(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0021】
〈本実施の形態に係る電気伝導率計の構成〉
図1は、本発明の一実施の形態に係る電気伝導率計の構成を示す図である。
同図に示される電気伝導率計100は、測定管内を流れる流体の電気伝導率を2電極方式で計測するための測定器である。ここで、上記流体は、例えば液体である。電気伝導率計100は、2つの電極のうち一方の電極を測定対象の流体(被測定流体)に接触させることなく、電気伝導率を計測することが可能な構成を有している。
【0022】
具体的に、電気伝導率計100は、主な機能部として、測定管1、第1電極2、第2電極3、交流信号生成部4、電圧検出部5、データ処理制御部6、アナログ・デジタル変換部(ADC)7、クロック信号生成部8、設定・表示部9、およびアナログ出力部10を有している。
【0023】
測定管1は、電気伝導率の計測対象の流体(被測定流体)が流れる管である。測定管1は、電気絶縁材料から構成されている。上記電気絶縁材料としては、電気的絶縁性が比較的高い材料であることが好ましく、例えばセラミックである。
【0024】
第1電極2は、測定管1の外周面に形成された金属材料から構成されている。第1電極2は、例えば薄膜状の金属材料(例えば、銅箔)から成り、測定管1の一部の領域に測定管1の円周方向に延在している。第1電極2と測定管1とは、例えば接着材によって接合されている。被測定流体は測定管1の内部を流れるため、第1電極2は、被測定流体に接触しない。以下、第1電極2を「非接触電極2」とも称する。
【0025】
第2電極3は、コモン電位Vcomに接続され、被測定流体と接触する電極である。第2電極3は、例えば、
図1に示すように、測定管1と連結された管状の金属材料から構成されている。以下、第2電極3を「接触電極3」とも称する。
なお、本実施の形態では、コモン電位Vcomが0V(グラウンド電位)であるとして、説明する。
【0026】
クロック信号生成部8は、各機能部の動作タイミングを制御するためのクロック信号を生成する回路である。具体的に、クロック信号生成部8は、後述するデータ処理制御部6から出力された基準クロック信号CLK0を分周することによって、各種のクロック信号CLK1,CLKp,CLKnを生成する。なお、クロック信号CLK1,CLKp,CLKnの具体例については後述する。
【0027】
交流信号生成部4は、非接触電極2に印加する交流信号を生成する回路である。交流信号生成部4は、交流信号として、例えばパルスを発生させる。交流信号生成部4は、
図1に示すように、例えば、コモン電位Vcomに接続された第1端子P1と、基準電位Vref(>Vcom)に接続された第2端子P2と、抵抗R1に接続される第3端子P3とを有するスイッチSW3によって実現することができる。
【0028】
スイッチSW3は、クロック信号生成部8から出力された一定周期のクロック信号CLK1に応じて、第3端子P3の接続先を第1端子P1と第2端子P2との間で切り替える。これにより、ローレベルの電圧がコモン電位Vcom、ハイレベルの電圧が基準電位Vref、周波数f1がクロック信号CLK1と同一のパルスV1が第3端子P3から出力される。
【0029】
抵抗R1は、一端が交流信号生成部4の出力端子(スイッチSW3の上記第3端子)に接続され、他端が非接触電極2に接続されている。これにより、交流信号生成部4から出力されたパルスV1は、抵抗R1を介して非接触電極2に入力される。
【0030】
電圧検出部5は、非接触電極2に発生した信号V2の電圧を検出する回路である。具体的に、電圧検出部5は、パルスV1が第1極性(例えば、ハイレベル(=Vref))となる期間Tpにおける信号V2の電圧を検出するとともに、パルスV1が第1極性と反対の第2極性(例えばローレベル(=Vcom))となる期間における信号V2の電圧を検出する。
【0031】
より具体的には、電圧検出部5は、例えば、バッファアンプU1およびサンプルホールド回路51,52を含む。バッファアンプU1は、例えばオペアンプ等から構成され、非接触電極2に発生した信号V2をバッファして出力する。バッファアンプU1から出力される信号V2bの電圧と信号V2の電圧は、略等しい(V2b≒V2)。
