【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が1質量%以上10質量%以下の割合で配合されてなるコート層を有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の体積平均粒子径が、1.0μm以上10.0μm以下であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が、アスペクト比が5以下の球状である、
印刷用シート。
前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が、メタクリル酸メチル単独重合体あるいはメタクリル酸メチルとその他の共重合可能なビニルモノマーとの共重合体の粒子である請求項1に記載の印刷用シート。
前記連続相を形成するアクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル、エチレングリコール単位を分子内にもつポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、フェノールEO変性アクリレート、(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロール基を有する(メタ)アクリルアミド、アルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド、及びアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドからなる群から選択されるモノマーを一部に含有して構成されているものである請求項1〜3の何れかに記載の印刷用シート。
ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理を介して、基材シートの片面又は両面に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が乾燥質量で1質量%以上10質量%以下配合されたアクリル系樹脂水性エマルジョンを塗工することを特徴とする請求項7に記載の印刷用シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
≪印刷用シート≫
本発明に係る印刷用シートは、シート状の基材と、基材の少なくとも一方の表面に形成されたコート層とを備えるものであり、このコート層として、アクリル系ポリマーの連続層中に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が乾燥質量で1質量%以上10質量%以下配合されてなるものを有する。
なお、本発明にかかる印刷用シートとしては、基材の少なくとも一方の表面に上記した様なコート層を有する形態のものであれば、その他の構成については特に限定されるものではなく、例えば、基材とコート層の間に、なんらかの機能を有する中間層、例えば、基材とコート層との密着性を良くするためのシーラント層、印刷用シートに彩色及び柄等を与えるための内部印刷層、遮蔽層等や、あるいはコート層を設けていない基材表面上への保護層、粘着層等、更にはコート層表面上への保護層等を任意で設けることができるものである。
【0023】
(1)基材
本発明に係る印刷用シートにおける基材の材質としては、特に限定されず、樹脂系材料を主成分とするプラスチック系シートから構成されていてもよいし、紙系の材料から構成されていてもよく、合成紙から構成されていてもよい。更に、基材としては、無機物質粉末を熱可塑性プラスチック中に高充填してなる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシート、特に、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いることが、耐環境性の観点から、また機械的強度、耐熱性等の特性が向上する上から好ましい。
【0024】
(樹脂成分)
前記プラスチック系シート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートを構成する樹脂としては、特に限定されるものではなく、印刷用シートの用途、機能等に応じて、各種のものが用いられ得る。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
これらの熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済面等からポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的には、上記した様にポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物等が挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等の何れによって得られたものであってもよい。
【0027】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとしては、例えば、エチレンや、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン等の炭素数4〜10のα−オレフィンが例示される。プロピレン単独重合体としては、アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の程度の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等の何れもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよく、更に二元共重合体のみならず三元共重合体であってもよい。具体的には、例えば、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン−1−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンランダム3元共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体等を例示できる。
【0028】
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン1共重合体、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−ヘキセン1共重合体、エチレン−4メチルペンテン1共重合体、エチレン−オクテン1共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0029】
