(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752113
(24)【登録日】2020年8月20日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】スラッジブランケット型凝集沈澱装置およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/28 20060101AFI20200831BHJP
B01D 21/02 20060101ALI20200831BHJP
B01D 21/08 20060101ALI20200831BHJP
B01D 21/24 20060101ALI20200831BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20200831BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
B01D21/28 A
B01D21/02 J
B01D21/08 C
B01D21/24 D
B01D21/24 H
B01D21/24 V
B01D21/30 Z
B01D21/01 D
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-216535(P2016-216535)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-69209(P2018-69209A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國東 俊朗
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−172317(JP,A)
【文献】
特開平06−134215(JP,A)
【文献】
特公昭46−041069(JP,B1)
【文献】
特開平03−174204(JP,A)
【文献】
特開2007−203133(JP,A)
【文献】
特開2015−136648(JP,A)
【文献】
特開2011−056355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が水面下に位置する仕切り板により、フロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなる槽と、
前記凝集沈澱室に設けられた少なくとも1つの流出口を有する原水分配管と下方で接続され、前記原水を貯留する塔を有し、前記塔内の原水の落水および水位上昇を繰り返すことにより、前記流出口から前記原水が流出される際の脈動により前記凝集沈澱室内の原水を撹拌する脈動発生手段と、
を備え、
前記原水の濁度および水温のうちの少なくとも1つに応じて、前記脈動の強度を下記式で表される脈動G値により制御することを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置。
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
G=√{(A・v3)/(2ν・V)}
A:噴出面積(m2)
v:噴出流速(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
【請求項2】
上端が水面下に位置する仕切り板により、フロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなる槽と、
前記槽の前段に設けられた、撹拌翼を有する撹拌槽と、
前記槽内の原水に脈動を与える脈動発生手段と、
を備え、
前記原水の濁度および水温のうちの少なくとも1つに応じて、前記撹拌槽における撹拌の強度を下記式で表される撹拌G値により制御することを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置。
撹拌G値=√{(CΣi(Ai・vi3))/2νV}
Ai:撹拌翼iの運動方向に直角な面積(m2)
vi:撹拌翼iの平均速度(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
C:撹拌翼の抵抗係数(−)
【請求項3】
請求項1または2に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置であって、
前記原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、前記脈動の強度、または前記撹拌の強度を高くすることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置であって、
前記原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、前記脈動の強度、または前記撹拌の強度を高くすることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置。
【請求項5】
上端が水面下に位置する仕切り板により、槽をフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記凝集沈澱室に設けられた少なくとも1つの流出口を有する原水分配管と下方で接続され、前記原水を貯留する塔内の原水の落水および水位上昇を繰り返すことにより、前記流出口から前記原水が流出される際の脈動により前記凝集沈澱室内の原水を撹拌し、
前記原水の濁度および水温のうちの少なくとも1つに応じて、前記脈動の強度を下記式で表される脈動G値により制御することを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法。
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
G=√{(A・v3)/(2ν・V)}
A:噴出面積(m2)
