特許第6751814号(P6751814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751814
(24)【登録日】2020年8月19日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】転がり軸受及び転がり軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20200831BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20200831BHJP
   F16J 15/00 20060101ALI20200831BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20200831BHJP
【FI】
   F16C33/78 E
   F16C19/06
   F16J15/00 C
   B23K26/21 G
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-508275(P2019-508275)
(86)(22)【出願日】2018年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2018036036
(87)【国際公開番号】WO2019102712
(87)【国際公開日】20190531
【審査請求日】2019年2月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-224536(P2017-224536)
(32)【優先日】2017年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109059
【氏名又は名称】ダイベア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕行
(72)【発明者】
【氏名】川阪 利孔
(72)【発明者】
【氏名】橋本 竜一
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/093591(WO,A1)
【文献】 特開2008−051304(JP,A)
【文献】 米国特許第05560715(US,A)
【文献】 特開平11−351263(JP,A)
【文献】 特開2004−092668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/06
F16J 15/00
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪、回転輪、前記固定輪と前記回転輪との間に介在している複数の転動体、及び、前記複数の転動体を保持する保持器を備えている転がり軸受の当該固定輪に、環状のシールドを取り付ける、転がり軸受の製造方法であって、
前記固定輪の側部に形成されている周溝の側面に前記シールドの外周側部の側面を当接させた状態として重ねかつ当該周溝の内周面と当該シールドの外周側の端縁との間に全周にわたって隙間が形成された状態で、治具によって当該シールドを前記周溝の側面に押し付ける準備工程と、
前記シールドを前記側部にレーザ溶接する溶接工程と、を有し、
前記治具は、前記固定輪の中心軸と同軸状となって位置する本体部と、当該本体部から径方向外側に延びかつ周方向に間隔をあけて設けられている複数の突出部と、を有し、
前記溶接工程では、前記治具の前記突出部が前記シールドを前記周溝の側面に押し付けた状態で、レーザを出力するヘッドと、前記シールドの前記外周側部の側面を前記周溝の側面に当接させた状態として重ねかつ当該シールドの外周側の前記端縁と当該周溝の内周面との間に前記隙間が形成された状態にある前記固定輪とを、前記固定輪の中心軸回りに相対回転させながら、前記シールドの前記外周側の端縁から所定寸法だけ径方向内側に寄った途中部に対して、周方向で隣り合う前記突出部の間にレーザを出力して溶接する溶接動作と、前記突出部によって押し付けられている部分に対してレーザを出力しない非溶接動作とを交互に繰り返し行なう、転がり軸受の製造方法。
【請求項2】
前記溶接動作では、当該溶接動作を繰り返す第一周期よりも短い第二周期でレーザを間欠的に出力しつつ、前記固定輪との溶接による溶け込み部を、連続した円弧状に形成する、請求項1に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項3】
固定輪、回転輪、前記固定輪と前記回転輪との間に介在している複数の転動体、前記複数の転動体を保持する保持器、及び、前記固定輪の側部に取り付けられている環状のシールドを備え、
前記固定輪の前記側部には、前記シールドを取り付ける周溝が形成されており、
前記周溝の側面に前記シールドの外周側部の側面が当接した状態で重ねられかつ当該周溝の内周面と当該シールドの外周側の端縁との間に全周にわたって隙間が形成されていて、当該シールドの前記外周側の端縁から所定寸法だけ径方向内側に寄った途中部に、前記固定輪との溶接による溶け込み部と、前記固定輪と固定されていない非溶接部とが、周方向に沿って交互に設けられていて、
前記シールドの縁部は、前記周溝の軸方向範囲内において存在する折れ曲がり部を有する、転がり軸受。
【請求項4】
