(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751749
(24)【登録日】2020年8月19日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】時計器ムーブメント用のヒゲゼンマイを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20200831BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
【請求項の数】21
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-234274(P2018-234274)
(22)【出願日】2018年12月14日
(65)【公開番号】特開2019-113549(P2019-113549A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2018年12月14日
(31)【優先権主張番号】17209686.9
(32)【優先日】2017年12月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
【審査官】
細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−140674(JP,A)
【文献】
特公昭48−014397(JP,B1)
【文献】
特開2014−035860(JP,A)
【文献】
特開昭62−270754(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0121696(US,A1)
【文献】
社団法人日本金属学会,金属および合金の状態図,金属データブック,日本,丸善株式会社,1993年 3月25日,改訂3版第5刷,第571頁,ISBN 4-621-03825-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
G04B 1/10−1/22
C22F 1/00−3/02
C22C 5/00−25/00
C22C 27/00−28/00
C22C 30/00−30/06
C22C 35/00−45/10
B21C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計器ムーブメントの天輪と嵌合させることが意図されているヒゲゼンマイを製造するための方法であって、
− ブランクを生成するステップであり、
− ニオブ:100wt%にするための残部、
− チタン:40〜60wt%、
− O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、Alで形成される群から選択される微量の元素であり、前記各元素は0〜1600重量ppmの範囲の量で存在し、前記元素のすべてにより形成される合計量は0〜0.3wt%の範囲である微量の元素
を含むニオブとチタンの合金であるニオブおよびチタン合金からブランクを生成するステップ、
− 所与の直径を有する前記ブランクを、前記ニオブおよびチタン合金のチタンは本質的にβ相ニオブを有する固溶体形態であり、α相チタン含有量は5容積%以下であるようにβクエンチングするステップ、
− 得られた前記ニオブおよびチタン合金が600MPa以上の弾性限界および100GPa以下の弾性係数を有するように、少なくとも1つの熱処理ステップと交互に行われ、前記ヒゲゼンマイを形成する巻線ステップは最終熱処理ステップの前に実施される、前記ニオブおよびチタン合金の少なくとも1つの変形ステップ、
を含み、前記変形ステップの前に、ワイヤー成形加工を容易にするために、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケルリンNiP、およびニッケルホウ素NiBを含む群から選択される延性材料の表面層を、前記ブランクに堆積させるステップであり、前記堆積された延性材料層の厚さは、ワイヤーの所与の断面における延性材料の面積のNbTi合金の面積に対する比が、1未満の範囲になるように選択されるステップを含む、製造方法。
【請求項2】
