特許第6752114号(P6752114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6752114スラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752114
(24)【登録日】2020年8月20日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】スラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/08 20060101AFI20200831BHJP
   B01D 21/00 20060101ALI20200831BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20200831BHJP
   B01D 21/28 20060101ALI20200831BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   B01D21/08 C
   B01D21/00 A
   B01D21/01 A
   B01D21/28 A
   B01D21/01 102
   C02F1/52 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-216536(P2016-216536)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-69210(P2018-69210A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國東 俊朗
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−172317(JP,A)
【文献】 特開平06−134215(JP,A)
【文献】 特開2012−228673(JP,A)
【文献】 特開2012−170911(JP,A)
【文献】 特開2005−211817(JP,A)
【文献】 特開2003−154209(JP,A)
【文献】 国際公開第1999/058456(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が水面下に位置する仕切り板により、槽をフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法であって、
前記槽内が空の状態から立上げる際に、
凝集剤が添加された原水を前記槽内に満たす水張り工程と、
前記水張り工程後に、前記原水の前記槽への供給を停止し、前記槽内に満たした水を沈静する沈静工程と、
を含む工程を行うことを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法であって、
前記沈静工程における沈静時間が、6時間以上20時間未満の範囲であることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法であって、
前記水張り工程後に前記槽内の原水に脈動を与える脈動付与工程を含むことを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法であって、
前記沈静工程後に、処理水を系外に排出する捨水工程を経ることなく、所定の通水速度による通水工程に移行することを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、用水、各種排水等の処理に用いられるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、湖沼水等の原水より懸濁物質を除去する場合、原水に凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集させてフロックを形成し、このフロックを沈降分離により水中から除去して処理水(除濁水)を得ることは、凝集沈澱法としてよく知られた方法であり、この方法を実施するための凝集沈澱装置は多種多様のものが実用化されている。
【0003】
このような凝集沈澱装置のうち、フロック形成過程と沈降分離過程を同一の槽に組み込んだ高速凝集沈澱装置は、その設置面積の有利性により広く用いられている。その高速凝集沈澱装置の一種としてスラッジブランケット型凝集沈澱装置がある。スラッジブランケット型凝集沈澱装置は、例えば、凝集剤を添加した原水を真空塔に流入させ、真空ポンプ等により真空塔内を真空、脱真空と繰り返すことにより、真空塔内の水位を上下させて原水に脈動を与える。次いで脈動を与えた原水を原水分配管より、上端が水面下に位置する仕切り板によってフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなる槽内に流入し、原水中の懸濁物質を脈動あるいは阻流板への衝突により凝集させ、フロックを形成させながら上昇させ、スラッジブランケット層を通過させて凝集液中のフロックを接触捕捉して、懸濁物質を除去した処理水を、トラフを介して得るものである。フロック形成を促進する目的で、真空塔の手前に急速撹拌槽を設置する場合もある。
【0004】
