(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワイヤはバックドアにある程度の撓みを持って取付けられているので、バックドアへのワイヤの取付け作業が容易とされ、更にバックドアに歪みがあってもワイヤの組付け作業をスムーズに行うことができる。このため、車両走行時に発生する振動、加速、減速等によって、ワイヤがバックドアのインナパネルやアウタパネルに接触すると、異音の発生原因となる。
そこで、発泡材料から円筒状のプロテクタ(保護部材)が製作され、このプロテクタの円筒内部にワイヤを通して、プロテクタにより外周が覆われたワイヤが製作されている。発泡材料としては、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、オレフィン系エラストマー(TPO)等が使用されている。
【0005】
しかしながら、ワイヤの製作過程において、プロテクタの円筒内部にワイヤを通す際に、ワイヤ端部の僅かな解れがプロテクタに引っ掛かると、作業性が悪く、無理に作業を進めると、プロテクタに損傷が生じる虞がある。このため、改善の余地があった。
また、プロテクタの円筒内部の内径を拡大して、ワイヤを通し易くすると、プロテクタの厚さが薄くなり、打音軽減の効果が損なわれるので、この点においても改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題を考慮し、プロテクタの損傷を効果的に抑制又は防止することができ、打音軽減の効果に優れたワイヤ、ワイヤの製造方法及び車両用ドアを提供する。
さらに、本発明は、ワイヤにプロテクタを形成する作業性を向上させることができ、自動化に好適なワイヤ、ワイヤの製造方法及び車両用ドアを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1実施態様に係るワイヤは、金属製のワイヤ本体と、ワイヤ本体の外周を覆い、ワイヤ本体に一体的に成形されている樹脂製のプロテクタと、を備えている。
【0008】
第1実施態様に係るワイヤは、ワイヤ本体と、プロテクタとを備える。ワイヤ本体は金属製とされる。プロテクタは、ワイヤ本体の外周を覆い、樹脂製とされる。
【0009】
ここで、プロテクタはワイヤ本体に一体的に成形される。このため、プロテクタ内部にワイヤ本体を一端から通す必要が無くなり、ワイヤ本体の端部の解れに起因するプロテクタの損傷を根本的に無くすことができる。
さらに、プロテクタにワイヤ本体を通す必要がなくなるので、プロテクタ内部の内径を拡大する必要が無くなり、プロテクタを厚く形成することができる。このため、プロテクタのクッション性能が向上されるので、ワイヤがワイヤ以外の物体に接触した際の打音軽減の効果を高めることができる。
【0010】
本発明の第2実施態様に係るワイヤは、金属製のワイヤ本体と、ワイヤ本体の外周を覆い、ワイヤ本体に密着して形成されている樹脂製のプロテクタと、を備えている。
【0011】
第2実施態様に係るワイヤは、ワイヤ本体と、プロテクタとを備える。ワイヤ本体は金属製とされる。プロテクタは、ワイヤ本体の外周を覆い、樹脂製とされる。
【0012】
ここで、プロテクタはワイヤ本体に密着して形成される。このため、プロテクタ内部にワイヤ本体を一端から通さずに、ワイヤ本体の外周を覆ってワイヤ本体にプロテクタを密着させているので、ワイヤ本体の端部の解れに起因するプロテクタの損傷を根本的に無くすことができる。
さらに、プロテクタにワイヤ本体を通す必要が無くなるので、プロテクタ内部の内径を拡大する必要が無くなり、プロテクタを厚く形成することができる。このため、プロテクタのクッション性能が向上されるので、ワイヤがワイヤ以外の物体に接触した際の打音軽減の効果を高めることができる。
【0013】
本発明の第3実施態様に係るワイヤでは、第1実施態様又は第2実施態様に係るワイヤにおいて、プロテクタは、ワイヤ本体の外周に沿って一定の厚さに形成されている。
【0014】
第3実施態様に係るワイヤによれば、プロテクタがワイヤ本体の外周に沿って一定の厚さに形成されているので、ワイヤの外周の何処の部位がワイヤ以外の物体に接触しても一様に打音軽減の効果を得ることができる。
【0015】
本発明の第4実施態様に係るワイヤでは、第1実施態様又は第2実施態様に係るワイヤにおいて、ワイヤ本体の長手方向を横切る、プロテクタの断面形状がセレーション形状とされている。
【0016】
第4実施態様に係るワイヤによれば、ワイヤ本体の長手方向を横切る、プロテクタの断面形状がセレーション形状とされるので、プロテクタの外周から径方向内側へ向かう複数凹部がプロテクタの長手方向に沿って形成される。このため、ワイヤ本体の外周に沿って一定の厚さに形成されたプロテクタに比し、プロテクタの製作に必要な使用樹脂量を減らすことができる。
さらに、プロテクタには、複数凹部の隣接する凹部間に内径側から外径側へ凸設された凸部が形成され、この凸部は変形し易い構成とされている。このため、プロテクタでは凸部におけるクッション性能を向上させることができるので、ワイヤがワイヤ以外の物体に接触した際の打音軽減の効果をより一層高めることができる。
【0017】
本発明の第5実施態様に係るワイヤでは、第1実施態様〜第4実施態様のいずれか1つに係るワイヤにおいて、ワイヤ本体の長手方向の一端部及び他端部の少なくとも一方がプロテクタから露出され、この露出されたワイヤ本体の一端部及び他端部の少なくとも一方に取付固定部が連結されている。
【0018】
第5実施態様に係るワイヤによれば、ワイヤ本体の長手方向の一端部及び他端部の少なくとも一方が取付固定部に連結される。この取付固定部は、プロテクタから露出されたワイヤ本体の一端部及び他端部の少なくとも一方に連結される。ワイヤ本体に取付固定部が連結されるので、ワイヤをワイヤ以外の物体に取付けて固定することができる。
【0019】
本発明の第6実施態様に係るワイヤでは、第1実施態様〜第5実施態様のいずれか1つに係るワイヤにおいて、ワイヤ本体の長手方向中間部がプロテクタから露出され、この露出されたワイヤ本体の長手方向中間部に中間ブラケットが保持されている。
【0020】
