特許第6751799号(P6751799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751799
(24)【登録日】2020年8月19日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】自転車の変速装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/55 20100101AFI20200831BHJP
   B62M 11/06 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   B62M6/55
   B62M11/06 C
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-106072(P2019-106072)
(22)【出願日】2019年6月6日
(62)【分割の表示】特願2015-63156(P2015-63156)の分割
【原出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2019-142504(P2019-142504A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2019年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴士
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/186159(WO,A1)
【文献】 特許第5523636(JP,B1)
【文献】 実公昭45−026888(JP,Y1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0210552(US,A1)
【文献】 特開2004−237828(JP,A)
【文献】 実開昭55−142738(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/55
B62M 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転軸と、
出力部と、
前記入力回転軸の回転が伝達されるように構成される第1回転体と、前記入力回転軸の回転が伝達されるように構成され、前記第1回転体とは異なる第4回転体と、前記入力回転軸の回転を前記第1回転体に伝達し、前記第1回転体に対して相対回転不能に構成される伝達体とを含む変速機構と、
前記第1回転体から前記出力部に回転が伝達されない第3状態と、前記第1回転体から前記出力部に回転が伝達される第4状態とを切り替えるように構成されるワンウェイクラッチと、前記第4回転体から前記出力部に回転が伝達される第5状態と、前記第4回転体から前記出力部に回転が伝達されない第6状態とを切り替えるように構成される切替部とを含み、前記入力回転軸の回転速度に対する前記出力部の回転速度の比率が第1比率になる第1状態と、前記比率が前記第1比率とは異なる第2比率になる第2状態とを切り替えるように構成される切替機構とを備え、
前記第1状態は、前記第3状態と前記第5状態とを含み、
前記第2状態は、前記第4状態と前記第6状態とを含む、自転車の変速装置。
【請求項2】
前記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の一方向の回転速度が前記出力部の一方向の回転速度未満のときに、前記第3状態になるように前記第1回転体と前記出力部との相対回転を許容し、前記入力回転軸の一方向の回転速度が前記出力部の一方向の回転速度以上のときに、前記第4状態になるように前記第1回転体と前記出力部とを一体回転させるように構成される、請求項1に記載の自転車の変速装置。
【請求項3】
前記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の径方向において、前記第1回転体と前記出力部との間に設けられる、請求項1または2に記載の自転車の変速装置。
【請求項4】
前記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の径方向における前記入力回転軸との距離が、前記入力回転軸の径方向における前記切替部と前記入力回転軸との距離よりも短くなるように構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【請求項5】
記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の中心軸心に沿う方向において、前記伝達体と前記第4回転体との間に設けられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【請求項6】
前記伝達体に設けられるトルクセンサをさらに備える、請求項5に記載の自転車の変速装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記入力回転軸の中心軸心に沿う方向において、スプロケットが取り付けられるように構成される取付部が設けられる第1端部と、前記第1端部とは異なる第2端部とを含み、
前記ワンウェイクラッチは、前記第2端部に設けられる、請求項1から6のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【請求項8】
前記第1回転体は、前記入力回転軸の中心軸心まわりに回転するように構成され、
前記第4回転体は、前記出力部の中心軸心まわりに回転するように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【請求項9】
前記第1回転体は、第1歯車を含み、
前記第4回転体は、第4歯車を含み、
前記第4歯車の歯数は、前記第1歯車の歯数よりも少ない、請求項1から8のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【請求項10】
前記切替部は、前記第4回転体と前記出力部との間に少なくとも一部が配置されるように構成される、請求項1から9のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【請求項11】
前記変速機構は、前記第1回転体の回転を前記第4回転体に伝達するように構成される変速軸をさらに備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【請求項12】