前記堆積された延性材料層の厚さは、ワイヤーの所与の断面における延性材料の面積のNbTi合金の面積に対する比が、0.5未満の範囲になるように選択される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記堆積された延性材料層の厚さは、ワイヤーの所与の断面における延性材料の面積のNbTi合金の面積に対する比が、0.01〜0.4の範囲になるように選択される請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記変形ステップ後に、前記延性材料の表面層を除去するステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記延性材料の表面層は保持されており、前記ニオブおよびチタン合金の熱弾性係数は適切に調節されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記保持されている延性材料の表面層に、前記表面層の前記延性材料とは異なるように選択される銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、銀、ニッケルリンNiP、ニッケルホウ素NiB、金;Al2O3、TiO2、SiO2、およびAlOを含む群から選択される材料の最終層を堆積するステップを含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記変形ステップは、伸線および/または圧延加工を含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ニオブおよびチタン合金に施される最終変形処理は、圧延加工である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
総変形率(総変形率とは、式2ln(d0/d)を満たし、ベータクエンチングステップまたは変形ステップをする前の前記ブランクの前記所与の直径をd0とし、最終的な変形ステップのあとのワイヤーの直径をdとするもの)、熱処理の数、および熱処理パラメーターは、可能な限り0に近い熱弾性係数を有するヒゲゼンマイを得るように選択される、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記βクエンチングステップは、継続期間が5分〜2時間の範囲であり、温度が700℃〜1000℃の範囲であり、その後ガス冷却される、減圧下での固溶化処理である、請求項1から9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理は、350℃〜700℃の範囲の温度で、1時間〜80時間の継続期間にわたって実施される、請求項1から10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理および前記変形ステップの数は、得られた前記ヒゲゼンマイの前記ニオブおよびチタン合金が、前記ニオブおよびチタン合金のチタンは本質的にβ相ニオブを有する固溶体形態であり、α相チタン含有量は10容積%以下である構造を保持するように制限される、請求項1から11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
1〜5の範囲の変形率(変形率とは、数式2ln(d0/d)を満たし、式中、d0は直前のβクエンチングの直径であり、dは、次の変形ステップで得られる硬化ワイヤーの直径)での単一の変形ステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
2〜5の範囲の変形率(変形率とは、数式2ln(d0/d)を満たし、式中、d0は直前のβクエンチングの直径であり、dは、次の変形ステップで得られる硬化ワイヤーの直径)での単一の変形ステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記βクエンチングステップ後に、変形ステップ、巻線ステップ、および熱処理ステップを含む、請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
中間熱処理ステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記熱処理は、350℃〜600℃の範囲の温度で、5時間〜10時間の継続期間にわたって実施される、請求項12から16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
前記熱処理は、400℃〜500℃の範囲の温度で、3時間〜6時間の継続期間にわたって実施される、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