【0032】
サンプルホールド回路51,52は、バッファアンプU1から出力された信号V2bの電圧を、所定のタイミングでサンプリングし、保持する回路である。
サンプルホールド回路51は、例えば、一端がバッファアンプU1の出力端子に接続されたスイッチSW1と、スイッチSW1の他端とコモン電位Vcomとの間に接続された容量C1とを含む。スイッチSW1は、例えば、クロック信号CLKpに応じてオン・オフが切替られる。これにより、サンプルホールド回路51は、クロック信号CLKpに応じて信号V2bの電圧のサンプリングを行うことができる。
【0033】
サンプルホールド回路52は、例えば、一端がバッファアンプU1の出力端子に接続されたスイッチSW2と、スイッチSW2の他端とコモン電位Vcomとの間に接続された容量C2とを含む。スイッチSW2は、例えば、クロック信号CLKnに応じてオン・オフが切替られる。これにより、サンプルホールド回路52は、クロック信号CLKnに応じて信号V2bの電圧のサンプリングを行うことができる。
【0034】
図2は、電圧検出部5の動作タイミングを示すタイミングチャート図である。
図2に示すように、クロック信号生成部8は、クロック信号CLK1として、周期Tのパルス(例えば、デューティ比:50%)を生成し、交流信号生成部4に与える。交流信号生成部4は、クロック信号CLK1がハイレベルであるときに、第3端子P3を第2端子P2(=Vref)に接続し、クロック信号CLK1がローレベルであるときに、第3端子P3を第1端子P1(=Vcom)に接続する。これにより、
図2に示すように、クロック信号CLK1がハイレベル(第1極性)となるときに基準電位Vrefとなり、クロック信号CLK1がローレベル(第2極性)となるときにコモン電位VcomとなるパルスV1が第3端子P3から出力される。交流信号生成部4の第3端子P3から出力されたパルスV1は、抵抗R1を介して非接触電極2に入力される。
【0035】
被測定流体が測定管1および接触電極3の内部を流れているときに、上述のパルスV1が出力されると、抵抗R1、非接触電極2、被測定流体、および接触電極3を介してコモン電位Vcomに電流が流れ込む。これにより、抵抗R1と、抵抗R1の他端側のインピーダンスとに応じた電圧の信号V2が非接触電極2に発生する。このときの信号V2は、
図2に示すように、パルスV1と同期して電圧が変動する信号となる。
【0036】
また、クロック信号生成部8は、クロック信号CLKpとして、クロック信号CLK1がハイレベルとなる期間Tp、すなわちパルスV1が第1極性(例えば、ハイレベル(=Vref))となる期間にハイレベルとなるパルスをサンプルホールド回路51に供給する。
【0037】
サンプルホールド回路51のスイッチSW1は、クロック信号CLKpがハイレベルであるときにオンし、クロック信号CLKpがローレベルであるときにオフする。これにより、サンプルホールド回路51は、非接触電極2に発生した信号V2(V2b)がハイレベルとなるときの電圧VHをサンプリングする。
【0038】
更に、クロック信号生成部8は、クロック信号CLKnとして、クロック信号CLK1がローレベルとなる期間Tn、すなわちパルスV1が第2極性(例えば、ローレベル(=Vcom))となる期間にハイレベルとなるパルスをサンプルホールド回路52に供給する。
【0039】
サンプルホールド回路52のスイッチSW2は、クロック信号CLKnがハイレベルであるときにオンし、クロック信号CLKnがローレベルであるときにオフする。これにより、サンプルホールド回路52は、非接触電極2に発生した信号V2(V2b)がローレベルとなるときの電圧VLをサンプリングする。
【0040】
アナログ・デジタル変換部7は、サンプルホールド回路51によって取り込まれた電圧VHとサンプルホールド回路52によってサンプルホールドされた電圧VLとの電圧差を、デジタル信号に変換する回路である。
【0041】