前記溶け込み部は、周方向に沿って等ピッチで設けられている、請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記溶け込み部は、周方向に沿って不等ピッチで設けられている、請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項6】
周方向に沿って前記溶け込み部が占める割合は、1%以上であって50%以下であり、
前記溶け込み部は、周方向に沿って3箇所以上設けられていると共に、当該溶け込み部の一箇所における周長は、0.5mm以上であって5mm以下である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及び転がり軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、様々な分野で広く用いられている。一般的な転がり軸受は、内輪、外輪、複数の転動体、及びこれら転動体を保持する保持器を備えている。更に、転動体が存在している軸受内部に軸受外部から水や異物等が侵入するのを防いだり、軸受内部のグリースが軸受外部へ流出するのを防いだりするために、環状のシールドを備えた転がり軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。シールドは、固定輪(外輪)の側部に取り付けられている。
【0003】
従来、シールドを取り付けるために、外輪の側部内周側に周溝が形成されており、シールドはプレスによって周溝に嵌め入れられている。シールドの固定を確実とするためには、前記周溝を軸方向にある程度広くするのが好ましい。しかし、軸方向寸法を小さくしてスリム化を図る転がり軸受の場合、周溝のスペースが制限され、確実にシールドを外輪に固定することが難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−51304号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様に係る転がり軸受は、固定輪、回転輪、前記固定輪と前記回転輪との間に介在している複数の転動体、前記複数の転動体を保持する保持器、及び、前記固定輪の側部に取り付けられている環状のシールドを備え、前記シールドに、前記固定輪との溶接による溶け込み部と、前記固定輪と固定されていない非溶接部とが、周方向に沿って交互に設けられている。
【0006】
本発明の一態様に係る転がり軸受の製造方法は、固定輪、回転輪、前記固定輪と前記回転輪との間に介在している複数の転動体、及び、前記複数の転動体を保持する保持器を備えている転がり軸受の当該固定輪に、環状のシールドを取り付ける、転がり軸受の製造方法であって、前記固定輪の側部に前記シールドの一部を重ねる準備工程と、前記シールドを前記側部にレーザ溶接する溶接工程と、を有し、前記溶接工程では、レーザを出力するヘッドと、前記シールドを重ねた前記固定輪とを、前記固定輪の中心軸回りに相対回転させながら、前記シールドにレーザを出力して溶接する溶接動作とレーザを出力しない非溶接動作とを交互に繰り返し行なう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】転がり軸受の一例を示す断面図である。
図2】軸方向一方側のシールドの外周側部、及びその周囲を説明する断面図である。
図3図1に示す転がり軸受の側面図である。
図4A】準備工程の様子を示す説明図である。
図4B】準備工程の様子を示す説明図である。
図5】治具によってシールドを外輪の側部に押し付けた状態を、中心軸に沿った方向から見た図である。
図6A】別の形態の治具によってシールドを外輪に押し付けた状態の説明図である。
図6B図6Aにおいて矢印Bにおける断面図である。
図7】溶接工程の説明図である。
図8】本実施形態の転がり軸受の仕様と、溶接工程での溶接条件の一例を示す図である。
図9A】溶接工程における溶接動作と非溶接動作とを説明するタイムチャートである。
図9B】溶接工程の説明図である。
図10】溶け込み部の比率と外輪の歪みとの関係を示したグラフである。
図11】溶け込み部の比率とシールドの固定力との関係を示したグラフである。
図12】他の形態の転がり軸受の側面図である。
図13】転がり軸受の更に別の形態を示す断面図である。
図14図13に示す転がり軸受の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示が解決しようとする課題>
前記のとおり、シールドを外輪に嵌め入れて固定することが難しい。そこで、シールドを溶接により外輪に固定する手段が提案されている。転がり軸受の軸方向寸法を小さくしてスリム化を図るためには、シールドの板厚を薄くするのが好ましいが、その場合、溶接による取り付けが困難となることがある。例えば溶接による入熱量が大きくなると、シールドが想定外に変形する。
【0009】
溶接によるシールドの変形(歪み)の原因の一つとして、シールドの残留応力が考えられる。すなわち、シールドは、圧延等によって得られた薄板を、更にプレスによって所定形状に成型することで製造されている。このため、得られたシールドには残留応力が生じている。このようなシールドを、溶接によって固定輪に取り付けると、溶接の際の熱によって残留応力が開放され、シールドが所定方向に歪み、この歪みによって固定輪が引っ張られて変形することがある。
【0010】
そこで、転がり軸受の固定輪にシールドを溶接によって固定し、しかも、シールドの歪みを抑え、固定輪の変形を抑制することを目的とする。
【0011】
<本発明の実施形態の概要>
以下、本発明の実施形態の概要を列記して説明する。
