特許第6752018号(P6752018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752018
(24)【登録日】2020年8月20日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】セラミック材料及び歯科用製品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/18 20060101AFI20200831BHJP
   A61K 6/807 20200101ALI20200831BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20200831BHJP
   A61K 6/822 20200101ALI20200831BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20200831BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20200831BHJP
【FI】
   C04B35/18
   A61K6/807
   A61K6/818
   A61K6/822
   A61K6/831
   A61K6/15
【請求項の数】17
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-1307(P2016-1307)
(22)【出願日】2016年1月6日
(65)【公開番号】特開2017-122064(P2017-122064A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】江本 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 肇男
(72)【発明者】
【氏名】加藤 新一郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 広人
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−503430(JP,A)
【文献】 特開平10−036137(JP,A)
【文献】 特開2008−222450(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/181828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/18
A61K 6/00−6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
69mol%〜76mol%のSiO
3mol%〜7mol%のAl
0.3mol%〜2mol%のLiO、
3mol%〜8mol%のNaO、
3mol%〜7mol%のKO、
0.7mol%〜2mol%のCaO、
0.2mol%〜1mol%のCeO
0mol%〜1mol%のMgO、
0mol%〜3mol%のBaO、
0mol%〜1mol%のZnO、
6.5mol%〜15mol%のB、及び
0mol%〜8mol%のF
を含有し、
MgO、BaO及びZnOのうち、少なくとも1つを含有する、セラミック材料。
【請求項2】
の含有率が2.5mol%〜7.9mol%である、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項3】
MgO、BaO、及びZnOのうち、少なくともBaOを含有し、
BaOの含有率が0.7mol%〜3mol%である、請求項2に記載のセラミック材料。
【請求項4】
の含有率が6.5mol%〜14mol%である、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項5】
MgO、BaO、及びZnOのうち、少なくともMgO及びZnOを含有し、
MgOの含有率が0.1mol%〜1molであり、
ZnOの含有率が0.2mol%〜1molである、請求項4に記載のセラミック材料。
【請求項6】
の含有率が6.5mol%〜14mol%であり、
の含有率が0.5mol%〜6.5mol%である、請求項に記載のセラミック材料。
【請求項7】
MgO、BaO、及びZnOを含有し、
MgOの含有率が0.1mol%〜1molであり、
BaOの含有率が0.7mol%〜3molであり、
ZnOの含有率が0.2mol%〜1molである、請求項6に記載のセラミック材料。
【請求項8】
ISO6872に準拠して測定した熱膨張係数が7×10−6−1〜11×10−6−1である、請求項1〜のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項9】
ISO6872に準拠して測定された溶解量が100μg/cm以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項10】
JISR1607に準拠して測定された破壊靭性が1MPam1/2以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項11】
基材と、
請求項1〜10のいずれか一項に記載のセラミック材料を含む陶材層と、を備える、歯科用製品。
【請求項12】
前記陶材層の厚さは、15μm〜80μmである、請求項11に記載の歯科用製品。
【請求項13】
前記基材は、イットリアを含有するジルコニア焼結体であり、
前記ジルコニア焼結体において、ジルコニアとイットリアの合計molに対するイットリアの含有率は3mol%〜6mol%である、請求項11又は12に記載の歯科用製品。
【請求項14】
前記基材のΔLをΔLと表記し、
前記歯科用製品のΔLをΔLと表記し、
ΔLからΔLへの変動率を以下の式:
[ΔLの変動率]=(ΔL−ΔL)/ΔL×100
で表すとき、
ΔLの変動率は3.5%以上である、
ただし、前記基材及び前記歯科用製品のL表色系(JISZ8729)における色度(色空間)のL値について、試料の背景を白色にして波長700nmの光で測定したL値を第1のL値とし、
第1のL値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして波長700nmの光で測定したL値を第2のL値とするとき、
ΔLは、前記第1のL値から前記第2のL値を控除した値であり、
ΔLを測定した前記基材の厚さは1.2mmであり、
前記セラミック材料は、前記基材のうち、前記背景とは反対側の面に配され、
ΔLを測定した前記歯科用製品において前記セラミック材料の厚さは30μmである、
請求項11〜13のいずれか一項に記載の歯科用製品。
【請求項15】
前記セラミック材料は、前記基材の少なくとも一部に配されている、請求項11〜14のいずれか一項に記載の歯科用製品。
【請求項16】
前記セラミック材料は、前記基材の面のうち、口腔内に露出する面の少なくとも一部に配されている、請求項15に記載の歯科用製品。
【請求項17】
前記セラミック材料は、前記基材の面のうち、支台歯に面する面の少なくとも一部に配されている、請求項15又は16に記載の歯科用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック材料に関する。特に、本発明は、歯科治療に用いるセラミック材料に関する。また、本発明は、当該セラミック材料を有する歯科用製品に関する。
【背景技術】
【0002】
以前は、歯科用製品(例えば、被覆冠、歯冠、クラウン、差し歯等の補綴物)としては、金属がよく用いられていた。しかし、金属は、審美性に欠けるという欠点を有すると共に、金属の溶出によるアレルギーを発症することもあった。そこで、金属の使用に伴う問題を解消するため、金属の代わりに、酸化アルミニウム(アルミナ)や酸化ジルコニウム(ジルコニア)等のセラミック材料が歯科用製品に用いられてきている。特に、ジルコニアは、審美性及び強度において優れており、特に近年の低価格化も相まって需要が高まっている。
【0003】
口腔内の審美性を高めるためには、歯科用製品の外観を天然歯の外観に似せる必要がある。しかしながら、ジルコニア(焼結体)自体で、天然歯と同様の外観、特に透明度、光沢(艶(ツヤ))及び色調、を再現することは困難である。そこで、ジルコニアを露出させるのではなく、ジルコニアで形成されたフレームの露出面に、陶材と呼ばれるセラミック材料(例えば特許文献1及び特許文献2参照)を焼き付けて、天然歯と同様の外観を再現しようとする被覆冠(例えば特許文献3参照)が用いられている。このような歯科用製品は、陶材焼付ジルコニア冠(PFZ:Porcelain Fused to Zirconia)と称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−126360号公報