前記変速機構は、前記変速軸と前記第1回転体との間に設けられ、前記変速軸の中心軸心まわりに回転するように構成される第2回転体と、前記変速軸と前記第4回転体との間に設けられ、前記変速軸の中心軸心まわりに回転するように構成される第3回転体とをさらに含む、請求項11に記載の自転車の変速装置。
【請求項13】
モータをさらに備え、
前記変速機構は、前記変速軸を介して前記モータのトルクを前記出力部に伝達するように構成される、請求項11または12に記載の自転車の変速装置。
【請求項14】
前記変速機構は、前記第1状態では、前記モータのトルクを前記変速軸および前記第4回転体を介して前記出力部に伝達し、前記第2状態では、前記モータのトルクを前記変速軸および前記第1回転体を介して前記出力部に伝達するように構成される、請求項13に記載の自転車の変速装置。
【請求項15】
前記第1比率は、前記第2比率よりも大きい、請求項1から14のいずれか一項に記載の自転車の変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自転車の変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の自転車の変速装置は、クランク軸に入力された回転を減速して出力部に出力することのできる変速機構、および、クランク軸と出力部とを連結する状態とクランク軸と出力部との連結を解除する状態とを切り替える切替機構を備えている。切替機構の状態がクランク軸と出力部とを解除する状態のとき、クランク軸に入力された回転は変速機構により減速されて出力部に出力される。切替機構の状態がクランク軸と出力部とを連結する状態のとき、クランク軸に入力された回転は変速機構により減速されずに出力部に出力される。すなわち、変速装置は、切替機構により、2つの変速比を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5523636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記変速装置の変速機構は、クランク軸の回転を減速して出力部に出力する。このため、出力部のトルクはクランク軸のトルクよりも大きい。そして、切替機構にかかるトルクが大きくなるほど、切替機構がクランク軸と出力部との連結を解除しにくい。このため、変速性能が低下する。
【0005】
本発明の目的は、変速性能を向上させることができる自転車の変速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1側面に従う自転車の変速装置は、入力回転軸と、出力部と、前記入力回転軸の回転が伝達されるように構成される第1回転体と、前記入力回転軸の回転が伝達されるように構成され、前記第1回転体とは異なる第4回転体とを含む変速機構と、前記第1回転体から前記出力部に回転が伝達されない第3状態と、前記第1回転体から前記出力部に回転が伝達される第4状態とを切り替えるように構成されるワンウェイクラッチと、前記第4回転体から前記出力部に回転が伝達される第5状態と、前記第4回転体から前記出力部に回転が伝達されない第6状態とを切り替えるように構成される切替部とを含み、前記入力回転軸の回転速度に対する前記出力部の回転速度の比率が第1比率になる第1状態と、前記比率が前記第1比率とは異なる第2比率になる第2状態とを切り替えるように構成される切替機構とを備え、前記第1状態は、前記第3状態と前記第5状態とを含み、前記第2状態は、前記第4状態と前記第6状態とを含む。
【0007】
本開示の第1側面に従う第2側面の自転車の変速装置において、前記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の一方向の回転速度が前記出力部の一方向の回転速度未満のときに、前記第3状態になるように前記第1回転体と前記出力部との相対回転を許容し、前記入力回転軸の一方向の回転速度が前記出力部の一方向の回転速度以上のときに、前記第4状態になるように前記第1回転体と前記出力部とを一体回転させるように構成される。
【0008】
本開示の第1または第2側面に従う第3側面の自転車の変速装置において、前記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の径方向において、前記第1回転体と前記出力部との間に設けられる。
【0009】
本開示の第1から第3側面のいずれか1つに従う第4側面の自転車の変速装置において、前記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の径方向における前記入力回転軸との距離が、前記入力回転軸の径方向における前記切替部と前記入力回転軸との距離よりも短くなるように構成される。
【0010】
本開示の第1から第4側面のいずれか1つに従う第5側面の自転車の変速装置において、前記変速機構は、前記入力回転軸の回転を前記第1回転体に伝達するように構成される伝達体をさらに備え、前記ワンウェイクラッチは、前記入力回転軸の中心軸心に沿う方向において、前記伝達体と前記第4回転体との間に設けられる。
【0011】
本開示の第5側面に従う第6側面の自転車の変速装置において、前記伝達体に設けられるトルクセンサをさらに備える。
【0012】
本開示の第1から第6側面のいずれか1つに従う第7側面の自転車の変速装置において、前記出力部は、前記入力回転軸の中心軸心に沿う方向において、スプロケットが取り付けられるように構成される取付部が設けられる第1端部と、前記第1端部とは異なる第2端部とを含み、前記ワンウェイクラッチは、前記第2端部に設けられる。
【0013】
本開示の第1から第7側面のいずれか1つに従う第8側面の自転車の変速装置において、前記第1回転体は、前記入力回転軸の中心軸心まわりに回転するように構成され、前記第4回転体は、前記出力部の中心軸心まわりに回転するように構成される。
【0014】
本開示の第1から第8側面のいずれか1つに従う第9側面の自転車の変速装置において、前記第1回転体は、第1歯車を含み、前記第4回転体は、第4歯車を含み、前記第4歯車の歯数は、前記第1歯車の歯数よりも少ない。
【0015】
本開示の第1から第9側面のいずれか1つに従う第10側面の自転車の変速装置において、前記切替部は、前記第4回転体と前記出力部との間に少なくとも一部が配置されるように構成される。
【0016】
本開示の第1から第10側面のいずれか1つに従う第11側面の自転車の変速装置において、前記変速機構は、前記第1回転体の回転を前記第4回転体に伝達するように構成される変速軸をさらに備える。
【0017】
本開示の第11側面に従う第12側面の自転車の変速装置において、前記変速機構は、前記変速軸と前記第1回転体との間に設けられ、前記変速軸の中心軸心まわりに回転するように構成される第2回転体と、前記変速軸と前記第4回転体との間に設けられ、前記変速軸の中心軸心まわりに回転するように構成される第3回転体とをさらに含む。
