【文献】
YAMAMOTO, Satoshi et al.,Stimulation of Hair Growth by Topical Application of FK506, a Potent Immunosuppressive Agent,THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY,1994年 2月,Vol.102, No.2,p.160-164,<ISSN:0022-202X>
【文献】
杉林 堅次,吸収改善(生体膜透過促進),新・ドラッグデリバリーシステム,株式会社シーエムシー,2000年 1月31日,第34頁−第49頁,特に第39頁22−24行 <ISBN: 978-4882312680>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る外用剤は、主薬(API=active pharmaceutical ingredient)としてタクロリムスを含む。タクロリムスの含有率は、0.01〜0.3重量%であることが好ましい。タクロリムスの含有率が0.01重量%を下回ると、有効性が乏しくなり、0.3重量%を越えると安全性が損なわれるおそれがある。なお、本明細書に記載される各成分の重量%は、外用剤(すなわち、製剤全量) の重量を100とした場合の、各成分の重量の割合を意味する。
タクロリムスの製剤学的に許容される塩としては、無毒の、医薬として許容される慣用の塩を用いることができる。このような塩として、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩(トリエチルアミン塩、N-ベンジル-N-メチルアミン塩等)のような無機又は有機塩基との塩が挙げられる。
タクロリムスの製剤学的に許容される溶媒和物としては、水和物及びエタノレートが挙げられる。
本発明の外用剤は、タクロリムス水和物(特に、以下に示す一水和物)を含むことが好ましい。タクロリムス一水和物は、アトピー性皮膚炎の治療薬として知られているプロトピック(登録商標)軟膏の主薬として周知である。
【0014】
本発明に係る外用剤では、タクロリムスの可溶化剤として、一種又は複数のケトンが使用される。ケトンは、タクロリムスの可溶化剤として使用した際、高い製剤−皮膚間の分配係数Kを示し、それゆえタクロリムスの経皮吸収性に優れた外用剤を提供することができる。また、可溶化剤としてケトンを用いることにより、外用剤中のタクロリムスを安定に保つことができる。
【0015】
前記ケトンの好ましい例として、式:R−(C=O)−R'で表した場合、R及びR'がそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基であるケトンが挙げられる。前記アルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。特に、R又はR'のどちらか一方がメチル基であるケトンがより好ましい。より好ましいケトンは、メチルエチルケトン、アセトン及びメチルイソブチルケトンからなる群より選択されるケトンであり、特に好ましいケトンは、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンからなる群より選択されるケトンであり、最も好ましいケトンはメチルエチルケトンである。前記ケトンは、アセトン以外のケトンであってもよい。前記ケトンは、ポリエチレンピロールケトンなどの粘度増加剤として使用されるケトンではないことが好ましい。
【0016】
外用剤におけるケトンの含有率は、合計で3〜15重量%であることが好ましい。3重量%を下回った場合は、タクロリムスの安定性と吸収性が損なわれる。より好ましい含有率は、4〜12重量%であり、特に好ましい含有率は4.5〜11重量%であり、さらに好ましい含有率は5〜10重量%である。
【0017】
本発明の外用剤は、エタノールを実質的に含まない。実質的にエタノールを含まないとは、製造工程で意図的にエタノールを添加していないことを意味する。従って本発明の外用剤のエタノール含有率は通常0重量%であり、ごくわずかにエタノールが混入するとしても、エタノール含有率は1重量%未満(より好ましくは0.5重量%未満)である。タクロリムスはエタノールに溶けやすく、且つエタノールは高いタクロリムスの分配係数Kを示すが、エタノールには皮膚刺激性があることが知られている。タクロリムス含有外用剤が、アトピー性皮膚炎の治療のために用いられる(すなわちバリア機能が低下した皮膚に塗布される)ことを考えると、皮膚刺激性のあるエタノールは含まないことが好ましい。本発明の外用剤は、エタノールを実質的に含有しないため、皮膚への刺激性が低く、アトピー性皮膚炎を治療するのに適している。
また、本発明は、エタノール以外の低級一価アルコール(炭素数1〜3の一価アルコール、例えばイソプロパノール)も実質的に含まないことが好ましい。
【0018】
本発明の外用剤は、非水性であること、すなわち、実質的に水を含まないことが好ましい。実質的に水を含まないとは、製造工程で意図的に水を添加していないことを意味する。従って本発明に係る外用剤が非水性である場合、その含水率は通常1重量%未満(より好ましくは0.5重量%未満、特に好ましくは0重量%)である。