前記したポリオレフィン系樹脂の中でも、機械的強度と耐熱性とのバランスに特に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0030】
(無機物質粉末)
また、上記した様に、基材が無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合における、当該シート中に配合され得る無機物質粉末としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであってもよく、また、これらは単独又は2種類以上併用して使用され得る。
【0031】
更に、無機物質粉末の形状としても、特に限定される訳ではなく、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであってもよい。また、粒子状としても、一般的に合成法により得られる様な球形のものであっても、あるいは、採集した天然鉱物を粉砕にかけることにより得られる様な不定形状のものであっても良い。
【0032】
これらの無機物質粉末として、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、特に炭酸カルシウムが好ましい。更に炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石等CaCO
3を主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムの何れであっても良く、これらを組合わせることも可能であるが、経済性の観点で、好ましくは、重質炭酸カルシウムである。
【0033】
ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。
【0034】
また、無機物質粉末の分散性又は反応性を高めるために、無機物質粉末の表面をあらかじめ常法に従い表面改質しておいてもよい。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0035】
無機物質粉末は、粒子であることが好ましく平均粒子径は、0.1μm以上50.0μm以下が好ましく、1.0μm以上15.0μm以下がより好ましい。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を好ましく用いることができる。特に、その粒径分布において、粒子径50.0μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形体の製造が困難になる虞れがある。そのため、その平均粒子径は0.5μm以上とすることが好ましい。
【0036】
粉末状、フレーク状、又は顆粒状である無機物質粉末の平均粒子径は、好ましくは、10.0μm以下であり、より好ましくは5.0μm以下である。
【0037】
繊維状である無機物質粉末の平均繊維長は、好ましくは、3.0μm以上20.0μm以下である。平均繊維径は、好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下である。また、アスペクト比は、通常、10以上30以下である。なお、繊維状である無機物質粉末の平均繊維長及び平均繊維径は、電子顕微鏡で測定したものであり、アスペクト比は、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)である。
【0038】
基材が上述した様に無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合に、これに含まれる上記した熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との配合比(質量%)としては、前記した様に、50:50〜10:90の比率であることが望ましいが、40:60〜20:80の比率であることがより好ましく、40:60〜25:75の比率であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂と無機物質粉末との配合比において、無機物質粉末の割合が50質量%より低いものであると、無機物質粉末を配合したことによる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の所定の質感、耐衝撃性等の物性が得られないものとなり、一方90質量%よりも高いものであると、押出成形、真空成形等による成形加工が困難となるためである。
【0039】
(その他の添加剤)
また、基材が、前記プラスチック系シート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合には、その組成中に、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(紙系材料)
基材が紙系の材料から構成される場合の具体例として、グラシン紙、コート紙、上質紙、無塵紙、含浸紙等の紙基材、及び上記の紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙が挙げられる。
【0041】
(基材構成)
基材は上記した様な材料より構成される一層のシートにより構成されていてもよいし、あるいは複数層が積層されて基材を構成していてもよい。また、基材が前記プラスチック系シートあるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートの場合には、当該シートは未延伸のものであってもよいし、縦又は横等の一軸方向又は二軸方向に延伸されたものであってもよい。
【0042】
基材の厚さとしては、特に制限はないが、通常10μm以上300μm以下程度、好ましくは25μm以上200μm以下である。
【0043】
また、プラスチック系シート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートからなる基材を用いる場合には、その表面に設けられるコート層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0044】
(2)コート層
本発明に係る印刷用シートが有するコート層は、前記基材の片面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。このコート層の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上8μm以下であることがより好ましく、3μm以上5μm以下であることが特に好ましい。この範囲内の厚さであると、コート層が、インクの受容層として十分に機能し良好な着色性、発色性等といったインク受容特性を発揮し、かつ、印刷用シートの耐水性、表面の帯電防止性、インキとの密着性等といった特性も良好となる。
【0045】
