照射角5°及び第二画像撮像時の照射角60°の条件における100元紙幣の測定結果と算出結果の一例を示す。
【0089】
まず、判定部21は、第一OVI画像及び第二OVI画像について、光学可変インク部の画素全体、光学可変インクがある特定の画素(例えば10×10画素)、又は、光学可変インク領域110上の特定の画素一列分において、R、G、Bの色別に、各強度の平均を算出する(ステップS20)。
【0090】
次に、判定部21は、第一OVI画像及び第二OVI画像について、算出したR、G、Bの各平均強度間の比率(色比率)を算出する(ステップS21)。
【0091】
次に、判定部21は、第一OVI画像及び第二OVI画像の間で、特定の色の色比率を比較する(ステップS22)。具体的には、例えば、第一OVI画像の特定の1色の色比率に対する第二OVI画像の該特定の1色の色比率の変化率(増加率)を算出するか、又は、第一OVI画像の特定の2色の色比率の比又は差に対する第二OVI画像の該特定の2色の色比率の比又は差の変化率を算出する。使用する色は、有価書類100の種類(金種)によって異なるが、例えば100元紙幣では、B又はGの色比率を比較してB又はGの増加率を算出してもよいし、BとGの色比率の比又は差を比較してもよい。また、第一OVI画像及び第二OVI画像をそれぞれ、予め記憶部30に記録されている第一基準画像及び第二基準画像と比較することによって、光学可変インク領域110の有無を判別してもよい。なお、第一基準画像及び第二基準画像とはそれぞれ、光学可変インク領域110を第一光源11及び第二光源12によって撮像した場合に得られる第一OVI画像及び第二OVI画像に対応する基準画像である。
【0092】
次に、判定部21は、ステップS22で算出された値を評価値とする(ステップS23)。
【0093】
そして、判定部21は、算出された評価値と、所定の閾値とを比較して、この評価値が閾値より大きいか否かを判定する(図17ステップS12)。そして、得られた評価値が閾値より大きい場合には(ステップS13;Yes)、有価書類100が光学可変インク領域110を有すると判定する。一方、評価値が閾値以下である場合には(ステップS14;No)、有価書類100は光学可変インク領域110を有さないと判定する。
【0094】
こうして得られた光学可変インク領域110有無の判定結果は、有価書類類識別装置1の内部において有価書類100の真偽判別の判定条件の一つとして利用されたり、通信I/F4によって外部へ出力されて外部装置での処理に利用される。
【0095】
このように、光学可変インク領域110を撮像した際に、異なる色が得られるように第一光源11及び第二光源12とラインセンサ14とを配置することにより、各光源11及び12によって得られた光学可変インク領域110の画像の色の相違から、有価書類100が光学可変インク領域110を有するか否かを正しく判定することができる。なお、光学可変インク領域110がない場合は、偽券又は真偽不確定券として処理する。
【0096】
次に、上述の方法に従い、100元紙幣(本券)と、本券の光学可変インク部の図柄を一般的なインクで印刷した試験用サンプルとについて、実際に評価値、具体的には青色の増加率を演算した結果について説明する。ここでは、本券1000枚と試験用サンプル250枚につて評価値を演算した。照射角は5°及び60°とし、受光角は45°とした。
【0097】
また、図9に示したグラフから、受光角45°における青色増加率に対する各受光角の青色増加率の比(対45°比)を算出した。その結果を下記表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
そして、上述の本券1000枚について、受光角45°以外の受光角における評価値を推定した。具体的には、各受光角おける評価値に、その受光角の対45°比を乗じることによって、受光角45°以外の受光角における評価値とした。下記表3に計算例を示す。
【0100】
【表3】
【0101】
これらの演算結果に基づいて、図21図26に示すように、本券及び試験用サンプルについて、得られた評価値の分布を算出した。なお、各図において、試験用サンプルに関しては、照射角による色変化が無いため、上述の受光角45°における実測データを使用した。
【0102】
これらの評価値分布の検証結果を下記表4に示す。閾値は、(平均値−3σ)とした。