【0018】
本開示の第11または第12側面に従う第13側面の自転車の変速装置において、モータをさらに備え、前記変速機構は、前記変速軸を介して前記モータのトルクを前記出力部に伝達するように構成される。
【0019】
本開示の第13側面に従う第14側面の自転車の変速装置において、前記変速機構は、前記第1状態では、前記モータのトルクを前記変速軸および前記第4回転体を介して前記出力部に伝達し、前記第2状態では、前記モータのトルクを前記変速軸および前記第1回転体を介して前記出力部に伝達するように構成される。
【0020】
本開示の第1から第14側面のいずれか1つに従う第15側面の自転車の変速装置において、前記第1比率は、前記第2比率よりも大きい。
【0021】
(自転車の変速装置の例)
自転車の変速装置は、入力回転軸と、出力部と、前記入力回転軸から入力された回転を増速して、前記出力部に出力可能な変速機構と、前記変速機構を介して、前記出力部および前記入力回転軸を連結する第1状態と、前記変速機構を介さずに、前記出力部および前記入力回転軸を連結する第2状態とを切り替える切替機構とを備え、前記変速機構は、前記入力回転軸と一体に回転可能な第1回転体と、前記入力回転軸に対して位置が変わらない軸芯まわりに回転可能であり、第1回転体のトルクが伝達される第2回転体と、前記第2回転体と一体に回転可能な第3回転体と、前記第3回転体のトルクが伝達され、前記出力部と一体に回転可能な第4回転体とを備える。
【0022】
前記自転車の変速装置によれば、前記切替機構は、前記第1状態では、前記入力回転軸と前記第1回転体との間、前記第1回転体と前記第2回転体との間、前記第2回転体と前記第3回転体との間、前記第3回転体と前記第4回転体との間、および、前記第4回転体と出力部との間の全てにおいてトルクを伝達させ、前記第2状態では、前記入力回転軸と前記第1回転体との間、前記第1回転体と前記第2回転体との間、前記第2回転体と前記第3回転体との間、前記第3回転体と前記第4回転体との間、および、前記第4回転体と出力部との間のうちのいずれかにおいてトルクを伝達させない。
【0023】
前記自転車の変速装置によれば、前記切替機構は、前記入力回転軸の一方向の回転速度が前記出力部の一方向の回転速度以上のときに前記入力回転軸と前記出力部とを一体的に回転させ、かつ、前記入力回転軸の一方向の回転速度が前記出力部の一方向の回転速度未満のときに、前記入力回転軸と前記出力部との相対回転を許容するワンウェイクラッチをさらに備える。
【0024】
前記自転車の変速装置によれば、前記変速機構は、前記第2回転体および前記第3回転体を支持する変速軸を備える。
前記自転車の変速装置によれば、前記変速軸は、前記第2回転体および前記第3回転体の少なくとも一方と一体に回転する。
【0025】
前記自転車の変速装置によれば、前記切替機構は、前記変速軸と前記第2回転体との間、前記変速軸と前記第3回転体との間、または前記第4回転体と前記出力部との間に少なくとも一部が配置される切替部を備える。
【0026】
前記自転車の変速装置によれば、前記切替部は、前記変速軸と前記第3回転体との間に少なくとも一部が配置され、前記変速軸と前記第3回転体とを連結可能な連結部材と、前記連結部材を前記変速軸または前記第3回転体から切り離す制御部材とを備える。
【0027】
前記自転車の変速装置によれば、前記連結部材は、前記変速軸の外周に設けられ、前記第3回転体の内周に形成される溝に突出または前記溝から離脱する爪を備え、前記切替部は、前記溝に向かって突出するように前記爪に力を付与する弾性部材をさらに備え、前記爪は、前記変速機構が前記第1状態である場合、前記制御部材によって前記変速軸側に押し下げられず、前記弾性部材から付与される力によって前記溝に嵌り込み、前記変速軸と前記第3回転体とを連結し、前記変速機構が前記第2状態である場合、前記制御部材によって前記変速軸側に押し下げられ、前記溝から離脱し、前記変速軸と前記第3回転体とを連結しない。
【0028】
前記自転車の変速装置によれば、前記制御部材は、前記変速軸の軸方向に移動可能である。
【0029】
前記自転車の変速装置によれば、前記変速機構は、前記第1回転体および前記第2回転体によって増速し、前記第3回転体および前記第4回転体によって減速する。
【0030】
前記自転車の変速装置によれば、前記第2回転体または前記出力部にトルクを伝達するアシストモータが結合される。
【0031】
前記自転車の変速装置によれば、前記変速機構は、前記入力回転軸と前記第1回転体とを結合する伝達体をさらに備え、前記伝達体にトルクセンサが取り付けられる。
【0032】
前記自転車の変速装置によれば、前記入力回転軸は、人力駆動力が入力されるクランク軸である。
【0033】
前記自転車の変速装置によれば、前記出力部には、スプロケットを取り付け可能な取付部を有する。
【0034】
前記自転車の変速装置によれば、前記ワンウェイクラッチは、ローラクラッチである。
【0035】
前記自転車の変速装置によれば、前記入力回転軸と前記第1回転体とを結合する伝達体をさらに備え、前記伝達体は、筒状に形成されて、前記出力部の一部を覆って設けられ、前記ワンウェイクラッチは、前記伝達体の内周と前記出力部の外周との間に配置される。
【0036】
前記自転車の変速装置によれば、前記伝達体と前記第1回転体とは一体に形成される。
【発明の効果】
【0037】
本開示の自転車の変速装置は、変速性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】第1実施形態の変速機構が第1状態のときの変速装置の断面図。
図2図1の変速機構が第2状態のときの変速装置の断面図。
図3】第2実施形態の自転車の変速装置の断面図。
図4】第3実施形態の自転車の変速装置の断面図。
図5】第1実施形態の第1の変形例の変速装置の模式図。
図6】第1実施形態の第2の変形例の変速装置の模式図。
図7】第1実施形態の第3の変形例の変速装置の模式図。
図8】第1実施形態の第4の変形例の変速装置の断面図。
図9】第1実施形態の第5の変形例の変速装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第1実施形態)
図1および図2を参照して、第1実施形態の自転車の変速装置について説明する。
図1に示されるように、変速装置10は、クランク軸である入力回転軸14、回転が出力される出力部16、ハウジング18、入力回転軸14から入力された回転を出力部16に出力可能な変速機構20、切替機構22、および、アシスト機構24を備えている。
【0040】
ハウジング18は、自転車のフレーム(図示略)に取り付けられる。ハウジング18は、入力回転軸14の一部、出力部16の一部、変速機構20、および、切替機構22を収容する。
