(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材が、4から12wt%のCoからなる超硬合金、任意選択的に、周期表の族IVb、Vb、及びVIbからの金属の0.3から10wt%の立方晶炭化物、窒化物、又は窒炭化物、並びに残部WCからなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の被覆切削工具インサート。
前記基材が、前記基材表面から、5から30μmの厚みを有するバインダー相に富む表面領域を含む超硬合金からなり、前記バインダー相に富む表面領域が、前記基材のコア内よりも少なくとも1.5倍高いCo含有量を有し、且つ前記基材の前記コア内の立方晶炭化物含有量の0.5倍未満の立方晶炭化物含有量を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の被覆切削工具インサート。
【発明の概要】
【0007】
本発明によれば、化学蒸着(CVD)によって堆積された1から45μm、好ましくは2から45μmの厚みのα‐Al
2O
3の、好ましくは外部の、耐摩耗層を含む1つ又は複数の層、好ましくは耐火物層からなる、最大で60μmの総厚みの被覆が上部に堆積された、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼、又は立方晶窒化ホウ素を含む基材からなる被覆切削工具インサートであって、
α‐Al
2O
3層の断面のSEM顕微鏡写真を観察したとき、
α‐Al
2O
3層が、少なくとも2つの部分、第1の厚み部分及び第1の厚み部分の直上にある第2の厚み部分を含み、
第1の厚み部分が、実質的に柱状のα‐Al
2O
3粒子構造を有し、並びに
第1の厚み部分から第2の厚み部分への遷移部分において、α‐Al
2O
3粒子のうちの25個の隣接する粒子の中から少なくとも1個、好ましくは、25個の隣接する粒子の中から少なくとも5個、より好ましくは、25個の隣接する粒子の中から少なくとも15個の粒子境界が、第1の厚み部分内の粒子境界に対して実質的に垂直な方向に方向転換を行い、実質的に垂直とは、90±45度、好ましくは、90±30度の方向転換を含む、被覆切削工具インサートが提供される。1つの実施形態では、方向転換は、45と90度の間、好ましくは、60と90度の間である。
【0008】
本発明の一実施形態では、化学蒸着(CVD)によって堆積された1から45μm、好ましくは2から45μmの厚みのα‐Al
2O
3の耐摩耗層を含む1つ又は複数の層を含む、最大で60μmの総厚みの被覆が上部に堆積された、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼、又は立方晶窒化ホウ素を含む基材からなる被覆切削工具インサートが提供され、α‐Al
2O
3層の外部表面に延在するα‐Al
2O
3結晶の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%が、基材表面の法線に対して0から35度内、好ましくは0から20度内、より好ましくは0から10度内の軸に対して垂直なファセットによって終端され、α‐Al
2O
3結晶を終端しているこれらのファセットは、好ましくは[0 0 1]結晶学的平面である。α‐Al
2O
3層の外部表面でα‐Al
2O
3結晶を終端するファセットの配向は、EBSD又は層の断面のSEM顕微鏡写真によって決定され得る。
【0009】
本発明によれば、H
2、CO
2、AlCl
3、HCl、及びXを含む反応ガス混合から化学蒸着(CVD)によって堆積された1から45μm、好ましくは2から45μmの厚みのα‐Al
2O
3の耐摩耗層を含む1つ又は複数の層を含む、最大で60μmの総厚みの被覆で、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼、又は立方晶窒化ホウ素を含む基材を被覆するステップを含み、Xが、H
2S、SF
6及びSO
2、又はこれらの組み合わせからなる群から選択され、反応ガス混合が、N
2、Ar、CO、又はこれらの組み合わせの添加を更に任意選択的に含む、本明細で説明され特許請求されている被覆切削工具インサートを製造する方法であって、
α‐Al
2O
3層の堆積プロセスが、少なくとも、
第1の結晶学的方向に沿って好ましい成長を有するα‐Al
2O
3層を堆積するための第1の処理条件の下でα‐Al
2O
3層の第1の厚み部分の堆積を実行するステップと、
前記第1の結晶学的方向に対して実質的に垂直な第2の結晶学的方向に沿って好ましい成長を有するα‐Al
2O
3層の堆積に役立つ第2の処理条件の下でα‐Al
2O
3層の第2の厚み部分の堆積を実行するために堆積条件を変更するステップとを含み、
第2の堆積条件の下での堆積が、α‐Al
2O
3層の堆積プロセスを終端させる、方法が更に提供される。第1の結晶学的方向は、<0 0 1>に沿ってもよく、実質的に垂直な方向は、<1 1 0>又は<1 0 0>結晶学的方向に沿ってもよい。
【0010】
本発明の一実施形態では、第1の結晶学的方向は、[0 1 2]に対して垂直な方向に沿ってもよく、実質的に垂直な方向は、<0 0 1>又は<0 1 0>結晶学的方向に沿ってもよい。
【0011】
本発明の一実施形態では、第1の結晶学的方向は、<0 1 0>に沿ってもよく、実質的に垂直な方向は、<0 0 1>結晶学的方向に沿ってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態では、第1の結晶学的方向は、<1 1 0>に沿ってもよく、実質的に垂直な方向は、<0 0 1>結晶学的方向に沿ってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態では、第1の結晶学的方向は、[1 0 4]に対して垂直な方向に沿ってもよく、実質的に垂直な方向は、<1 1 0>又は<0 1 0>結晶学的方向に沿ってもよい。
【0014】
驚いたことに、本発明のα‐Al
2O
3層の全体的な繊維テクスチャは、処理条件が、第1の結晶学的方向に対して実質的に垂直な第2の結晶学的方向に沿って好ましい成長を有するα‐Al
2O
3層の堆積に一般的に役立つ第2の処理条件に変えられたとしても、第1の結晶学的方向、例えば、<0 0 1>結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層を堆積するための第1の処理条件によって決定されることが発見された。好ましくは、第1の結晶学的方向が<0 0 1>である場合、第2の処理条件は、α‐Al
2O
3層の<1 1 0>又は<1 0 0> 結晶学的方向に沿って、最も好ましくは<1 1 0> 結晶学的方向に沿って結晶成長の生成に一般的に役立つ条件である。第2の処理条件は、Zr酸化物などのテクスチャ改良剤(texture modifying agent)としてこれ以上金属酸化物がない状態でα‐Al