このようなスラッジブランケット型凝集沈澱装置において、槽内が空の状態から立上げを行う場合は、通常、凝集剤を添加した原水を槽内に満たす水張り工程後に、処理水を系外に排出する捨水工程を設け、かつ通水速度を所定流速の1/3程度の低い速度に設定してから通水を開始し、徐々に通水速度を上げていくという方法が一般的である。もしくは、水張り工程のときに一時的に凝集剤注入率を増すという方法が採用されることもある。
【0005】
このようなスラッジブランケット型凝集沈澱装置の従来の立上げ方法では、水張り工程後に、処理水を系外に排出する捨水工程を設ける必要があるため、水の回収率が低下する。また、捨水工程における処理水濁度の経時変化を測定し、その値が基準値となるまでモニタリングを継続する必要があるため、運転管理の手間が煩雑となる。さらに、通水速度を所定流速の1/3程度の低い速度に設定してから通水を開始し、徐々に通水速度を上げていくという方法においても、処理水濁度の常時モニタリング、通水流速のその都度の調整が必要となるため、運転管理の手間は増大する。かつ、立上げ初期は通水速度を下げて運転せざるを得ないため、所定流量の処理水を得ることができない。水張り工程時に一時的に凝集剤注入率を増すという方法が採用されることもあるが、この場合もランニングコストの増加、汚泥処理量の増大という問題が新たに生じる。また、特許文献1に記載されているように凝集助剤を添加する方法もある。
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、同様にランニングコストの増加、汚泥処理量の増大という問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5753702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来の立上げ方法と比較して、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の早期立上げが可能となり、運転管理が大幅に簡易化され、水回収率が向上する、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上端が水面下に位置する仕切り板により、槽をフロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室とに仕切ってなるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法であって、前記槽内が空の状態から立上げる際に、凝集剤が添加された原水を前記槽内に満たす水張り工程と、前記水張り工程後に、前記原水の前記槽への供給を停止し、前記槽内に満たした水を沈静する沈静工程と、を含む工程を行う、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法である。
【0010】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法において、前記沈静工程における沈静時間が、6時間以上20時間未満の範囲であることが好ましい。
【0011】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法において、前記水張り工程後に前記槽内の原水に脈動を与える脈動付与工程を含むことが好ましい。
【0012】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法において、前記沈静工程後に、処理水を系外に排出する捨水工程を経ることなく、所定の通水速度による通水工程に移行することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の立上げ方法と比較して、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の早期立上げが可能となり、運転管理が大幅に簡易化され、水回収率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の他の例を示す概略構成図である。
図3】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の他の例を示す概略構成図である。
図4】実施例および比較例で用いたパイロット実験装置の概略構成を示す図である。
図5】実施例および比較例で用いた実験フローの概略を示す図である。
図6】実施例および比較例における立上げ実験の経時変化を示すグラフである。
図7】実施例および比較例における通水開始後4日間の造水量を示すグラフである。
図8】実施例および比較例における立上げ時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法が適用されるスラッジブランケット型凝集沈澱装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。スラッジブランケット型の凝集沈澱装置1は、上端が水面下に位置する仕切り板18により、フロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室14とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室16とに仕切ってなる槽10を備える。凝集沈澱装置1は、槽10内の原水に脈動を与える脈動発生手段として脈動発生装置12を備えてもよい。脈動発生装置12は、真空塔として塔20と、塔20の頂部に真空発生手段として真空ポンプ46と、脱真空手段としてバキュームブレーカ48とを備える。凝集沈澱装置1の前段に、撹拌翼を有する急速撹拌槽50を備えてもよい。
