(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752146
(24)【登録日】2020年8月20日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】6000系アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20200831BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20200831BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20200831BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20200831BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/02
C22F1/05
!C22F1/00 602
!C22F1/00 604
!C22F1/00 623
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 630B
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 684C
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686Z
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 692A
【請求項の数】23
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-546436(P2016-546436)
(86)(22)【出願日】2015年1月16日
(65)【公表番号】特表2017-508880(P2017-508880A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】US2015011815
(87)【国際公開番号】WO2015112450
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2018年1月5日
(31)【優先権主張番号】61/929,673
(32)【優先日】2014年1月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520119242
【氏名又は名称】アーコニック テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ARCONIC TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホッシュ,ティモシー エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ロング,ラッセル エス.
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−247040(JP,A)
【文献】
特開2003−027170(JP,A)
【文献】
特開平04−147951(JP,A)
【文献】
特開平07−207396(JP,A)
【文献】
特開2005−264174(JP,A)
【文献】
特開2000−178673(JP,A)
【文献】
特開平07−197219(JP,A)
【文献】
特開平07−018390(JP,A)
【文献】
特表2015−528856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延された6000系アルミニウム合金製品であって、
0.35〜0.50重量%のSiと、
0.50〜0.65重量%のMgと、
ここで、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は少なくとも1.30:1であり、
0.05〜0.24重量%のCuと、
0.05〜0.14重量%のMnと、
0.05〜0.25重量%のFeと、
最大で0.15重量%のTiと、
最大で0.15重量%のZnと、
最大で0.15重量%のZrと、
0.04重量%以下のVと、
0.04重量%以下のCrと、
からなり、残部はアルミニウム及び他の元素であって、前記他の元素のそれぞれは前記6000系アルミニウム合金中0.10重量%を超えず、前記他の元素の合計量は前記6000系アルミニウム合金中0.30重量%以下である、圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項2】
0.40〜0.50重量%のSiを有する、請求項1に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項3】
圧延された6000系アルミニウム合金製品であって、
0.30〜0.53重量%のSiと、
0.55〜0.65重量%のMgと、
ここで、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は少なくとも1.30:1であり、
0.05〜0.24重量%のCuと、
0.05〜0.14重量%のMnと、
0.05〜0.25重量%のFeと、
最大で0.15重量%のTiと、
最大で0.15重量%のZnと、
最大で0.15重量%のZrと、
0.04重量%以下のVと、
0.04重量%以下のCrと、
からなり、残部はアルミニウム及び他の元素であって、前記他の元素のそれぞれは前記6000系アルミニウム合金中0.10重量%を超えず、前記他の元素の合計量は前記6000系アルミニウム合金中0.30重量%以下である、圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項4】
Mgの重量%のSiの重量%に対する比が1.75:1以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項5】
0.22重量%以下のCuを有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項6】
0.20重量%以下のCuを有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項7】