【特許文献2】特開2009−185001号公報
【特許文献3】特開2013−56103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下の分析は、本発明の観点から与えられる。
【0006】
通常、PFZは、フレームに、陶材となるセラミック材料を含有するスラリーを塗布した後、数百度で焼成して、陶材をフレームに焼き付けることによって作製される。このため、焼成時における欠陥の発生を抑制するためには、陶材としては、フレームの熱膨張係数に近い熱膨張係数を有する材料を選択する必要がある。例えば、フレームにジルコニア焼結体を使用する場合には、陶材として、ジルコニア焼結体の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するセラミック材料を選択する必要がある。
【0007】
一般的に、ジルコニア焼結体自体は、天然歯のような透明性及び光沢を有していない。このため、PFZの審美性を高めるためには、すなわち、PFZが天然歯と同様の外観を呈するためには、陶材がジルコニア焼結体のフレーム上に焼き付けられた状態において、陶材側から見たPFZの外観が天然歯と同様の透明度及び光沢を呈することが望まれる。
【0008】
また、PFZにおいては、陶材側が口腔内に露出するので、陶材は、咀嚼行為に対して耐え得るように高い強度を有することが望まれる。また、口腔環境は酸性条件であるので、陶材は、高い耐酸性を有することも望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1視点によれば、69mol%〜76mol%のSiO、3mol%〜7mol%のAl、0.3mol%〜2mol%のLiO、3mol%〜8mol%のNaO、3mol%〜7mol%のKO、0.7mol%〜2mol%のCaO、0.2mol%〜1mol%のCeO、0mol%〜1mol%のMgO、0mol%〜3mol%のBaO、0mol%〜1mol%のZnO、0mol%〜15mol%のB、及び0mol%〜8mol%のF、を含有するセラミック材料が提供される。セラミック材料は、MgO、BaO及びZnOのうち、少なくとも1つを含有する。セラミック材料は、B及びFのうち、少なくとも1つを含有する。
前記第1視点の変形として、セラミック材料は、69mol%〜76mol%のSiO、3mol%〜7mol%のAl、0.3mol%〜2mol%のLiO、3mol%〜8mol%のNaO、3mol%〜7mol%のKO、0.7mol%〜2mol%のCaO、0.2mol%〜1mol%のCeO、0mol%〜1mol%のMgO、0mol%〜3mol%のBaO、0mol%〜1mol%のZnO、6.5mol%〜15mol%のB、及び0mol%〜8mol%のF、を含有し、MgO、BaO及びZnOのうち、少なくとも1つを含有する。
【0010】
本発明の第2視点によれば、基材と、第1視点に係るセラミック材料を含む陶材層と、を備える、歯科用製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ジルコニア焼結体をフレームとして用いる歯科用製品に好適なセラミック材料(陶材)を提供することができる。本発明のセラミック材料は、フレームとの熱膨張係数の差に起因する欠陥の発生を抑制することができる。本発明のセラミック材料は、歯科用製品の透明度を高めることができると共に、歯科用製品に光沢を与えることができる。また、本発明のセラミック材料は、咀嚼行為に耐え得るような強度及び口腔内の酸性条件に耐え得るような高い耐酸性を歯科用製品に付与することができる。
【0012】
本発明の歯科用製品は、フレームとセラミック材料(陶材)間の熱膨張係数の差に起因する、実用上の障害となるような欠陥を有していない。本発明の歯科用製品は、天然歯のような透明度及び光沢を有することができる。また、本発明の歯科用製品は、口腔環境に耐え得る強度及び耐酸性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る歯科用製品の概略断面図。
図2】第2実施形態に係る歯科用製品の概略断面図。
図3】色度(色空間)の測定方法を説明するための概略図。
図4】実施例1及び2並びに比較例2及び3に基づくFの含有率とΔLの変動率との相関を示すグラフ。
図5】実施例3〜5及び比較例4及び5に基づくBの含有率とΔLの変動率との相関を示すグラフ。
図6】実施例6〜9及び比較例6に基づくF及びBの含有率合計とΔLの変動率との相関を示すグラフ。
図7】セラミック材料の厚さとΔLの変動率との相関関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0015】
上記第1視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、B及びFのうち、少なくともFを含有する。Fの含有率が2.5mol%〜7.9mol%である。
【0016】
上記第1視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、MgO、BaO、及びZnOのうち、少なくともBaOを含有する。BaOの含有率が0.7mol%〜3mol%である。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、B及びFのうち、少なくともBを含有する。Bの含有率が2.5mol%〜14mol%である。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、MgO、BaO、及びZnOのうち、少なくともMgO及びZnOを含有する。MgOの含有率が0.1mol%〜1molである。ZnOの含有率が0.2mol%〜1molである。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、B及びFを含有する。Bの含有率とFの含有率の合計が2mol%以上である。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、Bの含有率とFの含有率の合計が4mol%〜18mol%である。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、Bの含有率が0.5mol%〜14mol%である。Fの含有率が0.5mol%〜6.5mol%である。
【0022】
上記第1視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、MgO、BaO、及びZnOを含有する。MgOの含有率が0.1mol%〜1molである。BaOの含有率が0.7mol%〜3molである。ZnOの含有率が0.2mol%〜1molである。
【0023】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ISO6872に準拠して測定した熱膨張係数が7×10−6−1〜11×10−6−1である。
【0024】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ISO6872に準拠して測定された溶解量が100μg/cm以下である。
【0025】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISR1607に準拠して測定された破壊靭性が1MPam1/2以上である。
【0026】
上記第2視点の好ましい形態によれば、陶材層の厚さは、15μm〜80μmである。
【0027】
上記第2視点の好ましい形態によれば、基材は、イットリアを含有するジルコニア焼結体である。ジルコニア焼結体において、ジルコニアとイットリアの合計molに対するイットリアの含有率は3mol%〜6mol%である。
【0028】
上記第2視点の好ましい形態によれば、基材のΔLをΔLと表記し、歯科用製品のΔLをΔLと表記し、ΔLからΔLへの変動率を以下の式:
[ΔLの変動率]=(ΔL−ΔL)/ΔL×100
で表すとき、ΔLの変動率は3.5%以上である。ただし、基材及び歯科用製品のL表色系(JISZ8729)における色度(色空間)のL値について、試料の背景を白色にして波長700nmの光で測定したL値を第1のL値とし、第1のL値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして波長700nmの光で測定したL値を第2のL値とするとき、ΔLは、第1のL値から第2のL値を控除した値である。ΔLを測定した基材の厚さは1.2mmである。セラミック材料は、基材のうち、背景とは反対側の面に配されている。ΔLを測定した歯科用製品においてセラミック材料の厚さは30μmである。
