【文献】
Nature Biotechnology,2013年,Vol.31, no.6,p.530-532, Supplementary information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記挿入ポリヌクレオチドが、条件付き対立遺伝子、選択マーカーをコードするポリヌクレオチド、部位特異的組み換え標的配列が隣接した核酸、又はプロモーターに操作可能に連結されたレポーター遺伝子を含み、前記レポーター遺伝子が、LacZ、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J−Red、DsRed、mOrange、mKO、mCitrine、ビーナス、YPet、強化黄色蛍光タンパク質(EYFP)、エメラルド、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)、CyPet、シアン蛍光タンパク質(CFP)、セルリアン、T−サファイア、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるレポータータンパク質をコードする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
前記Y染色体上の前記標的ゲノム遺伝子座が、Sry遺伝子、Uty遺伝子、Eif2s3y遺伝子、Ddx3y遺伝子、Ube1y遺伝子、Tspy遺伝子、Usp9y遺伝子、Zfy1遺伝子、Zfy2遺伝子、又は、Kdm5d、Eif2s3y、Tspy、Uty、Ddx3y及びUsp9y遺伝子を包含する領域である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
本明細書で互換的に使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、及び「ペプチド」は、コード及び非コードアミノ酸、並びに化学的又は生化学的に修飾又は誘導体化されたアミノ酸を含む、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態を含む。それらの用語はまた、修飾ペプチド骨格を有するポリペプチドなど、修飾されているポリマーを含む。
【0029】
本明細書で互換的に使用される用語「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、又はこれらの類似体若しくは修飾バージョンを含む、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を含む。それらは、プリン塩基、ピリミジン塩基、又は他の天然の、化学的に修飾された、生化学的に修飾された、非天然の、又は誘導体化されたヌクレオチド塩基を含む、一本鎖、二本鎖、及び多重鎖DNA又はRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA−RNAハイブリッド、及びポリマーを含む。簡単にするために、核酸が二本鎖又は一本鎖の形態であるかどうかにかかわらず、核酸サイズはbpで言及され得、後者の場合、bpは、一本鎖核酸がその厳密に相補的な鎖と二重鎖形成される場合に、かつ二重鎖形成されたときに形成されるものである。
【0030】
「コドン最適化」は概して、天然アミノ酸配列を維持しながら、天然配列の少なくとも1つのコドンを、宿主細胞の遺伝子中でより頻繁に、又は最も頻繁に使用されるコドンと置き換えることによって、特定の宿主細胞中の発現の強化のために核酸配列を修飾する工程を含む。例えば、Casタンパク質をコードする核酸は、自然発生的核酸配列と比較して、細菌細胞、酵母細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳類細胞、げっ歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞、又は任意の他の宿主細胞を含む所与の原核又は真核細胞中でより高い使用頻度を有するコドンを置換するように修飾され得る。コドン使用頻度表は、例えば、「Codon Usage Database」で容易に入手可能である。これらの表は、多くの方法で適用され得る。Nakamura et al.(2000)Nucleic Acids Research 28:292を参照されたい。特定の宿主における発現に対する特定の配列のコドン最適化のためのコンピュータアルゴリズムもまた、入手可能である(例えば、Gene Forgeを参照されたい)。
【0031】
「操作可能な連結」又は「操作可能に連結」されていることは、両方の構成要素が正常に機能し、かつ構成要素のうちの少なくとも1つが他の構成要素のうちの少なくとも1つに及ぼされる機能を媒介することができる可能性を可能にするような、2つ以上の構成要素(例えば、プロモーター及び別の配列要素)の並置を含む。例えば、プロモーターが、1つ以上の転写制御因子の存在又は非存在に応答して、コード配列の転写レベルを制御する場合、プロモーターは、コード配列に操作可能に連結され得る。
【0032】
核酸の「相補性」は、そのヌクレオ塩基の基の配向によって、核酸の1つの鎖中のヌクレオチド配列が、対向する核酸鎖上の別の配列と水素結合を形成することを意味する。DNA中の相補的塩基は、典型的には、TとA及びGとCである。RNA中では、それらは、典型的には、GとC及びAとUである。相補性は、完全又は実質的/十分であり得る。2つ核酸間の完全な相補性は、2つの核酸が、二重鎖中の全ての塩基がワトソン−クリック対合によって相補的塩基に結合される二重鎖を形成することができることを意味する。「実質的な」又は「十分な」相補性は、1つの鎖中の配列が対向する鎖中の配列に全面的及び/又は完璧に相補的ではないが、2つの鎖上の塩基間で十分な結合が生じて、一組のハイブリダイゼーション条件(例えば、塩濃度及び温度)下で、安定したハイブリッド複合体を形成することを意味する。そのような条件は、配列及びハイブリダイズ鎖のTmを予測するための標準的な数学的計算を使用することによって、又は常法を用いたTmの経験的決定によって予測され得る。Tmは、2つの核酸鎖間に形成されるハイブリダイゼーション複合体の集団が50%変性した温度を含む。Tm未満の温度において、ハイブリダイゼーション複合体の形成に有利に働く一方で、Tmを超える温度においては、ハイブリダイゼーション複合体中の鎖の融解又は分離に有利に働く。Tmは、例えば、Tm=81.5+0.41(% G+C)を使用することによって、1MのNaCl水溶液中で既知のG+C含有量を有する核酸に対して推定されてもよいが、他の既知のTm計算は、核酸構造特徴を考慮に入れる。
【0033】
「ハイブリダイゼーション条件」は、1つの核酸鎖が、ハイブリダイゼーション複合体を生み出すために、相補鎖相互作用及び水素結合によって第2の核酸鎖に結合する、累積的な環境を含む。そのような条件は、核酸を含有する水性又は有機溶液の化学構成成分及びそれらの濃度(例えば、塩、キレート剤、ホルムアミド)、並びに混合物の温度を含む。インキュベーション時間の長さ又は反応チャンバの寸法などの他の要因が環境に寄与し得る。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2.sup.nd ed.,pp.1.90〜1.91,9.47〜9.51,1 1.47〜11.57(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)を参照されたい。
【0034】
ハイブリダイゼーションは、塩基間のミスマッチの可能性はあるものの、2つの核酸が相補的配列を含むことを必要とする。2つの核酸間のハイブリダイゼーションに適した条件は、当該技術分野において周知の変数である、核酸の長さ及び相補性の程度によって決まる。2つのヌクレオチド配列間の相補性の程度が大きいほど、それらの配列を有する核酸のハイブリッドに対する融解温度(Tm)の値は大きくなる。短区間の相補性(例えば、35個以下、30個以下、25個以下、22個以下、20個以下、又は18個以下のヌクレオチドにわたる相補性)を有する核酸間のハイブリダイゼーションに関して、ミスマッチの位置は重要になる(Sambrook et al.、上記参照、11.7〜11.8を参照されたい)。典型的には、ハイブリダイズ可能な核酸に対する長さは、少なくとも約10ヌクレオチドである。ハイブリダイズ可能な核酸に対する例示的な最小長は、少なくとも約15ヌクレオチド、少なくとも約20ヌクレオチド、少なくとも約22ヌクレオチド、少なくとも約25ヌクレオチド、及び少なくとも約30ヌクレオチドを含む。更に、温度及び洗浄溶液塩濃度は、相補性の領域の長さ及び相補性の程度などの要因に従って、必要に応じて調整されてもよい。
【0035】
ポリヌクレオチドの配列は、特異的にハイブリダイズ可能であるために、その標的核酸の配列に100%相補的である必要はない。更に、ポリヌクレオチドは、介在又は隣接セグメントがハイブリダイゼーション事象に関与しないように、1つ以上のセグメントにわたってハイブリダイズしてもよい(例えば、ループ構造又はヘアピン構造)。ポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、それらが標的化される標的核酸配列内の標的領域に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%の配列相補性を含むことができる。例えば、20個中18個のヌクレオチドが標的領域に相補的であり、したがって特異的にハイブリダイズする、gRNAは、90%の相補性を表す。この例において、残りの非特異的ヌクレオチドは、相補的ヌクレオチドが散在又は点在していてもよく、互いに、又は相補的ヌクレオチドに接触している必要はない。
【0036】
核酸内の核酸配列の特定の区間の間の相補性の百分率は、当該技術分野において既知のBLASTプログラム(基本的なローカル配列検索ツール)及びPowerBLASTプログラム(Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403〜410、Zhang and Madden(1997)Genome Res.7:649〜656)を使用して、又はSmith及びWatermanのアルゴリズム(Adv.Appl.Math.,1981,2,482〜489)を使用する、デフォルト設定を使用したGapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,Madison Wis.)を使用して、慣例的に決定され得る。
【0037】
本明細書に提供される方法及び組成物は、様々な異なる構成成分を採用する。いくつかの構成成分が活性な変異体及びフラグメントを有することができることが、本明細書全体を通して認識される。そのような構成成分としては、例えば、Casタンパク質、CRISPR RNA、tracrRNA、及びガイドRNAが挙げられる。これらの構成成分のそれぞれに対する生物活性は、本明細書の別の個所に記載される。
【0038】
2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列との関連での「配列同一性」又は「同一性」は、指定された比較ウィンドウにわたって最大限に一致するようにアラインメントされたときに同じである2つの配列中の残基を参照する。配列同一性の百分率がタンパク質に関して使用されるとき、同一ではない残基部分は、多くの場合、保存的アミノ酸置換によって異なることが認識され、この保存的アミノ酸置換において、アミノ酸残基は、同様の化学特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する他のアミノ酸残基と置換され、したがって、分子の機能特性を変化させない。配列が保存的置換の点で異なるとき、配列同一性の百分率は、置換の保存性を補正するように上方調節されてもよい。そのような保存的置換によって異なる配列は、「配列類似性」又は「類似性」を有すると言われる。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。典型的には、これは、保存的置換を完全なミスマッチよりもむしろ部分的なミスマッチとしてスコアリングし、それにより、配列同一性の百分率を増加させることを伴う。したがって、例えば、同一アミノ酸に1のスコアが与えられ、非保存的置換にゼロのスコアが与えられる場合、保存的置換は、ゼロ〜1のスコアが与えられる。保存的置換のスコアリングは、例えば、プログラムPC/GENE(Intelligenetics,Mountain View,California)で実装されるように計算される。
【0039】
「配列同一性の百分率」は、比較ウィンドウにわたって2つの最適にアラインメントされた配列を比較することによって決定された値を含み、比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、基準配列(付加又は欠失を含まない)と比較して、付加又は欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。百分率は、同一核酸塩基又はアミノ酸残基が両方の配列中で生じる位置の数を決定して、マッチした位置の数を得て、マッチした位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、結果に100を掛けて、配列同一性の百分率を得ることによって計算される。
【0040】
特に明記しない限り、配列同一性/類似性の値は、以下のパラメータ、すなわち、50のGAP Weight及び3のLength Weight、並びにnwsgapdna.cmpスコアリングマトリックスを使用したヌクレオチド配列に対する同一性%及び類似性%、8のGAP Weight及び2のLength Weight、並びにBLOSUM62スコアリングマトリックスを使用した同一性%及び類似性%、又はこれらの任意の同等のプログラムを使用して、GAP Version 10を使用して得られた値を含む。「同等のプログラム」は、当該の任意の2つの配列に関して、GAP Version 10によって生成された対応するアラインメントと比較したとき、同一のヌクレオチド又はアミノ酸残基マッチ及び同一の配列同一性の百分率を有するアラインメントを生成する、任意の配列比較プログラムを含む。
【0041】
1つ以上の列挙された要素を「備える」又は「含む」組成物又は方法は、特に列挙されていない他の要素を含んでもよい。例えば、あるタンパク質を「備える」又は「含む」組成物は、そのタンパク質を単独で、又は他の成分と組み合わせて含有してもよい。
【0042】
値の範囲の指定は、その範囲内の、又はその範囲を画定する全ての整数、及びその範囲内の整数によって定義される全ての部分範囲を含む。
【0043】
文脈から明らかではない限り、用語「約」は、規定された値の測定の標準的な標準誤差(例えば、SEM)内の値を包含する。
【0044】
単数形の冠詞「a」、「an」、及び「the」は、文脈上そうでないとする明確な指示がない限り、複数の指示対象を含む。例えば、用語「Casタンパク質」又は「少なくとも1つのCasタンパク質」は、これらの混合物を含む複数のCasタンパク質を含むことができる。
【0045】
I.F0世代における繁殖力のある雌XY動物を作製するための方法及び組成物
ドナーES細胞及び宿主胚から非ヒト動物を作製するための方法が既知である。ドナーES細胞は、宿主胚に定着し、したがって、ドナーES細胞及び宿主胚によって形成される動物に部分的に、又は実質的に部分的に寄与する細胞の能力を強化する、ある特定の特徴のために選択される。形成された動物は、主にES細胞の遺伝子型(例えば、XY又はXX)に基づき、雄又は雌であり得る。
【0046】
トランスジェニック動物を作製するためのES細胞株の大部分は、雄のXY遺伝子型を有する。哺乳類性決定におけるY染色体の優性のため、XY ES細胞が胚盤胞宿主胚内に導入され、かつ懐胎されるとき、それらは、ほぼ必ず、第1世代(F0)において、すなわち、雄のドナーES細胞(XY)由来の細胞と、雄(XY)又は雌(XX)のいずれかであり得る宿主胚由来の細胞とを含有するキメラである、表現型的に雄の動物を生み出す。XY ES細胞は、VelociMouse方法によって8細胞宿主胚内に導入され、かつ懐胎されたとき、完全にXY ES細胞由来である第1世代(F0)の表現型的に雄の動物において生じることができる。
【0047】
国際公開第WO2011/156723号は、宿主胚へのXYドナー細胞の導入及び好適な宿主中での懐胎後に、繁殖力のあるXY雌動物がF0集団において生み出されるように、XYドナー細胞を培養物中で維持するための培地を採用する、方法及び組成物を提供する。そのような組成物は、所与の標的化された遺伝子修飾に関してホモ接合性であるF1子孫を作製することにおいて用途を見出す。
【0048】
本願は、解剖学的に正常で、繁殖力を持ち、かつ受胎可能なXY F0雌の産出を促進する培地と組み合わせた、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有するXYドナー細胞の組み合わせを採用する、方法及び組成物を提供する。そのような方法及び組成物は、F0世代における繁殖力のある雌XY非ヒト動物を作製することを可能にする。本明細書に記載される培地と組み合わせた、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有するXY ES細胞の組み合わせは、F0世代における繁殖力のある雌XY子孫の百分率を有利に増加させる。効率的な雄雌性転換のための方法は、家畜産業にとって貴重である。例えば、雌の子牛は、雄よりも乳牛産業にとってはるかに貴重である。同じことが家禽にも当てはまる。繁殖目的で、それがウシ又はブタ又はヒツジであるかにかかわらず、多くの雌からほんのわずかな雄ウシ、雄ブタ、又は雄ヒツジを繁殖させることが好ましい。したがって、本明細書に提供される様々な方法は、様々な商業的に重要な繁殖産業において用途を見出す。
【0049】
雌化培地中で培養することなく、F0世代における繁殖力のあるXY雌非ヒト哺乳動物を生み出すことが可能なXY胚性幹(ES)細胞株を作製するための方法及び組成物もまた提供される。そのような方法では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有するXY ES細胞株は、本明細書の別の個所で提供される雌化培地の非存在下で、(例えば、本明細書の別の個所で記載されるDMEMなどの基本培地中で培養することによって)F0世代における繁殖力のあるXY雌非ヒト哺乳動物を生み出すことが可能なES細胞株を生み出すことができる。
【0050】
A.Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有する動物XY細胞
動物由来の様々なXY多能性及び/又は全能性細胞を含む様々な組成物及び方法が、本明細書に提供される。本明細書で使用される場合、用語「多能性細胞」は、2つ以上の分化細胞型に発達する能力を有する未分化細胞を含む。そのような多能性及び/又は全能性XY細胞は、例えば、胚性幹(ES)細胞又は人工多能性幹(iPS)細胞であってもよい。本明細書で使用される場合、用語「胚性幹細胞」又は「ES細胞」は、胚内への導入後に発達中の胚の任意の組織に寄与することが可能である胚由来全能性又は多能性細胞を含む。
【0051】
細胞、多能性及び/若しくは全能性細胞、XY細胞、ES細胞、iPS細胞、ドナー細胞、並びに/又は宿主胚に関連した用語「動物」としては、哺乳動物、魚類、及び鳥類が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、シカ、バイソン、ヒツジ、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット)、家畜(例えば、ウシ種、例えば、乳牛、去勢雄牛など、ヒツジ種、例えば、ヒツジ、ヤギなど、及びブタ種、例えば、ブタ及びイノシシ)が挙げられる。鳥類としては、例えば、鶏、七面鳥、ダチョウ、ガン、アヒルなどが挙げられる。家畜及び農業用動物もまた含まれる。細胞、XY細胞、ES細胞、ドナー細胞、及び/又は宿主胚に関連した句「非ヒト動物」は、ヒトを除外する。
【0052】
特定の実施形態では、多能性細胞は、ヒトXY ES細胞、ヒトXY iPS細胞、ヒト成体XY ES細胞、発達制限されたヒト前駆ES細胞、非ヒトXY ES細胞、非ヒトXY iPS細胞、げっ歯類XY ES細胞、げっ歯類XY iPS細胞、マウスXY ES細胞、マウスXY iPS細胞、ラットXY ES細胞、ラットXY iPS細胞、ハムスターXY ES細胞、ハムスターXY iPS細胞、サルXY ES細胞、サルXY iPS細胞、農業用哺乳類XY ES細胞、農業用XY iPS細胞、家畜哺乳類XY ES細胞、又は家畜XY iPS細胞である。更に、XY ES細胞又はXY iPS細胞は、近交系統、ハイブリッド系統、又は非近交系統由来であってもよい。多能性及び/又は全能性XY細胞がXYY核型又はXXY核型を含むことができることが、更に認識される。
【0053】
マウス多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、129系統、C57BL/6系統、129及びC57BL/6の混合、BALB/c系統、又はSwiss Webster系統由来であってもよい。特定の実施形態では、マウスは、50%の129及び50%のC57BL/6である。一実施形態では、マウスは、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/Svlm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2である系統からなる群から選択される129系統である。例えば、Festing et al.(1999)Mammalian Genome 10:836)を参照されたい。一実施形態では、マウスは、C57BL系統であり、特定の実施形態では、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/Kal_wN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/6NTac、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、又はC57BL/Ola由来である。特定の実施形態では、マウスは、上記の129系統及び上記のC57BL/6系統の混合である。別の特定の実施形態では、マウスは、上記の129系統の混合、又は上記のBL/6系統の混合である。特定の実施形態では、混合の129系統は、129S6(129/SvEvTac)系統である。いくつかの実施形態では、マウスXY ES細胞は、129系統由来のY染色体を含む。
【0054】
更に別の実施形態では、XYマウスES細胞は、VGF1マウスES細胞である。VGF1(F1H4としても既知)マウスES細胞は、雌C57BL/6NTacマウスを雄129S6/SvEvTacマウスに交配することによって生み出されたハイブリッド胚由来であった。したがって、VGF1 ES細胞は、129S6/SvEvTacマウスからのY染色体を含有する。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Auerbach,W.et al.(2000)Establishment and chimera analysis of 129/SvEv− and C57BL/6−derived mouse embryonic stem cell lines.Biotechniques 29,1024〜1028,1030,1032を参照されたい。
【0055】
ラット多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、ACIラット系統、Dark Agouti(DA)ラット系統、Wistarラット系統、LEAラット系統、Sprague Dawley(SD)ラット系統、又はFisher F344若しくはFisher F6などのFischerラット系統が挙げられるがこれらに限定されない、任意のラット系統由来であってもよい。ラット多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)はまた、上記で列挙された2つ以上の系統の混合由来の系統から得ることができる。一実施形態では、ラット多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、DA系統及びACI系統から選択された系統由来である。特定の実施形態では、ラット多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、ACI系統由来である。ACIラット系統は、白色の腹及び足、並びにRT1
av1ハプロタイプを有する、黒いアグーチを有するものと特徴付けられる。そのような系統は、Harlan Laboratoriesを含む様々な供給元から入手可能である。他の実施形態では、様々なラット多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、アグーチ毛及びRT1
av1ハプロタイプを有するものと特徴付けられる、Dark Agouti(DA)ラット系統由来である。そのようなラットは、Charles River及びHarlan Laboratoriesを含む様々な供給元から入手可能である。更なる実施形態では、ラット多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、近交ラット系統由来である。特定の実施形態では、ラットES細胞株は、ACIラット由来であり、ACI.G1ラットES細胞を含む。別の実施形態では、ラットES細胞株は、DAラット由来であり、DA.2BラットES細胞株又はDA.2CラットES細胞株を含む。例えば、2014年2月20日出願の、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国実用出願14/185,703号を参照されたい。
【0056】
様々な実施形態では、多能性及び/若しくは全能性細胞(すなわち、XY ES細胞若しくはXY iPS細胞)、ドナー細胞、並びに/又は宿主胚は、以下のうちの1つ以上、すなわちナンベイヤチネズミ属、モリレミング属、ハタネズミ属、ヨーロッパモグラ属に由来していない。様々な実施形態では、ドナー細胞及び/又は宿主胚は、正常な野生型特徴がXY雌繁殖性である任意の種に由来していない。様々な実施形態では、遺伝子修飾が多能性及び/若しくは全能性細胞(すなわち、XY ES細胞若しくはXY iPS細胞)、ドナー細胞、又は宿主胚中に存在する場合、遺伝子修飾は、XYY若しくはXXY、Tdy−陰性性転換、Tdy−陽性性転換、X0修飾、異数体、fgf9
−/−遺伝子型、又はSOX9修飾ではない。
【0057】
本方法及び組成物で採用される多能性及び/又は全能性XY細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少をもたらす遺伝子修飾を有する。「性決定領域Y」タンパク質又は「Sry」タンパク質は、DNA結合タンパク質の高移動度群(HMG)−ボックスファミリーのメンバーである転写因子である。Sryは、雄性決定を開始する精巣決定因子である。様々な生物由来のSryタンパク質の配列が既知であり、これには、マウス(受託番号Q05738)、ラット(GenBank:CAA61882.1)、ヒト(受託番号Q05066)、ネコ(受託番号Q67C50)、及びウマ(受託番号P36389)が含まれ、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
概して、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性は、Sryタンパク質のタンパク質レベル及び/又は活性レベルが、Sryタンパク質の発現及び/又は活性を阻害するように遺伝子修飾又は突然変異されていない適切な対照細胞中のSryのタンパク質レベルよりも統計的に低い場合、減少している。特定の実施形態では、Sryタンパク質の濃度及び/又は活性は、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少を有するように修飾されていない対照細胞に対して、少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%減少する。
【0059】
「対象細胞」は、本明細書に開示される遺伝子修飾などの遺伝子改変がもたらされている細胞か、又はそのように改変した細胞の子孫であり、かつその改変を含む細胞である。「対照」又は「対照細胞」は、対象細胞の表現型の変化を測定するための基準点を提供する。一実施形態では、対照細胞は、それが活性の減少をもたらす遺伝子修飾又は突然変異を欠くことを除いて、Sry活性が減少した細胞と可能な限り厳密に一致している(例えば、個々の細胞は、同じ細胞株に由来し得る)。他の場合においては、対照細胞は、例えば、(a)野生型、すなわち、対象細胞をもたらす遺伝子改変に対して出発物質と同じ遺伝子型の細胞、(b)出発物質と同じ遺伝子型であるが、ヌル構築物で(すなわち、マーカー遺伝子を含む構築物など、対象となる形質に対する既知の効果を有しない構築物で)遺伝子修飾されている細胞、(c)対象細胞の遺伝子修飾されていない子孫である細胞(すなわち、対照細胞及び対象細胞は、同じ細胞株に由来する)、(d)対象細胞と遺伝学的に同一であるが、対象となる遺伝子の発現を低減する条件若しくは刺激に曝露されていない細胞、又は(e)遺伝子修飾が対象となるポリヌクレオチドの発現の改変をもたらさない条件下での対象細胞自体を含んでもよい。
【0060】
Sryポリペプチドの発現レベルは、例えば、細胞若しくは生物中のSryポリペプチドのレベルについて分析することによって直接、又は例えば、Sryポリペプチドの活性を測定することによって間接的に測定されてもよい。Sryタンパク質の活性を判定するための様々な方法が既知である。Wang et al.(2013)Cell 153:910〜918、Mandalos et al.(2012)PLOS ONE 7:e45768:1〜9、及びWang et al.(2013)Nat Biotechnol.31:530〜532を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
他の場合において、Sryポリペプチドの活性及び/又はレベルを低減する標的化された遺伝子修飾を有する細胞は、サザンブロット解析、DNA配列決定法、PCR解析、又は表現型解析が挙げられるがこれらに限定されない方法を使用して選択される。そのような細胞は、次いで、本明細書に記載される様々な方法、組成物、及びキットにおいて採用される。
【0062】
標的化された遺伝子修飾は、例えば、Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座への標的化された改変、Sry遺伝子への標的化された改変、又は他の所望のポリヌクレオチドへの標的化された改変を含む、対象となるポリヌクレオチドへの標的化された改変を含むことができる。そのような標的化された修飾としては、1つ以上のヌクレオチドの付加、1つ以上のヌクレオチドの欠失、1つ以上のヌクレオチドの置換、対象となるポリヌクレオチド若しくはその一部分のノックアウト、対象となるポリヌクレオチド若しくはその一部分のノックイン、内因性核酸配列の異種核酸配列との置き換え、又はこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、少なくとも1、2、3、4、5、7、8、9、10個、又はそれよりも多くのヌクレオチドが、標的化されたゲノム修飾を形成するように変化させられる。
【0063】
Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少は、Sry遺伝子中の遺伝子修飾(すなわち、制御領域、コード領域、及び/又はイントロンなどにおける遺伝子修飾)に起因し得る。そのような遺伝子修飾としては、ゲノム中へのヌクレオチドの付加、欠失、及び置換が挙げられるがこれらに限定されない。そのような遺伝子修飾としては、例えば、Sry遺伝子中への1つ以上のヌクレオチドの挿入、Sry遺伝子からの1つ以上のヌクレオチドの欠失、Sry遺伝子中の1つ以上のヌクレオチドの置換、Sry遺伝子若しくはその一部分のノックアウト、Sry遺伝子若しくはその一部分のノックイン、内因性核酸配列の異種核酸配列との置き換え、又はこれらの組み合わせを含む、Sry遺伝子の改変が挙げられ得る。したがって、特定の実施形態では、Sryポリペプチドの活性は、Sryポリペプチドをコードする遺伝子を破壊することによって低減又は排除されてもよい。特定の実施形態では、少なくとも1、2、3、4、5、7、8、9、10個、又はそれよりも多くのヌクレオチドが、Sry遺伝子中で変化させられる。追加の標的化された遺伝子修飾を発生させるために、様々な方法が使用され得る。例えば、Wang et al.(2013)Cell 153:910〜918、Mandalos et al.(2012)PLOS ONE 7:e45768:1〜9、及びWang et al.(2013)Nat Biotechnol.31:530〜532を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。加えて、Y染色体上のゲノム遺伝子座を修飾するための本明細書に記載される様々な方法が、Sry遺伝子に標的化された遺伝子修飾を導入するために使用され得る。
【0064】
他の実施形態では、Sryポリペプチドの活性及び/又はレベルは、Sryポリペプチドのレベル又は活性を阻害するポリヌクレオチドを細胞中に導入することによって、低減又は排除される。ポリヌクレオチドは、SryメッセンジャーRNAの翻訳を防止することによって直接、又はSryタンパク質をコードする遺伝子の転写若しくは翻訳を阻害するポリペプチドをコードすることによって間接的に、Sryポリペプチドの発現を阻害してもよい。他の実施形態では、Sryポリペプチドの活性は、Sryポリペプチドの活性を阻害するポリペプチドをコードする配列を細胞中に導入することによって、低減又は排除される。
【0065】
一実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、Sryタンパク質の活性及び/又はレベルを低減する条件付きSry対立遺伝子を含む。「条件付きSry対立遺伝子」は、所望の発達時間において、かつ/又は所望の対象となる組織内で、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少を有するように設計された、修飾Sry遺伝子を含む。レベル及び/又は活性の低減は、条件付き対立遺伝子を生じさせる修飾を欠く対照細胞と、又は所望の発達時点における活性の低減の場合、先行する及び/若しくは後続する時点と、又は所望の組織の場合、全ての組織の平均活性量と比較され得る。一実施形態では、条件付きSry対立遺伝子は、所望の発達時点において、かつ/又は特定の組織中でスイッチをオフにし得る、Sryの条件付きヌル対立遺伝子を含む。そのような条件付き対立遺伝子は、任意の遺伝子標的化クローン由来の繁殖力のあるXY雌を作り出すために使用され得る。本明細書の別の個所で記載されるように、そのような方法は、F1世代における所望のホモ接合性遺伝子修飾の作出を可能にする。そのような方法は、F2世代まで繁殖する必要なしで、表現型の迅速な検査を提供する。
【0066】
非限定的な実施形態では、条件付きSry対立遺伝子は、参照によりその全体が組み込まれる米国第2011/0104799号に記載されるように、多機能性対立遺伝子である。特定の実施形態では、条件付き対立遺伝子は、(a)標的遺伝子の転写に対するセンス配向における作動配列、及びセンス又はアンチセンス配向における薬剤選択カセット(DSC)、(b)アンチセンス配向における、対象となるヌクレオチド配列(NSI)及び反転モジュールによる条件付き(COIN、エクソン分割イントロン及び反転可能なジーントラップ様モジュールを利用する。例えば、参照によりその全体が組み込まれる米国第2011/0104799号を参照されたい)、並びに(c)(i)作動配列及びDSCを欠く、かつ(ii)センス配向におけるNSI及びアンチセンス配向におけるCOINを含有する条件付き対立遺伝子を形成するために、第1のリコンビナーゼへの曝露後に組み換える、組み換え可能な単位を含む。
【0067】
Sry遺伝子の条件付き対立遺伝子は、任意の細胞型において生成され得、XY多能性及び/又は全能性細胞に限定されない。そのような細胞型は、Y染色体上のゲノム遺伝子座を標的化するための非限定的な方法と共に、本明細書の別の箇所で更に詳細に考察される。
【0068】
本明細書の別の個所で考察されるように、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる遺伝子修飾を有する多能性及び/又は全能性XY細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、対象となるポリヌクレオチドへの少なくとも1つの追加の標的化された遺伝子修飾を更に含むことができる。少なくとも1つの追加の標的化された遺伝子修飾は、1つ以上の核酸の置換、内因性核酸配列の異種核酸配列との置き換え、ノックアウト、及びノックインを含むことができる。追加の標的化された遺伝子修飾は、Y染色体、X染色体、又は常染色体上にあってもよい。様々な方法は、本明細書の別の個所で考察されるように、標的プラスミド及び大きな標的ベクターを採用することを含む、追加の標的化された遺伝子修飾を発生させるために使用され得る。核移植に関連した方法について、それぞれが参照により本明細書に組み込まれる米国第S20080092249号、国際公開第WO/1999/005266A2号、米国第20040177390号、国際公開第WO/2008/017234A1号、及び米国特許第7,612,250号も参照されたい。加えて、Y染色体上のゲノム遺伝子座(すなわち、Sry遺伝子)を修飾するための本明細書に記載される様々な方法はまた、Y染色体上に位置していない対象となるポリヌクレオチドへの標的化された遺伝子修飾を導入するためにも使用され得る。