データ処理制御部6は、電気伝導率計100を構成する各機能部の統括的な制御を行う機能部である。データ処理制御部6は、例えばマイクロコントローラやCPU等のプログラム処理装置によって構成されている。
具体的に、データ処理制御部6は、基準クロック生成部61と電気伝導率算出部62とを含む。
【0042】
基準クロック生成部61は、クロック信号生成部8に供給する基準クロック信号CLK0を生成する機能部である。基準クロック生成部61は、例えば、外付けされた水晶やセラミック発振子を用いて信号を生成する発振回路等によって実現することができる。
【0043】
電気伝導率算出部62は、電圧検出部5によって検出された電圧の振幅に基づいて被測定流体の電気伝導率を算出する機能部である。電気伝導率算出部62は、例えば、上述したマイクロコントローラやCPU等のプログラム処理装置によるプログラム処理によって実現される。なお、電気伝導率算出部62による電気伝導率の具体的な算出手法については、後述する。
【0044】
設定・表示部9は、作業者の設定操作入力を検出してデータ処理制御部6へ出力する機能と、データ処理制御部6からの表示出力をLEDやLCDによって表示する機能とを有している。
【0045】
アナログ出力部10は、電気伝導率算出部62による算出結果等の情報を外部機器に出力するための機能部である。具体的に、アナログ出力部10は、電気伝導率算出部62による算出結果を4−20mAのアナログ信号で出力する。
【0046】
〈電気伝導率の算出原理〉
次に、本実施の形態に係る電気伝導率計100における電気伝導率の算出原理について説明する。
上述したように、被測定流体が測定管1および接触電極3の内部を流れている状態においてパルスV1が抵抗R1の一端に入力された場合、抵抗R1、非接触電極2、被測定流体、および接触電極3を介してコモン電位Vcomに電流が流れ込む。この電流の電流経路は、
図3Aに示す等価回路200によって表すことができる。
【0047】
具体的に、等価回路200は、抵抗R1,Rb、容量Ca,Cb,およびパルスV1を出力する信号源V1から構成される。ここで、Rbは、被測定流体の抵抗値、Caは、接触電極3と被測定流体との間の分極容量、Cbは、被測定流体と非接触電極2との間の容量を示している。
【0048】
被測定流体と非接触電極2との間の容量Cbは、従来の2つの電極を共に被測定流体に接触させる従来の2電極方式の電気伝導率計に比べて、その値が小さくなる。そのため、被測定流体の抵抗Rbの値を高精度且つ再現性良く測定するためには、等価回路200において、パルスV1の周波数f1をできるだけ高くして抵抗Rbに対する容量Cbによるリアクタンス成分をできるだけ小さくすることが望ましい。
【0049】
容量Ca,Cbのインピーダンスが無視できるレベルまでパルスV1の周波数f1を高くした場合、等価回路200は、
図3Bに示す等価回路201に描き直すことができる。すなわち、信号源V1から非接触電極2を介してコモン電位Vcomに至る電流経路の等価回路201は、電圧Vref/2を基準として±Vref/2の振幅を有する信号V1と、抵抗R1および抵抗Rbから成る抵抗分圧回路と、カップリングコンデンサCxとによって表すことができる。
【0050】
等価回路201において、信号V2の電圧がハイレベルとなる期間Tpにおける抵抗R1と抵抗Rbの電圧降下の比は、下記式(1)で表される。ここで、Vr1_Hは、信号V2の電圧がハイレベルとなる期間Tpでの抵抗R1の両端の電圧を表し、Vrb_Hは、信号V2の電圧がハイレベルとなる期間Tpでの抵抗Rbの両端の電圧を表している。
【0052】
また、等価回路201において、信号V2の電圧がローレベルとなる期間Tnにおける抵抗R1と抵抗Rbの電圧降下の比は、下記式(2)で表される。ここで、Vr1_Lは、信号V2の電圧がローレベルとなる期間Tnでの抵抗R1の両端の電圧を表し、Vrb_Lは、信号V2の電圧がローレベルとなる期間Tnでの抵抗Rbの両端の電圧を表している。また、上述したように、VHは、信号V2b(V2)がハイレベルとなったときの電圧であり、VLは、信号V2b(V2)がローレベルとなったときの電圧である(
