(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記穴部は、前記端面に連絡する大径部と、前記大径部の軸方向の内側に連接されると共に前記大径部の断面積よりも断面積の小さい小径部とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液封入式防振装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施の形態における液封入式防振装置10の平面図であり、
図2は液封入式防振装置10の正面図である。
【0012】
図1及び
図2に示すように液封入式防振装置10は、筒状に形成される軸部材11と、軸部材11と間隔をあけて配置される円筒状の筒部材20と、筒部材20と軸部材11との間に介設される防振基体30とを備えている。軸部材11は、軸線Oに沿う貫通孔12が形成される金属製の部材である。軸部材11を相手部材(図示せず)に固定するためのボルト(図示せず)が貫通孔12に挿通される。筒部材20は別の相手部材(図示せず)に圧入され固定される。
【0013】
図3は
図1のIII−III線における液封入式防振装置10の断面図であり、
図4は
図1のIV−IV線における液封入式防振装置10の断面図であり、
図5は
図2のV−V線における液封入式防振装置10の断面図である。
【0014】
図3に示すように軸部材11は、軸方向の中央から径方向の外側へ突出する第1部13及び第2部14(
図4参照)を備えている。筒部材20は、軸部材11よりも直径が大きい円筒状の金属製の部材である。筒部材20は、ゴム状弾性体から構成されるゴム膜21が内周面に加硫接合されており、ゴム膜21の内側に中間筒40が保持される。筒部材20は、縁22が内側に折り曲げられて中間筒40に加締め固定される。
【0015】
防振基体30は、軸部材11に対して筒部材20を弾性支持するゴム状弾性体である。防振基体30は、軸部材11と中間筒40とに加硫接合されている。防振基体30は、軸部材11の軸方向の両側に円環状に形成される一対の径方向隔壁31と、軸部材11の軸方向に沿って板状に形成される軸方向隔壁33(
図4参照)とを備えている。防振基体30は、径方向隔壁31に連接されると共に第1部13に加硫接合されるゴム膜部32を備えている。
【0016】
径方向隔壁31の外周は、中間筒40の周壁41に加硫接合されている。一対の径方向隔壁31によって筒部材20の軸方向の端部が閉鎖されることにより、第1液室81及び第2液室82が形成される。第1液室81及び第2液室82はエチレングリコール等の不凍液(液体)が封入される。
【0017】
図4に示すように中間筒40は、筒部材20が取り付けられる一対のリング状の周壁41と、周壁41同士を連結すると共に周壁41よりも径方向の内側に配置される連結壁42とを備えている。連結壁42は、軸線Oと直交する断面が円弧状に形成されている。径方向隔壁31と一体に成形される一対の軸方向隔壁33は、軸部材11の第2部14と連結壁42の内周面とに加硫接合されている。連結壁42は、軸方向隔壁33と一体に成形される壁面部34,35が、外周面に加硫接合されている。
【0018】
図5に示すように第1液室81及び第2液室82は、軸方向隔壁33により周方向に区画されている。
図3及び
図5に示すように軸部材11と筒部材20との間に一対のオリフィス形成部材50が配置される。オリフィス形成部材50は、第1液室81と第2液室82とを連通するオリフィス83(
図5参照)を形成するための部材である。
【0019】
図6はオリフィス形成部材50の斜視図であり、
図7はオリフィス形成部材50の平面図であり、
図8は
図7のVIII−VIII線におけるオリフィス形成部材50の断面図である。
【0020】
図6に示すようにオリフィス形成部材50は、断面円弧状に形成されるストッパ部51と、ストッパ部51の周方向の両側からそれぞれ突出する第1突部71及び第2突部72とを備えている。第1突部71は、ストッパ部51の軸方向の中央から周方向へ延びている。オリフィス形成部材50は、射出成形によって製造された合成樹脂製のストッパ部51、第1突部71及び第2突部72の一体成形品である。オリフィス形成部材50の周方向の長さは、筒部材20の内周の長さの略半分の長さである。
【0021】
ストッパ部51は、筒部材20(
図5参照)に対する軸部材11の相対変位を規制するため、軸部材11の第1部13に対向して配置される塊状の部位である。ストッパ部51は、軸方向(
図6上下方向)の端面52,53と、端面52,53に連絡し凸に湾曲する外周面54と、外周面54と端面52,53とが作る円弧状の角部55とを備えている。ストッパ部51の外周面54は、第1突部71及び第2突部72の外周面に連続する。ストッパ部51の径方向の厚さは、第1突部71及び第2突部72の厚さよりも厚い。ストッパ部51の軸方向の長さ(端面52,53間の距離)は、第1突部71の軸方向の長さよりも長く、第2突部72の軸方向の長さと同じである。