【0019】
また、本発明の外用剤は、親水性高分子(カルボキシビニルポリマーなど)を実質的に含んでいなくてもよい。また、本発明の外用剤は、界面活性剤を実質的に含んでいなくてもよい。また、本発明の外用剤は、多価アルコール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール)を実質的に含んでいなくてもよい。また、本発明の外用剤は、水性成分(水、及び、多価アルコール・低級一価アルコールなどの水と混ざる成分)を実質的に含まない油性製剤、例えば、油性ローション剤であってもよい。また、本発明の外用剤は、アセトンを実質的に含んでいなくてもよい。実質的に含まないとは、その成分の含有率が、1重量%未満(より好ましくは0.5重量%未満、特に好ましくは0重量%)であることを意味する。
【0020】
本発明の外用剤は、少なくとも一種の脂肪酸エステルをさらに含むことが好ましい。ケトンと脂肪酸エステルを併用することにより、タクロリムスの安定性を維持したまま、経皮吸収性を向上させることができる。
【0021】
本発明で使用される脂肪酸エステルとしては、脂肪酸モノエステル、脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
このような脂肪酸エステルの例として、炭素数6〜22(好ましくは8〜20、より好ましくは8〜18)の飽和又は不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸)と、炭素数1〜22(好ましくは3〜20)のアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、セタノール、1-ヘキサデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、オクチルドデシルアルコール、ベヘニルアルコール)とのエステルが挙げられる。
【0022】
前記脂肪酸エステルの好ましい例として、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸ヘキサデシル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、中鎖脂肪酸トリグリセリド(例えば、トリイソオクタン酸グリセリン及びトリ(カプリル・カプリン酸)グリセリンなど)からなる群より選択される、一種又は複数の脂肪酸エステルが挙げられる。
【0023】
前記脂肪酸エステルは、一種のみを使用しても、複数種を使用してもよい。本発明の好ましい外用剤の例として、イソステアリン酸ヘキサデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、セバシン酸ジエチル、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される脂肪酸エステルを2種又は3種含む外用剤が挙げられる。特に好ましい例として、イソステアリン酸ヘキサデシル及びミリスチン酸オクチルドデシルを含む外用剤、又は、イソステアリン酸ヘキサデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル及び中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む外用剤が挙げられる。
【0024】
本発明の外用剤における少なくとも一種の脂肪酸エステルの含有率は、合計で15〜50重量%であることが好ましく、20〜45重量%であることがより好ましく、23〜42重量%が特に好ましく、25〜40重量%であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の外用剤は、さらに軽質流動パラフィン及び流動パラフィンなどの液状パラフィンを少なくとも一種含むことが好ましい。本発明の外用剤における液状パラフィンの含有率は、45〜80重量%であることが好ましく、50〜75重量%であることがより好ましく、52〜72重量%であることが特に好ましく、53〜70重量%であることがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明の外用剤において、前記少なくとも一種のケトンと、前記少なくとも一種の脂肪酸エステルの割合は、ケトンの総重量を1としたとき、脂肪酸エステルの総重量が2.5〜10の範囲であることが好ましく、2.8〜9の範囲であることがより好ましく、3〜8の範囲であることが特に好ましい。
特に、前記ケトンがメチルエチルケトンのみであり、前記脂肪酸エステルがイソステアリン酸ヘキサデシルとミリスチン酸オクチルドデシルの2種類である場合は、メチルエチルケトンの重量1に対して、イソステアリン酸ヘキサデシルとミリスチン酸オクチルドデシルの総重量が3〜8であることが好ましく、4〜6であることがより好ましい。
【0027】
