特許第6751661号(P6751661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751661
(24)【登録日】2020年8月19日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】出力制限装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20200831BHJP
   F02D 29/06 20060101ALN20200831BHJP
【FI】
   F02D29/02 311Z
   F02D29/02 301D
   !F02D29/06 D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-244397(P2016-244397)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-96343(P2018-96343A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】和田 直也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真弘
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−205338(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/147407(WO,A1)
【文献】 特開2015−231771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 1/00 − 45/00
B60W 10/00 − 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力するトルクを制限する出力制限装置であって、
アクセル開度を取得する開度取得部と、
前記アクセル開度に基づいて要求トルクを演算する要求トルク演算部と、
前記アクセル開度に基づいて前記要求トルクの保証率を演算する保証率演算部と、
前記要求トルクと前記保証率とを乗算した保証トルクを演算する保証トルク演算部と、
運転支援制御における前記エンジンの目標トルクを演算する目標トルク演算部と、
前記保証トルクおよび前記目標トルクのうちの最大値を前記エンジンの制限トルクとして演算する制限トルク演算部とを備え、
前記保証率演算部は、前記アクセル開度が第1開度よりも小さい場合は最低保証率を前記保証率として演算し、前記アクセル開度が前記第1開度以上であり、かつ、第2開度よりも小さい場合は前記アクセル開度が大きいほど前記最低保証率よりも大きな値を前記保証率として演算し、前記アクセル開度が前記第2開度以上の場合は前記要求トルクが前記保証トルクとなる値を前記保証率として演算する
出力制限装置。
【請求項2】
前記保証率演算部は、前記最低保証率、前記第1開度、および、前記第2開度の少なくとも1つを変更可能に構成されている
請求項1に記載の出力制限装置。
【請求項3】
車両の状態に関する状態情報を取得する状態取得部を備え、
前記状態取得部は、前記状態情報として車両の重量を取得し、
前記保証率演算部は、前記重量が大きいほど前記最低保証率を大きな値に変更する
請求項2に記載の出力制限装置。
【請求項4】
車両の状態に関する状態情報を取得する状態取得部を備え、
前記状態取得部は、前記状態情報としてトランスミッションにおける変速比を取得し、
前記保証率演算部は、前記変速比が大きいほど前記最低保証率を大きな値に変更する
請求項2または3に記載の出力制限装置。
【請求項5】
前記保証率演算部は、前記最低保証率を変更する場合、変更前の前記第1開度から前記第2開度までの区間における前記保証率の変化率を維持したまま前記第1開度を変更する