2O
3層を堆積する条件である。
【0015】
本発明のα‐Al
2O
3層の第1の厚み部分では、α‐Al
2O
3粒子が実質的に柱状のα‐Al
2O
3粒子構造を有し、第1の厚み部分から第2の厚み部分への遷移部分において、粒子境界が、第1の厚み部分内の粒子境界に対して実質的に垂直な方向に方向転換を行う。α‐Al
2O
3粒子の粒子境界成長の方向転換は、α‐Al
2O
3層の断面のSEM顕微鏡写真で観察することができる。本発明によれば、粒子境界の方向転換は、α‐Al
2O
3粒子のうちの25個の隣接する粒子の中から少なくとも1個、好ましくは25個の隣接する粒子の中から少なくとも5個、より好ましくは25個の隣接する粒子の中から少なくとも15個に対してSEM顕微鏡写真で視認可能である。本発明の意味における「第1の厚み部分内の粒子境界に対して実質的に垂直な方向への方向転換」という表現は、90±45度、好ましくは90±30度の方向転換を含むことに留意されたい。更に、粒子境界成長方向の方向転換は、第1と第2の厚み部分との間で鋭角を必ず形成しなければならないということはない。当業者には、このような方向転換が第1及び第2の厚み部分から曲線状に起こり得ることは明らかである。
【0016】
驚いたことに、本発明の堆積方法によって非常に円滑な表面形状が得られることが発見された。好ましい成長及び粒子境界の方向を突然変化させることは、上面が平らな粒子の形成及びα‐Al
2O
3層の表面の円滑化の一因となる。本発明のα‐Al
2O
3層の表面は、粗度が減少した比較的大きい平坦な粒子によって占められる。これは、例えば、
図1b及び2bで見ることができる。
【0017】
しかしながら、驚いたことに、α‐Al
2O
3層の成長が、主に<0 0 1>結晶学的方向に沿って確立されたときに、本発明の非常に円滑な表面が得られることが発見された。実験により、円滑化効果は、(0 0 1)テクスチャが弱い場合、又は、最初の段階におけるα‐Al
2O
3層の成長が、[0 1 2]又は[1 0 4]又は[0 1 0]結晶学的平面に対して好ましくは垂直に、すなわち、それぞれ、(0 1 2)又は(1 0 4)又は(0 1 0)繊維テクスチャを有して起きる場合に更に得られることが示された。
【0018】
最上層及び後処理がない状態で、約8−10μmの厚みを有する先行技術のα‐Al
2O
3層は、約0.30から0.35μm又はそれを越える粗度(Ra)を示す。それとは対照的に、本発明に係るα‐Al
2O
3層は、最上層及び後処理がない状態で、α‐Al
2O
3層上で測定された、約0.05から0.2μm、好ましくは約0.05から0.15μm又はそれ未満の遥かに低い粗度(Ra)を示す。結果的に、本発明によって生成された被覆の粗度(Ra)は、同等の組成物及び同一の厚みを有する、先行技術によって生成された被覆の粗度よりも少なくとも50−60%低い。約4から8μmの厚みを有するより薄いα‐Al
2O
3層は、本発明に従って生成されたとき、約0.04から約0.15μm、好ましくは約0.03から約0.10μmという更に低い粗度(Ra)値を示す。
【0019】
本発明のα‐Al
2O
3の上部に最上層が堆積された場合、最上層の測定された粗度(Ra)が堆積されたままのα‐Al
2O
3層上で直接測定された粗度よりも微妙に高くても、最上層の粗度は更に非常に円滑であり得る。しかしながら、最上層が薄い副層の多重層として堆積された場合、粗度値は、本発明に係る堆積されたままのα‐Al
2O
3層上で直接測定された値とほとんど同じであり得る。
【0020】
本発明によって得られた被覆の平坦で円滑な表面形状は、被覆の魅力的で技術的に有益な外観の必要条件である。本発明の被覆は、表面粗度が低い、光沢のある、高品質な工具表面を示し、更に光学的効果により、先行技術の被覆よりも摩耗の検出が容易となる。例えば、α‐Al
2O
3層は、工具に黄金色から黄色をもたらすため、TiNの薄い最上層で被覆されることがよくある。ファセット粒子(faceted grain)から構成された先行技術のより厚みのあるα‐Al
2O
3層が、TiNの薄い最上層で被覆された場合、ぼんやりとした茶色がかった黄色が得られる。これとは対照的に、本発明に係るα‐Al
2O
3被覆が、TiNの薄い最上層で被覆された場合、光沢のある黄金の黄色が得られる。Ti、Al、Zr、V及びHf、又はこれらの組み合わせのうちの1つ又は複数の炭化物、窒化物、窒炭化物、酸炭窒化物(oxycarbonitride)、又は
ホウ炭窒化物(boroncarbonitride)のような、他の種類の最上層が、α‐Al
2O
3層の上部に堆積された場合においてもこの効果を得ることができる。本発明は、本発明に係るα‐Al
2O
3層上に堆積されているTiN、TiC、TiCN、立方晶TiAlN、立方晶TiAlCN、又はこれらの組み合わせの外観及び性能を向上させることが更に発見された。
【0021】
しかしながら、それよりも重要なことは、本発明の被覆の円滑な表面は、工具の耐摩耗性を改善する。本発明のα‐Al
2O
3層は、鋼及び鋳鉄の断続切削において特に役に立つ、改善された側面耐摩耗性及び耐チッピング性などの強化された機械的特性を示す。これにより、切削端部の円滑な表面形態により、特に工具が被加工材の中に入る最初の瞬間において端部のチッピングの傾向が減少する。最上層材料として立方晶TiAlN又は立方晶TiAlCNを堆積することにより、先行技術に比べて、断続切削操作における工具の性能が著しく向上する。立方晶TiAlN又は立方晶TiAlCNの最上被覆の表面仕上がり及び性能は、これらの層を多重層として、そのままで堆積するか、或いは、堆積条件又は振動反応の結果として若しくは堆積又は熱処理の間の自己組織化プロセスに起因して形成された、TiNなど、若しくはAlN又はTiAlNなどの六方晶相などの他の立方晶材料と共に堆積することによって、更に改善することができる。
【0022】
本発明のα‐Al
2O
3層の円滑な表面構造は、より高いピーニング効果及び均一な品質を有する、ブラスチングなどの後処理を更に可能にする。
【0023】
定義
下記では、本発明を説明するため、本記述及び特許請求の範囲において使用されている用語が定義される。
【0024】
本明細書で使用され、蒸着によって生成された薄膜と関連して一般的に使用される「繊維テクスチャ」という用語は、成長した粒子の配向と不規則配向とを区別する。通常、薄膜と被覆においては、3つの種類のテクスチャが区別される:すなわち、粒子が好ましい配向を有しないときの不規則テクスチャと、一組の幾何学的に同等の結晶学的平面[h k l]が基材に対して好ましくは平行に配向されているように見える一方で、この面に対して垂直であり、したがって、好ましくは基材に対して垂直に配向されている繊維軸の周りで粒子が回転自由度を有するように、被覆の中の粒子が配向されている繊維テクスチャと、面内整列が基材に対する粒子の3つの軸すべてを固定する、単結晶基板上のエピタキシャル整列(又は面内テクスチャ)とである。先の特許文献及び本明細書において説明されている被覆は、すべて繊維テクスチャを示し、したがって、「(h k l)テクスチャ」とは、基材表面に対して平行に好ましくは配向された[h k l]面を有する繊維テクスチャを意味することを強調しておく。
