(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6751880
(24)【登録日】2020年8月20日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】微小酸化鉄中空粒子
(51)【国際特許分類】
C01G 49/06 20060101AFI20200831BHJP
【FI】
C01G49/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-248625(P2015-248625)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-114695(P2017-114695A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2015年9月24日 公益社団法人 日本化学会 発行 「日本化学会秋季事業 第5回CSJ化学フェスタ 2015 プログラム集」、及び2015年10月15日 日本化学会秋季事業 第5回CSJ化学フェスタ 2015(タワーホール船堀)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】若林 恭子
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】遠山 岳史
【審査官】
中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−140367(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101475222(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第101898749(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第103818966(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00−49/16
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーノズルで鉄塩溶液を噴霧し、噴霧されたミストは100〜400℃の乾燥ゾーンで乾燥され、500〜1000℃の熱分解ゾーンで熱分解されることを特徴とする、中空室を区画する殻を有する微小酸化鉄中空粒子であって、形状が平均円形度0.85以上の球状、平均粒子径が0.1μm〜10μm、膜厚が1000nm以下、かさ密度が0.2〜0.8g/cm3、粒子を構成する成分の95%以上がFe2O3である微小酸化鉄中空粒子の製造法。
【請求項2】
得られる微小酸化鉄中空粒子の圧縮強度が5〜15MPaである請求項1記載の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小酸化鉄中空粒子及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機顔料には、白色顔料、赤色顔料、黄色顔料、青色顔料などのさまざまな色をもつ化合物が使用されている。赤色顔料の一つとして用いられている酸化鉄粉末を材料に混合、分散させることで、赤色を付与することができる。顔料の用途が多様化しており、更なる機能性付与が望まれており、酸化鉄粉末の軽量化を図る技術が望まれている。
【0003】
酸化鉄中空粒子の製造法としては、噴霧熱分解法(特許文献1)、樹脂粉末を核とした粒子を製造した後、樹脂粉末を焼失させる方法(特許文献2)、テンプレート微粒子を利用する方法(特許文献3)、W/Oエマルジョン粒子を利用する方法(特許文献4)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−96165号公報
【特許文献2】特開2005−29437号公報
【特許文献3】特開2009−67606号公報
【特許文献4】特開平11−116211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術により得られる酸化鉄中空粒子は、樹脂粉末の焼失に多大なエネルギーを要する、均一な球状粒子が得られない、十分な圧縮強度を有さない、かさ密度が大きい等の欠点を有し、プラスチック材料中に均一分散させることが困難であった。
従って、本発明の課題は、均一な微小球状粒子であって、一定の範囲のかさ密度を有し、圧縮強度も高い微小酸化鉄中空粒子及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、噴霧熱分解法を用いて酸化鉄中空粒子を製造すべく種々検討した結果、小さな粒子径を有し、ほぼ球状であって、0.2〜0.8g/cm
3のかさ密度を有し、十分な強度を有する微小酸化鉄中空粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
〔1〕中空室を区画する殻を有する微小酸化鉄中空粒子であって、形状がほぼ球状、平均粒子径が0.1μm〜10μm、前記膜厚が1000nm以下、かさ密度が0.2〜0.8g/cm
3、粒子を構成する成分の95%以上がFe
2O
3であることを特徴とする微小酸化鉄中空粒子。
〔2〕圧縮強度が5〜15MPaである〔1〕記載の微小酸化鉄中空粒子。
