(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の合成単結晶ダイヤモンドを被削材との接触部分に用いた、切削バイト、フライスワイパー、エンドミル、ドリル、リーマー、カッター、ドレッサー、ワイヤーガイド、伸線ダイス、ウォータージェットノズル、ダイヤナイフ、ガラス切りならびにスクライバーからなる群から選択される工具。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本願発明の実施形態の説明]
初めに、本発明の実施の形態を列記して説明する。なお、本明細書中において、個別の方向を[]で示し、結晶幾何学的に等価な方向を含む総称的な方向を<>で示し、個別の面方位を()で示し、結晶幾何学的に等価な面方位を含む総称的な面方位を{}で示す。
【0017】
本発明の第1の態様は、窒素原子を含む単結晶ダイヤモンドであって、前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は、0.02%以上40%未満であり、好ましくは0.1%以上20%以下である、単結晶ダイヤモンドである。
【0018】
本発明の第1の態様の単結晶ダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、孤立置換型窒素原子数の割合を上記の範囲とすることで、硬度および耐欠損性がバランス良く向上する。
【0019】
本発明の第1の態様の単結晶ダイヤモンドにおいて、前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度は0.5ppm以上100ppm以下であり、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子の濃度は10ppb以上8ppm以下であることが好ましい。これにより、単結晶ダイヤモンドの硬度および耐欠損性が、さらにバランス良く向上する。
【0020】
本発明の第1の態様の単結晶ダイヤモンドにおいて、{100}面における<100>方向のヌープ硬度は、80GPa以上125GPa以下であることが好ましい。この硬度は、従来のCVD法により作製した単結晶ダイヤモンドよりも硬度が大きいため、単結晶ダイヤモンドを工具材料に用いた場合、工具の耐摩耗性が向上する。
【0021】
本発明の第1の態様の単結晶ダイヤモンドにおいて、直角のエッジ加工時の稜線1mm当たりの欠損の発生は、1μm以上の大きさの欠損が2個以下、かつ、10μm以上の大きさの欠損が0個であることが好ましい。欠損の発生が前記範囲内にあることで、硬度と耐欠損性のバランスが良好となり、単結晶ダイヤモンドを工具材料に用いた場合、工具の耐摩耗性および耐欠損性がバランス良く向上する。ここで、直角のエッジ加工は、メタルボンドの研磨盤上で、1.2km/分の速度で1時間研磨して行う。単結晶ダイヤモンドの(100)面(オフ角は15°以内の面)を研磨した後、その表面にほぼ垂直に加工して、直角のエッジ加工とする。
【0022】
なお、高温高圧合成法により作製した高純度単結晶ダイヤモンドは、ヌープ硬度は100GPaを超えるものの、直角のエッジ加工時の欠損の発生に関しては、1μm以上の大きさの欠損が3個/mm以上であり、十分ではなかった。高温高圧合成法により作製した窒素含有単結晶ダイヤモンドは、耐欠損性に関しては、本発明と同等であったが、ヌープ硬度が95GPa未満であり、硬度が不十分であった。
【0023】
本発明の第1の態様の単結晶ダイヤモンドにおいて、前記単結晶ダイヤモンドは、1300℃以上の真空中でアニール処理されて得られることが好ましい。アニール処理を行うことにより、単結晶ダイヤモンド中の内部原子が再構成され、単結晶ダイヤモンドは、優れた硬度を維持しつつ、クラックの伝播が抑制される。
【0024】
本発明の第2の態様は、化学気相合成法による本発明の第1の態様の単結晶ダイヤモンドの製造方法であって、主面の表面粗さ(Ra)が0.006μm以上10μm以下の基板を準備する工程と、前記基板上に単結晶ダイヤモンドを成長させる工程とを含み、前記単結晶ダイヤモンドを成長させる工程の気相中、水素ガス濃度に対するメタンガス濃度の割合は7%以上30%以下であり、前記メタンガス濃度に対する窒素ガス濃度の割合は0.02%以上10%以下である、単結晶ダイヤモンドの製造方法である。主面の表面粗さ(Ra)は、100μm角エリアで測定した表面粗さを指し、その測定中心が基板表面の中央部(面重心の500μm半径内)であるものである。表面粗さは、基板面で均質であることがさらに好ましい。ここで均質とは、基板表面の中央部(面重心の500μm半径内)と、周辺部(基板表面の端から1mm以内に測定中心がある位置)の少なくとも1ケ所、好ましくは3ケ所以上、さらに好ましくは5ケ所以上とのそれぞれにおける100μm角エリアで測定した表面粗さが、これらの測定値の中央値の1/3倍から3倍までの範囲にある状態である。さらに基板の形状は、主面が一辺3mm以上の正方形又は直方形であることが好ましい。
【0025】
本発明の第2の態様の単結晶ダイヤモンドの製造方法によれば、本発明の第1の態様の単結晶ダイヤモンドを得ることができる。
【0026】
本発明の第2の態様の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、基板の主面は、{001}面に対するオフ角が0°以上15°以下であることが好ましい。