0.19重量%以下のCuを有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項8】
少なくとも0.07重量%のCuを有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項9】
少なくとも0.09重量%のCuを有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項10】
少なくとも0.11重量%のCuを有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項11】
0.06〜0.13重量%のMnを有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項12】
0.07〜0.12重量%のMnを有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項13】
それぞれ0.03重量%以下のV及びCrを有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項14】
0.02重量%以下のVを有する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項15】
0.02重量%以下のCrを有する、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項16】
圧延された6000系アルミニウム合金製品はシート製品である、請求項1乃至15の何れかに記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項17】
圧延された6000系アルミニウム合金製品は再結晶されたシート製品である、請求項1乃至16の何れかに記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項18】
圧延された6000系アルミニウム合金製品は、人工的時効後において、LT方向の引張降伏強度が200MPa以上であり、臨界破壊ひずみ(CFS)が25%以上である、請求項1乃至17の何れかに記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項19】
圧延された6000系アルミニウム合金製品は、1.5mm〜4.0mmの厚さを有する、請求項1乃至18の何れかに記載の圧延された6000系アルミニウム合金製品。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれか一項に記載の6000系アルミニウム合金のインゴットを鋳造する工程、
前記インゴットを均質化する工程、
前記インゴットを圧延して1.5〜4.0mmの最終ゲージを有する圧延製品にする工程、
前記圧延製品を溶体化熱処理する工程であって、前記溶体化熱処理が、前記圧延製品の実質的に全てのMg2Siが固溶体に溶解するような温度及び時間で前記圧延製品を加熱することを含む、工程、
前記溶体化熱処理後に、前記圧延製品を急冷する工程
を含む、方法。
【請求項21】
前記圧延製品を人工的に時効処理する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記急冷が冷水急冷を含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1乃至19のいずれか一項に記載の6000系アルミニウム合金を連続鋳造する工程、
前記アルミニウム合金を圧延して1.5〜4.0mmの最終ゲージを有する圧延製品にする工程、
前記圧延製品を溶体化熱処理する工程であって、前記溶体化熱処理が、前記圧延製品の実質的に全てのMg2Siが固溶体に溶解するような温度及び時間で前記圧延製品を加熱することを含む、工程、
前記溶体化熱処理後に、前記圧延製品を急冷する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本特許出願は、2014年1月21日出願の「6XXX Aluminum Alloys」と題された米国特許仮出願第61/929,673号に対する優先権の利益を主張し、当該仮出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、様々な用途において有用である。しかしながら、アルミニウム合金の1つの特性を、別の特性を損なうことなく改善することは困難であるとわかることが多い。例えば、合金の強度を、その耐腐食性を低下させることなく高めることは難しい。アルミニウム合金にとって重要な他の特性としては、成形性と臨界破壊ひずみの2つが挙げられる。
【発明の概要】
【0003】
<発明の要旨>
概して、本開示は、改善された特性の組み合わせ、とりわけ改善された強度、臨界破壊ひずみ、成形性、及び/又は耐腐食性の組み合わせを有する新規6000系アルミニウム合金に関する。
【0004】
一般的に、新規6000系アルミニウム合金は、0.30〜0.53重量%のSi、0.50〜0.65重量%のMg(ここでMgの重量%のSiの重量%に対する比は少なくとも1.0:1(Mg:Si)である)、0.05〜0.24重量%のCu、0.05〜0.14重量%のMn、0.05〜0.25重量%のFe、最大で0.15重量%のTi、最大で0.15重量%のZn、最大で0.15重量%のZr、0.04重量%以下のV、及び0.04重量%以下のCrを有し、残部はアルミニウム及び他の元素である。
【0005】
この新規6000系アルミニウム合金中のケイ素(Si)及びマグネシウム(Mg)の量は、改善された特性の組み合わせ(例えば、強度、粉砕特性)と関係する場合がある。一般的に、新規6000系アルミニウム合金は、0.30〜0.53重量%のSiを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.35重量%のSiを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.375重量%のSiを含む。更に別の実施形態において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.40重量%のSiを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.425重量%のSiを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.50重量%以下のSiを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.475重量%以下のSiを含む。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金中のケイ素の標的量は、0.45重量%のSiである。