v:噴出流速(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
【請求項6】
上端が水面下に位置する仕切り板により、槽をフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなり、槽内の原水に脈動を与えるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記原水の濁度および水温のうちの少なくとも1つに応じて、前記槽の前段に設けられた、撹拌翼を有する撹拌槽における撹拌の強度を下記式で表される撹拌G値により制御することを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法。
撹拌G値=√{(CΣi(Ai・vi3))/2νV}
Ai:撹拌翼iの運動方向に直角な面積(m2)
vi:撹拌翼iの平均速度(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
C:撹拌翼の抵抗係数(−)
【請求項7】
請求項5または6に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、前記脈動の強度、または前記撹拌の強度を高くすることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、前記脈動の強度、または前記撹拌の強度を高くすることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、用水、各種排水等の処理に用いられるスラッジブランケット型凝集沈澱装置およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、湖沼水等の原水より懸濁物質を除去する場合、原水に凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集させてフロックを形成し、このフロックを沈降分離により水中から除去して処理水(除濁水)を得ることは、凝集沈澱法としてよく知られた方法であり、この方法を実施するための凝集沈澱装置は多種多様のものが実用化されている。
【0003】
このような凝集沈澱装置のうち、フロック形成過程と沈降分離過程を同一の槽に組み込んだ高速凝集沈澱装置は、その設置面積の有利性により広く用いられている。その高速凝集沈澱装置の一種としてスラッジブランケット型凝集沈澱装置がある。スラッジブランケット型凝集沈澱装置は、例えば、凝集剤を添加した原水を真空塔に流入させ、真空ポンプ等により真空塔内を真空、脱真空と繰り返すことにより、真空塔内の水位を上下させて原水に脈動を与える。次いで脈動を与えた原水を原水分配管より、上端が水面下に位置する仕切り板によってフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなる槽内に流入し、原水中の懸濁物質を脈動あるいは阻流板への衝突により凝集させ、フロックを形成させながら上昇させ、スラッジブランケット層を通過させて凝集液中のフロックを接触捕捉して、懸濁物質を除去した処理水を、トラフを介して得るものである。フロック形成を促進する目的で、真空塔の手前に急速撹拌槽を設置する場合もある。
【0004】
スラッジブランケット型の凝集沈澱装置で通水を行う場合、原水の濁度や水温の変動が起きた際に、スラッジブランケット層から微細フロックが流出し、処理水質が悪化しやすくなり、安定運転が困難となることがある。処理水質の悪化が激しい場合は、通水流量を下げたり、凝集条件を見直すなどの作業が必要となり、運転管理が煩雑となることもある。このため水道施設設計指針では、原水の変動幅として、濁度であれば1時間に100度以下、水温であれば1時間に0.5〜1.0℃以下とすることが望ましいとされている。しかし、実際の水処理場においては、原水と処理水の水温差が0.1度以上、もしくは原水濁度の上昇率が10度/時間以上となった際に、処理水質が悪化するケースも見られる。これらの問題に対処するために、例えば特許文献1に記載のような凝集沈澱装置も考案されている。
【0005】
しかし、特許文献1の装置では、スラッジブランケット層の界面を所定の高さで保持することが極めて困難であり、安定運転するためには界面検出器の設置が必須となる。また、汚泥を沈澱槽全体に循環させるために、規模の大きい撹拌装置も必須となり、イニシャルコストおよびランニングコストともに増大するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4−66601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置と比較して、原水の水質が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化される、スラッジブランケット型凝集沈澱装置およびその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上端が水面下に位置する仕切り板により、フロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなる槽と、
前記凝集沈澱室に設けられた少なくとも1つの流出口を有する原水分配管と下方で接続され、前記原水を貯留する塔を有し、前記塔内の原水の落水および水位上昇を繰り返すことにより、前記流出口から前記原水が流出される際の脈動により前記凝集沈澱室内の原水を撹拌する脈動発生手段と、を備え、前記原水の濁度および水温
のうちの少なくとも1つに応じて、前記脈動の強度
を下記式で表される脈動G値により制御する、スラッジブランケット型凝集沈澱装置である。
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
G=√{(A・v3)/(2ν・V)}
A:噴出面積(m2)