【0069】
B.Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有する多能性及び/又は全能性XY細胞を培養するための培地
F0世代におけるXYの繁殖力のある雌を促進する様々な方法及び組成物において採用される培地は、それが多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、ES細胞、iPS細胞、XY ES細胞、XY iPS細胞など)を維持するようなものである。用語「維持する」、「維持すること」、及び「維持」は、本明細書に記載される多能性及び/又は全能性細胞(ES細胞又はiPS細胞を含む)の特徴又は表現型のうちの少なくとも1つ以上の安定した保持を指す。そのような表現型は、細胞の多能性及び/又は全能性、細胞形態、遺伝子発現プロファイル、並びに他の機能的特徴を維持することを含むことができる。用語「維持する」、「維持すること」、及び「維持」はまた、細胞の増殖、又は培養されている細胞の数の増加を包含することができる。その用語は、細胞が分裂し、数を増加させ続ける場合も、そうでない場合もある一方で、細胞が多能性のままであることを可能にする培養条件を更に企図する。
【0070】
いくつかの実施形態では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を低減する遺伝子修飾を有するXY細胞は、多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、ES細胞、iPS細胞、XY ES細胞、XY iPS細胞など)を培養物中で増殖させるか、又は維持することにおける使用(補充物を添加して)に好適である、当該技術分野において既知の任意の基本培地(例えば、DMEM)中で培養することによって維持される。そのような場合、培養されたXY ES細胞は、細胞がレシピエント胚内へと組み込まれ、かつ繁殖力のある雌子孫を生じさせるように、繁殖力のある雌動物へと発達する可能性を有するが、多能性及び/又は全能性をなおも保持する。
【0071】
他の実施形態では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を低減する遺伝子修飾を有するXY細胞は、細胞がレシピエント胚内へと組み込まれ、かつ繁殖力のある雌子孫を生じさせ得るように、細胞のうちの一部が繁殖力のある雌動物に発達する可能性を有するXY細胞に変換するが、多能性及び/又は全能性をなおも維持するくらい十分な時間にわたって、以下で更に定義されるような培地中で培養することによって維持される。
【0072】
Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を低減する遺伝子修飾を有するXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞、XY iPS細胞など)を維持するために採用される培地は、XY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する。したがって、そのような培地中で培養することは、適切な対照培地中で培養すること(例えば、DMEMに基づく培養)と比較して得られるXY F0の繁殖力のある雌の数を増加させる。したがって、XY F0の繁殖力のある雌の数の増加は、F0非ヒト哺乳動物の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%がXY雌であることを含むことができ、性成熟に達すると、F0 XY雌非ヒト哺乳動物は、繁殖力を持つ。
【0073】
句「基本培地」又は「基本培地(複数)」は、例えば、多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、ES細胞、iPS細胞、XY ES細胞、XY iPS細胞など)を培養物中で増殖させるか、又は維持することにおける使用(補充物を添加して)に好適である、当該技術分野において既知の基本培地(例えば、DMEM)を含む。繁殖力のあるXY雌を作製するのに好適な基本培地(すなわち、「低塩DMEM」又は「低浸透圧培地」)は、ES細胞を培養物中で維持するために典型的に使用される基本培地とは異なる。基本培地を一般的に考察する目的で、繁殖力のあるXY雌を作製するのに好適ではない基本培地は、「DMEM」としてのこの項及び表1に記載される(例えば、典型的なDMEM培地)。繁殖力のあるXY雌を作製するのに好適な基本培地を考察する目的で、句「低塩DMEM」又は「低浸透圧DMEM」が使用される。多能性及び/又は全能性細胞を培養物中で維持するために典型的に使用される基本培地(例えば、DMEM)と、繁殖力のあるXY雌を作製するのに好適な基本培地(例えば、「低塩DMEM」)との間の違いは、本明細書において明確に述べられる。句「低塩DMEM」は、便宜上使用され、繁殖力のあるXY雌を作製するのに好適なDMEMは、「低塩」に限定されない特徴を示し、本明細書に記載される特徴を含む。例えば、表1に示されるDMEMは、本明細書で提供されるような塩化ナトリウム及び/又は重炭酸ナトリウム濃度を変化させることによって、繁殖力のあるXY雌を作製するのに好適なものにされ得、それはまた、表1に示されるDMEMと比較して異なる浸透圧及び異なる導電率をもたらす。基本培地の一例は、様々な形態におけるダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)である(例えば、Invitrogen DMEM、カタログ番号1 1971−025)(表1)。好適な低塩DMEMは、KO−DMEM(商標)(Invitrogenカタログ番号10829−018)として市販されている。基本培地は、典型的には、ドナー細胞として使用するために細胞を培養物中で維持するために使用されるとき、当該技術分野において既知の多くの補充物が補充される。そのような補充物は、本開示において「補充物」又は「+補充物」として示される。
【0075】
用語「補充物」又は句「+補充物」は、例えば、ドナー細胞の多能性又は全能性を培養中で維持するために、多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を培養中で増殖させるか、又は維持するための基本培地に添加される要素を含む。例えば、多能性及び/又は全能性細胞を培養物中で増殖させるか、又は維持するのに好適な培地補充物としては、ウシ胎児血清(FBS)、グルタミン、抗生物質(複数可)、ペニシリン及びストレプトマイシン(例えば、penstrep)、ピルビン酸塩(例えば、ピルビン酸ナトリウム)、非必須アミノ酸(例えば、MEM NEAA)、2−メルカプトエタノール、並びに白血病阻止因子(LIF)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0076】
一実施形態では、基本培地は、例えば、胚内への注射及び代理母マウスへの子宮内導入後に、雄性決定発達プログラムに寄与する能力が低減したXY ES細胞又はXY iPS細胞を含む、多能性細胞を培養物中で維持するのに好適な1つ以上の補充物を含む。
【0077】
特定の実施形態では、多能性細胞を培養物中で維持するのに好適な1つ以上の補充物は、FBS(90mLのFBS/0.5Lの基本培地)、グルタミン(2.4mmol/0.5Lの基本培地)、ピルビン酸ナトリウム(0.6mmol/0.5Lの基本培地)、非必須アミノ酸(<0.1mmol/0.5Lの基本培地)、2−メルカプトエタノール、LIF、及び1つ以上の抗生物質である。
【0078】
他の実施形態では、例えば、胚内への注射及び代理母マウスへの子宮内導入後に、雄性決定発達プログラムに寄与する能力が低減したXY ES細胞又はXY iPS細胞を含む、多能性細胞を培養物中で維持するための培地は、以下の補充物が添加される約500mLの基本培地を含む。約90mLのFBS(例えば、Hylcone FBSカタログ番号SH30070.03)、約2.4ミリモルのグルタミン(例えば、約12mLの200mMグルタミン溶液、例えば、Invitrogenカタログ番号25030−081、ペニシリン:ストレプトマイシン(例えば、約51mgのNaClを有する60,000単位のペニシリンGナトリウム及び60mgの硫酸ストレプトマイシン、例えば、約6mLのInvitrogen pennstrep、カタログ番号15140−122)、約0.6ミリモルのピルビン酸ナトリウム(例えば、6mLの100mMピルビン酸ナトリウム、Invitrogenカタログ番号1 1360−070)、約0.06ミリモルの非必須アミノ酸(例えば、約6mLのMEM NEAA、例えば、Invitrogenカタログ番号1 1 140−050からのMEM NEAA)、約1.2mLの2−メルカプトエタノール、及び約1.2マイクログラムのLIF(例えば、約120マイクロリットルの106単位/mLのLIF調製物、例えば、約120マイクロリットルのMillipore ESGRO(商標)−LIF、カタログ番号ESG1 107)。繁殖力のあるXY雌を作製するためにXY ES又はXY iPS細胞を維持するための基本培地を構成するとき、ほぼ同じ量の典型的に同じ補充物が採用されるが、基本培地の組成は(DMEM、例えば、上記の表に記載される培地とは)異なり、違い(複数可)は、本明細書に教示される違い(複数可)に対応する。
【0079】
いくつかの実施形態では、補充物は、Wnt条件培地、例えば、Wnt−3a条件培地を含む。
【0080】
一実施形態では、例えば、胚内への注射及び代理母マウスへの子宮内導入後に、雄性決定発達プログラムに寄与する能力が低減したXY ES細胞又はXY iPS細胞を含む、多能性細胞は、基本培地及び補充物を含む培地中で、インビトロ培養物中で維持され、基本培地は、以下の特徴、すなわち(a)約200mOsm/kg〜約329mOsm/kg未満の浸透圧、(b)約11mS/cm〜約13mS/cmの導電率、(c)約50mM〜約110mMの濃度のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩、(d)約17mM〜約30mMの炭酸塩濃度、(e)約85mM〜約130mMのアルカリ金属ハロゲン化物塩及び炭酸塩の総計濃度、並びに/又は(f)これらのうちの任意の2つ以上の組み合わせのうちの1つ以上を示す。他の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第WO2011/156723号に記載されるような培地中のインビトロ培養物中で維持される。
【0081】
一実施形態では、基本培地は、低塩DMEMである。特定の実施形態では、低塩DMEMは、85〜130mMのNaCl濃度を有する。一実施形態では、基本培地は、低浸透圧DMEMである。特定の実施形態では、低浸透圧DMEMは、250〜310mOsm/kgの浸透圧を有する。一実施形態では、基本培地は、低導電率DMEMである。特定の実施形態では、低導電率DMEMは、11〜13mS/cmの導電率を有する。
【0082】
他の実施形態では、基本培地は、約320、310、300、290、280、275、270、260、250、又は240mOsm/kg以下の浸透圧を示す。一実施形態では、基本培地又は基本培地及び補充物を含む培地は、約240〜320、250〜310、275〜295、又は260〜300mOsm/kg以下の浸透圧を示す。特定の実施形態では、基本培地又は基本培地及び補充物を含む培地は、約270mOsm/kgの浸透圧を示す。
【0083】
他の実施形態では、基本培地は、約10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、又は14.0mS/cm以下の導電率を示す。一実施形態では、基本培地は、約10〜14mS/cm又は11〜13mS/cm以下の導電率を示す。特定の実施形態では、基本培地は、約12〜13mS/cmの導電率を示す。
【0084】
特定の実施形態では、基本培地は、約12〜13mS/cmの導電率及び約260〜300mOsm/kgの浸透圧を示す。更なる特定の実施形態では、基本培地は、約90mMのNaClの濃度の塩化ナトリウムを含む。更なる特定の実施形態では、塩化ナトリウムの濃度は、約70〜95mMである。更なる特定の実施形態では、基本培地は、約35mM未満の濃度の重炭酸ナトリウムを含む。更なる特定の実施形態では、重炭酸ナトリウムの濃度は、約20〜30mMである。
【0085】
一実施形態では、基本培地は、約100mM以下のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩の濃度を示す。一実施形態では、アルカリ金属及びハロゲン化物の塩は、NaClである。一実施形態では、アルカリ金属及びハロゲン化物の塩の濃度は、90、80、70、60、又は50mM以下である。一実施形態では、アルカリ金属及びハロゲン化物の塩の基本培地中の濃度は、約60〜105、70〜95、又は80〜90mMである。特定の実施形態では、濃度は、約85mMである。
【0086】
一実施形態では、基本培地は、炭酸の塩の濃度を示す。一実施形態では、炭酸の塩は、ナトリウム塩である。一実施形態では、ナトリウム塩は、重炭酸ナトリウムである。一実施形態では、基本培地中の炭酸塩の濃度は、40、35、30、25、又は20mM以下である。一実施形態では、基本培地中の炭酸塩の濃度は、約10〜40、別の実施形態では、約20〜30mMである。特定の実施形態では、濃度は、約25又は26mMである。更に他の実施形態では、重炭酸ナトリウム濃度は、約26mM、約18mM、約18mM〜約26mM、又は約18mM〜約44mMである。
【0087】
一実施形態では、基本培地中のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩と炭酸の塩との濃度の合計は、140、130、120、110、100、90、又は80mM以下である。一実施形態では、基本培地中のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩と炭酸の塩との濃度の合計は、約80〜140、85〜130、90〜120、95〜120、又は100〜120mMである。特定の実施形態では、基本培地中のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩と炭酸の塩との濃度の合計は、約115mMである。
【0088】
一実施形態では、アルカリ金属及びハロゲン化物の塩と炭酸の塩とのモル比は、2.5よりも高い。一実施形態では、比は、約2.6〜4.0、2.8〜3.8、3〜3.6、又は3.2〜3.4である。一実施形態では、比は、3.3〜3.5である。特定の実施形態では、比は、3.4である。
【0089】
一実施形態では、基本培地は、約250〜310mOsm/kgの浸透圧、並びに約60〜105mMのアルカリ金属及びハロゲン化物の塩の濃度を示す。更なる実施形態では、基本培地は、約20〜30mMの炭酸の塩の濃度を有する。更なる実施形態では、アルカリ金属及びハロゲン化物の塩と炭酸の塩との濃度の合計は、約80〜140mMである。更なる実施形態では、基本培地の導電率は、約12〜13mS/cmである。
【0090】
一実施形態では、基本培地は、約218±22mOsm/kgの浸透圧を有し、約50±5mMのNaCl及び約26±5mMの炭酸塩を含む。特定の実施形態では、基本培地は、約218mOsm/kgの浸透圧を有し、約3mg/mLのNaCl及び2.2mg/mLの重炭酸ナトリウムを含む。
【0091】
別の実施形態では、基本培地は、約261±26mOsm/kgの浸透圧を有し、約87±5mMのNaCl及び約18±5mMを含む。特定の実施形態では、基本培地は、約261mOsm/kgの浸透圧を有し、約5.1mg/mLのNaCl及び約1.5mg/mLの重炭酸ナトリウムを含む。
【0092】
別の実施形態では、基本培地は、約294±29mOsm/kgの浸透圧を有し、約110±5mMのNaCl及び約18±5mMの炭酸塩を含む。特定の実施形態では、基本培地は、約294mOsm/kgの浸透圧を有し、約6.4mg/mLのNaCl及び約1.5mg/mLの重炭酸ナトリウムを含む。
【0093】
別の実施形態では、基本培地は、約270±27mOsm/kgの浸透圧を有し、約87±5mMのNaCl及び約26±5mMの炭酸塩を示す。特定の実施形態では、基本培地は、約270mOsm/kgの浸透圧を有し、約5.1mg/mLのNaCl及び約2.2mg/mLの重炭酸ナトリウムを示す。
【0094】
別の実施形態では、基本培地は、約322±32mOsm/kgの浸透圧を有し、約87±5mMのNaCl、約26±5mMの炭酸塩、及び約86±5mMのグルコースを含む。特定の実施形態では、基本培地は、約322mOsm/kgの浸透圧を有し、約5.1mg/mLのNaCl、約2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び約15.5mg/mLのグルコースを含む。
【0095】
本明細書に開示される様々な方法及び組成物において採用され得る追加の基本培地は、218±22mOsm/kgの浸透圧を有する、50±5mMのNaCl及び26±5mMの炭酸塩を含む基本培地を含む。特定の実施形態では、基本培地は、約218mOsm/kgの浸透圧を有し、約3mg/mLのNaCl及び2.2mg/mLの重炭酸ナトリウムを含む。
【0096】
他の実施形態では、基本培地は、218±22mOsm/kgの浸透圧を有し、50±5mMのNaCl及び26±5mMの炭酸塩を含む。特定の実施形態では、基本培地は、約218mOsm/kgの浸透圧を有し、約3mg/mLのNaCl及び2.2mg/mLの重炭酸ナトリウムを含む。
【0097】
他の実施形態では、約44mM、26mM、又は18mMを含む、本明細書に開示されるようなNaHCO
3の濃度を有する高グルコースDMEM培地(LifeTech)に、0.1mMの非必須アミノ酸、1mMのピルビン酸ナトリウム、0.1mMの2−メルカプトエタノール、2mMのL−グルタミン、それぞれ50ug/mLのペニシリン及びストレプトマイシン(LifeTech)、15% FBS(Hyclone)、及び2000U/mLのLIF(Millipore)を補充した。
【0098】
C.標的化された遺伝子修飾を行うための方法
Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる標的化された遺伝子修飾を行うための様々な方法が使用され得る。例えば、1つの場合において、標的化された遺伝子修飾は、相同組み換え事象を介して標的化された遺伝子修飾を発生させる系を採用する。他の場合において、動物細胞は、標的化されたゲノム位置において一本鎖又は二本鎖切断を発生させるヌクレアーゼ剤を使用して修飾され得る。一本鎖又は二本鎖切断は、次いで、非相同末端結合経路(NHEJ)によって修復される。そのような系は、例えば、標的化された機能喪失型遺伝子修飾を発生させることにおいて用途を見出す。例えば、標的プラスミド、小さな標的化ベクター(smallTVEC)、又は大きな標的化ベクターの使用を含む、そのような標的化された遺伝子修飾を発生させるための非限定的な方法は、本明細書の別の個所で詳細に考察される。また、Wang et al.(2013)Cell 153:910〜918、Mandalos et al.(2012)PLOS ONE 7:e45768:1〜9、及びWang et al.(2013)Nat Biotechnol.31:530〜532も参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0099】
特定の実施形態では、Sry遺伝子の標的化された遺伝子修飾及び/又は任意の他の対象となるポリヌクレオチドの標的化された遺伝子修飾が生じ得る一方で、多能性細胞(すなわち、ES細胞)が本明細書に記載される培地(例えば、XY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地)中で維持されていることが認識される。あるいは、Sry遺伝子及び/又は任意の他の対象となるポリヌクレオチドの標的化された遺伝子修飾が生じ得る一方で、多能性細胞(すなわち、ES細胞)は、異なる培地中で維持されており、続いて、本明細書に開示される培地(例えば、XY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地)に移される。
【0100】
D.多能性及び/又は全能性細胞を培養物中で培養及び維持する方法
XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)をインビトロ培養物中で維持又は培養するための方法が提供され、細胞は、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を含み、細胞は、本明細書に記載される条件下で、インビトロ培養物中で維持される。XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)をインビトロ培養物中で維持又は培養するそのような方法は、宿主胚内への非ヒト動物XY ES細胞の導入及び続く宿主胚の懐胎後に、XY F0の繁殖力のある雌動物の数の増加を促進するような方法である。
【0101】
本明細書に開示される任意の培地がそのような維持又は培養方法のために採用され得るが、1つの非限定的な実施例としては、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を培養物中で維持又は培養するのに好適な基本培地及び補充物を含む培地中で培養することが挙げられ、基本培地又は基本培地及び補充物を含む培地は、約200mOsm/kg〜約329mOsm/kg未満の浸透圧を示す。
【0102】
いくつかの実施形態では、基本培地又は基本培地及び補充物を含む培地は、以下の特徴、すなわち約11mS/cm〜約13mS/cmの導電率、約50mM〜約110mMの濃度のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩、約17mM〜約30mMの炭酸塩濃度、約85mM〜約130mMのアルカリ金属ハロゲン化物塩及び炭酸塩の総計濃度、並びに/又はこれらの任意の2つ以上の組み合わせのうちの1つ以上を示す。
【0103】
一実施形態では、本方法は、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を、基本培地及び補充物を含む好適な培養培地中で維持又は培養することを含み、基本培地又は基本培地及び補充物を含む培地は、約240〜320mOsm/kgの浸透圧、約10〜14mS/cmの導電率、約50〜105mMのアルカリ金属ハロゲン化物塩濃度、10〜40mMの炭酸塩濃度、及び/又は約80〜140mMのアルカリ金属塩及び炭酸塩の組み合わせた濃度を含む。一実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内への導入前に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、若しくは13日間、又は2週間、3週間、若しくは4週間の期間にわたって、培地(ES細胞を維持するための補充物を有する)中で維持される。特定の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内への導入前に約2〜4週間にわたって、培地(ES細胞を維持するための補充物を有する低塩基本培地)中で維持される。
【0104】
別の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内にドナー細胞を導入する前に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは12日間、2週間、3週間、又は4週間にわたって、低塩基本培地を有する培地中で維持される。特定の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内への細胞の導入前に少なくとも2〜4週間、低塩基本培地を有する培地中で維持される。
【0105】
別の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で維持(例えば、凍結)され、ドナー細胞は、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で解凍され、かつ宿主胚内にXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を導入する前に少なくとも1、2、3、又は4日間以上にわたって維持される。特定の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で少なくとも1回継代され、細胞は、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で凍結され、細胞は、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で解凍され、宿主胚内への導入前に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13日間、2週間、3週間、4週間以上にわたって増殖される。
【0106】
更に別の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内への導入前に1、2、3、又は4日間の期間にわたって、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で維持される。一実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、3日間の期間にわたって、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で維持される。
【0107】
一実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内への導入前に約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12日間、2週間、3週間、若しくは4週間以上にわたって、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で維持される。特定の実施形態では、ドナー細胞は、宿主胚内への導入前に少なくとも1週間にわたって、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で維持される。特定の実施形態では、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内への導入前に2〜4週間にわたって、XYの繁殖力のあるF0雌を促進する培地中で維持される。
【0108】
したがって、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を培養物中で維持又は培養するための方法が提供され、細胞は、宿主胚内へのXY細胞の導入及び続く好適な雌宿主中での懐胎後に、雌XY動物の発達を促進するか、又はそれに有利に働く条件下で維持される。
【0109】
一態様では、本明細書に記載されるような条件下で、ドナーXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を培養物中で維持又は培養するための方法が提供され、F0胚を形成するための宿主胚内へのドナーXY ES細胞の導入及び好適な動物におけるF0胚の懐胎後に、F0胚は、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超えてXYであり、かつ性成熟に達すると繁殖力を持つ雌である、F0動物へと発達する。
【0110】
E.標的化された遺伝子修飾を有するF0胚及びF1子孫の生成
本明細書に提供されるSryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少を有するXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を採用する様々な方法及び組成物が、遺伝子修飾された動物を生成するために使用され得る。遺伝子修飾を導入するための様々な方法は、本明細書の別の個所で詳細に考察される。
【0111】
i.F0世代における繁殖力のある雌XY非ヒト動物を作製するための方法
F0世代における繁殖力のある雌XY非ヒト動物を作製するための方法が提供される。そのような方法は、(a)Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有するドナー非ヒト動物のXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を、XYの繁殖力のある雌ES細胞の発達を促進する培地中で維持又は培養することと、(b)宿主胚内に、ドナーXY非ヒト動物のXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を導入することと、(c)宿主胚を懐胎させることと、(d)F0 XY雌非ヒト動物を得ることとを含み、性成熟に達すると、F0 XY雌非ヒト動物は、繁殖力を持つ。特定の実施形態では、ドナー非ヒト動物のXYドナー細胞は、対象となるポリヌクレオチドにおいて少なくとも1つの追加の標的化された遺伝子修飾を含むことができる。そのような修飾は、本明細書の別の個所で詳細に考察される。
【0112】
Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有するXY ES細胞は、低塩培地なしで維持され得、XYの繁殖力のある雌へと発達することができる。
【0113】
いくつかの実施形態では、XYの繁殖力のあるF0雌動物の発達を促進する培地は、非ヒト哺乳類ES細胞を培養物中で維持又は培養するのに好適な基本培地及び補充物を含む、低塩ベースの培地を含むことができ、低塩基本培地は、以下のうちの1つ以上を含む特徴、すなわち約200mOsm/kg〜約329mOsm/kg未満の浸透圧、約11mS/cm〜約13mS/cmの導電率、約50mM〜約110mMの濃度のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩、約17mM〜約30mMの炭酸塩濃度、約85mM〜約130mMのアルカリ金属ハロゲン化物塩及び炭酸塩の総計濃度、並びに/又はこれらの任意の2つ以上の組み合わせを示す。
【0114】
他の実施形態では、F0世代における繁殖力のある雌XY非ヒト動物を作製するためのそのような方法は、以下を含むがこれらに限定されない、本明細書に開示される培地を使用して実施され得る。(a)50±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、及び218±22mOsm/kgを含む基本培地、(b)約3mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び218mOsm/kgを含む基本培地、(c)87±5mMのNaCl、18±5mMの炭酸塩、及び261±26mOsm/kgを含む基本培地、(d)約5.1mg/mLのNaCl、1.5mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び261mOsm/kを含む基本培地、(e)基本培地は、110±5mMのNaCl、18±5mMの炭酸塩、及び294±29mOsm/kgを含む、(f)基本培地は、約6.4mg/mLのNaCl、1.5mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び294mOsm/kgを含む、(g)基本培地は、87±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、及び270±27mOsm/kgを含む、(h)基本培地は、約5.1mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び270mOsm/kgを含む、(i)基本培地は、87±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、86±5mMのグルコース、及び322±32mOsm/kgを含む、並びに/又は(j)基本培地は、約5.1mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、15.5mg/mLのグルコース、及び322mOsm/kgを含む。
【0115】
Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有し、かつXY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地中で培養されている、遺伝子修飾されたXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚内に移植され得る。宿主胚内に移植された細胞は、本明細書において「ドナー細胞」と称される。特定の実施形態では、遺伝子修飾されたXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、宿主胚と同じ系統由来であるか、又は宿主胚とは異なる系統由来である。同様に、代理母は、遺伝子修飾されたXY多能性及び/若しくは全能性細胞(すなわち、XY ES細胞若しくはXY iPS細胞)及び/又は宿主胚と同じ系統由来であってもよく、あるいは代理母は、遺伝子修飾されたXY多能性及び/若しくは全能性細胞(すなわち、XY ES細胞若しくはXY iPS細胞)及び/又は宿主胚とは異なる系統由来であってもよい。一実施形態では、XYドナー細胞は、XX宿主胚内に移植される。
【0116】
様々な宿主胚が、本明細書に開示される方法及び組成物において採用され得る。いくつかの実施形態では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少をもたらす標的化された遺伝子修飾を有する、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)は、対応する生物からの桑実期前の胚、例えば、8細胞期胚内に導入される。例えば、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる米国第7,576,259号、米国第7,659,442号、米国第7,294,754号、及び米国第2008−0078000 A1号を参照されたい。他の実施形態では、ドナーES細胞は、2細胞期、4細胞期、8細胞期、16細胞期、32細胞期、又は64細胞期宿主胚において、宿主胚に移植されてもよい。別の実施形態では、宿主胚は、胚盤胞である。一実施形態では、宿主胚は、胚盤胞前の胚、桑実期前、桑実期、緊密化していない、及び緊密化した桑実期から選択される段階にある。一実施形態では、マウス胚を採用するとき、宿主胚の段階は、Theiler stages described in Theiler(1989)「The House Mouse:Atlas of Mouse Development,」Springer−Verlag,New Yorkを参照して、Theiler Stage 1(TS1)、TS2、TS3、TS4、TS5、及びTS6から選択される。特定の実施形態では、Theiler Stageは、TS1、TS2、TS3、及びTS4から選択される。一実施形態では、宿主胚は、透明帯を含み、ドナー細胞は、透明帯内の穴を通じて宿主胚内に導入されるXY ES細胞である一方で、他の実施形態では、宿主胚は、透明帯がない胚である。更に他の特定の実施形態では、桑実期宿主胚は、凝集される。
【0117】
核移植技術もまた、遺伝子修飾された動物を生成するために使用され得る。簡潔に述べると、核移植のための方法は、(1)卵母細胞を除核する工程と、(2)除核卵母細胞と組み合わせるために、ドナー細胞又は核を単離する工程と、(3)細胞又は核を除核卵母細胞に挿入して、再構成細胞を形成する工程と、(4)再構成細胞を動物の子宮に移植して、胚を形成する工程と、(5)胚を発達させる工程とを含む。そのような方法において、卵母細胞は、概して、死亡動物から回収されるが、それらは、生存動物の卵管及び/又は卵巣のいずれかからも単離され得る。卵母細胞は、除核前に当業者に既知の様々な培地中で成熟させられ得る。卵母細胞の除核は、当業者に周知のいくつかの方法で実施され得る。再構成細胞を形成するための除核卵母細胞へのドナー細胞又は核の挿入は、通常、融合前の透明帯下でのドナー細胞の微量注射による。融合は、接触/融合面(電気融合)にわたるDC電気パルスの印加によって、ポリエチレングリコールなどの融合促進化学物質への細胞の曝露によって、又はセンダイウイルスなどの不活性化ウイルスによって誘発されてもよい。再構成細胞は、典型的には、核ドナー及びレシピエント卵母細胞の融合前、中、及び/又は後に、電気及び/又は非電気手段によって活性化される。活性化方法としては、電気パルス、化学誘導ショック、精子による侵入、卵母細胞内の二価陽イオンのレベルの増加、及び卵母細胞内の(キナーゼ阻害剤などによる)細胞タンパク質のリン酸化の低減が挙げられる。活性化された再構成細胞又は胚は、典型的には、当業者に周知の培地中で培養され、次いで、動物の子宮に移される。例えば、米国第20080092249号、国際公開第WO/1999/005266A2号、米国第20040177390号、国際公開第WO/2008/017234A1号、及び米国特許第7,612,250号を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0118】
Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少を有する遺伝子修飾されたXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を含む宿主胚は、胚盤胞期までインキュベートされ、次いで、代理母に移植されて、F0動物を生み出す。遺伝子修飾されたゲノム遺伝子座を有する動物は、本明細書に記載されるように、対立遺伝子の修飾(MOA)を介して特定され得る。