【0041】
入力回転軸14は、ハウジング18に回転可能に支持される。入力回転軸14の両端は、ハウジング18の外部に露出している。入力回転軸14の両端には自転車のクランクアーム(図示略)を取り付け可能であり、クランクアームを介して人力駆動力が入力される。入力回転軸14は、中空軸であってもよい。入力回転軸14の軸方向の一端部の外周部は、ベアリング19Aを介してハウジング18に支持される。入力回転軸14の軸方向の他端部の外周部は、ベアリング19Bを介して出力部16に支持される。
【0042】
出力部16は、筒状に形成されて、入力回転軸14まわりに入力回転軸14と同軸に配置される。出力部16の内周部には、軸方向に間隔をあけて配置されるベアリング19Bが設けられる。出力部16は、ベアリング19Bを介して入力回転軸14を回転可能に支持する。出力部16が露出する部分の近傍の外周部は、ベアリング19Cを介してハウジングに支持されている。出力部16の一端は、ハウジング18の外部に露出している。出力部16は、入力回転軸14の軸方向の一端の内周にスプロケットSを取り付け可能な取付部16Aを有する。取付部16Aには、外周部にスプラインが形成されている。スプロケットSの内周部のスプラインが取付部16Aに嵌め込まれる。取付部16Aには、内周部に雌ねじが形成されている。スプロケットSを挟んでボルトBが取付部16Aにねじ込まれることにより、スプロケットSが出力部16に取り付けられる。
【0043】
変速機構20は、変速軸26、伝達体28、第1回転体30、第2回転体32、第3回転体34、および、第4回転体36を備えている。
変速軸26は、入力回転軸14の径方向の外側に配置される。変速軸26は、入力回転軸14と平行に設けられる。変速軸26は、ハウジング18に回転可能に支持される。変速軸26の軸方向の一端部および他端部は、それぞれベアリング19Dを介してハウジング18に支持されている。変速軸26は、入力回転軸14に対して位置が変わらない軸芯Cまわりに回転可能である。
【0044】
伝達体28は、筒状に形成されている。伝達体28は、入力回転軸14まわりに入力回転軸14と同軸に配置される。伝達体28は、スプライン嵌合または圧入等により入力回転軸14に相対回転不能に支持される。このため、伝達体28は、入力回転軸14と一体に回転可能である。
【0045】
第1回転体30は、円筒形状を有し、軸方向の一端が伝達体28に嵌め込まれている。すなわち、伝達体28は、入力回転軸14と第1回転体30とを結合する。第1回転体30の外周には歯車30Aが形成されている。
【0046】
第2回転体32は、変速軸26まわりに変速軸26と同軸に配置される。第2回転体32は、スプライン嵌合および圧入等により変速軸26に相対回転不能に支持される。このため、第2回転体32は、軸芯Cまわりに変速軸26と一体に回転可能である。第2回転体32の外周には歯車32Aが形成されている。歯車32Aは、第1回転体30の歯車30Aと噛み合わせられている。このため、第1回転体30のトルクは、伝達体28を介して第2回転体32に伝達される。第2回転体32の歯車32Aの歯数は、第1回転体30の歯車30Aの歯数よりも少ない。このため、第1回転体30の回転は、増速されて第2回転体32に伝達される。
【0047】
第3回転体34は、円筒形状を有する。第3回転体34は、変速軸26まわりに変速軸26と同軸に配置される。第3回転体34は、切替機構22を介して変速軸26に支持される。第3回転体34は、変速軸26に回転可能に支持されていてもよい。第3回転体34は、切替機構22により変速軸26に結合されたとき、軸芯Cまわりに第2回転体32および変速軸26と一体に回転可能である。第3回転体34の内周には、切替機構22と結合される溝34Bが形成されている。溝34Bは、周方向に所定の間隔をあけて複数形成されている。溝34Bは、いわゆるラチェット溝と同様の形状を有する。第3回転体34の外周には、歯車34Aが形成されている。
【0048】
第4回転体36は、円筒形状を有する。第4回転体36は、出力部16まわりに出力部16と同軸に配置される。第4回転体36は、スプライン嵌合または圧入等により出力部16に結合されている。このため、第4回転体36は、出力部16と一体に回転可能である。第4回転体36の外周には、歯車36Aが形成されている。歯車36Aは、第3回転体34の歯車34Aに噛み合わせられている。このため、第3回転体34のトルクは、第4回転体36に伝達される。第4回転体36の歯車36Aの歯数は、第3回転体34の歯車34Aの歯数よりも多い。このため、第3回転体34の回転は、所定の減速比で減速されて第4回転体36に伝達される。なお、第1回転体30と第2回転体32との間の増速比は、第3回転体34と第4回転体36との間の所定の減速比よりも大きい。このため、第1回転体30から第2回転体32および第3回転体34を経て第4回転体36に回転が伝達されるとき、第4回転体36の回転速度は、第1回転体30よりも大きい。
【0049】
切替機構22は、変速機構20を介して、出力部16および入力回転軸14を連結する第1状態と、変速機構20を介さずに出力部16および入力回転軸14を連結する第2状態とを切り替える。
【0050】
切替機構22は、第1状態では、入力回転軸14と第1回転体30との間、第1回転体30と第2回転体32との間、第2回転体32と第3回転体34との間、第3回転体34と第4回転体36との間、および、第4回転体36と出力部16との間の全てにおいてトルクを伝達させる。切替機構22は、第2状態では、第2回転体32と第3回転体34との間においてトルクを伝達させない。
【0051】
切替機構22は、変速軸26と第3回転体34の内周との間に配置される切替部38、切替部38を動作させる変速カム40、変速カム40を動作させるアクチュエータ42、および、伝達体28の内周と出力部16の外周との間に配置されるワンウェイクラッチ44を備えている。アクチュエータ42は、たとえば電動モータである。
【0052】
切替部38は、変速軸26の外周と第3回転体34の内周との間に少なくとも一部が配置される連結部材46、弾性部材47、および、制御部材48を備えている。
連結部材46は、変速軸26の外周に設けられる。連結部材46は、変速軸26と第3回転体34とを連結可能である。連結部材46は、変速軸26から第3回転体34の内周に向かって突出可能な爪46Aを備えている。爪46Aの内周部は、変速軸26に支持され、変速軸26に連結されている。
【0053】
弾性部材47は、例えば、環形のばねである。弾性部材47は、複数の連結部材46の外面に形成される溝46Bに嵌め込まれる。弾性部材47は、爪46Aに第3回転体34の内周に向かって突出する方向への力を付与する。
【0054】