図2参照)。
【0054】
上記式(1)および上記式(2)から、電圧Vr1_Hと電圧Vr1_Lとの和の電圧Vr1_HLと、電圧Vrb_Hと電圧Vrb_Lとの和の電圧Vrb_HLとの比は、下記式(3)で表される。
【0056】
式(3)より、抵抗R1と抵抗Rbとの比は、下記式(4)で表される。
【0058】
上記式(4)より、抵抗Rbは、下記式(5)で表される。
【0060】
上記式(5)において、基準電位Vrefと抵抗R1はいずれも既知の値である。したがって、信号V2b(V2)がハイレベルであるときの電圧VHと信号V2b(V2)がローレベルであるときの電圧VLとの差(VH−VL)、すなわち信号V2b(V2)の振幅がわかれば、式(5)に基づいて、被測定流体の抵抗Rb、すなわち被測定流体の電気伝導率(=1/Rb)を求めることができる。
【0061】
図4は、
図3Aに示した等価回路200における信号V2のシミュレーション結果を示す図である。
同図には、等価回路200において、R1=10[kΩ]、Rb=20[kΩ]、Ca=0.1[μF]、Cb=100[pF]とし、パルスV1の周波数を15[MHz]、振幅を1[V]としたときの信号V2のシミュレーション結果が示されている。
【0062】
図4に示されるシミュレーション結果において、信号V2がハイレベルとなるときの電圧VHは、約0.8333Vであり、信号V2がローレベルとなるときの電圧VLは、約0.1667Vである。したがって、この場合の被測定流体の抵抗Rbは、式(5)より、約19.99[Ω]となる。
【0063】
本実施の形態に係る電気伝導率計100では、電気伝導率算出部62が、アナログ・デジタル変換部7を介して入力された電圧VH,VLの値を上述の式(5)に代入することによって、測定管1を流れる被測定流体の電気伝導率を算出する。
【0064】
上述したように、被測定流体の抵抗Rbの値を高精度且つ再現性良く測定するためには、パルスV1の周波数f1をできるだけ高くして、抵抗Rbに対する容量Cbによるリアクタンス成分をできるだけ小さくすることが望ましい。しかしながら、周波数f1を高くし過ぎると、被測定流体の抵抗Rbの測定精度が低下するおそれがある。そこで、被測定流体の抵抗Rbの測定精度と再現性の更なる向上を図る場合には、パルスV1の周波数f1を適切な値に設定する必要がある。以下、詳細に説明する。
【0065】
図5は、電気伝導率計100における信号源V1から非接触電極2を介してコモン電位Vcomに至る電流経路の別の等価回路を示す図である。
同図の等価回路202に示すように、実際には、パルスV1を発生する信号源V1とコモン電位Vcomとの間に、抵抗R1、Rbおよび容量Ca,Cbに加えて、接触電極3と非接触電極2との間の容量Ccと、接触電極3と被測定流体との間の分極抵抗Raとが存在する。ここで、Ca>>Cb>>Cc,Ra>>Rbである。
【0066】
パルスV1の周波数f1を高くし過ぎた場合、信号源V1とコモン電位Vcomとの間の電流経路は、上述の
図3Bに示す単純な等価回路201ではなく、等価回路202とみなす必要がある。そのため、容量Ccの影響により、抵抗Rbに印加される電圧の波形が歪み、抵抗Rbの測定精度が低下するおそれがある。
【0067】
そこで、容量Ccによる抵抗Rbの測定精度の低下を抑えるためには、容量Cbによるインピーダンスの影響を考慮する必要がある。具体的には、容量Cbによるリアクタンス成分Zcb(=1/(2πf1×Cb))が下記式(6)で示される条件を満足する必要がある。
【0069】
式(6)を周波数f1の式に書き換えると、式(7)が得られる。
【0071】
したがって、パルスV1の周波数f1を式(7)で示される範囲内の値に設定することにより、流体抵抗(液体抵抗)Rb、すなわち電気伝導率の測定精度の低下を抑えることが可能となる。
【0072】
ここで、容量Cbは、主に非接触電極2の面積と測定管1を構成する電気的絶縁体材料の比誘電率によって決まり、分極容量の影響は無視できるほど小さいため、予めその値を把握しておくことは可能である。