【0027】
これによると、単結晶ダイヤモンドを基板上に効率的に厚く形成することができる。さらに単結晶ダイヤモンドの均質性が向上する。
【0028】
本発明の第2の態様の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、種基板の主面は、(001)面に対して±[100]方向および±[010]方向の少なくともいずれかの方向に平行な溝を有することが好ましい。
【0029】
基板の主面が上記の溝を有すると、その上への成長過程で、すぐに溝は埋まるが、溝が埋まった成長後のその表面は単結晶ダイヤモンド中に取り込まれる全窒素原子の量を大きくすることができるものとなる。さらに、全窒素原子数に対する孤立置換型窒素原子数の割合を小さくすることができるものとなる。
【0030】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る単結晶ダイヤモンドおよびその製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0031】
<単結晶ダイヤモンド>
本発明の一実施の形態において、単結晶ダイヤモンドは窒素原子を含み、前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は、0.02%以上40%未満であり、好ましくは0.1%以上20%以下である。
【0032】
前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度は0.5ppm以上100ppm以下であり、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子の濃度は10ppb以上8ppm以下であることが好ましい。より好ましくは、全窒素原子の濃度は5ppm以上70ppm以下であり、孤立置換型窒素原子の濃度は50ppb以上4ppm以下である。さらに好ましくは、全窒素原子の濃度は10ppm以上50ppm以下であり、孤立置換型窒素原子の濃度は200ppb以上2ppm以下である。
【0033】
本実施形態において、単結晶ダイヤモンドは不純物として窒素原子を含む。単結晶ダイヤモンド中に窒素原子が存在すると、単結晶ダイヤモンドの結晶中に欠陥や格子歪みが生じる。一般的に、単結晶ダイヤモンドはクラックが発生した場合にクラックが伝播しやすく、このため耐欠損性が不十分である。一方、ダイヤモンド結晶中に欠陥や格子歪みが存在すると、この欠陥や格子歪みがクラックの伝播を抑制するため、ダイヤモンド結晶の耐欠損性が向上する。したがって、本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、クラックの伝播を抑制でき、優れた耐欠損性を有することができる。また本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、工具材料として用いた場合に、工具の耐欠損性を向上させることができる。
【0034】
本発明の一実施の形態において、単結晶ダイヤモンドは窒素原子を含み、前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は、0.02%以上40%未満である。全窒素原子数に対する孤立置換型窒素原子数の割合が0.02%以上40%未満の範囲であると、単結晶ダイヤモンドにアニール処理を施した場合などによる内部原子の再構成で、単結晶ダイヤモンドは優れた硬度を維持しつつ、クラックの伝播を抑制することができる。なお、アニール処理は、1300℃以上の真空中で行われる。
【0035】
本発明者らは、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する孤立置換型窒素原子数の割合が、硬度及び耐欠損性に大きな影響を与えることを見い出した。さらに、本発明者らは、本発明の単結晶ダイヤモンドに真空中でアニール処理を施すことにより、単結晶ダイヤモンドの特性が改善することを見い出した。アニール処理による特性改善効果を得るためには、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する孤立置換型窒素原子数の割合が、所望の範囲、具体的には0.02%以上40%未満にあることが重要である。該割合が前記の範囲から外れる場合は、アニール処理を施しても、単結晶ダイヤモンドの硬度は向上するものの、欠けが増えるなど、特性が劣化するからである。
【0036】
前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は、0.1%以上20%以下が好ましい。全窒素原子数に対する孤立置換型窒素原子数の割合が0.1%以上20%以下の範囲であると、単結晶ダイヤモンドにアニール処理を施さなくても、単結晶ダイヤモンドは優れた硬度を維持しつつ、クラックの伝播を抑制することができる。全窒素原子数に対する孤立置換型窒素原子数の割合は、0.5%以上15%以下がさらに好ましく、1%以上10%以下がよりさらに好ましい。なお、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、孤立置換型窒素原子数の割合が、0.02%以上40%未満の範囲外であると、単結晶ダイヤモンドにアニール処理を施しても、高硬度で耐クラック伝播性に優れた単結晶ダイヤモンドは得られない。