v:噴出流速(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
また、本発明は、上端が水面下に位置する仕切り板により、フロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなる槽と、前記槽の前段に設けられた、撹拌翼を有する撹拌槽と、前記槽内の原水に脈動を与える脈動発生手段と、を備え、前記原水の濁度および水温のうちの少なくとも1つに応じて、前記撹拌槽における撹拌の強度を下記式で表される撹拌G値により制御する、スラッジブランケット型凝集沈澱装置である。
撹拌G値=√{(CΣi(Ai・vi3))/2νV}
Ai:撹拌翼iの運動方向に直角な面積(m2)
vi:撹拌翼iの平均速度(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
C:撹拌翼の抵抗係数(−)
【0009】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置において、前記原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、前記脈動の強度、
または前記撹拌の強
度を高くすることが好ましい。
【0010】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置において、前記原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、前記脈動の強度、
または前記撹拌の強
度を高くすることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上端が水面下に位置する仕切り板により、槽をフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切って
なるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記凝集沈澱室に設けられた少なくとも1つの流出口を有する原水分配管と下方で接続され、前記原水を貯留する塔内の原水の落水および水位上昇を繰り返すことにより、前記流出口から前記原水が流出される際の脈動により前記凝集沈澱室内の原水を撹拌し、前記原水の濁度および水温
のうちの少なくとも1つに応じて、前記脈動の強度
を下記式で表される脈動G値により制御する、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法である。
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
G=√{(A・v3)/(2ν・V)}
A:噴出面積(m2)
v:噴出流速(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
また、本発明は、上端が水面下に位置する仕切り板により、槽をフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなり、槽内の原水に脈動を与えるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、前記原水の濁度および水温のうちの少なくとも1つに応じて、前記槽の前段に設けられた、撹拌翼を有する撹拌槽における撹拌の強度を下記式で表される撹拌G値により制御する、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法である。
撹拌G値=√{(CΣi(Ai・vi3))/2νV}
Ai:撹拌翼iの運動方向に直角な面積(m2)
vi:撹拌翼iの平均速度(m/s)
ν:動粘性係数(m2/s)
V:混和部容量(m3)
C:撹拌翼の抵抗係数(−)
【0014】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法において、前記原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、前記脈動の強度、
または前記撹拌の強
度を高くすることが好ましい。
【0015】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法において、前記原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、前記脈動の強度、
または前記撹拌の強
度を高くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置と比較して、原水の水質が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図4】実施例および比較例で用いたパイロット実験装置の概略構成を示す図である。
【
図5】実施例および比較例で用いた実験フローの概略を示す図である。
【
図6】実施例および比較例における水温変動実験の結果を示すグラフである。
【
図7】実施例および比較例における濁度変動実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。スラッジブランケット型の凝集沈澱装置1は、上端が水面下に位置する仕切り板18により、フロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室14とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室16とに仕切ってなる槽10と、槽10内の原水に脈動を与える脈動発生手段として脈動発生装置12とを備える。脈動発生装置12は、真空塔として塔20と、塔20の頂部に真空発生手段として真空ポンプ46と、脱真空手段としてバキュームブレーカ48とを備える。凝集沈澱装置1の前段に、撹拌翼を有する急速撹拌槽50を備えてもよい。
【0022】