【0073】
例えば、式(7)において、Rb=10[kΩ]、Cb=100[pF]としたとき、パルスV1の周波数f1は、約160kHz〜1600kHzの範囲となる。
【0074】
図6A,6Bに、パルスV1の周波数f1を160kHz〜1600kHzの範囲の値に設定したときのシミュレーション結果を示す。
図6Aは、等価回路202においてパルスV1の周波数f1=160kHzとした場合の信号V2のシミュレーション波形を示す図であり、
図6Bは、等価回路202においてパルスV1の周波数f1=1600kHzとした場合の信号V2のシミュレーション波形を示す図である。本シミュレーションでは、Ra=1[MΩ]、Rb=10[kΩ]、Ca=0.1[uF]、Cb=100[pF]、Cc=10[pF]としている。
【0075】
以上のように、被測定流体の抵抗Rbの測定精度と再現性の向上を図る場合には、等価回路202を考慮し、パルスV1の周波数f1を適切な範囲(式(7))に設定すればよい。
【0076】
ただし、パルスV1の周波数f1を適切な範囲に設定した場合であっても、信号源V1とコモン電位Vcomとの間の電流経路は、上述の
図3Bに示す単純な等価回路201と完全にみなすことはできないため、式(5)に基づく算出手法では、多少の誤差が発生する場合がある。
【0077】
例えば、
図5に示した等価回路202において信号V2の振幅(VH−VL)と被測定流体の電気伝導率との関係は、例えば
図7に示す非線形な特性300によって表される。
そこで、被測定流体の抵抗Rbの測定精度と再現性を更に向上させたい場合には、
図8に示すように、予め作成した信号V2の振幅(VH−VL)と被測定流体の電気伝導率との対応関係を示すルックアップテーブルを用いて、電気伝導率を算出すればよい。なお、
図8では、データ処理制御部6Aの周辺の機能部のみ図示し、それ以外の機能部については図示を省略している。
【0078】
例えば、予め、電気伝導率が既知の流体(液体)を用いて、信号V2の振幅(VH−VL)と被測定流体の電気伝導率と関係を調べる試験を行い、その試験結果に基づいて、信号V2の振幅(VH−VL)と被測定流体の電気伝導率との対応関係を示すルックアップテーブル630を作成する。作成したルックアップテーブル630は、
図8に示すように、例えばデータ処理制御部6Aとして機能するマイクロコントローラ等のプログラム処理装置内の不揮発性メモリ等の記憶部63に格納される。
【0079】
そして、被測定流体の電気伝導率を算出する際には、電気伝導率算出部62Aが、記憶部63に記憶されているルックアップテーブル630を参照し、アナログ・デジタル変換部7を介して入力された電圧VH,VLの値から算出した振幅(VH―VL)の値に対応する電気伝導率の値を読み出すことにより、被測定流体の電気伝導率を算出する。
これによれば、被測定流体の抵抗Rbの測定精度および再現性を更に向上させることが可能となる。
【0080】
次に、電気伝導率計100の実現例を示す。
図9は、本実施の形態に係る電気伝導率計100の実現例を示す斜視図である。
同図に示されるように、電気伝導率計100は、測定管1、非接触電極2、および接触電極3と、交流信号生成部4、電圧検出部5、データ処理制御部6、アナログ・デジタル変換部7、クロック信号生成部8、およびアナログ出力部10等の電子回路等が形成されたプリント基板とを、金属や樹脂等から成る筐体20内に収容し、その筐体20の開口部を、設定・表示部9によって蓋をすることによって実現される。
【0081】
設定・表示部9は、作業者の設定操作入力を検出してデータ処理制御部6へ出力する機能を実現するための操作用ボタン91や、データ処理制御部6からの表示出力を表示する機能を実現するためのLEDやLCD等の表示装置92を備えている。
【0082】
筐体20の対向する一対の側面には、電気伝導率計100の外部に設けられる配管(図示せず)と測定管1とを連結可能な、金属材料(例えば、SUS)から構成された管状の継手3A,3Bが配設されている。
【0083】
図10Aは、筐体20内部を示す斜視断面図であり、