また、本発明の外用剤において、前記少なくとも一種のケトンと、前記液状パラフィンの割合は、ケトンの総重量を1としたとき、液状パラフィンの総重量が5〜15の範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明に係る外用剤は液状(例えば、ローション状)であり、その粘度は一般に2000 mPa・s以下であることが好ましく、1000 mPa・s以下であることがより好ましく、200 mPa・s以下であることが特に好ましい。本発明において、粘度とは、コーンプレート型粘度計(MCR302、治具CP50-1)にて、測定温度25℃、回転数5rpmで45秒間測定した際の粘度を意味する。
【0029】
本発明に係る外用剤は、上記成分の他に、保存剤等を含むことができる。
【0030】
上記保存剤の例としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノールなどが挙げられる。上記保存剤は、一種のみを用いてもよく、複数を併用してもよい。外用剤における保存剤の含有率は、0.01〜2重量%の範囲とすることが好ましく、0.1〜1.0重量%の範囲とすることがより好ましい。2重量%を越えた場合は、製剤としての安全性が危惧されるおそれがある。
【0031】
本発明の外用剤の好ましい一例として、(i)タクロリムス水和物、(ii)3〜15重量%の少なくとも一種のケトン、(iii)15〜50重量%の少なくとも一種の脂肪酸エステル、及び(iv)45〜80重量%の少なくとも一種の液状パラフィンを含み、水及びエタノールを実質的に含まない液剤が挙げられる。
【0032】
また、本発明の外用剤の好ましい一例として、(i)タクロリムス水和物、(ii)メチルエチルケトン、(iii)イソステアリン酸ヘキサデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、セバシン酸ジエチル、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドから選択される2種又は3種の脂肪酸エステル、及び(iv)液状パラフィンを含み、水及びエタノールを実質的に含まない液剤が挙げられる。
【0033】
また、本発明の外用剤のより好ましい例として、(i)タクロリムス水和物、(ii)3〜15重量%(より好ましくは4〜12重量%)のメチルエチルケトン、(iii)合計で15〜50重量%(より好ましくは20〜45重量%) の、イソステアリン酸ヘキサデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドから選択される2種又は3種の脂肪酸エステル、及び(iv)45〜80重量%(より好ましくは50〜75重量%)の液状パラフィンを含み、水及びエタノールを実質的に含まない液剤が挙げられる。
【0034】
また、本発明の外用剤の特に好ましい例として、(i)タクロリムス水和物、(ii)3〜15重量%(より好ましくは4〜12重量%)のメチルエチルケトン、(iii)5〜10重量%のイソステアリン酸ヘキサデシル、15〜20重量%のミリスチン酸オクチルドデシル、及び0〜20重量%の中鎖脂肪酸トリグリセリド、及び(iv)45〜75重量%(より好ましくは50〜73重量%)の液状パラフィンを含み、水及びエタノールを実質的に含まない液剤が挙げられる。
【0035】
本発明の外用剤において、上記(i)〜(iv)以外の成分の総含有率は、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることが特に好ましい。
【0036】
本発明の外用剤は、アトピー性皮膚炎等の皮膚のアレルギー疾患の治療に有用である。
本発明に係る外用剤の皮膚への塗布量・塗布頻度は、皮膚の症状、外用剤中のタクロリムスの濃度、患者の年齢等に応じて適宜調節すればよい。通常、一日1〜2回の塗布が適切である。本発明の外用剤は、眼部(特に、眼部前段および眼部表面)には使用されないことが好ましい。
【0037】
なお、先行する段落において、本発明の外用剤に使用される必須成分及び任意成分の好ましい化合物名を記載してきたが、本発明の外用剤には、これらを任意に組み合わせて得られる外用剤が含まれ、且つ、各成分について記載した濃度範囲を任意に組み合わせて得られる外用剤も含まれる。また、先行する段落において記載した濃度、粘度値等の数値範囲も任意に組み合わせ可能であり、数値範囲が複数記載されている場合、各数値範囲の上限値又は下限値も任意に組み合わせ可能である。
【0038】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。実施例で使用したタクロリムスは、全てタクロリムス一水和物(アステラス製薬株式会社から入手)であり、以下の実施例においては、単にタクロリムス又はタクロリムス水和物と称する。
【実施例】
【0039】
[実施例1]In vitro ヘアレスマウス皮膚透過性試験
表1に記載の各溶解剤に、タクロリムス水和物を溶解して得た製剤(液剤)を用いて、皮膚透過性実験を行った。