【0006】
一般的に、新規6000系アルミニウム合金は、0.50〜0.65重量%のMgを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.525重量%のMgを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.55重量%のMgを含む。更に別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.575重量%のMgを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.625重量%以下のMgを含む。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金中のマグネシウムの標的量は、0.60重量%のMgである。
【0007】
一般的に、新規6000系アルミニウム合金は、ケイ素及びマグネシウムを、Mgの重量%がSiの重量%以上になるように、すなわちMgの重量%のSiの重量%に対する比が少なくとも1.0:1(Mg:Si)となるように、含む。一実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は少なくとも1.05:1(Mg:Si)である。別の実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は少なくとも1.10:1(Mg:Si)である。更に別の実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は少なくとも1.20:1(Mg:Si)である。別の実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は少なくとも1.30:1(Mg:Si)である。一実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は1.75:1(Mg:Si)以下である。別の実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は1.65:1(Mg:Si)以下である。更に別の実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は1.55:1(Mg:Si)以下である。別の実施形態において、Mgの重量%のSiの重量%に対する比は1.45:1(Mg:Si)以下である。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金におけるMgの重量%のSiの重量%に対する比の標的は1.33:1(Mg:Si)である。
【0008】
新規6000系アルミニウム合金中の銅(Cu)の量は、改善された特性の組み合わせ(例えば、耐腐食性、強度)と関係する場合がある。一般的に、新規6000系アルミニウム合金は、0.05〜0.24重量%のCuを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.22重量%以下のCuを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.20重量%以下のCuを含む。更に別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.19重量%以下のCuを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.17重量%以下のCuを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.07重量%のCuを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.09重量%のCuを含む。更に別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.11重量%のCuを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.13重量%のCuを含む。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金中の銅の標的量は、0.15重量%のCuである。
【0009】
新規6000系アルミニウム合金中のマンガン(Mn)の量は、改善された特性の組み合わせ(例えば、成形性、結晶粒構造の制御による)と関係する場合がある。一般的に、新規6000系アルミニウム合金は、0.05〜0.14重量%のMnを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.06重量%のMnを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.07重量%のMnを含む。更に別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.08重量%のMnを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.13重量%以下のMnを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.12重量%以下のMnを含む。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金中のマグネシウムの標的量は、0.10重量%のMnである。
【0010】
鉄(Fe)は一般的に、新規6000系アルミニウム合金に、不純物として、0.05〜0.25重量%のFeの範囲で含まれる。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.10重量%のFeを含む。別の一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.15重量%のFeを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.225重量%以下のFeを含む。更に別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.20重量%以下のFeを含む。