【0017】
図1の凝集沈澱装置1において、急速撹拌槽50の出口と、脈動発生装置12の塔20の入口とは、原水導入管22により接続されている。槽10の凝集沈澱室14の底部の汚泥出口には、汚泥排出管24が接続され、濃縮室16の汚泥出口には、汚泥排出管26が接続され、槽10の上部の水面部には、少なくとも1つの処理水排出管28が設けられている。塔20には水位測定手段として水位計44が設置されている。凝集沈澱室14の中央下方部には少なくとも1つの原水分配管30が横設され、原水分配管30は塔20の下部と給水ダクト32により連通されている。原水分配管30の下部には原水を流出するためのスリットまたは孔からなる少なくとも1つの流出口が下向きに1列以上設けられている。例えば、複数の流出口が原水分配管30の真下方向に対して30°程度の各斜め方向に、原水分配管30の長軸方向に沿って2列設けられ、一方の列の流出口の間のピッチの略半分の位置に、他方の列の流出口が配置されるようになっている。原水分配管30の上方はスラッジブランケット層34が形成されるスラッジブランケットゾーン、阻流板42の下方は撹拌ゾーン36となっている。原水分配管30の上方には、縦断面形状が例えばV字状である少なくとも1つの阻流板42が設置されている。この位置に阻流板42を設置することにより、槽内に流入された原水が撹拌され、フロックが形成されやすくなる効果がある。スラッジブランケット層34の上方には、沈降面積を増加させるための傾斜装置40が設置されてもよい。
【0018】
仕切り板18によって仕切られた凝集沈澱室14は、フロックの凝集および沈澱を行うものであり、濃縮室16は、スラッジブランケット層34より仕切り板18を越流してきたフロックを貯留、濃縮するものである。
【0019】
脈動発生装置12は、凝集沈澱室14に設けられた少なくとも1つの流出口を有する原水分配管30と下方で接続され、原水を貯留する塔20を有し、塔20内の原水の落水および水位上昇を繰り返すことにより、流出口から原水が流出される際の脈動により凝集沈澱室14内の原水を撹拌するものである。
【0020】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法では、スラッジブランケット型の凝集沈澱装置1を槽10内が空の状態から立上げる際に、凝集剤が添加された原水を槽内に満たす水張り工程後に、槽10内に満たした水を所定の時間、沈静する沈静工程を導入する。また、沈静工程直後の工程において、処理水を系外に排出する捨水工程を経ることなく、所定の通水速度による通水工程に移行することが好ましい。これにより、従来の立上げ方法と比較して、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の早期立上げが可能となり、運転管理が大幅に簡易化され、水回収率が向上する。
【0021】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法について説明する。
【0022】
槽10内が空の状態から立上げる際に、まず、凝集剤が添加された原水を槽10内に満たす(水張り工程)。凝集沈澱装置1の前段に急速撹拌槽50を設ける場合は、急速撹拌槽50において懸濁物質を含む原水にポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機凝集剤等の凝集剤が添加されて、急速撹拌が行われた後、原水は原水導入管22を通して塔20に送液され、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から槽10内に送液される。凝集剤は、原水導入管22において原水に添加されてもよい。
【0023】
水張り工程後に、原水の槽10への供給を停止し、槽10内に満たした水を所定の時間、沈静する(沈静工程)。
【0024】
沈静工程後に、所定の通水速度による通水工程に移行する。この場合、沈静工程後に、処理水を系外に排出する捨水工程を経なくてもよい。場合によっては、沈静工程後に、処理水を系外に排出する捨水工程を経てから、通水工程に移行してもよい。
【0025】
水張り工程において槽10内に導入されるマイクロフロックは、沈静工程を行うことにより、凝集、フロック形成が進行し、所定の時間の沈静工程を経て、通常運転における所定の通水速度に対して十分な沈降速度を持つフロック径にまで大部分が成長すると考えられる。これによって、沈静工程直後に、通常運転における所定の速度による通水を開始しても、初期の処理水へのマイクロフロック流出を抑制することができるため、従来法では必須であった捨水工程を設けなくてもよい。また、従来法では、立上げの初期は通水速度を通常運転のときよりも下げて運転せざるを得ないため、所定の流量の処理水を得ることができないが、本法では、沈静工程終了後、通常運転における所定の通水速度による通水工程に速やかに移行することができるため、通水初期から所定流量の処理水を得ることができる。
【0026】
沈静工程における沈静時間は、沈静効果が得られる限り特に制限はないが、6時間以上20時間未満の範囲であることが好ましく、8時間以上12時間未満の範囲であることがより好ましい。沈静時間が6時間未満であると、十分に沈みきらないマイクロフロックが槽10内に残存するため、初期の濁度漏洩が起きる可能性があり、20時間以上沈静時間を長く取っても、それ以上の効果はほとんど認められない。