図1の凝集沈澱装置1において、急速撹拌槽50の出口と、脈動発生装置12の塔20の入口とは、原水導入管22により接続されている。槽10の凝集沈澱室14の底部の汚泥出口には、汚泥排出管24が接続され、濃縮室16の汚泥出口には、汚泥排出管26が接続され、槽10の上部の水面部には、少なくとも1つの処理水排出管28が設けられている。塔20には水位測定手段として水位計44が設置されている。凝集沈澱室14の中央下方部には少なくとも1つの原水分配管30が横設され、原水分配管30は塔20の下部と給水ダクト32により連通されている。原水分配管30の下部には原水を流出するためのスリットまたは孔からなる少なくとも1つの流出口が下向きに1列以上設けられている。例えば、複数の流出口が原水分配管30の真下方向に対して30°程度の各斜め方向に、原水分配管30の長軸方向に沿って2列設けられ、一方の列の流出口の間のピッチの略半分の位置に、他方の列の流出口が配置されるようになっている。原水分配管30の上方はスラッジブランケット層34が形成されるスラッジブランケットゾーン、阻流板42の下方は撹拌ゾーン36となっている。原水分配管30の上方には、縦断面形状が例えばV字状である少なくとも1つの阻流板42が設置されている。この位置に阻流板42を設置することにより、槽内に流入された原水が撹拌され、フロックが形成されやすくなる効果がある。スラッジブランケット層34の上方には、沈降面積を増加させるための傾斜装置40が設置されてもよい。
【0023】
仕切り板18によって仕切られた凝集沈澱室14は、フロックの凝集および沈澱を行うものであり、濃縮室16は、スラッジブランケット層34より仕切り板18を越流してきたフロックを貯留、濃縮するものである。
【0024】
脈動発生装置12は、凝集沈澱室14に設けられた少なくとも1つの流出口を有する原水分配管30と下方で接続され、原水を貯留する塔20を有し、塔20内の原水の落水および水位上昇を繰り返すことにより、流出口から原水が流出される際の脈動により凝集沈澱室14内の原水を撹拌するものである。
【0025】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置1の動作について説明する。
【0026】
凝集沈澱装置1の前段に急速撹拌槽50を設ける場合は、急速撹拌槽50において懸濁物質を含む原水にポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機凝集剤等の凝集剤が添加されて、急速撹拌が行われた後、原水は原水導入管22を通して塔20に送液される。凝集剤は、原水導入管22において原水に添加されてもよい。真空ポンプ46の駆動およびバキュームブレーカ48の開閉によって、塔20内の真空と脱真空とを繰り返すことにより、塔20内の原水の落水および水位上昇が繰り返されて、水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この原水分配管30の流出口から原水が流出される際の脈動により凝集沈澱室14の水は撹拌を受け、原水中の懸濁物質は凝集しフロックが形成される。凝集沈澱室14のスラッジブランケットゾーンには、フロック群が高濃度に懸濁平衡されて、スラッジブランケット層34が形成されている。スラッジブランケット層34は次第に高さを増してくるが、仕切り板18は、スラッジブランケット層34の上面高さを規定するものであり、すなわち、スラッジブランケット層34の上面高さは、仕切り板18の高さによって決定される。原水はこのスラッジブランケット層34内を上向流で通過する際、下部で形成されたフロックがスラッジブランケット層34中の既存のフロックと接触、吸合することにより、フロックが除去された除濁水が傾斜装置40を上向流で通過して、処理水として少なくとも1つの処理水排出管28から排出される。
【0027】
仕切り板18によって仕切られた濃縮室16内および濃縮室16の上部は上昇流がほとんど起こらないので、スラッジブランケット層34の上面の余剰のフロックは仕切り板18の上端を越流して濃縮室16内に貯留、濃縮され、スラッジブランケット層34の高さはほぼ一定に保たれる。余剰の濃縮されたフロックは、汚泥として汚泥排出管26を通して適切な間隔で、例えば定期的に系外に排出される。凝集沈澱室14の底部にフロックが堆積した場合には、汚泥として汚泥排出管24を通して適切な間隔で、例えば定期的に系外に排出されてもよい。
【0028】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法および凝集沈澱装置1では、原水の濁度および水温に応じて、脈動の強度、および槽10の前段に撹拌槽(急速撹拌槽)が設けられている場合の撹拌槽における撹拌の強度のうち少なくとも1つを制御する。これによって、従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置と比較して、原水の水質が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化される。原水の濁度や水温の変動が起きても、スラッジブランケット層からの微細フロックの流出による処理水質の悪化が抑制され、安定運転が可能となる。また、通水流量を下げたり、凝集条件を見直すなどの作業を行わなくてもよく、運転管理が大幅に簡易化される。
【0029】
例えば、原水の水温と処理水の水温をモニタリングし、原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、好ましくは0.2℃以上となった場合に、上記脈動の強度および上記撹拌の強度のうち少なくとも1つを高くすることが好ましい。
【0030】
実際の制御を行う際は、原水の水温と処理水の水温それぞれをモニタリングし、その差が0.1℃以上となった状態を例えば10分以上保持した場合や、次のモニタリングのときまで保持した場合に脈動の強度を高くし、差が0.1℃未満となった状態を例えば同じく10分以上保持した場合や、次のモニタリングのときまで保持した場合に脈動の強度をもとに戻す制御を組み込むことにより、容易に自動化も可能となる。