【0025】
「<h k l>結晶学的方向に沿った成長」という表現は、対応する<h k l>結晶学的平面が、結晶が成長する基材表面に対して平行に配向されるように、結晶が成長することを意味する。結晶の結晶学的平面は、ミラー・ブラバ指数(Miller−Bravais indice)、h、k、i、及びlによって定義され、指数i[i=−(h+k)]を除外した3指数表記で表現される。<h k l>結晶学的方向に沿って「好ましい」成長とは、<h k l>結晶学的方向に沿った成長が、他の結晶学的方向に沿った成長よりも頻繁に生じることを意味する。基材に対して平行な[h k l]面の好ましい配向を有する(h k l)繊維テクスチャに関連した「<h k l>結晶学的方向に沿った成長」という表現は、<h k l>方向が[h k l]平面に対して垂直であるときにのみ適切であることに留意しなければならない。このことは、α‐Al
2O
3が属する三方晶‐六方晶系に対しては一般的に有効ではないが、<1 0 0>と[1 0 0]、<1 1 0>と[1 1 0]、及び<0 0 1>と[0 0 1]のそれぞれの対応ペアの方向及び面に関しては適用される。「<h k l>結晶学的方向に沿った好ましい成長」とは、CVD堆積プロセスの間、他の結晶学的方向に沿ってよりも、<h k l>結晶学的方向に沿った成膜速度が高いことの結果であると推測される。
【0026】
したがって、α‐Al
2O
3粒子が、「<0 0 1>結晶学的方向に沿って好ましい成長」を示す場合、これは、α‐Al
2O
3粒子が、他の結晶学的平面よりも、基材表面に対して平行な、その[0 0 1]結晶学的平面でより頻繁に成長することを意味する。
【0027】
<h k l>結晶学的方向に沿った好ましい成長を表現する手段は、それぞれの試料上で測定されたXRD反射の定義されたセットに基づいて、ハリスの式を用いて計算されたテクスチャ係数TC(h k l)である。XRD反射の強度は、同じ材料(例えば、α‐Al
2O
3)であるが、材料の粉末のように不規則配向を有する材料のXRD反射の強度を示すJCPDFカードを用いて標準化される。結晶性材料の層のテクスチャ係数TC(h k l)>1は、少なくともテクスチャ係数TCを決定するためにハリスの式で使用されるXRD反射に比べて、結晶性材料の粒子が、不規則分配よりも頻繁にその[h k l]結晶学的平面が基材表面に対して平行な状態で配向されることを示す。本明細書では、テクスチャ係数TC(0 0 12)は、<0 0 1>結晶学的方向に沿った好ましい結晶成長を示すために使用されている。[0 0 1]結晶学的平面は、α‐Al
2O
3結晶学系(crystallographic system)内の[0 0 6]及び[0 0 12]結晶学的平面に対して平行である。α‐Al
2O
3からの(0 0 6)反射が被覆系において層として頻繁に適用されるTiCNからの反射によって部分的に重複されるため、TC(0 0 6)の代わりにTC(0 0 12)が使用される。
【0028】
本明細書で使用されている「第1の処理条件」という用語は、第1の結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層の生成に適切なCVDプロセス条件を意味し、一実施形態では、これは<0 0 1>結晶学的方向である。第1の処理条件は、層堆積の核生成で始まり、堆積されたα‐Al
2O
3層の全体的な繊維テクスチャを決定する。本明細書で使用される「第2の処理条件」という用語は、第1の結晶学的方向に対して実質的に垂直な好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層の生成に適切なCVDプロセス条件を意味する。<0 0 1>が第1の結晶学的方向である実施形態では、第2の処理条件は、好ましくは、<1 1 0>又は<1 0 0>結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層の生成に適切である。このことは、これらの「第2の処理条件」が、層堆積の核生成で始まるα‐Al
2O
3層の全体的な堆積に対して適用される場合、「第2の処理条件」が、第1の結晶学的方向に対して実質的に垂直な好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層を生成する条件であることを意味する。「第1の処理条件」は全体的な繊維テクスチャを決定するため、「第2の処理条件」は、「第1の処理条件」の後に適用された場合、堆積されたα‐Al
2O
3層の全体的な繊維テクスチャを変更しない。すなわち、粒子は、他の結晶学的平面においてよりも頻繁に、その結晶学的平面(例えば、[0 0 1])が基材表面に平行する状態で依然として好ましく成長する。しかしながら、「第2の処理条件」の下では、第1の結晶学的方向(例えば、<0 0 1>)に沿った成長率は減少するが、第1の結晶学的方向(例えば、<0 0 1>)に対して実質的に垂直な他の結晶学的方向に沿った成長率は増大することが推測される。理論に縛られることなく、発明者は、「第2の処理条件」の下では、「第1の処理条件」の下で好まれているファセットよりも他のファセット対して、CVDプロセスによるアルミナの成膜速度は増大すると推測する。
【0029】
第1の処理条件の下では、α‐Al
2O
3粒子は、その粒子境界が、粒子が堆積されている基材の表面に対して実質的に垂直に成長する状態で、柱状に成長する。これと関連して、「実質的に垂直」」ということは、このように堆積された柱状のα‐Al
2O
3粒子は、一般的に基材表面からアルミナ層表面への方向で断面の拡張を経ることを考慮しており、且つそれを含む。この柱状粒子の断面の拡張は、成長が第1の結晶学的方向(<0 0 1>など)に沿って好ましくは生じるが、好ましい成長方向に対して実質的に垂直である既に堆積された粒子の他のファセットへの堆積もある程度恒常的にある(好ましい成長方向における堆積より遅いが)という事実の結果であると推測される。
【0030】
本発明によれば、第1の処理条件から第2の処理条件への変化の結果、第1の処理条件の下で既に堆積された幾つかのα‐Al
2O
3粒子の粒子境界は、基材表面に対して「実質的に垂直」から基材表面の法線に対して「実質的に垂直」な方向へと方向転換する。したがって、例えば、SEMによって観察された断面では、これらの粒子は、実質的に「T」字形状又はそれと似たような形状を有するように表示され、実際には、第1の厚み部分から第2の厚み部分への粒子境界方向の変化は、通常、きっちり直角ではないことが明らかである。したがって、本発明の意味における「実質的に垂直」という表現は、90±45度、好ましくは90±30度の方向転換を含む。