【0012】
本実施形態の転がり軸受の製造方法は、固定輪、回転輪、前記固定輪と前記回転輪との間に介在している複数の転動体、及び、前記複数の転動体を保持する保持器を備えている転がり軸受の当該固定輪に、環状のシールドを取り付ける方法であって、前記固定輪の側部に前記シールドの一部を重ねる準備工程と、前記シールドを前記側部にレーザ溶接する溶接工程と、を有し、前記溶接工程では、レーザを出力するヘッドと、前記シールドを重ねた前記固定輪とを、前記固定輪の中心軸回りに相対回転させながら、前記シールドにレーザを出力して溶接する溶接動作とレーザを出力しない非溶接動作とを交互に繰り返し行なう。
【0013】
この製造方法によれば、レーザを出力するヘッドと固定輪との相対回転は連続であるが、シールドと固定輪との溶接は周方向に沿って不連続となる。このため、得られる転がり軸受では、シールドに、固定輪と溶接されることで形成された溶け込み部と、固定輪と固定されていない非溶接部とが、周方向に沿って交互に設けられた構成となる。非溶接部ではレーザ溶接による入熱が無いことから、全体としてシールドへの入熱量を少なくすることができ、シールドの歪みの発生を低減することができる。この結果、固定輪の変形を抑制することが可能となる。
【0014】
また、前記溶接動作では、当該溶接動作を繰り返す第一周期よりも短い第二周期でレーザを間欠的に出力しつつ、前記固定輪との溶接による溶け込み部を、連続した円弧状に形成するのが好ましい。この場合、溶接動作の間においてレーザの出力が間欠的であることから、短時間ではあるが溶接動作中にもレーザを出力しない時間があり、その間に放熱が可能となり、シールドの歪みをより一層低減することができる。
【0015】
また、前記準備工程において、前記固定輪の側部に前記シールドの一部を重ねた状態で、治具によって当該シールドを当該固定輪の側部に押し付けた状態とし、前記押し付けた状態を維持して、前記溶接工程を行なうのが好ましい。このように、治具がシールドを固定輪の側部に押し付けた状態で維持し、溶接工程を行なうことで、シールドの歪みを更に低減することができる。
また、前記治具は、前記固定輪の中心軸と同軸状となって位置する本体部と、当該本体部から径方向外側に延びかつ周方向に間隔をあけて設けられている複数の突出部と、を有し、前記突出部が前記シールドを前記固定輪の側部に押し付けた状態で、周方向で隣り合う前記突出部の間にレーザを出力するのが好ましい。この場合、周方向で隣り合う突出部の間に溶け込み部が形成され、周方向で隣り合う溶け込み部の間が非溶接部となる。非溶接部となる箇所を治具の突出部によって押さえるため、シールドに生じる歪みをより一層効果的に低減することができる。
【0016】
本実施形態の転がり軸受は、固定輪、回転輪、前記固定輪と前記回転輪との間に介在している複数の転動体、前記複数の転動体を保持する保持器、及び、前記固定輪の側部に取り付けられている環状のシールドを備え、前記シールドに、前記固定輪との溶接による溶け込み部と、前記固定輪と固定されていない非溶接部とが、周方向に沿って交互に設けられている。
この転がり軸受は、非溶接部では溶接による入熱が無いことから、全体としてシールドへの入熱量を少なくして製造されており、シールドの歪みの発生が低減されている。この結果、固定輪の変形が抑制された真円度の小さい転がり軸受となる。
【0017】
また、前記溶け込み部は、周方向に沿って等ピッチで設けられていてもよく、前記溶け込み部は、周方向に沿って不等ピッチで設けられていてもよい。不等ピッチとする場合、周方向に沿って、溶け込み部が密に存在する領域と、溶け込み部がまばらに存在する領域とを生じさせることができる。
ここで、シールドは薄いことから、溶接の際の熱によって残留応力が開放されて歪みが大きくなりやすく、この歪みは所定方向に大きく生じる。このため、残留応力の開放によって歪みが大きくなる方向を考慮して、溶け込み部を周方向に沿って不等ピッチとし、溶け込み部が密に存在する領域と、まばらに存在する領域とを設定することで、溶け込み部の全長が同じであっても(つまり、入熱量が同じであっても)、シールドの歪みをより効果的に抑制することが可能となる。
【0018】
従来のシールド付きの転がり軸受では、シールドが固定輪に嵌合することで取り付けられている。このように嵌合によってシールドが固定輪に取り付けられて構成される転がり軸受の場合と、固定輪の歪みを同程度とするためには、周方向に沿って前記溶け込み部が占める割合は、1%以上であって50%以下であり、前記溶け込み部は、周方向に沿って3箇所以上設けられていると共に、当該溶け込み部の一箇所における周長は、0.5mm以上であって5mm以下である構成とするのが好ましい。溶け込み部が占める割合を前記のとおり設定し、溶け込み部を周方向に沿って3箇所以上として、溶け込み部の一箇所における周長を前記のとおり制限することにより、シールドの固定力を確保しつつ、溶け込み部を少なくすることができ、入熱量を制限し、シールドの歪みを抑えることができる。
【0019】
また、前記固定輪の前記側部には、前記シールドを取り付ける周溝が形成されており、前記シールドの縁部は、前記周溝の軸方向範囲内において存在する折れ曲がり部を有し、前記周溝の円筒状の周面と前記縁部の周面との間には全周にわたって隙間が形成されているのが好ましい。この場合、シールドの縁部に折れ曲がり部が形成されていることで、剛性が高まり、溶接によるシールドの歪みを抑制することができる。また、前記周溝とシールドの前記縁部との間において全周にわたって隙間が形成されており、シールドが周溝と干渉するのを防ぐことができる。