請求項2〜4のいずれか一項に記載の出力制限装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力を制限する出力制限装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運転者による車両の運転を支援する運転支援制御として、例えば特許文献1のように、運転者からの要求トルクに対してエンジンのトルクを制限することによって燃料消費量を抑える出力制限制御が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−280049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、出力制限制御の実行中においても、例えば先行車両の追い越し時や高速道路への合流時など、一時的な加速時にはエンジンのトルクの制限が解除されることが好ましい。そのため、出力制限制御には例えばアクセル開度が所定値を超えた場合に出力の制限を解除する機能も設けられているが、解除の前後において車両の挙動が急激に変化するためドライバビリティについて改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は、エンジンの出力制限が加速時のドライバビリティに与える影響を抑えることのできる出力制限装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する出力制限装置は、エンジンの出力するトルクを制限する出力制限装置であって、アクセル開度を取得する開度取得部と、前記アクセル開度に基づいて要求トルクを演算する要求トルク演算部と、前記アクセル開度に基づいて前記要求トルクの保証率を演算する保証率演算部と、前記要求トルクと前記保証率とを乗算した保証トルクを演算する保証トルク演算部と、運転支援制御における前記エンジンの目標トルクを演算する目標トルク演算部と、前記保証トルクおよび前記目標トルクのうちの最大値を前記エンジンの制限トルクとして演算する制限トルク演算部とを備え、前記保証率演算部は、前記アクセル開度が第1開度よりも小さい場合は最低保証率を前記保証率として演算し、前記アクセル開度が前記第1開度以上であり、かつ、第2開度よりも小さい場合は前記アクセル開度が大きいほど前記最低保証率よりも大きな値を前記保証率として演算し、前記アクセル開度が前記第2開度以上の場合は前記要求トルクが前記保証トルクとなる値を前記保証率として演算する。
【0007】
上記構成によれば、保証トルクが目標トルクよりも小さい場合は目標トルクが制限トルクとして演算され、保証トルクが目標トルク以上である場合は保証トルクが制限トルクとして演算される。すなわち、運転支援制御によってエンジンのトルクが目標トルクに制限されているときであってもエンジンのトルクとして保証トルクが保証される。また、この保証トルクは、アクセル開度が第2開度に向かって大きくなる過程において目標トルクよりも大きくなる。
【0008】
そのため、例えば第2開度以上にアクセルペダルが操作されたとき、第2開度に向かってアクセル開度が大きくなる過程において、制限トルクが目標トルクから保証トルクへ切り替えられるとともに切り替え後においては制限トルクが緩やかに上昇することとなる。その結果、エンジンの出力を緩やかに上昇させることができるから、エンジンの出力制限が加速時におけるドライバビリティに与える影響を抑えることができる。
【0009】
上記出力制限装置において、前記保証率演算部は、前記最低保証率、前記第1開度、および、前記第2開度の少なくとも1つを変更可能に構成されていることが好ましい。
上記構成によれば、例えば、車両の状態が加速しにくい状態にあるときに最低保証率を高くすることによって、制限トルクが目標トルクから保証トルクへ切り替わるアクセル開度を小さくすることができる。これにより、エンジンの出力をより早いタイミングから高めることができる。
【0010】
上記出力制限装置は、車両の状態に関する状態情報を取得する状態取得部を備え、前記状態取得部は、前記状態情報として車両の重量を取得し、前記保証率演算部は、前記重量が大きいほど前記最低保証率を大きな値に変更することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、重量が大きいほど、すなわち所定の加速度で車両を加速させる際に必要とされるエンジンのトルクが大きいときほど最低保証率が大きくなる。そのため、例えば貨物自動車といった重量の変化の大きい車両であっても、その時々の重量に応じて最低保証率が演算される。その結果、加速時におけるドライバビリティが車両の重量によって変化することを抑えることができる。
【0012】
上記出力制限装置は、車両の状態に関する状態情報を取得する状態取得部を備え、前記状態取得部は、前記状態情報としてトランスミッションにおける変速比を取得し、前記保証率演算部は、前記変速比が大きいほど前記最低保証率を大きな値に変更するとよい。
【0013】