【0031】
成長条件又は粒子境界それぞれの変更の下で粒子の断面が拡張されることにより、且つ隣接するアルミナ粒子間の横方向の空間が限られていることにより、α‐Al
2O
3粒子の一部のみが、この成長形態の変化を経験し、α‐Al
2O
3層の表面へと成長するが、幾つかの他の粒子は、α‐Al
2O
3粒子の拡張した部分によって過成長し、したがって、これらの過成長した粒子は、外層表面へと成長しないか、又は断面幅において減少することを理解されたい。このことは、例えば、それぞれの層の断面のSEM顕微鏡写真でよく観察することができる。
【0032】
第1及び第2の処理条件に対して定義されているように、好ましい結晶成長配向を有するα‐Al
2O
3層の生成に一般的に適切なCVDプロセス条件は、当該技術分野で一般的に知られており、科学及び特許文献(例えば上述の先行技術引用文献を参照)において説明されている。本明細書は、適切な第1及び第2の処理条件の更なる例を提供する。これに関連して、結晶学的方向に沿って又は結晶学的方向に垂直な好ましい結晶成長を生成するためのCVDプロセス条件は、広い範囲内で変動し得ることに留意しなくてはならない。したがって、本発明の範囲及び根底にある問題を解決するための特許請求されている主題の定義は、特定のCVDプロセスパラメータ及び反応ガス組成に限定されてはならない。本発明は、むしろ、本発明の方法によって、改善された表面仕上がり、減少した表面粗度、及び被覆切削工具インサートの改善された機械的特性が達成されたという驚くべき発見に基づいている。本発明の方法では、粒子境界成長における変化を達成するため、本明細書で定義された第1及び第2の処理条件のシーケンスによって、特に処理条件の変更によって、α‐Al
2O
3層を堆積する。本発明及びその背後にある概念を知ることにより、当業者であれば、本発明に従って定義されたα‐Al
2O
3層のこのような特定の結晶成長を得るためのCVDプロセス条件のパラメータを容易に見付けるであろう。上述のように、α‐Al
2O
3の好ましい成長方向又は繊維テクスチャのそれぞれを生成するための処理条件は、当該技術分野で知られており、文献の中で見付けられる。しかしながら、改善された表面仕上がり、減少した表面粗度、及び改善された機械的特性を得るため、本明細書で定義された第1及び第2の処理条件の特定のシーケンスを適用することは、驚くべきことであり、以前説明されたことはなかった。
【0033】
発明の実施形態
上述のように、本発明のα‐Al
2O
3層は、少なくとも第1の厚み部分において、第1の処理条件によって生成された第1の結晶学的方向に沿ったα‐Al
2O
3粒子の好ましい成長配向を有し、α‐Al
2O
3層の全体的な繊維テクスチャは、これらの第1の処理条件によって決定される。したがって、本発明の好ましい実施形態では、α‐Al
2O
3層の外部表面に延在するα‐Al
2O
3結晶の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%は、EBSDによって測定された、基材表面の法線に対して0から3
5度内、好ましくは0から20度内、より好ましくは0から10度内の軸に対して垂直な結晶学的平面によって終端されたファセットを示す。本発明の一実施形態では、第1の結晶学的方向は<0 0 1>であり、前記ファセットは、[0 0 1]結晶学的平面によって終端される。
【0034】
本発明の更に別の好ましい実施形態では、堆積されたままでブラスチングがまだされていない状態のα‐Al
2O
3層の外部表面は、次の表面粗さ特性、
i)α‐Al
2O
3層が8μm以上の厚みを有するとき、0.05から0.2μm、好ましくは0.05から0.15μmの表面粗さRa、
ii)α‐Al
2O
3層が8μm未満の厚みを有するとき、0.03から0.2μm、好ましくは0.03から0.10μmの表面粗さRa、
を有し、表面粗さは、最上層及び後処理がない状態で、堆積されたままの状態のα‐Al
2O
3層上で測定される。
【0035】
本発明の一実施形態では、α‐Al
2O
3層は、<0 0 1>結晶学的方向に沿って好ましい成長配向を有する。別の実施形態では、α‐Al
2O
3層は、[0 1 2]結晶学的平面に対して垂直な好ましい成長配向を有する。更に別の実施形態では、α‐Al
4O
3層は、[1 0 4]結晶学的平面に対して垂直な好ましい成長配向を有する。更に別の実施形態では、α‐Al
0O
3層は、[0 1 0]結晶学的平面に対して垂直な好ましい成長配向を有する。
【0036】
本発明の更に別の好ましい実施形態では、α‐Al
0O
3層全体の全体的な繊維テクスチャは、テクスチャ係数TC(0 0 12)>3によって特徴付けられ、TC(0 0 12)は、
と定義され、
ここで、
(h k l)=(hkl)反射の測定強度、
I0(h k l)=JCPDFカード番号42−1468による標準粉末回折データの標準強度、
n=計算において用いられた反射の数であり、用いられた(hkl)反射は、(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)である。
【0037】
テクスチャ係数TCを測定する方法は、以下で説明される。
【0038】
本発明のアルミナ層は被覆全体の最上層であり得るが、少なくとも部分的にα‐Al
2O
3層の上に最上部被覆を設けることが好ましい。したがって、本発明の更に別の好ましい実施形態では、被覆は、α‐Al
2O
3層の上に、好ましくはCVD又はPVDによって堆積された、0.05から3μmの間、好ましくは0.2から2μmの間、より好ましくは0.5から1.5μmの間の厚みの最上部被覆を含み、最上部被覆は、TiN、TiC、TiCN、ZrN、ZrCN、HfN、HfCN、VC、TiAlN、TiAlCN、AlN、或いはこれらの組み合わせ又は多重層からなる群から選択された1つ又は複数の層を含む。
【0039】
α‐Al
2O
3層の上の最上部被覆層は、摩耗インジケータ及び/又は他の機能の層として設けられ得る。摩耗検出に関しては、被覆は、好ましくは、TiN、TiCN、AlN、又はCrNなどの有色被覆材料、或いは、Ti、Al、又はCrなどの金属によって終端されるべきである。青、緑、紫、又は金属色などの色も上述の被覆の酸化又は陽極酸化によって生成され得る。酸化又は陽極酸化によって有色被覆を生成する技術は、文献において知られ、説明されている。
【0040】
本発明は、切削工具インサートの表面領域の部分、好ましくは切削工具インサートのすくい面のみが最外層としてα‐Al
2O
3層を含み、残りの表面領域は最外層として最上被覆で覆われる実施形態を更に含む。α‐Al
2O
3層が最外層となる領域から、ブラスチング又は任意の他の周知の方法によって、堆積された最上被覆を除去することによって、これらの実施形態を生成することができる。この実施形態の利点は、最も外側のα‐Al
2O