【0022】
図6に示すようにストッパ部51は、軸方向(
図6上下方向)に貫通して端面52,53に開口する複数(本実施の形態では各3つ)の穴部56,57が、周方向に並んで形成されている。穴部56はストッパ部51の第2突部72側に配置され、穴部57はストッパ部51の第1突部71側に配置されている。穴部56が複数形成されることにより、ストッパ部51は、穴部56間に第1残部61が形成され、第2突部72側の縁に第1残部61より肉厚の第2残部62が形成される。穴部57が複数形成されることにより、ストッパ部51は、穴部57間に第3残部63が形成され、穴部56と穴部57との間に第3残部63より肉厚の第4残部64が形成される。
【0023】
図7に示すように穴部56は、端面52から端面53まで軸方向(
図7紙面垂直方向)に亘って断面積が略同一に設定されている。
図8に示すように穴部57は、端面52,53に連絡する大径部58と、大径部58の軸方向の内側に連接される小径部59とを備えている。大径部58の断面積は小径部59の断面積よりも大きく、大径部58は小径部59に対して径方向の外側(外周面54側)へ延びている。大径部58の軸方向(
図6上下方向)の深さは、ストッパ部51の軸方向の長さと第1突部71の軸方向の長さとの差よりも小さい。なお、小径部59の内径は穴部56の内径と略等しい。
【0024】
複数の穴部57のうち第1突部71に最も近い穴部57に凹部60が連絡する。凹部60は角部55に形成される凹みである。凹部60は、穴部57の大径部58に第1突部71側から連絡する。凹部60の軸方向(
図6上下方向)の深さは、ストッパ部51の軸方向の長さと第1突部71の軸方向の長さとの差に略等しい。穴部57の大径部58に第1突部71側から凹部60が連絡することにより、ストッパ部51の第1突部71側の縁に、第5残部65と、第5残部65よりも肉厚の第6残部66とが形成される。第5残部65は第6残部66の径方向の外側(外周面54側)に設けられるので、第5残部65を第1突部71に連接できる。従って、第6残部66よりも肉(厚さ)の薄い第5残部65の強度を確保できる。
【0025】
図6に戻って説明する。オリフィス形成部材50は、第1突部71、ストッパ部51及び第2突部72の外周面に、周方向へ延びつつ軸方向へ曲がる溝部73が形成されている。オリフィス形成部材50は、第2突部72及びストッパ部51の一部の外周面54に、周方向へ延びつつ軸方向へ曲がる溝部74が、溝部73に対して軸方向(
図6上下方向)に並んで形成されている。溝部74は、端面52の角部55を切欠した切欠部75によって端面52に連絡する。溝部73,74は、穴部56,57及び凹部60とは繋がっていない。
【0026】
液封入式防振装置10は、一対のオリフィス形成部材50,50の第1突部71同士、第2突部72同士が突き合わされ、連結壁42と筒部材20との間にオリフィス形成部材50が配置される(
図5参照)。オリフィス形成部材50,50の外周面54に筒部材20(ゴム膜21)が密着すると、溝部73,74及び切欠部75によって筒部材20の内側に第1液室81と第2液室82とを連通するオリフィス83が形成される。
【0027】
液封入式防振装置10は、軸方向隔壁33が径方向に延びる方向(
図5上下方向)と交差する方向に、軸線Oと交差する方向の荷重が入力されると、軸方向隔壁33が弾性変形して軸部材11と筒部材20とが相対変位する。第1液室81と第2液室82とを区画する軸方向隔壁33が弾性変形するので、第1液室81及び第2液室82の液圧変動が生じ、第1液室81及び第2液室82の液体がオリフィス83を通って流れる。オリフィス83によって液共振が生じ、振動が減衰される。
【0028】
図9から
図11を参照して液封入式防振装置10の製造方法について説明する。
図9はオリフィス形成部材50が組み付けられた成形体90の正面図であり、
図10はオリフィス形成部材50が組み付けられた成形体90の背面図であり、
図11は
図10のXI−XI線における成形体90の断面図である。
【0029】
成形体90の製造方法は以下の通りである。まず、加硫金型(図示せず)の下型に軸部材11及び中間筒40をセットした後、上型を型閉めする。これにより、ゴム状弾性体を加硫成形するためのキャビティが形成される。次に、注入孔からゴム状弾性体を注入してキャビティにゴム状弾性体を充填する。加硫金型を加圧・加熱した状態で所定時間保持することで、ゴム状弾性体(防振基体30)が加硫成形され、軸部材11及び中間筒40に防振基体30が加硫接合した成形体90が得られる。得られた成形体90に対して中間筒40を縮径加工することにより防振基体30に予圧縮が与えられる。