【0037】
前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度は0.5ppm以上100ppm以下であることが好ましい。
【0038】
単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度が0.5ppm未満であると、ダイヤモンド結晶中の欠陥や歪みの量が少なく、クラックの伝播を十分に抑制することができない。一方、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度が100ppmを超えると、ダイヤモンド結晶中の欠陥や歪みの量が多くなりすぎ、硬度が低下する。単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度は、5ppm以上70ppm以下がより好ましく、10ppm以上50ppm以下がさらに好ましい。単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)によって測定した値である。
【0039】
単結晶ダイヤモンド中の窒素は、その存在形態により置換型窒素原子と非置換型窒素原子に分類することができる。
【0040】
置換型窒素原子とは、ダイヤモンド結晶中の炭素原子の位置に置換して存在する窒素原子である。置換型窒素原子は、ダイヤモンド結晶中の窒素の配置により、さらに、孤立置換型窒素原子、ダイマー置換型窒素原子、テトラマー置換型窒素原子などに分類することができる。
【0041】
孤立置換型窒素原子とは、ダイヤモンド結晶中の炭素原子の位置に窒素原子が孤立して置換しているものであり、Ib型ダイヤモンド中に存在する。孤立置換型窒素原子を含む単結晶ダイヤモンド中には、窒素原子由来の不対電子が存在するため、たとえばESR分析(ESR:Electron Spin Resonance、電子スピン共鳴)で孤立置換型窒素原子の濃度を測定することができる。ESRでは、孤立置換型窒素以外にも不対電子を有する欠陥などの信号も検出するが、g値によって分離するか、信号の緩和時間によって分離する。
【0042】
ダイマー置換型窒素原子は窒素2原子ペアともいい、2つの窒素原子が共有結合をし、かつ、炭素原子と置換しているものであり、IaA型ダイヤモンド中に存在する。テトラマー置換型窒素原子は窒素4原子凝縮ともいい、4つの窒素原子が1つの空孔に隣接して存在し、かつ、炭素原子と置換しているものであり、IaB型ダイヤモンド中に存在する。ダイマー置換型窒素原子およびテトラマー置換型窒素原子を含む単結晶ダイヤモンド中には不対電子が極少量しか存在しない。したがって、ダイマー置換型窒素原子およびテトラマー置換型窒素原子は、ESR分析を行うと非常に微弱な吸収しか示さない。
【0043】
非置換型窒素原子とは、単結晶ダイヤモンド中に存在する窒素原子のうち、置換型窒素原子に該当しないものである。非置換型窒素原子は、単結晶ダイヤモンド中で炭素原子同士の結合を阻害しつつ、隣接する炭素原子または窒素原子とファンデルワールス力による弱い結合力で結合している。単結晶ダイヤモンドにクラックなどの外部からの力が加わった場合、非置換型窒素原子は容易にその配置がずれるため、クラックの伝播が抑制される。また、単結晶ダイヤモンド中に非置換型窒素原子が存在すると、単結晶ダイヤモンド中に空孔が形成される。単結晶ダイヤモンド中に空孔が存在すると、空孔部分においてクラックの伝播が抑制される。すなわち、単結晶ダイヤモンド中に非置換型窒素原子が存在すると、クラックの伝播を抑制することができる。
【0044】
本発明の一実施の形態において、単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子の濃度は10ppb以上8ppmが好ましい。孤立置換型窒素原子は、単結晶ダイヤモンドの結晶構造自体に大きな影響を与えないため、クラックの伝播の抑制に寄与しない。一方、非置換型窒素原子は、単結晶ダイヤモンドにおいてクラックの伝播を抑制することができる。したがって、単結晶ダイヤモンド中に存在する窒素原子のうち、クラックの伝播の抑制に寄与しない孤立置換型窒素原子の濃度を小さくすることで、非置換型窒素原子によるクラックの伝播の抑制効果を向上させることができる。単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子の濃度が10ppb未満であると非置換型窒素原子も導入し難くなる。したがって、孤立置換型窒素原子は、ある程度の混入が必要である。一方、単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子の濃度が8ppmを超えると、結晶各部の結合力が弱くなり、却ってクラックを助長する。クラックの抑制効果と硬度とのバランスの観点から、単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子の濃度は、30ppb以上5ppm以下が好ましく、50ppb以上4ppm以下が好ましく、100ppb以上800ppb以下が好ましく、200ppb以上2ppm以下がさらに好ましい。単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子の濃度はESR分析によって測定した値である。