【0020】
<本開示の効果>
本開示によれば、転がり軸受の固定輪にシールドを溶接によって固定し、しかも、シールドの歪みを抑えて、固定輪の変形を抑制することが可能となる。
【0021】
<本発明の実施形態の詳細>
〔転がり軸受について〕
図1は、転がり軸受の一例を示す断面図である。この転がり軸受7は、内輪10、外輪20、これら内輪10と外輪20との間に設けられている複数の玉(転動体)30、環状の保持器35、及び環状のシールド40を備えている。図1に示す転がり軸受7は深溝玉軸受である。
【0022】
内輪10は、図示していない軸に外嵌固定される筒状の部材であり、外周に玉30が転動する軌道(軌道溝)11が形成されている。外輪20は、図示していないハウジングの内面に嵌めて固定される部材であり、内周に玉30が転動する軌道(軌道溝)21が形成されている。複数の玉30が内輪10と外輪20との間に介在しており、内輪10と外輪20とは同心状に配置される。保持器35は、複数の玉30を周方向に沿って所定の間隔(等間隔)で保持する。本実施形態では、内輪10が、軸と共に回転する回転輪であり、外輪20がハウジングと共に静止状態となる固定輪である。
【0023】
内輪10、外輪20、及び玉30は軸受鋼(SUJ2)からなる。保持器35はステンレス鋼等の金属製(金属プレス製)又は樹脂製である。シールド40はステンレス鋼(SUS304又はSUS430)からなる。本実施形態では、内輪10及び外輪20と、シールド40とは共に金属製であるが、異種材からなる。内輪10、外輪20、及び玉30の材質は、ステンレス鋼(SUS440C)であってもよい。シールド40の材質は、炭素鋼(SPCC)であってもよい。
【0024】
内輪10と外輪20との間であって玉30が存在する軸受内部5には、潤滑剤としてグリースが封入されている。シールド40は、軸受外部に存在する水や異物が軸受内部5へ侵入するのを防ぐと共に、軸受内部5のグリースが軸受外部へ流出するのを防ぐ。
【0025】
シールド40は、転がり軸受7の軸方向両側に設けられている。各シールド40は、外輪20の側部23に溶接によって取り付けられており、内輪10の外周側の一部(肩部外周面16)と径方向の隙間を有して対向する。軸方向一方側のシールド40と軸方向他方側のシールド40とは、取り付け向きが反対となっているが同じ構成である。
【0026】
シールド40は、金属製の平板部材をプレスにより成型されて得たものであり、厚さが薄い。例えば、シールド40の厚さtは、例えば0.2ミリメートル以上であり0.5ミリメートル以下とすることができ、薄肉の環状部材である。シールド40の内径は20〜120ミリメートルである。図1に示すシールド40は、平坦な円環部41と短円筒部42とを有している。円環部41は、凹凸が無く円環状の平板部分であり、転がり軸受7の中心軸Cに直交する平面に沿って設けられている。転がり軸受7の中心軸Cは、内輪10及び外輪20それぞれの中心軸と一致する。
【0027】
シールド40の外周側部の一部がレーザ溶接されており、シールド40は外輪20の側部23に溶接によって構成されている。具体的に説明すると、シールド40の外周側の端縁から所定寸法だけ径方向内側に寄った途中部44が、後にも説明するが部分的にレーザ溶接されている。シールド40は部分的に外輪20の側部23に溶接によって固定されている。途中部44は、周方向に沿った環状の領域であり、この途中部44に溶接部が部分的に形成されている。溶接部は、シールド40の一部と外輪20の一部とが溶け込んだ溶け込み部50であり、ナゲット又はビードとも呼ばれる。なお、図1及びその他の図において、説明を容易とするために溶け込み部50を実際よりも大きく記載している。
【0028】
図2は、軸方向一方側(図1の右側)のシールド40の外周側部、及びその周囲を説明する断面図である。外輪20の側部23には、軸方向寸法mが小さい周溝24が形成されている。この周溝24は側部23の全周にわたって形成されている。周溝24内の側面22にシールド40の外周側部の側面45を当接させた状態として、周溝24内においてシールド40は溶接によって外輪20に固定されている。周溝24の内周面25の径(内径)はシールド40の径(外径)よりも大きく設定されており、内周面25とシールド40の縁部43との間には隙間が形成されている。
【0029】
周溝24の軸方向寸法mは、シールド40の厚さ寸法tよりも大きく設定されている。これはシールド40、及び溶け込み部50が外輪20の側部23の最も軸方向外側の側面23aから軸方向外側(図3では右側)にはみ出すのを防ぐためである。
【0030】
図3は、図1に示す転がり軸受7の側面図である。前記のとおり、シールド40の外周側部の一部(途中部44)が部分的に外輪20の側部23に溶接によって固定されている。図3に示すように、シールド40の外周側の端縁から所定寸法について径方向内側に寄った途中部44に、外輪20との溶接による溶け込み部50と、外輪20と固定されていない非溶接部(溶接されていない部分)51とが、周方向に沿って交互に設けられている。図3に示す形態では、溶け込み部50は、周方向に沿って等ピッチで設けられている。
【0031】
〔転がり軸受の製造方法について〕