【0103】
【表4】
【0104】
表4に示されるように、受光角0°又は15°では、本券の評価値、すなわち光学可変インク領域110の色の変化率が小さいため、試験用サンプルの通過率が大幅に上昇してしまう。それに対して、受光角が25°以上、好ましくは30°以上であれば、試験用サンプルの通過率を0%とすることができ、非常に高精度に光学可変インク領域110の有無の判定が可能であることが分かった。そのため、有価書類100の真偽を高精度に判定することができる。
【0105】
以上では、画像取得装置10a及び/又は10bで取得した第一画像31及び第二画像32に基づいて、有価書類100の種類(紙幣の場合は金種)と光学可変素子領域101の有無を判定したのに対して、有価書類100の種類を別の画像取得装置を用いて行ってもよい。具体的には、画像取得装置10a及び10bの上流側に配置された別の画像取得装置で取得した有価書類100の画像に基づいて、その種類を判定し、そして、画像取得装置及び/又は10bで取得した第一画像31及び第二画像32に基づいて、光学可変素子領域101の有無を判定してもよい。
【0106】
また、有価書類100が光学可変素子領域101として、光学可変インク領域110のみならずホログラム領域を有する場合は、光学可変インク領域110の画像に基づく有価書類100の真偽判定とともに、ホログラム領域の画像に基づく有価書類100の真偽判定を行ってもよい。この場合、まず、判定部21が第一画像31又は第二画像32や、後述するセンサユニット215によって取得された情報に基づいて有価書類100の種類を判定してもよい。その後、判定部21は、判定された種類の有価書類100に関する基準画像33から光学可変インク領域110の位置とホログラム領域の位置とを特定してもよい。そして、光学可変インク領域110と特定された位置における第一画像31と第二画像32の間の色の違いに基づいて光学可変インク領域110の有無を判定するとともに、ホログラム領域と特定された位置における第一画像31と第二画像32の間における色、輝度及び形状の少なくとも1つの違いに基づいてホログラム領域の有無を判定してもよい。なお、ホログラム領域は、通常、回折格子が形成された光回折構造を含んでいる。
【0107】
上述の本実施形態に係る有価書類識別装置1の機能及び動作は、単体で実現可能であるが、有価書類識別装置1は、例えば、図27又は図28に示すように有価書類処理装置に内蔵されて利用される。
【0108】
本実施形態に係る有価書類処理装置200は、図27に示すように、複数の有価書類100を載置可能なホッパ210と、ホッパ210に載置された紙幣を搬送する搬送路211と、有価書類100の識別処理を行う有価書類識別装置1と、有価書類識別装置1で識別された有価書類100を集積する集積部213と、識別不能な有価書類100や所定条件をみたす有価書類100を他の有価書類100と分けて集積するリジェクト部214とを備える。有価書類識別装置1をこのような有価書類処理装置200に内蔵して利用することにより、ホッパ210に載置された複数の有価書類100を、1枚ずつ、連続して処理することができる。そして、光学可変素子領域101がない偽券又は真偽不確定券と判断された有価書類100がリジェクト部214に返却される。
【0109】
有価書類処理装置200は、処理対象となる有価書類100の識別処理に応じてラインセンサ14以外のセンサユニット215を備える。具体的には、センサユニット215は、例えば、赤外光、紫外光、可視光等の複数種類の光を照射して有価書類100の光学特性を計測するための光学ラインセンサや、有価書類100の磁気特性を計測する磁気センサ、有価書類100の厚みを計測するための厚みセンサを備えている。そして、センサユニット215によって、有価書類100の金種識別や真贋判別、有価書類100の向きや表裏の判定等が行われる。そして、センサユニット215で取得した情報に基づいて、有価書類識別装置1の処理、具体的には光学可変インク領域110の有無の判定が行われる。例えば、センサユニット215で取得した情報から判定された有価書類100の種類(金種)、方向等に基づいて、画像取得装置10a及び/又は10bで取得した第一画像31及び第二画像32から抽出する光学可変素子領域101の位置を決定してもよい。このように役割分担を行うことによって、有価書類100の真偽をより高精度に判定可能となる。なお、センサユニット215については、紙幣処理装置の分野で従来から利用されている技術であるため詳細な説明は省略する。