【0045】
本発明の一実施の形態において、単結晶ダイヤモンドは、{100}面における<100>方向のヌープ硬度は、80GPa以上125GPa以下であることが好ましく、95GPa以上120GPa以下であることがさらに好ましく、100GPa以上120GPa以下であることがさらに好ましい。この硬度は、ヌープ型の圧子を10〜20Nでダイヤモンド表面に押し付けた際の圧痕の大きさから求めることができる。硬度が前記範囲内にある単結晶ダイヤモンドは、従来用いられてきた窒素を含む天然ダイヤモンドまたは高温高圧ダイヤモンド単結晶よりも硬度が大きく、耐摩耗性が優れている。
【0046】
単結晶ダイヤモンドは、直角のエッジ加工時の欠損によって耐欠損性を評価できる。直角のエッジ加工は、通常のメタルボンドの研磨盤上で、1.2km/分の速度で1時間研磨して行う。これは通常のダイヤモンドを平坦にする加工条件である。単結晶の(100)面(オフ角は15°以内の面)を研磨した後、その表面にほぼ垂直に加工して、直角のエッジ加工とする。時間はあまり大きくは影響しない。時間が長くとも、新しい面を平坦に加工してゆくからである。垂直の稜線から内側に向かって1mmが平坦になる時間で十分である。耐欠損性は稜線の単位長さ(1mm)当たりに存在する欠損の大きさおよび個数で評価する。なお、欠損の大きさとは、1μmより小さい(高い)分解能の観察手段(例えば、走査型電子顕微鏡:SEM)で観察して、稜線の直線性から0.3μm以上離れた部分(欠損部)の長さを意味する。
【0047】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、直角のエッジ加工時の稜線1mm当たりの欠損の発生は、1μm以上の大きさの欠損が2個以下、かつ、10μm以上の大きさの欠損が0個であることが好ましい。1μm以上の大きさの欠損は稜線1mm当たり1個以下がさらに好ましく、稜線1mm当たり0個が最も好ましい。
【0048】
<単結晶ダイヤモンドの製造方法>
本発明の一実施の形態における単結晶ダイヤモンドは、たとえば、以下の方法で作製することができる。
【0049】
[基板の準備]
はじめに、基板として、高温高圧合成法または化学気相合成法によって作製された単結晶ダイヤモンドを準備する。高温高圧合成法によって作製された単結晶ダイヤモンドは、結晶歪みが比較的少ないため好ましい。基板の厚さは、取り扱いの観点から100μm以上が好ましく、入手の容易性から3mm以下が好ましい。基板の厚さとは、基板主面の中心近傍で測定した厚さとする。
【0050】
次に基板の主面の表面粗さ(Ra)を0.006μm以上10μm以下に調整する。ここで、表面粗さ(Ra)とは算術平均粗さを意味し、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、以下の式(1)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0052】
化学気相合成法では、エピタキシャル成長させる単結晶ダイヤモンドの均質性を高めるために、基板表面は機械研磨などにより平滑化、清浄化されるのが一般的である。一方、本発明の一実施の形態においては、基板として、表面が粗面化され、表面粗さ(Ra)が0.006μm以上10μm以下の単結晶ダイヤモンド基板を用いる。基板の表面を粗面化して凹凸を形成すると、基板上に単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させる際に、該凹凸が単結晶ダイヤモンドへの不純物窒素の混入や単結晶ダイヤモンド中の空孔の形成の起点となる。したがって、得られた単結晶ダイヤモンドには窒素原子および空孔が含まれる。単結晶ダイヤモンド中の窒素原子や空孔はクラックの伝播を抑制することができるため、単結晶ダイヤモンドは優れた耐欠損性を有することができる。
【0053】
なお、単結晶ダイヤモンドに不純物窒素を混入したり空孔を形成するための方法としては、電子線照射、中性子線照射、イオン注入などが一般的である。しかし、これらの方法は、照射によって弾き飛ばされた過剰な炭素がグラファイト成分となるため、単結晶ダイヤモンドの硬度が小さくなり、耐摩耗性が低下する。一方、表面が粗面化された基板を用いて単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させると、単結晶ダイヤモンド中にグラファイト成分がほとんど形成されないため、単結晶ダイヤモンドの硬度を低下させることなく、耐欠損性を向上することができる。単結晶ダイヤモンド中のグラファイトの有無は、たとえば、X線回折、ラマン分光法、電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy−Loss Spectroscopy)、X線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)、カソードルミネッサンス(CL:Cathode Luminescence)によって確認できる。
【0054】