以上のような、環状であり薄肉のシールド40を外輪20に取り付けることで行われる転がり軸受7の製造方法について説明する。この製造方法では、図1を参考にして説明すると、先ず、内輪10、外輪20、玉30及び保持器35を一体化し、中間製品である軸受部とする(組み立て工程)。次に、この軸受部の外輪20の側部23にシールド40の一部(外周側部)を重ねる準備工程が行われ、その後、シールド40を外輪20の側部23にレーザ溶接(ファイバーレーザ溶接)する溶接工程が行われる。図1に示す転がり軸受7の場合、軸方向一方側において準備工程及び溶接工程を行い、その後、軸方向他方側において準備工程及び溶接工程を行なう。準備工程及び溶接工程では、前記軸受部及び転がり軸受7の中心軸Cを鉛直方向として、上方からレーザ溶接を行なう(図7参照)。
【0032】
〔準備工程について〕
図4A及び図4Bは、準備工程の様子を示す説明図であり、組み立て工程を終えた中間製品である軸受部9、シールド40、及び治具60を断面で示している。準備工程では、外輪20の側部23にシールド40の一部(外周側部)を重ねた状態で、治具60によってシールド40を外輪20の側部23に押し付けた状態とする。そして、この押し付けた状態を維持して、溶接工程が行われる。治具60の押し付けは、図外のアクチュエータ等による。
【0033】
図5は、治具60によってシールド40を外輪20の側部23に押し付けた状態を、中心軸Cに沿った方向(上方から)から見た図である。治具60は、中心軸Cと同軸状となって位置する本体部61と、この本体部61から径方向外側に延びかつ周方向に間隔をあけて設けられている複数の突出部62とを有している。この治具60(以下、「第一の形態の治具60」ともいう)は、中心軸Cに沿った方向から見ると、歯車形状を有している。突出部62の数は溶け込み部50の数と一致する。図4Aは、図5において矢印Aにおける断面を示し、図4Bは、図5において矢印Bにおける断面を示している。図4Aに示すように、本体部61の外周縁部61aが、外輪20の側部23のうちの内周側領域28に対して、シールド40を押さえつけることができる。図4Bに示すように、本体部61の外周縁部61aが、外輪20の側部23のうちの内周側領域28に対して、シールド40を押さえつけることができると共に、更に、突出部62が、外輪20の側部23のうちの中間領域29に対して、シールド40を押さえつけることができる。中間領域29は、内周側領域28の径方向外方側の領域である。図5に示すように、周方向で隣り合う突出部62,62の間においては、シールド40が露出していることから、シールド40のうちの突出部62,62間で露出している部分を、レーザ溶接することができる。突出部62によって押さえつけられている部分が、非溶接部51となる。
【0034】
図6Aは、別の形態の治具70(以下、「第二の形態の治具70」ともいう)によってシールド40を外輪20の側部23に押し付けた状態を、中心軸Cに沿った方向から見た図である。図6Bは、図6Aにおいて矢印Bにおける断面を示している。第二の形態の治具70は、図5に示す治具60とは異なり、中心軸Cと同軸状となって位置する円形の本体部61のみによって構成されている。転がり軸受7の製造において、第二の形態の治具70を用いてもよいが、シールド40を押さえつける領域を増やしてシールド40の歪みを抑制する観点から、図5に示す治具60とするのが好ましい。
【0035】
なお、図6Aに示す例では、前記の実施形態と異なり、レーザ溶接を全周としている。つまり、周方向に連続する溶け込み部53が形成されている。このように、レーザ溶接を全周とする場合、第二の形態の治具70とする必要がある。しかし、この場合、図6Bに示すように、第二の形態の治具70は、外輪20の側部23のうちの内周側領域28に対して、シールド40を押さえつけることができるが、外輪20の側部23のうちの中間領域29に対して、シールド40を全く押さえつけることができない。
【0036】
以上より、本実施形態の製造方法によって組み立てられる転がり軸受7は(図3参照)、シールド40に溶け込み部50と非溶接部51とが周方向に沿って交互に設けられたものとなる。この組み立てのために、図5に示すように、本体部61から径方向外側に延びた突出部62を複数有する第一の形態の治具60を用いればよく、この治具60により、シールド40を外輪20に広い範囲で押さえつけることができる。
【0037】
〔溶接工程について〕
溶接工程について更に詳しく説明する。図7は、溶接工程の説明図である。溶接工程では、レーザを出力するヘッド80と、準備工程においてシールド40を重ねた外輪20とを、中心軸C回りに相対回転させながら、ヘッド80からシールド40にレーザを出力して溶接する「溶接動作」とレーザを出力しない「非溶接動作」とを交互に繰り返し行なう。本実施形態では、ヘッド80を固定状態とし、シールド40と共に外輪20を含む軸受部9を中心軸C回りに回転させる。外輪20が一回転する間(360度の回転をする間)に、溶接動作と非溶接動作とを交互に繰り返し行なう。外輪20が一回転する間、治具60によってシールド40は外輪20の側部23に押し付けられた状態にある。治具60も、シールド40及び外輪20と同期して回転する。溶接動作と非溶接動作との切り替えは、レーザ発生のための電気的なオンとオフとを繰り返す制御を行なうことによって実現でき、その制御は容易である。
【0038】