【0031】
また、例えば、原水の濁度をモニタリングし、原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、好ましくは20度/時間以上となった場合に、上記脈動の強度および上記撹拌の強度のうち少なくとも1つを高くすることが好ましい。「原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合」とは、原水の濁度の上昇の傾きが10度/時間以上となった場合を表し、原水の濁度の上昇率が5度/30分以上となった場合に、上記脈動の強度および上記撹拌の強度のうち少なくとも1つを高くしてもよい。
【0032】
脈動の強度、撹拌の強度は例えば、それぞれ、下記の式で算出される脈動G値(s
−1)または撹拌G値(s
−1)により決定すればよい。
【0033】
脈動G値には、例えば、塔20で発生する脈動における落水時間、上昇時間、落水幅等を変更することにより調整することができる。例えば、真空ポンプの出力を上げ、脈動における上昇時間を短くすることにより、脈動G値を容易に高めることができる。また、落水水位を高くすること、または、バキュームブレーカ48の開度を上げることによって落水時間を短くすることにより、脈動G値を容易に高めることができる。ただし、真空ポンプの出力を上げる方法は一般的にランニングコストの増加を招くため、上記のように原水の水温や濁度が変動した際にのみ採用し、そうでない場合には通常条件での運転とすることで、トータルの維持管理費を抑える運用とすることが望ましい。例えば、原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、または、原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、脈動G値(s
−1)を2(s
−1)以上50(s
−1)以下の範囲で高くすればよい。なお、脈動G値をどのくらい高くすればよいかについては、原水の温度と処理水の温度との差や、原水濁度の上昇率、目的とする処理水水質等、装置の運転条件に基づいて実験や試運転等により決定することができる。
【0034】
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
G=√{(A・v
3)/(2ν・V)}
A:噴出面積(流出口)(m
2)
v:噴出流速(m/s)
ν:動粘性係数(原水)(m
2/s)
V:混和部(阻流板42より下部)容量(m
3)
【0035】
また、撹拌G値は、例えば、急速撹拌槽の撹拌翼の回転速度等を変更することにより調整することができる。例えば、撹拌の回転数を上げて撹拌翼の回転速度を大きくすると、撹拌G値を向上させることができる。ただし、この方法は一般的にランニングコストの増加を招くため、上記のように原水の水温や濁度が変動した際にのみ回転速度を上げる、もしくは通常時は急速撹拌を行わずに、原水の水温や濁度が変動した際にのみ急速撹拌を行う、というような運用をすることが望ましい。例えば、原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、または、原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、撹拌G値(s
−1)を20(s
−1)以上1000(s
−1)以下の範囲で高くすればよい。なお、撹拌G値をどのくらい高くすればよいかについては、原水の温度と処理水の温度との差や、原水濁度の上昇率、目的とする処理水水質等、装置の運転条件に基づいて実験や試運転などにより決定することができる。
【0036】
撹拌G値=√{(CΣi(Ai・vi
3))/2νV}
Ai:撹拌翼iの運動方向に直角な面積(m
2)
vi:撹拌翼iの平均速度(m/s)
ν:動粘性係数(原水)(m
2/s)
V:混和部(急速撹拌槽50)容量(m
3)
C:撹拌翼の抵抗係数(−)
【0037】
脈動発生手段としては、原水に脈動を付与することができるものであればよく、特に制限はない。脈動発生手段としては、
図1に示す真空ポンプを用いる方式の他に、
図2に示す凝集沈澱装置3のようにサイフォンを用いる方式、
図3に示す凝集沈澱装置5のように回転弁58を用いる方式のものであってもよい。
【0038】
図2に示す凝集沈澱装置3では、塔20の頂部にサイフォンを備えるサイフォン装置52が設置され、原水導入管54はサイフォン装置52に接続されている。凝集剤が添加された原水は、原水導入管54を通してサイフォン装置52に送液される。サイフォン装置52においてサイフォンの作用によって、サイフォン装置52内の水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この場合、原水の濁度および水温に応じて、ダンパー弁56の開度を変えることによって、脈動強度を変えることができる。
【0039】
図3に示す凝集沈澱装置5では、原水導入管22の途中に回転弁58が接続されている。凝集剤が添加された原水は、原水導入管22を通して塔20に送液される。回転弁58の作用によって、塔20内の水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この場合、原水の濁度および水温に応じて、回転弁58の回転速度を変えることによって、脈動強度を変えることができる。
【0040】
これらのうち、脈動発生手段としては、脈動の制御がしやすい、装置高さを抑えることができる等の点で、真空ポンプを用いる方式が好ましい。
【0041】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置において処理対象となる原水は、例えば、上水、用水、河川水、湖沼水、各種排水等である。
【0042】