基板の表面粗さ(Ra)が0.006μm未満であると、エピタキシャル成長時に不純物窒素の混入や空孔の形成が不十分となり、アニール処理を施しても、得られた単結晶ダイヤモンドの耐欠損性を向上することができない。一方、基板の表面粗さ(Ra)が10μmを超えると、単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させることができない。基板の表面粗さ(Ra)は0.03μm以上10μm以下が好ましく、0.05μm以上1μm以下がさらに好ましい。また、基板の表面粗さ(Ra)は、0.05μm以上10μm以下が好ましく、0.1μm以上5μm以下が好ましく、0.5μm以上1μm以下が好ましい。基板の表面粗さ(Ra)は、走査型白色干渉の原理を使った顕微鏡によって測定された値である。
【0055】
基板の表面を粗面化する方法は特に限定されない。たとえば、メタルボンド砥石を使い、通常のダイヤモンドを研磨する方法を用いて、研磨速度を定常的な動摩擦係数よりも10〜30%高い係数になるように調整して、<100>方向に研磨することによって基板の主面に研磨傷の溝を形成する方法が挙げられる。あるいは、通常の平坦研磨後に、レーザー、フォトリソグラフィー、またはメタルマスクを用いたエッチングによって、アスペクト比(深さ/幅比)が2以上の溝を形成し、その後、窒素を含まない条件で、ダイヤモンドを10分〜60分、好ましくは0.5〜5時間、溝の埋まり具合(溝の幅と成長速度)に合わせて合成することが有効である。単結晶ダイヤモンドがこのように種基板の溝を埋める過程でできた表面構造を有することで、窒素を特異的に含有し、単結晶ダイヤモンドの耐欠損性が向上する。レーザーでは、溝入れの加工以外にも、表面をスライスするように表面にほぼ平行に加工するような直接表面を荒らす加工も可能である。しかし、レーザーにより得られる表面粗さRaは5μm以上となる。本実施の形態における表面の粗さは、単純に溝を形成するというだけのものではなく、その後のノンドープエピタキシャル成長によって溝を埋めることで、隙間が閉じた部分に段差が生じることを利用して、表面の粗さを制御することが重要である。この方法では溝の幅が同じ場合は、基板のオフ角に依存して表面の粗さが大きくなり、0〜15°のオフ角が、主面の表面粗さ(Ra)を0.006μm以上10μm以下に形成しやすいため好ましい。フォトリソグラフィーを使用すると、表面粗さを面内で均一に形成できるので都合がよい。機械研磨を使用する場合は、表面粗さを面内で均一に形成することが重要であるので、荷重や研磨方向などを制御しなければならない。
【0056】
基板の主面の溝は、(001)面に対して±[100]方向および±[010]方向の少なくともいずれかの方向に平行であることが好ましい。溝の方向が、(001)面に対して±[110]方向および[011]の少なくともいずれかの方向であると、基板を自立させた時に割れやすくなるため好ましくない。溝の密度は、3本/mm以上1000本/mm以下であることが、単結晶ダイヤモンドへの窒素原子の混入と空孔の形成の観点から好ましい。溝の密度は、30本/mm以上100本/mm以下がさらに好ましい。
【0057】
基板の主面は、{001}面に対するオフ角が0°以上15°以下であることが好ましい。オフ角が0°以上15°以下であると、基板の主面上にエピタキシャル成長させて単結晶ダイヤモンドを得ようとした時の結晶成長モードである島状成長とステップフロー成長のうち、低靭性の要因となるステップフロー成長を抑制することができる。ステップフロー成長の抑制効果を向上させ、膜成長時に不純物を導入するという観点から、前記オフ角は7°以下が好ましく、3°以下がさらに好ましい。一方、オフ角が大きい方が、機械研磨や、レーザーやフォトリソグラフィーによる溝入れや、その後のノンドープエピタキシャル成長後の表面形状改質によっても、最大表面粗さ(Rmax)が大きくなる。すなわち、その1/3〜1/30の値の表面粗さ(Ra)も大きくなる。この表面の荒れを大きくするという観点でみると、オフ角は0.5°以上が好ましく、5°以上が好ましい。以上を総合的に勘案すると、0.5°以上8°以下が好ましく、2°以上7°以下がさらに好ましい。
【0058】
[単結晶ダイヤモンドの成長]
次に、基板上に単結晶ダイヤモンドを成長させる。成長方法は特に限定されず、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、直流アーク放電プラズマ法などを用いることができる。中でも、マイクロ波プラズマCVD法は、意図しない不純物の混入が少ないため好ましい。
【0059】
マイクロ波プラズマCVD法によるダイヤモンドのエピタキシャル成長においては、原料ガスとして水素ガス、メタンガス、窒素ガスを合成炉内に導入して、炉内圧力を4kPa以上53.2kPa以下に保ち、周波数2.45GHz(±50MHz)、あるいは915MHz(±50MHz)のマイクロ波を電力100W〜60kW投入することによりプラズマを発生させて、基板上に活性種を堆積させることにより単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させることができる。
【0060】
炉内圧力は、4kPa以上53.2kPa以下が好ましく、8kPa以上40kPa以下がさらに好ましく、10kPa以上20kPa以下がさらに好ましい。炉内圧力が4kPa未満であると成長に時間がかかったり、多結晶が成長しやすくなったりする。一方、炉内圧力が53.2kPaを超えると放電が不安定になったり、成長中に1ケ所に集中したりして、長時間の成長が困難となる。