上記構成によれば、トランスミッションにおける変速比が大きいときほど最低保証率が高くなる。これにより、運転者によって車両の加速が行われやすいときほど制限トルクが目標トルクから保証トルクに切り替わるアクセル開度を小さくすることができる。
【0014】
上記出力制限装置において、前記保証率演算部は、前記最低保証率を変更する場合、変更前の前記第1開度から前記第2開度までの区間における前記保証率の変化率を維持したまま前記第1開度を変更することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、最低保証率が変化したとしても第1開度から第2開度までアクセル開度を変化させたときの制限トルクの上昇態様に変化が生じない。その結果、最低保証率が変化したとしても加速時におけるドライバビリティの変化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】出力制限装置の一実施形態を搭載した車両の概略構成を示すブロック図。
図2】各ECUを構成するマイクロコントローラーの概略構成を示すブロック図。
図3】先行車両が存在する場合の加速制限制御を模式的に示す図。
図4】ハイブリッドECUにおける各種の機能の一例を示す機能ブロック図。
図5】アクセル開度と保証率との関係の一例を模式的に示すグラフ。
図6】(a)(b)最低保証率の変更態様の一例を模式的に示すグラフ。
図7】アクセル開度、保証率、制限トルク、および、エンジン指示トルクの関係の一例を示す図。
図8】(a)(b)最低保証率の変更態様の他の例を模式的に示すグラフ。
図9】(a)(b)最低保証率の変更態様の他の例を模式的に示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1図7を参照して、エンジンの出力制限装置の一実施形態について説明する。
図1を参照してエンジンの出力制限装置を搭載した車両の概略構成について説明する。
図1に示すように、車両10は、動力源としてエンジン11とモータージェネレーター(以下、M/Gという)12とを備えたハイブリッド自動車である。エンジン11の回転軸13とM/G12の回転軸14とは、クラッチ15で断接可能に接続されている。M/G12の回転軸14は、トランスミッション16および駆動軸17を介して駆動輪18に接続されている。
【0018】
エンジン11は、例えば複数の気筒を有するディーゼルエンジンであり、各気筒において燃料が燃焼することにより回転軸13を回転させるトルクを発生させる。エンジン11が発生させたトルクは、クラッチ15が接続状態にあるときに、M/G12の回転軸14、トランスミッション16、および、駆動軸17を介して駆動輪18に伝達される。
【0019】
M/G12は、充放電可能な二次電池であるバッテリー20に蓄電された電力がインバーター21を介して供給されることにより、回転軸14を回転させるトルクを発生させるモーターとして機能する。M/G12が発生させたトルクは、トランスミッション16および駆動軸17を介して駆動輪18に伝達される。また、M/G12は、例えばアクセルオフ時における回転軸14の回転を利用して発電した電力をインバーター21を介してバッテリー20に蓄電するジェネレーターとして機能する。
【0020】
トランスミッション16は、M/G12の回転軸14が有するトルクを変速し、その変速したトルクを駆動軸17を介して駆動輪18に伝達する。トランスミッション16は、複数の変速比Rtを設定可能に構成されている。トランスミッション16は、変速比Rtが段階的に変化するオートマチックトランスミッションであってもよいし、変速比Rtが連続的に変化する連続可変トランスミッションであってもよい。
【0021】
インバーター21は、M/G12をモーターとして機能させる場合、バッテリー20からの直流電圧を交流電圧に変換してM/G12に電力を供給する。また、インバーター21は、M/G12をジェネレーターとして機能させる場合、M/G12からの交流電圧を直流電圧に変換してバッテリー20に供給し、バッテリー20を充電する。
【0022】
上述したエンジン11、インバーター21、および、トランスミッション16は、車両10を統括制御する制御装置30によって制御される。
制御装置30は、ハイブリッドECU31、エンジンECU32、インバーターECU33、バッテリーECU34、トランスミッションECU35、情報ECU36などで構成されており、各ECU31〜36は、例えばCAN(Control Area Network)を介して互いに接続されている。