【0029】
上記第2視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、基材の少なくとも一部に配されている。
【0030】
上記第2視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、基材の面のうち、口腔内に露出する面の少なくとも一部に配されている。
【0031】
上記第2視点の好ましい形態によれば、セラミック材料は、基材の面のうち、支台歯に面する面の少なくとも一部に配されている。
【0032】
以下の説明において、図面参照符号は発明の理解のために付記しているものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、図示の形状、寸法、縮尺等も発明を限定するものではない。各実施形態において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【0033】
本発明のセラミック材料は、歯科用製品の基材(例えばフレーム)上に当該セラミック材料を焼き付ける際に、セラミック材料及び基材に欠陥が生じないような熱膨張係数を有すると好ましい。例えば、25℃〜500℃におけるジルコニア焼結体の熱膨張係数は、9.7〜10.4である。したがって、基材がジルコニア焼結体である場合、本発明のセラミック材料の熱膨張係数は、例えば、7以上であると好ましく、7.1以上であるとより好ましく、7.5以上であるとより好ましく、7.6以上であるとより好ましく、7.8以上であるとさらに好ましい。また、本発明のセラミック材料の熱膨張係数は、11以下であると好ましく、10.9以下であると好ましく、10.4以下であるとより好ましい。
【0034】
本発明のセラミック材料は、主として、アルミノシリケートガラスを含有すると好ましい。本発明のセラミック材料は、SiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、及びCeOを含有する。また、セラミック材料は、MgO、BaO、ZnO、B、及びFのうち、少なくとも1つをさらに含有すると好ましい。特に、セラミック材料は、MgO、BaO、及びZnOのうち、少なくとも1つを含有すると好ましい。また、セラミック材料は、B及びFのうち、少なくとも1つをさらに含有すると好ましい。例えば、第1の形態において、本発明のセラミック材料は、SiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、BaO、及びFを含有することができる。第2の形態において、本発明のセラミック材料は、SiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、ZnO、及びBを含有することができる。第3の形態において、本発明のセラミック材料は、SiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFを含有することができる。なお、本開示において、0mol%とは、当該成分が実質的に含有していないこと、例えば、作用効果を奏するような量が添加されていないことを意味する。
【0035】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、SiOの含有率は69mol%以上であると好ましく、70mol%以上であるとより好ましく、72mol%以上であるとより好ましく、73mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が69mol%以上であると、セラミック材料の骨格を形成させ、耐溶解性を向上させることができる。また、SiOの含有率は76mol%以下であると好ましく、75mol%以下であるとより好ましく、74mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が76mol%以下であると、熔融温度の上昇を抑制することができる。
【0036】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、Alの含有率は3mol%以上であると好ましく、3.6mol%以上であるとより好ましく、4mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が3mol%以上であると、セラミック材料の骨格を形成させ、強度を高めることができる。また、Alの含有率は7mol%以下であると好ましく、6mol%以下であるとより好ましく、5mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が7mol%以下であると、熔融温度の上昇を抑制することができる。
【0037】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、LiOの含有率は0.3mol%以上であると好ましく、0.7mol%以上であるとより好ましく、0.8mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が0.3mol%以上であると、セラミック材料の焼成温度を下げることができる。また、LiOの含有率は2mol%以下であると好ましく、1.8mol%以下であるとより好ましく、1.6mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が2mol%以下であると、溶解性の低下を抑制することができる。
【0038】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、NaOの含有率は3mol%以上であると好ましく、4mol%以上であるとより好ましく、5mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が3mol%以上であると、セラミック材料の焼成温度を下げることができる。また、NaOの含有率は8mol%以下であると好ましく、7mol%以下であるとより好ましく、6mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が8mol%以下であると、溶解性の低下を抑制することができる。
【0039】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、KOの含有率は3mol%以上であると好ましく、4mol%以上であるとより好ましく、5mol%以上であるとさらに好ましい。NaOと併用することにより、含有率が3mol%以上であると、セラミック材料の焼成温度を下げることができる。また、KOの含有率は7mol%以下であると好ましく、6.5mol%以下であるとより好ましく、6mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が7mol%以下であると、不要な結晶の析出を抑制することができる。
【0040】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、CaOの含有率は0.7mol%以上であると好ましく、0.9mol%以上であるとより好ましく、1mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が0.7mol%以上であると、溶解性の低下を抑制することができる。また、CaOの含有率は2mol%以下であると好ましく、1.9mol%以下であるとより好ましく、1.4mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が2mol%以下であると、セラミック材料の焼成温度を下げることができる。
【0041】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、CeOの含有率は0.2mol%以上であると好ましく、0.3mol%以上であるとより好ましく、0.4mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が0.2mol%以上であると、熔融時のセラミック材料の安定性を高めることができる。また、CeOの含有率は1mol%以下であると好ましく、0.9mol%以下であるとより好ましく、0.8mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が1mol%以下であると、セラミック材料への着色を抑制することができる。