【0119】
一実施形態では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少を有する遺伝子修飾されたXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を含む宿主胚は、好適な宿主への移植前に1、2、3、又は4日間以上にわたって、XYの繁殖力のある雌ES細胞の発達を促進する培地(すなわち、低塩基本培地)中で維持される。そのような方法は、F0の繁殖力のある雌動物の生成への有利な働きを可能にする。
【0120】
一実施形態では、培養された宿主胚は、代理母に移植され、培養された宿主胚は、代理母内で懐胎する。
【0121】
特定の実施形態では、宿主胚内への非ヒト動物XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)の導入、及び続く宿主胚の懐胎後に、少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80% 85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%のF0非ヒト動物が、XY雌であり、性成熟に達すると、F0 XY雌非ヒト哺乳動物は、繁殖力を持つ。
【0122】
Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる標的化された遺伝子修飾を有するXY ES細胞又はXY iPS細胞を含む少なくとも1つの異種幹細胞を有する、内細胞塊を含む、F0胚が更に提供される。
【0123】
F0世代における繁殖力のある雌XY非ヒト動物を生成するための本明細書に記載される様々な方法は、(1)Sryポリペプチドのレベル及び/又は活性を低減するための遺伝子修飾、並びに特定の実施形態では、(2)対象となるポリヌクレオチドにおける1つ以上の追加の標的化された遺伝子修飾を有する、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を採用することができる。本明細書の別の個所で概説されるように、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、又はそれよりも多くの追加の標的化された遺伝子修飾が、XY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)中で行われ得る。そのような場合、F0の繁殖力のある雌XY非ヒト動物は、これらの追加の標的化された遺伝子修飾のうちの1つ以上を含むことができる。
【0124】
他の実施形態では、F0の繁殖力のある雌XY非ヒト動物は、その生存期間中に1、2、3、4、5、6、7、8、又は9匹の同腹子を生み出す。一実施形態では、F0の繁殖力のある雌XY非ヒト動物は、一腹当たり少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10匹の子孫を生み出す。一実施形態では、F0の繁殖力のある雌XY非ヒト動物は、一腹当たり約4〜6匹の子孫を生み出す。一実施形態では、F0の繁殖力のある雌XY非ヒト動物は、2〜6匹の子孫を生み出し、各同腹子は、少なくとも2、3、4、5、又は6匹の子孫を有する。一実施形態では、少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、又は100%の子孫が、XYの繁殖力のある雌の子孫である。
【0125】
げっ歯類の同腹子(すなわち、マウス又はラットの同腹子)を生成するための方法もまた提供され、宿主胚内に、本明細書に記載される方法に従って調製された、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少を有するXY多能性及び/又は全能性ドナー細胞(すなわち、XYドナーES細胞又はXYドナーiPS細胞)を導入することと、好適な分離母内で胚を懐胎させることと、性成熟に達すると繁殖力を持つXY雌げっ歯類である、少なくとも1つのXY雌げっ歯類を含む、F0子孫を得ることとを含む。一実施形態では、性成熟に達すると繁殖力を持つ、F0 XY雌げっ歯類の出生率は、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、95%、又は100%である。
【0126】
他の実施形態では、そのような方法から生まれたF0子孫は、約3%、約10%若しくはそれよりも多く、又は約63%若しくはそれよりも多くが遺伝子修飾されたドナーXY細胞由来である。
【0127】
本明細書に提供される方法及び組成物は、F0動物のうちの少なくとも1%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、又はそれよりも多くが、F1子孫に遺伝子修飾を伝達するための標的化された遺伝子修飾(すなわち、Sryタンパク質レベル及び/若しくは活性の減少、並びに/又は対象となるポリヌクレオチドへの標的化された遺伝子修飾)を有することを可能にする。
【0128】
一実施形態では、F0世代の雌XY非ヒト動物及び/又は雄XY非ヒト動物は、少なくとも90%、92%、94%、96%、98%、99%、又は99.8%がドナー細胞由来である。一実施形態では、F0雌XY非ヒト動物及び/又はF0雄XY非ヒト動物は、100%がドナー細胞由来である毛色を有する。
【0129】
一実施形態では、F0世代における非ヒト雌XY動物は、げっ歯類(すなわち、マウス又はラット)であり、100%がドナー細胞由来の毛色を有する。一実施形態では、F0世代において形成された非ヒト雌XY非ヒト動物は、少なくとも90%、92%、94%、96%、98%、又は99.8%がXYドナー細胞由来である。一実施形態では、F0世代における非ヒト雌XY動物は、約100%がドナー細胞由来である。一実施形態では、F0世代における非ヒト雌XY動物に対する宿主胚細胞の寄与は、2,000個中1個の細胞(0.05%)を検出することが可能である定量的アッセイによって決定され、雌XY動物のどの組織も宿主胚細胞の寄与に対して陽性ではない。
【0130】
ii.雌の繁殖力のあるXY F0世代を繁殖させる様々な方法
特定の実施形態では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる遺伝子修飾を有するXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)由来の、得られる雌の繁殖力のあるXY F0世代は、F1世代の子孫を得るために動物と交配させられる。特定の実施形態では、雌の繁殖力のあるXY F0は、野生型動物と交配させられる。一実施形態では、雌XY F0非ヒト哺乳動物は、野生型マウスに交配されたときに繁殖力を持つ。特定の実施形態では、野生型マウスは、C57BL/6である。F1子孫は、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の減少を含む標的化された遺伝子修飾が存在するかを決定するための特異的なプライマー及び/又はプローブを使用して、遺伝子型決定され得る。更に、追加の標的化された遺伝子修飾がF0世代において存在した場合、F1子孫は、そのような修飾が存在するかを決定する特異的なプライマー及び/又はプローブを使用して、遺伝子型決定され得る。次いで、所望の使用のための適切なF1子孫が、特定され得る。特定の実施形態では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を低減した遺伝子修飾を欠くF1子孫が選択される。他の実施形態では、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を低減した遺伝子修飾を欠き、かつ少なくとも1つの追加の標的化された遺伝子修飾を含むF1子孫が選択される。
【0131】
1つの非限定的な実施例では、特異的なプライマー及び/又はプローブによる遺伝子型決定後に、対象となるポリヌクレオチドへの標的化された遺伝子修飾に関してヘテロ接合性であり、かつSryタンパク質のレベル及び/又は活性を低減する標的化された修飾を欠くF1動物が、互いに交配させられる。そのような交配は、対象となる遺伝子修飾されたゲノム遺伝子座に関してホモ接合性であり、かつSryタンパク質レベル及び/又は活性を低減するための遺伝子修飾を含まない、F2子孫を生み出す。
【0132】
F1世代における標的化された遺伝子修飾に関してホモ接合性のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を生み出す方法が更に提供される。本方法は、(a)Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる標的化された遺伝子修飾を有するF0 XYの繁殖力のある雌非ヒト動物を、F0 XY雄非ヒト動物と交配させることであって、F0 XYの繁殖力のある雌非ヒト動物及びF0 XY雄非ヒト動物はそれぞれ、対象となるポリヌクレオチドの同じ遺伝子修飾に関してヘテロ接合性である、交配させることと、(b)対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された遺伝子修飾に関してホモ接合性であるF1子孫を得ることと、を含む。特定の実施形態では、選択されたF1子孫は、対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された遺伝子修飾に関してホモ接合性であり、かつSryタンパク質の活性及び/又はレベルを減少させる標的化された遺伝子修飾を欠く。そのような方法は、同じF0世代において、それぞれが完全にドナーES細胞又はiPS細胞由来の、非ヒト動物の繁殖対を発達させるために採用され得る。
【0133】
様々な方法が、上記のF0動物を得るために採用され得る。1つの非限定的な実施形態では、任意の染色体上の対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された修飾を有するXY細胞クローンが単離される。様々な方法が、対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された修飾を発生させるために使用され得ることが認識される。第2の工程において、標的化された修飾は、修飾がSryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させるように、Sry遺伝子に導入される。そのような方法は、本明細書の別の個所で詳細に記載されるように、XY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地中でXY ES細胞を培養することを更に採用する。Sry遺伝子の標的化された修飾の方法は、本明細書の別の個所で詳細に開示され、例えば、単独での、又は本明細書の別の個所で記載されるヌクレアーゼと組み合わせた(すなわち、Talen又はCRISPR−若しくはZFN−系)、標的化ベクター(LTVECを含む)の使用を含むことができる。対象となるポリヌクレオチドにおける第1の標的化された修飾、並びにSryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させるSry遺伝子の第2の標的化された修飾の両方を含むサブクローンが、単離される。対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された修飾を有する元のXYクローン、並びにSry遺伝子及び対象となるポリヌクレオチドへの標的化された修飾の両方を含むXYサブクローンの両方が、本明細書の別の個所で考察されるように、別々の宿主胚内に導入される。特定の実施形態では、非ヒト宿主胚は、前桑実胚(すなわち、8細胞期胚)を含む。修飾された多能性細胞を含む非ヒト宿主胚のそれぞれは、懐胎のために代理母内に導入される。代理母のそれぞれは、標的ゲノム修飾を含むF0子孫(すなわち、対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された修飾を有するF0 XY雄、並びに対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された修飾を有し、かつSryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる遺伝子修飾を有するF0 XYの繁殖力のある雌)を生み出す。特定の実施形態では、標的化されたゲノム修飾のそれぞれは、生殖系列を通じて伝達されることが可能である。これらのF0動物のそれぞれは、互いと交配させられて、対象となるポリヌクレオチドにおけるホモ接合性の標的化された修飾を含むF1動物を生成する。F1世代の4分の1が、対象となるポリヌクレオチドにおける標的化された修飾に関してホモ接合性であることが予想される。F1子孫は、Sry遺伝子への標的化された修飾を保持するように選択され得るか、又はF1子孫は、Sry遺伝子への標的化された修飾を保持しないように選択され得る。
【0134】
別の実施形態では、標的化ベクター(及び特定の実施形態では、Talen、Crispr、又はZfnなどのヌクレアーゼ)を採用するSry遺伝子の標的化された修飾の導入は、対象となるポリヌクレオチドの遺伝子修飾のためのベクター標的化と同時に生じ得る。そのような方法は、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させ、かつ対象となるポリヌクレオチドへの標的化された修飾を更に含む、遺伝子修飾の両方を有する、XY ES細胞の生成を可能にする。
【0135】
一実施形態では、F1世代子孫は、完全にドナーES細胞由来のゲノムを含む。他の実施形態では、完全にES細胞由来のマウスを生じさせるF0世代雄及びF0世代雌マウスの交配の頻度は、100%である。
【0136】
II.困難な標的ゲノム遺伝子座又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法及び組成物
細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾することを可能にする方法及び組成物が提供される。「困難な」ゲノム遺伝子座を修飾することを可能にする方法が更に提供される。用語「困難な遺伝子座」は、従来の遺伝子標的化戦略による標的化が難しい染色体領域を含む。そのような遺伝子座は、Y染色体、X染色体、又は常染色体上に位置し得る。ある特定の実施形態では、困難な遺伝子座は、遺伝子に乏しい、反復に富む、かつ/又は主に異質染色質の染色体領域内、又はそれに近接して位置する。例えば、あらゆる目的で参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Bernardini et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 111:7600〜7605(2014)を参照されたい。ある特定の実施形態では、困難な遺伝子座は、染色体DNAへの接近可能性が染色質構造によって制限される染色体領域内、又はそれに近接して位置する。ある特定の実施形態では、困難な遺伝子座は、少なくとも約およそ20%、少なくとも約およそ30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、又は少なくとも約70%の異質染色質などの高い割合の異質染色質を特徴とする染色体領域内にあるか、又はそれに近接している。ある特定の実施形態では、困難な遺伝子座は、複製及び再配列を受けているか、又は反復若しくは逆方向反復の存在を特徴とする染色体領域内にあるか、又はそれに近接している。例えば、あらゆる目的で参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Gubbay et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7953〜7957(1992)を参照されたい。
【0137】
用語「染色質」は、細胞遺伝物質を細胞内に格納するためにそれを緊密化及び組織化する、核タンパク質複合体を含む。用語「異質染色質」は、非常に凝縮された状態であり、かつ概して転写的にサイレントであるゲノム中の領域を含む。異質染色質は、概して、より密にコイル状であり、かつ概して、真性染色質よりも反復的なDNA配列を有する。用語「真性染色質」は、転写的に活性かつ接近可能であることの多い、より伸長され、かつあまり凝縮されていない染色質ドメインを特徴とするゲノム中の領域を含む。
【0138】
用語「曝露すること」は、所望の構成成分がごく近接させられるか、又は直接接触させられる任意の方法を使用することを含む。
【0139】
細胞中の困難な標的ゲノム遺伝子座又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾することを可能にする方法及び組成物が提供される。おそらくY染色体の独特な構造特徴によって、Y連鎖遺伝子上で突然変異を発生させるためのマウス胚性幹細胞中の従来の遺伝子標的戦略は、限られた成功しか収めていない。したがって、多くの場合、マウスのY連鎖遺伝子の機能の理解は、自然欠失、ランダム遺伝子トラップ挿入、又は常染色体導入遺伝子を有するマウスの研究から得られた洞察に限られる。本明細書に提供される方法は、ヌクレアーゼ剤の非存在下で、又はそれと組み合わせて標的化ベクターを採用することによって、Y染色体上のゲノム遺伝子座の標的化を可能にする。
【0140】
いくつかのそのような方法は、小さな標的化ベクター又はsmallTVECを利用する。「smallTVEC」は、短いホモロジーアームを含む標的化ベクターを含む。smallTVEC上のホモロジーアームの長さは、約400〜1000bpであってもよい。smallTVECのホモロジーアームは、例えば、約400bp〜約500bp、約500bp〜約600bp、約600bp〜約700bp、約700bp〜約800bp、約800bp〜約900bp、又は約900bp〜約1000bpを含む、対応する標的部位を有する相同組み換え事象を促進するのに十分である任意の長さであってもよい。smallTVEC上のホモロジーアームの好ましい長さは、約700bp〜約800bpである。別の実施形態では、smallTVECの5’及び3’ホモロジーアームの合計は、約0.5kb、1kb、1.5kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、約0.5kb〜約1kb、約1kb〜約1.5kb、約1.5kb〜約2kb、約2kb〜約3kb、約3kb〜約4kb、約4kb〜約5kb、約5kb〜約6kb、約6kb〜約7kb、約8kb〜約9kbであるか、又は少なくとも10kbである。そのような方法では、ホモロジーアームの短い長さは、より長いホモロジーアームを有する標的化ベクターと比較して、標的化の効率性を高める。高頻度反復配列を有するY染色体の性質により、smallTVECの短いアームは、Y染色体上の高度に特異的な標的化を可能にする。
【0141】
細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法が提供され、(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含むY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、(b)細胞中に、第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む第1の標的化ベクターを導入することと、(c)Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む。特定の実施形態では、標的化ベクターの第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームの合計は、約0.5kb、1kb、1.5kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、約0.5kb〜約1kb、約1kb〜約1.5kb、約1.5kb〜約2kb、約2kb〜約3kb、約3kb〜約4kb、約4kb〜約5kb、約5kb〜約6kb、約6kb〜約7kb、約8kb〜約9kbであるか、又は少なくとも10kb若しくは少なくとも10kbかつ150kb未満である。いくつかの実施形態では、smallTVECが採用される。特定の実施形態では、LTVECが採用される。同様の方法が、困難な標的ゲノム遺伝子座を標的化するときに実施され得る。1つの非限定的な実施形態では、そのような方法は、本明細書に開示されるXY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地を採用し、それによりXY F0の繁殖力のある雌動物を生成して実施される。他の場合において、本明細書に記載される方法は、本明細書の別の個所で考察されるように、Sry遺伝子における標的化された遺伝子修飾を生じさせるために採用される。
【0142】
細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法が更に提供され、(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含むY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、(b)細胞中に、(i)ヌクレアーゼ剤であって、第1の認識部位においてニック又は二本鎖切断を誘発するヌクレアーゼ剤、並びに(ii)第1の認識部位に十分に近接して位置する第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することと、(c)Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む。特定の実施形態では、標的化ベクターの第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームの合計は、約0.5kb、1kb、1.5kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、約0.5kb〜約1kb、約1kb〜約1.5kb、約1.5kb〜約2kb、約2kb〜約3kb、約3kb〜約4kb、約4kb〜約5kb、約5kb〜約6kb、約6kb〜約7kb、約8kb〜約9kbであるか、又は少なくとも10kb若しくは少なくとも10kbかつ150kb未満である。いくつかの実施形態では、smallTVECが採用される。特定の実施形態では、LTVECが採用される。同様の方法が、困難な標的ゲノム遺伝子座を標的化するときに実施され得る。1つの非限定的な実施形態では、そのような方法は、本明細書に開示されるXY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地を採用し、それによりXY F0の繁殖力のある雌動物を生成して実施される。他の場合において、本明細書に記載される方法は、本明細書の別の個所で考察されるように、Sry遺伝子における標的化された遺伝子修飾を生じさせるために採用される。
【0143】
標的化ベクター、smallTVEC、又はLTVECを採用するY染色体上のゲノム遺伝子座(又は任意の困難なゲノム遺伝子座)における標的化された修飾を発生させるための本明細書に開示される様々な方法が、任意の細胞型で実施され得、XY多能性及び/又は全能性細胞に限定されないことが認識される。そのような細胞型としては、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳類細胞、非ヒト哺乳類細胞、げっ歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞、線維芽細胞、又は任意の他の宿主細胞が挙げられるがこれらに限定されない。そのような細胞としては、例えば、人工多能性幹(iPS)細胞を含む多能性細胞、マウス胚性幹(ES)細胞、ラット胚性幹(ES)細胞、ヒト胚(ES)細胞、又は発達制限されたヒト前駆細胞が挙げられる。
【0144】
本明細書に提供される様々なヌクレアーゼ剤のいずれかを採用する、Y染色体上の大きい欠失を発生させるための方法が更に開示される(例えば、Cas9、ZFN、又はTALENと組み合わせたCRISPR gRNA)。Y染色体上のそのような欠失は、内因性核酸配列の欠失であってもよい。欠失は、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、約150kb〜約200kb、約200kb〜約300kb、約300kb〜約400kb、約400kb〜約500kb、約500kb〜約600kb、約600kb〜約700kb、約700kb〜約800kb、約800kb〜約900kb、約900kb〜約1Mb、約500kb〜約1Mb、約1Mb〜約1.5Mb、約1.5Mb〜約2Mb、約2Mb〜約2.5Mb、又は約2.5Mb〜約3Mbに及び得る。一実施形態では、欠失は、500kbよりも大きい。別の実施形態では、欠失は、約500kb〜約600kbである。特定の実施形態では、欠失は、約500kbである。Y染色体上のそのような欠失は、任意の核酸配列の欠失であってもよい。一実施形態では、欠失は、繁殖性/非繁殖性と関連する遺伝子を含む。Y染色体上の欠失は、複数の遺伝子の欠失を含むことができる。そのような方法では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、又はそれよりも多くの遺伝子が、削除され得る。特定の実施形態では、Kdm5d遺伝子(リシン(K)特異的デメチラーゼ5d、例えば、Entrez Gene ID 20592(ハツカネズミ))及び/又はUsp9y遺伝子(ユビキチン特異的ペプチダーゼ9、Y連鎖、例えば、Entrez Gene ID 107868(ハツカネズミ))が欠失のために標的化される。他の実施形態では、Sry遺伝子が欠失のために標的化される。
【0145】
A.ヌクレアーゼ剤及びヌクレアーゼ剤のための認識部位
用語「ヌクレアーゼ剤のための認識部位」は、ニック又は二本鎖切断がヌクレアーゼ剤によって誘発されるDNA配列を含む。ヌクレアーゼ剤のための認識部位は、細胞に対して内因性(若しくは天然)であってもよく、又は認識部位は、細胞に対して外因性であってもよい。特定の実施形態では、認識部位は、細胞に対して外因性であり、それにより、細胞のゲノム中で自然発生的ではない。なお更なる実施形態では、認識部位は、細胞に対して、かつ標的遺伝子座に位置付けられることが望まれる対象となるポリヌクレオチドに対して外因性である。更なる実施形態では、外因性又は内因性認識部位は、宿主細胞のゲノム中で一度のみ存在する。特定の実施形態では、ゲノム内で一度のみ生じる内因性又は天然部位が特定される。次いで、そのような部位は、内因性認識部位においてニック又は二本鎖切断を生じさせるヌクレアーゼ剤を設計するために使用され得る。
【0146】
認識部位の長さは異なり得、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)対に対して約30〜36bp(すなわち、各ZFNに対して約15〜18bp)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)に対して約36bp、又はCRISPR/Cas9ガイドRNAに対して約20bpである認識部位を含む。
【0147】
一実施形態では、ヌクレアーゼ剤の各単量体は、少なくとも9ヌクレオチドの認識部位を認識する。他の実施形態では、認識部位は、約9〜約12ヌクレオチド長、約12〜約15ヌクレオチド長、約15〜約18ヌクレオチド長、又は約18〜約21ヌクレオチド長、及びそのような部分範囲の任意の組み合わせ(例えば、9〜18ヌクレオチド)である。所与のヌクレアーゼ剤が認識部位と結合し、その結合部位を開裂することができるか、あるいはヌクレアーゼ剤が認識部位とは異なる配列と結合することができることが認識される。更に、認識部位という用語は、ニック/開裂部位がヌクレアーゼ剤結合部位の内側又は外側にあるかどうかにかかわらず、ヌクレアーゼ剤結合部位及びニック/開裂部位の両方を含む。別の変化形において、ヌクレアーゼ剤による開裂は、互いにすぐ反対側のヌクレオチド位置で生じて、平滑末端切断を生じさせ得るか、又は他の場合において、切断が段違いであり、5’突出若しくは3’突出のいずれかであってもよい、「付着末端」とも呼ばれる一本鎖突出を生じさせ得る。
【0148】
所望の認識部位へのニック又は二本鎖切断を誘発する任意のヌクレアーゼ剤が、本明細書に開示される方法及び組成物で使用され得る。自然発生的又は天然ヌクレアーゼ剤は、ヌクレアーゼ剤が所望の認識部位でのニック又は二本鎖切断を誘発する限り採用され得る。あるいは、修飾又は操作されたヌクレアーゼ剤が採用され得る。「操作されたヌクレアーゼ剤」は、所望の認識部位でのニック又は二本鎖切断を特異的に認識及び誘発するようにその天然の形態から操作される(修飾される、又は誘導される)ヌクレアーゼを含む。したがって、操作されたヌクレアーゼ剤は、天然の自然発生的なヌクレアーゼ剤由来であってもよく、又はそれは、人工的に作られるか、若しくは合成され得る。ヌクレアーゼ剤の修飾は、タンパク質開裂剤中の1つのアミノ酸、又は核酸開裂剤中の1つのヌクレオチドほどわずかであってもよい。いくつかの実施形態では、操作されたヌクレアーゼは、認識部位でのニック又は二本鎖切断を誘発し、この認識部位は、天然(操作又は修飾されていない)ヌクレアーゼ剤によって認識されたであろう配列ではなかった。認識部位又は他のDNAでニック又は二本鎖切断を生じさせることは、認識部位又は他のDNAを「切断」又は「開裂」することと本明細書で称され得る。
【0149】
例示的な認識部位の活性変異体及びフラグメントもまた提供される。そのような活性変異体は、所与の認識部位に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超える配列同一性を含むことができ、活性変異体は、生物活性を保持し、したがって、配列特異的様式でヌクレアーゼ剤によって認識及び開裂されることが可能である。ヌクレアーゼ剤による認識部位の二本鎖切断を測定するためのアッセイは、当該技術分野において既知である(例えば、TaqMan(登録商標)qPCRアッセイ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Frendewey D.et al.,Methods in Enzymology,2010,476:295〜307)。
【0150】
特定の実施形態では、認識部位は、選択マーカーをコードするポリヌクレオチド内に位置付けられる。そのような位置は、選択マーカーのコード領域内、又は選択マーカーの発現に影響を及ぼす制御領域内に位置し得る。したがって、ヌクレアーゼ剤の認識部位は、選択マーカー、プロモーター、エンハンサー、制御領域、又は選択マーカーをコードするポリヌクレオチドの任意の非タンパク質コード領域のイントロン内に位置し得る。特定の実施形態では、認識部位におけるニック又は二本鎖切断は、選択マーカーの活性を妨害する。機能的な選択マーカーの存在又は非存在についてアッセイするための方法は、既知である。
【0151】
一実施形態では、ヌクレアーゼ剤は、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)である。TALエフェクターヌクレアーゼは、原核又は真核生物のゲノム中の特定の標的配列において二本鎖切断を行うために使用され得る、配列特異的ヌクレアーゼの種類である。TALエフェクターヌクレアーゼは、天然の、若しくは操作された転写活性化因子様(TAL)エフェクター、又はその機能部を、例えば、FokIなどのエンドヌクレアーゼの触媒ドメインと融合させることによって作られる。独特のモジュラーTALエフェクターDNA結合ドメインは、潜在的に任意の所与のDNA認識特異性を有するタンパク質の設計を可能にする。したがって、TALエフェクターヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、特異的なDNA標的部位を認識するように操作され得、したがって、所望の標的配列において二本鎖切断を行うために使用され得る。国際公開第WO 2010/079430号、Morbitzer et al.(2010)PNAS 10.1073/pnas.1013133107、Scholze & Boch(2010)Virulence 1:428〜432、Christian et al.Genetics(2010)186:757〜761、Li et al.(2010)Nuc.Acids Res.(2010)doi:10.1093/nar/gkq704、及びMiller et al.(2011)Nature Biotechnology 29:143〜148を参照されたく、これらの全てが、参照により本明細書に組み込まれる。
【0152】
好適なTALヌクレアーゼの例、及び好適なTALヌクレアーゼを調製するための方法は、例えば、米国特許出願第2011/0239315 A1号、同第2011/0269234 A1号、2011/0145940 A1号、同第2003/0232410 A1号、同第2005/0208489 A1号、同第2005/0026157 A1号、同第2005/0064474 A1号、同第2006/0188987 A1号、及び同第2006/0063231 A1号に開示される(それぞれが参照により本明細書に組み込まれる)。様々な実施形態では、例えば、対象となる遺伝子座又は対象となるゲノム遺伝子座において、標的核酸配列中、又はその近くで切断するTALエフェクターヌクレアーゼが操作され、標的核酸配列は、標的化ベクターによって修飾される配列にあるか、又はその近くにある。本明細書に提供される様々な方法及び組成物と共に使用するのに好適なTALヌクレアーゼには、本明細書に記載されるような標的化ベクターによって修飾される標的核酸配列において、又はその近くで結合するように特異的に設計されるTALヌクレアーゼが含まれる。
【0153】
一実施形態では、TALENの各単量体は、2つの高度可変残基を介して単一の塩基対を認識する33〜35個のTAL反復を含む。一実施形態では、ヌクレアーゼ剤は、独立ヌクレアーゼに操作可能に連結されたTAL反復ベースのDNA結合ドメインを含む、キメラタンパク質である。一実施形態では、独立ヌクレアーゼは、FokIエンドヌクレアーゼである。一実施形態では、ヌクレアーゼ剤は、第1のTAL反復ベースのDNA結合ドメインと、第2のTAL反復ベースのDNA結合ドメインとを含み、第1及び第2のTAL反復ベースのDNA結合ドメインのそれぞれは、FokIヌクレアーゼに操作可能に連結され、第1及び第2のTAL反復ベースのDNA結合ドメインは、異なる長さ(12〜20bp)のスペーサー配列によって隔てられた標的DNA配列の各鎖において2つの隣接標的DNA配列を認識し、FokIヌクレアーゼサブユニットは、標的配列において二本鎖切断を行う活性ヌクレアーゼを作るように二量体になる。
【0154】
本明細書に開示される様々な方法及び組成物で採用されるヌクレアーゼ剤は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を更に含むことができる。一実施形態では、ZFNの各単量体は、3個以上のジンクフィンガーベースのDNA結合ドメインを含み、各ジンクフィンガーベースのDNA結合ドメインは、3bpサブサイトと結合する。他の実施形態では、ZFNは、独立ヌクレアーゼに操作可能に連結されたジンクフィンガーベースのDNA結合ドメインを含む、キメラタンパク質である。一実施形態では、独立エンドヌクレアーゼは、FokIエンドヌクレアーゼである。一実施形態では、ヌクレアーゼ剤は、第1のZFNと第2のZFNとを含み、第1のZFN及び第2のZFNのそれぞれは、FokIヌクレアーゼサブユニットに操作可能に連結され、第1及び第2のZFNは、約5〜7bpのスペーサーによって隔てられた標的DNA配列の各鎖において2つの隣接標的DNA配列を認識し、FokIヌクレアーゼサブユニットは二量体化して、二本鎖切断を行うための活性ヌクレアーゼを作り出す。例えば、米国第US20060246567号、米国第US20080182332号、米国第US20020081614号、米国第US20030021776号、国際公開第WO/2002/057308A2号、米国第US20130123484号、米国第US20100291048号、国際公開第WO/2011/017293A2号、及びGaj et al.(2013)Trends in Biotechnology,31(7):397〜405を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0155】
更に別の実施形態では、ヌクレアーゼ剤は、メガヌクレアーゼである。メガヌクレアーゼは、保存配列モチーフに基づく4つのファミリーに分類されており、このファミリーは、LAGLIDADG、GIY−YIG、H−N−H、及びHis−Cysボックスファミリーである。これらのモチーフは、金属イオンの配位及びホスホジエステル結合の加水分解に関与する。メガヌクレアーゼは、それらの長い認識部位、及びそれらのDNA基質におけるいくつかの配列多型性に対する耐性が注目すべき点である。メガヌクレアーゼドメイン、構造、及び機能は既知であり、例えば、Guhan and Muniyappa(2003)Crit Rev Biochem Mol Biol 38:199〜248、Lucas et al.(2001)Nucleic Acids Res 29:960〜9、Jurica and Stoddard(1999)Cell Mol Life Sci 55:1304〜26、Stoddard(2006)Q Rev Biophys 38:49〜95、及びMoure et al.(2002)Nat Struct Biol 9:764を参照されたい。いくつかの実施例では、自然発生的変異体、及び/又は操作された誘導体メガヌクレアーゼが使用される。動態、補助因子相互作用、発現、最適条件、及び/又は認識部位特異性を変更するための、かつ活性のスクリーニングのための方法は既知であり、例えば、Epinat et al.,(2003)Nucleic Acids Res 31:2952〜62、Chevalier et al.,(2002)Mol Cell 10:895〜905、Gimble et al.,(2003)Mol Biol 334:993〜1008、Seligman et al.,(2002)Nucleic Acids Res 30:3870〜9、Sussman et al.,(2004)J Mol Biol 342:31〜41、Rosen et al.,(2006)Nucleic Acids Res 34:4791〜800、Chames et al.,(2005)Nucleic Acids Res 33:e178、Smith et al.,(2006)Nucleic Acids Res 34:e149、Gruen et al.,(2002)Nucleic Acids Res 30:e29、Chen and Zhao,(2005)Nucleic Acids Res 33:e154、国際公開第WO2005105989号、同第WO2003078619号、同第WO2006097854号、同第WO2006097853号、同第WO2006097784号、及び同第WO2004031346号を参照されたい。