図10Bは、筐体20の内部を示す正面断面図である。
図10A,10Bに示されるように、測定管1は、筐体20の長手方向に沿って筐体20内に配設される。測定管1の両端部には、継手3Aと継手3Bが夫々連結されている。
【0084】
ここで、2つの継手3A,3Bのうち一方は、接触電極3として機能する。例えば、
図10A,10Bに示すように、継手3Aは、コモン電位Vcomに接続されることにより、外部の配管と測定管1とを連結するだけでなく、接触電極3としても機能する。この場合の非接触電極2は、測定管1における継手3Aが接続される端部に近い外周面に形成される。
【0085】
このように、接触電極3を金属から成る継手3Aによって実現することにより、接触電極3の被測定流体と接触する面積が広くなる。これにより、接触電極3に異物の付着や腐食が生じた場合であっても、異物の付着や腐食が生じた部分の面積が接触電極3の全面積に対して相対的に小さくなるため、分極容量の変化による測定誤差を抑えることが可能となる。
【0086】
一方、非接触電極2は、例えばコモン電位Vcomに接続された金属から成るシールドカバー21によって囲まれていることが望ましい。例えば、
図11Aに示すように、筐体20内において非接触電極2がシールドカバー21によって囲まれるように、測定管1を配置する。これによれば、非接触電極2から筐体20の外部に放射される電磁波ノイズを低減することが可能となる。
【0087】
ここで、シールドカバー21は、非接触電極2の少なくとも一部と対面して配置されていればよい。例えば、
図11Bに示すように、シールドカバー21を側面視コの字状に形成し、シールドカバー21の開口側に、上述した交流信号生成部4やデータ処理制御部6等を構成する電子回路等が主面22Aに形成されたプリント基板22を配置すればよい。この場合、プリント基板22の主面22Aに対向する主面22Bには、金属べたパターン23を全面的に形成しておく。
【0088】
これによれば、プリント基板22上に配置された交流信号生成部4や電圧検出部5と非接触電極2とを接続する信号線の引き回し等が容易となるとともに、その信号線の大部分をシールドカバー21内に配置することができるので、その信号線から筐体20の外部に放射される電磁波ノイズをも低減することが可能となる。
【0089】
≪電気伝導率計100の効果≫
以上、本実施の形態に係る電気伝導率計100によれば、被測定流体と接触する接触電極3と、測定管1の外周面に設けられ被測定流体と接触しない非接触電極2とを設け、接触電極3をコモン電位Vcomに接続した状態で抵抗R1を介して非接触電極2に交流信号を印加し、そのときの非接触電極2に発生する信号V2の振幅(VH−VL)を検出することにより、測定管1を流れる被測定流体の電気伝導率を算出することができる。
【0090】
これによれば、一方の電極が被測定流体と接触しないので、従来の2つの電極を共に接触させる2電極方式の電気伝導率計に比べて、電極の異物の付着や腐食による測定誤差を抑えることが可能となる。
【0091】
また、少なくとも非接触電極2には、高価な白金黒を用いなくてもよいので、電気伝導率計の製造コストを抑えることが可能となる。
【0092】
したがって、本実施の形態に係る電気伝導率計によれば、高精度な2電極方式の電気伝導率計をより低コストに実現することが可能となる。
【0093】
また、抵抗R1を介して非接触電極2に印加されるパルスV1の周波数f1を式(7)で示される範囲内の値に設定することにより、上述したように、被測定流体の電気伝導率(抵抗Rb)の測定精度と再現性をより向上させることが可能となる。
【0094】
また、電気伝導率計100において、信号V2の振幅(VH−VL)と被測定流体の電気伝導率との対応関係を示すルックアップテーブル630を記憶部63に記憶し、そのルックアップテーブル630を用いて、電圧検出部5によって検出された電圧の振幅の値に対応する電気伝導率を読み出すことにより、被測定流体の電気伝導率の測定精度と再現性を更に向上させることが可能となる。
【0095】