3表面と最外層との間の接触面が比較的円滑であるため、最外層を除去するために比較的低いブラスチング圧力及び/又は柔らかいブラスチング媒体を使用できることである。典型的に粗いα‐Al
2O
3層から最外層を除去するブラスチングは、幾らか問題を有する場合があり、α‐Al
2O
3層の谷間においても最外層を除去するために比較的高いブラスチング圧力及び/又は攻撃的なブラスチング媒体を必要とする。したがって、この実施形態の被覆切削工具は、最外層の除去の高度な制御によって生成され得る。
【0041】
本発明の更に別の好ましい実施形態では、被覆は、基材上に及びα‐Al
2O
3層の下に1つ又は複数の耐火物層を含み、1つ又は複数の耐火物層は、化学蒸着(CVD)又は中温化学蒸着(moderate temperature chemical vapour deposition)(MT−CVD)によって堆積される、Ti、Al、Zr、V及びHf、又はこれらの組み合わせからなる群から選択された1つ又は複数の金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸炭窒化物、及び
ホウ炭窒化物からなる群から選択され、各耐火物層は、0.5から20μm、好ましくは1から10μmの厚みを有する。
【0042】
本発明の更に別の好ましい実施形態では、基材表面の直上にあり、基材表面と接触する第1の耐火物層は、Ti、Al、Zr、V、Hf、或いはこれらの組み合わせ又は多重層、好ましくはTi(C,N)、TiN、TiC、Ti(B,C,N)、HfN、Zr(C,N)、或いはこれらの組み合わせ又は多重層からなる群から選択された1つ又は複数の金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸炭窒化物、及び
ホウ炭窒化物からなる群から選択される。より好ましくは、基材表面に隣接する第1の耐火物層は、Ti(C,N)からなるか、又はTi(C,N)を含む。第1の耐火物層は、CVD又はMT−CVDによって堆積され、好ましくは、第1の耐火物層は、0.5から20μm、より好ましくは1から10μmの厚みを有する。この種類の第1の耐火物層は、本発明のα‐Al
2O
3層の種類と組み合わせたとき、優れた全体的な耐摩耗性をもたらすことが発見された。
【0043】
特に適切な第1の耐火物層は、TiN、Ti(C,N)、六方晶AlN、立方晶又は六方晶TiAlN、TiAlON、TiAlCN、TiAlOCN、準安定性又は安定性のα‐Al
2O
3層又はそれらの組み合わせ、好ましくは低圧中温化学蒸着(low−pressure moderate temperature chemical vapour deposition)(LP−MT−CVD)によって堆積された、X>0.7の立方晶Ti
1−xAl
xN又はTi
1−xAl
xCyN
zなど、単層又は多重層として、Ti及び/又はAlの酸化物、窒化物、炭窒化物、又は酸炭窒化物を含むか、又はそれからなる。立方晶Ti
1−xAl
xN又はTi
1−xAl
xCyN
zは、六方晶AlN、TiAlN、又はTiAlCNの層と共に共堆積(co−deposit)され得る。六方晶相の層は、立方晶層に比べて、非常に薄くなければならなく、好ましくは約50nm未満、より好ましくは20nm未満である。LP−MT−CVD層は、2から50mbar、好ましくは10mbar未満の圧力で、600−850℃、好ましくは650−750℃の温度で堆積される。
【0044】
更に、第1の耐火物層が、基材と直接接触する最下層として、CVD又はMT−CVD又はLP−MT−CVDを用いて堆積されたTiNからなり、且つ5μm未満、好ましくは0.3から3μm、より好ましくは0.5から2μmの厚みを有する層を含むことが特に好ましい。基材と直接接触するこの種類の最下層を設けることにより、第1の耐火物層の接着性を改善し、したがって、本発明のα‐Al
2O
3層の接着性をも改善することが発見された。
【0045】
本発明の更に別の好ましい実施形態では、α‐Al
2O
3層の直下にあり、α‐Al
2O
3層と接触する耐火物層は、立方晶(Ti,Al)N、立方晶(Ti,Al)(C,N)、或いは交互する立方晶(Ti,Al)N又は立方晶(Ti,Al)(C,N)層からなる多重層構造からなり、1つ又は複数の耐火物層は、Ti、Zr、V及びHf、又はこれらの組み合わせのうちの1つ又は複数の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸炭窒化物、又は
ホウ炭窒化物からなる。
【0046】
本発明の切削工具インサートの基材は、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼、又は立方晶窒化ホウ素からなる。しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、基材は、超硬合金、好ましくは4から12wt%のCoからなる超硬合金、任意選択的に、周期表の族IVb、Vb、及びVIbからの金属の0.3から10wt%の立方晶炭化物、窒化物、又は窒炭化物、好ましくは、Ti、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせ、並びに残部WCからなる。上記で定義されたように、鋼の機械加工用途においては、超硬合金基材は、好ましくは立方晶炭化物の7.0から9.0wt%を含み、鋳鉄の機械加工用途においては、超硬合金基材は、立方晶炭化物の0.3から3.0wt%を含む。
【0047】
本発明の別の好ましい実施形態では、基材は、基材表面から、5から30μm、好ましくは10から25μmの厚みを有するバインダー相に富む表面領域を含む超硬合金からなり、バインダー相に富む表面領域は、基材のコア内よりも少なくとも1.5倍高いCo含有量を有し、且つ基材のコア内の立方晶炭化物含有量の0.5倍未満の立方晶炭化物含有量を有する。この実施形態のα‐Al
2O
3層の厚みは、好ましくは約4から12μm、最も好ましくは4から8μmである。
【0048】
好ましくは、超硬合金本体のバインダー相に富む表面領域は、立方晶炭化物から実質的に自由である。バインダー相に富む表面領域を設けることは、基材の強靭性を向上させ、被覆切削工具の適用範囲を拡大する。バインダー相に富む表面領域を有する基材は、鋼の金属切削操作のための切削工具インサートにおいて特に好まれるが、鋳鉄の金属切削操作のための切削工具インサートは、好ましくはバインダー相に富む表面領域がない状態で製造される。
【0049】
本発明の方法の一実施形態では、<0 0 1>結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層を堆積するための第1の処理条件の下でのα‐Al
2O
3層の堆積は、1から20時間、好ましくは2から12時間、より好ましくは3から7時間の間の期間実行され、<0 0 1>結晶学的方向に対して実質的に垂直に、好ましくは<1 1 0>又は<1 0 0>結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層の堆積に役立つ第2の処理条件の下でのα‐Al