β相チタンを有するニオブの固溶体およびα相チタンを有するニオブの固溶体を含み、α相チタン含有量は10%容積よりも大きい二相マイクロ構造のニオブおよびチタン合金が得られるまで、熱処理ステップと交互に行われる変形ステップの手順の連続が施される、請求項1から11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項20】
前記各変形は、1〜5の範囲の変形率で実施され、前記手順の連続のすべてにわたる変形の累積合計は、1〜14の範囲の総変形率(総変形率とは、式2ln(d0/d)を満たし、ベータクエンチングステップまたは変形ステップをする前の前記ブランクの前記所与の直径をd0とし、最終的な変形ステップのあとのワイヤーの直径をdとするもの)に結び付く、請求項19に記載の製造方法、
【請求項21】
前記熱処理は、350℃〜500℃の範囲の温度で、15時間〜75時間の継続期間にわたって実施される、請求項19または20に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計器ムーブメントの天輪と嵌合させることが意図されているヒゲゼンマイを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測時学用のヒゲゼンマイの製造には、一見すると両立しないかのように思われる、以下のような制約がある。
− 高い弾性限界を得ることが必要であること、
− 製造、特に伸線および圧延が容易であること、
− 耐疲労性が優れていること、
− 経時的に性能が安定していること、
− 断面が小さいこと。
【0003】
ヒゲゼンマイの生産は、規則正しいクロノメトリー性能を保証するため、温度補償に関する懸念への対処を焦点としている。そのためには、熱弾性係数が0に近いことが必要である。また、磁場の影響を受けにくいヒゲゼンマイを生産することが求められる。
【0004】
ニオブおよびチタン合金製の新しいヒゲゼンマイが開発されている。しかしながら、そうした合金は、延伸または伸線ダイス(ダイヤモンドまたは硬質金属)および圧延ローラー(硬質金属または鋼)に固着し目詰させるという問題を起こし、例えば鋼で使用される標準的な方法によりこうした合金を細線へと変形させることを、事実上不可能にしてしまう。
【0005】
したがって、こうした点の少なくとも1つ、特に製造、特に伸線および圧延の容易さが少しでも改善されれば、それは著しい進歩である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、時計器ムーブメントの天輪と嵌合させることが意図されているヒゲゼンマイを製造するための方法であって、変形を容易にすることが可能であり、より詳しくは容易な圧延加工を得ることが可能な方法を提案することに関する。
【0007】
そのため、本発明は、時計器ムーブメントの天輪と嵌合させることが意図されているヒゲゼンマイを製造するための方法に関し、
− ブランクを生成するステップであり、
− ニオブ:100wt%にするための残部、
− チタン:40〜60wt%、
− O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、Alで形成される群から選択される微量の元素であり、上記元素の各々は、0〜1600重量ppmの範囲の量で存在し、上記元素のすべてにより形成される合計量は、0〜0.3wt%である微量の元素、
を含むニオブおよびチタン合金からブランクを生成するステップ:
− 所与の直径を有する上記ブランクを、上記合金のチタンは本質的にβ−相ニオブ(体心立方構造)を有する固溶体形態であり、α相チタン(六方最密構造)の含有量は5容積%以下であるように、βクエンチングするステップ、
− 得られた上記ニオブおよびチタン合金が600MPa以上の弾性限界および100GPa以下の弾性係数を有するように、少なくとも1つの熱処理ステップと交互に行われ、ヒゲゼンマイを形成する巻線ステップは最終熱処理ステップの前に実施される、上記合金の少なくとも1つの変形ステップ、
を含む。
【0008】
本発明によると、本方法は、変形ステップの前に、ワイヤー成形加工を容易にするために、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケルリンNiP、およびニッケルホウ素NiBを含む群から選択される延性材料の表面層を、合金ブランクに堆積させるステップであり、堆積された延性材料層の厚さは、ワイヤーの所与の断面における延性材料の面積のNbTi合金の面積に対する比が、1未満、好ましくは0.5未満、およびより好ましくは0.01〜0.4の範囲になるように選択される、ステップを含む。
【0009】