【0030】
次いで
図9に示すように、オリフィス形成部材50の第2突部72同士を突き合わせた状態で第2突部72を壁面部34に嵌め込み、
図10に示すように、オリフィス形成部材50の第1突部71同士を突き合わせた状態で第1突部71を壁面部35に嵌め込む。ストッパ部51の端面52,53と防振基体30の径方向隔壁31との間に隙間91が形成されている。
【0031】
次いで、オリフィス形成部材50が組み付けられた成形体90を液体中へ浸漬した後、オリフィス形成部材50の外側に筒部材20(
図3参照)を被せ、筒部材20を縮径した後に縁22を内側に折り曲げて、筒部材20を中間筒40に加締め固定する。これにより第1液室81及び第2液室82に液体が封入された液封入式防振装置10が得られる。
【0032】
ここで、
図11に示すように軸部材11を立てた状態にして、オリフィス形成部材50が組み付けられた成形体90を液体中へ浸漬すると、凹部60から穴部57に液体が進入する。同様に他の穴部56,57にも液体が進入する。穴部56,57は、軸部材11の軸線Oに沿って貫通して端面52,53(
図9参照)に開口するので、上下の隙間91間の液体の流れを良くすることができる。その結果、オリフィス形成部材50の端面52,53と防振基体30の径方向隔壁31との隙間91に気泡を残留し難くできるので、液体中でオリフィス形成部材50(成形体90)を振ったり揺らしたりする操作を少なくできる。よって、液封入式防振装置10に液体を封入するときの操作を簡便にできる。
【0033】
穴部56,57はオリフィス形成部材50の複数か所(本実施の形態では6か所)に形成されるが、外周面54に現れる凹部60の数は、穴部56,57の数より少ない(本実施の形態では1か所)。そのため、オリフィス形成部材50の外周面54の面積が、凹部60によって必要以上に小さくならないようにできる。縮径加工される筒部材20の荷重を受けるオリフィス形成部材50の外周面54の面積を確保できるので、オリフィス形成部材50を破損し難くできる。
【0034】
穴部57は、端面52,53に大径部58が連絡し、大径部58の軸方向の内側に、大径部58の断面積よりも断面積の小さい小径部59が連接される。小径部59よりも断面積の大きな大径部58が端面52,53に連絡するので、液体中に浸漬されたときに大径部58から穴部57に液体を進入し易くできる。また、大径部58よりも断面積の小さな小径部59によってオリフィス形成部材50(ストッパ部51)の断面積を確保できるので、ストッパ部51の強度を確保できる。
【0035】
第1突部71及び第2突部72よりも径方向の厚さの大きいストッパ部51に穴部56,57が貫通するので、ストッパ部51(穴部56,57を除く部分)の肉厚を第1突部71及び第2突部72の肉厚に近づけることができる。その結果、射出成形の冷却時の収縮の不均一によるストッパ部51の表面の凹み変形(所謂ヒケ)の発生を抑制できる。よって、オリフィス形成部材50の寸法精度を確保できる。
【0036】
穴部57において大径部58は小径部59に対して径方向の外側(外周面54側)へ延びているので、オリフィス形成部材50が装着された成形体90を液体中に浸漬したときに、外周面54側の大径部58から穴部57に液体を進入させ易くできる。よって、隙間91に気泡を残留し難くできる。
【0037】
大径部58の軸方向(
図9上下方向)の深さは、ストッパ部51の軸方向の長さと第1突部71の軸方向の長さとの差よりも小さく、凹部60の軸方向の深さは、ストッパ部51の軸方向の長さと第1突部71の軸方向の長さとの差に略等しいので、溝部73の幅が、大径部58及び凹部60の影響を受けないようにできる。また、小径部59の内径は穴部56の内径と略等しいので、溝部73,74の深さが穴部56及び小径部59の影響を受けないようにできる。
【0038】
ここで、溝部73,74の深さ及び幅で決まるオリフィス83の断面積はオリフィス83による液封入式防振装置10の減衰特性に影響を与える要因である。しかし、穴部56,57及び凹部60はオリフィス83の断面積に影響を与えないので、液封入式防振装置10の減衰特性を確保しつつ第1液室81及び第2液室82に気泡を残留し難くできる。
【0039】
ストッパ部51の周方向の両端の第2残部62及び第6残部66は、穴部56間の第1残部61及び穴部57間の第3残部63よりも肉厚である。そのため、軸部材11と筒部材20とが相対変位して軸部材11の第1部13(ゴム膜部32)がストッパ部51の周方向の両端に衝突したときに、第2残部62及び第6残部66が破損しないようにできる。また、ストッパ部51の周方向の中央の第4残部64は、穴部56間の第1残部61及び穴部57間の第3残部63よりも肉厚なので、軸部材11と筒部材20とが相対変位して軸部材11の第1部13(ゴム膜部32)がストッパ部51に衝突したときに、ストッパ部51が座屈しないようにできる。