【0110】
本実施形態に係る有価書類処理装置300は、図28に示すように、テーブル上に設置して利用する小型の紙幣処理装置であり、有価書類100の識別処理を行う有価書類識別装置(図示せず)と、処理対象の複数紙幣が積層状体で載置されるホッパ301と、ホッパ301から筐体310内に繰り出された紙幣が偽券等のリジェクト紙幣であった場合に該リジェクト紙幣が排出される2つのリジェクト部302と、オペレータからの指示を入力するための操作部303と、筐体310内で金種や真偽が識別された正常な紙幣を分類して集積するための4つのスタッカ部306と、紙幣の識別計数結果や各スタッカ部306の集積状況等の情報を表示するための表示部305とを有している。ホッパ301から筐体310内部に1枚ずつ繰り出された紙幣が搬送路に沿って搬送されて、有価書類識別装置によって該紙幣の光学可変インク部の画像が読み取られて真偽を判別するために利用される。光学可変素子領域がない偽券又は真偽不確定券と判断された有価書類100は、リジェクト部302に返却されてもよいし、いずれかのスタッカ部306に収納されてもよい。
【0111】
上述のように、本実施形態では、第一の角度θ1、第二の角度θ2及び第三の角度θ3が互いに異なるように、第一光源11、第二光源12及び受光部13が配置されており、また、θ3が25°以上、90°未満であることから、光学可変素子領域101の有無を高精度で検出することができ、その結果、光学可変素子領域101の真偽判定精度を向上することができる。
【0112】
なお、上記実施形態では、反射光情報として画像情報を取得する例を示したが、反射光情報として色別の光の強度を取得してもよい。このとき、受光素子16は、上述のようにアレイ状の受光素子であってもよいし、フォトダイオードやカラーセンサ等の単体の受光素子であってもよい。また、各光源11、12は点光源であってもよい。この場合、受光素子16と各光源11、12との関係は、図4及び図6に示した場合と同様となる。更に、光源11、12が点光源の場合は、光源11、12は基準面104上に限らず、任意の方向に位置することができる。
【0113】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また、各実施形態の構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよいし、変更されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上のように、本発明は、偽造防止のために光学可変素子が採用された有価書類の真偽を精度よく識別するために有用な技術である。
【符号の説明】
【0115】
1:有価書類識別装置
2:タイミングセンサ
3:搬送機構
4:通信インターフェイス
10、10a、10b:画像取得装置(画像センサユニット)
11:第一光源
11A:第一光源の光軸
12:第二光源
12A:第二光源の光軸
13:受光部
14:ラインセンサ
15:結像素子
15A:結像素子の光軸
16:受光素子
16A:受光素子の撮像光軸
17:基板
18:筺体
19:透明板
19R:正反射光入射領域
20:制御部
21:判定部
22:光源制御部
23:画像処理部
24:搬送制御部
30:記憶部
31:第一画像
32:第二画像
33:基準画像
100:有価書類
101:光学可変素子領域
102:被撮像領域
103:垂直線
104:基準面
105:基材
110:光学可変インク領域
111:多層薄膜構造(光干渉構造)
112:反射層
113:光透過層
114:コーティング層
200:有価書類処理装置
210:ホッパ
211:搬送路
213:集積部
214:リジェクト部
215:センサユニット
300:有価書類処理装置
301:ホッパ
302:リジェクト部
303:操作部
305:表示部
306:スタッカ部
310:筐体
θ1:第一の角度
θ2:第二の角度
θ3:第三の角度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図26
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図28