【0042】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、MgOの含有率は0mol%以上であると好ましく、0.1mol%以上であるとより好ましく、0.3mol%以上であるとさらに好ましい。CaOと併用することにより、含有率が0.1mol%以上であると、溶解性の低下を抑制することができる。また、MgOの含有率は1mol%以下であると好ましく、0.6mol%以下であるとより好ましく、0.4mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が1mol%以下であると、セラミック材料の焼成温度を下げることができる。
【0043】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、BaOの含有率は0mol%以上であると好ましく、0.7mol%以上であるとより好ましく、1mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が0.7mol%以上であると、光沢を高めることができる。また、BaOの含有率は3mol%以下であると好ましく、3.2mol%以下であるとより好ましく、2mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が3mol%以下であると、セラミック材料への着色を抑制することができる。
【0044】
本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、ZnOの含有率は0mol%以上であると好ましく、0.2mol%以上であるとより好ましく、0.3mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が0.2mol%以上であると、光沢を高めることができる。また、ZnOの含有率は1mol%以下であると好ましく、0.8mol%以下であるとより好ましく、0.6mol%以下であるとさらに好ましい。含有率が1mol%以下であると、不透明化を抑制することができる。
【0045】
本発明のセラミック材料が、BとFのうち、Fを実質的に含有せず、Bを含有する場合、本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、Bの含有率は、1mol%以上であると好ましく、2.5mol%以上であるとより好ましく、4mol%以上、7mol%以上、又は11mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が2.5mol%以上であると、焼結温度を下げることができると共に、透明度を高めることができる。また、Bの含有率は14mol%以下であると好ましく、12mol%以下であるとより好ましい。含有率が14mol%以下であると、溶解性の上昇を抑制することができる。
【0046】
本発明のセラミック材料が、BとFのうち、Bを実質的に含有せず、Fを含有する場合、本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、Fの含有率は、0.5mol%以上であると好ましく、2.5mol%以上であるとより好ましく、3.2mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が2.5mol%以上であると、透明度を高めることができると共に、焼結温度を低下させることができる。また、セラミック材料の基材への付着性を向上させることができる。また、Fの含有率は7.9mol%以下であると好ましく、7.3mol%以下であるとより好ましい。含有率が7.9mol%以下であると、熱膨張係数をジルコニアの熱膨張係数に合わせることができると共に、破壊靭性の低下を抑制することができる。
【0047】
本発明のセラミック材料が、BとFの両方を含有する場合、本発明のセラミック材料中のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを100mol%としたとき、セラミック材料中において、BとFの合計molは、2mol%以上であると好ましく、4mol%以上であるとより好ましく、9mol%以上であるとさらに好ましい。含有率が2mol%以上であると、透明度を高めることができると共に、焼結温度を低下させることができる。また、セラミック材料の基材への付着性を向上させることができる。また、BとFの合計molは、18mol%以下であると好ましく、15mol%以下、12mol%以下又は10mol%以下であるとより好ましい。含有率が18mol%以下であると、溶解性の上昇を抑制することができると共に、破壊靭性の低下を抑制することができる。Bの含有率は0.5mol%以上であると好ましく、1.5mol%以上であるとより好ましい。また、Bの含有率は14mol%以下であると好ましく、12mol%以下であるとより好ましく、10mol%以下又は7mol%以下であるとさらに好ましい。Fの含有率は0.5mol%以上であると好ましく、1.5mol%以上であるとより好ましく、3mol%以上又は5mol%以上であるとさらに好ましい。また、Fの含有率は6.5mol%以下であると好ましく、6mol%以下であるとより好ましい。
【0048】
例えば、上述の第1の形態において、本発明のセラミック材料は、70.3mol%〜70.6mol%のSiO、4.8mol%〜6.6mol%のAl、0.9mol%〜1.2mol%のLiO、5.0mol%〜5.7mol%のNaO、6.0mol%〜6.6mol%のKO、1.3mol%〜2.0mol%のCaO、0.5mol%〜1.0mol%のCeO、2.1mol%〜3.3mol%のBaO、及び4.7mol%〜7.4mol%のFを含有することができる。
【0049】
例えば、上述の第2の形態において、本発明のセラミック材料は、73.7mol%〜75.6mol%のSiO、3.8mol%〜4.9mol%のAl、0.2mol%〜1.4mol%のLiO、3.7mol%〜7.4mol%のNaO、3.0mol%〜5.3mol%のKO、0.8mol%〜1.2mol%のCaO、0.5mol%〜1.0mol%のCeO、0.1mol%〜0.7mol%のMgO、0.2mol%〜0.9mol%のZnO、及び4.7mol%〜12mol%のBを含有することができる。
【0050】
例えば、上述の第3の形態において、本発明のセラミック材料は、69.7mol%〜75.1mol%のSiO、3.2mol%〜4.1mol%のAl、1.0mol%〜2.1mol%のLiO、4.8mol%〜8.0mol%のNaO、3.3mol%〜6.7mol%のKO、0.6mol%〜1.2mol%のCaO、0.1mol%〜0.6mol%のCeO、0.1mol%〜0.4mol%のMgO、0.6mol%〜2.5mol%のBaO、0.1mol%〜0.8mol%のZnO、1.4mol%〜9.7mol%のB、及び0.4mol%〜5.3mol%のF、を含有することができる。
【0051】
セラミック材料は、上記以外の成分を含んでもよい。例えば、セラミック材料は、顔料、蛍光顔料及び不透明剤(乳白剤)のうちの少なくとも1つをさらに含有することもできる。顔料は、上記組成に影響しない程度に添加することができる。顔料、蛍光顔料及び不透明剤(乳白剤)のうちの少なくとも1つは、セラミック材料と固溶しなくてもよい。顔料又は蛍光顔料としては、例えば、P、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErの群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物を利用することができる。不透明剤としては、例えば、TiO、ZrO、ZrSiO、SnO及びCeOの群から選択される少なくとも1つの化合物を利用することができる。セラミック材料に添加される顔料、蛍光顔料及び不透明剤は、1つの化合物であってもよいし、複数の化合物であってもよい。顔料は外添加にてガラスセラミック材料100mol%に対して12mol%まで含有することが可能である。
【0052】
セラミック材料におけるSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO及びMgOの含有率は、例えば、蛍光X線分析法によって測定することができる。CeO、BaO、ZnO、及びBの含有率は、例えば、フッ酸に溶解した溶液を作製して、ICP(高周波誘導結合プラズマ:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法を用いて測定することができる。LiOの含有率は、例えば、原子吸光光度法を用いて測定することができる。Fの含有率は、例えば、吸光光度法を用いて測定することができる。吸光光度法はJISK0102.34.1ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法に準拠することができる。