【0156】
I−SceI、I−SceII、I−SceIII、I−SceIV、I−SceV、I−SceVI、I−SceVII、I−CeuI、I−CeuAIIP、I−CreI、I−CrepsbIP、I−CrepsbIIP、I−CrepsbIIIP、I−CrepsbIVP、I−TliI、I−PpoI、PI−PspI、F−SceI、F−SceII、F−SuvI、F−TevI、F−TevII、I−AmaI、I−AniI、I−ChuI、I−CmoeI、I−CpaI、I−CpaII、I−CsmI、I−CvuI、I−CvuAIP、I−DdiI、I−DdiII、I−DirI、I−DmoI、I−HmuI、I−HmuII、I−HsNIP、I−LlaI、I−MsoI、I−NaaI、I−NanI、I−NcIIP、I−NgrIP、I−NitI、I−NjaI、I−Nsp236IP、I−PakI、I−PboIP、I−PcuIP、I−PcuAI、I−PcuVI、I−PgrIP、I−PobIP、I−PorI、I−PorIIP、I−PbpIP、I−SpBetaIP、I−ScaI、I−SexIP、I−SneIP、I−SpomI、I−SpomCP、I−SpomIP、I−SpomIIP、I−SquIP、I−Ssp6803I、I−SthPhiJP、I−SthPhiST3P、I−SthPhiSTe3bP、I−TdeIP、I−TevI、I−TevII、I−TevIII、I−UarAP、I−UarHGPAIP、I−UarHGPA13P、I−VinIP、I−ZbiIP、PI−MtuI、PI−MtuHIP PI−MtuHIIP、PI−PfuI、PI−PfuII、PI−PkoI、PI−PkoII、PI−Rma43812IP、PI−SpBetaIP、PI−SceI、PI−TfuI、PI−TfuII、PI−ThyI、PI−TliI、PI−TliII、又はこれらの任意の活性変異体若しくはフラグメントが挙げられるがこれらに限定されない、任意のメガヌクレアーゼが本明細書で使用され得る。
【0157】
一実施形態では、メガヌクレアーゼは、12〜40塩基対の二本鎖DNA配列を認識する。一実施形態では、メガヌクレアーゼは、ゲノム中の1つの完全にマッチした標的配列を認識する。一実施形態では、メガヌクレアーゼは、ホーミングヌクレアーゼである。一実施形態では、ホーミングヌクレアーゼは、LAGLIDADGファミリーのホーミングヌクレアーゼである。一実施形態では、LAGLIDADGファミリーのホーミングヌクレアーゼは、I−SceI、I−CreI、及びI−Dmolから選択される。
【0158】
ヌクレアーゼ剤は、I型、II型、III型、及びIV型エンドヌクレアーゼを含む、制限エンドヌクレアーゼを更に含むことができる。I型及びIII型制限エンドヌクレアーゼは、特異的認識部位を認識するが、典型的には、ヌクレアーゼ結合部位からの可変位置において開裂し、それは、開裂部位(認識部位)から離れた数百もの塩基対であり得る。II型系において、制限活性は、任意のメチラーゼ活性とは無関係であり、開裂は、典型的には、結合部位内、又はその近くの特定の部位において生じる。ほとんどのII型酵素が回文配列を切断するが、IIa型酵素は、非回文認識部位を認識し、かつ認識部位の外側で開裂し、IIb型酵素は、認識部位の外側の両方の部位で2回配列を切断し、IIs型酵素は、非対称認識部位を認識し、片側で、かつ認識部位から約1〜20ヌクレオチドの画定された距離において開裂する。IV型制限酵素は、メチル化DNAを標的化する。制限酵素は、例えば、REBASEデータベース(rebase.neb.comのウェブページ、Roberts et al.,(2003)Nucleic Acids Res 31:418〜20)、Roberts et al.,(2003)Nucleic Acids Res 31:1805〜12、及びBelfort et al.,(2002)Mobile DNA II,pp.761〜783,Eds.Craigie et al.,(ASM Press,Washington,DC)で更に記載及び分類される。
【0159】
様々な方法及び組成物で採用されるヌクレアーゼ剤はまた、CRISPR/Cas系も含むことができる。そのような系は、Cas9ヌクレアーゼを採用することができ、それは、場合によっては、それが発現させられる所望の細胞型のためにコドン最適化される。その系は、コドン最適化Cas9と機能する融合crRNA−tracrRNA構築物を更に採用する。この単一RNAは多くの場合、ガイドRNA又はgRNAと称される。gRNA内で、crRNA部分は、所与の認識部位に対する「標的配列」として特定され、tracrRNAは多くの場合、「足場」と称される。この系は、様々な真核及び原核細胞中で機能することが示されている。簡潔に述べると、標的配列を含有する短いDNAフラグメントが、ガイドRNA発現プラスミドに挿入される。gRNA発現プラスミドは、標的配列(いくつかの実施形態では、約20ヌクレオチド)、tracrRNA配列の形態(足場)、並びに細胞中で活性であり、かつ真核細胞中での適切な処理のために必要な要素である好適なプロモーターを含む。その系の多くは、二本鎖DNAを形成するためにアニールされ、次いで、gRNA発現プラスミドにクローン化される、カスタムの相補的オリゴに依存する。次いで、gRNA発現カセット及びCas9発現カセットは、細胞に導入される。例えば、Mali P et al.(2013)Science 2013 Feb 15;339(6121):823〜6、Jinek M et al.Science 2012 Aug 17;337(6096):816〜21、Hwang WY et al.Nat Biotechnol 2013 Mar;31(3):227〜9、Jiang W et al.Nat Biotechnol 2013 Mar;31(3):233〜9、及びCong L et al.Science 2013 Feb 15;339(6121):819〜23を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0160】
本明細書に開示される方法及び組成物は、細胞内のゲノムを修飾するために、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系、又はそのような系の構成成分を利用することができる。CRISPR/Cas系は、Cas遺伝子の発現に関与するか、又はその活性を誘導する、転写物及び他の要素を含む。CRISPR/Cas系は、I型、II型、又はIII型系であってもよい。本明細書に開示される方法及び組成物は、核酸の部位特異的な開裂のためのCRISPR複合体(Casタンパク質と複合体を形成したガイドRNA(gRNA)を含む)を利用することによって、CRISPR/Cas系を採用する。
【0161】
本明細書に開示される方法で使用されるいくつかのCRISPR/Cas系は、非自然発生的である。「非自然発生的」な系は、系の1つ以上の構成成分がそれらの自然発生的な状態から改変若しくは突然変異されること、それらが本質的に自然に関連する少なくとも1つの他の構成成分を少なくとも実質的に含まないこと、又はそれらが自然に関連していない少なくとも1つの他の構成成分と関連していることなど、人の手の関与を示すいかなるものをも含む。例えば、いくつかのCRISPR/Cas系は、一緒に自然発生しないgRNA及びCasタンパク質を含む、非自然発生的CRISPR複合体を採用する。
【0162】
(i)A.Cas RNA誘導型エンドヌクレアーゼ
Casタンパク質は、概して、少なくとも1つのRNA認識又は結合ドメインを含む。そのようなドメインは、ガイドRNA(gRNA、以下でより詳細に記載される)と相互作用することができる。Casタンパク質はまた、ヌクレアーゼドメイン(例えば、DNase又はRNaseドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、タンパク質間相互作用ドメイン、二量化ドメイン、及び他のドメインを含むことができる。ヌクレアーゼドメインは、核酸開裂のための触媒活性を有する。開裂は、核酸分子の共有結合の切断を含む。開裂は、平滑末端又は段違いの末端を生じさせることができ、それは、一本鎖又は二本鎖であってもよい。
【0163】
Casタンパク質の例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(CasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9(Csn1又はCsx12)、Cas10、Casl0d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(CasA)、Cse2(CasB)、Cse3(CasE)、Cse4(CasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、及びCu1966、並びにこれらの相同体若しくは修飾バージョンが挙げられる。
【0164】
Casタンパク質は、II型CRISPR/Cas系由来であってもよい。例えば、Casタンパク質は、Cas9タンパク質であってもよく、又はCas9タンパク質由来であってもよい。Cas9タンパク質は、典型的には、保存構造を有する4つの主要なモチーフを共有する。モチーフ1、2、及び4は、RuvC様モチーフであり、モチーフ3は、HNHモチーフである。Cas9タンパク質は、例えば、化膿レンサ球菌、ストレプトコッカス−サーモフィルス、ストレプトコッカス属、黄色ブドウ球菌、ノカルジオプシス−ダソンビレイ、ストレプトミセス−プリスチナエスピラリス、ストレプトミセス−ビリドクロモゲネス、ストレプトミセス−ビリドクロモゲネス、ストレプトスポランギウム−ロセウム、ストレプトスポランギウム−ロセウム、アリサイクロバチルス−アシドカルダリウス(AlicyclobacHlus acidocaldarius)、バチルス−シュードミコイデス、バチルス−セレニティレドセンス、イグジォバクテリウム−シビリカム、ラクトバチラス−デルブリッキー、ラクトバチラス−サリバリウス、ミクロシラ−マリナ、バークホルデリア−バクテリウム、ポラロモナス−ナフタレニボランス、ポラロモナス属、クロコスファエラ−ワトソニイ、シアノセイス属、ミクロキスティス−エルギノーサ、シネココックス属、アセトハロビウム−アラビティカム、アンモニフェツクス−デゲンシイ、カルディセルロシルプター−ベシー、カンジデイタス−デサルホルディス、クロストリジウム−ボツリナム、クロストリジウム−ディフィシル、フィネゴルディア−マグナ、ナトロアナエロビウス−サーモフィルス、ペロトマクルム−サーモプロピオニカム、アシディチオバチルス−カルダス、アシディチオバチルス−フェロオキシダンス、アロクロマチウム−ビノスム、マリノバクター属、ニトロソコッカス−ハロフィルス、ニトロソコッカス−ワトソニイ、シュードアルテロモナス−ハロプランクティス、クテドノバクター−ラセミファー、メタノハロビウム−エベスチガータム、アナベナ−バリアビリス、ノジュラリア−スプミゲナ、ノストック属、アルスロスピラ−マキシマ、アルスロスピラ−プラテンシス、アルスロスピラ属、リングビア属、ミクロコレウス−クソノプラステス、オスキラトリア属、ペトロトガ−モビリス、サーモシフォ−アフリカヌス、又はAアカリオクロリス−マリナ由来であってもよい。Cas9ファミリーメンバーの追加の例は、参照よりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第WO 2014/131833号に記載される。化膿レンサ球菌からの、又はそれ由来のCas9タンパク質が、好ましい酵素である。化膿レンサ球菌からのCas9タンパク質には、SwissProt受託番号Q99ZW2が割り当てられている。
【0165】
Casタンパク質は、野生型タンパク質(すなわち、自然に発生するもの)、修飾Casタンパク質(すなわち、Casタンパク質変異体)、又は野生型若しくは修飾Casタンパク質のフラグメントであってもよい。Casタンパク質はまた、野生型又は修飾Casタンパク質の活性変異体又はフラグメントであってもよい。活性変異体又はフラグメントは、野生型若しくは修飾Casタンパク質又はこれらの一部分に対して少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超える配列同一性を含むことができ、活性変異体は、所望の開裂部位において切断する能力を保持し、したがって、ニック誘導又は二本鎖切断誘導活性を保持する。ニック誘導又は二本鎖切断誘導活性に対するアッセイは既知であり、概して、開裂部位を含有するDNA基質上のCasタンパク質の全体的な活性及び特異性を測定する。
【0166】
Casタンパク質は、核酸結合親和性、核酸結合特異性、及び/又は酵素活性を増加又は減少させるように修飾され得る。Casタンパク質はまた、安定性など、タンパク質の任意の他の活性又は特性を変化させるように修飾され得る。例えば、Casタンパク質の1つ以上のヌクレアーゼドメインは、修飾、欠失、若しくは不活性化され得るか、あるいはCasタンパク質は、タンパク質の機能に必須ではないドメインを除去するために、又はCasタンパク質の活性を最適化(例えば、強化若しくは低減)するために切断され得る。
【0167】
いくつかのCasタンパク質は、DNaseドメインなどの少なくとも2個のヌクレアーゼドメインを含む。例えば、Cas9タンパク質は、RuvC様ヌクレアーゼドメイン及びHNH様ヌクレアーゼドメインを含むことができる。RuvC及びHNHドメインはそれぞれ、DNA中で二本鎖切断を行うために、二本鎖DNAの異なる鎖を切断することができる。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Jinek et al.(2012)Science 337:816〜821を参照されたい。
【0168】
ヌクレアーゼドメインのうちの一方又は両方は、それらがもはや機能的ではないか、又はヌクレアーゼ活性が低減しているように、欠失又は突然変異され得る。ヌクレアーゼドメインのうちの一方が欠失又は突然変異される場合、得られるCasタンパク質(例えば、Cas9)は、ニッカーゼと称され得、二本鎖切断ではなく、二本鎖DNA内のCRISPR RNA認識配列において一本鎖切断を発生させることができる(すなわち、それは、両方ではなく、相補鎖又は非相補鎖を開裂することができる)。ヌクレアーゼドメインの両方が欠失又は突然変異される場合、得られるCasタンパク質(例えば、Cas9)は、二本鎖DNAの両方の鎖を開裂する能力の低減を有する。Cas9をニッカーゼに変換する突然変異の一例は、化膿レンサ球菌からのCas9のRuvCドメインにおけるD10A(Cas9の位置10におけるアスパラギン酸塩からアラニン)突然変異である。同様に、化膿レンサ球菌からCas9のHNHドメインにおけるH939A(アミノ酸位置839におけるヒスチジンからアラニン)又はH840A(アミノ酸位置840におけるヒスチジンからアラニン)は、Cas9をニッカーゼに変換することができる。Cas9をニッカーゼに変換する突然変異の他の例は、ストレプトコッカス−サーモフィルスからのCas9への対応する突然変異を含む。例えば、それぞれが参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Sapranauskas et al.(2011)Nucleic Acids Research 39:9275〜9282及び国際公開第WO 2013/141680号を参照されたい。そのような突然変異は、部位特異的突然変異誘発、PCR媒介性突然変異誘発、又は全遺伝子合成などの方法を使用して発生させられ得る。ニッカーゼを作る他の突然変異の例は、例えば、国際公開第WO/2013/176772A1号及び同第WO/2013/142578A1号に見出すことができ、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0169】
Casタンパク質はまた、融合タンパク質であってもよい。例えば、Casタンパク質は、開裂ドメイン、後成的修飾ドメイン、転写活性化ドメイン、転写抑制因子ドメインと融合され得る。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第WO 2014/089290号を参照されたい。Casタンパク質はまた、増加又は減少した安定性を提供する異種ポリペプチドと融合され得る。融合ドメイン又は異種ポリペプチドは、N末端、C末端、又はCasタンパク質内に内部的に位置され得る。
【0170】
Casタンパク質は、細胞内局在性を提供する異種ポリペプチドと融合され得る。そのような異種ペプチドは、例えば、核を標的化するためのSV40 NLSなどの核局在シグナル(NLS)、ミトコンドリア標的化するためのミトコンドリア局在シグナル、ER保持シグナルなどを含む。例えば、Lange et al.(2007)J.Biol.Chem.282:5101〜5105を参照されたい。そのような細胞内局在シグナルは、N末端、C末端、又はCasタンパク質内のどこにでも位置し得る。NLSは、塩基性アミノ酸の区間を含むことができ、一分配列又は二分配列であってもよい。
【0171】
Casタンパク質はまた、細胞透過性ドメインに結合され得る。例えば、細胞透過性ドメインは、HIV−1 TATタンパク質、ヒトB型肝炎ウイルスからのTLM細胞透過性モチーフ、MPG、Pep−1、VP22、単純ヘルペスウイルスからの細胞透過性ペプチド、又はポリアルギニンペプチド配列由来である。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第WO 2014/089290号を参照されたい。細胞透過性ドメインは、N末端、C末端、又はCasタンパク質内のどこにでも位置し得る。
【0172】
Casタンパク質はまた、蛍光タンパク質、精製タグ、又はエピトープタグなど、追跡又は精製を容易にするための異種ポリペプチドを含むことができる。蛍光タンパク質の例としては、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP−2、tagGFP、turboGFP、eGFP、エメラルド、アザミグリーン、単量体アザミグリーン、CopGFP、AceGFP、ZsGreenl)、黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、eYFP、シトリン、ビーナス、YPet、PhiYFP、ZsYellowl)、青色蛍光タンパク質(例えば、eBFP、eBFP2、アズライト、mKalamal、GFPuv、サファイア、T−サファイア)、シアン蛍光タンパク質(例えば、eCFP、セルリアン、CyPet、AmCyanl、ミドリイシ−シアン)、赤色蛍光タンパク質(mKate、mKate2、mPlum、DsRed−単量体、mCherry、mRFP1、DsRed−エクスプレス、DsRed2、DsRed−単量体、HcRed−タンデム、HcRedl、AsRed2、eqFP611、mRaspberry、mStrawberry、Jred)、オレンジ色蛍光タンパク質(mOrange、mKO、クサビラーオレンジ、単量体クサビラーオレンジ、mTangerine、tdTomato)、及び任意の他の好適な蛍光タンパク質が挙げられる。タグの例としては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質、チオレドキシン(TRX)、ポリ(NANP)、タンデム親和性精製(TAP)タグ、myc、AcV5、AU1、AU5、E、ECS、E2、FLAG、血球凝集素(HA)、nus、Softag 1、Softag 3、Strep、SBP、Glu−Glu、HSV、KT3、S、S1、T7、V5、VSV−G、ヒスチジン(His)、ビオチンカルボキシルキャリアータンパク質(BCCP)、及びカルモジュリンが挙げられる。
【0173】
Casタンパク質は、任意の形態で提供され得る。例えば、Casタンパク質は、gRNAと複合体を形成したCasタンパク質などのタンパク質の形態で提供され得る。あるいは、Casタンパク質は、RNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))又はDNAなど、Casタンパク質をコードする核酸の形態で提供され得る。任意に、Casタンパク質をコードする核酸は、特定の細胞又は生物中のタンパク質への効率的な翻訳のために最適化されたコドンであってもよい。
【0174】
Casタンパク質をコードする核酸は、細胞のゲノム中に安定して組み込まれ、かつ細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結され得る。あるいは、Casタンパク質をコードする核酸は、発現構築物中のプロモーターに操作可能に連結され得る。発現構築物としては、遺伝子又は他の対象となる核酸配列(例えば、Cas遺伝子)の発現を誘導することができ、かつそのような対象となる核酸配列を標的細胞に導入することができる、任意の核酸構築物が挙げられる。発現構築物中で使用され得るプロモーターとしては、例えば、多能性ラット、真核、哺乳類、非ヒト哺乳類、ヒト、げっ歯類、マウス、又はハムスター細胞中で活性なプロモーターが挙げられる。他のプロモーターの例は、本明細書の別の個所で記載される。
【0175】
(ii)B.ガイドRNA(gRNA)
「ガイドRNA」又は「gRNA」は、Casタンパク質と結合し、Casタンパク質を標的DNA内の特定の位置に標的化するRNA分子を含む。ガイドRNAは、2つの部分、すなわち「DNA標的化セグメント」と「タンパク質結合セグメント」とを含むことができる。「セグメント」は、RNA中のヌクレオチドの隣接区間など、分子のセグメント、セクション、又は領域を含む。いくつかのgRNAは、2つの別々のRNA分子、すなわち「アクチベーターRNA」と「ターゲッターRNA」とを含む。他のgRNAは、「単一分子gRNA」、「単一ガイドRNA」、又は「sgRNA」とも呼ばれ得る、単一RNA分子(単一RNAポリヌクレオチド)である。例えば、国際公開第WO/2013/176772A1号、同第WO/2014/065596A1号、同第WO/2014/089290A1号、同第WO/2014/093622A2号、同第WO/2014/099750A2号、同第WO/2013142578A1号、及び同第WO 2014/131833A1号を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。用語「ガイドRNA」及び「gRNA」は、二重分子gRNA及び単一分子gRNAの両方を含む。
【0176】
例示的な二分子gRNAは、crRNA様(「CRISPR RNA」又は「ターゲッターRNA」又は「crRNA」又は「crRNA反復」)分子と、対応するtracrRNA様(「トランス作用CRISPR RNA」又は「アクチベーターRNA」又は「tracrRNA」又は「足場」)分子とを含む。crRNAは、gRNAのDNA標的化セグメント(一本鎖)、及びgRNAのタンパク質結合セグメントのdsRNA二重鎖の半分を形成するヌクレオチドの区間の両方を含む。
【0177】
対応するtracrRNA(アクチベーターRNA)は、gRNAのタンパク質結合セグメントのdsRNA二重鎖の他方の半分を形成するヌクレオチドの区間を含む。crRNAのヌクレオチドの区間は、tracrRNAのヌクレオチドの区間に相補的であり、かつそれとハイブリダイズして、gRNAのタンパク質結合セグメントのdsRNA二重鎖を形成する。したがって、各crRNAは、対応するtracrRNAを有すると言える。
【0178】
crRNA及び対応するtracrRNAは、ハイブリダイズしてgRNAを形成する。crRNAは、加えて、CRISPR RNA認識配列にハイブリダイズする一本鎖DNA標的化セグメントを提供する。細胞内の修飾のために使用される場合、所与のcrRNA又はtracrRNA分子の正確な配列は、RNA分子が使用される種に特異的になるように設計され得る。例えば、Mali et al.(2013)Science 339:823〜826、Jinek et al.(2012)Science 337:816〜821、Hwang et al.(2013)Nat.Biotechnol.31:227〜229、Jiang et al.(2013)Nat.Biotechnol.31:233〜239、及びCong et al.(2013)Science 339:819〜823を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0179】
所与のgRNAのDNA標的化セグメント(crRNA)は、標的DNA中の配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。gRNAのDNA標的化セグメントは、ハイブリダイゼーションを介して、配列特異的な様式で標的DNAと相互作用する(すなわち、塩基対合)。したがって、DNA標的化セグメントのヌクレオチド配列は異なってもよく、かつgRNA及び標的DNAが相互作用する標的DNA内の位置を決定する。対象となるgRNAのDNA標的化セグメントは、標的DNAの任意の所望の配列にハイブリダイズするように修飾され得る。自然発生的crRNAは、Cas9系及び生物によって異なるが、多くの場合、21〜46ヌクレオチド長の2つの直列反復(DR)が隣接した、21〜72ヌクレオチド長の標的化セグメントを含有する。化膿レンサ球菌の場合、DRは、36ヌクレオチド長であり、標的化セグメントは、30ヌクレオチド長である。3’位置のDRは、対応するtracrRNAに相補的であり、かつそれとハイブリダイズし、このtracrRNAが次いでCas9タンパク質と結合する。
【0180】
DNA標的化セグメントは、約12ヌクレオチド〜約100ヌクレオチド長を有することができる。例えば、DNA標的化セグメントは、約12ヌクレオチド(nt)〜約80nt、約12nt〜約50nt、約12nt〜約40nt、約12nt〜約30nt、約12nt〜約25nt、約12nt〜約20nt、又は約12nt〜約19ntの長さを有することができる。あるいは、DNA標的化セグメントは、約19nt〜約20nt、約19nt〜約25nt、約19nt〜約30nt、約19nt〜約35nt、約19nt〜約40nt、約19nt〜約45nt、約19nt〜約50nt、約19nt〜約60nt、約19nt〜約70nt、約19nt〜約80nt、約19nt〜約90nt、約19nt〜約100nt、約20nt〜約25nt、約20nt〜約30nt、約20nt〜約35nt、約20nt〜約40nt、約20nt〜約45nt、約20nt〜約50nt、約20nt〜約60nt、約20nt〜約70nt、約20nt〜約80nt、約20nt〜約90nt、又は約20nt〜約100ntの長さを有することができる。
【0181】
標的DNAのヌクレオチド配列(CRISPR RNA認識配列)に相補的であるDNA標的化セグメントのヌクレオチド配列は、少なくとも約12ntの長さを有することができる。例えば、DNA標的化配列(すなわち、標的DNA内のCRISPR RNA認識配列に相補的であるDNA標的化セグメント内の配列)は、少なくとも約12nt、少なくとも約15nt、少なくとも約18nt、少なくとも約19nt、少なくとも約20nt、少なくとも約25nt、少なくとも約30nt、少なくとも約35nt、又は少なくとも約40ntの長さを有することができる。あるいは、DNA標的化配列は、約12ヌクレオチド(nt)〜約80nt、約12nt〜約50nt、約12nt〜約45nt、約12nt〜約40nt、約12nt〜約35nt、約12nt〜約30nt、約12nt〜約25nt、約12nt〜約20nt、約12nt〜約19nt、約19nt〜約20nt、約19nt〜約25nt、約19nt〜約30nt、約19nt〜約35nt、約19nt〜約40nt、約19nt〜約45nt、約19nt〜約50nt、約19nt〜約60nt、約20nt〜約25nt、約20nt〜約30nt、約20nt〜約35nt、約20nt〜約40nt、約20nt〜約45nt、約20nt〜約50nt、又は約20nt〜約60ntの長さを有することができる。場合によっては、DNA標的化配列は、約20ntの長さを有することができる。
【0182】
TracrRNAは、任意の形態(例えば、完全長のtracrRNA又は活性部分tracrRNA)及び異なる長さであってもよい。それらは、一次転写産物又は処理された形態を含むことができる。例えば、tracrRNA(単一ガイドRNAの一部として、又は二分子gRNAの一部としての別個の分子として)は、野生型tracrRNA配列の全部又は一部分(例えば、野生型tracrRNA配列の約20、26、32、45、48、54、63、67、85以上、又はそれよりも多くのヌクレオチド)を含むか、又はそれからなってもよい。化膿レンサ球菌からの野生型tracrRNA配列の例としては、171−ヌクレオチド、89−ヌクレオチド、75−ヌクレオチド、及び65−ヌクレオチドバージョンが挙げられる。例えば、Deltcheva et al.(2011)Nature 471:602〜607、国際公開第WO 2014/093661号を参照されたく、これらのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。単一ガイドRNA(sgRNA)内のtracrRNAの例としては、sgRNAの+48、+54、+67、及び+85バージョン内に見出されるtracrRNAセグメントが挙げられ、ここで「+n」は、野生型tracrRNAの最大で+n個のヌクレオチドがsgRNAに含まれることを示す。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国第8,697,359号を参照されたい。
【0183】
DNA標的化配列と標的DNA内のCRISPR RNA認識配列との間の相補性の割合は、少なくとも60%(例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%)であってもよい。DNA標的化配列と標的DNA内のCRISPR RNA認識配列との間の相補性の割合は、約20個の隣接ヌクレオチドにわたって少なくとも60%であってもよい。一例として、DNA標的化配列と標的DNA内のCRISPR RNA認識配列との間の相補性の割合は、標的DNAの相補鎖内のCRISPR RNA認識配列の5’末端における14個の隣接ヌクレオチドにわたって100%であり、残りの部分にわたって0%ほど低い。そのような場合、DNA標的化配列は、14ヌクレオチド長であると見なされ得る。別の例として、DNA標的化配列と標的DNA内のCRISPR RNA認識配列との間の相補性の割合は、標的DNAの相補鎖内のCRISPR RNA認識配列の5’末端における7個の隣接ヌクレオチドにわたって100%であり、残りの部分にわたって0%ほど低い。そのような場合、DNA標的化配列は、7ヌクレオチド長であると見なされ得る。
【0184】
gRNAのタンパク質結合セグメントは、互いに相補的であるヌクレオチドの2つの区間を含むことができる。タンパク質結合セグメントの相補的ヌクレオチドは、ハイブリダイズして二本鎖RNA二重鎖(dsRNA)を形成する。対象となるgRNAのタンパク質結合セグメントは、Casタンパク質と相互作用し、gRNAは、DNA標的化セグメントを介して、結合したCasタンパク質を、標的DNA内の特定のヌクレオチド配列に誘導する。
【0185】
ガイドRNAは、追加の所望の特徴(例えば、修飾又は制御された安定性、細胞内標的化、蛍光標識を用いた追跡、タンパク質又はタンパク質複合体のための結合部位など)を提供する、修飾又は配列を含むことができる。そのような修飾の例としては、例えば、5’キャップ(例えば、7−メチルグアニレートキャップ(m7G))、3’ポリアデニル化テール(すなわち、3’ポリ(A)テール)、リボスイッチ配列(例えば、タンパク質及び/又はタンパク質複合体による制御された安定性及び/又は制御された接近可能性を可能にするための)、安定性制御配列、dsRNA二重鎖(すなわち、ヘアピン))を形成する配列、細胞内位置(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)にRNAを標的化する修飾又は配列、追跡(例えば、蛍光分子との直接共役、蛍光検出を促進する部分との共役、蛍光検出を可能にする配列など)を提供する修飾又は配列、タンパク質(例えば、転写活性因子、転写抑制因子、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどを含む、DNAに作用するタンパク質)のための結合部位を提供する修飾又は配列、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0186】
ガイドRNAは、任意の形態で提供され得る。例えば、gRNAは、2つの分子(別々のcrRNA及びtracrRNA)として、又は1つの分子(sgRNA)としてのいずれかのRNAの形態で、並びに任意に、Casタンパク質との複合体の形態で提供され得る。gRNAはまた、RNAをコードするDNAの形態で提供され得る。gRNAをコードするDNAは、単一RNA分子(sgRNA)又は別々のRNA分子(例えば、別々のcrRNA及びtracrRNA)をコードすることができる。後者の場合、gRNAをコードするDNAは、crRNA及びtracrRNAをそれぞれコードする別々のDNA分子として提供され得る。
【0187】
gRNAをコードするDNAは、細胞のゲノム中に安定して組み込まれ、かつ細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結され得る。あるいは、gRNAをコードするDNAは、発現構築物中のプロモーターに操作可能に連結され得る。そのようなプロモーターは、例えば、多能性ラット、真核、哺乳類、非ヒト哺乳類、ヒト、げっ歯類、マウス、又はハムスター細胞中で活性であってもよい。場合によっては、プロモーターは、ヒトU6プロモーター、ラットU6ポリメラーゼIIIプロモーター、又はマウスU6ポリメラーゼIIIプロモーターなどのRNAポリメラーゼIIIプロモーターである。他のプロモーターの例は、本明細書の別の個所で記載される。
【0188】
あるいは、gRNAは、様々な他の方法によって調製され得る。例えば、gRNAは、例えば、T7 RNAポリメラーゼを使用したインビトロ転写によって調製され得る(例えば、国際公開第WO 2014/089290号及び同第WO 2014/065596号を参照されたい)。ガイドRNAはまた、化学合成によって調製された、合成的に生み出された分子であってもよい。
【0189】
(iii)C.CRISPR RNA認識配列
用語「CRISPR RNA認識配列」は、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する標的DNA中に存在する核酸配列を含むが、ただし、結合のための十分な条件が存在することを条件とする。例えば、CRISPR RNA認識配列は、ガイドRNAが相補性を有するように設計される配列を含み、CRISPR RNA認識配列とDNA標的化配列との間のハイブリダイゼーションは、CRISPR複合体の形成を促進する。完全な相補性は必ずしも必要ではないが、ただしハイブリダイゼーションを引き起こし、かつCRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があることを条件とする。CRISPR RNA認識配列は、以下でより詳細に記載される、Casタンパク質のための開裂部位も含む。CRISPR RNA認識配列は、任意のポリヌクレオチドを含むことができ、それは、例えば、細胞の核若しくは細胞質内に、又はミトコンドリア若しくは葉緑体などの細胞のオルガネラ内に位置し得る。
【0190】
標的DNA内のCRISPR RNA認識配列は、Casタンパク質又はgRNAによって標的化され得る(すなわち、それによって結合され得る、又はそれとハイブリダイズし得る、又はそれに相補的であり得る)。好適なDNA/RNA結合条件は、細胞中に通常存在する生理学的条件を含む。他の好適なDNA/RNA結合条件(例えば、無細胞系における条件)は、当該技術分野において既知である(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrook et al.,Harbor Laboratory Press 2001)を参照されたい)。Casタンパク質又はgRNAに相補的であり、かつそれとハイブリダイズする標的DNAの鎖は、「相補鎖」と呼ばれ得、「相補鎖」に相補的である(したがって、Casタンパク質又はgRNAに相補的ではない)標的DNAの鎖は、「非相補鎖」又は「テンプレート鎖」と呼ばれ得る。
【0191】