【0040】
穴部57の大径部58に第1突部71側から凹部60が連絡するので、第6残部66よりも肉(厚さ)の薄い第5残部65を形成できる。第5残部65を薄くできるので、第5残部65及び第6残部66にヒケ(表面の凹み変形)を生じ難くできる。
【0041】
また、穴部57の大径部58に第1突部71側から凹部60が連絡するので、大径部58の径方向の外側に凹部を設ける場合に比べて、端面52,53における凹部60の面積(軸方向視における凹部60の大きさ)を拡大できる。その結果、オリフィス形成部材50が組み付けられた成形体90を液体中へ浸漬したときに、凹部60へ液体を進入し易くできる。よって、大径部58の径方向の外側に凹部を設ける場合に比べて、オリフィス形成部材50及び成形体90を液体中へ浸漬したときに、上下の隙間91間の液体の流れを良くすることができる。
【0042】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、穴部56,57や凹部60の数や大きさ、配置等は適宜設定できる。
【0043】
上記実施の形態では、軸部材11の外周に第1部13が一体形成され、第1部13がゴム膜部32で覆われる軸部材11について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第1部13及びゴム膜部32を省略することは当然可能である。この場合には、第1部13及びゴム膜部32が省略された分だけ、オリフィス形成部材50のストッパ部51と軸部材11との間隔が大きくなってしまう。そこで、ストッパ部51の径方向の厚さを大きくすることにより、大荷重が入力されたときに軸部材11とストッパ部51とを干渉させるようにする。これにより防振基体30の変位を規制できるので、耐久性を確保できる。この場合に、軸部材11の外周やストッパ部51の内周面に衝撃緩衝用のゴム膜を設けることは当然可能である。
【0044】
また、上記実施の形態では、軸部材11の外周に第1部13が一体に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。合成樹脂製やゴム製等の別部材を軸部材11の外周に巻き付けたり接着したりして、軸部材11に第1部13を設けることは当然可能である。
【0045】
上記実施の形態では、軸線Oと直交する方向に荷重が入力される液封入式防振装置10について説明した。そのため、オリフィス形成部材50のストッパ部51を、軸部材11に対して軸直角方向に配置した。即ち第1部13及びストッパ部51を、軸線Oを対称軸として線対称状となるように設定した。しかし、液封入式防振装置は必ずしもこれに限られるものではなく、第1部13やストッパ部51の位置は、荷重の入力方向に応じて適宜設定できる。例えば、荷重の入力方向が軸方向(軸線O方向)と斜交する方向であれば、第1部13やストッパ部51は、軸線Oに対して斜交する直線を対称軸として線対称状となるように設定する。
【0046】
上記実施の形態では、一対のオリフィス形成部材50を突き合わせて、筒部材20の内側に約1周半の長さのオリフィス83を形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。オリフィス83の長さは、要求仕様に応じて適宜設定できる。
【0047】
上記実施の形態では、一対のオリフィス形成部材50を突き合わせて第1液室81及び第2液室82を連通するオリフィス83を形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。一つのオリフィス形成部材50によって、2つの液室(主液室と副液室と)を連通するオリフィスを形成することは当然可能である。
【0048】
また、防振基体によって主液室と副液室とが区画された液封入式防振装置において、主液室を軸方向に区画する隔壁によって複数の独立した主液室を設けた液封入式防振装置に上記実施の形態における技術を適用することは当然可能である。この場合には、オリフィス形成部材は軸方向に並べられた主液室にそれぞれ配置され、オリフィス形成部材は、各主液室と副液室とを連通するオリフィスを形成する。
【0049】
これらの変形例における液封入式防振装置も、上記実施の形態で説明した液封入式防振装置と同様に、軸部材11及び中間筒40に防振基体30が加硫接合した成形体90を得た後、成形体90にオリフィス形成部材を組み付けたものを液体中に沈めて、外側に被せた筒部材20を縮径加工することにより製造される。この場合もオリフィス形成部材に穴部および凹部が形成されているので、上記実施の形態で説明した作用効果と同様の作用効果を実現できる。