第6実施態様に係るワイヤによれば、ワイヤ本体の長手方向中間部に中間ブラケットが保持される。中間ブラケットは、プロテクタから露出されたワイヤ本体の長手方向中間部に保持される。ワイヤ本体に中間ブラケットが保持されるので、ワイヤの長手方向中間部をワイヤ以外の物体に取付けることができる。
【0021】
本発明の第7実施態様に係るワイヤでは、第1実施態様〜第6実施態様のいずれか1つに係るワイヤにおいて、プロテクタは、オレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂から選ばれたマトリックス樹脂と、ニトリル系熱可塑性樹脂膜を有する熱膨張性マイクロカプセルとを配合した樹脂組成物の加熱成形体である。
【0022】
第7実施態様に係るワイヤによれば、プロテクタは樹脂組成物の加熱成形体とされる。樹脂組成物には、オレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂から選ばれたマトリックス樹脂と、ニトリル系熱可塑性樹脂膜を有する熱膨張性マイクロカプセルとが配合される。このため、プロテクタでは、発泡倍率を高めることができ、十分な柔軟性を得ることができるので、打音軽減の効果を高めることができ、加えて発泡に起因する表面の凹凸が小さくなるので、プロテクタの外観が良好となる。
【0023】
本発明の第8実施態様に係るワイヤの製造方法は、金属製のワイヤ本体の外周に、ワイヤ本体の長手方向に沿って、押出成形により加熱状態にある樹脂材を供給し、樹脂材を冷却して、ワイヤ本体の外周に樹脂製のプロテクタを形成する。
【0024】
第8実施態様に係るワイヤの製造方法では、金属製のワイヤ本体の外周に、ワイヤ本体の長手方向に沿って、押出成形により加熱状態にある樹脂材が供給される。そして、供給された樹脂材が冷却されることにより、ワイヤ本体の外周に樹脂製のプロテクタが形成される。
これにより、ワイヤ本体の端部の解れに起因するプロテクタの損傷を根本的に無くすことができ、しかも打音軽減の効果を高めることができるワイヤを実現することができる。
また、プロテクタの内部にワイヤ本体を通す作業を無くすことができるので、作業性を向上させることができる。そして、人為的な作業を廃止することができるので、プロテクタが形成されたワイヤを自動的に製造することができる。
【0025】
本発明の第9実施態様に係る車両用ドアは、少なくとも一部が樹脂製とされたドアアウタパネルと、ドアアウタパネルに装着された第1装着部品と、ドアアウタパネルの第1装着部品とは異なる部位に装着された第2装着部品と、ワイヤ本体の長手方向の一端部及び他端部の少なくとも一方に配設された取付固定部が第1装着部品に取付けられて固定され、ワイヤ本体の長手方向中間部に配設された中間ブラケットが第2装着部品に取付けられて固定されたワイヤと、を備え、ワイヤは、金属製の前記ワイヤ本体と、ワイヤ本体の外周を覆い、前記ワイヤ本体に一体的に成形されている樹脂製のプロテクタと、を含んで構成されている。
【0026】
第9実施態様に係る車両用ドアは、ドアアウタパネルと、第1装着部品と、第2装着部品と、ワイヤとを備える。ドアアウタパネルは、少なくとも一部が樹脂製とされる。第1装着部品はドアアウタパネルに装着される。第2装着部品は、ドアアウタパネルの第1装着部品とは異なる部位に装着される。ワイヤはワイヤ本体を有し、ワイヤ本体の一端部及び他端部の少なくとも一方には取付固定部が配設され、ワイヤ本体の長手方向中間部には中間ブラケットが配設される。取付固定部は第1装着部品に取付けられて固定される。中間ブラケットは第2装着部品に取付けられて固定される。
【0027】
ここで、ワイヤは、金属製のワイヤ本体と、ワイヤ本体の外周を覆い、ワイヤ本体に一体的に成形されている樹脂製のプロテクタとを含んで構成される。このため、プロテクタ内部にワイヤ本体を一端から通す必要が無くなり、ワイヤ本体の端部の解れに起因するプロテクタの損傷を根本的に無くすことができるワイヤを用いて、車両用ドアを構築することができる。
さらに、プロテクタにワイヤ本体を通す必要がなくなるので、プロテクタ内部の内径を拡大する必要が無くなり、プロテクタを厚く形成することができる。このため、プロテクタのクッション性能が向上されるので、ワイヤがワイヤ以外の物体に接触した際の打音軽減の効果を高めることができる車両用ドアを構築することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、プロテクタの損傷を効果的に抑制又は防止することができ、打音軽減の効果に優れたワイヤ、ワイヤの製造方法及び車両用ドアを提供することができる。
さらに、本発明によれば、ワイヤにプロテクタを形成する作業性を向上させることができ、自動化に好適なワイヤ、ワイヤの製造方法及び車両用ドアを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、
図1〜
図7を用いて、本発明の一実施の形態に係るワイヤ、ワイヤの製造方法及び車両用ドアについて説明する。ここで、図中、適宜示されている符号Xは三次元座標系のX軸方向を示し、符号YはY軸方向を示し、更に符号ZはZ軸方向を示している。また、ワイヤの説明において、便宜的に、ワイヤの長手方向(ケーブル軸方向)はX軸方向とされている。なお、ワイヤ、ワイヤの製造方法及び車両用ドアの適用方向が本実施の形態に限定されるものではない。
【0031】
[ワイヤ10の構成]
(1)ワイヤ本体12の構成
図1(A)及び
図1(B)に示されるように、本実施の形態に係るワイヤ10は飛散防止ワイヤロープとして使用されている。ワイヤ10は、金属製のワイヤ本体12と、ワイヤ本体12の外周を覆う樹脂製のプロテクタ(保護層)14とを含んで構成されている。
【0032】
詳細な図示を省略するが、ワイヤ本体12は、数本〜数十本の素線を単層又は多層に寄り合わせてストランドを形成し、このストランドを心綱の回りに所定のピッチにおいて寄り合わせて形成されている。
図1(B)に示されるように、ワイヤ本体12の長手方向を横切る断面形状はほぼ円形状とされている。ワイヤ本体12には、鉄材、軟鋼材、亜鉛めっき鉄材等の金属材料を実用的に使用することができる。ここでは、例えば直径2.0mm〜3.0mmのワイヤ本体12が使用されている。
【0033】
(2)プロテクタ14の構成
プロテクタ14はワイヤ本体12の長手方向に沿って長手方向に延設されている。