そのような製造方法は、NbTi合金ブランクのワイヤーへの成形、より具体的には、延伸、伸線、および圧延加工を容易にする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、時計器ムーブメントの天輪と嵌合させることが意図されており、ニオブおよびチタンを含む二元合金で作られているヒゲゼンマイを製造するための方法に関する。
【0011】
このヒゲゼンマイを製作するために、
− ニオブ:100wt%にするための残部、
− チタン:40〜60wt%、
− O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、Alで形成される群から選択される微量の元素であり、上記元素の各々は、0〜1600重量ppmの範囲の量で存在し、上記元素のすべてにより形成される合計量は、0〜0.3wt%である微量の元素、
を含み、チタンは本質的にβ相ニオブを有する固溶体形態であり、α相チタンの含有量は5容積%以下であるニオブおよびチタン合金で作られているブランクが使用される。
【0012】
ブランク合金中のα相チタン含有量は、好ましくは、2.5容積%以下、または0に近いかもしくは0である。
【0013】
有利には、本発明で使用される合金は、40〜49wt%のチタン、好ましくは44〜49wt%のチタン、およびより好ましくは46〜48wt%のチタンを含み、好ましくは、上記合金は、46.5wt%を超えるチタンを含み、上記合金は、47.5wt%未満のチタンを含む。
【0014】
チタン含有量が高すぎると、マルテンサイト相が出現し、使用中に、合金の脆性という問題が引き起こされる。ニオブ含有量が高すぎると、合金は、過度に軟質になる。本発明の開発は、妥協値の決定を可能にし、これら2つの特徴間の最適値は、47wt%付近のチタンである。
【0015】
加えて、より詳しくは、チタン含有量は、組成物全体に対して46.5wt%以上である。
【0016】
より詳しくは、チタン含有量は、組成物全体に対して47.5wt%以下である。
【0017】
特に有利な様式では、本発明で使用されるNbTi合金は、任意の不可避な微量物を除いて、いかなる他の元素も含まない。これにより、脆性相の形成を回避することが可能になる。
【0018】
より詳しくは、酸素含有量は、全体の0.10wt%以下、または全体の0.085wt%以下である。
【0019】
より詳しくは、タンタル含有量は、全体の0.10wt%以下である。
【0020】
より詳しくは、炭素含有量は、全体の0.04wt%以下、特に全体の0.020wt%以下、または全体の0.0175wt%以下である。
【0021】
より詳しくは、鉄含有量は、全体の0.03wt%以下、特に全体の0.025wt%以下、または全体の0.020wt%以下である。
【0022】
より詳しくは、窒素含有量は、全体の0.02wt%以下、特に全体の0.015wt%以下、または全体の0.0075wt%以下である。
【0023】
より詳しくは、水素含有量は、全体の0.01wt%以下、特に全体の0.0035wt%以下、または全体の0.0005wt%以下である。
【0024】
より詳しくは、ケイ素含有量は、全体の0.01wt%以下である。
【0025】
より詳しくは、ニッケル含有量は、全体の0.01wt%以下、特に全体の0.16wt%以下である。
【0026】
より詳しくは、合金中の銅などの延性材料の含有量は、全体の0.01wt%以下、特に全体の0.005wt%以下である。
【0027】
より詳しくは、アルミニウム含有量は、全体の0.01wt%以下である。
【0028】
本発明に従って作られるヒゲゼンマイは、600MPa以上の弾性限界を有する。
【0029】
有利には、このヒゲゼンマイは、100GPa以下の、好ましくは60GPa〜80GPaの範囲の弾性係数を有する。
【0030】
さらに、本発明に従って作られるヒゲゼンマイは、そのようなヒゲゼンマイが組み込まれた時計の使用温度が変動してもクロノメトリック性能が維持されることを保証する熱弾性係数または「TEC」を有する。
【0031】
スイス公式クロノメーター検査協会(COSC)の条件を満たすクロノメトリー振動子を形成するためには、合金のTECは、±0.6s/d/℃と等しい振動子の温度係数を得るように、0に近い値でなければならない(±10ppm/℃)。
【0032】
合金のTECを、ヒゲゼンマイおよび天輪の膨張係数と関連づける数式は以下の通りである。
【0034】
変数MおよびTは、それぞれ比および温度である。Eは、ヒゲゼンマイのヤング率であり、この数式では、E、β、およびαは、℃
-1で表されている。