Casタンパク質は、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する標的DNA中に存在する核酸配列の内側又は外側の部位で核酸を開裂することができる。「開裂部位」は、Casタンパク質が一本鎖切断又は二本鎖切断を生じさせる核酸の位置を含む。例えば、CRISPR複合体の形成(CRISPR RNA認識配列にハイブリダイズされ、かつCasタンパク質と複合体を形成されたgRNAを含む)は、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する標的DNA中に存在する核酸配列中、又はその近くで(例えば、そこから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50塩基対、又はそれを超える塩基対以内で)、一方又は両方の鎖の開裂をもたらし得る。開裂部位が、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する核酸配列の外側にある場合、開裂部位はなおも「CRISPR RNA認識配列」内にあると見なされる。開裂部位は、核酸の一方のみの鎖又は両方の鎖上にあってもよい。開裂部位は、核酸の両方の鎖上の同じ位置にあってもよく(平滑末端を生じさせる)、又は各鎖上の異なる部位にあってもよい(段違いの末端を生じさせる)。段違いの末端は、例えば、2つのCasタンパク質によって生じ得、それらのそれぞれは、各鎖上の異なる開裂部位において一本鎖切断を生じさせ、したがって、二本鎖切断を生じさせる。例えば、突出配列が作られるように、第1のニッカーゼは、二本鎖DNA(dsDNA)の第1の鎖上で一本鎖切断を引き起こし得、第2のニッカーゼは、dsDNAの第2の鎖上で一本鎖切断を引き起こし得る。場合によっては、第1の鎖上のニッカーゼのCRISPR RNA認識配列は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100、250、500、又は1,000塩基対、第2の鎖上のニッカーゼのCRISPR RNA認識配列から隔てられる。
【0192】
Cas9による標的DNAの部位特異的開裂は、標的DNA中の(i)gRNAと標的DNAとの間の塩基対合相補性、及び(ii)プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる短いモチーフの両方によって決定される位置で生じ得る。PAMは、CRISPR RNA認識配列に隣接することができる。任意に、CRISPR RNA認識配列に、PAMが隣接し得る。例えば、Cas9の開裂部位は、PAM配列の約1〜約10又は約2〜約5塩基対(例えば、3塩基対)上流又は下流であってもよい。場合によっては(例えば、化膿レンサ球菌からのCas9又は近縁のCas9が使用されるとき)、非相補鎖のPAM配列は、5’−N
1GG−3’であってもよく、N
1は、任意のDNAヌクレオチドであり、標的DNAの非相補鎖のCRISPR RNA認識配列のすぐ3’である。したがって、相補鎖のPAM配列は、5’−CC N
2−3’であり、N
2は、任意のDNAヌクレオチドであり、標的DNAの相補鎖のCRISPR RNA認識配列のすぐ5’である。いくつかのそのような場合において、N
1及びN
2は相補的であり得、N
1−N
2塩基対は、任意の塩基対であり得る(例えば、N
1=C及びN
2=G、N
1=G及びN
2=C、N
1=A及びN
2=T、N
1=T、及びN
2=A)。
【0193】
CRISPR RNA認識配列の例は、gRNAのDNA標的化セグメントに相補的なDNA配列、又はPAM配列に加えたそのようなDNA配列を含む。例えば、標的モチーフは、Casタンパク質によって認識されたNGGモチーフのすぐ前の20ヌクレオチドDNA配列であり得る(例えば、国際公開第WO 2014/165825号を参照されたい)。5’末端におけるグアニンは、細胞中のRNAポリメラーゼによる転写を促進することができる。CRISPR RNA認識配列の他の例は、インビトロでのT7ポリメラーゼによる効率的な転写を促進するために、5’末端において2つのグアニンヌクレオチドを含むことができる(例えば、GGN
20NGG、配列番号9)。例えば、国際公開第WO 2014/065596号を参照されたい。
【0194】
CRISPR RNA認識配列は、細胞に内因性又は外因性の任意の核酸配列であってもよい。CRISPR RNA認識配列は、遺伝子産物(例えば、タンパク質)をコードする配列若しくは非コード配列(例えば、制御配列)であってもよく、又は両方を含むことができる。
【0195】
一実施形態では、標的配列に、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列が直接隣接する。一実施形態では、対象となる遺伝子座は、配列番号1のヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、gRNAは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)RNA(crRNA)及びトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)をコードする、第3の核酸配列を含む。別の実施形態では、多能性ラット細胞のゲノムは、標的配列に相補的な標的DNA領域を含む。いくつかのそのような実施形態では、Casタンパク質は、Cas9である。いくつかの実施形態では、gRNAは、(a)配列番号2の核酸配列のキメラRNA、又は(b)配列番号3の核酸配列のキメラRNAを含む。いくつかのそのような方法では、crRNAは、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に記載される配列を含む。いくつかのそのような実施形態では、tracrRNAは、配列番号7又は配列番号8に記載される配列を含む。
【0196】
ヌクレアーゼ剤の活性変異体及びフラグメント(すなわち、操作されたヌクレアーゼ剤)もまた提供される。そのような活性変異体は、天然ヌクレアーゼ剤に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超える配列同一性を含むことができ、活性変異体は、所望の認識部位において切断する能力を保持し、したがって、ニック又は二本鎖切断誘導活性を保持する。例えば、本明細書に記載されるヌクレアーゼ剤のいずれも、天然エンドヌクレアーゼ配列から修飾され、かつ天然ヌクレアーゼ剤によって認識されなかった認識部位におけるニック又は二本鎖切断を認識及び誘導するように設計され得る。したがって、いくつかの実施形態では、操作されたヌクレアーゼは、対応する天然ヌクレアーゼ剤認識部位とは異なる認識部位においてニック又は二本鎖切断を誘導する特異性を有する。ニック又は二本鎖切断誘導活性に対するアッセイは既知であり、概して、認識部位を含有するDNA基質上のエンドヌクレアーゼの全体的な活性及び特異性を測定する。
【0197】
ヌクレアーゼ剤は、当該技術分野において既知の任意の手段によって細胞に導入されてもよい。ヌクレアーゼ剤をコードするポリペプチドは、細胞に直接導入されてもよい。あるいは、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドが細胞に導入され得る。ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドが細胞に導入されるとき、ヌクレアーゼ剤は、細胞内で一次的に、条件付きで、又は構成的に発現され得る。したがって、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドは、発現カセット中に含有され、かつ条件付きプロモーター、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、又は組織特異的プロモーターに操作可能に連結され得る。そのような対象となるプロモーターは、本明細書の別の個所で更に詳細に考察される。あるいは、ヌクレアーゼ剤は、ヌクレアーゼ剤をコードするmRNAとして細胞に導入される。
【0198】
特定の実施形態では、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドは、細胞のゲノム中に安定して組み込まれ、かつ細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結される。他の実施形態では、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドが挿入ポリヌクレオチドを含む同じ標的化ベクター内にある一方で、他の場合において、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドは、挿入ポリヌクレオチドを含む標的化ベクターとは別であるベクター又はプラスミド内にある。
【0199】
ヌクレアーゼ剤が、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドの導入を通じて細胞に提供されるとき、ヌクレアーゼ剤をコードするそのようなポリヌクレオチドは、ヌクレアーゼ剤をコードする自然発生的ポリヌクレオチド配列と比較して、対象となる細胞中でより高い使用頻度を有するコドンを置換するように修飾され得る。例えば、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチドは、自然発生的ポリヌクレオチド配列と比較して、細菌細胞、酵母細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳類細胞、げっ歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、又は任意の他の対象となる宿主細胞を含む、所与の対象となる原核又は真核細胞中でより高い使用頻度を有するコドンを置換するように修飾され得る。
【0200】
B.困難なゲノム遺伝子座又はY染色体遺伝子座を修飾するための、大きな標的化ベクター(LTVEC)又は小さな標的化ベクター(SmallTVEC)と組み合わせたCRISPR/Cas系の採用
困難なゲノム遺伝子座又はY染色体の遺伝子座を修飾するための非限定的な方法は、少なくとも10kbの核酸配列を含む大きな標的化ベクター(LTVEC)の存在下で、Casタンパク質及びCRISPR RNAに染色体(すなわち、Y染色体)を曝露することを含み、Casタンパク質、CRISPR RNA、及びLTVECへの曝露に続いて、染色体(すなわち、Y染色体)は、少なくとも10kbの核酸配列を含むように修飾される。
【0201】
本方法は、本明細書に記載されるLTVEC又はsmallTVECのうちのいずれかを採用することができる。非限定的な実施形態では、LTVEC又はsmallTVECは、少なくとも20kb、少なくとも30kb、少なくとも40kb、少なくとも50kb、少なくとも60kb、少なくとも70kb、少なくとも80kb、少なくとも90kb、少なくとも100kb、少なくとも150kb、又は少なくとも200kbの核酸配列を含む。他の実施形態では、LTVECの5’及び3’ホモロジーアームの合計は、約10kb〜約150kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約120kb、又は約120kb〜150kbである。別の実施形態では、smallTVECの5’及び3’ホモロジーアームの合計は、約0.5kb、1kb、1.5kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、約0.5kb〜約1kb、約1kb〜約1.5kb、約1.5kb〜約2kb、約2kb〜約3kb、約3kb〜約4kb、約4kb〜約5kb、約5kb〜約6kb、約6kb〜約7kb、約8kb〜約9kbであるか、又は少なくとも10kbである。
【0202】
困難な標的遺伝子座又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法が更に提供され、(a)困難な標的遺伝子座又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む哺乳類細胞を提供することであって、標的ゲノム遺伝子座は、ガイドRNA(gRNA)標的配列を含む、提供することと、(b)哺乳類細胞に、標的ゲノム遺伝子座に相同の標的化アームが隣接した第1の核酸を含む、大きな標的化ベクター(LTVEC)であって、少なくとも10kbである、LTVECと、(ii)Casタンパク質をコードする第2の核酸に操作可能に連結された第1のプロモーターを含む、第1の発現構築物と、(iii)gRNA標的配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)及びトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)をコードする第3の核酸に操作可能に連結された第2のプロモーターを含む、第2の発現構築物と、を導入することであって、第1及び第2のプロモーターは、哺乳類細胞中で活性である、導入することと、(c)困難な標的ゲノム遺伝子座又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座において標的化された遺伝子修飾を含む修飾された哺乳類細胞を特定することと、を含む。特定の実施形態では、第1及び第2の発現構築物は、単一の核酸分子上にある。他の実施形態では、Y染色体の標的ゲノム遺伝子座は、Sry遺伝子座である。
【0203】
上記で概説されたように、一実施形態では、Casタンパク質は、Cas9タンパク質を含むことができる。別の実施形態では、gRNA標的配列に、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列が直接隣接する。
【0204】
本方法は、本明細書に記載されるLTVEC又はsmallTVECのうちのいずれかを採用することができる。非限定的な実施形態では、LTVEC又はsmallTVECは、少なくとも0.5kb、少なくとも1kb、少なくとも5kb、少なくとも10kb、少なくとも15kb、少なくとも20kb、少なくとも30kb、少なくとも40kb、少なくとも50kb、少なくとも60kb、少なくとも70kb、少なくとも80kb、少なくとも90kb、少なくとも100kb、少なくとも150kb、又は少なくとも200kbである。他の実施形態では、LTVECの5’及び3’ホモロジーアームの合計は、約10kb〜約150kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約120kb、又は約120kb〜150kbである。
【0205】
CRISPR/Cas系を採用する様々な方法(又は本明細書に開示される任意の方法)は、例えば、哺乳類細胞、非ヒト哺乳類細胞、線維芽細胞、げっ歯類細胞、ラット細胞、マウス細胞、又はハムスター細胞に実施され得る。細胞は、多能性細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、マウス胚性幹(ES)細胞、ラット胚性幹(ES)細胞、ヒト胚性幹(ES)細胞、又は発達制限されたヒト前駆細胞であってもよい。
【0206】
以下で詳細に考察されるように、上記で概説されたCRISPR/CAS系を採用、例えば使用した、非ヒト多能性細胞の困難なゲノム遺伝子座又はY染色体上の対象となるゲノム遺伝子座(すなわち、Sry遺伝子座)の修飾に続いて、生み出される遺伝子修飾された非ヒト多能性細胞は、非ヒト宿主胚内に導入され得、代理母内に修飾された多能性細胞を含む非ヒト宿主胚は、懐胎される。代理母は、標的化された遺伝子修飾を含むF0子孫を生み出す。特定の実施形態では、標的化された遺伝子修飾は、生殖系列を通じて伝達されることが可能である。
【0207】
C.選択マーカー
Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座又は困難な標的ゲノム遺伝子座を修飾することを可能にする、様々な選択マーカーが、本明細書に開示される方法及び組成物で使用され得る。そのようなマーカーは、本明細書の別の個所で開示され、G418、ヒグロマイシン、ブラストシジン、ネオマイシン、又はピューロマイシンなどの抗生物質への耐性を付与する選択マーカーが挙げられるがこれらに限定されない。選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは、細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結される。そのような発現カセット及びそれらの様々な制御成分は、本明細書の別の個所で更に詳細に考察される。
【0208】
D.標的ゲノム遺伝子座
Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座又は困難な標的ゲノム遺伝子座における少なくとも1つの挿入ポリヌクレオチドの組み込みを可能にする、様々な方法及び組成物が提供される。本明細書で使用される場合、「Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座」は、挿入ポリヌクレオチドを組み込みたいY染色体上のDNAの任意のセグメント又は領域を含む。
【0209】
標的化されているY染色体上のゲノム遺伝子座又は困難な標的ゲノム遺伝子座は、細胞に対して天然であり得るか、あるいは、細胞の染色体に組み込まれたDNAの異種又は外因性セグメントを含むことができる。DNAのそのような異種又は外因性セグメントは、導入遺伝子、発現カセット、選択マーカーをコードするポリヌクレオチド、又はゲノムDNAの異種若しくは外因性領域を含むことができる。Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座又は困難な標的ゲノム遺伝子座は、例えば、認識部位、選択マーカー、すでに組み込まれた挿入ポリヌクレオチド、ヌクレアーゼ剤をコードするポリヌクレオチド、プロモーターなどを含む、標的化されたゲノム組み込み系のいずれかを含むことができる。あるいは、Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座又は困難な標的ゲノム遺伝子座は、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、ヒト人工染色体、又は適切な宿主細胞中に含有された任意の他の操作されたゲノム領域内に位置し得る。したがって、特定の実施形態では、Y染色体上の標的化されたゲノム遺伝子座又は困難な標的ゲノム遺伝子座は、非ヒト哺乳動物、非ヒト細胞、げっ歯類、ヒト、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、シカ、ヒツジ、ヤギ、トリ、ネコ、イヌ、フェレット、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)、家畜哺乳動物若しくは農業用哺乳動物、若しくは任意の他の対象となる生物、又はこれらの組み合わせからの天然、異種、又は外因性ゲノム核酸配列を含むことができる。
【0210】
Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座の非限定的な例としては、Sry遺伝子、Uty遺伝子、Eif2s3y遺伝子、Ddx3y遺伝子、遺伝子、Ube1y遺伝子、Tspy遺伝子、Usp9y遺伝子、Zfy1遺伝子、及びZfy2遺伝子、並びにKdm5d、Eif2s3y、Tspy、Uty、Ddx3y、及びUsp9y遺伝子を包含するY染色体上の領域が挙げられる。Y染色体上のそのような遺伝子座は、非ヒト哺乳動物、哺乳動物、げっ歯類、ヒト、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、シカ、ヒツジ、ヤギ、トリ、ネコ、イヌ、フェレット、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)、家畜哺乳動物若しくは農業用哺乳動物、若しくは任意の他の対象となる生物、又はこれらの組み合わせ由来であり得る。そのような細胞としては、例えば、人工多能性幹(iPS)細胞を含む多能性細胞、マウス胚性幹(ES)細胞、ラット胚性幹(ES)細胞、ヒト胚性幹(ES)細胞、又は発達制限されたヒト前駆細胞が挙げられる。
【0211】
本明細書の別の個所で記載されるように、Sryタンパク質の活性又はレベルの減少を有するXY多能性及び/又は全能性細胞(XY ES細胞又はiPS細胞など)を含む、様々な方法及び組成物が提供される。Y染色体上のゲノム遺伝子座を修飾するための本明細書に記載される様々な方法また、Y染色体上に位置していない対象となるポリヌクレオチドへの標的化された遺伝子修飾を導入するためにも使用され得る。
【0212】
E.標的化ベクター及び挿入ポリヌクレオチド
上記で概説されたように、本明細書に提供される方法及び組成物は、単独で、又はヌクレアーゼ剤と組み合わせて標的化ベクターを採用する。「相同組み換え」は、従来、相同性の領域内の交差部位における2つのDNA分子間のDNAフラグメントの交換を指すために使用される。
【0213】
i.挿入ポリヌクレオチド
本明細書で使用される場合、「挿入ポリヌクレオチド」は、標的ゲノム遺伝子座において組み込むことが望まれるDNAのセグメントを含む。特定の実施形態では、標的ゲノム遺伝子座は、Y染色体上にある。他の実施形態では、標的ゲノム遺伝子座は、困難なゲノム遺伝子座である。一実施形態では、挿入ポリヌクレオチドは、対象となる1つ以上のポリヌクレオチドを含む。他の実施形態では、挿入ポリヌクレオチドは、1つ以上の発現カセットを含むことができる。所与の発現カセットは、発現に影響を及ぼす様々な制御成分と共に、対象となるポリヌクレオチド、選択マーカーをコードするポリヌクレオチド、及び/又はレポーター遺伝子を含むことができる。挿入ポリヌクレオチド内に含まれ得る、対象となるポリヌクレオチド、選択マーカー、及びレポーター遺伝子の非限定的な例は、本明細書の別の個所で詳細に考察される。
【0214】
特定の実施形態では、挿入ポリヌクレオチドは、ゲノム核酸を含むことができる。一実施形態では、ゲノム核酸は、動物、マウス、ヒト、非ヒト、げっ歯類、非ヒト、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、シカ、ヒツジ、ヤギ、トリ、ネコ、イヌ、フェレット、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)、家畜哺乳動物若しくは農業用哺乳動物、鳥類、若しくは任意の他の対象となる生物、又はこれらの組み合わせ由来である。
【0215】
更なる実施形態では、挿入ポリヌクレオチドは、条件付き対立遺伝子を含む。一実施形態では、条件付き対立遺伝子は、参照によりその全体が組み込まれる米国第2011/0104799号に記載されるように、多機能性対立遺伝子である。特定の実施形態では、条件付き対立遺伝子は、(a)標的遺伝子の転写に対するセンス配向における作動配列、及びセンス又はアンチセンス配向における薬剤選択カセット(DSC)、(b)アンチセンス配向における、対象となるヌクレオチド配列(NSI)及び反転モジュールによる条件付き(COIN、エクソン分割イントロン及び反転可能なジーントラップ様モジュールを利用する。例えば、参照によりその全体が組み込まれる米国第2011/0104799号を参照されたい)、並びに(c)(i)作動配列及びDSCを欠く、かつ(ii)センス配向におけるNSI及びアンチセンス配向におけるCOINを含有する条件付き対立遺伝子を形成するために、第1のリコンビナーゼへの曝露後に組み換える、組み換え可能な単位を含む。
【0216】
挿入ポリヌクレオチドは、約5kb〜約200kb、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約30kb、約30kb〜約40kb、約40kb〜約50kb、約60kb〜約70kb、約80kb〜約90kb、約90kb〜約100kb、約100kb〜約110kb、約120kb〜約130kb、約130kb〜約140kb、約140kb〜約150kb、約150kb〜約160kb、約160kb〜約170kb、約170kb〜約180kb、約180kb〜約190kb、約190kb〜約200kb、約200kb〜約250kb、約250kb〜約300kb、約300kb〜約350kb、又は約350kb〜約400kbであってもよい。
【0217】
特定の実施形態では、挿入ポリヌクレオチドは、部位特異的組み換え標的配列が隣接した核酸を含む。挿入ポリヌクレオチド全体に、そのような部位特異的組み換え標的配列が隣接し得る一方で、挿入ポリヌクレオチド内の任意の領域又は個々の対象となるポリヌクレオチドにもまた、そのような部位が隣接し得ることが認識される。本明細書で使用される場合、用語「組み換え部位」は、部位特異的リコンビナーゼによって認識され、かつ組み換え事象のための基質としての役割を果たし得る、ヌクレオチド配列を含む。本明細書で使用される場合、用語「部位特異的リコンビナーゼ」は、2つの組み換え部位が単一核酸分子内、又は別々の核酸分子上で物理的に隔てられる、組み換え部位間の組み換えを促進することができる、酵素の群を含む。部位特異的リコンビナーゼの例としては、Cre、Flp、及びDreリコンビナーゼが挙げられるがこれらに限定されない。部位特異的リコンビナーゼは、リコンビナーゼポリペプチドを細胞に導入することによって、又は部位特異的リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することなどによって、任意の手段によって細胞に導入され得る。部位特異的リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドは、挿入ポリヌクレオチド内、又は別個のポリヌクレオチド内に位置し得る。部位特異的リコンビナーゼは、例えば、誘導性プロモーター、細胞に内因性であるプロモーター、細胞に異種であるプロモーター、細胞特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、又は発達段階特異的プロモーターを含む、細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結され得る。挿入ポリヌクレオチド又は挿入ポリヌクレオチド中の任意の対象となるポリヌクレオチドに隣接することができる部位特異的組み換え標的配列としては、loxP、lox511、lox2272、lox66、lox71、loxM2、lox5171、FRT、FRT11、FRT71、attp、att、FRT、rox、及びこれらの組み合わせが挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0218】
他の実施形態では、部位特異的組み換え部位は、挿入ポリヌクレオチド内に含有される選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子をコードするポリヌクレオチドに隣接する。そのような場合、標的化されたゲノム遺伝子座における挿入ポリヌクレオチドの組み込みに続いて、部位特異的組み換え部位間の配列は、除去され得る。
【0219】
一実施形態では、挿入ポリヌクレオチドは、選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを含む。そのような選択マーカーとしては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo
r)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg
r)、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ(puro
r)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr
r)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、若しくは単純ウイルスチミジンキナーゼ(HSV−k)、又はこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態では、選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは、細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結される。標的化されたゲノム遺伝子座に対象となるポリヌクレオチドを連続的にタイリングするとき、選択マーカーは、上記で概説されたように、ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含むことができる。一実施形態では、選択マーカーをコードするポリヌクレオチドに、部位特異的組み換え標的配列が隣接する。
【0220】
挿入ポリヌクレオチドは、プロモーターに操作可能に連結されたレポーター遺伝子を更に含むことができ、レポーター遺伝子は、LacZ、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J−Red、DsRed、mOrange、mKO、mCitrine、ビーナス、YPet、強化黄色蛍光タンパク質(EYFP)、エメラルド、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)、CyPet、シアン蛍光タンパク質(CFP)、セルリアン、T−サファイア、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるレポータータンパク質をコードする。そのようなレポーター遺伝子は、細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結され得る。そのようなプロモーターは、誘導性プロモーター、レポーター遺伝子若しくは細胞に内因性であるプロモーター、レポーター遺伝子若しくは細胞に異種であるプロモーター、細胞特異的プロモーター、組織特異的プロモーター様式、又は発達段階特異的プロモーターであってもよい。
【0221】
ii.標的化ベクター
標的化ベクターは、Y染色体上の標的化されたゲノム遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座に、又は別の対象となる染色体上に挿入ポリヌクレオチドを導入するために採用される。標的化ベクターは、挿入ポリヌクレオチドを含み、挿入ポリヌクレオチドに隣接する上流及び下流ホモロジーアームを更に含む。挿入ポリヌクレオチドに隣接するホモロジーアームは、標的化されたゲノム遺伝子座内のゲノム領域に対応する。参照を容易にするために、標的化されたゲノム遺伝子座内の対応するゲノム領域は、本明細書において「標的部位」と称される。したがって、一実施例において、標的化ベクターは、選択マーカーをコードするポリヌクレオチド内の第1の認識部位に十分に近接して位置する第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した、第1の挿入ポリヌクレオチドを含むことができる。したがって、それにより、標的化ベクターは、細胞のゲノム内のホモロジーアームと対応する標的部位との間で生じる相同組み換え事象を通じて、標的化されたゲノム遺伝子座への挿入ポリヌクレオチドの組み込みを補助する。
【0222】
標的化ベクターのホモロジーアームは、例えば、約400bp〜約500bp、約500bp〜約600bp、約600bp〜約700bp、約700bp〜約800bp、約800bp〜約900bp、若しくは約900bp〜約1000bp、又は少なくとも5〜10、5〜15、5〜20、5〜25、5〜30、5〜35、5〜40、5〜45、5〜50、5〜55、5〜60、5〜65、5〜70、5〜75、5〜80、5〜85、5〜90、5〜95、5〜100、100〜200、若しくは200〜300キロベース以上の長さを含む、対応する標的部位を有する相同組み換え事象を促進するのに十分である任意の長さであってもよい。特定の実施形態では、標的化アームの合計は、少なくとも0.5kb、1kb、1.5kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、又は少なくとも10kbである。他の実施形態では、ホモロジーアームの合計は、約0.5kb〜約1kb、約1kb〜約1.5kb、約1.5kb〜約2kb、約2kb〜約3kb、約3kb〜約4kb、約4kb〜約5kb、約5kb〜約6kb、約6kb〜約7kb、約7kb〜約8kb、約8kb〜約9kb、又は約10kb〜約150kbである。以下で更に詳細に概説されるように、大きな標的化ベクターは、より大きい長さの標的化アームを採用することができる。
【0223】
標的化ベクターの上流及び下流ホモロジーアームに対応する標的化されたゲノム遺伝子座内の標的部位は、選択マーカーをコードするポリヌクレオチド内に位置する「認識部位に十分に近接」して位置する。本明細書で使用される場合、標的化ベクターの上流及び下流ホモロジーアームは、距離が認識部位におけるニック又は二本鎖切断後に標的部位とホモロジーアームとの間の相同組み換え事象の発生を促進するようなものであるとき、認識部位に「十分に近接して位置」する。したがって、特定の実施形態では、標的化ベクターの上流及び/又は下流ホモロジーアームに対応する標的部位は、所与の認識部位の少なくとも10ヌクレオチド〜約14kb以内である。特定の実施形態では、認識部位は、標的部位のうちの少なくとも1つ又は両方に直接隣接する。
【0224】
選択マーカーをコードするポリヌクレオチド内の認識部位に対する、標的化ベクターのホモロジーアームに対応する標的部位の空間的関係は、異なり得る。例えば、両方の標的部位が認識部位に5’に位置し得る、両方の標的部位が認識部位に3’に位置し得る、又は標的部位は、認識部位に隣接し得る。
【0225】
特定の実施形態では、標的ゲノム遺伝子座は、(i)5’ホモロジーアームに相同である5’標的配列と、(ii)3’ホモロジーアームに相同である3’標的配列とを含む。特定の実施形態では、5’標的配列及び3’標的配列は、少なくとも5kbであるが3kb未満、少なくとも5kbであるが10kb未満、少なくとも10kbであるが20kb未満、少なくとも20kbであるが40kb未満、少なくとも40kbであるが60kb未満、少なくとも60kbであるが80kb未満、少なくとも約80kbであるが100kb未満、少なくとも100kbであるが150kb未満、又は少なくとも150kbであるが200kb未満、少なくとも約200kbであるが約300kb未満、少なくとも約300kbであるが約400kb未満、少なくとも約400kbであるが約500kb未満、少なくとも約500kbであるが約1Mb未満、少なくとも約1Mbであるが約1.5Mb未満、少なくとも約1.5Mbであるが約2Mb未満、少なくとも約2Mbであるが約2.5Mb未満、又は少なくとも約2.5Mbであるが約3Mb未満、隔てられる。
【0226】
本明細書で使用される場合、ホモロジーアーム及び標的部位は、2つの領域が互いに対して十分な配列同一性のレベルを共有して、相同組み換え反応のための基質としての役割を果たすとき、互いに「対応する」又は「対応している」。「相同性」とは、対応する配列に対して同一であるか、又は配列同一性を共有するかのいずれかであるDNA配列を意味する。所与の標的部位と標的化ベクター上で見出される対応するホモロジーアームとの間の配列同一性は、相同組み換えが生じることを可能にする任意の程度の配列同一性であってもよい。例えば、標的化ベクターのホモロジーアーム(又はそのフラグメント)及び標的部位(又はそのフラグメント)によって共有される配列同一性の量は、配列が相同組み換えを受けるように、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%配列同一性であってもよい。更に、ホモロジーアームと対応する標的部位との間の相同性の対応領域は、開裂された認識部位における相同組み換えを促進するのに十分である任意の長さであってもよい。例えば、所与のホモロジーアーム及び/又は対応する標的部位は、ホモロジーアームが細胞のゲノム内の対応する標的部位との相同組み換えを受けるのに十分な相同性を有するように、約400bp〜約500bp、約500bp〜約600bp、約600bp〜約700bp、約700bp〜約800bp、約800bp〜約900bp、若しくは約900bp〜約1000bp(本明細書の別の個所で記載されるsmallTVECベクターに関して記載されるもの等)、又は少なくとも約5〜10、5〜15、5〜20、5〜25、5〜30、5〜35、5〜40、5〜45、5〜50、5〜55、5〜60、5〜65、5〜70、5〜75、5〜80、5〜85、5〜90、5〜95、5〜100、100〜200、若しくは200〜300キロベース以上の長さ(本明細書の別の個所で記載されるLTVECベクターに関して記載されるものなど)である相同性の対応領域を含むことができる。
【0227】
参照を容易にするために、ホモロジーアームは、本明細書において上流及び下流ホモロジーアームと称される。この用語は、標的化ベクター内の挿入ポリヌクレオチドに対するホモロジーアームの相対位置に関する。
【0228】
したがって、標的化ベクターのホモロジーアームは、Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を有する、又は困難な標的化された遺伝子座内の標的部位に対応するように設計される。したがって、ホモロジーアームは、細胞に天然であるゲノム遺伝子座に対応することができるか、あるいは、それらは、導入遺伝子、発現カセット、又はゲノムDNAの異種若しくは外因性領域が挙げられるがこれらに限定されない、Y染色体に組み込まれたDNAの異種又は外因性セグメントの領域に対応することができる。あるいは、標的化ベクターのホモロジーアームは、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、ヒト人工染色体の領域、又は適切な宿主細胞中に含有された任意の他の操作されたゲノム領域に対応することができる。なお更に、標的化ベクターのホモロジーアームは、BACライブラリー、コスミドライブラリー、又はP1ファージライブラリーの領域に対応し得るか、又はそれ由来であってもよい。したがって、特定の実施形態では、標的化ベクターのホモロジーアームは、非ヒト哺乳動物、げっ歯類、ヒト、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、シカ、ヒツジ、ヤギ、トリ、ネコ、イヌ、フェレット、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)、家畜哺乳動物若しくは農業用哺乳動物、鳥類、又は任意の他の対象となる生物に天然、異種、又は外因性であるY染色体上のゲノム遺伝子座又は困難な標的遺伝子座に対応する。更なる実施形態では、ホモロジーアームは、従来の方法を使用しては標的化できない細胞のゲノム遺伝子座に対応するか、又はヌクレアーゼ剤によって誘導されたニック又は二本鎖切断の非存在下で、間違ってのみ、若しくは著しく低い効率性でのみ、標的化され得る。一実施形態では、ホモロジーアームは、合成DNA由来である。