【0061】
基板の温度は、800℃以上1300℃以下であることが好ましく、900℃以上1100℃以下であることがさらに好ましい。基板の温度が800℃未満であると成長に時間がかかる。一方、基板の温度が1300℃を超えるとグラファイトが成長しやすくなる。
【0062】
単結晶ダイヤモンド合成する気相中、水素ガス濃度に対するメタンガス濃度の割合は7%以上30%以下であり、メタンガス濃度に対する窒素ガス濃度の割合は0.02%以上10%以下である。ここで、ガス濃度の割合は、反応炉中の各ガスのモル%に基づき算出される値であり、標準状態のガス流量比(割合)に等しい。これにより、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合が、0.02%以上40%未満である単結晶ダイヤモンドを得ることができる。さらに、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子の濃度が0.5ppm以上100ppm以下、かつ、孤立置換型窒素原子の濃度が10ppb以上8ppm以下である単結晶ダイヤモンドを得ることができる。水素ガス濃度に対するメタンガス濃度の割合は10%以上20%以下がさらに好ましく、10%以上15%以下がさらに好ましい。メタンガス濃度に対する窒素ガス濃度の割合は0.1%以上5%以下がさらに好ましく、0.5%以上10%以下が好ましく、1%以上10%以下が好ましい。さらに、窒素ガス濃度Cn(%)とメタンガス濃度Cc(%)とが、以下の式(2)の関係を満たすことが好ましい。
A+B×log10Cn=Cc 式(2)
(式(2)中、10≦A≦20、2≦B≦7である。)
窒素ガス濃度Cn(%)とメタンガス濃度Cc(%)とが上記式(2)の関係を満たすと、単結晶ダイヤモンドの硬度を維持しつつ、耐欠損性を向上させることができる。
【0063】
[単結晶ダイヤモンドの分離]
次に、エピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンドを基板から分離して、単結晶ダイヤモンドを得る。分離方法は、たとえば、レーザー照射により切断する方法、イオン注入で予め分離境界を形成しておき、イオン注入面上にダイヤモンドを合成し、その後イオン注入の分離境界面で分離する方法などが挙げられる。
【0064】
得られた単結晶ダイヤモンドは、従来の化学気相合成法によって作製された単結晶ダイヤモンドと同等の硬度を維持したまま、耐欠損性が向上している。
【0065】
<単結晶ダイヤモンドを用いた工具>
本発明の一実施の形態において、単結晶ダイヤモンドはダイヤモンド製品に好適に用いることができる。具体的には、切削バイト(ダイヤモンドバイト)、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ(フライスワイパー)、切削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、カッター、ウォータージェットノズル、ダイヤナイフ、ガラス切りなどの切削工具に用いることができる。また、切削工具に限られず、研削工具、耐摩工具、部品などにも用いることができる。研削工具としては、ドレッサーなどを挙げることができる。耐摩工具、部品としては、伸線ダイス、スクライバー、水または粉末噴出ノズル、ワイヤーガイド、また放熱部品(ヒートシンク)やX線窓材などを挙げることができる。後者の工具に関係のない部品ではあるが、レーザーマウント用の精度を有する端面(鏡面加工を要する)や応力のかかる窓材では、欠損が起点となって割れることを極力防ぐ必要の成る部品では耐欠損性を重要とするからである。
【実施例1】
【0066】
[試料1〜5]
(基板の準備)
基板として、高温高圧合成法によって作製されたIb型の単結晶ダイヤモンドからなる基板(厚み500μm、5mm角)を準備した。この基板の主面の面方位は(001)面であった。
【0067】
準備した基板の主面に関し、(001)面から[010]方向に2°オフするように機械研磨した。その後、試料1〜試料4で用いる基板は、基板の表面が表1に示す表面粗さになるようにメタルボンドダイヤ砥石で速度を制御して研磨傷を形成し、粗面化した。試料5で用いる基板は、従来のCVD法で用いる基板と同様の処理を行った。具体的には、研磨傷が微分干渉顕微鏡によって観察できない程度にまで機械研磨した後、さらに、酸素ガスおよびCF
4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)により厚み方向に2μmエッチングした。
【0068】
(単結晶ダイヤモンドの成長)
作製した基板を公知のマイクロ波プラズマCVD装置内に配置して、単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させた。成長条件を表1に示す。なお、マイクロ波周波数は2.45GHz、マイクロ波電力は5kW、成長時間は60時間であった。
【0069】
成長の結果、厚さが1.2mmの気相合成単結晶ダイヤモンドが得られた。
(単結晶ダイヤモンドの分離)
基板と気相合成単結晶ダイヤモンドとをレーザーで切断、分離し、その後、平坦に通常の研磨をした。
【0070】
(測定)
得られた単結晶ダイヤモンドおよび、比較例として準備した高温高圧合成Ib型ダイヤモンドについて、全窒素原子濃度、孤立置換型窒素原子濃度、ヌープ硬度および耐欠損性を測定した。