【0023】
図2に示すように、各ECU31〜36は、プロセッサ41、メモリ42、入力インターフェース43、および、出力インターフェース44等がバス45を介して互いに接続されたマイクロコントローラー40を中心に構成されている。各ECU31〜36は、車両10の状態に関する情報である状態情報を取得し、その取得した状態情報、および、メモリ42に格納された制御プログラムや各種のデータに基づいて各種の処理を実行する。
【0024】
図1に示すように、ハイブリッドECU31は、各ECU32〜36が出力した各種の情報を入力インターフェースを介して取得する。例えば、ハイブリッドECU31は、エンジンECU32からの信号に基づいて、開度取得部としてアクセルペダル51の開度であるアクセル開度ACC、エンジン11の回転軸13の回転数であるエンジン回転数Ne、エンジン11における燃料噴射量Gfなどを取得する。ハイブリッドECU31は、インバーターECU33からの信号に基づいてM/G12の回転軸14の回転数であるモーター回転数Nm、および、バッテリーECU34からの信号に基づいてバッテリー20の充電率SOC(State Of Charge)などを取得する。ハイブリッドECU31は、トランスミッションECU35からの信号に基づいて、クラッチ15の断接状態、トランスミッション16における変速比Rtなどを取得する。ハイブリッドECU31は、情報ECU36からの信号に基づいて、車速、走行路の傾斜角、車両10の正面前方に位置する先行車両の有無、先行車両との車間距離および相対速度などを取得する。
【0025】
ハイブリッドECU31は、取得した情報に基づいて各種の制御信号を生成し、その生成した制御信号を各ECU32〜36に出力する。
ハイブリッドECU31は、エンジン11への指示トルクであるエンジン指示トルクTerefを演算し、その演算したエンジン指示トルクTerefを示す制御信号をエンジンECU32に出力する。
【0026】
ハイブリッドECU31は、M/G12に対する指示トルクであるモーター指示トルクTmrefを演算し、その演算したモーター指示トルクTmrefを示す制御信号をインバーターECU33に出力する。
【0027】
ハイブリッドECU31は、クラッチ15の断接を指示する制御信号、および、トランスミッション16における変速比Rtを示す制御信号をトランスミッションECU35に出力する。例えば、ハイブリッドECU31は、車両10をM/G12のみで走行させる場合や下り勾配の走行中にM/G12をジェネレーターとして機能させる場合などにクラッチ15を切断状態に制御する制御信号をトランスミッションECU35に出力する。ハイブリッドECU31は、車両10をエンジン11で走行させる場合やバッテリー20をエンジン11の駆動により充電する場合などにクラッチ15を接続状態に制御する制御信号をトランスミッションECU35に出力する。ハイブリッドECU31は、その時々のアクセル開度ACCやエンジン回転数Ne、および、モーター回転数Nm等に適した変速比Rtを示す制御信号をトランスミッションECU35に出力する。
【0028】
エンジンECU32は、ハイブリッドECU31から入力されたエンジン指示トルクTerefの分のトルクが回転軸13に作用するように、燃料噴射量Gfや噴射タイミングなどを制御することによりエンジン11の出力を制御する。
【0029】
インバーターECU33は、ハイブリッドECU31から入力されたモーター指示トルクTmrefの分のトルクが回転軸14に作用するようにインバーター21を制御する。なお、モーター指示トルクTmrefは、M/G12をモーターとして機能させる際には走行トルク、M/G12をジェネレーターとして機能させる際には発電トルクという。
【0030】
バッテリーECU34は、バッテリー20の充放電電流を監視し、該充放電電流の積算値に基づいてバッテリー20の充電率SOCを演算する。
トランスミッションECU35は、ハイブリッドECU31からのクラッチ15の断接要求に応じてクラッチ15の断接を制御する。また、トランスミッションECU35は、ハイブリッドECU31からの変速比Rtを示す制御信号に基づいてトランスミッション16の変速比Rtを制御する。
【0031】
情報ECU36は、例えば車速センサー、傾斜角センサー、および、車間センサーなどで構成された情報取得部53からの信号に基づいて、車両10の車速、走行路の傾斜角、先行車両の有無、先行車両との車間距離および相対速度などの情報を取得する。