【0035】
TCは、振動子の温度係数であり、(1/E.dE/dT)は、ヒゲゼンマイ合金のTECであり、βは、天輪の膨張係数であり、αは、ヒゲゼンマイの膨張係数である。
【0036】
以下の記載から分かるように、本発明の種々のステップの実施中に、好適なTEC、およびしたがってTCを得ることは容易である。
【0037】
本発明によると、上記で定義されているような二元NbTi合金で作られているヒゲゼンマイを製造するための方法は、
− ブランクを生成するステップであり、
− ニオブ:100wt%にするための残部、
− チタン:40〜60wt%、
− O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、Alで形成される群から選択される微量の元素であり、上記元素の各々は、0〜1600重量ppmの範囲の量で存在し、上記元素のすべてにより形成される合計量は、0〜0.3wt%である微量の元素
を含むニオブおよびチタン合金からブランクを生成するステップ、
− 所与の直径を有する上記ブランクを、上記合金のチタンは本質的にβ相ニオブを有する固溶体形態であり、α相チタンの含有量は5容積%以下であるようにβクエンチングするステップ、
− 得られたニオブおよびチタン合金が600MPa以上の弾性限界および100GPa以下の弾性係数を有するように、少なくとも1つの熱処理ステップと交互に行われ、ヒゲゼンマイを形成する巻線ステップは、最終熱処理ステップの前に実施され、この最終ステップは、ヒゲゼンマイの形状を固定し、熱弾性係数を調整することを可能にする、上記合金の少なくとも1つの変形ステップ、および
− 変形ステップの前に、ワイヤー成形加工を容易にするために、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケルリンNiP、およびニッケルホウ素NiBを含む群から選択される延性材料の表面層を、合金ブランクに堆積させるステップであり、堆積された延性材料層の厚さは、ワイヤーの所与の断面における延性材料の面積のNbTi合金の面積に対する比が、1未満、好ましくは0.5未満、およびより好ましくは0.01〜0.4の範囲になるように選択される、ステップ
を含む。
【0038】
延性材料、特に銅のこの厚さは、複合Cu/NbTi材料を容易に延伸、伸線、および圧延することを可能にする。
【0039】
したがって、延性材料、好ましくは銅は、延伸および伸線によるワイヤー成形加工を容易にするために、0.2〜1ミリメートルの最終直径を有するワイヤー上での厚さが、好ましくは依然として1〜500マイクロメーターの範囲になるように、所与の時点で堆積される。
【0040】
延性材料、特に銅の付加は、ガルバニックプロセス、PVDもしくはCVDプロセス、または機械的プロセスであってもよく、したがって、延性材料は、粗直径を有するニオブ−チタン合金バーに嵌合され、その後、複合材バーを変形させる1つまたは複数のステップ中に薄化される、銅などの延性材料のスリーブまたはチューブである。
【0041】
第1の変形例によると、本発明の方法は、変形ステップの後に、上記延性材料の表面層を除去するステップを含んでいてもよい。好ましくは、延性材料は、処理および変形作業がすべて実施された後、つまり巻線作業の前かつ最終圧延作業の後に除去される。
【0042】
好ましくは、銅などの延性材料は、特に、シアン化物に基づく溶液または酸に基づく溶液、例えば硝酸を用いた、エッチングにより、ワイヤーから除去される。
【0043】
本発明の方法の別の変形例によると、延性材料の表面層は、ヒゲゼンマイに保持され、ニオブおよびチタン合金の熱弾性係数は、延性材料の効果を相殺するために適宜調節される。以下の記載から分かるように、ニオブおよびチタン合金の熱弾性係数は、好適な変形率および好適な熱処理を選択することにより容易に調整することができる。延性材料の表面層が保持されていることにより、完全に規則的な最終ワイヤー断面を得ることが可能になる。延性材料は、本明細書では銅または金であってもよく、ガルバニック手段、PVD、またはCVDにより堆積することができる。
【0044】
本発明の方法はまた、保持されている延性材料の表面層に、PVDまたはCVDにより、Al
2O
3、TiO
2、SiO
2、およびAlOを含む群から選択される材料の最終層を堆積させるステップを含んでいてもよい。また、金が既に表面層の延性材料として使用されていない場合、金のフラッシュメッキにより堆積される最終金層を設けてもよい。また、最終層の材料が表面層の延性材料と異なるという前提において、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、銀、ニッケルリンNiP、およびニッケルホウ素NiBを最終層に使用することも可能である。