制御部材48は、円筒形状を有する。制御部材48は、変速軸26のまわりに変速軸26と同軸に設けられる。制御部材48は、変速軸26の軸方向に移動可能である。制御部材48は、変速軸26のまわりに回転不能に設けられる。制御部材48は、内周部がハウジング18に連結される支持部18Aによって、変速軸26の軸方向に移動可能に支持される。制御部材48は、テーパ面48A、および、変速カム40のカム面40Aに接触する接触部48Bを備えている。テーパ面48Aは、変速軸26の軸方向において爪46Aと対向する側に形成されている。接触部48Bは、制御部材48のうち、変速軸26の軸方向においてテーパ面48Aとは反対側に形成されている。制御部材48には、図示しない付勢部材が取り付けられている。付勢部材は、制御部材48に連結部材46から離れる力を付与する。付勢部材は、例えば、ばねである。
【0055】
変速カム40は、接触部48Bと対向する位置に配置されている。変速カム40は、カム面40Aを備えている。変速カム40は、アクチュエータ42に結合されている。アクチュエータ42である電動モータの一方向の回転にともなって、変速カム40のカム面40Aが変速軸26の軸方向において爪46Aに近付く方向に制御部材48を移動させる。アクチュエータ42である電動モータの他方向の回転にともなって、変速カム40が変速軸26の軸方向において制御部材48から離れる方向の制御部材48の移動を許容し、付勢部材(図示略)が制御部材48を爪46Aから離れる方向に移動させる。
【0056】
ワンウェイクラッチ44は、ローラクラッチである。ワンウェイクラッチ44は、入力回転軸14の一方向の回転速度が出力部16の一方向の回転速度以上のときに入力回転軸14と出力部16とを一体的に回転させる。ワンウェイクラッチ44は、入力回転軸14の一方向の回転速度が出力部16の一方向の回転速度未満のときに、入力回転軸14と出力部16との相対回転を許容する。なお、一方向の回転は、自転車(図示略)が前進するときの入力回転軸14の回転方向に相当する。
【0057】
制御部材48が変速軸26の軸方向において連結部材46から離れる側に移動して連結部材46から離れた位置にあるとき、すなわち、変速機構20が第1状態にあるとき、テーパ面48Aが爪46Aから離れて爪46Aが第3回転体34の溝34Bに向かって突出する。これにより、爪46Aが、溝34Bに嵌まり込む。このため、第3回転体34が変速軸26および第2回転体32に対して相対回転不能となる。このため、変速軸26および第2回転体32のトルクが第3回転体34に伝達される。
【0058】
第1回転体30の歯車30Aの歯数よりも第4回転体36の歯車36Aの歯数の方が少ない。このため、切替機構22が図1に示す第1状態にあるとき、変速機構20に入力された回転は、増速されて出力部16に出力される。切替機構22が第1状態にあるとき、入力回転軸14および第1回転体30の回転速度は、出力部16の回転速度未満である。このため、ワンウェイクラッチ44は、入力回転軸14および第1回転体30と出力部16との相対回転を許容する。このため、入力回転軸14の回転は、変速機構20により増速されて出力部16に出力される。
【0059】
図2に示されるように、制御部材48が変速軸26の軸方向において連結部材46に近付く側に移動して連結部材46と接触する位置にあるとき、すなわち、変速機構20が第2状態にあるとき、テーパ面48Aが爪46Aを押し下げる。これにより、爪46Aが、溝34Bから離脱する。すなわち、制御部材48は、連結部材46を第3回転体34から切り離す。このため、第3回転体34が変速軸26および第2回転体32に対して相対回転可能となる。このため、変速軸26および第2回転体32のトルクが第3回転体34に伝達されない。
【0060】
切替機構22が図2に示す第2状態にあるとき、第2回転体32から第3回転体34にトルクが伝達されない。このため、切替機構22が第2状態にあるとき、入力回転軸14および第1回転体30の回転速度は、出力部16の回転速度以上である。このため、ワンウェイクラッチ44は、入力回転軸14および第1回転体30と出力部16とを一体的に回転させる。このため、入力回転軸14の回転は、変速機構20により増速されずに出力部16に出力される。
【0061】
アシスト機構24は、アシストモータ50を備えている。アシストモータ50の出力軸52は、外周に歯車52Aが設けられている。歯車52Aは、第3回転体34の歯車34Aとは異なる位置において第4回転体36の歯車36Aに噛み合わせられている。すなわち、アシストモータ50は、第4回転体36を介して出力部16と結合されている。
【0062】
伝達体28には、トルクセンサ54が取り付けられている。トルクセンサ54は、伝達体28にかかるトルクに応じた信号を制御装置56に出力する。制御装置56は、トルクセンサ54の出力に基づいてアシストモータ50を制御する。トルクセンサ54は、例えば歪センサによって実現される。歪センサの信号は無線によって、制御装置56に伝送される。制御装置56は、アクチュエータ42を制御する。制御装置56には、図示しない変速操作部に接続され、変速操作部からの信号に基づいてアクチュエータ42を駆動する。変速操作部は、自転車のハンドルに設けられる変速スイッチ、変速レバーによって実現される。変速操作部は、電気配線によって制御装置56に接続されていてもよく、無線によって制御装置56に接続されていてもよい。また制御装置56は、たとえば自転車に設けられるセンサの検出信号に基づいて、アクチュエータ42を駆動してもよい。センサは、たとえば自転車の速度を検出する速度センサ、クランクのケイデンスを検出するケイデンスセンサなどである。制御装置56がアクチュエータ42を駆動することによって、変速装置10は、2段の変速装置として機能する。
【0063】
変速装置10の作用について説明する。
連結部材46は、入力回転軸14の回転が増速された後の変速軸26と第3回転体34との間に配置される。すなわち、連結部材46にかかるトルクは、入力回転軸14にかかるトルクよりも小さい。このため、変速機構20が第1状態にあって連結部材46の爪46Aが第3回転体34の溝34Bに嵌め込まれているときに爪46Aが溝34Bから抜けるための力を小さくできる。
【0064】
変速装置10は、以下の効果を奏する。
(1)切替機構22は、入力回転軸14よりも回転速度が高く、トルクの小さい変速軸26と第3回転体34との間のトルクの伝達を切り替える。このため、入力回転軸14の回転が減速された後の部材間のトルクの伝達を切り替える場合と比較して、変速性能を向上できる。
【0065】
(2)切替機構22は、ワンウェイクラッチ44を備えている。このため、例えば、電動のクラッチを設けて入力回転軸14または第1回転体30と出力部16との間のトルクの伝達を制御する場合と比較して、変速装置10の構成を簡便化できる。