図1(B)に示されるように、プロテクタ14はワイヤ本体12の外周表面に一体的に成形されている。表現を代えると、プロテクタ14はワイヤ本体12の外周表面に密着して形成されている。そして、本実施の形態において、プロテクタ14の長手方向を横切る断面形状はセレーション(serration)形状に形成されている。ここで、セレーション形状とは、鋸歯状の溝形状という意味において使用されている。つまり、プロテクタ14では、ワイヤ本体12の外周(周方向)に沿って一定のピッチにおいて径方向外側から径方向内側へ凹設された凹部14Aが形成され、外周方向に隣接する凹部14A間に径方向内側から径方向外側へ凸設された凸部14Bが形成されている。
【0034】
凹部14A、凸部14Bは、いずれも、プロテクタ14の長手方向に沿って、ワイヤ本体12に対して平行に、かつ、直線において延設されている。なお、凹部14A、凸部14Bは、いずれも、プロテクタ14の長手方向に沿って、平行に延設され、ワイヤ本体12に対してスパイラルを描いて延設されてもよい。
ワイヤ本体12の外周上における凹部14A、凸部14Bのそれぞれの配置数は、特に限定されるものではないが、3個以上に設定されている。ここでは、プロテクタ14の製作に必要とされる樹脂使用量を減らし、かつ、凸部14Bに適度なクッション性能を作用させるために、凹部14A、凸部14Bのそれぞれの配置数は8個に設定されている。
また、本実施の形態では、凹部14Aの断面形状はU字状に形成され、凸部14Bの断面形状は逆U字状に形成されている。なお、凹部14Aの断面形状はV字状、矩形状若しくは台形状に形成し、凸部14Bの断面形状は逆V字状、矩形状若しくは逆台形状に形成してもよい。
【0035】
さらに、本実施の形態では、プロテクタ14のワイヤ本体12側の底面から凸部14Bの最も外側までの高さ(プロテクタ14の最大厚さ)が例えば1.65mm〜2.25mmに設定されている。また、プロテクタ14の凸部14Bの最も外側から凹部14Aの最も内側の寸法(凹部14Aの最大深さ)が例えば0.2mm〜0.4mmに設定されている。
【0036】
プロテクタ14は、ここでは、オレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂から選ばれたマトリックス樹脂と、ニトリル系熱可塑性樹脂膜を有する熱膨張性マイクロカプセルとを配合した樹脂組成物の加熱成形体により形成されている。
【0037】
マトリックス樹脂は、ニトリル系熱可塑性樹脂膜を有する熱膨張性マイクロカプセルの発泡によって形成された発泡構造を支持する樹脂である。
オレフィン系熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が室温以下に存在し、室温において可撓性を有する材料である。A硬度は30〜70の範囲に設定されている。オレフィン系熱可塑性樹脂として、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)と呼称されている樹脂が柔軟であり好ましい。この樹脂の硬質相がポリオレフィン系樹脂であるポリプロピレンであり、軟質相がゴム類やエチレン−αオレフィン(プロピレンなどの)共重合体の非晶相である。
また、リアクターTPOと呼ばれるプロピレン重合体中に非晶性のエチレン-プロピレン共重合体が混在しているオレフィン系熱可塑性樹脂を使用することができる。また、エチレンと1-ブテン、1-オクテンなどの共重合体単独、又はそれらがポリプロピレンに混合されているオレフィン系熱可塑性樹脂も使用することができる。さらに、水添スチレン-ブタジエン樹脂や水添スチレン-イソプレン樹脂をポリプロピレンに混合したオレフィン系熱可塑性樹脂を使用することができ、この樹脂は、柔軟であり、発泡倍率を向上させられる。
【0038】
一方、塩化ビニル系樹脂としては、例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)やフタル酸ジイソノニル(DINP)などの可塑剤が配合された軟質ポリ塩化ビニルを使用するこができる。重合度は1000〜4000程度に設定され、特に重合度が2000〜4000の範囲では、発泡倍率並びに復元性を高めることができる。
また、液状の可塑剤の代わりに、ニトリルゴム、ウレタンエラストマーなど固体の柔軟成分を配合した塩化ビニル樹脂も使用することができる。
【0039】
熱膨張性マイクロカプセルは、一般的に、熱可塑性樹脂膜(外殻)と、この熱可塑性樹脂膜に内包されて加熱することによって気化する内包成分とを含んで構成されている。ここでは、ニトリル系単量体を含む重合性成分を重合して得られるニトリル系熱可塑性樹脂膜を有する熱膨張性マイクロカプセル(ニトリル系熱膨張性マイクロカプセル)が使用されている。
【0040】
熱可塑性樹脂は、一般的に、重合性成分を重合することによって得られる。重合性成分は、エチレン性不飽和結合を1つ有する単量体成分を必須とし、エチレン性不飽和結合を2つ以上有する重合性単量体(架橋剤)を含んでいてもよい成分である。
ニトリル系単量体は、単量体成分の一種であり、ニトリル基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル等のニトリル系単量体を実用的に使用することができる。
単量体成分としては、ニトリル系単量体のほか、例えば塩化ビニル等のハロゲン化ビニル系単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルはアクリルまたはメタクリルを意味する。
【0041】
ニトリル系熱可塑性樹脂膜は、単量体成分の一種であるニトリル系単量体を必須とし、架橋剤を含むことがある重合性成分を(好ましくは重合開始剤存在下において)重合することによって得られる。ニトリル系熱可塑性樹脂膜では、ガスバリア性を向上させるために、重合性成分に占めるニトリル系単量体の質量割合が95質量%以上、好ましくは98質量%以上に設定されている。ニトリル系単量体の質量割合が95質量%以上であれば、ニトリル系熱可塑性樹脂膜を形成する熱可塑性樹脂が極めて高いガスバリア性を有する。
これにより、プロテクタ14を押出成形によって形成する際に、マトリックス樹脂中に漏出された内包成分が溜まってボイドとなり、樹脂切れが発生して表面性が悪化することを確実に防ぐことができる。なお、重合性成分におけるニトリル系単量体の質量割合の上限は100質量%である。