【0045】
この最終層は、0.1μm〜1μmの厚さを有し、ヒゲゼンマイの染色を可能にするか、または風化作用(温度および湿度)に対する耐性を得ることを可能にする。
【0046】
好ましくは、βクエンチングは、継続期間が5分〜2時間の範囲であり、温度が700℃〜1000℃の範囲であり、その後ガス冷却される、減圧下での固溶化処理である。
【0047】
さらにより詳しくは、ベータクエンチングは、800℃で5分〜1時間の、その後ガス冷却される、減圧下での固溶化処理である。
【0048】
好ましくは、熱処理は、1時間から80時間またはそれよりも長期間、好ましくは1時間〜15時間の継続期間にわたって、350℃〜700℃の範囲の温度で実施される。より好ましくは、熱処理は、5時間から10時間の継続期間にわたって、350℃〜600℃の範囲の温度で実施される。さらにより好ましくは、熱処理は、3時間から6時間の継続期間にわたって、400℃〜500℃の範囲の温度で実施される。
【0049】
変形ステップは、一般的に、伸線および/または圧延を含んでいてもよい、1つまたは複数の変形処理を指す。伸線は、同じ変形ステップ中に、または必要に応じて種々の変形ステップ中に、1つまたは複数のダイスの使用を必要とする場合がある。伸線は、断面が円形のワイヤーが得られるまで実施される。圧延は、伸線と同じ変形ステップで、または別のその後の変形ステップで実施してもよい。有利には、合金に施される最終変形処理は、圧延加工であり、好ましくは、ワインダースピンドルの供給口断面と適合する矩形外形への圧延加工である。
【0050】
特に有利な様式では、総変形率、熱処理の数、および熱処理パラメーターは、可能な限り0に近い熱弾性係数を有するヒゲゼンマイを得るように選択される。さらに、総変形率、熱処理の数、および熱処理パラメーターに応じて、単相または二相NbTi合金が得られる。
【0051】
より詳しくは、第1の変形例によると、熱処理および変形ステップの数は、得られるヒゲゼンマイのニオブおよびチタン合金が、上記合金のチタンは本質的にβ相ニオブ(体心立方構造)を有する固溶体形態であり、α相チタン含有量は10容積%以下、好ましくは5容積%以下、およびより好ましくは2.5容積%以下である構造を保持するように、制限される。
【0052】
好ましくは、総変形率は、1〜5の範囲であり、好ましくは2〜5である。
【0053】
特に有利な様式では、熱処理および変形の数を制限し、NbTi合金の本質的に単一のβ相構造を保持するように、所望の最終寸法に可能な限り近い寸法のブランクが使用される。ヒゲゼンマイのNbTi合金の最終構造は、ブランクの初期構造と異なっていてもよく、例えば、α相チタン含有量は様々に異なるものとなっていてもよく、不可欠な点は、ヒゲゼンマイのNbTi合金の最終構造は、本質的に単相であり、上記合金のチタンは、本質的にβ相ニオブを有する固溶体形態であり、α相チタン含有量は、10容積%以下、好ましくは5容積%以下、およびより好ましくは2.5容積%以下であることである。βクエンチング後のブランク合金では、α相チタン含有量は、好ましくは5容積%以下、より好ましくは2.5容積%以下、またはさらに0に近いかもしくは0である。
【0054】
したがって、この変形例によると、β−Nb−Ti固溶体形態の本質的に単層の構造を有し、α相チタン含有量は10容積%以下であるNbTi合金で作られているヒゲゼンマイが得られる。
【0055】
好ましくは、本方法は、1〜5の範囲の、好ましくは2〜5の変形率での単一の変形ステップを含む。
【0056】
したがって、本発明の特に好ましい方法は、βクエンチングステップ後に、延性材料の表面層を合金ブランクに堆積するステップ、幾つかのダイスからの伸線、その後の圧延加工を含む変形ステップ、巻線ステップ、およびその後の最終処理ステップ(固定と呼ばれる)を含む。
【0057】
本発明の方法は、少なくとも1つの中間熱処理ステップをさらに含み、したがって、本方法は、例えば、βクエンチングステップ後に、延性材料の表面層を合金ブランクに堆積するステップ、第1の変形ステップ、中間熱処理ステップ、第2の変形ステップ、巻線ステップ、およびその後の最終処理ステップを含む。
【0058】
βクエンチングステップ後の変形率が高いほど、温度係数TCはより正の値になる。材料が、βクエンチングステップ後に、種々の熱処理により好適な温度範囲内でより多く焼き戻されるほど、温度係数TCはより負の値になる。変形率および熱処理パラメーターを好適に選択することにより、単相NbTi合金のTECを0に近づけることが可能であり、これは特に有利である。