しかして、本発明においては、このコート層は、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が、1質量%以上10質量%以下、より好ましくは3質量%以上8質量%以下、更に好ましくは4質量%以上6質量%以下の割合で添加されてなるものである。
【0046】
なお、この様なコート層を形成する上で、アクリル系ポリマー水性エマルジョンを用いる場合には、アクリル系ポリマー水性エマルジョン中に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が乾燥質量で1質量%以上10質量%以下、より好ましくは2質量%以上8質量%以下、更に好ましくは2質量%以上6質量%以下の割合で配合する様にすれば良い。
【0047】
本発明においては、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、化学組成的には比較的近似するが前記連続相中で粒子形状を保持し得る(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を配合することで、マトリックス中における樹脂粒子の均一分散性、連続相と樹脂粒子との界面での良好な密着性及びこれによるマトリックス中からの樹脂粒子の耐脱落性が基本的に確保できる。そして、前述した様に、コート層おいてアクリル系ポリマーからなる連続相中に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が存在することで、基材との接合界面において物理的な凹凸が形成されてアンカー効果による接着性の向上がなされる。またコート層表面に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が存在することによりシート表面に微細な凹凸が形成され入射光の散乱による耐候性向上効果が得られる。更に、アクリル系ポリマーからなる連続相中に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が存在し、いわゆる海島構造を形成するため、連続相中に加えた帯電防止性能を発揮する親水性ポリマーの一部を、前記樹脂粒子と連続相、すなわちマトリックス層との界面に沿って集合させることができ、良好な電気伝導がなされることから、単に、アクリル系ポリマーからなるコート層に親水性ポリマーを分散させている場合と違って、良好な帯電防止効果が得られたものである。
【0048】
なお、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の配合量が上記範囲内よりも少なくなると、接着性、耐候性、帯電防止性能の何れか乃至は複数の改善が十分に発揮されず、一方上記範囲内よりも多くなると、コート層が十分な強度を有する連続層として形成できなくなる虞れが生じる可能性がある。
【0049】
また、本発明に係る印刷用シートの有するコート層は、前記した様に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を配合することにより形成されるものであるため、そこにおいて配合される(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の量及び粒径、並びに形成されるコート層の厚さを適宜調整することによって、コート層の表面をある程度の粗度を持ってマットなものとすることも、あるいは光沢度を高めたグロスなものとすることも可能である。
特に、マットな表面を形成することによって、シート表面の耐候性を高めることができる。
【0050】
(連続相を形成するアクリル系ポリマー)
コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物が含まれる。なお、本明細書において用いられる「(メタ)アクリル」との用語は、「アクリル」と「メタクリル」との双方を含む意味で用いているものである。
【0051】
より具体的には、前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、特に限定されるものではないが、
アクリル酸、メタクリル酸;
例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチル又はアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル;
例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18程度のメタクリル酸アルキルエステル;
例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;
例えば、エチレングリコール単位を分子内にもつポリエチレングリコール(nは3以上20以下程度が望ましい。)ジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性(nは3以上20以下程度が望ましい。)トリアクリレート、フェノールEO変性(nは3以上20以下程度が望ましい。)変性アクリレート、
例えば、アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル、
例えば、アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;
例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル;
例えば、側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基又は加水分解性アルコキシシリル基等を有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステル;
例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド;
例えば、N−メチロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N−アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN−アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N−ブトキシメチルアクリルアミドやN−ブトキシメチルメタクリルアミド等のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド;及び、
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体も前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として挙げることができる。