【0071】
全窒素原子濃度は、SIMSによって測定した。
孤立置換型窒素原子濃度は、ESR分析によって測定した。
【0072】
硬度は、単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>方向に荷重5Nで5点圧痕をつけ、得られた圧痕幅の最大と最小を除いた3点の平均値を、あらかじめ硬度の分かっている標準サンプル(高温高圧IIa型単結晶ダイヤモンド)の結果と比較することで求めた。
【0073】
耐欠損性は、直角のエッジ加工時の欠損によって評価した。具体的には、ダイヤモンド単結晶の(100)面(オフ角は3°以内の面)をメタルボンドの研磨盤上で、1.2km/分の速度で研磨した後、それにほぼ垂直(87〜93°の範囲)に加工して、直角のエッジ加工とする。垂直の稜線から内側に向かって1mmが平坦になるまで研磨する。稜線の単位長さ(1mm)当たりの欠けの長さおよび個数を計測した。
【0074】
結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
(評価結果)
試料1〜試料3は、表面粗さ(Ra)が0.05μm以上0.5μm以下の基板を用いて作製された単結晶ダイヤモンドであり、全窒素原子濃度が1ppm以上50ppm以下、かつ、孤立置換型窒素原子濃度が100ppb以上400ppb以下であった。これらの単結晶ダイヤモンドは、硬度が95Ga以上120GPa以下であった。耐欠損性については、長さが1μm以上の欠けが0個以上2個以下であり、長さが10μm以上の欠けが0個であった。
【0077】
試料4は、表面粗さ(Ra)が0.2μmの基板を用いて作製された単結晶ダイヤモンドであり、全窒素原子濃度が0.4ppm、かつ、孤立置換型窒素原子濃度が100ppbであった。試料4の単結晶ダイヤモンドは、硬度が110GPaであった。耐欠損性については、長さが1μm以上の欠けが5個であり、長さが10μm以上の欠けが0個であった。
【0078】
試料5は、表面粗さ(Ra)が0.005μmの基板を用いて作製された単結晶ダイヤモンドであり、全窒素原子濃度が0.2ppm、かつ、孤立置換型窒素原子濃度が80ppbであった。試料5の単結晶ダイヤモンドは、硬度が120GPaであった。耐欠損性については、長さが1μm以上の欠けが8個であり、長さが10μm以上の欠けが0個であった。
【0079】
高温高圧合成Ib型ダイヤモンドは、全窒素原子濃度が150ppm、かつ、孤立置換型窒素原子濃度が150ppb、硬度が85GPaであった。耐欠損性については、長さが1μm以上の欠けが1個であり、長さが10μm以上の欠けが0個であった。
【0080】
以上の結果から、試料1〜試料3の単結晶ダイヤモンドは、硬度および耐欠損性がバランス良く向上しており、工具として用いた場合に、優れた耐摩耗性および耐欠損性を示すと考えられる。
【実施例2】
【0081】
[試料1−1〜1−5]
(試料の準備)
試料1−1〜1−5は、それぞれ実施例1で作製した試料1〜5に、1500℃の真空中で1時間アニール処理を施して作製した。得られた試料において、耐欠損性を評価した。結果を表2に示す。なお、各試料において、アニール処理を行っても、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は変化しなかった。
【0082】
【表2】
【0083】
実施例1の評価結果に示される通り、試料1及び試料2は、大きさ1μm以上の欠損の数が、それぞれ2個、1個であった。これらの試料にアニール処理を施して得られた試料1−1及び試料1−2では、大きさ1μm以上の欠損の数がいずれも0個になり、工具にとっての性能が改善された。
【0084】
試料4は、大きさ1μm以上の欠損の数が5個であった。試料4にアニール処理を施して得られた試料1−4では、大きさ1μm以上の欠損の数が1個となり、良品になることが確認できた。
【0085】
試料5は、大きさ1μm以上の欠損の数が8個であった。試料5にアニール処理を施して得られた試料1−5では、大きさ1μm以上の欠損の数が4個となり、良品への大きな改善には至らなかった。
【0086】
上記の結果から、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、孤立置換型窒素原子数の割合は25%以下であると、アニール処理により、単結晶ダイヤモンドの耐欠損性が非常に向上することが確認された。
【0087】
なお、試料1〜5について、それぞれアニール処理を、1300℃の真空中で50時間、又は1400℃の真空中で8時間行った場合も、得られた試料について、上記と同様の結果を得られた。
【実施例3】
【0088】
[試料11〜22]
試料11〜22では、基板のオフ角、処理方法、溝幅及び表面粗さを変化させて、表4に示す条件で単結晶ダイヤモンド合成を行った。
【0089】
(基板の準備)
基板として、高温高圧合成法によって作製されたIb型の単結晶ダイヤモンドからなる基板(厚み500μm、5mm角)を準備した。この基板の主面の面方位は(001)面であった。
【0090】