【0042】
ニトリル系熱可塑性樹脂膜の重合性成分は、ニトリル系単量体以外に、重合性二重結合を2個以上有する重合性単量体(架橋剤)を含んでもよい。架橋剤を用いて重合させることにより、熱膨張時にニトリル系熱可塑性樹脂膜に内包さている内包成分の保持率(内包保持率)の低下を抑制することができ、効果的に熱膨張させることができる。
架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート等の化合物等を使用することができる。これらの架橋剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
架橋剤の配合量は特に限定されないが、重合性成分に占める架橋剤の質量割合は、0.01質量%〜5質量%、好ましくは0.1質量%〜1質量%、更に好ましくは0.15質量%〜0.8質量%に設定される。
【0043】
ここで、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの製造方法は限定されないが、重合開始剤を含有する油性混合物を用いて、重合性成分を重合開始剤の存在下において重合させる製造方法が使用される。重合開始剤としては、例えば過酸化物、アゾ化合物等を使用することができる。
【0044】
過酸化物として、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル;カプロイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド等を使用することができる。
アゾ化合物として、例えば2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等を使用することができる。
重合開始剤のなかでも、パーオキシジカーボネートが好ましい。
【0045】
これらの重合開始剤は1種又は2種以上を併用してもよい。重合開始剤として、重合性成分に対して可溶な油溶性の重合開始剤が好ましい。重合開始剤の配合量は、特に限定されないが、重合性成分100質量部に対して0.3質量部〜8.0質量部に設定される。
【0046】
また、熱膨張性マイクロカプセルに内包される内包成分(気化成分)は、加熱して気化する化合物であれば特に限定されないが、好ましくはイソペンタンとイソヘキサンとイソオクタンとの混合物から構成される。
内包成分全体に占めるイソペンタンの質量割合は、特に限定されないが、10質量%〜50質量%、好ましくは20質量%〜45質量%、更に好ましくは30質量%〜40質量%に設定される。
また、内包成分全体に占めるイソヘキサンの質量割合は、特に限定されないが、10質量%〜50質量%、好ましくは10質量%〜30質量%、更に好ましくは15質量%〜25質量%に設定される。
そして、内包成分全体に占めるイソオクタンの質量割合は、特に限定されないが、20質量%〜50質量%、好ましくは30質量%〜49質量%、更に好ましくは40質量%〜48質量%に設定される。
【0047】
さらに、熱膨張性マイクロカプセル全体に占める内包成分の質量割合は、特に限定されないが、5質量%〜30質量%、好ましくは10質量%〜25質量%、更に好ましくは15質量%〜20質量%に設定される。
質量割合が5質量%より小さいと、膨張力が低くなり、所望の比重或いは発泡倍率を得るために熱膨張性マイクロカプセルの添加量を高くする必要になることがある。一方、質量割合が30質量%より大きいと、プロテクタ14の押出成形時に熱膨張性マイクロカプセルからの内包成分の漏出が大きくなり、プロテクタ14の樹脂層内部や表面に多数のボイドが発生することがある。
【0048】
また、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径は、特に限定されないが、15μm〜25μm、好ましくは17μm〜23μmに設定される。平均粒子径が15μmより小さいと、膨張力が低くなり、所望の比重或いは発泡倍率を得るために多くの添加量が必要になることがある。一方、平均粒子径が25μmより大きいと、プロテクタ14の表面性が不十分となることがある。
熱膨張性マイクロカプセルとして、市販のニトリル系熱膨張性マイクロカプセルを使用することができる。
【0049】
本実施の形態におけるプロテクタ14は、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルが加熱されて内包成分が気化し膨張することにより、マトリックス樹脂中に熱膨張性マイクロカプセルを構成するニトリル系樹脂膜を有する気泡が散在する構造を有する。この気泡径が小さ過ぎると、打音軽減の効果が不十分となることがある。また、気泡径が大き過ぎると、プロテクタ14の外観を損ねることがある。このため、プロテクタ14の平均気泡径は60μm〜180μmの範囲に設定され、好ましくは80μm〜110μmの範囲に設定される。
また、発泡倍率が小さ過ぎると、打音軽減の効果が不十分となることがある。また、発泡倍率が大き過ぎると、プロテクタ14の外観を損ねることがある。ここでは、発泡倍率は、1.3倍〜3.5倍の範囲に設定され、好ましくは2.0倍〜3.0倍の範囲に設定される。
【0050】
[取付固定部20及び中間ブラケット30の構成]
図2(A)に示されるように、本実施の形態に係るワイヤ10において、ワイヤ本体12の長手方向一端部12Aはプロテクタ14から露出され、この露出された一端部12Aには取付固定部20が連結されている。一端部12Aはプロテクタ14を取除いて露出されている。
図示を省略するが、一端部12Aと同様に、ワイヤ本体12の長手方向他端部はプロテクタ14から露出され、この露出された他端部には取付固定部20と同様の構成を有する取付固定部が連結されている。ここでは、一端部12Aに連結された取付固定部20について説明し、他端部に連結された取付固定部の説明は重複するので省略する。なお、ワイヤ本体12の他端部には取付固定部を配設しない場合がある。
【0051】
そして、