更に、アクリル系ポリマーに光硬化反応等により架橋構造を導入し、コート層の皮膜強度を高めようとする場合には、2官能乃至は多官能のアクリル系モノマー、具体的には例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、上記トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートを配合することも可能である。
【0052】
これらのモノマー成分は、単独で、又は複数を混合して使用することができる。
すなわち、本発明でコート層の連続相を構成するアクリル系ポリマーは、上記に例示の各種のモノマー成分の内の何れかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であってもよい。
更に、本発明の一実施態様においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをアクリル系ポリマーとして用い得る。
【0053】
上記例示以外のモノマー成分としては、上記モノマー成分と共重合体を形成するものであれば特に制限されず、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニル等のビニル系単量体、エチレン、ブタジエン、スチレン等を挙げることができる。
【0054】
なお、本発明に係る印刷用シートにおいてコート層を形成する方法としても特に限定されるものではないが、一般的には、この様なコート層を形成する上での塗工性の良好さから、水に分散/又は有機溶剤に溶解した形態で用いることが望ましく、特に、水に分散させた形態、すなわち、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの形態であることが望ましい。このため上記アクリル系ポリマーとしては、コート層を形成する原料としての段階で水性エマルジョンの形態を有するものであることが好ましい。
【0055】
アクリル系ポリマー水性エマルジョンを製造する上での乳化重合自体は当業者に周知である。その乳化重合において用いられる界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性のものを単独、又は2種以上併用することが可能である。これらのうち好ましくはノニオン性、カチオン性のものである。ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等がある。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、N−2−エチルヘキシルピリジニウムクロライド等があるが、最も好ましくはノニオン性界面活性剤である。又それらのうちポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテルが特に好ましい。界面活性剤は、特に限定される訳ではないが、通常、単量体の総量の1〜5質量%程度用いられる。
【0056】
更に、保護コロイド剤としてゼラチン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを併用してもよい。
【0057】
また、乳化重合におけるラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩,過酸化水素水,t−ブチルハイドロパーオキサイド,アゾビスアミジノプロパンの塩酸塩等の水溶性タイプ,ベンゾイルパーオキサイド,ジイソプロピルパーオキシジカーボネート,クミルパーオキシネオデカノエート,クミルパーオキシオクトエート,アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性タイプ等が例示されるが、水溶性のものが好ましい。重合開始剤は、特に限定される訳ではないが、例えば、単量体の総量の0.01〜0.50質量%程度の割合で用いる。
【0058】
重合反応は、特に限定されるものではないが、通常35〜90℃程度の温度で撹拌下に行われ、反応時間は通常3〜40時間程度である。また、乳化重合の開始時あるいは終了時に塩基性物質を加えてpHを調整することで、エマルジョンの放置安定性,凍結安定性,化学的安定性等を向上させることができる。この場合、得られるエマルジョンは、pHが5〜9となる様に調整することが好ましく、そのためにアンモニア,エチルアミン,ジエチルアミン,トリエチルアミン,エタノールアミン,トリエタノールアミン,ジメチルエタノールアミン,苛性ソーダ,苛性カリ等の塩基性物質を使用することができる。
【0059】
コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーを構成する成分としては、前記した様に特に限定されるものではないが、コート層の帯電防止性能を向上させる上で、親水性モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル、エチレングリコール単位を分子内にもつポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、フェノールEO変性アクリレート、(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロール基を有する(メタ)アクリルアミド、アルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;アルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド等のモノマーを一部に含有して構成されていることが望ましい。
【0060】
特に限定される訳ではないが、コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとしては、アクリル系共重合体等を好ましく例示できる。
【0061】
((メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子)
前記した様なアクリル系ポリマーからなる連続相中に配合される(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、当該アクリル系ポリマーにおいて相溶性を示さず粒子形状を保持できるものである必要があり、また更に、その製造工程上で、コート層のマトリックスを形成するのに用いられるアクリル系ポリマーエマルジョンやアクリル系ポリマー溶液の溶媒、マイクロエマルション、モノマー等に対して安定であることが好ましい。このため、架橋樹脂粒子とされることが好ましい一態様ではあるが、添加される系において安定で粒子形状を保持できる限りにおいて、必ずしも架橋されたものに限定される訳ではなく、未架橋の樹脂粒子であっても使用可能である。