まず、室温下で自然解凍したヘアレスマウス皮膚の厚み(製剤適用部位の厚み)を測定した。フランツ垂直型透過セルにヘアレスマウス皮膚をセットし、各製剤1 mLを適用した。In vitro経皮吸収自動サンプリングシステムを使用して、規定したサンプリング時点にフランツ垂直型透過セルのレセプター液を採取した。採取したレセプター液中のタクロリムス濃度は液体クロマトグラフィータンデム型質量分析装置(LC/MS/MS)を用いて測定した。その結果に基づき、製剤−皮膚間の分配係数Kを、皮膚中タクロリムス濃度の指標として算出した。分配係数Kの算出式は下記の通りである(式中のラグタイム(lag time)は、皮膚透過速度が定常状態に達するまでの時間である)。
【数1】
結果を表1に示す。分配係数Kが大きいほど、タクロリムスの皮膚中濃度は高くなる(すなわち、分配係数Kの値が大きい溶剤ほど、タクロリムスが溶剤から皮膚へ移行しやすい)。
【0040】
[実施例2]安定性試験
調製した製剤を所定の条件下で一定期間保管し、タクロリムス水和物含量を「第17改正日本薬局方 一般試験法 液体クロマトグラフィー<2.01>」に従って測定し、下記の式により、液状組成物中のタクロリムス水和物の残存率を算出し、組成物中の主薬安定性を評価した。
【数2】
【0041】
結果を表1に示す。
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、メチルエチルケトン(No.1)は、他の溶剤(No.2〜No.15)と比べて、タクロリムスを皮膚へ分配する能力が極めて高いことが分かった。また、メチルエチルケトン(No.1)は、高い主薬(タクロリムス)残存率を示した。他方、エタノールは、メチルエチルケトンよりもはるかに高い分配係数を示した。しかし、タクロリムスがアトピー性皮膚炎の治療に用いられることを考えると、エタノールの皮膚刺激性は、バリア機能の低下した患者の皮膚に悪影響を及ぼすと予測されることから、エタノールを使用することなく、経皮吸収性の高い製剤の開発を目指した。
【0043】
[実施例3]In vitro ヘアレスマウス皮膚透過性試験及び安定性試験
次に、メチルエチルケトン(MEK)と組み合わせて使用することによって、タクロリムスの安定性を維持したまま、経皮吸収性を向上させることができる溶剤について検討した。その結果、表2に示すように、メチルエチルケトンと脂肪酸エステル類を併用することにより、タクロリムスの皮膚への分配性をより高め、且つ、製剤中のタクロリムスの安定性を維持できることが分かった。結果を表2に示す。表2の溶剤の%は重量%を意味する。分配係数Kと主薬残存率はそれぞれ、実施例1及び2と同じ方法を用いて求めた。
【0044】
【表2】
【0045】
[実施例4]In vitro ヘアレスマウス皮膚透過性試験
特許文献1(特開2012-149097)に開示されているタクロリムスの溶解剤(トリアセチン)を含む製剤と、メチルエチルケトンを含む製剤の分配係数Kを比較するため、特許文献1の製剤例3を参考に、以下の組成物を製造し、実施例1と同じ方法で分配係数Kを求めた。
【0046】
結果を表3に示す。表3の各成分の数値は重量%である。
【表3】
表3に示すように、メチルエチルケトンを含む組成物No.1は、トリアセチンを含む組成物No.2と比べてはるかに高い分配係数を示すため、メチルエチルケトン含有製剤は、トリアセチン含有製剤と比べて、タクロリムスの経皮吸収性に優れると予測できる。また、現在インドで上市されているタクロリムス含有液状外用剤「Tacroz Forte 0.1% Lotion」についても、同じ方法で分配係数Kを求めたところ、16.28×10
-3であった。このため、組成物No.1は、Tacroz Forte 0.1% Lotionと比べても、タクロリムスの経皮吸収性に優れると予測できる。
【0047】
[実施例5]処方例
メチルエチルケトン及び他の成分について、吸収性、品質及び安全性を考慮として、表4及び5に示す外用剤を調製した。各外用剤は、タクロリムス水和物をメチルエチルケトンに溶解させた後、他の成分を加えて均一に混和することにより調製した。
【0048】
[実施例6]In vitro ヘアレスマウス皮膚透過性試験及び安定性試験
表4及び表5に示す各外用剤について、経皮吸収性(16時間後及び24時間後)及び安定性(60℃・2週間)を確認した。
経皮吸収性(16時間後又は17時間後及び24時間後)試験は、実施例1と同様の方法を用いて行った。より具体的には、表4・5の各ローション及びプロトピック(登録商標)軟膏0.03%・0.1%のそれぞれについて、タクロリムスの累積透過量を算出した後、タクロリムス一水和物を0.031%含む製剤については、プロトピック(登録商標)軟膏0.03%の累積透過量に対する比率として、タクロリムス一水和物を0.102%含む製剤については、プロトピック(登録商標)軟膏0.1%の累積透過量に対する比率として経皮吸収性を表した。
また、安定性試験は、実施例2と同様の方法を用いて行った。
【0049】
結果を表4及び5に示す。表4及び5の各成分の数値は重量%である。なお、ローション1の粘度を測定したところ(コーンプレート型粘度計(MCR302、治具CP50-1)、測定温度25℃、回転数5rpmで45秒間測定)、約50 mPa・sであった。