【0032】
図3を参照して、ハイブリッドECU31が実行する運転支援制御である加速制限制御の概要を説明する。ハイブリッドECU31は、ドライバーによって操作される操作部55からの信号に基づいて、加速制限制御の実行を許可する操作スイッチがON状態にあるときに加速制限制御を実行可能に構成されている。加速制限制御において、ハイブリッドECU31は、エンジン11の出力を制限する出力制限装置として機能する。
【0033】
図3に示すように、ハイブリッドECU31は、情報ECU36からの信号に基づいて、車間センサーの検出範囲D内に先行車両10pが存在する場合に該先行車両10pを対象として加速制限制御を実行する。加速制限制御において、ハイブリッドECU31は、車間距離Xactが車速Vfに応じた目標車間距離Xrefよりも小さくなると車間距離Xactが目標車間距離Xrefで維持されるようにエンジン11の出力可能なトルクを制限する。また、ハイブリッドECU31は、先行車両10pを追い越す際など運転者が加速を要求するときには車両10がスムーズに加速するようにエンジン11の出力可能なトルクを制限する。加速制限制御においては、こうしたトルクの制限により、車両10の加速度の最大値を制限する。なお、加速度は、減速を示すマイナス値から加速を示すプラス値までをとる。
【0034】
図4図7を参照して、加速制限制御の実行中にハイブリッドECU31が演算するエンジン指示トルクTerefについて詳しく説明する。
図4に示すように、ハイブリッドECU31は、加速制限制御におけるエンジン指示トルクTerefの演算に関連して、要求トルク演算部61、状態取得部62、保証率演算部63、保証トルク演算部64、目標トルク演算部65、制限トルク演算部66、および、指示トルク演算部67といった各種の機能部を有している。
【0035】
要求トルク演算部61は、アクセル開度ACCなどに基づいて運転者が要求しているトルクである要求トルクTdrvを演算する。
状態取得部62は、車両10の状態に関する情報である状態情報を取得する。状態情報は、運転者からの加速要求の頻度や加速時に必要とされるエンジン11のトルクの大きさを把握するための情報である。状態取得部62は、状態情報としてトランスミッション16における変速比Rtを取得する。また、状態取得部62は、車両重量演算部として機能し、例えば、アクセル開度ACC、エンジン回転数Ne、車速Vf、および、トランスミッション16における変速比Rtなどに基づいて車両10の重量Wを演算する。そして状態取得部62は、その演算した重量Wを状態情報として取得する。
【0036】
ここで、トランスミッション16における変速比Rtはアクセルオフ時におけるエンジンブレーキによる減速度合いを示し、重量Wはアクセルオフ時における走行抵抗の大きさを示している。そのため、状態情報は、換言すれば、水平な走行路を走行し、かつ、アクセルをオフにしたときの減速のしやすさを示す情報ともいえる。
【0037】
保証率演算部63は、アクセル開度ACCに基づいてドライバーからの要求トルクTdrvに対する保証率ηを演算する。
図5に示すように、保証率演算部63は、アクセル開度ACCが0から第1開度ACC1までの場合は最低保証率ηminを保証率ηとして演算する。保証率演算部63は、アクセル開度ACCが第1開度ACC1から第2開度ACC2までの場合はアクセル開度ACCが大きいほど大きな値を保証率ηとして演算する。保証率演算部63は、アクセル開度ACCが第2開度ACC2以上である場合は100%、すなわち要求トルクTdrvが保証トルクTgとなる値を保証率ηとして演算する。
【0038】
また、保証率演算部63は、状態取得部62の取得した状態情報に基づいて最低保証率ηminを変更する。保証率演算部63は、状態取得部62の取得する重量Wが小さくなるほど小さな値に最低保証率ηminを変更し、反対に、重量Wが大きくなるほど大きな値に最低保証率ηminを変更する。例えば、保証率演算部63は、重量Wごとの最低保証率ηminを保持しており、重量Wに応じた値を選択することにより最低保証率ηminを演算する。
【0039】
また、保証率演算部63は、トランスミッション16の変速比Rtが小さいほど小さな値に最低保証率ηminを変更し、反対に、トランスミッション16の変速比Rtが大きいほど大きな値に最低保証率ηminを変更する。例えば、保証率演算部63は、変速比Rtの単位変化量に対する最低保証率ηminの増減量を保持しており、重量Wに基づいて選択した最低保証率ηminを変速比Rtの変化量に応じた増減量の分だけ増減させた値を最低保証率ηminとして演算する。