【0053】
本発明のセラミック材料は高い耐酸性を有すると好ましい。例えば、ISO(国際標準化機構;International Organization for Standardization)6872、「Dentistry-ceramic materials」(2008年)に準拠して測定した溶解量が100μg/cm以下であると好ましく、85μg/cm以下であるとより好ましく、80μg/cm以下であるとさらに好ましい。セラミック材料の溶解量はJDMAS(日本歯科材料工業共同組合規格;Japan Dental Material Manufacturers Association Standards)222、「歯科用セラミック材料」(2010年)に準拠して測定してもよい。本発明のセラミック材料は、高い耐酸性を有しているので、酸性条件下で使用する製品に適用することができる。例えば、歯科材料では、実用上、溶解量が100μg/cm以下の耐酸性が要求されているが、本発明のセラミック材料はこの要件を満たすことができる。
【0054】
本発明のセラミック材料は、ジルコニア焼結体フレームに被覆された状態において、口腔内の咬み合わせに耐え得る強度を有すると好ましい。例えば、JISR1607(2015)に準拠して測定されたIF(Indentation Fracture)に基づく破壊靭性値が、1.00MPa・m1/2以上であると好ましく、1.03MPa・m1/2以上であるとより好ましく、1.08MPa・m1/2以上であるとさらに好ましい。上記破壊靭性は、強度を高めるための補助材料を含有させなくとも得ることができる。
【0055】
本発明のセラミック材料は高い透明度を有すると好ましい。セラミック材料の透明度は、後述する基材の透明度よりも高いと好ましい。セラミック材料の透明度は、以下に説明するΔLで表記することができる。ΔLが大きければセラミック材料の透明度が高いことを示し、ΔLが小さければセラミック材料の透明度が低いことを示す。セラミック材料のΔL(「ΔL」と表記する)は、セラミック材料の厚さが500μmであるとき、55以上であると好ましく、58以上であるとより好ましく、61以上であるとより好ましく、62以上であるとさらに好ましい。なお、ΔLは、セラミック材料が着色剤、蛍光剤及び不透明剤を含有していないときの値である。
【0056】
上述のΔLについて説明する。基材及び歯科用製品の透明度(透明感)は、L表色系(JISZ8729)における色度(色空間)のL値を用いて表すことができる。色度の測定方法は、後述する図3に示される。試料の背景(下敷き)を白色にして(試料に対して測定装置と反対側を白色にして)波長700nmの光で測定したL表色系のL値を第1のL値とする。第1のL値を測定した同一の試料について、試料の背景(下敷き)を黒色にして(試料に対して測定装置と反対側を黒色にして)波長700nmの光で測定したL表色系のL値を第2のL値とする。本開示においては、第1のL値と第2のL値との差(第1のL値から第2のL値を控除した値)をΔLと表記する。色度測定の際に背景(下敷き)とする黒色及び白色は、塗料に関する測定に使用する隠ぺい率測定用紙を使用することができる。波長700nmの光を使用しているのは、波長700nmの光は、口腔内の目視条件に最も近い光であると考えられるからである。
【0057】
セラミック材料の製造方法について説明する。まず、所望の組成を有するように、Si元素、Al元素、K元素、Li元素、Na元素、K元素、Ca元素、Ce元素、Mg元素、Ba元素、Zn元素、B元素、及びF元素を含有する各化合物を混合して原料混合物を作製する。ガラス原料は、SiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及び加熱分解してFを生成する化合物(例えばAlF又はBaF)を含有すると好ましい。以下の原料混合物中のF、Al及びBaOの含有率は、フッ素化合物より加熱分解後のmolに換算した含有率である。
【0058】
各成分の含有率は、原料混合物中、SiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、B、及びFの合計molを基本とすると、SiOの含有率は66mol%以上であると好ましく、68mol%以上であるとより好ましく、69mol%以上であるとさらに好ましい。また、SiOの含有率は75mol%以下であると好ましく、74.5mol%以下であるとより好ましく、74mol%以下であるとさらに好ましい。
【0059】
同様にして、Alの含有率は3mol%以上であると好ましく、3.3mol%以上であるとより好ましく、4mol%以上であるとさらに好ましい。また、Alの含有率は7mol%以下であると好ましく、6mol%以下であるとより好ましく、5mol%以下であるとさらに好ましい。
【0060】
同様にして、LiOの含有率は0.3mol%以上であると好ましく、0.8mol%以上であるとより好ましく、1mol%以上であるとさらに好ましい。また、LiOの含有率は2mol%以下であると好ましく、1.8mol%以下であるとより好ましく、1.7mol%以下であるとさらに好ましい。
【0061】
同様にして、NaOの含有率は4mol%以上であると好ましく、4.5mol%以上であるとより好ましく、5mol%以上であるとさらに好ましい。また、NaOの含有率は8mol%以下であると好ましく、7.5mol%以下であるとより好ましく、7mol%以下であるとさらに好ましい。
【0062】
同様にして、KOの含有率は3mol%以上であると好ましく、4.5mol%以上であるとより好ましく、5mol%以上であるとさらに好ましい。また、KOの含有率は6.5mol%以下であると好ましく、6mol%以下であるとより好ましく、5.5mol%以下であるとさらに好ましい。
【0063】
同様にして、CaOの含有率は0.8mol%以上であると好ましく、0.9mol%以上であるとより好ましく、1mol%以上であるとさらに好ましい。また、CaOの含有率は2.2mol%以下であると好ましく、1.8mol%以下であるとより好ましく、1.6mol%以下であるとさらに好ましい。
【0064】
同様にして、CeOの含有率は0.5mol%以上であると好ましく、0.6mol%以上であるとより好ましく、0.7mol%以上であるとさらに好ましい。また、CeOの含有率は1mol%以下であると好ましく、0.9mol%以下であるとより好ましく、0.8mol%以下であるとさらに好ましい。
【0065】
同様にして、MgOの含有率は0mol%以上であると好ましく、0.1mol%以上であるとより好ましく、0.2mol%以上であるとさらに好ましい。また、MgOの含有率は1mol%以下であると好ましく、0.6mol%以下であるとより好ましく、0.4mol%以下であるとさらに好ましい。
【0066】
同様にして、BaOの含有率は0mol%以上であると好ましく、1mol%以上であるとより好ましく、1.2mol%以上であるとさらに好ましい。また、BaOの含有率は3mol%以下であると好ましく、2.5mol%以下であるとより好ましく、2mol%以下であるとさらに好ましい。
【0067】
同様にして、ZnOの含有率は0mol%以上であると好ましく、0.3mol%以上であるとより好ましく、0.5mol%以上であるとさらに好ましい。また、ZnOの含有率は1mol%以下であると好ましく、0.8mol%以下であるとより好ましく、0.6mol%以下であるとさらに好ましい。
【0068】
同様にして、Bの含有率は0mol%以上であると好ましく、1mol%以上であるとより好ましく、3mol%以上であるとさらに好ましい。また、Bの含有率は13mol%以下であると好ましく、12mol%以下であるとより好ましく、9mol%以下であるとさらに好ましい。
【0069】
同様にして、Fの含有率は0mol%以上であると好ましく、1mol%以上であるとより好ましく、3mol%以上であるとさらに好ましい。また、Fの含有率は12mol%以下であると好ましく、9mol%以下であるとより好ましく、8mol%以下であるとさらに好ましい。
【0070】
原料混合物中において、BとFの合計molは、2mol%以上であると好ましく、4mol%以上であるとより好ましく、5mol%以上であるとさらに好ましい。また、BとFの合計molは、15mol%以下であると好ましく、12mol%以下であるとより好ましく、10mol%以下であるとさらに好ましい。
【0071】