【0027】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法において、水張り工程後に槽10内の原水に脈動を与える脈動付与工程を含むことが好ましい。水張り工程後、沈静工程を行う前に原水に脈動を与えることにより、マイクロフロック形成がより促進される効果が期待できる。これによって、沈静工程直後に、通常運転における所定の速度による通水を開始しても、初期の処理水へのマイクロフロック流出を著しく抑制することができるため、従来法では必須であった捨水工程を設けなくてもよい。
【0028】
例えば、真空ポンプ46の駆動およびバキュームブレーカ48の開閉によって、塔20内の真空と脱真空とを繰り返すことにより、塔20内の水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この原水分配管30の流出口から原水が流出される際の脈動により凝集沈澱室14の水は撹拌を受け、原水中の懸濁物質は凝集しマイクロフロックが形成される。
【0029】
脈動の強度は例えば、下記の式で算出される脈動G値(s−1)により決定すればよい。
【0030】
脈動G値には、例えば、塔20で発生する脈動における落水時間、上昇時間、落水幅等を変更することにより調整することができる。例えば、真空ポンプの出力を上げ、脈動における上昇時間を短くすることにより、脈動G値を容易に高めることができる。また、落水水位を高くすること、または、バキュームブレーカ48の開度を上げることによって落水時間を短くすることにより、脈動G値を容易に高めることができる。例えば、脈動G値(s−1)を2(s−1)以上50(s−1)以下の範囲として、原水に脈動を与えればよい。なお、脈動G値をどのくらい高くすればよいかについては、原水の温度と処理水の温度との差や、原水濁度の上昇率、目的とする処理水水質等、装置の運転条件に基づいて実験や試運転等により決定することができる。
【0031】
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
G=√{(A・v)/(2ν・V)}
A:噴出面積(流出口面積)(m
v:噴出流速(m/s)
ν:動粘性係数(原水)(m/s)
V:混和部(阻流板42より下部)容量(m
【0032】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法によれば、装置の立ち上げ時間を、従来の立上げ方法に比べて、1/8〜1/2程度にまで短縮することができ、例えば、10時間〜40時間程度とすることができる。
【0033】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法によれば、立上げのときの処理水の回収率を、従来の立上げ方法では95〜97%であるのに対して、ほぼ100%とすることができる。
【0034】
次に、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置1の動作について説明する。
【0035】
沈静工程終了後、凝集剤が添加された原水は、原水導入管22を通して塔20に送液される。真空ポンプ46の駆動およびバキュームブレーカ48の開閉によって、塔20内の真空と脱真空とを繰り返すことにより、塔20内の原水の落水および水位上昇が繰り返されて、水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この原水分配管30の流出口から原水が流出される際の脈動により凝集沈澱室14の水は撹拌を受け、原水中の懸濁物質は凝集しフロックが形成される。凝集沈澱室14のスラッジブランケットゾーンには、フロック群が高濃度に懸濁平衡されて、スラッジブランケット層34が形成されている。スラッジブランケット層34は次第に高さを増してくるが、仕切り板18は、スラッジブランケット層34の上面高さを規定するものであり、すなわち、スラッジブランケット層34の上面高さは、仕切り板18の高さによって決定される。原水はこのスラッジブランケット層34内を上向流で通過する際、下部で形成されたフロックがスラッジブランケット層34中の既存のフロックと接触、吸合することにより、フロックが除去された除濁水が傾斜装置40を上向流で通過して、処理水として少なくとも1つの処理水排出管28から排出される。
【0036】
仕切り板18によって仕切られた濃縮室16内および濃縮室16の上部は上昇流がほとんど起こらないので、スラッジブランケット層34の上面の余剰のフロックは仕切り板18の上端を越流して濃縮室16内に貯留、濃縮され、スラッジブランケット層34の高さはほぼ一定に保たれる。余剰の濃縮されたフロックは、汚泥として汚泥排出管26を通して適切な間隔で、例えば定期的に系外に排出される。凝集沈澱室14の底部にフロックが堆積した場合には、汚泥として汚泥排出管24を通して適切な間隔で、例えば定期的に系外に排出されてもよい。
【0037】
脈動発生手段としては、原水に脈動を付与することができるものであればよく、特に制限はない。脈動発生手段としては、図1に示す真空ポンプを用いる方式の他に、図2に示す凝集沈澱装置3のようにサイフォンを用いる方式、図3に示す凝集沈澱装置5のように回転弁58を用いる方式のものであってもよい。
【0038】