【0040】
図6(a)に示すように、保証率演算部63は、最低保証率ηminを小さくする際、第2開度ACC2、および、変更前の第1開度ACC1から第2開度ACC2までの区間における保証率ηの変化率を維持したまま第1開度ACC1を小さくする。また、図6(b)に示すように、保証率演算部63は、最低保証率ηminを大きくする際、第2開度ACC2、および、変更前の第1開度ACC1から第2開度ACC2までの区間における保証率ηの変化率を維持したまま第1開度ACC1を大きくする。
【0041】
保証トルク演算部64は、要求トルク演算部61の演算した要求トルクTdrvと、保証率演算部63の演算した保証率ηとを乗算することにより保証トルクTgを演算する。保証トルクTgは、要求トルクTdrvに対してエンジン11が出力可能なトルクの保証値である。
【0042】
目標トルク演算部65は、加速制限制御に基づくエンジン11のトルクである目標トルクTsを演算する。目標トルク演算部65は、車速Vf、先行車両10pとの車間距離Xactおよび相対速度ΔV(=車速Vf−先行車両10pの車速Vp)などに基づいて、車間距離Xactが車速Vfに応じた目標車間距離Xrefに維持されるエンジン11のトルクを目標トルクTsとして演算する。目標トルクTsは、言い換えれば、車両10の加速度を制限する加速度制限トルクである。
【0043】
制限トルク演算部66は、エンジン11の出力するトルクの制限値である制限トルクTlimを演算する。制限トルク演算部66は、保証トルクTgおよび目標トルクTsのうちの最大値を制限トルクTlimとして演算する。
【0044】
指示トルク演算部67は、エンジンECU32に出力するエンジン指示トルクTerefを演算する。指示トルク演算部67は、制限トルクTlimおよび要求トルクTdrvのうちの最小値をエンジン指示トルクTerefとして演算する。
【0045】
次に、図7を参照して、ハイブリッドECU31が出力するエンジン指示トルクTerefの推移の一例について説明する。図7は、加速制限制御により先行車両を追従している車両が該先行車両を追い越すまでの期間におけるアクセル開度ACC、保証率η、制限トルクTlim、および、エンジン指示トルクTerefの推移の一例を示す図である。
【0046】
図7に示すように、加速制限制御は時刻t1から時刻t5までの期間に行われる。時刻t1から時刻t3までの期間は車間距離Xactを目標車間距離Xrefに保持したまま先行車両10pを追従している期間であり、時刻t3から時刻t5までの期間は、先行車両10pに向かって加速している状態である。時刻t5は、十分な加速が得られた車両10が車線変更することにより、先行車両が加速制限制御の対象から外れる時刻である。
【0047】
加速制限制御を実行する実行する時刻t1から時刻t5において、ハイブリッドECU31は、アクセル開度ACCが第1開度ACC1よりも小さい時刻t1から時刻t2までの期間では、最低保証率ηminを保証率ηとして演算する。ハイブリッドECU31は、アクセル開度ACCが第1開度ACC1以上であり、かつ、第2開度ACC2よりも小さい時刻t2から時刻t4までの期間では、アクセル開度ACCが大きいほど最低保証率ηminよりも大きな値を保証率ηとして演算する。ハイブリッドECU31は、アクセル開度ACCが第2開度ACC2以上である時刻t4から時刻t5までの期間では、要求トルクTdrvが保証トルクTgとなる値(=100%)を保証率ηとして演算する。そして、ハイブリッドECU31は、保証トルクTgおよび目標トルクTsのうちの最大値を制限トルクTlimとして演算し、制限トルクTlimおよび要求トルクTdrvの最小値をエンジン指示トルクTerefとして出力する。
【0048】
そのため、保証トルクTgが目標トルクTsよりも小さい時刻t1から時刻t3までの期間にて、ハイブリッドECU31は、アクセル開度ACCが第1開度ACC1以上であっても、制限トルクTlimとして目標トルクTsを演算する。そして、ハイブリッドECU31は、要求トルクTdrvが目標トルクTs以上である時刻t1から時刻t3までの期間においては、目標トルクTsをエンジン指示トルクTerefとして出力する。
【0049】