【0066】
(3)アシストモータ50は、第4回転体36にトルクを伝達する。このため、入力回転軸14から出力部16までの動力伝達経路において、第4回転体36よりも上流にアシストモータ50のトルクを伝達する場合と比較して、連結部材46にかかるトルクを小さくできる。このため、アシストモータ50からのトルクにより変速性能が低下することを抑制できる。
【0067】
(第2実施形態)
図3を参照して、第2実施形態の自転車の変速装置について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
変速装置10は、入力回転軸14、出力部16、ハウジング18、入力回転軸14から入力された回転を出力部16に出力可能な変速機構60、および、切替機構62を備えている。
【0069】
変速機構60は、変速軸26、伝達体28、第1回転体30、第2回転体32、第3回転体34、第4回転体36、第5回転体64、および、第6回転体66を備えている。伝達体28と第1回転体30とは一体化されている。
【0070】
第5回転体64は、変速軸26まわりに変速軸26と同軸に配置される。第5回転体64は、切替機構62のワンウェイクラッチ68を介して変速軸26に支持される。このため、第5回転体64は、変速軸26が所定の方向に回転したときに、軸芯Cまわりに変速軸26と一体に回転可能である。第5回転体64の外周には、歯車64Aが形成されている。
【0071】
第6回転体66は、円筒形状を有する。第6回転体66は、出力部16まわりに出力部16と同軸に配置される。第6回転体66は、スプライン嵌合または圧入等により出力部16に結合されている。このため、第6回転体66は、出力部16と一体に回転可能である。第6回転体66の外周には、歯車66Aが形成されている。歯車66Aは、第5回転体64の歯車64Aに噛み合わせられている。このため、第5回転体64のトルクは、第6回転体66に伝達される。第6回転体66の歯車66Aの歯数は、第5回転体64の歯車64Aの歯数よりも少ない。このため、第5回転体64の回転は、減速されて第6回転体66に伝達される。なお、第5回転体64と第6回転体66との間の減速比は、第3回転体34と第4回転体36との間の所定の減速比とは異なっている。第5回転体64と第6回転体66との間の減速比は、第3回転体34と第4回転体36との間の所定の減速比よりも小さい。また、第1回転体30と第2回転体32との間の増速比は、第5回転体64と第6回転体66との間の減速比よりも小さい。このため、第1回転体30から第2回転体32および第5回転体64を経て第6回転体66に回転が伝達されるとき、第6回転体66の回転速度は、第1回転体74よりも小さい。
【0072】
切替機構62は、変速機構60を介して第1状態と第2状態とを切り替える。
切替機構62は、第1状態では、入力回転軸14と第1回転体30との間、第1回転体30と第2回転体32との間、第2回転体32と第3回転体34との間、第3回転体34と第4回転体36との間、および、第4回転体36と出力部16との間の全てにおいてトルクを伝達させ、かつ、第2回転体32と第5回転体64との間においてトルクを伝達させない。切替機構62は、第2状態では、入力回転軸14と第1回転体30との間、第1回転体30と第2回転体32との間、第2回転体32と第5回転体64との間、第5回転体64と第6回転体66との間、および、第6回転体66と出力部16との間の全てにおいてトルクを伝達させ、かつ、第2回転体32と第3回転体34との間においてトルクを伝達させない。
【0073】
切替機構62は、切替部38、アクチュエータ42、および、伝達体28の内周と出力部16の外周との間に配置されるワンウェイクラッチ68を備えている。
ワンウェイクラッチ68は、ローラクラッチである。ワンウェイクラッチ68は、変速軸26および第2回転体32の一方向の回転速度が第5回転体64の一方向の回転速度以上のときに変速軸26と第5回転体64とを一体的に回転させる。ワンウェイクラッチ68は、変速軸26および第2回転体32の一方向の回転速度が第5回転体64の一方向の回転速度未満のときに変速軸26と第5回転体64との相対回転を許容する。なお、一方向の回転は、自転車(図示略)が前進するときの変速軸26および第2回転体32の回転方向に相当する。
【0074】
変速機構60が第1状態にあるとき、爪46Aが、溝34Bに嵌まり込むため、変速軸26および第2回転体32のトルクが第3回転体34に伝達される。第3回転体34に伝達された回転は、第4回転体36を介して出力部16に出力される。切替機構62が第1状態にあるとき、変速軸26および第2回転体32の回転速度は、出力部16から第6回転体66を経て第5回転体64に入力された第5回転体64の回転速度未満である。このため、ワンウェイクラッチ68は、変速軸26と第5回転体64との相対回転を許容する。このため、入力回転軸14の回転は、第1回転体30と第2回転体32との間の変速比、および、第3回転体34および第4回転体36との間の変速比に応じて変速されて出力部16に出力される。
【0075】
変速機構60が第2状態にあるとき、爪46Aが、溝34Bから離脱するため、変速軸26および第2回転体32のトルクが第3回転体34に伝達されない。このため、切替機構62が第2状態にあるとき、変速軸26および第2回転体32の回転速度は、第5回転体64に入力された第5回転体64の回転速度以上である。このため、ワンウェイクラッチ68は、変速軸26と第5回転体64とを一体的に回転させる。このため、入力回転軸14の回転は、第1回転体30と第2回転体32との間の変速比、および、第5回転体64および第6回転体66との間の変速比に応じて変速されて出力部16に出力される。なお、本実施形態の変速装置10によれば、第1実施形態の効果に準じた効果を奏することができる。
【0076】
(第3実施形態)
図4を参照して、第3実施形態の自転車の変速装置について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0077】
変速装置10は、入力回転軸14、出力部16、ハウジング18、入力回転軸14から入力された回転を出力部16に出力可能な変速機構70、および、切替機構72を備えている。
【0078】
変速機構70は、変速軸26、伝達体28、第1回転体74、第2回転体76、第3回転体78、および、第4回転体80を備えている。
第1回転体74は、円筒形状を有し、軸方向の一端が伝達体28に嵌め込まれている。すなわち、伝達体28は、入力回転軸14と第1回転体74とを結合する。第1回転体74の外周には歯車74Aが形成されている。
【0079】