図2に示す凝集沈澱装置3では、塔20の頂部にサイフォンを備えるサイフォン装置52が設置され、原水導入管54はサイフォン装置52に接続されている。凝集剤が添加された原水は、原水導入管54を通してサイフォン装置52に送液される。サイフォン装置52においてサイフォンの作用によって、サイフォン装置52内の水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この場合、ダンパー弁56の開度を変えることによって、脈動強度を変えることができる。
【0039】
図3に示す凝集沈澱装置5では、原水導入管22の途中に回転弁58が接続されている。凝集剤が添加された原水は、原水導入管22を通して塔20に送液される。回転弁58の作用によって、塔20内の水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この場合、回転弁58の回転速度を変えることによって、脈動強度を変えることができる。
【0040】
これらのうち、脈動発生手段としては、脈動の制御がしやすい、装置高さを抑えることができる等の点で、真空ポンプを用いる方式が好ましい。
【0041】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法が適用されるスラッジブランケット型凝集沈澱装置として、脈動発生装置を備える凝集沈澱装置を例として説明したが、これらに限定されるものではなく、スラッジブランケット型の凝集沈澱装置であれば本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法が適用される。
【0042】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法が適用されるスラッジブランケット型凝集沈澱装置において処理対象となる原水は、例えば、上水、用水、河川水、湖沼水、各種排水等である。
【0043】
処理対象となる原水の濁度は、例えば、1度〜5000度の範囲であり、本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の立上げ方法が適用されるスラッジブランケット型凝集沈澱装置によって、処理水の濁度を例えば1度未満に低減することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例および比較例>
図4に示すパイロットスケールの実験装置を2台作製し、実原水を用いて装置が空の状態から立上げを行い、従来法(比較例)との比較を行った。図5に示すフローで立上げ実験を行い、通水条件は以下の通りとした。
【0046】
[実験条件]
高速凝集沈澱槽 :800mm×900mm×4000mm
濃縮室高さ :1000mm
原水 :河川水
原水濁度 :3〜7度
原水水温 :15℃
凝集剤 :ポリ塩化アルミニウム(PAC)
凝集剤注入率 :25mg/L
凝集pH :7
【0047】
[立上げ実験:実施例]
(水張り工程終了後の工程)
脈動付与工程:2時間(落水10秒、上昇30秒)
沈静工程 :10時間
通水工程 :沈静工程終了後、LV2.5m/hで通水開始
通水流量 :1.5m/h
【0048】
[立上げ実験:比較例]
(水張り終了後の工程)
捨水工程 :3時間(処理水濁度が2度未満となるまで実施)
通水工程 :通水LVを下記の通り段階的に上昇
LV1m/h×24時間→LV1.5m/h×24時間→LV2m/h×24時間→LV2.5m/h
通水流量:0.9〜1.5m/h
【0049】
立上げ実験の経時変化を図6に、通水開始後4日間の造水量を図7に示す。比較例では、通水初期、LVを抑えた運転をしているにも関わらず、処理水中に微細フロックの漏洩が認められ、濁度が高い状態にあった。後段の砂ろ過への負荷を減らすため、処理水濁度2度未満とするためには、通水開始から3時間捨水を行う必要があった。それに対して、実施例では、通水開始直後に処理水濁度がやや上昇する傾向が見られたものの、最大で1.5度程度であり、捨水工程を行わなくても、定格LV2.5m/hでの通水が可能となった。それぞれ水張り終了後から4日間の造水量を比較すると、図7に示すようになり、実施例では比較例と比べて造水量が27%程度増加した。
【0050】
また、沈静工程を行う前に脈動を行わない場合(実施例1)と沈静工程を行う前に脈動を行う場合(実施例2)とを比較する脈動効果の確認実験の結果を図8に示す。脈動を行わない場合(実施例1)も立上げ時間(定格LVにて処理水濁度1度未満となる時間)は、比較例の72時間と比べて29時間に削減できたが、さらに沈静工程を行う前に脈動を行う(実施例2)ことにより立上げ時間はさらに21時間まで削減することができた。
【0051】
このように、実施例の方法により、比較例と比較して、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の早期立上げが可能となり、運転管理が大幅に簡易化され、水回収率が向上した。沈静工程を行う前に脈動を行うと、スラッジブランケット型凝集沈澱装置のより早期の立上げが可能となった。
【符号の説明】
【0052】
1,3,5 凝集沈澱装置、10 槽、12 脈動発生装置、14 凝集沈澱室、16 濃縮室、18 仕切り板、20 真空塔、22,54 原水導入管、24,26 汚泥排出管、28 処理水排出管、30 原水分配管、32 給水ダクト、34 スラッジブランケット層、36 撹拌ゾーン、40 傾斜装置、42 阻流板、44 水位計、46 真空ポンプ、48 バキュームブレーカ、50 急速撹拌槽、52 サイフォン装置、56 ダンパー弁、58 回転弁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8