一方、保証トルクTgが目標トルクTs以上となる時刻t3から時刻t5までの期間において、ハイブリッドECU31は、制限トルクTlimとして保証トルクTgを演算する。そして、ハイブリッドECU31は、アクセル開度ACCが第2開度ACC2よりも小さい時刻t3から時刻t4までの期間においては、保証トルクTgをエンジン指示トルクTerefとして出力する。また、ハイブリッドECU31は、アクセル開度ACCが第2開度ACC2以上の期間である時刻t4から時刻t5までの期間においては、要求トルクTdrvをエンジン指示トルクTerefとして出力する。なお、制限トルクTlimが保証トルクTgに切り替えられる時刻t3のアクセル開度ACCを切り替え開度ACC3という。
【0050】
上記実施形態のハイブリッドECU31によれば以下に列挙する作用効果が得られる。
(1)ハイブリッドECU31は、先行車両10pを追い越すときなど加速制限制御の実行中にアクセル開度ACCが第2開度ACC2以上の開度に向かって大きくなる過程において、制限トルクTlimを目標トルクTsから保証トルクTgへ切り替える。また、ハイブリッドECU31は、アクセル開度ACCが第1開度ACC1から第2開度ACC2に向かって大きくなる過程において保証トルクTgを緩やかに上昇させる。そのため、ハイブリッドECU31は、加速制限制御の実行中に目標トルクTsを超えて車両10を加速させる際にエンジン11の出力を緩やかに上昇させることができる。これにより、目標トルクTsによるエンジン11の出力制限が解除された前後においてドライバビリティが急激に変化することが抑えられる。その結果、エンジン11の出力制限が加速時のドライバビリティに与える影響を抑えることができる。
【0051】
(2)ハイブリッドECU31は、車両10の重量Wやトランスミッション16の変速比Rtといった車両10の状態情報に基づいて最低保証率ηminと第1開度ACC1とを変更する。これにより、その時々の車両10の状態情報に応じて切り替え開度ACC3を変更することができる。
【0052】
(3)ハイブリッドECU31は、重量Wが大きいほど大きな値を最低保証率ηminとして演算する。すなわち、ハイブリッドECU31は、所定の加速度で車両10を加速させる際に必要とされるエンジン11のトルクが大きいときほど最低保証率ηminとして大きな値を演算する。これにより、重量Wが大きいときほど切り替え開度ACC3を小さくすることができる。その結果、例えば貨物自動車といった重量Wの変化が大きい車両であっても、その時々の重量Wに応じた切り替え開度ACC3が設定されることとなる。その結果、加速時におけるドライバビリティが車両10の重量Wによって変化することを抑えることができる。
【0053】
(4)ハイブリッドECU31は、トランスミッション16の変速比Rtが大きいときほど最低保証率ηminに大きな値に演算する。すなわち、ハイブリッドECU31は、車両10の加速が行われやすいときほど切り替え開度ACC3を小さくする。これにより、車両10の加速をより早いタイミングから円滑に行うことができる。
【0054】
(5)ハイブリッドECU31は、変更前の第1開度ACC1から第2開度ACC2までの区間における保証率ηの変化率を維持したまま最低保証率ηminの変更に合わせて第1開度ACC1を変更する。そのため、最低保証率ηminが変化したとしても第1開度ACC1から第2開度ACC2までアクセル変化に対する保証トルクTgの変化率が維持される。その結果、最低保証率ηminに応じて加速時におけるドライバビリティが変化することを抑えることができる。
【0055】
(6)ハイブリッドECU31は、第2開度ACC2を維持したまま最低保証率ηminおよび第1開度ACC1を変更した。そのため、保証トルクTgが要求トルクTdrvとなるアクセル開度ACCに変化はないから、車両10の状態情報に応じて加速時におけるドライバビリティが変化することを抑えることができる。
【0056】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・最低保証率ηminの変更は、上述した方法に限られない。例えば図8(a)および図8(b)に示すように、ハイブリッドECU31は、第1開度ACC1と第2開度ACC2とを維持したまま、変更前の第1開度ACC1から第2開度ACC2までにおける保証率ηの変化率を変更してもよい。
【0057】