【0229】
更に他の実施形態では、上流及び下流ホモロジーアームは、標的化されたゲノムと同じゲノムに対応する。一実施形態では、ホモロジーアームは、関連したゲノム由来であり、例えば、標的化されたゲノムは、第1の系統のマウスゲノムであり、標的化アームは、第2のマウスゲノム由来であり、第1の系統及び第2の系統は異なる。他の実施形態では、ホモロジーアームは、同じ動物のゲノム由来であるか、又は同じ系統のゲノム由来であり、例えば、標的化されたゲノムは、第1の系統のマウスゲノムであり、標的化アームは、同じマウスから、又は同じ系統からのマウスゲノム由来である。
【0230】
標的化ベクター(大きな標的化ベクターなど)はまた、本明細書の別の個所で考察されるように、選択カセット又はレポーター遺伝子を含むことができる。選択カセットは、選択マーカーをコードする核酸配列を含むことができ、核酸配列は、プロモーターに操作可能に連結される。そのようなプロモーターは、誘導性プロモーター、レポーター遺伝子若しくは細胞に内因性であるプロモーター、レポーター遺伝子若しくは細胞に異種であるプロモーター、細胞特異的プロモーター、組織特異的プロモーター様式、又は発達段階特異的プロモーターであってもよい。一実施形態では、選択マーカーは、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo
r)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg
r)、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ(puro
r)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr
r)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、及び単純ウイルスチミジンキナーゼ(HSV−k)、並びにこれらの組み合わせから選択される。標的化ベクターの選択マーカーは、上流及び下流ホモロジーアームが隣接し得るか、又はホモロジーアームに5’若しくは3’のいずれかで見出され得る。
【0231】
一実施形態では、標的化ベクター(大きな標的化ベクターなど)は、プロモーターに操作可能に連結されたレポーター遺伝子を含み、レポーター遺伝子は、LacZ、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J−Red、DsRed、mOrange、mKO、mCitrine、ビーナス、YPet、強化黄色蛍光タンパク質(EYFP)、エメラルド、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)、CyPet、シアン蛍光タンパク質(CFP)、セルリアン、T−サファイア、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるレポータータンパク質をコードする。そのようなレポーター遺伝子は、細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結され得る。そのようなプロモーターは、誘導性プロモーター、レポーター遺伝子若しくは細胞に内因性であるプロモーター、レポーター遺伝子若しくは細胞に異種であるプロモーター、細胞特異的プロモーター、組織特異的プロモーター様式、又は発達段階特異的プロモーターであってもよい。
【0232】
1つの非限定的な実施形態では、クレアーゼ剤との標的化ベクター(例えば、大きな標的化ベクター)の組み合わせた使用は、標的化ベクター単独の使用と比較して標的化の効率性の増加をもたらす。一実施形態では、標的化ベクターがヌクレアーゼ剤と併用されるとき、標的化ベクターの標的化の効率性は、標的化ベクターが単独で使用されるときと比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、又は少なくとも10倍増加する。
【0233】
iii.大きな標的化ベクター
本明細書で使用される場合、用語「大きな標的化ベクター」又は「LTVEC」は、細胞中で相同標的化を実施するよう意図される他のアプローチによって典型的に使用されるものよりも大きい核酸配列に対応し、かつそれら由来である、及び/又は細胞中で相同組み換え標的化を実施するよう意図される他のアプローチによって典型的に使用されるものよりも大きい核酸配列を含む挿入ポリヌクレオチドを含む、ホモロジーアームを含む、大きな標的化ベクターを含む。特定の実施形態では、LTVECのホモロジーアーム及び/又は挿入ポリヌクレオチドは、真核細胞のゲノム配列を含む。LTVECのサイズは、従来のアッセイ、例えば、サザンブロッティング及びロングレンジ(例えば、1kb〜5kb)PCRによって、標的化事象のスクリーニングを可能にするには大きすぎる。LTVECの例としては、細菌人工染色体(BAC)、ヒト人工染色体、又は酵母人工染色体(YAC)由来のベクターが挙げられるがこれらに限定されない。LTVEC及びそれらを作製するための方法の非限定的な例は、例えば、米国特許第6,586,251号、同第6,596,541号、同第7,105,348号、及び国際公開第WO 2002/036789号(PCT/US01/45375)号に記載され、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0234】
LTVECは、少なくとも約10kb、約15kb、約20kb、約30kb、約40kb、約50kb、約60kb、約70kb、約80kb、約90kb、約100kb、約150kb、約200kb、約10kb〜約15kb、約15kb〜約20kb、約20kb〜約30kb、約30kb〜約50kb、約50kb〜約300kb、約50kb〜約75kb、約75kb〜約100kb、約100kb〜125kb、約125kb〜約150kb、約150kb〜約175kb、約175kb〜約200kb、約200kb〜約225kb、約225kb〜約250kb、約250kb〜約275kb、又は約275kb〜約300kbが挙げられるがこれらに限定されない、任意の長さであってもよい。
【0235】
一実施形態では、LTVECは、約5kb〜約200kb、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約30kb、約30kb〜約40kb、約40kb〜約50kb、約60kb〜約70kb、約80kb〜約90kb、約90kb〜約100kb、約100kb〜約110kb、約120kb〜約130kb、約130kb〜約140kb、約140kb〜約150kb、約150kb〜約160kb、約160kb〜約170kb、約170kb〜約180kb、約180kb〜約190kb、又は約190kb〜約200kb、約200kb〜約250kb、約250kb〜約300kb、約300kb〜約350kb、又は約350kb〜約400kbの範囲の挿入ポリヌクレオチドを含む。
【0236】
他の場合において、LTVEC設計は、本明細書に記載されるように、約5kb〜約200kb又は約5kb〜約3.0Mbである所与の配列の置き換えを可能にするようなものであってもよい。一実施形態では、置き換えは、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約30kb、約30kb〜約40kb、約40kb〜約50kb、約50kb〜約60kb、約60kb〜約70kb、約80kb〜約90kb、約90kb〜約100kb、約100kb〜約110kb、約110kb〜約120kb、約120kb〜約130kb、約130kb〜約140kb、約140kb〜約150kb、約150kb〜約160kb、約160kb〜約170kb、約170kb〜約180kb、約180kb〜約190kb、約190kb〜約200kb、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、又は約150kb〜約200kb、約200kb〜約300kb、約300kb〜約400kb、約400kb〜約500kb、約500kb〜約1Mb、約1Mb〜約1.5Mb、約1.5Mb〜約2Mb、約2Mb〜約2.5Mb、又は約2.5Mb〜約3Mbである。
【0237】
一実施形態では、LTVECのホモロジーアームは、BACライブラリー、コスミドライブラリー、又はP1ファージライブラリー由来である。他の実施形態では、ホモロジーアームは、細胞の標的化されたゲノム遺伝子座由来であり、場合によっては、LTVECが標的化するように設計される標的ゲノム遺伝子座は、従来の方法を使用しては標的化できない。更に他の実施形態では、ホモロジーアームは、合成DNA由来である。
【0238】
一実施形態では、LTVEC中の上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームの合計は、少なくとも10kbである。他の実施形態では、上流ホモロジーアームは、約5kb〜約100kbに及ぶ。一実施形態では、下流ホモロジーアームは、約5kb〜約100kbに及ぶ。他の実施形態では、上流及び下流ホモロジーアームの合計は、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約30kb、約30kb〜約40kb、約40kb〜約50kb、約50kb〜約60kb、約60kb〜約70kb、約70kb〜約80kb、約80kb〜約90kb、約90kb〜約100kb、約100kb〜約110kb、約110kb〜約120kb、約120kb〜約130kb、約130kb〜約140kb、約140kb〜約150kb、約150kb〜約160kb、約160kb〜約170kb、約170kb〜約180kb、約180kb〜約190kb、又は約190kb〜約200kbである。一実施形態では、欠失のサイズは、LTVECの5’及び3’ホモロジーアームの合計のサイズと同じ又は同様である。
【0239】
一実施形態では、LTVECは、本明細書の別の個所で考察されるように、選択カセット又はレポーター遺伝子を含む。
【0240】
iv.相同組み換えによってY染色体上の認識部位の近くに挿入ポリヌクレオチドを組み込む方法
細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法が提供され、(a)Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、(b)細胞中に、第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することと、(c)Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む。同様の方法が、困難な染色体遺伝子座を標的化するために実施され得る。本明細書の別の個所で詳細に考察されるように、特定の実施形態では、標的化ベクターの第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームの合計は、約0.5kb、1kb、1.5kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、約0.5kb〜約1kb、約1kb〜約1.5kb、約1.5kb〜約2kb、約2kb〜約3kb、約3kb〜約4kb、約4kb〜約5kb、約5kb〜約6kb、約6kb〜約7kb、約8kb〜約9kbであるか、又は少なくとも10kb若しくは少なくとも10kbかつ150kb未満である。特定の実施形態では、LTVECが採用される。他の特定の実施形態では、smallTVECが採用される。1つの非限定的な実施形態では、そのような方法は、本明細書に開示されるXY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地を採用し、それによりXY F0の繁殖力のある雌動物を生成して実施される。他の場合において、本明細書に記載される方法は、本明細書の別の個所で考察されるように、Sry遺伝子における標的化された遺伝子修飾を生じさせるために採用される。
【0241】
細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法が更に提供され、(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含むY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、(b)細胞中に、(i)ヌクレアーゼ剤であって、第1の認識部位においてニック又は二本鎖切断を誘発するヌクレアーゼ剤、及び(ii)第1の認識部位に十分に近接して位置する第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することと、(c)Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む。同様の方法が、困難な標的遺伝子座を標的化するために実施され得る。本明細書の別の個所で詳細に考察されるように、特定の実施形態では、標的化ベクターの第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームの合計は、約0.5kb、1kb、1.5kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、約0.5kb〜約1kb、約1kb〜約1.5kb、約1.5kb〜約2kb、約2kb〜約3kb、約3kb〜約4kb、約4kb〜約5kb、約5kb〜約6kb、約6kb〜約7kb、約8kb〜約9kbであるか、又は少なくとも10kb若しくは少なくとも10kbかつ150kb未満である。特定の実施形態では、LTVECが採用される。他の特定の実施形態では、smallTVECが採用される。1つの非限定的な実施形態では、そのような方法は、本明細書に開示されるXY F0の繁殖力のある雌の発達を促進する培地を採用し、それによりXY F0の繁殖力のある雌動物を生成して実施される。他の場合において、本明細書に記載される方法は、本明細書の別の個所で考察されるように、Sry遺伝子における標的化された遺伝子修飾を生じさせるために採用される。
【0242】
ゲノム標的遺伝子座において組み込まれた挿入ポリヌクレオチドを有する細胞を特定するために、様々な方法がまた採用され得る。ゲノム標的遺伝子座における挿入ポリヌクレオチドの挿入は、「対立遺伝子の修飾」をもたらす。用語「対立遺伝子の修飾」又は「MOA」は、ゲノム中の遺伝子(複数可)又は染色体遺伝子座(複数又は単数)の1つの対立遺伝子の正確なDNA配列の修飾を含む。「対立遺伝子の修飾(MOA)」の例としては、単一ヌクレオチドほどの小さい欠失、置換、若しくは挿入、又は対象となる遺伝子(複数可)又は染色体遺伝子座(複数又は単数)に及ぶ何キロベースもの欠失、並びにこれらの2つの最末端間のありとあらゆる可能な修飾が挙げられるがこれらに限定されない。
【0243】
様々な実施形態では、標的化された修飾の特定を促進するために、ハイスループット定量的アッセイ、すなわち、対立遺伝子の修飾(MOA)アッセイが採用される。本明細書に記載されるMOAアッセイは、遺伝子修飾後に、親染色体中の修飾された対立遺伝子(複数可)の大規模スクリーニングを可能にする。MOAアッセイは、定量的PCR、例えば、リアルタイムPCR(qPCR)が挙げられるがこれに限定されない、様々な分析技術を介して実施され得る。例えば、リアルタイムPCRは、標的遺伝子座を認識する第1のプライマープローブセットと、標的化されていない基準遺伝子座を認識する第2のプライマープローブセットとを含む。加えて、プライマープローブセットは、増幅配列を認識する蛍光プローブを含む。定量的アッセイはまた、蛍光媒介原位置ハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、等温DNA増幅、固定化プローブ(複数可)への定量的ハイブリダイゼーション、Invader Probes(登録商標)、MMPアッセイ(登録商標)、TaqMan(登録商標)Molecular Beacon、及びEclipse(商標)プローブ技術が挙げられるがこれらに限定されない、様々な分析技術を介して実施され得る。(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国第US2005/0144655号を参照されたい)。
【0244】
様々な実施形態では、ニック又は二本鎖切断の存在下で、標的ゲノム遺伝子座における標的化ベクター(LTVEC又はsmallTVECなど)の標的化の効率性は、ニック又は二本鎖切断の非存在下(例えば、対象となるゲノム遺伝子座において同じ標的化ベクター、並びに同じホモロジーアーム及び対応する標的部位を使用するが、ニック又は二本鎖切断を行う追加されたヌクレアーゼ剤の非存在下)よりも少なくとも約2倍高い、少なくとも約3倍高い、少なくとも約4倍高い。
【0245】
上記の様々な方法は、所与のY染色体上の標的化されたゲノム遺伝子座又は困難な標的遺伝子座への任意の数の挿入ポリヌクレオチドの標的化された組み込みを可能にするために連続的に反復され得る。したがって、これらの様々な方法は、Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座又は困難な標的遺伝子座への少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個、又はそれよりも多くの挿入ポリヌクレオチドの挿入を可能にする。特定の実施形態では、そのような連続的なタイリング方法は、Y染色体上の標的化されたゲノム遺伝子座への、動物細胞又は哺乳類細胞(すなわち、ヒト、非ヒト、げっ歯類、マウス、サル、ラット、ハムスター、家畜哺乳動物、又は農業用動物)からの大きいゲノム領域の再構成を可能にする。そのような場合、コード及び非コード領域の両方を含むゲノム領域の導入及び再構成は、所与の領域の複雑性が、少なくとも部分的に、コード領域、非コード領域、及び天然ゲノム領域内に見出されるコピー数多型を保持することによって維持されることを可能にする。したがって、様々な方法が、例えば、任意の対象となる哺乳類細胞又は哺乳動物内で「異種」又は「外因性」ゲノム領域を生成するための方法を提供する。1つの非限定的な例において、非ヒト動物内の「ヒト化」ゲノム領域が生成される。
【0246】
Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾することと共に、本明細書に開示される様々な方法及び組成物が、別の染色体上の標的化された遺伝子修飾も発生させるために採用され得ることが更に認識される。
【0247】
v.対象となるポリヌクレオチド
任意の対象となるポリヌクレオチドが様々な挿入ポリヌクレオチドに含有され、それにより、Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座又は困難な標的遺伝子座において組み込まれてもよい。本明細書に開示される方法は、少なくとも1、2、3、4、5、6個、又はそれよりも多くの対象となるポリヌクレオチドが、標的化されたゲノム遺伝子座に組み込まれることを可能にする。
【0248】
Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座又は困難な標的遺伝子座において組み込まれるときの挿入ポリヌクレオチド内の対象となるポリヌクレオチドは、細胞中に1つ以上の遺伝子修飾を導入することができる。遺伝子修飾は、内因性核酸配列の欠失、及び/又は標的ゲノム遺伝子座への外因性若しくは異種若しくはオーソロガスポリヌクレオチドの付加を含むことができる。一実施形態では、遺伝子修飾は、標的ゲノム遺伝子座における、内因性核酸配列の、対象となる外因性ポリヌクレオチドとの置き換えを含む。したがって、本明細書に提供される方法は、Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座中のノックアウト、欠失、挿入、置き換え(「ノックイン」)、点突然変異、ドメインスワップ、エクソンスワップ、イントロンスワップ、制御配列スワップ、遺伝子スワップ、又はこれらの組み合わせを含む、遺伝子修飾の発生を可能にする。そのような修飾は、標的ゲノム遺伝子座への第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、又は任意の後続の挿入ポリヌクレオチドの組み込み後に生じてもよい。
【0249】
挿入ポリヌクレオチド内の、及び/若しくは標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドは、それが導入される細胞に天然若しくは相同である配列を含むことができるか、対象となるポリヌクレオチドは、それが導入される細胞に異種であってもよいか、対象となるポリヌクレオチドは、それが導入される細胞に外因性であってもよいか、対象となるポリヌクレオチドは、それが導入される細胞にオーソロガスであってもよいか、又は対象となるポリヌクレオチドは、それが導入される細胞とは異なる種由来であってもよい。本明細書で使用される場合、配列に関連した「相同」は、細胞に天然である配列である。本明細書で使用される場合、配列に関連した「異種」は、外来種に由来するか、又は同じ種由来である場合、意図的な人間の介入によって組成物及び/若しくはゲノム遺伝子座中でその天然の形態から実質的に修飾される配列である。本明細書で使用される場合、配列に関連した「外因性」は、外来種に由来する配列である。本明細書で使用される場合、「オーソロガス」は、別の種における既知の基準配列と機能的に同等である1つの種由来のポリヌクレオチドである(すなわち、種変異体)。対象となるポリヌクレオチドは、非ヒト、げっ歯類、ハムスター、マウス、ラット、ヒト、サル、鳥類、農業用哺乳動物、又は非農業用哺乳動物が挙げられるがこれらに限定されない、任意の対象となる生物由来であってもよい。対象となるポリヌクレオチドは、コード領域、非コード領域、制御領域、又はゲノムDNAを更に含むことができる。したがって、第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、及び/又は後続の任意の挿入ポリヌクレオチドがそのような配列を含むことができる。
【0250】
一実施形態では、挿入ポリヌクレオチド内の、及び/又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドは、マウス核酸配列、ヒト核酸、非ヒト核酸、げっ歯類核酸、ラット核酸、ハムスター核酸、サル核酸、農業用哺乳動物核酸、又は非農業用哺乳動物核酸に相同である。なお更なる実施形態では、標的遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドは、ゲノム核酸のフラグメントである。一実施形態では、ゲノム核酸は、マウスゲノム核酸、ヒトゲノム核酸、非ヒト核酸、げっ歯類核酸、ラット核酸、ハムスター核酸、サル核酸、農業用哺乳動物核酸、若しくは非農業用哺乳動物核酸、又はこれらの組み合わせである。
【0251】
一実施形態では、対象となるポリヌクレオチドは、上記のように、約500ヌクレオチド〜約200kbに及ぶことができる。対象となるポリヌクレオチドは、約500ヌクレオチド〜約5kb、約5kb〜約200kb、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約30kb、約30kb〜約40kb、約40kb〜約50kb、約60kb〜約70kb、約80kb〜約90kb、約90kb〜約100kb、約100kb〜約110kb、約120kb〜約130kb、約130kb〜約140kb、約140kb〜約150kb、約150kb〜約160kb、約160kb〜約170kb、約170kb〜約180kb、約180kb〜約190kb、又は約190kb〜約200kbであってもよい。
【0252】
挿入ポリヌクレオチド内の、及び/若しくはY染色体上の標的ゲノム遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座において挿入された対象となるポリヌクレオチドは、ポリペプチドをコードすることができ、miRNAをコードすることができ、長い非コードRNAをコードすることができるか、あるいはそれは、例えば、制御配列、プロモーター配列、エンハンサー配列、転写抑制因子結合配列を含む、任意の対象となる制御領域若しくは非コード領域、又は非タンパク質コード配列の欠失を含むことができるが、タンパク質コード配列の欠失を含まない。加えて、挿入ポリヌクレオチド内の、及び/又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座において挿入された対象となるポリヌクレオチドは、神経系、骨格系、消化器系、循環系、筋肉系、呼吸器系、心臓血管系、リンパ系、内分泌系、泌尿器系、生殖器系、又はこれらの組み合わせにおいて発現されるタンパク質をコードすることができる。
【0253】
挿入ポリヌクレオチド内の、及び/又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドは、コード配列中の遺伝子修飾を含むことができる。そのような遺伝子修飾としては、コード配列の欠失突然変異又は2つのコード配列の融合が挙げられるがこれらに限定されない。
【0254】
挿入ポリヌクレオチド内の、及び/又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドは、変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むことができる。一実施形態では、変異タンパク質は、改変した結合特徴、改変した局所化、改変した発現、及び/又は改変した発現パターンを特徴とする。一実施形態では、挿入ポリヌクレオチド内の、及び/又はY染色体上のゲノム標的遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドは、少なくとも1つの疾病対立遺伝子を含む。そのような場合、疾病対立遺伝子は、優性対立遺伝子であってもよく、又は疾病対立遺伝子は、劣性対立遺伝子である。更に、疾病対立遺伝子は、一塩基多型(SNP)対立遺伝子を含むことができる。変異タンパク質をコードする対象となるポリヌクレオチドは、変異タンパク質をコードする哺乳動物、非ヒト哺乳動物、げっ歯類、マウス、ラット、ヒト、サル、農業用哺乳動物、又は家畜哺乳動物ポリヌクレオチドが挙げられるがこれらに限定されない、任意の生物由来であってもよい。
【0255】
挿入ポリヌクレオチド内の、及び/又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドはまた、例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、転写抑制因子結合配列、又は転写終結因子配列を含む、制御配列を含むことができる。特定の実施形態では、挿入ポリヌクレオチド内の、及び/又はY染色体上の標的ゲノム遺伝子座若しくは困難な標的遺伝子座において組み込まれた対象となるポリヌクレオチドは、非タンパク質コード配列の欠失を有するポリヌクレオチドを含むが、タンパク質コード配列の欠失を含まない。一実施形態では、非タンパク質コード配列の欠失は、制御配列の欠失を含む。別の実施形態では、制御要素の欠失は、プロモーター配列の欠失を含む。一実施形態では、制御要素の欠失は、エンハンサー配列の欠失を含む。そのような対象となるポリヌクレオチドは、変異タンパク質をコードする哺乳動物、非ヒト哺乳動物、げっ歯類、マウス、ラット、ヒト、サル、農業用哺乳動物、又は家畜哺乳動物ポリヌクレオチドが挙げられるがこれらに限定されない、任意の生物由来であってもよい。
【0256】
本明細書に開示される様々な方法が、困難なゲノム遺伝子座又はY染色体遺伝子座(Sryなど)における様々な修飾を発生させるために採用され得る。そのような修飾としては、例えば、内因性核酸配列の、相同若しくはオーソロガス核酸配列との置き換え、内因性核酸配列の欠失、又は内因性核酸配列(欠失は、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、約150kb〜約200kb、約200kb〜約300kb、約300kb〜約400kb、約400kb〜約500kb、約500kb〜約600kb、約600kb〜約700kb、約700kb〜約800kb、約800kb〜約900kb、約900kb〜約1Mb、約500kb〜約1Mb、約1Mb〜約1.5Mb、約1.5Mb〜約2Mb、約2Mb〜約2.5Mb、若しくは約2.5Mb〜約3Mbに及ぶ)、外因性核酸配列の挿入、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、約150kb〜約200kb、約200kb〜約250kb、約250kb〜約300kb、約300kb〜約350kb、若しくは約350kb〜約400kbに及ぶ外因性核酸配列の挿入、相同若しくはオーソロガス核酸配列を含む外因性核酸配列の挿入、ヒト及び非ヒト核酸配列を含むキメラ核酸配列の挿入、部位特異的リコンビナーゼ標的配列が隣接した条件付き対立遺伝子の挿入、哺乳類細胞中で活性な第3のプロモーターに操作可能に連結された選択可能なマーカー若しくはレポーター遺伝子の挿入、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0257】
III.配列の導入及びトランスジェニック動物の生成方法
上記で概説されたように、Y染色体上に位置する、困難な標的遺伝子座における対象となる1つ以上のポリヌクレオチドの標的化された遺伝子修飾、又はSryタンパク質のレベル及び/若しくは活性の減少を可能にするための方法及び組成物が、本明細書に提供される。Y染色体又は困難な標的染色体遺伝子座上の配列への標的化された遺伝子修飾に加えて、追加の標的化された遺伝子修飾が他の染色体に行われ得ることが更に認識される。これらの標的化された遺伝子修飾を可能にするそのような系は、様々な構成成分を採用することができ、参照を容易にするために、本明細書において、用語「標的化されたゲノム組み込み系」は、一般的に、組み込み事象のために必要とされる全ての構成成分を含む(すなわち、様々なヌクレアーゼ剤、認識部位、挿入DNAポリヌクレオチド、標的化ベクター、標的ゲノム遺伝子座、及び対象となるポリヌクレオチド)。
【0258】
本明細書に提供される方法は、細胞中に、標的化されたゲノム組み込み系の様々な構成成分を含む1つ以上のポリヌクレオチド又はポリペプチド構築物を導入することを含む。「導入すること」は、配列が細胞の内部に接近するような様式で、細胞に配列(ポリペプチド又はポリヌクレオチド)を提示することを意味する。本明細書に提供される方法は、ポリヌクレオチドが少なくとも1つの細胞の内部に接近する限り、細胞中に標的化されたゲノム組み込み系の任意の構成成分を導入するための特定の方法に依存しない。様々な細胞型にポリヌクレオチドを導入するための方法は、当該技術分野において既知であり、安定トランスフェクション方法、一過性トランスフェクション方法、及びウイルス媒介性方法が挙げられるがこれらに限定されない。
【0259】
いくつかの実施形態では、方法及び組成物で採用される細胞は、それらのゲノムに安定的に組み込まれたDNA構築物を有する。「安定的に組み込まれた」又は「安定的に導入された」は、ヌクレオチド配列が細胞のゲノムに組み込み、その子孫によって遺伝されるような、細胞中へのポリヌクレオチドの導入を意味する。DNA構築物又は標的化されたゲノム組み込み系の様々な構成成分の安定的な組み込みのために、任意のプロトコルが使用されてもよい。
【0260】
トランスフェクションプロトコル並びに細胞中にポリペプチド又はポリヌクレオチド配列を導入するためのプロトコルは、異なり得る。非限定なトランスフェクション方法としては、化学系トランスフェクション方法が挙げられ、リポソーム、ナノ粒子、リン酸カルシウム(Graham et al.(1973).Virology 52(2):456〜67、Bacchetti et al.(1977)Proc Natl Acad Sci USA 74(4):1590〜4、及びKriegler,M(1991).Transfer and Expression:A Laboratory Manual.New York:W.H.Freeman and Company.pp.96〜97)、デンドリマー、又はDEAEデキストラン若しくはポリエチレンイミンなどの陽イオンポリマーの使用を含む。非化学的方法としては、エレクトロポレーション、ソノポレーション、及び光学トランスフェクションが挙げられる。粒子系トランスフェクションとしては、遺伝子銃、磁性補助トランスフェクション(Bertram,J.(2006)Current Pharmaceutical Biotechnology 7,277〜28)が挙げられる。ウイルス方法もまた、トランスフェクションのために使用され得る。
【0261】
一実施形態では、ヌクレアーゼ剤は、標的化ベクター、smallTVEC、又は大きな標的化ベクター(LTVEC)と同時に細胞に導入される。あるいは、ヌクレアーゼ剤は、ある期間にわたって、標的化ベクター、smallTVEC、又はLTVECとは別に導入される。一実施形態では、ヌクレアーゼ剤が標的化ベクター、smallTVEC、又はLTVECの導入の前に導入される一方で、他の実施形態では、ヌクレアーゼ剤は、標的化ベクター、smallTVEC、又はLTVECの導入後に導入される。
【0262】
非ヒト動物は、本明細書に開示される様々な方法を採用して生成され得る。そのような方法は、(1)本明細書に開示される方法を採用して、非ヒト動物の多能性細胞のY染色体の標的化されたゲノム遺伝子座において1つ以上の対象となるポリヌクレオチドを組み込んで、Y染色体の標的化されたゲノム遺伝子座中に挿入ポリヌクレオチドを含む遺伝学的に修飾された多能性細胞を生成することと、(2)Y染色体の標的ゲノム遺伝子座において対象となる1つ以上のポリヌクレオチドを有する遺伝学的に修飾された多能性細胞を選択することと、(3)桑実期前において、非ヒト動物の宿主胚内に遺伝学的に修飾された多能性細胞を導入することと、(4)代理母内に、遺伝学的に修飾された多能性細胞を含む宿主胚を移植して、遺伝学的に修飾された多能性細胞由来のF0世代を生成することとを含む。同様の方法が、困難な標的染色体遺伝子座を標的化するために採用され得る。非ヒト動物は、非ヒト哺乳動物、げっ歯類、マウス、ラット、ハムスター、サル、農業用哺乳動物若しくは家畜哺乳動物、又は魚類又は鳥類であってもよい。
【0263】
多能性細胞は、ヒトES細胞、非ヒトES細胞、げっ歯類ES細胞、マウスES細胞、ラットES細胞、ハムスターES細胞、サルES細胞、農業用哺乳動物ES細胞、又は家畜哺乳動物ES細胞であってもよい。他の実施形態では、多能性細胞は、哺乳類細胞、ヒト細胞、非ヒト哺乳類細胞、ヒト多能性細胞、ヒトES細胞、ヒト成体幹細胞、発達制限されたヒト前駆細胞、ヒトiPS細胞、ヒト細胞、げっ歯類細胞、ラット細胞、マウス細胞、ハムスター細胞である。一実施形態では、標的化された遺伝子修飾は、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる。そのような場合、多能性細胞は、XY ES細胞又はXY iPS細胞を含むことができる。そのような細胞を培養して、F0の繁殖力のあるXY雌動物の発達を促進する方法は、本明細書の別の個所で詳述される。
【0264】
核移植技術もまた、非ヒト哺乳動物を生成するために使用され得る。簡潔に述べると、核移植のための方法は、(1)卵母細胞を除核する工程と、(2)除核卵母細胞と組み合わせるために、ドナー細胞又は核を単離する工程と、(3)細胞又は核を除核卵母細胞に挿入して、再構成細胞を形成する工程と、(4)再構成細胞を動物の子宮に移植して、胚を形成する工程と、(5)胚を発達させる工程とを含む。そのような方法において、卵母細胞は、概して、死亡動物から回収されるが、それらは、生存動物の卵管及び/又は卵巣のいずれかからも単離され得る。卵母細胞は、除核前に当業者に既知の様々な培地中で成熟させられ得る。卵母細胞の除核は、当業者に周知の多くの方法で実施され得る。再構成細胞を形成するための除核卵母細胞へのドナー細胞又は核の挿入は、通常、融合前の透明帯下でのドナー細胞の微量注射による。融合は、接触/融合面(電気融合)にわたるDC電気パルスの印加によって、ポリエチレングリコールなどの融合促進化学物質への細胞の曝露によって、又はセンダイウイルスなどの不活性化ウイルスによって誘発されてもよい。再構成細胞は、典型的には、核ドナー及びレシピエント卵母細胞の融合前、中、及び/又は後に、電気及び/又は非電気手段によって活性化される。活性化方法としては、電気パルス、化学誘導ショック、精子による侵入、卵母細胞内の二価陽イオンのレベルの増加、及び卵母細胞内の(キナーゼ阻害剤などによる)細胞タンパク質のリン酸化の低減が挙げられる。活性化された再構成細胞又は胚は、典型的には、当業者に周知の培地中で培養され、次いで、動物の子宮に移される。例えば、米国第20080092249号、国際公開第WO/1999/005266A2号、米国第20040177390号、国際公開第WO/2008/017234A1号、及び米国特許第7,612,250号を参照されたく、これらのそれぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0265】