図2(B)に示されるように、本実施の形態に係るワイヤ10には、ワイヤ本体12の長手方向中間部に1個又は所定間隔において複数個の中間ブラケット30が保持されている。ここでは、中間ブラケット30は、1本のワイヤ10のワイヤ本体12の長手方向中間部に大凡等間隔において3個保持されている。
【0052】
(1)取付固定部20の構成
図1(A)に戻って、取付固定部20は、ワイヤ本体12の長手方向と一致するX方向を長手方向とし、Y方向を短手方向とする板状に形成されている。
取付固定部20の長手方向中間部には、板厚方向へ貫通し、円形の開口形状に形成された取付孔22が配設されている。取付固定部20の取付孔22部位では、他の部位に比し、取付孔22を配設するために短手方向の寸法が大きく設定されている。
取付固定部20のワイヤ本体12側の一端部には連結固定部24が設けられている。連結固定部24は、X方向から見て、ワイヤ本体12の一端部12Aの外周に右回り及び左回りに沿って成形され、一端部12Aにかしめられて固定されている。
取付固定部20のワイヤ本体12側とは反対側の他端部には、回転防止部26が設けられている。回転防止部26は、取付孔22の近傍からX方向とは逆方向に引出され、引出された先端部の一部をZ方向に折曲げて形成されている。Y方向から見て、回転防止部26はL字状に形成されている。回転防止部26は、取付孔22を通して締結部材を締結する際の、取付固定部20の回転を防止する構成とされている。締結部材には、例えばボルト及びナットが使用されている。
取付固定部20は、例えば亜鉛めっき鋼板により形成されている。
【0053】
(2)中間ブラケット30の構成
図2(B)及び
図2(C)に示されるように、中間ブラケット30は、ブラケット本体32と、ワイヤ保持部34と、取付孔36と、ストッパ部38とを備えている。さらに、中間ブラケット30には回転防止部40が設けられている。
【0054】
ブラケット本体32は、Y方向及びX方向に延設される板状に形成され、成形加工後において、板厚方向(Z方向)から見て、Y方向を長手方向とし、X方向を短手方向とする略矩形状に形成されている。
本実施の形態では、取付固定部20と同様に、ブラケット本体32は亜鉛めっき鋼板により形成されている。亜鉛めっき鋼板は、機械的強度が高く、加工性に優れ、錆難く、そして安価な材料である。特に限定されるものではないが、ブラケット本体32は例えば0.8mm〜1.6mmの範囲の板厚に設定されている。また、ブラケット本体32のY方向の長さは例えば45mm〜50mmの範囲に設定され、X方向の長さは例えば15mm〜25mmの範囲に設定されている。
【0055】
ワイヤ保持部34は、ブラケット本体32のY方向一端部(
図2(B)中、Y方向下端部)においてX方向に沿った一部に配設されている。ワイヤ保持部34は、X方向一端部(
図2(B)中、左側)に配設されたワイヤ保持部34Aと、X方向他端部(
図2(B)中、右側)に配設されたワイヤ保持部34Bとを含んで構成されている。すなわち、X方向に2個のワイヤ保持部34A及びワイヤ保持部34Bが配設されている。ワイヤ保持部34A、ワイヤ保持部34BのそれぞれのX方向の長さは例えば5mm〜7mmの範囲に設定されている。
図2(B)に示されるように、ワイヤ保持部34は、X方向に長手方向を一致させて延設されるワイヤ10のプロテクタ14を取除いたワイヤ本体12に保持されている。ここでは、ワイヤ保持部34は、
図2(B)及び
図2(C)に示されるように、ワイヤ本体12の外周に沿って成形され、X方向から見て、円筒状の断面の一部が欠けたC字状断面とされている。ワイヤ保持部34では、ワイヤ本体12を中心として回転可能に保持され、かつ、ワイヤ本体12の長手方向へ移動可能に保持されている。つまり、ワイヤ本体12に対して、ワイヤ保持部34の相対移動が可能とされている。
【0056】
取付孔36は、ブラケット本体32において、Y方向中間部、かつ、X方向中間部に形成されている。
図2(C)に示されるように、取付孔36は、ワイヤ保持部34部位を中心として、ブラケット本体32をY方向に折曲げて重合わせたそれぞれの部位に形成された取付孔36Aと取付孔36Bとを連通して構成されている。
取付孔36A、取付孔36Bは、いずれも、ブラケット本体32の板厚方向に貫通して形成され、ここでは円形の開口形状に形成された貫通孔である。取付孔36A、取付孔36Bのそれぞれの開口寸法(直径寸法)は例えば6.0mm〜6.5mmの範囲に設定されている。
【0057】
回転防止部40は、
図2(B)及び
図2(C)に示されるように、ブラケット本体32のY方向最上端部、かつ、X方向中間部に一対に形成されている。一対の回転防止部40はブラケット本体32に一体に形成されている。
一方の回転防止部40は、ブラケット本体32のY方向最上端部に配設され、上方に引出され、引出された最上端部の一部をZ方向に折曲げて形成されている。
図2(C)に示されるように、一方の回転防止部40はL字状の断面形状に形成されている。
他方の回転防止部40は、一方の回転防止部40と同様に、ブラケット本体32のY方向最上端部に配設され、上方に引出され、引出された最上端部の一部をZ方向とは逆方向に折曲げて形成されている。他方の回転防止部40は、
図2(C)に示されるように、一方の回転防止部40とは線対称形状となる逆L字状の断面形状に形成されている。
【0058】
一対の回転防止部40の少なくとも1つの折曲げられた部位は後述する装着部品(第1装着部品60、第2装着部品62及び64(
図3参照))に配設された図示省略の係合孔に係合させる構成とされている。中間ブラケット30は取付孔36を通して締結部材を締結させて装着部品に取付けられ固定されている。回転防止部40は、締結部材を締結する際に、中間ブラケット30に生じる回転を防止する構成とされている。
【0059】
ストッパ部38は、
図2(B)及び
図2(C)に示されるように、ブラケット本体32のY方向下端部においてX方向に沿った他の一部に配設されている。ここでは、ワイヤ保持部34がブラケット本体32に2個のワイヤ保持部34A及びワイヤ保持部34Bとして配設されているので、ワイヤ保持部34Aとワイヤ保持部34Bとの間に1個のストッパ部38が配設されている。ストッパ部38は、ワイヤ本体12の外周に沿って成形され、X方向から見て、外周の一部をX方向に沿って欠いた円筒状に形成されている。つまり、ストッパ部38の断面形状(B−B切断線における断面形状)はC字状に形成されている。