また、ハイブリッドECU31は、車両10の状態情報に応じて、最低保証率ηminを維持したまま第1開度ACC1および第2開度ACC2の少なくとも一方を変更してもよい。例えば、図9(a)に示すように、ハイブリッドECU31は、重量Wが大きいときなどには第1開度ACC1および第2開度ACC2を小さくしてもよい。こうした構成によれば、切り替え開度ACC3が小さくなることで上記(3)(4)に記載した効果を得ることができる。また例えば、図9(b)に示すように、ハイブリッドECU31は、重量Wが小さいときなどには第1開度ACC1および第2開度ACC2を大きくしてもよい。こうした構成によれば、上記(3)に記載した効果を得ることができる。なお、第1開度ACC1から第2開度ACC2までの保証率ηの変化率が維持されることにより、上記(5)に記載した効果を得ることができる。
【0058】
・ハイブリッドECU31は、トランスミッション16における変速比Rtに応じて最低保証率ηminを変更することなく車両10の重量Wのみに基づいて最低保証率ηmin等を変更してもよい。また、ハイブリッドECU31は、車両10の重量Wに応じて最低保証率ηminを変更することなくトランスミッション16における変速比Rtのみに基づいて最低保証率ηmin等を変更してもよい。
【0059】
・ハイブリッドECU31は、最低保証率ηminを演算する際、重量Wおよび変速比Rtを変数に含む所定の演算式の演算結果を最低保証率ηminとして演算してもよい。
・ハイブリッドECU31は、保証率ηに関して、最低保証率ηmin、第1開度ACC1、および、第2開度ACC2の各パラメーターの少なくとも1つを変更可能に構成されていればよい。そのため、ハイブリッドECU31は、例えば、車両10の状態情報として、車両10に対する傾斜抵抗や空気抵抗、ころがり抵抗などを演算により取得し、それらの抵抗に基づいて各パラメーターを変更してもよい。また、最低保証率ηmin、第1開度ACC1、および、第2開度ACC2の各々は、運転者による操作部55の操作によって各別に設定される構成であってもよい。
【0060】
・上述したハイブリッドECU31による加速制限制御は、動力源としてエンジン11とM/G12とを備えるハイブリッド自動車だけでなく、エンジン11のみを動力源として有する車両にも適用可能である。また、エンジンもディーゼルエンジンに限らず、例えばガソリンエンジンや天然ガスエンジンであってもよい。
【0061】
・加速制限制御は、先行車両10pを追従する際に実行されるものに限られない。例えば、加速制限制御は、先行車両10pの有無にかかわらず、車両10の車速Vfとトランスミッション16の変速比Rtとに基づく加速度以上で車両が加速しないようにエンジン11の出力可能なトルクを制限する制御であってもよい。
【0062】
・制御装置30は、複数のECU31〜36で構成されるものに限らず、各ECU31〜36の機能を有する1のECUで構成されていてもよい。
・目標トルクTsは、運転支援制御が実行されるエンジン11の目標トルクである。そのため、目標トルクTsは、上述した加速制限制御に限らず、他の運転支援制御が実行されるエンジン11の目標トルクであってもよい。他の運転支援制御としては、例えば、運転者が設定した設定速度に車速が保持されるようにアクセル開度ACCを自動的に制御する運転支援制御が挙げられる。また例えば、車速に応じた目標車間距離に車間距離が維持されたまま先行車両を追従するようにアクセル開度ACCを自動的に制御する運転支援制御であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…車両、10p…先行車両、11…エンジン、12…モータージェネレーター、13…回転軸、14…回転軸、15…クラッチ、16…トランスミッション、17…駆動軸、18…駆動輪、20…バッテリー、21…インバーター、30…制御装置、31…ハイブリッドECU、32…エンジンECU、33…インバーターECU、34…バッテリーECU、35…トランスミッションECU、36…情報ECU、40…マイクロコントローラー、41…プロセッサ、42…メモリ、43…入力インターフェース、44…出力インターフェース、45…バス、51…アクセルペダル、53…情報取得部、55…操作部、57…走行路、61…要求トルク演算部、62…状態取得部、63…保証率演算部、64…保証トルク演算部、65…目標トルク演算部、66…制限トルク演算部、67…指示トルク演算部。
図1
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図9