なお、原料混合物の組成は、上記化合物に限定されることはなく、目的の組成が得られるのであれば、各元素の炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、フッ化物等を使用することができる。この場合には、上記質量バランスは、使用する化合物に応じて適宜変更する。原料混合物は、ボールミルを用いて混合することができる。
【0072】
セラミック材料においては、原料のSiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、及びBは、それぞれ、SiO、Al、LiO、NaO、KO、CaO、CeO、MgO、BaO、ZnO、及びBとして検出される。F成分の一部は熔融工程において揮散してしまう。
【0073】
原料混合物には、着色剤、蛍光剤、不透明剤等を化合物として、外添加にて原料混合物100mol%に対して12mol%以下の範囲で添加することもできる。着色剤としては、例えば、P、Ag、Au、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Sn、Ta、Pr、Sm、Eu、Tb、Erの酸化物が挙げられる。
【0074】
次に、この原料混合物を加熱して熔解する。熔解条件は、例えば、1400℃〜1500℃で2時間〜6時間とすることができる。次に、熔融体を冷却後、カレット化し、さらにカレットをボールミルを用いて粉砕する。次に、粉砕物を例えば#200メッシュの篩を通過させ、ふるい分けする。これによって、セラミック材料の粉末を作製することができる。
【0075】
本発明のセラミック材料によれば、透明度及び光沢性を高めた歯科用製品を作製することができる。例えば、本発明のセラミック材料は、ジルコニア焼結体上に焼き付ければ、ジルコニア焼結体単体よりも透明度及び光沢性を高めることができる。また、本発明のセラミック材料は、口腔環境に耐え得る耐酸性及び強度を有することができる。
【0076】
次に、本発明の歯科用製品について説明する。歯科用製品とは、例えば、補綴物、歯列矯正用製品、インプラント用製品である。図1に、第1実施形態に係る歯科用製品の概略断面図を示す。歯科用製品10は、基材1と、基材1の少なくとも一部に配された少なくとも1つの陶材層2と、を備える。基材1は、例えば、フレームと呼ばれるものである。図1に示す基材1は、患者の支台歯を被覆する被覆冠としての形態を有する。陶材層2は、基材1の表面のうち、口腔内への露出面の少なくとも一部に配すると好ましい。陶材層2は、当該露出面とは反対側の面、例えば支台歯側の面、の少なくとも一部に配することもできる。図2に、第2実施形態に係る歯科用製品の概略断面図を示す。図2に示す形態においては、歯科用製品20は、基材1の両面に陶材層2を有している。陶材層2と基材1とは、物理的に接着していると好ましい。
【0077】
基材1としては、例えば、ジルコニア焼結体を使用することができる。以下において、基材1にジルコニア焼結体を用いる場合について説明する。
【0078】
ジルコニア焼結体は、主として、ジルコニア結晶粒子が焼結されたものである。ジルコニア焼結体は、酸化ジルコニウム(ZrO;ジルコニア)及びその安定化剤を含有することができる。ジルコニア焼結体は、好ましくは、部分安定化ジルコニア及び完全安定化ジルコニアの少なくとも一方をマトリックス相として有する。ジルコニア焼結体において、ジルコニアの主たる結晶相は正方晶及び立方晶の少なくとも一方である。ジルコニアは、正方晶及び立方晶の両方を含有してもよい。ジルコニア焼結体は単斜晶を実質的に含有しないと好ましい。なお、安定化剤を添加して部分的に安定化させたジルコニアは、部分安定化ジルコニア(PSZ;Partially Stabilized Zirconia)と呼ばれ、完全に安定化させたジルコニアは完全安定化ジルコニアと呼ばれている。
【0079】
ジルコニア焼結体には、成形したジルコニア粒子を常圧下ないし非加圧下において焼結させた焼結体のみならず、HIP(Hot Isostatic Pressing;熱間静水等方圧プレス)処理等の高温加圧処理によって緻密化させた焼結体も含まれる。
【0080】
安定化剤としては、例えば、酸化イットリウム(Y)(以下、「イットリア」という。)、酸化チタン(チタニア;TiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(マグネシア;MgO)、スピネル(MgO・Al)、酸化セリウム(セリア;CeO)、(B)・Al)、酸化ランタン(La)等の酸化物の少なくとも1つが挙げられる。特に、安定化剤としてイットリアが好ましい。イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、2mol%〜6mol%であると好ましく、3mol%〜6mol%であるとより好ましい。この含有率によれば、単斜晶への相転移を抑制すると共に、ジルコニア焼結体の透明性を高めることができる。
【0081】
ジルコニア焼結体が酸化チタンをさらに含有する場合、酸化チタンの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計molに対して、1mol%以下であると好ましい。ジルコニア焼結体が酸化カルシウムをさらに含有する場合、酸化カルシウムの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計molに対して、1mol%以下であると好ましく、0.3mol%以下であるとより好ましい。ジルコニア焼結体が酸化マグネシウムをさらに含有する場合、酸化マグネシウムの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計molに対して、1mol%以下であると好ましく、0.3mol%以下であるとより好ましい。ジルコニア焼結体がスピネルをさらに含有する場合、スピネルの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計molに対して、1mol%以下であると好ましく、0.3mol%以下であるとより好ましい。ジルコニア焼結体が酸化セリウムをさらに含有する場合、酸化セリウムの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計molに対して、1mol%以下であると好ましく、0.3mol%以下であるとより好ましい。
【0082】
ジルコニア焼結体中の安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。
【0083】
基材1の形状及び大きさ(寸法)は、用途、患者の口腔環境等に応じて適宜選択することができる。
【0084】
陶材層2は、上述の本発明のセラミック材料を含有する。陶材層2は、好ましくは、本発明のセラミック材料から構成される。
【0085】
歯科用製品10は、異なる組成を有する複数の陶材層2を有することができる。例えば、複数の陶材層2は、それぞれ異なる着色剤を含有することができる。複数の陶材層2は、基材1上にて積層させることができる。なお、以下の陶材層2の透明度に関する説明においては、陶材層2に着色剤等が添加されていない形態について説明する。
【0086】
基材1上における陶材層2の厚さは、15μm以上であると好ましく、30μm以上であるとより好ましい。陶材層2の厚さは、80μm以下であると好ましく、75μm以下であるとより好ましく、45μm以下であるとさらに好ましい。陶材層2の厚さは、最も厚い部分の厚さであると好ましい。陶材層の厚さが120μmを超えると、陶材層2を有さない基材1よりも透明度が低くなることが多くなると考えられる。
【0087】
陶材層2側から見た歯科用製品の透明度は、基材1単体の透明度よりも高いと好ましい。また、陶材層2側から見た歯科用製品の光沢は、基材1単体の光沢よりもあると好ましい。歯科用製品10の透明度は、上述のΔLで表記することができる。ΔLが大きければ歯科用製品10の透明度が高いことを示し、ΔLが小さければ歯科用製品10の透明度が低いことを示す。基材1が、6mol%のイットリアを含有する厚さ1.2mmのジルコニア焼結体であり、陶材層2の厚さが30μmであるとき、基材単体のΔL(「ΔL」と表記する)に対する歯科用製品のΔL(「ΔL」と表記する)の変動率は、0.3%以上であると好ましく、2%以上であるとより好ましく、3%以上であるとより好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとさらに好ましい。なお、ΔL及びΔLは、基材1及びセラミック材料2が着色剤、蛍光剤及び不透明剤を含有していないときの値である。また、ΔLは、陶材層2が基材1の測定装置21側の面に形成されているときの値である。