〔3〕スプレーノズルで鉄塩溶液を噴霧し、乾燥及び熱分解することを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の微小酸化鉄中空粒子の製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微小酸化鉄中空粒子は、形状がほぼ球状であり、粒子径が小さく、かつかさ密度0.2〜0.8g/cm
3の中空粒子であることから、十分な圧縮強度と軽量化の両立が達成され、赤色顔料などの充填材としてプラスチックなどの材料中に均一に分散できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】酸化鉄中空粒子(600℃焼成)及び乾燥粒子(焼成なし)のX線回折図を示す。
【
図2】酸化鉄中空粒子のSEM像を示す。(a)焼成前、(b)焼成後(クエン酸鉄濃度0.2〜0.3質量%)、(c)焼成後(クエン酸鉄濃度0.1質量%)、(d)焼成後(クエン酸鉄濃度0.08〜0.09質量%)。
【
図3】酸化鉄中空粒子の粒子破断面のSEM像を示す。(e)焼成前、(f)焼成後(クエン酸鉄濃度0.2〜0.3質量%)、(g)焼成後(クエン酸鉄濃度0.1質量%)、(h)焼成後(クエン酸鉄濃度0.08〜0.09質量%)。
【
図4】酸化鉄中空粒子の平均粒径:平均膜厚と、原料クエン酸鉄濃度との関係を示す。
【
図5】酸化鉄中空粒子、α−Fe
2O
3、球状中空粒子のかさ密度を示す。
【
図6】酸化鉄中空粒子、α−Fe
2O
3、球状中空粒子の圧縮強度を示す。
【
図7】酸化鉄中空粒子の比表面積とクエン酸鉄濃度の関係を示す。
【
図8】酸化鉄中空粒子の細孔容積と細孔分布の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の微小酸化鉄中空粒子は、中空室を区画する殻を有する微小酸化鉄中空粒子であって、形状がほぼ球状、平均粒子径が0.1μm〜10μm、前記膜厚が1000nm以下、かさ密度が0.2〜0.8g/cm
3、粒子を構成する成分の95%以上がFe
2O
3であることを特徴とする。
【0011】
中空粒子とは、中空室を区画する殻を有する粒子であることをいい、単なる多孔質とは相違する。本発明の粒子が、このような構造を有することは、
図1のSEM像及び、
図2の粒子破断面のSEM像から明らかである。
【0012】
本発明の中空粒子の形状は、
図1及び
図2から明らかなように、その形状はほぼ球状であり、平均円形度が0.85以上である。このような形状は噴霧熱分解法により製造することにより達成される。
ここで、円形度は、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長および面積は、それぞれPM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2
π)2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出される。100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。なお、本発明の微小酸化鉄中空粒子は、各種プラスチック材料と混合したときの分散性、混合性など点から、平均円形度は、0.85以上、好ましくは0.90以上である。
【0013】
本発明の酸化鉄中空粒子の平均粒子径は、0.1μm〜10μmであり、好ましくは0.2μm〜10μmであり、より好ましくは0.2μm〜5μmである。なお、平均粒子径の調整は、噴霧に使用する流体ノズルの直径の調節によって行うことができる。ここで粒子径は、電子顕微鏡の解析によって測定でき、その平均は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えばマイクロトラック(日機装株式会社製)などによって計算できる。
【0014】
本発明の酸化鉄中空粒子の粒子径分布(粒度分布)は、せまい程好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±2.0μmにあるのが好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±1.5μmにあるのがより好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±1.0μmにあるのがさらに好ましい。
【0015】
本発明の酸化鉄中空粒子の膜厚は、1000nm以下であり、10〜700nmが好ましく、10〜500nmがより好ましく、50〜300nmがさらに好ましい。膜厚が1000nmを超えると、中空室が十分でなくなる。また、膜厚が小さすぎる場合には、粒子の強度が十分でない可能性がある。膜厚は、粒子破断面のSEM像などから測定できる。
【0016】
本発明の酸化鉄中空粒子は、粒子を構成する成分の95%以上がFe
2O
3であり、96%以上がFe
2O
3であるのがより好ましく、97%以上がFe
2O
3であるのがさらに好ましい。ここでFe
2O
3にはα−Fe
2O
3及びγ−Fe
2O
3が含まれる。また、Fe
2O
3以外の成分としては、原料や製造上混入する不可避成分であり、例えばSiO2、CaO、TiO2などが挙げられる。Fe
2O
3の構成比率は、粉末X線回折/Rietveld解析によって算出できる。
【0017】