【表4】
【表5】
【0050】
表4及び表5に示すように、ローション1〜11はいずれも、高い経皮吸収性及び主薬残存率を示した。特に、ローション1,2,5,6及び8は、プロトピック(登録商標)軟膏に近似した経皮吸収性(100±25%以内)を示した。
【0051】
[実施例7]透過プロファイル
本発明の外用剤の皮膚透過プロファイルを、すでに臨床で使用実績のあるプロトピック(登録商標)軟膏の透過プロファイルと比較した。より具体的には、表4のローション1、5及び6と、プロトピック(登録商標)軟膏0.03%及び0.1%について、上記と同様にインビトロヘアレスマウス皮膚透過性試験を行い、4時間ごとにタクロリムスの経皮吸収性(タクロリムスの累積透過量)を測定し、比較した。結果を
図1〜3に示す。
【0052】
図1に示すように、ローション1はプロトピック(登録商標)軟膏0.03%に近似した透過プロファイルを示し、ローション5及び6はプロトピック(登録商標)軟膏0.1%に近似した透過プロファイルを示した。よって、これらのローション剤とプロトピック(登録商標)軟膏の間に同等性の成立が見込まれる。
【0053】
[実施例8]安定性試験
表4に示すローション1、5及び6、並びに以下の表6に示すクリーム1をそれぞれ、容器(ガラスバイアル又はアルミチューブ又はプラスチック製ボトル)に充填し、過酷条件(40℃/75%RH)で所定の期間保存した。
【0054】
所定の時点で、各製剤から測定用試料を採取し、液体クロマトグラフィーを用いて、タクロリムスのピーク、タクロリムスに対する相対保持時間約0.7のピーク(類縁物質A) 、タクロリムスに対する相対保持時間約0.8のピーク(類縁物質B)、タクロリムスに対する相対保持時間約0.85のピーク(類縁物質C)のピーク面積Aiを自動分析法により測定し、類縁物質(タクロリムスの分解により生じる物質)の比率を求めた。液体クロマトグラフフィーの操作条件は以下の通りである。
【0055】
操作条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:225 nm)
カラム:内径4.6 mm、長さ25 cmのステンレス管に、5μmの液体クロマトグラフィー用ジヒドロプロピルシリル化シリカゲルを充てんしたものを2本連結する。
移動相:ヘキサン/塩化n-ブチル/アセトニトリル混液(7:2:1)
カラム温度:28℃付近の一定温度
流量:タクロリムスの保持時間が約15分になるように調整する。(約1.5 mL/min)
【0056】
表6に比較製剤(クリーム製剤)の組成を、表7に安定性試験の結果を示す。表6の各成分の値は重量%である。
【表6】
【表7】
【0057】
表7に示す通り、本発明に係るローション製剤は、タクロリムスの分解により生じる類縁物質が、クリーム製剤と比べて著しく低く、室温保存でも、製剤中のタクロリムスの安定性が高いことを実証した。なお、クリーム1においてタクロリムスの安定性が低いのは、クリーム剤に含まれている水が原因である可能性が高いため、本発明の液状外用剤は、水を含まないことが好ましい。
【0058】
[実施例8]皮膚刺激性試験
前記ローション1、2、5、6及びそれぞれのプラセボ(プラセボ1、2、5、6)について、皮膚累積刺激性を雌性ウサギ(Kbl:NZW)を用いて検討した(ローション1,2及びそれらのプラセボについてはn=3、ローション5,6及びそれらのプラセボについてはn=4)。除毛したウサギの背部皮膚に一匹当たり2.5×2.5 cmの投与部位(損傷皮膚)を4ヶ所設け、上記ローションを0.05mL/siteにて1日約23時間、14日間連続で開放投与した。皮膚反応の判定は、Draize,J.H.(Appraisal of the safety of chemicals in foods, drugs and cosmetics, The Association of Food and Drug Officials of the United States, Topeka,Kansas, 46-59, 1965)の基準に従って実施した。より具体的には、紅斑と痂皮形成、浮腫形成についてそれぞれを評点0〜4でスコア化し、以下の判定基準に基づいて皮膚累積刺激性の程度を評価した。
【0059】
結果を表8に示す。
【表8】
【0060】
表8から分かるように、ローション1,2,5及び6、並びにプラセボ1,2,5及び6は、いずれも平均スコアが0又は0.1であり、最も刺激の程度の低いカテゴリー(弱い刺激物)に分類された。
【0061】
上記実施例1〜8の結果から、本発明の外用剤は、すでに臨床で使用実績のあるプロトピック(登録商標)軟膏に近似したタクロリムスの透過プロファイルを示し、且つ、製剤中のタクロリムスの安定性が高く、刺激性が少ないことが分かった。また、本発明の外用剤は液状であるため、軟膏と比べて皮膚に塗り広げやすく、べたつき・てかりが少ない。そのため、本発明によれば、使用感が良く、高い主薬吸収性を有し、品質及び安定性に優れたタクロリムス含有製剤の提供が可能である。