また、電気伝導率計100において、2つのサンプルホールド回路51,52を用いて、パルスV1がハイレベルとなるときの非接触電極2に発生する信号V2の電圧VHと、パルスV1がローレベルとなるときの非接触電極2に発生する信号V2の電圧VLを検出するので、非接触電極2に発生する信号V2の振幅を取得することが容易となる。
【0096】
また、電気伝導率計100によれば、信号V2の電圧を電流に変換する電圧・電流変換回路が不要となるので、より単純な回路構成で電気伝導率の計測が可能となる。
【0097】
また、本実施の形態に係る電気伝導率計100によれば、電気伝導率の計測安定性の低下を抑えることが可能となる。例えば、従来の交流信号を全波整流する方式の電気伝導率計、すなわち交流信号のローレベル(負極性)期間の電圧を中間レベルで折り返し、交流信号のハイレベル(正極性)期間の電圧と加算する方式の電気伝導率計では、交流信号のハイレベル期間の波形とローレベル期間の波形が等しくない場合、全波整流しても脈流が残り、完全な直流電圧にならないため、計測安定性が悪化する。これに対し、本実施の形態に係る電気伝導率計100では、交流信号(信号V2)を差動信号の状態のままアナログ・デジタル変換して信号V2の振幅(VH−VL)を求める構成を有しているので、被測定流体の流速の変化により信号波形にゆらぎが生じた場合や、外部から被測定流体を介してコモンモードノイズが侵入した場合であっても、電気伝導率の計測安定性が低下し難い。
【0098】
また、接触電極3を、外部の配管と接続するための金属から成る継手3Aと兼用することにより、接触電極3の被測定流体と接触する面積を広くすることが可能となる。これにより、上述したように、接触電極3に異物の付着や腐食が生じた場合であっても、接触電極3の全接触面積に対する異物の付着や腐食が生じた部分の面積が相対的に小さくなるので、電極の異物の付着や腐食による測定誤差をより低減することが可能となる。
【0099】
また、金属配管を継手3Aに連結した場合には、その金属配管が継手3Aを介してコモン電位Vcomに接続されるため、継手3Aのみならず金属配管も接触電極3とみなすことができる。これにより、接触電極3の接触面積が更に拡大し、接触電極3の全接触面積に対する異物の付着や腐食が生じた部分の面積が相対的に更に小さくなるので、電極の異物の付着や腐食による測定誤差の更なる低減を図ることが可能となる。
【0100】
また、金属配管を使用した場合であっても、接触電極3としての継手3Aと金属配管とが同電位(コモン電位Vcom=0V)となるので、金属配管に電流が流れ込むことによる測定誤差は生じない。
【0101】
また、接触電極3をコモン電位Vcom(=0V)に接続しているので、金属配管を使用した場合であっても、金属配管がアンテナとなって周辺に電磁波ノイズを放射することを防止できる。
【0102】
また、
図11A,11Bに示したように、金属から成るシールドカバー21を、非接触電極2の少なくとも一部と対面して配置することにより、上述したように、非接触電極2から筐体20の外部に放射される電磁波ノイズを低減することが可能となる。
【0103】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0104】
例えば、上記実施の形態では、電気伝導率計100の実現例として
図9に示す構成を例示したが、これに限定されるものではない。
【0105】
また、上記実施の形態において、交流信号生成部4や電圧検出部5は、その機能を発揮することができるのであれば、
図1に示した回路構成例に限定されるものではない。
【0106】
また、アナログ・デジタル変換部7およびクロック信号生成部8は、データ処理制御部6と同様に、マイクロコントローラ等のプログラム処理装置の機能によって実現してもよい。
【0107】
アナログ・デジタル変換部7は、サンプルホールド回路51によって取り込まれた電圧VHとサンプルホールド回路52によってサンプルホールドされた電圧VLとの電圧差を、デジタル信号に変換する例を示したが、VHおよびVLを夫々デジタル信号に変換してからデータ処理
制御部6で減算処理を行ってもよい。