2O
3層の堆積は、5分から3時間、好ましくは10分から2時間、より好ましくは15分から1時間の間の期間実行され得る。
【0050】
層の厚みに関連して表現すると、第1の処理条件の下でのα‐Al
2O
3層の堆積は、<0 0 1>結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層を約2μmから約45μm、好ましくは約3μmから約15μm、より好ましくは約5μmから約12μmの厚みに堆積するように好ましくは実行され、且つ第2の処理条件の下でのα‐Al
2O
3層の堆積は、第1の処理条件の下で堆積されたα‐Al
2O
3層の厚みの約5から30%の厚みとなるように好ましくは実行される。堆積ステップの被覆のどの厚みが最も優れた結果をもたらすかを決定することは、熟練した職人の権限にある。
【0051】
第1の結晶学的方向(例えば、<0 0 1>結晶学的方向)に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層を堆積するための第1の処理条件の下でα‐Al
2O
3層を堆積することは、第2の処理条件の下でα‐Al
2O
3層が適用されない限り、基材表面に対して比較的大きな角度を有するファセットによって終端されるα‐Al
2O
3粒子をもたらし、結果として粗い表面形態となる。
【0052】
本発明の方法の好ましい実施形態では、<0 0 1>結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層を堆積するための、CVD反応チャンバ内の第1の処理条件は、
10と100mbarの間、好ましくは30と80mbarの間の範囲内の圧力、
800℃と1050℃、好ましくは930℃と1030℃の範囲内の温度、並びに
反応ガス濃度であって、
2%と7.5%の間、好ましくは3%と5%の間のCO
2、
0.5%と5%の間、好ましくは1.5%と4%の間のHCI、
0.5%と5%の間、好ましくは1.8%と4%の間のAICI
3、及び
0.2%と1.1%の間、好ましくは0.3%と0.6%の間のX
の範囲内の反応ガス濃度を含み、且つ
<0 0 1>結晶学的方向に対して実質的に垂直に、好ましくは<1 1 0>又は<1 0 0>結晶学的方向に沿って好ましい結晶成長を有するα‐Al
2O
3層の堆積に役立つ、CVD反応チャンバ内の第2の処理条件は、
100と300mbarの間、好ましくは150と250mbarの間の範囲内の圧力、
800℃と1050℃、好ましくは930℃と1030℃の範囲内の温度、
5%を越えるCO
2、並びに
反応ガス濃度であって、
5%と25%の間、好ましくは5%と12%の間のHCI、
0.5%と3%の間、好ましくは1.0%と1.8%の間のAICI
3、及び
0.35%未満、好ましくは0.25%未満のX
の範囲内の反応ガス濃度を含む。
【0053】
堆積圧力並びにCO
2、AlCl
3、及びXの流れの制御に加えて、比較的大量のHCIを添加することによって、第1の厚み部分内の粒子境界に対して実質的に垂直な粒子境界を有する第2の厚み部分内のα‐Al
2O
3粒子の成長を強化することができる。HCIは、<0 0 1>結晶学的方向に沿った成長を圧迫することで知られている。この効果を達成するため、添加されたHCIの量は、約5体積%から約25体積%の間、好ましくは約5体積%から約12体積%の間であるべきである。この範囲のHClの流れを用いて、<1 0 0>結晶学的方向に沿って好ましい成長を有するα‐Al
2O
3の堆積に役立つ第2の処理条件は、200mbarを越える、好ましくは250mbarと300mbarの間の圧力で層を堆積することによって、促進されることができ、<1 1 0>結晶学的方向に沿って好ましい成長を有するα‐Al
2O
3の堆積に役立つ第2の処理条件は、100と200mbar、好ましくは150と200mbarの間の圧力で達成される。
【0054】
本発明の方法の更に別の好ましい実施形態では、α‐Al
2O
3層を堆積するためのCVD反応チャンバ内の第1の処理条件及び/又は第2の処理条件では、成分Xは、H
2SとSF
6の組み合わせである。H
2SとSF
6のこの組み合わせは、第2の処理条件の下でα‐Al
2O
3層の<1 1 0>又は<1 0 0> 結晶学的方向に沿った結晶成長を生じさせるために特に適切である。この場合、SF
6の体積割合は、好ましくはH
2Sの体積量の15%を越えない。
【0055】
第1の成長条件の下でα‐Al
2O
3層の<0 0 1>結晶学的方向に沿った結晶成長を生じさせるため、Xは、好ましくはH
2S又はSF
6のいずれか、或いはそれらの組み合わせである。H
2SがSF
6との組み合わせで使用された場合、SF
6の体積量は、好ましくは、所望の効果をもたらすためにH
2Sの体積量の約25から50%であるべきである。
【0056】
本発明の方法の更に別の好ましい実施形態では、α‐Al
2O
3層を堆積するための、CVD反応チャンバ内の第1の処理条件及び/又は第2の処理条件は、N
2、Ar、CO、又はこれらの組み合わせの添加を含み、N
2、Ar、及びCOの体積割合の合計は、反応ガス混合内のH
2の総体積量の20%を越えない。N
2、Ar、及び/又はCOを添加することにより、CVD反応器全体にわたって、成長率及び被覆の厚み変動を修正することが可能である。当業者の権限内で、こうした反応ガスへの添加を調整し、望ましい成長率のプロファイルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
方法
X線回折(XRD)測定及びTCの決定
X線回析測定は、Cu‐Kα線を用いてGE Sensing and Inspection Technologiesの回析計XRD3003PTSで行われた。X線管は、点に焦点を合わせて、40kVと40mAで延伸した。固定寸法の測定口を有するポリキャピラリコリメ―トレンズ(polycapillary collimating lens)を用いた平行ビーム光学が主要面で使用され、試料の被覆面上のX線ビームのスピルオーバーを回避するために試料の照射領域が選択された。2次側面上では、0.4度の発散を有するソーラスリット(Soller slit)と0.25mmの厚みのNi K
βフィルタが使用された。0.25度のインクリメントを有する20度<2θ<100度の角度範囲内で2回の走査が行なわれた。測定は、被覆されたインサートの平坦な面、好ましくは逃げ面(flank face)上で行われた。測定は、最外層としてのアルミナ層上で直接行われた。測定対象のアルミナ層の上の被覆内に存在する任意の層は、少しでもある場合、XRD測定値結果に実質的に影響を与えない方法、例えば、エッチングによって除去される。テクスチャ係数TCの計算のためには、ピーク高さ強度が用いられた。バックグラウンド除去法及び5つの測定点を有するパラボラ状ピークフィッティング(parabolic peakfit)がXRD生データに適用された。K