【0011】
チタン(Ti)は、例えば、結晶粒微細化の目的で、任意追加的に新規6000系アルミニウム合金中に存在してもよい。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.005重量%のTiを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.010重量%のTiを含む。更に別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、少なくとも0.0125重量%のTiを含む。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.10重量%以下のTiを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.08重量%以下のTiを含む。更に別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.05重量%以下のTiを含む。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金中のチタンの標的量は、0.03重量%のTiである。
【0012】
亜鉛(Zn)は、この新規合金に、任意追加的に、最大で0.15重量%のZnの量で、含まれてもよい。亜鉛は、スクラップ中に存在することがあり、その除去は費用がかかる場合がある。一実施態様において、新規合金は、0.10重量%以下のZnを含む。別の実施態様において、新規合金は、0.05重量%以下のZnを含む。
【0013】
ジルコニウム(Zr)は、この新規合金に、任意追加的に、最大で0.15重量%のZrの量で、含まれてもよい。存在する場合、ジルコニウムは再結晶化を阻害する場合がある。1つの手法において、新規6000系アルミニウム合金は、0.05〜0.15重量%のZrを含む。別の手法において、ジルコニウムは、意図的に使用されない。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.10重量%以下のZrを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.05重量%以下のZrを含む。
【0014】
バナジウム(V)及びクロム(Cr)はいずれも、新規6000系アルミニウム合金において避けられることが好ましい。このような元素は高額であり、かつ/又は新規6000系アルミニウム合金中で有害な金属間粒子を形成し得る。したがって、新規6000系アルミニウム合金は、一般的に、0.04重量%以下のV及び0.04重量%以下のCrを含む。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金は、0.03重量%以下のVを含む。別の実施形態において、新規6000系アルミニウム合金は、0.02重量%以下のVを含む。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金は、0.03重量%以下のCrを含む。別の実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、0.02重量%以下のCrを含む。
【0015】
上記のように、新規アルミニウム合金の残部はアルミニウム及び他の元素である。本明細書で使用するとき、「他の元素」は、上記で特定した元素以外の周期表の任意の元素、すなわち、アルミニウム(Al)、Si、Mg、Cu、Mn、Fe、Ti、Zn、Zr、V、及びCr以外の任意の元素を包含する。新規アルミニウム合金は、任意の他の元素のそれぞれを0.10重量%以下で含んでもよく、これらの他の元素の合計量は新規アルミニウム合金中0.30重量%を超えない。一実施態様において、これらの他の元素はそれぞれ、個別に、アルミニウム合金中0.05重量%を超えず、これらの他の元素の合計量はアルミニウム合金中0.15重量%を超えない。別の実施態様において、これらの他の元素はそれぞれ、個別に、アルミニウム合金中0.03重量%を超えず、これらの他の元素の合計量はアルミニウム合金中0.10重量%を超えない。
【0016】
特に明記する場合を除き、元素量を参照する際の表現「最大」は、その元素組成が任意であることを意味し、その特定の組成上の構成要素のゼロの量を含む。特に明記しない限り、すべての組成上の割合は重量パーセント(重量%)である。
【0017】
新規6000系アルミニウム合金は、全ての展伸製品形態に使用されてもよい。一実施態様において、新規6000系アルミニウム合金は、圧延製品である。例えば、新規6000系アルミニウム合金は、シート形態で製造されてもよい。一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金から製造したシートは、1.5mm〜4.0mmの厚さを有する。
【0018】
一実施形態において、新規6000系アルミニウム合金は、インゴット鋳造及び熱間圧延を用いて製造される。一実施形態において、方法は、新規6000系アルミニウム合金のインゴットを鋳造する工程、上記インゴットを均質化する工程、上記インゴットを圧延して最終ゲージを有する圧延製品にする(熱間圧延及び/又は冷間圧延により)工程、上記圧延製品を
溶体化熱処理する工程であって、
溶体化熱処理が、圧延製品の実質的に全てのMg2Siが固溶体に溶解するような温度及び時間で圧延製品を加熱する工程を含む、工程、及び
溶体化熱処理後に、圧延製品を急冷する(例えば、冷水急冷)工程を含む。急冷後、圧延製品を人工的に時効処理してもよい。いくつかの実施形態において、圧延の間に1つ以上のアニーリング工程が完了されてもよい(例えば、最初のゲージへの熱間圧延、アニーリング、最終ゲージへの冷間圧延)。人工的に時効処理した製品は、塗装(例えば、自動車部品用)することができ、そのため塗装−焼付けサイクルに供されてもよい。一実施形態において、この新規合金から製造されたアルミニウム合金製品は、自動車に組み込まれてもよい。
【0019】