その生殖系列中に本明細書に記載されるような1つ以上の遺伝子修飾を含む非ヒト動物を作製するための他の方法が提供され、(a)本明細書に記載される様々な方法を採用して、原核細胞中の非ヒト動物のY染色体上の標的化されたゲノム遺伝子座を修飾することと、(b)標的化されたゲノム遺伝子座における遺伝子修飾を含む修飾された原核細胞を選択することと、(c)修飾された原核細胞のゲノムから遺伝子修飾された標的化ベクターを単離することと、(d)非ヒト動物の多能性細胞中に、遺伝子修飾された標的化ベクターを導入して、Y染色体の標的化されたゲノム遺伝子座において挿入核酸を含む遺伝学的に修飾された多能性細胞を生成することと、(e)遺伝学的に修飾された多能性細胞を選択することと、(f)桑実期前において、非ヒト動物の宿主胚内に遺伝学的に修飾された多能性細胞を導入することと、(g)代理母内に、遺伝学的に修飾された多能性細胞を含む宿主胚を移植して、遺伝学的に修飾された多能性細胞由来のF0世代を生成することとを含む。そのような方法では、標的化ベクターは、大きな標的化ベクター又はsmallTVECを含むことができる。同様の方法が、困難な標的遺伝子座を標的化するために採用され得る。非ヒト動物は、非ヒト哺乳動物、げっ歯類、マウス、ラット、ハムスター、サル、農業用哺乳動物、又は家畜哺乳動物であってもよい。多能性細胞は、ヒトES細胞、非ヒトES細胞、げっ歯類ES細胞、マウスES細胞、ラットES細胞、ハムスターES細胞、サルES細胞、農業用哺乳動物ES細胞、又は家畜哺乳動物ES細胞であってもよい。他の実施形態では、多能性細胞は、哺乳類細胞、ヒト細胞、非ヒト哺乳類細胞、ヒト多能性細胞、ヒトES細胞、ヒト成体幹細胞、発達制限されたヒト前駆細胞、ヒトiPS細胞、ヒト細胞、げっ歯類細胞、ラット細胞、マウス細胞、ハムスター細胞である。一実施形態では、標的化された遺伝子修飾は、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる。そのような場合、多能性細胞は、XY ES細胞又はXY iPS細胞を含むことができる。そのような細胞を培養して、F0の繁殖力のあるXY雌動物の発達を促進する方法は、本明細書の別の個所で詳述される。
【0266】
更なる方法では、単離工程(c)は、(c1)遺伝子修飾された標的化ベクター(すなわち、遺伝子修飾されたLTVEC)を線形化することを更に含む。なお更なる実施形態では、導入工程(d)は、(d1)多能性細胞中に、本明細書に記載されるようなヌクレアーゼ剤を導入することを更に含む。一実施形態では、選択工程(b)及び/又は(e)は、原核細胞又は多能性細胞に、本明細書に記載されるような選択可能な薬剤を適用することによって実施される。一実施形態では、選択工程(b)及び/又は(e)は、本明細書に記載されるような対立遺伝子の修飾(MOA)アッセイを介して実施される。
【0267】
原核細胞中の細菌相同組み換え(BHR)を介して、動物細胞の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための更なる方法が提供され、(a)Y染色体の標的ゲノム遺伝子座を含む原核細胞を提供することと、(b)原核細胞中に、第1の上流ホモロジーアーム及び第1の下流ホモロジーアームが隣接した挿入ポリヌクレオチドを含む標的化ベクター(上記のような)を導入することであって、挿入ポリヌクレオチドは、哺乳類ゲノム領域を含む、導入することと、原核細胞中に、第1の認識部位において、又はその近くでニック又は二本鎖切断を行うヌクレアーゼ剤を導入することと、(c)染色体の標的ゲノム遺伝子座において挿入ポリヌクレオチドを含む標的化された原核細胞を選択することであって、原核細胞は、BHRを仲介するリコンビナーゼを発現させることが可能である、選択することとを含む。同様の方法が、困難な標的遺伝子座を標的化するために採用され得る。工程(a)〜(c)は、本明細書に開示されるように連続的に反復されて、原核細胞中の標的化されたゲノム遺伝子座における複数の挿入ポリヌクレオチドの導入を可能にすることができる。いったん標的化されたゲノム遺伝子座が原核細胞で「構築される」と、Y染色体の修飾された標的ゲノム遺伝子座を含む標的化ベクターは、原核細胞から単離され、哺乳類細胞内のY染色体の標的ゲノム遺伝子座に導入され得る。Y染色体の修飾されたゲノム遺伝子座を含む哺乳類細胞は、次いで、非ヒトトランスジェニック動物にされ得る。
【0268】
原核細胞中の細菌相同組み換え(BHR)を介して、動物細胞の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための更なる方法が提供され、(a)Y染色体の標的ゲノム遺伝子座を含む原核細胞を提供することと、(b)原核細胞中に、第1の上流ホモロジーアーム及び第1の下流ホモロジーアームが隣接した挿入ポリヌクレオチドを含む標的化ベクター(上記のような)を導入することであって、挿入ポリヌクレオチドは、哺乳類ゲノム領域を含む、導入することと、(c)染色体の標的ゲノム遺伝子座において挿入ポリヌクレオチドを含む標的化された原核細胞を選択することであって、原核細胞は、BHRを仲介するリコンビナーゼを発現させることが可能である、選択することと、を含む。同様の方法が、困難な標的遺伝子座を標的化するために採用され得る。工程(a)〜(c)は、本明細書に開示されるように連続的に反復されて、原核細胞中の標的化されたゲノム遺伝子座における複数の挿入ポリヌクレオチドの導入を可能にすることができる。いったん標的化されたゲノム遺伝子座が原核細胞で「構築される」と、Y染色体の修飾された標的ゲノム遺伝子座を含む標的化ベクターは、原核細胞から単離され、哺乳類細胞内のY染色体の標的ゲノム遺伝子座に導入され得る。Y染色体の修飾されたゲノム遺伝子座を含む哺乳類細胞は、次いで、非ヒトトランスジェニック動物にされ得る。
【0269】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される標的ゲノム遺伝子座の様々な遺伝子修飾は、VELOCIGENE(登録商標)遺伝子工学技術を使用した、細菌人工染色体(BAC)DNA由来のLTVECを使用した、細菌細胞中の一連の相同組み換え反応(BHR)によって実施され得る(例えば、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,586,251号及びValenzuela,D.M.et al.(2003),High−throughput engineering of the mouse genome coupled with high−resolution expression analysis,Nature Biotechnology 21(6):652〜659を参照されたい)。
【0270】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような様々な遺伝子修飾を含む、標的化されたXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、X YES細胞又はXY iPS細胞)は、挿入ドナー細胞として使用され、VELOCIMOUSE(登録商標)方法を介して、対応する生物からの桑実期前の胚、例えば、8細胞期マウス胚に導入される(例えば、それらの全てが参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる、米国第7,576,259号、同第7,659,442号、同第7,294,754号、及び同第2008−0078000 A1を参照されたい)。遺伝子修飾されたXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、XY ES細胞又はXY iPS細胞)を含む非ヒト動物胚は、胚盤胞期までインキュベートされ、次いで、代理母に移植されて、F0動物を生み出す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような様々な遺伝子修飾を含む標的化された哺乳類ES細胞は、胚盤胞期の胚内に導入される。Y染色体の遺伝子修飾されたゲノム遺伝子座を有する非ヒト動物は、本明細書に記載されるように、対立遺伝子の修飾(MOA)を介して特定され得る。遺伝子修飾されたXY多能性及び/又は全能性細胞(すなわち、X YES細胞又はXY iPS細胞)由来の得られたF0世代の非ヒト動物は、野生型非ヒト動物と交配させられて、F1世代の子孫を得る。特異的なプライマー及び/又はプローブを用いた遺伝子型決定後に、遺伝子修飾されたゲノム遺伝子座に関してヘテロ接合性であるF1の非ヒト動物は、互いと交配させられて、Y染色体の遺伝子修飾されたゲノム遺伝子座に関して、又は遺伝子修飾された困難な標的遺伝子座に関してホモ接合性であるF2世代の非ヒト動物子孫を生み出す。
【0271】
IV.細胞及び発現カセット
本明細書に記載される様々な方法は、Y染色体に対して、又は細胞中の困難な標的遺伝子座に対して、ゲノム遺伝子座標的化系を採用する。そのような細胞としては、大腸菌を含む細菌細胞などの原核細胞、又は酵母、昆虫、両生類、植物などの真核細胞、又はマウス細胞、ラット細胞、ウサギ細胞、ブタ細胞、ウシ細胞、シカ細胞、ヒツジ細胞、ヤギ細胞、トリ細胞、ネコ細胞、イヌ細胞、フェレット細胞、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)細胞などが挙げられるがこれらに限定されない哺乳類細胞、及び家畜哺乳動物からの細胞、若しくは農業用哺乳動物からの細胞が挙げられる。いくつかの細胞は、非ヒト、特に、非ヒト哺乳類細胞である。いくつかの実施形態では、好適な遺伝学的に修飾可能な多能性細胞が容易に入手可能ではない哺乳動物に対して、例えば、Oct3/4、Sox2、KLF4、Myc、Nanog、LIN28、及びGlis1が挙げられるがこれらに限定されない、多能性誘導因子の組み合わせの体細胞への導入を介して、体細胞を多能性細胞に再プログラミングするために、他の方法が採用される。そのような方法では、細胞はまた、哺乳類細胞、ヒト細胞、非ヒト哺乳類細胞、非ヒト細胞、げっ歯類、ラット、マウス、ハムスターからの細胞、線維芽細胞、又は任意の他の宿主細胞であってもよい。他の実施形態では、細胞は、多能性細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、非ヒト胚性幹(ES)細胞である。そのような細胞としては、例えば、人工多能性幹(iPS)細胞を含む多能性細胞、マウス胚性幹(ES)細胞、ラット胚性幹(ES)細胞、ヒト胚(ES)細胞、又は発達制限されたヒト前駆細胞、げっ歯類胚性幹(ES)細胞、マウス胚性幹(ES)細胞、若しくはラット胚性幹(ES)細胞が挙げられる。
【0272】
用語「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」、及び「核酸フラグメント」は、本明細書において互換的に使用される。これらの用語は、ヌクレオチド配列などを包含する。ポリヌクレオチドは、合成、非天然、又は改変ヌクレオチド塩基を任意に含有する一本鎖又は二本鎖である、RNA又はDNAのポリマーであってもよい。DNAのポリマーの形態のポリヌクレオチドは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、又はこれらの混合物の1つ以上のセグメントからなってもよい。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドを含むことができ、リボヌクレオチドは、自然発生的な分子及び合成類似体の両方、並びにこれらの任意の組み合わせを含む。本明細書に提供されるポリヌクレオチドはまた、一本鎖形態、二本鎖形態、ヘアピン、ステム・ループ構造などが挙げられるがこれらに限定されない、全ての形態の配列を包含する。
【0273】
組み換えポリヌクレオチドが更に提供される。用語「組み換えポリヌクレオチド」及び「組み換えDNA構築物」は、本明細書において互換的に使用される。組み換え構築物は、核酸配列の人工又は異種の組み合わせ、例えば、自然界で一緒に見出されない制御配列及びコード配列を含む。他の実施形態では、組み換え構築物は、異なる源由来である制御配列及びコード配列、又は同じ源由来であるが、自然界で見出されるものとは異なる様式で配列された制御配列及びコード配列を含んでもよい。そのような構築物は、それ自体で使用されてもよく、又はベクターと併用されてもよい。ベクターが使用される場合、ベクターの選択は、当業者に周知であるような宿主細胞を変換するために使用される方法によって決まる。例えば、プラスミドベクターが使用され得る。スクリーニングは、とりわけ、DNAのサザン解析、mRNA発現のノザン解析、タンパク質発現の免疫ブロット解析、又は表現型解析によって達成されてもよい。
【0274】
特定の実施形態では、本明細書に記載される構成成分のうちの1つ以上は、多能性及び/又は全能性細胞中の発現のための発現カセット中に提供され得る。カセットは、本明細書に提供されるポリヌクレオチドに操作可能に連結された5’及び3’制御配列を含むことができる。「操作可能に連結された」は、2つ以上の要素間の機能的連結を意味する。例えば、対象となるポリヌクレオチドと制御配列(すなわち、プロモーター)との間の操作可能な連結は、対象となるポリヌクレオチドの発現を可能にする機能的な連結である。操作可能に連結された要素は、隣接していてもよく、又は隣接していなくてもよい。2つのタンパク質コード領域の結合に言及するために使用されるとき、「操作可能に連結された」は、コード領域が同じリーディングフレームにあることを意味する。別の場合において、タンパク質をコードする核酸配列は、適切な転写制御を保持するために、制御配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列など)に操作可能に連結されてもよい。カセットは、ES細胞中に共導入される少なくとも1つの追加の対象となるポリヌクレオチドを更に含有してもよい。あるいは、追加の対象となるポリヌクレオチドが、複数の発現カセット上に提供され得る。そのような発現カセットは、組み換えポリヌクレオチドの挿入が制御領域の転写制御下にあるための複数の制限部位及び/又は組み換え部位が提供される。発現カセットは、選択マーカー遺伝子を更に含有してもよい。
【0275】
発現カセットは、転写の5’−3’方向に、転写及び翻訳開始領域(すなわち、プロモーター)、本明細書に提供される組み換えポリヌクレオチド、並びに対象となる哺乳類細胞又は宿主細胞中で機能的な転写及び翻訳終止領域(すなわち、終止領域)を含むことができる。制御領域(すなわち、プロモーター、転写制御領域、並びに転写及び翻訳終止領域)、並びに/又は本明細書に提供されるポリヌクレオチドは、宿主細胞又は互いに天然/類似であってもよい。あるいは、制御領域及び/又は本明細書に提供されるポリヌクレオチドは、宿主細胞又は互いに異種であってもよい。例えば、異種ポリヌクレオチドに操作可能に連結されたプロモーターは、ポリヌクレオチドが由来した種とは異なる種由来であるか、又は同じ/類似の種由来の場合、一方又は両方は、それらの元の形態及び/若しくはゲノム遺伝子座から実質的に修飾されるか、又はプロモーターは、操作可能に連結されたポリヌクレオチドのための天然プロモーターではない。あるいは、制御領域及び/又は本明細書に提供される組み換えポリヌクレオチドは、完全に合成であってもよい。
【0276】
終止領域は、転写開始領域と共に天然であってもよく、操作可能に連結された組み換えポリヌクレオチドと共に天然であってもよく、宿主細胞と共に天然であってもよく、又はプロモーター、組み換えポリヌクレオチド、宿主細胞、若しくはこれらの組み合わせに対して別の源由来(すなわち、異質若しくは異種)であってもよい。
【0277】
発現カセットの調製において、適切な配向でDNA配列を提供するために、様々なDNAフラグメントが操作されてもよい。この目的で、アダプター若しくはリンカーがDNAフラグメントを結合するために採用されてもよく、又は好都合な制限部位、不必要なDNAの除去、制限部位の除去などを提供するために、他の操作が関与してもよい。この目的で、インビトロ突然変異誘発、プライマー修復、制限、アニーリング、再置換、例えば、転位及び転換が関与してもよい。
【0278】
多くのプロモーターが、本明細書に提供される発現カセット中で使用され得る。プロモーターは、所望の結果に基づき選択され得る。対象となるポリヌクレオチドのタイミング、位置、及び/又は発現レベルを調節するために、発現カセット中の異なるプロモーターの使用によって、異なる適用が強化され得ることが認識される。そのような発現構築物はまた、必要に応じて、プロモーター制御領域(例えば、誘導性、構成的、環境若しくは発達制御、又は細胞若しくは組織特異的/選択的発現を与えるもの)、転写開始起始部位、リボソーム結合部位、RNA処理シグナル、転写終止部位、及び/又はポリアデニル化シグナルを含有してもよい。
【0279】
非限定的な実施形態は以下を含む。
1.
(a)Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有する非ヒト哺乳類XY胚性幹(ES)細胞と、
(b)該非ヒト哺乳類ES細胞を培養物中で維持するのに好適な基本培地及び補充物を含む培地であって、以下の特徴、すなわち約200mOsm/kg〜約329mOsm/kg未満の浸透圧、約11mS/cm〜約13mS/cmの導電率、約50mM〜約110mMの濃度のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩、約17mM〜約30mMの炭酸塩濃度、約85mM〜約130mMのアルカリ金属ハロゲン化物塩及び炭酸塩の総計濃度、並びに/又はこれらの任意の2つ以上の組み合わせのうちの1つ以上を示す、培地と、を含む、xインビトロ培養物。
2.該非ヒト哺乳類XY ES細胞がげっ歯類由来である、請求項1に記載のインビトロ培養物。
3.該げっ歯類がマウスである、請求項2に記載のインビトロ培養物。
4.該マウスXY ES細胞がVGF1マウスES細胞である、実施形態3に記載のインビトロ培養物。
5.該げっ歯類がラット又はハムスターである、実施形態2に記載のインビトロ培養物。
6.該Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の該減少が、該Sry遺伝子中の遺伝子修飾による、実施形態1〜5のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
7.該Sry遺伝子中の該遺伝子修飾が、1つ以上のヌクレオチドの挿入、1つ以上のヌクレオチドの欠失、1つ以上のヌクレオチドの置換、ノックアウト、ノックイン、内因性核酸配列の異種核酸配列との置き換え、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態6に記載のインビトロ培養物。
8.該非ヒト哺乳類ES細胞が、1つ、2つ、3つ、又はそれよりも多くの標的化された遺伝子修飾を含む、実施形態1〜7のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
9.該標的化された遺伝子修飾が、挿入、欠失、ノックアウト、ノックイン、点突然変異、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態8に記載のインビトロ培養物。
10.該標的化された遺伝子修飾が、XY ES細胞のゲノム中への異種ポリヌクレオチドの少なくとも1つの挿入を含む、実施形態8に記載のインビトロ培養物。
11.該標的化された遺伝子修飾が、常染色体上にある、実施形態8〜10のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
12.該基本培地が、50±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、及び218±22mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
13.該基本培地が、約3mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び218mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
14.該基本培地が、87±5mMのNaCl、18±5mMの炭酸塩、及び261±26mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
15.該基本培地が、約5.1mg/mLのNaCl、1.5mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び261mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
16.該基本培地が、110±5mMのNaCl、18±5mMの炭酸塩、及び294±29mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
17.該基本培地が、約6.4mg/mLのNaCl、1.5mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び294mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
18.該基本培地が、87±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、及び270±27mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
19.該基本培地が、約5.1mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び270mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
20.該基本培地が、87±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、86±5mMのグルコース、及び322±32mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
21.該基本培地が、約5.1mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、15.5mg/mLのグルコース、及び322mOsm/kgを示す、実施形態1〜11のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
22.宿主胚内への該非ヒト哺乳類XY ES細胞の導入及び続く該宿主胚の懐胎後に、該F0非ヒト哺乳動物の少なくとも80%がXY雌であり、性成熟に達すると、該F0 XY雌非ヒト哺乳動物が繁殖力を持つ、実施形態1〜21のいずれか1つに記載のインビトロ培養物。
23.F0世代における繁殖力のある雌XY非ヒト哺乳動物を作製するための方法であって、
(a)非ヒト哺乳類ES細胞を培養物中で維持するのに好適な基本培地及び補充物を含む培地中で、Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を有するドナー非ヒト哺乳類XY胚性幹(ES)細胞を培養することであって、該培地が、以下のうちの1つ以上を含む特徴、すなわち約200mOsm/kg〜約329mOsm/kg未満の浸透圧、約11mS/cm〜約13mS/cmの導電率、約50mM〜約110mMの濃度のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩、約17mM〜約30mMの炭酸塩濃度、約85mM〜約130mMのアルカリ金属ハロゲン化物塩及び炭酸塩の総計濃度、並びに/又はこれらの任意の2つ以上の組み合わせを示す、培養することと、
(b)該ドナーXY非ヒト哺乳類ES細胞を宿主胚内に導入することと、
(c)該宿主胚を懐胎させることと、
(d)F0 XY雌非ヒト哺乳動物を得ることと、を含み、性成熟に達すると、該F0 XY雌非ヒト哺乳動物が繁殖力を持つ、方法。
24.該非ヒト哺乳類XY ES細胞がげっ歯類由来である、実施形態23に記載の方法。
25.該げっ歯類がマウスである、実施形態24に記載の方法。
26.該マウスXY ES細胞がVGF1マウスES細胞である、実施形態25に記載の方法。
27.該げっ歯類がラット又はハムスターである、実施形態24に記載の方法。
28.該Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の該減少が、該Sry遺伝子中の遺伝子修飾による、実施形態23〜27のいずれか1つに記載の方法。
29.該Sry遺伝子中の該遺伝子修飾が、1つ以上のヌクレオチドの挿入、1つ以上のヌクレオチドの欠失、1つ以上のヌクレオチドの置換、ノックアウト、ノックイン、内因性核酸配列の異種核酸配列との置き換え、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態28の方法。
30.該非ヒト哺乳類ES細胞が、1つ、2つ、3つ、又はそれよりも多くの標的化された遺伝子修飾を含む、実施形態23〜29のいずれか1つに記載の方法。
31.該標的化された遺伝子修飾が、挿入、欠失、ノックアウト、ノックイン、点突然変異、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態30に記載の方法。
32.該標的化された遺伝子修飾が、該XY ES細胞のゲノム中への異種ポリヌクレオチドの少なくとも1つの挿入を含む、実施形態30に記載の方法。
33.該標的化された遺伝子修飾が常染色体上にある、実施形態30〜32のいずれか1つに記載の方法。
34.該基本培地が、50±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、及び218±22mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
35.該基本培地が、約3mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び218mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
36.該基本培地が、87±5mMのNaCl、18±5mMの炭酸塩、及び261±26mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
37.該基本培地が、約5.1mg/mLのNaCl、1.5mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び261mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
38.該基本培地が、110±5mMのNaCl、18±5mMの炭酸塩、及び294±29mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
39.該基本培地が、約6.4mg/mLのNaCl、1.5mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び294mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
40.該基本培地が、87±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、及び270±27mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
41.該基本培地が、約5.1mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、及び270mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
42.該基本培地が、87±5mMのNaCl、26±5mMの炭酸塩、86±5mMのグルコース、及び322±32mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
43.該基本培地が、約5.1mg/mLのNaCl、2.2mg/mLの重炭酸ナトリウム、15.5mg/mLのグルコース、及び322mOsm/kgを示す、実施形態23〜33のいずれか1つに記載の方法。
44.F1世代における標的化された遺伝子突然変異に関してホモ接合性のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を生み出す方法であって、(a)該Sryタンパク質のレベル及び/又は活性が減少したF0 XYの繁殖力のある雌を、同じES細胞クローン由来のコホートクローン兄弟であるF0 XY雄非ヒト哺乳動物と交配させることであって、該F0 XYの繁殖力のある雌の非ヒト哺乳動物及び該F0 XY雄非ヒト哺乳動物のそれぞれが、該遺伝子突然変異に関してヘテロ接合性である、交配させることと、(b)該遺伝子修飾に関してホモ接合性であるF1子孫マウスを得ることと、を含む、方法。
45.細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法であって、(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含む該Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、(b)該細胞中に、(i)ヌクレアーゼ剤であって、第1の認識部位においてニック又は二本鎖切断を誘発するヌクレアーゼ剤、及び(ii)該第1の認識部位に十分に近接して位置する第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することであって、該第1のホモロジーアーム及び該第2のホモロジーアームの合計が、少なくとも4kbであるが150kb未満である、導入することと、(c)該標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた該第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む、方法。
46.細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法であって、
(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含む該Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、
(b)該細胞中に、第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することであって、該第1のホモロジーアーム及び該第2のホモロジーアームの合計が、少なくとも4kbであるが150kb未満である、導入することと、
(c)該標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた該第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む、方法。
47.該細胞が哺乳類細胞である、実施形態45又は46に記載の方法。
48.該哺乳類細胞が非ヒト細胞である、実施形態47に記載の方法。
49.該哺乳類細胞がげっ歯類由来である、実施形態47に記載の方法。
50.該げっ歯類がラット、マウス、又はハムスターである、実施形態49に記載の方法。
51.該細胞が多能性細胞である、実施形態45〜50のいずれか1つに記載の方法。
52.該哺乳類細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、実施形態45〜50のいずれか1つに記載の方法。
53.該多能性細胞が非ヒト胚性幹(ES)細胞である、実施形態51の方法。
54.該多能性細胞がげっ歯類胚性幹(ES)細胞、マウス胚性幹(ES)細胞、又はラット胚性幹(ES)細胞である、実施形態51の方法。
55.該ヌクレアーゼ剤が、ヌクレアーゼをコードするmRNAである、実施形態45及び47〜54のいずれか1つに記載の方法。
56.該ヌクレアーゼ剤がジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である、実施形態45及び47〜54のいずれか1つに記載の方法。
57.該ヌクレアーゼ剤が転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)である、実施形態45及び47〜54のいずれか1つに記載の方法。
58.該ヌクレアーゼ剤がメガヌクレアーゼである、実施形態45及び47〜54のいずれか1つに記載の方法。
59.該ヌクレアーゼ剤がCRISPR RNA誘導型Cas9エンドヌクレアーゼである、実施形態45及び47〜54のいずれか1つに記載の方法。
60.少なくとも10kbの核酸配列を含む大きな標的化ベクター(LTVEC)の存在下で、Casタンパク質及びCRISPR RNAにY染色体を曝露することを含む、該Y染色体を修飾するための方法であって、該Casタンパク質、該CRISPR RNA、及び該LTVECへの曝露に続いて、該Y染色体が少なくとも10kbの核酸配列を含むように修飾されることを含む、方法。
61.該LTVECが、少なくとも20kb、少なくとも30kb、少なくとも40kb、少なくとも50kb、少なくとも60kb、少なくとも70kb、少なくとも80kb、又は少なくとも90kbの核酸配列を含む、実施形態60に記載の方法。
62.該LTVECが、少なくとも100kb、少なくとも150kb、又は少なくとも200kbの核酸配列を含む、実施形態60に記載の方法。
63.Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法であって、(a)該Y染色体上の該標的ゲノム遺伝子座を含む哺乳類細胞を提供することであって、該標的ゲノム遺伝子座は、ガイドRNA(gRNA)標的配列を含む、提供することと、(b)該哺乳類細胞中に、(i)該標的ゲノム遺伝子座に相同の標的化アームが隣接した第1の核酸を含む、大きな標的化ベクター(LTVEC)であって、少なくとも10kbである、LTVECと、(ii)Casタンパク質をコードする第2の核酸に操作可能に連結された第1のプロモーターを含む、第1の発現構築物と、(iii)該gRNA標的配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)及びトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)をコードする第3の核酸に操作可能に連結された第2のプロモーターを含む、第2の発現構築物と、を導入することであって、該第1及び第2のプロモーターは、該哺乳類細胞中で活性である、導入することと、(c)該Y染色体上の該標的ゲノム遺伝子座において標的化された遺伝子修飾を含む修飾された哺乳類細胞を特定することと、を含む、方法。
64.該LTVECが少なくとも15kb、少なくとも20kb、少なくとも30kb、少なくとも40kb、少なくとも50kb、少なくとも60kb、少なくとも70kb、少なくとも80kb、又は少なくとも90kbである、実施形態63に記載の方法。
65.該LTVECが少なくとも100kb、少なくとも150kb、又は少なくとも200kbである、実施形態63に記載の方法。
66.該哺乳類細胞が非ヒト哺乳類細胞である、実施形態63に記載の方法。
67.哺乳類細胞が線維芽細胞である、実施形態63に記載の方法。
68.該哺乳類細胞がげっ歯類由来である、実施形態63に記載の方法。
69.該げっ歯類がラット、マウス、又はハムスターである、実施形態68に記載の方法。
70.該哺乳類細胞が多能性細胞である、実施形態63に記載の方法。
71.該多能性細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、実施形態70に記載の方法。
72.該多能性細胞がマウス胚性幹(ES)細胞又はラット胚性幹(ES)細胞である、実施形態70に記載の方法。
73.該多能性細胞が発達制限されたヒト前駆細胞である、実施形態70に記載の方法。
74.該Casタンパク質がCas9タンパク質である、実施形態63に記載の方法。
75.該gRNA標的配列に、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列が直接隣接する、実施形態74に記載の方法。
76.該LTVECの5’及び3’ホモロジーアームの合計が約10kb〜約150kbである、実施形態63に記載の方法。
77.該LTVECの該5’及び3’ホモロジーアームの合計が約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約120kb、又は約120kb〜150kbである、実施形態76に記載の方法。
78.該標的化された遺伝子修飾が、(a)内因性核酸配列の、相同若しくはオーソロガス核酸配列との置き換え、(b)内因性核酸配列の欠失、(c)欠失が約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、若しくは約150kb〜約200kb、約200kb〜約300kb、約300kb〜約400kb、約400kb〜約500kb、約500kb〜約1Mb、約1Mb〜約1.5Mb、約1.5Mb〜約2Mb、約2Mb〜約2.5Mb、若しくは約2.5Mb〜約3Mbに及ぶ、内因性核酸配列の該欠失、(d)外因性核酸配列の挿入、(e)約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、約150kb〜約200kb、約200kb〜約250kb、約250kb〜約300kb、約300kb〜約350kb、若しくは約350kb〜約400kbに及ぶ、外因性核酸配列の挿入、(f)相同若しくはオーソロガス核酸配列を含む外因性核酸配列の挿入、(g)ヒト及び非ヒト核酸配列を含むキメラ核酸配列の挿入、(h)部位特異的リコンビナーゼ標的配列が隣接した条件付き対立遺伝子の挿入、(i)該哺乳類細胞中で活性な第3のプロモーターに操作可能に連結された選択可能なマーカー若しくはレポーター遺伝子の挿入、又は(j)これらの組み合わせを含む、実施形態63に記載の方法。