準備した基板の主面に関し、(001)面から[010]方向に表3に示すような値のオフ角となるように、全ての試料を機械研磨した。その後、試料11、12、16、18、21で用いる基板は、基板の表面が表3に示す表面粗さになるようにメタルボンドダイヤ砥石で速度を制御して研磨傷を形成し、機械研磨で粗面化した(機械研磨)。試料13、14、15、17、19で用いる基板は、基板の表面が表3に示す表面粗さになるようにフォトリソグラフィーによる溝形成と、その後溝が埋まるようにダイヤモンドエピタキシャル成長を行って、粗面化した(溝埋合成)。ここで、溝を埋めるエピタキシャル成長条件は、水素ガスに対するメタンガス流量は7%、窒素ガスは添加しなかった。圧力は13kPa、基板温度は1180℃であった。試料20、22で用いる基板は、レーザー加工によって、表面をほぼ平行に(スライスするように)照射することによって、粗面化した(レーザー加工)。最後に、試料21で用いる基板は、実施例1の試料5と同じ処理をした。
【0091】
【表3】
【0092】
(単結晶ダイヤモンドの成長)
作製した基板を公知のマイクロ波プラズマCVD装置内に配置して、単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させた。成長条件を表4に示す。なお、マイクロ波周波数は2.45GHz、マイクロ波電力は5kW、成長時間は成長厚さが約1mm前後になるよう調整した。
【0093】
(単結晶ダイヤモンドの分離)
基板と気相合成単結晶ダイヤモンドとをレーザーで切断、分離し、その後、平坦に通常の研磨をした。
【0094】
(アニール)
試料11〜22について、実施例2と同様に、1500℃の真空中で1時間アニール処理を施して作製した。得られた試料において、耐欠損性を評価した。結果を表4に示す。なお、各試料において、アニール処理を行っても、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は変化しなかった。
【0095】
(測定)
全窒素原子濃度、孤立置換型窒素原子濃度、ヌープ硬度および耐欠損性に関しては、実施例1と同様な方法で測定した。結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
(評価結果)
試料11〜試料16と試料19は、表面粗さ(Ra)が0.006μm以上0.5μm以下の基板を用いて作製された単結晶ダイヤモンドであり、全窒素原子濃度が0.9ppm以上95ppm以下、かつ、孤立置換型窒素原子濃度が125ppb以上1040ppb以下であった。これらの単結晶ダイヤモンドは、硬度が82GPa以上119GPa以下であった。耐欠損性については、長さが1μm以上の欠けが0個以上2個以下であり、長さが10μm以上の欠けが0個であった。1500℃でのアニール処理を施した後には、長さが1μm以上の欠けが0個以上1個以下となった。
【0098】
試料17、試料18、試料20は、表面粗さ(Ra)が0.03μm以上9.5μm以下の基板を用いて作製された単結晶ダイヤモンドであり、全窒素原子濃度が12ppm以上80ppm以下、かつ、孤立置換型窒素原子濃度が13.6ppb以上4600ppb以下であった。これらの単結晶ダイヤモンドは、硬度が80GPa以上110GPa以下であった。耐欠損性については、長さが1μm以上の欠けが5個以上8個以下であり、長さが10μm以上の欠けが0個以上1個以下であった。1500℃のアニール処理を施した後には、長さが1μm以上の欠けが2個であり、長さが10μm以上の欠けが0個であった。
【0099】
試料21と22は、表面粗さ(Ra)が0.003μmと11μmの基板を用いて作製された単結晶ダイヤモンドであり、全窒素原子濃度が0.4ppmと110ppmかつ、孤立置換型窒素原子濃度が240ppbと11ppbであった。これらの単結晶ダイヤモンドは、硬度が125GPaと70GPaであった。耐欠損性については、長さが1μm以上の欠けが10個と30個であり、長さが10μm以上の欠けが3個と3個であった。1500℃のアニール処理を施した後には、長さが1μm以上の欠けが6個と20個であり、長さが10μm以上の欠けが2個と2個であった。
【実施例4】
【0100】
試料11〜14を切削バイト、フライスワイパー、エンドミル、ドリル、リーマー、カッター、ドレッサー、ワイヤーガイド、伸線ダイス、ウォータージェットノズル、ダイヤナイフ、ガラス切りならびにスクライバーの被削材と接する主要部分に適用し、従来の高温高圧法により合成されたIb型のダイヤモンド単結晶を適用した工具と比較したところ、いずれの試料も、従来のダイヤモンド単結晶を用いた工具よりも摩耗量が5%〜30%以上少なく、耐欠損性が同等以上(欠損が起こる箇所が1個以下)であることがわかった。本発明の範囲外の試料21を用いた工具は、摩耗量は、従来のダイヤモンド単結晶を用いた工具よりも20%程少ないが、欠損が発生しやすかった(欠損が起こる箇所が4〜7個)。
【0101】
以上の結果から、試料11〜試料16と試料19の単結晶ダイヤモンドは、硬度および耐欠損性がバランス良く向上しており、工具として用いた場合に、優れた耐摩耗性および耐欠損性を示すと考えられる。また、試料17、試料18、試料20も、耐欠損性がやや劣るもののアニール処理後には改善する特性を有しており、工具素材として優れていると考えられる。試料21、試料22は、工具用素材としては不十分と考えられる。
【0102】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。