別の実施形態において、新規6000系アルミニウム合金製品は、連続鋳造によって鋳造される。連続鋳造の下流で、製品は(a)圧延(熱間及び/又は冷間)、(b)任意追加的なアニーリング(例えば、熱間圧延と任意の冷間圧延工程との間)、(c)
溶体化熱処理及び急冷、(d)任意追加的な冷間加工(
溶体化熱処理後)、並びに(e)人工的時効処理を施されてもよく、全ての工程(a)〜(e)が連続鋳造工程に対してインラインでもオフラインでもよい。連続鋳造及び関連する下流工程を用いて新規6000系アルミニウム合金を製造するいくつかの方法が、例えば、米国特許第7,182,825号、米国特許出願公開第2014/0000768号、及び米国特許出願公開第2014/036998号に記載されており、このそれぞれを、参照により本明細書にその全体を援用する。人工的に時効処理した製品は、塗装(例えば、自動車部品用)することができ、したがって塗装−焼付けサイクルに供されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
<実施例1−工業規模試験>
2つの工業規模のインゴットを鋳造し(1つは発明、1つは比較)、次いで皮むきし、次いで均質化した。インゴットの組成を下の表1に与える。次いで、インゴットを中間ゲージまで熱間圧延し、次いで、800°Fで1時間アニーリングし、次いで、最終ゲージ(2.0mm)まで冷間圧延した。次いで、圧延製品を、圧延製品の実質的に全てのMg2Siが固溶体に溶解するような温度及び時間で
溶体化熱処理した。その後、圧延製品を直ちに冷水急冷し、次いで後述のように、様々な期間で自然時効及び人工的時効処理した。続いて、引張降伏強度(TYS)、最大抗張力(UTS)、引張伸び(T.Elong.)、極限伸び(U.Elong.)、及び臨界破壊ひずみ(CFS)等の機械的特性を試験した。その結果を表2〜3に示す。TYS、UTS、T.Elong.及びU.Elong.等の機械的特性は、ASTM E8及びB557に従うか、又はテーパ付きのASTM B557試験片を使用するかのいずれかで試験した。臨界破壊ひずみ(CFS)は、上記試験から作成した工学的応力−ひずみ曲線から導出した。この応力−ひずみ曲線を用いて、最大荷重における工学ひずみ(εm)、最大荷重における工学応力(δm)及び破壊荷重における工学応力(δf)を求め、その後、次式に入力して臨界破壊ひずみ(CFS)を得た:
【数1】
CFSは、100を乗じて、ひずみの単位からパーセント単位(%)に変換してもよい。ASTM G110による耐腐食性も測定した。その結果を下の表4に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0021】
表示の通り、発明合金(合金1)は、比較合金(合金2)と比べて改善された特性を達成した。具体的には、表2及び3を参照すると、発明合金1は、比較合金2と比べて改善された臨界破壊ひずみ(CFS)を達成した。例えば、比較合金2は、人工的時効なしで30日の自然時効後に、LT方向で約19%のCFS値を示した。対照的に、発明合金1は、臨界破壊ひずみの改善を達成し、人工的時効なしで1カ月の自然時効後に、LT方向で約29%のCFS値を実現した。別の実施例として、比較合金2は、182日の自然時効及び365°Fで2時間の人工的時効後に、LT方向で約13%のCFS値を示した。対照的に、発明合金1は、この場合も臨界破壊ひずみの改善を達成し、3カ月の自然時効及び315°Fで8時間の人工的時効後に、LT方向で約28%のCFS値を実現した。したがって、本発明の合金は、時効処理条件において臨界破壊ひずみ(CFS)の改善を達成した。
【0022】
高い臨界破壊ひずみ(CFS)値は、粉砕特性の改善と相関する場合がある。例えば、より高いCFS値を実現する材料(例えば、アルミニウム合金)は、一般的に、粉砕力の結果として生じ得る密な皺(tight folds)における亀裂への耐性の改善も実現する場合がある。一実施形態において、少なくとも20%のCFS値を実現する合金は、粉砕力によって生じる密な皺(tight folds)において亀裂に耐える(例えば、亀裂を生じない)場合がある。
【0023】
表4に示すように、発明合金1は、比較合金2と比べて、両方の合金を人工的に時効した後の耐腐食性の改善を達成した。例えば、比較合金2は、195℃で45分間の人工的時効の後、26μmの平均攻撃深さを示した。対照的に、発明合金1は耐腐食性の改善を達成し、195℃で45分間の人工的時効後に16μmの平均攻撃深さを実現し、2つの部位(部位2及び3)のみで発生する耐腐食性を有した。このように、本発明の合金は、例えば、臨界破壊ひずみと耐腐食性の改善された組み合わせを達成した。
【0024】
<実施例2−追加の工業規模試験>
追加の発明合金インゴット(合金3)をインゴットとして鋳造した。その組成を下の表5に示す。
【表5】
【0025】
鋳造後、合金3のインゴットを皮むきし、次いで均質化した。次いで、インゴットを中間ゲージまで熱間圧延し、次いで、800°Fで1時間アニーリングし、次いで、2.0mm(0.0787インチ)及び3.0mm(0.118インチ)の2種類の最終ゲージまで冷間圧延した。次いで、圧延製品の実質的に全てのMg
2Siが固溶体に溶解するような温度及び時間で、圧延製品を
溶体化熱処理した。その後、圧延製品を直ちに冷水急冷し、次いで、約2カ月間、自然時効処理した。次いで、圧延製品を、様々な温度で約27時間、人工的に時効処理した。次いで、圧延製品のいくつかを約2%延伸し、その他の圧延製品は延伸しなかった。続いて、様々な製品(延伸及び未延伸の両方)について、180℃(356°F)又は185℃(365°F)のいずれかで20分間という塗装焼付けのシミュレーションに供した。次いで、圧延製品の機械的特性を試験した。種々の合金の加工条件を下の表6に与える。機械的特性を下の表7に与える。
【表6】
【表7】
【0026】
表示の通り、発明合金は、強度、延性及び耐粉砕性の組み合わせの予想外の改善を実現した。表示の通り、本発明の合金は、2.0mm及び3.0mm製品のいずれでも、高CFS値(例えば、20%超)を実現した。更に、CFS値は、シミュレーションした塗装焼付け適用(2%延伸あり又はなし)による悪影響を受けず、それ故、粉砕力を加えたときに良好な耐亀裂性を示すことも予想される。
【0027】
本開示の様々な実施形態を詳細に説明したが、それらの実施形態の変更形態及び適応形態が当業者に想到されることは明らかである。しかしながら、そのような変更形態及び適用形態は本開示の趣旨及び範囲内であることを、明確に理解されたい。