【0088】
図3に、色度(色空間)の測定方法を説明するための概略図を示す。歯科用製品10の色度を測定する際には、陶材層2側の面を測定装置21に向ける。白色又は黒色の下敷き22は、基材1の下に配する。ΔLとΔLを比較することにより、基材1にセラミック材料2を設けることによって透明度がどのように変化したのかを知ることができる。上述のΔL対するΔLの変動率は以下の式から算出することができる。
[ΔLの変動率]=(ΔL−ΔL)/ΔL×100
【0089】
図3においては、歯科用製品10の色度の測定方法を図示しているが、基材1単体及びセラミック材料(陶材層2)単体の色度の測定方法も同様である。
【0090】
次に、歯科用製品10の製造方法について説明する。まず、所定の形状及び寸法を有する基材1を作製する。例えば、公知の方法を用いて上述のジルコニア焼結体で患者の歯科用補綴物(人工歯)を作製する。本発明のセラミック材料の組成物(粉末)を溶媒に分散させてスラリーを作製する。溶媒としては、水、有機溶媒等を使用することができる。有機溶媒としては、例えば、2−フェノキシエタノール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセリン等を使用することができる。次に、セラミック材料のスラリーを基材1に塗布する。塗布は、例えば、筆を用いて行うことができる。スラリーを塗布する基材1の領域は、患者の口腔環境に応じて適宜選択することができる。スラリーを塗布する領域は、口腔内に露出する領域であると好ましい。スラリーを塗布する領域は、支台歯に面する領域であってもよい。次に、スラリーを塗布した基材1を、セラミック材料に応じた温度で焼成して、セラミック材料を基材1に焼き付ける。焼成条件は、例えば、大気圧下において750℃〜880℃で1分間とすることができる。複数の陶材層2を形成する場合には、セラミック材料の塗布及び焼き付け工程を繰り返すことができる。これによって、本発明の歯科用製品10を製造することができる。
【0091】
本発明の歯科用製品は、基材単体の場合よりも透明度を高めることができる。また、本発明の歯科用製品は、基材単体よりも高い光沢性を有することができる。これにより、本発明の歯科用製品は、基材単体よりも、より天然歯に近い外観を有することができる。また、本発明の歯科用製品は、陶材層によって、口腔環境に対する耐酸性及び咀嚼行為に対する機械的強度を有することができる。
【実施例】
【0092】
[実施例1〜9及び比較例1〜7]
[セラミック材料の組成、並びに歯科用製品の透明度及び光沢について]
本発明の歯科用製品に相当する試料を作製して、ΔLの変動率を測定した。まず、安定化剤としてイットリアを6mol%含有するジルコニア粉末を直径約18mmの円柱状金型に、焼結後の基材の厚みが1.2mmとなるようにジルコニア粉末を入れた。次に、ジルコニア粉末を30kNで成形した後、170MPaでCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を1分間施して成形物を作製した。次に、SKメディカル社製焼成炉F1を使用して当該組成物を1550℃で2時間焼成して、基材となるジルコニア焼結体を作製した。次に、50μmのアルミナ粒子を用いて0.2MPaの圧力で基材の一方の面をサンドブラスト処理して、基材上にセラミック材料を形成するための前準備を行った。このサンドブラスト処理によって、処理面はつや消し状態となった。次に、アセトン中で基材を超音波洗浄した後、乾燥させた。
【0093】
各基材について色度を測定した。色度測定機(KONIKA MINOLTA社製SPECTROPHOTOMETER CM−3610A)及び解析ソフト(Spectra Magic NX)を用いて、波長700nmの光で上述の第1のL値及び第2のL値を測定し、第1のL値と第2のL値の差であるΔLを算出した。黒色及び白色の背景(下敷き)には、塗料に関する測定に使用する隠ぺい率測定用紙を使用した。測定結果を表4に示す。
【0094】
次に、基材上に、本発明のセラミック材料を陶材層として焼き付けて歯科用製品に相当する試料を作製した。セラミック材料の粉末と1,3−ブタンジオールとを混合してスラリーを作製した。基材の一方の円形面に、当該スラリーを筆で、焼き付け後のセラミック材料の厚さが約30μmとなるように塗布した。乾燥後、750℃〜880℃(後述の適正焼結温度)で焼成して、セラミック材料を基材に焼き付けて歯科用製品に相当する試料を作製した。試料におけるセラミック材料の厚さを表4に示す。
【0095】
作製したセラミック材料の組成分析を行った。表1及び表2に、各実施例におけるセラミック材料の組成の分析結果を示す。表3には、比較例1〜6として、フッ素及びホウ素の含有率が異なるセラミック材料の組成の分析結果を示す。セラミック材料の組成は、SiO、Al、NaO、KO、CaO及びMgOについては、測定試料をガラスビードにして、リガク社製蛍光X線分析装置(ZSX100e)を用いて検量線法にて測定した。CeO、BaO、ZnO、及びBについては、測定試料をフッ酸に溶解させた溶液を作製して、SII社製ICP発光分光分析装置(SPS3500)にて測定した。LiOについては、測定試料をフッ酸に溶解させた溶液を作製して日立製作所製原子吸光分光光度計(Z−5310)にて測定した。Fについては、測定試料をアルカリ溶融させ、蒸留し、吸光光度法を用いて測定した。蒸留操作及び吸光光度法はJISK0102.34.1ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法に準拠した。
【0096】
各歯科用製品について、基材のΔLと同様の測定方法でΔLを測定した。測定結果を表4に示す。また、比較例7として、本発明のセラミック材料を塗布せずに、基材のみを焼成した場合のΔLも測定した。表5に測定結果を示す。表4及び表5の変動率は、上述の計算式に基づいて算出した。実施例1〜9及び比較例1〜6の変動率に対するセラミック材料の厚さのばらつきによる影響はないものとする。また、目視により、歯科用製品のセラミック材料側から見た光沢及び焼成外観についても確認した。
【0097】
[適正焼結温度について]
表1〜3に示す組成のセラミック材料について、異なる焼成温度でセラミック材料の焼結体の作製を行うことによって、セラミック材料を作製するための適正焼結温度(1分間保持する温度)を決定した。表6に、実施例1〜9及び比較例1〜6の適正焼結温度を示す。
【0098】
[透明度について]
表1〜3に示す組成のセラミック材料の焼結体の透明度を測定した。本発明のセラミック材料の粉末を精製水と混合してスラリーを作製した。当該を金型に流し込み、スラリーの水を吸水することによってコイン形の成形体を作製した。当該成形体を上記適正焼結温度で焼成して試料となる焼結体を作製した。直径16mmの焼結体は、厚み0.5mmに寸法調整された後に、最終仕上げとして焼結体の両面を2000番のサンドペーパーで研磨処理した。各焼結体について、上述の方法でΔLを測定した。表6に、実施例1〜9及び比較例1〜6のΔLを示す。
【0099】
[熱膨張係数について]
表1〜3に示す組成のセラミック材料について、ISO6872(2008)に準拠して熱膨張係数を測定した。解析温度範囲は25℃〜500℃とした。試料となるセラミック材料の焼結体は、上記適正焼結温度で焼成して作製した。表6に、実施例1〜9及び比較例1〜6の熱膨張係数を示す。
【0100】
[耐酸性について]
表1〜3に示す組成のセラミック材料について、ISO6872(2008)に準拠して酸に対する溶解量を測定した耐酸性を測定した。試料となるセラミック材料の焼結体は、上記適正焼結温度で焼成して作製した。表6に、実施例1〜9及び比較例1〜6の溶解量を示す。
【0101】
[破壊靭性について]
表1〜3に示す組成のセラミック材料について、JISR1607(2010)に準拠してIF法による破壊靭性を測定した。試験荷重は49Nとした。破壊靭性を測定することにより、歯科用陶材として十分な耐久性を有するかを確認することができる。試料となるセラミック材料の焼結体は、上記適正焼結温度で焼成して作製した。試料の厚さは、6mmとした。表6に、実施例1〜9及び比較例1〜6の破壊靭性を示す。
[結果について]
【0102】