第2回転体76は、変速軸26まわりに変速軸26と同軸に配置される。第2回転体76は、切替機構72のワンウェイクラッチ86を介して変速軸26に支持される。このため、第2回転体76は、軸芯Cまわりに変速軸26と一体に回転可能である。第2回転体76の外周には歯車76Aが形成されている。歯車76Aは、第1回転体74の歯車74Aと噛み合わせられている。このため、第1回転体74のトルクは、伝達体28を介して第2回転体76に伝達される。第2回転体76の歯車76Aの歯数は、第1回転体74の歯車74Aの歯数よりも少ない。このため、第1回転体74の回転は、増速されて第2回転体76に伝達される。
【0080】
第3回転体78は、変速軸26まわりに変速軸26と同軸に配置される。第3回転体78は、スプライン嵌合および圧入等により変速軸26に相対回転不能に支持される。このため、第3回転体78は、軸芯Cまわりに変速軸26と一体に回転可能である。第3回転体78の外周には歯車78Aが形成されている。
【0081】
第4回転体80は、円筒形状を有する。第4回転体80は、出力部16まわりに出力部16と同軸に配置される。第4回転体80は、スプライン嵌合または圧入等により出力部16に結合されている。このため、第4回転体80は、出力部16と一体に回転可能である。第4回転体80の外周には、歯車80Aが形成されている。歯車80Aは、第3回転体78の歯車78Aに噛み合わせられている。このため、第3回転体78のトルクは、第4回転体80に伝達される。第4回転体80の歯車80Aの歯数は、第3回転体78の歯車78Aの歯数よりも少ない。このため、第4回転体80の回転は、減速されて第4回転体80に伝達される。なお、第1回転体74と第2回転体76との間の増速比は、第3回転体78と第4回転体80との間の所定の減速比よりも小さい。このため、第1回転体74から第2回転体76および第3回転体78を経て第4回転体80に回転が伝達されるとき、第4回転体80の回転速度は、第1回転体74よりも小さい。
【0082】
切替機構72は、変速機構70を介して、出力部16および入力回転軸14を連結する第1状態と、変速機構20を介さずに出力部16および入力回転軸14を連結する第2状態とを切り替える。
【0083】
切替機構22は、第1状態では、入力回転軸14と第1回転体74との間、第1回転体74と第2回転体76との間、第2回転体76と第3回転体78との間、第3回転体78と第4回転体80との間、および、第4回転体80と出力部16との間の全てにおいてトルクを伝達させる。切替機構72は、第2状態では、第2回転体76と第3回転体78との間においてトルクを伝達させない。
【0084】
切替機構72は、変速軸26と第3回転体78の内周との間に配置される切替部82、切替部82を動作させるアクチュエータ42、および、第2回転体76の内周と変速軸26の外周との間に配置されるワンウェイクラッチ86を備えている。
【0085】
切替部82は、出力部16の外周と第1回転体74の内周との間に少なくとも一部が配置される連結部材84、制御部材48、および、変速カム40を備えている。
連結部材84は、出力部16の外周に設けられる。連結部材84は、出力部16と第1回転体74とを連結可能である。連結部材84は、出力部16から第1回転体74の内周に向かって突出可能な爪84Aを備えている。
【0086】
ワンウェイクラッチ86は、ローラクラッチである。ワンウェイクラッチ86は、入力回転軸14の一方向の回転速度が出力部16の一方向の回転速度以下のときに第2回転体76と変速軸26とを一体的に回転させる。ワンウェイクラッチ86は、入力回転軸14の一方向の回転速度が出力部16の一方向の回転速度よりも大きいときに、入力回転軸14と出力部16との相対回転を許容する。なお、一方向の回転は、自転車(図示略)が前進するときの入力回転軸14の回転方向に相当する。
【0087】
制御部材48が出力部16の軸方向において連結部材84に近付く側に移動して連結部材84と接触する位置にあるとき、すなわち、変速機構20が第1状態にあるとき、テーパ面48Aが爪84Aを押し下げる。これにより、爪84Aが、第1回転体74の内周に形成されている溝74Bから離脱する。すなわち、制御部材48は、連結部材84を第1回転体74から切り離す。このため、第1回転体74が出力部16に対して相対回転可能となる。このため、第1回転体74のトルクが出力部16に伝達されない。
【0088】
このとき、第1回転体74のトルクは、第2回転体76に伝達されて、第2回転体76を回転させる。このとき、第3回転体78の回転速度は、第2回転体76の回転速度以下であるため、第2回転体76は、ワンウェイクラッチ86および変速軸26を介して第3回転体78を一体に回転させる。第3回転体78のトルクは、第4回転体80を介して出力部16に伝達される。このため、入力回転軸14の回転は、変速機構70により減速されて出力部16に出力される。
【0089】
制御部材48が出力部16の軸方向において連結部材84から離れる側に移動して連結部材84から離れた位置にあるとき、すなわち、変速機構70が第2状態にあるとき、テーパ面48Aが爪84Aから離れて爪84Aが第1回転体74の内周に形成される溝74Bに向かって突出する。これにより、爪46Aが、溝74Bに嵌まり込む。このため、第1回転体74が出力部16に対して相対回転不能となる。このため、第1回転体74のトルクが出力部16に伝達される。
【0090】
このとき、出力部16のトルクは、第4回転体80を介して第3回転体78に伝達される。第3回転体78の歯車78Aの歯数は、第4回転体80の歯車80Aの歯数よりも多い。このため、入力回転軸14、出力部16、および、第1回転体74の回転速度は、第3回転体78および変速軸26の回転速度未満である。このため、第2回転体76は、ワンウェイクラッチ86により変速軸26に対する相対回転が可能となる。このため、第2回転体76の回転は、変速軸26に伝達されない。このため、入力回転軸14の回転は、変速機構70により減速されずに出力部16に出力される。
【0091】
(変形例)
自転車の変速装置が取り得る具体的な形態は、上記実施形態に例示された形態に限定されない。自転車の変速装置は、上記実施形態とは異なる各種の形態を取り得る。以下に示される上記実施形態の変形例は、自転車の変速装置が取り得る各種の形態の一例である。
【0092】
・第1実施形態の連結部材46を、図5に示すように伝達体28と第1回転体30との間に配置することもできる。この場合、ワンウェイクラッチ44は、入力回転軸14と出力部16との間に配置される。また、第3回転体34は、変速軸26にスプライン嵌合または圧入等により回転不能に支持される。なお、連結部材46を、入力回転軸14と伝達体28との間に配置することもできる。この場合も、入力回転軸14に入力された回転が入力回転軸14の回転よりも減速された後に連結部材46を配置する場合と比較して、変速装置10の変速性能を向上できる。
