【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アルミニウム箔に対する粗面化処理において高い粗面化率を得るためには、立方体方位占有率を高くすることが有効であり、立方体方位占有率を高くするには、アルミニウムのAl純度を高くすればよい。さらには、アルミニウム中にREMを添加することで、立方体方位占有率を高くすることができる。
しかし、REMの添加量が増加するほどFeの析出が過剰となり、結晶粒が異常成長しやすく、粗大結晶粒の発生リスクが高くなる。粗大結晶粒が発生すると、立方体方位占有率が局所的に著しく低下する。これを防ぐには、REMの添加量はできるだけ少なくすることが必要となる。
これらを考慮すると、REM添加量が少ない材料で微量添加元素の種類及び量の調整を適切に行って高い立方体法占有率を得ることが望まれる。
【0005】
本発明は上記課題を背景としてなされたものであり、高い静電容量を得ることができる電解コンデンサ用アルミニウム箔、電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法および電解コンデンサ用電極を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔のうち、第1の形態は、質量比で、Si:5〜30ppm、Fe:5〜30ppm、Cu:30〜70ppm、Ti:0.1〜2ppm、B:0.1〜10ppm、REM:0.1〜1ppmを含有し、残部が不可避不純物と99.9%以上のAlからなる組成を有し、
前記組成において、Tiの含有量が1.0ppm≦[Ti]≦2.0ppmのときに、BおよびTiの含有量が下記式を満たすことを特徴とする。
2.214[B]≧[Ti] …(式)
【0007】
本発明の他の形態の電解コンデンサ用アルミニウム箔は、前記形態の電解コンデンサ用アルミニウム箔において、立方体方位率が97%以上である。
本発明のさらに他の形態の電解コンデンサ用アルミニウム箔は、前記形態の電解コンデンサ用アルミニウム箔において、円相当径2mm以上の異方位粒を有していないことを特徴とする。
本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法は、本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔を製造する方法であって、本発明の組成を有するアルミニウムを熱間圧延、冷間圧延した後、不活性ガス或いは水素ガスなどの還元性ガス、もしくはこれらの混合ガス雰囲気中で、保持温度300〜580℃、保持時間6〜48時間の条件の最終焼鈍を行い、その後、エッチングを行うことを特徴とする。
【0008】
本発明の他の形態の電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法は、前記形態の電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法において、前記冷間圧延の途中で、200〜300℃×2〜10時間の中間焼鈍を1回以上行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の電解コンデンサ用電極は、本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔からなる。
【0010】
以下に、本発明で規定する成分等の限定理由について説明する。なお、以下の成分量はいずれも質量比で示される。
【0011】
Si:5〜30ppm
Siの含有量が下限未満であると、純度が高くコストアップとなり、上限を超えると、立方晶率の低下および過剰溶解による静電容量が低下する。このためSiの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、下限を8ppm、上限を15ppmとするのが望ましい。
【0012】
Fe:5〜30ppm
Feの含有量が下限未満であると、純度が高くコストアップとなり、上限を超えると、立方晶率の低下および過剰溶解による静電容量が低下する。このためFeの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を8ppm、上限を15ppmとするの望ましい。
【0013】
Cu:30〜70ppm
Cuは箔の溶解性向上およびピット密度増加の作用がある。Cuの含有量が下限未満であるとその作用が十分発揮されず、上限を超えると、立方晶率の低下、また漏れ電流が増大し製品中におけるスパークのリスクが高まる。このためCuの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を40ppm、上限を60ppmとするのが望ましい。
【0014】
Ti:0.1〜2ppm
Tiはバルクの溶解性を向上させる元素である。Tiの含有量が、下限未満であるとその作用が十分発揮されず、上限を超えると立方体方位占有率が低下し、また、過剰溶解となり静電容量が低下する。このためTiの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を1ppm、上限を1.5ppmとするの望ましい。
【0015】
B:0.1〜10ppm
Bはバルクの溶解性を向上させる元素である。Bの含有量が、下限未満であるとその作用が十分発揮されず、上限を超えると過剰溶解となり静電容量が低下し、さらに立方体方位占有率が低下して静電容量が低下する。このためBの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を0.3ppm、上限を1.0ppmとするのが望ましい。
【0016】
REM:0.1〜1ppm
REMはFeの析出を促進し、バルクのアルミニウム純度を向上させ、立方体方位占有率を高める。本発明では、REMとしてはミッシュメタルや希土類金属の一つまたは複数元素を使用することができる。REMの含有量が下限未満であると作用が十分発揮されず、上限を超えると、Feの析出が過剰となり、結晶粒が異常成長しやすく、立方体方位占有率が低下する。このためREMの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由により下限を0.3ppm、上限を0.5ppmとするの望ましい。
【0017】
1.0ppm≦[Ti含有量]≦2.0ppmのとき、2.214[B含有量]≧[Ti含有量]
REM含有量の少ない材料で高い立方体占有率を得るため、上記条件を満たすことが必要になる。添加物中のTi、BからなるTiB
2化合物、および過剰なTiは、立方体方位占有率を低下させるため、TiとBの含有量の上記比を規制することで、高い立方体方位占有率を得ることができる。
上式を満たさない場合、Bに対しTiが過剰となり立方体方位占有率が低下する。また、Tiが上限を超えると、上式を満たしていても、Ti、もしくはTiB
2が過剰となり立方体方位占有率が低下する。このためTiおよびBの含有量の上記比を上記関係に定める。
【0018】
図1は、TiとBとの含有量の関係を示す図である。
図1で示される無地のOK領域は本発明の規定を満たしている領域であり、ドット領域であるNG領域は本発明の規定を満たしていない領域を示している。
【0019】
立方体方位率:97%以上
粗面化処理において、ピットが高密度で形成されて高い粗面化率を得るために、立方晶率は97%以上であることが望ましい。
【0020】
円相当径2mm以上の異方位粒を有していない
円相当径2mm以上の粗大な異方位結晶粒が存在していると、粗面化処理に際し、良好にピットが形成されず、また箔の強度を低下させるので、このような異方位粒が形成されていないことが望ましい。
【0021】
最終焼鈍:不活性又は還元性ガス、もしくはこれらの混合ガス中で、300〜580℃×6〜48時間
本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔を製造するにおいては、常法での溶解・鋳造によるスラブ鋳塊製造を行なった後、該スラブに常法での熱間圧延、冷間圧延を施し所望の厚みの箔を得た後、最終焼鈍を施す。この最終焼鈍は、アルミニウム箔表面に形成される酸化皮膜を、後工程のエッチングにおいて良好に保つために雰囲気制御のもとで実施する必要がある。雰囲気ガスとしては、Arなどの不活性ガス、又は水素などの還元性ガス、もしくはこれら不活性ガス/還元性ガスの混合ガスを用いる。
最終温度の条件としては、保持温度:300〜580℃×6〜48時間が望ましく、保持温度:300℃未満又は保持時間:6時間未満では立方体方位組織の発達が不十分であり、保持温度:580℃超又は保持時間48時間超では粗大な異方位粒が成長する恐れが高まり好ましくない。
【0022】
中間焼鈍:200〜300℃×2〜10時間
アルミニウム箔を製造する冷間圧延工程の途中に中間焼鈍を行うことができる。この中間焼鈍によって、立方晶の生成を促進させる事ができる。
但し、中間焼鈍温度が200℃未満または中間焼鈍時間が2時間未満であると、立方晶の生成が不十分の為、効果が無い。一方、中間焼鈍温度が300℃を超え、または中間焼鈍時間が10時間を超えると立方晶以外の結晶粒が生成する為、最終焼鈍後の立方晶率が低下する。