比較例7においては、変動率は低下した。これは、基材の焼成によって透明性が低下したため、及びセラミック材料が存在しないためにΔLの改善がなかったためと考えられる。実施例1〜9及び比較例1〜6においては、変動率の上昇が見られた。しかしながら、比較例1、2及び4においては、変動率の上昇が3.2%以下と低かった。これは、フッ素又は酸化ホウ素の含有率が低かった(2mol%未満であった)ためと考えられる。一方、実施例6においては、フッ素及び酸化ホウ素のそれぞれの含有率が低くても(2mol%未満であっても)、フッ素及び酸化ホウ素の合計molが2mol%以上である場合には、変動率は5%以上と改善がみられた。これより、フッ素及び酸化ホウ素のうちのいずれかを含有する場合には、その含有率は2mol%以上であると好ましいと考えられる。フッ素及び酸化ホウ素の両方が含有する場合には、いずれかの含有率が2mol%未満であっても、合計molが2mol%であればΔLの改善は見られると考えられる。
【0103】
図4に、実施例1及び2並びに比較例2及び3に基づくFの含有率とΔLの変動率との相関を示すグラフを示す。実施例1及び2並びに比較例2及び3においては、セラミック材料は、F及びBのうち、Fを含有するが、Bを実質的に含有していない。図4を見ると、Fの含有率とΔLの変動率とは比例的な関係にあることが分かる。図4によれば、変動率を3.5%以上とする場合には、Fの含有率を3.2mol%以上にすればよいことが読み取れる。
【0104】
図5に、実施例3〜5及び比較例4及び5に基づくBの含有率とΔLの変動率との相関を示すグラフを示す。実施例3〜5及び比較例4及び5においては、セラミック材料は、F及びBのうち、Bを含有するが、Fを実質的に含有していない。図5を見ると、Bの含有率が2mol%から5mol%にかけてΔLの変動率が上昇し、5mol%以上においてはΔLの変動率はほぼ一定であることが読み取れる。図5によれば、変動率を3.5%以上とする場合には、Bの含有率を2.5mol%以上にすればよいことが読み取れる。
【0105】
図6に、実施例6〜9及び比較例6に基づくF及びBの含有率合計とΔLの変動率との相関を示すグラフを示す。実施例6〜9及び比較例6においては、セラミック材料は、F及びBの両方を含有する。図6を見ると、F及びBの含有率合計が2mol%以上であると、ΔLの変動率が5%以上と高い値で推移していることが読み取れる。図6によれば、変動率を3.5%以上とする場合には、F及びBの含有率合計は2mol%未満であってもよい可能性があることが読み取れる。
【0106】
実施例1〜9及び比較例1〜6の歯科用製品に相当する試料については、いずれも光沢が確認された。比較例7の試料については、焼成前と変化はなく、光沢は得られなかった。
【0107】
比較例3以外においては、外観に異常は確認できなかった。しかしながら、比較例3においては、ジルコニア焼結体(基材)とセラミック材料との界面において剥離が発生した。この剥離は、セラミック材料の熱膨張係数がジルコニア焼結体の熱膨張係数(9.7×10−6−1〜10.4×10−6−1)に対して大きすぎたために生じたものと考えられる。したがって、基材にジルコニア焼結体を用いる場合、セラミック材料の熱膨張係数は、11.2×10−6−1未満が好ましいと考えられる。また、セラミック材料の熱膨張係数は、7×10−6−1以上であれば、ジルコニア焼結体との界面に問題は生じないと考えられる。本発明のセラミック材料は、ジルコニアフレームに代表する基材に組み合わせる材料として好適に適用可能であることがわかる。
【0108】
実施例1〜9及び比較例1〜6において、セラミック材料の透明度(ΔL)は、50以上が得られた。この数値は、ジルコニア焼結体の値を上回る。したがって、実施例1〜9のセラミック材料は、適正な透明度を持っており、ジルコニアフレームに代表する基材に組み合わせる材料として好適に適用可能であることがわかる。
【0109】
各実施例の溶解量は11μg/cm〜85μg/cmを示した。これに対し、比較例5及び6においては、酸に対する溶解量は、100μg/cm以上となった。溶解量が100μg/cmを超えると、歯科用製品の材料として使用することは好ましくない。したがって、本発明のセラミック材料は、ジルコニアフレームに代表する基材に組み合わせる材料として好適に適用可能であることがわかる。
【0110】
各実施例の破壊靭性は1MPam1/2以上の値を得ることができた。これに対し、比較例3では0.91MPam1/2と1MPam1/2の値に至らなかった。1MPam1/2以上の破壊靭性を有していれば、歯科用製品の材料として好適に使用することができると考えられる。したがって、本発明のセラミック材料は、ジルコニアフレームに代表する基材に組み合わせる材料として好適に適用可能であることがわかる。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
【表6】
【0117】
[実施例10〜14及び比較例8〜13]
歯科用製品におけるセラミック材料の厚さによるΔLの変動率への影響について試験した。セラミック材料の厚さの異なる歯科用製品の試料を作製し、各試料の色度を測定して変動率を算出した。セラミック材料の厚さ以外の歯科用製品の作製方法及び色度の測定方法は上記実施例と同じである。セラミック材料の組成は、実施例9と同じである。表7に、測定結果を示す。
【0118】
セラミック材料の厚さが15μm〜75μmであるとき、変動率が3.5%以上となった。実施例10〜14の歯科用製品の透明度が高まったことは目視でも確認できた。したがって、変動率が3.5%以上であれば、基材に対して、歯科用製品に十分な透明度を付加することができると考えられる。図7に、セラミック材料の厚さと変動率の相関関係を示すグラフを示す。図7に示すグラフより、セラミック材料の厚さが15μm〜80μmであるとき、3.5%以上の変動率が得られると考えられる。
【0119】
【表7】
【0120】
[実施例15〜17]
歯科用製品における基材中の安定化剤の含有率によるΔLの変動率への影響について試験した。安定化剤の含有率の異なる歯科用製品の試料を作製し、各試料の色度を測定して変動率を算出した。安定化剤の含有率以外の歯科用製品の作製方法及び色度の測定方法は上記実施例と同じである。基材の安定化剤として、イットリアを使用した。セラミック材料の組成は実施例9と同一とした。セラミック材料の厚さは30μmとした。表8に、測定結果を示す。
【0121】
いずれの含有率であっても変動率の改善が見られた。これより、セラミック材料による透明度の改善に、基材の安定化剤含有率は影響しないものと考えられる。なお、実施例15〜17において変動率は変化しているが、これは、イットリア含有率の変化によって生じたジルコニア自体の透明性の変化による影響と考えられる。
【0122】
【表8】
【0123】
[実施例18]
実施例1〜17においては基材の片面にセラミック材料を有する歯科用製品を作製したが、実施例18においては基材の両面にセラミック材料を有する歯科用製品を作製して、ΔLの変動率への影響について試験した。セラミック材料の組成は実施例9と同一とした。セラミック材料の厚さは30μmとした。基材中のイットリア含有率は6mol%とした。それ以外は、実施例17と同様である。表9に、測定結果を示す。
【0124】
セラミック材料を基材の両面に形成しても変動率の改善が見られた。特に、イットリア含有率が同じで、セラミック材料を片面に形成した実施例17の変動率よりも実施例18においては変動率が高くなった。これより、セラミック材料を基材の両面に形成しても変動率の改善が見込まれるものと考えられる。
【0125】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のセラミック材料及び歯科用製品は、例えば、コーピング、フレームワーク、クラウン、クラウンブリッジ、アバットメント、インプラント、インプラントフィクスチャー、インプラントブリッジ、インプラントバー、ブラケット、義歯床、インレー、アンレー、オンレー、ラミネートベニア等の科用補綴物、歯列矯正用製品、歯科インプラント用製品等に使用することができる。
【0127】
本発明のガラスセラミック材料及び歯科用製品は、上記実施形態に基づいて説明されているが、上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができることはいうまでもない。また、本発明の請求の範囲の枠内において、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0128】
本発明のさらなる課題、目的及び展開形態は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0129】
本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0130】
1 基材
2 陶材層(セラミック材料)
10,20 歯科用製品
21 測定装置
22 下敷き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7