図8は、本実施形態の転がり軸受7の仕様と、溶接工程での溶接条件の一例を示している。図8において、溶け込み部50の等配数が「85」となっている。これに対して、図3等では、説明を容易とするために、溶け込み部50の等配数を「85」よりも少なくして記載している。図9A及び図9Bは、図3に示す転がり軸受7を製造するための溶接工程の説明図である。図9Aは、溶接工程における溶接動作と非溶接動作とを説明するタイムチャートであり、横軸が時間を表し、縦軸がヘッド80から出力するレーザの出力(レーザパワー)を表している。外輪20は5秒で一回転し、シールド40に対して、0.5秒間隔で溶接動作が行われる。非溶接動作も0.5秒間隔となる。溶接動作を繰り返す周期(本実施形態では0.5秒)を、第一周期と呼ぶ。この溶接工程によって、シールド40(図3参照)の途中部44に、溶け込み部50と非溶接部51とが周方向に沿って交互に設けられる。
【0039】
図9Aのタイムチャートの一部を拡大した拡大図に示すように、溶接動作を実行している間、溶接動作を繰り返す前記第一周期よりも短い第二周期(例えば、0.001秒)でレーザを間欠的に出力する。つまり、レーザ出力をパルス波形としている。このように、溶接動作の時間帯では、レーザを間欠的に出力するが、図9Bに示すように、溶け込み部50を連続させる。本実施形態では、外輪20を回転させながら溶接するため、溶け込み部50は連続した円弧状に形成される。つまり、溶け込み部50は、径方向寸法Dよりも周長(周方向寸法)Lが大きくなる形状(円弧状)で形成される。この点で、本実施形態の溶接は、スポット溶接と異なる。
【0040】
前記のとおり、溶接動作ではレーザ出力をパルス波形としているが、これ以外として、溶接動作の時間中、レーザ出力を一定としてもよい。ヘッド80から出力させるレーザの波長は1064〜1090ナノメートルの範囲で設定される。出力されるレーザのパワーは250W未満であり、小出力としている。シールド40の軸方向外側からシールド40に対してレーザを出力することで、シールド40の一部と外輪20の一部とを溶接する。本実施形態では、溶加材無しで溶接する。デューティー比等の溶接条件は、図8に示す条件以外であってもよく、変更可能である。
【0041】
前記溶接工程によれば、シールド40に対してレーザ溶接することで、シールド40をその厚さ方向に貫通する溶け込み部50が得られ(図2参照)、薄肉のシールド40を外輪20の側部23に固定することができる。
以上の溶接工程を終えることで、転がり軸受7は完成する。
【0042】
〔本実施形態の転がり軸受7及びその製造方法について〕
溶接によるシールド40の変形(歪み)について説明する。溶接によるシールド40の歪みの原因の一つとして、シールド40の残留応力が考えられる。すなわち、シールド40は、圧延等によって得られた薄板を、更にプレスによって所定形状に成型することで製造されている。このため、得られたシールド40には残留応力が発生している。このようなシールド40を、溶接によって外輪20に取り付けると、溶接の際の熱によって残留応力が開放され、シールド40が所定方向に歪み、この歪みによって外輪20が引っ張られて変形することがある。そこで、本実施形態の製造方法では、溶接によるシールド40への入熱量を少なくし、シールド40の歪みの発生を低減している。
【0043】
すなわち、本実施形態の製造方法の溶接工程では、前記のとおり(図7参照)、レーザを出力するヘッド80に対して、シールド40を重ねた外輪20を中心軸C回りに回転させながら、シールド40にレーザを出力して溶接する溶接動作とレーザを出力しない非溶接動作とを、交互に繰り返し行なう。この製造方法によれば、溶接のためのシールド40及び外輪20の回転は連続であるが、シールド40と外輪20との溶接は周方向に沿って不連続となる。このため製造される転がり軸受7では、シールド40に、外輪20と溶接されることで形成された溶け込み部50と、外輪20と固定されていない非溶接部51とが、周方向に沿って交互に設けられた構成となる。非溶接部51ではレーザ溶接による入熱が無いことから、全体としてシールド40への入熱量を少なくすることができる。このため、シールド40の歪みの発生を低減することができ、外輪20の変形を抑制することが可能となる。
【0044】
溶接によるシールド40の変形(歪み)について更に説明する。シールド40を外輪20に溶接する際、溶接の熱によってシールド40が熱膨張する。シールド40が外輪20に固定され、放熱によりシールド40が冷却されると、シールド40は収縮する。しかし、シールド40は外輪20に固定されているため、収縮しきれず、シールド40に応力が発生する。すると、シールド40が外輪20を引っ張り、シールド40及び外輪20にひずみが発生する。そこで、本実施形態の製造方法では、前記のとおり、溶接によるシールド40への入熱量を少なくし、シールド40の歪みの発生を低減している。
【0045】
また、本実施形態の製造方法によれば、外輪20の回転、回転停止、溶接という順序のように溶接を開始する毎に回転を停止させないで済む。このため、加工時間の短縮が可能となる。
【0046】
また、本実施形態の溶接動作では、図9Aにより説明したとおり、この溶接動作を繰り返す第一周期(0.5秒)よりも短い第二周期(0.001秒)でレーザを間欠的に出力しつつ、図9Bに示すように、溶け込み部50を連続した円弧状に形成する。このように、溶接動作の間においてレーザの出力が間欠的であることから、短時間ではあるが溶接動作中にもレーザを出力しない時間があり、その間に放熱が可能となり、シールド40の歪みをより一層低減することができる。
【0047】