ストッパ部38は、成形加工前にはブラケット本体32に切離領域42を介して一体に形成され、成形加工後には切離領域42を境にブラケット本体32から切離されている。ここでは、ワイヤ本体12の外周に沿ったストッパ部38の長さは例えば9mm〜12mmの範囲に設定され、ストッパ部38のX方向の寸法は例えば4mm〜6mmの範囲に設定されている。
【0060】
ストッパ部38は、ワイヤ本体12にかしめられ、このワイヤ本体12に固定されている。ストッパ部38はワイヤ本体12にかしめられているので、ワイヤ本体12を中心としてストッパ部38の回転が制限され、かつ、ワイヤ本体12の長手方向へのストッパ部38の移動が制限されている。
このように構成されるストッパ部38では、ブラケット本体32のワイヤ保持部34Aとワイヤ保持部34Bとの間においてワイヤ本体12に固定されているので、ブラケット本体32のワイヤ本体12のX方向に対する移動を制限することができる。すなわち、ストッパ部38はワイヤ本体12のX方向中間部において中間ブラケット30の保持位置を決定し、ストッパ部38により中間ブラケット30のワイヤ本体12のX方向における移動を制限することができる。
【0061】
[車両用ドア50の構成]
本実施の形態に係る車両用ドア50は、
図3に示されるように、ワンボックスタイプ、ハッチバックタイプ等の自動車のバックドアとして使用されている。車両用ドア50は、少なくとも一部が樹脂製とされたドアアウタパネル52と、ドアアウタパネル52の車両前方側にドアアウタパネル52と接合されてバックドアを構築する図示省略のドアインナパネルとを備えている。また、ドアアウタパネル52とドアインナパネルとの間には、図示省略の骨格部材としてのリインフォースが配設されている。
車両用ドア50が樹脂製とされることにより、車両用ドア50並びに車両用ドア50を有する自動車の軽量化を図ることができ、更に車両用ドア50が軽量化されることにより、車両用ドア50の操作性を向上させることができる。
【0062】
ここで、
図3に示される符号INは自動車の車両幅方向内側を示し、符号UPは車両上方向を示す。車両用ドア50の閉止状態において、紙面手前側は車両前方向を示し、紙面背面側は車両後方向を示している。なお、
図3を用いた説明では、
図1(A)等に適宜示されたX方向、Y方向、Z方向のそれぞれの方向は、車両幅方向、車両上下方向、車両前後方向のそれぞれの方向に一致するものではない。
【0063】
図3に示されるように、ドアアウタパネル52は、車両幅方向を長手方向とし、車両上下方向を短手方向とし、そして車両前後方向を板厚方向とする樹脂製とされている。車両上方にはリアウインドウガラスが装着される窓開口部54が設けられている。
【0064】
ドアアウタパネル52の車両前方側の内壁には、第1装着部品60、第2装着部品62及び第2装着部品64が装着されている。ここで、第1装着部品60、第2装着部品62及び第2装着部品64は、いずれも金属製部品とされ、ドアアウタパネル52に締結部品、例えばボルトやナットを用いて装着され、固定されている。
詳しく説明すると、第1装着部品60は、ドアアウタパネル52の窓開口部54よりも上方であって、車両幅方向両端部に一対に配設されたドアヒンジリテーナである。ドアヒンジリテーナにはドアヒンジが設けられ、ドアヒンジは、車両用ドア50を上下方向へ回転させ、ドア開口部を開閉させる。
第2装着部品62は、第1装着部品60とは異なる部位、すなわちドアアウタパネル52の窓開口部54よりも下方であって、車両幅方向両端部に一対に配設されたランプユニットリテーナである。ランプユニットリテーナにはテールランプユニットが装着されている。また、第2装着部品64は、同様に第1装着部品60とは異なる部位であるドアアウタパネル52の下端部であって、車両幅方向中間部に配設されたロックリインフォースである。
【0065】
このように構成される車両用ドア50には、
図2(A)〜
図2(C)に示される取付固定部20及び中間ブラケット30が配設された、
図1(A)及び
図1(B)に示されるワイヤ10が取付けられている。
詳しく説明すると、
図3に示されるように、ワイヤ10の取付固定部20(ワイヤ本体12の一端部12A又は他端部)は第1装着部品60に取付けられ固定されている。図示は省略するが、取付固定部20と第1装着部品60とは締結部材により締結されている。
一方、ワイヤ10のワイヤ本体12の長手方向中間部には、大凡等間隔において、3つの中間ブラケット30が保持されている。各中間ブラケット30では、
図2(B)に示されるように、ストッパ部38を用いて位置決めがなされている。車両幅方向両側に位置決めされた2個の中間ブラケット30は、一対の第2装着部品62に取付けられ固定されている。中間ブラケット30と第2装着部品62とは締結部材により締結されている。車両幅方向中央部に位置決めされた1個の中間ブラケット30は、第2装着部品64に取付けられ固定されている。中間ブラケット30と第2装着部品64とは、同様に、締結部材により締結されている。
【0066】
[ワイヤの製造方法]
前述の本実施の形態に係るワイヤ10は、
図4に示される成形装置70を用いて製作されている。成形装置70は、押出成形部72と、冷却水槽部74と、引取切断部76とを含んで構成されている。
【0067】
図4中、左側(供給上流側)から右側(供給下流側)へ向かってワイヤ本体12が供給され、この供給過程においてワイヤ本体12の外周を覆うプロテクタ14が成形されることにより、ワイヤ10が製作されている。
少し詳しく説明すると、押出成形部72は、樹脂貯蔵部720と、樹脂供給部722と、樹脂成形部724とを含んで構成されている。樹脂貯蔵部720では、プロテクタ14を成形する樹脂組成物が固体状態において貯蔵されている。
樹脂供給部722では、樹脂貯蔵部720に貯蔵された樹脂組成物が供給されると、樹脂組成物が圧縮(又は加熱)されて固体状態から液状(溶融)状態とされる。
樹脂成形部724は、
図5に示されるように、ワイヤ本体12の供給ガイド部724Aと、供給ガイド部724Aの供給下流側に連結された成形金型部724Bとを含んで構成されている。つまり、供給ガイド部724Aにより供給されたワイヤ本体12の外周に、ワイヤ本体12の長手方向に沿って、成形金型部724Bから液状状態にある加熱成形体としての樹脂組成物が押出成形される構成とされている。