【0062】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を構成するモノマーとしては、コート層のマトリックスを形成するアクリル系ポリマーを構成するモノマーとして挙げたモノマー群の何れも基本的に使用可能ではあるが、樹脂粒子がある一定以上の硬度を有する上で、メタクリル酸アルキルモノマーが望ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、メタクリル酸メチル単独重合体あるいはメタクリル酸メチルとその他の共重合可能なビニルモノマーとの共重合体の粒子であることが望まれる。
【0063】
特に、架橋樹脂粒子とする場合には、特に限定される訳ではないが、上記した様に2官能乃至は多官能のアクリル系モノマー、具体的には例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、上記トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートを配合することが望ましく、より具体的には例えば、2官能乃至多官能アクリル系モノマーを含むものであることが望ましい。
【0064】
樹脂粒子を構成する上で、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマーとしては、特に限定される訳ではなく、上記した様なその他の(メタ)アクリル系モノマーやその他の共重合可能なビニル系モノマーを用いることが可能である。
【0065】
樹脂粒子を構成する(共)重合体として、具体的には、例えば、メタクリル酸メチル単独重合体、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル−酢酸ビニル共重合体、メタクリル酸−アクリル酸エチル−アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル−酢酸ビニル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸メチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−スチレン共重合体、1,3-ブタジエン−アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリル酸エチル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸[2−(ジメチルアミノ)エチル]−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキル(C28)−メタクリル酸メチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−スチレン共重合体、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−N(ヒドロキシメチル)アクリルアミド−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリル酸−アクリル酸ブチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸ブチル−アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸メチル−メタクリル酸アミノエチル−スチレン共重合体のアミノ基の4化物、メタクリル酸−アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−メタクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリル酸−アクリル酸ブチル−メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−エチレングリコールビスメタクリレート共重合体、アクリル酸エチル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、1,3-ブタジエン−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられるが、もちろんこれらに何ら限定される訳ではない。
【0066】
これらのうち、特に、メタクリル酸メチル−エチレングリコールビスメタクリレート共重合体からなる樹脂粒子が好ましい。
【0067】
この樹脂粒子の粒径としては、特に限定されるものではなく、形成しようとするコート層の厚さによってもある程度左右されるが、形成しようとするコート層の厚さに対して例えば、0.2倍以上2.0倍以下程度、より好ましくは0.5倍以上0.8倍未満程度の平均粒径を有することが望ましい。より具体的には、例えば、体積平均粒径が、1.0μm以上10.0μm以下、より好ましくは1.5μm以上8.0μm以下、更に好ましくは2.0μm以上6.0μm以下であることが好ましい。この様な粒径範囲を有するものであると、形成されるコート層において樹脂粒子を分散性良く配合することができ、上述した様な基材接着性の向上、耐候性向上効果、帯電防止性能といった所期の効果をより好適に発揮し得るものとなる。
【0068】
なお、樹脂粒子の形状としては、特に限定されるものではなく、球状に限らず、楕円球状のものであっても、更に不定形状のものであっても良いが、ある程度その形状が球状に近いものであるものであることが、コート層中における均一分散性の面から望ましい。この観点から、上記樹脂粒子のアスペクト比は好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。上記アスペクト比は、長径/短径を示す。
【0069】
また、樹脂粒子としては、粒子間の粒度が均一であることが、コート層の面内特性を均一にする上で望ましい。
【0070】
更に、樹脂粒子の比重としては、特に限定されるものではないが、例えば0.9〜1.5、より好ましくは0.9〜1.3程度であることが、形成されるコート層全体に均一に分散され得る上で望ましい。
【0071】
なお、本発明において用いられる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の懸濁重合(パール重合、ビーズ重合等を含む)、乳化重合(シード重合等を含む)等により製造され得るものである。
【0072】
(その他の添加剤)
本発明において、前記コート層は、上記以外の添加剤等の他の成分を含有してもよい。
添加剤としては、具体的には、架橋剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、界面活性剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、インク定着剤、硬化剤、耐候材料等が挙げられる。
【0073】