本発明の酸化鉄中空粒子のかさ密度は、0.2〜0.8g/cm3であるのが好ましく、0.3〜0.6g/cm3であるのがより好ましく、0.3〜0.5g/cm3であるのがさらに好ましい。かさ密度は、JIS R 1628「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」の測定方法、パウダーテスタ(ホソカワミクロン社製)などの粉体力学特性測定装置により測定できる。
【0018】
本発明の酸化鉄中空粒子の圧縮強度は、5〜15MPaであるのが好ましく、6〜15MPaであるのがより好ましく、6〜14MPaであるのがさらに好ましい。ここで圧縮強度は、ダイナミック超微小硬度計 DUH−211(株式会社島津製作所製)により測定できる。
【0019】
本発明の酸化鉄中空粒子の比表面積は、6〜15m
2/gが好ましく、6〜14m
2/gがより好ましく、6〜12m
2/gがさらに好ましい。比表面積は、BET式比表面積測定により測定できる。
【0020】
本発明の酸化鉄中空粒子の細孔径は30〜100nmの範囲にあり、細孔容積は0.02cm
3/g以下であるのが好ましい。細孔径及び細孔容積は、高機能比表面積/細孔分布測定装置 アサップ2020などにより測定できる。
【0021】
本発明の酸化鉄中空粒子は、例えば噴霧熱分解法により製造することができる。具体的には、2流体ノズルや4流体ノズル等のスプレーノズルで鉄塩溶液を噴霧し、乾燥及び熱分解する噴霧熱分解法により製造することができる。
【0022】
用いられる鉄原料としては、硝酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄等の無機塩やクエン酸鉄等の有機金属化合物を分散したものが挙げられる。
【0023】
鉄塩溶液における鉄塩濃度は、0.05〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましい。なお、媒体は水が好ましい。
【0024】
鉄塩溶液は、スプレーノズル、特に2流体ノズルで噴霧するのが、粒子径の調整、生産性の点で好ましい。ここで2流体ノズルの方式には、空気と鉄塩溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で空気と鉄塩溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。
【0025】
噴霧されたミストは、100〜400℃の乾燥ゾーン、次いで500〜1000℃の熱分解ゾールを通過させることにより、熱分解され、酸化鉄中空粒子となる。乾燥ゾーンの温度は、中空性を保つための点から150〜300℃が好ましい。この乾燥ゾーンによりミストの外側が、乾燥されて無機化合物の膜を形成し、それを起点に内部液が乾燥されるため、粒子が中空形状に形成される。
熱分解ゾーンの温度は、生産コストの点から500〜900℃が好ましく、500〜800℃がより好ましい。この熱分解ゾーンでは、高温で一気に熱分解反応を進めることで。乾燥ゾーンにて形成された中空構造を強固にすることにより、中空室を区画する殻を有する酸化鉄中空粒子であって、殻の厚さの適度な中空粒子が得られる。
【0026】
得られた酸化鉄中空粒子は、冷却後、フィルターを通過させることにより、粒子径の調整をすることができる。ここで得られた酸化鉄中空粒子は、Fe
2O
3を主成分とするものである。
【0027】
本発明の酸化鉄中空粒子は、酸化鉄としての化学的安定性、耐熱性等の特性を保持し、かつ軽量で一定の強度を有するため顔料、塗料、触媒等の分野の他、ドラッグデリバリーシステムや油分、水分の吸収材として応用可能である。
【実施例】
【0028】
次に実施例を挙げて本発明を説明する。
【0029】
実施例1
クエン酸鉄(水和物)水溶液(0.05〜0.3質量%)を噴霧熱分解装置のタンクに投入した。投入されたクエン酸鉄溶液はポンプにより、2流体ノズルを介してミスト状に噴霧させ、噴霧乾燥(約200℃)した。その後、600℃で1時間熱分解反応させ、酸化鉄中空粒子を得た。
【0030】
得られた酸化鉄中空粒子(焼成後)及び乾燥粒子(焼成なし)のX線回折図を
図1に示す。酸化鉄中空粒子は、α−Fe
2O
3であった。
【0031】
得られた酸化物中空粒子のSEM像を
図2に示す。酸化鉄中空粒子は、球状であり、円形度は0.90以上であった。
【0032】
得られた酸化物中空粒子の粒子破断面のSEM像を
図3に示す。酸化鉄中空粒子は、中空室を区画する殻を有する粒子であった。
【0033】
得られた酸化鉄中空粒子の平均粒径、平均膜厚(μm)と原料クエン酸鉄濃度の関係を
図4に示す。得られた酸化鉄中空粒子の平均粒径は0.5〜1μmであり、平均膜厚は0.05〜0.3μmであった。
【0034】
得られた酸化鉄中空粒子のかさ密度を
図5に示す。かさ密度は約0.2〜0.6g/cm
3であった。
【0035】
得られた酸化鉄中空粒子の圧縮強度を
図6に示す。圧縮強度は、6〜8MPaであった。
【0036】
酸化鉄中空粒子の比表面積とクエン酸鉄濃度の関係を
図7に示す。酸化鉄中空粒子の細孔容積と細孔径との関係を
図8に示す。
図7及び
図8より、本法により作製した粒子の比表面積は6〜15m
2/gであり、内部まで充填した中実粒子が生成しているときには6〜10m
2/gと低く,一方中空粒子が生成しているときには比表面積は10〜15m
2/gと高い値を示した。また,細孔分布測定の結果から中空粒子表面には50nm程度の細孔が存在していた。