【0059】
第2の変形例によると、β相チタン(体心立方構造)を有するニオブの固溶体およびα相チタン(六方最密構造)を有するニオブの固溶体を含み、α相チタン含有量は10%容積よりも高い二相構造を有するニオブおよびチタン合金が得られるまで、熱処理ステップと交互に行われる一連の変形ステップの手順が施される。
【0060】
そのような二相構造を得るためには、上述のパラメーターに従って熱処理間の変形が大きい熱処理を行うことにより、α相の一部を析出させることが必要である。しかしながら、好ましくは、単相バネ合金を得るために使用されるものよりも長い熱処理が施され、例えば、熱処理は、350℃〜500℃の範囲の温度で15時間〜75時間の継続期間にわたって実施される。例えば、熱処理は、350℃で75時間〜400時間、400℃で25時間、または480℃で18時間にわたって施される。
【0061】
この第2の「二相」変形例では、βクエンチング後に、第1の「単層」変形例で調製したブランクよりも大幅に大きな直径を有するブランクが使用される。したがって、第2の変形例では、例えば、βクエンチング後の直径が30mmのブランクが使用されるが、第1の変形例では、βクエンチング後の直径が0.2〜2.0mmのブランクが使用される。
【0062】
好ましくは、こうした対の変形/熱処理手順では、各変形は、1〜5の範囲の変形率で実施され、上記手順の連続のすべてにわたる変形の累積合計は、1〜14の範囲の総変形率に結び付く。
【0063】
変形率は、従来の数式2ln(d0/d)を満たし、式中、d0は最終ベータクエンチングの直径または変形ステップの直径であり、dは、次の変形ステップで得られる硬化ワイヤーの直径である。
【0064】
有利には、本方法は、この第2の変形例では、3対〜5対の変形/熱処理手順を含む。
【0065】
より詳しくは、最初の対の変形/熱処理手順は、断面が少なくとも30%低減される第1の変形を含む。
【0066】
より詳しくは、各対の変形/熱処理手順は、第1の変形の他に、断面が少なくとも25%低減される、2つの熱処理間の1つの変形を含む。
【0067】
この第2の変形例では、冷間加工β相合金は、大きな正の値のTCを有するため、大きな負の値のTCを有するα相を析出させることにより、二相合金のTECを0に近づけることが可能になる。これは特に有利である。
【0068】
したがって、本発明の方法は、典型的には47wt%のチタン(40〜60%)を有し、チタンはβ相ニオブを有する固溶体形態である本質的に単相のβ−Nb−Tiマイクロ構造、またはβ相チタンを有するニオブの固溶体およびα相チタンを有するニオブの固溶体を含む非常に薄い二相層状マイクロ構造を有するニオブ−チタン合金で作られている天輪用のヒゲゼンマイを生産すること、およびより詳しくは成形することを可能とする。この合金は、高い機械的特性を有し、この特性は、600MPaを超える非常に高い弾性限界、および約60GPa〜80GPaの非常に低い弾性係数と組み合わさる。この特性の組合せは、ヒゲゼンマイにとって非常に好適である。
【0069】
そのような合金は公知であり、磁気共鳴撮像装置または粒子加速器などの超電導体の製造に使用されているが、測時学では使用されていない。
【0070】
また、本発明を実施するための前述のタイプの、ニオブおよびチタンを含む二元合金は、「エリンバー」と同様の効果を有し、時計の通常使用温度範囲において熱弾性係数が事実上0であり、自己補償性ヒゲゼンマイの製造に好適である。
【0071】
さらに、そのような合金は常磁性である。
【0072】
ここで、以下の非限定的な実施例により、本発明をより詳細に説明するものとする。
【0073】
53wt%のニオブおよび47wt%チタンで形成されており、伸線作業の前に種々の厚さの銅の表面層でコーティングされている、単相(実施例1〜3)および二相(実施例4)のニオブに基づく合金で作られている所与の直径の種々のワイヤーから、種々のヒゲゼンマイを、本発明の方法に従って製造した。
【0077】
これら実施例は、所与のワイヤー断面における銅面積のNbTi合金面積に対する比が、1未満、好ましくは0.5未満、およびより好ましくは0.01から0.4の範囲である場合のみ、Cu/NbTi複合材を容易に圧延することが可能であることを示している。銅の厚さは、延伸または伸線加工中にワイヤーをダイスに挿入するために必要な先端(やすりがけまたは熱延伸により生成される)が、銅でコーティングされるように、最適化されている。