架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、ホウ酸塩、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。
【0074】
また、インク定着剤として、上記アクリル樹脂以外のカチオン性樹脂や、多価金属塩を含有することが好ましい。カチオン性樹脂としては、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、ジシアンジアミド縮合物等が挙げられる。多価金属塩としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム化合物が好ましく、硝酸カルシウム四水和物がより好ましい。
【0075】
また、コート層を形成するための塗工液の調製は、例えば、コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとして、アクリル系ポリマー水性エマルジョンを用いる場合には、上記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子乃至はその水等への分散体を、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの分散媒である水中に添加して、適当な攪拌乃至分散機、例えば、湿式コロイドミル、エッジドタービン、パドル翼等を用いて、500〜3000rpm程度の回転条件で、通常1〜5分間分散させることにより行い得る。上記した様に、使用する樹脂粒子が、比較的近似する化学組成のものであるため、穏和な攪拌処理であっても十分良好な分散体を得ることが可能である。
【0076】
<印刷用シートの製造方法>
本発明の印刷用シートの製造方法としては、従来、基材表面にコート層を形成する通常の方法を使用することができ、例えば、基材の片面又は両面に、上記した様な(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が乾燥質量で1質量%以上10質量%以下配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンを、ロールコート、ブレードコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ディッピング等の適当な手法により、塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化することによって行い得る。コート層の乾燥乃至硬化の際の温度条件としては、特に限定されるものではないが、例えば90〜120℃の温度にて行い得る。
【0077】
なお、基材として、上記した様に無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いる態様においては、例えば、ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理を介して、基材シートの片面又は両面に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が乾燥質量で1質量%以上10質量%以下配合されたアクリル系樹脂水性エマルジョンを、上記と同様に適当な手法により、塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化することによって行い得る。無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを成形する上での、無機物質粉末とポリオレフィン樹脂との混合は、成形機にホッパーから投入する前にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融してもよく、成形機による成形と同時にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融してもよい。無機物質粉末以外のその他の添加剤に関しても同様である。また、溶融混練は、ポリオレフィン樹脂に無機物質粉末を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。上記無機物質粉末をポリオレフィン樹脂に配合する際においては、高温となるほど臭気を発生させる傾向となるため、前記ポリオレフィン樹脂の融点+55℃以下、好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点+10℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+45℃以下の温度で処理する態様であることが望ましい。
なお、シート状に押出し成形する時における成形温度としては、同様の温度で成形することが好ましい。
【0078】
更に、シート状に成形する際における、延伸処理としても特に限定されるものではなく、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又はニ軸方向に、乃至は、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。ニ軸延伸の場合には、逐次ニ軸延伸でも同時ニ軸延伸であってもよい。
【0079】
成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シートの密度が低下する。密度が低下することによりシートの白色度が良好なものとなる。
【実施例】
【0080】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解をより容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
(評価方法)
以下の実施例及び比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0082】
(接着性評価)
基材に対するコート層の密着性を調べるために、セロハン粘着テープによる剥離試験を行った。
・測定用テープ
JIS Z1522:2009に準拠するセロハン粘着テープ(幅:24mm)
・測定手順
(1)約75mmの長さにテープを取り出す。
(2)測定するシートにテープを貼り、透けて見える様に指でテープを擦る。なおこの際、爪を立てずに指の平で押すこととする。
(3)テープを貼って5分以内に、テープの端部を持ち上げ引き剥がし方向とコート層とが約60°の角度をなす様にして、0.5〜1.0秒で確実に引き離す。剥離面を観察し、塗工層が付着しているかを目視により観察し、以下の評価基準に基づき、コート層と基材との密着性を評価する。
する。
・評価基準
○ コート層の剥離が全くない。
△ コート層の剥離が20%未満である。
× コート層の剥離が20%以上である。
【0083】
(耐水性評価)
濡らしたキムワイプ(日本製紙クレシア製 商品名)でコート層の表面を10秒間こすり、水跡が残らないかを目視観察し、以下の評価基準に基づき、耐水性を評価した。