79.該標的ゲノム遺伝子座が、(i)5’ホモロジーアームに相同である5’標的配列と、(ii)3’ホモロジーアームに相同である3’標的配列とを含む、実施形態63に記載の方法。
80.該5’標的配列及び該3’標的配列が少なくとも5kbであるが3Mb未満隔てられる、実施形態79に記載の方法。
81.該5’標的配列及び該3’標的配列が、少なくとも5kbであるが10kb未満、少なくとも10kbであるが20kb未満、少なくとも20kbであるが40kb未満、少なくとも40kbであるが60kb未満、少なくとも60kbであるが80kb未満、少なくとも約80kbであるが100kb未満、少なくとも100kbであるが150kb未満、又は少なくとも150kbであるが200kb未満、少なくとも約200kbであるが約300kb未満、少なくとも約300kbであるが約400kb未満、少なくとも約400kbであるが約500kb未満、少なくとも約500kbであるが約1Mb未満、少なくとも約1Mbであるが約1.5Mb未満、少なくとも約1.5Mbであるが約2Mb未満、少なくとも約2Mbであるが約2.5Mb未満、又は少なくとも約2.5Mbであるが約3Mb未満隔てられる、実施形態79に記載の方法。
82.該第1及び第2の発現構築物が単一核酸分子上にある、実施形態63に記載の方法。
83.該標的ゲノム遺伝子座がSry遺伝子座を含む、実施形態63に記載の方法。
84.非ヒト動物のY染色体の標的化された遺伝子修飾のための方法であって、(a)実施形態4に記載の方法に従って、非ヒト多能性細胞の該Y染色体上の対象となるゲノム遺伝子座を修飾し、それにより、該Y染色体上の標的化された遺伝子修飾を含む、遺伝子修飾された非ヒト多能性細胞を生み出すことと、(b)非ヒト宿主胚内に(a)の修飾された非ヒト多能性細胞を導入することと、(c)代理母において修飾された多能性細胞を含む該非ヒト宿主胚を懐胎させることとを含み、該代理母が、該標的化された遺伝子修飾を含むF0子孫を生み出し、該標的化された遺伝子修飾が、生殖系列を通じて伝達されることが可能である、方法。
85.該対象となるゲノム遺伝子座がSry遺伝子座を含む、実施形態84に記載の方法。
86.細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法であって、(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含む該Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、(b)該細胞中に、(i)ヌクレアーゼ剤であって、第1の認識部位においてニック又は二本鎖切断を誘発するヌクレアーゼ剤、及び(ii)該第1の認識部位に十分に近接して位置する第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することであって、該第1のホモロジーアーム及び該第2のホモロジーアームの長さが、少なくとも400bpであるが1000bp未満である、導入することと、(c)該標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた該第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む、方法。
87.該第1のホモロジーアーム及び/又は該第2のホモロジーアームの該長さが約700bp〜約800bpである、実施形態86に記載の方法。
88.該修飾が内因性核酸配列の欠失を含む、実施形態86に記載の方法。
89.該欠失が約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、又は約150kb〜約200kb、約200kb〜約300kb、約300kb〜約400kb、約400kb〜約500kb、約500kb〜約1Mb、約1Mb〜約1.5Mb、約1.5Mb〜約2Mb、約2Mb〜約2.5Mb、又は約2.5Mb〜約3Mbに及ぶ、実施形態88に記載の方法。
90.該欠失が少なくとも500kbである、実施形態88に記載の方法。
【0280】
本方法及び組成物は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されるものと見なされるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が該当し得る法的要件を満たすように提供される。同様の番号は、全体を通して同様の要素を指す。
【0281】
上記の説明及び関連する図面中に示される教示の利益を得れば、本方法及び組成物が関連する技術分野の当業者は、本明細書に記載される方法及び組成物の多くの修正形態及び他の実施形態に想到するであろう。したがって、本方法及び組成物が開示された特定の実施形態に限定されないものであること、並びに修正形態及び他の実施形態が添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解されよう。特定の用語が本明細書で採用されるが、それらは、限定目的ではなく一般的かつ説明的な意味でのみ使用される。
【0282】
以下の実施例は、限定としてではなく例示として提供される。
【実施例】
【0283】
実施例1.TALEN又はCRISPRによって補助されたY染色体遺伝子Sryの標的化
順番に、約700bpの上流ホモロジーアーム、βガラクトシダーゼコード配列(lacZ)、続いて、ポリアデニル化シグナル、第1のエクソン、第1のイントロン、及び第2のエクソンの一部を含む、ヒトユビキチンCプロモーターを含むloxP部位が隣接したネオマイシン耐性カセット、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼコード配列、及びポリアデニル化シグナル、並びに約650bpの下流ホモロジーアームを含む、標的化ベクターを用いて、SryのためのlacZ置き換え対立遺伝子を含む標的化された欠失を引き起こした。標的化ベクターを用いたSry遺伝子の正しい標的化によって作られた対立遺伝子は、βガラクトシダーゼコード配列がSry開始コドンにおいてインフレームで融合されるように、約1kbのSryオープンリーディングフレームの欠失、及びlacZ−neoカセットでの置き換えを含む。標的化ベクターを使用して、VGB6(別名、B6A6)C57BL/6及びVGF1(別名、F1H4)C57BL6/129 F1ハイブリッドES細胞株の両方においてSry遺伝子を標的化した。VGF1(F1H4)マウスES細胞は、雌C57BL/6NTacマウスを雄129S6/SvEvTacマウスに交配することによって生み出されたハイブリッド胚由来であった。したがって、VGF1 ES細胞は、129S6/SvEvTacマウスからのY染色体を含有する。VGF1細胞株から生み出された雌XYマウスは、129S6/SvEvTacマウス由来のY染色体を含有する。
【0284】
実施例2.Y染色体遺伝子Sry中のTALEN又はCRISPR誘導性突然変異
Cas9 DNAエンドヌクレアーゼと組み合わせた、TALEN又はCRISPRガイドRNAの作用によって、おそらく3bp〜1.2kb以上に及ぶ二本鎖DNA切断の非相同末端結合(NHEJ)修復の結果である、欠失突然変異を、Sry遺伝子中で引き起こした(
図1を参照されたい)。Sry遺伝子中でTALEN及びCRISPR誘導性突然変異を含むES細胞はまた、NIH KOMPプロジェクトVG12778 LTVECのランダムトランスジェニック挿入(URL「velocigene.com/komp/detail/12778」でワールド・ワイド・ウェブ(www)上のインターネットを介して入手可能)を有し、それは、Sryコード配列の欠失、及びSry開始コドンとインフレームで融合されたlacZを含む挿入カセットでの置き換え、並びに38及び37kbのホモロジーアームが隣接し、かつbMQライブラリー(129S7/SvEv Brd−Hprt b−m2)からのBACに基づく、ネオマイシン耐性遺伝子を有する。LTVECは、そのホモロジーアーム中に、Sryの発現のための全ての既知の制御要素を含む。そのlacZコードβガラクトシダーゼは、Sry遺伝子の組織特異的及び発達段階特異的発現のためのレポーターとしての役割を果たす。VGB6(別名、B6A6)及びVGF1(別名、F1H4)ES細胞株の両方において、LTVEC挿入を伴うTALEN及びCRISPR誘導性突然変異を引き起こした。
【0285】
我々は、Sry遺伝子中のHMGボックスDNA結合モチーフコード配列の一部(上流認識配列:5’−TCCCGTGGTGAGAGGCAC−3’
(配列番号72)、下流認識配列:5’−TATTTTGCATGCTGGGAT−3’
(配列番号73))を標的化するように設計されたTALEN(TALEN−1)を得た。TALEN−1は、複数の実験において、Sry遺伝子座におけるNHEJ突然変異を引き起こす際に活性であった。
【0286】
VGB6及びVGF1マウスES細胞の両方を、TALEN誘導性突然変異によって作った。表1は、全てのクローン及びそれらが有する欠失突然変異のサイズのリストを含む。(表1中のNDは、突然変異がqPCRアッセイによって検出されたが、突然変異の正確な分子的性状は判定されなかったことを示す。)全てのクローンはまた、NIH KOMPプロジェクトVG12778 LTVECの少なくとも1つのコピーを有する。
【0287】
【表2】
*50bpの挿入も含んだ
【0288】
Sry変異体クローンのマイクロインジェクションの結果が表2に記載され、性転換雌の繁殖結果が表3に記載される。
【0289】
【表3】
【0290】
【表4】
*XY雌ID番号1460406は、出産近くに危機があり、出産できなかったため、安楽死させなければならなかった。その死亡した子(4匹の雄、5匹の雌)を解剖によって回収し、Sry突然変異を有したものはなかった。
【0291】
VGB6 ES細胞由来のSry突然変異を有するVelociMiceの全てが、Sryの不活性化に関して予想されたように、雌であった(表2)。Sry突然変異はないが、NIH KOMP VG12778 LTVECの少なくとも1つのコピーを有するものは、雄のVelociMiceのみを生み出した(表2、クローンGB4及びGG1)。17匹のSry変異体雌B6 VelociMiceを試験繁殖させたとき、1匹のみが約4カ月の繁殖設定後に妊娠し(表3)、その雌は、出産近くに危機があり、出産できなかったため、安楽死させなければならなかった。解剖によって回収したその死亡した子(4匹の雄、5匹の雌)は全てWTであり、Sry突然変異を有したものはなかった。VGB6 ES細胞から作製されたほぼ全てのSry変異体マウスが不妊であると結論付けられ、それは、Sry突然変異に関する文献と一致する。しかしながら、我々のデータは、VGF1クローンによる非常に異なる結果を示した。
【0292】
第一に、雌化している我々のKO−DMEM様低浸透強度増殖培地中で、通常通り、VGF1 ES細胞を維持し、この培地中で増殖された、マイクロインジェクションされたXYクローンのいくつかは、それらが突然変異を有しないにもかかわらず、繁殖力のあるXY雌、すなわち、XY雌現象を生み出す。一例は、クローンTH4であり、それは、Sry突然変異を有しないが、NIH KOMP VG12778 LTVECの少なくとも1つのコピーを有する。このクローンは、2匹の雌及び6匹の雄のVelociMiceを生み出した(表2)。Sry突然変異を有しない2匹の他のVGF1クローン(TA3及びTA4、表2)は、雄のVelociMiceのみを生み出した。我々は、Sry中の突然変異を有するVGF1 XY ES細胞もまた培地によって雌化されるかどうかを決定したいと思った。換言すれば、それらは、VGB6 Sry変異体ES細胞とは異なり、いくつかの繁殖力のあるXY Sry変異体雌を生み出であろうか。(VGB6 ES細胞がKO−DMEM様低浸透強度培地中で維持することができず、マウスを生み出す能力を保持することができないことに留意されたい。)答えは、表3に示されるように、「はい」である。
【0293】
5bp〜1kb超に及ぶTALEN誘導性の小さい欠失を有する6個のVGF1 ES細胞クローンにマイクロインジェクションを行った。全てが雌のVelociMiceを生み出し、そのうちの32匹を繁殖させた。注目すべきことに、Sry変異体XY雌VelociMiceの全てが繁殖力を持ち、それぞれが少なくとも1匹の同腹子を生み出した(表3)。Sry変異体XY雌のうちの多くが、正常な同腹子数で複数の同腹子を生み出した一方で、XY雌のうちの一部は、1匹又は2匹の少数の同腹子のみを生み出した。遺伝子型決定されているこれらの繁殖からの299匹のF1マウスのうち、約半分(146匹、49%)が正常なXY雄又は正常なXX雌である。F1マウスのうち174匹(58%)が表現型雌であった一方で、125匹(42%)が表現型雄であった。雌のうち26匹(雌の15%、全F1世代の8.7%)は、変異体Sry対立遺伝子を受け継いだXY雌であった。XY卵母細胞と関連した減数分裂の不分離事象のため、多くの異常な遺伝子型XXY、XYY、XO、XXYY(そのうちのいくつかは、変異体Sry対立遺伝子を含んだ)が、Sry変異体XY雌VelociMiceのF1子孫において観察された。
【0294】
XY ES細胞からの繁殖力のあるXY雌VelociMiceの効率的な作出のための方法が発見されている。雌化増殖培地中で維持されているES細胞中のSry遺伝子中の不活性化突然変異が引き起こされる場合、雄と交配させられたときに、大部分は正常なX及びY染色体を有する雄及び雌マウスを生み出す、高い割合の繁殖力のあるXY雌マウスが得られる。
【0295】
実施例3.Y染色体遺伝子Sry中のTALEN誘導性突然変異後のKO−DMEM又はDMEMにおける胚回収
XYであり、かつSry突然変異を有したF0雌由来のF1子孫の遺伝子型決定によって、LTVECによるマウスSryの正しい標的化を確認又は否定した。Sry突然変異を有するLacZ/NeoカセットのF1マウスにおける共分離(Sry LOAアッセイによって評価されるような)は、正しい標的化を強く示唆する。LacZ/Neoが突然変異と共分離できないことは、元のクローンが、ゲノム中の別の箇所のLacZ/Neoトランスジェニック挿入に加えて、Sry欠失突然変異(TALENによって誘導された)を含んだことを示す。
【0296】
Sry突然変異を有するXY雌からの子孫は、高頻度で様々な異常な核型を示した(XXY、XYY、及びXOを含む)。X及びY染色体上の遺伝子に対する無関係の対立遺伝子の欠損(LOA)アッセイを使用して、性染色体数を評価した。次いで、LOAアッセイを使用してSryのコピー数を判定した。マウスにおける変異体Sry対立遺伝子の存在が推測され、Y染色体コピー数は、Sryコピー数を超えた(例えば、Yの1コピー及びSryの0コピー、又はYの2コピー及びSryの1コピー)。最後に、TaqManアッセイを使用して、LacZ及びNeoの存在を判定した。
【0297】
TALENヌクレアーゼと共にSry LTVECによって作られ、KO−DMEM中で増殖されたクローンの元の組において、LacZ/NeoカセットがSry突然変異と共分離していなかったことが明らかであった。これらのクローンからのサンプル同腹子が表4に示される。
【0298】
【表5】
【0299】
TALENヌクレアーゼと共にSry LTVECによって作られ、DMEM中で増殖されたクローンの後続の組において、LacZ/Neoカセットは、Sry突然変異と完全に共分離しており、正しい標的化を示す。これらのクローンからの典型的な同腹子が表5に示される。
【0300】
【表6】
【0301】
実施例4:SmallTVEC又はLTVECによるSryのTALEN及びCRISPR補助による標的化
図2に示されるように、Cas9 DNAエンドヌクレアーゼと組み合わせて、TALENヌクレアーゼ又はCRISPRガイドRNAのいずれかと共に、LTVEC又は小さな標的化ベクター(smallTVEC)のいずれかを用いて、SryのためのlacZ置き換え対立遺伝子を含む標的化された欠失を引き起こした。smallTVECは、順番に、約700〜800bpの上流ホモロジーアーム、βガラクトシダーゼコード配列(lacZ)、続いて、ポリアデニル化シグナル、第1のエクソン、第1のイントロン、及び第2のエクソンの一部を含む、ヒトユビキチンCプロモーターを含むloxP部位が隣接したネオマイシン耐性カセット、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼコード配列、及びポリアデニル化シグナル、並びに約700〜800bpの下流ホモロジーアームを含んだ。標的化ベクターを用いたSry遺伝子の正しい標的化によって作られた対立遺伝子は、βガラクトシダーゼコード配列がSry開始コドンにおいてインフレームで融合されるように、約1kbのSryオープンリーディングフレームの欠失、及びlacZ−neoカセットでの置き換えを含む。標的化ベクターを使用して、VGF1(別名、F1H4)C57BL6/129 F1ハイブリッドES細胞株及びVGB6 ES細胞株(別名、B6A6)中のSry遺伝子を標的化した。
【0302】
表6に示されるように、4つの異なるgRNA及び1つのTALEN対を使用して生み出されたクローンを生み出し、TaqManアッセイによって対立遺伝子の開裂及び欠損に関してスクリーニングした。
【0303】
【表7】
【0304】
LTVECトランスジェニッククローンは、同じlacZパターンを有する胚を生み出した。
図3は、胚内のLacZ発現を示す。
【0305】
表7は、TALEN補助LTVECによるSryの標的化された欠失−置き換え突然変異を有した従来のDMEMベースの培地中で増殖された、ES細胞由来のXY雌の繁殖性結果を報告する。予想外に、KO−DEMEMベースの培地中で増殖されたES細胞を用いた同様の実験に関する結果(表3)と比較して、DMEMベースの培地中のLTVECによる標的化は、正しく標的化されたSry欠失及びlacZ−neo挿入を有するクローンを生み出した。4つの標的化されたクローン由来の41匹のXY
Sry(lacZ)雌のうちの40匹が、交配後に生産児を生み出し、これは98%の繁殖率であった。したがって、我々は、変異体ES細胞から繁殖力の高いXY雌を生み出すための2つの新しい方法、(1)KO−DMEMベースの培地中で増殖されたES細胞中のSry中のTALEN誘導性不活性化突然変異、及び(2)DMEMベースの培地中で増殖されたES細胞中のTALEN補助LTVECにより標的化された精確な欠失−置き換え突然変異を考案した。
【0306】
【表8】
【0307】
実施例5:ZFNによって媒介されたY染色体上の大きい欠失
図4に示されるように、Kdm5d及びUsp9y遺伝子を標的化するZFNを使用して、Y染色体上で500kb以上の大きい欠失を行った。表8は、Y染色体上のジンクフィンガー配列の例を提供する。
【0308】
【表9】
【0309】
一実験において、VGB6クローンD−G5及びE−G7(表3)からの330万個のES細胞を、ZFN mRNA対、Kdm5d−ZFN5(NM011419−r17347a1)/ZFN6(NM011419−17353a1)及びUsp9y−ZFN3(NM148943−r11830a1)/ZFN4(NM148943−11836a1)(各10ug)で、かつCh25h遺伝子を標的化するLTVEC(0.67ug)で電気穿孔して、ピューロマイシン耐性に対する選択を提供した。ピューロマイシン耐性コロニーを採取し、欠失に関してスクリーニングした。結果が表9に示される。
【0310】
【表10】
【0311】
表10は、E−G7親クローン(表3)由来の1つの欠失クローン(4306A−D5)、及びD−G5親クローン(表3)由来の2つの欠失クローン(4306E−C4及び4306F−A12)に関して精確に判定された、500kbを超える欠失の正確なサイズを示す。
【0312】
【表11】
【0313】
図5に示されるように、対立遺伝子の欠失欠損アッセイ及びDNA配列において、Kdm5d、Eif2s3y、Uty、Ddx3y、及びUsp9y遺伝子の欠失(
図4)を確認した。クローン4306A−D5は、8細胞期胚へのマイクロインジェクション及び代理母への導入後に、9匹のXY雌の完全にES細胞由来のVelociMiceを生み出した。クローン4306A−D5からのXY雌のどれも、繁殖力を持たなかった。
【0314】
実施例6:CRISPR/Casによって媒介されたY染色体上の大きい欠失
Kdm5d遺伝子とUsp9y遺伝子との間の領域を標的化するY染色体上の大きい欠失を、Cas9 DNAエンドヌクレアーゼと組み合わせてCRISPRガイドRNAを利用して行った。Kdm5d遺伝子及びUsp9y遺伝子を標的化するように、gRNAを設計した。Kdm5dを標的化するように、以下のgRNAを設計した。Kdm5dgA(ガイド番号1)UUUGCCGAAUAUGCUCUCGU(配列番号66)、Kdm5dgBガイド番号2)UUGCCGAAUAUGCUCUCGUG(配列番号67)、及びKdm5dgC(ガイド番号5)CGGGCAUCUCCAUACUCCCU(配列番号68)。Usp9yを標的化するように、以下のgRNAを設計した。Usp9ygA(ガイド番号1)UAGCUCGUUGUGUAGCACCU(配列番号69)、Usp9ygB(ガイド番号1)UAUAGUUUCUUCGGGGUAAC(配列番号70)、及びUsp9ygC(ガイド番号2)GGAUACCCUUCUAUAGGCCC(配列番号71)。
【0315】
VGF1マウスES細胞を、Cas9を発現させた5μgのプラスミド、並びにKdm5d gRNA B及びUsp9y gRNA Cを発現させた、それぞれ10μgのプラスミドで、かつCh25h遺伝子を標的化するLTVEC(0.67ug)で電気穿孔して、ピューロマイシン耐性に対する選択を提供した。
【0316】
図4に示されるように、Kdm5dgB(gRNA B)及びUsp9ygC(gRNA C)を使用して、Kdm5d及びUsp9y遺伝子の欠失を標的化した。Kdm5d及びUsp9y遺伝子並びに間にある遺伝子(Eif2s3y、Uty、及びDdx3y)における配列に関する対立遺伝子の欠損アッセイによる欠失に関して、かつ標的化された欠失の外側の遺伝子(Zfy2及びSry)に関して、得られるクローンをスクリーニングした。表11に示されるように、大きい欠失を含む4個のクローンが得られた。クローンR−A8は、8細胞期胚へのマイクロインジェクション及び代理母への導入後に、7匹のXY雌及び3匹の雌の完全にES細胞由来のVelociMiceを生み出した。
【0317】
【表12】
【0318】
本明細書で言及された全ての刊行物及び特許は、本発明が関係する技術分野における当業者の水準を示す。全ての刊行物及び特許出願は、あたかもそれぞれ個々の刊行物及び特許出願が参照により組み込まれているかのように具体的かつ個別的に示されるのと同程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。寄託番号などの引用と関連した情報が時と共に変化する場合、本出願の有効な出願日において有効な情報のバージョンが意図され、有効な出願日とは、実際の出願日又は最初にその引用を提供する優先出願の日を意味する。任意の実施形態の文脈から特に明らかではない限り、本発明の態様、工程、又は特徴は、互いと組み合わせて使用され得る。範囲への言及は、その範囲内の任意の整数、その範囲内の任意の部分範囲を含む。複数の範囲への言及は、そのような範囲の複合を含む。
【0319】
例えば、本発明の好ましい実施形態では以下の項目が提供される。
(項目1)
F0世代における繁殖力のあるXY雌非ヒト哺乳動物を生み出すことが可能な非ヒト哺乳類XY胚性幹(ES)細胞株を作製するための方法であって、
(a)Sryタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させる修飾を含むように非ヒト哺乳類XY胚性幹(ES)細胞を修飾することと、
(b)F0世代における繁殖力のあるXY雌非ヒト哺乳動物を生み出すことが可能なES細胞株を作製することを可能にする条件下で、前記修飾されたES細胞を培養することと、を含む、方法。
(項目2)
F0世代における繁殖力のあるXY雌非ヒト哺乳動物を作製するための方法であって、
(a)項目1に記載の非ヒト哺乳類XY ES細胞を宿主胚内に導入することと、
(b)前記宿主胚を懐胎させることと、
(c)F0 XY雌非ヒト哺乳動物を得ることと、を含み、性成熟に達すると、前記F0 XY雌非ヒト哺乳動物が繁殖力を持つ、方法。
(項目3)
前記非ヒト哺乳類XY ES細胞がげっ歯類由来である、項目1又は2に記載の方法。
(項目4)
前記げっ歯類がマウス又はラットである、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記マウスXY ES細胞が129系統由来である、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記マウスXY ES細胞が、129系統に由来するY染色体を含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記マウスXY ES細胞がVGF1マウスES細胞である、項目5に記載の方法。
(項目8)
前記マウスXY ES細胞がC57BL/6系統由来である、項目4に記載の方法。
(項目9)
前記Sryタンパク質のレベル及び/又は活性の前記減少が、Sry遺伝子を含むゲノム遺伝子座における標的化された遺伝子修飾に起因する、項目1〜8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記Sry遺伝子における前記遺伝子修飾が、1つ以上のヌクレオチドの挿入、1つ以上のヌクレオチドの欠失、1つ以上のヌクレオチドの置換、ノックアウト、ノックイン、内因性核酸配列の、相同、オーソロガス、若しくは異種核酸配列との置き換え、又はこれらの組み合わせを含む、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記標的化された遺伝子修飾が、挿入、欠失、ノックアウト、ノックイン、点突然変異、又はこれらの組み合わせを含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記Sry遺伝子の前記修飾が、前記非ヒト哺乳類ES細胞中で活性なプロモーターに操作可能に連結された選択可能なマーカー及び/又はレポーター遺伝子の挿入を含む、項目1〜11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記Sry遺伝子の前記修飾が、内因性Sryプロモーターに操作可能に連結されたレポーター遺伝子の挿入を含む、項目1〜11のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記レポーター遺伝子がレポータータンパク質LacZをコードする、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記標的化された遺伝子修飾が常染色体上にある、項目10に記載の方法。
(項目16)
前記培養工程が、前記非ヒト哺乳類ES細胞を培養物中で維持するのに好適な基本培地及び補充物を含む培地中で、前記非ヒト哺乳類XY ES細胞を培養することを含み、前記培地が低浸透圧培地である、項目1〜15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記低浸透圧培地が、約200mOsm/kg〜約329mOsm/kg未満の浸透圧を示す、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記低浸透圧培地が、以下の特徴、すなわち約11mS/cm〜約13mS/cmの導電率、約50mM〜約110mMの濃度のアルカリ金属及びハロゲン化物の塩、
約17mM〜約30mMの炭酸塩濃度、約85mM〜約130mMのアルカリ金属ハロゲン化物塩及び炭酸塩の総計濃度、並びに/又はこれらの任意の2つ以上の組み合わせのうちの1つ以上を示す、項目16に記載の方法。
(項目19)
宿主胚内への前記非ヒト哺乳類XY ES細胞の導入及び続く前記宿主胚の懐胎後に、前記F0非ヒト哺乳動物の少なくとも80%がXY雌であり、前記XY雌が、性成熟に達すると、前記F0 XY雌非ヒト哺乳動物が繁殖力を持つ、項目1〜18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記非ヒト哺乳類XY ES細胞が、ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含む前記Y染色体上に標的ゲノム遺伝子座を含み、前記ヌクレアーゼ剤が、前記認識部位においてニック又は二本鎖切断を誘発する、項目1〜19のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
挿入ポリヌクレオチドを含む標的化ベクターの存在下で、前記ES細胞を前記ヌクレアーゼ剤に曝露することを更に含み、前記ヌクレアーゼ剤及び前記標的化ベクターへの曝露後、前記ES細胞が、前記挿入ポリヌクレオチドを含むように修飾される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記ヌクレアーゼ剤が、ヌクレアーゼをコードするmRNAである、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記ヌクレアーゼ剤が、
(a)ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、
(b)転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)であるか、又は
(c)メガヌクレアーゼである、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記ヌクレアーゼ剤が、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連(Cas)タンパク質と、ガイドRNA(gRNA)とを含む、項目20に記載の方法。
(項目25)
前記ガイドRNA(gRNA)が、(a)前記第1の認識部位を標的化する、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)RNA(crRNA)と、(b)トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)とを含む、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記認識部位に、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列が直接隣接する、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記Casタンパク質がCas9である、項目24に記載の方法。
(項目28)
項目1〜27のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳類XY ES細胞株を含む、インビトロ培養物。
(項目29)
F1世代における標的化された遺伝子突然変異に関してホモ接合性のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を生み出す方法であって、
(a)Sryタンパク質のレベル及び/又は活性が減少したF0 XYの繁殖力のある雌を、同じES細胞クローン由来のコホートクローン兄弟であるF0 XY雄非ヒト哺乳動物と交配させることであって、前記F0 XYの繁殖力のある雌の非ヒト哺乳動物及び前記F0 XY雄非ヒト哺乳動物のそれぞれが、前記遺伝子突然変異に関してヘテロ接合性である、交配させることと、
(b)前記遺伝子修飾に関してホモ接合性であるF1子孫マウスを得ることと、を含む、方法。
(項目30)
細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法であって、
(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含む前記Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、
(b)前記細胞中に、
(i)前記ヌクレアーゼ剤であって、前記第1の認識部位においてニック又は二本鎖切断を誘発する前記ヌクレアーゼ剤、及び
(ii)前記第1の認識部位に十分に近接して位置する第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することと、
(c)前記標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた前記第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む、方法。
(項目31)
前記第1のホモロジーアーム及び前記第2のホモロジーアームの合計が、少なくとも4kbであるが150kb未満である、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記第1のホモロジーアーム及び/又は前記第2のホモロジーアームの長さが、少なくとも400bpであるが1000bp未満である、項目30に記載の方法。
(項目33)
前記第1のホモロジーアーム及び/又は前記第2のホモロジーアームの長さが約700bp〜約800bpである、項目30に記載の方法。
(項目34)
細胞中のY染色体上の標的ゲノム遺伝子座を修飾するための方法であって、
(a)ヌクレアーゼ剤のための認識部位を含む前記Y染色体上の標的ゲノム遺伝子座を含む細胞を提供することと、
(b)前記細胞中に、第1及び第2の標的部位に対応する第1及び第2のホモロジーアームが隣接した第1の挿入ポリヌクレオチドを含む、第1の標的化ベクターを導入することと、
(c)前記標的ゲノム遺伝子座において組み込まれた前記第1の挿入ポリヌクレオチドを細胞のゲノム中に含む、少なくとも1つの細胞を特定することと、を含む、方法。
(項目35)
前記第1のホモロジーアーム及び前記第2のホモロジーアームの合計が、少なくとも4kbであるが150kb未満である、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記第1のホモロジーアーム及び/又は前記第2のホモロジーアームの長さが、少なくとも400bpであるが1000bp未満である、項目34に記載の方法。
(項目37)
前記第1のホモロジーアーム及び/又は前記第2のホモロジーアームの長さが約700bp〜約800bpである、項目34に記載の方法。
(項目38)
前記細胞が哺乳類細胞である、項目30又は34に記載の方法。
(項目39)
前記哺乳類細胞が非ヒト細胞である、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記哺乳類細胞がげっ歯類由来である、項目38に記載の方法。
(項目41)
前記げっ歯類がラット、マウス、又はハムスターである、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記細胞が多能性細胞である、項目30又は34に記載の方法。
(項目43)
前記哺乳類細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、項目38に記載の方法。
(項目44)
前記多能性細胞が非ヒト胚性幹(ES)細胞である、項目42に記載の方法。
(項目45)
前記多能性細胞がげっ歯類胚性幹(ES)細胞、マウス胚性幹(ES)細胞、又はラット胚性幹(ES)細胞である、項目42に記載の方法。
(項目46)
前記ヌクレアーゼ剤が、ヌクレアーゼをコードするmRNAである、項目30又は34に記載の方法。
(項目47)
前記ヌクレアーゼ剤が、
(a)ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、
(b)転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、又は
(c)メガヌクレアーゼである、項目30又は34に記載の方法。
(項目48)
前記ヌクレアーゼ剤が、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連(Cas)タンパク質と、ガイドRNA(gRNA)とを含む、項目30又は34に記載の方法。
(項目49)
前記ガイドRNA(gRNA)が、(a)前記第1の認識部位を標的化する、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)RNA(crRNA)と、(b)トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)とを含む、項目48に記載の方法。
(項目50)
前記第1の認識部位に、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列が直接隣接する、項目49に記載の方法。
(項目51)
前記Casタンパク質がCas9である、項目48に記載の方法。
(項目52)
前記修飾が、内因性核酸配列の欠失を含む、項目30又は34に記載の方法。
(項目53)
前記欠失が、約5kb〜約10kb、約10kb〜約20kb、約20kb〜約40kb、約40kb〜約60kb、約60kb〜約80kb、約80kb〜約100kb、約100kb〜約150kb、又は約150kb〜約200kb、約200kb〜約300kb、約300kb〜約400kb、約400kb〜約500kb、約500kb〜約1Mb、約1Mb〜約1.5Mb、約1.5Mb〜約2Mb、約2Mb〜約2.5Mb、又は約2.5Mb〜約3Mbに及ぶ、項目52に記載の方法。
(項目54)
前記欠失が少なくとも500kbである、項目52に記載の方法。
(項目55)
前記F0 XY雌非ヒト哺乳動物が、野生型マウスに交配されたときに繁殖力を持つ、項目2に記載の方法。
(項目56)
前記野生型マウスがC57BL/6である、項目55に記載の方法。