また、準備工程において、図7に示すように、外輪20の側部23にシールド40の一部を重ねた状態で、治具60によってシールド40を外輪20の側部23に押し付けた状態とし、この押し付けた状態を維持して、溶接工程が行われる。これにより、シールド40の歪みを更に低減することができる。また、治具60は、中心軸Cと同軸状となって位置する本体部61から径方向外側に延びている複数の突出部62を有しており、これら突出部62は(図5参照)、周方向に間隔をあけて設けられている。そして、これら突出部62がシールド40に接触することによってこのシールド40を外輪20の側部23に押し付けた状態とし、この状態で、周方向で隣り合う突出部62,62の間にレーザを出力し、シールド40と外輪20とを溶接する。周方向で隣り合う突出部62,62の間に溶け込み部50が形成され、周方向で隣り合う溶け込み部50,50の間が非溶接部51となり、この非溶接部51となる箇所を治具60の突出部62によって押さえることができる。このため、治具60によるシールド40の拘束箇所を増やすことが可能となり、シールド40に生じる歪みをより一層効果的に低減することができる。
【0048】
溶け込み部50と非溶接部51との比率は変更可能であり、また、溶け込み部50の周長等も変更可能である。図10は、溶け込み部50の比率と外輪20の歪みとの関係を示したグラフである。図11は、溶け込み部50の比率とシールド40の固定力との関係を示したグラフである。「溶け込み部50の比率」は、周方向に沿った溶け込み部50の占める割合である。
【0049】
図10及び図11によれば、溶け込み部50の比率は、1%以上であって50%以下とするのが好ましい。この比率が1%以上あれば、シールド40が外輪20から脱落しないだけの固定力が得られる。溶け込み部50の比率が50%を超えると、外輪20の歪みが、所定値αを超える可能性がある。なお、所定値αとは、外輪20の歪みの許容値であり、具体的に説明すると、従来の嵌合によってシールドが外輪に取り付けられて構成される転がり軸受の場合の外輪の歪み(許容値)である。つまり、従来例よりも外輪20の歪みを低減するためには、溶け込み部50の比率を50%以下とするのが好ましい。
【0050】
溶け込み部50を周方向に沿って3箇所以上とすれば、溶け込み部50の一箇所における周長L(図9B参照)は、0.5mm以上であって5mm以下とすることができる。周長Lが0.5mm以上であることにより、シールド40が外輪20から脱落しないだけの(必要最小限の)固定力が得られる。そして、従来の転がり軸受よりも歪みを低減するために、周長Lを5mm以下とするのが好ましい。このように、溶け込み部50の周長Lを短くし、その数を少なくすることで、溶接による入熱量を低減することができる。
【0051】
以上より、周方向に沿って溶け込み部50が占める割合(前記比率)は、1%以上であって50%以下であり、溶け込み部50は、周方向に沿って3箇所以上設けられていると共に、溶け込み部50の一箇所における周長Lは、0.5mm以上であって5mm以下であるのが好ましい。このように、溶け込み部50が占める割合を前記のとおり設定し、溶け込み部50を周方向に沿って3箇所以上として、溶け込み部50の一箇所における周長Lを前記のとおり制限することにより、シールド40の固定力を確保しつつ、溶け込み部50を少なくすることができる。この結果、溶接による入熱量を制限し、シールド40の歪みを抑えることができる。
【0052】
〔他の形態の転がり軸受について〕
前記実施形態では(図3参照)溶け込み部50が周方向に沿って等ピッチで設けられている場合について説明した。図12に示すように、溶け込み部50は、周方向に沿って不等ピッチで設けられていてもよい。つまり、周方向で隣り合う溶け込み部50,50の間隔が、シールド40の環状となる途中部44に沿った周方向位置により、不均等となっている。図12に示す形態では、中心軸Cを中心として180度離れた第一領域K1と第二領域K2に設けられている溶け込み部50の間隔は、第一領域K1(第二領域K2)と90度離れた第三領域K3と第四領域K4に設けられている溶け込み部50の間隔よりも狭くなっている。このように、溶け込み部50を不等ピッチとする場合、周方向に沿って、溶け込み部50が密に存在する領域(第一領域K1及び第二領域K2)と、この領域よりも溶け込み部50がまばらに存在する領域(第三領域K3及び第四領域K4)とが生じる。
【0053】
シールド40は薄いことから、溶接の際の熱によって残留応力が開放されて歪みが大きくなりやすく、この歪みは所定方向に大きく生じる。このため、残留応力の開放によって歪みが大きくなる方向を考慮して、図12に示すように、溶け込み部50を周方向に沿って不等ピッチとすればよい。溶け込み部50が密に存在する領域(第一領域K1及び第二領域K2)と、まばらに存在する領域(第三領域K3及び第四領域K4)とを、シールド40の残留応力の大きさと方向に応じて設定することで、溶け込み部50の全長が同じであっても(つまり、入熱量が同じであっても)、シールド40の歪みをより効果的に抑制することが可能となる。
【0054】
図13は、転がり軸受7の更に別の形態を示す断面図である。この転がり軸受7は、図1に示す転がり軸受7と同様に、外輪20の側部23に、シールド40を取り付ける周溝24が形成されている。図13に示す転がり軸受7は、図1に示す転がり軸受7と比較して、内輪10の形態、及びシールド40の形態が異なっている。図13に示す内輪10は、肩部12に環状の溝13が形成されており、シールド40の内周側の端部との間で、ラビリンス隙間を構成している。
【0055】