処理対象となる原水の濁度は、例えば、1度〜5000度の範囲であり、本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置によって、処理水の濁度を例えば1度未満に低減することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例および比較例>
図4に示すパイロットスケールの実験装置を2台作製し、
図5に示すフローで、実原水を用いて水温変動に対する処理性、濁度変動に対する処理性を確認した。通水条件は以下の通りである。
【0045】
[装置仕様]
高速凝集沈澱槽 :800mm×900mm×4000mm
凝集沈澱槽滞留時間 :110min
通水流量 :1.6m
3/h
通水LV :2.6m/h
濃縮室高さ :1000mm
【0046】
[水温変動実験条件]
原水:湖沼水(原水槽に氷を投入し、強制的に水温変動発生)
凝集剤:ポリ塩化アルミニウム(PAC)
凝集剤添加量:30mg/L
凝集pH:7
原水濁度:11度
原水水温:12.5〜13.6℃
【0047】
[濁度変動実験条件]
原水:湖沼水(原水槽に懸濁物質としてベントナイトを添加し、濁度500度程度となるように調整)
凝集剤:ポリ塩化アルミニウム(PAC)
凝集剤添加量:25〜200mg/L(原水濁度に比例注入)
凝集pH:7
原水濁度:15〜520度
原水水温:12℃
【0048】
水温変動実験の結果を
図6に、濁度変動実験の結果を
図7に示す。水温変動実験の実施例では、原水の水温と処理水の水温との差が0.1℃以上となった場合に、所定の時間、脈動強度向上または急速撹拌を行った。濁度変動実験では、原水の濁度の上昇率が10度/時間以上となった場合に、所定の時間、脈動強度向上または急速撹拌を行った。実施例の急速撹拌実験では、混和槽の撹拌装置の回転数を0rpmから225rpmに変え、撹拌G値を0s
−1から146s
−1に向上させた。また、実施例の脈動強度向上実験では真空塔内の落水時間を12秒から6秒に変え、脈動G値を12s
−1から18s
−1に向上させた。一方、比較例では、混和槽の撹拌装置の回転数は0rpm(撹拌G値:0s
−1)、真空塔内の落水時間は12秒(脈動G値:を12s
−1)のままとした(表1参照)。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、脈動G値は、上記式により、下記の通りに計算して算出した。撹拌G値は、上記式により、下記の通りに計算して算出した。
【0051】
A:噴出面積(流出口面積)(m
2)=0.00161(m
2)
ν:動粘性係数(原水(13℃))(m
2/s)=1.2×10
−6(m
2/s)
V:混和部(阻流板42より下部)容量(m
3)=0.208(m
3)
・通常脈動(落水12秒、上昇33秒)
v:噴出流速(m/s)=落水時0.812(m/s)、上昇時0.071(m/s)
より、
落水G値=√{(A・v
3)/(2ν・V)}
=√{(0.00161×(0.812)
3)/(2×1.2×10
−6×0.208)}
=41.6(s
−1)
上昇G値=√{(A・v
3)/(2ν・V)}
=√{(0.00161×(0.071)
3)/(2×1.2×10
−6×0.208)}
=1.1(s
−1)
よって、
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
=(41.6×12+1.1×33)÷(12+33)
=12(s
−1)
【0052】
・脈動強度向上(落水6秒、上昇33秒)
v:噴出流速(m/s)=落水時1.134(m/s)、上昇時0(m/s)
より、
落水G値=√{(A・v
3)/(2ν・V)}
=√{(0.00161×(1.134)
3)/(2×1.2×10
−6×0.208)}
=118.7(s
−1)
上昇G値=√{(A・v
3)/(2ν・V)}
=√{(0.00161×(0)
3)/(2×1.2×10
−6×0.208)}
=0(s
−1)
よって、
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
=(118.7×6+0×33)÷(6+33)
=18(s
−1)
【0053】
Ai:撹拌翼iの運動方向に直角な面積(m
2)=0.00209(m
2)
vi:撹拌翼iの平均速度(m/s)=0.776(m/s)
ν:動粘性係数(原水(12℃))(m
2/s)=1.2×10
−6(m
2/s)
V:混和部(急速撹拌槽50)容量(m
3)=0.110(m
3)
C:撹拌翼の抵抗係数(−)=1.5(−)
撹拌翼の枚数:4枚
より、
撹拌G値=√{(CΣi(Ai・vi
3))/2νV}
=√{(1.5×0.00209×(0.776)
3×4)/(2×1.2×10
−6×0.110)}
=146(s
−1)
【0054】
水温変動に対しても、濁度変動に対しても、脈動強度向上もしくは急速撹拌を行うことにより処理水濁度の悪化を顕著に抑制できる結果となった。特に急速撹拌を行った場合は、原水変動前の通常処理時よりも処理水質は良好な結果となった。水温変動や濁度変動が生じた際は、凝集沈澱槽内で流れの乱れが生じ、スラッジブランケット層から微フロックが逸脱する様子が観察されたが、脈動強度向上もしくは急速撹拌を行った場合は、マイクロフロック形成が促進され、その影響で微フロックの逸脱を抑制することが可能となり、良好な処理が可能となった
【0055】
このように、実施例の方法により、比較例と比較して、原水の水質が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化された。
【符号の説明】
【0056】
1,3,5 凝集沈澱装置、10 槽、12 脈動発生装置、14 凝集沈澱室、16 濃縮室、18 仕切り板、20 真空塔、22,54 原水導入管、24,26 汚泥排出管、28 処理水排出管、30 原水分配管、32 給水ダクト、34 スラッジブランケット層、36 撹拌ゾーン、40 傾斜装置、42 阻流板、44 水位計、46 真空ポンプ、48 バキュームブレーカ、50 急速撹拌槽、52 サイフォン装置、56 ダンパー弁、58 回転弁。