図4に戻って、冷却水槽部74では、ワイヤ本体12の外周に押出成形された樹脂組成物が冷却水により冷却される。この冷却水槽部74により、樹脂組成物からワイヤ本体12の外周に固形化されたプロテクタ14を形成することができる。プロテクタ14はワイヤ本体12の外周に一体的に成形され、このプロテクタ14が形成されると、本実施の形態に係るワイヤ10が製作される。
そして、引取切断部76では、ワイヤ10が引取られ、所定の長さに切断されたワイヤ10を製作することができる。
【0068】
[本実施の形態の作用及び効果]
本実施の形態に係るワイヤ10は、
図1(A)及び
図1(B)に示されるように、ワイヤ本体12と、プロテクタ14とを備える。ワイヤ本体12は金属製とされる。プロテクタ14は、ワイヤ本体12の外周を覆い、樹脂製とされる。
【0069】
ここで、プロテクタ14はワイヤ本体12に一体的に成形される。このため、プロテクタ14内部にワイヤ本体12を一端から通す必要が無くなり、ワイヤ本体12の端部の解れに起因するプロテクタ14の損傷を根本的に無くすことができる。
さらに、プロテクタ14にワイヤ本体12を通す必要がなくなるので、プロテクタ14内部の内径を拡大する必要が無くなり、プロテクタ14を厚く形成することができる。このため、プロテクタ14のクッション性能が向上されるので、ワイヤ10がワイヤ10以外の物体、例えば車両走行中の車両用ドア50のドアアウタパネル52(
図3参照)等に接触した際の打音軽減の効果を高めることができる。
【0070】
図6(A)には
図1(B)に示される本実施の形態に係るワイヤ10と同一のワイヤ10の断面形状が第1実施例として示され、
図6(E)には比較例に係るワイヤ80の断面形状が示されている。比較例に係るワイヤ80は、第1実施例に係るワイヤ10のワイヤ本体12と同一構成のワイヤ本体82を、ワイヤ本体82とは別途成形により形成された円筒状のプロテクタ84内部に通した構成とされている。ワイヤ本体82の外周とプロテクタ84の内壁との間にはクリアランス86が設けられ、クリアランス86はプロテクタ84内部にワイヤ本体82を通し易くしている。
【0071】
図7には第1実施例に係るワイヤ10、比較例に係るワイヤ80の打音測定の結果が示されている。打音測定は、一定の長さを有するワイヤの一端部を支持し、この一端部を中心として一定の回転速度においてワイヤの他端部をターゲットに打付け、この時に発生する音圧を測定する。
ここで、測定室の音圧は42.5[dB]、プロテクタ14、84が設けられていないワイヤ本体12、82の打音測定の結果が79.2[dB]であった。
図6(E)に示される比較例に係るワイヤ80の打音測定の結果は76.3[dB]であるのに対して、
図6(A)に示される第1実施例に係るワイヤ10の打音測定の結果は73.6[dB]であった。つまり、比較例に係るワイヤ80に比し、第1実施例に係るワイヤ10では打音軽減の効果が高められている。
【0072】
また、表現を代えて、本実施の形態に係るワイヤ10では、
図1(A)及び
図1(B)に示されるように、プロテクタ14はワイヤ本体12に密着して形成される。このため、プロテクタ14内部にワイヤ本体12を一端から通さずに、ワイヤ本体12の外周を覆ってワイヤ本体12にプロテクタ14を密着させているので、ワイヤ本体12の端部の解れに起因するプロテクタ14の損傷を根本的に無くすことができる。
さらに、プロテクタ14にワイヤ本体12を通す必要が無くなるので、プロテクタ14内部の内径を拡大する必要が無くなり、プロテクタ14を厚く形成することができる。このため、プロテクタ14のクッション性能が向上されるので、ワイヤ10がワイヤ10以外の物体に接触した際の打音軽減の効果を高めることができる。
【0073】
ここで、
図6(C)には第3実施例に係るワイヤ10が示され、
図6(D)には第4実施例に係るワイヤ10が示されている。第3実施例に係るワイヤ10、第4実施例に係るワイヤ10は、いずれもプロテクタ14の断面形状が、ワイヤ本体12の外周に沿って一定の厚さに形成され、セレーション形状とはされていない。第3実施例に係るワイヤ10のプロテクタ14の厚さに比し、第4実施例に係るワイヤ10のプロテクタ14の厚さが薄く形成されている。しかしながら、比較例に係るワイヤ80のプロテクタ84の厚さに比し、クリアランス86を必要としないので、第3実施例、第4実施例に係るそれぞれのワイヤ10のプロテクタ14の厚さを厚く形成することができる。
図7に示されるように、第3実施例に係るワイヤ10の打音測定の結果は74.4[dB]、第4実施例に係るワイヤ10の打音測定の結果は75.8[dB]であった。いずれも、比較例に係るワイヤ80の打音測定の結果に比し、低い結果が得られた。
本実施の形態の第3実施例、第4実施例に係るそれぞれのワイヤ10では、プロテクタ14がワイヤ本体12の外周に沿って一定の厚さに形成されていても、打音軽減の効果を得ることができる。
また、第3実施例、第4実施例に係るそれぞれのワイヤ10では、プロテクタ14がワイヤ本体12の外周に沿って一定の厚さに形成されているので、ワイヤ10の外周の何処の部位がワイヤ10以外の物体に接触しても一様に打音軽減の効果を得ることができる。
【0074】
さらに、本実施の形態に係るワイヤ10では、
図1(B)及び
図6(A)に示されるように、ワイヤ本体12の長手方向を横切る、プロテクタ14の断面形状がセレーション形状とされるので、プロテクタ14の外周から径方向内側へ向かう複数凹部14Aがプロテクタ14の長手方向に沿って形成される。
このため、ワイヤ本体12の外周に沿って一定の厚さに形成されたプロテクタ14(
図6(C)及び
図6(D)参照)に比し、プロテクタ14の製作に必要な使用樹脂量を減らすことができる。
また、プロテクタ14には、複数凹部14Aの隣接する凹部14A間に内径側から外径側へ凸設された凸部14Bが形成され、この凸部14Bは変形し易い構成とされている。このため、プロテクタ14では凸部14Bにおけるクッション性能を向上させることができるので、ワイヤ10がワイヤ10以外の物体に接触した際の打音軽減の効果をより一層高めることができる。