α2ストリッピング又は薄膜修正などの更なる修正は行われなかった。
【0060】
走査電子顕微鏡法(SEM)のための試料調製物
インサートは、断面に切断され、ホルダーに据え付けられ、次いで以下のように処理された。
1.水とともにStruers Piano220ディスクを用いて6分間すりつぶす
2.9μmのMD−Largoダイヤモンド懸濁液で3分間磨く
3.3μmのMD−Dacダイヤモンド懸濁液で3分40秒磨く
4.1μmのMD−Napダイヤモンド懸濁液で2分間磨く
5.OP−Sコロイドシリカ懸濁液(OP−S colloidal silica suspension)で12分間磨く/エッチングする(コロイドシリカの平均粒子サイズ=0.04μm)
試料は、SEM検査の前に超音波洗浄された。
【0061】
CVD被覆
CVD被覆は、1250mmの高さ及び325mmの外径を有する、Bernex BPX 325Sタイプのラジアルフローリアクターで調製された。NH
3及び金属塩化物をそれぞれ運ぶ各ガス流は、別々にリアクター内に供給され、それにより、混合が反応ゾーンの直前で行われた。充電トレーの上のガス流は、中央ガス管から放射状であった。
【0062】
粗度の測定
粗度の測定は、ISO4287、DIN4768に従って行われた。粗度の測定には、CSM Instruments社の白光ConScanが使用された。
【0063】
実施例
本明細書の実施例で使用された試験用インサート用の基材は、6.0wt%のCo及びバインダー相に富む表面領域を有する残部WCからなる超硬合金の切削工具インサートであった。基材のビッカース硬さは、約1600HVであると測定された。次のインサート形状が使用された:
CNMA120412(特にSEM及び粗度測定用)及び
WNMG080412−NM4(切削試験用)
【0064】
予備被覆:
本明細書の実施例に係るα‐Al
2O
3被覆の堆積のための基材は、以下の手順によって予め被覆された。
【0065】
基材に対する被覆の優れた接着性を確実なものとするため、すべての被覆手順において、850℃の温度及び150mbarの圧力で、CVDによって、0.3μmの厚みのTin層を基材表面上に適用することによってプロセスが開始された。反応ガス組成は、0.8体積%のTiCl
4、44.1体積%のN
2、55.1体積%のH
2であった。
【0066】
TiNで予め被覆されたインサートは、850−880℃の温度で、0.7体積%のCH
3CN、1.9体積%のTiCl
4、20体積%N
2、及び残部H
2の反応ガス組成を用いて、MT−CVDによって、5μmの厚みのTi(C,N)層で被覆された。
【0067】
MT−CVDプロセスが完了した後、温度が1000℃まで上昇し、そしてこの温度において、別のNリッチなTiCN層が、400−500mbarの圧力で、2.5体積%のTiCl
4、3.5体積%のCH
4、30体積%のN
2、及び残部H
2の反応ガス組成を用いて、約0.3μmの厚みとなるようにMT−CVD層へと20分間CVD堆積された。
【0068】
次いで、約0.5−1μmの厚みの(Ti,Al)(C,N,O)接合層が、約1000℃の温度及び80mbarで、約30分、3体積%のTiCl
4、0.5体積%のAlCl
3、4.5体積%CO、30体積%のN
2、及び残部H
2の反応ガス組成を用いて、MT−CVDのTiCN層の上部に堆積された。次のステップを開始する前に、堆積プロセスの後にH
2を用いたパージが10分間続いた。
【0069】
α‐Al
2O
3層の堆積の前に、1000から1020℃の温度及び約80から100mbarの圧力で、4体積%のCO
2、9体積%のCO、25体積%のN
2、及び残部H
2のガス混合で、2から10分間、(Ti,Al)(C,N,O)接合層を処理することによって、核生成(酸化)ステップが実行された。核生成ステップの後に、Arを用いたパージが10分間続いた。
【0070】
実施例1:先行技術に係るアルミナ層(被覆1−比較例)
上述のように、予め被覆された基材上のアルミナ堆積は、1000℃の温度及び66mbarの圧力で、2.5体積%のAlCl
3、4.1体積%CO
2、及び残部H
2の反応ガス混合を導入することによって開始された。同時に、反応ガス成分が導入された。2分後、2.5体積%の量のHCIが、リアクターに流入している反応ガス混合に添加された。更に8分後、0.33体積%の量のH
2Sが、リアクターに流入している反応ガス混合に添加された。
【0071】
8μmの厚みのα‐Al
2O
3層を得るために、堆積条件が約8時間維持された。目視検査では、α‐Al
2O
3層は暗くぼんやりしているように見えた。被覆は、粗度測定、切削試験、SEM、及びXRDによって分析された。
【0072】
実施例2:本発明に係るアルミナ層(被覆2)
予め被覆された基材上へのアルミナ堆積は、α‐Al
2O
3層の堆積時間が8時間ではなく6.5時間であったということを例外として、上述のように実施例1について実行された。6.5時間の堆積時間の後、プロセスパラメータは、α‐Al
2O
3層の<1 1 0>結晶学的方向に沿った好ましい結晶成長を好むことで知られている「第2の処理条件」に変更された。「第2の処理条件」では、反応ガス混合の組成は、1.5体積%のAlCl
3、5.7体積%のCO
2、7.5体積%のHCl、0.05体積%のH
2S、及び残部H
2であった。温度は、1000℃で維持されたが、圧力は150mbarに変更された。「第2の処理条件」の下での堆積時間は、1.5時間であり、結果として得られたα‐Al
2O
3層の総厚みは、実施例1のように8μmであった。目視検査では、α‐Al
2O
3層は暗かったが、光沢があった。被覆は、粗度測定、切削試験、SEM、及びXRDによって分析された。
【0073】
実施例1及び2からのα‐Al
2O
3被覆は、SEMによって分析された。断面の顕微鏡写真は、
図1で示され、表面形態の顕微鏡写真は
図2で示されている。
図1a)及び2a)は、実施例1の被覆1(比較例)を示し、
図1b)及び2b)は、実施例2の被覆2(本発明)を示している。
図1a)及び1b)の断面画像、及び
図2a)及び2b)の表面形態画像を見ると、先行技術に従って調製されたα‐Al
2O
3被覆の表面に比べて、本発明に係るα‐Al
2O
3被覆の表面は、粒子境界方向の成長における突然の変化により、遥かに円滑であることが明らかである。実施例1の被覆は、α‐Al
2O
3層の柱状粒子構造を示した。実施例2の被覆は、柱状粒子を有する第1の厚み部分及び第2の厚み部分を示し、第1の厚み部分から第2の厚み部分への遷移において、幾つかの粒子境界が第1の厚み部分内の粒子境界の方向に関連する方向転換を経る。実施例1の被覆(先行技術)では、このような方向転換は見出されていない。
【0074】
実施例3:最上部被覆1
実施例1及び2のプロセスが繰り返されたが、追加的に、α‐Al