・評価基準
○ コート層の表面に水跡が全く残らない。
△ コート層の表面に染みた様な水跡がわずかながら発生する。
× コート層の表面に染みた様な水跡が大きく残る。
【0084】
(耐候性評価)
メタルハライドウェザー試験において、ブラックパネル温度63℃(±2℃)、湿度50%(±5%)、照度1200W/m
2で24時間試験した際に、コート層表面の試験前後の状態を目視観察し、L
*a
*b
*色空間色度図に対比して色を測定し、以下の評価基準に基づき評価した。
・評価基準
○ コート層の表面の試験前後において、明度L
*及び色度a
*b
*の変化がほとんどなく黄変が実質的に生じていない。
△ コート層の表面の試験前後において、明度L
*及び色度a
*の変化はわずかであるが、色度b
*の値の増加があり、わずかに黄変している。
× コート層の表面の試験前後において、明度L
*及び色度a
*b
*の何れも変化があり、特に色度b
*の値の著しい増加があり、黄変している。
【0085】
(表面抵抗率評価)
JIS K 6911:2006に準拠して測定した。測定には、試料を100mm角のシートとして用い、以下の条件で測定を行った。
温度23℃、湿度50%
【0086】
(表面抵抗率の環境依存性)
表面抵抗率の環境依存性を調べるため、試料を塗工直後、23℃、30℃、40℃、50℃、60℃(湿度条件は何れも50%(±5%RH)に所定時間30分保持した後の表面抵抗率を測定した。
【0087】
(材料)
以下の実施例及び比較例において使用した成分はそれぞれ以下のものであった。
【0088】
・基材
S1:ポリプロピレン単独重合体(融点160℃)36.0質量部と、無機物質粉末としての平均粒径2.2μm(空気透過法による平均粒径)の重質炭酸カルシウム粒子60.0質量部と、更に滑剤としてアルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=12)2.0質量部を、二軸スクリューを装備した押出成形機(Tダイ押出成形装置φ20mm、L/D=25)に投入し、220℃以下の温度で混練し、混練した原料を成形温度220℃でTダイによりシート成形し、引き取り機で巻き取りながら延伸して基材となる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを作成した。なお、この様にして得られたシートをの肉厚は200μmであった。
【0089】
・樹脂水性エマルジョン
M1:1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートとポリエチレングリコール(♯400)ジアクリレートとを質量比90:10で含有してなるアクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョン(固形分:水=20:80 (質量比))
Ma:スチレンとベンジルアクリレートとブチルアクリレートと1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを質量比84:26:32:0.1:0.9で含有してなるスチレン−アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョン(固形分:水=20:80 (質量比))
【0090】
・樹脂粒子
B1:架橋ポリメチルメタクリレート粒子(メタクリル酸メチル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体)(体積平均粒子径2μm、比重1.19)
B2:架橋ポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体)粒子(体積平均粒子径3μm、比重1.19)
B3:架橋ポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体)粒子(体積平均粒子径5μm、比重1.19)
B4:架橋ポリメチルメタクリレート粒子(メタクリル酸メチル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体)(体積平均粒子径1μm、比重1.19)
B5:架橋ポリメチルメタクリレート粒子(体積平均粒子径8μm、比重1.20)
B6:架橋ポリメチルメタクリレート粒子(メタクリル酸メチル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体)(体積平均粒子径10μm、比重1.20)
B7:ポリメチルメタクリレートホモポリマー粒子(体積平均粒子径3μm、比重(1.19)
Ba:ケミパールW−400(三井化学株式会社製、低分子量ポリエチレン(ポリエチレンワックスの水分散体(固形分40%))(平均粒径(コールター法)4μm)
【0091】
実施例1〜12、比較例1〜3及び参考例1〜5
樹脂水性エマルジョン、樹脂粒子の種類及び添加量をそれぞれ、下記表1に示すものとして配合し、エッジドタービンを用いて3000rpmで3分間攪拌混合して、コート層塗工液を調製した。なお、表1において示す樹脂粒子添加量は、樹脂水性エマルジョンと樹脂粒子のそれぞれ乾燥質量換算の値である。この様にして調製したコート層塗工液を、前記した基材表面に、表1に示す所定の膜厚となる様にマイクログラビア法によって塗工し、110℃にて乾燥させて、印刷用シートを作成した。得られた各印刷用シートに関して、接着性(基材に対するコート層の密着性)、表面抵抗率、耐水性、耐候性に関して上記した条件により測定した。得られた結果を表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
本発明に係る印刷用シートの実施例においては、何れも、基材に対するコート層の密着性が良好で、かつ、表面抵抗率、耐水性、耐候性の面で十分良好な特性を有するものが得られたことが判る。これに対して、従来のアクリル系コート層のみの構成である比較例においては、コート層の密着性が悪く、かつ、表面抵抗率、耐水性、耐候性の面で問題があり黄変を生じるものであった。
【0095】
次に、実施例7、8及び比較例1の印刷用シートを用いた表面抵抗率の環境依存性評価を行った結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3に示す結果から明らかな様に、本発明の実施例7、8に係るものは、環境温度の変化による表面抵抗率のバラツキが少なく、23℃〜60℃の間で抵抗率の変化が1オーダー以下であり、帯電防止性能の環境依存性が小さいものとなっていることがわかった。これに対して、従来のアクリル系コート層のみの構成である比較例1のものにおいては、環境温度の変化による表面抵抗率のバラツキが大きく、特に温度が40℃から急激に抵抗率が増加する結果となり、帯電防止性能の環境依存性が大きなものであった。