図7に示されるように、第3実施例に係るワイヤ10、第4実施例に係るワイヤ10のそれぞれの打音測定の結果に比し、第1実施例に係るワイヤ10の打音測定の結果は低い値とされる。第1実施例に係るワイヤ10のプロテクタ14の最大外径寸法は第3実施例に係るワイヤ10のプロテクタ14の最大外径寸法と同一とされている。
【0075】
ここで、
図6(B)には第2実施例に係るワイヤ10が示されている。第2実施例に係るワイヤ10のプロテクタ14はセレーション形状の断面形状に形成されている。プロテクタ14の最大外径寸法は、第1実施例に係るワイヤ10のプロテクタ14の最大外径寸法よりも小さく、第4実施例に係るワイヤ10のプロテクタ14の最大外径寸法と同一に設定されている。
図7に示されるように、第2実施例に係るワイヤ10の打音測定の結果は、第4実施例に係るワイヤ10の打音測定の結果に比し低い値とされ、第3実施例に係るワイヤ10の打音測定の結果と同一であった。
【0076】
また、本実施の形態に係るワイヤ10では、
図2(A)に示されるように、ワイヤ本体12の長手方向の一端部12A及び他端部の少なくとも一方が取付固定部20に連結される。この取付固定部20は、プロテクタ14から露出されたワイヤ本体12の一端部12A及び他端部の少なくとも一方に連結される。ワイヤ本体12に取付固定部20が連結されるので、ワイヤ10をワイヤ10以外の物体、例えば
図3に示される車両用ドア50の第1装着部品60に取付けて固定することができる。
【0077】
さらに、本実施の形態に係るワイヤ10では、
図2(B)及び
図2(C)に示されるように、ワイヤ本体12の長手方向中間部に中間ブラケット30が保持される。中間ブラケット30は、プロテクタ14から露出されたワイヤ本体12の長手方向中間部に保持される。ワイヤ本体12に中間ブラケット30が保持されるので、ワイヤ10の長手方向中間部をワイヤ10以外の物体、例えば
図3に示される車両用ドア50の第2装着部品62、第2装着部品64のそれぞれに取付けることができる。
【0078】
また、本実施の形態に係るワイヤでは、プロテクタ14は樹脂組成物の加熱成形体とされる。樹脂組成物には、オレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂から選ばれたマトリックス樹脂と、ニトリル系熱可塑性樹脂膜を有する熱膨張性マイクロカプセルとが配合される。このため、プロテクタ14では、発泡倍率を高めることができ、十分な柔軟性を得ることができるので、打音軽減の効果を高めることができ、加えて発泡に起因する表面の凹凸が小さくなるので、プロテクタ14の外観が良好となる。
【0079】
さらに、本実施の形態に係るワイヤ10の製造方法では、
図4に示される成形装置70及び
図5に示される樹脂成形部724を用いて、金属製のワイヤ本体12の外周に、ワイヤ本体12の長手方向に沿って、押出成形により加熱状態にある樹脂組成物が供給される。そして、供給された樹脂組成物が冷却されることにより、ワイヤ本体12の外周に樹脂製のプロテクタ14が形成される。
これにより、ワイヤ本体12の端部の解れに起因するプロテクタ14の損傷を根本的に無くすことができ、しかも打音軽減の効果を高めることができるワイヤ10を実現することができる。
また、プロテクタ14の内部にワイヤ本体12を通す作業を無くすことができるので、作業性を向上させることができる。そして、人為的な作業を廃止することができるので、プロテクタ14が形成されたワイヤ10を自動的に製造することができる。
【0080】
また、本実施の形態に係る車両用ドア50は、
図3に示されるように、ドアアウタパネル52と、第1装着部品60と、第2装着部品62及び第2装着部品64と、ワイヤ10とを備える。ドアアウタパネル52は、少なくとも一部が樹脂製とされる。第1装着部品60はドアアウタパネル52に装着される。第2装着部品62、第2装着部品64は、ドアアウタパネル52の第1装着部品60とは異なる部位に装着される。ワイヤ10はワイヤ本体12を有し、ワイヤ本体12の一端部12A及び他端部の少なくとも一方には取付固定部20が配設され、ワイヤ本体12の長手方向中間部には中間ブラケット30が配設される。取付固定部20は第1装着部品60に取付けられて固定される。中間ブラケット30は第2装着部品62、第2装着部品64に取付けられて固定される。
【0081】
ここで、ワイヤ10は、金属製のワイヤ本体12と、ワイヤ本体12の外周を覆い、ワイヤ本体12に一体的に成形されている樹脂製のプロテクタ14とを含んで構成される。このため、プロテクタ14内部にワイヤ本体12を一端から通す必要が無くなり、ワイヤ本体12の端部の解れに起因するプロテクタ14の損傷を根本的に無くすことができるワイヤ10を用いて、車両用ドア50を構築することができる。
さらに、プロテクタ14にワイヤ本体12を通す必要がなくなるので、プロテクタ14内部の内径を拡大する必要が無くなり、プロテクタ14を厚く形成することができる。このため、プロテクタ14のクッション性能が向上されるので、ワイヤ10がワイヤ10以外の物体に接触した際の打音軽減の効果を高めることができる車両用ドア50を構築することができる。
【0082】
[実施の形態の補足説明]
上記実施の形態では、中間ブラケットが保持されたワイヤとされているが、
請求項5に係る発明は中間ブラケットを保持していないワイヤとしてもよい。
また、上記実施の形態では、中間ブラケットに2個のワイヤ保持部を配設し、ワイヤ保持部間にストッパ部を配設する構成とされているが、本発明では、中間ブラケットに2個のストッパ部を配設し、ストッパ部間に1個のワイヤ保持部を配設してもよい。
また、上記実施の形態では、ワイヤの両端部が装着部品に取付けられ固定される構成とされているが、本発明では、ワイヤの一端部が第1装着部品に取付けられ固定されると共に、ワイヤの長手方向中間部が中間ブラケットを介して第2装着部品に取付けられ固定される構成とされてもよい。
また、本発明は、1個、2個又は4個以上の中間ブラケットを保持したワイヤとしてもよい。
さらに、上記実施の形態では、車両用ドアとしてバックドアに適用した例について説明したが、本発明は、車両用ドアとしてフロントサイドドア、リアサイドドア等、一部が樹脂製とされ、かつ、金属製の装着部品を装着したドアに広く適用可能である。