【0093】
・第1実施形態の連結部材46を、図6に示すように第2回転体32と変速軸26との間に配置することもできる。この場合、第3回転体34は、変速軸26にスプライン嵌合または圧入等により回転不能に支持される。
【0094】
・第1実施形態の連結部材46を、図7に示すように第4回転体36と出力部16との間に配置することもできる。この場合、第3回転体34は、変速軸26にスプライン嵌合または圧入等により回転不能に支持される。
【0095】
・第1実施形態の連結部材46を、第3回転体34の内周に設けることもできる。この場合、変速軸26の外周に連結部材46の爪46Aが嵌まり込む溝が形成される。
【0096】
・第1実施形態の伝達体28と第1回転体30とを、図8に示すように一体的に形成することもできる。
【0097】
・第1および第2実施形態の変速機構20,60において、第3回転体34と第4回転体36との間において増速することもできる。この場合、第2実施形態において、第5回転体64と第6回転体66との間において、第3回転体34と第4回転体36とは異なる増速比であって、第3回転体34と第4回転体36の増速比よりも小さい増速比で増速することもできる。
【0098】
・第1から3実施形態のアシストモータ50を第2回転体32,76に結合することもできる。具体的には、図9に示すように、アシストモータ50の出力軸52の歯車52Aを第2回転体32の歯車32Aに噛み合わせる。変速軸26のトルクには、アシストモータ50のトルクが加わる。このため、制御部材48のテーパ面48Aと爪46Aとが接触したとき、アシストモータ50のトルクが加えられた力が、テーパ面48Aに沿って爪46Aが変速軸26に押し下げられる力に変換され、変速しやすくすることができる。
【0099】
・第1から3実施形態のワンウェイクラッチ44,68,86を、ラチェット機構を備えるワンウェイクラッチにすることもできる。
【0100】
・第1から3実施形態の変速装置10に、出力部16の逆転を防止するワンウェイクラッチを設けることもできる。ワンウェイクラッチは、例えば、入力回転軸14と伝達体28との間に設けられる。
【0101】
・第1から3実施形態のアシストモータ50と第3回転体34,78との間に減速機構を設けることもできる。
【0102】
・第1から3実施形態のアシスト機構24を省略することもできる。
【0103】
・第1から3実施形態の変速装置10をクランク軸の径方向外側に設けることもできる。この場合、クランク軸の回転を入力回転軸に入力する伝達機構が設けられる。
【0104】
・第1から3実施形態のアクチュエータ42を省略することもできる。この場合、自転車に取り付けられる操作装置と切替機構22,62,72とをワイヤーにより接続し、ワイヤーの動作により変速カム40を動作させる。
【0105】
・前述の各実施の形態では、変速装置10は、第1回転体と第2回転体とが歯車によって連結され、第3回転体と第4回転体とが歯車によって連結され、第5回転体と第6回転体とが歯車によって連結されているが、以下のように変更することもできる。すなわち、変速装置10は、第1から6回転体がスプロケットまたはプーリーによって形成され、第1回転体と第2回転体との間、第3回転体と第4回転体との間、第5回転体と第6回転体との間が、それぞれチェーンまたはベルトなどの環状体によって連結されていてもよい。
【0106】
(付記1)
入力回転軸と、
出力部と、
前記入力回転軸から入力された回転を変速して、前記出力部に出力可能な変速機構と、
切替機構とを備え、
前記変速機構は、
前記入力回転軸と一体に回転可能な第1回転体と、
前記入力回転軸に対して位置が変わらない軸芯まわりに回転可能であり、第1回転体の回転が増速して伝達される第2回転体と、
前記第2回転体と一体に回転可能な第3回転体と、
前記第3回転体のトルクが所定の変速比で減速して伝達され、前記出力部と一体に回転可能な第4回転体とを備え、
前記第2回転体と一体に回転可能な第5回転体と、
前記第5回転体のトルクが前記所定の変速比とは異なる変速比で減速して伝達され、前記出力部と一体に回転可能な第6回転体とを備え、
前記切替機構は、前記入力回転軸と前記第1回転体との間、前記第1回転体と前記第2回転体との間、前記第2回転体と前記第3回転体との間、前記第3回転体と前記第4回転体との間、および、前記第4回転体と出力部との間の全てにおいてトルクを伝達させ、かつ、第2回転体と第5回転体との間においてトルクを伝達させない第1状態と、前記入力回転軸と前記第1回転体との間、前記第1回転体と前記第2回転体との間、前記第2回転体と前記第5回転体との間、前記第5回転体と前記第6回転体との間、および、前記第6回転体と出力部との間の全てにおいてトルクを伝達させ、かつ、前記第2の回転体と前記第3の回転体との間においてトルクを伝達させない第2状態とを切り替える、自転車の変速装置。
【0107】
(付記2)
入力回転軸と、
出力部と、
前記入力回転軸から入力された回転を減速して、前記出力部に出力可能な変速機構と、
前記変速機構を介して、前記出力部および前記入力回転軸を連結する第1状態と、前記変速機構を介さずに、前記出力部および前記入力回転軸を連結する第2状態とを切り替える切替機構とを備え、
前記変速機構は、
前記入力回転軸と一体に回転可能な第1回転体と、
前記入力回転軸に対して位置が変わらない軸芯まわりに回転可能であり、第1回転体の回転が所定倍に増速して伝達される第2回転体と、
前記第2回転体と一体に回転可能な第3回転体と、
前記第3回転体のトルクが前記所定倍よりも大きく減速して伝達され、前記出力部と一体に回転可能な第4回転体とを備え、
前記切替機構は、前記第1状態では、前記入力回転軸と前記第1回転体との間、前記第1回転体と前記第2回転体との間、前記第2回転体と前記第3回転体との間、前記第3回転体と前記第4回転体との間、および、前記第4回転体と出力部との間の全てにおいてトルクを伝達させ、前記第2状態では、前記第2回転体と前記第3回転体との間、または、前記第3回転体と前記第4回転体との間において前記トルクを伝達させない、自転車の変速装置。
【符号の説明】
【0108】
10…変速装置、14…入力回転軸(クランク軸)、16…出力部、16A…取付部、20…変速機構、22…切替機構、26…変速軸、28…伝達体、30…第1回転体、32…第2回転体、34…第3回転体、34B…溝、36…第4回転体、38…切替部、44…ワンウェイクラッチ(ローラクラッチ)、46…連結部材、46A…爪、48…制御部材、50…アシストモータ、54…トルクセンサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9