2O
3層の最上部に最上部被覆が堆積された。最上部被覆は、TiCNによって終端されたTiNとTiCNとの5つの交互する副層から構成された1.1μmの厚みの多重層であった。
【0075】
試料は、被覆3.1(=先行技術の実施例1と共に最上部被覆)及び被覆3.2(=本発明の実施例2と共に最上部被覆)として指定される。
【0076】
α‐Al
2O
3被覆3.1及び3.2は、SEMによって分析された。切削端部とすくい面のそれぞれの上の被覆3.2の断面顕微鏡写真は、
図3a)及び3b)で示されている。
図3a)及び3b)の断面画像は、α‐Al
2O
3層及び最上部被覆の表面の極度の円滑度を明らかに示している。先行技術に係る被覆3.1の断面顕微鏡写真は、
図4で示されている。α‐Al
2O
3粒子の種々の小面(faceting)に起因する著しくより粗い表面が明らかに示されている。
【0077】
実施例4:最上部被覆2
実施例1及び2のプロセスが繰り返されたが、追加的に、α‐Al
2O
3層の最上部に、実施例3とは異なる最上部被覆が堆積された。最上部被覆は、立方晶TiAlNの1.5μmの厚みの層であった。TiAlN層を堆積するための反応ガス混合は、塩化物ラインから0.03体積%のTiCl
4、0.37体積%のAlCl
3、及び54.4体積%のH
2を含み、アンモニアラインから0.25体積%のNH
3及び44.95体積%のH
2を含む。堆積は、700℃の温度及び10mbarの圧力で40分間実行された。
【0078】
試料は、被覆4.1(=先行技術の実施例1+最上部被覆に係る)及び被覆4.2(=本発明の実施例2+最上部被覆に係る)として指定される。
【0079】
実施例5:本発明に係るアルミナ層(被覆5)
予め被覆された基材上へのアルミナ堆積は、第1の処理条件の下のα‐Al
2O
3層の堆積時間が4時間であり、第2の処理条件の下の堆積時間が1時間であったということを例外として、上述のように実施例2について実行された。このようして得られたα‐Al
2O
3層の総厚みは5μmであった。
【0080】
粗度(Ra)測定は、被覆1、2、及び5に対して行われ、各試料上での5回の測定の平均結果は以下の通りである。
【0082】
実施例6:金属切削試験1
被覆1(先行技術)及び2(発明)が、冷却剤がない状態で、鋳鉄の長手方向回動における接触領域上の端部チッピング(フレーキング)に関して以下の条件で試験された。
被加工材:円形筒棒
材料:SS0130
インサートの種類:CNMA120412
切削速度:380m/分
フィード:0.4mm/回転
切削深さ:2.0mm
【0083】
インサートは、2分及び6分それぞれの切削時間の後に試験され、結果は以下の通りである。
【0085】
結果では、本発明に係る製品の端部の強靭性が、先行技術の製品に比べて著しく改善されたことが示された。
【0086】
実施例7:金属切削試験2
実施例3及び4の被覆3.1、3.2、4.1、及び4.2が、冷却剤がない状態で、回動動作における側面耐摩耗性に関して以下の条件で試験された。
被加工材:円形筒棒
材料:56NiCrMoV7
インサートの種類:WNMG080412−NM4
切削速度:125m/分
フィード:0.32mm/回転
切削深さ:2.5mm
【0087】
インサートは、6分間の切削の後、切削端部上の最大の側面耐摩耗性[VBmax]について試験された。結果は以下の通りである。
【0089】
実施例8:EBSD分析
被覆2のEBSD分析が、約12mmの加工距離において、研磨された試料表面に対して70度の電子ビームの入射角で、高電流モードで作動する60μmの開孔及び15kVの加速電圧を用いる電界放出陰極を有するZeiss SUPRA40VP走査電子顕微鏡(SEM)で実行された。EBSDシステムは、EDAX(Digiviewカメラ)であり、TLS OIMデータコレクション6及びTSL OIMアナリシス6.2ソフトウェアパッケージがそれぞれデータ収集及び分析のために使用された。
【0090】
被覆2で被覆されたWNMG0804012−NM4形状のインサートは、堆積されたままの状態で、すなわち、任意の研磨又はその他の表面調製がない状態で、すくい面の平坦部上においてEBSD測定を受けた。カメラの画像に対して4×4ビニング及びバックグラウンド除去が行なわれた。露出時間は、毎秒30フレームに対応する。マップサイズは、60×60μmであり、0.15μmのステップサイズ及び測定点の六角格子が伴った。回析パターンの指数付けは、ハフ変換(Hough transformation)によってなされた。このように記録された185031のデータ点は、0.27の信頼度指数(CI)で指標付けされた。CI>0.1での点の割合は76.7%であり、CI>0.3の割合は44.6%であった。CIは、回析パターンの自動指標付けの間、TSL OIMアナリシス6.2ソフトウェアによって計算された。所与の回析パターンについては、画像分析ルーチンによって検出された回析バンドを満足する幾つかの可能な配向が見出され得る。このソフトウェアは、多数決法を用いてこれらの配向(又はソリューション)をランク分けする。信頼度指数は、多数決法に基づいており、CI=(V
1−V
2)/V
IDEALとして与えられ、V
1及びV
2は、第1及び第2のソリューションの票の数であり、V
IDEALは、検出されたバンドからの票の可能な総数である。信頼度指数の範囲は、0から1である。信頼度指数が0であってもパターンが依然として正確に指標付けられる場合があるが、CIは、表面粗度に大きく依存するパターン品質に対する統計的尺度と見なしてもよい。EBSDに対して満足のいくパターン品質及び指標付けを得るため、粗い表面を有する試料は、粗度が非常に低くなるように磨かなければならない。0.3より大きいCI値は、自動化されたパターンの指標付けの99%の正確さに対応し、CI>0.1で指標付けられた一般的なパターンは、正確であるとみなされる。正確な指標付けのためには、すなわち、0.1より大きい平均的なCIを有するEBSDマップを得るためには、典型的に0.05μmの粒子サイズの研磨/エッチング剤を用いた長時間の研磨、並びに0.05μmを大きく下回るRa値が必要である[M. M. Nowellら、Microscopy Today 2005、44−48]。
【0091】
堆積されたままの被覆2で得られた画像及びパターン品質を見ると、大きな割合である表面領域の>75%が、試料表面及び更に基材表面に対してほぼ平行する平坦な結晶ファセットを有する粒子から構成されていると結論付けることができる。それとは対照的に、堆積されたままの状態の先行技術の表面被覆1では十分な品質のEBSDパターンを得ることができなかった。これは、表面形態が、より高い角度で交差するファセットを有する粒子に占められており、それにより、1μmのオーダーで粒子から粒子への深さを有するプロファイルが生み出されているためであった。被覆1のEBSDマップは、平均的なCI0.04のみで指標付けされた。