図13の拡大図に示すように、シールド40の外周側部40aは、溶接によって外輪20の側部23に固定される円環状の固定部56と、この固定部56の径方向外側の端部と連続する折れ曲がり部55とを有している。折れ曲がり部55は、中心軸Cを中心とするアール付きの短筒状の部分により構成されている。折れ曲がり部55は、軸方向に短く、外輪20の側面23aからはみ出ないように、周溝24の軸方向範囲内において存在している。このように、シールド40の径方向外側の縁部43は、折れ曲がり部55を有している。この縁部43の外周面57と、周溝24の円筒状の内周面25との間には、(図2に示す形態と同様)全周にわたって隙間が形成されている。
【0056】
図13に示す形態の場合、シールド40の縁部43に折れ曲がり部55が形成されていることで、シールド40の外周側部40aにおいて剛性が高まり、溶接によるシールド40の歪みを抑制することができる。また、周溝24とシールド40の縁部43との間において全周にわたって隙間が形成されていることから、溶接によってシールド40を取り付ける際に、シールド40が径方向に変形したとしても、縁部43が周溝24と干渉するのを防ぐことができる。また、周溝24には、凹状の隅アール部24aが形成されており、折れ曲がり部55の一部が凸状のアール部55aとなっている。凸状のアール部55aの曲率半径は、隅アール部24aの曲率半径よりも大きくなっており、これにより、シールド40の縁部43が、隅アール部24aに干渉して、シールド40が浮き上がるのを防止することができる。
【0057】
図13に示す形態では、更に、シールド40は、固定部56の径方向内側の端部と連続する第二の折れ曲がり部58を有している。第二の折れ曲がり部58により、シールド40の外周側部40aにおける剛性をより高め、歪みの発生を抑制することができる。
【0058】
シールド40は、径方向外側から順に、第一の折れ曲がり部55、円環状の固定部56、第二の折れ曲がり部58、円環部41、及び短円筒部42を有する。第一の折れ曲がり部55と、円環状の固定部56と、第二の折れ曲がり部58とによって囲まれた領域に周方向に連続する凹部59が形成される。この凹部59に溶け込み部50の一部が存在する。凹部59は、溶け込み部50が外輪20の側面23aからはみ出すのを防ぐ。
【0059】
第二の折れ曲がり部58は、内輪10側に向かうにしたがって軸方向外側(図13では右側)へ向かう形状を有する。そして、第二の折れ曲がり部58は、平坦であり円環状の円環部41と繋がる。第二の折れ曲がり部58によれば、円環部41は、固定部56よりも軸方向外側に位置し、保持器35との間隔を広くする。この広くなっている領域に、グリースが存在することができる。このため、軸受内部5におけるグリースの封入量が増加する。
【0060】
図1の形態では、シールド40の径方向外側部分が、全体的に平坦である。このため、溶接すべき箇所を目視により特定することが困難である。これに対して、図13の形態では、第一の折れ曲がり部55と第二の折れ曲がり部58との間、つまり、固定部56の範囲を、溶接すべき箇所として、目視により特定することが容易である。このように、シールド40が第二の折れ曲がり部58を有することで、前記準備工程において、目視によってシールド40を外輪20に位置合わして溶接する作業が容易となる。
【0061】
図14は、図13に示す転がり軸受7の変形例を示す断面図である。図14に示す転がり軸受7では、シールド40の外周側部は、溶接によって外輪20の側部23に固定される円環状の固定部56、及び、固定部56の径方向内側の端部と連続する折れ曲がり部58を有している。この構成によれば、シールド40の外周側部において剛性が高まり、溶接によるシールド40の歪みを抑制することができる。なお、シールド40は、図示した形状以外であってもよい。
【0062】
図14の形態においても、図13の形態と同様、第二の折れ曲がり部58により、軸受内部5におけるグリースの封入量が増加する。また、第二の折れ曲がり部58を有することで、前記準備工程において、目視によってシールド40を外輪20に位置合わして溶接する作業が容易となる。
【0063】
前記各実施形態では、シールド40が外輪20に取り付けられている場合について説明したが、内輪10が固定輪であり外輪20が回転輪である場合、シールド40は内輪10に取り付けられる。この場合、図示しないが、シールドの内周側の端縁から所定寸法について径方向外側に寄った途中部が、内輪の側部に溶接によって取り付けられており、途中部に溶接部(溶け込み部)が間欠的に形成される。
【0064】
本発明の転がり軸受は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。また、その製造方法についても本発明の範囲内において他の形態の方法であってもよい。
例えば、前記各実施形態では玉軸受の場合を説明したが、これ以外として、転がり軸受は、転動体がころであるころ軸受であってもよい。
また、前記各実施形態では、シールド40が外輪20の軸方向両側に取り付けられる場合について説明したが、軸方向の一方側のみに取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
7:転がり軸受 10:内輪(回転輪) 20:外輪(固定輪)
23:側部 24:周溝 25:内周面(周面)
30:玉(転動体) 35:保持器 40:シールド
43:縁部 50:溶け込み部 51:非溶接部
55:折れ曲がり部 57:外周面(周面) 60:治具
61:本体部 62:突出部 70:治具
80:ヘッド C:中心軸 L:周長
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14